JP6113311B2 - 培養制御方法、細胞培養装置及び細胞特性評価装置 - Google Patents

培養制御方法、細胞培養装置及び細胞特性評価装置 Download PDF

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Description

本発明は、例えば、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞を培養する際に適用される培養制御方法、当該培養制御方法を適用した細胞培養装置、及び細胞に対してせん断応力を負荷しながら細胞特性を評価する細胞特性評価装置に関する。
植物、微生物、動物細胞等の細胞培養を利用した有用物質の生産は、醸造、食品、化学、医薬品生産などの産業で利用されている。例えば、抗体医薬をはじめとする医薬品では動物細胞が産生する物質を主成分として含有し、その生産は動物細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで得ることができる。
細胞の培養方法には、回分培養、連続培養(灌流培養)、流加培養(半回分培養)に分類される。回分培養は、一回毎に新たな培地を用意し、そこへ株を植えて収穫まで培地を加えない方法である。個々の培養の品質はバラつくが、コンタミネーションのリスクを分散・低減できる。連続培養は、一定の速度で培養系に培地を供給し、同時に同量の培養液を抜き取る培養法である。培養環境を常に一定に保ちやすく、生産性が安定するという特徴がある。その反面、一度コンタミネーションが起きると汚染も持続するのが欠点である。流加培養は、培養中に、培地自体や培地中の特定の成分を添加し、培養終了時までその生成物を抜き取らない培養方法である。流加培養は、細胞密度を調節することによって増殖性を最適化し、培養中に蓄積した有害物質を希釈して生産性を維持するなどの目的で行われる。
有用物質の製造では、大型で生産収率の高い動物細胞培養槽が求められている。大型培養槽では、細胞が吸収する酸素を供給するとともに細胞が吐き出す二酸化炭素を除去するために、十分な量の通気と攪拌が必要である。一方で、過剰な攪拌によるせん断応力と気泡通気は細胞にダメージを与え、細胞が死滅するという問題があるため、極力せん断応力が小さくなるように培養槽の設計がなされている。
例えば、特許文献1には、培養槽と撹拌翼と駆動制御装置を有する培養装置が記載され、せん断応力で細胞が死滅しないように撹拌翼の回転数を制御することが開示されている。また、特許文献2には、培養装置が大型装置となったときに不均一となる培養物性の一つとしてせん断応力が開示され、せん断応力の制御方法が開示されている。さらに、特許文献3及び4には、特許文献1と同様に、培養槽内の撹拌翼の回転数や撹拌翼の形状を適切に設計することで、培養中の細胞に負荷するせん断応力を小さくし、細胞の死滅を回避する技術が開示されている。
特開2006−296423号公報 特開昭61−149080号公報 特開2010−178734号公報 特開2011−36189号公報
しかしながら、培養中の細胞が死滅するような高いせん断応力より大幅に低いせん断応力の範囲において、培養中の細胞に対してせん断応力が如何に影響を与えているのか全く不明であった。そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、細胞に負荷するせん断応力を適切な範囲に制御することで、安定した細胞培養を可能とする培養制御方法、当該培養制御方法を適用した細胞培養装置、及び細胞に対してせん断応力を負荷しながら細胞特性を評価する細胞特性評価装置を提供することを目的とする。
上述した目的を達成するため本発明者らが鋭意検討した結果、培養中の細胞が死滅するような高いせん断応力より大幅に低い所定のせん断応力であっても、所定の範囲に維持することで安定して細胞を培養できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明に係る培養制御方法は、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布が0.5〜20Paの範囲となる攪拌培養条件で細胞培養を行うものである。また、本発明に係る細胞培養装置は、撹拌翼と当該撹拌翼を回転駆動する駆動装置とを備える培養槽と、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布が0.5〜20Paの範囲となる攪拌培養条件となるように上記駆動装置を制御する制御装置とを備えるものである。
ここで、培養槽内のせん断応力分布は、例えば流体解析による計算で決定することができる。また、上記流体解析は、培養液の密度、培養液の粘度、培養槽の形状、撹拌翼の形状、培養槽の壁面条件及び撹拌翼の回転数を変数として上記せん断応力分布の値及び体積割合を算出することができる。
また、例えば、体積が1Lであってアスペクト比が1:1の培養槽、攪拌翼形状がフラットパドルであれば、攪拌回転数を200rpm以上、500rpm以下の範囲とすることで、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布を0.5〜20Paに制御することができる。
