JP2014516582A - 生体模倣環境において細胞を培養するためのデバイスおよび方法 - Google Patents

生体模倣環境において細胞を培養するためのデバイスおよび方法 Download PDF

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Abstract

本明細書では、生体模倣流動装置のためのデバイスおよび方法を開示する。生体模倣流動装置は、微小流体の流路と、流体が流路へ流れるのを可能にするための、流路と流体接続した入口とを含む。流路は、トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する。流路の少なくとも1つの表面のトポグラフィーは、該表面の上の細胞層における細胞が、ある配列、挙動または形態を実現するように選択される。細胞の配列、挙動または形態は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面のトポグラフィーによって決定される。

Description

関連特許出願の相互参照
本出願は、2011年6月15日に出願された米国仮出願第61/497376号に基づく優先権を主張し、その全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
発明の分野
概して、本開示は、生体模倣環境において細胞を培養するためのデバイス、ならびに該デバイスを製造および使用するための方法に関する。
発明の背景
制御下にあるインビトロ条件下で成長させられた腎細胞は、腎機能性の研究、医療機器の製造、および医薬品の検査において幅広い潜在的用途を有する。腎細胞培養物は、生物学者が、腎臓関連細胞の機能を研究し、多様な条件に対する細胞の応答を観察することを可能にする。高度に制御された腎炎(nephritic)環境は、腎臓の一部の機能を果たすために使用されて腎疾患を患う患者を支援することができ、また組織工学者に使用されて腎疾患を患う患者へ移植するための特定の腎組織を生成することができる。さらに、腎細胞培養物は、腎臓治療用の医薬品の開発、および医薬品の腎臓毒性を検査するために使用することができる。制御下にあるインビトロ環境は、幹細胞の所望の細胞機能を誘発する等、他の種類の細胞にも同様に使用できる。
これらの用途はそれぞれ、インビトロ細胞がインビボでの細胞を正確に再現するような条件によって恩恵を受ける。腎細胞を培養するためのデバイスおよび方法は存在するが、従来のインビトロ腎細胞環境は静的であり、ネフロンにおいて受けるせん断応力について考慮することを欠いている。さらに、腎細胞培養物のための以前のインビトロ環境は、細胞外マトリックス(ECM)によって提供されるような生体模倣的なきっかけを提供しないため、以前の環境で成長させられた細胞は、それらがインビボで有する表現型および形態(例えば 細胞形状または配列)を持たない。ネフロンにおける腎細胞の適正な配列(特に細胞同士での細胞間結合の形成)は、腎細胞が濾過および吸収機能を果たすために必要である。従って、以前の装置で成長させられた腎細胞はネフロンの条件を模倣できない。
従って、ネフロンのインビボ条件をより望ましく再現する腎細胞培養物を成長させるために使用できる生体模倣デバイスが求められている。特に、流路において細胞の配置および配列を制御する装置は、以前の装置よりもより細かくインビボ条件を模倣するインビトロ環境を作製するために使用できる。微細加工および微細成形技術を使用して、細胞外マトリックス(ECM)が腎細胞に対して及ぼす影響を模倣した、マイクロメートル-、サブマイクロメートル-、およびナノ-トポグラフィーパターンを有する人工細胞基板を製造できる。トポグラフィー表面の設計は、基板の上で成長する細胞の細かい制御を可能にする。 この表面パターニングは、流路の高さ、流路の断面積、および流速等のさらなる流路パラメーターと共に、特定の細胞型のインビボ環境を細かく模倣する、高度に制御されたインビトロ条件を作製するために使用され得る。
従って、本明細書において、生体模倣流動装置のためのデバイスおよび方法が開示される。生体模倣流動装置は、微小流体の流路と、流体が流路へ流れるのを可能にするための、流路と流体接続した入口とを含む。流路は、トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する。流路の少なくとも1つの表面のトポグラフィーは、該表面上に配置された、細胞層における細胞が、ある配列、挙動または形態を実現するように選択される。細胞の配列、挙動または形態は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの表面のトポグラフィーによって決定される。
一部の態様では、表面のトポグラフィーは、少なくとも1つの表面に対する、細胞層における細胞の付着の増大を促進するように選択される。表面のトポグラフィーは、約5μm以下の幅を有する隆起部を含み得る。流路の少なくとも1つの表面は、少なくとも2つの異なるトポグラフィーを有し得る。表面トポグラフィーは、細胞層の配列、挙動または形態に、腎臓における細胞の配列、挙動または形態を再現させることができる。
一部の態様において、装置は、入口を介して流体を流路に流すための流体源も含む。流体は、細胞層に対するせん断応力を誘発する。細胞層に対するせん断応力によって、細胞型がインビボにおいて受けるせん断応力を模倣するせん断応力レベルを生じ得る。他の一部の態様においては、細胞層に対するせん断応力は、0.02dyn/cm2未満であり得る。流路は、流体を流路に流すことによって、流路の長さに沿って複数のせん断応力値が生じるように形作られ得る。流体を流した後、流路を分解して、細胞層を検査できる。
一部の態様においては、細胞親和性物質が基板の一部分上に配置され、その一部分において細胞層を成長させて、流路の表面を形成する。一部の態様においては、細胞非親和性(cytophobic)物質が基板の表面の一部分上に配置されて、基板の一部分において細胞層を成長させない;基板のこの一部分は、流路の表面部分を形成してもしなくてもよい。
一部の態様において、装置は、トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する少なくとも第二の流路を含む。
別の局面によれば、本発明は、器官の働きをシミュレートする方法に関する。本方法は、トポグラフィーを有する表面と、配列、挙動または形態を有する細胞層とを有する流動装置を用意する工程を含む。また本方法は、細胞がインビボで示すような形態、挙動または配列を細胞に模倣させるように、細胞層に対する複数のせん断応力レベルを生じる流体の流速を選択する工程と、選択された流速にて流路を流れる流体を導入する工程とを含む。流動装置は、上述した流動装置と同様のものであり得る。
本方法は、流体を流路に流した後に、流路を分解して、細胞層を検査する工程を含み得る。分析のために細胞層を保存するために、細胞を固定してもよい。流路を流れる流体が治療薬を含む場合、本方法は、細胞層に対する治療薬の効力を決定するために細胞を分析する工程をさらに含む。流体が潜在的毒素を含む場合、本方法は、細胞層への潜在的毒素の毒性を決定するために、細胞を分析する工程をさらに含む。
別の局面によれば、本発明は、生体模倣フローを作製するシステムに関する。本システムは、トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する流路を含む。該流路の表面のトポグラフィーは、該表面上で成長した、細胞層における細胞が、ある配列、挙動または形態を実現するように選択され、該トポグラフィーは、少なくとも1つの表面に対する、細胞層における細胞の付着の増大を促進するように選択される。本システムはまた、入口と、流体注入システムとを含む。入口は、流体が該流路へ流れるのを可能にするために、該流路と流体接続する。流体注入システムは、細胞層に対するせん断応力を誘発するために流体を流路に流す。
一部の態様において、本システムは、微小流体の流路の温度をほぼ一定温度に維持するための温度コントローラを含む。一部の態様において、本システムは、細胞層における細胞を観察するための観測装備を含む。流路が、少なくとも第一の流路層および第二の流路層から形成される場合、該システムは、該第一の流路層を該第二の流路層にシーリングさせるための取り付け装置も含んでいてもよい。
上記システムおよび方法は、以下の図面を参照し、以下の例示的な説明によってより深く理解されるであろう。
