JP2013187009A - 車両用信号灯具 - Google Patents

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Abstract

【課題】
夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを速めることが可能な車両用信号灯具を提供する。
【解決手段】
光源を含む車両用信号灯具において、前記光源のS/P比が0.47以上とされていることを特徴とする。
【選択図】図19

Description

本発明は、車両用信号灯具に係り、特に、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを速めることが可能な車両用信号灯具に関する。
従来、車両用灯具の分野においては、夜間でも昼間と同様に走行できるように明るさの向上が求められており、この要求に応えるためにハロゲンランプやHIDランプ等の高光束光源を採用し光学系を改良する等、明るさ(輝度、光束、発光効率等)の向上を指向して様々なヘッドランプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、夜間運転時の暗い環境下では赤色光よりも青色光に対する感度が高くなる人間の眼の特性を考慮し、図21(a)、図21(b)に示すように、夜間運転時の視認性を高める観点から赤色成分光よりも青色成分光が多い光を前方の領域A1へ照射するとともに、色味や形状の認識性を高める観点から赤色成分光が多い光を領域A1のうち中心付近の領域A2(及び水平面に対して所定角度上方の領域A3)へ照射するヘッドランプも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2007−59162号公報 特開2008−204727号公報
しかしながら、従来、夜間運転時の暗い環境下で青色光が周辺視での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
図22(a)は運転者の中心視及び周辺視の説明図、図22(b)は運転者の中心視、周辺視、錐体、桿体等の関係を説明するための図、図23は運転者が周辺視野に存在する対象物(歩行者や障害物等)を認識するまでの流れを説明するためのフローチャートである。
遠方(例えば、図22(a)中の3つの丸円及び図22(b)中矢印参照)を注視している運転者が周辺視野に存在する対象物(歩行者や障害物等)を認識するまでの流れを詳細に検討すると、図23に示すように、運転者はまず、周辺視(桿体)で対象物に気づき(ステップS1:Yes)、次にその方向に眼を向け(ステップS2)、その後中心視(錐体)で対象物(色や形状等)を認識する(ステップS3)。周辺視(桿体)で気づかない場合(ステップS1:No)、見逃しとなる(ステップS4)。すなわち、周辺視野に存在する対象物を認識するにはまず、気づくことが重要で、気づかなければ、周辺視野に存在する対象物を認識することはできない。
特に、夜間運転時の暗い環境では、周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきを要するシチュエーション(例えば、交差点における右左折、分岐、車線変更、レーンキープ)が多く存在するため、周辺視での気づきを速めることが重要となる。例えば、運転者から見て車両前方手前は、車両用前照灯からの光が十分に照射されないため、周辺視野に存在する対象物の気づきが悪くなる。また、道路幅が広くなるほど、車両前方手前の気づきが悪くなる。
人間の眼の網膜上には錐体及び桿体が分布している。図24は、周辺視及び中心視の特徴を対比してまとめた表である。図24に示すように、錐体と桿体は、分布している場所、数、機能、役割、活動環境が大きく異なる。桿体細胞は、動くものなど視線を向けるべき対象物の検出を行うための細胞で、視野の周辺に分布している(周辺視)。桿体細胞は、暗い環境で働く(暗所視)。一方、錐体細胞は、細かな情報を判断し対象物の識別と認知を行うため細胞で、視野の中心に分布している(中心視)。錐体細胞は、明るい環境で働く(明所視)。つまり、人間の眼は、双方の視細胞(錐体、桿体)が互いに補い合うことで、明るいところから暗いところまで光を感じている。
夜間運転時の環境は、昼間のように明るくない(明所視でない)。また、ヘッドランプで前方を照射しているので真っ暗でもない(暗所視でもない)。つまり、夜間運転時の環境は、明所視と暗所視の間の薄明視の状態(錐体と桿体の両方が活性化している状態)である。順応照度は約1[lx]である。
図25は、明所視での比視感度V(λ)、暗所視での比視感度V´(λ)であり、明所視から薄明視を経て暗所視に移行するにつれ視感度曲線のピークが短波長側にシフトすることを表している。このピークのシフトは、錐体及び桿体の分光感度の違いに起因して起こる。
本願の発明者らは、上記人間の眼の視覚特性を考慮し検討を重ねた結果、夜間運転時の暗い環境下では短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)を高めれば、桿体細胞を効率良く刺激することとなり、周辺視での気づき(車両用信号灯具が搭載された車両の周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用信号灯具に対する周辺視での気づき)を速めることが可能になると考えた。
