JP2014181413A - 銀付調人工皮革及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い密着強度を備え、また、銀面層の意匠性を低下させずに防汚性を付与する表面保護膜を備えた銀付調人工皮革を提供する。
【解決手段】不織布基材層と、不織布基材層に積層された銀面層と、銀面層に積層された表面保護膜とを備え、表面保護膜は、厚み0.1〜10μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とする全光線透過率が80%以上の皮膜であり、銀面層側の表面は、JIS Z 8741で規定された光沢度5〜60%を示す銀付調人工皮革である。
【選択図】図1

Description

本発明は、意匠性及び密着性に優れた防汚性皮膜を備えた銀付調人工皮革に関する。
従来から、不織布基材の表面に天然皮革の外観に似せたポリウレタン,アクリル樹脂,塩化ビニル等の樹脂からなる銀面層を積層して形成される銀付調人工皮革が知られている。このような銀付調人工皮革は靴、鞄、ケースカバーなどの日用品、服飾品、家具、自動車内装材等の表皮材として広く用いられている。
銀付調人工皮革の銀面層は、通常着色されている。銀付調人工皮革の表面に食品,化粧品,筆記用品,機械油,グリスなどに含まれる油性成分が付着した場合、付着した油性成分は洗剤では除去しにくく、また、溶剤で拭き取って除去しようとした場合には銀面層の着色材が色落ちしたり、銀面層の表面が溶解して拭き跡が残ったりするという問題があった。また、銀面層には、しなやかさを発現させるために柔軟でタック性のあるポリウレタン等の弾性体が用いられる。銀面層にタック感が発現された場合には、銀付調人工皮革の表面に埃塵や油性成分を付着させて汚染させやすくするという問題もあった。
このような問題を解決する技術がいくつか提案されている。例えば下記特許文献1は、銀面層表面に特定のシリコン変性ポリウレタンを平均最短距離が10〜100μmになるようにドット状に塗布することにより、アルコールに接触しても色落ちしにくく、屈曲性を良好に維持できるような皮革様シートが得られることを開示している。また、下記特許文献2は、基体層の表面にフッ素含有高分子を含む最表面層が形成された撥水撥油性を有する銀付調人工皮革を開示する。
銀面層表面に上述したようなシリコン変性ポリウレタンやフッ素含有高分子を含有する表面層を形成した場合、ある程度の防汚性能は付与されるが、屈曲や摩擦のような外力により表面層が剥離し易くなる等の問題があった。具体的には、例えば、特許文献1に開示されているように、銀面層表面にシリコン変性ポリウレタンを含有する表面層を形成する場合において、充分な防汚性を付与するためにはシリコン変性ポリウレタンの含有割合を高める必要があるが、この場合には、表面層の接着力が低下して表面層が剥離しやすくなるという問題があった。また特許文献2に開示されているように、基体層の表面にフッ素含有高分子を含む最表面層を形成した場合、表面に現れているフッ素含有高分子のフッ素分子が経時的に樹脂内部に埋まることにより、経時的に防汚性が低下していくという問題があった。
また、下記特許文献3は、ポリ塩化ビニル(PVC)壁紙等の表面層として用いられるマット化フィルムとして、エチレン−ビニルエステル共重合体けん化物(エチレン-ビニルアルコール共重合体)40〜90重量%、カルボン酸変性ポリエチレン樹脂5〜30重量%および無機フィラー5〜30重量%からなる組成物からなり、少なくとも片面の光沢度が50%以下のマット化フィルムを開示する。
特開2011−52336号公報 特開2000−336348号公報 特開平7−258489号公報
上述のように、銀付調人工皮革には表面の防汚性が求められていたが、用途によって、防汚性に加えて光沢を抑制した艶消調の外観が求められていた。しかしながら、防汚性と艶消調の外観との両立は困難であった。また、特許文献3に開示されたようなフィルム中に無機フィラーを配合することにより光沢を抑制しようとした場合には、無機フィラーを多量に含有させるか、フィルムの厚みを厚くしなければ充分な光沢抑制効果は発現されなかった。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体は比較的硬い樹脂であるために、無機フィラーを多量に配合したり厚みを厚くした場合には、屈曲性が低下して、表面層の密着強度が低下して剥離しやすくなるという問題があった。
また、上述のように、銀付調人工皮革の銀面層は通常着色されたり、表面に印刷が施されたりすることがある。このような銀付調人工皮革において、銀面層の表面に、無機フィラーを多量に配合した表面層を形成したり、厚い表面層を形成した場合には、銀面層の着色が色褪せたように見えたり、銀面層に施された印刷模様が滲んだように見えてしまうというような意匠性を低下させるという問題があった。
本発明は、高い密着強度を備え、また、銀面層の意匠性を低下させずに防汚性を付与する表面保護膜を備えた銀付調人工皮革を提供することを目的とする。
本発明の銀付調人工皮革は、不織布基材層と、不織布基材層に積層された銀面層と、銀面層に積層された表面保護膜とを備え、表面保護膜は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH共重合体)を主成分とし、全光線透過率が80%以上である厚み0.1〜10μmの皮膜であり、銀面層側の表面は、JIS Z 8741で規定された光沢度5〜60%を示す。このような銀付調人工皮革の厚み0.1〜10μmの表面保護膜は屈曲等により剥離しにくい。また、全光線透過率を80%以上に維持することにより銀面層の着色が色褪せたように見えたり、銀面層に施された印刷模様が滲んだように見えてしまうというような意匠性の低下を起こさずに表面光沢を抑制することができる。さらに銀面層がシボ模様を有する場合には、立体感のあるシボ模様を維持することができる。
表面保護膜は、第一のEVOH共重合体と、第一のEVOH共重合体から例えば相分離するような第二の樹脂成分とを含有することが好ましい。具体的には、例えば、第一のEVOH共重合体の溶液と第一のEVOH共重合体のエチレン含有率よりも1〜10モル%高いエチレン含有率を有する第二のEVOH共重合体の溶液とを混合して得られる、未溶解、膨潤、またはゲル化したEVOH共重合体を含有する塗液から形成されるような皮膜が挙げられる。また別の例としては、EVOH共重合体とポリオレフィン系樹脂を溶融混練し、支持基材となる剥離シートの表面に積層することにより形成されるような皮膜が挙げられる。このような方法によれば、多量の無機フィラーを含有させて皮膜強度を低下させたり、銀面層の意匠性を低下させたりすることなく表面光沢を広い範囲で調整することができる。
また、表面保護膜の外表面を粗面化することによっても、皮膜強度を低下させることなく、また、光透過性を著しく低下させることなく表面光沢を抑制することができる。粗面化された面としては、例えば、厚み50μm程度のマット化PETフィルムであって、JISZ8741で規定する光沢度が3〜60%になるように粗面化処理されたマット化PETフィルムの粗面化面を転写して粗面化されて形成された面またはそれと同等の光沢を示すように粗面化された面であることが好ましい。
また、不織布基材層は極細繊維の繊維絡合体を含み、銀面層はポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を主成分として含有することが好ましい。このような不織布基材層は、繊維密度が緻密であるために繊維の粗密ムラが低く充実感に優れた均質性の高い基材である。従って、このような不織布基材層に積層された銀面層は反発性が高くなる。そして、このような充実感の高い銀面層を下地として表面保護膜を積層することにより、積層の際の圧着や塗工の際に表面保護膜がしっかりと被着される。
本発明によれば、銀面層の意匠性を低下させずに光沢を調整することができ、また高い剥離強度を有する、防汚性皮膜を備えた銀付調人工皮革を提供することができる。
図1は本発明に係る一実施形態の銀付調人工皮革10の模式断面図である。 図2は銀付調人工皮革10の製造工程を説明する模式断面工程図である。 図3は銀付調人工皮革20の製造工程を説明する模式断面工程図である。 図4は銀付調人工皮革30の製造工程を説明する模式断面工程図である。 図5は銀付調人工皮革40の製造工程を説明する模式断面工程図である。
図1は本発明に係る一実施形態の銀付調人工皮革10の模式断面図である。銀付調人工皮革10は、図1に示すように、不織布基材層1の表面にウレタン系樹脂等から形成された銀面層2を備え、さらに銀面層2の表面に、必要に応じて接着剤層3を介して、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH共重合体)を主成分とし、全光線透過率が80%以上である厚み0.1〜10μmの表面保護膜4を備えた形態を有する。そして、図1に拡大図として示しているように、銀面層側の最表層の表面保護膜4は、表面光沢度が5〜60%になるような粗面(マット面)4aを有する。
