以下、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させるための条件を明らかにする。
[ヘッドランプの光として好まれる白色範囲]
ヘッドランプの白色範囲A1(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)は法規によって規定されている(図1参照)。しかし、法規によって規定されたヘッドランプの白色範囲A1(xy色度座標上の座標値(0.31,0.28), (0.44,0.38), (0.50,0.38), (0.50,0.44), (0.455,0.44), (0.31,0.35)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲)はヘッドランプの光として好まれるかどうかとは無関係に定められたものであり、当該白色範囲A1の全範囲がヘッドランプの光として好まれるとは限らない。そこで、本出願の発明者は、法規によって規定された白色範囲A1のうちヘッドランプの光として好まれる白色範囲を明らかにすべく、次の実験を行った。
[実験1]
実験環境:RGB(赤・緑・青)のLEDとLEDから放射される光を拡散する拡散ボードとを内部に配置した暗室を用いた(図2参照)。被験者は、グループ1の3名、グループ2の3名の合計6名である。
実験手順:LEDを制御し、拡散ボードを照明する光源色を図3(a)(b)〜図6(a)(b)に示す矢印の方向に徐々に変化させ、暗室の開口を介して呈示される刺激光が被験者の好みの白色範囲に入った時点で押しボタンを押してもらい、その押しボタンを押した時点での色度を測定した。
以上の測定結果をxy色度座標上にプロットして(図3(a)(b)〜図6(a)(b)参照)検討した結果、ヘッドランプの光として許容されるおおよその範囲が明らかとなり(図7(a)、図7(b)参照)、ヘッドランプの光として好まれる白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図8に示す色度座標上の座標値P1〜P4で囲まれた色度範囲A2であることが明らかとなった。
[周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲]
実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)においては、図9に示すように、一般に、運転者は中心視で対向車両V1を視認しつつ、周囲の歩行者や障害物等を周辺視で認識していると考えられる。
本出願の発明者は、上記明らかにしたヘッドランプの光として好まれる白色範囲A2のうち周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)を明らかにすべく、次の実験を行った。
[実験2]
実験環境:図10に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T1〜T11、TH、HID)を用いた。T1〜T11はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度(1、0.1cd/m2)に調整した光源(T1〜T11、TH、HID)が照射しているグレーの色材を順次呈示し、光源、呈示位置ごとに、被験者が呈示光(グレーの色材からの反射光)を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
[光源、呈示位置ごとの反応時間]
図12は、上記実験2により測定した反応時間と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。図13(a)(「反応時間」の欄)は、反応時間に基づいて各光源を評価した表である。反応時間が短い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、反応時間が短い光源ほど高い評価点数を割り当てた。
図12、図13(a)(「反応時間」の欄)を参照すると、色温度の高い光源ほど反応時間が短い(評価点数が高い)傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
[見逃し率]
図14は、上記実験2により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。図13(a)(「見逃し率」の欄)は、見逃し率に基づいて各光源を評価した表である。見逃し率が小さい光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、見逃し率が小さい光源ほど高い評価点数を割り当てた。
図14、図13(a)(「見逃し率」の欄)を参照すると、色温度の高い光源ほど見逃し率が小さい(評価点数が高い)傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
[反応数割合]
図15は、反応数割合の概念を説明するための図である。反応数割合とは、(ある時間までの反応数)/(全反応数の内、反応時間が2秒以下のデータの個数)のことである。被験者のうち半分の人が気づいた時間をその光源に対する反応時間として評価した。なお、2秒以上の反応時間については見逃したと定義した。
図16は、上記実験2に用いた光源(輝度:1cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
図16を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T10⇒T8⇒T5⇒T3⇒T7⇒T9⇒T6⇒HID⇒T11⇒T2⇒T1⇒TH⇒T4の順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
図17は、上記実験2に用いた光源(輝度:0.1cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
図17を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8⇒T5⇒T7⇒HID⇒T9⇒T6⇒T11⇒T1⇒T10⇒T3⇒T4⇒T2⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
図18は、上記実験2に用いた光源(輝度:0.01cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
図18を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5⇒T8⇒T9⇒HID⇒T11⇒T10⇒T6⇒T2⇒T7⇒T3⇒T1⇒T3⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
図19は、図16〜図18に示したグラフを平均したグラフである。図13(a)(「反応数割合」の欄)は、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間に基づいて各光源を評価した表である。反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源ほど高い評価点数を割り当てた。
図19、図13(a)(「反応数割合」の欄)を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8⇒T5⇒HID⇒T9⇒T10⇒T7⇒T11⇒T6⇒T2⇒T1⇒T3⇒T4⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
以上のように点数付けした反応時間、反応数割合、見逃し率の合計点(図13(a)、図13(b)参照)に基づいて各光源を総合評価すると、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる(図20参照)。
[色材への気づき]
実際の交通環境においては、ヘッドランプから照射され反射されるのは白色光だけではない。本出願の発明者は、白色以外の色に対し周辺視による視認性(気づき)に相違があるか否かを明らかにすべく、次の実験を行った。
[実験3]
実験環境:図21に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T5、T6、T7、T9、TH、HID)を用いた。T5、T6、T7、T9はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度に調整した光源(T5、T6、T7、T9、TH、HID)が照射している色材(赤・緑・青・黄)を順次呈示し、光源、呈示位置、色材ごとに、被験者が呈示光を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
図22は、上記実験3に用いた光源の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
図22を参照すると、色材に対する気づきに関し、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源はLED(T9)であることが分かる。
図23は、上記実験3に用いた光源の色材に対する平均反応時間の逆数を、縦軸の+側がYellow、−側がBlue、横軸の+側がRed、−側がGreenである座標系にプロットしたグラフである。各座標値を結んだひし形が大きい光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることを表している。
図24は、図23に示した4つのグラフを平均したグラフである。図24を参照すると、LEDは、TH、HIDと比べて各座標値を結んだひし形が大きいこと、すなわち、色(色材)に対する気づきに関し、TH、HIDよりも周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
上記実験2、実験3の結果を総合すると、白色光、色(色材)に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど評価点数が高い傾向があり、周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる(図25参照)。このことは、暗所視の状態(薄明視の状態も同様)では明所視の状態に比べて特定波長(450〜550nm)に対する感度が高いという事実(図26参照)、色温度の高い光源ほど放射エネルギー成分割合(放射エネルギー成分割合の定義については図26参照)が高い傾向があるという事実(図27参照)と整合している。
以上を総合すると、白色光、色(色材)に対する気づきに関し、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図28に示すxy色度座標上の座標値P1、P2、P5、P6で囲まれた色度範囲A3であることが分かる。
この色度範囲A3(図28参照)、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)、さらに、TH、HIDよりも気づき時間が短いのは色温度が5000[K]以上のLEDであること(図29参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つが、色温度が5000〜6000[K]であることが分かる。
本出願の発明者は、上記明らかにしたヘッドランプの光として好まれる白色範囲A2のうち上記実験2、実験3によっては気づきとの関係が明らかになっていない領域(図30参照)が、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能か否かを明らかにすべく、次の追加実験を行った。
[追加実験]
実験環境:図10に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T1〜T11、TH、HID)、さらに、図30に示す相関色温度のLED(T15、T17)を用いた。T1〜T11、T15、T16はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度(1、0.1cd/m2)に調整した光源(T1〜T11、T15、T17、TH、HID)を順次呈示し、光源、呈示位置ごとに、被験者が呈示光を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
[光源、呈示位置ごとの反応時間]
上記追加実験により測定した反応時間と呈示位置との関係については実験2(図12参照)と同様であるため、説明を省略する。
[見逃し率]
図31は、上記追加実験により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、見逃し率を算出した。
図31を参照すると、LED(T15)は色温度が低い光源と同程度の見逃し率に相当することが分かる。
[反応数割合]
図32は、上記追加実験に用いた光源(輝度:1cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。
図32を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T10→T8→T5=T3=T7=T6=HID=T9=T11=T15→T2→T17→T1→TH→T4の順であることが分かる。
図33は、上記追加実験に用いた光源(輝度:0.1cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。図33を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8→T7=T5=HID=T15=T6→T11→T9→T1→T10→T3→T17→T4→T2→THの順であることが分かる。
図34は、上記追加実験に用いた光源(輝度:0.01cd/m2)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。図34を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5→T8=T9=HID=T11=T15=T10→T6→T2→T7→T4→T1→T17→T3→THの順であることが分かる。
