JP2014200190A - 多加水パン及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】小麦粉に対して加える水の割合を高めたパン生地を形成し、しっとりとした食感のパンを提供する。
【解決手段】平均粒径が60μm〜120μmであり、損傷澱粉を4.0〜7.0重量%含有する基準小麦粉Rに、平均粒径が20μm〜40μmであり、損傷澱粉を7.0〜12重量%含有する微粉砕小麦粉Mを混合してなるパン生地用小麦粉であって、その微粉砕小麦粉がパン生地用小麦粉に20重量%〜50重量%の割合で混合し、基準小麦粉Rと微粉小麦粉Mとが合わさったパン生地用小麦粉には7.0重量%〜9.0重量%の損傷澱粉が含まれることにより、パン生地用小麦粉に対して70重量%〜140重量%の水が加水可能となり、しっくりとした食感のある多加水パンが得られる。
【選択図】図1
【解決手段】平均粒径が60μm〜120μmであり、損傷澱粉を4.0〜7.0重量%含有する基準小麦粉Rに、平均粒径が20μm〜40μmであり、損傷澱粉を7.0〜12重量%含有する微粉砕小麦粉Mを混合してなるパン生地用小麦粉であって、その微粉砕小麦粉がパン生地用小麦粉に20重量%〜50重量%の割合で混合し、基準小麦粉Rと微粉小麦粉Mとが合わさったパン生地用小麦粉には7.0重量%〜9.0重量%の損傷澱粉が含まれることにより、パン生地用小麦粉に対して70重量%〜140重量%の水が加水可能となり、しっくりとした食感のある多加水パンが得られる。
【選択図】図1
Description
本発明は、多加水パン及びその製造方法に関する。
従来、パンは、小麦粉及びその他油脂類等を水と共に混合して混練りすることによってパン生地を形成し、当該パン生地を発酵させた後に焼成されて製造されている。
このようにして製造されたパンは、その製造工程において小麦粉に対して加えられる水の割合は60重量%〜70重量%が適当であるとされていた。これは、小麦粉に特有の吸水率(小麦粉と水の混合物からなる流動体を、変形可能な軟らかさを有する固体のパン生地(いわゆる小麦粉ドウ)を形成できる一定の粘性抵抗が得られるまでに加水できる水の量)が上記従来割合にとどまることによるものである。
一方、需要者は、パンを口に入れたときに感じられる様々な食感のうち、特にしっとりとした食感(しっとり感)が強く感じられるものを好む傾向があり、また、当該しっとり感が長続きするパンを需要者はより好む傾向がある。
しかし、通常の方法によって小麦を篩分けし、ブレーキロール及び粉砕機による粉砕を経て製造された従来の小麦粉に、混合する水分量を前記割合以上加水して単純に加えても、生地の粘性が上がらず、いわゆるバッターの状態となり、パン用の生地として形成をすることは困難であった。そしてこのような状態の生地では、いくら含有する水分量が多いとしても製品としてパンを製造することができないという問題があった。
そこで、上記課題を解決する手段として本発明に係る多加水パンは、パン生地用小麦粉、水、及び油脂類が混練されてパン生地が形成されると共に、前記パン生地が発酵されて発酵パン生地が形成され、さらに、前記発酵パン生地が焼成されてなるパンであって、前記パン生地用小麦粉は、平均粒径が60μm〜120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%〜7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm〜40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%〜12重量%含有する微粉砕小麦粉との混合粉体であり、前記混合粉体には、前記微粉砕小麦粉が20重量%〜50重量%配合され、かつ、前記基準小麦粉に含まれる損傷澱粉と前記微粉砕小麦粉に含まれる損傷澱粉とが、合わせて7.0重量%〜9.0重量%含まれてなるものであり、前記水は、パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下が配合されてなることを特徴とする。
現在、一般に用いられている小麦粉は、原料小麦に含まれるたんぱく質の割合によって、一般に薄力粉(小麦粉中のたんぱく質が8.5重量%以下のものをいう。)、中力粉(小麦粉中にたんぱく質を8.5重量%〜10重量%含むものをいう。)、強力粉(小麦粉中にたんぱく質を10重量%〜13重量%含むものをいう。)と分類され、目的によって使い分けて使用されているが、前記基準小麦には、通常製パンに用いられる強力粉を原料小麦として使用されることが好ましい。
また、前記パン生地用小麦粉に、パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下の水、及び油脂類と共に、前記パン生地用小麦粉の重量に対して0.1重量%〜50重量%の澱粉若しくは加工澱粉、又はこれらを混合した混合澱粉が配合されて混練されてパン生地が形成され、当該パン生地が発酵されて発酵パン生地が形成され、さらに、当該発酵パン生地が焼成されてなる多加水パンであっても好ましい。