表面保護膜は後述するようにして形成されるEVOH共重合体を主成分として含む。表面保護膜中のEVOH共重合体の含有割合としては、60%以上、さらには70%以上、とくには80%以上であることが好ましい。EVOH共重合体の含有割合が60%未満の場合には、防汚性が低下する傾向がある。
また、表面保護膜の厚みは0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜5μmである。表面保護膜の厚みが0.1μm未満の場合には、接着性が不足し、また、屈曲されたり表面が摩擦されたりすることにより、クラックが発生したり、膜片が脱離しやすくなったりし、また、油性物質等の透過抑制効果が低下するために防汚性が不充分になる傾向がある。また、表面保護膜の厚みが10μmを超える場合には、銀面層に印刷模様を付与した場合にはその見え方が滲んで見えにくくなり、また、表面保護膜の剛性が高くなることにより得られる銀付調人工皮革が硬くなって柔軟な風合いが低下する。さらに銀面層がシボ模様を有する場合には、立体感のあるシボ模様を維持することが困難になる。なお、表面保護膜の厚みは、形成された銀付調人工皮革の断面の走査型電子顕微鏡写真から万遍なく選んだ5点を測定した厚みの平均値として算出できるが、この厚みは、塗膜形成時に設定した厚みとほぼ同等の厚みになる。
また、表面保護膜は、全光線透過率が80%以上であり、好ましくは85%以上である。全光線透過率が80%未満の場合には、銀面層の着色が色褪せたように見えたり、銀面層に施された印刷模様が滲んだように見える問題が生じやすくなる。なお、表面保護膜の全光線透過率は、表面が平滑な厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、具体的には、例えば東洋紡(株)製のA4100等に銀付調人工皮革に形成したのと同様の表面保護膜を形成し、ASTM D1003に準ずる方法により、ヘイズメーターを用いて測定できる。
また、銀付調人工皮革の表面の光沢度は5〜60%であり、好ましくは5〜40%に調整されている。このような範囲に表面光沢度が調整されていることにより、表面に艶消し調の外観を付与することができる。表面光沢度が60%を超える場合には艶消し調の外観が失われ、表面光沢度が5%未満の場合には全光線透過率を80%以上に維持することが困難になる。
不織布基材層の厚みは、特に限定されないが、25〜2000μm、さらには30〜1500μm程度であることが好ましい。また、目付は140〜3000g/m2、さらには200〜1400g/m2程度であることが好ましい。
また、銀面層の厚みも特に限定されないが、10〜500μm、さらには50〜200μmであることが好ましい。なお、銀面層はエンボス加工等により形成されたシボ模様を有することが意匠性の点から好ましい。また、接着剤層を有する場合、その厚みは特に限定されないが0.1〜20μm、さらには0.2〜10μmであることが好ましい。なお、接着剤層が形成された場合には、接着剤層は銀面層の一部を形成し、接着剤層の厚みは銀面層の厚みに含まれる。
[塗工による表面保護膜の形成]
はじめに、EVOH共重合体を主成分として含むEVOH塗液を被塗物に塗布し、硬化させることにより表面保護膜を形成する方法について詳しく説明する。
表面保護膜の主成分であるEVOH共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をけん化して製造される。エチレン-酢酸ビニル共重合体は、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造される。
EVOH共重合体中のエチレン単位の含有割合(エチレン含有率)としては20〜65モル%、さらには25〜60モル%であることが好ましい。エチレン含有率が低すぎる場合には耐水性が低下する傾向がある。また、エチレン含有率が高すぎる場合には耐油性が低下するために油性物質が浸透し易くなり、耐汚染性が低下する傾向がある。
また、EVOH共重合体のけん化度は90モル%以上、さらには95モル%以上であることが好ましい。けん化度が低すぎる場合には耐油性が低下して油性物質が浸透し易くなることにより、耐汚染性が低下する傾向がある。
また、EVOH共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲、具体的には、例えば、1モル%以下の範囲でエチレン-酢酸ビニル共重合体に共重合可能な単位、例えば、α−オレフィン,不飽和カルボン酸系化合物,不飽和スルホン酸系化合物,(メタ)アクリロニトリル,(メタ)アクリルアミド,ビニルエーテル,ビニルシラン化合物,塩化ビニル,スチレン等の単量体に由来する共重合単位を必要に応じて含有してもよい。
さらに、EVOH共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、ウレタン化,アセタール化,シアノエチル化などの後変性されていてもよい。
EVOH塗液の調製方法について説明する。
EVOH塗液は、所定の溶媒にEVOH共重合体を溶解して調製される。溶媒としては、例えば、水と、イソプロパノール,n−プロパノール,n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール等のアルコールとの混合溶媒のような極性溶媒が好ましく用いられる。水とアルコールの混合溶媒中のアルコールの割合としては20〜80質量%程度であることが好ましい。また、塗液の安定性を維持するために、必要に応じて、ギ酸、フェノール、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどを例えば1〜30質量%含有させてもよい。
EVOH塗液中のEVOH共重合体の濃度としては1〜30質量%、さらには2〜20質量%であることが好ましい。EVOH共重合体の濃度が低すぎる場合には、乾燥後の皮膜の厚みを充分に確保することが困難になり、また、表面が白濁して透明性が低下しやすくなる傾向がある。また、EVOH共重合体の濃度が高すぎる場合には、塗液粘度が高くなるために塗工の作業性が低下するとともに、乾燥ムラが生じることによる表面光沢ムラが発生しやすくなる傾向がある。
また、EVOH塗液中には、互いに、エチレン含有率やけん化度や重合度等の異なる2種以上のEVOH共重合体を含有させることにより、表面光沢等の光学的特性を調整したものであってもよい。このようなEVOH塗液を用いた場合には、例えば、皮膜中に海島構造の相分離構造を形成させることにより界面で光を乱反射させ、また、海島構造により表面に微細な凹凸を有するマット面を形成させることにより光を乱反射させるようにして、光沢を調整することができる。このような2種以上のEVOH共重合体を含有する塗液は、例えば、互いにエチレン含有率やけん化度や重合度等が異なるEVOH共重合体を含有する2種以上のEVOH溶液を混合するような方法で調製される。
なお、2種以上のEVOH溶液を混合することにより、表面光沢を調整する方法としては、互いに溶解性の異なるEVOH共重合体を含む2種以上のEVOH溶液を混合する次のような方法が特に好ましい。
はじめに、溶解性の高い第一のEVOH共重合体を溶媒に実質的に完全溶解させた第一のEVOH共重合体を含む溶液を調製する。一方、溶媒にEVOH共重合体が完全に溶解しないか、または、分散したゲル化微粒子を含有するような濁りのある第二のEVOH共重合体を含む溶液を調製する。なお、EVOH共重合体の溶解性は、そのエチレン含有率やけん化度により異なり、例えば、エチレン含有率が高い方が極性溶媒に対する溶解性は低くなり、また、ケン化度が低い方が水酸基の数が少なくなるために極性溶媒に対する溶解性は低くなる。さらに、溶解性は、EVOH共重合体を溶解する場合には、EVOH共重合体の濃度を変えたり、撹拌強度を変えたり、完全溶解後に攪拌しながら溶媒温度を変化させたりすることによっても調整することができる。
さらに具体的な一例としては、例えば、所定の混合比率に調整した水とアルコールとの混合溶媒を70〜85℃に制御しながらエチレン含有率の低い第一のEVOH共重合体を撹拌しながら溶解させることにより、第一のEVOH共重合体を実質的に完全溶解させて透明になるように調製されたEVOH溶液(A)を調製する。一方、EVOH溶液(A)の調製で用いた溶媒よりも水の混合割合の高い溶媒を70〜85℃に制御しながらエチレン含有率の高い第二のEVOH共重合体を完全溶解させた後、高速攪拌を行いながら10℃程度にまで冷却することにより分散したゲル化微粒子を含むEVOH体溶液(B)を調製する。このとき、第二のEVOH共重合体のエチレン含有率は、第一のEVOH共重合体のエチレン含有率よりも1〜10モル%、さらには2〜5モル%程度高いことが、全光線透過率を低下させずに表面光沢を低下させることができる点から好ましい。
