JP2014206219A - 圧縮コイルばねおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】コイリング加工による引張残留応力を解消すると共に線材表面にC濃化層を形成し、成形後の線材に適切な圧縮残留応力分布を付与することにより、安価な線材を用いた高耐久性の圧縮コイルばねを提供する。【解決手段】質量%で、Cが0.80重量%以下の鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、ばね内径側表層部に鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、任意の線材横断面において表面C濃度およびC濃化層深さが横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少している。【選択図】図7

Description

本発明は、たとえば自動車のエンジンやクラッチ内で使用される圧縮コイルばねに関し、特に、高応力下の使用環境においても優れた耐疲労性を有する圧縮コイルばねおよびその製造方法に関する。
近年、環境問題を背景に自動車への低燃費化の要求が年々厳しくなっており、自動車部品に対する小型軽量化がこれまで以上に強く求められている。この小型軽量化の要求に対し、たとえばエンジン内で使用されるバルブスプリングや、クラッチ内で使用されるクラッチトーションスプリングをはじめとする圧縮コイルばね部品においては、材料の高強度化や、表面処理による表面強化の研究が盛んであり、その結果をもってコイルばねの特性として重要な耐疲労性の向上や、耐へたり性の向上を図ってきている。
一般に、コイルばねの製造方法は、熱間成形法と冷間成形法に大別される。熱間成形法は、線径dが太い、そしてコイル平均径Dと線径dとの比であるばね指数D/dが小さいなど、その加工性の悪さから冷間成形が困難であるコイルばねの成形に用いられ、コイルばね線材としては炭素鋼やばね鋼が用いられている。熱間成形法では、線材を加工し易いように高温に加熱して芯金に巻き付けてコイルばね形状にコイリングし、焼入れ・焼戻し後に、さらにショットピーニングやセッチングを施して、コイルばねの性能として主要となる耐疲労性や耐へたり性を得ている。なお、熱間成形法においては、無芯金でのコイリングは技術的に非常に困難であるためこれまで実用化には至っていない。よって、熱間成形法は芯金を用いることが従来の技術では必須であり、成形できるコイルばねとしては、無芯金でコイリング可能な冷間成形法と比べ形状の自由度が低い。
一方、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの圧縮コイルばねについては、比較的線径が細いために冷間成形が可能である。そして、加熱による変態や熱膨張収縮を伴わないことから高い寸法精度が得やすく、更に、加工速度や設備費等による量産性(タクト、コスト)も高いことから、このクラスの圧縮コイルばねの製造については従来から冷間成形法が採用されている。また、この冷間成形法については無芯金での成形技術が確立されており、コイルばねの形状自由度が高いことも、冷間成形法が用いられる大きな一因であり、熱間成形法によるバルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの圧縮コイルばねの製造技術はこれまでに実在しない。なお、冷間成形法においては、コイルばね線材としては、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線といった硬引線が従来用いられてきた。しかしながら、近年、軽量化の観点から材料の高強度化が求められており、高価なオイルテンパー線が広く用いられるようになってきている。
冷間成形法では、図1(D)および(E)に示すように、線材を冷間でコイルばね形状にコイリングし、焼鈍後、ショットピーニングおよびセッチングを必要に応じて施す。ここで、焼鈍は、コイルばねの耐疲労性向上の阻害要因となる加工によって生じた残留応力を除去することを目的としており、ショットピーニングによる表面への圧縮残留応力の付与と合わせ、コイルばねの耐疲労性向上に寄与する。なお、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングのような高負荷応力で使用されるコイルばねについては、窒化処理による表面硬化処理がショットピーニング前に必要に応じて施される。
さらなる耐疲労性の向上を目指した研究が盛んに行われている。たとえば、特許文献1には、冷間成形用のオイルテンパ線が記載されており、残留オーステナイトの加工誘起変態を利用して耐疲労性を向上させる技術が開示されている。特許文献2には、窒化処理を施した線材の表面に、異なる投射速度での多段ショットピーニングを施すことで大きな圧縮残留応力を付与し、耐疲労性の向上を図る技術が開示されている。
特許文献1においてコイリング後のコイルばねには残留応力が生じる。この残留応力、特にコイル内径側表面に発生する線軸方向の引張残留応力は、コイルばねとしての耐疲労性向上の阻害要因である。そして、通常はこの加工による残留応力を除去するために焼鈍を施すが、焼戻し軟化抵抗が高い特許文献1にある線材をもってしても、所望の線材の強度を維持したうえでこの残留応力を完全に除去することが困難なことは容易に推定でき、当業者にとっては周知である。したがって、その後ショットピーニングを施したところで、加工によってコイル内径側に残留した引張残留応力の影響により線材表面に十分な圧縮残留応力を付与することは困難であり、コイルばねとしての十分な耐疲労性を得ることができない。また、焼戻し軟化抵抗の向上に寄与するV、Moといった元素は高価である。よって、線材が非常に高価となり、当然、製品としてのコイルばねも高価なものとなる。
また、特許文献2では、コイルばねの線材表面近傍(以下、「表面」と称す)の圧縮残留応力は1400MPa程度あり、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの高負荷応力下で使用するコイルばねとして、表面における亀裂発生抑制に対しその圧縮残留応力は十分である。しかしながら、表面の圧縮残留応力を向上させた結果、線材内部での圧縮残留応力は小さくなり、介在物などを起点とする線材内部での亀裂発生に対しては、その圧縮残留応力の効果が乏しくなる。つまり、特許文献2による手段では、ショットピーニングにより与えられるエネルギーに限りがあるため、すなわち圧縮残留応力分布の変化は与えられるものの圧縮残留応力の総和を大きく向上させることは困難である。先述した加工による残留応力の影響を解消することなどは考慮されておらず、よって、同じ強度の線材に対してその耐疲労性の向上効果は乏しい。
特許第3595901号 特開2009−226523号公報
上記のように、従来の製造方法や特許文献1、2等では、近年の高応力下での耐疲労性の更なる向上とコスト低減の両立を求めた要求に対し、その対応は困難を来す。また、冷間成形用として現在主流となっているオイルテンパー線は高価であり、中でも性能向上のためにNi、V、Moといった高級元素を添加したオイルテンパー線は非常に高価である。さらに、成形後の焼鈍処理で加工による残留応力を完全に解消できていないことから、線材の性能を十分に活用できていない。
