本実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
<溶接システムの全体構成>
図1は、本実施の形態に基づく溶接システムを説明する図である。
図1を参照して、本実施の形態に基づく溶接システム1は、工場内の床面などに据え付けられた溶接ロボット10と、溶接電源装置30と、溶接制御装置50とを備えている。ここで、溶接ロボット10は、溶接ワイヤWとワーク16との間に発生させたアーク放電による熱を利用して溶接を行うためのアーク溶接ロボットである。また、溶接ロボット10は、各々が所定の方向に回動する複数の関節を介して連結された連結アーム12と、連結アーム12の先端部に取り付けられた溶接トーチ15と、ロボット制御装置11とを備えた多関節型ロボットである。また、溶接ロボット10は、連結アーム12の途中に設けられた送給ローラ14を備えており、アーク溶接が行われる際に、送給ローラ14を駆動することによりワイヤ送給装置20から所定の速度で溶接ワイヤWが繰り出される。そして、溶接トーチ15の先端部に供給されるように構成されている。また、溶接ワイヤWは、ワイヤ送給装置20から供給される。なお、送給ローラ14および溶接ロボット10は、それぞれ本発明の「送給ローラ」および「溶接機器」の一例である。また、ワイヤ送給装置20は、本発明の「ワイヤ送給装置」の一例である。
溶接制御装置50は、溶接ロボット10および溶接電源装置30の動作制御を行うために設けられている。
溶接制御装置50は、溶接ロボット10のロボット制御装置11と接続されている。ロボット制御装置11は、連結アーム12および溶接トーチ15に対して動作制御を指示する。ロボット制御装置11は、連結アーム12および溶接トーチ15に対して溶接制御装置50から送信された動作指令に基づいて所定の動作を行うとともに溶接動作を行うように指示する。
溶接制御装置50は、溶接電源装置30と接続されている。溶接電源装置30は、溶接制御装置50からの制御指令に基づいて所定の動作を行うように構成されている。
溶接電源装置30は、送給ローラ14によりワイヤ送給装置20から繰り出される溶接ワイヤWの供給速度を制御する機能を有するとともに、溶接トーチ15およびワーク16間に所定の大きさの電力(入熱)を供給する機能を有している。
溶接動作を行う際、溶接制御装置50から電流・電圧指令信号が溶接電源装置30に送信されるように構成されている。電流・電圧指令信号を受けた溶接電源装置30は、電流・電圧指令信号に対応する電流値および電圧値に調整された電力を溶接ロボット10に出力して、溶接ワイヤWとワーク16との間にアーク放電を発生させるように構成されている。また、溶接電源装置30は、溶接動作が行われている最中に、溶接ロボット10に実際に出力されている電力量(入熱)を測定して溶接制御装置50に通信する。この場合、溶接ワイヤWとワーク16との間の電圧値およびアーク放電の電流値が計測されて、そのデータが溶接制御装置50にフィードバックされ、電力量を調整するように構成されている。
また、溶接制御装置50には、外部接続される入力装置40が設けられており、当該入力装置40を介して送給ローラ14を介する溶接ワイヤWの供給速度およびアーク放電を発生させる際の電力(入熱)の設定ならびに溶接ロボット10の動作を設定指示することが可能である。
なお、本例においては、一例としてワイヤ送給装置20は、溶接制御装置50とは接続されておらずスタンドアローンで動作するように設けられている。
ワイヤ送給装置20は、送給ローラ14が駆動することによりボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWを送給する。本例においては、ボビン60に対して所定方向すなわち巻回方向(本例の場合には反時計回り)に溶接ワイヤWが巻き付けられている場合が示されている。
ワイヤ送給装置20は、ボビン60を回転駆動するための駆動部21と、当該駆動部21を制御する送給制御装置25とを含む。後述するが、本例においては、送給制御装置25は、溶接ワイヤWを引き出す際に、駆動部21に指示してボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWの巻回方向にボビン60を回転させるように制御する。なお、駆動部21および送給制御装置25は、それぞれ本発明の「駆動部」および「制御装置」の一例である。
なお、溶接ワイヤWが巻き付けられたボビン60と、駆動部21とは一体として形成されるものではなく、ボビン60は取り外しあるいは交換可能に設けられており、本例においては、ワイヤ送給装置20として、溶接ワイヤWが巻き付けられたボビン60を含まない構成として説明するが、ボビン60を含めたワイヤ送給装置20とすることも可能である。
<ワイヤ送給装置20の具体的構成>
図2は、本実施の形態に基づくワイヤ送給装置20の具体的構成を説明する図である。
