JP2014226680A - 温間プレス成形方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】スプリングバックなどの形状変化を抑制してパネルの寸法精度を向上させると共に、プレス成形性も向上させ、さらにはプレス成形品において所望の機械的特性を容易に得ることができる温間プレス成形方法を提供する。【解決手段】引張強さが440MPa以上である鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに当たり、該鋼板を400℃以上Ac1点以下の温度域に加熱し、ついで、ポンチとダイの組み合わせになるプレス機を用いて成形するものとし、その際、該鋼板と接触して該鋼板を変形させるポンチ金型の肩部とダイ金型の肩部にそれぞれ、該鋼板よりも熱伝導率が低い材料を埋め込んだポンチ金型とダイ金型を用いる。【選択図】図9

Description

本発明は、高強度鋼板をプレス成形した場合に生じる、スプリングバックなどの形状変化による寸法精度不良を抑制すると共に、プレス成形性(プレス割れ防止、しわ抑制)も向上させることができる温間プレス成形方法に関するものである。
燃費向上を目的とした車体の軽量化と、乗員保護のための衝突安全性向上を両立させるため、車両部品への高強度鋼板の適用が進められている。しかしながら、高強度鋼板は、一般にプレス成形性に劣り、また金型離型後の弾性回復による形状変化(スプリングバック)が大きく、寸法精度不良が発生しやすいため、プレス成形を適用できる部品が限られているのが現状である。
そのため、プレス成形性の改善および形状凍結性の向上(スプリングバックの減少)を目的として、特許文献1には、鋼板を所定温度に加熱した後にプレス成形する、熱間プレス成形を高強度鋼板に適用した例が開示されている。この熱間プレス成形は、冷間プレス成形よりも高い温度で成形することによって、プレス成形する際の鋼板の変形抵抗を低下させ、換言すれば変形能力を向上させて、形状凍結性の向上を、プレス割れの防止と共に達成しようとする技術である。
しかしながら、特許文献1の技術では、成形中、加熱した鋼板(以下、ブランクとも呼ぶ)の縁部をダイ金型とブランクホルダ(しわ押さえ)により挟圧するので、ブランクの縁部とそれ以外の部分とでは金型等との接触時間に差が生じる。また、接触した部分のブランク温度はプレス成形中に降下することから、上記した金型等との接触時間の差などの影響により、成形直後のプレス成形品(以下、パネルとも呼ぶ)内で不均一な温度分布が生じる。その結果、特に高強度鋼板が適用される自動車骨格部品などでは、熱間プレス成形後の空冷中にパネル形状が変化し、十分満足のいく寸法精度のパネルが得られないという問題が生じていた。
また、ブランクと上記したダイ金型等が接触すると、急激に温度が低下するため、成形途中の段階で、ブランク内には温度差が生じることになる。このとき、ブランク内の温度が高い部分では、強度が相対的に低く、その反面、延性は相対的に高くなるので、ブランクを所定の形状に成形する際、この温度の高い部分にひずみが集中し、特にしわ押さえ力を大きくする必要がある場合などには、ネッキングや割れが発生するという問題も生じていた。
このような問題を解決する方法として、特許文献2には、鋼板をAc3点から融点までの温度範囲に加熱した後、鋼よりも熱伝導率が小さい材料で構成されたしわ押さえ部及びダイのフランジ部を有する金型を用いて、フェライト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイト変態のいずれもが生じる温度より高い温度で前記鋼板の成形を開始し、この成形後に急冷する熱間成形方法が開示されている。
この技術は、鋼よりも熱伝導率が小さい材料をしわ押さえ部やダイ金型に適用することで、成形中のブランク内での温度差を低減し、これによって、ネッキングや割れを防止してプレス成形性を向上しようとする技術である。
特開2005−205416号公報 特開2005−262232号公報
しかしながら、特許文献2の技術では、鋼板をAc3点以上のオーステナイト域にまで加熱し、冷却時に焼入れ・相変態を伴うため、成形前後で鋼板の組織が変化しやすく、プレス成形品において強度や延性といった引張特性のバラツキが大きいという問題があった。
また、特許文献2の技術では、しわ押さえ部及びダイのフランジ部の全体に熱伝導性の小さい材料を使用する必要があるので、コストが高く、また金型の一部に割れや摩耗が生じた場合であっても全体を取り替える必要があるため、メンテナンスに必要なコストや作業量も増大するという問題があった。
本発明は、上記の問題を解決するために開発されたもので、スプリングバックなどの形状変化を抑制してパネルの寸法精度を向上させると共に、プレス成形性を向上させ、さらにはプレス成形品において所望の機械的特性を容易に得ることができる温間プレス成形方法を提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく、従来の熱間プレス成形では、高強度鋼板を適用する場合にオーステナイト域にまで加熱する必要があった鋼板の加熱温度を、オーステナイト変態温度よりも低くすることを試みた。
それと同時に、スプリングバックによる形状変化と、成形中におけるブランクのネッキングや割れの発生に関し、さらに詳しい原因を解明すべく、一連の成形工程におけるブランクと金型等との接触状態とブランク内の温度変化との関係について、綿密な調査を行った。
その結果、成形中、ポンチ金型の肩部やダイ金型の肩部と接触するブランクの部位では、これらの金型から受ける接触面圧が特に高くなるために温度低下が大きく、当該部位を起点とした温度低下が、パネルの形状変化の原因となる成形直後のパネル内での不均一な温度分布、さらにはネッキングや割れの原因となる成形途中でのブランク内の温度差の主な要因となるとの知見を得た。
そこで、発明者らは、上記の知見を基に、ポンチ金型の肩部やダイ金型の肩部と接触するブランクの部位での温度低下を抑制し、さらにはコストやメンテナンス性の面でも有利となる条件を見出すべく、種々の成形方法・成形条件について、さらに鋭意検討を重ねた。
その結果、高強度鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに際し、
(1)鋼板をいわゆる温間成形温度域に加熱したのち、
(2)ポンチとダイの組み合わせになるプレス機を用いて成形し、その際、ポンチ金型の肩部とダイ金型の肩部に、鋼板よりも熱伝導率が低い材料を埋め込み、そのポンチ金型とダイ金型を用いる、
ことにより、所期した目的を有利に達成できるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.引張強さが440MPa以上である鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに当たり、
該鋼板を400℃以上Ac1点以下の温度域に加熱したのち、ポンチとダイの組み合わせになるプレス機を用いて成形するものとし、その際、該鋼板と接触して該鋼板を変形させるポンチ金型とダイ金型の肩部に、該鋼板よりも熱伝導率が低い材料を埋め込んだポンチ金型とダイ金型を用いる、
ことを特徴とする温間プレス成形方法。
2.前記鋼板よりも熱伝導率が低い材料が、20℃における熱伝導率が5.0W/(m・K)以下となるセラミックであることを特徴とする前記1に記載の温間プレス成形方法。
3.前記鋼板よりも熱伝導率が低い材料が、前記ポンチ金型と前記ダイ金型からそれぞれ着脱可能であることを特徴とする前記1または2に記載の温間プレス成形方法。
4.前記プレス成形品の引張強さが、前記鋼板の引張強さの80%以上110%以下となることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
5.前記鋼板が、質量%で、
C:0.015〜0.16%、
Si:0.2%以下、
Mn:1.8%以下、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.1%以下、
N:0.01%以下および
Ti:0.13〜0.25%
を下記(1)式の関係を満足する範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有すると共に、