例えば、体積が3Lであってアスペクト比が2:3の培養槽、攪拌翼形状が傾斜パドルであれば、攪拌回転数を150rpm以上、300rpm以下の範囲とすることで、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布を0.5〜20Paに制御することができる。
例えば、体積が3Lであってアスペクト比が2:1の培養槽、攪拌翼形状がフラットパドルであれば、攪拌回転数を100rpm以上、200rpm以下の範囲とすることで、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布を0.5〜20Paに制御することができる。
例えば、体積が100Lであってアスペクト比が1:1の培養槽、攪拌翼形状がフラットパドルであれば、攪拌回転数を50rpm以上、100rpm以下の範囲とすることで、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布を0.5〜20Paに制御することができる。
例えば、体積が10m3であってアスペクト比が1:1の培養槽、攪拌翼形状が傾斜パドルであれば、攪拌回転数を15rpm以上、50rpm以下の範囲とすることで、培養槽内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布を0.5〜20Paに制御することができる。
一方、本発明に係る細胞特性評価装置は、アンカー分子を介して細胞を固定した支持体と、当該支持体を載置して一方端部に流入口と他方端部に流出口とを有し、前記流入口と前記流出口との間に前記支持体を載置するチャンバと、前記流入口から前記流出口に向かって、所望の流速で培養液を供給する培養液供給装置と、前記流出口から流出した培養液に含まれる成分を分析する分析装置とを備えるものである。
特に、上記分析装置は、酸素消費速度、乳酸分泌速度、アンモニア分泌速度、グルコース消費速度、グルタミン消費速度及び細胞内代謝フラックスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の指標を計測するものであることが好ましい。
また、本発明に係る細胞特性評価装置は、前記チャンバに供給する培養液の流速と上記チャンバに載置された支持体上の空間高さとを操作因子として、前記支持体にアンカー分子を介して固定された細胞に対して負荷するせん断応力を制御因子とすることができることが好ましい。
さらに、本発明に係る細胞特性評価装置は、アンカー分子を介して固定された細胞に対して0〜200Paまでせん断応力を負荷することが好ましい。
本発明に係る培養制御方法及び細胞培養装置によれば、細胞に負荷するせん断応力を適切な範囲に制御することで、安定して細胞培養することができる。また、本発明に係る細胞特性評価装置によれば、細胞に対して所定のせん断応力を負荷した時の細胞の状態や特性を正確に評価することができる。
培養装置の構成を示した図である。 せん断応力影響評価装置での流路形状を示した図である。 せん断応力と酸素消費量との関係を示す図である。 BAMによる固定の概要を示す図である。 せん断応力影響評価装置の構成を示す図である。 フローチャンバ部の概略を示す図である。 溶存酸素(DO)電極フローセルを示す図である。 細胞内代謝経路を示す図である。 スライドガラスおよびチャンバを示す図である。 細胞内代謝の概要を示す図である。 BAM固定での細胞代謝の変化を測定した結果を示す図である。 各せん断応力下での代謝の変化を示す図である。 せん断応力の負荷前の細胞の状態を示す写真及びせん断応力を負荷した後の細胞の状態を示す写真である。 せん断応力影響評価装置での細胞内代謝フラックス解析結果を示した図である。 各培養実験でのせん断応力分布を示す図である。 各培養実験での槽形状、攪拌翼形状を示す図である。 フローサイトメータによるアポトーシス検出を示す図である。 各種せん断応力分布で細胞を培養したときの増殖曲線を示す図である。 乳酸分泌量と細胞数の時間積分の関係を示す図である。 グルコース消費速度と細胞数の時間積分の関係を示す図である。 グルタミン消費速度と細胞数の時間積分の関係を示す図である。 アンモニア分泌量と細胞数の時間積分の関係を示す図である。 各培養の増殖曲線を示す図である。 各培養のタンパク生産量を示す図である。 各培養の代謝速度を示す図である。 各代表的な攪拌翼形状において、適正せん断応力分布となる培養槽体積と攪拌回転数の範囲を示す図である。
培養制御方法、細胞培養装置及び細胞特性評価装置は、例えば、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞の培養に適用することができる。生産対象の物質としては、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類等を挙げることができる。特に、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。
細胞培養装置は、図1に示すように、培養槽1、攪拌翼2、添加培地槽3、無菌サンプリング装置4、分析装置5、解析装置6及び制御装置7より構成される。なお、図1に示した細胞培養装置は、流加培養に適した構成となっているが、当該構成に限定されるものではない。例えば、回分培養を適用する場合、細胞培養装置としては添加培地槽を省略して構成することもできる。また、連続培養を適用する場合、細胞培養装置としては培養液抜き出し用のラインを設けてもよい。