前記澱粉は、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、若しくはばれいしょ澱粉、又はこれらの澱粉をα化したα化澱粉であることが好ましい。また、前記加工澱粉は、小麦粉澱粉若しくは前記澱粉を、エーテル化、エステル化、アセチル化、若しくは架橋処理等を施したものの何れか、若しくはこれらの混合物であることが好ましい。前記澱粉若しくは加工澱粉、又はこれらを混合した混合澱粉を配合することで、作成された多加水パン中の水の離脱を抑制し、しっとりとした食感の持続性をさらに延ばすことができる。
なお、平均粒子径の測定は画像解析法によって求めることができる。具体的には、画像解析装置を用いて基準小麦粉若しくは微粉砕小麦粉の小麦粉粒子の粒子図形を、平面上に投影して撮像することにより取得して、当該粒子図形を2本の平行な接線で挟んだときの当該平行な接線の間の最大距離を多数の小麦粉粒子について測定し、前記最大距離の平均値を算出することによって求めることができる。前記平均粒径を備えた基準小麦粉及び微粉砕小麦粉を得るためには、粉砕装置や微粉砕機の粉砕条件を調整して得ることとしても良く、若しくは粉砕されて得られた基準小麦粉若しくは微粉砕小麦粉の平均粒径を測定した後に前記条件に合致した基準小麦粉を選別して必要量を使用すると共に、目的の平均粒径が得られる粉砕条件を粉砕装置等にフィードバックすることとしても良い。
損傷澱粉とは、小麦粉に含まれる澱粉の一部が粉砕時等における物理的衝撃により損傷を受けて、澱粉粒にひび割れ、若しくは破損が生じている状態のものをいい、基準小麦粉及び微粉砕小麦粉中に含まれるそれぞれの損傷澱粉の含有量は、市販のSTARCH DAMAGE ASSAY KIT(日本バイコン株式会社製)等を用いて試料から得たグルコース量を分光光度計によって定量測定することができる。
基準小麦粉中に含まれる損傷澱粉は、4.0重量%よりも少なくなると微粉砕小麦粉中に形成される損傷澱粉が少なくなりすぎ、7.0重量%よりも多くなると微粉砕小麦粉中に形成される損傷澱粉が多くなりすぎて、パン生地用小麦粉中に含まれる損傷澱粉量の最適化が難しくなる。
微粉砕小麦粉中に含まれる損傷澱粉は、7.0重量%より少ないとパン生地用小麦粉の吸水性が悪くなり、配合した水を均一に混合させることが困難となる。一方、微粉砕小麦粉中に含まれる損傷澱粉が12重量%より多いとパン生地の粘性が十分に上がらず、パン生地がバッターの状態となってしまう。
パン生地小麦粉中に含まれる損傷澱粉は、7.0重量%よりも少ないとパン生地用小麦粉の吸水性が悪くなり、配合した水を均一に混合させることが困難となる。一方、パン生地小麦粉中に含まれる損傷澱粉が9.0重量%より多いとパン生地の粘性が十分に上がらず、パン生地がバッターの状態となってしまう。
なお、混合粉体とは、パン生地用小麦粉を指す。また、パン生地用小麦粉には、基準小麦粉に含まれる損傷澱粉と前記微粉砕小麦粉に含まれる損傷澱粉とが、合わせて7.0重量%〜9.0重量%含まれてなることを、以下の説明中において、パン生地用小麦粉中に含まれる損傷澱粉の含有量が7.0重量%〜9.0重量%である、と表現して説明することがある。
微粉砕小麦粉の含有量が前記混合粉体に対して20重量%よりも少なくなると、基準小麦粉と微粉砕小麦粉との合計表面積が小さくなりすぎ、損傷澱粉による吸水性を十分に発揮できなくなるため、配合した水を均一に混合させることが困難となる。
また、微粉砕小麦粉の含有量が前記混合粉体に対して50重量%よりも多くなると、小麦粉全体の平均粒径が小さくなりすぎて、混合機、微粉砕装置、回収装置、及びこれらの装置の間を結んで粒体を搬送する搬送装置の壁面、さらには作業員の手などに小麦粉が取り付きやすくなる。そして、一旦装置の壁面及び作業員の手に取り付いた、前記微粉砕小麦粉の含有量が前記混合粉体に対して50重量%よりも多いパン生地用小麦粉(以下、微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉という。)は、除去することが難しく、パンの生産効率を悪くする要因となる。
また、製パン時に加水する水の量は、パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下であることが好ましいが、より好ましくは70重量%より多く120重量%以下であること、さらに好ましくは70重量%より多く100重量%以下とすることが好ましい。加水する水の量が多いほど製造した多加水パンのしっとりとした食感は増加させることができるが、一方で、混練工程の長時間化が問題となる。したがって、加水する水の量を120重量%まで、若しくは100重量%までとすることによって、混練工程の時間を短縮することができる。
また、上記多加水パンの本発明に係る製造方法は、平均粒径が60μm〜120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%〜7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm〜40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%〜12重量%含有する微粉砕小麦粉とを混合した混合粉体であり、前記混合粉体には、前記微粉砕小麦粉が20重量%〜50重量%配合され、かつ、前記基準小麦粉に含まれる損傷澱粉と前記微粉砕小麦粉に含まれる損傷澱粉とが合わせて7.0重量%〜9.0重量%含まれてなるパン生地用小麦粉と、前記パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下の水と、油脂類とを混練りしてパン生地を形成する混練工程と、前記パン生地を発酵させて発酵パン生地を形成する発酵工程と、前記発酵パン生地を焼成する焼成工程とからなることを特徴とする。