図2(A)は、本実施の形態に基づくワイヤ送給装置20の要部を図示した正面図である。
ここでは、溶接ワイヤWが巻き付けられたボビン60から溶接ワイヤWを送給するワイヤ送給装置20が示されている。なお、溶接ワイヤWの巻回方向は、本例においては一例として反時計廻りとする。
ワイヤ送給装置20は、アーム70と、支柱78と、軸受部材71,73と、引き出し部72と、ワイヤ送給チューブ77と、保持部材74,75とを含む。アーム70は、ボビン60に対して回転可能に設けられている。また、支柱78は、アーム70と接続されてアーム70を支持する。軸受部材71,73は、支柱78をボビン60に対して相対的に回転可能に支持する。引き出し部72は、アーム70の先端に設けられ、溶接ワイヤWを引き出す部位である。また、引き出し部72は、中空状のワイヤ送給チューブ77と接続されている。ワイヤ送給チューブ77は、引き出した溶接ワイヤWを送給ローラ(図示せず)に対して送給するためのものである。保持部材75は、軸受部材71を保持するとともにボビン60の上部に装着可能に設けられる。ボビン60の上部に装着された保持部材75は、ボビン60の回転に対して状態を維持するように構成されている。保持部材74は、軸受部材73を保持する。保持部材74には、さらにワイヤ送給チューブ77が保持されている。なお、保持部材74は、スイベル機構を有しており、回転可能に設けられたアーム70が回転する際にワイヤ送給チューブ77をスイベル機構を介して保持部材74に対して回転可能に保持している。
引き出し部72には、ボビン60から引き出された溶接ワイヤWがワイヤ送給チューブ77に円滑に送給されるように複数の回転可能に設けられたローラを含む。当該ローラは巻きくせを矯正するためのものである。なお、本例においては、引き出し部72の構成として複数のローラが含まれている構成について説明するが特に当該構成に限られず溶接ワイヤWを挿入して引き出すための円筒状の引き出し口であっても良い。
また、保持部材74には、アーム70の回転を検知することが可能なエンコーダ76が設けられている。エンコーダ76の検知結果は送給制御装置25に入力される。
さらに、ワイヤ送給装置20は、ターンテーブル22と、送給制御装置25とを含む。ターンテーブル22は、ボビン60を支持するとともに回転可能に設けられている。ボビン回転モータ24は、ターンテーブル22と接続されており、ターンテーブル22を回転駆動する。送給制御装置25は、エンコーダ76の検知結果に基づいてボビン回転モータ24の回転を制御する。
なお、引き出し部72、アーム70、支柱78、軸受部材71,73は、それぞれ本発明の「引き出し部」、「回転アーム」、「支柱」および「軸受部材」の一例である。また、エンコーダ76は、それぞれ本発明の「検出器」の一例である。
なお、本例においては、支柱78が保持部材75によってボビン60の上部に装着可能な構成について説明したが、支柱78は、ターンテーブル22と独立して回転可能に接続されていても良い。
図2(B)は、本実施の形態に基づくワイヤ送給装置20を上部から見た図である。
ここでは、保持部材74の下方で支持された支柱78と接続されたアーム70がボビン60に対して溶接ワイヤWの巻回方向と相対的に反対方向に回転する場合が示されている。
すなわち、溶接ワイヤWを引き出し部72から引き出す際にボビン60の周方向に力が加わる。これにより、アーム70は、ボビン60に対して溶接ワイヤWの巻回方向と相対的に反対方向に従動回転する。
本例においては、後述するがボビン60をアーム70の回転方向と反対方向、すなわち、溶接ワイヤWの巻回方向に回転させる。これにより溶接ワイヤWを送給ローラへ送り出す方向にボビン60を回転させることになるためアーム70に対する周方向の力が弱まりアーム70の回転速度は調整される。
<エンコーダ76の構成>
図3は、本実施の形態に基づくエンコーダ76の構成を説明する図である。
本例においては、形状が異なる2種類のロータリエンコーダが示されている。
図3(A)を参照して、ロータリエンコーダ76Aは、回転可能に設けられた遮光板762と、光電センサ764とを含む。遮光板762は、回転可能に設けられた支柱78と接続され、支柱78すなわちアーム70の回転に伴い回転する。
光電センサ764は、図示しないが光を照射する投光素子と投光素子から照射された光を受光する受光素子とを含む。遮光板762は、光電センサ764の投光素子と受光素子との間を遮光する状態で回転可能に設けられている。当該構成において、投光素子から照射された光の投光状態/遮光状態(ON/OFF回数)に従って受光素子はパルス信号を送給制御装置25に出力する。送給制御装置25は、当該パルス信号をカウントすることにより単位時間当たりの支柱78の回転数すなわち、支柱78と接続されたアーム70の回転速度(rpm)を検出する。