本発明は、このような背景の下、コイリング加工による引張残留応力を解消すると共に線材表面にC濃化層を形成し、成形後の線材に適切な圧縮残留応力分布を付与することにより、安価な線材を用いた高耐久性の圧縮コイルばねおよびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、コイルばねの耐疲労性について鋭意研究を行った。そして、大きな圧縮残留応力を得るには、コイリング加工時の引張残留応力を解消し、後に行うショットピーニングやセッチングの効果を効果的に得ることが重要であるとの考えに至った。そこで、ショットピーニング工程前までにばね線材の引張残留応力を解消する方法について検討を行った。その結果、コイルばね線材をオーステナイト域まで加熱することにより残留応力を解消できることに着目し、コイルばね線材をオーステナイト域まで加熱した状態でコイリング加工を行い、加工に起因した残留応力の発生を解消して、後に行うショットピーニングやセッチングの効果を効率的に得ることができることを見出した。
オーステナイト域までの加熱段階において、その加熱をより短時間で行うことは、旧オーステナイト結晶粒径(以下、「結晶粒径」と称す)の粗大化抑制、或いは、微細化に繋がる。そしてこの結晶粒径は耐疲労性と密接な関係にあり、結晶粒径の微細化は耐疲労性の向上に有効である。よって、コイルばね線材を短時間で加熱して熱間加工することで、加工に起因する残留応力を解消することと相まって、より耐疲労性に優れたばねの製作が可能となる。
さらに、コイルばねに対して浸炭処理を行い、ばね内径側表層部にC濃化層を形成することにより、圧縮時に最大の引張応力が作用するばね内径側表面近傍を高硬度として降伏応力を向上させ、後に行うショットピーニングの効果を効率的に得ることができる。ここで、浸炭処理を熱間コイリング加工時に行うと、浸炭処理を効率的に行うことが可能である。
また、冷間コイリング加工後にコイルばね線材をオーステナイト域まで加熱して加工による残留応力を解消することによって、後に行うショットピーニングやセッチングの効果を効率的に得ることができる。冷間コイリング加工の場合では、コイリング後の加熱時に浸炭処理を同時に行うと浸炭処理を効率的に行うことが可能である。
すなわち、本発明の圧縮コイルばねは、質量%で、Cが0.80%以下の鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、ばね内径側表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、任意の線材横断面において表面C濃度およびC濃化層深さが前記横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少していることを特徴としている。
ここで、Cは、強度向上に寄与するが、Cの含有量が0.80重量%を超えると、靭性が低下して割れが発生し易くなる。このため、Cの含有量は0.80重量%以下とする。なお、Cの含有量が0.45重量%未満では、強度向上の効果が十分に得られないため、耐疲労性、耐へたり性が不十分となる。よって、Cは0.45重量%以上であることが望ましい。
本発明においては、ばね内径側表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、任意の線材横断面において表面C濃度およびC濃化層深さが前記横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少していることを特徴としている。コイルばねの圧縮時には、ばね内径側表層部に最大の引張応力が作用するが、本発明においては、その部分に浸炭処理によってC濃化層を形成して降伏応力を向上させるため、後に行うショットピーニングによって大きな表面圧縮残留応力を付与することができる。また、硬いC濃化層の存在により、ショットピ−ニング後の表面粗さを改善することができ、このため、耐疲労性をさらに向上させる効果がある。そして、表面C濃度およびC濃化層深さが前記横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少するので、コイルばねの圧縮時の引張応力の分布に降伏応力の分布が対応して、その横断面円周上で急激な弾性ひずみの変化を招くことなく、C濃化層を強化が必要な部分に効率良く作用させることができる。このため、コイルばねの全体を浸炭処理した場合と同等の性能(耐疲労性)を発揮することができる。
C濃化層の効果を十分に得るため、C濃化層における最大C濃度は0.7〜0.9%であることが好ましく、C濃化層(浸炭深さ)は、線材表面から0.01〜0.1mmの深さまで形成されていることが好ましい。C濃化層の最大C濃度が0.7%未満の場合や、C濃化層の厚さが0.01mm未満の場合は浸炭による効果が十分に得られない。一方、C濃化層の最大C濃度が0.9%を超える場合は、母相に固溶できないCが粗大な炭化物として析出し、この炭化物と母相との弾性ひずみの差から破壊起点となりやすく、耐疲労性の低下を招く。C濃化層の厚さが0.1mmを超える場合は、短時間での処理を前提としたときには高温での処理が必要となり、その結果、結晶粒度が粗大化し、耐疲労性の低下を招く。一方、浸炭深さは浸炭時間に依存するから、結晶粒度を維持したまま0.1mmを超える深さまで浸炭を行うには長い処理時間を要する。よって、後述する本発明の圧縮コイルばねの第1の製造方法および第2の製造方法においては、長時間を掛けて処理することは鋼線材の供給速度の低下につながり、コイリング中およびその後の大きな温度低下を招くことから正常な焼入れが困難となる。また、第3の製造方法では、長時間を掛けて浸炭処理することは生産能力の観点から実用性がない。
次に、本発明の圧縮コイルばねの製造方法について述べる。本発明の圧縮コイルばねの第1の製造方法では、コイルばね成形機により鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、鋼線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う。ここで、コイルばね成形機は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材と切断するための切断手段とを有している。また、コイリング部は、フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えている。さらに、コイルばね成形機は、フィードローラの出口からコイリングツールの間に鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段を有している。そして、加熱中から焼入れまでの間に、鋼線材の径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向に位置したガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付ける浸炭工程を行う。
