JP2014019607A - 炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート及びその製造方法 - Google Patents

炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ナノメートルオーダーの金属スズまたは酸化スズの粒子を担持した新規な炭素複合材料を、安価で且つ簡便な方法で提供すること。
【解決手段】炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシートを製造する方法であって、ポリアミンの水溶液(A)を調製する工程、スズカチオンと酸根アニオンからなるスズイオン化合物の水溶液(B)を調製する工程、前記工程で得られた水溶液(A)と(B)を混合し、その混合液からポリアミンとスズイオンを含む不溶性の複合体(C)を析出させる工程、析出した複合体(C)を回収し、乾燥させる工程、得られた乾燥後の複合体を加熱焼成する工程、を有することを特徴とする、炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法、及びこの方法で得られた炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート。
【選択図】図4

Description

本発明は、導電性材料、リチウムイオン電池、キャパシタなどの負極材料、また燃料電池、化学反応に適用する触媒材料として応用可能な、炭素ナノシートのマトリックス中に金属スズまたは酸化スズのナノ粒子が密に分布してなる複合ナノシート及びその製造方法に関するものである。
炭素材料は、1種類の炭素原子(C)から構成される材料ではあるが、カルビン、黒鉛、並びにダイヤモンドといった三つの同素体がある。それらは、sp、sp、spの異なる混成軌道を有する炭素原子から構成されている。近年、ナノ構造を有する炭素材料は、従来の材料を凌駕する特性を有し、例えば、電子放出素子材料、強度補強材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、光学材料など次世代の機能性材料としての応用が期待されている。新機能発現のため、物理的・化学的等、あらゆる手段を経て複雑なナノ炭素材料の微細構造の制御、または他種機能性物質の導入による新規炭素複合材料開発などの研究活動が盛んに行われている。それにつれ、ナノ炭素材料は様々な領域に新たな物性・実用性が見出されている。
活性炭に代表される多孔質炭素は、粒子表面から内部に向かって大量の細孔が連結して形成されたものであり、非常に大きな比表面積を有するため古くから吸着材、分離剤として応用されてきた。また、活性炭の表面に触媒や活性種を導入することで、排煙吸収、大気浄化などの高い機能が発現することも知られている。例えば、ナノ炭素材料に金属をドープすると、スピルオーバー機構を利用することにより水素などの吸着性を向上させることができるとの報告がある(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。これらの文献では、多孔性炭素ナノファイバーにNi、Cu、Ag、Pt、Tiなどの遷移金属を電解メッキすると、遷移金属相が1.5〜20nmの直径を有した状態で複合化され、この複合体の水素貯蔵量が3質量%の非常に高い値になったことを報告している。
また、多孔質の炭素材料は優れた電気的・化学的性質を持つことから、リチウム電池、電気二重層キャパシタの電極など、エネルギー貯蔵デバイスへの応用も広がっている。電子機器の小型化に伴い、蓄電電池、特に二次電池についてはキーデバイスとしてエネルギー密度の向上あるいは電池の高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。リチウムイオン二次電池あるいはキャパシタの負極材料には、従来から比較的高容量を示しサイクル特性を有する難黒鉛化炭素や黒鉛などの炭素材料が広く応用されている。しかし、黒鉛の理論容量値が低く(372mAh/g)黒鉛のみを用いた負極材料の更なる高容量化が困難であり、大きな課題となっている(例えば、非特許文献2、特許文献2〜3参照)。黒鉛に代わる材料としては、より高い容量を示す非炭素系負極材料の開発が進んでいる。例えば、ケイ素、スズ、アルミニウムなどの材料がリチウムと電気化学的に合金化することにより電池容量が飛躍的に向上されることが報告されている。
従って、ナノメートルオーダーの金属粒子を担持した炭素複合材料は、様々な優れた特性を有するため次世代機能性材料として大きく期待され、このナノ金属担持炭素複合材料の作製法についての研究も盛んに行われている。しかし、ナノ金属担持炭素複合材料の物性に対して複合材料の既存作製法は未だにそれぞれ問題点を抱えている。