また、前記混練工程において、前記パン生地用小麦粉の重量に対して0.1重量%〜50重量%の澱粉若しくは加工澱粉、又はこれらを混合した混合澱粉を配合することとしても好ましい。
さらに、前記水を、前記水の重量に対する60%〜90%とした第一混合水と、残りの第二混合水とに分割する水分割工程と、前記混練工程が、前記パン生地用小麦粉、及び第一混合水を混合して混練する第一混練工程と、前記第一混練工程において前記パン生地用小麦粉、及び第一混合水が均一に混合された後に油脂類及び第二混合水を混合して混練することによりパン生地を形成する第二混練工程とからなることを特徴とすることとしても好ましい。また、前記水の重量に対する第一混合水の割合は、第一混練工程において遊離水の発生を防止するため、80%〜90%であることがより好ましい。また、加水する水を第一混合水及び第二混合水にあらかじめ分割して複数回に分けて加水することによって、全量の水を一度に加水する場合よりも混練工程の時間を短縮することができる。
本発明の多加水パンは、従来よりもしっとり感の強いパンを実現することができた。
しかも本発明の多加水パンは、パンが有するしっとり感の劣化を従来よりも抑制することができた。
さらに本発明の多加水パンは、従来よりも高い弾力性を有するパンを実現することができた。
そして、本発明に係る多加水パンの製造方法によれば、従来よりも多くの水を加水して均一に混合させたパン生地を形成して、製パンを行なうことができた。
さらに、水分割工程によって水を分割して加水することで、従来技術で加水される水よりも多くの水を加水するにもかかわらず、水を遊離させることなく、均一に水を含んだパン生地を形成させることができた。
以下、本発明に係る実施の形態を、図を参照しながら詳しく説明する。
まず、本発明に係る多加水パンに用いられるパン生地用小麦粉Lの製造方法を説明する。図1は、本発明に係るパン生地用小麦粉Lの製造工程のフロー図である。
基準小麦粉は、一般的な小麦粉の製法により原料小麦からブレーキロール、及び粉砕機等の粉砕装置にかけて胚乳部を粉砕、不純物除去等することにより製造されたものである。基準小麦粉は、平均粒径が60μm〜120μmとなるように粉砕装置の粉砕条件を調整して得ることとするのが好ましい。
次に、基準小麦粉と混合される微粉砕小麦粉は、前記基準小麦粉の一部を、例えばハウジングを備えた微粉破砕機内に送り込み、高速回転する邪魔板に衝突させて破砕させるなどして、平均粒子径が20μm〜40μmの粉体を得ることとするのが好ましい。微粉砕小麦粉の好ましい製造方法の一例を以下に示す。
微粉砕小麦粉を製造する第一の工程として、原料小麦から製粉された平均粒子径60μm〜120μmの基準小麦粉Rを微粉砕装置1にブロワー13aを用いて送り込み、さらに細かく破砕することで平均粒子径は20μm〜40μmの微粉砕小麦粉Mを形成する。
微粉砕装置1は、図2に示すように粉砕機2と選別機3とで構成され、粉砕機2は、図示されない回転駆動装置により回転軸4を軸中心として図2の矢印に示す方向に高速回転(1200〜2000回転/分)されるディスク5と、ディスク5の周面に固定されて一体となって回転する複数枚の邪魔板6とを、円筒状のハウジング7内に収めたものである。そして、ハウジング7の一端に粉体の導入口8が形成され、その反対側に破砕処理後の微粉砕小麦粉Mの排出口9が設けられている。
排出口9は選別機3に接続してあり、選別機3は、邪魔板6を経由した粒子の比重差によって粒径が50μm以下であるものと粒径が50μmより大きいものとを分離し、50μm以下のものは回収口10へと分別され、50μmより大きな粒径を有する粒子は戻り口11へと分別されて送られる構造になっている。戻り口11は、図示されない配管により粉砕機2の導入口8に接続されている。
前記粉砕機2内に導入口8から送り込まれた基準小麦粉Rは、回転している邪魔板6の破砕面12に衝突して破砕された後に選別機3で分離され、粒径が50μm以下のものは回収口10から回収され、粒径が50μmより大きな粒径を有する粗粒子は粒径が50μm以下となるまで戻り口11から粉砕機2の導入口8に向かい、粉砕機2による粉砕が繰り返される。選別機3は、空気の送風により粒子の浮遊速度の違いで目的の平均粒子径を有する小麦粒子を選別する風力選別機を用いることが好ましい。風力選別機によれば、空気流量、選別ロータの種類や回転速度などを適宜調整し、平均粒径50μm未満の微粉砕小麦粉相当の画分と、平均粒径50μm以上の粗粒子画分(但し、この粗粒子画分の平均粒径は、前者の微粉砕小麦粉相当の画分の平均粒径よりも大きい)に分離することができる。
以上のようにして得られた平均粒径50μm未満の小麦粉は微粉砕小麦粉Mを形成する。また、微粉砕小麦粉Mの平均粒径は、20μm〜40μmに形成されていることがより好ましい。微粉砕小麦粉Mは、選別機3の回収口10から再びブロワー13bによって運ばれ、貯蔵ビン14aに一旦貯蔵される。
また、前記粉砕機2に送り込まれていた基準小麦粉Rと同一の基準小麦粉Rを、ブロワー13cで搬送し、貯蔵ビン14bに一旦貯蔵しておく。
なお、ここで貯蔵ビン14a,14bに貯蔵された基準小麦粉R及び微粉砕小麦粉M中に含まれる損傷澱粉の含有量を測定することが好ましい。損傷澱粉の含有量測定は、市販のキット(日本バイコン株式会社製 STARCH DAMAGE ASSAY KIT)を用いて測定した。