そして、溶解性及び透明性の高いEVOH溶液(A)と相対的に溶解性の低いEVOH溶液(B)とを混合することにより、表面光沢を調整できるEVOH塗液が調製される。このとき、EVOH溶液(A)とEVOH溶液(B)との混合割合((A)/(B))としては、質量比で、10/90〜95/5、さらには30/70〜90/10であることが好ましい。EVOH溶液(A)の割合が高すぎる場合には、表面光沢度の低下効果が小さくなる傾向がある。一方、EVOH溶液(B)の割合が高すぎる場合には、全光線透過率が低下したり、乾燥後の膜が脆くなったりする傾向がある。EVOH溶液(A)とEVOH溶液(B)との質量比は、要求される特性に応じて適宜調整される。
また、EVOH塗液は、本発明の効果を損なわない範囲で、光沢を調整するための微粒子を少量、具体的には、乾燥後の固形分中に、例えば5質量%未満、さらには3質量%以下、とくには1質量%以下になるような範囲で含有してもよい。微粒子の具体例としては、アルミニウム,チタニウム,鉄,セリウム,イットリウム,マンガン,珪素,錫,亜鉛,銅,ビスマス,コバルト,またはこれらの元素を含む金属酸化物、タルク等の珪酸化合物等の無機フィラー等が挙げられる。また、これらの微粒子には、その表面の親水性や疎水性を調整するためにシラン系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。このような表面処理により、塗液中での分散性を向上させることができる。このような微粒子の平均粒子径としては、0.05〜2μm、さらには0.1〜1μmであることが好ましい。平均粒子径が小さすぎる場合には表面光沢度を低下させる効果が低く、大きすぎる場合には全光線透過率を低下させ、また、表面保護膜を剥がれやすくさせる傾向もある。
また、EVOH塗液は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、難燃剤、光劣化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤など含有してもよい。
このようにして調製されたEVOH塗液を被塗物の表面に塗布し、加熱することにより、被塗物の表面にEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜になる皮膜が形成される。
EVOH塗液を被塗物に塗布する方法は特に限定されない。具体的には、例えば、ワイアーバー、グラビヤコート、リバースロール方式のローラーコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンフローコート法等の方法が挙げられる。
加熱条件は特に限定されないが、例えば、30〜150℃、好ましくは70〜120℃程度の温度で、3秒間〜5分間程度加熱することが好ましい。防汚性を向上させるためには、より高温で乾燥させることが好ましい。
EVOH塗液は、後に詳述するように種々の銀付調人工皮革の製造方法によって異なる被塗物に塗工される。具体的には、銀付調人工皮革基材の銀面層の表面に直接塗工したり、または銀面層の表面に形成された接着剤層の表面に塗工したり、さらには、後に銀付調人工皮革基材等にラミネートされる剥離シート付表面保護膜を形成するために、後の工程で剥離される支持基材となる剥離シートに塗工してもよい。なお、EVOH塗液を用いて表面保護層を形成した場合には、シボ模様が形成されている銀面層の表面にも表面保護層を特に高い密着力で被着させることができる。
支持基材であり、後の工程で剥離される剥離シートとしては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリノルボルネンなどのポリオレフィン;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;アクリル樹脂;メタクリル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂),エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;脂肪族ポリアミド,芳香族ポリアミド等のポリアミドなどから形成された樹脂フィルムが挙げられる。これらの中では、PETフィルムが各種特性のバランスに優れている点から好ましい。
PETフィルム等の樹脂フィルムの皮膜形成面には、得られる銀付調人工皮革の表面光沢を調整するために粗面化処理されていてもよい。このような粗面化処理された樹脂フィルムの表面にEVOH塗液を塗布して乾燥させることにより、得られる皮膜の表面に樹脂フィルムの粗面化処理された面の微細な凹凸形状が転写される。その結果、表面保護膜の表面が粗面化されるために、得られる銀付調人工皮革の表面光沢が抑制される。
このような樹脂フィルムの粗面化処理の状態としては、例えば、厚み50μm程度のマット化PETフィルムの場合、JIS Z8741で規定する光沢度が3〜60%、さらには5〜40%になるような程度に粗面化処理されていることが好ましい。なお、表面保護膜の表面の粗面化は、このようなマット化PETフィルムによるものに限られず、これと同等程度に表面光沢が抑制される方法であれば特に限定されない。
銀付調人工皮革の表面保護膜の表面が粗面化処理されている場合、銀面層の表面で表面保護膜の表面によりシボ模様による凹凸よりも小さい微細な凹凸が形成される。このような表面保護膜の表面の微細な凹凸は、光沢を抑制する効果を奏する。
また、剥離シートとしてはシボ付離型紙のようなシボ付離型シートであってもよい。シボ付離型シートは後述するように、その表面にEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜を形成した後、銀面層をさらに積層形成することにより、銀面層にシボ模様を形成するために好ましく用いられ、その表面は、通常、フッ素系やシリコン系離型剤で表面処理されている。シボの深さは特に限定されず、剥離後の銀付調人工皮革の表面が光沢度3〜60%になるように調整できる限り特に限定されない。なお、塗工による表面保護膜の形成方法によれば、このようなシボ模様が形成された銀面層の表面に表面保護膜を充分に被着させることができる。
剥離シートの厚みは、特に限定されないが、12〜200μm、さらには、20〜150μmであることが好ましい。厚みが薄すぎる場合には、剥離シート付表面保護膜から剥離シートを剥離する際に剥離シートに破れが発生するおそれがある。また、厚みが厚すぎる場合には工程通過性が低下する傾向がある。
剥離シートの表面には、EVOH塗液のはじきを抑制したり、剥離性を向上させるために、コロナ処理等やシリコン系離型剤やフッ素系離型剤等による被覆処理等の表面処理が施されていてもよい。
[溶融押出ラミネート法による表面保護膜の形成]
塗工による表面保護膜の形成方法とは別の方法として、剥離シート上に溶融押出ラミネート法により、表面保護膜を形成する方法について詳しく説明する。
溶融押出ラミネート法による表面保護膜の形成においては、例えば、溶融押出機で混練された、EVOH共重合体を主成分として含む樹脂組成物を多層Tダイを通して剥離シート上に溶融押出し、溶融フィルム状態のまま剥離シートと冷却ロールとの間でニップしてラミネートと同時に冷却固化させることにより、剥離シート上に表面保護膜が積層された剥離シート付表面保護膜を形成するような方法が用いられる。
溶融押出ラミネート法に用いられるエチレン-ビニルアルコール共重合体としては、塗工による表面保護膜の形成で説明したものと同様のものが特に限定なく用いられる。
また、溶融押出ラミネート法に用いられるEVOH共重合体を主成分として含む樹脂組成物は、表面光沢を調整するためにポリオレフィン樹脂を含んでもよい。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ1−ブテン,ポリ4−メチル−1−ペンテン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合体,ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体,エチレン−ビニルエステル共重合体,エチレン−アクリル酸エステル共重合体,又はこれらを不飽和カルボン酸若しくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等のポリオレフィンや、各種ポリオレフィンに、カルボン酸や無水マレイン酸等の炭素数が3〜10個のα,β−不飽和カルボン酸またはそのカルボン酸の無水物をグラフト変性して得られるような酸変性ポリオレフィン、とくには、高密度ポリエチレンに酸成分をグラフト変性して得られるような酸変性ポリエチレンが好ましい。なお、炭素数が3〜10個のα,β−不飽和カルボン酸またはそのカルボン酸の無水物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられ、とくには無水マレイン酸及び無水イタコン酸が好ましい。