図3(B)を参照して、ロータリエンコーダ76Bは、ロータリエンコーダ76Aと比較して遮光板762の代わりにスリット円盤763を設けた点が異なる。その他の点については同様である。すなわち、投光素子から照射された光は、スリット円盤763に設けられたスリット穴765を介して光が透過されて受光素子で受光される。1回転当たりの出力数はスリット穴数に相当し、上記と同様にアーム70の回転速度(rpm)を検出する。なお、当該複数のスリット穴が円盤の外周状に配置されることにより回転角度も検出することが可能である。
本例においては、インクリメンタル型のロータリエンコーダについて説明したが、アブソリュート型のロータリエンコーダとすることも可能である。なお、アーム70の回転速度を検出可能であればどのような検出器を採用しても良く、光学式の検出器に限られず磁気式により回転速度を検出する検出器を採用しても良いし、他の方式の検出器を採用することも可能である。
<捩れ解消の原理>
図4は、本実施の形態に基づくボビン60に巻き付けられた溶接ワイヤWが送給される際に生じる捩れを説明する図である。
図4(B)には、ボビン60の上から見た場合に、ボビン60に対して溶接ワイヤWが巻き付けられた方向が示されている。具体的には、ボビン60に対して溶接ワイヤWを巻き付けた巻回方向として反時計廻りに溶接ワイヤWが巻き付けられている場合が示されている。
したがって、図4(A)に示されるように、溶接ワイヤWをボビン60から引き出した際には、ボビン60に対して溶接ワイヤWが巻き付けられた巻回方向に捩れが発生する。
当該捩れを解消するためには溶接ワイヤWの上部を支点とした場合、巻回方向にボビン60を回転させることにより捩れが解かれ解消する。
すなわち、本実施の形態は、ボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWの巻回方向にボビンを回転させることにより捩れの発生を抑制しながら溶接ワイヤWを送給することが可能となる。
当該方式により簡易な方式で捩れの発生を抑制しながら捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となり精度の高い溶接を実行することが可能である。
なお、本例においては、ボビン60に対する巻回方向として反時計廻りに溶接ワイヤWが巻き付けられた場合について説明するが、特にこれに限られずボビン60に対する巻回方向として時計廻りに溶接ワイヤWが巻き付けられる構成としても良い。その場合、ボビン60は巻回方向である時計廻りに回転させる。
<制御ブロック>
図5は、本実施の形態に基づくワイヤ送給装置20の制御ブロック図である。
図5を参照して、エンコーダ76から送給制御装置25に対してパルス信号PSが入力される。
送給制御装置25は、演算処理を実行するPLC(Programmable Logic Controller)ユニット250と、ボビン回転モータ24に対して回転指令CTを出力するインバータ256とを含む。
PLCユニット250は、高速カウンタユニット252と、アナログ出力ユニット254とを含む。
高速カウンタユニット252は、エンコーダ76からのパルス信号PSの入力を受けてパルス信号PSをカウントアップする。そして、高速カウンタユニット252は、カウントアップしたカウンタ値をアナログ出力ユニット254に出力する。
アナログ出力ユニット254は、高速カウンタユニット252のカウンタ値に基づいてアーム70の回転速度を算出する。そして、アナログ出力ユニット254は、アーム70の回転速度に基づいてインバータ256を駆動するアナログ信号ASを出力する。
インバータ256は、アナログ出力ユニット254から出力されたアナログ信号ASの出力に応じてボビン回転モータ24に回転指令CTを出力する。本例においては、一例としてアナログ出力ユニット254は、アナログ信号AS(0〜10V)をインバータ256に出力して、インバータ256は、アナログ信号ASのレベルに応じて一例として3Hz〜60Hzの回転指令CTをボビン回転モータ24に出力する。
すなわち、本実施の形態に基づく送給制御装置25は、送給ローラ14の駆動に伴うアーム70の回転速度を計測して、計測結果に基づいてボビン60を回転させるボビン回転モータ24の単位時間当たりの回転数を調整する。これによりターンテーブル22を介してボビン60の回転速度が調整される。
図6は、本実施の形態に基づくボビン回転モータ24の特性を説明する図である。
図6(A)に示されるようにボビン回転モータ24に対して周波数3Hz〜60Hzの回転指令が入力される。当該周波数3Hz〜60Hzに従う回転指令に応じてボビン回転モータ24の回転数(90rpm〜1800rpm)が設定される。これに従ってターンテーブル22を介するボビン60の回転速度が調整される。