培養制御方法及び細胞培養装置では、培養槽1内の80%以上(体積割合)におけるせん断応力分布が0.5〜20Paの範囲となっている。言い換えると、せん断応力分布が0.5〜20Paの範囲が、培養槽1内の80%以上(体積割合)となるようにする培養制御方法を適用した装置である。
また、せん断応力分布が0.5〜20Paの範囲を、培養槽1内の90%以上(体積割合)となるように制御することがより好ましい。
体積割合で培養槽1内の80%、好ましくは90%における、せん断応力分布を0.5〜20Paの範囲とすることによって細胞を安定的に培養することができる。ここで、安定的に細胞を培養するとは、例えば、炭素源(グルコース等)の消費速度と、炭素源の代謝に由来する生育阻害物質(乳酸等)の生産速度との比が一定であることを意味する。なお、上記比が一定というとき、必ずしも所定の一定値を維持することを意味するのではなく、当該比が多く変動することなく推移する、例えば、当該比が±10%程度の範囲に推移することを含む意味である。
せん断応力と細胞代謝の関係を調べる中で、特に細胞死に至るような高いせん断応力と比較して低いせん断応力において、有用物質生産に有利な範囲(0.5〜20Pa)があることを見出している。以下、適正せん断応力範囲の探索、せん断応力分布のパターンによる培養効果及び適正せん断応力分布となる培養槽設計の条件に関して詳細に述べる。
《適正せん断応力範囲の探索》
攪拌型の培養槽では、培養槽内で不均一なせん断応力分布が生じるため、せん断応力と細胞代謝との相関を正確に評価することが困難である。そこで、マイクロ流路の特性を利用した、一様な強いせん断応力を浮遊細胞に与えることの可能なせん断応力影響評価装置を製作し、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)を用いた培養実験で培養槽設計への適用性の評価を行った。本実施例では、CHO細胞を対象としているが、他の種類の細胞を対象としてもよい。
1.せん断応力影響評価装置の設計
付着細胞において一様で強いせん断応力を負荷する方法がKeaneらによって報告されている(Biotechnol Bioeng. 2003 Jan 20;81(2):211-20)。図2に示す流路形状においては、h<<wの条件で流路底面では一様なせん断応力τwの層流となり、流路高さをh、培養液の流れ方向での圧損の変化をdp/dyとすると、その大きさは式(1)で表せる。
本フローチャンバでは、細胞による酸素消費速度、細胞の代謝速度を計測できるように以下のように設計した。酸素消費速度は、流路長yを通過する間で減少する溶存酸素量で計算する。溶存酸素量の測定はフローチャンバに流れ込む前の溶存酸素濃度とフローチャンバを出た直後の溶存酸素濃度の2箇所で測定する。培養液の流速が早いと細胞による溶存酸素の減少量が小さく計測できない。具体的に標準的な系で計算すると、細胞の呼吸速度が2×10-12mg/cell/sec、固定した細胞数密度が1×105 cells/cm2の場合には、図3に示すようになり、流路高さによって測定可能な範囲が異なることがわかる。図3の(1)に示す範囲を流路高さが0.03mmのフローチャンバ、図3の(2)に示す範囲を流路高さが0.1mmのフローチャンバ、図3の(3)に示す範囲を流路高さが0.3mmのフローチャンバ、図3の(4)に示す範囲を流路高さが0.8mmのフローチャンバを準備することで、幅広い範囲でせん断応力を評価できることがわかる。これら4種類のフローチャンバを使用することによって、0〜200Paの範囲でせん断応力を負荷できることとなる。
浮遊細胞の場合、フローチャンバ上に細胞を固定する必要がある。細胞の代謝等に影響を及ぼさずに固定する観点から、本フローチャンバでは再生医療分野で実績があり、細胞に低浸襲であるBAM(Biocompatible Anchor for Membrane)をアンカー分子として細胞の固定に使用した。BAMの化学構造を以下に示す。
なお、上記構造式におけるnが20、40及び80のものを、それぞれBAM20、BAM40及びBAM80と称する。BAMを利用した細胞の固定の概要を図4に示した。BAMは、上述のように、タンパクと結合する反応性基と細胞膜に結合するオレイル基を有している。例えば、ガラス平面等の支持体上にBSAタンパクを結合させておくことで、BAMがアンカー分子として働き、細胞と支持体とを結合させることができる。
2.細胞特性評価装置の構成
細胞特性評価装置では、支持体に固定した細胞に対して均一なせん断応力を負荷し、細胞の代謝変化等を測定することができる。具体的に、細胞特性評価装置では、培地及び代謝物の成分濃度(グルコース、グルタミン、乳酸及びアンモニア)と溶存酸素濃度の変化を検出できるように設計した。
細胞特性評価装置は、図5に示すように、フローチャンバ10、溶存酸素(DO)測定部11、培地調整槽12、パルスダンパ14を備え、これら各構成部がガス透過性の小さいファーメドチューブ15を用いて接続されている。また、細胞特性評価装置は、培地調整槽12からサンプリングされた培養液の成分を分析する分析装置16を備えている。さらに、細胞特性評価装置は、ファーメドチューブ15の中途部に設けた送液ポンプ(ペリスタポンプ)17を備えている。