また、本発明の圧縮コイルばねの第2の製造方法では、鋼線材の表層部にC濃化層を形成する浸炭工程と、コイルばね成形機により鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、鋼線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う。浸炭工程におけるC濃化層を形成する手段は、鋼線材の径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向に位置したガス吹付けノズルから加熱した鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付けるものである。また、コイリング工程に用いるコイルばね成形機は、本発明の第1の製造方法で用いたものと同様である。加熱手段は高周波加熱であり、ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくはワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端とコイリングツールとの空間における鋼線材の通過経路上に鋼線材と同心となるように高周波加熱コイルが配置されている。そして、浸炭工程とコイリング工程が途中で鋼線材の切離がない連続した工程である。
さらに、本発明の圧縮コイルばねの第3の製造方法では、コイルばね成形機により鋼線材を成形するコイリング工程と、コイルを20秒以内でオーステナイト域まで昇温し焼入れを行う加熱焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う。加熱焼入れ工程における加熱手段が高周波加熱であり、加熱中から焼入れまでの間に、成形したコイルばねの外径方向に位置したガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付ける浸炭工程を行うことを特徴とする。
本発明の圧縮コイルばねの第1〜第3の製造方法では、鋼線材の径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向(第1、第2の製造方法)、または、成形したコイルばねの外径方向(第3の製造方法)に位置したガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付けることを特徴としている。ガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付けると、吹き付けられた鋼線材表面は冷却されて温度が低下し、炭化水素系ガスとの反応は生じないか生じても僅かである。一方、コイルばねの内径方向側では、炭化水素系ガスが鋼線材を回り込んでその表面に接触するが表面は冷却されておらず、炭化水素系ガスとの反応が活発に行われる。したがって、表面C濃度およびC濃化層深さが横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少する。しかも、鋼線材を短時間で加熱してから炭化水素系ガスを直接吹き付けて浸炭を行うから、結晶粒の成長が抑制され、結晶粒を微細にすることができ、耐疲労性を向上させることができる。なお、上記のような作用を確実に得るために、ガス吹付けノズルの先端は、鋼線材表面から0.1〜10.0mm離間させることが望ましい。
ここで、炭化水素系ガスを吹付ける時点の鋼線材表面温度が850〜1150℃であり、且つ、線材表面部における炭化水素系ガスの動圧が0.1〜5.0kPaであることが好ましい。この浸炭条件によれば、線材の結晶粒度の著しい低下を防ぎながら浸炭を短時間で効率的に行うことができる。また、本発明の圧縮コイルばねの第1〜第3の製造方法では、炭化水素系ガスの主成分が、メタン、ブタン、プロパン、アセチレンのいずれかであることが好ましい。
上記製造方法において、焼戻し工程は、焼入れ工程によって硬化されたコイルを適切な硬さと靭性を有するコイルに調質するために行う。よって、焼入れしたままで所望の硬さと靭性とが得られる場合には、焼戻し工程は省略しても良い。そして、ショットピーニング工程では、多段ショットピーニングを行っても良く、さらに、表面弾性限の回復を目的とした低温時効処理を必要に応じ組み合わせても良い。ここで、低温時効処理はショットピーニング工程後、あるいは多段ショットピーニングの各段の間にて行うことができ、多段ショットピーニングにおける最終段として粒径0.02〜0.30mmのショットによるショットピーニングを施す場合には、その前処理として行うことが、最表面の圧縮残留応力をより高める上で好適である。なお、セッチング工程においてへたり防止処理としてコイルに施すセッチングとしては、コールドセッチング、ホットセッチング等種々方法はあるが、所望する特性により適宜選択する。
本発明の圧縮コイルばねの第1および第2の製造方法によれば、上記コイルばね成形機で熱間コイリングを行うため、加工による残留応力の発生を防止することができる。そして、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温するため、結晶粒の粗大化を防ぐことができ、優れた耐疲労性を得ることができる。また、浸炭処理を施すため、鋼線材表面を高硬度とすることができ、後に行うショットピーニングによって効果的に圧縮残留応力を付与することができる。特に、本発明の圧縮コイルばねの第1の製造方法では、熱間コイリング時の熱を利用して浸炭処理を行うため、効率的に浸炭処理を行うことが可能である。
また、本発明の圧縮コイルばねの第3の製造方法によれば、コイルを20秒以内でオーステナイト域まで昇温し焼入れを行うため、結晶粒の粗大化を防ぎながら冷間コイリングにより発生した引張残留応力を解消することができる。また、加熱焼入れ時の熱を利用して浸炭処理を施すため、効率的に浸炭処理を行うことが可能である。これらのことから、後に行うショットピーニングによって効果的に圧縮残留応力を付与することができ、優れた耐疲労性を得ることができる。
本発明は、ばねとして使用される炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、シリコンクロムバナジウム鋼オイルテンパー線に対して適用が可能である。特に、安価な炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線に適用することが好適である。これは、上記製造方法により、安価な線材を利用しても高級元素が添加された高価なオイルテンパ線を使用した従来の冷間成形ばねよりも優れた耐疲労性のばねを得ることができるためである。
本発明によれば、コイリング加工による引張残留応力を解消すると共に、成形後の線材に適切な圧縮残留応力分布を付与することにより、安価な線材を用いて、高耐久性の圧縮コイルばねを得ることができる。
コイルばねの製造工程の一例を示す図である。 本発明の実施形態におけるコイリングマシンの成形部の概略図である。 本発明の第1実施形態における高周波加熱コイル設置位置を示す概略図である。 本発明の第2実施形態における高周波加熱コイル設置位置を示す概略図である。 本発明の第1実施形態における高周波加熱コイル設置位置の変更例を示す概略図である。 本発明の第3実施形態における高周波加熱コイル設置位置を示す概略図である。 (A)は本発明の実施例においてC濃化層を調査した圧縮コイルばねを示す断面図、(B)は発明例8におけるC濃化層を示す図、(C)は発明例15におけるC濃化層を示す図である。 発明例8と発明例15におけるC濃度測定位置と表面C濃度との関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明においては、以下の成分を有することが望ましい。なお、以下の説明において「%」は「重量%」を意味する。
