JP2014223070A - 乳酸菌及びそれを用いた食品添加剤、漬物用発酵調味物、食品、漬物の製造方法 - Google Patents

乳酸菌及びそれを用いた食品添加剤、漬物用発酵調味物、食品、漬物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】胃酸耐性が強く、高い生存率をもって腸内に到達する新規な乳酸菌を提供すること。
【解決手段】ラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌PIC−NBN22株(受託番号NITE P−1496)で、pH3.0の胃酸耐性が100%以上の乳酸菌。
【選択図】図1

Description

本発明は、乳酸菌及びそれを用いた食品添加剤、漬物用発酵調味物、食品、漬物の製造方法に関し、特に、ラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌及びそれを用いた食品添加剤、漬物用発酵調味物、食品、漬物の製造方法に関する。
植物性乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)が知られている(特許文献1、2)。ラクトバチルス・プランタラムをはじめとする乳酸菌は、腸内細菌叢(腸内フローラ)を良好な状態に保つヒトに有益な生理機能を発揮することが知られている。
特開2009−82127号公報 特開2012−93号公報
乳酸菌が腸内細菌叢を良好な状態に保つ生理機能を発揮するためには、乳酸菌が胃酸によって死滅することなく胃内を経て腸内に到達する必要がある。つまり、乳酸菌が腸内で有効に機能するためには、乳酸菌の胃酸耐性が高いことが要求される。ヒトの胃内のpH(水素イオン指数)は、空腹時で1〜2程度で、食後で2〜4程度であるから、この程度の酸濃度における胃酸耐性が強い乳酸菌は、腸内に到達して腸内細菌叢を良好な状態に保つ生理機能を十分に発揮し、このことに対して有用な乳酸菌と云う事ができる。
本発明が解決しようとする課題は、胃酸耐性が強く、高い生存率(対胃酸環境生存率)をもって腸内に到達する新規な乳酸菌及びそれを用いた食品添加剤、漬物用発酵調味物を提供することである。
本発明による乳酸菌は、一つの側面から見れば、ラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌PIC−NBN22株(受託番号NITE P−1496)である。
本発明による乳酸菌は、他の側面から見れば、pH3.5の対胃酸環境生存率が260%以上、より好ましくはpH3.5の対胃酸環境生存率が260%以上で且つpH3.0の対胃酸環境生存率が100%以上のラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌である。
本発明による乳酸菌は、他の側面から見れば、糖資化性が少なくとも下記のラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌である。
グリセロール 陰性
D−アラビノース 陰性
L−アラビノース 陽性
リボース 陽性
D−キシロース 陰性
ガラクトース 陽性
グルコース 陽性
フルクトース 陽性
マンノース 陽性
ラムノース 陰性
イノシトール 陰性
D−マンニトール 陽性
ソルビトール 陽性
N−アセチルグルコサミン 陽性
アミグダリン 陽性
アルブチン 陽性
エスクリン 陽性
サリシン 陽性
セロビオース 陽性
マルトース 陽性
ラクトース 陽性
メリビオース 陰性
スクロース 陽性
トレハロース 陽性
ラフィノース 陰性
ゲンチオビオース 陽性
本発明による食品添加剤は、上述の発明による乳酸菌を含むものである。
本発明による漬物用発酵調味物は、上述の発明による乳酸菌を含むものである。
本発明による食品は、上述の発明による乳酸菌を含むものである。
本発明による漬物の製造方法は、発酵様香気を持った漬物を製造する方法であって、漬物の原料である野菜にスターターとして上述の発明による乳酸菌を添加し、前記乳酸菌によって前記野菜を発酵させる。