組織全体に占めるフェライト相の割合が面積率で95%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有する、
ことを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の温間プレス成形方法。

2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
6.前記鋼板が、さらに質量%で、
V:1.0%以下、
Mo:0.5%以下、
W:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
Zr:0.1%以下および
Hf:0.1%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)’式の関係を満足することを特徴とする前記5に記載の温間プレス成形方法。

2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
7.前記鋼板が、さらに質量%で、B:0.003%以下を含有することを特徴とする前記5または6に記載の温間プレス成形方法。
8.前記鋼板が、さらに質量%で、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下およびREM:0.2%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記5〜7のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
9.前記鋼板が、さらに質量%で、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下およびSn:0.1%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記5〜8のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
10.前記鋼板が、さらに質量%で、Ni:0.5%以下およびCr:0.5%以下から選んだ1種または2種を含有することを特徴とする前記5〜9のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
11.前記鋼板が、さらに質量%で、O,Se,Te,Po,As,Bi,Ge,Pb,Ga,In,Tl,Zn,Cd,Hg,Ag,Au,Pd,Pt,Co,Rh,Ir,Ru,Os,Tc,Re,Ta,BeおよびSrのうちから選んだ1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする前記5〜10のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
12.前記鋼板が、その表面にめっき層をそなえることを特徴とする前記1〜11のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
本発明によれば、プレス成形後のパネルの空冷時に発生する形状変化を抑制すると共にプレス成形性も改善することができ、これによって、寸法精度が良好で、かつネッキングや割れのない自動車骨格部品を、高い生産性の下で製造することができる。その結果、従来、寸法精度不良やネッキング、割れが原因で適用できなかった高強度鋼板を自動車骨格部品に適用できるようになり、車体の軽量化などを通して、環境問題の改善に大きく寄与することができる。
また、プレス成形を温間で行う本発明によれば、成形前後に焼入れや相変態を伴うことがなく、素材である鋼板の機械的特性をそのまま活かすことができるので、所望特性のプレス成形品を安定して得ることができる。
さらに、ポンチ及びダイ金型の肩部にのみ、熱伝導率が低い材料を使用する本発明によれば、コストや取替時の作業性の面でも非常に有利となる。
ドロー(絞り)成形によるプレス成形を説明する図であり、(a)は成形開始時、(b)は成形途中、(c)は成形下死点(成形完了時)における状態を表すものである。 (a)プレス成形により得られるパネルから製造される自動車骨格部品の一例を示す図である。(b)ドロー成形を用いたプレス成形により得られるパネルのフランジ部を説明する図である。 ドロー成形を行う際の、ポンチ金型およびダイ金型の肩部とブランクとの接触状態を説明する図である。 肩部に熱伝導性が低い材料を適用したポンチ金型およびダイ金型の一例を示す図である。 フォーム成形によるプレス成形を説明する図であり、(a)は成形開始時、(b)は成形途中、(c)は成形下死点(成形完了時)における状態を表すものである。 張出し成形によるプレス成形を説明する図である。 ドロー成形時の際の、鋼板(めっき材、非めっき材)とポンチ金型およびダイ金型の摩擦係数と、鋼板の加熱温度との関係を示すものである。 ドロー成形により得られる曲がりハット形状のパネルの一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は長手方向中心部および端部の断面形状を示す図である。 肩部にジルコニアまたは窒化珪素等を埋め込んだポンチ金型およびダイ金型の一例を説明する図である。 ドロー成形により直線ハット形状のパネルを成形した場合の、成形下死点での保持時間と、基準となるパネル形状(プレス成形直後に金型から外した時点の形状)に対する空冷後の口開き量の変化量との関係を示す図である。 ドロー成形により曲がりハット形状のパネルを成形した場合の、成形下死点での保持時間と、ひねり角度との関係を示す図である。 ポンチ金型およびダイ金型の全体または肩部の材料を種々変化させて張出し成形を行う場合に、ブランクに割れが生じる限界の成形高さを示す図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、プレス成形前における鋼板の加熱温度を400℃以上Ac1点以下の範囲とした理由について説明する。
鋼板の加熱温度:400℃以上Ac1点以下
鋼板を400℃以上に加熱することにより、強度は低下し、かつ延性は増加する。このため、鋼板がプレス成形中に金型に沿って変形しやすくなって、プレス割れを防止でき、さらにはしわの発生も抑制することができる。しかしながら、鋼板の加熱温度がAc1点を超えると、材料強度が低くなりすぎ、割れや破断の危険がある。また、加熱温度をAc1点以下とすることにより、成形前後に焼入れや相変態が生じず、強度や延性といった引張特性のバラツキを抑制することができる。従って、鋼板の加熱温度は400℃以上Ac1点以下の範囲とする。特に、鋼板の加熱温度を400℃以上650℃未満とする場合には、鋼板表面の酸化や割れの発生も抑制でき、しかもプレス荷重の過大な増加も生じないため、一層有利である。なお、Ac1点は次式により求めることができる。
Ac1=723−10.7×[%Mn]−16.9×[%Ni]+29.1×[%Si]+16.9×[%Cr]+
290×[%As]+6.38×[%W]
ただし、[%M]は、M元素の含有量(質量%)を表す。
次に、本発明において、ポンチ金型の肩部とダイ金型の肩部に鋼板(ブランク)よりも熱伝導率が低い材料を埋め込み、そのポンチ金型とダイ金型を用いてプレス成形を行う理由について説明する。
なお、本発明の温間プレス成形方法で成形する鋼板(ブランク)の20℃における熱伝導率は、40〜60W/(m・K)程度である。また、本発明において、「プレス成形直後」とは、プレス成形したパネルを金型から外した空冷開始時点に相当する。
側壁部の高さが要求されるパネルをプレス成形するには、ドロー(絞り)成形により行うのが一般的である。このドロー成形を行う場合、温間(または熱間)プレス成形であっても、成形時に発生するしわを抑制するために、図1に示すように、しわ押さえを配置し、このしわ押さえと上金型(ダイ)によってブランク縁部を挟圧しつつ、側壁部に張力を付与しながら成形を行うのが一般的である。
なお、図1中、符号1はダイ、2はポンチ、3はしわ押さえ、4は加熱した鋼板(ブランク)、5は成形後のプレス成形品(パネル)、6はフランジ部、7は側壁部である。
