JP2014222025A - 車両の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】装置の複雑化や大型化を招くことなく、エンジンの始動時の異音や衝撃の発生を防止もしくは抑制することができる遠心振子式ダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンの出力トルクにより回転する回転体に形成された転動室内に収容された転動体が、前記回転体が回転する際に遠心力を受けて前記転動室内の転動面上を揺動することにより、前記出力トルクの変動に起因する振動を減衰させるダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置において、前記エンジンをモータでクランキングして始動させる場合に、前記クランキングによって前記回転体が回転することにより前記転動体が遠心力を受けて前記転動面に当接した状態が所定時間経過した後に、前記エンジンの燃焼運転を開始させるエンジン始動手段(ステップS1〜S7)を設けた。
【選択図】図1
【解決手段】エンジンの出力トルクにより回転する回転体に形成された転動室内に収容された転動体が、前記回転体が回転する際に遠心力を受けて前記転動室内の転動面上を揺動することにより、前記出力トルクの変動に起因する振動を減衰させるダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置において、前記エンジンをモータでクランキングして始動させる場合に、前記クランキングによって前記回転体が回転することにより前記転動体が遠心力を受けて前記転動面に当接した状態が所定時間経過した後に、前記エンジンの燃焼運転を開始させるエンジン始動手段(ステップS1〜S7)を設けた。
【選択図】図1
Description
この発明は、エンジンのトルク変動による振動や回転部材のねじり振動を減衰させるための遠心振り子式ダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置に関するものである。
車両に搭載されるエンジンのクランクシャフトや変速機のインプットシャフトあるいはドライブシャフトなどの回転部材に取り付けられて、その回転部材のトルク変動やトルク変動に起因するねじり振動を抑制する装置としてダイナミックダンパが知られている。ダイナミックダンパは、例えば振動系にばねや振り子を取り付けることにより、振動系の振動を吸収して減衰させ、また、振動系の共振点を複数に分散させて共振の発生を抑制させる装置である。
そのようなダイナミックダンパの一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたダイナミックダンパは、いわゆる遠心振り子式のダイナミックダンパであって、内部に転動室が形成された回転体と、転動室に収容されてその転動室内で転動する転動体とを備えている。さらに、この特許文献1に記載されたダイナミックダンパは、転動室の側面に配置された弾性体で支持されるとともに、転動体を挟み込んで固定した状態と開放した状態とが可能な支持部材を備えている。そして、回転体が回転する際に、弾性体が遠心力を受けて移動することにより、支持部材が転動体の固定を開放する位置に移動するように構成されている。
また、特許文献2には、回転盤に設けられた複数の収容室内に、円盤状の緩衝弾性体が装着された転動マスを移動可能に収容した構成の遠心振り子式のダイナミックダンパが記載されている。そして、この特許文献2に記載されたダイナミックダンパは、回転盤が停止している場合および低速で回転している場合は、緩衝弾性体によって転動マスが収容室の内面と非接触状態に保持され、回転盤が回転して転動マスに掛かる遠心力が所定の大きさ以上となる場合には、その遠心力によって転動マスが緩衝弾性体の弾性に抗して収容室の内面に接触して転動するように構成されている。
そして、特許文献3には、可変速度形ダイナミックダンパを構成する複数の単振り子を備えたフライホイールが記載されている。すなわち、この特許文献3に記載されているフライホイールは、その内部に遠心振り子式のダイナミックダンパが形成されている。そのダイナミックダンパは、各単振り子の径方向外方位置に、単振り子と接触して単振り子の揺動を停止させる摩擦材が接合された質量体が設けられ、その質量体が板ばねによって単振り子方向に付勢されている。そして、単振り子に働く遠心力が板ばねによる付勢力に打ち勝った場合に、摩擦材が単振り子から離反して単振り子の揺動を許容するように構成されている。
