a.第1実施形態
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。図1は、各実施形態に係る車両の制動力制御装置を搭載可能な車両Veの構成を概略的に示している。
車両Veは、左右前輪11,12及び左右後輪13,14を備えている。そして、左右前輪11,12のホイール内部には電動機15,16が組み込まれ、左右後輪13,14のホイール内部には電動機17,18が組み込まれており、電動機15〜18は、それぞれ、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に動力伝達可能に連結されている。すなわち、電動機15〜18は、所謂、インホイールモータ15〜18であり、左右前輪11,12及び左右後輪13,14とともに車両Veのバネ下に配置されている。これにより、各インホイールモータ15〜18のモータトルクをそれぞれ独立して制御することにより、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に発生させる駆動力及び制動力をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。
これらの各インホイールモータ15〜18は、例えば、三相交流同期モータにより構成されている。そして、各インホイールモータ15〜18には、インバータ19を介して、バッテリを主要構成部品とする蓄電装置20の直流電力が交流電力に変換され、その交流電力が供給されるようになっている。これにより、各インホイールモータ15〜18は、駆動制御(すなわち、力行制御)されて、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して電磁的な駆動力としてのモータ駆動トルクを付与する。
又、各インホイールモータ15〜18は、左右前輪11,12及び左右後輪13,14の回転エネルギーを利用して回生制動することができる。これにより、各インホイールモータ15〜18の回生・発電時には、左右前輪11,12及び左右後輪13,14の回転(運動)エネルギーが各インホイールモータ15〜18によって電気エネルギーに変換され、この変換された電気エネルギーすなわち回生電力がインバータ19を介して蓄電装置20に蓄電される。このとき、各インホイールモータ15〜18は、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して回生発電に基づく電磁的な制動力としてのモータ制動トルクを付与する。
ここで、インバータ19は、三相インバータ回路を構成するものであり、図2に示すように、スター結線(Y結線)された各インホイールモータ15〜18の電磁コイルCL1,CL2,CL3にそれぞれ対応したスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32を有している。スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32は、それぞれ、スイッチング素子SW11,SW21,SW31がHigh側(高電位側)、スイッチング素子SW12,SW22,SW32がLow側(低電位側)に対応するとともに各インホイールモータ15〜18の3つの相であるU相、V相、W相にそれぞれ対応し、例えば、MOSFETにより構成される。尚、インバータ19(より詳しくは、三相インバータ回路)には、各インホイールモータに流れる電流を検出する電流センサが各相に設けられるようになっている。
そして、スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32は、後述する電子制御ユニット26からの信号により、オン・オフ制御される。従って、インバータ19においては、例えば、スイッチング素子11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32のパルス幅を制御(PWM制御)することにより、蓄電装置20からインホイールモータ15〜18への電流量やインホイールモータ15〜18から蓄電装置20への回生電力の電流量を制御するようになっている。これにより、各インホイールモータ15〜18は、駆動制御(すなわち、力行制御)されて左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して後述するモータ駆動トルクTmcを付与し、回生制御されて左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して後述するモータ制動トルクTmrを付与する。
再び、図1の説明に戻り、車両Veは、各車輪11〜14と、これらに対応する各インホイールモータ15〜18との間に、それぞれ、摩擦ブレーキ機構21,22,23,24が設けられている。各摩擦ブレーキ機構21〜24は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の公知の制動装置であり、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して摩擦による機械的な制動力としての摩擦制動力を独立的に付与する。そして、これらの摩擦ブレーキ機構21〜24は、制動操作手段としてのブレーキペダルBの踏み込み操作に起因して図示を省略するマスタシリンダから圧送される油圧(液圧)により、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に制動力を生じさせるブレーキキャリパのピストンやブレーキシュー(ともに図示省略)等を作動させるブレーキアクチュエータ25に接続されている。
上記インバータ19及びブレーキアクチュエータ25は、各インホイールモータ15〜18の回転状態(より詳しくは、回生状態又は力行状態)、及び、摩擦ブレーキ機構21〜24の動作状態(より詳しくは、制動状態又は制動解除状態)を制御する電子制御ユニット26にそれぞれ接続されている。従って、各インホイールモータ15〜18、インバータ19及び蓄電装置20は本発明の電動力発生機構を構成し、摩擦ブレーキ機構21〜24及びブレーキアクチュエータ25は本発明の制動力発生機構を構成し、電子制御ユニット26は本発明の制動制御手段を構成する。
電子制御ユニット26は、CPU、ROM、不揮発性RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するeABS制御プログラムを含む各種プログラムを実行して、インバータ19及びブレーキアクチュエータ25の作動、言い換えれば、インホイールモータ15〜18及び摩擦ブレーキ機構21〜24の作動を制御するものである。このため、電子制御ユニット26には、運転者によるブレーキペダルBの踏み込み力Pを検出するブレーキセンサ27及び各車輪11〜14の車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサ28i(i=fl,fr,rl,rr)を含む各種センサからの各信号が入力されるようになっている。
このように、電子制御ユニット26に対して、少なくとも、ブレーキセンサ27及び車輪速度センサ28i(i=fl,fr,rl,rr)が接続されて各信号が入力されることにより、電子制御ユニット26は各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24を作動させて車両Veの走行状態、より具体的には、車両Veの制動状態を制御することができる。以下、電子制御ユニット26による車両Veの制動状態、すなわち、各車輪11〜14に対して発生させる制動力制御を詳しく説明する。
電子制御ユニット26は、運転者によってブレーキペダルBが踏み込み操作されて、ブレーキセンサ27から入力した信号によって表される踏み込み力Pが増加すると、図3に示すeABS制御プログラムを実行することにより、各車輪11〜14に対して発生させる制動力を制御する。すなわち、電子制御ユニット26(より詳しくは、CPU)は、eABS制御プログラムの実行をステップS10にて開始し、続くステップS11にて、走行中の車両Veにおける現在の車両状態情報を取得する。