例えば、図2(a)に示すように、自動車骨格部品は、略ハット断面形状部材同士をスポット溶接などで接合して閉断面を形成する場合が多い。ここで、図2(b)のように狭圧されたブランク縁部は、成形後、パネルのフランジ部となるが、このフランジ部は、パネル同士をスポット溶接などで接合するための部位となるので、平坦にすることが求められる。そのため、上記したように、ブランク縁部にしわ押さえ力を付与しながら、成形を行うのである。
上記のようなドロー成形の場合、ブランク縁部は、成形初期から成形完了に至るまでの間、常にしわ押さえと上金型(ダイ)によって挟圧されている。このため、加熱した鋼板(ブランク)をプレス成形する場合、ブランク縁部から金型への熱移動が生じて、ブランク縁部の温度が降下しやすくなり、成形直後のパネルのフランジ部分とそれ以外の部分との温度差が大きくなってしまう。パネル内にこのような温度差が生じると、室温に冷却される過程での熱収縮量がパネル内の部位によって異なることになるため、パネル内に残留応力が発生し、この応力を開放するように、パネルの形状が変化する。
また、ブランクとダイ金型等が接触すると、ブランクの温度が急激に低下するため、その段階で、ブランク内に温度差が生じる。このとき、ブランク内の温度が高い部分、すなわち、側壁部では、強度が相対的に低く、その反面、延性は相対的に高くなっているので、ブランクが所定の形状に成形される際にひずみが集中し、ネッキングや割れが発生する。
発明者らは、上記のパネルの形状変化、さらには成形過程でのネッキングや割れの発生原因を解明すべく、一連の成形工程におけるブランクと金型等との接触状態と、ブランク内での温度変化との関係に着目し、綿密な調査を行った。
その結果、図3に示すようなポンチ金型の肩部9やダイ金型の肩部8と接触するブランクの部位では、成形中、これらの金型から受ける接触面圧が特に高くなるために温度低下が大きく、当該部位を起点とした温度低下が、パネルの形状変化の原因となる成形直後のパネル内での不均一な温度分布、さらにはネッキングや割れの原因となる成形途中でのブランク内の温度差に大きく影響しているとの知見を得た。
そこで、発明者らは、上記の知見を基にさらに検討を重ね、その結果、ポンチ金型の肩部およびダイ金型の肩部に鋼板よりも熱伝導率が低い材料を埋め込むことで、成形中の接触によりこれらの金型肩部に伝達された熱が、金型内部にまで伝達されずに蓄熱され、これによって、ブランクの温度低下を抑制できることに想到したのである。
ここに、ポンチ金型の肩部およびダイ金型の肩部に使用する材料としては、20℃における熱伝導率が5.0W/(m・K)以下のセラミック、例えば、ジルコニアや窒化珪素、コージェレライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2O3・TiO2)とすることが好ましい。
なお、金型の本体(肩部以外の部分)およびしわ押さえに使用する材料は、特に限定する必要はなく、例えばSK材やSKD材、FCD材といった一般的な工具鋼を使用すればよい。
また、熱伝導率が低い材料は、図4に示すように、ポンチ金型の肩部およびダイ金型の肩部でR(丸み)が付いている範囲に適用すればよく、その形状としては、金型の形状に合わせて棒状やリング状とすることができる。さらに、この材料の断面形状は、この材料を取り付ける位置の金型の形状に合わせればよく、例えば、図4に示すような楕円形の扇形の他、円形や楕円形とすることもできる。なお、金型内部への熱伝達を抑制する観点からは、図4に示す形状とすることが特に好ましい。
なお、自動車部品などの複雑な形状のパネルを製作する場合には、肩部と接触する部位以外にも金型から受ける接触面圧が大きくなる部位が生じることもある。そのため、熱構造連成数値解析などを行い、金型とブランクの接触面圧が大きい部位を特定し、その特定した部位に熱伝導性が低い材料を適用することが好ましい。これによって、スプリングバックの抑制と成形性の向上を両立することができ、さらには金型全体に熱伝導性の低い材料を適用する場合に比べ、金型の製作コストを大幅に低減することができる。
また、ポンチ金型およびダイ金型の肩部に熱伝導性が低い材料を取り付ける方法としては、拡散接合などの固相接合も適用することができるが、例えば、ボルト締結などの機械的な結合とすることにより、着脱可能な構造とすることもできる。これによって、ポンチ金型の肩部とダイ金型の肩部に適用した材料に割れや摩耗が生じた場合であっても、その部分のみを取り替えることで金型を継続して使用することが可能となり、ひいてはメンテナンスに必要なコストや作業量を低減することができる。
加えて、本発明の温間成形プレス方法では、成形下死点での保持時間を1秒以上とすることによって、パネルの形状凍結性を一層向上させることができる。
すなわち、金型との接触によりパネルの温度降下は進むものの、パネル内での温度の均一化が進むので、フランジ部とそれ以外の部分との温度差はより小さくなる。また、成形下死点での保持により、板材内部の応力が緩和されると共に、ブランクが拘束されるので、熱膨張によって拡大したブランクが温度の低下に伴って収縮する際の形状変化が抑制される。その結果、スプリングバックが抑制され、パネルの形状凍結性を一層向上させることができるのである。
ただし、保持時間があまりに長くなると、生産性が害されるので、成形下死点での保持時間は5秒以内とすることが好ましい。
上記のように、本発明では、鋼板の加熱温度:400℃〜Ac1点として、肩部に鋼板(ブランク)よりも熱伝導率が低い材料を埋め込んだポンチ金型とダイ金型を用いてプレス成形すればよい。この際、プレス速度やしわ押さえ力のドロー成形条件は特に制限されないが、プレス速度は10〜15spm程度(Strokes per minute:1分間で加工可能な個数。ただし、成形下死点での保持を行った場合には、その保持時間がさらに付加される。)とすることが好ましい。なお、しわ押さえ力が大きい成形条件では、成形中、ネッキングや割れが発生し易くなるので、このような場合、本発明の温間プレス成形方法は特に有利である。
なお、ここでは、ドロー成形を行う場合についてのみ説明したが、図5に示すようなしわ押さえを用いないフォーム成形や、図6に示すような材料をロックビードで固定し、流入させない張出し成形においても、同様の効果を得ることができる。図6中、符号10はクッション、13-1がロックビード(凸部)、13-2がロックビード(凹部)であり、ロックビードはこの凸部と凹部により構成される。
また、上記した以外の成形条件については、特に制限はなく、常法に従えばよい。なお、鋼板の加熱については、電気炉による加熱や、通電加熱や遠赤外線加熱による急速加熱など、加熱方法の種類によらず同じ効果を発揮する。
さらに、本発明の温間プレス成形方法は、前述したとおり、引張強さが440MPa以上の鋼板を対象とする。さらに、本発明の温間プレス成形方法は、引張強さが780MPa以上、さらには980MPa以上の鋼板に対しても好適に用いることができる。
そして、前述したとおり、本発明の温間プレス成形方法によれば、ブランクである鋼板の機械的特性をそのまま活かすことができるので、プレス成形後のパネルにおいて、プレス成形前の鋼板の引張強さの80%以上110%以下の引張強さを得ることができる。
さらに、成形条件および鋼板の特性によっては、プレス成形後に、プレス成形前の鋼板の引張強さをほとんどそのまま保持した(プレス成形前の鋼板の引張強さの95〜110%の引張強さを有する)プレス成形品を得ることができる。
従って、プレス成形品の必要特性に応じて、それに対応する特性の鋼板をブランクとして用いれば、所望特性のプレス成形品を安定して得ることができるのである。
以下、本発明において、ブランクとして好適な鋼板の成分組成範囲について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.015〜0.16%
Cは、TiやV、Mo、W、Nb、Zr、Hfと結合して炭化物を形成し、マトリックス中に微細分散して鋼板を高強度化する重要な元素である。ここに、440MPa以上の引張強さを達成するには、C量を0.015%以上とすることが好ましい。一方、C量が0.16%を超えると、延性、靱性が著しく低下し、良好な衝撃吸収能(例えば、引張強さTS×全伸びElで表される)を確保できなくなる。このため、Cは0.015〜0.16%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは0.03〜0.16%、さらに好ましくは0.04〜0.14%の範囲である。