上記の各特許文献に記載されているような遠心振り子式のダイナミックダンパは、回転体がトルクを受けて回転する際に、そのトルクの変動によってねじり振動する回転体に対し、転動室内に収容されている転動体を揺動させて振り子運動させることにより、回転体のねじり振動を減衰させることができる。一方で、そのようなダイナミックダンパを、エンジンのトルク変動による振動や回転部材のねじり振動を抑制するために車両へ搭載した場合、エンジンの燃焼運転の始動時に転動体が転動室の内壁面に衝突して異音や衝撃が発生する可能性がある。
すなわち、エンジンを駆動力源とする車両の駆動系統では、例えば図8に示すように、エンジンの燃焼運転を始動させた直後の低回転数領域で不可避的に振動が大きくなる共振点が存在する。そのため、回転体の回転数がそのような低回転数領域あるいは共振帯の回転数になる際には、転動室内での転動体の姿勢や挙動に乱れが生じ、その結果、転動体が転動室の内壁面に衝突し、その衝突の際に異音や衝撃が発生する場合があった。
そのような課題に対して、上記の特許文献1に記載されているダイナミックダンパでは、上記のように、遠心力の大きさに応じて移動して転動体を固定もしくは開放するように構成された支持部材を別途設け、遠心力が小さい低回転数領域では転動体を固定し、遠心力が大きくなる中・高回転数領域では転動体を開放してダイナミックダンパの振り子マスとして機能させるようにしている。したがって、上記の特許文献1に記載されているダイナミックダンパによれば、エンジンの燃焼運転の始動時に、エンジン回転数が低回転数領域あるいは共振点付近の回転数領域(共振帯)の回転数になる場合であっても、転動体と転動室の内壁面との衝突を回避することができる。
上記のように、特許文献1に記載されているダイナミックダンパでは、支持部材で転動体を固定することにより、エンジンの始動時に転動体と転動室の内壁面との衝突を回避して、異音や衝撃の発生を防止することができる。また、特許文献2や特許文献3に記載されているダイナミックダンパでは、緩衝弾性体や板ばねを別途設けることにより、遠心力の大きさに応じて転動マスや単振り子の動作を制御し、回転体もしくはエンジンの始動時や停止時の衝撃や打音を緩和することができる。その反面、特許文献1に記載されているダイナミックダンパのように転動室の側面に弾性体によって支持される支持部材を設けなければならない分、あるいは、特許文献2や特許文献3に記載されているダイナミックダンパのように緩衝弾性体や板ばねなどを設けなければならない分、装置の構成が複雑になってしまい、また、装置の体格も大きくなってしまう。
このように、従来の遠心振子式ダイナミックダンパを搭載した車両においては、エンジンの始動時にエンジン回転数が共振帯を含む低回転数領域の回転数になる場合に、転動室内での転動体の姿勢や挙動の乱れに起因した異音や衝撃が生じてしまうといった課題があり、そのような課題を装置の複雑化や大型化を招くことなく克服するためには、未だ改良の余地があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、装置の複雑化や大型化を招くことなく、エンジンの始動時にトルク変動が大きくなる場合であっても異音や衝撃の発生を防止もしくは抑制することができる遠心振子式ダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、エンジンの出力トルクにより回転する回転体に形成された転動室内に収容された転動体が、前記回転体が回転する際に遠心力を受けて前記転動室内の転動面上を揺動することにより、前記出力トルクの変動に起因する振動を減衰させるダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置において、前記エンジンをモータでクランキングして始動させる場合に、前記クランキングによって前記回転体が回転することにより前記転動体が遠心力を受けて前記転動面に当接した状態が所定時間経過した後に、前記エンジンの燃焼運転を開始させるエンジン始動手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記エンジン始動手段が、前記エンジンの回転が完全に停止していない状態から前記エンジンを始動させる場合には、前記エンジンの回転が完全に停止している状態から前記エンジンを始動させる場合と比較して前記所定時間を短くする手段を含むことを特徴とする制御装置である。
そして、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記エンジン始動手段が、前記クランキングによって回転する前記エンジンの回転数が、前記エンジンの共振回転数を含んだ共振回転数帯を上回った後に、前記燃焼運転を開始させる手段を含むことを特徴とする制御装置である。