そして、各種の実験を行い検討を重ねた結果、夜間運転時の暗い環境下では短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること(反応速度が短くなり、見逃し率が低下する)を見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを速めることが可能な車両用信号灯具を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、光源を含む車両用信号灯具において、前記光源のS/P比が0.47以上とされていることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、車両用信号灯具の光源として、S/P比0.47以上のS/P比の光源を用いているため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(車両用信号灯具が搭載された車両の周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用信号灯具に対する周辺視での気づき)を速める(反応速度が短くなり、見逃し率が低下する)ことが可能となる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光源は、半導体発光素子と前記半導体発光素子からの光を吸収し、波長変換して所定の波長域の光を放出する波長変換部材とを組み合わせたアンバー色LEDであることを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、車両用信号灯具の光源として、S/P比0.47以上のS/P比のアンバー色LEDを用いているため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(車両用信号灯具が搭載された車両の周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用信号灯具に対する周辺視での気づき)を速める(反応速度が短くなり、見逃し率が低下する)ことが可能となる。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光源は、青色LED素子と赤色蛍光体とを組み合わせたアンバー色LED、青色LED素子と緑色蛍光体と赤色蛍光体とを組み合わせたアンバー色LED、又は、紫外発光LED素子と所定の蛍光体とを組み合わせたアンバー色LEDであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、車両用信号灯具の光源として、S/P比0.47以上のS/P比のアンバー色LEDを用いているため、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(車両用信号灯具が搭載された車両の周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用信号灯具に対する周辺視での気づき)を速める(反応速度が短くなり、見逃し率が低下する)ことが可能となる。
以上説明したように、本発明によれば、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきを速めることが可能な車両用信号灯具を提供することが可能となる。
従来のアンバー色LEDの構造例である。 従来のアンバー色LEDの分光分布の例である。 法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲である。 従来のアンバー色のバルブ(白熱電球)の分光分布の例である。 実験1に用いた装置の構成図である。 実験1に用いた光源のS/P比を示すグラフである。 実験1に用いた各光源の分光分布である。 S/P比が2.0以上の光源の構成例である。 実験1に用いたLED5500K(new1)の分光分布である。 実験1に用いたLED5500K(new2)の分光分布である。 視感度の形状から予測される周辺視での気づきの高い光源の分光分布の例である。 横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、実験2の測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。 横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、実験2の測定結果(反応時間RTの平均値、見逃し率の平均値)を描いたグラフである。 実験2を行った環境を説明するための図である。 横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、実験3の測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。 (a)(b)周辺視での気づきが速くなる車両用ターンシグナルランプに用いられるアンバー色LED10の構造例である。 (a)図16(a)に示した構造のアンバー色LED10の分光分布の例、(b)図16(b)に示した構造のアンバー色LED10の分光分布の例である。 (a)車両用ターンシグナルランプ12が装着された車両Vの上面図、(b)車両用ターンシグナルランプ12が装着された車両Vの側面図である。 