具体的には、測定対象となる小麦粉100mgを40℃で5分間温浴させたあと、カビ由来αアミラーゼ(50unit/ml)を1.0ml添加して激しく攪拌した後40℃で10分間インキュベートさせる。希硫酸(0.2% v/v)を8.0mlを加えて反応を停止させ、3000回転/分で5分間遠心分離機にかける。遠心分離により得られた上清から100μlにアミログルコシダーゼ溶液(2unit)を100μl添加して40℃で10分間インキュベートさせて試料溶液を得る。得られた試料溶液を波長510nmの測定光で吸光度を測定して得られた吸光度から損傷澱粉量を測定した。
得られた損傷澱粉量の測定結果から、基準小麦粉Rには損傷澱粉が4.0重量%〜7.0重量%含有していること、及び微粉砕小麦粉Mには損傷澱粉が7.0重量%〜12重量%含有されていることを確認する。なお、ディスク5の回転速度を早く調整すれば微粉砕小麦粉M中の損傷澱粉の含有量を増加させることも可能である。
続いて第二の工程として、貯蔵ビン14aに貯蔵されていた前記微粉砕小麦粉M及び貯蔵ビン14bに貯蔵されていた基準小麦粉Rを取り出し、混合機15で混合してパン生地用小麦粉Lを得る。このとき、微粉砕小麦粉Mの混合割合は前記基準小麦粉R及び前記微粉砕小麦粉Mの合計重量に対して20重量%〜50重量%となるように混合する。さらに、基準小麦粉Rと微粉砕小麦粉Mを混合機に投入する際には前記損傷澱粉量測定の結果に基づいて、パン生地用小麦粉L中に含まれる損傷澱粉量が7.0重量%〜9.0重量%となるように計算して投入することが好ましい。また、得られたパン生地用小麦粉Lの損傷澱粉の含有量を、前記キットを用いて測定しても好ましい。なお、一旦測定して損傷澱粉の含有量が本発明に規定する数値範囲内であることを確認した場合には、測定した基準小麦粉R、微粉砕小麦粉M及びパン生地用小麦粉Lの製造条件及び配合条件を記録して同等の損傷澱粉含有量を再現できるようにすることによって、毎回の測定は行わないこととしても良い。
以上の第一及び第二の工程により本発明に係るパン生地用小麦粉Lを得ることができる。
<パン生地用小麦粉Lの特性評価>
基準小麦粉Rから作成した微粉砕小麦粉Mを用いて製造したパン生地用小麦粉L1、L2、並びに比較例として基準小麦粉R100%及び微粉砕小麦粉M100%からなるパン生地の粘性についてファリノグラフを測定(BRABENDER社製 BRABENDER FARINOGRAPH)した結果を以下に示す。
基準小麦粉Rから作成した微粉砕小麦粉Mを用いて製造したパン生地用小麦粉L1、L2、並びに比較例として基準小麦粉R100%及び微粉砕小麦粉M100%からなるパン生地の粘性についてファリノグラフを測定(BRABENDER社製 BRABENDER FARINOGRAPH)した結果を以下に示す。
<評価用の小麦粉の配合比率>
・比較用試料A:基準小麦粉R100%からなる
・パン生地用小麦粉L1:評価用の小麦粉総重量に対して基準小麦粉Rを85重量%及び微粉砕小麦粉Mを15重量%混合
・パン生地用小麦粉L2:評価用の小麦粉総重量に対して基準小麦粉Rを70重量%及び微粉砕小麦粉Mを30重量%混合
・比較用試料B:微粉砕小麦粉M100%からなる
・比較用試料A:基準小麦粉R100%からなる
・パン生地用小麦粉L1:評価用の小麦粉総重量に対して基準小麦粉Rを85重量%及び微粉砕小麦粉Mを15重量%混合
・パン生地用小麦粉L2:評価用の小麦粉総重量に対して基準小麦粉Rを70重量%及び微粉砕小麦粉Mを30重量%混合
・比較用試料B:微粉砕小麦粉M100%からなる
比較用試料Aには評価用小麦粉の総重量に対して水を70重量%混合すると共に、パン生地用小麦粉L1、L2及び比較用試料Bには、それぞれ評価用の小麦粉の総重量に対して水を100重量%混合して、それぞれをファリノグラフ測定器にかけ、得られた測定結果を図3〜6に示す。図3は比較用試料Aを使用したときのファリノグラフ、図4はパン生地用小麦粉L1を使用したときのファリノグラフ、図5はパン生地用小麦粉L2を使用したときのファリノグラフ、図6は比較用試料Bを使用したときのファリノグラフである。
なお、ファリノグラフの縦軸は生地の抵抗値を表し、横軸は時間を表す。そして、抵抗値が最も高くなる(ピーク点に達する)までにかかる時間が、生地の形成が完了するまでの時間を表す。
また、ピーク点を過ぎた後のグラフの傾きは、生地の安定度合いを表す。当該グラフの傾きが負であるということは、時間と共に生地組織(主にグルテン)の破壊が進むことを示している。
また、グラフの線の振幅は生地の弾力性の度合いを表し、グラフの振幅が小さいほど弾力性が高い生地であることを示す。
以上を踏まえて図3〜6のファリノグラフを見ると、図3の基準小麦粉R100重量%を用いた場合には、生地はピーク点を過ぎた直後から生地組織の破壊が始まり、グラフが負の方向に大きく傾いている。この場合、混練りを過剰に行えば、混練によって網目状に発達したグルテンが分断されてしまい、生地組織がブレークダウンし、製造されたパンは弾力性のないものとなってしまう。