平面上で成長した腎細胞培養物の図である。 本発明の例示の態様により、トポグラフィーパターニングを有する基板上で成長した腎細胞培養物の図である。 平面上で成長した腎細胞培養物の写真である。 本発明の例示の態様により、トポグラフィーパターニングを有する基板上で成長した腎細胞培養物の写真である。 本発明の例示の態様による、生体模倣流路を有する装置の分解立体模型図である。 本発明の例示の態様による、図2Aの生体模倣流路を有する、組み立てられた装置の立体模型図である。 本発明の例示の態様による、図2Bの生体模倣流動装置で使用するフローシステムのブロック図である。 本発明の例示の態様による、図2の生体模倣流路のうちの1つを作製および使用するための方法のフローチャートである。 本発明の例示の態様により、トポグラフィーパターニングを有する基板を作製する方法を例示する一連の図である。 本発明の例示の態様による、細胞親和性および細胞非親和性領域を表面上に作製し、該表面上で細胞を成長させる方法のフローチャートである。 異なるトポグラフィー造作を有する4つの例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図である。 異なるトポグラフィー造作を有する4つの例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図である。 異なるトポグラフィー造作を有する4つの例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図である。 異なるトポグラフィー造作を有する4つの例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図である。 図7Aは、トポグラフィーパターンに勾配がある例示の態様の基板の斜視図である。図7B〜7Dは、流路に沿ってトポグラフィーパターンに変化を有する3つの例示の態様の流路表面の上面図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 異なるトポグラフィーパターンを有する例示の態様の6つの基板の斜視図である。 図9Aおよび9Bは、本発明の例示の態様により、図2の生体模倣流路のうちの1つを使用する方法のフローチャートである。 図10A〜10Dは、本発明の例示の態様の生体模倣流動装置の模式図である。図10Eは、CM被覆領域に付着した、流路内の細胞の位相差画像である。 図11Aは、本発明の例示の態様において、隆起部/溝パターン表面を加工するのに使用されるニッケル合金鋳型の写真である。図11Bは、本発明の例示の態様のポリスチレン基板の写真である。図11Cは、図16Bに示すポリスチレン基板の端部プロファイルの写真である。 図12Aは、0、0.02または1.0dyn/cm2FSSのいずれかに2時間晒されたブランク基板(上段)またはトポグラフィー基板(下段)のいずれかの上で成長させられたHK-2細胞のコンフルエント層の蛍光標識された核を示す。矢印は、トポグラフィー基板上での溝の方向を示す。図12Bは、溝に合わせて配向した細胞の%を示す棒グラフである。最初の三本の棒は、ブランク基板(トポグラフィー無し)上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を示す。2つ目の三本の棒は、トポグラフィー基板上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を示す。 図13Aおよび13Bは、ブランク基板またはトポグラフィー基板上で培養され、0、0.02または1dyn/cm2 FSSのいずれかに曝露された細胞のZO-1発現の代表的な画像を示す。 図14Aは、細胞の外周に沿って積分し、細胞の外周で正規化したZO-1強度を示す棒グラフである。最初の三本の棒は、ブランク基板(トポグラフィー無し)上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を表す。2つ目の三本の棒は、トポグラフィー基板上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を表す。図14Bは、細胞の外周に沿って測定したZO-1強度の標準偏差を示す棒グラフである。最初の三本の棒は、ブランク基板(トポグラフィー無し)上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を表す。2つ目の三本の棒は、トポグラフィー基板上で成長し、それぞれ0、0.02または1dyn/cm2 FSSに曝露された細胞を表す。
特定の例示的な態様の説明
本発明の総合的な理解を提供するために、生体模倣環境において細胞を培養するための装置および方法を含む特定の例示の態様を以下に説明する。ただし、当業者には、本明細書に記載するシステムおよび方法が、対処する用途に対して適切であれば適合および改変され得ること、ならびに本明細書に記載のシステムおよび方法が、その他の適切な用途に採用され得ること、そしてそのようなその他の追加および改変はそれらの範囲から逸脱しないことが理解されよう。
生体模倣流動装置は、流体入口および流体出口を有する流路を含む。ネフロン等の器官構造を再現する流路を作り出すために、器官の細胞の培養物を流路の少なくとも1つの側面で成長させる。体内において、細胞外マトリックス(ECM)は、ネフロンの細胞を構造的にサポートし、ネフロンを埋める細胞が特定の配列で互いと配向し合うようにする。生体模倣流路において、細胞を成長させる表面のためにトポグラフィーを適正に選択することで、ECMによって作製されるであろう配向、形態、挙動および/または配列を細胞が有するようにする。トポグラフィーを有する生体模倣流路を使用すれば、腎臓構造だけではなく、流動を受ける他の構造も再現できる。例えば、生体模倣流動装置の使用は、以下のような細胞の研究のために有用であり得る:すなわち、膀胱中の尿路上皮細胞;小腸および大腸中の刷子縁細胞および腸上皮;心臓、静脈、動脈および毛細血管中の血管内皮細胞;リンパ系の毛細血管および本幹中の内皮細胞;流体の流れを受ける肝臓上皮細胞、またはその他の任意の構造。これらの系の多くを研究する場合に、インビトロ細胞が、インビボ細胞の形態、配向または配列を模倣している方が有益であり得る。
腎細胞に対する例示の表面トポグラフィーの影響を図1に示す。図1Aおよび1Bは、腎細胞培養物の2つの図を示す。図1Cおよび1Dは、腎細胞培養物を撮った2枚の写真を示す。図1Aは、典型的な培養プレート、皿またはフラスコ等の平面104上で成長させた腎細胞102の培養物の図である。従来、腎細胞は流体が静的な状態において培養され、せん断応力またはトポグラフィーを受けることはない。腎細胞が流体の流れおよびせん断応力を受ける場合でも、細胞が配向することはなく、細胞の形態が影響を受けることはない。図1Aに示すように、典型的な培養腎細胞102は、特徴的な形状または配向を持たず、ランダムに配向されているように見える。さらに、細胞102は、上部構造を形成せず、典型的に互いと結合しない。図1Cは、平面104上で成長させた腎細胞の培養物の写真である。図1Cは、細胞102がどのように特徴的な形状を欠き、ランダムに配向するかを例示している。
図1Bは、例示のトポグラフィーパターンを有する表面154上で成長させた腎細胞152の培養物の図である。表面は、細胞152よりも細い溝156および隆起部158を有する。細胞152はそれぞれ、いくつかの溝156および隆起部158にまたがる。この溝および隆起部のパターンは、細胞外マトリックス(ECM)と同様に、腎細胞152を伸ばし、隆起部に平行に配列させ、細胞間結合を後押しし、表面154への細胞152の付着の増大を促進する。左側に示すスケールは、腎臓の一部の上皮細胞のおおよその寸法を示す;しかし、腎細胞の実際の大きさは、ネフロン全体にわたって広く変化する。細胞152の形態も例示的である;一部の種類の腎細胞は、特に円柱細胞は、より長方形に近い。図1Bにおいて、溝156および隆起部158は、おおよそ同じ幅であるが、必ずしもそうである必要はない。細胞152のような約10μmの細長い幅を有する腎細胞については、溝156および隆起部158の幅は約5μm以下であって、細長い細胞が2つ以上の隆起部に接触するようにする。図1Bにおいて、溝156および隆起部158の幅は約800 nmである。溝156および隆起部158はこれよりも細くてもよいが、約20 nmよりも細い場合、このテクスチャーの腎細胞に対する影響は限定されるであろう。ただし、トポグラフィーパターンのサイズ決定は、細胞の大きさに依る。さらに、特定の用途のためには、細胞幅に対してより幅広い溝を有して、細胞が溝の中にあることが望ましい。このような態様においては、隆起部は溝よりも細くてもよい。別の態様において、隆起部は溝よりも幅広くてもよい。
細胞の方向性および形状を制御することに加えて、溝および隆起部は腎細胞152を互いと結合させて、テクスチャーの無いまたは「ブランク」基板上で同じ時間の間成長させた細胞と比べてより規定されかつ発達した結合部を形成させることもする。インビボで観察される密着した細胞結合部は、ネフロンが適正に血液を濾過し、水分を再吸収するために必要である。密着結合部によって、液体および溶解溶質を含む流体が細胞と細胞との間を通るのを防ぎ、そのためネフロンの壁から出る流体が上皮細胞を通らなければならず、これにより、どの流体および/または溶質が通れるかを制御できる。これらの細胞結合部は、インビトロ環境においても形成され、溝156および隆起部158等の表面トポグラフィーがコンフルエント細胞を配向することで、それらの膜もこの流体不浸透性バリアを形成できる。流路は、表面154に対して任意の方向に配置されて、流体が細胞152の上を任意の方向に流れるようにすることができる。図6に示す態様においては、流体は、溝156および隆起部158に対して平行または垂直のいずれかに流される。
図1Dは、本発明の可能性のある態様のうちの1つの結果を例示する写真である。図1Dは、トポロジカルなテクスチャー154を有する基板上で成長させた腎細胞培養物を示す。図1Bに図示するように、細胞152はより配向し密着結合して成長するように思われた。