車両前部の左側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Lを含むフロントコンビネーションランプの正面図である。 車両用ターンシグナルランプ12Lを、その光軸を含む鉛直面で切断した断面図である。 (a)従来の車両用前照灯の配光パターン(スクリーン配光)、(b)従来の車両用前照灯の配光パターン(路面配光)の例である。 (a)運転者の中心視及び周辺視の説明図、(b)運転者の中心視、周辺視、錐体、桿体等の関係を説明するための図である。 運転者が周辺視野に存在する対象物(歩行者や障害物等)を認識するまでの流れを説明するためのフローチャートである。 周辺視及び中心視の特徴を対比してまとめた表である。 明所視での比視感度V(λ)、暗所視での比視感度V´(λ)である。
以下、本発明の一実施形態である車両用信号灯具(車両用ターンシグナルランプ)について、図面を参照しながら説明する。
本願の発明者らは、人間の眼の視覚特性を考慮し検討を重ねた結果、夜間運転時の暗い環境下では短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)を高めれば、桿体細胞を効率良く刺激することとなり、周辺視での気づき(後述の車両用ターンシグナルランプ12L、12Rが搭載された車両Vの周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用ターンシグナルランプ12L、12Rに対する周辺視での気づき)を速めることが可能になると考えた。
そして、各種の実験を行い検討を重ねた結果、夜間運転時の暗い環境下では短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること(反応速度が短くなり、見逃し率が低下する)を見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
まず、本願の発明者らが行った実験1〜3について説明する。
以下の実験では、短波長側のエネルギー成分(青系の色の光)の割合を表す指標としてS/P比を用いた。S/P比は、次の式で表される。ただし、S(λ)は光源のスペクトル、V(λ)は明所視での比視感度、V´(λ)は暗所視での比視感度である。
S/P比は、公知の測定装置(例えば、分光放射輝度計)を用いて測定対象の光源から放射される光のスペクトルを測定し、上記式を用いて演算することで求められる。
従来、車両用ターンシグナルランプにおいては、S/P比が0.12より大きいアンバー色(橙色)LEDは用いられておらず、夜間運転時の暗い環境下でS/P比が0.12より大きいアンバー色LEDからの光が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
本願の発明者らが測定したところ、従来のアンバー色LEDのS/P比は0.12で、従来のアンバー色のバルブ(白熱電球)のS/P比は0.45であった。
図1は、従来のアンバー色LEDの構造例である。図2は、従来のアンバー色LEDの分光分布の例である。図3は、法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲である。図4は、従来のアンバー色のバルブ(白熱電球)の分光分布の例である。
図1に示すように、従来のアンバー色LEDは、AlGaInP半導体(又はGaAsP半導体)の燈色発光素子を用い、蛍光体を用いない構造で、580〜610[nm]付近に発光スペクトルを持っている(図2中VFA参照)。
従来のアンバー色LEDは、発光色が、法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲を満たすように、例えば、AlとGaとの混晶比が調整されている。なお、法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲は、y≧0.39、y≧0.79-0.67x、y≦x-0.12及び色度図の輪郭で囲まれた範囲である(図3参照)。
従来のアンバー色LEDはその構造上S/P比を変化させることが難しく、S/P比は0.12となる。同様に、従来のアンバー色のバルブ(白熱電球)はその構造上S/P比を変化させることが難しく、S/P比は0.45となる。
以上のように、従来のアンバー色LEDのS/P比は、0.12で、S/P比0.12より大きいアンバー色LEDは用いられておらず、夜間運転時の暗い環境下でS/P比0.12より大きいアンバー色LEDからの光が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかについては全く知られていなかった。
[実験1]
本願の発明者らは、夜間運転時の暗い環境下でS/P比が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかを確認すべく、以下の実験を行った。
図5は実験1に用いた装置の構成図、図6は実験1に用いた光源のS/P比を示すグラフである。
実験には、図5に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として、次の表2及び図6に示す相関色温度及びS/P比が異なる合計7つの光源を用いた。