EVOH共重合体を主成分として含む樹脂組成物中に含有されるポリオレフィン樹脂の含有割合としては、3〜40質量%、さらには5〜30質量%であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有割合が少なすぎる場合には光沢抑制効果が充分に発現されず、高すぎる場合には、全光線透過率が低下する傾向がある。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、EVOH共重合体以外の熱可塑性樹脂、ホウ酸、酸化防止剤、スリップ剤、着色剤、消臭剤等を含有してもよい。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6/6,6共重合体等のポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリアクリロニトリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアセタール及び変性ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
なお、溶融押出ラミネート法に用いられるEVOH共重合体を主成分として含む樹脂組成物としては、薄い膜を安定的に製膜する成膜性の観点からは溶融粘度が低い方が好ましい。
溶融押出ラミネート法において、表面保護膜の成膜を支持するための剥離シートとしては、塗工による表面保護膜の形成で説明したものと同様のものが特に限定なく用いられる。
また、溶融押出ラミネート法による表面保護膜の形成においては、剥離シートに表面保護膜を積層するだけでなく、剥離シートに形成された表面保護膜にさらに接着剤層を積層形成してもよい。このような方法によれば、溶融押出ラミネート工程において、接着剤層も同時に形成されるために、後述するような銀面層の表面に貼り合せることが容易になる点から好ましい。
溶融押出ラミネート法において、表面保護膜に積層される接着剤層を形成するために用いられる接着性樹脂は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ウレタン系,ポリエステル系,エポキシ系,アクリル系等の接着性樹脂や、ポリエステルポリオール−アクリル共重合体,ポリエステルポリオール−アクリル共重合体,塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体や、ポリオレフィン系樹脂に、アクリル酸,メタクリル酸,エタクリル酸,マレイン酸,イタコン酸,無水マレイン酸,無水イタコン酸,ホウ酸化合物などをグラフト重合したような接着性樹脂等が挙げられる。
[銀付調人工皮革基材]
上述のように、本発明に係る銀付調人工皮革は、不織布基材の表面に銀面層が積層形成された基材(以下、銀付調人工皮革基材とも称する)の銀面層に、表面保護膜が積層されたような構成を有する。以下、銀付調人工皮革基材の構成について詳しく説明する。
不織布基材は、繊維が3次元的に絡合された繊維構造体に、必要に応じて繊維構造体の内部に高分子弾性体が含浸付与された構造を有する。
不織布基材は、従来から、銀付調人工皮革の製造に用いられている、繊維絡合体を含む不織布基材であれば、特に、限定なく用いられる。繊維絡合体の具体例としては、極細繊維からなる不織布や、通常の繊度の繊維からなる不織布等が挙げられる。本実施形態においては、代表例として、極細繊維の繊維絡合体を含む不織布基材を用いる場合について、詳しく説明する。
極細繊維の繊維絡合体は、例えば、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理して繊維絡合体を形成し、極細繊維化することにより得られる。なお、本実施形態においては、極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を用いる場合について詳しく説明するが、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接極細繊維を紡糸してもよい。なお、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維の具体例としては、紡糸直後に複数の極細繊維が軽く接着されて形成され、機械的操作により解きほぐされることにより複数の極細繊維が形成されるような剥離分割型繊維や、溶融紡糸工程において花弁状に複数の樹脂を交互に集合させてなる花弁型繊維等が挙げられ、極細繊維を形成しうる繊維であれば特に限定されずに用いられる。
極細繊維絡合体の製造においては、はじめに、選択的に除去できる海島型複合繊維の海成分を構成する熱可塑性樹脂と、極細繊維を形成する樹脂成分である海島型複合繊維の島成分を構成する熱可塑性樹脂とを溶融紡糸し、延伸することにより海島型複合繊維を得る。
海成分の熱可塑性樹脂としては、島成分の樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、などが挙げられる。
島成分を形成し、極細繊維を形成する樹脂成分である熱可塑性樹脂としては、海島型複合繊維及び極細繊維を形成可能な樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),イソフタル酸変性PET,スルホイソフタル酸変性PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート樹脂等の脂肪族ポリエステル;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6−12等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
極細繊維の繊維絡合体の製造方法としては、例えば、海島型複合繊維などの極細繊維発生型繊維を溶融紡糸して繊維ウェブを製造し、繊維ウェブを絡合処理した後、海島型複合繊維から海成分を選択的に除去して極細繊維を形成するような方法が挙げられる。繊維ウェブを製造する方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維等の極細繊維発生型長繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維ウェブを形成する方法や、長繊維をステープルにカットして短繊維ウェブを形成する方法等が挙げられる。また、形成された繊維ウェブには形態安定性を付与するために融着処理を施してもよい。
通常、海島型複合繊維からなる繊維ウェブの海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、絡合処理、水蒸気による熱収縮処理等の繊維収縮処理を施すことにより緻密化処理が施すことが好ましい。絡合処理としては、例えば、得られた繊維ウェブを5〜100枚程度重ね、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いてウェブに絡合処理を行うような方法が用いられる。
海島型複合繊維の海成分は、繊維ウェブを形成させた後の適当な段階で抽出または分解して除去すればよい。このような分解除去または抽出除去により海島型複合繊維が極細繊維化されて極細繊維が形成される。
極細繊維の平均繊度は特に限定されないが、0.001〜0.9dtex、さらには0.01〜0.6dtex、とくには0.02〜0.5dtexであることが好ましい。平均繊度が高すぎる場合には、緻密感が不充分になり、粗密感のある不織布基材が得られる傾向がある。また、平均繊度が低すぎる繊維は製造しにくく、また、繊維同士が解けないで集束してしまい、得られる不織布基材の剛性が高くなりすぎる傾向がある。また、繊維絡合体の目付も特に限定されないが、140〜3000g/m2、さらには、200〜1000g/m2程度であることが好ましい。
不織布基材が高分子弾性体を含有する場合、極細繊維絡合体100質量部に対し、1〜30質量部、さらには5〜20質量部、とくには10〜15質量部含有することが好ましい。なお、高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には、ゴム感が強くなって、風合いを損なう傾向がある。