具体的に説明すると、電子制御ユニット26は、ブレーキセンサ27から入力した信号によって表される運転者によるブレーキペダルBの踏み込み力P及び車輪速度センサ28i(i=fl,fr,rl,rr)から入力した信号によって表される各車輪11〜14の車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を車両状態情報として取得する。そして、電子制御ユニット26は、現在の車両状態情報を取得すると、ステップS12に進む。
ステップS12においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS11にて取得した現在の車両状態情報のうち、ブレーキペダルBの踏み込み力Pを用いて、車両Veを制動するために必要な制動力F0(以下、必要制動力F0と称呼する。)を演算するとともに、この必要制動力F0を発生させるための各インホイールモータ15〜18と各摩擦ブレーキ機構21〜24との制動力(制動トルク)の配分(以下、この配分を基本制動力配分と称呼する。)を決定する。以下、この基本制動力配分を具体的に説明する。
まず、電子制御ユニット26は、図4に示すように、前記ステップS11にて車両状態情報として取得した踏み込み力Pの変化に対して単調に変化する必要制動力F0、例えば、踏み込み力Pの変化に対して比例関数的に変化する必要制動力F0を演算する。そして、電子制御ユニット26は、演算した必要制動力F0を発生させるために、インバータ19を介して各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させてモータ制動トルクTmrを発生させ、ブレーキアクチュエータ25を介して各車輪11〜14に設けられた各摩擦ブレーキ機構21〜24を制動状態により作動させて、すなわち、各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24を協働させて摩擦制動力Bfを発生させる。このとき、電子制御ユニット26は、例えば、運転者によるブレーキペダルBの踏み込み操作の初期段階にて踏み込み力Pに比例して増大しその後一定に保持されるモータ制動トルクTmrと、モータ制動トルクTmrが一定に保持されるときに踏み込み力Pに比例して増大する摩擦制動力Bfとの和が必要制動力F0となるように、モータ制動トルクTmrと摩擦制動力Bfとの配分を基本制動力配分として決定する。
そして、電子制御ユニット26は、決定した基本制動力配分に基づいて、各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24をそれぞれ作動させて各車輪11〜14に必要制動力F0を発生させ、ステップS13に進む。尚、この基本制動力配分に基づいて各インホイールモータ15〜18が回生状態によりモータ制動トルクTmrを発生させると、生じた回生電力(電気エネルギー)がインバータ19(より詳しくは、三相インバータ回路)を介して蓄電装置20を構成するバッテリに蓄電される。
ステップS13においては、電子制御ユニット26は、各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24のうち、少なくとも各インホイールモータ15〜18を回生制動させて、各車輪11〜14における制動に伴うスリップが過大である(ロックする傾向を有する)ときに各車輪11〜14の制動力を制御するアンチスキッド制御(以下、このように定義されるアンチスキッド制御をeABS制御と称呼する。)が必要であるか否かを判定する。以下、このステップS13における判定処理を具体的に説明する。
電子制御ユニット26は、まず、前記ステップS11にて取得した車両状態情報のうち、車輪速度センサ28i(i=fl,fr,rl,rr)によって検出された各車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)に基づいて推定車体速度Vbを推定するとともに、各車輪11〜14について推定車体速度Vbと各車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)との偏差としてスリップ率Si(i=fl,fr,rl,rr)を演算する。ここで、推定車体速度Vb及びスリップ率Si(i=fl,fr,rl,rr)の演算については、従来から広く採用されている周知の演算方法を採用することができるため、以下に簡単に説明しておく。
推定車体速度Vbについては、各車輪11〜14の車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)のうち、電子制御ユニット26は実際の車体速度に最も近いと考えられる値をまずは推定車体速度Vwbとして選択する。次に、電子制御ユニット26は、前回演算した車体推定速度Vbfに対して、推定車体速度の増加率を抑制するための正の定数α1を減じた推定車体速度Vbn1及び推定車体速度の低下率を抑制するための正の定数α2を加えた推定車体速度Vbn2を演算する。そして、電子制御ユニット26は、選択した推定車体速度Vwb、演算した推定車体速度Vbn1及び演算した推定車体速度Vbn2のうちの中間の値を今回の推定車体速度Vbとして推定(決定)する。
スリップ率Si(i=fl,fr,rl,rr)については、電子制御ユニット26は、前記推定(決定)した推定車体速度Vbから各車輪11〜14の車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)をそれぞれ減ずる。そして、電子制御ユニット26は、この減じて演算した値を推定車体速度Vbで除することによって、各車輪11〜14のそれぞれのスリップ率Si(i=fl,fr,rl,rr)を推定して演算する。尚、以下の説明においては、理解を容易とするために、各車輪11〜14のスリップ率Si(i=fl,fr,rl,rr)を単に車輪のスリップ率Sとも言う。
そして、電子制御ユニット26は、例えば、前記推定した推定車体速度Vbが予め設定された所定の車体速度Vbsよりも大きく、かつ、前記演算した車輪のスリップ率Sが所定のスリップ率Ssよりも大きい条件が成立するか否かを判定する。この判定により、前記条件が成立するときは、電子制御ユニット26は、eABS制御が必要であるため「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、前記条件が成立しないときには、電子制御ユニット26は「No」と判定してステップS11に戻り、ステップS12及びステップS13の各ステップ処理を実行する。
ステップS14においては、電子制御ユニット26は、現在、車両Veが走行している路面の摩擦係数μを推定演算し、この推定演算した路面の摩擦係数μが予め設定された所定の摩擦係数μ0よりも大きいか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、路面の摩擦係数と車輪のスリップ率との関係として図5に示すように決定されるS−μ特性に基づいて、前記ステップS13にて演算した車輪のスリップ率Sに対応する路面の摩擦係数μを推定して演算する。ここで、S−μ特性は、図5に示すように、車輪のスリップ率Sが高くなるに連れて路面の摩擦係数μが高くなり、車輪のスリップ率Sがある値以上になると車輪のスリップ率Sが高くなるに連れて路面の摩擦係数μが漸次低下する変化特性を有する。尚、路面の摩擦係数μの推定演算については、路面の摩擦係数は、路面の状態に応じて変化するものであるため、図5に示したS−μ特性を用いることに代えて、例えば、車両Veが走行している路面状態に応じて最大値となる路面の摩擦係数μを推定して演算することも可能である。
そして、電子制御ユニット26は、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0よりも大きければ、言い換えれば、路面の摩擦係数μが比較的大きく各車輪11〜14がロックしにくい場合には、「Yes」と判定してステップS15以降の各ステップ処理を実行する。一方、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0以下であれば、言い換えれば、路面の摩擦係数μが極めて小さく各車輪11〜14がロックしやすい場合には、電子制御ユニット26は、ステップS14にて「No」と判定してステップS17以降の各ステップ処理を実行する。
