本発明は、ブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタに関する。
自動車の装備品に使用されるDCモータ、とりわけフロントガラスのワイパモータは、回転整流器を備えており、ブラシがこの回転整流器の扇形部分に接触して電機子へと電力を供給することで、モータが駆動される。
この形式のモータの動作時に、ブラシと整流器の一連の個別の扇形部分との間の接触により、ブラシの継続的な電気接触が回転整流器の個別の扇形部分の間で切り換わるときに、過渡のスイッチング現象が生じる。
これらの過渡現象が、とくには整流器の一連の扇形部分へのブラシの接触が切り換わるときに、きわめて高い周波数に大きな振幅の不規則な高調波周波数構造を有するインパルスとして分析することができる寄生の雑音および/または妨害を生じさせる。
この寄生の雑音および/または妨害は、自動車の電源および/または信号伝送ラインに沿って容易に広がる。
したがって、この寄生の雑音および/または妨害が、例えば車両のラジオ周波数受信機のオーディオ回路へと広がる場合に、車両のユーザの快適さにとって有害となるだけでなく、とりわけ速度および/または制動を制御する構成部品などの車両の作動部品の指令、制御、または調節の回線に沿って広がる場合に、車両の正しい動作にとって有害となり、車両の安全性に害を及ぼすことさえ考えられる。
さらに、この寄生の雑音および/または妨害は、今日の自動車が装備する車上のメモリおよび演算回路の正しい動作にとっても有害である。
この寄生の雑音および/または妨害の大きさを小さくするために使用される先行技術の技術的解決策のうちで、通常はインダクタンス/容量フィルタ系をモータの接続端子およびバッテリの電源端子の間に介装して備えているEMCフィルタ(EMCは、ElectroMagnetic Compatibility(電磁両立性)の略である)について言及することができる。
一般的に使用されるインダクタンス/容量の値に鑑み、この形式のフィルタは、おおむね100MHzを下回る高調波成分を有する周波数について、寄生の雑音および/または妨害の適切な減衰を実現可能にする。
DCモータにおいてブラシと整流器の扇形部分との間の接触によって生じる寄生の雑音および/または妨害を軽減または除去する試みにおいて、他の技術的解決策も提案されている。
それらの提案済みの技術的解決策のなかに、1つ以上のダイオードが追加された容量フィルタ型の回路が含まれる。追加されたダイオードは、寄生の雑音および/または妨害信号におけるパルスまたはスパイクを基本的に摘み取るという目的を有している。そのような技術的解決策は、例えば米国特許第3732285号明細書に記載されている。
欧州特許第336530号明細書に記載の技術的解決策など、別の技術的解決策は、例えばHF回路を用いたHF帯域フィルタ処理およびLF回路を用いたLF帯域フィルタ処理を提供することからなる。
この技術的解決策は、実現が複雑になると思われ、多数の回路を構築および設置する必要がある。
本発明の目的は、DCモータの電磁放射をフィルタ処理するための先行技術の技術的解決策の欠点を、60MHz〜1.5GHzの間に含まれる周波数範囲の単一の帯域フィルタ処理構造を使用することによって克服することにある。
本発明の別の目的は、ブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタであって、現行のEMCフィルタと完全に両立でき、したがって現行のEMCフィルタに縦列に追加でき、さらには/あるいは現行のEMCフィルタへと組み込むことができる帯域減衰/除去フィルタを提供することにある。
本発明の主題を形成するブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタは、より詳しくは、フロントガラスのワイパモータを目的とする。本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、容量性/反応性インピーダンスを有しており、モータの正の電源入力、モータの負の電源入力、およびバッテリの負の端子の間に接続されるように意図され、前記容量性インピーダンスが、モータの負の電源入力とモータの正の電源入力との間に接続されるように意図されている少なくとも1つのガンマフィルタと、モータの正の電源入力とバッテリの正の端子との間に直列に接続されるように意図された反応性インピーダンスと、を備えることを特徴とする。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、反応性インピーダンスが、60MHz〜1.5GHzの間に含まれる周波数帯において100オームを超えるインピーダンスを有することを特徴とする。
また、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、容量性インピーダンスが、1pF〜500nFの間に含まれ、好ましくは5〜10pFの間に含まれる容量を有するコンデンサからなることを特徴とする。
また、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、反応性インピーダンスの空き端子にまたがるシャントとして接続された容量性インピーダンスをさらに備えており、前記ガンマフィルタからなる第1のガンマフィルタと、この第1のガンマフィルタに逆さまに取り付けられ、直列の反応性インピーダンスおよびシャントとして接続された容量性インピーダンスで形成される第2のガンマフィルタとで形成される対称な閉じたフィルタ処理セルが形成されていることを特徴とする。