請求項1の発明によれば、遠心振り子式のダイナミックダンパを搭載した車両のエンジンを始動する場合、先ず、スタータモータあるいはハイブリッドユニットのモータ・ジェネレータ等によってエンジンがクランキングされる。その後、エンジン回転数が上昇することにより、エンジンのクランク軸と共に回転するダイナミックダンパの転動室内に収容されている転動体は、遠心力を受けて転動室内でダイナミックダンパの外周側寄りに移動し、転動室の転動面に当接する。そして、その転動体が転動面に当接している状態で所定時間が経過した後に、エンジンに点火されることもしくは燃料が噴射されることにより、エンジンの燃焼運転が開始させられる。したがって、エンジンを始動する際には、遠心力を受けた転動体が転動面に当接した状態で安定した後に、エンジンの初爆が起きることになる。そのため、ダイナミックダンパに特別な機構や部品などを追加することなく、エンジン始動時のエンジンの初爆の際の振動や共振によってダイナミックダンパの転動体の姿勢や挙動が乱れ、異音や衝撃が発生してしまうことを容易に回避もしくは抑制することができる。
また、請求項2の発明によれば、エンジンの回転が完全に停止していない状態からエンジンを始動させる場合、すなわち、燃焼運転は停止しているもののクランク軸は回転している状態のエンジンを、再度燃焼運転を開始させて始動させる場合には、エンジンの回転が完全に停止している状態からエンジンを始動させる場合よりも、上記の所定時間が短縮されて設定される。そのため、エンジンを始動する際にダイナミックダンパで発生する異音や衝撃を回避もしくは抑制しつつ、エンジンの始動のために要する時間を短縮して、スムーズにエンジンを再始動させることができる。
そして、請求項3の発明によれば、エンジンを始動させる際に、クランキングによって上昇するエンジン回転数が、そのエンジンを始動する際に不可避的に共振が発生する共振回転数およびその共振回転数を含んだ共振回転数帯を超えた後に、エンジンの燃焼運転が開始させられる。したがって、エンジンを始動する際には、エンジン回転数がエンジンの共振回転数帯以上の回転数まで上昇した後に、エンジンの初爆が起きることになる。そのため、エンジン始動時にエンジンの初爆が起こる際の振動や共振によってダイナミックダンパの転動体の姿勢や挙動が乱れ、異音や衝撃が発生してしまうことを確実に防止することができる。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明に係る車両の制御装置は、いわゆる遠心振り子式のダイナミックダンパを搭載した車両を制御の対象としている。すなわち、図1に示すように、この発明で制御の対象とする車両Veは、エンジン1と、そのエンジン1の出力トルクを駆動輪2へ伝達する変速機3との間に、ダイナミックダンパ4が設置されている。また、この発明における車両Veは、エンジン1を始動させる際にエンジン1のクランク軸(出力軸)1aをクランキングするためのスタータモータ5を備えている。すなわち、このスタータモータ5が、この発明におけるモータに相当している。なお、車両Veがエンジンおよび電動モータを駆動力源とするハイブリッド車である場合には、その駆動力源である電動モータによってエンジンをクランキングすることができる。したがって、ハイブリッド車における駆動力源の電動モータも、この発明におけるモータに相当する。
そして、この発明に係る車両Veは、エンジン1の運転を制御するため、特に、エンジン1の始動制御を実行するための電子制御装置(ECU)6が設けられている。このECU6は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成されている。このECU6には、各種センサ(図示せず)からの検出信号や情報信号が入力されるように構成されている。例えば、エンジン1の出力軸1aの回転数を検出するエンジン回転数センサ、車速を求めるため車両Veの各車輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ、および、スタータモータ5の電源となるバッテリ(図示せず)のSOCを検出するためのセンサ等からの検出信号が、このECU6に入力されるように構成されている。そして、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算を行い、エンジン1の始動制御等を実行するように構成されている。
上記のように、車両Veに搭載されるダイナミックダンパ4は、周知の遠心振り子式のダイナミックダンパである。すなわち、ダイナミックダンパ4は、エンジン1からの出力トルクを受けて回転するとともにその出力トルクの変動によってねじり振動する回転体に対して転動体(慣性質量体)を振り子運動させることにより、回転体のねじり振動を低減もしくは減衰させるように構成されている。その振り子運動は、回転体に設けた所定の転動面に沿って転動体を転動させることにより生じさせるように構成されている。