ここで、所定の摩擦係数μ0について説明しておく。前記ステップS12にて説明したように、基本制動力配分においては、必要制動力F0は、各インホイールモータ15〜18が回生状態により作動して発生するモータ制動トルクTmrと各摩擦ブレーキ機構21〜24が制動状態により作動して発生する摩擦制動力Bfとの和として各車輪11〜14が発生するものである。この場合、各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfは路面の摩擦係数μの大きさに依存するものであり、路面の摩擦係数μが小さくなるに伴って「0」に向けて減少する。このため、本発明においては、路面に対して摩擦制動力Bfを付与できなくなる、言い換えれば、基本制動力配分において摩擦制動力Bfの大きさ(配分)が「0」となる摩擦係数を所定の摩擦係数μ0として定義する。
ステップS15においては、電子制御ユニット26は、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0よりも大きく各車輪11〜14が比較的ロックしにくい状況下でeABS制御を実行し、各車輪11〜14の制動力を独立的に制御する。この場合、電子制御ユニット26は、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を独立的に回生状態により作動させたり(すなわち、モータ制動トルクTmrを発生させたり)、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を独立的に力行状態により作動させたり(すなわち、モータ駆動トルクTmcを発生させたり)して、ロック傾向にある車両Veを適切に制動させる。
ここで、電子制御ユニット26は、eABS制御において、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15~18を独立的に回生状態により作動させる(すなわち、モータ制動トルクTmrを発生させる)場合、各車輪11〜14に設けられた各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfrを下記式1に従って演算する。
ただし、前記式1中のμは前記ステップS14にて推定して演算した路面の摩擦係数を表すものであり、Wは各車輪11〜14の位置における荷重を表すものである。従って、前記式1の右辺第1項のμWは車輪と路面との間に発生する摩擦力すなわち必要制動力F0を表すものである。ここで、以下の説明においては、必要制動力F0を目標総制動力F0とも称呼する。又、前記式1中の摩擦制動力Bfr及びモータ制動トルクTmrはそれぞれ絶対値を表すものである。尚、必要制動力F0(目標総制動力F0)、モータ制動トルクTmr及び摩擦制動力Bfrは、作用方向を加味した場合、それぞれ、正の値として表すと良い。
すなわち、eABS制御において、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させる場合には、各インホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生するため、前記式1に従って摩擦制動力Bfr(絶対値)は目標総制動力F0(絶対値)からモータ制動トルクTmr(絶対値)分を減ずることにより差分として演算される。言い換えれば、目標総制動力F0(絶対値)は、作用方向が同一方向である摩擦制動力Bfr(絶対値)とモータ制動トルクTmr(絶対値)との和として実現されるものである。
又、電子制御ユニット26は、eABS制御において、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を独立的に力行状態により作動させる(すなわち、モータ駆動トルクTmcを発生させる)場合、各車輪11〜14に設けられた各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfcを下記式2に従って演算する。
すなわち、eABS制御において、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を力行状態により作動させる場合には、各インホイールモータ15〜18がモータ駆動トルクTmcを発生するため、前記式2に従って摩擦制動力Bfc(絶対値)は目標総制動力F0(絶対値)にモータ駆動トルクTmc(絶対値)分を加えることにより差分として演算される。言い換えれば、目標総制動力F0(絶対値)は、作用方向が異なる摩擦制動力Bfc(絶対値)とモータ駆動トルクTmc(絶対値)との差として実現されるものである。
従って、ステップS15においては、電子制御ユニット26は、eABS制御に従って各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させるときには、前記式1に従って、基本制動力配分として前記ステップS12にて決定した摩擦制動力Bfよりも減少させて、各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfrを演算する。又、電子制御ユニット26は、eABS制御に従って各インホイールモータ15〜18を力行状態により作動させるときには、前記式2に従って、基本制動力配分として前記ステップS12にて決定した摩擦制動力Bfよりも増加させて、各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfcを演算する。そして、電子制御ユニット26は、ステップS16に進む。
ステップS16においては、電子制御ユニット26は、インバータ19を介して、各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させてモータ制動トルクTmrを発生させたり、力行状態により作動させてモータ駆動トルクTmcを発生させたりする。又、電子制御ユニット26は、ブレーキアクチュエータ25を介して、各摩擦ブレーキ機構21〜24を制動状態により作動させて、摩擦制動力Bfrや摩擦制動力Bfcを発生させる。そして、電子制御ユニット26は、このように各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24を協働させてeABS制御を実行するとステップS19に進んでeABS制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
一方、電子制御ユニット26は、前記ステップS14にて、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0以下であれば、「No」と判定してステップS17のステップ処理を実行する。
すなわち、電子制御ユニット26は、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0以下、すなわち、路面の摩擦係数μが極めて小さく各車輪11〜14がロックしやすい状況下でeABS制御を実行し、各車輪11〜14のロック状態を早期の解消するように制動力を独立的に制御する。この場合、電子制御ユニット26は、各車輪11〜14のロック状態を早期の解消するために、各車輪11〜14に設けられた各インホイールモータ15〜18を独立的に力行状態により作動させて(すなわち、モータ駆動トルクTmcを発生させて)、ロック傾向にある車両Veを適切に制動させる。
このため、推定演算した路面の摩擦係数μが所定の摩擦係数μ0以下となる場合には、電子制御ユニット26は、前記式2に従って、基本制動力配分として前記ステップS12にて決定した摩擦制動力Bfよりも増加させて、各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfcを演算する。このように、eABS制御に従って各インホイールモータ15〜18を力行状態により作動させることに対応する摩擦制動力Bfcを演算すると、電子制御ユニット26はステップS18に進む。
ステップS18においては、電子制御ユニット26は、インバータ19を介して、各インホイールモータ15〜18を力行状態により作動させてモータ駆動トルクTmcを発生させる。又、電子制御ユニット26は、ブレーキアクチュエータ25を介して、各摩擦ブレーキ機構21〜24を制動状態により作動させて摩擦制動力Bfcを発生させる。そして、電子制御ユニット26は、ステップS19に進み、eABS制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