Si:0.2%以下
Siは、固溶強化元素であり、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.2%までは許容できる。このようなことから、Siは0.2%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。なお、Siは不純物レベルまで低減してもよい。
Mn:1.8%以下
Mnは、Siと同様、固溶強化元素であり、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する。このため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、1.8%までは許容できる。このようなことから、Mnは1.8%以下とすることが好ましい。より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは1.1%以下である。なお、Mn含有量が極端に少なくなると、オーステナイト(γ)→フェライト(α)変態温度が過度に上昇して、炭化物が粗大化することが懸念されるため、Mnは0.5%以上とすることが好ましい。
P:0.035%以下
Pは、固溶強化能が非常に高く、高温域での強度低下を抑制するため、温間成形温度域での加工性(温間成形性)を阻害する元素である。さらに、Pは,粒界に偏析するため、温間成形時ならびに温間成形後の延性を低下させる。このようなことから、Pは極力低減することが好ましいが、0.035%までは許容できる。このため、Pは0.035%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下である。
S:0.01%以下
Sは、鋼中では介在物として存在する元素であり、Tiと結合して強度を低下させたり、Mnと結合して硫化物を形成し、常温や温間での鋼板の延性を低下させる。このため、Sは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。このため、Sは0.01%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.004%以下である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.02%以上含有させることが望ましい。しかしながら、0.1%を超えてAlが含有されると、酸化物系介在物が増加し、温間での延性低下が著しくなる。このため、Alは0.1%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.07%以下である。
N:0.01%以下
Nは、製鋼の段階でTiやNb等と結合し、粗大な窒化物を形成する。このため、Nを多量に含有すると、鋼板強度が著しく低下する。このようなことから、Nは極力低減することが好ましいが、0.01%までは許容できる。従って、Nは0.01%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.007%以下である。
Ti:0.13〜0.25%
Tiは、Cと結合して炭化物を形成し、鋼板の強化に寄与する元素である。本発明で対象とする鋼板の室温での引張強さ:440MPa以上を確保するためには、0.13%以上のTiを含有させることが好ましい。一方、0.25%を超えるTiを含有させると、鋼素材の加熱に際し、粗大なTiCが残存して、ミクロボイドが生成する。このため、Ti量は0.25%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.14〜0.22%、さらに好ましくは0.15〜0.22%の範囲である。
以上、各成分の好適範囲について説明したが、各成分が上記の範囲を満足するだけでは不充分で、特にCとTiについては次式(1)の関係を満足させることが重要である。
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
すなわち、(1)式は、後述する炭化物による析出強化を発現させ、温間成形後に所望の高強度を確保するために必要な要件である。CおよびTiの含有量について、(1)式の関係を満足させることによって、所望量の炭化物を析出させることができ、これにより所望の高強度を確保することが可能になる。
また、([%C]/12)/([%Ti]/48)の値が、1.05未満では、粒界強度が低下するだけでなく、加熱に対して炭化物の熱安定性が低下する。このため、炭化物が粗大化しやすくなり、所望の高強度化が達成できなくなる。一方、([%C]/12)/([%Ti]/48)の値が2.00を超えると、セメンタイトが過度に析出する。このため、温間成形中にミクロボイド生成が生成して、温間成形中の割れの原因となる。なお、より好ましい([%C]/12)/([%Ti]/48)の範囲は、1.05以上1.85以下である。
以上、基本成分について説明したが、本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板では、上記した成分の他、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
V:1.0%以下、Mo:0.5%以下、W:1.0%以下、Nb:0.1%以下、Zr:0.1%以下およびHf:0.1%以下のうちから選んだ1種または2種以上
V、Mo、W、Nb、ZrおよびHfは、Tiと同様、炭化物を形成して鋼板の強化に寄与する元素である。そのため、鋼板の更なる高強度化が要求される場合において、Tiに加えて、V、Mo、W、Nb、ZrおよびHfのうちから選択して、1種または2種以上含有させることができる。このような効果を得るためには、Vは0.01%以上、Moは0.01%以上、Wは0.01%以上、Nbは0.01%以上、Zrは0.01%以上、Hfは0.01%以上をそれぞれ含有させることが好ましい。
一方、Vが1.0%を超えると、炭化物が粗大化しやすくなり、特に温間成形温度域で炭化物が粗大化するため、室温まで冷却した後の炭化物の平均粒子径を10nm以下に調整することが困難となる。そのため、Vは1.0%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
また、MoおよびWが、それぞれ0.5%、1.0%を超えると、γ→α変態が極度に遅延する。このため、鋼板組織にベイナイト相やマルテンサイト相が混在し、後述するフェライト単相を得ることが困難となる。このようなことから、MoおよびWはそれぞれ0.5%以下、1.0%以下にすることが好ましい。
さらに、Nb、ZrおよびHfは、それぞれ0.1%を超えて含有すると、スラブ再加熱時に、粗大な炭化物が溶解しきれず残存する。このため、温間成形中にミクロボイドが生成しやすくなる。このようなことから、Nb、ZrおよびHfはそれぞれ0.1%以下にすることが好ましい。
なお、上記した各元素を含有させる場合には、上記式(1)に代えて、次式(1)’の範囲を満足させる必要がある。この理由は、(1)について説明したところと同じである。
2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
さらに、本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板では、以下に述べる元素も適宜含有させることができる。
B:0.003%以下
Bは、γ→α変態の核生成を阻害して、γ→α変態点を低下させる作用を有し、この作用により、炭化物の微細化に寄与する元素である。このような効果を得るには、0.0002%以上のBを含有させることが望ましい。しかしながら、0.003%を超えるBを含有しても、効果が飽和し経済的に不利となる。そのため、Bは0.003%以下にすることが好ましい。より好ましくは0.002%以下である。
Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下およびREM:0.2%以下のうちから選んだ1種または2種以上
Mg、Ca、YおよびREMはいずれも、介在物を微細化する作用を有し、この作用により、温間成形中の介在物と母材近傍での応力集中を抑制して、延性を向上させる効果を有する。このため、これらの元素を必要に応じて含有させることができる。なお、REMは、Rare Earth Metalの略でランタノイド系の元素を指す。
