JP2014198862A - 残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液及びエッチング方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】腐食液によるエッチングにより、ベイナイト組織中の残留γの体積率、形態及び分布状態の把握を可能とする着色エッチング液、及びそれを用いたエッチング方法を提供する。
【解決手段】残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液は、水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)及びピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の少なくとも一方を合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶かした後、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を1.6×10−4〜11.8×10−4mol加えて溶解した水溶液からなる。
【選択図】図3
【解決手段】残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液は、水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)及びピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の少なくとも一方を合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶かした後、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を1.6×10−4〜11.8×10−4mol加えて溶解した水溶液からなる。
【選択図】図3
Description
本発明は、残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液及びエッチング方法に関する。
鋼材の特性を支配する組織の一つとして、焼入れした鋼中に未変態のまま残存しているオーステナイトがある。この残留オーステナイト(以下、残留γともいう)は、例えば焼入温度が高すぎる場合や冷却速度が小さい場合、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が低すぎる場合、あるいはマルテンサイトの成長が抑制されるような強加工の場合等に増加するが、このようにマルテンサイトに変態しない残留γが多く残る(組織全体の5〜10%以上)と、硬さの減少に加え、時効変形や経年変化により割れ等の疲労破壊の起点となりやすく、割れ等が発生しないとしてもマルテンサイトへの変態に伴う膨張に起因して寸法精度が得られなくなるという問題があった。
したがって、残留γの体積率や形状、分布情報を得ることは、鋼材の靭性や膨張特性を把握する上で非常に重要である。ここで、残留γを測定・解析する手法としては、従来、X線回折を用いた手法やSEM-EBSP(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scattering Pattern:走査型電子顕微鏡と組み合わせて用いられ、検出された電子後方散乱パターンに基づいて結晶方位や結晶構造を1μm以下の分解能で解析し、その解析結果をカラー表示可能な組織解析手法)、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)による電子線回折を用いた手法があった。しかし、X線回折を用いた手法では残留γ量(数値)を測定することはできるが、残留γの分布状態まで把握することはできない。これに対しSEM-EBSPやTEMなどの電子線回折を用いた手法によれば、残留γ量のみならず、残留γの形状や分布状態を知ることもできる。しかし、SEM-EBSPは、条件出しが難しく、測定に時間がかかり多量の解析に向いていない。一方、TEMは、狭い範囲しか観察できず、試料作製に多大な工数がかかる。このため、例えば下記特許文献1、2に示されるような、エッチング液による組織の腐食を利用した、光学顕微鏡による簡易的な観察手法が求められていた。
したがって、残留γの体積率や形状、分布情報を得ることは、鋼材の靭性や膨張特性を把握する上で非常に重要である。ここで、残留γを測定・解析する手法としては、従来、X線回折を用いた手法やSEM-EBSP(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scattering Pattern:走査型電子顕微鏡と組み合わせて用いられ、検出された電子後方散乱パターンに基づいて結晶方位や結晶構造を1μm以下の分解能で解析し、その解析結果をカラー表示可能な組織解析手法)、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)による電子線回折を用いた手法があった。しかし、X線回折を用いた手法では残留γ量(数値)を測定することはできるが、残留γの分布状態まで把握することはできない。これに対しSEM-EBSPやTEMなどの電子線回折を用いた手法によれば、残留γ量のみならず、残留γの形状や分布状態を知ることもできる。しかし、SEM-EBSPは、条件出しが難しく、測定に時間がかかり多量の解析に向いていない。一方、TEMは、狭い範囲しか観察できず、試料作製に多大な工数がかかる。このため、例えば下記特許文献1、2に示されるような、エッチング液による組織の腐食を利用した、光学顕微鏡による簡易的な観察手法が求められていた。
しかし、低合金鋼の組織観察に通常用いられるエッチング液としてのナイタール液(1〜5%硝酸エタノール溶液)を用いた観察手法では、例えば図6に示されるように、残留γを判別することができない。一方、上記特許文献1に記載のレペラ試薬(純水、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチルアルコール、ピクリン酸の混合液)を用いた観察手法では、焼き戻しマルテンサイトの組織を観察することはできるが、この試薬によってもやはり残留γを判別することができない。図7は、レペラ試薬によってベイナイト組織のみが観察できることを示す。また、上記特許文献2に記載のエッチング液(チオ硫酸ナトリウム15g、ピロ亜硫酸ナトリウム5g、水100ml)を用いた観察手法では、例えば図8に示されるように、旧γ粒を構成する下部組織(ラスサイズ、パケットサイズ、ブロックサイズ)の判別は可能であるが、このエッチング液によってもやはり残留γを判別することができない。
上記のようにベイナイト組織において残留γのみの判別が難しいのは、エッチング液による組織の判別は、腐食時の見え方による判別であり、上記した従来のエッチング液では残留γと他組織(ベイネティックフェライト、2相ステンレスの場合はフェライト)が共に腐食されにくいことが理由として考えられる。また、残留γが腐食されにくいのは、(1)欠陥(例えば、パーライトではα/θ境界、マルテンサイト・ベイナイトではラス境界など)がないので局所的な腐食を受けないこと、(2)フェライトよりもフェルミ準位が低く、イオン化エネルギーが大きいことが理由として考えられる(フェルミ準位が低いほど安定)。