図35は、図32〜図34に示したグラフを平均したグラフである。図35を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5→T8→T9=HID=T10=T7=T11=T6=T15→T2→T1→T3→T4→T17→THの順であること、すなわち、H15の反応時間はHIDとほぼ同等であることが分かる。
上記追加実験の結果、LED(T15)の反応時間は色温度が高い光源と同等であること、LED(T17)の反応時間は色温度が低い光源と同様の振る舞いをすることが明らかとなった。
上記実験1〜実験3、追加実験の結果を総合すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図36に示すxy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲A4であることが分かる。
この色度範囲A4(図36参照)、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つが、色温度が4500〜7000[K]であることが分かる。
[色の見え予測]
同じ色であっても、光源が異なると見え方が異なる。これは、一般に、光源の分光分布が変化することと光源色が変化すると目がそれに慣れること(順応)に起因するとの説明がなされている。色の見え方については完全にではないが公知の式を用いることで一応予測することが可能である。
図37は、TH・HID・LED(T9)それぞれのスペクトルに基づき公知の式を用いることで算出されたTH・HID・LED(T9)ごとの4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値を、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系(a
*が赤方向、−a*が緑方向、b*が黄方向、−b*が青方向を表す)にプロットしたグラフである。これは、TH・HID・LED(T9)ごとの色の見え方についての予測を表している。図37中、各座標値が100に近いほど(すなわち、4つの座標値を結んだひし形が大きい光源ほど)、色(色票)の見え方が基準光源(太陽光、色温度:6500[K])の照明下での見え方に近づくこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)を表している。
図37を参照すると、LED(T9)は、TH、HIDと比べて4つの座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を結んだひし形が大きいこと、すなわち、LED(T9)の照明下での色(色票)の見え方がTH、HIDと比べて標準光源の照明下での色(色表)の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)が分かる。
図38を参照すると、LED(T9)以外の他のLED(T6、T7等)は、4つの座標値がLED(T9)の4つの座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲内に含まれており、LED(T9)と同様、TH、HIDと比べて4つの座標値を結んだひし形が大きいこと、すなわち、LED(T9)以外の他のLED(T6、T7等)の照明下での色(色表)の見え方もTH、HIDと比べて標準光源の照明下での色(色表)の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)が分かる。
以上を総合すると、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源を用いることが、色をより忠実に再現するための条件であることが分かる。
そして、この条件は、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲が色度範囲A3(又は色度範囲A4)であること、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つであるともいえることが分かる。
以上を総合すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件は、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源(又はこれに相当する光源)を用いること、であることが分かる。さらに好ましくは、ヘッドランプとしての光色が、xy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲A4(図36参照)であることが分かる。
これらの条件を満たす光源としては、例えば、図11に示した相関色温度のLED(T6、T7、T9)がある。
なお、暗所視の状態(薄明視の状態も同様)では、TH、HIDと比べ、LEDは約1割程度明るいことが知られており、この点からも、ヘッドランプ10の光源としてLED光源11を用いるのが有利といえる。
[ヘッドランプの構成]
次に、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすヘッドランプの構成例について説明する。
本実施形態のヘッドランプ10は、図39に示すように、車両前部の左右両側にそれぞれ配置されている。左側と右側のヘッドランプ10は左右対称で同一の構成であるため、以下左側のヘッドランプ10を中心に説明する。
図40は、左側に配置されたヘッドランプ10の拡大図である。
本実施形態のヘッドランプ10は、四つのヘッドランプユニット10A〜10D(以下光学ユニットとも称す)を水平方向(車幅方向)に配置した構成である。
ヘッドランプユニット10A〜10Dは、共通の構成として、LED光源11、LED光源11の前方に配置されたレンズ体12、LED光源11が実装された基板が固定された放熱用のヒートシンク13等を備えている。
LED光源11は、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源、すなわち、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源である。
LED光源11としては、例えば、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせたLED光源、例えば、図11に示す相関色温度のLED(T6、T7、T9)を用いることが可能である。この場合、例えば、黄色蛍光体の濃度や組成を調整することで、上記明らかにした視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源を構成することが可能である。あるいは、LED光源11としては、紫外LEDと白色(三原色)蛍光体とを組み合わせたLED光源、赤・緑・青の3色LEDを組み合わせたLED光源を用いることも可能である。
以下、LED光源11として青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせたLED光源(相関色温度:6000[K]、光束:1100[lm])を用いた例について説明する。
レンズ体12は、LED光源11から放射された光がレンズ内部に入射する入射面12a、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が内部反射する両側反射面12b、12c、及び、両側反射面12b、12cで反射したLED光源11からの光が出射する出射面12dを含む中実のレンズ体である。
レンズ体12としては、例えば、特開2009−238469号公報に開示されているレンズ体、後述の変形例その他構成のレンズ体を用いることが可能である。
ヘッドランプユニット10A〜10Dのレンズ体12はそれぞれ、車両中心から外側(図40中左側)に向かうにつれ車両前後方向に延びる基準軸AX0に対する傾斜角度が大きくなるように配置されている。以下、車両中心側のレンズ体12を第1レンズ体12A、この外側に隣接するレンズ体12を第2レンズ体12B、この外側に隣接するレンズ体12を第3レンズ体12C、この外側に隣接するレンズ体12を第4レンズ体12Dと称する。
ヘッドランプユニット10Aは、水平線と鉛直線との交点近傍に集光しエルボラインを含むホットゾーン配光パターンP1を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Aの第1レンズ体12Aは、その光軸AX1が基準軸AX0に一致するように配置されている。第1レンズ体12Aの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上の水平線と鉛直線との交点近傍に集光しエルボラインを含むホットゾーン配光パターンP1(図41参照)を形成するように構成されている。なお、エルボラインは、例えば、特開2008−78086号公報に記載の遮光膜を用いることで形成可能である。
ヘッドランプユニット10Cは、ホットゾーン配光パターンP1に重畳され水平方向に拡散した拡散配光パターンP3を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Cの第3レンズ体12Cは、その光軸AX3が基準軸AX0に対してさらに外側に傾斜した(図40では14°を例示)姿勢で配置されている。第3レンズ体12Cの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に、ホットゾーン配光パターンP1に重畳され水平方向に拡散した拡散配光パターンP3(中拡散配光パターンP2の右端のさらに右側から左端のさらに左側まで延びる水平方向にワイドな配光パターン。図41参照)を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Bは、水平方向の拡散の程度が拡散配光パターンP3よりも小さくかつ各配光パターンP1、P3に重畳される中拡散配光パターンP2を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Bの第2レンズ体12Bは、その光軸AX2が基準軸AX0に対して外側に傾斜した(図40では7°を例示)姿勢で配置されている。第2レンズ体12Bの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に、水平方向の拡散の程度が拡散配光パターンP3よりも小さくかつ各配光パターンP1、P3に重畳される中拡散配光パターンP2(ホットゾーン配光パターンP1の右端近傍から左端のさらに左側まで延びる水平方向にワイドな配光パターン。図41参照)を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Dは、水平方向の拡散の程度が拡散配光パターンP3よりも大きく各配光パターンP1〜P3に重畳される大拡散配光パターンP4を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10Dの第4レンズ体12Dは、その光軸AX4が基準軸AX0に対してさらに外側に傾斜した(図40では21°を例示)姿勢で配置されている。第4レンズ体12Dの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に、水平方向の拡散の程度が拡散配光パターンP3よりも大きく各配光パターンP1〜P3に重畳される大拡散配光パターンP4(拡散配光パターンP3の右端近傍から左端のさらに左側まで延びる左右方向に超ワイドな配光パターンP4。図41参照)を形成するように構成されている。
ヘッドランプユニット10A〜10Bは、水平方向の拡散の程度が大きいヘッドランプユニット程、車両側面寄りかつ車両後方寄りに配置されており(図40参照)、車両側面寄りのヘッドランプユニット程、車両前後方向に延びる基準軸AX0に対する車両側面側への傾斜角度が大きくなるように配置されている(図40参照)。
この配置によれば、ヘッドランプユニットを車両デザインにあわせて車両前端から車両側面に回り込むように配置したとしても(例えば図40参照)、車両側面寄りのヘッドランプユニット(例えば図40中ヘッドランプユニット10D参照)からの照射光がこれに隣接するヘッドランプユニット(例えば図40中ヘッドランプユニット10C参照)により遮られることなく拡散配光パターン(例えば図41中のP2〜P4参照)を形成することが可能となる。
また、ホットゾーン配光パターンP1、中拡散配光パターンP2、拡散配光パターンP3、大拡散配光パターンP4を含む個々の部分配光パターンが重なり外側に向かうにつれ光度が低下するグラデーション状の全体としてロービーム用配光パターンに最適化された水平方向に超ワイドな配光パターン(図41、図46参照)を構成することが可能となる。
しかも、この超ワイド配光は外側に向かうにつれ光度が低下するグラデーション状の配光であるため(図41、図46参照)、周辺視による左側(及び右側)の視認性を向上させつつ、周囲の歩行者等に対するグレアを防止又は低減することが可能となる。なお、放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ない(図42〜図45参照)。
[比較例]
以下、本実施形態のヘッドランプ10(相関色温度:6000[K]、光束:1100[lm]のLED光源11を用いている)の優位性について、従来のLEDヘッドランプ(相関色温度:4300[K]、光束:540[lm]。以下、従来例1と称する)、従来のHIDヘッドランプ(相関色温度:4100[K]、光束:1100[lm]。以下従来例2と称する)と対比させつつ説明する。
図46は、本実施形態のヘッドランプ10により鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。図47は、従来例1のヘッドランプにより鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。図48は、本実施形態のヘッドランプ10により路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。図49は、従来例1のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。図50は、従来例2のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。