しかしながら、Mg、Ca、YおよびREMがそれぞれ0.2%を超えて過度に含有されると、鋳造性(溶鋼を鋳型に入れて凝固させる際の溶鋼流れが良好な特性)が低下し、かえって延性の低下を招く。このため、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下、REM:0.2%以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは、Mgは0.001〜0.1%、Caは0.001〜0.1%、Yは0.001〜0.1%、REMは0.001〜0.1%の範囲である。
また、これら元素の合計量は0.2%以下となるように調整することが望ましく、より好ましくは0.1%以下である。
Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下およびSn:0.1%以下のうちから選んだ1種または2種以上
Sb、CuおよびSnは、鋼板表面付近に濃化し、温間成形中の鋼板表面の窒化による鋼板の軟化を抑制する効果があり、必要に応じて1種または2種以上を含有させることができる。なお、Cuは耐食性を向上させる効果もある。このような効果を得るためには、Sb、CuおよびSnをそれぞれ0.005%以上含有させることが望ましい。しかしながら、Sbは0.1%、Cuは0.5%、Snは0.1%をそれぞれ超えて過度に含有されると、鋼板の表面性状が悪化する。このため、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下、Sn:0.1%以下にすることが好ましい。
Ni:0.5%以下およびCr:0.5%以下のうちから選んだ1種または2種
NiおよびCrはいずれも、高強度化に寄与する元素であり、これらのうちから選んだ1種または2種を必要に応じて含有させることができる。ここに、Niは、オーステナイト安定化元素であり、高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。また、Crは、焼入性向上元素であり、Niと同様高温でのフェライトの生成を抑制し、鋼板の高強度化に寄与する。
このような効果を得るには、NiおよびCrはそれぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、NiおよびCrがそれぞれ0.5%をそれぞれ超えて過度に含有されると、マルテンサイト相やベイナイト相等の低温変態相の発生が誘起される。マルテンサイト相やベイナイト相といった低温変態相は、加熱中に回復が生じるため、温間成形後に強度を低下させる。このため、NiおよびCrはそれぞれ0.5%以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは0.3%以下である。
O,Se,Te,Po,As,Bi,Ge,Pb,Ga,In,Tl,Zn,Cd,Hg,Ag,Au,Pd,Pt,Co,Rh,Ir,Ru,Os,Tc,Re,Ta,BeおよびSrのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で2.0%以下
これらの元素は、合計で2.0%以下であれば、鋼板の強度や温間成形性に影響を及ぼさないので許容できる。より好ましくは1.0%以下である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、上記した鋼板の好適な組織について説明する。
組織全体に占めるフェライト相の割合:面積率で95%以上
本発明では、鋼板の金属組織は、フェライト単相とする。ここでいう「フェライト単相」とは、フェライト相が面積率で100%の場合だけでなく、95%以上の、実質的にフェライト単相である場合も含むものとする。
金属組織をフェライト単相にすることにより、優れた延性を保持でき、さらには熱による材質変化も抑制できる。硬質相であるベイナイト相やマルテンサイト相が混在すると、加熱により硬質相内に導入される転位が回復し軟化するため、温間成形後に鋼板強度を維持できなくなる。このため、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相を含まない方がよいが、このような硬質相、さらには残留オーステナイト相は、組織全体に対する面積率で5%以下であれば、許容できる。
ここに、金属組織が実質的にフェライト単相である場合には、400℃以上Ac1点以下の温度域(温間成形温度域)に加熱されても、鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相のままに維持される。そして、上記した鋼板は、加熱されることに伴い、延性が増加するので、温間成形温度域において良好な全伸びを確保することができる。
また、この鋼板に対して温間成形温度域において成形加工を施すと、転位の回復を伴いながら成形加工されるため、温間成形中の延性低下はほとんど生じない。そして、温間成形後に室温まで冷却しても組織変化が生じないことから、鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相のままに維持され、優れた延性を示すことになる。
フェライトの平均結晶粒径:1μm以上
フェライトの平均結晶粒径が1μm未満であると、温間成形時に結晶粒が成長しやすいため、温間成形後のプレス成形品の材質が、温間成形前と大きく相違したものとなり、材質安定性が低下する。従って、フェライトの平均結晶粒径は、1μm以上とすることが好ましい。
一方、フェライトの平均結晶粒径が15μmを超えて過剰に大きくなると、組織の細粒化による強化が得られず、所望の鋼板強度を確保することが難しくなる。このため、フェライトの平均結晶粒径は15μm以下とすることが好ましい。より好ましくは12μm以下である。
なお、フェライトの平均結晶粒径が1μm以上となる組織を得るためには、フェライトの核生成サイト数が過剰になるのを防止することが有効である。核生成サイト数は、圧延中に鋼板内に蓄積される歪エネルギーと密接な関係があり、フェライト粒の微細化を防止するには、過剰な歪エネルギーの蓄積を防ぐ必要がある。このためには、仕上圧延終了温度を840℃以上にすることが好ましい。
フェライト結晶粒中の炭化物の平均粒子径:10nm以下
上記したフェライト単相の組織では、十分に高い引張強さや降伏比の鋼板とすることは困難である。この点、フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の微細な炭化物を析出させてやれば、鋼板の高強度化を図ることができる。ここで、炭化物の平均粒子径が10nmを超えると、上記した高い引張強さや降伏比を得ることが困難となる。なお、より好ましい炭化物の平均粒子径は7nm以下である。
微細な炭化物としては、Ti炭化物、あるいは更にV炭化物、Mo炭化物、W炭化物、Nb炭化物、Zr炭化物、Hf炭化物が挙げられる。これらの炭化物は、鋼板の加熱温度がAc1点以下であれば粗大化することはなく、平均粒子径は10nm以下に維持される。したがって、鋼板を400℃以上Ac1点以下の温間成形温度域に加熱し温間成形を施しても、炭化物の粗大化が抑制されるため、温間成形後、室温まで冷却したのちに鋼板強度の大幅な低下は生じない。従って、実質的にフェライト単相のマトリックス中に平均粒子径10nm以下の上記した炭化物を含む組織を有する鋼板とすれば、その鋼板を400℃以上Ac1点以下の温間成形温度域に加熱し、温間成形を施して得られるプレス成形品の降伏応力の低下を効果的に抑制することができる。
なお、上記した鋼板は、溶融亜鉛めっき層等のめっき層をそなえることが好ましい。というのは、図7に示した鋼板(めっき材、非めっき材)とポンチ金型およびダイ金型との摩擦係数の関係からわかるように、本発明の温間成形温度域に当たる400℃以上の温度では、めっき材の方が非めっき材よりも摩擦係数が低く、従って、プレス成形性も良好になるからである。ここで、図7の摩擦係数は、980MPa級の鋼板を種々の温度に加熱し、金型肩部にジルコニアを適用したポンチ金型およびダイ金型により、ドロー成形を行ったときの摩擦係数である。
また、かかるめっき層としては、例えば電気めっき層、無電解めっき層、溶融めっき層等が挙げられる。さらに、合金化めっき層としても良い。