これに対し、基準小麦粉Rに微粉砕小麦粉Mを混合して割合を増やしていくと、図4、図5に示すようにピーク点後のファリノグラフの傾きは小さくなっていることがわかる。微粉砕小麦粉Mの割合が30重量%であるパン生地用小麦粉L2の場合(図5)では、ファリノグラフの傾きはほとんど0°となっている。また、図6に示すように微粉砕小麦粉M100重量%を用いた場合であってもファリノグラフの傾きはほぼ0°であり、微粉砕小麦粉Mの割合が多いほど混練に対する時間耐久性が高くなり、特に微粉砕小麦粉Mの割合がパン生地用小麦粉Lに対して30重量%を超えると10分以上の混練をおこなっても生地組織がブレークダウンしないことがわかった。
また、図3〜図6のファリノグラフの振幅を比較すると、微粉砕小麦粉Mの割合が多くなるほど振幅が小さくなっていることがわかる。この結果から、パン生地用小麦粉Lに微粉砕小麦粉Mの割合が多いほど弾力性の高い生地を形成できることがわかった。
しかし、微粉砕小麦粉Mの割合が多くなるほど、ピーク点に達するまでの時間がかかり、この時間の増加は図5の微粉砕小麦粉Mを100重量%用いた場合まで単調に増加傾向を示している。この結果は、微粉砕小麦粉Mの割合が多くなるほど混練工程の完了に時間を要することを示している。その理由としては、微粉砕小麦粉Mの割合が多くなると、単位重量あたりのパン生地用小麦粉Lの表面積が多くなることにより、加水直後の水に対する撥水性が増加し、パン生地用小麦粉Lを構成する小麦粉体と小麦粉体との間隙に水が入り込み難くなるからであると推測される。
また、ファリノグラフには現れない特性として、微粉砕小麦粉Mの割合が一定割合以上に混合された微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉を用いて製パンすると、混合機、微粉砕装置、回収装置、及びこれらの装置の間を結んで粒体を搬送する搬送装置の壁面、さらには作業員の手などに微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉が取り付きやすくなる。そして、一旦取り付いた微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉は除去することが難しく、かえって作業効率を悪くすることがわかった。
<多加水パンの特性評価>
次に、微粉体小麦粉Mの配合割合を変えたパン生地用小麦粉Lから作製した実施例1及び2に示す多加水パンを、比較例1〜3として作製したパンと共に官能試験を行い、特性比較を行った。
次に、微粉体小麦粉Mの配合割合を変えたパン生地用小麦粉Lから作製した実施例1及び2に示す多加水パンを、比較例1〜3として作製したパンと共に官能試験を行い、特性比較を行った。
<比較例1>
比較例1に係るパンに使用する小麦粉には、基準小麦粉Rを100%使用し、微粉砕小麦粉Mは含まないものを用いた。
比較例1に係るパンに使用する小麦粉には、基準小麦粉Rを100%使用し、微粉砕小麦粉Mは含まないものを用いた。
まず、パン生地を形成するための原料の計量を行う。比較例1では、パン生地の主な原料にパン生地用小麦粉R、水、グラニュー糖、塩、脱脂粉乳、ドライイースト、油脂(ショートニング)を用い、パン生地用小麦粉Rの重量を基準(100重量%)として表1に示す配分量をそれぞれ計量した。このうち、水は、パン生地用小麦粉Rに対して70重量%の水を計量した。
油脂を除いた前記原料を混合して混練装置内に投入し、27℃環境下において低速回転で約6分、続いて中高速回転で約5分混練りした後、油脂を投入し、さらに低速回転で約4分、続いて中高速回転で約2分混練りを行う(混練工程)。混練工程で原料と水が均一に混合されれば混合パン生地が形成される。ここで低速回転は50回転/分〜150回転/分のうち適宜決められた回転数であり、中高速回転は151回転/分〜200回転/分のうち適宜決められた回転数である。
また、低速回転による混練り及び中高速回転による混練りは、それぞれ複数の回転数に分けて段階的に行なうこともできる。ここで、低速回転を、50回転/分〜100回転/分(低低速回転)の内の適宜決められた回転数と101回転/分〜150回転/分(中低速回転)の内の適宜決められた回転数とに分け、段階的に回転速度を上げると生地の均一性の向上を図ることができ、より好ましい。
また、低速回転による混練り及び中高速回転による混練りは、それぞれ複数の回転数に分けて段階的に行なうこともできる。ここで、低速回転を、50回転/分〜100回転/分(低低速回転)の内の適宜決められた回転数と101回転/分〜150回転/分(中低速回転)の内の適宜決められた回転数とに分け、段階的に回転速度を上げると生地の均一性の向上を図ることができ、より好ましい。
混合パン生地は、28℃〜30℃程度の温度環境下で約60分の一次発酵させた後、パンチング(ガス抜き)を行い、さらに室温にて約20分寝かせることによって一次発酵パン生地を形成する。
形成された一次発酵パン生地は、適量の塊(例えば一つあたり215g程度)に分割し、28℃〜30℃の温度環境下で20分程度のベンチタイムをとる。
ベンチタイムをとって休ませた一次発酵パン生地は、成形型に入れて成形を行った後、ホイロに入れられ、35℃〜38℃、湿度75%〜80%の環境下で約70分の二次発酵を行う。二次発酵によってパン生地の発酵工程が完了し、二次発酵パン生地を形成する。
形成された二次発酵パン生地は、例えばガスオーブンを用いた場合であれば200℃の温度環境下で約30分焼成することにより、比較例1に係るパンが完成する。
得られたパンは、表2に示す各評価項目に示す特性の変化の度合いについて、製造日から1日後を「1」とした場合の6日後における値を、10名のパネラーから得られた結果の平均を算出して表2に示した。