本発明は以上のような事情を背景としてなされたものであり、その目的は腐食液によるエッチングにより、ベイナイト組織中の残留γの体積率、形態及び分布状態の把握を可能とする着色エッチング液、及びそれを用いたエッチング方法を提供することにある。
本発明の残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液は、水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)及びピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の少なくとも一方を合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶かした後、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を1.6×10−4〜11.8×10−4mol加えて溶解した水溶液からなることを特徴とする。また、本発明のエッチング方法は、0〜40℃に保持した前記着色エッチング液に、観察試料を10〜180秒間浸漬した後、該観察試料を水洗いして乾燥させることを特徴とする。
本発明の着色エッチング液を用いれば、ベイナイト組織中の残留γの体積率、形態及び分布状態を簡易に把握することができる。
以下、本発明の着色エッチング液の各添加物の添加理由及び限定理由について説明する。
(1)水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)及びピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の少なくとも一方を合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶解
まず、着色エッチング液の最適化を図るために、ピロ亜硫酸ナトリウムに着目し、質量濃度10%の水溶液(試薬容量:100ml)と質量濃度5%の水溶液(試薬容量:100ml)とで過エッチングや腐食ムラをチェックした。図1(A)は質量濃度10%のピロ亜硫酸ナトリウムによる、例えば後述する表1の鋼材A(観察試料)のエッチング状態を示し、図1(B)は質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウムによる、同じく表1の鋼材Aのエッチング状態を示す。図1(A)、1(B)に示すように、質量濃度5%及び10%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液のいずれにおいても、過エッチングや腐食ムラが低減することが確認された。
まず、着色エッチング液の最適化を図るために、ピロ亜硫酸ナトリウムに着目し、質量濃度10%の水溶液(試薬容量:100ml)と質量濃度5%の水溶液(試薬容量:100ml)とで過エッチングや腐食ムラをチェックした。図1(A)は質量濃度10%のピロ亜硫酸ナトリウムによる、例えば後述する表1の鋼材A(観察試料)のエッチング状態を示し、図1(B)は質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウムによる、同じく表1の鋼材Aのエッチング状態を示す。図1(A)、1(B)に示すように、質量濃度5%及び10%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液のいずれにおいても、過エッチングや腐食ムラが低減することが確認された。
これにより、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)とピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の両方を用いる場合は、それらを合計した質量濃度が2.4〜13.0%相当、すなわち水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウムおよびピロ亜硫酸カリウムを合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶かすのが最適である。
これに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム及びピロ亜硫酸カリウムのうちピロ亜硫酸ナトリウムのみを用いる場合は、その質量濃度が5〜10%相当、すなわち水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウムを2.9×10−3〜17.1×10−3mol溶かすのが最適である。より好ましくは、2.9×10−3〜11.4×10−3mol(質量濃度2.4〜9.1%相当)である。
また、ピロ亜硫酸ナトリウム及びピロ亜硫酸カリウムのうちピロ亜硫酸カリウムのみを用いる場合は、その質量濃度が2.4〜13.0%相当、すなわち水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸カリウムを2.4×10−3〜14.2×10−3mol溶かすのが最適である。より好ましくは、2.4×10−3〜9.5×10−3mol(質量濃度2.4〜9.1%相当)である。
(2)水(H2O)1molに対し、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を1.6×10−4〜11.8×10−4mol溶解
次に、着色エッチング液の最適化を図るために、添加物として酸に着目し、各種添加物を溶解した場合の腐食反応性をチェックした。図2(A)は質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)に硝酸0.5ml(塩酸0.5mlを添加した場合も同様)を加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示し、図2(B)は同じく質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にピクリン酸0.5gを加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示し、図2(C)は同じく質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にくえん酸アンモニウム0.5gを加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示す。
次に、着色エッチング液の最適化を図るために、添加物として酸に着目し、各種添加物を溶解した場合の腐食反応性をチェックした。図2(A)は質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)に硝酸0.5ml(塩酸0.5mlを添加した場合も同様)を加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示し、図2(B)は同じく質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にピクリン酸0.5gを加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示し、図2(C)は同じく質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にくえん酸アンモニウム0.5gを加えたエッチング液による、表1の鋼材A(低炭素鋼)のエッチング状態を示す。