本例においては、一例としてインバータ256からボビン回転モータ24に対する周波数3Hzの回転指令が入力されて、ボビン回転モータ24の回転数が90rpmとなり、当該ボビン回転モータ24の回転に従いボビン60の回転速度は1.13rpmに設定される場合が示されている。また、周波数60Hzの回転指令が入力されて、ボビン回転モータ24の回転数が1800rpmとなり、当該ボビン回転モータ24の回転に従いボビン60の回転速度は22.5rpmに設定される場合が示されている。
したがって、図6(B)に示されるようにボビン回転モータ24に入力される回転指令に従って、ボビン60の回転速度は線形に変化する。
本実施の形態に基づく送給制御装置25は、エンコーダ76からのパルス信号の入力を受けて上記したようにアーム70の回転速度を計測して、算出結果に基づいてアーム70の回転速度が所定範囲内となるようにボビン60の回転速度を調整する。具体的には、送給制御装置25は、図6(B)に示されるボビン回転モータ24の特性データを利用してボビン60の回転速度を調整するためにボビン回転モータ24に出力する回転指令を調整する。
<ボビン60の回転制御>
図7は、本実施の形態に基づくボビン60の回転を制御する方式を説明する図である。
図7(A)を参照して、まず、時刻t0において、送給ローラ14の駆動に伴い上記したようにボビン60に対してアーム70が回転し始める。本例においては、溶接ワイヤWはボビン60に対して反時計廻りに巻き付けられているものとする。これによりアーム70は時計廻りに回転し始める。本例においては、波形LAは、アーム70の回転速度を指し示している。また、波形LBは、ボビン60の回転速度を指し示している。
上記したようにエンコーダ76は、アーム70の回転に伴いパルス信号を送給制御装置25に出力する。そして、送給制御装置25においてアーム70の回転速度が計測される。そして、アーム70の回転速度がしきい値Vthを超えた場合に、ボビン60の回転を開始するための起動信号が出力される(ボビン回転起動トリガSTG)。具体的には、アナログ出力ユニット254は、ボビン回転モータ24を駆動するためにインバータ256に対してアナログ信号を出力する。
なお、本例においては、しきい値Vthを超えた後、所定の時間Tdが経過した場合に起動信号を出力する。一例として、本例においては、所定の時間Tdとして1sが経過した(遅延期間)後に起動信号を出力するものとする。例えば、図示しないがアナログ出力ユニット254に遅延タイマを有しており、当該遅延タイマのタイマ値として1sが設定されるものとする。そして、1s経過後にアナログ出力ユニット254は、当該起動信号(アナログ信号)をインバータ256に対して出力する。なお、当該遅延期間の値は一例であり、当業者であるならば捩れを解消するために適切なタイミングに適宜変更することが可能である。
次に、時刻t1において、送給ローラ14が一定速度で駆動されて、それに伴いアーム70も一定の速度でボビン60に対して回転する場合が示されている。
そして、時刻t2において、アナログ出力ユニット254は、上記したようにアーム70の回転速度がしきい値Vthを超えて所定の時間Tdが経過した後、インバータ256に対してアナログ信号を出力する。これによりインバータ256は、ボビン回転モータ24に回転指令を出力し、ボビン回転モータ24を回転させる。これによりターンテーブル22は、ボビン回転モータ24の回転に従って回転する。本例においては、ボビン60に対して溶接ワイヤWが巻き付けられた巻回方向(反時計廻り)と同じ方向にボビン60を回転させる。したがって、溶接ワイヤWを送給ローラへ送り出す方向にボビン60を回転させることになるためアーム70に対する周方向の力が弱まりアーム70の回転速度は調整される。
そのため、アーム70がボビン60に対して回転する回転速度を抑制することにより溶接ワイヤWに生じる捩れを抑制することが可能となる。
本例においては、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定範囲内となるようにボビン60の回転速度を調整する。具体的には、所定範囲内としてボビン60を回転起動させるしきい値Vthから+α(所定値)加算した値の速度を維持するように設定(アーム回転維持速度Vsを設定)する。なお、この+α(所定値)の値は装置に応じて適切な値となるように当業者であるならば適宜調整することが可能である。
そして、ボビン60が回転を始めた時刻t2以降、時刻t3、t4と時間経過に従うボビン60の回転速度の上昇に伴ってアーム70の回転速度が減速する。
そして、時刻t5において、本例においては、アーム70の回転速度がアーム回転維持速度となった場合が示されている。これによりボビン60の回転を維持し、当該状態が維持されるように制御される。
次に、時刻t10において、送給ローラ14の駆動が停止して、これに伴いアーム70の回転速度がしきい値Vth未満となった場合が示されている。