本発明による乳酸菌は、胃酸耐性が高く、高い生存率をもって腸内に到達する。このことにより、本発明による乳酸菌は、腸内細菌叢を良好な状態に保つ有益な生理機能を顕著に発揮する。
乳酸菌PIC−NBN22株(PIC−NBN乳酸菌)および比較例の乳酸菌の胃酸耐性測定試験の試験結果を示すグラフ。((A)はpH3.5の対胃酸環境生存率、(B)はpH3.0の対胃酸環境生存率、(C)はpH2.5の対胃酸環境生存率) ATPアーゼ活性の測定結果を示すグラフ。 (A)は乳酸菌PIC−NBN22株を用いて発酵を行った漬物用発酵調味液のガスクロマトグラフィーによる分析結果を示すグラフ、(B)は発酵を行わない比較例の同等の分析結果を示すグラフ。 20℃での温度環境での発酵42時間後におけるpH5.5およびpH4.5の発酵液の濁度増加率を示すグラフ。 菌体膜脂肪酸中のトランスバクセン酸の比率の測定結果を示すグラフ。 IgA含量の変化量の測定結果を示すグラフ。 ヘリコバクター・ピロリの共培養の試験結果を示す写真。
本発明者らは、鋭意研究の結果、ラクトバチルス・プランタラムに属する新規の乳酸菌PIC−NBN22株を見出した。本発明では、この乳酸菌PIC−NBN22株を使用する。
乳酸菌PIC−NBN22株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2012年(平成24年)12月25日付けで寄託されており、その受託番号はNITE P−1496である。
乳酸菌PIC−NBN22株の主な菌学的性質は以下の通りである。この菌学的性質と16SrDNA塩基配列より、分類学的にPIC−NBN22株がラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属することが示される。
<形態学的性状>
細胞形態:桿菌
大きさ:0.5×1.0〜2.0μm
胞子形成:−
運動性:−
カタラーゼ:−
オキシダーゼ:−
37℃での生育:+
45℃での生育:−
グラム染色性:陽性
コロニーの色:乳白色
コロニーの形:円形
<糖資化性(炭水化物発酵性)>
グリセロール 陰性
D−アラビノース 陰性
L−アラビノース 陽性
リボース 陽性
D−キシロース 陰性
ガラクトース 陽性
グルコース 陽性
フルクトース 陽性
マンノース 陽性
ラムノース 陰性
イノシトール 陰性
D−マンニトール 陽性
ソルビトール 陽性
N−アセチルグルコサミン 陽性
アミグダリン 陽性
アルブチン 陽性
エスクリン 陽性
サリシン 陽性
セロビオース 陽性
マルトース 陽性
ラクトース 陽性
メリビオース 陰性
スクロース 陽性
トレハロース 陽性
ラフィノース 陰性
ゲンチオビオース 陽性
<胃酸耐性の評価>
本実施形態では、以下に説明する方法、条件による試験によって、乳酸菌PIC−NBN22株および既知のラクトバチルス・プランタラム(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14712、NBRC14713、NBRC15891、NBRC101977、NBRC101978)の胃酸耐性を評価した。
Lactobacilli MRS Broth(BD社製)を基礎培地とし、終濃度0.3%(w/v)となるように濃ペプシン(ミクニ化学産業社製)を添加し、各々被験乳酸菌培養液2mlと合わせ、塩酸を用いて酸濃度をpH3.5、pH3.0、pH2.5に計10mlとなるよう調整した3種類の培地を用いた。これを37℃の温度環境で3時間インキュベートし、培養開始前の乳酸菌数に対する培養後の乳酸菌数を生存率(%)として算出した。
乳酸菌PIC−NBN22株および(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14712、NBRC14713、NBRC15891、NBRC101977、NBRC101978)の乳酸菌の生存率(対胃酸環境生存率)は、表1および図1(A)〜(C)に示す通りであった。なお、図1(A)はpH3.5の対胃酸環境生存率を、図1(B)はpH3.0の対胃酸環境生存率を、図1(C)はpH2.5の対胃酸環境生存率を各々示している。