図46〜図50を参照すると、本実施形態のヘッドランプ10によれば、レンズ体12A〜12Dの作用により、左側に配置されたヘッドランプ10については従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて左側に大きく延びる超ワイド配光(図41、図46参照)を形成すること(及び右側に配置されたヘッドランプ10については従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて右側に大きく延びる超ワイド配光を形成すること)が分かる。
そして、本実施形態のヘッドランプ10によれば、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11を用いており、このLED光源11からの光が超ワイド配光(図41、図46)を形成することを考慮すると、正面の視認性が向上するだけでなく、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて周辺視による左側(及び右側)の視認性(気づき)が大きく向上することが分かる。
[走りやすさの評価]
本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の走りやすさを評価すべく、次の実験を行った。
実験環境:本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を用いた。
実験手順:本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両で実際に走行し、主観的評価スケール(1:走りづらい、2:やや走りづらい、3:普通、4:やや走りやすい、5:非常に走りやすい)を用いて、走りやすさを評価した。被験者は18名である。
図51は、走りやすさの評価結果をまとめたグラフである。図51を参照すると、本実施形態のヘッドランプ10の評価値が最も高いことが分かる。これは、主に、本実施形態のヘッドランプ10では、左側(及び右側)に大きく延びる超ワイド配光を採用していることに起因していると考えられる。
本実施形態のヘッドランプ10は、光束がほぼ同じ従来例2のヘッドランプと比べ、評価値が0.8も高い。これは、主に、HIDと比べ、LEDの照明下での色の見え方が標準光源の照明下での色の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること。図37参照)、左側(及び右側)に大きく延びる超ワイド配光を採用していることに起因していると考えられる。
従来例1のヘッドランプは、従来例2のヘッドランプと比べ、評価値が1点低い。これは、従来例1のヘッドランプが従来例2のヘッドランプ(光束:1100[lm])よりも低光束(540[lm])であるため、配光の広がりが少ないことが主因と考えられる。
[色の見えやすさの評価]
本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の走行時の色の見えやすさを評価すべく、次の実験を行った。
実験環境:本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を用いた。路肩には、赤・緑・青・黄の色標C1を配置した(図52参照)。
実験手順:本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプが搭載された車両で実際に走行し、主観的評価スケール(1:見えない、2:くすむ、3:普通、4:やや鮮やか、5:非常に鮮やか)を用いて、色標C1の見えやすさを評価した。被験者は18名である。
図53は、走行時の色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。図53を参照すると、赤・緑・青・黄のいずれについても本実施形態のヘッドランプ10の評価値が最も高いことが分かる。これは、本実施形態のヘッドランプ10に用いたLED光源11の色温度(6000[K])に起因して、色の識別、鮮やかに見える結果になったと考えられる。
図53を参照すると、本実施形態のヘッドランプ10は、従来例1、従来例2のヘッドランプの評価値を大きく上回っており、標識の知覚に優れているといえる。禁止、規制を意味する赤色については、従来例2のヘッドランプに対し1.9(70%)、従来例1のヘッドランプに対し2.1(84%)高い。「注意」を意味する黄色については、従来例2のヘッドランプに対し1.7(59%)、従来例1のヘッドランプに対し1.9(77%)高い。このことからみて、本実施形態のヘッドランプ10によれば、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能となるだけでなく、色の知覚の面での視認性をも向上させることが可能となると推測できる。
[交差点右折時の場面における評価]
本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の交差点右折時の場面における色の見えやすさを評価すべく、次の実験を行った。
実験環境:本実施形態のヘッドランプ10、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を、交差点の手前に停車させた(図54(a)参照)。交差点の周囲には、色標C2(赤・緑・青・黄)を配置した(図54(a)、図54(b)参照)。
実験手順:主観的評価スケール(1:見えない、2:くすむ、3:普通、4:やや鮮やか、5:非常に鮮やか)を用いて、交差点右折時の場面における色の見えやすさを評価した。被験者は18名である。
図55は、交差点右折時の場面における色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。図55を参照すると、横断歩道手前、横断歩道中央、横断歩道奥、路肩正面のいずれについても本実施形態のヘッドランプ10の評価値が最も高いことが分かる。
本実施形態のヘッドランプ10は、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べ、横断歩道手前の評価点が3も高い。これは、主に、右側に配置されたヘッドランプ10が従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて右側に大きく延びる超ワイド配光を形成すること、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11を用いており、このLED光源11からの光が超ワイド配光を形成することに起因していると考えられる。このことは、右折時の巻き込み事故の低減に大きな効果があると考えられる。また、本実施形態のヘッドランプ10は、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べ、横断歩道中央、横断歩道奥それぞれの評価点が1.5以上高いため、事故低減に優位であると推測できる。
以上説明したように、本実施形態の車両用ヘッドランプ10によれば、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11、すなわち、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源11を用いているため、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能となる。次に、変形例について説明する。
[ヘッドランプユニットの配置(変形例1〜変形例3)の概要]
本変形例1(以下の変形例2、変形例3も同様)は、図40に示した四つのヘッドランプユニット10A〜10Dを、上段と下段ではなく発光範囲が正面視で鉛直方向に隣接せず車幅方向に隣接した状態で配置し(例えば図64、図67、図69、図71参照)、当該複数のヘッドランプユニット10A〜10D(発光範囲)それぞれからの照射光により形成される個々の部分配光パターンPLA〜PLB(図65(A)等参照)のみでロービーム用配光パターンを形成する構成である。このヘッドランプユニット10A〜10Dの配置により、鉛直方向に切れ目無く連続した発光範囲が形成されるため(例えば図64、図67、図69、図71参照)、上段の光学ユニットと下段の光学ユニットの取り付け高さの相違に起因する照度断面の段差(照度ムラ)を防止することが可能となる(図65、図68、図70参照)。
[ヘッドランプユニットの配置(変形例1)]
以下、図面を参照しながら変形例1について詳細に説明する。
図64は、ヘッドランプユニットの配置(変形例1)を示した正面図である。
本変形例1のヘッドランプ20は、図40に示した四つの光学ユニット10A〜10Dを、それぞれの発光範囲が正面視で同じ高さとなるように水平方向(車幅方向)に配置した構成である。
図64中の矩形範囲は、光学ユニット10A〜10Dから光が出射される範囲(以下発光範囲と称す)を表している。
図65は、本変形例1のヘッドランプ20からの照射光により、灯具前方の所定距離(例えば25m)の位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示した図である。各光学ユニット10A〜10Dからは、灯具前後方向に関して少なくともロービーム用の配光として法規で定められている出射角度以下の光が出射されるようになっている。たとえば、水平方向に対して下向き0.57度以下の光が出射され、各光学ユニット10A〜10Dにおいて、各々から出射される光線のうち上端を形成する光線の出射角度がいずれも下向き0.57度となるように設定されている。
なお、以下において、配光パターンは、例えば図65(A)に示すように上方の明暗境界線が水平線にほぼ平行なものを便宜的に用いているが、本発明で形成する配光パターンはこれに限られない。すなわち、本発明は、例えば、特開2008−78086号公報に記載の遮光膜を用いることで、図72に示すような一般的なロービーム用の配光パターンにも適用可能である。
このとき各光学ユニット10A〜10Dに対応した配光パターンPLA〜PLDが、ヘッドランプ20の高さを示す水平ラインHよりも低い位置に形成され、それらの配光パターンPLA〜PLDを合成したものがヘッドランプ20全体の配光パターンとして得られるようになっている。
ここで、各光学ユニット10A〜10Dにより形成される配光パターンPLA〜PLDの例として図66において光学ユニット10Aにより得られる配光パターンPLAのみを示す。同図に示すように配光パターンPLAは、上端縁において光が照射される範囲と光が照射されない範囲の境界となる明暗境界線が形成される境界範囲PLAaと、境界範囲PLAa以外の光が照射される配光範囲PLAbとから形成される。
境界範囲PLAaは、明暗境界線が明瞭ではない(いわゆるボケた)状態で投影された範囲に相当しており、光学ユニット10Aから出射される光のうち、最も上向きの角度で発光範囲から出射される平行光が照射される範囲であり、鉛直方向に関して光学ユニット10Aの発光範囲と同一の高さを有している。この境界範囲PLAaでは、境界範囲PLAaの上端縁から境界範囲PLAaの下端縁まで照度値が徐々に増加する分布を示す。
一方、配光範囲PLAbは、光学ユニット10Aの設計によって自由にその配光パターン(形状、大きさ、照度)を制御できる範囲である。
他の光学ユニット10B〜10Dにより形成される配光パターンPLB、PLC、PLDについても上記配光パターンPLAと同様に各々、図65(A)に示すように光学ユニット10B〜10Dの発光範囲の上下方向の高さと同一の高さを有する境界範囲PLBa、PLCa、PLDaと、自由に配光パターンを制御できる配光範囲PLBb、PLCb、PLDbとから形成されている。
そして、図64に示した光学ユニット10A〜10Dの配置の場合、各光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の高さが一致しており、また、各光学ユニット10A〜10Dから出射される上端の光線(配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDの上端縁を形成する光線)の出射角度が一致しているため、それらの境界範囲PLAa、PLBa、PLCa、PLDaが鉛直方向の同じ位置で重ね合わされるようになっている。
これにより得られるヘッドランプ20全体の配光パターンは、ヘッドランプ20の左右中心位置を示すVライン上において、図65(B)の照度断面図のような照度分布を示す。これによれば、上下の周辺部よりも照度値が低くなる極小値は存在せず、照度ムラ(配光ムラ)が生じていない理想的な配光パターンが形成されている。すなわち、各光学ユニット10A〜10Dにより形成される配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDの明暗境界線のボケの範囲となる境界範囲PLAa、PLBa、PLCa、PLDaが重ね合わせられるため、照度ムラが発生せず、また、ヘッドランプ20全体としての配光パターンの明暗境界線のボケの範囲も最小にすることができる。
尚、各光学ユニット10A〜10Dが受け持つ配光範囲は、上記の場合と異なっていてもよいし、各光学ユニット10A〜10Dにより形成される配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDは上記実施の形態で示したものでなくてもよい。また、いずれかの光学ユニットの配光範囲が水平方向に関して正面以外の角度方向となるようにしてもよい。