図2Aは、生体模倣環境において細胞を培養するためのデバイス200の例示の態様を示す分解立体模型図である。図2Bは、組み立てられたデバイスを示す。デバイス200は、基板202と、3つの流路212を有するフローセル204とを含む。基板202の上面は、図1Bのパターンのような、図2には図示していないトポグラフィーパターンを有する。流路212の壁も同様にまたは代替的に、図1Bのパターンのようなトポグラフィーを有していてもよい。基板202の表面処理された側の上に細胞層があり、細胞はフローセル202中の流路212の下の基板の領域に限定されることが好ましい。基板202は、ポリスチレンもしくはポリイミド等の熱可塑性プラスチック、ポリカプロラクトン(PCL)等の生分解性ポリエステル、またはセバシン酸ポリグリセロール(PGS)等の軟質エラストマーから作られてもよい。あるいはまた、基板202は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、または、例えば、酸化炭素もしくは酸化亜鉛から形成されるナノチューブもしくはナノワイヤーから作られてもよい。基板202は、その上にマイクロメートル規模のトポグラフィーが形成でき、その上で細胞が成長することができるあらゆる材料から作られ得る。トポグラフィーパターンの例を図7A〜7Dおよび図8A〜8Fに示し、基板202を化学的にパターニングする方法は図4に関連して説明する。細胞層の成長方法は、図5に関連して説明する。
フローセル204は、フローセル204に下から切り込まれた3つの流路212を有する。一部の態様において、フローセルは、PDMS等の半透明な材料から作られる。あるいはまた、フローセルは、上記一覧した可能な基板材料のうちのいずれかのようなその他の材料から作られてもよい。3Dソリッドオブジェクトプリンタまたはフォトリソグラフィーを使用して、フローセル204中に流路212を作ってもよい。図2Bに示すように組み立てられると、基板202が流路の底面壁を形成し、フローセル中の流路212は上面壁および2つの側面壁を含む。本明細書において、上面壁、底面壁および側面壁はまとめて「壁」と称する。フローセル204および基板202は取り外し可能に取り付けられて、実験を実行した後に、フローセル204を取り外して、細胞層を検査できるようにしてもよい。入口214および出口216は、流路212への管を介したアクセスを可能にする。入口214は流体を流路212に導入するためのアクセスを提供し、出口216は流路212を通った流体を取り除くためのアクセスを提供する。入口214に入る管は、シリンジポンプを有するシリンジ等、流路212への注入量および速度を制御する手段に接続する。流体注入システムは、装置200が搭載される生体模倣フローシステムの一部であり得る。例示のフローシステム240のブロック図を図2Cに示す。フローシステムは、温度制御システムおよび観測装備等のさらなる特徴を含み得る。入口ポート214を通って導入された流体の流れは、流路212の壁に沿って、そして流路の底に沿っている培養細胞の上に均一な層流の流れを作り出す。
培養細胞にわたる層流の流れは、ネフロン内の流体の流れを模倣し、流体と培養細胞との間にせん断応力を生じる。流体の流速を調節することで、細胞に沿ったせん断応力が変化する。近位尿細管においては、細胞はおおよそ1dyn/cm2の流体せん断応力(FSS)を受ける;しかし、受けるせん断応力はネフロンの長さに沿って変動する。せん断応力は、0.015dyn/cm2の低さまで観察されており、流速を制御してせん断応力を変動可能にすることにより、単一のデバイス設計で広範な生体模倣条件を生成できる。幅wおよび高さhを有する長方形流路、ならびに粘度μ、壁せん断応力τおよび流速Qを有する流体は、以下の関係式で表される。
Figure 2014516582
流速を変化させて流路のせん断応力を変動させることに加えて、単一の流路におけるせん断応力は、流路の長さに沿って流路の形状を変化させた場合に流路の長さに沿って変動し得る。例えば、流れの方向に沿った流路の第一の領域において第一の高さ、および流路の第二の領域においてより低い第二の高さを有する流路において、流路のより低い第二の領域を流れる流体は、より高い第一の領域よりも速い流速を有する。従って、第二の領域にある細胞は、第一の領域よりも高いせん断応力を受ける。流路の高さをなだらかに変動させることによって、細胞層は勾配のあるせん断応力を受ける。変動するせん断応力を使用して、ネフロンの異なる機能を有し得る異なる部分を再現できる。さらに、異なる種類および配列の細胞は、異なるレベルのせん断応力を受けるネフロンの領域に関連するため、異なる種類または配列の細胞を有する基板沿いの領域は、高さが変動する流路と一致して並び、細胞に適切なせん断応力を受けさせることができる。
図2中の流路212 は長方形の断面を有するが、流路は異なる流動力学のために非長方形断面を有し得る。例えば、流路は半円、三角または台形の断面を有し得る。せん断応力は、断面形状についてのせん断応力方程式を使用して決定され得る。流路は、その長さに沿って2つ以上の異なる断面形状を有し得る。その他の機構および配列を使用して、流路沿いのせん断応力を変動させることができる。例えば、複数の流路をネットワーク状に繋ぐことで、より複雑なフローパターンを生成できる。各流路に沿った細胞が受けるせん断応力は、ネットワークフローパターンによるものである。
組み立てられた流動装置200は、アセンブリを保持し、流路環境を制御するために、図2Cのブロック図に示すフローシステム240に配置され得る。フローシステムは、取り付け装置242、観測装備244、流体注入システム250、および温度制御システム260を含む。
取り付け装置242は、例えば、3Dソリッドオブジェクトプリンタを用いて作製されたプラスチックカバーおよびプラスチックベースを含む。流路装置200は、例えば、ネジまたはクランプによって互いと固定された、取り付け装置242のカバーとベースとの間に位置付けられる。従って、取り付け装置242は、装置200の基板202およびフローセル204を一緒に保持して、流体が流路212から漏れないように取り外し可能なシールを形成することが好ましい。
観測装備244は、流路装置200が取り付け装置242に保持されたままで、実験の途中および/または後に細胞を観察するために使用される。流路の壁が透明な場合、光学顕微鏡を使用して、実験途中にサンプルを観察することができる。一部の態様において、観測装備は、流路に向けられた光源、および異常な光透過(EOT)信号を検出するための光学センサを流路の下に含む。そのような態様においては、フローセル204および基板202の両方が、光透過性の材料から作られるべきである。別の態様において、細胞のコンフルエンス、形状および代謝を検出するための電極が流路に配置される。一部の態様においては、画像化が、取り付け装置の外部で、場合によっては流路装置200が分解された後に行われ、フローシステム240は観測装備244を持たない。観測装備は、温度、酸素レベル、pH、二酸化炭素、蛍光タグ、および他のマーカーをモニタリングするためのセンサを含み得るがこれらに限定されない。
流体注入システム250は、シリンジ252およびシリンジポンプ254を含む。シリンジ252は、流路212に流す流体を含み、シリンジポンプ254はシリンジ252を制御して、流す流体の量、流速、および流体を流す時間の長さを制御する。流体注入システム250を使用して、緩衝流体、反応物質流体、定着液、および染料等(ただしこれらに限定されない)の2つ以上の異なる流体を注入できる。流体注入システム250はまた、流体を組み合わせる手段も含み得る;例えば、シリンジポンプ254は、反応物質を緩衝液に導入するための、または染料を緩衝液に導入するための弁を含み得る。シリンジポンプ254は、汎用プロセッサ等のプロセッサによって制御され得る。
基板202および/またはフローセル204は、流路212内の温度安定性を維持するために絶縁材料から作ら得る。フローシステム240は、温度制御システム260またはインキュベーターを含み得る。温度制御システムは、温度センサ262、温度コントローラ264および発熱体266を含んで流路212を生体模倣温度(すなわち、98.6°F)に維持する。温度は、異なる条件(例えば、発熱または外傷)をシミュレートするために高くも低くも選択できる。温度センサ262は、システム温度を検出し、それを温度コントローラ264に送る。現在のシステム温度に基づいて、温度コントローラ264は、熱をシステムに加えるかどうかを決定する。温度コントローラ264は、コマンドをサーミスタ等の発熱体266に送り、必要に応じてシステムに熱を加える。一部の態様において、温度システムは装置200を冷却することもできる。温度コントローラまたは第二の温度コントローラは、流路212に流される流体の温度も維持する。フローシステム240も、二酸化炭素コントローラ270を含んで、流路内部の二酸化炭素レベルを調節することができる。二酸化炭素コントローラ270は、二酸化炭素センサ、プロセッサ、および必要に応じて二酸化炭素レベルを増加または減少させる手段を含むことができる。一部の態様において、二酸化炭素コントローラは、温度制御システム260に組み込まれている。