ところで、各インホイールモータ15〜18は、回生状態により作動する状況では、車輪11〜14の回転エネルギー(運動エネルギー)を電気エネルギーに変換し、この変換した電気エネルギーを回生電力としてインバータ19に出力する。そして、このようにインバータ19に出力された回生電力(電気エネルギー)は、蓄電装置20を構成するバッテリに蓄電される。この場合、各インホイールモータ15〜18によって回生されて出力される回生電力(電気エネルギー)を蓄電装置20(バッテリ)が蓄電することができる状況、すなわち、蓄電装置20の充電量(SOC:State Of charge)が少ない充電の状況では、各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させてモータ制動トルクTmrを発生させて、より緻密なeABS制御が可能となる。しかし、蓄電装置20の充電量(SOC)が大きい充電の状況では、各インホイールモータ15〜18によって回生されて出力された回生電力(電気エネルギー)を蓄電することが不能となり、その結果、各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させてモータ制動トルクTmrを発生させることが不能となる。
一方、各インホイールモータ15〜18は、力行状態により作動する状況では、蓄電装置20(バッテリ)に蓄電された回生電力(電気エネルギー)がインバータ19を介して供給されることにより、蓄電装置20に蓄電された回生電力(電気エネルギー)を消費してモータ駆動トルクTmcを発生させ、各車輪11〜14を駆動することができる。従って、上述したように、蓄電装置20における充電量(SOC)が満充電となる状況では、各インホイールモータ15〜18を積極的に力行状態により作動させて蓄電された回生電力を含む総電力(電気エネルギー)を消費し、各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させるようにしておく、言い換えれば、常に、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておくことが必要である。しかし、蓄電装置20における充電量(SOC)は、蓄電装置20を構成するバッテリの状態(温度や経年劣化等)によってその大きさ(蓄電可能量の大きさ)が変化する可能性があり、又、充電量(SOC)を常に正確に検出し続けることは困難である。
そこで、本実施形態においては、電子制御ユニット26が、各インホイールモータ15〜18が回生状態により作動することによって蓄電装置20に入力される電気エネルギー(回生電力)と、各インホイールモータ15〜18が力行状態により作動することによって蓄電装置20から出力される電気エネルギー(供給電力)とを管理し、言い換えれば、各インホイールモータ15〜18による電気エネルギーの入出力(収支)の履歴を管理する。そして、電子制御ユニット26は、この電気エネルギーの入出力(収支)の履歴を用いて、eABS制御時における各インホイールモータ15〜18を回生状態により作動させたり、力行状態により作動させ、この作動状態に応じて各摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfr,Bfcの大きさを適宜変更する。以下、この電気エネルギーの入出力(収支)の履歴を用いた各インホイールモータ15〜18及び各摩擦ブレーキ機構21〜24の作動制御を詳細に説明する。
各インホイールモータ15〜18による電気エネルギーの入出力(収支)を管理するにあたり、電子制御ユニット26は、図6に示す電気エネルギー収支管理プログラムを所定の短い時間間隔により繰り返し実行する。具体的に、電子制御ユニット26(より詳しくは、CPU)は、ステップS30にて電気エネルギー収支管理プログラムの実行を開始し、続くステップS31にて、現在、eABS制御が実施中であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、上述したeABS制御プログラムを実行していれば、「Yes」と判定してステップS32に進む。一方、現在、eABS制御プログラムを実行していなければ、電子制御ユニット26は「No」と判定してステップS38に進み、電気エネルギー収支管理プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、電子制御ユニット26は、再び、ステップS30にて電気エネルギー収支管理プログラムの実行を開始する。
ステップS32においては、電子制御ユニット26は、各インホイールモータ15〜18から蓄電装置20に向けて流入した(回生された)流入電気エネルギー量E_inと、蓄電装置20から各インホイールモータ15〜18に向けて流出した(消費された)流出電気エネルギー量E_outとを、例えば、不揮発性RAMの所定記憶位置から読み出して取得する。すなわち、電子制御ユニット26は、例えば、車両が走行を開始してから各インホイールモータ15〜18が回生制御されることによって回生した電気エネルギーの積算量(履歴)を流入電気エネルギー量E_inとして不揮発性RAMの所定の記憶位置に更新可能に記憶し、又、車両が走行を開始してから各インホイールモータ15〜18が力行制御されることによって消費された電気エネルギーの積算量(履歴)を流出電気エネルギー量E_outとして不揮発性RAMの所定の記憶位置に更新可能に記憶している。そして、電子制御ユニット26は、流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outを取得すると、ステップS33に進む。
ここで、流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outについては、例えば、インホイールモータ13〜18の仕様や定格、インバータ19に設けられた電流センサによって検出された電流と回生制御又は力行制御によりインホイールモータ15〜18を作動させた時間とを用いて算出することができる。又、更新可能に記憶される流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outは、それぞれ、4つの(すなわち、複数の)インホイールモータ15〜18の平均値を表す。尚、平均値により表される流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outを用いることに代えて、各インホイールモータ15〜18におけるそれぞれの流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outを用いて実施可能であることは言うまでもないが、4つの(すなわち、複数の)インホイールモータ15〜18の平均値を用いて実施する方が流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outの収支の誤差や収支の時間変動(変化)が抑制されて後述する摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力の変動(変化)も抑制することができる。
ステップS33においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS32にて取得した流入電気エネルギー量E_inの大きさと流出電気エネルギー量E_outの大きさとを比較し、流入電気エネルギー量E_inの大きさが流入電気エネルギー量E_outの大きさ以上となっているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ以上であれば、「Yes」と判定してステップS34に進む。一方、流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ未満であれば、電子制御ユニット26は「No」と判定してステップS35に進む。