例えば、Si、Sn、Al、Coなどの金属合金粒子が炭素と複合されてリチウムイオン電池電極材料として用いられるが、その複合体の作製法としてはいくつかの方法が挙げられる。炭素材料と金属合金微粒子との機械的混合による複合体の作製法(例えば、特許文献2参照)、還元によって液相から炭素相への金属ナノ粒子析出法(メッキ法、無電解法)(例えば、非特許文献3参照)、ナノシート状金属とグラフェンとの積層構築法(例えば、非特許文献4参照)。しかし、機械混合法及び金属粒子の還元析出法(メッキ法)には、金属粒子が炭素母材表面上に物理的付着するため、界面密着強度が比較的小さくて母材表面から剥離されやすい欠点がある。遊離した粒子は、充放電時に粒子同士の融合・成長が電池性能の劣化に繋がる。ナノシートの積層構築法は操作が複雑であり、また効率が低いため工業上の大量生産に不向きである。
炭素材料の新展開(学振第117委員会60周年記念出版) 境 哲男 電気製鋼 第77卷4号、301−309、2006年2月 Yongcai Qiu et al., Chem.Commun.,2010,46,8359−8361 Liwen Ji et al.,Energy Environ.Sci.,2011,4,3611−3616
特開2009−167084号公報 国際公開WO2004/100291号 特開2004−178922号公報
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ナノメートルオーダーの金属スズまたは酸化スズの粒子を担持した新規な炭素複合材料を、安価で且つ簡便な方法で提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スズイオンの配位とプロトン化ができるポリアミンと、スズカチオンと酸根アニオンからなるスズイオン化合物とが配位・水素結合により形成するポリアミン・スズイオン化合物を構成成分とした架橋状態のゲル状不溶性の複合体が、加熱下で可塑性と発泡性と示すことに着目し、加熱温度の上昇過程で、発泡膜を形成すること、不活性雰囲気中にて焼成すると、その発泡膜中での熱分解・炭化及び金属スズへの還元反応を経由し、金属スズのナノ粒子がシート状炭素に複合化されてなる複合ナノシートを形成すること、また更なる大気中にて熱処理すると、金属スズの適度な酸化により、ナノ粒子状の金属スズと酸化スズとがシート状の炭素と複合化されてなる複合ナノシートを形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシートを製造する方法であって、
(I)ポリアミンの水溶液(A)を調製する工程、
(II)スズカチオンと酸根アニオンからなるスズイオン化合物の水溶液(B)を調製する工程、
(III)工程(I)と工程(II)で得られた水溶液(A)と(B)を混合し、その混合液からポリアミンとスズイオンを含む不溶性の複合体(C)を析出させる工程、
(IV)工程(III)で析出した複合体(C)を回収し、乾燥させる工程、
(V)工程(IV)で得られた乾燥後の複合体を加熱焼成する工程、
を有することを特徴とする、炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法、および当該製造方法で得られる、炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートを提供するものである。
本発明の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法は、工業的に安価で、入手が容易なスズイオン化合物を出発原料として、簡便なプロセスで、厚みが数十ナノメートル以下の炭素からなるナノシートを基礎とする複合材料を得るものであり、複合材料の広範な応用への供給を満たす製造法である。
また、本発明で得られる炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートは、例えば、エネルギー関連のリチウム電池周辺の素材、太陽電池、燃料電池の水素貯蔵材料等として応用できる。また、触媒関連の排気処理、有機物合成などの応用も可能である。
実施例1サンプルSn−0.7複合体の示差式熱分析測定結果(窒素雰囲気中)である。 実施例1サンプルSn−0.7複合体を窒素中各温度下で焼成した試料のX線回折パターンである。 実施例1サンプルSn−0.7複合体を窒素中500℃での焼成前後での試料の13C−NMRスペクトルである。 実施例1サンプルSn−0.7複合体を窒素中800℃で焼成した試料の透過型電子顕微鏡による高分解微細構造像である。 実施例1サンプルSn−0.7複合体を窒素中800℃で焼成した試料のラマンスペクトルである。 実施例4で得られた、サンプルSn−0.7複合体を窒素中1000℃で焼成した後、更に大気中で熱処理した各試料のX線回折パターンである。