一部の態様において、フローシステム240は、汎用プロセッサを有するコンピュータに接続されている。コンピュータは温度コントローラ264の役割を果たし、温度センサ262からの温度がコンピュータに送られてメモリに保存され得る。同様に、コンピュータは二酸化炭素コントローラの役割を果たし、二酸化炭素センサからの二酸化炭素レベルがコンピュータに送られてメモリに保存され得る。コンピュータはまた、シリンジポンプ254を制御して、流体の流れを自動化し、流体の流れについてのデータを保存できる。コンピュータはまた、観測装備を制御し、観測装備から得た画像または他のデータを保存し、データに対して分析を行うことができる。
装置200は、3つより多いかまたは少ない流路212を含んでいてもよい。100以上の流路212を含むハイスループット装置を製造してもよい。一部の態様において、ハイスループット装置は、96の流路を含む。2つ以上の流路212の入口214は流体的に接続されて、流体が同時に、そして流路212の形状が同一である場合には同じ流速で、複数の流路212を流れることができるようにできる。フローシステム240は、自動的に複数の実験を同時に実行するか、または一つずつ実験を行うように構成され得る。装置200の1つの流路において行われる実験は、異なる流路において行われる実験と、流体、流速、流路形状および温度の少なくとも1つが異なり得る。装置200は、使い捨てでもよく、または使用後に装置の全体または一部(例えば、基板202またはフローセル204)を分解し、洗浄して再利用してもよい。
図3は、図1に示す生体模倣流路のうちの1つを作製および使用する方法300のフローチャートである。方法300は、表面処理した基板を得る工程(302)、基板を化学的にパターニングする工程(304)、細胞層を成長させる工程(306)、流路を組み立てる工程(308)、流体を流路に流す工程(310)、および分析のために細胞を固定する工程(312)を含む。
第1の工程302は、図1Bの表面152上の溝156および隆起部158のようなトポグラフィーパターンを有する表面を作製または得る工程である。表面は、例えば、ダイレクトリソグラフィー、フォトパターン可能なレジスト、射出成形、ダイレクト微細加工、深堀りRIEエッチング、熱エンボス加工、またはそれらの任意の組み合わせを使用して作製され得る。装置200において使用するために熱エンボス加工によって表面処理された基板を作製する例示の方法を図4に関連して説明する。一部の態様においては、金等の金属の薄い層をトポグラフィー表面に蒸着させて、サンプルを分析するための光学画像化を助ける。一部の態様において、金属層は、表面プラズモン共鳴(SPR)を検出するための光学センサを使用した細胞培養物の分析を可能にする。一部の態様において、金属層はまた、金属への分子の頭部基の強力な親和性を利用して基板上に特定の細胞親和性および細胞非親和性の分子を化学的にパターニングするためにも有用である。金属層は、表面のトポグラフィーが維持できるほど十分に薄いものである。金属層は、SPR検出で使用されるためのナノホールを有していてもよい。ナノホールは約100nmの幅で、例えば、フォトリソグラフィー技術、電子ビームリソグラフィー技術、集束イオンビーム(FIB)、またはその他の方法を使って金属にミル加工されてもよい。あるいはまた、金属層は、銀、アルミニウム、ベリリウム、レニウム、オスミウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化レニウム、酸化タングステン、銅、チタン、または画像化もしくはその他の分析に適した別の材料からなり得る。一部の態様においては、金またはその他の金属の層の前に、クロムまたは他の金属接着剤の薄い層をまず表面に蒸着する。
次に、テクスチャー付けした表面を化学的にパターニング(工程304)して、細胞成長を流路領域に隔離するための細胞非親和性および/または細胞親和性領域を作製する。腎細胞を基板202等の表面全体にわたって成長させると、フローセル204を基板202にシーリングすることで、流路212外の領域にある細胞を押しつぶすかもしれない。これは、押しつぶされた細胞からの内容物を流路212に漏出させ、生存細胞によって受け取られる生化学的シグナルをもたらし得る。このような漏出は、実験手順に対して望ましくない影響を及ぼし得る。従って、細胞は、組み立てられたフローセルの壁(すなわち、上面、底面および/または側面)を形成する表面の領域に制限されるべきである。装置200に関しては、細胞層は、基板202がフローセル204に接触しない領域、すなわち、流路212の下の領域に制限される。これらの領域を作り出すために、細胞親和性材料を流路表面上に乗せて、流路内の領域での細胞成長を促すことができる。追加的に、または代替的に、細胞非親和性材料を、流路の壁を形成しない表面上に乗せて、流路表面以外での細胞成長を防いでもよい。トポグラフィー表面を作製し、化学的にパターニングした後は、ECMタンパク質を表面に適用し、細胞懸濁液をタンパク質層の上に乗せて、1つまたは複数の種類の細胞を含む細胞培養物を成長させる(工程306)。基板202等の表面の細胞親和性および細胞非親和性領域を作製し、該表面上で細胞を成長させる方法の一つは図5に関連して説明する。
細胞を成長させた(工程306)後、流路を組み立てる(工程308)。一部の態様において、フローセルは取り外し可能に組み立てられているため、観察のために少なくとも1つの壁を外すことができる。一部の態様において、フローセル204は基板200の上に置かれて、例えば、ネジまたはクランプを用いて取り付けられる。あるいはまた、装置200は、図2Cに関連して説明したように取り付けアセンブリ242内で組み立てられ得る。
次いで、流体を組み立てられた流路に流す(工程310)。流速は、図2に関連して説明したように所望のせん断応力を作り出すように選択され、流速は流体注入システムによって制御される。流体は、試薬および緩衝流体を含み得る。試薬は、実施する実験に基づいて選択される;例えば、流体は、物質の効力または毒性をテストするために医薬剤または潜在的毒素を含み得る。流体は、例えば、秒、分、時間または日数の単位で、任意の継続時間の間、流路に流すことができる。流体を流す継続時間は、実施する実験の種類に依る。例えば、特定のせん断応力を受ける細胞を画像化する実験は、およそ数十秒から数分間の短い継続時間しかかからない。他方、細胞に対する潜在的毒素または潜在的治療薬の影響を決定するための実験は、数時間、または数日以上の、より長い曝露時間を必要とし得る。流速は、時間と共に変動してもよく、一部の態様においては、細胞は断続的な流体の流れを受けてもよい。
次に、流動後分析を行う場合には、分析のために細胞を固定する(工程312)。まず、流路にリン酸緩衝食塩水(PBS)等の第二の溶液を流すことで細胞を濯ぐことができる。次に、ホルムアルデヒドまたは他のアルデヒド等の固定化剤を含む第三の溶液を流路に流して、細胞を傷つけることなく流路を分解できるようにする。溶液中の固定化剤のパーセンテージ 、および選択される固定化剤の種類は、分析方法および流路中の細胞の種類に依る。洗浄溶液および固定化剤は、流体注入システムを使用して入口214から注入される。シリンジを交換しながらシリンジポンプおよび管等の同じ注入メカニズムを使用するか、または取り付け装置は管を介して同じ入口に接続された少なくとも2つまたは3つのシリンジポンプを含み得る。また、流路を分解する前または後に染料を細胞に適用して、コントラストを強調してもよい。
図4は、図1の表面102等のトポグラフィーパターニングを有する表面を作製する方法を例示する一連の図である。本方法は、酸化シリコンのマスター鋳型をエッチングする工程(工程A〜E)、ネガ型ニッケル鋳型を電鋳する工程(工程F)、および熱エンボス加工を使用してニッケル鋳型からトポグラフィー表面を作製する工程(工程G〜I)を含む。
フォトリソグラフィー技術を使用して酸化シリコンのマスター鋳型を作製する。工程Aは、酸化シリコンウエハ402をフォトレジスト溶液404で被覆する工程を例示する。フォトレジスト404はスピンコーティングを使用して塗布できる。スピンコーティングの後、酸化シリコンウエハ402を焼成して残留溶剤を蒸発させてもよい。次いで、フォトマスク406をフォトレジスト404の上に積層して(工程B)、レジスト404をフォトリソグラフィーによりパターニングする。図4において、フォトマスク406は、隆起部パターンの断面を有する。トポグラフィーのパターンは、選択されるフォトマスクによって決定される。異なるフォトマスクで作られ得る代替的なトポグラフィーパターンを図6に示す。上面を光408に曝露することで、フォトレジスト404を現像してエッチングマスク410を作製する(工程C)。図4においては、ネガ型フォトレジスト404を使用して、フォトレジスト層404の、光408に曝露された部分が現像液に不溶性になり、曝露されなかった部分は溶性で現像時に溶解されるようにする。あるいは、ポジ型フォトレジストが使用できる。フォトレジスト404にパターンを生成してエッチングマスク410を作製した後、シリコンウエハを再度焼成し、ウエハ402を現像して、光に晒された領域からフォトレジスト410を取り除いてもよい。最後に、エッチングマスク410で保護されていないウエハの最上層を取り除く化学剤を用いて酸化シリコンウエハ402をエッチングする(工程D)。用途によっては、取り除かれる酸化シリコンの深さは、約1マイクロメートルである。図4に示すような角型端部を有するパターンを作製するためには、異方性エッチング液を使用する;丸型のウェルが所望な場合には、等方性エッチング液が使用できる。最後に、エッチングマスク410を剥がして、マスター鋳型412を作製する(工程E)。
