JP2014198661A - 金属スズ−炭素複合体およびその製造方法 - Google Patents

金属スズ−炭素複合体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】炭素で構成されるシート状マトリックス中に粒径が0.2nm〜5nmの範囲にある複数個の金属スズナノ粒子を内包し、1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを特徴とする金属スズ−炭素複合体とこれを安価で且つ簡便な方法で提供する。【解決手段】炭素で構成されるシート状マトリックス(A)中に金属スズナノ粒子(B)が内包されてなる金属スズ−炭素複合体であって、前記金属スズナノ粒子(B)の粒径が0.2nm〜5nmの範囲のものを有し、且つ1μm以上の粗大な金属スズ粒子を含まないことを特徴とする金属スズ−炭素複合体。【選択図】図1

Description

本発明は、炭素で構成されるマトリックス中に、微細で均質な金属スズのナノ粒子が複合化されてなる金属スズ−炭素複合体及びその製造方法に関する。
炭素材料は優れた電気的・化学的性質を持つことから、リチウム電池、電気二重層キャパシタの電極など、エネルギー貯蔵デバイスへの応用も広がっている。しかし、リチウムイオン二次電池あるいはキャパシタの負極材料に広く使われている黒鉛の理論容量値は低く(372mAh/g)、黒鉛のみを用いた負極材料容量の更なる向上は大きな課題となっている。
近年、黒鉛に代わる材料としては、ケイ素、スズ、アルミニウムなどの材料がリチウムと電気化学的に合金化することにより電池容量が飛躍的に向上されることが注目されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。しかしながら、リチウム合金などを負極活物質として用いた非水電解質二次電池は、充放電サイクルを繰り返すと負極活物質の合金材料が微粉化し、負極活物質の特性が著しく低下する。そのため、本格的な実用化には、未だに至っていないのが現状である。
複合材料中における金属粒子のナノ化は充放電に伴う合金系活物質微粉化の抑制に非常に有効な手段であると言われている。従って、ナノメートルオーダーの金属粒子を担持した炭素複合材料が優れた特性を持つ次世代機能性材料として期待されるため、複合材料中へのナノ金属担持法に関する研究開発も注目を集めている。
金属相の微粒子と炭素相(ファイバー状、チューブ状、多孔質状など)を混合することで、複合材料を合成する方法が多く報告されている(例えば、特許文献2〜5参照)。前記特許文献2〜5には、樹脂炭素材またはナノファイバー等からなる網状構造体を用いて、金属、半金属、合金などの微粒子を包囲・塗膜する複合粒子の製造法である。これらの手法で得られた複合材料は、金属相と炭素相が単純に混在しているか、もしくは付着しているだけの状態であるため、金属粒子が炭素相から脱離しやすい欠点がある。
また、金属スズを効果的に炭素材料と複合化する方法として、例えば、レソルシノール−ベンゼン−1,3−ホルムアルデヒドとスズ金属有機化合物からなるゲルをアルゴン雰囲気中で焼成することで、スズ―炭素複合体を合成する方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この方法で得られる複合体中の金属スズは平均粒径が約36nmのナノ粒子であって、それらが全て炭素材料中に内包されているが、得られた炭素複合体の形態が完全に無規則であり、またスズ粒子の分布にも大きなバラツキが見られ、均質性に欠けるものである。
また、イオン交換樹脂に金属イオンを吸収させてから熱処理することで、スズ−炭素複合粒子を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。特許文献6では、金属イオンとイオン交換できる陽イオン交換樹脂が使われており、この中、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基などのイオン交換基が結合したものを用いることができると記述されている。この方法で金属化合物の微粒子を内包する炭素複合材料の作製は可能であるが、その製法で複合粒子の形態を制御すること、または金属化合物微粒子の粒径を数ナノレベルでコントロールすることが困難であり、当該文献6に示された写真を観測しても、粒径は50nmを超えるものが含まれ、またその分布が制御されたものではないことが明白である。
非特許文献3は、2011年に発表された「スズをベースにした負極材料」に関する総説である。スズ−炭素複合材料構成法の現状を触れられ、それぞれの複合材料を用いた負極材料の充放電特性も詳細に纏められている。粒子上への炭素層塗布、炭素ファイバーあるいはナノチューブ中への金属担持などは、金属スズを安定させるための有効手法である数多くの研究例が記述されているが、金属スズ粒子を内包するシート状の金属スズ−炭素複合体の研究報告は記載されていない。
金属スズナノ粒子を完全に炭素材料で内包するシート状複合体の構成は、金属スズ相に対する炭素の保護作用がよく発揮でき、また、炭素複合材料中における金属スズの粗大粒子を徹底的に排除することで金属スズナノ粒子のサイズ効果を完全に見出すことが可能であると推定される。さらに、シート状の形態が粉体の成膜性に有利であり、電子の遷移、導電性の向上にも繋がると考えられる。したがって、このような構造をもつ材料は新規機能材料として幅広い範囲の応用が期待される。
Chang Liu, Feng Li,Lai−Peng Ma,and Hui−Ming Cheng, Adv. Mater.2010,22,E28−E62. Jusef Hassoun, Gaelle Derrien, Stefania Panero,and Bruno Scrosati,Adv. Mater. 2008, 20, 3169?3175 A.R.Kamali and D.J.Fray, Rev.Adv.Mater.Sci. 27(2011) 14−24
特開2002−117850号公報 特開2004−178922号公報 特開2006−269110号公報 特開2008−027912号公報 特開2012−164632号公報 特開2012−169172号公報