本発明での炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの作製は、金属スズイオンが大量に含まれたポリマーシートを複合ナノシート形成用テンプレートとして用いることを基本モデルとする。このモデルの特徴は従来には考えられなかったポリマーの可塑性を利用することにある。つまり、金属スズイオンを多く含むポリマーに可塑性を付与した場合、そのポリマーは加工性に優れ、射出成形、または発泡成形に用いることができる。不活性雰囲気中にて高温まで加熱焼成することにより、ポリマー由来の有機成分が炭化されることでシート状の炭素になるとともに当該シートに含有した金属スズイオン化合物が分解され、さらにスズイオンの還元による金属スズのナノ粒子が形成する。いわば金属スズイオンを多く含むポリマーシート前駆体は、焼成条件により金属スズまたは酸化スズが内包される炭素ナノシートに変換する。
本発明では、金属スズイオンが安定かつ均一にポリマー中に分布される構造をターゲットにした。金属スズイオンを大量に含むポリマーが相分離することなく、可塑性ポリマーのように振る舞うことは通常はできない。また、一般的にポリアミンは金属スズイオンと錯体形成することができる。しかし、ポリアミンそのものは、分子構造由来の高い極性と強い親水性のゆえ、可塑性樹脂として用いることはない。本発明者らは、これを逆手に利用することを考案した。即ち、ポリアミンに金属スズイオンを結合させることによる物理架橋状態のゲル構造を誘導すれば、そのポリマー・金属スズイオン錯体は、ゲルとしての特徴と可塑性を発現することができるのではないかと考察した。本発明では、このような発想を元に、ポリアミンと金属スズイオンとを含むゲル状の複合体を形成できる条件を検討し、ポリアミン、スズカチオン、酸根アニオンを基本組成とするポリアミン・金属スズイオンの錯体が、水中で不溶なゲル状の複合体として析出することを見出した。
このようなゲル状の複合体を乾燥させて粉砕すると粉末状にもなるが、その粉末のガラス転移温度は室温以上の範囲で現れ、加熱過程により、相変換と熱分解をしながら内部ガス発生に伴う発泡化が進行し、初期粉末は膜状に成形されることを見出した。その膜がさらに不活性雰囲気中にて高温で焼成されることにより、ポリアミン有機成分の完全熱分解と炭化につれて炭素シートが形成する。同時に膜中に含まれたスズイオンは熱分解、還元反応により金属スズまたは酸化スズになり、最終的に金属スズまたは酸化スズがナノ粒子状で内包される2次元構造の多孔質炭素ナノシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。以下、詳細に説明する。
[ポリアミン]
本発明で用いるポリアミンは、アミン官能基を有するポリマーであればよく、そのアミン官能基は、1級、2級、3級アミンのいずれでも、それら官能基を複数種含む混合状態でも良い。
ポリアミンは、一般的に産業上広く利用されているポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、キトサン、ポリジアリルアミン、ポリ(N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ[4−(N,N−ジメチルアミノメチルスチレン)]などを好適に用いることができる。中でも、ポリエチレンイミンは工業的に入手しやすく、化学的安定性も優れ、金属イオンとの配位性も強いので、特に好ましく用いることができる。これらのポリアミンは水溶性であることが好ましく、その種類に応じて数平均分子量としては通常1000〜1,000,000の範囲のものから適宜選択して用いることが好ましい。また、当該ポリアミンは水溶液として用いるが、その水溶液の濃度としては2〜30wt%範囲であればよい。すなわち、濃度としてこの範囲で均一の水溶液となるものであることが好ましく、特に室温(20〜30℃の範囲)で均一の水溶液となるものであることが最も好ましい。取り扱い上、容易である(粘度が過度の高くない等)等の観点から、実際には2〜18wt%の範囲に調製することが好ましい。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、水と混和する溶剤を併用してもよい。
[スズイオン化合物]