ステップS34のステップ処理は、前記ステップS33にて流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ以上、すなわち、インホイールモータ15〜18によって回生される電気エネルギーが消費される電気エネルギーよりも大きく、蓄電装置20に回生電力が蓄電される状況であるときに実行される処理である。従って、電子制御ユニット26は、ステップS34にて、流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outとの均衡を図る(収支のバランスを図る)ために、流入電気エネルギー量E_inを低減させる、言い換えれば、流出電気エネルギー量E_outを増加させる。具体的に、電子制御ユニット26は、eABS制御において力行制御主体でインホイールモータ15〜18にモータ駆動トルクTmcを発生させて流出電気エネルギー量E_outを増加させる。
従って、電子制御ユニット26は、ステップS34にて、現在実行中であるeABS制御における目標総制動力F0を確保するため、前記式2からも明らかなように、目標総制動力F0に対する摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させる。このように、摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させると、電子制御ユニット26はステップS36に進む。そして、電子制御ユニット26は、ステップS36にて、上述したeABS制御プログラムの、例えば、前記ステップS15の実行に際して、前記式2に従うように、摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させてインホイールモータ15〜18を力行状態により作動させる。これにより、蓄電装置20に蓄電された回生電力を含む電力を適切に消費して流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outとの均衡を図る(収支のバランスを図る)ことができて、常に、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておくことが可能となる。尚、この場合、電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18を積極的に力行制御主体で作動させることに代えて、インホイールモータ15〜18が発生するモータ制動トルクTmrを減少させることによって流入電気エネルギー量E_inを低減させて、相対的に流出電気エネルギー量E_outを増加させることも可能である。
一方、ステップS35のステップ処理は、前記ステップS33にて流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ未満、すなわち、インホイールモータ15〜18によって消費される電気エネルギーが回生される電気エネルギーよりも大きく、蓄電装置20から電力が供給される状況であるときに実行される処理である。従って、電子制御ユニット26は、ステップS35にて、流出電気エネルギー量E_outと流入電気エネルギー量E_inとの均衡を図る(収支のバランスを図る)ために、流出電気エネルギー量E_outを低減させる、言い換えれば、流入電気エネルギー量E_inを増加させる。具体的に、電子制御ユニット26は、eABS制御において回生制御主体で積極的にインホイールモータ15〜18にモータ制動トルクTmrを発生させて流入電気エネルギー量E_inを増加させる。尚、この場合、電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18を積極的に回生制御主体で作動させることに代えて、インホイールモータ15〜18が発生するモータ駆動トルクTmcを減少させることによって流出電気エネルギー量E_outを低減させて、相対的に流入電気エネルギー量E_inを増加させることも可能である。
従って、電子制御ユニット26は、ステップS35にて、現在実行中であるeABS制御における目標総制動力F0を維持するため、前記式1からも明らかなように、目標総制動力F0に対する摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させる。このように、摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を増加させると、電子制御ユニット26はステップS36に進む。そして、電子制御ユニット26は、ステップS36にて、上述したeABS制御プログラムの、例えば、前記ステップS15の実行に際して、前記式1に従うように、摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させてインホイールモータ15〜18を積極的に回生状態により作動させる。これにより、蓄電装置20に対して回生電力を蓄電して流出電気エネルギー量E_outと流入電気エネルギー量E_inとの均衡を図る(収支のバランスを図る)ことができて、各インホイールモータ15〜18が発生するモータ制動トルクTmrを用いたより緻密なeABS制御が可能となる。
ここで、前記ステップS33における判定処理に従って、前記ステップS34又は前記ステップS35が実行される状況を図7を用いて説明しておく。
今、運転者によるブレーキ操作に応じて、図7の上段に太い実線により示すように、目標総制動力F0の絶対値が徐々に大きくなり、eABS制御が必要な状況になったとする。この場合、電子制御ユニット26は、履歴として更新可能に蓄積しているこれまでの流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outに基づき、流入電気エネルギー量E_inが流出電気エネルギー量E_outよりも小さい状況では、例えば、前記式1に従い、図7の下段に実線により示すように回生制御を主体にしてインホイールモータ15〜18にモータ制動トルクTmrを発生させることに加えて、図7の上段に太い破線により示すように摩擦ブレーキ機構21〜24に摩擦制動力Bfrを発生させて、目標総制動力F0を確保する。このように、インホイールモータ15〜18にモータ制動トルクTmrを発生させる状況においては、上述したように、流入電気エネルギー量E_inが増加して回生電力が発生し蓄電装置20に蓄電される。
このため、電子制御ユニット26は、履歴として更新可能に蓄積しているこれまでの流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outに基づき、今回のeABS制御における回生制御により、時間の経過に伴って発生した流入電気エネルギー量E_inを加算することによって流出電気エネルギー量E_outよりも大きくなると、図7の下段に示すように、回生制御主体から力行制御主体に移行する。そして、この力行制御への移行に際して、電子制御ユニット26は、図7の上段に示すように、摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させ、目標総制動力F0を確保する。このように力行制御によりインホイールモータ15〜18にモータ駆動トルクTmcを発生させつつ摩擦ブレーキ機構21〜24に大きな摩擦制動力Bfcを発生させる状況においては、上述したように、流出電気エネルギー量E_outが増加して蓄電装置20に蓄電された電力が消費される。
このため、電子制御ユニット26は、履歴として更新可能に蓄積しているこれまでの流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outに基づき、今回のeABS制御における力行制御により、時間の経過に伴って発生した流出電気エネルギー量E_outを加算することによって流入電気エネルギー量E_inよりも大きくなると、図7の下段に示すように、再び、力行制御主体から回生制御主体に移行する。そして、この回生制御への移行に際して、電子制御ユニット26は、図7の上段に示すように、摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させ、目標総制動力F0を確保する。