LED4500K、LED5500K、LED6500Kは、青色LED素子及び黄色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDで、黄色蛍光体の濃度を調整することで、相関色温度及びS/P比を表2に示すように調整した。
図8はS/P比が2.0以上の光源(LED5500K(new1)、LED5500K(new2))の構造例である。
図8に示すように、LED5500K(new1)、LED5500K(new2)は、青色LED素子B、赤色LED素子R及び緑色蛍光体Gを組み合わせた構造の白色LEDで、緑色蛍光体Gの濃度を調整し緑色光を増やすことで、S/P比を表2に示すように調整した。緑色蛍光体Gは、青色LED素子B、赤色LED素子Rを覆っており、青色LED素子Bから放射される青色光により励起されて緑色光を発光する。緑色光が増えると、発光色がブルーグリーンとなり、法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲を逸脱する。そこで、赤色LED素子Rを加えその出力を調整することで、発光色が法規で規定されたCIE色度図上の白色範囲内となるように調整した。
LED5500K(new1)及びLED5500K(new2)は、分光分布が周辺視での気づきが高いと予測される光源の分光分布に近い形状となるように調整した。
図9はLED5500K(new1)の分光分布、図10はLED5500K(new2)の分光分布である。図11は、視感度の形状から予測される周辺視での気づきの高い光源の分光分布の例である。図11に示した光源によれば、青色LED素子からの青色光(図11中丸数字の1参照)、青色LED素子からの青色光(図11中丸数字の1参照)によって励起される緑色蛍光体からの緑色光(図11中丸数字の2参照)、赤色LED素子からの赤色光(図11中丸数字の3参照)により、白色光が実現される。図11に示した分光分布によれば、図11中の丸数字の2の山が視感度曲線に合致しているため、効率良く明るさを感じさせることが可能となる。
図9、図10を参照すると、LED5500K(new1)及びLED5500K(new2)の分光分布が、図11に示した周辺視での気づきが高いと予測される光源の分光分布に近い形状であることが分かる。
実験は、次の手順で行った。まず、図5に示すように、正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視して表示された文字を読んでいる間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置に一定輝度(1、0.1、0.01[cd/m2])に調整した光源が照射しているグレーの色材をランダムに呈示した。
そして、光源を点灯してから(白色光を呈示してから)、呈示光(グレーの色材からの反射光)に気づいた被験者が、手元にあるボタンを押すまでの時間(反応時間RT)を測定した。以上を、光源ごとに測定した。
なお、実験に用いた光源の輝度設定値は1、0.1、0.01[cd/m2]の3段階、背景輝度は1[cd/m2]である。被験者は45歳未満4名、45歳以上4名である。
本願の発明者らは、その測定結果を分析した結果、45歳以上では、S/P比が増加するにつれ反応速度が短くなり、見逃し率が低下すること、すなわち、45歳以上では、S/P比が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること、を見出した。
図12、図13に測定結果を示す。図12は、横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。なお、見逃し率とは、光源を点灯してから被験者が呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合のことである。図12中の数字は各データ群の決定係数である。図13は、横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、測定結果(反応時間RTの平均値、見逃し率の平均値)を描いたグラフである。
図12を参照すると、45歳以上では、S/P比が増加するにつれ反応速度が短くなり、見逃し率が低下すること、すなわち、45歳以上では、S/P比が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること、が分かる。
また、図13中のLED5500K(new1)及びLED5500K(new2)と他の光源とを比べると、LED5500K(new1)及びLED5500K(new2)は、45歳以上の反応時間RTが短く、見逃し率が低いことが分かる。
[実験2]
本願の発明者らは、実際の夜間運転時の暗い環境下でS/P比が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかを確認すべく、以下の実験を行った。
図14は、実験2を行った環境を説明するための図である。
実験では、図14に示すように、交差点を右折する車両を想定して、交差点内に車両Vを停車させた。そして、交差点を右折する車両Vの進行方向の横断歩道の手前(運転者Dの死角位置)に歩行者Mを位置させた。車両用前照灯の光源として、S/P比が異なる合計3つの光源(S/P比:1.5、2.0、2.5)を用いた。