以上のように構成された細胞特性評価装置では、所定の溶存酸素濃度、所定のpH及び所定の温度に調整された培養液を充填した培地調整槽12から、培養液が送液ポンプ17により送液され、ポンプの脈動を抑えるパルスダンパ14を通過し、細胞が固定されているフローチャンバ10に送液される。フローチャンバ10から流出した培養液は、溶存酸素測定部11に送液され、溶存酸素濃度が測定される。溶存酸素測定部11で測定した溶存酸素濃度と、培地調整槽12で調整した培養液の溶存酸素濃度との差分を計算することで、細胞が消費した酸素濃度を測定することができる。
以下、細胞特性評価装置における各構成部について更に詳細を記載する。
<フローチャンバ>
フローチャンバ10の概略図を図6に示す。図6の(a)はフローチャンバ10の上面図であり、図6の(b)はフローチャンバ10の側面図であり、図6の(c)当該側面図におけるAA断面の断面図である。フローチャンバ10は、上部材18と下部材19とから構成されている。また、フローチャンバ10は、上部材18と下部材19とを組み合わせたときに形成される空間20を有している。フローチャンバ10の空間20には、長手方向の一方端部に流入口21が形成され、他方端部に流出口22が形成されている。
下部材19には、上部材18と組み合わされたときに空間20となる凹部が形成されている。凹部には、細胞を固定した支持体(例えばスライドガラス)を載置できる。また、上部材18には、下部材19と組み合わされたときに空間20となる凹部が形成されている。上部材18の凹部の深さを調節することにより、図2に示した流路高さhを所望の値とすることができる。すなわち、深さの異なる凹部を有する複数の上部材18を準備し、使用する上部材18を適宜選択することによって図2に示した流路高さhを所望の値とすることができる。例えば、本例では、図3において、(1)から(4)に示したように、4種類(0.03 mm、0.1 mm、0.3 mm、0.8 mm)の上部材18を準備した。なお、空間20に供給した培養液の液漏れを防ぐため、上部材18及び下部材19の間にはシリコンのOリング23を挿入した。
<溶存酸素(DO)電極>
溶存酸素測定部11の概略を図7に示した。細胞特性評価装置では、市販の溶存酸素(DO)電極24を装着でき、DO電極24のセンサー部分を培養液が通過する空間部25に臨ませる構造とした。DO電極24では隔膜(ガス透過性膜)を通過する酸素を測定するが、隔膜に接している部分では酸素が消費されるため、流速が十分でないと真の値より計測値が小さくなる。それを防ぐため、本細胞特性評価装置では、DO電極24のセンサー直下に攪拌子26を回すための空間を設け、攪拌できる構造にした。
<培地調整槽>
培地調整槽12には、培養槽とその制御装置を利用した。培養槽には、培養液を循環させるため培地抜き出し用の管27と培地流入用の管28を設置し、培地調整槽内では空気、窒素及び酸素を通気することで溶存酸素濃度を一定(例えば2.7mg/L)に制御し、pHに関しては炭酸ガスを通気することで一定の値(例えば7.2)に制御した。また培地調整槽は、培養液の溶存酸素濃度を測定するDO電極29を備えている。培地調整槽12は、図示しないが、ヒータで加熱制御することにより培養液温度を例えば37℃に維持することができる。
<送液ポンプ、パルスダンパ>
送液ポンプ17はペリスタポンプを使用した。また、送液ポンプ17の脈動を除去するためパルスダンパ14としてO-Plusダンパ(シグマ-アルドリッチ社)を使用し、圧力変異を97%削減した。
3.本細胞特性評価装置による細胞培養試験方法
3−1.細胞及び培地
実験には糖タンパクである組織性プラスミノーゲンアクティベータ(tPA)を産生するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞;CRL-9606細胞)(付着培養/浮遊培養兼用)をAmerican Type Culture Collection (ATCC)より購入し、使用した。本実施例では、付着細胞から浮遊細胞へ馴化させている。使用培地はHam's F12基本培地にFetal Bovine Serum (FBS)(最終濃度10%)、グルタミンを0.58g/L、グルコースを3.6 g/L、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加した培地を用いた。細胞内代謝フラックス解析においては上記調製において、グルコースを同位体標識グルコースに変えて、同様に調製した。
3−2.評価試験の手法
<スライドガラスへの細胞の固定>
細胞が培養できるようにチャンバが施されたスライドガラスにPBS(Phosphate Buffered Saline)溶液で溶解した10mg/mLのBSA(Bovine Serum Albumin)溶液を3mL加え、37℃で1時間静置した。PBSで3回洗浄した後、PBS溶液で溶解した100μMのアンカー分子(BAM20、BAM40、BAM80)溶液を3mL加え、37℃で2時間静置した。PBS溶液で3回洗浄した後、0.75 cells/mLの細胞懸濁液を2mL加え、1日培養した後、せん断応力評価試験に使用した。上記はすべて無菌化した溶液、スライドガラス等を用い、クリーンベンチ内で無菌的に処理を行った。