高分子弾性体としては、極細繊維絡合体に含浸可能なゴムや熱可塑性エラストマーなどが特に限定なく使用される。その具体例としては、例えば、ポリウレタン系エラストマーやウレタンゴム等のウレタン系樹脂、アクリル系ゴム等のアクリル系樹脂、ジエン系ゴム、シリコーンゴム、ニトリル系ゴム、オレフィン系ゴム、フッ素ゴム、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ハロゲン系エラストマーなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ウレタン系樹脂が好ましい。
極細繊維絡合体に高分子弾性体を含浸付与させる方法は特に限定されないが、例えば、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理して得られた繊維絡合体に高分子弾性体のエマルジョンまたは塗液を含浸付与し、高分子弾性体を乾式凝固または湿式凝固させた後、繊維絡合体を形成する海島型複合繊維から海成分を選択的に除去する極細繊維化処理を行う方法が挙げられる。また、別の方法としては、予め、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理して得られた繊維絡合体の極細繊維化処理を行った後、高分子弾性体のエマルジョンまたは塗液を含浸付与し、高分子弾性体を乾式凝固または湿式凝固させるような方法であってもよい。
このようにして得られた極細繊維絡合体は、必要に応じてスライス処理またはバフィング処理することにより厚み調整及び平坦化処理される。このようにして、不織布基材が得られる。また、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理が施されてもよい。
このようにして形成された不織布基材の表面に銀面層を積層形成する。銀面層の形成方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に銀面層を形成するための樹脂成分を含む塗液を塗布した後、乾燥することにより銀面層皮膜を形成し、銀面層皮膜を不織布基材の表面に接着剤で貼り合わせてラミネートした後、剥離シートを剥離する方法や、銀面層を形成するための樹脂成分を含む塗液を不織布基材の表面に塗布した後、乾燥することにより形成する方法等が挙げられる。なお、銀面層を形成するための樹脂成分を含む塗液を不織布基材の表面に塗布する方法はとくに限定されず、例えば、ダイレクトコーターやコンマコーターを用いた塗工方法がとくに限定なく用いられる。
なお、銀面層の表面にはエンボス加工等によりシボ模様を施すことが意匠性の点から好ましい。エンボス加工は、例えば、表面にシボ模様が付与されたシボ付離型紙に銀面層皮膜を形成したり、銀面層が未硬化の状態でシボ模様を転写した後、銀面層を完全硬化させるような方法が挙げられる。
銀面層を形成するための樹脂成分としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の高分子弾性体が好ましく用いられる。なお、非発泡のウレタン樹脂を用いた場合には、耐摩耗性等の表面特性に優れ、また、空隙を有する発泡した高分子弾性体を用いた場合には、エンボス加工性に優れ、意匠性に優れる。銀面層を形成するための樹脂成分を含む塗液は、溶液,エマルジョン,サスペンジョン等に調製されている。また、銀面層を形成するための樹脂成分には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤、発泡剤等を含有してもよい。
[表面保護膜を有する銀付調人工皮革の製造]
上述したようにして形成される表面保護膜を備えた銀付調人工皮革を製造するためのいくつかの製造方法について、以下に説明する。
図2は、本発明に係る銀付調人工皮革10の製造方法の工程の一例を模式断面図で示した模式工程図である。本製造方法においては、はじめに、図2(a)に示すように不織布基材1に積層形成された銀面層2の表面に接着剤を塗布及び乾燥して接着剤層3を形成する。そして、図2(b)に示すように接着剤層3の表面に、EVOH共重合体を主成分として含有するEVOH塗液を塗布し、乾燥することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜4を形成する。このようにして銀付調人工皮革10が形成される。
接着剤層3を形成するための接着剤は、特に限定されない。その具体例としては、例えば、ウレタン系接着剤、ポリエステルポリオール−アクリル共重合体等を含むアクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等を含む塩化ビニル系接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上の層を積層して用いてもよい。
また、接着剤には、接着強度を向上させる目的で、必要に応じてイソシアネート系化合物等の硬化剤を、例えば、0.1〜10質量%程度配合してもよい。このようなイソシアネート系化合物の具体例としては、例えば、トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアニジンジイソシアネート、1−エトキシ−2,4−ジイソシアネートベンゼン、1−クロル−2,4−ジイソシアネートベンゼン、トリス(4−イソシアネートフェニル)メタン、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニルジイソシアネート等の芳香族イソシアネートや、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8−オクタメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、3,3’−ジイソシアネートジプロピルエーテル、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアネート、シクロへキシレン−1,4−ジイソシアネート、メチル−2,6−ジイソシアネートカプロエート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、4−メチル−1,3−ジイソシアネートシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、N,N’,N”−トリス(6−イソシアネートヘキサメチレン)ビウレット等の脂肪族イソシアネート等があげられる。
なお、銀面層2と表面保護層4を接着層3を介して接着した後は、例えば、40〜80℃で1〜3日間程度加熱することにより、硬化剤による接着剤の架橋を進行させて接着力を向上させるためのエージング処理することが好ましい。
図3は、本発明に係る銀付調人工皮革の製造方法の別の例の各工程を模式断面図で示した模式工程図である。本製造方法においては、はじめに、図3(a)に示すように支持基材である剥離シート5上にEVOH塗液を塗布し、乾燥することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜4を形成し、剥離シート付表面保護膜6を製造する。そして、図3(b)に示すように、剥離シート付表面保護膜6の表面保護膜4の表面にさらに上述したような接着剤を塗布し、乾燥することにより表面保護膜4に接着剤層3を積層形成する。そして、図3(c)に示すように、銀面層2と接着剤層3とが対向するようにして剥離シート付表面保護膜6を配置してプレスし、接着剤を硬化させることにより接着剤層3と銀面層2とを接着させる。そして、図3(d)に示すように、表面保護膜4に被着されている剥離シート5を剥離することにより、銀付調人工皮革20が形成される。
なお、上記本製造方法においては、表面保護膜4の表面にのみ接着剤層3を形成して銀面層2と接着させたが、このような形態の代わりに銀面層2の表面に形成しても、または、表面保護膜4の表面と銀面層2の表面の両方に接着剤層を形成してもよい。
また、接着剤層を形成して接着する代わりに、剥離シート付表面保護膜6を60〜100℃程度に加熱することにより表面保護膜4を軟化させて銀面層2の表面に貼り合せ、熱ラミネートロールを通過させることにより剥離シート付表面保護膜6と銀面層2とをラミネートして貼り合せてもよい。熱ラミネートロールの温度としては、100〜150℃、さらには120〜140℃程度であることが好ましい。熱ラミネートロールの温度が低すぎる場合には接着力が低下する傾向があり、熱ラミネートロールの温度が高すぎる場合には銀面層やその表面に形成されたシボが変形したりするおそれがある。
また、図4は、本発明に係る銀付調人工皮革の製造方法のさらに別の例の各工程を模式断面図で示した模式工程図である。本製造方法は、シボ付離型紙に形成した表面保護膜に銀面層を積層形成し、この銀面層を不織布基材の表面に貼り合せる方法である。