その他の方法を使用して、マスター鋳型412を作製してもよい。例えば、特に所望のトポグラフィーが約数ナノメートルまたは数十ナノメートルの幅の非常に小規模な造作を含む場合には、電子ビームリソグラフィーまたはその他のナノリソグラフィー技術を使用してレジストに造作をエッチングできる。
マスター鋳型412を作製した後、ニッケル414をシリコンウエハに電鋳する(工程F)。ニッケル源414およびマスター鋳型412を電解槽に入れる。電源416は、ニッケル源414と、酸化シリコンのマスター鋳型412との間に電圧差を作り出し、これによりニッケルがマスター鋳型412上に電気めっきされて、マスター鋳型412に対してネガ型のニッケル鋳型418が形成される。ニッケル鋳型418をマスター鋳型から離し、下向きにして、熱可塑性プラスチック420に押し付ける。熱可塑性プラスチックは、熱エンボス加工によってニッケル鋳型418の溝の中に押される(工程G)。熱および圧力の上昇により、ニッケル鋳型が熱可塑性プラスチック420で満たされる。次いで、エンボス加工された熱可塑性プラスチック422を、一定の圧力下で冷却し(工程H)、その後ニッケル鋳型418から取り外す(工程I)。このようにして、成形された熱可塑性プラスチック422におけるトポグラフィー表面が流路の壁として使用できるようになる。
図5は、本発明の例示の態様による、表面の細胞親和性および細胞非親和性領域を作製し、該表面上で細胞を成長させる方法のフローチャートである。本方法は、流路の壁を形成する領域のために表面に疎水性領域を作製する工程(工程502および504)、残りの表面を親水性物質で満たす工程(工程506)、疎水性領域をタンパク質で被覆する工程(工程508)、およびタンパク質(すなわち、細胞親和性領域)上で細胞層を成長させる工程(工程510および512)を含む。一般的に、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、疎水性分子に付着する。細胞はインビボ条件と同様の条件下において成長するため、ECMタンパク質を含まない親水性領域よりもECMタンパク質を含む領域において細胞が成長する傾向がある。
まず、疎水性溶液をPDMSスタンプに塗布し(工程502)、トポグラフィーを有する表面上にスタンプする(工程504)。スタンプに圧力をかけた後に解放して、分子の疎水性自己組織化単分子層(SAM)が表面上に残るようにする。疎水性SAMに使用される分子は、典型的に、基板に結合する頭部基、およびECMタンパク質に結合するCH3等の疎水性尾部基を有する。一部の態様においては、SAMのためにヘキサデカンチオールを使用する。SAMに使用できるその他の分子としては、アルキルチオール、官能化チオール、ジチオール、およびシランが挙げられる。
PDMSスタンプの塗装された表面は流路のスタンプされる面の大きさであり得るか、または塗装された表面は細胞で満たされる流路の領域のみを覆い得る。例えば、流体入口および出口近くの流路端部付近において細胞成長が望ましくない場合、流路の中央部分のみを覆う長方形スタンプが使用される。複数のフローセルを有する装置の場合、単一のPDMSスタンプが、複数の流路の壁にスタンプするためのパターンを有し得る。
残りの表面は、ポリエチレングリコール(PEG)等の親水性溶液に浸して(back-flooded)、流路の壁にならない表面部分上での細胞成長を妨げるSAMを形成する(工程506)。図1に示すように、これにより所望の領域外で細胞が成長しないようにして、装置が組み立てられる際に押しつぶされる細胞からの漏出、および押しつぶされた細胞と流路内の細胞との良くない交流(negative communication)等の望ましくない端部の影響を防ぐことができる。
2種のSAMを有するトポグラフィー表面を、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、3-Dペプチド、合成タンパク質、および合成付着モチーフ、またはそれらの組合せで被覆する(工程508)。タンパク質は疎水性SAMに付着するが、親水性SAMはタンパク質吸着を抑制する。これによりタンパク質が親水性領域に集中し、装置が組み立てられる際に流路の壁を形成する。一部の態様においては、流路の異なる領域において、または同じ表面上に壁が形成された異なる流路上で、異なる種類の細胞を成長させてもよい。細胞型を表面の特定の領域に隔離するために、表面を異なるタンパク質および/またはSAM分子で処理して、特定の領域において特定の細胞型の成長を促してもよい。その他の方法を使用して、細胞親和性領域を作製してもよい。例えば、サーモポリマー基板を酸素プラズマで処理して細胞親和性を高めることができ、処理されていない領域は、どこも細胞非親和性となる。
その後、処理された表面をペトリ皿に入れて細胞を成長させる(工程510)。ペトリ皿は細胞懸濁液で満たされ、一部の態様においては5%CO2および37℃に設定したインキュベーターに入れられる(工程512)。細胞は、タンパク質で被覆された細胞親和性領域のみに付着する。細胞は高い密集度まで培養されて、組み立ての際には、流路の壁が細胞の層で覆われるようにする。一般的にインビトロ腎臓モデルのために成長させる細胞としては、HK-2系統由来細胞等のヒト近位尿細管細胞;近位尿細管上皮細胞(RPTEC);Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞;および一般的にマウスまたはラットから回収される、初代髄質内集合管(IMCD)細胞または初代近位尿細管細胞が挙げられる。様々な態様では、幹細胞由来型細胞、腎臓前駆細胞、または腎組織から収穫した細胞を成長させる。ヒト、他の哺乳生物、またはその他の生物に由来する細胞を成長させることができる。
細胞が成長した後、細胞を成長させた培地を除去した(工程514)。典型的に、培地は細胞層の外にある領域から除去される。従って、いくらかの水分は細胞層を有する領域内に残るが、残りの基板は乾燥している。次いで、微小流路がトポグラフィー表面上で組み立てられる(工程516)。微小流路がトポグラフィー表面上にできたら、微小流路を細胞成長培地で満たすことができる。
図6Aは、流路の方向に平行な隆起部および溝を有する例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図を示す。隆起部および溝は原寸に比例していない可能性がある。図1に関連して説明したように、隆起部および溝の幅は、20nm〜5マイクロメートルの範囲にあり得る。例えば、隆起部および/または溝の幅は、互いと無関係に、20〜40nm、30〜50nm、50〜100nm、100〜200nm、200〜400nm、400〜600nm、600〜800nm、800nm〜1マイクロメートルであり得る。さらなる例として、隆起部および/または溝の幅は、互いと無関係に、1〜2マイクロメートル、2〜3マイクロメートル、3〜4マイクロメートルまたは4〜5マイクロメートルであり得る。流路の高さは、100〜200マイクロメートルの範囲にあり得る。より高いかまたは低い高さが使用できるが、流路が100マイクロメートルの高さよりも相当低い場合には、流路を流れる流体が層流の状態にない可能性がある。図6Aに示す態様において、細胞層は流路の底面層602の上で成長し、隆起部および溝は、細胞を、流路を通る流れの方向に平行に配向させる。
図6Bに示す態様においては、底面および上面の両方がテクスチャー付けされ、細胞が両方の上で培養され、これによりインビボでのネフロンまたは他の器官がより望ましく再現され得る。図6A中の底面層602、図6B中の上面層および底面層である612および616、ならびに図6D中の層632、636および640は、図2の基板202のようなトポグラフィー基板であり得る。一部の態様において、図6B中の層616は少なくとも2つの貫通穴を有して、流体を、一方の穴を通って流路に入り、他方の穴を通って除去されるように流すことができる。図6Bにおいて、細長い穴が貫通して形成されている中間層614は、上面層および底面層616および612の間に挟まれている。上面層616と底面層612との間に配置された際には、細長い穴の側面壁は流路の側面壁を形成する。
図6Cは、流路の方向に垂直な隆起部および溝を有する別の例示の態様の生体模倣流路の断面の斜視図を示す。隆起部および溝は原寸に比例していない可能性がある。図6Cのトポグラフィーおよび流路の寸法的範囲は、図6Aに関連して記載した範囲と同じである。細胞層は、この流路の底面層622の上で成長し、隆起部および溝は、細胞を、流路を通る流れの方向に垂直に配向させる。流路の上面および/または側面もテクスチャー付けされてその上で細胞を成長させてもよい(図示せず)。
図6Cの右側面に見えるように、下部層622の上面全体が隆起部および溝でテクスチャー付けされている。流路の側面はシーリングされていない可能性があるため、流路を流れる流体が溝によってできた穴628を通って流路の側面から滲出する可能性がある。そのため、一部の態様においては、トポグラフィー表面は、流路の壁を形成する表面部分の上にのみ作製され;残りの表面は滑らかなままである。これは、流路の壁となる領域以外の基板の表面を完全に覆うフォトマスクを使用することによって達成できる。流路が組み立てられた際、フローセルまたは側面壁と結合した滑らかな表面は、流路の長さに沿ってその側面とシーリングされ、流体が隆起部および溝の外に横から伝わることを防ぐ。