<細胞特性評価装置の無菌処理>
図5に示した細胞特性評価装置にアセサイド6%消毒液(過酸化水素系溶液)を30分間循環させ、ファーメドチューブ15を含む流路内を滅菌した。その後、滅菌したPBS溶液を通液することで消毒液を洗い流した。
<評価実験>
滅菌後、フローチャンバ10に細胞を固定したスライドガラスを取り付け、培地調整槽12に培地を200mL加え、送液ポンプ17を作動することで、目的のせん断応力となる流速で培養液を循環させた。培養液のサンプリングは培地調整槽12から1時間に1回行い、培地成分分析計(NOVA社)を用いてグルコース、グルタミン、乳酸、アンモニアの濃度を測定した。グルコース消費量、グルタミン消費量、乳酸分泌量、アンモニア分泌量は培養5時間における各濃度の差分の絶対値をとることで求めた。また酸素消費量は培地調整槽12での溶存酸素濃度とフローチャンバ10の流出口22の溶存酸素測定部11で測定した溶存酸素濃度の差分を取ることで求めた。
3−3.細胞内代謝フラックス解析
(1)細胞内代謝フラックスの推定方法
シミュレーションでは解析対象となる細胞の細胞内代謝経路を想定する必要がある。図8に示す動物細胞で一般に利用される代謝経路モデルを使用した。細胞内代謝フラックスのシミュレーションでは、最初にランダムな代謝フラックスの値(図8中R1からR29)を与え、図8の代謝経路を基に、定常状態での細胞内の各代謝物質に含まれる同位体炭素の数の比を計算する。この計算値と実験で測定した細胞内代謝物質の同位体炭素数比との比較を行い、統計学的に有意に差がある場合(異なっている場合)は、シミュレーションによる代謝物質中の同位体数炭素比の値を実験による代謝物質中の同位体炭素数比の値との平均自乗誤差が最小となるようにシミュレーションによる代謝フラックスの値を修正し、同位体炭素比を計算する。そして、統計学的な有意差がなくなるまで、以上のような実験による代謝物質中の同位体炭素数比の値を比較するという操作を繰り返す。通常は2、3回の繰り返し計算で推定できるが、何度繰り返しても統計学的な有意差が生じる場合は、代謝経路モデルが間違っているか、実験データが適切に測定されていないと判断する。また、本方法では、統計学的な考え方より推定値の信頼区間も求めることが出来る。まず、推定代謝フラックスを求め、その推定代謝フラックス(R1からR29)の内1つの代謝フラックス(例えばR3)に着目し、少しずつその代謝フラックスの値を大きくしていく。そして、実験値との比較で統計学的に有意差が出たところで、その代謝フラックスの上限値となる。下限は推定フラックスの値から少しずつ値を下げていき、統計学的に有意差が出たところで下限値となる。順次この操作を他の代謝フラックスに行うことで、すべての代謝フラックスで信頼区間を求めることが出来る。
上記シミュレーションでは実験による観測パラメータ(細胞内の各代謝物質の同位体炭素数比及び細胞外代謝フラックス)を必要とするが、通常、対象細胞あるいは使用する培地等によって、必要とする観測パラメータは異なる。本方法では、細胞外フラックスとして、グルタミン、グルコース、乳酸、グルタミン酸の4種、細胞内代謝物としては、Pyr、Lac、Ala、Gly、Suc、Fum、Ser、Akg、Mal、Asp、Glu、Gln、Citの13種類を測定パラメータとした。細胞内代謝フラックス解析では、入力パラメータとして細胞内代謝物、細胞外代謝フラックスの値が必要となる。
(2)細胞内代謝物の測定
細胞内代謝物の測定では、3つの工程((i)細胞内代謝物抽出、(ii)代謝物の誘導体化、(iii)GC/MS分析)からなる。詳細を下記に示す。
(i)細胞内代謝物抽出
スライドガラスに図9に示したサイズのチャンバを取り付け、スライドガラスに固定したCHO細胞(CRL-9606細胞)をPBSで1度洗浄した後、−20℃に冷やしておいたメタノールを200μL添加し、4℃の蒸留水を600μLずつ加えた。1分間超音波処理を行った後、2mg/mL濃度のノルバリンを5μL加え、更にクロロホルムを800μL加えた。4℃にてボルテックスミキサにて30分間混合し、遠心器(MicrofugeR;Beckman Coulter社)にて遠心分離(11、500rpm、4℃、30分)し、2層に分かれた上層を別のマイクロチューブに移した。一晩エバポレーションにより乾燥させた。
(ii)代謝物の誘導体化
乾燥したサンプルに2% methoxyamine hydrochloride (Pierce社)を30μLずつ加え、軽くボルテックスにより混合し、卓上遠心で溶液を中部下部に集めた後、ヒートブロック上で55℃、2時間反応させた。MBTSTFA+1% TBDMCS溶液(Pierce社)を45μLずつ加え、軽くボルテックスにより混合し、卓上遠心で溶液を中部下部に集めた後、ヒートブロック上で37℃、1時間反応させた。反応溶液をGC/MS分析用容器に入れ替え、分析まで常温で保管した。
(iii)GC/MS分析
GC-MS(Agilent社)を用い、カラムは30m DB-35MS capillary columnを使用し、測定条件はカラム温度勾配が3.5℃/minで100℃から300℃までの温度制御で、注入口温度270℃、キャリアガスはヘリウムガスで流量1mL/minで分析を行った。
4.本細胞特性評価装置での培養実験結果
4−1.浮遊細胞の固定化