はじめに、図4(a)に示すようにシボ付離型紙15の表面にEVOH塗液を塗布し、乾燥することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜4を形成する。次に、図4(b)に示すように表面保護膜4の表面に接着剤を塗布し、乾燥することにより表面保護膜4の表面に接着剤層3を形成する。次に、図4(c)に示すように、接着剤層3の表面に銀面層を形成するための樹脂を塗布し、硬化させることにより銀面層2を積層形成する。そして、図4(d)に示すように、シボ付離型紙15、表面保護膜4、接着剤層3、銀面層2の順に形成された銀面層構成体の表面に接着剤層13を形成する。そして、図4(e)に示すように、銀面層2の表面に形成された接着剤層13を不織布基材1に対向するように貼り合せてプレスし、必要に応じて加熱することにより接着剤層13と不織布基材1とを接着させる。最後に、図4(f)に示すシボ付離型紙15を剥離することにより、図4(g)に示すように銀付調人工皮革30が形成される。
さらに、図5は、本発明に係る銀付調人工皮革の製造方法のさらに別の例の各工程を模式断面図で示した模式工程図である。本製造方法は、溶融押出ラミネート法により形成された剥離シート付表面保護膜を用いて銀付調人工皮革を製造する方法である。
はじめに、溶融押出機で混練された、EVOH共重合体を主成分とする樹脂組成物を多層Tダイを用いて剥離シート5上に溶融状態のまま押出し、剥離シート5と冷却ロールとの間でニップすることによりラミネートと同時に冷却固化させることにより、剥離シート5上に表面保護膜24が積層された剥離シート付表面保護膜26を形成させる。このとき、剥離シート付表面保護膜26に形成された表面保護膜24に積層するように接着剤層23を共押出することが好ましい。このような方法により図5(a)に示すような、剥離シート付表面保護膜26の表面保護膜24に接着剤層23が積層された構成体が形成される。なお、表面保護膜24と接着剤層23と積層して共押し出しする代わりに、接着剤層のみを塗工により形成してもよい。そして、図5(b)に示すように、銀面層2と接着剤層23とが対向するようにして剥離シート付表面保護膜26を配置してプレスし、接着剤を硬化させることにより接着剤層23と銀面層2とを接着させる。そして、図5(c)に示すように、表面保護膜24に被着されている剥離シート5を剥離することにより、銀付調人工皮革40が形成される。
また、溶融押出ラミネート法で得られた剥離シート付表面保護膜26に接着剤層を形成して接着する代わりに、剥離シート付表面保護膜26を60〜100℃程度に加熱することにより表面保護膜24を軟化させて銀面層2の表面に貼り合せ、熱ラミネートロールを通過させることにより剥離シート付表面保護膜6と銀面層2とをラミネートして直接貼り合せてもよい。
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分としてエチレン変性ポリビニルアルコール、島成分としてイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用い、口金温度260℃に設定された、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成するノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に溶融樹脂を供給し、ノズル孔から吐出させた。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。
そして、吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が2.1dtexの海島型長繊維を紡糸した。紡糸された海島型長繊維は、可動型のネット上に連続的に堆積され、42℃の金属ロールで軽く押さえられた。そして、海島型長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、目付34g/m2のウェブが得られた。
次に、総目付が340g/m2になるようにウェブをクロスラッパー装置を用いて10層に重ね、ニードルパンチングすることにより絡合ウェブを得た。そして、得られた絡合ウェブを湿熱収縮処理及び乾熱ロールプレスすることにより緻密化ウェブを得た。
そして、緻密化ウェブに、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする架橋型の水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度16%)を含浸させ、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、架橋させた。このようにして、絡合ウェブ/ポリウレタンの質量比が90/10のポリウレタン含有絡合ウェブを形成した。
次に、ポリウレタン含有絡合ウェブを95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、厚さ約1mmの不織布基材が得られた。得られた不織布基材に含有される極細繊維絡合体の見かけ密度は0.47g/cm3であり、極細繊維絡合体/ポリウレタンの質量比は88/12であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の繊度は0.2dtexであった。そして得られた不織布基材を厚さ方向に2分割し、0.37mmに研削した。
一方、深さ10μm程度のシボ模様を有する厚み20μmのシボ付剥離紙の表面にポリカーボネート系無黄変タイプのポリウレタン樹脂の溶液を塗布し、80℃で10分間乾燥することにより厚み30μmの非発泡ポリウレタンの膜を形成した。そして、形成した膜の表面に、着色剤を含有するポリカーボネート系無黄変タイプの2液硬化型ポリウレタン溶液をさらに塗布し、50℃で3分間乾燥することにより厚み120μm非発泡ポリウレタンの膜を形成した。このようにして総厚み150μmの銀面層を形成した。
そして、不織布基材の一面にシボ付剥離紙に形成された銀面層を貼り合わせ、80℃で2分間加熱し、その後、40℃で3日間エージングした後、剥離紙を剥離した。このようにして銀付調人工皮革基材が得られた。
次に、銀付調人工皮革基材の銀面層の表面に、乾燥後の厚みが1μmになるように接着剤をワイアーバーで5g/m2塗布し、60℃で5分間乾燥することにより接着剤層を形成した。接着剤としてはウレタン系接着剤(村山化学(株)製のサンプレックス435A)を20%イソプロパノール(IPA)水溶液で20%濃度に希釈し、ブロックイソシアネート系硬化剤(DIC(株)製)5%を添加したものを用いた。
次にEVOH塗液を調製した。具体的には、EVOH共重合体(A1)(エチレン含有率44モル%、けん化度99%である(株)クラレ製のエバールE105)10質量部、n−プロパノール52質量、水28質量部、及び Nメチルピロリドン10質量部を混合し、75℃に加熱してEVOH共重合体(A1)を溶解させることにより無色透明のEVOH溶液(A)を得た。
次に、EVOH共重合体(B1)(エチレン含有率48モル%、けん化度99%である(株)クラレ製のエバールG156)10質量部、n−プロパノール81質量部、水9質量部を混合し、70℃に加熱してEVOH共重合体(B1)を溶解し無色透明な溶液を得た後、15℃、24時間、ホモジナイザーで強攪拌し、微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(B)を得た。
そして、得られたEVOH溶液(A)とEVOH溶液(B)とを質量比で60/40の割合で混合し、30℃に制御しながら強攪拌することによりEVOH塗液(I)を得た。
そして、銀面層の表面に形成した接着剤層の表面に、乾燥後の厚みが0.5μmになるようにEVOH塗液(I)をワイアーバーで5g/m2塗布し、80℃で5分間乾燥することにより表面保護膜を形成した。このようにし、最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、次のような方法により評価した。
[評価方法]
(全光線透過率)
厚み50μmの表面平滑なPETフィルム(東洋紡製A4100)の表面に上述した表面保護膜の形成条件と同様の条件で表面保護膜を形成した。そして、東洋精機(株)製の直読ヘイズメーターを用いて、ASTM D1003に準じた方法により全光線透過率を測定した。
(光沢度)
堀場製作所(株)製グロスチェッカーIG-33Tを用い、銀付調人工皮革の銀面層側の表面のJIS Z8741で規定する光沢度を角度60度で測定した。
(意匠性)