また、上記変形例1では、ヘッドランプ20が4つの光学ユニット10A〜10Dを有し、各光学ユニット10A〜10Dの発光範囲が同一の形状及び大きさの場合について説明したが、ヘッドランプ20の光学ユニットの数が4以外の複数の場合や、各光学ユニットの発光範囲が同一でない場合の構成を含めて変形例1は以下の条件(変形例1の条件)を満たすように各光学ユニットの発光範囲が配置されたものである。すなわち、ヘッドランプ20に配置される複数(任意の数)の光学ユニットの発光範囲のうち、鉛直方向に最も高さの大きい発光範囲が配置される鉛直方向の位置範囲(高さ範囲)内に他の光学ユニットの発光範囲が配置されるように構成する。たとえば、各光学ユニットの発光範囲の上端、下端、又は、中心位置が同じ高さとなるように配置することが考えられる。
[ヘッドランプユニットの配置(変形例2)]
次に、変形例2について説明する。
図67は、ヘッドランプユニットの配置(変形例2)を示した正面図である。
本変形例2のヘッドランプ30は、図40に示した四つの光学ユニット10A〜10Dを、それぞれの発光範囲が正面視で異なる高さ、すなわち、左端の(又は右端の)光学ユニット10Aを最も高い位置に配置し、右端の(又は左端の)光学ユニット10Dまで順に左側の(又は右側の)光学ユニットより低い位置に配置した構成である。
また、最も高い位置に配置される光学ユニット10Aの発光範囲の下端縁の位置と最も低い位置に配置される光学ユニット10Dの発光範囲の上端縁との高さが一致するように配置されており、光学ユニット10B、10Cの発光範囲が、光学ユニット10Aの発光範囲の上端縁と、光学ユニット10Dの発光範囲の下端縁との間の範囲内となるように配置されている。
図68(A)は、ヘッドランプ30から照射される光により、灯具前方の所定距離(例えば25m)の位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示した図である。各光学ユニット10A〜10Dからは、灯具前後方向に関して少なくともロービーム用の配光として法規で定められている出射角度以下の光が出射されるようになっている。たとえば、水平方向に対して下向き0.57度以下の光が出射され、各光学ユニット10A〜10Dにおいて、各々から出射される光線のうち上端を形成する光線の出射角度がいずれも下向き0.57度となるように設定されている。
このとき各光学ユニット10A〜10Dに対応して、図65(A)に示した配光パターンと同様の配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDが、車両用前照灯300の高さを示す水平ラインHよりも低い位置に形成されるとともに、光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の高さの違いに対応して、配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDも光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の高さの相違分だけ異なる高さに形成される。
また、光学ユニット10Aにより形成される配光パターンPLAの境界範囲PLAaの下端縁と、光学ユニット10Dにより形成される配光パターンPLDの境界範囲PLDaの上端縁とが同じ高さに形成され、境界範囲PLAaと境界範囲PLDaの範囲内に光学ユニット10B、10Cにより形成される配光パターンPLB、PLCの境界範囲PLBa、PLCaが形成される。
これにより得られるヘッドランプ30全体の配光パターンは、ヘッドランプ30の左右中心位置を示すVライン上において、図68(B)の照度断面図のような照度分布を示す。これによれば、上下の周辺部よりも照度値が低くなる極小値は存在せず、照度ムラ(配光ムラ)が生じていない配光パターンが形成されている。
尚、各光学ユニット10A〜10Dが受け持つ配光範囲は、上記の場合と異なっていてもよいし、各光学ユニット10A〜10Dにより形成される配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDは上記実施の形態で示したものでなくてもよい。また、いずれかの光学ユニットの配光範囲が水平方向に関して正面以外の角度方向となるようにしてもよい。
また、上記変形例2では、ヘッドランプ30が4つの光学ユニット10A〜10Dを有し、各光学ユニット10A〜10Dの発光範囲が同一の形状及び大きさの場合について説明したが、ヘッドランプ30の光学ユニットの数が4以外の複数の場合や、各光学ユニットの発光範囲が同一でない場合の構成を含めて変形例2は以下の条件(変形例2の条件)を満たすように各光学ユニットの発光範囲が配置されたものである。すなわち、ヘッドランプ30に配置される複数(任意の数)の光学ユニットの発光範囲のうち、上端が最も高い位置に配置される発光範囲(最上端の発光範囲)と、下端が最も低い位置に配置される発光範囲(最下端の発光範囲)が、鉛直方向に連続した範囲を形成するように配置され、他の光学ユニットの発光範囲がその連続した範囲内に配置されるように構成する。この条件のうち変形例1の条件を満たす範囲を除いた範囲が変形例2の条件となる。尚、最上端の発光範囲の下端の位置が、最下端の発光範囲の上端の位置よりも低い位置となる場合、又は、それらの位置が一致する場合には、それらの発光範囲が鉛直方向に連続した範囲を形成しているものとする。
変形例2の条件を満たすように複数の光学ユニットの発光範囲を配置した場合、変形例1に比べるとヘッドランプ30全体の配光パターンにおける明暗境界線のボケの範囲が大きくなるが、各光学ユニットによる配光パターンのボケの範囲が重ね合わせられるため、照度ムラが発生しない。
[ヘッドランプユニットの配置(変形例3)]
次に、変形例3について説明する。
図69は、ヘッドランプユニットの配置(変形例3)を示した正面図である。
本変形例3のヘッドランプ40は、図40に示した四つの光学ユニット10A〜10Dを、それぞれの発光範囲が正面視で異なる高さ、すなわち、左端の(又は右端の)光学ユニット10Aを最も高い位置に配置し、右端の(又は左端の)光学ユニット10Dまで順に左側の(又は右側の)光学ユニットより低い位置に配置した構成である。
一方、ヘッドランプ40は、図67のヘッドランプ30とは光学ユニット10A〜10Dの配置の条件が異なり、最も高い位置に配置される光学ユニット10Aの発光範囲と、最も低い位置に配置される光学ユニット10Dの発光範囲とが鉛直方向に関して連続していない。
しかしながら、光学ユニット10A〜10Dの発光範囲が、鉛直方向に関して連続するように配置されており、光学ユニット10Aの発光範囲の下端縁と、光学ユニット10Bの発光範囲の上端縁の高さが一致し、光学ユニット10Bの発光範囲の下端縁と、光学ユニット10Cの発光範囲の上端縁の高さが一致し、光学ユニット10Cの発光範囲の下端縁と、光学ユニット10Dの発光範囲の上端縁の高さが一致している。
図70(A)は、ヘッドランプ40から照射される光により、灯具前方の所定距離(例えば25m)の位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示した図である。ヘッドランプ40の各光学ユニット10A〜10Dからは、灯具上下方向に関して少なくともロービーム用の配光として法規で定められている出射角度以下の光が出射されるようになっている。例えば、水平方向に対して下向き0.57度以下の光が出射され、各光学ユニット10A〜10Dにおいて、各々から出射される光線のうち上端を形成する光線の出射角度がいずれも下向き0.57度となるように設定されている。
このとき各光学ユニット10A〜10Dに対応して、図65(A)に示した配光パターンと同様の配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDが、ヘッドランプ40の高さを示す水平ラインHよりも低い位置に形成されるとともに、光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の高さの違いに対応して、配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDも光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の高さの相違分だけ異なる高さに形成される。
また、配光パターンPLAの境界範囲PLAaの下端縁と、配光パターンPLBの境界範囲PLBaの上端縁とが同じ高さに形成され、配光パターンPLBの境界範囲PLBaの下端縁と、配光パターンPLCの境界範囲PLCaの上端縁とが同じ高さに形成され、配光パターンPLCの境界範囲PLCaの下端縁と、配光パターンPLDの境界範囲PLDaの上端縁とが同じ高さに形成される。
これにより得られるヘッドランプ40全体の配光パターンは、ヘッドランプ40の左右中心位置を示すVライン上において、図70(B)の照度断面図のような照度分布を示す。これによれば、照度値にうねりが生じるが、上下の周辺部よりも照度値が低くなる極小値は存在せず、照度ムラ(配光ムラ)が生じていない配光パターンが形成されている。
尚、各光学ユニット10A〜10Dが受け持つ配光範囲は、上記の場合と異なっていてもよいし、各光学ユニット10A〜10Dにより形成される配光パターンPLA、PLB、PLC、PLDは上記実施の形態で示したものでなくてもよい。また、いずれかの光学ユニットの配光範囲が水平方向に関して正面以外の角度方向となるようにしてもよい。
また、上記変形例3では、ヘッドランプ40が4つの光学ユニット10A〜10Dを有し、各光学ユニット10A〜10Dの発光範囲が同一の形状及び大きさの場合について説明したが、ヘッドランプ40の光学ユニットの数が4以外の複数の場合や、各光学ユニットの発光範囲が同一でない場合の構成を含めて変形例3は以下の条件(変形例3の条件)を満たすように各光学ユニットの発光範囲が配置されたものである。すなわち、ヘッドランプ40に配置される複数(任意の数)の光学ユニットの発光範囲が、鉛直方向に連続する1つの範囲を形成するように配置される。ただし、この条件のうち変形例2の条件を満たす範囲を除いた範囲が変形例3の条件となる。例えば、図71のヘッドランプ41に示すように4つの光学ユニット10A〜10Dの発光範囲の鉛直方向の幅が異なる場合であっても、それらの発光範囲を鉛直方向に連続する1つの範囲を形成するように配置することによって照度ムラを生じさせないようにすることができる。
この変形例3の条件を満たすように複数の光学ユニットの発光範囲を配置した場合、変形例1及び変形例2に比べるとヘッドランプ40(又はヘッドランプ41)全体の配光パターンにおける明暗境界線のボケの範囲が大きくなるが、各光学ユニットによる配光パターンのボケの範囲が鉛直方向に離間することがないため、照度ムラが発生しない。
以上、上記変形例1〜変形例3で説明した車両用前照灯の構成は、二輪車、四輪車、電車等の任意の種類の車両の前照灯の構成として適用することができ、また、前照灯に限らず、フォグランプ等の任意の種類の車両用灯具の構成としても適用できる。
また、上記変形例1〜変形例3では、車両用灯具として配置される複数の光学ユニットの各々から出射される光線のうち配光パターン(各光学ユニットが形成する配光パターン)の上端を形成する光線(最も上向きの光線)が全て同一の出射角度であるものとしたが、これに限らず、各光学ユニットから出射される光線のうち配光パターンの上端を形成する光線が、任意の距離、たとえば、灯具前方50〜80m程度の所定距離に位置する路面を照射する出射角度となるように各光学ユニットの発光範囲が配置される路面からの高さに基づいて各光学ユニットごとに配光パターンの上端を形成する光線の出射角度を設定するようにしてもよい。すなわち、図73に示すように、配光パターンの上端への寄与が最も高い光学ユニットの発光範囲が配置される高さをa(m)とし、その光学ユニットにおいて配光パターンの上端を形成する光線が路面を照射する位置までの距離をI(m)、その光線の出射角度をmとすると、発光範囲が配置される高さb(m)の光学ユニットにお
いて配光パターンの上端を形成する光線の出射角度xが、次式、x=m−arctan{(a−b)/I}により求められる角度(水平方向に対する下向き角度)となるように設定するようにし、各光学ユニットにより形成される配光パターンの明暗境界線のボケの範囲が灯具前方の距離Iの路面上で重なり合うようにしてもよい。
以上説明したように、変形例1〜変形例3によれば、図40に示した四つのヘッドランプユニット10A〜10Dを、上段と下段ではなく発光範囲が正面視で鉛直方向に隣接せず車幅方向に隣接した状態で配置し(例えば図64、図66、図68、図70参照)、当該複数のヘッドランプユニット10A〜10D(発光範囲)それぞれからの照射光により形成される個々の部分配光パターンP1〜P4のみでロービーム用配光パターンを形成する構成である。このヘッドランプユニット10A〜10Dの配置により、鉛直方向に切れ目無く連続した発光範囲が形成されるため(図64、図66、図68、図70参照)、上記上段の光学ユニットと下段の光学ユニットの取り付け高さの相違に起因する照度断面の段差(照度ムラ)を防止することが可能となる(図65、図67、図69、図71参照)。
なお、変形例1〜変形例3を適用可能なヘッドランプユニットは、図40に示した四つのヘッドランプユニット10A〜10Dに限定されない。例えば、後述のヘッドランプユニット50A〜50D、その他構成のヘッドランプユニットであっても同様に適用可能である。
また、変形例1〜変形例3では、四つのヘッドランプユニット10A〜10Dを用いた例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、2つ、3つ又は5つ以上のヘッドランプユニットを用いることも可能である。
[ヘッドランプユニット(変形例4〜変形例6)の概要]
本変形例4(以下の変形例5、変形例6も同様)は、色収差に起因する明暗境界線近傍の虹状の着色を防止又は軽減すべく、図76等に示すように、ヘッドランプユニット50A〜50Dを構成した。
ヘッドランプユニット50A〜50Dは、予め定められた白色範囲のロービーム用配光パターンを構成する部分配光パターンの形成に用いられる光を照射するように構成されたヘッドランプユニットである。
ヘッドランプユニット50A〜50Dは、共通の構成として、LED光源51、LED光源51の前方に配置されたレンズ体52等を備えている。