このように、電子制御ユニット26が、流入電気エネルギー量E_inの大きさと流出電気エネルギー量E_outの大きさとの均衡(収支のバランス)に応じて、流入電気エネルギー量E_inが増加する状況ではインホイールモータ15〜18を独立的に力行状態により作動させるために摩擦ブレーキ機構21〜24の摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させ、流出電気エネルギー量E_outが増加する状況ではインホイールモータ15〜18を独立的に積極的に回生状態により作動させるために摩擦ブレーキ機構21〜24の摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させることができる。これにより、蓄電装置20を構成するバッテリの充電状態や作動状態の如何に関わらず、インホイールモータ15〜18を用いたより緻密なeABS制御を実行することができる。
ステップS36にて、上述したeABS制御プログラムを実行すると、電子制御ユニット26は、ステップS37に進む。ステップS37においては、電子制御ユニット26は、eABS制御プログラムの実行に伴って発生した流入電気エネルギー量E_in及び流出エネルギー量E_outを履歴として蓄積しているこれまでの流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outに加算(積算)して更新し、不揮発性RAMの所定の記憶位置に記憶する。そして、電子制御ユニット26は、ステップS38にて、電気エネルギー収支管理プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS30にて同プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、電子制御ユニット26は、eABS制御において、流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outとの均衡が保たれる(収支のバランスが保たれる)ように、摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfr,Bfcの大きさを制御して各車輪11〜14に目標総制動力F0を発生させることができる。すなわち、電子制御ユニット26は、積算して蓄積した電気エネルギー収支の履歴に基づき、流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ以上となる場合、言い換えれば、流入電気エネルギー量E_inである回生電力が蓄電装置20に蓄電される場合には、この流入電気エネルギー量E_in(回生電力)を消費するためにインホイールモータ15〜18を力行状態により作動させて、言い換えれば、流出電気エネルギー量E_outを増加させる。そして、この場合には、電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18がモータ駆動トルクTmcを発生することに伴い、目標総制動力F0を確保するために摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcの大きさを増加させる。これにより、流入電気エネルギー量E_in(回生電力)が蓄電装置20に供給されて蓄電されることを抑制することができ、その結果、蓄電装置20における蓄電状態(SOC)に関わらず、必要に応じて、常にインホイールモータ15〜18を回生状態により作動させることができる状況を維持することができる。
又、電子制御ユニット26は、積算して蓄積した電気エネルギー収支の履歴に基づき、流入電気エネルギー量E_inの大きさが流出電気エネルギー量E_outの大きさ未満となる場合、言い換えれば、蓄電装置20における電気エネルギー量(SOC)が減少する場合には、積極的にインホイールモータ15〜18を回生状態により作動させることができる。そして、この場合には、電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生することに伴い、目標総制動力F0を確保するために摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfrの大きさを減少させる。これにより、インホイールモータ15〜18によるモータ制動トルクTmrを用いて、より緻密なeABS制御が可能となる。従って、スムーズで安定した制動が可能となり、運転者が違和感を覚えることがない。
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、電気エネルギー収支管理プログラムを実行することにより、eABS制御が実施されている状況において、インホイールモータ15〜18による流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outとに基づいて、これら電気エネルギーの間の均衡を図る(収支のバランスを図る)ように実施した。具体的には、流入電気エネルギー量E_inの大きさと流出電気エネルギー量E_outの大きさとの比較に基づき、常に、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておくために、インホイールモータ15〜18を回生状態又は力行状態により作動させるとともに摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfr,Bfcの大きさ(中央値)を適宜変更するように実施した。
ところで、eABS制御においては、車両Veの進行方向に前方障害物が存在している場合、車両Veと前方障害物との間の相対的な位置関係に応じて、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させて制動させる場合と各インホイールモータ15〜18を主体に作動させて制動させる場合とがある。すなわち、車両Veと前方障害物との間の相対的な位置関係として、例えば、車両Veから前方障害物までの距離に基づき、距離が大きい状況下で車両Veを制動するときには、比較的、緻密なeABS制御が要求されないため摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させる。一方、距離が小さくなる状況下で車両Veを制動するときには、距離が小さくなるに連れて緻密なeABS制御が要求されるため摩擦ブレーキ機構21〜24を主体とすることからインホイールモータ15〜18を主体に作動させる。従って、車両Veと前方障害物との間の相対的な位置関係のように、時間の経過に伴ってインホイールモータ15〜18による流入電気エネルギー量E_inの増加が予測される状況では、予め、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させたり各インホイールモータ15〜18を力行状態で作動させて流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制しておき、常に、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておく必要がある。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第2実施形態においては、図1に破線により示すように、車両Veにレーダセンサ29が設けられている。レーダセンサ29は、車両Veの前端部(例えば、フロントグリル付近)に組み付けられており、ミリ波の送受信に要する時間に基づいて、車両Veの前方の所定範囲内に存在する前方障害物との相対距離を表す相対距離Dを検出する。そして、レーダセンサ29は、相対速度Dを表す信号を電子制御ユニット26に出力するようになっている。
そして、この第2実施形態においては、電子制御ユニット26は、図8に示す制動力制御プログラムを実行する。すなわち、電子制御ユニット26は、図8に示す制動力制御プログラムの実行をステップS50にて開始し、続くステップS51にて、現在、eABS制御が実施中であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、上述した第1実施形態の場合と同様に、eABS制御プログラムを実行していれば「Yes」と判定してステップS52に進み、eABS制御プログラムを実行していなければ「No」と判定してステップS60に進んで制動力制御プログラムの実行を一旦終了する。この場合、電子制御ユニット26は、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS50にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