細胞の固定に使用するアンカー分子BAMは、分子量によりBAM20、BAM40、BAM80の3種類が存在し、細胞の種類によって適切なアンカー分子を選択する必要がある。そこで、(1)接着率及び(2)細胞代謝を評価の指標として適切なアンカー分子(BAM)を選択した。
(1)接着率の評価
アンカー分子(BAM20、BAM40、BAM80)をスライドガラスに付加した後に細胞を播種し、培養1日後で浮遊する細胞数の割合を測定した結果、BAM40>BAM20>BAM80>コートなしであった。
(2)細胞代謝の評価
培養液を分析することで細胞代謝の変化の傾向を捉えることが出来る。細胞内代謝の概要を図10に示す。栄養基質であるグルコースは主に乳酸に代謝されるが、一部はTCA回路でエネルギー生産に使われる。同様に、グルタミンは主にアンモニアに代謝されるが、一部エネルギー生産に使われる。培養液中のグルコース、グルタミン、乳酸、アンモニアの濃度変化を計測することで、乳酸分泌/グルコース消費比(グルコース−乳酸代謝系)、アンモニア分泌/グルタミン消費比(グルタミン−アンモニア代謝系)を求め、代謝の変化として評価することが可能である。
アンカー分子(BAM20、BAM40、BAM80)で細胞を固定し、細胞代謝の変化を測定した結果を図11に示す。アンカー分子ない場合(コートなし)と比較し、いずれのアンカー分子においても有意差は見られず、細胞代謝に影響は見られなかった。よって、固定化による細胞代謝変化はないと考えられる。
以上、(1)接着率及び(2)細胞代謝の結果より、浮遊系CHO細胞(CRL-9606細胞)においては、BAM40が、接着率が高く、細胞代謝にも影響を及ぼさないため、アンカー分子としてBAM40の使用が適切と判断した。
4−2.細胞特性評価装置での培養評価
浮遊系CHO細胞(CRL-9606細胞)をスライドガラスに固定した状態で、0.1Pa〜200Paのせん断応力を与え続け、各せん断応力下での代謝の変化を測定した(せん断応力が0 Paの値は静置培養でのデータ)。結果を図12に示す。図12に示すように、乳酸分泌/グルコース消費比に関しては、0.6Pa以下では、静置培養と代謝は変わらず、0.6〜2Paで代謝比率が大きく減少した。また、2〜30Paでは一定の値を維持した。100Paより大きいせん断応力では細胞がスライドガラスから剥離したことより、本細胞特性評価装置で評価できるせん断応力範囲を100Pa以下と判断した。なお、図13に、せん断応力の負荷前における細胞の状態を撮像した写真と、100Paより大きいせん断応力を負荷したときの細胞の状態を撮像した写真を示した。
一方、図12に示すように、アンモニア分泌/グルタミン消費比に関しては、せん断応力が強くなるにつれ緩やかに代謝比率が減少した。従来の実験室規模での実験(せん断応力:〜1Pa)では、細胞内の代謝変化を捉えることはできなかったが、本細胞特性評価装置を用いることで、初めてせん断応力による細胞内代謝変化を評価することができた。
4−3.代謝フラックス解析の適用
細胞特性評価装置にてせん断応力(0.1Pa)を与えた細胞に関して細胞内代謝解析を行った。結果を図14に示す。細胞内代謝フラックス解析では、シミュレーションの際、統計的に存在しえない代謝フラックスは解として得られないため、本実験の結果で解を得たということで妥当なフラックスであると考えられる。本細胞特性評価装置と細胞内代謝フラックス解析を組合せることにより、より詳細な代謝変化を捉えることが可能となり、培養槽設計の上で有用な情報(例えば、各栄養基質の消費速度)を得ることができる。
《回分培養における培養槽内のせん断応力分布の細胞代謝への影響》
マイクロ流路上での一様なせん断応力では0.5〜1Pa付近を境に細胞代謝の変化が生じることを見出した(図12)。一方、培養槽を用いた細胞培養ではせん断応力の空間分布が一様とならず、不均一なせん断応力の分布となる。そこで、培養槽においても1Paを超える高せん断応力で細胞代謝が変化するかを検討するため、図15に示すような、せん断応力が0.5Pa以下となる「低せん断応力分布」、主要なせん断応力が0.5〜1Pa付近の「中せん断応力分布」、主要なせん断応力が1Paを超えるせん断応力分布2種類(「高せん断応力分布1」、「高せん断応力分布2」)を槽形状、攪拌翼形状、回転数を検討することで実現した。各せん断応力分布の培養条件は表1に示す通りで、槽形状、攪拌翼形状は図16に示す形状を用いた。すなわち、撹拌翼形状としては、傾斜パドル型(Picthed Blade)のものと、フラットパドル型(Rushton)を使用した。
なお、せん断応力分布は流体シミュレーションによる計算値である。本実験ではせん断応力のみの影響を評価するために、液中通気は行わず液面通気のみで溶存酸素の制御を行った。
1. 培養実験手順
1−1.細胞及び培地
培養実験には糖タンパクである組織性プラスミノーゲンアクティベータ(tPA)を産生するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞;CRL-9606細胞)(付着培養/浮遊培養兼用)をAmerican Type Culture Collection (ATCC)より購入し、使用した。使用培地はHam’s F12基本培地にFetal Bovine Serum (FBS)(最終濃度10%)、抗生物質であるペニシリン、ストレプトマイシンを添加した培地を用いた。