本発明で用いるスズイオン化合物は、スズカチオンと酸根アニオンとで構成された水溶性の電解質であることが特徴である。酸根アニオンとしては、スズカチオンとの組み合わせで水溶性の化合物になればよく、特に限定されないが、硫酸根アニオン、リン酸根アニオン、硝酸根アニオンが汎用性に優れ、特に硫酸根アニオンが好適である。
また、酸根アニオンは、金属スズ化合物と結合してからなるものであってもよく、それらのプロトン結合状態の酸そのもの、またはアンモニウムカチオンと結合した塩類を加えて用いてもよい。
本発明においてスズイオン化合物は、これを水溶液(B)として用いるものであるが、その際の濃度としては5〜30wt%の範囲に調整することが好ましい。また、この水溶液(B)を調製する際、水によく溶解させるため、希硫酸または希塩酸を加えてもよい。
[ポリアミンとスズイオンとを含むゲル状の複合体を得る工程]
前述のポリアミンの水溶液(A)と、スズイオン化合物の水溶液(B)とを、室温(20℃程度)〜80℃で、攪拌しながら混合することにより、混合水溶液中からガム状の不溶性ゲルである複合体(C)を析出させることができる。この析出物は水中加熱されても溶解することができず、その他の有機溶剤中でも溶解できない。
前記複合体(C)は、ポリアミン、スズイオン、及び酸根アニオンで構成され、その中、スズイオンと酸根アニオンはポリアミン中のアミン官能基と相互作用し、架橋構造を形成し、不溶性のゲルになる。具体的に言えば、酸根アニオンの場合、水溶液中のpH値が酸性サイドになることで、ポリアミン中のアミン官能基が水溶液中でプロトン化され、ポリアミンがポリカチオンとして振る舞い、酸根アニオンがポリカチオンとの静電的相互作用により架橋構造を形成する。また、スズイオンはポリアミン中のアミン官能基に配位されるが、その配位結合はポリアミン分子間で起きる場合、ゲル構造を引き起こすこともできる。このような相互作用の結果、ゲル状の不溶性の複合体(C)中には、混合の際に用いたスズイオンと酸根アニオンが均一に含まれることになる。
不溶性ゲルである複合体(C)を得る工程において、ポリアミン中のアミン官能基とスズイオンのモル比は10:1〜1:1の範囲に設定することが好ましい。安定した不溶性ゲルである複合体(C)を収率よく得るためには、そのモル比を1:1〜5:1の範囲に設定することが更に好ましい。
析出した複合体(C)は、水中では凝集状の塊になりやすく、上澄みをデカンテーション法で除去し、蒸留水またはエタノール、アセトンなどの溶剤を加えて洗浄することができる。洗浄後の複合体(C)は室温または60〜90℃の加熱下で乾燥し、粉末状態にすることができる。
粉末状の複合体(C)は、室温以上の温度域でガラス転移温度を示す。即ち、ポリアミン、スズイオン、酸根アニオンを含有する複合体(C)は異物の混合状態ではなく、静電気的相互作用をベースとして架橋を伴いながら形成したポリマー錯体の様な物質であり、その故、単一の物質としての特異的物性を示すものである。
[複合体(C)の焼成による、炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシートを得る工程]
上記で得られた乾燥状態の複合体(C)を加熱焼成することで、複合体(C)中のスズイオンは金属スズ及び/酸化スズの粒子になるとともに、ポリアミンが炭化されてなる炭素シートに複合化される。
焼成方法としては特に制限されるものではなく、例えば、乾燥後の複合体(C)をルツボに入れ、それを電気炉内にセットしてから、炉内温度をプログラムにそって上昇させる方法が挙げられる。
焼成は不活性ガス雰囲気下であることが好ましく、特に窒素ガス雰囲気下であることが好ましい。焼成における加熱温度は500〜1300℃までに適宜調整することが望ましい。温度上昇は単位時間上昇速度を一定にして一直線的に目的温度まで到達させることもできるが、複合体(C)の加熱時における発泡を促進させるために、複合体の発泡点付近で加熱温度を一定時間で維持してから段階的な過程を経て目的温度まで上昇させることが好ましい。また、いずれの温度上昇でも、金属スズを内包した炭素ナノシートに変換できる。不活性ガス雰囲気下での焼成時間は、温度にも関係するが、概ね1時間〜5時間の範囲に設定することが好ましい。また、これらのナノシート中に存在する金属スズの一部を酸化スズに変換させるためには、一度焼成して得られたナノシートを大気中で熱処理することで容易に変換できる。この時の熱処理温度は、200〜500℃の範囲であることが好ましく、また、熱処理時間は10分〜120分間であることが好ましい。