図6Dは、別の例示の態様の生体模倣流路の斜視図を例示する。この態様においては、底面、上面および両側面の壁がテクスチャー付けされ、細胞がそれぞれにおいて培養されるため、インビボでのネフロンまたは他の器官をより望ましく再現し得る。この例示の態様においては、テクスチャーは、流路の方向に平行な隆起部および溝から構成される。一部の態様においては、図6D中の層632は、少なくとも2つの貫通穴を有するため、流体は一方の穴を通って流路に入り、他方の穴を通って除去されるように流れることができる。壁636が上面層632と底面層640との間に挟まれた際に、細長い穴が形成される。この細長い穴の側面壁が流路の側面壁を形成する。
図7は、隆起部および/または溝の幅が変動するトポグラフィーパターンのいくつかの態様を示す。図7Aは、トポグラフィーパターンに勾配のある基板の斜視図である。隆起部および溝の幅は、表面の左から右に向かって狭くなる。流路は基板の上で組み立てられて、流体が溝に対して平行または垂直のいずれかに流れるようにしてよい。一部の態様においては、隆起部の幅は一定のままで溝の幅が変化する;別の態様においては、溝の幅は一定のままで隆起部の幅が変動する。トポグラフィーに変動のある表面は、異なる幅の隆起部および/または溝が特定の種類の細胞に及ぼす影響を検査する実験において使用できる。さらに、インビボにおいて構造領域にわたって細胞造作が変動する器官構造のために、図7Aに示すような滑らかに変動する表面トポグラフィーを使用して、そのような造作を模倣する流路を作製することができる。
図7B、7Cおよび7Dは、流路に沿ってトポグラフィーパターンに変動を有する流路表面の上面図である。流路は原寸に比例していない可能性がある。流路の流れの方向は、図7Dの右側にある矢印によって示されるように図面の下に向かっている。他の態様においては、流体は反対方向に流され得る。図7Bは、溝幅が異なる2つの区別される領域702および704を有する表面の上面図である。上部領域702は溝幅がより狭く、溝および隆起部がほぼ同じ幅を有する。下部領域704は上部領域702よりも著しく幅広い溝を有する。下部領域704にある溝は、隆起部よりも幅が広い。2つの区別されるトポグラフィー領域を有する流路は、2つの区別される細胞型または細胞配列を有するインビボ構造を模倣するために使用できる。例えば、尿細管はその長さに沿って変化する細胞型を有するが、流路のトポグラフィーを変動させることで尿細管の基底膜における変動をインビトロでシミュレートすることができる。
図7Cの溝も流路の端部に向かって幅が広くなる;しかし、隆起部は扇状に広がるため溝はなだらかに広くなって、区別される領域ではなく、流路に沿って狭い溝から広い溝への滑らかな推移を作り出す。このようなタイプの側面を1つ以上有する流路は、構造にわたって細胞型または細胞配列の勾配を有するインビボ構造を模倣するのに使用できる。このタイプのトポグラフィーを有する流路は、異なる隆起部および/または溝の幅が特定の種類の細胞に及ぼす影響を検査する実験においても使用できる。
図7Dは、互いと異なる2つの一定のトポグラフィーの領域712および716、ならびにこの2つの一定のトポグラフィーの領域の間の推移領域714を有する非長方形流路の上面図である。流路712の始まりは狭い幅および狭い溝を有し、流路716の終わりはより幅広く、より幅広い溝を有する。領域712、714および716は全て同じ数の隆起部を有する。図7Dの表面上の流路が一定の高さを有する場合、第一の領域712で受けるせん断応力は、最後の領域716におけるせん断応力よりも高い。なぜなら、最後の領域716においてよりも第一の領域712において流路幅はより小さく、流速はより速いからである。あるいは、この効果は、流路の高さを変動させることでも達成できる。推移領域714は、形状が変化する際に層流の流れを維持するのを助ける。図3、4および5に示す製造方法を使用して、図7に示す任意のトポグラフィーおよび形状を有する流路デバイスを作製することができる。
表面トポグラフィーは、図6および7に示す直角隆起部および溝以外のパターンを有することができる。いくつかの可能性のあるトポグラフィー表面を、異なるトポグラフィーパターンを有する6つの基板の斜視図である図8A〜8Fに示す。図8Aは、狭い溝によって分離された三角の隆起部を示す。端部は、図8Aに示すものよりも丸くてもよい。図8Bは、円柱のランダムなアレイを示す。図8Cは、柱の線状のアレイを示す。図8Dは、逆さ円錐のくぼみの線状のアレイを示す。図8Eは、円錐柱の線状のアレイを示す。図8Fは、逆さ半球のくぼみの線状のアレイを示す。くぼみおよび柱として幅広く分類され得る任意のテクスチャーがランダムまたは線状のアレイに配置され得る。さらに、図8は、くぼみおよび柱の全ての可能な設計を網羅することを意図しておらず、可能な設計の例示を提示している。くぼみおよび柱の群としては、柱、くぼみ、半球、輪郭線を付けた(filleted)くぼみ、および面取りした柱も挙げられるがこれらに限定されない。異なる種類の細胞は異なるインビボ環境を有し、生体模倣的なきっかけに対して異なった反応をし得るため、選択されるトポグラフィーは、培養する細胞の種類に依る。隆起部および溝が腎細胞を配向させるような生体模倣的なきっかけを提供することを示してきたが、細胞外マトリックスは身体の異なる部分において異なるため、異なる器官または腎臓の別の部分における細胞は、図8に示す種類のトポグラフィーまたは別の種類のトポグラフィー上で成長させた場合にそれらのインビボでの特徴をより望ましく模倣する可能性がある。図4に関連して説明した方法と同様の方法を使用して、図8A〜8Fに示す基板を形成することができる。特に三角の溝、または角型でも丸型でもない端部を持つ溝を有するその他のパターンを作製するためにその他の技術を使用してもよい。図7に関連して説明したように、造作の大きさおよび/または分離は、区別される領域において、または勾配にわたって、表面に沿って変動し得る。さらに、単一の流路が、柱の領域ならびに隆起部および溝の領域、または隆起部および溝が散在した柱等の複数の種類のトポグラフィーを有していてもよい。
図9Aおよび9Bは、生体模倣流路の2つの使用例を示す。図9Aは、図2の装置200等の生体模倣流路を潜在的毒素の細胞毒性を検査するのに使用するための方法900のフローチャートである。この方法は、ハイスループット薬物スクリーニングにおいて有用である;研究者らは、化合物の医薬的開発にそれ以上投資する前に、細胞毒性化合物をスクリーニングすることができる。毒性検査については、ある種類の細胞に対して潜在的に毒性な材料を特定の濃度で溶液に添加し、図3の工程310に関連して説明した方法に従って、その種類の細胞の培養物を含む流路に流す(工程902)。一部の態様において、特に潜在的毒素を製造するのが困難な場合、または獲得するのが困難な場合、注入システムは、緩衝流体が流路内で層流の流れを確立した後に潜在的毒素を放出する注入弁を含む。注入弁を使用することによって、実験で消費される潜在的毒素の量が最小限になる。観測装備が流路を対象としている場合には、潜在的毒素を流路に流している間にサンプルが分析され得る。
潜在的に毒性な溶液を流路に流した後、図3の工程312に関連して説明した方法に従って細胞を濯ぎかつ固定して(工程904)、実験結果を観察のために保存する。次いで、流路を分解する前または後に染料または蛍光タグを細胞に適用して、画像化のためのコントラストを強調する(工程906)。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色、銀染色、または免疫蛍光染色等、細胞型および観測装備に適した任意の染色方法が使用できる。一部の態様においては、染料は、トリパンブルーまたはヨウ化プロピジウム等、健康な細胞の細胞膜を通過できない生体染色色素である。生体染色色素は、潜在的毒素と共に流路に導入される。化合物が毒性である場合には、細胞膜を破壊し、染料は膜を通過して細胞を染色し得る。
流体が流路を流れ、細胞が調製された後に、細胞を分析して潜在的毒素の毒性を決定する。様々な態様において、毒性は、透過性アッセイ、細胞活性アッセイ、代謝活性アッセイ、または生死アッセイを使用して決定される。物質が毒性である場合には、細胞を壊死させているか、細胞が成長および分裂するのを停止させているか、またはアポトーシスを生じさせているかもしれない。壊死した細胞はすぐに膨張し、膜の完全性を欠き、代謝を停止し、内容物を放出する。上記したように、生体染色色素を使用することでそのような影響を示すことができる。生体染色色素染色および/または細胞死のその他の影響は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、またはデジタルホログラフィー顕微鏡を用いて見ることができる。実験の途中または後の細胞の生存能力を決定するためにその他の技術も使用できる。CASY計数器またはCoulter計数器等の細胞計数器は、生存細胞の数を数えることができる。細胞の下にある表面が金電極を含む場合には、電気的細胞-基質インピーダンス感知法(ELECTRIC CELL-SUBSTRATE IMPEDENCE SENSING)(ECIS)に基づくアプローチを、細胞のコンフルエンス、形状および代謝のセンサとして使用できる。