これに応答して、ボビン60の回転を停止させる停止信号が出力される(ボビン回転停止トリガETG)。具体的には、アナログ出力ユニット254は、インバータ256に対してボビン回転モータ24を停止させるためのアナログ信号を出力する。そして、インバータ256は、ボビン回転モータ24の回転を停止させる。これにより、ターンテーブル22は、ボビン回転モータ24の回転の停止に従って停止する。
<溶接ワイヤWの捩れ角の調整>
図8は、本実施の形態に基づく溶接ワイヤWに生じる捩れ角を説明する図である。
図8(A)および(B)を参照して、溶接ワイヤWを送給する際にボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWを引き出す引き出し位置がボビン60に対して周方向に変化することにより上述した捩れが生じることになる。本例においては、アーム70が回転してアーム70を介して溶接ワイヤWをボビン60から引き出す引き出し位置が時計方向に90度移動したことに伴い、初期位置から90度の捩れ角が生じている場合が示されている。なお、ここでは、説明を簡易にするためにアーム70については省略している。また、本例においては、捩れ角の理解を容易にするべく溶接ワイヤWの断面形状を四角(矩形)形状として図示しているが断面形状が丸(円)形状であっても同様である。
本例においては、ボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWを引き出す引き出し位置から保持部材74までの溶接ワイヤWの単位長さ当たりの捩れ角が所定角以下となるように調整する。具体的には、一例として溶接ワイヤWの単位長さ当たりの捩れ角が360度(1回転)以下となるように調整する。なお、当該値は一例であり、当業者であるならば適宜、装置に合わせて値を変更することが可能である。
再び、図7(B)を参照して、ここでは、アーム70の回転速度に伴いアーム70が回転して回転角が変化する場合が示されている。すなわち、ボビン60から溶接ワイヤWを引き出す引き出し位置が移動している場合が示されている。一例として、時刻t0−t7の間に、時計廻りを正とした場合に0°、45°、135°、175°、205°、230°、235°に回転角が変化した場合が示されている。
また、図7(C)を参照して、ボビン60の回転速度に伴いボビンの回転角が変化する場合が示されている。
一例として、時刻t0−t7の間に、時計廻りを正とした場合に0°、0°、0°、−30°、−75°、−135°、−225°、−315°に変化した場合が示されている。
そして、ボビン60の回転に伴いアーム70の回転角が変化する。時刻t0−t1間は45°、時刻t1−t2間は90°、時刻t2−t3間は40°、時刻t3−t4間は30°、時刻t4−t5間は20°、時刻t5−t6間は5°、時刻t6−t7間は5°である場合が示されている。
すなわち、ボビン60が回転することでアーム70の回転速度は減速し、アーム70の回転角の変化量が減少する。言い換えるならばボビン60から溶接ワイヤWを引き出す引き出し位置の移動の変化量が減少する。それゆえ、引き出し位置の移動の変化量が減少するため当該引き出し位置が移動することに伴いボビン60から送給される溶接ワイヤWに生じる捩れ角を減少させることが可能となる。
当該方式により、アーム70の回転による捩れの発生を抑制しながら溶接ワイヤWを送給することが可能である。これにより捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となり精度の高い溶接を実行することが可能である。
<制御フロー>
図9は、本実施の形態に基づく送給制御装置25の制御フローについて説明する図である。
図9を参照して、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth以上であるかどうかを判断する(ステップS10)。具体的には、送給制御装置25は、エンコーダ76から入力されるパルス信号に基づいてアーム70の回転速度がしきい値Vth以上であるかどうかを検出する。
ステップS10において、アーム70の回転速度がしきい値Vth以上であると判断した場合(ステップS10においてYES)には、送給制御装置25は、ボビン回転モータ24を起動する(ステップS11)。
そして、送給制御装置25は、ボビン60の回転速度を調整する(ステップS12)。具体的には、送給制御装置25は、ボビン回転モータ24を制御し、ボビン60の回転速度を上昇させる。
次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度を検出する(ステップS13)。具体的には、送給制御装置25は、エンコーダ76から入力されるパルス信号に基づいてアーム70の回転速度を検出する。
次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定値であるかどうかを判断する(ステップS14)。具体的には、送給制御装置25は、ボビン60の回転速度の上昇に伴いアーム70の回転速度が所定値すなわちアーム回転維持速度となったかどうかを判断する。