ステップS52においては、電子制御ユニット26は、レーダセンサ29から出力された信号を入力し、車両Veの前方に存在する前方障害物までの相対距離D(以下、単に距離Dと称呼する。)を取得する。そして、電子制御ユニット26は、距離Dを取得するとステップS53に進む。
ステップS53においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS52にて取得した距離Dが、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させるか否かを判定するために予め設定された判定距離Dfよりも小さいか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、距離Dが判定距離Df以上であれば「No」と判定してステップS54に進む。一方、距離Dが判定距離Df未満であれば、電子制御ユニット26は「Yes」と判定してステップS55に進む。
ステップS54においては、電子制御ユニット26は、未だ車両Veと前方障害物との間の距離Dが大きいため、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させるeABS制御を実施する。すなわち、この場合には、電子制御ユニット26は、上述したeABS制御プログラムの、例えば、前記ステップS15の実行に際して、目標総制動力F0に対して摩擦ブレーキ機構21〜24が発生する摩擦制動力Bfr,Bfcが大きくなるようにブレーキアクチュエータ25を制御する。これにより、距離Dが判定距離Df以上である状況においては、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させて、インホイールモータ15〜18の回生状態による流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制する。そして、電子制御ユニット26は、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させると、ステップS60に進み、制動力制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短い時間の経過後に再びステップS50にて同プログラムの実行を開始する。
ステップS55においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS52にて取得した距離Dが、インホイールモータ15〜18を主体に作動させるか否かを判定するために予め設定された判定距離Dm以上であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット26は、距離Dが判定距離Dm以上であれば、「Yes」と判定してステップS56に進む。一方、距離Dが判定距離Dm未満であれば、電子制御ユニット26は「No」と判定してステップS57に進む。
ステップS56のステップ処理は、前記ステップS53及び前記ステップS55の判定処理に従い、車両Veと前方障害物との間の距離Dが、摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させるか否かを判定する判定距離Df未満であり、かつ、インホイールモータ15〜18を主体に作動させるか否かを判定する判定距離Dm以上であるときに実行される処理である。このため、電子制御ユニット26は、ステップS56にて、eABS制御において主体に作動させる対象を摩擦ブレーキ機構21〜24からインホイールモータ15〜18に移行させる一方で、今後、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておくために流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制する。具体的に、電子制御ユニット26は、eABS制御において力行制御主体でインホイールモータ15〜18にモータ駆動トルクTmcを発生させて流出電気エネルギー量E_outを増加させる。
従って、電子制御ユニット26は、ステップS56にて、現在実行中であるeABS制御における目標総制動力F0を確保するために、前記式2からも明らかなように、目標総制動力F0に対する摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させる。このように、摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcの大きさ(中央値)を増加させて、力行制御主体でインホイールモータ15〜18を作動させると、電子制御ユニット26はステップS58に進む。
一方、ステップS57のステップ処理は、前記ステップS53及び前記ステップS55の判定処理に従い、車両Veと前方障害物との間の距離Dがインホイールモータ15〜18を主体に作動させるか否かを判定する判定距離Dm未満となるとき、言い換えれば、緻密なeABS制御が要求される状況下で実行される処理である。このため、電子制御ユニット26は、ステップS57にて、eABS制御において主体に作動させる対象を摩擦ブレーキ機構21〜24からインホイールモータ15〜18に移行させ、回生制御主体でインホイールモータ15〜18にモータ制動トルクTmrを発生させる。
これにより、電子制御ユニット26は、ステップS57にて、現在実行中であるeABS制御における目標総制動力F0を確保するために、前記式1からも明らかなように、目標総制動力F0に対する摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させる。このように、摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfrの大きさ(中央値)を減少させて、回生制御主体でインホイールモータ15〜18を作動させると、電子制御ユニット26はステップS58に進む。
ここで、この第2実施形態の制動力制御プログラムにおいては、特に、前記ステップS52〜前記ステップS57までの各ステップ処理からも明らかなように、目標総制動力F0に対する摩擦ブレーキ機構21〜24の摩擦制動力Bfr,摩擦制動力Bfcと、インホイールモータ15〜18のモータ制動トルクTmr,モータ駆動トルクTmcとの割合が距離Dによって決定される。すなわち、この第2実施形態の制動力制御プログラムにおいては、インホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合が、車両Veと前方障害物との間の距離Dの関数として決定されるということができる。
ステップS58においては、電子制御ユニット26は、前記ステップS56又は前記ステップS57におけるインホイールモータ15〜18の作動状態による流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outを加味して、上述した第1実施形態と同様に電気エネルギー収支管理プログラムを実行する。尚、このステップS58にて電気エネルギー収支管理プログラムを実行する際には、図6に示したステップS31が省略される。そして、電子制御ユニット26は、ステップS58にて電気エネルギー収支管理プログラムを実行すると、ステップS59に進む。
ステップS59においては、電子制御ユニット26は、上述した第1実施形態と同様に、eABS制御プログラムを実行する。そして、電子制御ユニット26は、ステップS59にてeABS制御プログラムを実行するとステップS60に進んで制動力制御プログラムを一旦終了し、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS50にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態においては、車両Veと前方障害物との間の距離Dを用いて、インホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を距離Dの関数として決定することができる。そして、このように決定されるインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合においても、流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制し、常に、各インホイールモータ15〜18を回生可能な状態に維持しておくことができる。従って、例えば、車両Veと前方障害物との衝突を回避するような緊急度の高い状況下においても、上記第1実施形態と同等の効果が得られる。