Si:0.15〜2.50%
Siは、鋼の脱酸に有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与する。Siの含有量が0.15%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Siの含有量が2.50%を超えると靭性が低下して割れが発生し易くなると共に、脱炭を助長し線材表面強度の低下を招く。このため、Siを0.15〜2.50%含有することが望ましい。
Mn:0.3〜1.0%
Mnは焼入れ性の向上に寄与する。Mnの含有量が0.3%未満では、十分な焼入れ性を確保し難くなり、また、延靭性に有害となるSの固着(MnS生成)の効果も乏しくなる。一方、Mnの含有量が1.0%を超えると、延性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。このため、Mnを0.3〜1.0%含有することが望ましい。
なお、他の元素をさらに添加しても良い。すなわち、本発明においては、ばね鋼の成分組成として一般的に用いられているCr、B、Ni、Ti、Cu、Nb、V、Mo、W等の元素のうち1種または2種以上を0.005〜4.5%、その目的に応じて適宜添加することが可能であり、その結果、より高性能、若しくは、用途により適したコイルばねの製造も可能である。たとえば、Crを添加する場合について以下に述べる。
Cr:0.5〜2.0%
Crは脱炭を防止するのに有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与し、耐疲労性の向上に有効である。また、温間での耐へたり性向上にも有効である。このため、本発明においてはさらに、Crを0.5〜2.0%含有することが好ましい。Crの含有量が0.5%未満では、これらの効果を十分に得られない。一方、Crの含有量が2.0%を超えると、靭性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。
図1に各製造工程を示す。図1(A)〜(C)は、本発明の圧縮コイルばねを得る製造工程であり、図1(D)、(E)、(F)は従来例である。図1(A)および(B)に示される製造工程は、以下のコイリングマシンによる熱間成形法であり、図1(C)に示される製造工程は、任意のコイリングマシンによる冷間成形法である。
図1(A)、(B)および(F)に示される製造工程で用いるコイリングマシンの成形部の概略を図2に示す。図2に示すように、コイリングマシン成形部1は、連続的に鋼線材Mを供給するためのフィードローラ10と、鋼線材Mをコイル状に成形するコイリング部20と、所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材Mとを切り離すための切断刃30aおよび内型30bを備えた切断手段30と、フィードローラ10の出口からコイリングツール22の間において鋼線材Mを加熱する高周波加熱コイル40とを有する。コイリング部20は、フィードローラ10により供給された鋼線材Mを適切な位置へ誘導するためのワイヤガイド21と、ワイヤガイド21を経由して供給された鋼線材Mをコイル形状に加工するためのコイリングピン(もしくはコイリングローラ)22aからなるコイリングツール22と、ピッチを付けるためのピッチツール23とを備えている。
コイリングマシンでの急速加熱は、高周波加熱コイル40によって行い、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域に昇温させる。高周波加熱コイル40の設置位置は図2に示す通りである。高周波加熱コイル40はワイヤガイド21の近傍に設置されており、鋼線材Mを加熱後、直ぐに成形出来るようにコイリング部20が設けられている。なお、高周波加熱コイルの設置位置は、鋼線材Mを加熱後、直ぐに成形できれば良いので、本実施形態で示した位置以外でも良い。
コイリング部20では、ワイヤガイド21を抜けた鋼線材Mをコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げ、さらに下流のコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げる。そして、ピッチツール23に鋼線材Mを当接させて、所望のコイル形状となるようにピッチを付与する。所望の巻数となったところで、切断手段30の切断刃30aによって内型30bの直線部分との間でせん断によって切断して、後方より供給される鋼線材Mとばね形状の鋼線材Mとを切り離す。
(1)第1実施形態
図1(A)に第1実施形態の製造工程を示す。まず、重量%で、Cを0.45〜0.80%、Siを0.15〜2.50%、Mnを0.3〜1.0%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜10mmの鋼線材Mを用意する。この鋼線材Mを線出機(図示省略)によりフィードローラ10へ供給し、高周波加熱コイル40によって鋼線材Mを2.5秒以内でオーステナイト域に加熱後、コイリング部20においてコイリングを行う(コイリング工程)。
このとき、加熱中から焼入れまでの間に鋼線材Mの表面に炭化水素系ガスを直接吹付けて浸炭処理を同時に行う(浸炭工程)。たとえば、図3に示すようなガス吹付けノズル50を用いる。図3に示すガス吹付けノズル50は、高周波加熱コイル40より下流であって鋼線材Mから形成されたコイルばねの外径方向に位置している。この場合、ガス吹付けノズル50の先端位置は鋼線材Mの表面から0.1〜10.0mmとすることが好ましい。先端位置が0.1mm未満では、圧損によりガスの流れが悪くなり十分なガス流量が得られなくなることに加え、鋼線材Mの表面に当たって散逸するガス量が増え、その結果、鋼線材Mの内径方向側に回り込んで鋼線材Mの表面と接触するガス量が少なくなるため浸炭が安定しない。また、鋼線材Mの表面との距離が近過ぎると鋼線材Mからの輻射熱でガス吹付けノズル50が劣化してしまう。一方、ガス吹付けノズル50の先端位置が10.0mmを超えると、多量の炭化水素系ガスを吹き付ける必要が生じ経済的でない。浸炭は、ガス吹付圧(鋼線材M表面での動圧)0.1〜5.0kPa、鋼線材温度850〜1150℃において行い、鋼線材Mの表面に最大C濃度が0.7〜0.9重量%であり、厚さが0.01〜0.1mmのC濃化層を形成する。これにより、線材内部硬さよりも50HV以上高い表層部を得ることができる。
次に、コイリング後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れ槽(図示省略)において焼入れ(焼入れ溶媒としては、たとえば60℃程度の油)を行い(焼入れ工程)、さらに焼戻し(たとえば150〜450℃)を行う(焼戻し工程)。焼入れを行うことにより、マルテンサイト組織からなる高硬さ組織となり、さらに焼戻しを行うことにより、靭性に優れた焼戻しマルテンサイト組織とすることができる。ここで、焼入れ・焼戻し処理は一般的な方法を用いればよく、その焼入れ前の線材の加熱温度や焼入れ溶媒の種類・温度、そして焼戻しの温度や時間は、鋼線材Mの材質によって適宜設定する。