ステップS14において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定値でないと判断した場合(ステップS14においてNO)には、ステップS12に戻り、再び、ボビン60の回転速度を調整する(ステップS12)。そして、アーム70の回転速度が所定値すなわちアーム回転維持速度となるまで上記処理を繰り返す。
一方、ステップS14において、アーム70の回転速度が所定値であると判断した場合(ステップS14においてYES)には、送給制御装置25は、当該ボビン60の回転速度を維持する(ステップS15)。
そして、次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度を検出する(ステップS16)。
次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満であるかどうかを判断する(ステップS17)。
ステップS17において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満であると判断した場合(ステップS17においてYES)には、ボビン回転モータ24を停止する(ステップS18)。
一方、ステップS17において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値未満でないと判断した場合(ステップS17においてNO)には、ステップS16に戻り、アームの回転速度がしきい値未満となるまで上記処理を繰り返す。
そして、処理を終了する(エンド)。
当該処理により、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定範囲内となるようにボビン60の回転速度を調整する。具体的には、所定範囲内としてアーム回転維持速度に設定する。すなわち、ボビン60が回転することでアーム70の回転速度を減速させてアーム70の回転角の変化量を減少させることが可能となるため上述したように溶接ワイヤWに生じる捩れ角を減少させることが可能となる。これにより捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となり精度の高い溶接を実行することが可能である。
<変形例>
上記の形態においては、アーム70の回転速度が所定範囲内となるようにアーム回転維持速度に調整する方式について説明したが、アーム70の回転速度が所定範囲内であればそれを一定速度に維持させる必要はない。
図10は、本実施の形態の変形例に基づくボビン60の回転を制御する方式を説明する図である。なお、ワイヤ送給装置20の構成は上記で説明したのと同様であるのでその詳細な説明については繰り返さない。
図10を参照して、まず、時刻t20において、送給ローラ14の駆動に伴い上記したようにボビン60に対してアーム70が回転し始める。本例においては、溶接ワイヤWはボビン60に対して反時計廻りに巻き付けられているものとする。これによりアーム70は時計廻りに回転し始める。本例においては、波形LAは、アーム70の回転速度を指し示している。また、波形LBは、ボビン60の回転速度を指し示している。
上記したようにエンコーダ76は、アーム70の回転に伴いパルス信号を送給制御装置25に出力し、送給制御装置25においてアーム70の回転速度が計測される。
そして、アーム70の回転速度がしきい値Vthを超えた場合に、ボビン60の回転を開始するための起動信号が出力される(ボビン回転起動トリガSTG)。
なお、本例においては、しきい値Vthを超えた後、所定の時間Tdが経過した場合に起動信号を出力する。一例として、本例においては、所定の時間Tdとして1sが経過した(遅延期間)後に起動信号を出力するものとする。
次に、時刻t21において、送給ローラ14が一定速度で駆動されて、それに伴いアーム70も一定の速度でボビン60に対して回転する場合が示されている。
そして、時刻t22において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定のしきい値Vthを超えて所定の時間が経過した後、ボビン回転モータ24に起動信号を出力し、ボビン回転モータ24を回転させる。これによりターンテーブル22は、ボビン回転モータ24の回転に従って回転する。本例においては、ボビン60に対して溶接ワイヤWが巻き付けられた巻回方向と同じ方向にボビン60を回転させる。したがって、溶接ワイヤWを送給ローラへ送り出す方向にボビン60を回転させることになるためアーム70に対する周方向の力が弱まりアーム70の回転速度は調整される。
そのため、アーム70がボビン60に対して回転する回転速度を抑制することにより溶接ワイヤWに生じる捩れを抑制することが可能となる。