すなわち、金属スズと炭素との複合ナノシートを得るためには、乾燥後の複合体(C)を不活性ガス雰囲気下800℃以上で加熱することが好ましく、金属スズと酸化スズとを含有するナノシートとする場合には、乾燥後の複合体(C)を不活性ガス雰囲気下800℃以上で加熱した後、更に大気雰囲気下500℃以下で処理することが効率よく目的のものが得られるため、好ましい方法である。
[炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシート]
上記工程を経ることで得られる本発明の炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシートは、その厚みが5〜150nmの範囲であることを特徴とする。幅は特に限定されないが、通常500nm〜10mmの範囲のものを得ることができる。ナノシート中に複合されている金属スズは粒子状であり、その平均粒子径(透過型電子顕微鏡での100個の平均値)として2〜50nmの範囲であり、酸化スズは、同じく5〜50nmの範囲である。複合ナノシートの比表面積は10〜500m/gの範囲であり、ポアサイズは1〜50nmの範囲にある。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜80°の条件で測定を行った。
[示差走査熱量分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノ技術示差走査熱量分析測定装置(TG−TDA6300)にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から1000℃の温度範囲にて窒素雰囲気中または大気中測定を行った。また、試料をSII製示差走査熱量分析測定装置(EXSTER DSC7200)にセットし、昇温速度を10℃/分として室温(25℃)から300℃の範囲内に測定を行った。
[透過型電子顕微鏡による微細構造分析]
エタノールで分散された試料をサンプル支持膜に載せ、それを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡装置(JEM−2000FS)にて観察した。
[ラマン吸収測定分析]
粉末状のサンプルをガラス板に載せ、反射型ラマン測定装置(RENISHAW、RAMASCOPE)にてスペクトルを測った。
<ポリアミンとスズイオンを含有する複合体の調製>
5%の多分岐状ポリエチレンイミン(エポミン、sp−200、株式会社日本触媒製)の水溶液を調製し、その水溶液10mL中に、表1に示した異なるモル濃度の硫酸スズ水溶液10mLを滴下し、その混合液を室温(25℃)下で1時間激しく攪拌した。溶液からの沈殿物を遠心分離器にて単離し(10000rpm、10分)、上澄みを除いた後、蒸留水で三回洗浄した。得られた固形物を90℃で10時間減圧乾燥して、固体粉末を得た。
表1に示した様に、水溶液を混合する際に、スズイオンとポリアミン中の窒素とのモル比を増大させるにつれて、収量が増大したが、モル比が0.8になると収率が急に降下した。不溶性ゲル状の複合体の粉末の窒素中で熱分析(TG−DTA)した結果から、例えばSn−0.7の場合(図1a)、153℃、236℃及び312℃での吸熱ピーク及び755℃及び882℃での放熱ピークが現れ、350℃付近で大きな重量損失が検出され、1000℃までの焼成により、全体の重量損失は78%に達したことが確認できた(図1b)。また、DSC測定の結果(表2)、当該複合体は室温より高い温度範囲でガラス転移挙動を示した。
実施例1<金属スズと炭素とのナノシートの合成>
上記で得られた乾燥後の複合体を、窒素雰囲気中、350℃まで焼成した。室温からの昇温速度を5℃/分にし、目標温度での保温時間を3時間に設定した。焼成後、すべての紛体が黒褐色となり、発泡膨張のため焼成前後の大きな体積変化が見られた。図2に〔Sn−0.7〕複合体の窒素中各温度下にて高温焼成した後のX線回折パターンを示す。350℃で焼成後、XRD測定結果にはそれぞれ27°、31.7°、34.1°、51.9°に回折ピークが検出された。これは硫化スズ(SnS)の国際標準JCPDSデータと一致し、ピーク半値幅値の計算結果から硫化スズ結晶子の平均粒径が5nm以下であることが分かった。650℃で焼成後、硫化スズ由来の回折ピークのほか、30.7°と32.1°にある新たなピークも現れた。これは金属スズ由来の回折ピークと一致し、窒素中650℃の焼成条件下にて一部の硫化スズが分解され、またスズイオンが還元されたことを示唆する。