さらに、鋼線材Mにショットピーニング処理(ショットピーニング工程)およびセッチング処理(セッチング工程)を施すことにより、所望の耐疲労性を得ることができる。オーステナイト域に加熱した状態でコイリングを行うため、加工による残留応力の発生を防ぐことができる。このため、ショットピーニングによって圧縮残留応力を付与し易く、ばねの内径側において表面から深くかつ大きい圧縮残留応力を効果的に付与することができる。さらに、セッチング処理を行うことにより、ばねとして使用した場合の最大主応力方向により深い圧縮残留応力分布が形成され、耐疲労性を向上することができる。
本実施形態においては、粒径0.6〜1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2〜0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02〜0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理を行う。後に実施するショットピーニング処理において、先に実施するショットピーニング処理よりも小さいショットを用いるため、線材の表面粗さを平滑にすることができる。
ショットピーニングで使用するショットは、スチールカットワイヤやスチ−ルビーズ、FeCrB系をはじめとした高硬度粒子等を用いることができる。また、圧縮残留応力は、ショットの球相当直径や投射速度、投射時間、および多段階の投射方式で調整することができる。
また、本実施形態では、セッチング処理としてホットセッチングを行い、100〜300℃に加熱し、かつ線材表面に作用するせん断ひずみ量がばねとして実際に使用する場合の作用応力でのせん断ひずみ量以上となるようにばね形状の鋼材に対して塑性ひずみを与える。
以上のような工程によって作製した本発明の圧縮コイルばねは、ばね素線の任意の横断面において内部硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側の表層部にC濃化層を有する。このC濃化層は、表面C濃度およびC濃化層深さが横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少する。なお、C濃化層は、最大C濃度が0.7〜0.9重量%であり、厚さが0.01〜0.1mmであり、内部硬さよりも50HV以上高い硬さを有する。したがって、本発明の圧縮コイルばねは、圧縮残留応力が深くかつ大きく付与されているため、耐疲労性に優れている。
図5は図3の変形例を示す図であり、高周波加熱コイル40のコイルの間にガス吹付けノズル50を設置した例である。この例では、コイリング前に加熱中に浸炭工程を行うため、ガス吹付けノズル50の数を適宜選定することで浸炭時間を自由に設定することができる。
(2)第2実施形態
第1実施形態においては熱間コイリング時に浸炭処理を施したが、図1(B)に示すように、熱間コイリング前に浸炭工程を行っても本発明の圧縮コイルばねを得ることができる。たとえば、図4に示すように、フィードローラ10の手前にガス吹付けノズル50を設置し、その手前に高周波加熱コイル40を配置して浸炭処理を行う。ガス吹付けノズル50は、フィードローラ10よりも上流であって、鋼線材Mの径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向に位置している。浸炭条件は第1実施形態と同様である。浸炭工程後は、鋼線材Mを切離さずにそのままコイリング工程に供する。なお、コイリング工程、焼入れ工程、焼戻し工程、ショットピーニング工程、およびセッチング工程は第1実施形態と同様に行う。
第2実施形態によれば、第1実施形態と同等の圧縮コイルばねを得ることができる。また、第2実施形態では、コイリング前に浸炭工程を行うため、第1実施形態に比べて浸炭時間を自由に設定することができる。
(3)第3実施形態
また、図1(C)に示すような冷間成形法を用いて本発明の圧縮コイルばねを得ることもできる。第1実施形態において用いた鋼線材Mを任意のコイリングマシンによって冷間コイリングを行う(コイリング工程)。そして、コイリング後の鋼線材Mを20秒以内でオーステナイト域まで昇温し焼入れを行う(浸炭焼入れ工程)。このとき、加熱は高周波加熱手段を用い、加熱中から焼入れまでの間に鋼線材Mの表面に炭化水素系ガスを直接吹付けて浸炭処理を同時に行う。たとえば、図6に示すように、鋼線材Mを回転可能かつ上下方向へ移動可能な冶具60に固定し、鋼線材Mの周囲に高周波加熱コイル40、高周波加熱コイル40の互いに隣接するコイルの間にガス吹付けノズル50をそれぞれ設置する。そして、冶具60を回転させることにより鋼線材Mを回転させながら上方(または下方)へ移動させ、ガス吹付けノズル50を通してガスを供給して、コイルばねの表面が均一に焼入れおよび浸炭されるように行う。浸炭条件は第1実施形態と同様である。
次に、第1実施形態と同様に焼入れ工程、焼戻し工程、ショットピーニング工程、およびセッチング工程を順に行う。加熱焼入れ工程においてオーステナイト域まで加熱を行うため、冷間成形によって発生した引張残留応力を解消することができ、ショットピーニングおよびセッチングの効果を効果的に得ることができる。このようにして、第1実施形態と同等の性能の圧縮コイルばねを得ることができる。
第1および第2実施形態と比べ、第3実施形態ではコイル形状の鋼線材Mに対して高周波加熱を行うため、均熱化等を考慮する必要がある。また、加熱時間が比較的長くなるため、結晶粒微細化の効果については、第1および第2実施形態に劣る。そして、冷間成形法では、成形後のコイルばねには大きな加工歪みが残留しており、その加工歪みは個体内で一様ではない。このため、加熱焼入れ工程において、加工歪みを解放させた際に、形状が歪になり易い。さらに、第3実施形態では、複雑な形状のコイルばね(円錐形、釣鐘形、両端絞り形、鼓形、樽形等の異形ばね)を加熱する際に、均熱化を目的に一品一様の加熱コイルが必要となり、その加熱コイルの設計と加熱条件出しに多大な労力を必要とする。また、より複雑な形状のコイルばねに対しては、均熱化に困難を来す場合もある。したがって、いずれの観点からも、第3実施形態と比較して、第1および第2実施形態における製造方法のほうが好ましい。
1.サンプル作製方法
各製造工程によってコイルばねのサンプルを作製し、耐疲労性の評価を行った。まず、表1に記載の化学成分を有し、残部が鉄および不可避不純物からなる硬引線およびオイルテンパ線を用意した。各線材の線径は表2に示す通りである。そして、硬引線またはオイルテンパ線に対して、図1(A)〜(F)に示す製造工程(それぞれ、製造工程A〜Eと表す)にしたがって、熱間成形法または冷間成形法によりばね指数6、有効部ピッチ角9°、有効部巻数4.25巻のコイルばねを作製した。
Figure 2014206219