上記の実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、炭素で構成されるシート状マトリックス中に粒径が0.2nm〜5nmの範囲にある複数個の金属スズナノ粒子を内包し、1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを特徴とする金属スズ−炭素複合体とこれを安価で且つ簡便な方法で提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、5nm以下のきわめて小さい複数個の金属スズナノ粒子を炭素のシート状マトリックス中に内包する金属スズ−炭素複合体が、金属スズ化合物とカチオンポリマーと硫酸を含む前駆体を焼成する事、あるいは金属スズ化合物とカチオンポリマーと硫酸とポリマーからなる前駆体を焼成する事で得られること、その際に、応用する際に不都合な金属スズの粗大粒子を含まないものが得られること、該前駆体の合成及びその焼成工程を調整する事で金属スズナノ粒子の粒径、含有量及び分布状態が制御できるのを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、炭素で構成されるシート状マトリックス(A)中に金属スズナノ粒子(B)が内包されてなる金属スズ−炭素複合体であって、前記金属スズナノ粒子(B)の粒径が0.2nm〜5nmの範囲のものを有し、且つ1μm以上の粗大な金属スズ粒子を含まないことを特徴とする金属スズ−炭素複合体と、その簡便な製造方法を提供するものである。
本発明の、炭素で構成されるシート状マトリックス中に粒径が0.2nm〜5nmの範囲にある複数個の金属スズナノ粒子を内包し、1μm以上の粗大金属スズ粒子が存在しない金属スズ−炭素複合体は、シート状炭素のマトリックスで金属スズナノ粒子を保持した構造を持つ新規の材料であり、その製造方法は、工業的に安価で、入手しやすい金属スズ化合物を出発原料とした簡便なプロセスであり、広範な用途への展開が可能な材料である。本発明の金属スズ―炭素複合体は、例えば、エネルギー関連のリチウム電池周辺の素材、太陽電池、燃料電池の水素貯蔵材料として応用できる。また、触媒関連の排気処理、有機物合成などへの応用も可能である。
実施例1〜3で得られた各試料のX線回折パターンである。 実施例3で得られた試料の透過型電子顕微鏡像(TEM)である。 実施例3で得られた試料中にスズナノ粒子の分布状態(HAADF−STEM分析結果)を示す図である。 実施例11で得られた試料の透過型電子顕微鏡像(TEM)である。 硫酸を添加した実施例7と硫酸を添加しない比較例4のそれぞれ条件下で得られた試料の反射型電子顕微鏡(SEM)像である。
[金属スズ−炭素複合体]
本発明の金属スズ−炭素複合体は、粒径が0.2nm〜5nmの範囲にある金属スズナノ粒子がシート状炭素マトリックスに内包され、1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを特徴としている。また、本発明の金属スズ−炭素複合体は、粒径が5を超えて〜500nmの金属スズナノ粒子をシート状の炭素マトリックスに同時に内包するものであってもよい。
炭素で構成されるシート状マトリックス(A)中に内包される金属スズ粒子とその状態(粒径、密度、含有量など)は、金属スズ−炭素複合体の性能を大きく左右する。金属スズ−炭素複合体のより良い特性が発現するため、金属スズナノ粒子(B)の粒径としては0.2nm〜5nmの範囲内にある金属スズナノ粒子だけを内包した構造が最も好ましいが、粒径が0.2nm〜5nmの範囲にある金属スズナノ粒子と同時に粒径が5nmを超えて〜500nmの範囲にある金属スズナノ粒子を内包していても良い。0.2nm〜5nmの範囲にある金属スズナノ粒子と同時に内包される金属スズナノ粒子の粒径は5を超えて〜30nmの範囲にあるのがより好ましい。1μm以上の粗大な金属スズ粒子は、金属スズ−炭素複合体の特性に対して、大きなマイナスを与えるため、存在させない様にする必要がある。また、1μm以下の金属スズ粒子であっても、粒子径が、500nm以上である金属スズ粒子が少ない方が好ましい。
さらに、金属スズ−炭素複合体中の金属スズナノ粒子(B)の含有率は、質量比として5〜90%の範囲であることが好ましく、炭素複合体中に内包される金属スズナノ粒子(B)同士が炭素で構成されるシート状マトリックス(A)の炭素層で完全に隔離された保持状態であることが好ましい点、金属スズナノ粒子(B)としての特性が効率的に発現される観点などから、金属スズナノ粒子(B)の含有率は10〜60質量%の範囲にあることがより好ましく、10〜50質量%の範囲にあることが最も好ましい。
更に、本発明の金属スズ−炭素複合体は、内包される金属スズナノ粒子(B)が炭素で構成されるシート状マトリックス(A)から脱落することを防ぐため、炭素連続相が一定以上の密度を持っている事が好ましく、金属スズ−炭素複合体の比表面積が1〜500m/gの範囲にあることが好ましい。金属スズナノ粒子(B)を内包するシート状マトリックス(A)の平均厚さとしては、5nm〜150nmの範囲内にあり、かつ、平均アスペスト比(平均粒子径/平均粒子厚さ)が5以上であることが好ましい。本発明のシート状の金属スズ−炭素複合体の構造は高い安定性を持つため、機械的な粉砕を行っても、金属スズ−炭素複合体のシートのサイズは小さくなるが、シートの基本形態とシート状マトリックス(A)中に複数個の金属スズナノ粒子(B)が内包される状態が維持される。
[金属スズ−炭素複合体の製造方法]
本発明の炭素で構成されるシート状マトリックス中(A)に金属スズナノ粒子(B)を内包する金属スズ−炭素複合体は、カチオンポリマー(X)と金属スズ化合物(Y)と硫酸(Z)を含む前駆体を、焼成することにより製造することができる。この焼成により、前駆体が炭化・還元され、金属スズ−炭素複合体となる。この際の焼成は、一定温度で行っても良いし、一定温度の下に焼成の後、更に温度を上げて、一定温度の下に焼成する様にしても良い。しかしながら、後者の様に多段階にて焼成を行う場合は、それらの最後の焼成が非酸化性雰囲気中で行われることで、当該金属スズ−炭素複合体を好適に製造することができる。
本発明の炭素で構成されるシート状マトリックス中(A)に金属スズナノ粒子(B)を内包する金属スズ−炭素複合体は、好適には、カチオンポリマー(X)と金属スズ化合物(Y)と硫酸(Z)を含む前駆体、非酸化性雰囲気中で高温焼成することで製造することができるし、または前駆体を酸化性雰囲気中で低温焼成してから非酸化性雰囲気中で高温焼成することで製造することもできる。
勿論、前記前駆体の炭化・還元に当たって、金属スズ−炭素複合体に含有される炭素が不足しそうな場合には、炭素源の基礎となるカチオンポリマー(X)に加えて、必要に応じて、任意の段階において、それ以外の炭素源となるポリマーを併用しても良い。
本発明の製造方法では、例えば、金属スズ−炭素複合体中に内包される金属スズナノ粒子(B)の粒子径と粒子径分布、金属スズナノ粒子(B)の含有率などを前駆体の合成条件及び焼成条件の調整で容易に制御することができる。