S/P比が1.5、2.0の光源は、青色LED素子及び黄色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDで、黄色蛍光体の濃度を調整することで、S/P比を1.5、2.0に調整した。
S/P比が2.5の光源は、青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDで、緑色蛍光体の濃度を調整することで、S/P比を2.5に調整した。
実験は、次の手順で行った。歩行者Mが横断歩道の手前から反対側に向かって歩き始めてから、運転者Dが歩行者Mに気づくまでの時間を測定した。以上を、光源ごとに測定した。被験者は、45歳未満4名、45歳以上4名である。
次の表2に測定結果を示す。
表2を参照すると、45歳未満、45歳以上のいずれでも、S/P比が増加するにつれ歩行者に気づくまでの歩行距離が短くなること、が分かる。
例えば、45歳未満について、S/P比が1.5の光源とS/P比が2.5の光源とを比べると、S/P比2.5の光源の方が26cm速く気づくことが分かる。歩行速度が秒速50cmと仮定すると、S/P比2.5の光源の方が26/50=0.52秒速く気づくことになる。また、車速が秒速1mと仮定すると、S/P比2.5の光源の方が歩行者の52cm手前で止まれることになる。
同様に、45歳未満について、S/P比が1.5の光源とS/P比が2.0の光源とを比べると、S/P比2.0の光源の方が13cm速く気づくことが分かる。歩行速度が秒速50cmと仮定すると、S/P比2.0の光源の方が13/50=0.26秒速く気づくことになる。また、車速が秒速1mと仮定すると、S/P比2.0光源の方が歩行者の26cm手前で止まれることになる。
一方、45歳以上について、S/P比が1.5の光源とS/P比が2.5の光源とを比べると、S/P比2.5の光源の方が30cm速く気づくことが分かる。歩行速度が秒速50cmと仮定すると、S/P比2.5の光源の方が30/50=0.6秒速く気づくことになる。また、車速が秒速1mと仮定すると、S/P比2.5の光源の方が歩行者の60cm手前で止まれることになる。
同様に、45歳以上について、S/P比が1.5の光源とS/P比が2.0の光源とを比べると、S/P比2.0の光源の方が14cm速く気づくことが分かる。歩行速度が秒速50cmと仮定すると、S/P比2.0の光源の方が14/50=0.28秒速く気づくことになる。また、車速が秒速1mと仮定すると、S/P比2.0光源の方が歩行者の28cm手前で止まれることになる。
以上のように、実際の夜間運転時の暗い環境下では、45歳未満、45歳以上のいずれでも、S/P比が増加するにつれ歩行者に気づくまでの歩行距離(歩行者に気づくまでの秒数)が短くなり、歩行者の手前で停車できること、すなわち、S/P比が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること、を確認した。
次の表4は、ハロゲン電球、HID電球、白色LEDの45歳以上の反応時間RT、見逃し率をまとめた表である。S/P比が2.5の光源は、青色LED素子、赤色LED素子及び緑色蛍光体を組み合わせた構造の白色LEDで、緑色蛍光体の濃度を調整することで、S/P比を2.5に調整した。被験者は45歳未満4名、45歳以上4名である。
ハロゲン電球とS/P比2.5の光源とを比べると、45歳以上では、S/P比2.5の光源は、反応時間RTが0.12秒短くなり、見逃し率が8%低下することが分かる。また、表4を参照すると、S/P比が2.5の光源の反応時間RTは0.79秒で、これは一般的に知られている車両運転時の反応時間(危険と判断してからブレーキが効き始めるまで時間)0.7〜0.9秒を十分に満たしていることが分かる。
[実験3]
本願の発明者らは、夜間運転時の暗い環境下でS/P比が周辺視(=桿体=暗所視感度)での気づきにどのような影響を及ぼすかを確認すべく、S/P比が異なる白色光源を用いて、反応時間と見逃し率を測定する実験を行なった。
実験には、図5に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として、図15に示すS/P比が異なる合計9つの白色光源を用いた。実験は、実験1と同様の手順で行った。
本願の発明者らは、その測定結果を分析した結果、S/P比が増加するにつれ反応速度が短くなり、見逃し率が低下すること、すなわち、S/P比が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること、を見出した。
図15に測定結果を示す。図15は、横軸がS/P比、縦軸が反応時間RT及び見逃し率の座標系に、測定結果(平均値)をプロットしたグラフである。なお、見逃し率とは、光源を点灯してから被験者が呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合のことである。
図15を参照すると、S/P比が増加するにつれ反応速度が短くなり、見逃し率が低下すること、すなわち、S/P比が増加するにつれ周辺視での気づきが速くなること、が分かる。特に、S/P比が1.5(ハロゲン電球に相当)から1.85(LED5500Kに相当)に変化した場合、反応時間で約0.1秒、見逃し率で約5%低下することが明らかになった。時速50kmで走行していた場合、反応時間が約0.1秒短縮されると、制動距離が1.4m短縮されることになる。