次に、本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板の製造方法について説明する。
本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板は、鋼素材を加熱後、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施し、圧延後、コイル状に巻取り、熱延鋼板とする。
なお、鋼素材の製造方法は、とくに限定する必要はないが、上記した組成を有する溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、あるいはさらに真空脱ガス炉にて二次精錬を行ったのち、連続鋳造法等の公知の鋳造方法で、スラブ等の鋼素材に鋳造することが好ましい。なお、生産性や品質上の観点から、連続鋳造法で行うことが好ましい。
以下、好適製造条件について説明する。
鋼素材の加熱温度:1100〜1350℃
鋼素材の加熱温度が1100℃未満では、粗大な炭化物が溶解しないため、最終的に得られる鋼板中に分散析出する微細な炭化物量が減少し、所望の高強度を確保することが難しくなる。一方、鋼素材の加熱温度が1350℃を超えると、酸化が著しくなって、熱間圧延時に酸化スケールを噛み込み、鋼板の表面性状を悪化させ、これによって鋼板の温間成形性が低下する。このため、鋼素材の加熱温度は1100〜1350℃の範囲にすることが好ましい。なお、より好ましくは1150〜1300℃の範囲である。
仕上圧延終了温度:840℃以上
仕上圧延終了温度が840℃未満では、フェライト粒が伸展された組織となるうえ、個々のフェライト粒径が大きく異なる混粒組織となり、鋼板強度が著しく低下する。また、仕上圧延終了温度が840℃未満では、圧延中に鋼板内に蓄積される歪エネルギーが過剰となり、フェライトの平均結晶粒径が1μm以上となる組織を得ることが困難となる。このため、仕上圧延終了温度は840℃以上とすることが好ましい。なお、より好ましくは860℃以上である。
熱間圧延終了後から強制冷却開始までの時間:3秒以内
上記の熱間圧延終了後、得られた熱延鋼板を強制冷却する。この熱間圧延終了後から強制冷却開始までの時間が3秒を超えると、炭化物の歪誘起析出が多量に発生し、所望の微細な炭化物の析出を確保することが困難となる。このため、熱間圧延終了後から強制冷却開始までの時間は3秒以内とすることが好ましい。なお、より好ましくは2秒以内である。
冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度:30℃/秒以上
冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度が30℃/秒未満では、高温に維持される時間が長く、歪誘起析出による炭化物の粗大化が進行し易くなる。このため、上記した熱間圧延後の強制冷却を、平均冷却速度:30℃/秒以上として、所定の温度まで急冷することが好ましい。より好ましくは50℃/秒以上である。
なお、冷却停止温度は、冷却停止から巻き取りまでの間の鋼板の温度低下を考慮して、巻取温度が狙いの温度範囲となるように設定する。すなわち、冷却停止後、鋼板は空冷により温度低下するので、通常は巻取温度+5〜10℃程度の温度に冷却停止温度を設定する。
巻取温度:500〜700℃
巻取温度が500℃未満では、鋼板中に析出する炭化物が不足し、所望の鋼板強度を確保することが困難となる。一方、巻取温度が700℃を超えると、析出した炭化物が粗大化するため、所望の鋼板強度を確保することが困難となる。このため、巻取温度は500〜700℃の範囲とすることが好ましい。なお、より好ましくは550〜680℃の範囲である。
また、得られた熱延鋼板に、公知の方法でめっき処理を施し、表面にめっき層を形成することができる。めっき層としては、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、電気めっき層等が好ましい。
次に、上記の製造方法により得られる、本発明の温間プレス成形方法に用いて好適な鋼板の機械的特性について説明する。
ここに、その好適な鋼板の機械的特性は、次の通りである。
(a)室温における引張強さ:780MPa以上であり、かつ室温における降伏比:0.85以上
(b)温間成形温度域である400〜Ac1点での降伏応力YS2:室温における降伏応力YS1の80%以下
(c)温間成形温度域である400〜Ac1点での全伸びEl2:室温における全伸びEl1の1.1倍以上
以下、これらの各特性について説明する。
室温における引張強さ:780MPa以上であり、かつ室温における降伏比:0.85以上
本発明の温間プレス成形方法は、室温における引張強さが440MPa以上の鋼板を対象とするが、前記の好適な製造方法によれば、TS1が780MPa以上であり、かつ室温における降伏比が0.85以上の鋼板を得ることができる。
ここに、TS1とは、室温における引張強さを意味し、また室温とは、(22±5)℃を意味する。
温間成形温度域である400〜Ac1点での降伏応力YS2:室温における降伏応力YS1の80%以下
温間成形温度域である400〜Ac1点での降伏応力YS2が、室温における降伏応力YS1の80%超では、温間成形時の鋼板変形抵抗が十分に低減しないため、温間成形時の負荷荷重(プレス荷重)を大きくする必要が生じ、金型寿命が短くなる。加えて、大きな負荷荷重(プレス荷重)を付与するために、加工機(プレス機)本体も必然的に大きくならざるを得ない。加工機(プレス機)本体が大きくなると、温間成形温度に加熱した鋼板を加工機まで搬送するのに長時間を要し、ブランクの温度の低下を招き、所望の温度で温間成形することが難しくなる。さらに、形状凍結性も十分に改善されないため、温間成形を利用する効果が小さくなる。
従って、温間成形温度域である400〜Ac1点での降伏応力YS2は、室温における降伏応力YS1の80%以下とすることが好ましい。より好ましくは70%以下である。
温間成形温度域である400〜Ac1点での全伸びEl2:室温における全伸びEl1の1.1倍以上
温間成形温度域である400〜Ac1点での全伸びEl2が、室温における全伸びEl1の1.1倍以上であると、温間成形時における加工性が十分に改善されるので、割れ等の欠陥が生じることなく、鋼板を複雑な形状の部材に成形しやすくなる。
従って、温間成形温度域である400〜Ac1点での全伸びEl2は、室温における全伸びEl1の1.1倍以上とすることが好ましい。より好ましくは1.2倍以上である。
さらに、上記した機械的特性に加え、プレス成形品に成形した後に以下の機械的特性を示すこととなる鋼板が、本発明の温間プレス成形方法に対して、一層好適に用いられる。
室温におけるプレス成形品の降伏応力YS3および全伸びEl3が、それぞれプレス成形前の鋼板の室温における降伏応力YS1および全伸びEl1の80%以上
室温におけるプレス成形品の降伏応力YS3および全伸びEl3が、それぞれプレス成形前の鋼板の室温における降伏応力YS1および全伸びEl1の80%未満であると、温間成形後の部材の強度および全伸びが不足する。このような鋼板を使用して、温間プレス成形によって所望形状の自動車部材とすると、自動車衝突時の衝撃吸収性能が不足するので、自動車部材としての信頼性が損なわれる。
このことから、室温におけるプレス成形品の降伏応力YS3および全伸びEl3は、それぞれプレス成形前の鋼板の室温における降伏応力YS1および全伸びEl1の80%以上とすることが好ましい。より好ましくは90%以上である。
(実施例1)
板厚1.6mm、引張強度980MPa級の鋼板(C:0.048%、Si:0.01%、Mn:0.95%、P:0.01%、S:0.0018%、Al:0.041%、N:0.0038%、Ti:0.158%、Ac1点:713℃)を、700℃に加熱した後、しわ押さえ力を245kN(≒25tf)または490kN(≒50tf)とし、成形下死点での保持を行うことなくドロー成形を行い、図2(a)に示すような直線ハット形状のパネルおよび図8(a)に示すような長手方向を湾曲させた曲がりハット形状のパネルに成形して、ネッキングや割れの有無を目視にて調査した。調査結果を表1に示す。
なお、表1中、○はネッキングおよび割れの発生なし、△はネッキング発生、×は割れ発生をそれぞれ意味する。