製造工程Aでは、高周波加熱コイルおよびガス吹付ノズルを備えたコイリングマシン(図3参照)により鋼線を加熱してコイリングを行い、表2に示す条件で浸炭処理を行った後、60℃の油によって焼入れした。表2において、浸炭処理温度は、鋼線の表面温度であり、動圧は、鋼線表面におけるプロパンガスの動圧を表す。その後、表2に記載の条件で焼戻し処理を行った(発明例1〜18、比較例1〜3)。また、製造工程Bでは、図4に示すコイリングマシンを用いて表2に示す浸炭処理条件において浸炭処理を施した後、鋼線を900℃に加熱してコイリングを行い、60℃の油によって焼入れした。その後、350℃において焼戻し処理を行った(発明例19)。
製造工程Cでは、任意のコイリングマシンによる冷間コイリング後、図5に示すような装置を用いて表2に記載の条件で加熱浸炭処理を行い、60℃の油によって焼入れを行った後、350℃において焼戻し処理を行った(発明例20)。また、比較のため、製造工程DおよびEによりコイルばねのサンプルを作製した。製造工程Dでは、冷間コイリング後、表2に示す温度において焼鈍処理を行った(比較例4〜6)。製造工程Eでは冷間コイリング後、400℃において焼鈍処理を行い、次いで窒化処理を行った。窒化処理では線材表面に深さ0.04mmの硬質層を形成した。製造工程Fでは、製造工程Aで用いる装置でプロパンガスを導入せずに鋼線材を熱間成形し、60℃の油によって焼入れを行った後、350℃において焼戻し処理を行った。次いで、コイルばねをバッチ式の加熱炉に収容して浸炭を行った(比較例7)。
次に、各サンプルに対してショットピーニング処理およびセッチング処理を施した。ショットピーニング処理では、球相当直径1.0mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第1のショットピーニング処理と、球相当直径0.5mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第2のショットピーニング処理と、球相当直径0.1mmのスチールビーズによる第3のショットピーニング処理とを順に行った。セッチングはホットセッチングとし、コイルばねの加熱温度200℃、負荷応力1500MPaで行った。
Figure 2014206219
2.評価方法
このようにして得たサンプルに対し、以下の通り諸性質を調査した。その結果を表3に示す。
(1)硬さ(HV)
ビッカース硬さ試験機(フューチャテック FM−600)を用いてコイルばねの線材横断面におけるコイル内径側で測定を行った。測定荷重は表面から深さ0.05mmまでは10gf、深さ0.05〜0.1mmまでは25gf、深さ0.2mm以上の位置では200gfとした。
(2)深さ0.2、0.4mmの圧縮残留応力(−σR0.2、−σR0.4)、最大圧縮残留応力(−σRmax)、圧縮残留応力積分値(I−σR)、クロッシングポイント(CP)
コイルばねの内径側表面において、線材の線軸方向に対し+45°方向(ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向)の圧縮残留応力を、X線回折型残留応力測定装置(リガク製)を用いて測定した。測定は、管球:Cr、コリメータ径:0.5mmとして行った。また、コイルばねに対して塩酸を用いて線材表面の全面化学研磨後上記測定を行い、これを繰返すことで深さ方向の残留応力分布を求め、その結果から表面から0.2mm、0.4mmの深さにおける無負荷時の圧縮残留応力、最大圧縮残留応力、クロッシングポイントを求めた。また、圧縮残留応力積分値は、深さと残留応力の関係図における、表面からクロッシングポイントまでの圧縮残留応力を積分することにより算出した。
(3)表面C濃度(Cc)、C濃化層厚さ(Ct)
コイルばねの線材横断面における内径側において表面C濃度およびC濃化層の厚さを測定した。測定にはEPMA(島津製作所 EPMA−1600)を用い、ビーム径1μm、測定ピッチ1μmとしてライン分析を行った。C濃化層厚さは、線材内部と同じC濃度となるまでの表面からの深さとした。また、発明例8,15については、図7(A)に示すように、コイルばねの断面について、内径方向の位置(0°)から断面の円周に沿って外径方向(180°)にいたる各部の表面C濃度を測定した。なお、図7(B)は発明例8、図7(C)は発明例15であり、2つの曲線で挟まれた部分がC濃化層を示している。
(4)旧オーステナイト粒平均結晶粒度番号(G)
前処理として、コイルばねのサンプルを500℃で1時間加熱した。そして、コイルばねの横断面の深さd/4の位置において、視野数を10箇所として、光学顕微鏡(NiKON ME600)を用いて倍率:1000倍でJIS G0551に準拠して測定を行い、旧オーステナイト粒平均結晶粒度番号Gを算出した。
(5)表面粗さ(Rz(最大高さ))
非接触三次元形状測定装置(MITAKA NH−3)を用いてJIS B0601に準拠して表面粗さの測定を行った。測定条件は、測定倍率:100倍、測定距離:4mm、測定ピッチ:0.002mm、カットオフ値:0.8mmとした。
(6)平均結晶粒径(dGS
FE−SEM/EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法により、JEOL JSM−7000F(TSLソリューションズ OIM−Analysys Ver.4.6)を用いて、平均結晶粒径を測定した。ここで、測定はコイルばねの横断面の深さd/4の位置において行い、観察倍率10000倍で行い、方位角度差5°以上の境界を粒界として平均結晶粒径を算出した。
(7)耐疲労性(折損率)
油圧サーボ型疲労試験機(鷺宮製作所)を用いて室温(大気中)において疲労試験を行った。試験応力:735±662MPa、周波数:20Hz、試験数:各8本であり、2千万回加振時の折損率(折損数/試験本数)で耐疲労性を評価した。
Figure 2014206219
3.評価結果
(1)硬さ
表3から分かるように,熱間成形法による本発明で内部硬さが570〜700HV(より好ましくは570HV〜690HV)であると、高い耐疲労性が得られる。一方、比較例3(焼戻し温度高)の結果から、熱間成形法によって作製し、かつ内径側に浸炭処理を施したコイルばねでも、硬さが570HV未満の場合は十分な耐疲労性が得られない(理由:本技術分野において要求される耐疲労性に対し耐力が乏しい)。また、全ての発明例では、浸炭によって内径側表面の硬さが内部と比較して50HV以上高くなっている。これによって、表面近傍で高い圧縮残留応力を得ることができ、表面近傍(最表面含む)を起点とする疲労亀裂の発生を防止することができる(耐疲労性向上)。
(2)旧オーステナイト粒平均結晶粒度
単純組成の材質A,B,C,またはDからなる製法Aによる発明例1〜4では、Gは10番以上であり、結晶粒微細化効果のあるV量が高い高級鋼を素材とする比較例4,5と同等程度の微細結晶粒が得られている。したがって、発明例1〜4では耐疲労性が向上していることが推測される。単純組成からなる材質を用いてこのような微細結晶粒が得られているのは、高周波加熱による急速加熱によるものである。すなわち、高周波加熱によって短時間で加熱を行うことで旧オーステナイト粒の粗大化抑制、或いは微細化に繋がり、単純組成からなる発明例1〜4において、Gが10番以上の微細結晶粒を得ることができ、耐疲労性が良好である.