Sn−0.7複合体の窒素中熱分析の結果(図1)では、高温下、755℃で放熱ピークが現れた。これはより低温焼成による生成物が高温下で分解されたと考えられる。よって、Sn−0.7複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で800℃または1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは発泡のゆえ体積が大きく膨大した黒い多孔質体になり、軽く粉砕した後、高比表面積を有する黒粉末を得た。800℃または1000℃で得られた焼成体のX線パターンは図2に示す。金属スズの結晶体由来の強いピーク(代表的なピークは30.7°、32.1°、44.0°、45.0°、55.4°、62.6°、64.6°にある)が検出された一方、僅かな硫化スズの存在と思われる弱い回折ピークも現れた。X線回折ピークの半値幅による結晶子(一次粒子)サイズの計算結果は、800℃での金属スズ−炭素複合ナノシート材料中に金属スズの一次粒径が約37.5nmであり、1000℃まで焼成すると平均粒径サイズが66nmになったことを示した。透過型電子顕微鏡で800℃焼成後のナノシートの一部に直径約20nmの金属スズナノ粒子の存在を確認した(図3)。図4に示したSn−0.7複合体の焼成前後の13C−NMRスペクトルから、焼成前にはエチレンイミン由来のカーボンピークが検出されていたが、500℃以上の温度で焼成されるとこれらのピークが完全に消失したことを確認できる。これは複合体中の有機成分が500℃以上の温度で完全に熱分解され炭化されたことを示唆する。また、室温(25℃)から300℃の範囲で行った示差式熱分析(DSC)の測定結果から、ナノシート中に存在する金属スズ相が高温融着態から冷却時に再結晶の温度がバルク金属に比べ大きく下回ることが分かった。金属結晶学上には、金属の融点とその再結晶温度間の温度差が過冷度と定義される。この値は、自由エネルギーに影響されるため金属液滴の大きさに反比例となる。今回は、バルク金属スズの過冷度が8.9℃であることに対し、800℃での焼成体であるナノシートの過冷度が104.6℃であり、1000℃での焼成体では107.4℃であった。従って、この過冷度に大幅な変化は、本実施例で作製したナノシート中に金属スズの微粒子(粒径は数十ナノメートル)が大量に存在することを示唆する。
TG−DTAの測定結果によると、800℃で得られたナノシート中の無機成分は86%であり、1000℃での焼成体では約55wt%である。これは、温度の上昇につれ金属スズの蒸発量の増加が無機成分減少の主な原因と考えられる。BET測定結果による各条件下で得られたナノシートの比表面積を表3に示す。600℃以下の温度で焼成したナノシートの比表面積が低く、20m/g前後であった。800℃で焼成すると比表面積に顕著な増加が検出され、140m/gになり、1000℃での一時間焼成後に、その値が220m/gに上った。特に、1000℃で4時間焼成後、ナノシートの比表面積がさらに増加し、352m/gの非常に高い値が示された。これは、焼成温度の上昇に伴う有機残留物と硫化スズの熱分解及び高温下金属スズの蒸発による大量な気孔の形成に起因したものである。ラマン測定結果には、800℃以上の焼成後のナノシートに、1570cm−1と1340cm−1にある二つのラマン振動吸収ピークが検出された。これは、それぞれグラファイト結晶の炭素(Gバンド)とアモルファス炭素(Dバンド)由来の吸収ピークである(図5)。
実施例2<金属スズと炭素とが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.3複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは発泡のゆえ体積が大きく膨大した黒い多孔質体になり、軽く粉砕後、高比表面積を有する黒粉末を得た。1000℃で得られた焼成体のX線回折測定結果には、金属スズの結晶体由来の強いピーク(代表的なピークは30.7°、32.1°、44.0°、45.0°、55.4°、62.6°、64.6°にある)が検出された。熱分析の結果は、窒素雰囲気下での加熱中に563℃付近に強い発熱ピークが現れ、800℃までに約60wt%の重量損失が発生したことを示した。また、ラマン吸収スペクトルによると、このナノシート中にグラファイト由来のラマン吸収(Gバンド)が検出され、無定形炭素のほかグラファイト炭素結晶体の存在も確認された。
実施例3<金属スズと炭素とが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.5複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは黒い多孔質体になり、軽く粉砕後、高比表面積を有する黒粉末を得た。1000℃焼成体のX線回折パターンは、ナノシートに金属スズの結晶体由来の強いX線回折ピークが検出され、また半値幅からの計算結果により金属スズ一次粒子の粒径が45.0nm前後であることが示唆された。