ここに、ポンチ金型およびダイ金型の肩部には、図9に示すような断面形状が円形となる棒状のジルコニアまたは窒化珪素を埋め込み、それ以外の部分の材料は、全て一般工具鋼とした。また、比較のため、全体の材料を一般工具鋼としたポンチ金型およびダイ金型を使用して、上記と同じ条件にてドロー成形を行った。
なお、鋼板の加熱には電気炉を用いた。在炉時間を300秒に設定し、ブランク全体が均一な温度分布になるように加熱した。加熱されたブランクを炉から取り出し、10秒の搬送時間の後に、プレス機内に送給して成形を行った。プレス機はサーボプレス機を使用し、プレス速度は15spm(Strokes per minute:1分間で加工可能な個数。ただし、成形下死点での保持を行った場合には、その保持時間がさらに付加される。)とした。
また、成形後のパネルを十分な時間空冷した後、直線ハット形状のパネルについては図2(b)に示す口開き量aを非接触3次元形状測定器により測定し、基準となるパネル形状(プレス成形直後に金型から外した時点の形状)に対する空冷後の口開き量の変化量を求めた。また、曲がりハット形状のパネルについては図8(b)に示すひねり角度θを、非接触3次元形状測定器によりパネル形状を測定し、データ解析した。これらの結果を表1に併記する。
ここに、曲がりハット形状のパネルにおけるひねり角度θとは、図8(b)に示すように長手方向中央部と端部の断面形状を比較した場合に、それぞれの凸部先端を表す直線がなす角度である。図8(b)中、実線がパネル中心部断面11、破線がパネル端部断面12である。
また、一般的に、スプリングバックによる形状変化が発生すると、直線ハット形状のパネルについては空冷後の口開き量の変化量が、曲がりハット形状のパネルにおけるひねり角度θがそれぞれ大きくなる。なお、ここでは、空冷後の口開き量の変化量は1.0mm以内、ひねり角度は1.0deg以内であれば、形状凍結性が良好と言える。
Figure 2014226680
表1に示したように、肩部にジルコニアまたは窒化珪素を埋め込んだポンチ金型およびダイ金型を使用した発明例ではいずれも、ネッキングや割れが発生しなかった。また、発明例ではいずれも、空冷後の口開き量の変化量が1.0mm以内、ひねり角度が1.0deg以内と良好な形状凍結性が得られた。
一方、全体の材料を一般工具鋼としたポンチ金型およびダイ金型を使用した比較例では、しわ押さえ力を245kN(≒25tf)とした場合にはネッキングが発生し、さらにしわ押さえ力を490kN(≒50tf)とした場合には、割れが発生した。
(実施例2)
実施例1と同じ鋼板を、600℃、550℃、500℃に加熱した後、しわ押さえ力を250kNとし、成形下死点での保持時間を種々変化させてドロー成形し、図2(a)に示すような直線ハット形状のパネルに成形した。また、図8(a)に示すような長手方向が湾曲した曲がりハット形状のパネルも併せて成形した。なお、いずれの場合についても、側壁部等にネッキングや割れは生じなかった。
ここに、ポンチ金型およびダイ金型の肩部には、図9に示すような断面形状が円形となる棒状のジルコニアを埋め込み、それ以外の部分の材料は、全て一般工具鋼とした。
また、上記した以外の条件については、実施例1と同様とした。さらに、実施例1と同様の方法で、得られた直線ハット形状のパネルについては、基準となるパネル形状(プレス成形直後に金型から外した時点の形状)に対する空冷後の口開き量の変化量を、曲がりハット形状のパネルについてはひねり角度θをそれぞれ測定した。これらの測定結果を成形下死点での保持時間に対してプロットしたものを、図10および図11に示す。
図10および図11より、成形下死点での保持時間を1秒以上とすることで、直線ハット形状のパネルでは基準となるパネル形状(プレス成形直後に金型から外した時点の形状)に対する空冷後の口開き量の変化量を、曲がりハット形状のパネルではひねり角度をそれぞれ一層低減することができ、スプリングバックによる形状変化が大幅に抑制されることがわかる。
(実施例3)
実施例1と同じ鋼板を、700℃に加熱した後、図6に示すような内径D:184mmの円形のダイ金型と、直径dが90mmの円形のポンチ金型とを用いて張出し成形し、ブランクに割れが生じる限界の成形高さを求めた。結果を図12に示す。
ここに、ポンチ金型およびダイ金型としては、(1)全体の材料を一般工具鋼、ジルコニア、窒化珪素としたもの、(2)金型肩部のみにジルコニアまたは窒化珪素を埋め込み、それ以外の部分の材料は、一般工具鋼としたものをそれぞれ使用した。なお、金型肩部に適用するジルコニアまたは窒化珪素は、断面形状が円形となるリング状とした。
また、鋼板の加熱には電気炉を用いて、在炉時間を300秒に設定し、ブランク全体が均一な温度分布になるように加熱した。加熱されたブランクを炉から取り出し、10秒の搬送時間の後に、プレス機内に送給して成形を行った。プレス機はサーボプレス機を使用し、プレス速度は15spm(Strokes per minute:1分間で加工可能な個数。ただし、成形下死点での保持を行った場合には、その保持時間がさらに付加される。)とした。
図12より、金型肩部のみにジルコニアまたは窒化珪素を埋め込んだポンチ金型およびダイ金型を用いて張出し成形を行うことにより、全体の材料を一般工具鋼としたポンチ金型およびダイ金型を使用する場合と比較して、ブランクに割れが生じる限界の成形高さが大幅に向上することがわかる。
また、全体の材料にジルコニアまたは窒化珪素を適用したポンチ金型およびダイ金型を使用する場合と比較しても、遜色のない成形高さが得られており、成形性を高めつつ、コスト面でも有利となる。
(実施例4)
表2に示す成分組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳造しスラブ(鋼素材)とした。これらスラブ(鋼素材)を、表3に示す加熱温度に加熱し、均熱保持して、粗圧延したのち、表3に示す熱間圧延条件で、仕上圧延し、冷却し、コイル状に巻取り、熱延鋼板(板厚:1.6mm)とした。なお、鋼板a,i,k,mは、連続溶融亜鉛めっきラインにて700℃に加熱後、液温:460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち、該めっき層に530℃で合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき層を形成した。なお、めっき付着量は、45g/m2とした。
ついで、得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、析出物観察および引張試験、を行った。試験方法は以下の通りとした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)を研磨し、腐食(腐食液:5%ナイタール液)して、走査型電子顕微鏡(倍率:400倍)を用いて、板厚中心部を観察し、各10視野撮像した。得られた組織写真について、画像解析を行い、組織の同定、および各相の組織分率、各相の平均結晶粒径の測定を行った。
すなわち、得られた組織写真を用いて、まず、フェライト相とそれ以外の相とを分離して、フェライト相の面積を測定し、観察視野全体に対する面積率を求め、フェライト相の面積率とした。なお、フェライト相は粒内に腐食痕が観察されず粒界が滑らかな曲線で観察されるが、線状の形態として観察される粒界はフェライト相の一部として計上した。また、フェライトの平均結晶粒径は、得られた組織写真を用い、ASTM E 112-10に準拠した切断法によって求めた。
(2)析出物観察
また、得られた熱延鋼板の板厚中央部から透過型電子顕微鏡観察用試験片を採取し、機械研磨および化学研磨により、観察用薄膜とした。得られた薄膜について、透過型電子顕微鏡(倍率:120000倍)を用いて、析出物(炭化物)の観察を行った。100個以上の炭化物について、粒子径を測定し、それらの算術平均値を、各鋼板における炭化物の平均粒子径とした。なお、測定に当たっては、1μm(1000nm)より大きな粗大なセメンタイトや窒化物は除外した。
(3)引張試験