上記実験1〜3において明らかとなったS/P比の向上による反応時間の短縮、見逃し率低下という効果は、視覚のメカニズムによるもので色によって異なることはない。そのためアンバー色光源を用いた場合でも白色光源を用いた場合(上記実験1〜3参照)と同様の効果が得られると考えられる。
以上の知見に基づけば、従来のアンバー色LEDのS/P比0.12に、S/P比0.35(1.85−1.5)を加えたS/P比0.47以上のアンバー色LEDを用いることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(後述の車両用ターンシグナルランプ12L、12Rが搭載された車両Vの周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用ターンシグナルランプ12L、12Rに対する周辺視での気づき)が速くなる(反応速度RTが短くなり、見逃し率が低下する)といえる。
[アンバー色光源の構成例]
次に、周辺視での気づきが速くなる車両用ターンシグナルランプに用いられるアンバー色LEDの構成例について説明する。
図16(a)、図16(b)は、周辺視での気づきが速くなる車両用ターンシグナルランプに用いられるアンバー色LED10の構造例である。
図16(a)に示すように、アンバー色LED10は、例えば、青色LED素子B(本発明の半導体発光素子に相当)と赤色蛍光体R(本発明の波長変換部材に相当)とを組み合わせた構造のLED(例えば1ミリ角の発光面×4)である。赤色蛍光体Rは、青色LED素子Bを覆っている。青色LED素子B及び赤色蛍光体Rとしては、公知のものを用いることが可能である。
上記構造のアンバー色LED10は、赤色蛍光体Rの濃度等を調整することで、発光色が法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲を満たし、かつ、S/P比が0.47以上(例えば、0.47)に調整されている。
上記構造のアンバー色LED10は、青色LED素子Bからの青色光と青色LED素子Bからの青色光によって励起される赤色蛍光体Rからの赤色光との混色によるアンバー色を発光する。図17(a)は、図16(a)に示した構造のアンバー色LED10の分光分布の例である。
アンバー色LED10は、S/P比が0.47以上である。その理由は、S/P比0.47以上のS/P比のアンバー色LEDを用いることで、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づきが速くなる(反応速度RTが短くなり、見逃し率が低下する)との知見(実験1〜3、特に実験3参照)に基づき、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(後述の車両用ターンシグナルランプ12L、12Rが搭載された車両Vの周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用ターンシグナルランプ12L、12Rに対する周辺視での気づき)を速める(反応速度を短くし、見逃し率を低下させる)ためである。
なお、アンバー色LED10のS/P比は0.65以下が望ましい。その理由は、S/P比が0.65を超えると、法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲を満たすことが難しくなるためである。
アンバー色LED10は、発光色が法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲を満たし、かつ、S/P比が0.47以上のアンバー色LEDであればよく、青色LED素子Bと赤色蛍光体Rとを組み合わせた構造のLEDに限定されない。
例えば、図16(b)に示すように、アンバー色LED10は、青色LED素子B(本発明の半導体発光素子に相当)と緑色蛍光体Gと赤色蛍光体R(本発明の波長変換部材に相当)とを組み合わせた構造のLED(例えば1ミリ角の発光面×4)であってもよい。緑色蛍光体G、赤色蛍光体Rは、青色LED素子Bを覆っている。青色LED素子B、緑色蛍光体G及び赤色蛍光体Rとしては、公知のものを用いることが可能である。
上記構造のアンバー色LED10は、緑色蛍光体G、赤色蛍光体Rの濃度等を調整することで、発光色が法規で規定された色度座標(CIE1931)上のアンバー色範囲を満たし、かつ、S/P比が0.47以上(例えば、0.64)に調整されている。
上記構造のアンバー色LED10は、青色LED素子Bからの青色光と青色LED素子Bからの青色光によって励起される緑色蛍光体Gからの緑色光と青色LED素子Bからの青色光によって励起される赤色蛍光体Rからの赤色光との混色によるアンバー色を発光する。図17(b)は、図16(a)に示した構造のアンバー色LED10の分光分布の例である。
また、アンバー色LED10は、紫外発光LED素子(本発明の半導体発光素子に相当)と適宜の蛍光体(本発明の波長変換部材に相当)とを組み合わせた構造のアンバー色LEDであってもよい。
[車両用ターンシグナルランプの構成例]
次に、上記構成のアンバー色LED10を用いた車両用ターンシグナルランプの構成例を説明する。
図18(a)は車両用ターンシグナルランプ12が装着された車両Vの上面図、図18(b)は車両用ターンシグナルランプ12が装着された車両Vの側面図である。
図18(a)、図18(b)に示すように、車両用ターンシグナルランプ12は、車両前部の左右両側に配置されている。なお、車両用ターンシグナルランプ12は、車両左右側部(例えば、ドアミラー)に配置されていてもよいし、あるいは、車両後部の左右両側に配置されていてもよい。