LED光源51は、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源、すなわち、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa*−b*座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源である。
LED光源51としては、例えば、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせたLED光源、例えば、図11に示す相関色温度のLED(T6、T7、T9)を用いることが可能である。この場合、例えば、黄色蛍光体の濃度や組成を調整することで、上記明らかにした視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源を構成することが可能である。あるいは、LED光源11としては、紫外LEDと白色(三原色)蛍光体とを組み合わせたLED光源、赤・緑・青の3色LEDを組み合わせたLED光源を用いることも可能である。
図76に示すように、レンズ体52は、LED光源51から放射された光がレンズ内部に入射する入光面52aと、出射面52bと、入光面52aからレンズ内部に入射した光を内部反射し当該反射光が出射面52bから出射し明暗境界線CLを有する部分配光パターンPA等(図77参照)を形成するように構成された反射面52cと、を含む中実のレンズ体である。
反射面52cは、明暗境界線CLに対応するLED光源51の一辺51Bから放射され入光面52aに垂直に入射し屈折することなくレンズ内部に入射した基準波長の光X1(G1)を内部反射し当該反射光が出射面52bから出射し明暗境界線CLを形成するように構成された第1反射領域(図76中T1に対応する領域)と、明暗境界線CLに対応するLED光源51の一辺51Bから放射され入光面52aに垂直以外の角度で入射しその入射角度に応じて屈折してレンズ内部に入射した基準波長よりも長い波長の光R2を内部反射し当該反射光が出射面52bから出射し明暗境界線CL以下に配光されるように構成された第2反射領域52c(図76中、光R2と反射面52cとの交点とT1との間の領域)と、明暗境界線CLに対応するLED光源51の一辺51Bから放射され入光面52aに垂直以外の角度で入射しその入射角度に応じて屈折してレンズ内部に入射した基準波長よりも短い波長の光B3を内部反射し当該反射光が前記出射面52bから出射し明暗境界線CL以下に配光されるように構成された第3反射領域51c2(図76中、光R3と反射面52cとの交点とT1との間の領域)と、を含んでいる。
この構成によれば、入光面52aへの入射角度に応じて屈折してレンズ内部に入射した明暗境界線CL近傍の虹状の着色の原因となるLED光源51からの光(基準波長よりも短い波長の光R2及び長い波長の光B3)は、第2反射領域52c1及び第3反射領域52c2の作用により明暗境界線CL以下に配光されるため、色収差に起因する明暗境界線近傍の虹状の着色を防止又は軽減することが可能となる。
第2反射領域52c1は、レンズ内部に入射した基準波長よりも長い波長の光R2を内部反射し当該反射光が出射面52bから出射し明暗境界線CL上又は部分配光パターンPA内に配光されるように構成されており、第3反射領域52c2は、レンズ内部に入射した基準波長よりも短い波長の光B3を内部反射し当該反射光が出射面52c2から出射し明暗境界線CL上又は部分配光パターンPA内に配光されるように構成されているのが望ましい。
このようにすれば、入光面への入射角度に応じて屈折してレンズ内部に入射した明暗境界線CL近傍の虹状の着色の原因となる光(基準波長よりも短い波長の光R2及び長い波長の光B3)は、第2反射領域52c1及び第3反射領域52c2の作用により明暗境界線CL上又は部分配光パターンPA内に配光されるため、部分配光パターンPA中の色ムラを防止又は軽減することが可能となる。
また、反射面52cは、LED光源51の端部51Bから放出された光を明暗境界線CL及び部分配光パターンPAの内側に拡がる方向に出射面52bから出射するように形成されており、これによりLED光源51の端部51Bから放出された光をLED光源51の光放出面51A上の端部51B以外の光放出面上の点から放出された光に重ね合わせるように形成されているのが望ましい。
このようにすれば、LED光源51の端部51Bから放出された光がLED光源51の端部51B以外の点から放出された光に混ぜ合わされるため、LED光源51の端部51Bにおける色ムラに起因する部分配光パターンPAの色ムラを防止又は軽減することが可能となる。
[ヘッドランプユニット(変形例4)]
以下、変形例4について詳細に説明する。
図75は、ヘッドランプ50の正面図であり、同図におけるヘッドランプ50は、例えば自動車や自動二輪車等におけるすれ違い光(ロービーム)用のヘッドランプに適用されるもので、1つのLED光源51と1つのレンズ体52(ライトガイド)の組合せからなる複数(4つ)の光源ユニット50A〜50Dを備えている。これらの光源ユニット50A〜50Dは基本的構成が同一であるが配光パターンが相違しており、各光源ユニット50A〜50Dの出射面から出射される照明光を重ね合わせることで、ヘッドランプ50の配光パターンとしてすれ違い光(ロービーム)の配光パターンの照明光を照射する構成となっている。同図のヘッドランプ50では、各光源ユニット50A〜50Dが水平方向に一列に配置されているが、各光源ユニット50A〜50Dの配置形態はこれに限らず、また、光源ユニットの数も4つに限らず、1つ又は4つ以外の複数であってもよい。
図76は、ヘッドランプ50の1つの光源ユニット50Aの構成を示した鉛直断面図である。同図に示す光源ユニット50Aは、耐熱性の高い透明樹脂であるポリカーボネート材により射出形成されたレンズ体52(ライトガイド)と、LED光源51等を備えている。
レンズ体52は、例えば、入射面52aを含む底面と、車両後方側(灯具後方側)に配置される反射面52cと、車両前方側に配置される出射面52bと、車両上方側に配置される上面と、車両側方両側に配置される図示しない2つの側面とで囲まれた立体形状に形成されている。
入射面52aは、LED光源51から出射された光がレンズ体52内部に入射する入光面であり、車両前後方向に関して斜めに傾斜した平面により形成されている。底面を構成する他の面は水平な平面で構成されている。
反射面52cは、LED光源51から出射されて入射面52aによりレンズ体52内部に入射した光を予め定められた方向へ反射する面であり、例えば、回転放物面系の形状を基調として形成されている。この反射面52cは、内面での全反射によるものでもよいし、全反射されない部分等において外面にアルミニウムなどの金属の反射膜等を形成して鏡面によって反射させるようにしてもよい。
出射面52bは、反射面52cからの反射光が出射する面であり、本実施の形態では車両前後方向に直交する鉛直方向の平面で形成されている。
LED光源51は、例えば、一つ又は複数のLEDチップをパッケージ化した白色光を出射する光源であり、光を放出する平面状の光放出面50Aが略鉛直方向上向きに配置されている。例えば、LEDチップとして青色発光のInGaN系のLEDチップを用い、図84に示すように回路基板202に実装された当該LEDチップ200上に波長変換材料層204を平面状に設けたものを用いることができる。波長変換材料層204は、例えば公知のYAG蛍光体をシリコーン樹脂中に分散したものなどが用いられる。これによりLEDチップからの青色と、YAG蛍光体に波長変換された黄色(赤色成分および緑色成分を含む光)との混色により白色光を出射する。なお、光放出面51Aは平面状に限るものではなく、凸形状をなしたものでもよい。
図84においては、InGaN系のLEDチップを所定の間隙をあけて直線状に3個並べたものを用い、LEDチップ間の間隙部を含むLEDチップ周囲を図84(B)および(C)に示すように波長変換材料層204の上面が平面になるように矩形に覆ったものとしている。波長変換材料層を上面平面状に形成するには、例えば液状の透光性樹脂材料に波長変換材料を分散したものを印刷法などにより塗布した後に硬化することで形成できる。
以上のごとく構成された光源ユニット50A、及び、これと同様に構成された光源ユニット50B〜50Dからなるヘッドランプ50は、各光源ユニット50A〜50Dから照射される照明光を重ね合わせることで、図77に示すようなすれ違い光用の配光パターンを形成する。尚、本実施の形態のヘッドランプ50は、左走行用の車両に設置されるヘッドランプであり、右走行用の車両に設置する場合には、車両用灯具50の構成要素が左右反転され、配光パターンも左右反転したパターンとなる。
同図には、ヘッドランプ50の真正面の方向(基準軸の方向)に対して水平方向の角度を示す(ヘッドランプ50の水平の高さを示す)Hラインと、鉛直方向の角度を示す(左右中央位置を示す)Vラインが示されている。
同図に示すように、ヘッドランプ50の配光パターンPは、Hラインより下向きとなる角度範囲内において、左右方向に広角度範囲の配光領域を有し、Vラインよりも右側に約25度、左側に約65度となる角度範囲まで照明光が照射されるようになっている。その配光パターンPの上端縁には、光が照射される明るい領域と、光が照射されない暗い領域との明暗境界を示す明暗境界線(カットオフライン)CLが水平方向に形成され、その明暗境界線CLは、Hラインの近傍(例えば下向き0.57度)に形成される。
また、配光パターンPは、各光源ユニット50A〜50Dごとの配光パターン(配光領域)PA〜PDを重ね合わせて形成されており、例えば、光源ユニット50Aは、HV中心点(H=V=0度)付近の狭い領域を明るく照明する配光パターンPAを形成し、光源ユニット50B、50Cは、配光パターンPAを含む中程度の配光パターンPB、PCを形成し、光源ユニット50Dは、配光パターンPA、PB、PCを含む大きな配光パターンPDを形成している。ただし、各光源ユニット50A〜50Dがどの配光パターンPA〜PDを形成するかは上記の場合に限らず、また、各光源ユニット50A〜50Dの配光パターンPA〜PDも上記の場合に限らない。更に、ヘッドランプ50としての全体の配光パターンPも図77に示したものに限るものではなく、光源ユニットの数も4個に限らず3個もしくは2個、あるいは5個以上のものでもよい。
ところで、各光源ユニット50A〜50Dは、同様の方法で光学設計が行われており、例えば光源ユニット50Aの光学設計を行う場合、まず、LED光源51の光放出面51Aから各方向に放出される白色光線(可視光領域の波長からなる光線)に対して、図77に示した配光パターンPAが形成されるように、LED光源51とレンズ体52の位置関係や、それらの白色光線の目標の照射方向(白色光線をレンズ体52から出射する際の目標の出射方向)が決められる。そして、光放出面51Aから各方向に放出される各白色光線が目標の出射方向となるようにレンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの形状が設定される。本実施の形態では、光放出面51Aのうち車両前後方向に関して最後端となる光放出点51Bが明暗境界線CLに拡大投影されることでカットオフラインを形成するように回転放物面形系の反射面52cを設定している。最後端を明暗境界線CLとすれば、光放出面51Aのうち最前端からの放出光は明暗境界線CLより下側に向くことになり、Hラインより上向きのグレア光を生じないからである。
このような光学設計を行う際に、白色光線の入射面52aや出射面52bでの入射角に対する屈折角は、レンズ体52の材料に応じた屈折率が用いられるとともに、光の波長によって屈折率が異なる場合には、特定の基準波長に対する屈折率(以下、基準屈折率という)が白色光線の波長全域(可視光領域)での一定の屈折率として近似的に用いられる。本実施の形態では、白色光線の波長領域の略中心波長である緑色の波長を基準波長、緑色の波長の屈折率を基準屈折率として、白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定し、図77に示した配光パターンPAが得られるようにレンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの形状等の光学設計が行われるものとする。
一方、本変形例4のようにレンズ体52を透明樹脂材料にて形成した場合、無機材料であるガラスレンズに比べて光の波長ごとの屈折率の違いが大きい。特に透明性、耐熱性および耐候性に優れたポリカーボネート材で形成した場合、ポリカーボネート材は光の波長ごとの屈折率の違いが大きく、色分散が大きいため、上記のように基準屈折率を想定して図77の配光パターンPAが得られるように光学設計を行うと、配光パターンPAの明暗境界線CLの角度位置よりも上側に色分散による意図しない色分離した照明領域(色にじみの領域)が形成されてしまうという不具合が生じる。光源ユニット50B〜50Dについても同様の光学設計を行うと、図78のようにヘッドランプ50としての配光パターンPの明暗境界線CLの上側全体に意図しない色分離した照明領域Qが形成される。ここで、色分散とは、光の分散(dispersion of light)をいい、光がレンズ等に入射したとき、その波長によって屈折率が異なる現象をいう。
すなわち、レンズ体52は基本的にLED光源51の光放出面51Aを拡大投影することによって図77のような配光パターンPAを形成するものである。従って、上記のように白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定し、レンズ体52の色分散を考慮せずに図77の配光パターンPAが得られるように光学設計を行った場合、光放出面51Aのうち車両前後方向に関して最後端となる光放出点51Bがレンズ体52全体の焦点となるようにLED光源51の光放出面51Aとレンズ体52との位置関係が決定される。なお、レンズ体52全体の焦点とは、回転放物面系の反射面52cの焦点位置について入射面52aによる屈折による影響を考慮して調整した焦点位置をいう。このとき、その光放出点51Bから各方向に放出された白色光線が、設計目標とする明暗境界線CLの角度方向に略平行な光線として照射される。そして、光放出点51Bより車両前方側の光放出面51Aの各点から放出された白色光線が、設計目標の明暗境界線CLよりも下側の角度範囲を照明するように設計される。