得られた熱延鋼板から、JIS Z 2201(1998)に準拠して、圧延方向と垂直方向が引張方向となるようにJIS 13 B号引張試験片を採取した。この採取した試験片を用いて、JIS G 0567(1998)に準拠して引張試験を行い、室温(22±5℃)における機械的特性(降伏応力YS1、引張強さTS1、全伸びEl1)、および表4に示す各温度における高温での機械的特性(降伏応力YS2、引張強さTS2、全伸びEl2)を測定した。なお、引張試験はいずれも、クロスヘッドスピード:10mm/minで行った。また、高温での機械的特性を測定する試験では、電気炉を用いて試験片を加熱し、試験片温度が試験温度の±3℃以内に安定して得られるようになったのち、15min保持し、引張試験を行った。
これら(1)〜(3)の試験結果を表3および表4に示す。
Figure 2014226680
Figure 2014226680
Figure 2014226680
次に、上記のようにして得られた鋼板を、表5に示す条件にて加熱した後、ドロー成形またはフォーム成形により、表5に示す成形条件で直線ハット形状または曲がりハット形状のパネルに成形した。なお、表5に示した以外の条件は、実施例1の場合と同様である。
そして、実施例1の場合と同様に、直線ハット形状のパネルについては、基準となるパネル形状(プレス成形直後に金型から外した時点の形状)に対する空冷後の口開き量の変化量を、曲がりハット形状のパネルについてはひねり角度θを測定した。得られた結果を表5に示す。
なお、空冷後の口開き量の変化量は1.0mm以内、ひねり角度は1.0deg以内であれば、形状凍結性が良好と言える。
また、得られたパネルについて、目視によりネッキングや割れの有無を調査した。調査結果を表5に併記する。なお、表5中、○はネッキングおよび割れの発生なし、△はネッキング発生、×は割れ発生をそれぞれ意味する。
さらに、この成形後のパネルから、JIS 13 B号引張試験片を採取し、これらの引張試験片について、室温にて上記と同様の条件で引張試験を行い、機械的特性(降伏応力(YS3)、引張強さ(TS3)、全伸び(El3))を測定した。
得られた結果を表6に示す。
Figure 2014226680
Figure 2014226680
表5に示したように、直線ハット形状に成形した発明例ではいずれも、空冷後の口開き量の変化量は1.0mm以内となり、また曲がりハット形状に成形した発明例ではいずれも、ひねり角度は1.0deg以内となって、良好な形状凍結性が得られた。また、いずれの発明例でも、ネッキングや割れは見られなかった。
さらに、表6に示したように、成分組成および組織が好適な鋼板を使用した発明例No.1〜4,6,14,15,17,18,20はいずれも、780MPa以上という高強度鋼板を用いているにもかかわらず、成形後のプレス成形品において良好な寸法精度が得られ、しかもプレス成形前の鋼板の引張強さTS1に対するプレス成形品の引張強さTS3の割合(TS3/TS1×100)が、従来の熱間プレス成形では、110%を大幅に超えて、プレス後のパネルの引張強度が極端に大きくなり、その後の加工に支障をきたしていたのに比べて、本発明では99〜104%となる等、その機械的特性も極めて良好であった。
1 ダイ
2 ポンチ
3 しわ押さえ
4 加熱した鋼板(ブランク)
5 プレス成形品(パネル)
6 フランジ部
7 側壁部
8 ダイ金型の肩部
9 ポンチ金型の肩部
10 クッション
11 パネル中心部断面
12 パネル端部断面
13-1 ロックビード(凸部)
13-2 ロックビード(凹部)

Claims (12)

  1. 引張強さが440MPa以上である鋼板を、フランジ部をそなえるプレス成形品に成形するに当たり、
    該鋼板を400℃以上Ac1点以下の温度域に加熱したのち、ポンチとダイの組み合わせになるプレス機を用いて成形するものとし、その際、該鋼板と接触して該鋼板を変形させるポンチ金型の肩部とダイ金型の肩部にそれぞれ、該鋼板よりも熱伝導率が低い材料を埋め込んだポンチ金型とダイ金型を用いる、
    ことを特徴とする温間プレス成形方法。
  2. 前記鋼板よりも熱伝導率が低い材料が、20℃における熱伝導率が5.0W/(m・K)以下となるセラミックであることを特徴とする請求項1に記載の温間プレス成形方法。
  3. 前記鋼板よりも熱伝導率が低い材料が、前記ポンチ金型と前記ダイ金型からそれぞれ着脱可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の温間プレス成形方法。
  4. 前記プレス成形品の引張強さが、前記鋼板の引張強さの80%以上110%以下となることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
  5. 前記鋼板が、質量%で、
    C:0.015〜0.16%、
    Si:0.2%以下、
    Mn:1.8%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.1%以下、
    N:0.01%以下および
    Ti:0.13〜0.25%
    を下記(1)式の関係を満足する範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有すると共に、
    組織全体に占めるフェライト相の割合が面積率で95%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が1μm以上で、該フェライト結晶粒中に、平均粒子径が10nm以下の炭化物を分散析出させた組織を有する、
    ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温間プレス成形方法。

    2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48)≧1.05 …(1)
    ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
  6. 前記鋼板が、さらに質量%で、
    V:1.0%以下、
    Mo:0.5%以下、
    W:1.0%以下、
    Nb:0.1%以下、
    Zr:0.1%以下および
    Hf:0.1%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、かつ下記(1)’式の関係を満足することを特徴とする請求項5に記載の温間プレス成形方法。

    2.00≧([%C]/12)/([%Ti]/48+[%V]/51+[%W]/184+[%Mo]/96+[%Nb]/93+[%Zr]/91+[%Hf]/179)≧1.05 …(1)’
    ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
  7. 前記鋼板が、さらに質量%で、B:0.003%以下を含有することを特徴とする請求項5または6に記載の温間プレス成形方法。
  8. 前記鋼板が、さらに質量%で、Mg:0.2%以下、Ca:0.2%以下、Y:0.2%以下およびREM:0.2%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
  9. 前記鋼板が、さらに質量%で、Sb:0.1%以下、Cu:0.5%以下およびSn:0.1%以下から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
  10. 前記鋼板が、さらに質量%で、Ni:0.5%以下およびCr:0.5%以下から選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
  11. 前記鋼板が、さらに質量%で、O,Se,Te,Po,As,Bi,Ge,Pb,Ga,In,Tl,Zn,Cd,Hg,Ag,Au,Pd,Pt,Co,Rh,Ir,Ru,Os,Tc,Re,Ta,BeおよびSrのうちから選んだ1種または2種以上を合計で2.0%以下含有することを特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
  12. 前記鋼板が、その表面にめっき層をそなえることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の温間プレス成形方法。
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