具体的には、ダイナミックダンパ4は、図2に示すように、制振対象となる回転部材に取り付けられる回転体4aと、その回転体2aの内部に形成された転動室4bに収容されかつ転動可能に保持された複数の転動体4cとから構成されている。
回転体4aは、円柱形状のハウジング4dとハウジングカバー4eとから構成されている。ハウジング4dは、その中心部よりも周縁側の複数個所(図2の例では4個所)に、ハウジング4dの一方の円形端面から円筒形に刳り抜いた形状の転動室4bが形成されている。各転動室4bは、回転体4aの回転方向すなわち回転体4aの円周方向において互いに等間隔に配置されている。
各転動室4b内には、それぞれ転動体4cが収容されている。転動体4cは、このダイナミックダンパ4における遠心振り子として機能するための所定の剛性と重量を有する剛体によって構成されている。この転動体4cは、その外径が転動室4bの内径よりも小さく、かつ高さ(図1の(b)での左右方向の寸法)が転動室4bの深さ(図1の(b)での左右方向の寸法)よりも短い円柱形状に形成されている。
なお、この転動体4cの形状は、上記のような円柱形状に限定されるものではなく、転動室4b内において滑らかに転動可能なもしくは揺動可能な形状であればよい。例えば、曲率半径が転動室4bの内径および深さよりも小さな球体であってもよい。また、転動室4bの形状も、上記のような円筒形に刳り抜かれた形状に限定されるものではない。例えば、前述の特許文献1に記載されているダイナミックダンパの転動室や、前述の特許文献3に記載されている扇形状の単振り子を収容する空間部などのような形状であってもよい。
上記のようなハウジング4dの各転動室4b内に各転動体4cがそれぞれ収容された状態で、ハウジング4dに対してハウジングカバー4eが取り付けられて固定されることにより、遠心振子式のダイナミックダンパ4が構成されている。
そして、上記のように構成されたダイナミックダンパ4が、例えばエンジン1の出力軸1aやフライホイール、あるいは変速機3の入力軸3aなどの回転部材に対してそれらの回転部材と一体回転するように取り付けられることにより、回転部材のトルク変動もしくはそのトルク変動に起因する捻り振動を減衰させる構成となっている。
したがって、回転部材に一体回転するように取り付けられたダイナミックダンパ4が、その回転部材と共に所定の回転数以上で回転すると、各転動体4cに作用する遠心力によってそれら各転動体4cが回転体4aにおける外周側に移動する。すなわち、ダイナミックダンパ4の回転数が、各転動体4cに重力よりも大きな遠心力が作用する所定の回転数以上になると、図1の(a),(b)に示すように、各転動体4cが、各転動室4b内で回転体4aにおける外周側に移動して各転動室4bの内壁面すなわち転動面4fに当接した状態となって、ダイナミックダンパ4が回転する。この状態で、回転部材にトルク変動が生じ、そのトルク変動がダイナミックダンパ4に伝達されると、ダイナミックダンパ4の各転動室4b内では、各転動体4cがトルク変動の方向とは逆方向に相対移動する。その結果、それら各転動体4cの慣性モーメントによってトルク変動が相殺されることになるので、トルク変動もしくはトルク変動により生じる捻り振動を減衰させることができる。
上記のように、遠心振り子式のダイナミックダンパ4は、各転動体4cが、重力ならびにダイナミックダンパ4が回転する際の遠心力およびトルク変動の影響を受けて各転動体4c内を移動することになる。そのため、ダイナミックダンパ4の回転数が、各転動体4cに重力よりも大きな遠心力が作用する所定の回転数よりも低くなると、すなわち各転動体4cに作用する遠心力が重力よりも小さくなると、各転動体4cが各転動体4c内で重力の方向に落下して各転動体4cの内壁面に衝突する。その結果、その衝突の際に異音や衝撃が発生する場合がある。
また、前述したように、エンジン1は、例えば図10に示すようにエンジン1の始動直後あるいは停止直前の低回転数領域で不可避的に振動が大きくなる共振点(共振回転数)が存在する。そのため、ダイナミックダンパ4の回転数がその低回転数領域および共振点を含む共振回転数帯付近の回転数となる場合には、転動室4b内での転動体4cの姿勢や挙動に乱れが生じ、その結果、転動体4cが転動室4bの内壁面に衝突して、その衝突の際に異音や衝撃が発生する場合もある。
そこで、この発明に係る車両Veの制御装置では、特別な装置や機構等を設けることなく、上記のようなエンジン1の始動時に起こり得る転動体4cの衝突を回避して、異音や衝撃が生じることのないスムーズなエンジン1の始動を行うために、以下に示すような制御を実行するように構成されている。