この試験結果から明らかなように、乳酸菌PIC−NBN22株は、pH3.5の対胃酸環境生存率が260.00で、且つpH3.0の対胃酸環境生存率が101.25であり、pH3.0でも死滅する乳酸菌を生じることなく全ての乳酸菌が腸内に到達し、その到達過程で菌数の増加が見られた。このように、乳酸菌PIC−NBN22株は、比較例(受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14712、NBRC14713、NBRC15891、NBRC101977、NBRC101978)に比して際だって良好なスコアを示し、腸内細菌叢を良好な状態に保つ有益な生理機能(整腸作用)を顕著に発揮することを期待できる。
<ATPアーゼ活性>
近年、漬物市場の多くを占めるのが浅漬やキムチであり、これらの漬物は、比較的低塩で製造されるので、大腸菌などの有害菌の繁殖が起こりやすい。低塩環境下での有害菌の繁殖を抑えるために、工場内を20℃以下の低温環境にコントロールすることや、調味液のpHを4.0〜5.5にすることが有効とされている。
しかしながら、20℃以下と云う低温環境やpH4.0〜5.5という環境は、有用菌である乳酸菌にとっても生育に厳しいものであり、スターターとして添加したとしても死滅してしまうことが多い。
このことに対して、乳酸菌PIC−NBN22株は、20℃以下かつpH4.0〜5.5でも死滅することなく優れた発酵性を示す漬物用乳酸菌であり、漬物製造環境に多い低温域である20℃以下での発酵性に優れている。
乳酸菌PIC−NBN22株は、pH4.0〜5.5という環境下でも優れた発酵性を示す。この理由として、乳酸菌PIC−NBN22株のATPアーゼ活性の特性が挙げられる。ATPアーゼはATPの合成や分解反応の触媒として作用する酵素である。このとき、同時にプロトンHの膜内外への輸送が行われる。ATPを合成する際には、ADP+Pi+3Hout→ATP+3Hinとなり、プロトンは膜内に取り込まれる。この反応は、可逆的であり、ATPを分解させる際には、ATP+3Hin→ADP+Pi+3Houtとなり、プロトンは膜外に排出される。
低pHの環境に耐えられない菌は、ATPアーゼ活性が低く、自身の膜内へのプロトン侵入を許してしまうため、体内pHが下がり、生育のための活動ができなくなる。低pHの環境に強い菌は、ATPアーゼの活性が高く、プロトンの膜内侵入を阻止することができる。このため、低pHの環境に耐性をもつ菌はATPアーゼ活性が高いという特徴を持つ。
<ATPアーゼ活性の評価>
以下に説明するプロトコルに従って、乳酸菌PIC−NBN22株および既知のラクトバチルス・プランタラム(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14711、NBRC14712、NBRC14713、NBRC101973、NBRC101974、NBRC101977、NBRC101978、NBRC15891)のATPアーゼ活性を評価した。
(1)ATPアーゼの作成
(a)各ラクトバチルス・プランタラムをMRS液体培地に培養し、遠心分離により菌体を回収する。
(b)菌体0.1gに対し、25mMTris−HCl・5mMMgCl・buffer(pH8.0)を0.1ml、アルミナを0.25g、プロテアーゼインヒビターを4.5μl加え、乳鉢ですりつぶす。
(c)0.9mlの25mMTris−HCl・5mMMgCl・buffer(pH8.0)を加え、乳鉢内の菌体をよく懸濁させて1000g×10分、4℃で遠心分離する。
(d)上清を再度3000g×10分、4℃で遠心分離する。上清を粗ATPアーゼとする。
(2)ATPアーゼ活性の測定