ここで、表2に示す「口溶けよさ」とは、口に入れたパンが咀嚼によって流動体状になり、飲み込むことができるまでにかかる時間が主要因となる評価項目である。「もちもち感強さ」とは、パンを口に入れた直後の歯ごたえが主要因となる評価項目である。「しっとり感強さ」とは、パンを口に入れた直後の口腔内で感じるパンの潤いが主要因となる評価項目である。「弾力感強さ」とは、製作されたパンを切断しない状態で耳部(パンの外表皮部)の外側から押した時の弾力を評価した評価項目である。「ソフト感強さ」とは、切断したパンの耳部の内側のクラム部分(白い組織部分)を押した時の弾力を評価した評価項目である。「色調良さ」とは、前記クラム部分の色の時間経過による変化の度合いを評価した評価項目である。「味の良さ」とは、パンを口に含んだ際の味覚が主要因となる評価項目である。「風味良さ」とは、製作したパンを口に含んだ際に感じられる香りの種類と強さが主要因となる評価項目である。
<実施例1>
実施例1に係るパンに使用する小麦粉には、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを70重量%、及び微粉砕小麦粉Mを30重量%混合してなるパン生地用小麦粉L2を用いた。
実施例1に係るパンに使用する小麦粉には、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを70重量%、及び微粉砕小麦粉Mを30重量%混合してなるパン生地用小麦粉L2を用いた。
まず、パン生地を形成するための原料の計量を行う。実施例1では、パン生地の主な原料にパン生地用小麦粉L2、水、グラニュー糖、塩、脱脂粉乳、ドライイースト、油脂(ショートニング)を用い、パン生地用小麦粉L2の総重量部を基準(100重量%)として表1に示す配分量でそれぞれ計量した。このうち、水は、パン生地用小麦粉L2に対して100重量%を計量して混合した。
次に、前記水を計量後、当該水を90:10の割合で分割する水分割工程を行い、90%に分割された前者を第一混合水、10%に分割された後者を第二混合水とした。
次に、油脂及び水を除いた前記原料を混合して混練装置内に投入し、さらに前記第一混合水を加水して低速回転で約6分、続いて中高速回転で約15分混練り(第一混練工程)した後、油脂を投入すると共に前記第二混合水を加水してさらに低速回転で約6分、続いて中高速回転で約4分混練りを行う(第二混練工程)。第二混合水も均一に生地に混合されれば混合パン生地が形成される。
このように、第一混合水と第二混合水とに分割し、第一混合水を第二混合水よりも先に加水して混練を行うことによって、混練されている生地中に遊離水が発生することを防止することができる。
また、計量後の全ての水を一度に加水して混練りを行なうこともできる。この場合は、油脂を除いた前記原料を混合して混練装置内に投入し、27℃環境下において低速回転で約6分、続いて中高速回転で約30分混練りした後、油脂を投入し、さらに低速回転で約4分、続いて中高速回転で約2分混練りを行って混合パン生地を形成することができる。一方、前述したように計量した水を前記第一混合水及び第二混合水に分割した後にそれぞれ加水して混練りを行えば、混練工程全てを完了させるために必要な時間を1/2〜3/4程度に短縮することが可能である。
なお、パン生地用小麦粉Lを用いたパン生地の混練工程は、油脂を投入する前の中高速回転での混練時間が比較例1による混練工程における油脂投入前の中高速時回転による混練時間よりも長時間を要している。これは、パン生地用小麦粉Lは、微粉砕小麦粉Mが混合されていることにより基準小麦粉Rよりも単位重量あたりの表面積が大きいため、混練によって生地全体に水をなじませるまでの時間が、基準小麦粉Rのみを用いてパン生地を混練りする場合に比べて必要であるためと考えられる。しかし、前記図5に示したように、パン生地用小麦粉Lは混練りに対する高耐久性を備えているため、パン生地用小麦粉Lと重量比100重量%の水とが十分均一に混合されるまで時間をかけて混練を行うことが可能である。
次に、混合パン生地は、28℃〜30℃程度の温度環境下で約60分の一次発酵させた後、パンチング(ガス抜き)を行い、さらに室温にて約20分寝かせることによって一次発酵パン生地を形成する。
形成された一次発酵パン生地は、適量の塊(例えば一つあたり215g程度)に分割し、28℃〜30℃の温度環境下で20分程度のベンチタイムをとる。
ベンチタイムをとって休ませた一次発酵パン生地は、成形型に入れて成形を行った後、ホイロに入れられ、35℃〜38℃、湿度75%〜80%の環境下で約70分の二次発酵を行う。二次発酵によってパン生地の発酵工程が完了し、二次発酵パン生地を形成する。
形成された二次発酵パン生地は、例えばガスオーブンを用いた場合であれば200℃の温度環境下で約30分焼成することにより、実施例1に係るパンが完成する。得られたパンは比較例1と同様に評価した。
<実施例2>
実施例2に係る多加水パンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを50重量%、及び微粉砕小麦粉Mを50重量%混合してなるパン生地用小麦粉L3を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