1−2.培養操作
1L培養槽もしくは3L培養槽を用いて、前節で述べた培養条件で培養を行った。播種密度は1×105cells/mLで培養中は、溶存酸素2.7mg/L、pH7.2、温度37℃を維持するように制御した。無菌サンプリングを1日に1〜2回行い、培養液成分分析を行った。
1−3.培養液成分の分析
サンプリングした培養液より、(1)生細胞数、(2)培地成分(グルコース、グルタミン、乳酸、アンモニア)、(3)tPAタンパク量を定量した。分析方法を以下に記す。
(1)生細胞の計数
生細胞数は生死細胞判定装置Vi-CELL(ベックマン・コールター社)を用いた。細胞培養液をVi-CELLにセットし、トリパンブルー染色法により生死細胞の区別を行い、細胞の画像データを取得、自動計数することにより、生細胞数の値を得た。
(2)培地成分分析(グルコース、グルタミン、乳酸、アンモニア)
培養液中のグルコース、グルタミン、乳酸、アンモニアはBioplofile 100plus(Nova社)を使用して測定した。
(3)tPAタンパクの定量
tPAの定量には、tPA、Human、ELISA Kit(フナコシ)を用いた。分析方法は酵素免疫吸着測定法 (ELISA法)に基づいており、一次抗体にマウス抗tPA、二次抗体にビオチン化ポリクローナル抗tPAを用い、基質をテトラメチルベンジジンとしてストレプトアビジン-ペルオキシダーゼで発色反応させ、吸光光度計で450nmの吸光を測定した。
(4)生細胞、アポトーシス細胞及びネクローシス細胞の割合の測定
生細胞、アポトーシス細胞及びネクローシス細胞の割合はフローサイトメータ(ベックマン・コールター社)を利用して測定した。培養槽からサンプリングした培養液を遠心器にかけ(室温、500×g、5分)、細胞を沈殿させた。洗浄液で細胞を洗浄した後、蛍光標識してある抗カスパーゼ抗体を30分、37℃で反応させた。余分な蛍光を取り除くため、洗浄液で細胞を洗浄し、計測用の緩衝液を加え、ネクローシス検出用の蛍光色素PI(Propidium Iodide)を加え、フローサイトメータにより分析した。分析結果の一例を図17に示す。蛍光色素PIと抗カスパーゼ抗体で染色された細胞はアポトーシス(図中A2領域)、蛍光色素PIでは染色されず、抗カスパーゼ抗体で染色された細胞はネクローシス(図中A4領域)、蛍光色素PIと抗カスパーゼ抗体ともに染色されない細胞は生細胞(図中A3領域)として各細胞の割合を算出した。
2. 実験結果
図15に示す各種せん断応力分布で細胞を培養したときの増殖曲線を図18に示す。対数増殖期における増殖速度は0.038 h-1、到達細胞数密度は1×106 cells/mlであり、本結果は、一般に報告されているCRL-9606細胞を用いた培養結果と一致する。通常の培養条件を想定した低せん断応力分布と比較して、各せん断応力分布はいずれも有意な差がなかった。
一方、細胞代謝に関しては、乳酸分泌量(図19)、グルコース消費量(図20)、グルタミン消費量(図21)、アンモニア分泌量(図22)とそれぞれに対する細胞数の時間積分との関係を調べた。各グラフの横軸は細胞数の時間積分(IVC)であるため、グラフの傾きが単位細胞あたりの基質消費速度もしくは単位細胞あたりの代謝物分泌速度を意味する。まず、乳酸分泌量と細胞数の時間積分の関係(図19)より、低せん断応力分布から高せん断応力分布2へとせん断応力が強くなるにつれて乳酸分泌量が小さくなることがわかる。乳酸分泌速度(グラフ傾き)は、培養初期(IVC<0.6×106cells・day/mL)では各せん断応力分布間で大きな差異はないが、培養中期(0.6×106cells・day/mL<IVC<2×106cells・day/mL)で、乳酸分泌速度に大きく差異がでる。その後、培養後期(2×106cells・day /mL < IVC)で、乳酸分泌速度に差異は無くなった。詳細なメカニズムは不明であるが、せん断応力分布による乳酸分泌への影響は培養フェーズに依存することがわかる。
それに対し、乳酸分泌の主な基質となるグルコースの消費量(図20)は、各せん断応力分布間で有意な差は見られず、せん断応力分布によるグルコース消費速度の影響はなかった。次にグルタミン消費量と細胞数の積分との関係(図21)をみると、低せん断応力分布及び中せん断応力分布は図21中で差異はないが、高せん断応力分布1及び高せん断応力分布2は、せん断応力が大きくなるにつれ、グルタミン消費量が高くなることがわかる。グルタミン消費速度(グラフの傾き)は、培養初期(IVC<0.6×106cells・day/mL)、培養中期(0.6×106cells・day/mL<IVC<2×106cells・day/mL)いずれもせん断応力が大きくなるにつれ、高くなることがわかる。一方、培養後期(2×106cells/mL・day<IVC)ではグルタミンが枯渇するため、消費速度を調べることができなかった。グルタミンを主な基質とする代謝物はアンモニアである。アンモニア分泌量と細胞数の時間積分の関係を見ると(図22)、アンモニア分泌量及びアンモニア分泌速度(グラフ傾き)は、各せん断応力間で有意な差はみられなかった。