5mM・ATPNa/5mM・MgClを含む50mM・Tris−HCl・buffer(pH7)1000μlと粗ATPアーゼ200μlとを37℃で10分間に亘って反応させ、その後、氷冷した0.1N・HCl:600μlを10000g×10分間遠心分離し、上清:1.6mlと発色液4.4mlとを18℃で10分間に亘って反応させ、660nm吸光度測定を行った。発色液は、5N硫酸:10ml、2.5%モリブデン酸アンモニウム:10ml、3%硫酸水素Na−1%パラメチルアミノフェノール硫酸:10ml、水:40mlの水溶液とした。
粗ATPアーゼ、基質にも遊離リン酸が含まれるため、0.1N・HClを先に添加させる空試験を設け、差し引いた値から遊離リン酸量を求めた。また、検量線はリン酸2水素カリウムを用いて行い、ATPアーゼ比活性を算出するためのタンパク質の定量にはLowry法を用いた。測定結果を表2および図2に示す。
乳酸菌PIC−NBN22株は、非常に高いATPアーゼ活性を示し、pH4.0に於ける培養下でのATPアーゼ活性は5.7nmol/mg/min以上と高値であった。
<漬物用発酵調味液の評価>
乳酸菌PIC−NBN22株は、野菜をペーストに加工したものを発酵させ、複雑な香気成分を付与することができる。また、これをあらゆる漬物(浅漬け、古漬け、ぬか漬け、キムチ)に添加することで、発酵様香気を持った漬物を製造することができる。
(1)スターターの作成
(2%(w/v)ブドウ糖+1%(w/v)酵母エキス水溶液(滅菌済))に、乳酸菌PIC−NBN22株のグリセロールストック品から釣菌したものを添加し、30℃の温度環境で、20時間培養してスターターを作成した。
(2)漬物用発酵調味液の製造
白菜ペースト10.0g、上白糖4.0g、酵母エキス0.2g、ブドウ糖2.0g、スターター2.0g、水181.8mlを混合したものを、30℃の温度環境で、70時間発酵させた。また比較例のために、0℃の温度環境で保存し、発酵させていないものを用意した。
(3)ガスクロマトグラフィーによる香気成分の分析
下記の条件でガスクロマトグラフィー(GC)を行った。
GC:ヒューレット・パッカード社製HP6890Series GC System
GCサンプラ:ヒューレット・パッカード社製HP7694 Headspace Sampler
インテグレータ:ヒューレット・パッカード社製HP6890Series Integrator
カラム:アジレント社製DB−WAX 125−7032 30m×0.53mm 1.00μm
カラム温度:40℃〜230℃
昇温条件:40℃で5分保温後に10℃/minで昇温、その後230℃で5分保温
キャリアガス:He
キャリアガス流速:50cm/sec
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)
図3(A)は乳酸菌PIC−NBN22株を用いて発酵させた漬物用発酵調味液のGC分析結果を、図3(B)は発酵させていないものGC分析結果を各々示している。このGC分析結果より、乳酸菌PIC−NBN22株を用いて発酵させた漬物用発酵調味液は、発酵させていないものと比較して様々な香気成分のピークが出現しており、白菜ペーストの香味の複雑化に貢献していることが分かった。
このように、乳酸菌PIC−NBN22株は、腸内細菌叢を良好な状態に保つ有益な生理機能を有する漬物用発酵調味液として、美味でヒトが摂取し易い形態で提供することができる。また、漬物の原料である白菜等の野菜にスターターとして乳酸菌PIC−NBN22株を添加し、乳酸菌によって野菜を発酵させると、香気種類が多く、複雑な風味を持った漬物を迅速に製造することができる。
<野菜に対する発酵性の評価>
以下に説明するプロトコルに従って、PIC−NBN22株および既知のラクトバチルス・プランタラム(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14711、NBRC14712、NBRC14713、NBRC101973、NBRC101974、NBRC101977、NBRC101978、NBRC15891)の漬物製造における発酵性を評価した。
(1)スターターの作成
ブドウ糖1gと酵母エキス1gと水48mlとを攪拌し、オートクレーブ後、各菌のコロニーを接種し、30℃で20時間培養後、発酵前液に添加するまで5℃で冷蔵庫に保存した。