車両前部の右側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Rは、車両前部の左側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Lと左右対称で実質的に同一の構成である。このため、以下、車両前部の左側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Lを中心に説明し、車両前部の右側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Rの説明は省略する。
図19は、車両前部の左側に配置された車両用ターンシグナルランプ12Lを含むフロントコンビネーションランプの正面図である。
図19に示すように、車両用ターンシグナルランプ12Lは、前面レンズ14とこれに組み付けられたハウジング(図示せず)とで区画された灯室内に、車両用前照灯(すれ違いビーム用光源ユニット16及び走行ビーム用光源ユニット18)とともに配置されて、フロントコンビネーションランプを構成している。
車両用ターンシグナルランプ12Lは、車両前後方向に延びる基準軸AXに対して、水平左角度θ1(例えば、左85°)、水平右角度θ2(例えば、右45°)、鉛直上角度θ3(例えば、上15°)、鉛直下角度θ4(例えば、下15°)の範囲内において、当該車両用ターンシグナルランプ12Lを見通すことができるように(図18(a)、図18(b)参照)、すれ違いビーム用光源ユニット16の車幅方向外側の側部に配置されている(図19参照)。
図20は、車両用ターンシグナルランプ12Lを、その光軸を含む鉛直面で切断した断面図である。
図20に示すように、車両用ターンシグナルランプ12Lは、リフレクタ型(反射型)の光学ユニットであり、反射面20、アンバー色LED10等を備えている。
アンバー色LED10は、その発光面10aを上向きとした状態で、ヒートシンク等の保持部材(図示せず)に固定された基板K上に実装されている。
反射面20は、焦点Fがアンバー色LED10近傍に設定された回転放物面系の反射面(回転放物面又はこれに類する自由曲面等の放物面系の反射面)で、アンバー色LED10から上向きに放射される光が入射するように、アンバー色LED10の側方(図H中、車両後方側の側方)からアンバー色LED10の上方を通過し車両前方に向かって延びて、アンバー色LED10の上方を覆っている。
上記構成の車両用ターンシグナルランプ12L(車両用ターンシグナルランプ12Rも同様)によれば、アンバー色LED10から放射された光(点滅光)は、反射面20で反射されて、少なくとも上記角度θ1〜θ4の範囲内(図18(a)、図18(b)参照)に照射される。
以上説明したように、本実施形態の車両用ターンシグナルランプ12L(車両用ターンシグナルランプ12Rも同様)によれば、車両用ターンシグナルランプ12Lの光源として、S/P比0.47以上のS/P比のアンバー色LED10を用いているため(すなわち、視感度に合致する波長帯にスペクトル成分を含む光を放出するアンバー色LED10を用いているため)、夜間運転時の暗い環境下で周辺視での気づき(車両用ターンシグナルランプ12L、12Rが搭載された車両Vの周囲に存在する対向車や後続車の運転手又は歩行者等の、当該車両用ターンシグナルランプ12L、12Rに対する周辺視での気づき)を速める(反応速度RTが短くなり、見逃し率が低下する)ことが可能となる。
すなわち、本実施形態の車両用ターンシグナルランプ12L(車両用ターンシグナルランプ12Lも同様)によれば、従来と同一の明るさであっても被視認性が向上する車両用ターンシグナルランプ12Lを構成することが可能となる。
次に、変形例について説明する。
上記実施形態では、車両用信号灯具が車両用ターンシグナルランプである例について説明したが、本発明はこれは限定されない。例えば、車両用信号灯具は、パーキングランプ、クリアランスランプ、テールランプ、ストップランプ、ポジションランプ等の各種車両用信号灯具であってもよい。
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
10…アンバー色LED、10a…発光面、12L、12R…車両用ターンシグナルランプ、14…前面レンズ、16…すれ違いビーム用光源ユニット、18…走行ビーム用光源ユニット、20…反射面

Claims (3)

  1. 光源を含む車両用信号灯具において、
    前記光源のS/P比が0.47以上とされていることを特徴とする車両用信号灯具。
  2. 前記光源は、半導体発光素子と前記半導体発光素子からの光を吸収し、波長変換して所定の波長域の光を放出する波長変換部材とを組み合わせたアンバー色LEDであることを特徴とする請求項1に記載の車両用信号灯具。
  3. 前記光源は、青色LED素子と赤色蛍光体とを組み合わせたアンバー色LED、青色LED素子と緑色蛍光体と赤色蛍光体とを組み合わせたアンバー色LED、又は、紫外発光LED素子と所定の蛍光体とを組み合わせたアンバー色LEDであることを特徴とする請求項1に記載の車両用信号灯具。
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