本例においては、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定範囲内となるようにボビン60の回転速度を調整する。本変形例においては、所定範囲内としてボビンを回転起動させるしきい値Vthを基準として、ボビン60を回転起動/停止を繰り返す。具体的には、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満となった場合にボビン60の回転を停止させる。そして、また、再び、アーム70の回転速度がしきい値Vth以上となった場合にボビン60を回転起動させる。そして、アーム70の回転速度がしきい値Vthを超えた後、ボビン60の回転に伴いアーム70の回転速度を減少させ、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満となった場合にボビン60の回転を停止させ、上記の処理を繰り返す。
この点で、時刻t23にアーム70の回転速度がしきい値Vth未満となった場合にボビン60の回転を停止(OFF)させ、時刻t24においてアーム70の回転速度が増加して、しきい値Vthを超えた場合にボビン60を回転起動(ON)させる。同様にして、本例においては、時刻t25−t31において、ボビン60の回転の停止(OFF)/起動(ON)を交互に繰り返す場合が示されている。
当該構成により、送給制御装置25は、アーム70の回転速度を一定の速度に維持するためにアーム70の回転速度をフィードバックしつつ、ボビン60の回転速度を調整するフィードバック制御を実行する必要がない。すなわち、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が、基準となるしきい値以上か未満かのみを判断して、ボビン60の回転の起動(ON)/停止(OFF)を制御すればよい。したがって、ボビン回転モータ24の起動/停止の切り替えにより、アーム70の回転速度を所定範囲内に制御することが可能であるため、簡易な制御を実現することが可能であり、送給制御装置25を実装する点でコスト的にも有利である。
<制御フロー>
図11は、本実施の形態の変形例に基づく送給制御装置25の制御フローについて説明する図である。
図11を参照して、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値以上であるかどうかを判断する(ステップS20)。具体的には、送給制御装置25は、エンコーダ76から入力されるパルス信号に基づいてアーム70の回転速度がしきい値Vth以上であるかどうかを検出する。
ステップS20において、アーム70の回転速度がしきい値Vth以上であると判断した場合(ステップS20においてYES)には、送給制御装置25は、ボビン回転モータ24を起動する(ステップS21)。
そして、送給制御装置25は、ボビン60の回転速度を調整する(ステップS22)。具体的には、送給制御装置25は、ボビン回転モータ24を制御し、ボビン60の回転速度を上昇させる。
次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度を検出する(ステップS23)。具体的には、送給制御装置25は、エンコーダ76から入力されるパルス信号に基づいてアーム70の回転速度を検出する。
次に、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満であるかどうかを判断する(ステップS24)。
ステップS24において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満でないと判断した場合(ステップS24においてNO)には、ステップS22に戻り、再び、ボビン60の回転速度を調整する(ステップS22)。そして、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満となるまで上記処理を繰り返す。
一方、ステップS24において、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth未満であると判断した場合(ステップS24においてYES)には、ボビン回転モータ24の停止を指示する(ステップS25)。
そして、ステップS20に戻り、上記の処理を繰り返す。すなわち、送給制御装置25は、アーム70の回転速度がしきい値Vth以上であるかどうかを判断し、しきい値Vth以上であると判断した場合(ステップS20においてYES)には、ボビン回転モータ24を起動する(ステップS21)。以降の処理は上記で説明したのと同様であるのでその詳細な説明は繰り返さない。