図3は、この発明に係る制御装置により実行される制御例を説明するためのフローチャートである。このフローチャートで示されるルーチンは、燃焼運転を停止している状態のエンジン1に対して燃焼運転を開始させてエンジン1を始動させる状況を制御の前提としている。そして、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、車両Veが停止している状態であるか否かが判断される(ステップS1)。エンジン1が燃焼運転を停止している状態であっても、車両Veが走行している場合もある。例えば、車両Veの減速走行時にエンジン1への燃料供給を停止するフューエルカットが実行される場合には、車両Veの走行中にエンジン1の燃焼運転が停止させられる。あるいは、ハイブリッド車を制御対象とした場合は、モータの出力のみで車両を走行させる際には、車両の走行中にエンジンの燃焼運転が停止させられる場合がある。
車両Veが停止していること、すなわち、車輪速センサの検出値等から求められる車速が0であることにより、このステップS1で肯定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、制御判断フラグflgAが「1」に設定される。
次いで、この発明におけるモータでエンジン1をクランキングする場合、すなわち、図1に示す構成の車両Veの例では、スタータモータ5でエンジン1をクランキングする場合に、エンジン1の出力軸1aの回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であるか否かが判断される(ステップS3)。この所定回転数αは、エンジン1の共振点(共振回転数)およびその共振点を含んだ共振回転数帯を確実に上回るレベルの回転数に設定されていて、一般的なガソリンエンジンの場合には、例えば1000rpm前後の回転数である。したがって、この所定回転数α以上の回転数でエンジン1が回転する場合にはエンジン1の共振が起こることはない。
例えば、スタータモータ5の電源バッテリの充電量が少ないことなどから、スタータモータ5でエンジン1をクランキングして出力軸1αの回転数を所定回転数αまで上昇させることができないことにより、このステップS3で否定的に判断された場合は、ステップS4へ進む。そして、制御判断フラグflgBが「0」に設定される。
上記のようにして制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBのフラグ値がそれぞれ設定されると、ステップS5へ進み、エンジン1の始動制御が実行される。この場合は、制御判断フラグflgAが「1」に設定され、制御判断フラグflgBが「0」に設定されていることから、図3の下欄の表に示すように、始動制御「a」が実行される。
この始動制御「a」は、車両Veが停止していて、かつスタータモータ5の出力が弱い場合に対応する制御である。具体的には、図4のタイムチャートに示すように、先ず、制御が開始されると、スタータモータ5によってエンジン1がクランキング(モータリング)され、エンジン回転数が上昇させられる。その後、時刻t1で、エンジン回転数が遠心力安定回転数まで上昇すると、時刻t1から時刻t2までの所定時間ΔT1の間、エンジン回転数が遠心力安定回転数に維持される。
この遠心力安定回転数は、ダイナミックダンパ4がエンジン1の出力軸1aと共に回転する際に、転動室4b内の転動体4cが遠心力を受けて転動室4b内の転動面4fに当接し始める遠心力安定下限回転数よりも大きな回転数に設定されている。また、所定時間ΔT1は、ダイナミックダンパ4が遠心力安定回転数で回転する場合に、転動体4cが転動面4fに当接した状態で安定するのに要する時間である。これら遠心力安定回転数、遠心力安定下限回転数、および所定時間ΔT1は、実験やシミュレーションなどのデータを基に予め求めておくことができる。
したがって、上記のように、エンジン1をクランキングする際にエンジン回転数を所定時間ΔT1の間遠心力安定回転数で維持することにより、ダイナミックダンパ4において転動体4cが転動面4fに当接して安定した状態を得ることができる。
そして、この場合は、エンジン1をクランキングさせるスタータモータ5の出力が弱く、エンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが困難であると判断されている状態である。そのため、エンジン1は、エンジン回転数を遠心力安定回転数に維持した状態で所定時間ΔT1経過した後に、エンジン回転数が共振回転数帯に到達する以前に、燃焼運転が開始される。例えば、エンジン1がガソリンエンジンである場合は、エンジン1の燃焼室内に点火されることにより、エンジン1の燃焼運転が開始される。あるいは、エンジン1がディーゼルエンジンである場合には、エンジン1の燃焼室内に燃料が噴射されることにより、エンジン1の燃焼運転が開始される。