実施例2に係る多加水パンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを50重量%、及び微粉砕小麦粉Mを50重量%混合してなるパン生地用小麦粉L3を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
<比較例2>
比較例2に係る多加水パンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを85重量%、及び微粉砕小麦粉Mを15重量%混合してなるパン生地用小麦粉L1を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
比較例2に係る多加水パンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを85重量%、及び微粉砕小麦粉Mを15重量%混合してなるパン生地用小麦粉L1を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
<比較例3>
比較例3に係るパンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを40重量%、及び微粉砕小麦粉Mを60重量%混合してなるパン生地用小麦粉L4を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
比較例3に係るパンは、製造に使用する小麦粉に、小麦粉全体の重量に対して基準小麦粉Rを40重量%、及び微粉砕小麦粉Mを60重量%混合してなるパン生地用小麦粉L4を用い、水はパン生地用小麦粉L3の重量に対して100重量%を計量して加水した。その他の製造条件及び製造方法は実施例1と同様とし、得られた多加水パンは比較例1と同様に評価した。
上記評価結果より、作製したパンは、比較例1に係る基準小麦粉R100%を用いて作製したパンよりも、パン生地用小麦粉Lに微粉砕小麦粉Mが混合されているパンの方が「口溶けよさ」、「もちもち感強さ」、「しっとり感強さ」、「弾力感強さ」、「ソフト感強さ」、「色調良さ」、「味の良さ」、及び「風味良さ」の各項目において時間経過による劣化が少ないことがわかった。特に、実施例1、実施例2及び比較例3に係るパンは全ての評価項目において特性の劣化が7割程度に抑えられており、顕著な劣化抑制効果を発揮している。これは、従来よりも多く加水された水がパン生地用小麦粉L中において十分均一に分散して混合され、製造時から長時間が経過してもパンの組織から離脱せずに保持されていることによるものと考えられる。
一方、パン生地用の小麦粉に基準小麦粉Rのみを用いて製造した比較例1に係るパンは、製造後2〜3日でパサつき感が感じられて食感の劣化が現れ、6日後には「口溶けよさ」及び「色調良さ」以外の評価項目において製造後1日後の値の半分以下の特性しか得られなかった。特に「もちもち感強さ」及び「しっとり感強さ」の特性劣化の大きさの違いはパンの食感において重要であると考えられ、本発明に係る多加水パンの大きな特徴であるといえる。
また、「味の良さ」や「風味の良さ」については、パンは水を媒体として味や香りを感じることがほとんどである。実施例1及び2に係る多加水パンにおいても、比較例1に係るパンよりも「味の良さ」及び「風味の良さ」に対する官能試験においていずれも長時間持続する結果が得られた。これは、比較例1に係るパンよりもパンの組織中に高密度に分散した水分に香りや味の成分が溶け込むことによって、パンを口に含んだときに感じられるこれらの成分が従来パンよりもより強くなるからであると考えられる。
以上の結果をまとめると、各評価項目の劣化の抑制効果はパン生地用小麦粉Lに混合する微粉砕小麦粉Mの割合を増加させるほど高まることがわかった。但し、微粉砕小麦粉Mの割合が15重量%では劣化の抑制効果は十分であるとは言えず、比較例1に係るパンと比較して顕著な特性劣化の抑制効果を発揮するのは微粉砕小麦粉Mの割合を20重量%以上とした場合であった。
一方、パン生地用小麦粉Lに混合する微粉砕小麦粉Mの割合を60重量%とした比較例3に係るパンは、表2によれば特性劣化の抑制効果が実施例1及び2と同程度に小さく、当該効果については優れた評価を得た。しかし、微粉砕小麦粉Mの割合が50重量%よりも多くなると、前述したように混合機、微粉砕装置、回収装置、及びこれらの装置の間を結んで粒体を搬送する搬送装置の壁面、さらには作業員の手などに微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉が取り付きやすくなる。そして、一旦取り付いた微粉砕小麦粉が過剰なパン生地用小麦粉は除去することが難しく、かえって作業効率が悪くなることがわかった。
これらの微粉砕小麦粉Mの混合割合に関する傾向は、本発明に係る多加水パンにおいて、パン生地用小麦粉Lに対する加水量を70重量%より多く140重量%以下とした場合のいずれにおいても同様に見られた。その結果、パン生地用小麦粉Lに対する微粉砕小麦粉Mの割合は20重量%〜50重量%であることが好ましいことがわかった。