当該処理により、送給制御装置25は、アーム70の回転速度が所定範囲内となるようにボビン60の回転速度を調整する。具体的には、所定範囲内としてしきい値Vthを基準としてその近傍にアーム70の回転速度が維持される。すなわち、ボビン60が回転することでアーム70の回転速度を減速させてアーム70の回転角の変化量を減少させることが可能となるため上述したように溶接ワイヤWに生じる捩れ角を減少させることが可能となる。これにより捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となり精度の高い溶接を実行することが可能である。
<その他の実施の形態>
上記の実施の形態においては、ワイヤ送給装置20において、引き出し部72が先端に設けられたアーム70を用いた構成について説明したが、当該アーム70を設けずに、ボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWを送給ローラに送給する構成とすることも可能である。
当該構成の場合においても図4で説明したようにボビン60に対して溶接ワイヤWが巻き付けられた巻回方向に捩れが発生するため、ボビン60に対して巻き付けられた溶接ワイヤWの巻回方向にボビン60を回転させることにより捩れの発生を抑制しながら溶接ワイヤWを送給することが可能となる。
この点で、上記の実施の形態における送給制御装置25においては、アーム70の回転速度を計測して、当該計測結果に基づいてボビン60の回転速度を調整する方式について説明したが、アーム70が設けられていないためボビン60の回転速度を制御することが問題となる。
この点で、図4に示されるように巻回方向に発生した捩れ回数分と同じ量、ボビン60を巻回方向に回転させることにより捩れを解消し、捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となる。
図12は、送給ローラの送給速度に基づく巻回方向に発生する捩れ回数の関係を説明する図である。
図12を参照して、ここで、単位時間当たりに巻回方向に発生する捩れ回数を捩れ回数速度とする。
送給ローラ14の送給速度が30m/min、ボビン直径が920mmである場合には、捩れ回数速度は10.38(rpm)(30/(0.92×円周率))となる。
また、送給ローラ14の送給速度が30m/min、ボビン直径が460mmである場合には、捩れ回数速度は20.77(rpm)(30/(0.46×円周率))となる。
また、送給ローラ14の送給速度が20m/min、ボビン直径が460mmである場合には、捩れ回数速度は13.85(rpm)(20/(0.46×円周率))となる。
また、送給ローラ14の送給速度が3.26m/min、ボビン直径が920mmである場合には、捩れ回数速度は1.13(rpm)(3.26/(0.92×円周率))となる。
したがって、送給ローラ14の送給速度に従う当該捩れ回数速度に合わせてボビン60の回転速度を調整する。具体的には、捩れ回数速度が10.38(rpm)の場合には、ボビン回転速度(rpm)が同じ速度すなわち、10.38(rpm)となるようにボビン回転モータ24の回転数を調整する。すなわち、送給制御装置25は、図6で説明したボビン回転モータ24の特性データを利用して27.69Hzの回転指令をボビン回転モータ24に出力する。なお、ここでは、捩れ回数速度が10.38(rpm)の場合について説明したが他の場合についても同様に適用可能である。
これにより巻回方向に発生する捩れ回数分、ボビン60を巻回方向に回転させて捩れを解消することが可能となり、捩れの少ない溶接ワイヤWの送給が可能となる。
すなわち、送給制御装置25は、送給ローラ14の送給速度およびボビン直径に基づいて捩れ回数速度を算出し、当該算出した捩れ回数速度に合わせてボビン回転速度を調整する。当該演算処理は、送給制御装置25のアナログ出力ユニット254において実行するものとする。なお、本例の場合には、演算処理のためにアナログ出力ユニット254に対して送給ローラ14の送給速度およびボビン直径に関するデータを入力する必要があるが、エンコーダ76および高速カウンタユニット252は設けない構成とすることが可能である。
当該方式により簡易な方式で捩れの発生を抑制しながら溶接ワイヤWを送給することが可能となり精度の高い溶接を実行することが可能である。
なお、上記の構成においては、ボビン60に対して筒状のカバーを設けていない構成について説明したが、筒状のカバーを設けたいわゆる市場に供給されているペイルパック(pail pack)についても同様に適用可能である。なお、筒状のカバーを設けていないボビン60を用いた構成とすることにより容易にボビン60を取り換えることが可能となる。また、装置の面積も縮小することが可能である。また、ペイルパック(pail pack)とする以前の筒状のカバーが設けられていないボビンの状態でサプライヤーからの供給を受けることが可能であるため、ボビン単価を抑えることが可能であり、溶接システム全体のコストも抑えることが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。