これに対し、レンズ体52で生じる実際の色分散を考慮すると、光放出点51Bから放出された白色光線のうち、入射面52aと出射面52bの両方で屈折しない光路(非屈折光路)を通過するものは、設計目標の明暗境界線CLの角度方向に照射されるが、入射面52a又は出射面52bで屈折する光路(屈折光路)を通過するものについては、基準屈折率として用いた緑色の波長の光線(緑色の光線)以外の波長の光線、すなわち、その緑色の波長より長波長側又は短波長側の赤色や青色の光線が、それらの波長の実際の屈折率が基準屈折率と相違するため、レンズ体10の屈折が生じる面で緑色の光線とは異なる方向に分離される。その結果、赤色や青色の光線の一部が設計目標とした明暗境界線CLよりも上向きの角度方向に照射され、明暗境界線CLの上側に色にじみを生じさせ、明暗境界線CLの上側に図78のような意図しない照明領域Qを形成する。この照明領域Qは、配光パターンの色度の均一性を阻害する(色ムラを生じさせる)とともに、Hラインより上向きの光を生じさせるおそれがある。
そこで、本変形例4では、上記のように白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定して色分散を考慮せずに設計される光源ユニット50Aの基本的な構成、すなわち、LED光源51とレンズ体52との位置関係やレンズ体52の構成等(入射面52a、反射面52c及び出射面52bの形状等)に対して、以下のように光放出面51Aの光放出点51Bから放出された白色光線について色分散(波長ごとの屈折率の相違)を考慮し、明暗境界線CLの上側に色にじみ(意図しない照明領域Q)が生じないようにレンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの形状に調整(補正)が施されている。
尚、ポリカーボネート材は、白色光線の波長領域(可視光の波長領域)である約380〜780nmの範囲において、波長が長くなるほど屈折率が小さくなるという特性を有しており、例えば、青色の波長435.8nmに対して屈折率1.6115、緑色の波長546.1nmに対して屈折率1.5855、青色の波長706.5nmに対して屈折率1.576となっている。このとき、レンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの基本的形状の設計時には、例えば、基準波長の光として使用する緑色の光の波長が上記の546.1nmが用いられ、基準屈折率が、1.5855に設定される。また、レンズ体52の色分散の問題に対して考慮すべき光の波長範囲のうち、最も長い波長を、例えば上記の波長706.5nmのような赤色の光の波長として、最も短い波長を、例えば上記の波長435.8nmのような青色の光の波長としてレンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの基本的形状に対する調整が施されるものとし、以下において、緑色の光線、赤色の光線、青色の光線のように色を指定して記載する光は、これらの波長の光を示すものとする。ただし、これらの具体的に示した各波長の値は適宜変更である。
また、本変形例4では、レンズ体52の入射面52a、反射面52c及び出射面52bの基本的な形状に対する調整は、反射面52cの調整のみによって行われたものであり、入射面52a及び出射面52bの形状はいずれも基準屈折率を想定して図77の配光パターンPAが得られるように設計された際の面形状(平面)に固定され、反射面52cは、例えば、基本的な形状として求められた回転放物面に対して調整が施されたものである。
更に、本変形例4のレンズ体52の出射面52bは、上記のように略鉛直方向の平面で形成されている。反射面52cから明暗境界線CLの近傍方向に反射される光は略水平に照射するものであるから出射面52bによる屈折は小さく、色分散の程度も小さくなる。そこで、説明を簡単にするために、出射面52bにより色分散および色分離が生じないものとし、出射面52bから出射される光線の方向は、反射面52cで反射された光線の方向に等しいものとする。
以下、レンズ体52の形状調整について説明する。図76のレンズ体52は、明暗境界線CLの上側に色にじみ(意図しない照明領域Q)が生じないように波長ごとの屈折率の相違による色分散が考慮されてレンズ体52の反射面52cの形状に調整(補正)が施されたものである。同図には、LED光源51の最後端の光放出点51Bから放出された白色光線のうち、入射面52aに垂直に入射(入射角0度)する白色光線X1と、その白色光線X1より車両前方側と車両後方側で入射面52aに斜めに入射する白色光線X2、X3の基本屈折率での光路(白色光線の波長全域で屈折率が一定の基本屈折率とした場合の光路)が実線で例示されている。同図に示すように、LED光源51の光放出点51Bから放出された各々の白色光線X1、X2、X3は、入射面52aからレンズ体52内部に進入し、反射面52cで反射された後、出射面52bからレンズ体52外部に照射される。図76において、白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定し、色分散を考慮しない場合の白色光線X1、X2およびX3に対応する光路を一点鎖線にて光路CLD1、CLD2およびCLD3として記載している。CLD1はX1と同一光路であり、CLD2およびCLD3はCLD1と平行な光線を出射面52bから外部に照射するものとしている。このような光路CLD1、CLD2およびCLD3は、反射面52cとして光放出点51B(厳密には、入射面52aによる屈折を考慮した光放出点51Bよりも僅かに図面斜め左下方向の位置)の位置を焦点とした回転放物面反射面とすることにより得ることができる。この形状を基本的形状とする。尚、一点鎖線で示す光路CLD1、CLD2、CLD3は、白色光線X1、X2、X3を設計目標の明暗境界線CLの角度方向に出射面52bから出射されるための光路を示し、上記のように明暗境界線CLの近傍方向への光線は出射面52bで屈折しないため、それらの光路CLD1、CLD2、CLD3は、反射面52cの位置から出射面52bを介したレンズ体52外部まで直線で示される。
これに対して、本変形例4のレンズ体52は、色分散が考慮されて反射面52cの形状が設定されており、入射面52aに垂直に入射し、レンズ体52の入射面52a及び出射面52bで屈折が生じない白色光線X1については、目標の照射方向が、上記と変更なく設計目標の明暗境界線CLの角度方向に設定され、同図のように、反射面52cの位置T1に入射した白色光線X1が光路CLD1に沿った明暗境界線CLの角度方向に反射するように位置T1での反射面52cの形状(位置及び傾き)が基本的形状と一致したものに形成されている。尚、入射面52aで屈折が生じない白色光線X1が反射する反射面52cの位置T1は、反射面52cの上下方向の範囲のうちの略中央となるように入射面52cの角度が設定されている。これによって、反射面52cで反射する全ての光線の入射面52aにおける入射角(屈折角)の大きさが、できるだけ小さくなるように考慮されており、色分散自体の発生が低減されている。すなわち、位置T1は、入射面52aで屈折が生じない非屈折光路の反射部であり、上記した基本的形状と一致する。
一方、白色光線X1よりも車両前方側又は車両後方側に入射面52aに入射し、入射面52aで屈折が生じる白色光線(白色光線X2、X3)については、その屈折により生じる色分散(色分離)の大きさに応じて目標の照射方向が、設計目標の明暗境界線CLよりも下向きの角度方向に設定され、同図のように白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定した場合において、反射面52cの位置T1より上側と下側の位置T2、T3に入射した白色光線X2、X3(すなわち、緑色の光線)が明暗境界線CLの角度方向(光路CLD2、CLD3)よりも下向きの角度方向に照射(反射)されるように反射面52cの形状が設計されている。
尚、基本的形状の反射面に対して補正を加えて本変形例4の反射面52cを設計する方法として、例えば、基本的形状の反射面に対して補正を加えない位置T1を基準点にして基準点より上側に順に反射面上の点を補正点として設定していくものとする。そして、ある補正点において、反射面52cの傾きが、その補正点に入射した白色光線を補正後の目標の照射方向に反射させるような傾きとなるように補正すると共に、その傾きの補正分の回転を補正点よりも上側の反射面全体に全体加えることによって補正点よりも上側の反射面全体の各点の位置及び傾きをその全体形状を変更することなく補正する。この後、新たな補正点を補正した反射面上に設定して、同じ操作を繰り返す。また、位置T1よりも下側の反射面にも同様の操作を繰り返す、というような方法が考えられる。ただし、本変形例4の反射面52cを設計する方法についてはこれに限らない。
具体的に、本変形例4のレンズ体52のように色分散を考慮して反射面52cの形状を設計した場合に、LED光源51の光放出点51Bから放出された白色光線X1、X2、X3がレンズ体52を介して実際にどのように照射されるかについて説明する。
まず、入射面52aに垂直に入射する白色光線X1は、入射面52aにおいて屈折しないため、そのまま色分散(色分離)を生じることなく、レンズ体52内部を進行し、反射面52cの位置T1に入射する。そして、その反射面52cに入射した白色光線X1は、光路CLD1に沿った方向に反射され、設計目標の明暗境界線CLの角度方向に照射(出射面52bから出射)される。すなわち、同図の白色光線X1、X2、X3の光路は、白色光線の波長全域で一定の基準屈折率と想定した場合の光路であり、基準屈折率は、緑色の光線の屈折率であるため、白色光線X1に含まれる緑色の光線G1は、屈折の有無に関係なく、同図に示した白色光線X1と同じ光路を通過して設計目標の明暗境界線CLの角度方向に照射される。また、白色光線X1に含まれる緑色の波長以外の赤色や青色のような光線も入射面52a(及び出射面52b)での屈折が生じないため、色分離されることなく、白色光線X1と同じ光路を通過して設計目標の明暗境界線CLの角度方向に照射される。従って、光放出点52Bから出射され、入射面52aに対して垂直に入射する白色光線X1は、白色のまま設計目標の明暗境界線CLの角度方向に照射され、白色の明暗境界線CLを形成する。
一方、入射面52aに対して車両前方側から斜めに入射する白色光線X2は、入射面52aに入射すると、屈折を生じ色分散によりレンズ体52内部において色分離を起こす。このとき、レンズ体52内部において、白色光線X2に含まれる緑色の光線G2は、一定の基準屈折率を想定した場合の白色光線X2と同じ光路を進行して反射面52aの位置T2に入射する。そして、反射面52cにより光路CLD2よりも下向きの角度方向に反射され、設計目標の明暗境界線CLの角度方向よりも下向きの角度方向に照射される。
これに対して、白色光線X2に含まれる赤色の光線R2(点線)は、基準屈折率(緑色の波長の屈折率)よりも屈折率が小さいため、入射面52aにおいて、緑色の光線G2よりも小さな屈折角で屈折し、白色光線X2の光路(緑色の光線G2の光路)よりも車両前方側となる角度方向の光路を進行し、反射面52cの位置T2の近傍(上側)に入射する。そして、その赤色の光線R2は、反射面52cへの入射角が白色光線X2(緑色の光線G2)よりも大きくなるため、白色光線X2(緑色の光線G2)よりも上向きの角度方向に反射される。このとき、赤色の光線R2が白色光線X2(緑色の光線G2)に対してどの程度上向きの角度方向に反射されるかが考慮されて、赤色の光線R2が設計目標の明暗境界線CLより上向きの角度方向に照射されないように白色光線X2(緑色の光線G2)の目標の照射方向が設定され、反射面16の形状が設定される。従って、赤色の光線R2は、光路CLD2に略沿った角度方向、又は、光路CLD2よりも下向きの角度方向に反射面52cで反射される。これにより、赤色の光線R2が、設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に出射面52bから出射される。
尚、白色光線X2に含まれる図示しない青色の光線についても入射面52aで分離され、同図に示す白色光線X2(緑色の光線G2)と異なる光路を通過する。ただし、赤色の光線R2とは反対に白色光線X2(緑色の光線G2)よりも下向きの角度方向に出射面52bから出射されるため、赤色の光線R2が、設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に照射されることによって、青色の光線も必然的に設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に照射される。
また、入射面52aに対して車両後方側から斜めに入射する白色光線X3は、入射面52aに入射すると、屈折を生じ色分散によりレンズ体52内部において色分離を起こす。このとき、レンズ体52内部において、白色光線X3に含まれる緑色の光線G3は、一定の基準屈折率を想定した場合の白色光線X3と同じ光路を進行して反射面52cの位置T3に入射する。そして、反射面52cにより光路CLD3よりも下向きの角度方向に反射され、設計目標の明暗境界線CLの角度方向よりも下向きの角度方向に照射される。
これに対して、白色光線X3に含まれる青色の光線B3(点線)は、基準屈折率(緑色の波長の屈折率)よりも屈折率が大きいため、入射面12において、緑色の光線G3よりも大きな屈折角で屈折し、白色光線X3の光路(緑色の光線G3の光路)よりも車両前方側となる角度方向の光路を進行し、反射面52cの位置T3の近傍(上側)に入射する。そして、その青色の光線B3は、反射面52cへの入射角が白色光線X3(緑色の光線G3)よりも大きくなるため、白色光線X3(緑色の光線G3)よりも上向きの角度方向に反射される。このとき、青色の光線B3が白色光線X3(緑色の光線G3)に対してどの程度上向きの角度方向に反射されるかが考慮されて、青色の光線B3が設計目標の明暗境界線CLより上向きの角度方向に照射されないように白色光線X3(緑色の光線G3)の目標の照射方向が設定され、反射面52cの形状が設定される。従って、青色の光線B3は、光路CLD3に略沿った角度方向、又は、光路CLD3よりも下向きの角度方向に反射面52cで反射される。これにより、青色の光線B3が、設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に出射面52bから出射される。