(2)発酵前液の作成
白菜ペースト5gとブドウ糖0.5gと酵母エキス0.5gと大豆ペプチド0.1gと水42.4mlとを攪拌し、オートクレーブ後、5℃で冷蔵保存した。白菜ペーストは、芯を除いた白菜をミキサーでペースト化したものを耐熱袋によって包装し、95℃で30分加熱後、流水で20分冷却し、冷蔵保存したものである。
(3)発酵前液の培養
発酵前液(オートクレーブ後)に各スターターを1.5ml添加し、30℃で培養した。培養24時間目のサンプルについてヘッドスペースをGCで分析し、香気成分の組成を調べた。
(4)ガスクロマトグラフィーによる香気成分の分析
下記の条件でガスクロマトグラフィー(GC)を行った。
GC:ヒューレット・パッカード社製HP6890Series GC System
GCサンプラ:ヒューレット・パッカード社製HP7694 Headspace Sampler
インテグレータ:ヒューレット・パッカード社製HP6890Series Integrator
カラム:アジレント社製DB−WAX 125−7032 30m×0.53mm 1.00μm
カラム温度:40℃〜230℃
昇温条件:40℃で5分保温後に10℃/minで昇温、その後230℃で5分保温
キャリアガス:He
キャリアガス流速:50cm/sec
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)
表3は乳酸菌PIC−NBN22株、受託番号、NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14711、NBRC14712、NBRC14713、NBRC101973、NBRC101974、NBRC101977、NBRC101978、NBRC15891を用いて発酵させた漬物用発酵調味液のGC分析結果をピーク面積比で示している。
このように、香気成分を分析したところ、乳酸菌PIC−NBN22株を用いて発酵させた漬物(白菜)では、香気を示すピークの個数が21で最も多く、つまり香気種類が最も多く、ラクトバチルス・プランタラムの中でも白菜を発酵させる際により複雑な風味の付与に貢献することがわかった。
<漬物製造環境下における発酵適性の評価>
以下に説明するプロトコルに従って、PIC−NBN22株および既知のラクトバチルス・プランタラム(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14711、NBRC14712、NBRC14713、NBRC101973、NBRC101974、NBRC101977、NBRC101978、NBRC15891)の漬物製造環境下における発酵適性を評価した。
(1)スターターの作成
ブドウ糖1gと酵母エキス1gと水48mlとを攪拌し、オートクレーブ後、各菌のコロニーを接種し、30℃で20時間培養後、発酵前液に添加するまで5℃で冷蔵庫に保存した。また、添加量を算出するために培養液の濁度を吸光度620nmにて測定した。
(2)発酵前液の作成
白菜ペースト5gとブドウ糖0.5gと酵母エキス0.5gと大豆ペプチド0.1gと水42.4mlとを攪拌し、オートクレーブ後、5℃で冷蔵保存した。白菜ペーストは、芯を除いた白菜をミキサーでペースト化したものを耐熱袋によって包装し、95℃で30分加熱後、流水で20分冷却し、冷蔵保存したものである。発酵前液は、1株につき2つ作成し、一方はpH5.5、もう一方は塩酸でpH4.5に調整した。
(3)発酵前液の培養
スターターの添加菌数が一定となるよう、最も濁度の低かったスターター添加量を1.5mlとしてその他のスターター添加量を算出し、2種の発酵前液に添加した。発酵液全体量を合わせるため、スターター添加後に蒸留水を発酵前液に添加した。そして、20℃で42時間培養後にサンプリングした。各発酵液を4倍に希釈し、分光光度計で吸光度620nmにて濁度を測定し、乳酸菌の増殖率を測定した。
(4)濁度測定