また、比較例1に係るパン、並びに実施例1及び2に係る多加水パンの混合生地重量を同じくして同一条件で焼成した後、焼きあがったパンの重量を計測して比較したところ、焼きあがったパンの重量はいずれも同じであった。すなわち、実施例1及び2に係る多加水パンの製造工程で形成された混合パン生地には比較例1に係るパンの製造工程で形成された混合パン生地よりも加水量を増量しているにもかかわらず、混合パン生地全体に対する焼成工程によって失われる水分量は同じであり、実施例1及び2に係る多加水パンは、比較例1に係るパンよりも多くの水を保持できることがわかった。また、焼きあがったパンの大きさもほぼ同じ大きさに製造することができた。
これにより、製造直後の実施例1及び2に係る多加水パンは比較例1に係るパンよりも口溶けよさ及びしっとり感がより強く感じられるものであった。
また、前述したパン生地用小麦粉L2を用いて形成した生地の弾性の時間変化を表したファリノグラフ(図5)にも示すように、パン生地用小麦粉L2は15分の混練でも生地組織のブレークダウンは生じていないことがわかる。一方、図3の基準小麦粉Rのみを用いて形成した生地は一旦弾力性がピークに達した後、徐々に弾力性が落ちて生地組織の破壊が進んでいる。すなわち、パン生地用小麦粉L2は基準小麦粉Rと比較して混練に対する耐久性が高く、基準小麦粉R100%からなる生地よりも長時間混練することによってもグルテンが維持されて、生地組織の弾力性が維持されているものと推察される。
この結果、パン生地用小麦粉L2を用いて製作した実施例1に係るパンは、基準小麦粉R100%を用いて製作した比較例1に係るパンよりも、製造直後においても弾力感があり、また、食べたときのもちもち感も強く感じられるものであった。
上述のように、本発明に係る多加水パンであれば、パン生地への加水量を従来よりも多くすることができた。その結果、従来のパンよりも優れた特徴を有するパンの製造を実現することができた。
1 微粉砕装置
2 粉砕機
3 選別機
5 ディスク
6 邪魔板
7 ハウジング
8 導入口
9 排出口
10 回収口
11 戻り口
15 混合機
L パン生地用小麦粉
M 微粉砕小麦粉
R 基準小麦粉
2 粉砕機
3 選別機
5 ディスク
6 邪魔板
7 ハウジング
8 導入口
9 排出口
10 回収口
11 戻り口
15 混合機
L パン生地用小麦粉
M 微粉砕小麦粉
R 基準小麦粉
Claims (5)
- パン生地用小麦粉、水、及び油脂類が混練されてパン生地が形成されると共に、前記パン生地が発酵されて発酵パン生地が形成され、さらに、前記発酵パン生地が焼成されてなるパンであって、
前記パン生地用小麦粉は、
平均粒径が60μm〜120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%〜7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm〜40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%〜12重量%含有する微粉砕小麦粉との混合粉体であり、前記混合粉体には、前記微粉砕小麦粉が20重量%〜50重量%配合され、かつ、前記基準小麦粉に含まれる損傷澱粉と前記微粉砕小麦粉に含まれる損傷澱粉とが、合わせて7.0重量%〜9.0重量%含まれてなるものであり、
前記水は、パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下が配合されてなること
を特徴とする多加水パン。 - 前記パン生地には、前記パン生地用小麦粉の重量に対して0.1重量%〜50重量%の澱粉若しくは加工澱粉、又はこれらを混合した混合澱粉が配合されてなること
を特徴とする請求項1に記載の多加水パン。 - 平均粒径が60μm〜120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%〜7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm〜40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%〜12重量%含有する微粉砕小麦粉とを混合した混合粉体であり、前記混合粉体には、前記微粉砕小麦粉が20重量%〜50重量%配合され、かつ、前記基準小麦粉に含まれる損傷澱粉と前記微粉砕小麦粉に含まれる損傷澱粉とが合わせて7.0重量%〜9.0重量%含まれてなるパン生地用小麦粉と、
前記パン生地用小麦粉の重量に対して70重量%より多く140重量%以下の水と、
油脂類と、
を混練りしてパン生地を形成する混練工程と、
前記パン生地を発酵させて発酵パン生地を形成する発酵工程と、
前記発酵パン生地を焼成する焼成工程とからなること
を特徴とする多加水パンの製造方法。 - 前記混練工程において、前記パン生地用小麦粉の重量に対して0.1重量%〜50重量%の澱粉若しくは加工澱粉、又はこれらを混合した混合澱粉を配合すること
を特徴とする請求項3に記載の多加水パンの製造方法。 - 前記水を、前記水の重量に対する60%〜90%とした第一混合水と、残りの第二混合水とに分割する水分割工程と、
前記混練工程が、
前記パン生地用小麦粉、及び第一混合水を混合して混練する第一混練工程と、
前記第一混練工程において前記パン生地用小麦粉、及び第一混合水が均一に混合された後に油脂類及び第二混合水を混合して混練することによりパン生地を形成する第二混練工程とからなること
を特徴とする請求項3若しくは4に記載の多加水パンの製造方法。
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