[カチオンポリマー(X)]
本発明で用いるカチオンポリマー(X)としては、金属スズ化合物(Y)と硫酸(Z)との反応によりスズイオンを含有する前駆体の形成ができれば特に制限はない。この時、前駆体の合成は、水系、溶剤系のいずれの媒体中で行っても良いが、環境面やコスト面からは、水系で行う事が好ましく、従って、水性のカチオンポリマーであることが好ましく、水性ポリアミンの使用が最も好ましい。
前記カチオンポリマー(X)としては、アンモニアやアルキルアミン等のアミノ基(−NH)を有する化合物及び窒素を更に多く有するアルギニンや、グアニジンあるいはビグアニド誘導体等のグアニジノ基やビグアニド基を持つ化合物や、側鎖あるいは主鎖にアミノ基あるいはイミノ基をもつ合成高分子及びポリアミノ酸(例えば、ポリオルニチン、ポリリジンなど)を用いることができる。本発明に使用するカチオンポリマー(X)は、前記のように水性のカチオンポリマーの使用が好ましく、中でも、水性ポリアミンが好ましい。本発明でいうポリアミンとは、アミン官能基を有する水溶性ポリマーを指す。そのアミン官能基は、1級、2級、3級アミンのいずれでもよく、それら官能基の混合状態でも良い。
ポリアミンとしては、一般的に産業上広く利用されているポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、キトサン、ポリジアリルアミン、ポリ(N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ[4−(N,N−ジメチルアミノメチルスチレン)]などを好適に用いることができる。
これらの中でも、ポリエチレンイミンは工業的に入手しやすく、化学的安定性も優れ、金属イオンとの配位性も強いので、特に好ましく用いることができる。ポリアミンの分子量には特に制限は無いが、通常、数平均分子量は通常1,000〜1,000,000の範囲のものが使用され、好ましくは5,000〜100,000の範囲のものが用いられる。また、これらのポリアミンは前記のように水溶性であること、すなわちポリアミンを水溶液として用いた場合、用いる濃度において均一の水溶液となるものであることが好ましく、特に室温(20〜30℃の範囲)で均一の水溶液となるものであることが最も好ましい。取り扱い上、容易である(粘度が過度の高くない等)等の観点から、濃度としては2〜20質量%の範囲に調整することが好ましい。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、水と混和する有機溶剤を併用してもよい。
[スズ化合物(Y)]
本発明で用いるスズ化合物(Y)は、水溶性である事が好ましく、スズカチオンとアニオンとで構成された水溶性のものが特に好ましい。そのようなスズ化合物として、硫酸スズ、硝酸スズ、塩化スズ、酢酸スズ等が挙げられるが、特に硫酸スズが好適である。水溶性でないスズ化合物は、例えばリン酸スズ、炭酸スズ、酸類あるいはアルカリ性溶液を加え、水に溶解する事で、本発明に適用できる。
本発明においてスズ化合物(Y)は、これを水性溶液として用いるものであるが、その際の濃度は特に制限はないが、5〜30質量%の範囲に調整することが好ましい。
[硫酸(Z)]
前記スズ化合物(Y)は一般に水に溶解できるが、スズイオンは水和反応による水酸化スズになりやすいため、硫酸(Z)を添加して、水溶液を安定化させることが必要である。この時、硫酸(Z)は希硫酸として添加することが好ましい。混合後の溶液中における硫酸イオンの濃度は特に制限がないが、溶液の安定性の観点より、0.2〜5mol/Lの範囲に調整することが好ましく、0.4〜2mol/Lの範囲に調整することがより好ましい。
[カチオンポリマー(X)とスズ化合物(Y)と硫酸(Z)からなる前駆体を得る工程]
前述のカチオンポリマー(X)の水溶液と、硫酸(Z)で安定化したスズ化合物(Y)の水性溶液とを、室温(20℃)〜80℃の温度範囲内で、攪拌しながら混合することにより、溶液中からガム状の不溶性ゲルである前駆体を析出させることができる。前駆体を効率よく析出させるため、水性溶媒(例えば、エタノール、メタノールなど)を加えてもよい。この前駆体は水中で加熱しても溶解せず、その他の有機溶剤中でも溶解しない。
前記前駆体は、カチオンポリマー(X)、スズイオン、及び硫酸アニオンで構成され、その中、スズイオンと硫酸アニオンはカチオンポリマー(X)中のアミノ官能基等と相互作用し、架橋構造を形成し、不溶性のゲルになる。具体的に言えば、硫酸アニオンの場合、溶液中のpH値の酸性サイドになることで、カチオンポリマー(X)中のアミノ基が水溶液中でプロトン化され、カチオンポリマー(X)がポリカチオンとして振る舞い、硫酸アニオンが当該ポリカチオンとの静電的相互作用により架橋構造を形成する。また、スズイオンはカチオンポリマー(X)中のアミノ官能基に配位されるが、その配位結合はカチオンポリマー(X)の分子間で起きる場合、ゲル構造を引き起こすこともできる。このような相互作用の結果、ゲル状の前駆体中には、混合の際に用いたスズイオンと硫酸アニオンとが均一に含まれることになる。
不溶性ゲル前駆体を得る工程において、カチオンポリマー(X)中のアミノ基とスズイオンとのモル比は10:1〜1:1の範囲に設定することが好ましい。安定した不溶性ゲルである前駆体を収率よく得るためには、そのモル比を1:1〜5:1の範囲に設定することが更に好ましい。
上記ゲル前駆体を得る工程において、カチオンポリマー(X)分子とアニオンとの架橋反応が速いため、両反応物の混合方式、速度及び生成物の静置・熟成などが得られる前駆体構造の均一さに大きな影響を与える。
そのため、前駆体を合成する際、定量送液ポンプを用いて反応物を混合させることが好ましい。送液速度は、特に限定されないが、100ml〜2000ml/hの範囲に設定することが好ましい。以下実施例中の前駆体合成工程においては、特に断らない限り、反応物の混合が定量送液ポンプを用いた条件下で行うものである。
また、前駆体構造を均一かつ安定化させるため、カチオンポリマー(X)とスズ化合物(Y)と硫酸(Z)とから得られるゲル状の前駆体を室温下で1時間以上攪拌させた後、反応溶液中に5時間以上静置・熟成させることが好ましく、24時間以上の熟成がもっと好ましい。
析出した前駆体は、水中では凝集状の塊になりやすく、上澄みをデカンテーション法で除去し、蒸留水またはエタノール、アセトンなどの溶剤を加えて洗浄することができる。洗浄後の不溶性ゲルである前駆体は室温または60〜90℃加熱下乾燥し、粉末状態にすることもできる。