また、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、シャントとして接続された容量性インピーダンスが、1pF〜500nFの間に含まれる容量を有する容量性インピーダンスからなることを特徴とする。
また、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、シャントとして接続された容量性インピーダンスが、直列に接続された第1のコンデンサおよび第2のコンデンサで形成され、これら第1および第2のコンデンサの中間点が、モータの接地電位へと接続されるように意図されていることを特徴とする。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、直列に接続された第1の容量および第2の容量が、同じ静電容量を有するコンデンサからなることを特徴とする。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、一特定の実施の形態によれば、このフィルタが、モータの正の電源端子および負の電源端子ならびにバッテリの正の電源端子および負の電源端子の間に接続され、この帯域減衰/除去フィルタが、モータへと組み込まれた電磁両立性フィルタと電源バッテリとの間に挿入されることを特徴とする。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、一好都合な実施の形態によれば、このフィルタが、電磁両立性フィルタのケーシングへと直接組み込まれていることを特徴とする。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、別の好都合な実施の形態によれば、このフィルタが、モータへと組み込まれた電磁両立性フィルタと電源バッテリとの間に後付けされることを特徴とする。
別の実施の形態によれば、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、少なくとも1つの反応性インピーダンスが、フェライトコア自己誘導コイルで構成されていることを特徴とする。
さらに別の実施の形態によれば、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、少なくとも1つのコンデンサが、セラミックコンデンサ型であることを特徴とする。
したがって、本発明による帯域減衰/除去フィルタを、自動車のブラシ付きDCモータの設備へと適用することができ、とりわけフロントガラスのワイパモータへと適用することができる。
したがって、さらに本発明は、上記定義のいずれかによる帯域減衰/除去フィルタを備えるブラシ付きDCモータを包含し、そのようなモータを自動車に使用し、とりわけフロントガラスのワイパモータとして使用することも包含する。
本発明の主題を形成するブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタを、本明細書を検討し、以下の図面を研究することによって、よりよく理解できるであろう。
本発明の主題によるブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタの電気配線図を例として示している。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタの好ましく、限定されない別の形態を例として示している。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタが存在しない伝統的な電磁両立性フィルタを備えるDCモータについて、モータの電源端子をまたいで測定される電源電圧の周波数スペクトルを例として示している。
伝統的な電磁両立性フィルタだけでなく、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタも備えるDCモータについて、モータの電源端子をまたいで測定される電源電圧の周波数スペクトルを例として示している。
次に、本発明の主題を形成するブラシ付きDCモータの電磁放射のための帯域減衰/除去フィルタを、図1と併せて説明する。
上述の図を参照すると、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタが、容量性インピーダンスC1/反応性インピーダンスL1を有しており、上述の図に示されるようにモータの負の電源入力M−と、モータの正の電源入力M+と、バッテリの負の端子B−との間に接続されるように意図された少なくとも1つのガンマフィルタ(ギリシャ文字のΓに関連してそのように呼ばれ、Gで指し示されている)を備えている。したがって、容量性インピーダンスC1が、モータの正の電源入力M+とモータの負の電源入力M−との間に並列に接続されるように意図され、反応性インピーダンスL1が、モータの負の電源入力M−とバッテリの負の端子B−との間に接続されるように意図されている。電磁両立性フィルタFEMCが、伝統的なやり方で、モータの正の電源端子M+と、負の電源端子M−と、モータMとの間に挿入された容量C0および2つの反応性インピーダンスL01、L02を備えている。