銀付調人工皮革の銀面層のシボ模様を表面保護層を介して観察し、そのときのシボの立体感、艶消感、色目を下記の基準に従って判定した。
〈シボの立体感〉
A:シボ模様の立体感が失われていなかった。
B:シボ模様の立体感がやや失われていた。
C:シボ模様の立体感が明らかに失われていた。
〈艶消感〉
A:艶消感が高かった。
B:艶消感が低かった。
〈色目〉
A:銀面層の鮮やかな色が失われていなかった。
B:表面保護層の透明感が低く、銀面層の鮮やかな色が失われていた。
C:表面保護層と銀面層との間にエアを巻き込み、銀面層の鮮やかな色が失われていた。
(セロハンテープ剥離)
銀付調人工皮革の銀面層側の表面に、ニチバン(株)製のセロハンテープを貼付け、充分密着させた後、未接着部分のセロハンテープを手で持って斜め方向(約45°の方向)に急激に引っ張って剥離した。そして剥離面を目視で観察し以下の基準で判定した。
A:全く剥がれなかった。
B:一部分が剥がれた
(耐傷付性)
テーバー式スクラッチテスター(テスター産業(株)製、HA−201)を用いて傷付きテストを行ない、傷が認められたときの最小荷重を測定した。
(触感)
業界の5人のパネリストに、20×20cmに切り出した銀付調人工皮革を触ったり折り曲げたりしたときの触感を以下の基準で判定させた。
A:反発感が極めて低く非常にしなやかであり、牛皮革と同等の高級感のある感触である。
B:牛皮革よりやや反発感は感じられるものの、充分に柔軟性を有する。
C:牛皮革より反発感が明らかに高く、しなやかさに乏しい。
D:牛皮革に比べて明らかに硬すぎてしなやかさが失われている。
(防汚性)
20×20cmに切り出した銀付調人工皮革の表面の一部分に油性の赤色インキ(三菱鉛筆(株)製の三菱マーカー)で線を書き、24時間後にベンジンで湿らせたガーゼで拭き取った。また、別の部分に、醤油(キッコーマン(株)製キッコーマン濃口)を塗布し、24時間後に台所用合成洗剤(ライオン(株)製のママレモン)で湿らせたガーゼで拭き取った。そして、そのときの表面の汚れを以下の基準で判定した。
A:汚れが全く残っていない。
B:気にならない程度の汚れが残っている。
C:明らかな汚れが残る。
D:拭き後が残っている、または表面層が剥離している。
評価結果を下記表1に示す。
Figure 2014181413
[実施例2]
実施例1において、乾燥後の厚みが0.5μmになるようにEVOH塗液(I)を塗布する代わりに、乾燥後の厚みが0.1μmになるようにEVOH塗液(I)を塗布した以外は実施例1と同様にして、最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1のEVOH塗液の調製においてEVOH溶液(B)を用いた代わりに、下記のようにして調製されたEVOH溶液(C)を用いた以外同様にして、EVOH塗液(II)を調製した。そして、実施例1において、EVOH塗液(I)を用いて乾燥後の厚みが0.5μmの表面保護膜を形成した代わりに、EVOH塗液(II)を用いて乾燥後の厚みが2.2μmの表面保護膜を形成した以外は実施例1と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
EVOH共重合体(B1)10質量部、メタノール81質量部、水9質量部を混合し、70℃に加熱してEVOH共重合体(B1)を溶解し無色透明な溶液を得た後、15℃、24時間、ホモジナイザーで強攪拌し、微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(C)を得た。
[実施例4]
実施例1のEVOH塗液の調製において、無色透明のEVOH溶液(A)と微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(B)とを質量比で60/40の割合で混合した代わりに、EVOH溶液(A)とEVOH溶液(B)とを質量比で80/20の割合で混合した以外は同様にしてEVOH塗液(III)を調製した。
そして、表面光沢度20%である粗面化処理された面を有する厚さ50μmのマット化PETシート(東レ(株)製のルミラーX−42)の粗面化面に、乾燥後の厚みが0.5μmになるようにEVOH塗液(III)をワイアーバーで5g/m2で塗布し、120℃で5分間乾燥することにより表面保護膜を形成した。このようにして、マット化PETシート付表面保護膜を得た。
次に、マット化PETシート付表面保護膜の表面保護膜に接着剤をワイアーバーで乾燥後の厚みが1μmになるように5g/m2塗布し、60℃で5分間乾燥することにより接着剤層を形成した。なお接着剤としては、実施例1で用いたものと同様のものを用いた。
そして、実施例1で得られたのと同様の人工皮革基材の銀面層に接着剤層が対向するようにマット化PETシート付表面保護膜を配置し、熱ラミネートロールに通して、150℃、1秒間の条件で熱ラミネートした。そして、室温に冷却後、マット化PETシートを剥離することにより、最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1のEVOH塗液の調製においてEVOH溶液(B)を用いた代わりに、下記のようにして調製されたEVOH溶液(D)を用いた以外同様にして、EVOH塗液(IV)を調製した。そして、実施例1において、EVOH塗液(I)を用いて乾燥後の厚みが0.5μmの表面保護膜を形成した代わりに、EVOH塗液(IV)を用いて乾燥後の厚みが2.2μmの表面保護膜を形成した以外は実施例1と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
EVOH共重合体(A1)10質量部、n−プロパノール43質量部、水18質量部、メタノール29質量部を混合し、70℃に加熱してEVOH共重合体(A1)を溶解し無色透明な溶液を得た後、15℃、24時間、ホモジナイザーで強攪拌し、微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(D)を得た。
そして、実施例1において、EVOH塗液(I)を用いて表面保護膜を形成した代わりに、EVOH塗液(IV)を用いて表面保護膜を形成した以外は実施例1と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1において、銀面調人工皮革基材の銀面層の表面に接着剤層を介して、表面保護膜を形成する代わりに、次のようにして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得た。
シボ付剥離紙(リンテック(株)製TP R−8)の表面に、実施例1で調製した無色透明のEVOH溶液(A)をワイアーバーで乾燥後の厚みが0.5μmになるように5g/m2塗布し、120℃で5分間乾燥することにより表面保護膜を形成し、剥離紙付表面保護膜を得た。実施例1においてシボ付剥離紙の表面に総厚み90μmの銀面層を形成する代わりに、この剥離紙付表面保護膜の表面に総厚み90μmの銀面層を形成した。
そして、不織布基材の一面に剥離紙付表面保護膜に形成された銀面層を貼り合わせ、80℃で2分間乾燥し、その後、40℃で3日間エージングした後、剥離紙を剥離した。このようにし、最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例7]
EVOH共重合体(A1)80質量部と変性率0.09モル%の無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン樹脂20質量部とを二軸押出機で混練しペレット化した。そして、得られたペレットを用いて2種2層共押出フィルム製膜機を用いた押出しラミネート法によりマット化PETシートの表面に厚み5μmの表面保護膜を積層し、マット化PETシート付表面保護膜を得た。実施例4のマット化PETシート付表面保護膜に代えて、上記得られたマット化PETシート付表面保護膜を用いた以外は実施例4と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例7において、マット化PETシートの表面に厚み5μmの表面保護膜を形成する代わりに、厚み3μmの表面保護膜を形成し、表面保護膜の表面にさらに厚み2μmの接着剤層(不飽和ジカルボン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体(日本ユニカー製、ナックエースGB301))を積層して接着剤層を備えたマット化PETシート付表面保護膜を得た。そして、実施例1で得られたのと同様の人工皮革基材の銀面層に形成された接着剤層が対向するようにマット化PETシート付表面保護膜を配置し、熱ラミネートロールに通して、150℃、1秒間の条件で熱ラミネートした。そして、室温に冷却後、マット化PETシートを剥離することにより、最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