粉末状の前駆体は、室温以上の温度域でガラス転移温度を示す。即ち、カチオンポリマー(X)、スズイオン、硫酸アニオンを含む前駆体は異物の混合状態ではなく、静電気的相互作用をベースとして架橋を伴いながら形成したポリマー錯体の様な物質であり、その故、単一の物質として特異的物性を示すものである。
[ポリマー(U)]
前記前駆体は、カチオンポリマー(X)、スズイオン、硫酸アニオンで構成されるものであるが、それだけで、非酸化性雰囲気中での高温焼成後の炭化率が低い場合には、高温焼成時に熱分解によるスズ中間化合物の気化が避けられない。したがってその様な場合には、新たな炭素源としてポリマー(U)の添加が重要となる。ポリマー(U)は、水性ポリマー、なかでも水溶性ポリマーであることが、上記した前駆体各成分との親和性が高い点で好ましい。
本発明で用いられるポリマー(U)としては、前記前駆体と混合・反応させることができれば特に制限がなく、例えば、触媒の作用によって高温焼成下で炭化される脂肪族ポリマーも適用しうるが、炭化率向上のため炭化されやすいベンゼン核を代表とする環状不飽和官能基を富みに有する直鎖状または多分岐状芳香族ポリマーが好ましい。
前記前駆体の合成に対してポリアミンが好適とされることで、アミノ基と化学的に結合できる水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基などを有する直鎖状または多分岐状芳香族ポリマーあるいは脂肪族ポリマーが好ましい。
前記ポリマー(U)としては、一般的に産業上に広く利用されているフェノール樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアルコール樹脂などを好適に用いることができる。また、易黒鉛化材料または難黒鉛化材料として石油ピッチ、石炭ピッチ、フラン樹脂、エポキシ樹脂及びポリアクリロニトリルも挙げることができる。
前記ポリマー(U)の分子量としては、取扱い上に支障がなければ特に制限はない。また、前記前駆体の合成に水系な環境が好適であることから水性ポリマーであることが好ましい。取り扱い上、容易である(粘度が過度の高くないなど)等の観点から、濃度としては10〜100質量%の範囲に調整することが好ましい。なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、水と混和する有機溶剤を併用してもよい。
[前駆体のポリマー(U)処理工程]
前記前駆体はカチオンポリマーとスズ化合物と硫酸との反応による不溶性ゲル状ものである。反応溶液を遠心分離後、上澄みをデカンテーション法で除去し、蒸留水またはエタノール、アセトンなどの溶剤を加えて洗浄することができる。
不溶性ゲル状前駆体の容器を一定温度下で保温した水浴中に入れてからポリマー(U)液を前記前駆体中に加えて混合する。混合方法としては、本発明の前記前駆体とポリマー(U)を十分に分散できれば特に制限はなく、ホモディスパー、ホモジナイザー等の撹拌機による混合法などを採用することができる。また、水浴の温度および撹拌時間としては特に制限はないが、水浴温度を30℃〜90℃の範囲内に、撹拌時間を1時間以上にすることが好まし。
ポリマー(U)が水酸基、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基などを有する場合、前記前駆体を構成するポリアミンのアミノ官能基との分子間に化学的結合ができるためポリマー(U)の分子が前記前駆体のネットワークと絡むことでき、新たな構造体が生じる。
ポリマー(U)添加量としては、前記前駆体完全乾燥体の重さに対してポリマー(U)の相対添加量(重量比)が0.05:1〜3:1の範囲にあることが好ましく、焼成後に得られたスズ‐炭素複合体の微細構造状態によると0.1:1〜1:1の範囲にあることがより好適である。
上記の様にして得られた前駆体は、焼成することで金属スズ−炭素複合体とすることができる。この焼成は、200℃以上、中でも250〜1300℃の範囲内で行うことが好ましい。上記した通り、焼成は、一定温度で行っても良いが、段階的に温度を昇温させて多段階に行っても良い。後記する様に、多段階で焼成を行う場合には、2回の焼成の間の温度差を、50℃以上、中でも250℃以上つけて行うことが好ましい。
[前駆体の高温焼成による金属スズ―炭素複合体を得る本焼成工程]
上記で得られた前駆体を高温焼成することで、前駆体中のスズイオンは金属スズの粒子になるとともに、カチオンポリマー(X)が炭化されてなる炭素に複合化される。本発明ではこの高温焼成を本焼成工程と称する。
焼成は非酸化性雰囲気下であることが好ましく、特に窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。焼成における加熱温度は500〜1300℃までに適宜調整することが望ましい。温度上昇は単位時間上昇速度を一定にして一直線的に目的温度まで到達させることもできるが、加熱時に発泡を促進させるために、前駆体の発泡点付近で加熱温度を一定時間で維持してから段階的な過程を経て目的温度まで上昇させることが好ましい。また、いずれの温度上昇でも、金属スズを内包したシート状炭素複合体に変換できる。非酸化性ガス雰囲気下での焼成時間は、温度にも関係するが、概ね1時間〜10時間の範囲に設定することが好ましい。
すなわち、金属スズと炭素との複合体を得るためには、前述で得られた前駆体を非酸化性雰囲気中で高温焼成することが好ましい。中でも前駆体を非酸化性雰囲気中で700℃以上の温度条件下で加熱することが好ましい方法である。
本発明において、前駆体を得る際に用いる硫酸(Z)の添加は、金属スズ化合物の溶液を安定させる効果の他、カチオンポリマー(X)の炭化率を高める効果もある。高温の非酸化性雰囲気中に熱分解によるカチオンポリマー(X)分子のC−N結合が断裂して炭素二重結合(C=C)を持つ不安定な中間体分子になる。この時、硫酸(Z)の添加で導入された系中の硫黄原子あるいは硫黄化合物は、その炭素二重結合(C=C)をグラファイトの環状構造に転化させる触媒機能を持つため、カチオンポリマー(X)の炭化過程が著しく促進されることになる。
しかし、前記前駆体を非酸化性雰囲気中で高温焼成する時、有機成分と硫酸の熱分解と同時に硫化スズなどの中間生成物が大量に生成して窒素ガスと共に揮発するのは高温焼成時にスズの損失の原因となる場合がある。
前記の前駆体中に炭化されやすいポリマー(U)を添加処理するとスズイオンを包囲する有機成分が非酸化性雰囲気中で高温焼成で炭化されることにより炭化率が向上し、炭素密度が高くなることで硫化スズなど中間物の揮発を抑制することができる。
得られる金属スズ−炭素複合体のより炭化率を高めるためには、前記前駆体を、低温焼成し、その後に高温焼成する方法は極めて有効な方法である。