単純組成の材質Cからなる製法Fによる比較例7では、熱間成形法の後に炉浸炭を行っているため、短時間で浸炭処理を行っている製法A〜Cによるものと比較して旧オーステナイト粒平均結晶粒度が著しく低下している。熱間成形法によって作製し、かつ全面に浸炭処理を施したばねでも、旧オーステナイト粒平均結晶粒度が10未満の場合は十分な耐疲労性が得られない。
製法Cによる発明例20においても、高周波加熱による短時間加熱の結果、Gは10.1と微細結晶粒を得ることができている。製法Aと比較して製法Cで結晶粒度がやや悪化しているのは、製法Cではコイル形状のものに対して高周波加熱を行うため、製法Aのような鋼線材を加熱する場合と比較して、均熱化等を考慮した際に、製法Fほどではないとはいえ加熱時間が長くなってしまうためである。つまり、製法Aは製法Cよりも結晶粒の微細化の点でより好ましい。
(3)平均結晶粒径
単純組成の材質A,B,C,またはDからなる発明例1〜4では、dGSは0.66〜0.89μmであり、高級鋼を用いた比較例5,6と同程度の平均結晶粒径であった。この理由は、前述のように、高周波加熱によって短時間で加熱を行うことが組織の粗大化抑制、あるいは微細化につながったためであり、その結果、発明例1〜4では微細な平均結晶粒径が得られ耐疲労性が向上している。
製法Fによる比較例7では、熱間成形法の後に炉浸炭を行っているため、短時間で浸炭処理を行っている製法A〜Cと比較して平均結晶粒径が著しく大きい。熱間成形法によって作製し、かつ全面に浸炭処理を施したばねでも、平均結晶粒径(dGS)が2.0μmを超える場合は十分な耐疲労性を得られない。
製法Cによる発明例20でも、高周波加熱による短時間加熱の結果、dGSは0.94μmと微細結晶粒を得ることができている。前述のように、製法Cでは製法Aと比較して加熱が長時間化するため、製法Aでは製法Cよりも結晶粒の微細化の点でより好ましい。
(4)表面C濃度,C濃化層厚さ
発明例1〜20では、ばね内径側において表面C濃度が0.7〜0.9%であり、C濃化層厚さ(線材内部と同じC濃度となる表面からの深さ)が30μm以上の浸炭がされており、表面近傍での硬さが高いことから、表面近傍での高い圧縮残留応力が得られている。また、表面粗さも改善されることで高い耐疲労性を得ることができる。
表4は発明例8と発明例15におけるC濃度測定位置に対する表面C濃度を示したもので、図8は表4をグラフにしたものである。図8に示すように、コイルばねの横断面の内径方向から横断面円周に沿って外径方向へ向かうに従って表面C濃度が連続的に減少している。また、図7(B),(C)に示すように、C濃化層深さは、内径側から横断面円周に沿ってばね外径側に向かうに従って連続的に減少している。このように、コイルばねの横断面の内径方向側の方が表面C濃度が高く、かつC濃化層深さが深いので、降伏応力が高い。したがって、ショットピ−ニングによってより大きな圧縮残留応力が付与されるので、疲労強度が高められている。
Figure 2014206219
(5)残留応力分布
同じ材質の線材を用い製法Aにより作製した発明例3、製法Bにより作製した発明例19、および製法Cにより作製した発明例20では、同等の硬さとなるよう焼鈍処理を行った比較例4と比べて、表面から深い位置での圧縮残留応力(−σR0.4)が大きい。その理由は、製法AまたはBによって作製した発明例では、冷間コイリングにおいて発生する引張残留応力(コイル内径側に残存)が熱間コイリングにおいてはほとんど発生しないためであり、また、製法Cにより作製した発明例20では、冷間コイリングにおいて発生した引張残留応力が、その後オーステナイト域まで加熱することで完全に解消するためである。つまり、冷間コイリングによって引張残留応力が発生した比較例4と比べ、発明例3,19および20では、ショットピーニングによる圧縮残留応力が表面から深くまで入り易く、破壊起点となり易い0.1〜0.4mm深さにおける圧縮残留応力を大きくできるため耐疲労性を向上させることができる。
発明例1〜20については、全て−σRmaxは900MPa以上であり、浸炭により表面近傍の降伏応力が上がっているため、ショットピ−ニングにより圧縮残留応力は大きく付与されるとともに、I−σRは150MPa・mm以上、CPは0.45mm以上であり、深く大きな圧縮残留応力が得られている。したがって、発明例では、耐疲労性が向上していることが判る。
熱間コイリング後に一般的な炉浸炭処理を施した比較例7では、浸炭層の厚さが大きいことでショットピ−ニングによる残留応力の付与が表面近傍に偏っている。その結果、破壊起点となりやすい0.1〜0.4mm深さでの圧縮残留応力が小さくなってしまう。
比較例2〜4の折損品について破面観察を行った結果、その破壊起点は表面から深さ0.15〜0.35mmの範囲であり、非金属系介在物を起点とする内部起点であった。この深さは、合成応力(作用応力−残留応力)の最大値が現れる領域近傍に相当し、その領域(指標として−σR0.2、−σR0.4)での圧縮残留応力が大きいことが耐疲労性に対し重要であると分かる。このため,−σR0.2が200MPa以上かつ−σR0.4が60MPa以上である発明例1〜20では、高級元素が添加された高価な線材を用い、かつ窒化処理が施された比較例6以上の高い耐疲労性を得ることができる。
(6)表面粗さ
高い耐疲労性の得られた発明例1〜20について、表面粗さRz(最大高さ)は9.0μm以下であり、所望する表面粗さRz20μm以下を十分に満足している。ここで、Rzが20μmを超えた場合は、表面粗さにおける谷部が応力集中部となり、その谷部を起点として亀裂が発生・伝播し、その結果、早期折損を招く。また、この表面粗さは、コイリング時におけるツール類との擦れや、ショットピーニング処理により形成される。そして、ショットピーニング処理により形成される表面粗さについては、線材の硬さと、ショットの粒径および硬さ並びに投射速度といった条件との組み合わせによりその大きさが決まる。よって、Rzが20μmを超えないショットピーニングの条件を適宜設定する必要がある。発明例3,7〜15,では、同程度の内部硬さを有する比較例3と比べて表面粗さが小さい。これは、表面に硬さの高いC濃化層が形成されているためである。よって、浸炭層形成による表面硬さの向上は、破壊起点となり易い表面粗さの抑制、つまり、耐疲労性の向上による信頼性の向上に対して有効である。
(7)浸炭条件
ガス吹付圧(線材表面での動圧)は、0.5kPa〜5.0kPaが好ましく、ガス吹付け時の鋼線材温度は850〜1150℃であることが好ましいことが確認された。この条件によれば、発明例7〜15が示す通り、いずれも表面C濃度が0.7%以上であり、0.01mm以上のC濃化層厚さが得られる。表2から、ガス動圧は5.0kPa以下で充分である。したがって、ガス動圧を5.0kPaを超える値とすると経済的でなく、しかも、加えてガス動圧が大きくなると、ガス吹付けによる鋼線材の温度低下が大きくなり、その分必要な入熱量が増加する。
浸炭反応の速度の観点から短時間での浸炭には鋼線材温度は850℃以上が必要であり、鋼線材温度が800℃の比較例1では、C濃化層が得られていない。一方、鋼線材温度の高い比較例4では、浸炭反応は十分に起こっているものの、加熱温度が高いために結晶粒度が悪化し、耐疲労性が低下している.