図9Bは、潜在的な治療薬の効力を検査するために図2の流路212等の生体模倣流路を使用する方法950のフローチャートである。方法950をハイスループットスクリーニングに使用して、潜在的な医薬化合物が治療効果を有するかを決定できる。効力を検査するために、流路に入っているある種類の細胞に対して潜在的に有益な化合物を特定の濃度で溶液に添加し、図3の工程310に関連して説明した方法に従って流路に流す(工程952)。一部の態様においては、特に化合物を製造することが困難であるか、または獲得することが困難である場合に、注入システムは、緩衝流体が流路内で層流の流れを確立した後に化合物を放出する注入弁を含み得る。観測装備が流路を対象としている場合には、化合物を流路に流している間にサンプルが分析され得る。
溶液を流路に流した後、図3の工程312に関連して説明した方法に従って細胞を濯ぎかつ固定して(工程904)、実験結果を観察のために保存する。一部の態様において、流路を分解する前または後に染料または蛍光タグを細胞に適用して、画像化のためのコントラストを強調することができる(工程906)。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色または銀染色等、細胞型および観測装備に適した任意の染色方法が使用できる。
細胞を調製した後は、それらを分析して、あるとすれば化合物が細胞にどのような影響を及ぼすのかを決定する。特定のタンパク質または核酸に結合する試薬を細胞層に適用して、分析の間にタンパク質または核酸の存在を決定してもよい。潜在的な治療化合物の物理的影響は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡またはデジタルホログラフィー顕微鏡を使用して見ることができる。目的の特徴は、細胞の種類、および研究している医薬の所望の効果に依る。分析方法は、研究が目的とする細胞特徴が何であるかによって選択されるべきである。
以下の実施例は、本発明技術の多様な態様をより詳しく説明するために提供される。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものであると一切解釈されるものではない。
実施例1 - 流体せん断応力はトポグラフィーパターンに対する細胞の配向を増強する
A.生体模倣流動装置
隆起部/溝の造作を包含する本発明技術の生体模倣流動装置を構築した。流動装置の構造は図10A〜Dに示す。流動装置は、流体のせん断応力(FSS)を制御する流路のアレイおよび制御された表面特性を有する細胞基板を含む。分解(図10B)および組み立てられた(図10C)装置は、微細成形された流路、ならびに細胞付着および機能のきっかけとなるECMタンパク質で処理されたトポグラフィーパターニングされた基板の、2つの層を含む。装置の断面は、微小流路内にありかつトポグラフィー基板に付着した尿細管細胞のコンフルエント層を例示している(図10D)。流路内にありかつECM被覆領域に付着した細胞の位相差画像(図10E)。
トポグラフィーの造作を、ニッケル合金鋳型からポリスチレン基板に熱エンボス加工した(それぞれ図11AおよびB)。ポリスチレン基板の端部側面は、規定された隆起部/溝の造作を示している(図11C). 隆起部および溝は、幅0.75μm、深さ0.75μm、およびピッチ1.5μmである(尺度、1μm)。
B.流れにより誘発されるせん断応力の特徴決定
流動装置の特徴決定により、流路の設計によって細胞付着領域に公知かつ均一なFSSを付与し得ることが示された。COMSOL Multiphysicsソフトウェアを使用したコンピュータによるモデルシミュレーションは、細胞付着領域および基板表面領域のほとんどにわたって均一なせん断応力を予測した(データは示さず)。COMSOLシミュレーションは、細胞付着領域および細胞基板のほとんどにわたって均一なせん断応力を予測した。せん断応力分布は、流路の入口および出口においてより高いせん断応力を示し、これは丸形の細胞付着領域を含むほとんどの流路においてすぐに均一なせん断応力に進展した(データは示さず)。入口から12.5mmのところのチャンバの床面にわたってせん断応力のプロファイルをプロットしたところ、プロットはせん断応力が流路の幅の5%未満で変動することを示す(データは示さず)。
C.細胞付着領域
細胞付着領域は、ヘキサデカンチオール分子の自己組織化単分子層(SAM)に吸着したコラーゲンIVタンパク質を含む。簡単に言うと、直径2.5 mmの丸形ポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプの表面を、ヘキサデカンチオールの1mM溶液(HDT含有200標準エタノール)で塗装した。溶液を、トポグラフィー表面(基板)にスタンプし、30秒間しっかりと保持した。30秒後、スタンプを放した。次いで、表面を2mM PEG(含有200標準エタノール)に2時間浸した。吸引することでPEG溶液を除去し、表面をエタノールで徹底的に濯いだ。次に、基板を、コラーゲンIV(含有PBS)の30μg/ml溶液中で室温にて3時間インキュベートした。コラーゲン溶液を吸引により除去し、基板をPBSで徹底的に濯いだ。
SAMは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の一貫した特徴的な吸着を提供する1つの例示のモデル化学的構造を提供し、付着した細胞に対し、繰り返し可能な、ECMに基づくきっかけをもたらす。SAMは、マイクロコンタクト印刷(μCP)による表面の化学的なパターニングも可能にし、これにより複数の表現型の同時培養および細胞形態影響等の用途において細胞を選択的に配置することが可能になる。SEMで検査したように、コラーゲンIV被覆は、隆起部の上面および溝内の表面の両方を覆う(データは示さず)。トポグラフィーパターニングおよびμCPを組み合わせることにより、ユーザ指定の設定に従って細胞にきっかけを与えるために物理的および化学的パターンの両方を区別して制御することが可能になる。
以下のように、ヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞;ATCC CRL-2190)を装置の官能化隆起部/溝表面に播種し、コンフルエントな状態まで成長させた。細胞懸濁液(培地およびHK-2を含有)を、初期播種密度が300細胞/mm2となるように、トポグラフィー的および化学的にパターニングされた基板を含むペトリ皿に入れた。培地は、0.5%FBS、10ng/mL hEGF、5μg/mLインスリン、0.5μg/mLヒドロコルチゾン、0.5μg/mLエピネフリン、6.5ng/mLトリヨードチロニン、10μg/mLトランスフェリン、100U/mlペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補充されたDMEM/F12ベースであった。細胞を37℃および5%C02に設定したインキュベーターに入れた。培地を一日おきに新しいものと取り替えた。細胞は3〜4日以内にコンフルエントな状態に到達した。次に細胞を、上記したように同じ条件下で0、0.02または1.0dyn/cm2 FSSのいずれかに2時間晒した。
D.結果
結果を図12に示す。テクスチャー付けされた基板の上の細胞は溝に合わせた配向を示したのに対して、ブランク基板上の細胞はそのような配向を示さなかった(図12A;矢印は、トポグラフィー基板上での溝の方向を示す)。溝に対して10°以内で配向した核のパーセンテージは、溝およびFSSの存在によって有意に上昇した(図12B)。図12Bに関して:最初の三本の棒はブランク(テクスチャー無し)基板上で成長し0、0.02または1.0dyn/cm2 FSSに晒された細胞を表す。最後の三本の棒は、テクスチャー付けされた基板上で成長し、0、0.02または1.0dyn/cm2 FSSに晒された細胞を表す。1dyn/cm2 FSSの存在により、トポグラフィー基板に付着する細胞について核の配向が有意に上昇した。0.02dyn/cm2 FSSにおいても実質的な改善が見られた。データは平均±標準偏差として表す。 *、P<0.001、対ブランク、τ=0サンプル、†、P<0.005、対トポグラフィー、τ=0基板。(尺度、30μm)。
せん断応力およびトポグラフィーの両方が、HK-2細胞における密着結合部(「TJ」)の形成に影響を与える。FSS条件下でのブランク基板およびトポグラフィー基板上の細胞の外周に沿ったZO-1強度を数値化することによって、TJ形成の強度を測定した。ZO-1を以下のように可視化した。0.5%Triton X-100含有PBSで細胞を透過性にした後、1%BSAで室温にて30分間ブロックした。細胞を一次抗体(ZO-1 594、Invitrogen)と室温にて1時間インキュベートした。PBS中で細胞を3回洗浄し、二次抗体(ヤギ抗マウスIgG、Alexa Fluor488、Invitrogen)と室温にて1時間インキュベートした。PBS中で細胞を3回洗浄し、ProLong Gold plus DAPI(Invitrogen)と共にスライドにカバースリップを載せ、顕微鏡分析の前に一晩硬化させた。画像分析は、従来のコンピュータ画像化プログラムを用いてZO-1標識の強度を測定して、ZO-1の蛍光強度を決定することを含んでいた。細胞の全ての境界線における強度を数値化し、結合部の連続性も数値化した。