[仮焼成工程]
前述のように、前記前駆体の焼成段階で硫化スズなど中間物が発生することがある。これら中間物の生成がスズの損失及び不純物の生成に大きな原因となる。スズ硫化物など中間物の発生を抑制するために酸化性雰囲気中での低温焼成が有効手段の一つである。本発明ではこの低温焼成を仮焼成工程と称する。
この仮焼成工程は、一定温度下の酸化性雰囲気中にて行われるものである。この低温焼成は、例えば、酸化性雰囲気中で250〜450℃の温度範囲で行うことができる。本発明では、250〜450℃の仮焼成温度及び保温時間が10分〜2時間であることが好ましく、300〜400℃の仮焼成温度及び15分〜1時間の保温時間であることがより好ましい。
前記の前駆体を構成するカチオンポリマーが仮焼成条件下で硫酸成分の熱分解と共に一部の官能基が切断され、酸化反応により炭素の不飽和結合を含むポリマー中間体が形成する。また、前記前駆体構造中に存在スズの化合物が熱分解され、酸素と結合することでナノスケールの酸化スズ結晶子が生成する。その酸化スズ結晶子がフリースタンディング状態で存在することはなく、周囲に大量に存在する炭素の不飽和結合を含むポリマー中間体と何らかの結合状態で閉じ込まれている。
[仮焼成体への炭素補充工程]
前記前駆体においてカチオンポリマーは唯一な炭素源である。すなわち、ポリアミンを用いる場合には炭化段階において炭素を提供するものがポリアミンである。取扱いやすいため、多分岐状ポリエチレンイミンがよく使われる。高温下でポリエチレンイミンは熱分解による炭素の不飽和結合を有する中間体が大量に生成する。硫黄あるいは硫黄化合物の触媒作用下でその不飽和状態である炭素結合が自発的に環状に転換し、炭素の生成に至る炭化反応が起こる。前述の仮焼成処理後、前駆体中に存在した硫酸成分が急激に減少し、さらにカチオンポリマーが部分的に熱分解されることもあるため、このままの状態で高温炭素処理すると炭素量が不足することがあり、スズイオンが金属スズに還元されるものの炭素相がスズの粒成長を抑制する効果が弱まるため大粒子の金属スズがたくさん生じることがある。従って、この様な場合には、前記前駆体を仮焼成後に炭素源の補充が必要になることがある。
この様な場合には、例えば、前記前駆体を低温焼成して得た中間物にポリマー(V)を吸着すること炭素源を補充できる。具体的には、まず、前記前駆体を仮焼成することで得られた黒色膨張体を粉砕して黒色粉末を得る。この黒色粉末をポリマー(V)の溶液中に入れ、一定温度下で混合することで有機成分を吸着させることで炭素源の補充を行う。混合温度及び吸着時間としては特に制限はないが、仮焼成体をポリマーの溶液中に完全に濡らし、均一に混合させることができればよい。
前記のポリマー(V)は、炭素源を補充するために用いられる。このポリマー(V)は、前記のポリマー(U)と同種類なものを使ってもよいが、前記前駆体の仮焼成体は低温下で炭化されるものであるため、疎水性の炭素が主成分として存在する。炭素源の補充のため用いられるポリマー(V)分子が静電作用力あるいは疎水・親水相互作用によって仮焼成体の表面に物理的付着することがあるため、炭素補充材として用いられるポリマー(V)は非水性であることが好ましい。取扱いやすいためアルコール系溶媒中に溶解できるポリマーであることがより好適である。水性ポリマーを用いた場合、均一に混合させるために撹拌時間が長くすることが選択肢の一つであるが、水と混合できる有機溶媒を併用することが好適である。
前記ポリマー(V)の使用量としては、仮焼成体の重量に対するポリマー(V)添加量の相対量(重量比)が0.2:1〜5:1の範囲にあることが好ましい。取り扱いやすいため、前記ポリマー(V)の溶液濃度が水あるいは有機溶媒において5〜50重量%の範囲であることが好適である。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
[X線回折法、小角度散乱法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜80°の条件で測定し、また、X線回折装置「Rint−TTRII」を用いてX線小角度散乱分析を行った
[示差走査熱量分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノテクノロジー株式会社製示差走査熱量分析測定装置(TG−TDA6300)にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から1000℃の温度範囲にて窒素雰囲気中または大気中測定を行った。また、試料をSIIナノテクノロジー株式会社製示差走査熱量分析測定装置(EXSTER DSC7200)にセットし、昇温速度を10℃/分として室温(25℃)から300℃の範囲内に測定を行った。
[透過型電子顕微鏡による微細構造分析]
エタノールで分散した試料をサンプル支持膜に載せ、日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡装置(JEM−2000FS)にて観察した。高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)法(ハーディフステム;HAADF−STEM:high−angle annular dark−field scanning transmission electron microscopy)は格子振動による熱散漫散乱によって高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器で受け、この電子の積分強度をプローブ位置の関数として測定し、その強度を像として表示する手法である。像の強度は原子番号のほぼ二乗に比例し、軽い原子は見えにくいが、重い原子が選択的に観察できる。この手法を用いて炭素で構成されるシート状マトリックス(A)中に内包される金属スズナノ粒子(B)の存在状態の確認を行った。
[ラマン吸収測定分析]
粉末状のサンプルをガラス板に載せ、反射型ラマン測定装置(レニショー(RENISHAW)製、RAMASCOPE)にてスペクトルを測った。
<合成例1>ポリアミンとスズイオンと硫酸とを含有する前駆体の調製
重量比5%〜15%の多分岐状ポリエチレンイミン(エポミン、sp−200、重量分子量10000、株式会社日本触媒製)の水溶液を調製し、その水溶液10mL中に、表1に示した異なるモル濃度の硫酸スズ水溶液10mLを滴下し、その混合液を室温(25℃)下で1時間激しく攪拌した。硫酸スズを水によく溶解させるため、反応溶液中には希硫酸を添加した(表1)。反応溶液からの沈殿物を遠心分離器にて単離し(10000rpm、10分)、上澄みを除いた後、蒸留水で三回洗浄した。得られた固形物を90℃で10時間減圧乾燥して、固体粉末を得た。各サンプルに関する詳細は表1にまとめる。