20℃での温度環境での発酵42時間後におけるpH5.5およびpH4.5の発酵液の濁度を測定し、増加率を算出した。その結果を図4および表4(A)、(B)に示す。なお、表4(A)はpH4.5の発酵液の濁度増加率を、表4(B)はpH5.5の発酵液の濁度増加率を、各々示している。
図4および表4(A)、(B)から明らかなように、PIC−NBN22乳酸菌は、20℃、pH5.5およびpH4.5という厳しい環境下において優れた発酵性を示した。このことから、PIC−NBN22乳酸菌は低温、低pHという漬物製造環境下での発酵性に優れており、漬物製造環境下での発酵に適していることが分かった。
<菌体膜脂肪酸組成トランス-バクセン酸の評価>
(1)乳酸菌菌体からの脂肪酸抽出手順
(a)下記ラクトバチルス・プランタラムを4.0%NaCl含有pH4.5調整済みのMRS液体培地に培養し、遠心分離により菌体を回収する。
乳酸菌PIC−NBN22株および既知のラクトバチルス・プランタラム(比較例 受託番号NBRC3074、NBRC3075、NBRC12006、NBRC14711、NBRC14712、NBRC14713、NBRC101973、NBRC101974、NBRC101977、NBRC101978、NBRC15891)
(b)生理食塩水を5ml加え、激しく撹拌し、再度遠心分離して菌体を回収する。
(c)菌体1gに酸化アルミニウム1gを加え、乳鉢ですりつぶす。
(d)生理食塩水を1ml加え、テフロン(登録商標)製遠沈管に移し替える。
(e)5mlメタノールを加える。
(f)2.5mlクロロホルムを加える。
(g)2分間激しく振とうし、10分間室温で静置する。
(h)2.5mlクロロホルムを加えて30秒間激しく振とうする。
(i)2.5ml生理食塩水を加えて30秒間激しく振とうする。
(j)3000rpm、5分間遠心分離する。
(k)下層のクロロホルム層をパスツールピペットで採取し、テフロン(登録商標)製の遠沈管に移す。
(l)3000rpm、5分間遠心分離する。
(m)下層のクロロホルム層をパスツールピペットで慎重に採取し、ナスフラスコに入れる。
(n)35℃以下の湯浴で減圧乾固する。
(o)乾固物を1mlのヘキサンに溶解し、バイアル瓶に移し、硫酸マグネシウムを少量加え、1晩脱水する。
(p)脱水完了後、ヘキサン溶液を脂肪酸抽出物とした。
(2)脂肪酸のメチル化
(a)ヘキサン溶液0.5mlに0.5mg/mlのヘプタデカン酸/ヘキサン溶液を1.0ml、ヘキサンを0.5ml加え混ぜる。
(b)2M水酸化カリウム/メタノール溶液を0.2ml加え、2分間激しく振とうさせる。
(c)上層のヘキサン層を0.5ml採取し、ヘキサンで5mlに定容したものを1μlガスクロマトグラフィーに注入する。
(3)ガスクロマトグラフィーによる分析条件
ガスクロマトグラフ:ジーエルサイエンス GC−4000Plus/FID
カラム:TC−2560 0.25mmI.D.×100m df=0.20μm
カラム温度:100℃で5分保温後に10℃/minで230℃まで昇温
キャリアガス:He
スプリット:50ml/min
その結果を図5および表5に示す。
乳酸菌は生育に厳しい環境下に曝されると菌体膜脂肪酸組成を変え、環境に合った膜を作りあげる。特に低pH環境に対しては、トランスバクセン酸を消費して菌体膜の耐酸性を上げる。乳酸菌PIC−NBN22株は、低pH環境下で培養すると、他のラクトバチルス・プランタラムと比較してトランスバクセン酸の割合が低く、より高い耐酸性を得るために菌体膜の脂肪酸組成を構築することが分かった。
このように、乳酸菌PIC−NBN22株が低pH環境への馴化機構を持ち合わせていることで、低pHでの調味を余儀なくされる漬物製造工程環境でも容易に生育できる。
乳酸菌PIC−NBN22株は、摂食によって、腸管内IgA分泌誘導による免疫賦活機能、胆汁酸吸着能およびコレステロール吸着能(血圧降下機能)、ヘリコバクター・ピロリの増殖を抑制する機能を有し、機能性乳酸菌としての用途がある。乳酸菌PIC−NBN22株は、これらの健康増進の機能を有する食品添加剤として有用である。また、乳酸菌PIC−NBN22株を添加された食品は、健康増進の機能性食品として有用である。上述の健康増進機能についての評価を以下に記載のように行った。