結果を図13および14に示す。図13Aおよび13Bは、ブランクおよびトポグラフィー基板上で培養され、0、0.02または1.0dyn/cm2 FSSのいずれかに曝された細胞についてのZO-1発現の代表的な画像を示す。トポグラフィーおよびFSS刺激因子を添加することで、ZO-1境界線の形態が中断的なものから連続的なものに推移する。矢印は、隆起部/溝のトポグラフィーの方向を示す。図14Aは、細胞の外周に沿って積分され、細胞の外周によって正規化されたZO-1の強度、密着結合部の数値化した発現および分布を示す。ZO-1強度は、ブランク表面上のものと比べてトポグラフィー基板上で培養した細胞において有意に上昇した。トポグラフィー基板上において全レベルのFSSに晒された細胞は、τ=0条件に晒されたトポグラフィー基板上の細胞と比べてZO-1強度の有意な上昇を示した。図14Cは、細胞の外周に沿って測定したZO-1強度の標準偏差を示し、密着結合部の連続性を数値化している。ZO-1強度の標準偏差は、ブランク表面上の細胞と比べて全てのトポグラフィーサンプルにおいて低下しており、トポグラフィー基板およびFSSの両方に晒された細胞集団について最も低かった。ブランク表面上の細胞集合は、2時間のFSSの後のZO-1強度に違いを示さなかった。データは平均±標準偏差として表す。*、P<0.05、対ブランク、τ=0サンプル;**、P<0.001、対ブランク、τ=0サンプル;†、P<0.001、対トポグラフィー τ=0サンプル。(尺度、15μm)。
ZO-1 TJによって規定された細胞の外周は、トポグラフィーおよびFSSを適用した場合に、より強い蛍光シグナルを有するより高い強度に推移する。全体的な蛍光シグナルおよび蛍光シグナルの位置は、ZO-1発現の上昇、および細胞の外周への転移を示す。細胞の外周に沿ったZO-1強度の標準偏差は、TJ連続性の数値化可能な測定基準の役割を果たす。より低い標準偏差は、より連続性のあるZO-1外周に変換される。トポグラフィーおよびFSSを適用することにより、ZO-1強度標準偏差によって測定された際の細胞の外周が、より中断的な形態から連続的な形態へ推移する。まとめると、TJ強度および連続性の上昇は、トポグラフィー基板およびFSS曝露を伴って成長した細胞について、良質なバリア機能への進展、および尿細管に特異的な機能への移行を示す。トポグラフィー基板上でのFSSに対する細胞応答の増強は、これらの2つの物理的刺激因子の相乗的な影響を示す。ZO-1標識されたTJが高くかつ連続的な強度を示す、生体模倣流動装置によってきっかけを与えられた細胞は、十分に発達した、近位尿細管の自然な濾過挙動を有する高度に機能する上皮層を形成する態勢にあることが期待できる。
本明細書において本発明の好適な態様を示し、説明してきたが、当業者にはこのような態様が例示としてのみ提供されていることが明らかであろう。ここにきて、本発明から逸脱することなく、多数の変更、変化、および代用が当業者には思いつくであろう。本明細書に記載の本発明の態様に対して様々な代替物を採用して、本発明が実施できることが理解されよう。以下の特許請求の範囲によって本発明の範囲が定義され、これらの特許請求の範囲内にある方法および構造、ならびにそれらの等価物が網羅されることが意図される。

Claims (26)

  1. トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する微小流体の流路と、
    流体が該流路へ流れるのを可能にするための、該流路と流体接続した入口と
    を備え、
    該表面の上に配置された細胞層における細胞が、該少なくとも1つの表面のトポグラフィーによって少なくとも部分的に決定される配列、挙動または形態を実現するように、該流路の表面のトポグラフィーが選択される、装置。
  2. 前記表面のトポグラフィーが、前記少なくとも1つの表面に対する、前記細胞層における細胞の付着の増大を促進するように選択される、請求項1記載の装置。
  3. 前記入口を介して前記流路に流体を流すための流体源をさらに備え、該流体が前記細胞層に対するせん断応力を誘発する、請求項1記載の装置。
  4. 前記流路に流体を流した後、前記細胞層を検査するために該流路を分解することができる、請求項3記載の装置。
  5. 前記流体源が、前記細胞層に対して0.1dyn/cm2未満のせん断応力レベルを生じる流速にて流体を流すように構成されている、請求項3記載の装置。
  6. 前記流路が、前記流路に流体を流すことによって流路の長さに沿って複数のせん断応力値が生じるように形作られる、請求項3記載の装置。
  7. 前記流路の少なくとも1つの表面が少なくとも2つの異なるトポグラフィーを有する、請求項1記載の装置。
  8. 前記表面のトポグラフィーが、約5μm以下の幅を有する隆起部を含む、請求項1記載の装置。
  9. 基板の一部分において細胞層を成長させるために該基板の一部分の上に配置された細胞親和性物質を含み、該基板の一部分が前記流路の表面を形成する、請求項1記載の装置。
  10. 基板の一部分において細胞層を成長させないために該基板の表面の一部分の上に配置された細胞非親和性(cytophobic)物質を含み、該基板の一部分がどの流路の表面も形成しない、請求項1記載の装置。
  11. 基板の一部分において細胞層を成長させないために該基板の表面の一部分の上に配置される細胞非親和性物質を含み、該基板の一部分が少なくとも1つの流路の表面部分を形成する、請求項1記載の装置。
  12. 前記表面トポグラフィーが、前記細胞層の配列、挙動または形態に、腎臓における細胞の配列、挙動または形態を再現させる、請求項1記載の装置。
  13. トポグラフィーが形成された第二の流路の少なくとも1つの表面を有する少なくとも第二の流路をさらに備える、請求項1記載の装置。
  14. トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する流路と、
    該少なくとも1つの表面上に配置された、配列、挙動または形態を有する細胞層と
    を備える流動装置を用意する工程;
    流路に流された際に、インビボで示すような形態、挙動または配列を細胞が模倣するような、細胞層に対するせん断応力レベルを生じる、流体の流速を選択する工程;および
    選択された流速にて流路を流れる流体を導入する工程
    を含む、器官の働きをシミュレートする方法。
  15. 前記細胞層における細胞の配列、挙動または形態が、前記少なくとも1つの表面のトポグラフィーによって少なくとも部分的に決定され、かつ該少なくとも1つの表面のトポグラフィーが、そのような配列、挙動または形態を実現するように選択される、請求項14記載の方法。
  16. 前記表面のトポグラフィーが、前記少なくとも1つの表面に対する、前記細胞層における細胞の付着の増大を促進するように選択される、請求項15記載の方法。
  17. インビボで器官の異なる位置において細胞が受けるであろうせん断応力を模倣する、細胞層に対する複数のせん断応力レベルを生じる流速を選択する工程
    をさらに含み、前記流路が、流体を流すことによって、流路の長さに沿って複数のせん断応力レベルが生じるように形作られる、請求項14記載の方法。
  18. 前記流体を前記流路に流した後に、該流路を分解して前記細胞層を検査する工程
    をさらに含む、請求項14記載の方法。
  19. 分析のために前記細胞層を保存するために、前記細胞を固定する工程
    をさらに含む、請求項14記載の方法。
  20. 前記流体が治療薬を含む方法であって、
    前記細胞層に対する該治療薬の効力を決定するために前記細胞を分析する工程
    をさらに含む、請求項14記載の方法。
  21. 前記流体が潜在的毒素を含有する方法であって、
    前記細胞層に対する該潜在的毒素の毒性を決定するために前記細胞を分析する工程
    をさらに含む、請求項14記載の方法。
  22. トポグラフィーが形成された少なくとも1つの表面を有する微小流体の流路であって、該表面上で成長した細胞層における細胞が、ある配列、挙動または形態を実現するように、該流路の表面のトポグラフィーが選択される、流路と、
    流体が該流路へ流れるのを可能にするための、該流路と流体接続した入口と、
    前記細胞層に対するせん断応力を誘発するために流体を流路に流すための流体注入システムと、
    を含む、生体模倣フローを作り出すシステム。
  23. 前記流路の表面のトポグラフィーが、前記少なくとも1つの表面に対する、前記細胞層における細胞の付着の増大を促進するように選択される、請求項22記載のシステム。
  24. 微小流体の流路の温度をほぼ一定温度に維持するための温度コントローラをさらに含む、請求項22記載のシステム。
  25. 前記細胞層における細胞を観察するための観測装備をさらに含む、請求項22記載のシステム。
  26. 前記流路が少なくとも第一の流路層および第二の流路層から形成されるシステムであって、
    該第一の流路層を該第二の流路層にシーリングする取り付け装置
    をさらに含む、請求項22記載のシステム。
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