尚、白色光線X3に含まれる図示しない赤色の光線についても入射面52aで分離され、同図に示す白色光線X3(緑色の光線G3)と異なる光路を通過するが、青色の光線B3とは反対に白色光線X3(緑色の光線G3)よりも下向きの角度方向に出射面52bから出射されるため、青色の光線B3が、設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に照射されることによって、赤色の光線も必然的に設計目標の明暗境界線CLよりも上向きとならない角度方向に照射される。
以上のように、本変形例4の光源ユニット50Aによれば、LED光源51の光放出点51Bから各方向に放出された白色光線のうち、レンズ体52において、屈折が生じず、色分散(色分離)が生じない非屈折光路を通過する白色光線X1のような光線については、明暗境界線CLの角度方向に照射され、白色光によって明瞭な明暗境界線CLが形成される。また、この白色光線X1による明暗境界線CLの形成によって、明暗境界線CLの色度が白色の範囲に保持される。
一方、屈折が生じ、色分散が生じる屈折光路を通過する白色光線X2、X3のような光線については、白色光線の波長全域において一定の基準屈折率を想定した場合の目標の照射方向(緑色の光線の照射方向)が、明暗境界線CLよりも下向きの角度方向に設定され、色分散により緑色の光線よりも上向きの角度方向に照射される赤色や青色の光線が明暗境界線CLの方向、又は、それよりも下向きの角度方向に照射される。すなわち、色分離した波長域の光は明暗境界線CLの下側の配光パターンPA内を照射し、配光パターン内において光放出点51B以外の箇所からの照射光等と混色される。従って、明暗境界線CLの上側に色分散により色にじみ(意図しない照明領域Q)が生じる不具合が防止され、照明光の色度のバラツキ(色ムラ)が防止される。
尚、上記説明では、LED光源51の光放出点51Bから放出される光線のみに着目したが、これと同様に、その近傍の光放出点(光放出点51Bよりも車両前方側の光放出点)から放出された白色光線も色分散により色分離して緑色の光線よりも上向きに赤色や青色の光線を生じさせる。しかしながら、上記のように反射面51cの形状を補正することにより、これらの光線も明暗境界線CLよりも下向きに照射されることになるため、明暗境界線CLの上側に色にじみを生じせる不具合は解消されている。また、光放出点51Bおよびその近傍の光放出点の各々から放出されて色分離した光線は、同一波長域の光線同士が同じ方向に集中して照射されず、拡がりを持って照射せれるとともに他の光放出点から放出された光線等と混色されるため、配光パターンPA内に照明光の色ムラを生じさせない。
ここで、上記のようなレンズ体52での色分散は、光放出点51Bから図76の鉛直断面内以外の方向に放出された白色光線や、光放出点51B以外の光放出点から放出された白色光線についても屈折が生じる光路(屈折光路)を通過するものに対して発生し、色分散によって色分離した各波長域の光線が異なる方向に出射面52bから照射されることになる。基本的に、配光パターンPA内の端縁付近以外の方向に光を照射する光路を通過する白色光線は、色分離した場合でも他の光放出点から放出された光線と重ね合わされて混色され、照明光の色ムラを生じさせない。
一方、配光パターンPAの上端縁である明暗境界線CLの方向に光を照射する屈折光路を通過する白色光線のように、配光パターンPAの左端、右端、下端の境界の方向に光を照射する屈折光路を通過する白色光線が色分離すると、それらの境界の外側に色分離した光線の一部の波長域の光線(赤色、青色、又は、それらの混色の光)のみが照射され、色にじみ生じさせる可能性がある。
そこで、これらの境界に照射される光線についても、上記の明暗境界線CLの方向に照射される光線に対するのと同様に、色分離した全ての波長域の光線が設計目標とした配光パターンPA内に照射されるように反射面52cを基本的形状の反射面に対して補正し、色分離した光線をその光線と異なる光放出点から放出された光線等と重ね合わせることによって、境界の色にじみの発生を防止することができ、照明光の色ムラを軽減することができる。
尚、配光パターンPAの明暗境界線CLを含む境界部分に照射される色分離した光線を単に配光パターンPA内に照射させるようにするだけでなく、色分離した各波長域の光線を広範囲の方向に拡げて照射するようにすると、より効果的に照明光の色ムラを軽減することができる。また、色分離した光線を他の光線によって白色(LED光源の発光色)でより明るく照明される領域に照射させるようにすることによってもより効果的に照明光の色ムラを防止することができる。更に、色分離した各波長域の光線を他の光源ユニット50B〜50Dによって白色で明るく照明されている領域に照射させるようにしてもよい。
また、光源として波長変換材料を用いたLED光源を用いて明暗境界を形成する場合、LEDチップから照射される光束を遮光することなく、できる限り有効に利用して明暗境界を形成するのがエネルギー利用効率の点からも好適である。それゆえ、LED光源51の端部を明暗境界、特にすれ違い配光用のヘッドランプのHライン近傍の明暗境界線CLとして利用するのが好ましい。この場合、LED光源51は図84に示したようにLED端部にまで波長変換材料層を設けているため、LED光源51の端部においては中央部に比べて色ムラが生じやすい。このことは、LED光源51をレンズ体52にて拡大投影する場合において、明暗境界線CLにLED光源51の色ムラをそのまま投影する潜在的な問題点を有することになる。本実施形態においては、上述したように明暗境界線CLに色分散を考慮したレンズ体52としているので、LED光源51の端部における色ムラが生じている場合でも、色ムラを低減することが可能となる。
すなわち、上記図75のようにLED光源51の後端部である光放出点51Bから放出された光は、明暗境界線CLよりも下向きの配光パターンPA内の方向に全体として拡げられて照射され(色分離による光の拡がりと共に、反射面52cの各点で反射された白色光線(緑色の光線)の出射面からの出射方向の拡がり)、LED光源51の光放出点51Bと異なる光放出点から放出された光と重ね合わされて混色されるため、レンズ体52の色分散に起因する照明光の色ムラと併せてLED光源51の端部における色ムラに起因する照明光の色ムラも軽減される。そのため、ヘッドランプ50の照明光の色ムラを防止するために、LED光源51自体の色ムラに関する条件が緩和され、ヘッドランプ50のLED光源51として選択可能な光源の種類が拡がるとともに、光源を量産する上で生じる色ムラに関する管理条件も緩和することができる。尚、配光パターンPAの左端、右端、下端の境界の方向についても、明暗境界線CLの方向に照射される光線に対するのと同様に、レンズ体52の色分散による色にじみ(色ムラ)を防止するように反射面52cを基本的形状に対して補正した場合には、それらの境界の方向への光を放出するLED光源51の端部における色ムラに起因した照明光の色ムラも軽減される。
また、説明を判り易くするために、位置T1にて反射する白色光線X1を非屈折光路と一致するものとして説明した。非屈折光路の定義とし、厳密な狭義の定義として屈折をまったく生じない光路が望ましい。しかし、前述したように出射面52bの屈折も考慮する必要がある。よって、本明細書において非屈折光路とは、色分散を考慮する必要のないレベルの屈折の小さい基準となる光路、すなわち、広義の意味にて解釈するものとする。
図79は、上記の如く構成した光源ユニット50A〜50Dで構成された図76のヘッドランプ50の配光パターンPにおいて、上下方向に関して測定点をHラインより下向きの1度方向に固定し、水平方向に関して測定点をVライン上の0度から5度ずつ左方向にずらして0度〜30度までの測定点L0〜L6における色度と光度を実測した結果を数値で示した実測値表である。図80、図81は、その実測値表に基づいて各測定点の色度に関する実測値をCIE表色系の色度図上に示したものである。尚、本明細書では、色度を表すx、yの数値はCIE表色系での値を示すものとする。また、図79乃至図81には、本実施の形態の車両用灯具50(「本願灯具」と記載)に関するデータの他に、参考として従来製品であるHIDバルブ(メタルハイド放電灯)を光源としたヘッドランプ(プロジェクタ式のすれ違い光用ヘッドランプ)の色度及び光度を実測した測定結果が「A灯具」のデータとして示されている。
まず、本変形例4のLED光源51には、色度に関する特性として、光放出点の位置で色度が異なるが、その平均値がx=0.3179、y=0.3255、色温度にして6248Kに相当するものが使用されている。A灯具のHID光源には、色度に関する特性として平均値がx=0.3362、y=0.3509、色温度にして5346Kに相当するものが使用されている。
本変形例4のLED光源51とA灯具のHID光源とは色度が異なるため各灯具から照射される照明光の色度も異なるが、いずれも図80に示されているように法規で白色と認められる色度の範囲W内の色の照明光が照射されている。
図79には、本変形例4のヘッドランプ50とA灯具の両方の配光パターンの配光領域内となる左側30度方向までの測定点L0〜L6で実測された光度(cd)が示されるとともに、測定点L0〜L6のうち最大光度が得られた測定点での実測値を100%として、他の測定点での光度が最大光度に対する割合(%)で示されている。これによれば、本変形例4のヘッドランプ50は、測定点L6(左側30度方向)まで、測定点L1(左側5度の方向)の最大光度の値に対して20%以上の値を示しており、A灯具が測定点L6において3.6%であることと比較しても左側の広範囲の領域を明るく照明していることが分かる。図79には示されていないが、本実施の形態のヘッドランプ50は、左側65度方向において500cd程度の光度値を示した。
色度に関しては、図80及び図81の色度図上に示した本変形例4のヘッドランプ50とA灯具の各測定点L0〜L6における色度の分布を比較して分かるように、本変形例4のヘッドランプ50の照明光の色度のバラツキがA灯具と比較しても十分に小さい範囲に低減されていることがわかる。数値で比較すると、車両正面であるVライン上の測定点L0(H=0°)から左側30度方向の測定点L6までの色度x、yの各々に関する最大値と最小値との差(変化量)Δx、Δyが、本変形例4のヘッドランプ50では、Δx=0.009(約0.01)、Δy=0.017(約0.02)であるのに対して、A灯具では、Δx=0.025、Δy=0.032である。
この数値からも分かるように、本変形例4のヘッドランプ50が車両正面方向である0度方向から歩道側となる左側30度方向まで、色度がバラツキが十分に小さい範囲に収められ、色ムラの少ない配光パターンが形成されていることがわかる。
尚、色度のバラツキは個体差によって変動するが、本変形例4のヘッドランプ50では、左側20度方向の測定点L4に照射される照明光は、車両正面であるVライン上の測定点L0(H=0°)に照射される照明光に対して色度x、yのバラツキ(変化量)Δx、Δyが、Δx≦0.002、Δy≦0.02とすることが可能であり、車両正面から左側20°方向までの範囲において、この程度に色度のバラツキを抑えることができれば実用上、十分な効果がある。
また、左側30度方向の測定点L6に照射される照明光は、車両正面であるVライン上の測定点L0(H=0°)に照射される照明光に対して色度x、yのバラツキ(変化量)Δx、Δyが、Δx≦0.01、Δy≦0.03であり、且つ、左側10度方向の測定点L2に照射される照明光に対して色度x、yのバラツキ(変化量)Δx、Δyが、Δx≦0.01、Δy≦0.02となるようにすることがより好ましく、本変形例4のヘッドランプ50はこの条件を満たしている。
また、図80には、色度図上に黒体放射軌跡、等色温度線、及び、等偏差線が併せて示されており、本変形例4のヘッドランプ50の色度(色相関温度)は、白色の色度範囲W内であって、相関色温・BR>Xが5000K以上(7000K以下)となる範囲に収められている。一方、A灯具の色度は、約5000K以下(4000K以上)となる範囲であり、本変形例4のヘッドランプ50の方が白色の中でも青色に近い範囲となっている。この違いは、光源の色度に相違に起因するものであるが、本変形例4のヘッドランプ50のように、相関色温度が5000K以上となる色度の範囲の照明光の方が被照明物の色の識別を容易に行うことができたため、演色性に優れていると判断した。
[ヘッドランプユニット(変形例5)]
以下、図75の本変形例4のヘッドランプ50の光源ユニット50A〜2Dの構成の変形例5を示すとともに、明暗境界線CLにおける色にじみ(意図しない色分離した照明領域Q)の発生を防止した形態について示す。
最初に異なるパッケージ形態としたLED光源51を用いた場合について説明する。図85は、図84と同一のLEDチップ200を用いて異なる形態としたLEDチップのパッケージ化を示す図面で、同図(A)が平面図、同図(B)が同図(A)におけるB−B線断面図、同図(C)が同図(A)におけるA−A線断面図である。
図85においては、InGaN系のLEDチップを図84と同一の所定の間隙をあけて直線状に3個並べたものを用い、各々のLEDチップ200の上面にのみ凸形状の波長変換材料層204にて覆ったものとしている。波長変換材料層を各LEDチップ上面上にのみ凸形状に形成するには、例えば液状の透光性樹脂材料に波長変換材料を分散したものをディスペンス法などにより適下した後に硬化することで表面張力を利用して形成することができる。
前述した変形例4においては図84に示したLED光源51を用いた場合について説明した。図84に示したLED光源51の代わりに、図85に示すLED光源を用いた点のみを変更して同様の検討を行った。色温度および色度については前述した図54に示したLED光源51を用いた場合とほぼ同一であった。また、この場合においても照明光の色ムラを軽減することができた。