<金属スズ−炭素複合体の合成>
実施例1
上記のSn−0.35aゲル前駆体を100℃乾燥機中に一晩乾燥し、さらに120℃で減圧乾燥を5時間行った後、黄色い前駆体の粉末を得た。この粉末を窒素中、300℃以上で加熱すると、前駆体が徐々に溶融体となるに伴い、有機成分が熱分解されることによってガスが大量に発生した。350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で900℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは発泡のゆえ体積が大きく膨大した黒色多孔質体になり、軽く粉砕後に高比表面積を有する黒色粉末を得た。
得られた生成物をSEMおよびTEMで観察した結果、シート状の生成物であり、HADDF観察結果によるとシート状複合体中に粒径の0.2〜5nm範囲にある金属スズナノ粒子が密に分布していることが確認できた。また、TEMおよびSEM観察から、5〜30nm範囲にある金属スズナノ粒子のほかに、少量の30〜100nmの金属スズ粒子が確認されたが、100nm以上の金属スズ粒子、特に1μm以上の金属スズ粗大粒子は観察されなかった。
熱分析の結果、金属スズの含有率が57質量%であることを示し(表2)、また、X線回折パターンの結果によると金属スズナノ粒子の平均粒径が49.0nmであることが確認できた。前駆体合成時に希硫酸の添加により安定した硫酸スズ溶液が得られたため、100nm以上の金属スズ粒子の生成は顕著に抑制された。これは金属スズ粗大粒子の減少に繋がる主要原因のひとつと考えられる。実施例1で得られたサンプルのXRDパターンを図1に示す。透過型電子顕微鏡の観察結果(図2)は、サンプルの形態がシート状であり、また、そのシート中に粒径が10nm前後のスズ粒子が数多く存在することが分かった。さらに、HAADF−STEMの分析結果は、上記粒径10nm前後の粒子間に1〜3nmの極小粒子が大量に内包していることを示唆した(図3)。
実施例2
上記のSn−0.47aゲル前駆体を実施例1と同じ操作で900℃・窒素中で焼成した。得られたシート状生成物は、HADDF観察結果によると、シート状複合体中に粒径の0.2〜5nm範囲にある超微小のスズナノ粒子が密に分布し、100nm以上、特に1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことが確認できた。XRD測定結果によると金属スズナノ粒子の平均粒径が25.5nmであり、熱分析結果は金属スズの含有率が39質量%であることを示した(表2、図1)。
実施例3
上記のSn−0.70aゲル前駆体を実施例1と同じ操作で900℃・窒素中で焼成し、シート状生成物を得た。HADDF観察結果によるとシート状複合体中に粒径の0.2〜5nm範囲にある超微小のスズナノ粒子が密に分布し、100nm以上特に1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことが確認できた。その焼成体に含まれる金属スズナノ粒子の平均粒径は9.5nmであり、金属スズの含有率は38質量%であった(表2)。得られたサンプルのXRDパターンは図1に示す。
実施例4
実施例1〜3より高い濃度の硫酸溶液を添加することでSn−0.233bゲル前駆体を合成した。洗浄・乾燥後、900℃・窒素中で焼成して黒色粉末を得た。XRDと熱分析測定結果から、金属スズナノ粒子の平均粒径は14.3nmであり、金属スズの含有率が17.3質量%であることを示した(表2)。反射型電子顕微鏡で粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が観察されなかった。透過型電子顕微鏡の観察結果は、得られたサンプルの形態がシート状であり、また、そのシート中に粒径が10nm前後のスズナノ粒子が数多く存在することが分かった。さらに、HAADF−STEMの分析結果は、上記粒径10nm前後の粒子間に、1〜3nmの極小粒子が大量に内包されていることを示した。
実施例5
実施例1〜3よりさらに高濃度の硫酸溶液を添加することで得た上記のSn−0.35bゲル前駆体を、実施例1と同じ操作で900℃・窒素中で焼成し、シート状生成物を得た。得られた複合体中に含まれる金属スズナノ粒子の平均粒径は10.6nmであり、金属スズの含有率は19.5質量%であった(表2)。また、反射型電子顕微鏡で粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを確認した。
実施例6
実施例1〜3よりさらに高濃度の硫酸溶液を添加することで得た上記のSn−0.47bゲル前駆体を、実施例1と同じ操作で900℃・窒素中で焼成し、シート状生成物を得た。得られた複合体に含まれる金属スズナノ粒子の平均粒径は11.4nmであり、金属スズの含有率は21質量%であった(表2)。また、反射型電子顕微鏡で粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを確認した。
実施例7
実施例1〜3よりさらに高濃度の硫酸溶液を添加することで得た上記のSn−0.70bゲル複合体を、実施例1と同じ操作で900℃・窒素中で焼成し、シート状生成物を得た。得られた複合体に含まれる金属スズナノ粒子の平均粒径は9.2nmであり、金属スズの含有率は26質量%であった(表2)。また、反射型電子顕微鏡で粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを確認した。(図4)。
実施例8
上記の実施例に使われたポリエチレンイミン(エポミン、sp−200、重量分子量10000)の代わりに低分子量のポリエチレンイミン(エポミン、sp−012、重量分子量1200、日本触媒)を用いる以外は実施例1と同様な操作を行い、前駆体を得たのち、これを窒素中で900℃の温度下で焼成した。得られた生成物をSEMおよびTEMで観察した結果、生成物はシート状であり、炭素から構成されるシート状マトリックス中に複数個の金属スズナノ粒子が内包された構造であることを確認した。またHADDF観察結果によると、シート状複合体中に粒径の0.2〜5nmと5〜20nmの範囲にある超微小の金属スズナノ粒子が密に分布していることが確認できた。そのほか少量の30〜100nm範囲にある金属スズ粒子が観察されたが、反射型電子顕微鏡で粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことを確認した。X線回折パターンの結果によると金属スズナノ粒子の平均粒径が42.0nmであることが分かり、熱分析の結果、金属スズの含有率が45質量%であることを示した(表2)。