このように、クランキングによってエンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが困難である場合には、エンジン回転数が共振回転数帯に到達する前に、エンジン1の燃焼運転が開始される。そのため、エンジン1の初爆と共振とが同時期に起こる事態を回避することができる。また、エンジン回転数が上昇して共振回転数帯を通過する際に、ダイナミックダンパ4の転動体4cを転動面4fに当接させた状態で安定させておくことができる。
一方、スタータモータ5でエンジン1をクランキングして出力軸1αの回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であることにより、前述のステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS6へ進む。そして、制御判断フラグflgBが「1」に設定される。
上記のようにして制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBのフラグ値がそれぞれ設定されると、ステップS5へ進み、エンジン1の始動制御が実行される。この場合は、制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBが共に「1」に設定されていることから、図3の下欄の表に示すように、始動制御「b」が実行される。
この始動制御「b」は、車両Veが停止していて、かつスタータモータ5の出力が十分にある場合に対応する制御である。具体的には、図5のタイムチャートに示すように、先ず、制御が開始されると、スタータモータ5によってエンジン1がクランキング(モータリング)され、エンジン回転数が上昇させられる。その後、時刻t1で、エンジン回転数が遠心力安定回転数まで上昇すると、時刻t1から時刻t2までの所定時間ΔT1の間、エンジン回転数が遠心力安定回転数に維持される。ここまでは、上述の始動制御「a」の場合と同様の制御内容である。
そして、この場合は、エンジン1をクランキングさせるスタータモータ5の出力が十分であり、エンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であると判断されている状態である。そのため、エンジン1は、エンジン回転数を遠心力安定回転数に維持した状態で所定時間ΔT1経過した後、更に、エンジン回転数が共振回転数帯を上回った後に、燃焼運転が開始される。
このように、クランキングによってエンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能である場合には、エンジン回転数が共振回転数帯を超えた後に、エンジン1の燃焼運転が開始される。そのため、エンジン1の初爆と共振とが同時期に起こる事態を回避することができる。また、エンジン1の燃焼運転を開始させる際には、既に、エンジン回転数は上昇して共振回転数帯を通過している。そして、ダイナミックダンパ4の転動体4cを転動面4fに当接させた状態で安定させておくことができる。
これに対して、車両Veが停止していない、すなわち車両Veが走行中であることにより、前述のステップS1で否定的に判断された場合には、ステップS7へ進む。そして、制御判断フラグflgAが「0」に設定される。したがって、この場合、エンジン1は、燃焼運転は停止しているものの、車両Veが走行していることにより連れ回されて、クランク軸が空転している状態である。
次いで、同様に、ステップS3で、スタータモータ5によってエンジン1の出力軸1aの回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であるか否かが判断される。そして、スタータモータ5でエンジン1をクランキングして出力軸1αの回転数を所定回転数αまで上昇させることができないと判断された場合は、ステップS4へ進み、制御判断フラグflgBが「0」に設定される。
上記のようにして制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBのフラグ値がそれぞれ設定されると、ステップS5へ進み、エンジン1の始動制御が実行される。この場合は、制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBが共に「0」に設定されていることから、図3の下欄の表に示すように、始動制御「c」が実行される。