(8)寸法精度
厳しい寸法精度が要求される部品に対しては、製法Aおよび製法Bによる発明例が好ましい。製法Cでは、耐久性は良好なものの、寸法精度に関しては製法Aおよび製法Bに劣る。その理由は、冷間成形後のコイルばねにおいては大きな加工歪みが残留しており、また、その加工歪みが個体内で一様ではないため、その後オーステナイト領域まで加熱を行うことで加工ひずみの解放が生じた際に、不均一な変形で形状が大きく歪になる等の不都合を招くためである。これに対して、製法Aおよび製法Bでは、熱間成形により加工歪みが残留しない。
製法Aおよび製法Bと、製法Cとの寸法精度の違いについて焼入れ後のコイルばね50個で評価を行った。その結果、コイル径については、製法Cで作製したコイルの標準偏差が0.047mmであったのに対し、製法AおよびBで作製したコイルでは0.020〜0.026mmであった。
本発明は、ばねとして使用される炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、シリコンクロムバナジウム鋼オイルテンパー線に対して適用が可能である。特に、安価な炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線に適用することが好適である。これは、熱間コイリングによるため、従来の冷間成形で使用されている高価なオイルテンパー線を使用する必要が無く、また、安価な線材を持って高級鋼を使用した従来の冷間成形ばねを超えた耐疲労性が得られることによる。
1…コイリングマシン成形部、10…フィードローラ、20…コイリング部、21…ワイヤガイド、22…コイリングツール、22a…コイリングピン、23…ピッチツール、30…切断手段、30a…切断刃、30b…内型、40…高周波加熱コイル、50…ノズル、60…冶具、M…鋼線材。

Claims (16)

  1. 質量%で、Cが0.80重量%以下の鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、ばね内径側表層部に前記鋼線材に含まれるCの平均濃度を超えるC濃化層を有し、任意の線材横断面において表面C濃度およびC濃化層深さが前記横断面円周に沿ってばね内径側から外径側に向かうに従って連続的に減少していることを特徴とする圧縮コイルばね。
  2. 任意の線材横断面における内部硬さが570〜700HVであり、ばね内径側における前記C濃化層の硬さが内部硬さよりも50HV以上高いことを特徴とする請求項1に記載の圧縮コイルばね。
  3. ばね内径側における前記C濃化層における最大のC濃度が0.7〜0.9質量%であり、前記C濃化層の厚さが0.01〜0.1mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮コイルばね。
  4. JIS G0551に規定される旧オーステナイト粒平均結晶粒度番号が10番以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  5. SEM / EBSD法を用いて測定した平均結晶粒径(方位角度差5°以上の境界を粒界とする)が2.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  6. 前記線材のコイルばね内径側のばねに圧縮荷重を負荷した場合に生じる略最大主応力方向において、無負荷時の最大圧縮残留応力が900MPa以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  7. 前記線材のコイルばね内径側のばねに圧縮荷重を負荷した場合に生じる略最大主応力方向において、無負荷時の前記線材の表面から0.2mm深さでの圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さでの圧縮残留応力が60MPa以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  8. 前記線材のコイルばね内径側のばねに圧縮応力を負荷した場合に生じる略最大主応力方向において、無負荷時の圧縮残留応力の値がゼロとなる前記線材の表面からの深さをクロッシングポイントとし、縦軸を残留応力、横軸を素線半径とした残留応力分布曲線において表面からクロッシングポイントまでの積分値をI−σRと表したとき、I−σRが150MPa・mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  9. 前記圧縮残留応力がショットピーニングにより付与されていることを特徴とした請求項6〜8のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  10. 前記ショットピーニング処理が、粒径0.6mm〜1.2mmショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2mm〜0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02mmから0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理であることを特徴とする請求項11に記載の圧縮コイルばね。
  11. ばね形状が、円筒形、または、円錐形、両端絞り形、釣鐘形、鼓形、樽形等の異形であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  12. コイルばね成形機により鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う圧縮コイルばねの製造方法において、
    前記コイルばね成形機は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材と切断するための切断手段とを有し、
    前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、
    前記コイルばね成形機は、さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間に鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段を有し、
    加熱中から焼入れまでの間に、鋼線材の径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向に位置したガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付ける浸炭工程を行うことを特徴とする圧縮コイルばねの製造方法。
  13. 前記加熱手段が高周波加熱であり、前記ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくは前記ワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端と前記コイリングツールとの空間における鋼線材の通路経路上に鋼線材と同心となるように高周波加熱コイルが配置されていることを特徴とする請求項12に記載の圧縮コイルばねの製造方法。
  14. 鋼線材の表層部にC濃化層を形成する浸炭工程と、コイルばね成形機により鋼線材を熱間成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う圧縮コイルばねの製造方法において、
    前記浸炭工程におけるC濃化層を形成する手段が、鋼線材の径方向のなかでばね形状に成形した際に外径側となる方向に位置したガス吹付けノズルから加熱した鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付けるものであり、
    前記コイリング工程に用いる前記コイルばね成形機が、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材と切断するための切断手段とを有し、
    前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備え、
    前記コイルばね成形機は、さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間に鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段を有し、
    前記加熱手段は高周波加熱であり、前記ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくは前記ワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端と前記コイリングツールとの空間における鋼線材の通過経路上に鋼線材と同心となるように高周波加熱コイルが配置されており、
    前記浸炭工程と前記コイリング工程が途中で鋼線材の切離がない連続した工程であることを特徴とする圧縮コイルばねの製造方法。
  15. コイルばね成形機により鋼線材を成形するコイリング工程と、コイルを20秒以内でオーステナイト域まで昇温し焼入れを行う加熱焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行う圧縮コイルばねの製造方法において、
    前記加熱焼入れ工程における加熱手段が高周波加熱であり、
    加熱中から焼入れまでの間に、成形したコイルばねの外径方向に位置したガス吹付けノズルから鋼線材表面に炭化水素系ガスを直接吹付ける浸炭工程を行うことを特徴とする圧縮コイルばねの製造方法。
  16. 前記炭化水素系ガスを吹付ける時点の鋼線材表面温度が850〜1150℃であり、且つ、鋼線材表面部における前記炭化水素系ガスの動圧が0.1〜5.0kPaであることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載の圧縮コイルばねの製造方法。
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