実施例9
上記の実施例に使われたポリエチレンイミンの代わりに、15質量%の濃度に調整したポリアリルアミン(平均分子量15000、PAA−15、株式会社日東紡)水溶液を用いて実施例1と同様に、0.5mol/l希硫酸を添加した上、Sn/Nのモル比を0.35/1に調整して前駆体の合成を行った。反応生成物を100℃で減圧乾燥した後、窒素中で900℃の温度下で焼成した。得られた生成物をSEMおよびTEMで観察した結果、シート状の生成物が得られ、炭素で構成されるシート状マトリックス中に複数個の金属スズナノ粒子が内包された構造であることを確認した。HADDF観察結果によると粒径の0.2〜5nmおよび5〜30nmの範囲にある超微小の金属スズナノ粒子がシート状複合体中に密に分布していること、X線回折パターンの結果、当該金属スズナノ粒子の平均粒径が36.0nmであることが確認できた。熱分析の結果、金属スズの含有率が34質量%であることを示した(表2)。また、反射型電子顕微鏡での観測の結果、複合体中には粒径が1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことが確認できた。
実施例10
上記の実施例において、硫酸スズの代わりに硝酸スズを用いる以外は実施例1と同様な操作を行った。ゲル状前駆体を100℃で十分に減圧乾燥した後、窒素中で900℃の温度下で焼成した。得られた複合体をSEMおよびTEMで観察した結果、シート状の生成物であり、炭素から構成されているシート状マトリックス中に複数個の金属スズナノ粒子が内包されていることを確認した。また、HADDF観察結果によるとシート状複合体中に粒径が0.2〜5nmおよび5〜30nmの範囲にある超微小の金属スズナノ粒子が密に分布していること、1μm以上の金属スズ粗大粒子が存在しないことが確認できた。熱分析の結果、金属スズの含有率は29質量%であることを示し(表2)、X線回折パターンの結果によると金属スズナノ粒子の平均粒径が38.0nmであることが確認できた。
表2の脚注:TEM写真における単位面積(100nm×100nm)当たりに含まれるスズ粒子の数を下記のように表示する。
△(少量: 0〜5個)
○(普通: 5〜15個)
◎(多い: 15個以上)
X(なし)
実施例11
実施例4と同じく比較的高濃度硫酸溶液を添加することでSn−0.233bゲル前駆体を合成した。室温下、1.745g硫酸スズ粉末を10mlの0.8mol/L稀硫酸溶液中に完全溶かして10mlの15%ポリエチレンイミン(エポミンsp200、分子量10000、日本触媒製)と反応させた。一時間静置後、上澄みをデカンテーションで除去した(乾かしたら4.32gの乾燥前駆体を得る)。蒸留水で軽く洗浄後、0.5gの水性フェノール樹脂(フェライト1196、DIC株式会社製)原液(乾燥前駆体に対する樹脂の相対添加量が約0.1:1であった)を加えて60℃の水浴中にて2時間撹拌した。減圧乾燥後、この混合体を350℃大気中にて30分仮焼成してから900℃、窒素雰囲気中にて高温焼成・炭化を行った。XRDと熱分析測定結果、金属スズナノ粒子の平均粒径は29nmであり、金属スズの含有率が33質量%であることを示した(表3)。また、X線小角度散乱の分析結果は、本実施例で得られたスズ‐炭素複合体中に存在するスズの粒径分布範囲が0.2〜20nmにあり、中心粒径が約7nmであることを示した。TEMの観察でもスズ‐炭素複合体中に10nm以下のスズ粒子が密に分布していることが分かった(図4)。
実施例12
実施例11と同じ操作で、ゲル状前駆体に水性フェノール樹脂の添加量を変えて、1.0gを混合させた(乾燥前駆体に対する樹脂の相対添加量が約0.25:1であった)。XRDと熱分析測定結果によると、窒素雰囲気中で高温焼成後得られたスズ‐炭素複合体中にスズ粒子の平均粒径が32nmであり、スズの含有量が38重量%であった(表3)。
実施例13
実施例11と同じ操作で、ゲル状前駆体に水性フェノール樹脂の添加量を変えて、2.0gを混合させた(乾燥前駆体に対する樹脂の相対添加量が約0.5:1であった)。XRDと熱分析測定結果によると、窒素雰囲気中で高温焼成後得られたスズ‐炭素複合体中にスズ粒子の平均粒径が26.5nmであり、スズの含有量が20重量%であった(表3)。
実施例14
実施例12と同じ操作で合成した前駆体を350℃・大気中にて仮焼成後、窒素雰囲気中・1000℃で高温焼成を行った。得られたスズ‐炭素複合体中にスズの平均粒径が31.9nmであり、スズの含有量が33.8重量%であった(表3)。
実施例15
実施例4と同じく比較的高濃度硫酸溶液を添加することでSn−0.233bゲル前駆体を合成した。室温下、1.745g硫酸スズ粉末を10mlの0.8mol/L稀硫酸溶液中に完全溶かして10mlの15%ポリエチレンイミン(エポミンsp200、分子量10000、日本触媒製)と反応させた。一時間静置後、上澄みをデカンテーションで除去した(乾かしたら4.32gの乾燥前駆体を得る)。蒸留水で軽く洗浄後、10mlの15重量%ポリビニルアルコール(分子量1000、乾燥前駆体に対する樹脂の相対添加量が約0.3:1であった)を加えて60℃の水浴中にて2時間撹拌した。減圧乾燥後、この混合体を900℃、窒素雰囲気中にて高温焼成・炭化を行った。XRDと熱分析測定結果、金属スズナノ粒子の平均粒径は35nmであり、金属スズの含有率が33質量%であることを示した(表3)。
実施例16
実施例4と同じくゲル前駆体を合成し、一時間静置後、上澄みをデカンテーションで除去した。蒸留水で軽く洗浄後、20mlの15重量%ポリビニルアルコール(分子量1000、乾燥前駆体に対する樹脂の相対添加量が約0.6:1であった)を加えて60℃の水浴中にて2時間撹拌した。窒素雰囲気中・900℃での焼成によって得られた試料のXRDと熱分析測定結果、金属スズナノ粒子の平均粒径は40nmであり、金属スズの含有率が25質量%であることを示した(表3)。
実施例17
実施例4と同じ操作でゲル状前駆体を合成した。乾燥後に320℃、大気中にて一時間仮焼成して黒色粉末を得た。1gの粉末を10mlの10重量%フェノ‐ル樹脂(TD-2131、DIC株式会社製)/エタノール溶液に入れ、室温下30分攪拌した。上澄みを除去してから乾燥後、窒素雰囲気中・900℃にて高温焼成を行った。分析結果によると、得られた試料中に金属スズナノ粒子の平均粒径は80nmであり、金属スズの含有率が24質量%であった(表3)
実施例18