この始動制御「c」は、車両Veが走行していて、かつスタータモータ5の出力が弱い場合に対応する制御である。具体的には、図6のタイムチャートに示すように、先ず、制御が開始されると、スタータモータ5によってエンジン1がクランキング(モータリング)され、エンジン回転数が上昇させられる。その後、時刻t3で、エンジン回転数が遠心力安定回転数まで上昇すると、時刻t3から時刻t4までの所定時間ΔT2の間、エンジン回転数が遠心力安定回転数に維持される。
この場合の所定時間ΔT2は、上述の始動制御「a」および始動制御「b」における所定時間ΔT1よりも短い時間に設定されている。この始動制御「c」および後述する始動制御「d」を実行する場合は、車両Veが走行していて、エンジン1の出力軸1aが所定の回転数で回転している状態である。したがって、ダイナミックダンパ4の転動体4cには、既にある程度の遠心力が掛かっている。そのため、転動体4cが転動面4fに当接した状態を安定させるための所定時間ΔT2は、上述したようなエンジン1の回転が停止している状態からエンジン1を始動させる場合の所定時間ΔT1よりも短くて済むことになる。そこで、この始動制御「c」および後述する始動制御「d」では、所定時間ΔT2を所定時間ΔT1よりも短くして、エンジン1の始動時間の短縮を図ることができる。なお、この所定時間ΔT2も、前述の所定時間ΔT1と同様に、実験やシミュレーションなどのデータを基に予め求めておくことができる。
したがって、上記のように、エンジン1をクランキングする際にエンジン回転数を所定時間ΔT2の間遠心力安定回転数で維持することにより、ダイナミックダンパ4において転動体4cが転動面4fに当接して安定した状態を得ることができる。
そして、この場合は、エンジン1をクランキングさせるスタータモータ5の出力が弱く、エンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが困難であると判断されている状態である。そのため、エンジン1は、エンジン回転数を遠心力安定回転数に維持した状態で所定時間ΔT2経過した後に、エンジン回転数が共振回転数帯に到達する以前に、燃焼運転が開始される。
このように、クランキングによってエンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが困難である場合には、エンジン回転数が共振回転数帯に到達する前に、エンジン1の燃焼運転が開始される。そのため、エンジン1の初爆と共振とが同時期に起こる事態を回避することができる。また、エンジン回転数が上昇して共振回転数帯を通過する際に、ダイナミックダンパ4の転動体4cを転動面4fに当接させた状態で安定させておくことができる。
一方、スタータモータ5でエンジン1をクランキングして出力軸1αの回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であると判断された場合には、ステップS6へ進む。そして、制御判断フラグflgBが「1」に設定される。
上記のようにして制御判断フラグflgAおよび制御判断フラグflgBのフラグ値がそれぞれ設定されると、ステップS5へ進み、エンジン1の始動制御が実行される。この場合は、制御判断フラグflgAが「0」に設定され、制御判断フラグflgBが「1」に設定されていることから、図3の下欄の表に示すように、始動制御「d」が実行される。
この始動制御「d」は、車両Veが走行していて、かつスタータモータ5の出力が十分にある場合に対応する制御である。具体的には、図7のタイムチャートに示すように、先ず、制御が開始されると、スタータモータ5によってエンジン1がクランキング(モータリング)され、エンジン回転数が上昇させられる。その後、時刻t3で、エンジン回転数が遠心力安定回転数まで上昇すると、時刻t3から時刻t4までの所定時間ΔT2の間、エンジン回転数が遠心力安定回転数に維持される。ここまでは、上述の始動制御「c」の場合と同様の制御内容である。
そして、この場合は、エンジン1をクランキングさせるスタータモータ5の出力が十分であり、エンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能であると判断されている状態である。そのため、エンジン1は、エンジン回転数を遠心力安定回転数に維持した状態で所定時間ΔT2経過した後、更に、エンジン回転数が共振回転数帯を上回った後に、燃焼運転が開始される。