<腸管内IgA分泌誘導の評価>
(1)PIC−NBN乳酸菌の投与
3匹ずつ2群に群分けした6週齢のBALB/c・Cr・Slc雄性マウスの一方の群には粉末化したPIC−NBN22乳酸菌の粉末を注射用水を用いて懸濁したものを投与し、もう一方の群には対照群としてプラセボ(媒体)を投与した。投与期間は両群とも1週間で、強制経口投与し、投与液量は10ml/kgとした。
PIC−NBN22乳酸菌の粉末は、PIC−NBN22乳酸菌を培養し、菌体を回収後、真空凍結乾燥機にて乾燥させ、4×1010cells/gのPIC−NBN22乳酸菌を含有する粉末である。
(2)IgAの測定
投与前と投与最終日とに糞の採取を行い、以下の要領でIgA含量の測定を行った。
糞の重量を測定し、糞に1mlの抽出液を加え、4℃で1時間インキュベートしたものを30分間激しく混和した。それを3000g、30分、4℃で遠心分離し、上清を回収した。回収した上清を2倍に希釈し、ELISA・KITを用いてIgA濃度を測定した。そして、測定したIgA濃度と使用した糞の重量とから糞中のIgA含量を算出した。
使用した抽出液の組成は、Phosphate・Buffered・Saline(Sigma)49ml、プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)500μl、PMSF(Sigma)500μl、EDTA(Sigma)終濃度50mmol/Lである。
IgA含量の算出結果(変化量)を図6に示す。このように、マウスに1週間に亘ってPIC−NBN22乳酸菌を与えたところ、対照摂取群よりもPIC−NBN22乳酸菌摂取群のほうがIgA増加量が有意に大きかった。このことから、PIC−NBN22乳酸菌は免疫賦活効果を有することが分かった。
<胆汁酸吸着能およびコレステロール吸着能の評価>
(1)被験物質の調製
PIC−NBN22乳酸菌をMRS液体培地に接種し、32℃で18時間培養し、前培養液とした。新しいMRS液体培地に前培養液を1%接種し、32℃で18時間培養した。培養液を遠心分離して菌体を回収し、滅菌水で2回洗浄した後、凍結乾燥処理を行った。
(2)胆汁酸吸着能の測定
凍結乾燥菌体12mgを1.25mmol/Lタウロコール酸ナトリウム溶液(10mol/Lリン酸緩衝液(pH6.8))0.8mlに懸濁し、37℃で2.5時間インキュベートした。10000g、4℃で5分間遠心分離後、上清中の胆汁酸濃度を総胆汁酸テストワコー(和光純薬工業製)を用いて測定し、菌体に吸着した胆汁酸の割合を求めた。胆汁酸吸着率(%)は47.6±0.9(n=3)であった。
(3)コレステロール吸着能の測定
凍結乾燥菌体12mgをコレステロール溶液(100μg/ml60%エタノール)0.4mlに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。10000g、4℃で5分間遠心分離を行った。その上清0.1mlに33%KOH0.3mlおよび99.5%エタノール3mlを加え、60℃で15分間インキュベートした。冷却後、ヘキサン5mlおよび純水3mlを加え、1分間攪拌した。
攪拌後にヘキサン層3mlを採取、窒素気流下で蒸発乾固した後、0.05%フタルアルデヒド−氷酢酸溶液2mlを加え、乾固物を溶解した。室温で10分間静置後、濃硫酸1mlを加え、吸光度(550nm)を測定し、コレステロール量を求め、菌体に吸着したコレステロールの割合を算出した。コレステロール吸着率(%)は21.4±1.4(n=3)であった。
このように、PIC−NBN22乳酸菌はコレステロールおよび胆汁酸を吸着することがわかった。このことから、体内への過剰なコレステロール吸収を抑える効果を持つことが明らかとなった。
<ヘリコバクター・ピロリの増殖抑制能の評価>
(1)細菌株の培養
PIC−NBN22乳酸菌はMRS培地を用いて、30℃で嫌気的に培養した。ピロリ菌は10%非働化ウシ胎仔血清を含有するBHI培地を用いて微好気環境下で培養した。