実施例4と同じ操作でゲル状前駆体を合成した。乾燥後に400℃、大気中にて一時間仮焼成して黒色粉末を得た。1gの粉末を10mlの10重量%フェノ‐ル樹脂(TD-2131、DIC株式会社製)/エタノール溶液に入れ、室温下30分攪拌した。上澄みを除去してから乾燥後、窒素雰囲気中・900℃にて高温焼成を行った。分析結果によると、得られた試料中に金属スズナノ粒子の平均粒径は200nmであり、金属スズの含有率が32質量%であった(表3)
表3の脚注:TEM写真における単位面積(100nm×100nm)当たりに含まれるスズ粒子の数を下記のように表示する。
△(少量: 0〜5個)
○(普通: 5〜15個)
◎(多い: 15個以上)
X(なし)
比較例1<硫酸スズとポリビニルアルコールを用いた複合材料の合成>
1gのポリビニルアルコール(PVA、数平均分子量1000、和光純薬)を20mlの蒸留水中に完全溶解し、20mlの0.58M濃度硫酸スズ溶液を攪拌しながら加えて沈殿物なく安定かつ均一な溶液を調整した。この溶液を95℃の乾燥器中にて一晩脱水させてから減圧乾燥を行った後に乾燥体を得た後、この乾燥体を窒素雰囲気中・900℃の条件下にて真空炉中で焼成した。前駆体より体積が顕著に縮んだ灰色粉末を得た。X線回折パターンは、生成物が硫化スズ及び酸化スズ(SnO2−x)であり、金属スズの結晶が検出されなかったことを示した。SEM観察の結果、焼成物の形態が無規則であることを確認した。
比較例2<硫酸スズとポリエチレングリコールを用いた複合材料の合成>
1gのポリエチレングリコール(PEG、数平均分子量20000、和光純薬)を20mlの蒸留水中に完全溶解し、20mlの0.58M濃度硫酸スズ溶液を攪拌しながら加えて沈殿物なく安定かつ均一な溶液を調整した。比較例1と同様な操作で減圧乾燥を行った後に乾燥体を得た後、この乾燥体を窒素雰囲気中・900℃の条件下にて真空炉中で焼成した。前駆体より体積が顕著に縮んだ灰色粉末を得た。X線回折測定で酸化スズ及び少量の金属スズ結晶相が検出されたが、SEM観察結果からは焼成物が無規則的な塊であることが確認できた。
比較例3<硫酸スズとイオン交換樹脂を用いた複合材料の合成>
0.5モル/Lの硫酸スズ(II)水溶液100mL中に、イオン交換樹脂A(スチレン−ジビニルベンゼン−スルホン酸基系(架橋度8%、イオン交換容量2.2当量/L、交換基Na+、平均粒径750±50μm)20gを60分間浸漬することにより、イオン交換を行った。スチレン−ジビニルベンゼン−スルホン酸基系とは、ポリスチレンの長鎖間をジビニルベンゼンで架橋し、イオン交換基としてスルホ基を有する高分子酸であることを示している。イオン交換後の樹脂をイオン交換水で洗浄した。乾燥後、窒素雰囲気中に900℃で1時間焼成を行った。X線回折、TEMなどの分析結果によると、焼成物が無規則の形態であり、その中に多数のスズ粗大粒子(粒径が1μm以上)が存在したほか、粒径が40〜200nmの範囲にある酸化スズ粒子の形成も検出され、40nm以下、特に5nm以下のスズ粒子が存在してないことが確認できた。
比較例4<硫酸を添加せずに硫酸スズと分岐状ポリエチレンイミンを用いた複合材料の合成>
硫酸を添加せずに上記の実施例7と同様な操作でSn−0.7ゲル前駆体を作製した。洗浄・乾燥後、窒素雰囲気中に5℃/分の昇温速度で900℃まで焼成して金属スズ−炭素複合体の黒色粉末を得た。X線回折測定結果によると金属スズの結晶体由来の強いかつシャープなピークが検出され、シェラー式で計算した平均粒径が100μm以上であることが分かった。SEMとTEMの観察の結果、すべての複合体がシート状であり、この複合体中には20nm以下の金属スズナノ粒子を内包するが、それと併有して100nm以上の大きな粒子、特に1μm以上の金属スズ粗大粒子が数多く存在することを確認した(図5)。
本発明の金属スズ−炭素複合体は、シート状炭素のマトリックスで金属スズナノ粒子を保持した構造を持つ新規の材料であり、その製造方法は、工業的に安価で、入手しやすい金属スズ化合物を出発原料とした簡便なプロセスで得ることができるため、広範な用途への展開が可能な材料である。本発明の金属スズ―炭素複合体は、例えば、エネルギー関連のリチウム電池周辺の素材、太陽電池、燃料電池の水素貯蔵材料として応用できる。また、触媒関連の排気処理、有機物合成などへの応用も可能である。

Claims (10)

  1. 炭素で構成されるマトリックス(A)中に金属スズナノ粒子(B)が内包されてなる金属スズ−炭素複合体であって、
    前記金属スズナノ粒子(B)の粒径が0.2nm〜5nmの範囲のものを含み、且つ1μm以上の粗大な金属スズ粒子を含まないことを特徴とする金属スズ−炭素複合体。
  2. 更に、粒径が5nmを超えて〜100nmの範囲にある金属スズナノ粒子(B)を同時に内包する特徴とする請求項1記載の金属スズ−炭素複合体。
  3. 請求項1又は2に記載の金属スズ―炭素複合体の製造方法であって、
    カチオンポリマー(X)とスズ化合物(Y)と硫酸(Z)とを含む前駆体を焼成することを特徴とする請求項1又は2記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  4. カチオンポリマー(X)とスズ化合物(Y)と硫酸(Z)と水溶性ポリマー(U)とからなる前駆体を焼成することを特徴とする請求項1又は2記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  5. 前駆体を低温焼成し、その後に高温焼成することを特徴とする請求項3又は4記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  6. 前駆体を低温焼成して得た中間物にポリマー(V)を吸着させた後に高温焼成することを特徴する請求項3又は4記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  7. 低温焼成が、酸化性雰囲気中で250〜450℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の金属スズ-炭素複合体の製造方法。
  8. 高温焼成が、非酸化性雰囲気中、700℃以上の温度条件下で行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  9. カチオンポリマー(X)がポリエチレンイミンである請求項3〜8の何れか1項に記載の金属スズ−炭素複合体の製造方法。
  10. 請求項3〜9に記載の製造方法で得られる金属スズ−炭素複合体。
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