c.第2実施形態の変形例
上記第2実施形態においては、車両Veと前方障害物との間の距離Dを用いて、インホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を距離Dの関数として決定するように実施した。これにより、回生制御の機会が増えてインホイールモータ15〜18からの流入電気エネルギー量E_inが増加するであろう状況を想定し、距離Dが判定距離Df以上であるときには摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させて流入電気エネルギー量E_inの増加を抑え、距離Dが判定距離Df未満であり判定距離Dm以上であるときにはインホイールモータ15〜18を力行制御主体により作動させて流出電気エネルギー量E_outを増加させるとともに摩擦ブレーキ機構21〜24による摩擦制動力Bfcを増加させて流入電気エネルギー量E_inの増加を抑えるようにした。これにより、距離Dが判定距離Dm未満となり、インホイールモータ15〜18を回生制御主体により作動させる状況であっても確実にインホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生できるように実施した。
ところで、流入電気エネルギー量E_inが増加するであろう状況を想定して、インホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合、上記第2実施形態のような距離Dを用いる場合に限らず、例えば、車両Veの車速や、運転者によるブレーキペダルBの踏み込み速度、目標総制動力F0の大きさ、目標総制動力F0の変化率等を用いることができる。すなわち、これら車速や、踏み込み速度、目標総制動力F0の大きさや変化率の関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定することが可能である。
具体的に、例えば、車速の関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合、車両Veの車速が高いときにはインホイールモータ15〜18による時間あたりの流入電気エネルギー量E_in(回生電力量)が多くなるため摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させ(すなわちインホイールモータ15〜18を力行制御主体で作動させ)、車速が低くなったときにインホイールモータ15〜18を回生制御主体で作動させることができる。これにより、流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制することができ、車速が低くなってインホイールモータ15〜18を回生制御主体により作動させる状況下で確実にインホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生できる。
又、例えば、eABS制御実行直前におけるブレーキペダルBの踏み込み速度の関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合、ブレーキペダルBの踏み込み速度が遅いときには緊急度が低いため摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させ(すなわちインホイールモータ15〜18を力行制御主体で作動させ)、踏み込み速度が早いときには緊急度が高いためにインホイールモータ15〜18を回生制御主体で作動させることができる。これによっても、流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制することができ、緊急度が高くなってインホイールモータ15〜18を回生制御主体により作動させる状況下で確実にインホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生できる。
又、例えば、目標総制動力F0の大きさの関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合、路面の摩擦係数μが高く目標総制動力F0の大きさが大きいときには摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させ(すなわちインホイールモータ15〜18を力行制御主体で作動させ)、路面の摩擦係数μが低く目標総制動力F0の大きさが小さくなったときにはインホイールモータ15〜18を回生制御主体で作動させることができる。これによっても、流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制することができ、インホイールモータ15〜18を回生制御主体により作動させる状況下で確実にインホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生できる。
更に、例えば、目標総制動力F0の変化率の関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合、目標総制動力F0の変化率が大きいときには摩擦ブレーキ機構21〜24を主体に作動させ(すなわちインホイールモータ15〜18を力行制御主体で作動させ)、目標総制動力F0の変化率が小さくなったときにはインホイールモータ15〜18を回生制御主体で作動させることができる。これによっても、流入電気エネルギー量E_inの増加を抑制することができ、インホイールモータ15〜18を回生制御主体により作動させる状況下で確実にインホイールモータ15〜18がモータ制動トルクTmrを発生できる。
従って、このように、車両Veの車速や、ブレーキペダルBの踏み込み速度、目標総制動力F0の大きさや変化率の関数としてインホイールモータ15〜18の制御と摩擦ブレーキ機構21〜24の制御との割合を決定する場合であっても、上記第2実施形態と同様の効果が期待できる。
本発明の実施にあたっては、上記各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記各実施形態及び変形例においては、左右前輪11,12及び左右後輪13,14のそれぞれにインホイールモータ15〜18を設けるように実施した。この場合、独立的にモータ制動トルクTmr及びモータ駆動トルクTmcを発生させることが可能であれば、それぞれの車輪11〜14にインホイールモータ15〜18を組み込むことに限定することなく如何なる構成を採用しても良い。具体的には、左右前輪11,12及び左右後輪13,14を回転可能に支持する車軸に対して所定の回転力(トルク)を独立的に付与することにより、モータ制動トルクTmr及びモータ駆動トルクTmcを発生させる構成を採用することが可能である。
又、上記各実施形態及び変形例においては、インホイールモータ15〜18として三相交流同期モータを採用して実施したが、これに限定されるものではない。他の方式の電動機(モータ)を採用して実施する場合であっても、流入電気エネルギー量E_in及び流出電気エネルギー量E_outの均衡を図る(収支のバランスを図る)ために、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に設けられる電動機(モータ)を回生状態又は力行状態により作動させることができるため、上記各実施形態及び変形例と同様の効果が期待できる。
更に、上記各実施形態及び変形例においては、回生電力(電気エネルギー)を蓄電する手段として蓄電装置20を構成するバッテリを想定して実施した。この場合、電子制御ユニット26は、インホイールモータ15〜18における流入電気エネルギー量E_inと流出電気エネルギー量E_outとの均衡(収支)に基づいて回生状態又は力行状態によりインホイールモータ15〜18を作動させるため、蓄電装置20が、例えば、コンデンサやキャパシタによって構成される場合であっても、上記各実施形態及び変形例と全く同様に実施することができる。