(2)培養液の調整
PIC−NBN22乳酸菌前培養液を10倍に希釈し、1日間上記条件下で培養した溶液を乳酸菌培養液とした。600nm吸光度に基づき、本溶液を4×10cfu/mlとなるように調整し、共培養試験に供した。ピロリ菌前培養液を250倍に希釈し、1日間上記条件下で培養した溶液をピロリ菌培養液とした。600nm吸光度に基づき、本溶液を7×10cfu/mlとなるように調整し、共培養試験に供した。
(3)共培養試験
5mlのFCS含有BHI培地に上述した乳酸菌培養液とピロリ菌培養液を添加し、微好気条件下で37℃、22時間培養した。対照群には、乳酸菌培養液を添加しないものを用意し、同様に培養した。培養前後のピロリ菌数は、ヘリコバクター寒天培地を用いて算出した。その結果を表6に示す。
図7の左側はPIC−NBN22乳酸菌を添加した群の共培養試験の結果を写真撮影したのもであり、右側はPIC−NBN22乳酸菌を添加していない対照群の共培養試験の結果を写真撮影したものである。対照群ではピロリ菌が300倍程度まで増殖したのに対し、PIC−NBN22乳酸菌を添加した群ではピロリ菌の増殖がほとんど見られなかった。
まとめとして、乳酸菌PIC−NBN22株と他のラクトバチルス・プランタラムとの特性を表7に一覧にして示している。この表における評価基準は、以下の通りである。
ATPアーゼ活性:5.0nmol/mg/min以上は○
5.0nmol/mg/min未満は×
トランスバクセン酸の比率:0.3%以下は○
0.3%より高いは×
漬物の製造環境下における発酵適性:20℃、pH5.5およびpH4.5環境下における42時間培養後の濁度増加率が300%以上は○
20℃、pH5.5およびpH4.5環境下における42時間培養後の濁度増加率が300%未満は×
野菜発酵時の香気成分種類の豊富さ:20種類以上は○
20種類未満は×
胃酸耐性:pH3.5での対胃酸環境生存率が260%以上かつpH3.0での対胃酸環境生存率が100%以上は○
pH3.5での対胃酸環境生存率が260%未満もしくはpH3.0での対胃酸環境生存率が100%未満は×
このように、乳酸菌PIC−NBN22株は、ATPアーゼ活性、トランスバクセン酸の比率、低温発酵性、野菜発酵時の香気成分種類の豊富さ、胃酸耐性の全てのことが優れている。
なお、乳酸菌PIC−NBN22株は、漬物用発酵調味液以外に、パン類、パスタ類、食用粉類、ごはん類、寿司、惣菜、ふりかけ、スープのもと、鍋料理のたれ、調味料、香辛料、茶、菓子、飲料等の食品への添加剤、ヨーグルトなどの乳酸菌発酵食品への添加剤の形態で提供することができる。
乳酸菌PIC−NBN22株は、整腸作用、免疫賦活作用、血圧降下作用、胆汁酸吸着能、コレステロール吸着能、ヘリコバクター・ピロリの増殖抑制作用を有する薬剤として、粉末剤、顆粒剤、錠剤、液剤による口腔投与剤等の様々な形態で提供することができる。

Claims (7)

  1. ラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌PIC−NBN22株(受託番号NITE P−1496)。
  2. pH3.5の対胃酸環境生存率が260%以上のラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌。
  3. pH3.0の対胃酸環境生存率が100%以上のラクトバチルス・プランタラムに属する請求項2に記載の乳酸菌。
  4. 請求項1から3の何れか一項に記載の乳酸菌を含む食品添加剤。
  5. 請求項1から3の何れか一項に記載の乳酸菌を含む漬物用発酵調味物。
  6. 請求項1から3の何れか一項に記載の乳酸菌を含む食品。
  7. 発酵様香気を持った漬物を製造する方法であって、漬物の原料である野菜にスターターとして請求項1から3の何れか一項に記載の乳酸菌を添加し、前記乳酸菌によって前記野菜を発酵させる漬物の製造方法。
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