以上より、培養中期での乳酸消費速度と培養初期、培養中期でのグルタミン消費速度はせん断応力分布に依存することが判明し、せん断応力が大きくなるにつれて乳酸分泌速度は減少、グルタミン消費速度は増大することがわかった。一方、グルコース消費速度、アンモニア分泌速度はせん断応力分布に影響しないことがわかった。本結果は、せん断応力増大により、乳酸分泌/グルコース消費比及びアンモニア分泌/グルタミン消費比が減少するため、一様せん断応力による評価(図13)と定性的に一致する。この結果は、高せん断応力分布1及び高せん断応力分布2の条件下でグルタミンを多く供給する培養法により、細胞の増殖及び生産される有用物質の品質に影響のある乳酸の蓄積を抑え、高品質な有用物質生産を可能とする。特に、せん断応力範囲がせん断応力範囲0.5Pa〜20Paに80%、好ましくは90%以上入っている場合は、その効果が顕著であり、77%でも効果はある。細胞の増殖に関しては、本回分培養では乳酸抑制の効果が現れる前に、栄養基質が枯渇したため、顕著な効果は見られなかったが、培地成分を改善することで、増殖の改善はされる。
《流加培養における培養槽内のせん断応力分布の細胞代謝への影響》
回分培養と同じせん断応力分布で、流加培養を行った。添加培地は、事前に細胞内代謝解析で細胞内の代謝速度を分析し、その結果を基にアミノ酸組成を決定した。本例における各せん断応力分布の培養条件は表2に示す通りとした。
本例で実施した流加培養による増殖曲線を図23に示した。高せん断応力を負荷することにより到達細胞数が増大した。また、タンパク生産量に関しても、高せん断応力分布を負荷することにより、低せん断応力分布と比較して、1.5倍向上した(図24における左から1番目のグラフと、6番目のグラフとの比較)。各培養の代謝速度は図25となり、増殖阻害物質である乳酸分泌が高せん断応力分布により抑制された。以上より、せん断応力範囲0.5Pa〜20Paに80%以上、好ましくは90%以上となる高せん断応力分布を負荷することで、細胞内の代謝を改善し、生産性向上および生産物の品質向上が可能となる。
《スケールアップにおける適正せん断応力分布の条件》
流体解析ソフトRFLOW(アールフロー社製)を用いることで、培養槽におけるせん断応力分布を求めることができる。特に、流体解析ソフトでは、培養液の密度、培養液の粘度、培養槽の形状、撹拌翼の形状、培養槽の壁面条件及び撹拌翼の回転数を変数として適宜、値を入力することによって、培養槽におけるせん断応力分布を求めることができる。すなわち、上記の条件(培養槽のアスペクト比、攪拌翼形状、攪拌回転数等)を基にして培養槽のメッシュデータを作成し、流体解析ソフトにより培養槽内のせん断応力分布を計算できる。メッシュ作成の際、分布精度を向上させるため溶存酸素電極やバッフル等の培養槽の壁面条件を考慮することが好ましい。
培養槽が小スケールと大スケールではせん断応力分布が異なる。各代表的な攪拌翼形状において、適正せん断応力分布となる培養槽体積と攪拌回転数の範囲を図26に示す。図26において斜線の領域は、培養槽内のせん断応力0.5Pa〜20Paが体積割合90%以上となる培養槽体積と攪拌回転数の範囲を示している。以上のように、流体解析ソフトを利用することによって、スケールアップしたときの培養槽体積について、培養槽内のせん断応力0.5Pa〜20Paが体積割合90%以上となる回転数を規定することができる。
1…培養槽、2…攪拌翼、3…添加培地槽、4…無菌サンプリング装置、5…分析装置、6…解析装置、7…制御装置、8…スチーム発生装置、10…フローチャンバ、11…溶存酸素(DO)測定部、12…培地調整槽、14…パルスダンパ、15…ファーメドチューブ、16…分析装置、17…送液ポンプ(ペリスタポンプ)、18…上部材、19…下部材、20…空間、21…流入口、22…流出口、24…DO電極、25…空間部、26…攪拌子、27…培地抜き出し用の管、28…培地流入用の管、29…DO電極

Claims (3)

  1. ポリエチレングリコールを介してオレイン酸と、タンパク質結合性を有する反応基とが結合した構造を有するアンカー分子を介して細胞を固定した支持体と、
    当該支持体を載置して一方端部に流入口と他方端部に流出口とを有し、前記流入口と前記流出口との間に前記支持体を載置するチャンバと、
    前記流入口から前記流出口に向かって、所望の流速で培養液を供給する培養液供給装置と、
    前記流出口から流出した培養液に含まれる成分を分析する分析装置とを備え、前記支持体に前記アンカー分子を介して固定した細胞に対して0.6〜100Paのせん断応力を与えたときの代謝変化を前記分析装置で分析することを特徴とする細胞特性評価装置。
  2. 前記分析装置は、酸素消費速度、乳酸分泌速度、アンモニア分泌速度、グルコース消費速度、グルタミン消費速度及び細胞内代謝フラックスからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の指標を計測するものであることを特徴とする請求項1記載の細胞特性評価装置
  3. 前記チャンバに供給する培養液の流速と上記チャンバに載置された支持体上の空間高さとを操作因子として、前記支持体にアンカー分子を介して固定された細胞に対して負荷するせん断応力を制御因子とすることを特徴とする請求項1記載の細胞特性評価装置
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