図2(A)に示すように、質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)に硝酸0.5ml(塩酸0.5ml)を溶解したエッチング液においては、腐食反応性が高すぎることが確認された。また、図2(C)に示すように、質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にくえん酸アンモニウム0.5gを加えたエッチング液においては、腐食反応性がほとんどないことが確認された。これに対し、図2(B)に示すように、質量濃度5%のピロ亜硫酸ナトリウム水溶液(試薬容量:100ml)にピクリン酸0.5gを加えたエッチング液においては、残留γ(図中の白い組織)が確認された。
この場合、腐食時間、腐食ムラなどを考慮に入れて、ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液の温度を0〜40℃とし、その水溶液に例えば鋼材Aからなる観察試料を10〜180秒間浸漬した後、その試料を水洗いして乾燥させた。ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液の温度は、好ましくは20〜25℃である。また、試料の浸漬時間は、好ましくは30〜60秒間である。
そして、分解反応を防止するために、ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液及び/又はピロ亜硫酸カリウム水溶液(試薬容量:100ml)の質量濃度(%)に対し、ピクリン酸量を1/10(g)以内、具体的にはピロ亜硫酸ナトリウム水溶液及び/又はピロ亜硫酸カリウム水溶液(試薬容量:100ml)の質量濃度2.4〜13.0%に対し、ピクリン酸を0.2〜1.5(g)相当、すなわち1.6×10−4〜11.8×10−4mol溶かすのが最適である。より好ましくは、1.6×10−4〜7.9×10−4molである。なお、ピクリン酸が溶け残った場合は、上記した水溶液の上澄み液を使用するのが望ましい。
以下、本発明の実施例について説明する。
例えば表1のA,Bに示す化学成分(表1において残部はFeである)の低炭素鋼よりなる各鋼材を150kg真空溶解炉にて溶製し、1250℃で直径45mmの棒鋼を製造した。その後、1100℃で直径30mmの丸棒形状となるように鍛造した後、室温まで空冷した。その鍛造後の鋼片(観察試料)のL断面(丸棒を鍛伸方向に沿って切断した断面)を、水(H2O)200mlにピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)を0.06mol、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を0.006mol加え、かつ23℃に保持したエッチング液に45秒間浸漬した後、水洗いして乾燥させ、光学顕微鏡で観察した。
例えば表1のA,Bに示す化学成分(表1において残部はFeである)の低炭素鋼よりなる各鋼材を150kg真空溶解炉にて溶製し、1250℃で直径45mmの棒鋼を製造した。その後、1100℃で直径30mmの丸棒形状となるように鍛造した後、室温まで空冷した。その鍛造後の鋼片(観察試料)のL断面(丸棒を鍛伸方向に沿って切断した断面)を、水(H2O)200mlにピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)を0.06mol、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を0.006mol加え、かつ23℃に保持したエッチング液に45秒間浸漬した後、水洗いして乾燥させ、光学顕微鏡で観察した。
さらに、上記と同じ条件で鍛造空冷処理した各鋼片に対し時効処理(主に625℃±10℃)を行い、時効処理後の各鋼片(観察試料)のL断面を上記と同じエッチング液により、上記と同じエッチング方法でエッチングして、光学顕微鏡で観察した。
図3(A)は、観察されたベイナイト組織1の撮影写真を示す。図3(B)は、図3(A)に対応する模式図であり、ベイナイト組織1に対応する領域を符号2で示し、残留γ11に対応する領域を符号12で示し、ベイニティックフェライト21に対応する領域を符号22で示してある。本実施例のエッチング液を使用した上記エッチング方法によれば、図3(A)、3(B)に示されるように、残留γ11(領域12)とベイニティックフェライト21(領域22)とを明確に区別して把握できることが分かる。
比較のために、SEM-EBSP法を用いて、図3(A)のベイナイト組織1の結晶構造マップを求めた(図4参照)。図4で示される結晶構造マップにおいて、図3(A)の残留γ11に対応する領域を符号13で示し、ベイニティックフェライト21に対応する領域を符号23で示してある。領域13の形状が残留γ11の形状とほぼ同等となることが分かる。
さらに、比較のために、図3(A)のベイナイト組織1を二値化し画像解析して求めた残留γ量(面積率から測定)と、同じ観察試料を用いてX線回折により求めた残留γ量とを比較し、両者の整合性を確認した。なお、観察試料は、表1の鋼材A,Bに代表される、残留γ量が各々異なる状態の低炭素鋼材からそれぞれ作製した。図5に確認結果を示す。図5から、図3(A)のベイナイト組織1を二値化し画像解析して求めた残留γ量と、X線回折により求めた残留γ量とは整合が取れていることが分かる。
以上の説明からも明らかなように、本発明の着色エッチング液を用いれば、ベイナイト組織1中の残留γ11の体積率、形態及び分布状態を簡易に把握することができる。
1 ベイナイト組織
2 ベイナイト組織1に対応する領域
11 残留γ
12 残留γ11に対応する領域
21 ベイニティックフェライト
22 ベイニティックフェライト21に対応する領域
2 ベイナイト組織1に対応する領域
11 残留γ
12 残留γ11に対応する領域
21 ベイニティックフェライト
22 ベイニティックフェライト21に対応する領域
Claims (2)
- 水(H2O)1molに対し、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)およびピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)の少なくとも一方を合計で2.4×10−3〜17.1×10−3mol溶かした後、ピクリン酸OHC6H2(NO2)3を1.6×10−4〜11.8×10−4mol加えて溶解した水溶液からなることを特徴とする、残留オーステナイトを他組織と識別可能な着色エッチング液。
- 0〜40℃に保持した請求項1に記載の着色エッチング液に、観察試料を10〜180秒間浸漬した後、該観察試料を水洗いして乾燥させることを特徴とするエッチング方法。
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