図84のパッケージ化の場合も図85のパッケージ化の場合も、いずれの場合も、その製造工程において波長変換材料層の厚み、濃度のバラツキや、位置バラツキを生じる。また、LEDチップ自体も明るさのバラツキを有する。従って、LED光源51のバラツキも当然発生する。LED光源のバラツキとして色ムラが生じた場合において、前記した実施形態の構成とすることで、異なる光放出点から放出された光線等と重ね合わせているので照明光の色ムラを低減することが可能となる。
図82は、光源ユニット50Aの変形例5の構成を示した鉛直断面図である。図76の変形例4の光源ユニット50Aと同一又は類似の要素には同一符号又はプライム記号を付している。図82の光源ユニット50Aは、図76の光源ユニット50Aと比較して、入射面52a′の形状が相違しており、平面ではなく凹面により形成されており、その他の構成要素については変形例4の光源ユニット50Aと同様に構成され、図77の配光パターンPAを形成するようにレンズ体10の反射面52c′の形状が形成されている。
入射面52a′は、例えば、同図の鉛直断面図上において、入射面52a′に対してLED光源51の光放出点51Bよりも離れた位置を中心とする円弧状(LED光源51の光放出点51Bを中心とする円弧よりも曲率半径が大きい円弧)に形成されるとともに、その円弧の中心が、光放出点51Bと反射面52c′の中央付近の位置T1′とを通る直線上に位置するような円弧の凹面で形成されている。従って、光放出点51Bから各方向に放出された白色光線が入射面52a′に入射する際の入射角が変形例4の光源ユニット50Aの場合よりも全体的に小さく、入射面52a′での屈折による色分散が小さくなっている。
反射面52b′の形状は、レンズ体52で生じる色分散が考慮されて設計され、光放出点51Bから各方向に放出された白色光線のうち、入射面52a′に垂直に入射し、レンズ体52の入射面52a′及び出射面52bで屈折が生じない白色光線X1′については、目標の照射方向が、明暗境界線CLの角度方向に設定され、同図のように、反射面52c′の位置T1′に入射した白色光線X1′(緑色の光線G1′)が光路CLD1′に沿った明暗境界線CLの角度方向に反射するように位置T1′での反射面52c′の形状(位置及び傾き)が形成されている。
一方、白色光線X1よりも車両前方側又は車両後方側に入射面52a′に入射し、入射面52a′で屈折が生じる白色光線(白色光線X2′、X3′)については、その屈折により生じる色分散(色分離)の大きさに応じて目標の照射方向が、設計目標の明暗境界線CLよりも下向きの角度方向に設定され、白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定した場合に反射面52c′の位置T1′より上側と下側の位置T2′、T3′に入射した白色光線X2′、X3′(緑色の光線G2′、G3′)を明暗境界線CLの角度方向(光路CLD2′、CLD3′)よりも下向きの角度方向に照射(反射)するように反射面52c′の形状が設計されている。
これによれば、変形例4の光源ユニット50Aと比較して入射面52a′での光分散が小さくなる分、明暗境界線CLの上側に色にじみが発生することを軽減することができ、また、その色にじみの発生を完全に防止するために、白色光線(緑色の光線)の照射方向を下向きとする角度の大きさも小さくてよく、反射面52c′の形状に加える変更が少なく、明暗境界線CL以外の他の照明領域の配光に与える影響も少なくすることができる。
尚、上記入射面52a′は、鉛直方向断面が円弧状でなくても楕円弧であってもよく、光放出点51Bから見て凹曲面であれば、上記と同様の効果が得られる。入射面52a′の形状を光放出点51Bを中心点とする球面とすれば、光放出点51Bからの入射角は0度となり屈折が生じないため、入射角により生じる色分離も生じなくすることができる。しかしながら、この場合には球面とした入射面から入射した光に対応して反射面も球面に対応して球面を覆うように大きく設置しないと光の利用効率が低下することになる。すなわち、レンズ体が大型化することになる。よって、光放出面51Aからの放射される光の取り込み量と反射面52cの大きさのバランスを考慮して、色分散が小さくなるように凹曲面を設計するのが好ましい。更に好ましくは、図82のように反射面寄りの入射面の曲率を光放出点51Bを中心点とする球面に近いものとすると良い。
[ヘッドランプユニット(変形例6)]
図83は、光源ユニット50Aの変形例6の構成を示した鉛直断面図である。図76の変形例4の形態の光源ユニット50Aと同一又は類似の要素には同一符号又はダブルプライム記号を付している。図83の光源ユニット50Aは、図76の光源ユニット2Aと比較して、LED光源51から放出された光を図76の反射面52cに相当する反射面52c″まで導くまでの構成が相違しており、入射面52a″がレンズ体52の背面側(車両後方側)に形成され、LED光源51が光放出面51Aを車両前方側に向けてレンズ体51の背面側に配置されている。
また、入射面51a″からレンズ体52内部に入射したLED光源51からの光を反射面52c″に直接入射させるのではなく、反射面52c″とは別の反射面103で一回反射させてから反射面52c″に入射させる構成となっている。すなわち、入射面52a″からレンズ体52内部に入射したLED光源51からの光がレンズ体52内部で2回反射した後、出射面52bから出射するようになっている。尚、レンズ体52の反射面103が形成される外面部分にアルミニウムが蒸着されてレンズ体52内部で光を反射する反射面103が形成されている。
このような構成の光源ユニット50Aにおいても変形例4の光源ユニット50Aと同様にして、明暗境界線CLの上側に色にじみが発生する不具合を防止することができる。
すなわち、反射面52c″の形状は、レンズ体52で生じる色分散が考慮されて設計され、光放出点51Bから各方向に放出された白色光線のうち、入射面52a″に垂直に入射し、レンズ体52の入射面52a″及び出射面52bで屈折が生じない白色光線X1″については、目標の照射方向が、明暗境界線CLの角度方向に設定され、同図のように、反射面52c″の位置T1″に入射した白色光線X1″(緑色の光線G1″)が光路CLD1″に沿った明暗境界線CLの角度方向に反射するように位置T1″での反射面52c″の形状(位置及び傾き)が形成されている。
一方、白色光線X1″よりも車両上方側又は車両下方側の位置から入射面52a″に入射し、入射面52a″で屈折が生じる白色光線(白色光線X2″、X3″)については、その屈折により生じる色分散(色分離)の大きさに応じて目標の照射方向が、設計目標の明暗境界線CLよりも下向きの角度方向に設定され、白色光線の波長全域に対して一定の基準屈折率を想定した場合に反射面52c″の位置T1″より上側と下側の位置T2″、T3″に入射した白色光線X2″、X3″(緑色の光線G2″、G3″)を明暗境界線CLの角度方向(光路CLD2″、CLD3″)よりも下向きの角度方向に照射(反射)するように反射面52c″の形状が設計されている。
本変形例6の光源ユニット50Aによれば、レンズ体52内部で光を反射する反射面(52c″、102)を複数設けることによってLED光源51の配置場所の選択の幅を広げることができる。すなわち、入射面52a″と反射面103の位置を変えることによってLED光源51の配置場所を図83と異なる位置に変更することが可能である。そして、反射面を複数設けた態様であっても、屈折が生じる光路を通過する緑色の光線(一定の基準屈折率を想定した場合の白色光線)の照射方向が、明暗境界線CLの角度方向よりも下向きの角度方向となるように反射面53c″の形状を設定(基本的形状から補正)すれば、明暗境界線CLの上側に色にじみが発生することを防止することができる。
なお、変形例6では、レンズ体52内部に入射した光をレンズ体52内部で2回反射させて出射面52bから出射する構成のレンズ体52を示したが、レンズ体52内部に入射した光をレンズ体52内部で3回以上反射させて出射面52bから出射する構成のレンズ体を用いた車両用灯具であっても上記実施の形態と同様にして明暗境界線CLの上側に色にじみが発生することを防止することができる。
以上の上記変形例5及び変形例6においても、変形例4において説明したのと同様に、配光パターンの左端、右端、下端の境界部分に色ムラを生じさせる可能性があるが、それについても変形例4において説明したのと同様にして防止することができる。
また、上記変形例4〜6では、LED光源51の光放出点51Bから放出された光線のうち、レンズ体10において屈折しない非屈折光路が反射面52c(52c′、52c″)の上下方向の略中央を通るようにしたが、非屈折光路が反射面52(52′、52″)を通過する位置はこれに限らない。例えば、反射面52c(52c′、52c″)の略最下部又は略最上部を通過するようにしてもよい。
また、上記変形例4〜6では、レンズ体52の反射面52c(52c′、52c″)の形状のみを基本的形状から補正するようにしたが、レンズ体52のいずれかの作用面、すなわち、入射面52a(52a′、52a″)、反射面16(52c′、52c″、反射面103)及び出射面52b(52b′)のうち少なくとも1つの面(いずれか1つ又は複数の面)の形状を基本的形状に対して補正するようにしてもよい。
また、上記変形例4〜6では、レンズ体52の各面の基本的形状として、LED光源51の光放出面51Aを照明領域に拡大投影するものとしたが、これに限らない。例えば、図76の変形例4の光源ユニット50Aにおいて、レンズ体52の各面の基本的形状の設計時において、LED光源51の同一の光放出点から異なる方向に出射された白色光線を広範囲の照明領域に拡散して照射する形状や、離間した光放出点から出射された白色光線を同一の照明領域に重なるように照射して混ぜ合わせるような形状を基本的形状とすることによって、屈折光路を通過する白色光線が色分離した場合であっても、LED光源51の隣接した光放出点から類似した態様で色分離した光線が照明領域で重ね合わされるのではなく、様々な態様で色分離された各光路からの光線が照明領域で重ね合わされる(混色される)。そのため、照明光の色ムラ(LED光源51の色ムラに起因する照明光の色ムラも含む)をより軽減することができ、基本的形状に対する補正量も低減することができる。
この場合のレンズ体52の各面の基本的形状の例として、上記実施の形態では、LED光源51の最後端の光放出点51Bから放出された白色光線が明暗境界線CLの方向に照射され、LED光源51の最前端の光放出点から放出された白色光線が配光パターンPAの下端縁に照射されるような形状であるが、LED光源51の最前端の光放出点から放出された白色光線が配光パターンPAの下端縁以外の領域で、明るく照明したい領域(上端縁近傍)に照射されるような形状をレンズ体52の各面の形状を基本的形状としてもよい。
また、レンズ体52の反射面等を細かい微小面で細分化し、反射面に入射した白色光線を左右方向に拡がる照明領域(上下方向に幅の狭い照明領域)に照射させる微小面と、上下方向に拡がる照明領域(左右方向に幅の狭い照明領域)に照射させる微小面とを上下左右に交互に配置し、LED光源51の近傍の光放出点から出射された白色光線を異なる照明領域に照射させるようにするとともに、離間した光放出点から出射された白色光線を混ぜ合わせるようにしてもよい。このような配光制御は、図75のようにヘッドランプ50が複数の光源ユニットで1つの配光パターンを形成する場合に、光源ユニット間でも行うことができる。
また、上記変形例4〜6で示した光源ユニットは、レンズ体52がポリカーボネート材で形成されたものであるが、レンズ体52がポリカーボネート材以外の材料(例えば、ガラス、アクリル等の透明材料)で形成される場合であっても、色分散が生じる材料であれば、その程度に関係なく照明光の色ムラを防止するために上記実施の形態と同様にして本願発明が適用できる。
また、上記変形例4〜6で示した光源ユニットは、照明光の配光ムラを防止するだけでなく、レンズ体52の材料がポリカーボネート材のように複屈折の性質を有する場合に、その複屈折によって生じる明暗境界のぼけを低減することができる。例えば、ポリカーボネート材は成形時に残留応力が大きく、材料特有の光弾性率の高さにより複屈折の性質を有してしまい、その複屈折の影響で、LED光源51の光放出点51Bから放出された光線のうち、入射面52a(52a′、52a″)に斜めに入射する光線(入射面52aで屈折する光線)が、複数の方向に複雑に分離する。もし、このような光線に対して複屈折を考慮せずに、一定の基準屈折率を想定した場合の白色光線(緑色の光線)が明暗境界の角度方向に照射されるように設計すると、複屈折によりそれらの分離した光線が明暗境界のボケを生じさせる。
一方、上記のように色分離した光線が明暗境界よりも内側の角度方向に照射されるように設計することによって、複屈折により分離した光線が明暗境界に与える影響も低減するため、複屈折による明暗境界のボケの発生も防止されるようになる。
また、上記変形例4〜6では、レンズ体52の出射面52bの形状(基本的形状)を平面とし、設計目標の明暗境界線CLの近傍の角度方向に反射面52c(52c′、52c″)から照射される光線は、出射面52bで屈折しないことを条件としたが、出射面52bの基本的形状は、平面でなく(例えば凹面や凸面)、出射面52bで屈折が生じる場合であっても本発明は適用できる。
すなわち、本発明は、LED光源51の各光放出点から放出された光線のうち、入射面52a(52a′、52a″)及び出射面52bのいずれかにおいて屈折が生じる屈折光路を通過して色分離した各波長域の光線が、配光パターン内において他の光放出点から放出された光と重ね合わせるように入射面、反射面、および、出射面のうちの少なくとも1面を形成すればよい。
また、上記変形例では、すれ違い光用の配光パターンの照明光を照射するヘッドランプに適用される車両用灯具を例示したが、本発明は、すれ違い配光用のヘッドランプに限らず、走行ビーム用のヘッドランプやフォグランプ等の他の種類の車両用灯具に適用できる。
以上説明したように、変形例4〜変形例6によれば、LED光源51の端部51Bから放出された光がLED光源51の端部51B以外の点から放出された光に混ぜ合わされるため、LED光源51の端部51Bにおける色ムラに起因する部分配光パターンPAの色ムラを防止又は軽減することが可能となる。
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。