実施例4<金属スズと酸化スズとが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.7複合体を窒素中1000℃で焼成して、黒粉体のナノシートを得た。さらに、この黒粉体を大気中、400℃まで熱処理することにより、一部の金属スズが酸化され、金属スズと酸化スズとが複合化されてなる炭素のナノシートを作製した。各条件下で得られた試料のX線回折パターンは図6に示す。300℃で熱処理後、2θが30°、33.4°、50.8°及び57.8°等にある新たなピークが現れた。これらのピークが酸化スズ(II)の結晶相のX線回折パターンと一致した。さらに、400℃で熱処理した試料には27.2°、34.4°及び39.2°にある回折ピークが検出された。これは、試料中に微量な酸化スズ(IV)が生成したことを示唆するものである。
比較例<硫酸スズとポリビニルアルコールを用いた複合材料の合成>
1gポリビニルアルコール(PVA、数平均分子量1000)を20mlの蒸留水中に完全溶解し、それに20mlの0.58M濃度硫酸スズ溶液を攪拌しながら加えて安定かつ均一な溶液を調整した。この溶液を95℃の乾燥器中にて一晩脱水させてから減圧乾燥を行った後に乾燥体を得た。この乾燥体を窒素雰囲気中、900℃の条件下にて真空炉中で焼成した後、前駆体より体積が顕著に縮んだ灰色粉末を得た。X線回折パターンは、生成物が硫化スズ及び酸化スズ(SnO−x)の結晶体であり、金属スズの結晶が検出されなかったことを示した。また、TEM観察結果、焼成物に規則的な形態が観察されなかった。

Claims (8)

  1. 炭素と、金属スズ及び/又は酸化スズとが複合されてなるナノシートを製造する方法であって、
    (I)ポリアミンの水溶液(A)を調製する工程、
    (II)スズカチオンと酸根アニオンからなるスズイオン化合物の水溶液(B)を調製する工程、
    (III)工程(I)と工程(II)で得られた水溶液(A)と(B)を混合し、その混合液からポリアミンとスズイオンを含む不溶性の複合体(C)を析出させる工程、
    (IV)工程(III)で析出した複合体(C)を回収し、乾燥させる工程、
    (V)工程(IV)で得られた乾燥後の複合体を加熱焼成する工程、
    を有することを特徴とする、炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法。
  2. 前記工程(I)で用いるポリアミンが水溶性であり、かつ数平均分子量が1000〜100万の範囲のポリアミンである請求項1記載の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法。
  3. 前記工程(II)で用いるスズイオン化合物が、硫酸スズである請求項1又は2記載の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法。
  4. 前記工程(V)での加熱焼成を不活性ガス雰囲気下800℃以上で加熱するものである請求項1〜3の何れか1項記載の、炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法。
  5. 前記工程(V)での加熱焼成を不活性ガス雰囲気下800℃以上で加熱した後、更に大気雰囲気下500℃以下で処理するものである請求項1〜3の何れか1項記載の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの製造方法。
  6. 請求項1〜5の何れか1項記載の製造方法で得られることを特徴とする炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート。
  7. 前記炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシートの厚みが5〜150nmの範囲であり、幅が500nm〜10mmの範囲である請求項6記載の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート。
  8. 炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート中の金属スズが平均粒子径2〜50nmのナノ粒子であり、且つ酸化スズが平均粒子径5〜50nmのナノ粒子である請求項6又は7記載の炭素と金属スズ及び/又は酸化スズ複合ナノシート。
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