このように、クランキングによってエンジン回転数を所定回転数αまで上昇させることが可能である場合には、エンジン回転数が共振回転数帯を超えた後に、エンジン1の燃焼運転が開始される。そのため、エンジン1の初爆と共振とが同時期に起こる事態を回避することができる。また、エンジン1の燃焼運転を開始させる際には、既に、エンジン回転数は上昇して共振回転数帯を通過している。そして、ダイナミックダンパ4の転動体4cを転動面4fに当接させた状態で安定させておくことができる。
上記のようにして、始動制御「a」,「b」,「c」,「d」のいずれかが実行されて、エンジン1の始動が行われると、その後、このルーチンを一旦終了する。
以上のように、この発明に係る車両の制御装置によれば、遠心振り子式のダイナミックダンパ4を搭載した車両Veのエンジン1を始動する場合、先ず、スタータモータ5によってエンジン1がクランキングされる。その後、エンジン回転数が上昇することにより、エンジン1のクランク軸および出力軸1aと共に回転するダイナミックダンパ4の転動室4b内に収容されている転動体4cは遠心力を受けるようになる。すると、転動体4cは転動室4b内でダイナミックダンパ4の外周側寄りに移動し、転動室4cの内壁の転動面4fに当接する。そして、その転動体4cが転動面4fに当接している状態で所定時間ΔT1(もしくは所定時間ΔT2)が経過した後に、エンジン1の燃焼運転が開始させられる。したがって、エンジン1を始動する際には、遠心力を受けた転動体4cが転動面4fに当接した状態で安定した後に、エンジン1の初爆が起きることになる。そのため、ダイナミックダンパ4に特別な機構や部品などを追加することなく、エンジン始動時のエンジン1の初爆の際の振動や共振によってダイナミックダンパ4の転動体4cの姿勢や挙動が乱れ、異音や衝撃が発生してしまうことを容易に回避もしくは抑制することができる。
また、エンジン1の回転が完全に停止していない状態からそのエンジン1を始動させる場合、すなわち、燃焼運転は停止しているもののクランク軸は回転している状態のエンジン1を、再度燃焼運転を開始させて始動させる場合には、エンジン1の回転が完全に停止している状態からエンジンを始動させる場合の所定時間ΔT1よりも短い所定時間ΔT2が設定される。そのため、エンジン1を始動する際にダイナミックダンパ4で発生する異音や衝撃を回避もしくは抑制しつつ、エンジン1の始動のために要する時間を短縮して、スムーズにエンジン1を再始動させることができる。
そして、エンジン1を始動させる際に、スタータモータ5の出力が十分にある場合には、そのスタータモータ5によるクランキングによって上昇するエンジン回転数が、そのエンジン1を始動する際に不可避的に共振が発生する共振点を含んだ共振回転数帯を超えた後に、エンジン1の燃焼運転が開始させられる。したがって、エンジン1を始動する際には、エンジン回転数がエンジン1の共振回転数帯以上の回転数まで上昇した後に、エンジン1の初爆が起きることになる。そのため、エンジン始動時にエンジン1の初爆が起こる際の振動や共振によってダイナミックダンパ4の転動体4cの姿勢や挙動が乱れ、異音や衝撃が発生してしまうことを確実に防止することができる。
1…エンジン、 2…駆動輪、 3…変速機、 4…ダイナミックダンパ、 4a…回転体、 4b…転動室、 4c…転動体、 4f…転動面、 5…スタータモータ、 6…電子制御装置(ECU)、 Ve…車両。
Claims (3)
- エンジンの出力トルクにより回転する回転体に形成された転動室内に収容された転動体が、前記回転体が回転する際に遠心力を受けて前記転動室内の転動面上を揺動することにより、前記出力トルクの変動に起因する振動を減衰させるダイナミックダンパを搭載した車両の制御装置において、
前記エンジンをモータでクランキングして始動させる場合に、前記クランキングによって前記回転体が回転することにより前記転動体が遠心力を受けて前記転動面に当接した状態が所定時間経過した後に、前記エンジンの燃焼運転を開始させるエンジン始動手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
- 前記エンジン始動手段は、前記エンジンの回転が完全に停止していない状態から前記エンジンを始動させる場合には、前記エンジンの回転が完全に停止している状態から前記エンジンを始動させる場合と比較して前記所定時間を短くする手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
- 前記エンジン始動手段は、前記クランキングによって回転する前記エンジンの回転数が、前記エンジンの共振回転数を含んだ共振回転数帯を上回った後に、前記燃焼運転を開始させる手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
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