さらに、図1から見て取ることができるとおり、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタは、モータの正の電源入力M+とバッテリの正の端子B+との間に直列に接続されるように意図された反応性インピーダンスL2を備えている。
ガンマフィルタの概念は、慣例により、バッテリによってもたらされる電流Iの方向に関して定義され、容量性インピーダンスC1および反応性インピーダンスL1が、上述のガンマフィルタGを構成すると見なされる。
反応性インピーダンスL2をバッテリの正の電源端子B+を介して電源線に直列に追加することで、バッテリの正の端子B+および負の端子B−へと接続された2つのモータ電源線の間で、整流器の扇形部分の間でのブラシの切り替わりの過渡のパルスの平均レベルの減衰を釣り合わせることができる。容量性インピーダンスC1が、パルスのピーク振幅を小さくすることを可能にし、したがってコモンモードフィルタの除去比が改善される。
本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタの1つの注目すべき特徴によれば、反応性インピーダンスL1およびL2が、好都合には、60MHz〜1.5GHzの間に含まれる周波数帯において100オームを超えるインピーダンスを有する。容量性インピーダンスC1は、1pF〜500nFの間に含まれる容量を有するセラミックコンデンサ型のコンデンサで構成される。反応性インピーダンスL1およびL2は、好ましくは、フェライトコア自己誘導コイルで構成される。
次に、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタの好ましい実施の形態を、図2と併せて説明する。上述の図を参照すると、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタが、容量性インピーダンスC1に接続されていない、反応性インピーダンスL1およびL2の空き端子にまたがるシャントとして接続された容量性インピーダンスC2をさらに備えており、図1のガンマフィルタGからなる第1のガンマフィルタG1と、第1のガンマフィルタG1に逆さま(top to tail)に取り付けられ、直列の反応性インピーダンスL2と、シャントとして接続された容量性インピーダンスC2とで形成されている第2のガンマフィルタG2とで形成される対称な閉じたフィルタ処理セルが形成されている。
シャントとして接続された容量性インピーダンスC2は、5〜10pFの間に含まれる容量を有するセラミックコンデンサ型のコンデンサで構成されている。好ましくは、容量性インピーダンスC2は、直列に接続された第1のコンデンサC21および第2のコンデンサC22で形成され、その中間点がモータの接地電位へと接続されるように意図される。第1の容量性インピーダンスC21および第2の容量性インピーダンスC22は、同じ静電容量のセラミックコンデンサで構成される。
図2を参照すると、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタFをもたらす対称な閉じた構造を構成する第1のガンマフィルタG1および第2のガンマフィルタG2が、モータの負の電源線M−、B−およびモータの正の電源線M+、B+のそれぞれに対して実質的に同じ役割を果たすことを、理解できるであろう。さらに、この対称な構造は、シャントとして接続された容量性インピーダンスC2の中間点を有する構造ゆえに、モータの接地電位に対しても対称である。この中間点をモータの接地電位に接続することで、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタのコモンモードの除去比を改善することができる。
電磁両立性フィルタFEMCを備える自動車のフロントガラスのワイパモータの形式のブラシ付きDCモータが引き起こす寄生の雑音または妨害について、本発明の主題による帯域除去フィルタFが存在しない場合および存在する場合の減衰の比較評価を、図3および4に関連して述べる。
上述の図において、横軸の目盛りは、本発明の主題を形成する帯域除去フィルタFの電磁放射の除去(または、減衰)の帯域である200MHzから1GHzまでの周波数であり、縦軸の目盛りは、dBμV/mであり、モータ供給電圧の振幅値を表している。両方の図において、記録された曲線Iは、振幅ピーク検出器によって測定された電界を表し、曲線IIは、平均値検出器によって測定された電界を表しており、図3の場合には帯域減衰/除去フィルタFが存在しておらず、図4の場合には帯域減衰/除去フィルタFが存在している。図2に示されるとおりの帯域除去フィルタFを挿入することで、曲線Iにおいて電界に関して検出される振幅のピーク値に、10〜25dBμV/m程度の低減が導入され、曲線IIにおいてモータの回転に関連する平均振幅の寄生の雑音のスパイクがほぼ完全に除かれることを、見て取ることができる。
一般に、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタFを、電磁両立性フィルタFEMCのケーシングへと直接組み込むことができ、したがって当初の部品として自動車に装着されるように意図された任意のモータに直接設置できることを、最後に示すことができる。対照的に、本発明の主題を形成する帯域減衰/除去フィルタFは、すでに現役の既存の車両において、フロントガラスのワイパモータの形式のモータに、後付けとして、モータの正の電源端子M+および負の電源端子M−ならびにバッテリの正の端子B+および負の端子B−の間に挿入することも可能である。