実施例7において、厚み5μmの表面保護膜を形成する代わりに厚み10μmの表面保護膜を形成した以外は同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1で作成した表面保護膜を積層していない銀付調人工皮革基材を用いて実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1のEVOH塗液の調製において、無色透明のEVOH溶液(A)と微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(B)とを質量比で60/40の割合で混合したEVOH塗液(I)を用いる代わりに、無色透明のEVOH溶液(A)のみを塗液として用いた以外は実施例1と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例4においてマット化PETシート付表面保護膜を接着剤層を介して銀面層に貼り合せる代わりに、マット調の厚み14μmのEVOHフィルム(クラレ(株)製 HF−ME)を接着剤層を介して銀面層に貼り合せて表面保護膜を形成した以外は実施例4と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例1のEVOH塗液の調製においてEVOH溶液(A)とEVOH溶液(B)とを質量比で60/40の割合で混合したEVOH塗液(I)を用いる代わりに、下記のようにして調製されたEVOH溶液(E)のみをEVOH塗液として用い、また、乾燥後の厚みを0.5μmにする代わりに2.2μmにした以外は実施例1と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
EVOH共重合体(A1)10質量部、水9質量部、メタノール81質量部を混合し、70℃に加熱してEVOH共重合体(A1)を溶解し無色透明な溶液を得た後、15℃、24時間、ホモジナイザーで強攪拌し、微粒子状のゲル化粒子を含むEVOH溶液(E)を得た。
[比較例5]
実施例7において、ペレットの組成をEVOH共重合体(A1)80質量部と変性率0.09モル%の無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン樹脂20質量部の代わりに、EVOH共重合体(A1)65質量部と変性率0.09モル%の無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン樹脂15質量部と無機フィラーとしてタルク(重量平均径1.5μm)20質量部とを二軸押出機で混練しペレット化し、厚み5μmの代わりに、厚み10μmの表面保護膜を作製した以外は、実施例7と同様にして最表層に表面保護膜を有する銀付調人工皮革を得、評価した。結果を表1に示す。
表1を参照すると、本発明に係る実施例1〜9で得られた銀付調人工皮革はいずれも、表面保護膜が高い艶消感と光透過性を発現し、艶消感と発色とのバランスに優れたものであった。また、表面保護膜と銀面層の接着性にも優れていた。一方、表面保護膜を形成していない比較例1の場合には耐汚染性が劣っていた。また、光沢度が90%に調整された比較例2の場合には艶消感が劣っていた。また、厚みが14μmの表面保護膜を有する比較例3の銀付調人工皮革の場合には、表面保護膜と銀面層との接着性が低く、またシボの立体感も悪かった。また、高い光沢度の表面保護膜を有する比較例4の場合にも艶消感が劣っていた。また、タルク20質量%を含有させてマット感を付与した表面保護膜を備える比較例5の銀付調人工皮革は光沢度は抑えられたものの、光透過率が著しく低下し、艶消感と発色とのバランスおよび接着性に劣っていた。
本発明の銀付調人工皮革は、防汚性、意匠性(表面光沢)、及び耐傷付性等が要求される靴、スポーツシューズ、鞄、ベルト、ランドセル、カメラケース、ボール類、家具、乗物用座席、衣料、手袋、野球用グローブ、服飾品、住居などの壁装材に広く利用されている。紳士靴、スポーツシューズ、鞄、ベルト、カメラケース、ランドセル、ボール類、家具、乗物用座席、衣料、手袋、野球用グローブ、鞄、ベルトまたはバッグで代表される皮革製品に適用できる。
1 不織布基材(層)
2 銀面層
3,13,23 接着剤層
4,24 表面保護膜
5 剥離シート
15 シボ付離型紙
6,26 剥離シート付表面保護膜
10,20,30,40 銀付調人工皮革

Claims (10)

  1. 不織布基材層と、前記不織布基材層に積層された銀面層と、前記銀面層に積層された表面保護膜とを備え、
    前記表面保護膜は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH共重合体)を主成分とし、全光線透過率が80%以上である厚み0.1〜10μmの皮膜であり、
    前記銀面層側の表面は、JIS Z 8741で規定された光沢度5〜60%を示すことを特徴とする銀付調人工皮革。
  2. 前記表面保護膜は、第一のEVOH共重合体と、前記第一のEVOH共重合体のエチレン含有率よりも1〜10モル%高いエチレン含有率を有する第二のEVOH共重合体とを含有する請求項1に記載の銀付調人工皮革。
  3. 前記表面保護膜は、ポリオレフィン系樹脂を含有する請求項1に記載の銀付調人工皮革。
  4. 前記表面保護膜の外表面が粗面化されている請求項1〜3の何れか1項に記載の銀付調人工皮革。
  5. 前記粗面化された面は、JIS Z8741で規定する光沢度が3〜60%になるように粗面化処理されたマット化PETフィルムの該粗面化面を転写して粗面化されて形成された面またはそれと同等の光沢を示すように粗面化された面である請求項4に記載の銀付調人工皮革。
  6. 前記不織布基材層は極細繊維の繊維絡合体を含み、
    前記銀面層はポリウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を主成分として含有する請求項1〜5の何れか1項に記載の銀付調人工皮革。
  7. 不織布基材層と前記不織布基材層に積層された銀面層とを備える銀付調人工皮革基材を準備する工程と、
    第一のEVOH共重合体を含有する溶液と前記第一のEVOH共重合体のエチレン含有率よりも1〜10モル%高いエチレン含有率を有する第二のEVOH共重合体を含有する溶液とを混合して得られた、未溶解、膨潤、またはゲル化したEVOH共重合体を含有する塗液を調製する工程と、
    前記塗液を乾燥後の厚みが0.1〜10μmになるように前記銀面層の最表面に塗布し、乾燥する工程と、を備える銀付調人工皮革の製造方法。
  8. 不織布基材層と前記不織布基材層に積層された銀面層とを備える銀付調人工皮革基材を準備する工程と、
    第一のEVOH共重合体を含有する溶液と前記第一のEVOH共重合体のエチレン含有率よりも1〜10モル%高いエチレン含有率を有する第二のEVOH共重合体を含有する溶液とを混合することにより、未溶解、膨潤、またはゲル化したEVOH共重合体を含有する塗液を調製する工程と、
    前記塗液を乾燥後の厚みが0.1〜10μmになるように剥離シートの表面に塗布し、乾燥することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜を備えた剥離シート付表面保護膜を形成する工程と、
    前記剥離シート付表面保護膜の表面保護膜を前記銀面層に積層一体化する工程と、を備える銀付調人工皮革の製造方法。
  9. 不織布基材層と前記不織布基材層に積層された銀面層とを備える銀付調人工皮革基材を準備する工程と、
    マット化PETフィルムの粗面化面にEVOH共重合体を含有する溶液を乾燥後の厚みが0.1〜10μmになるように塗布し、乾燥することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜を備えた剥離シート付表面保護膜を形成する工程と、
    前記剥離シート付表面保護膜の表面保護膜と前記銀面層とを貼り合せる工程と、を備える銀付調人工皮革の製造方法。
  10. 不織布基材層と前記不織布基材層に積層された銀面層とを備える銀付調人工皮革基材を準備する工程と、
    EVOH共重合体とポリオレフィン系樹脂とを溶融混練し、成膜後の厚みが0.1〜10μmになるように剥離シートの表面に積層することによりEVOH共重合体を主成分とする表面保護膜を備えた剥離シート付表面保護膜を形成する工程と、
    前記剥離シート付表面保護膜の表面保護膜を前記銀面層に積層一体化する工程と、を備える銀付調人工皮革の製造方法。
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