JP2014172066A - アーク溶接制御方法およびアーク溶接装置 - Google Patents

アーク溶接制御方法およびアーク溶接装置 Download PDF

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Abstract

【課題】ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返しながら短絡とアークとを交互に発生させる溶接では、溶接電圧を設定電圧に合わせることが難しい。その理由は、アーク期間が固定されているため、決められた時間内に溶接電圧を制御する必要があるためである。もし無理に溶接電圧を制御しようとゲインを上げてしまうと、アーク長の変動が大きくなり、アークの不安定化につながる可能性がある。従って、安定して溶接電流や溶接電圧を制御することが難しい。
【解決手段】ワイヤを被溶接物側に送給する正送と、正送とは反対方向に送給する逆送とを繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法であり、予め設定された設定電圧と溶接中の所定期間における平均電圧とを比較し、設定電圧と平均電圧との差に基づいてワイヤ送給速度を制御することで、出力電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定化することができる。
【選択図】図3

Description

本発明は、消耗電極である溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返しながら短絡状態とアーク状態とを交互に発生させて溶接を行うアーク溶接制御方法およびアーク溶接装置に関する。
溶接作業工程におけるロス工程の一つとして、スパッタ除去工程がある。スパッタ除去工程を少なくするためには、スパッタの低減が必要である。スパッタの低減を目的として、ワイヤ送給速度として正送と逆送とを繰り返し、短絡状態とアーク状態とを交互に発生させて溶接を行う消耗電極式アーク溶接が知られている。
図13は、従来のアーク溶接制御方法におけるワイヤ送給速度と溶接出力の時間波形を示す図である。例えば、溶接ワイヤを送給しながら短絡状態とアーク状態とを交互に発生させて溶接を行うアーク溶接制御方法に関し、下記の方法が知られている。すなわち、ワイヤ送給速度として正送と逆送とを周期的に繰り返すようにワイヤ送給モータを制御する送給速度制御器と、この送給速度制御器の増減信号を受けて、図13に示すようにワイヤ供給量が少ない期間は溶接出力が低出力になるように出力を制御し、ワイヤ供給量が多い期間は溶接出力が高出力になるように出力を制御する出力制御器とを設ける。これにより、短絡状態の時、ワイヤ溶融塊の移行力としてワイヤ送給速度を減じることによる離脱力を利用でき、スパッタ発生の主要な原因となる短絡電流を低減しても、安定した短絡移行溶接が持続できる(例えば、特許文献1参照)。
一般的なアーク溶接制御方法では、設定電流に対応するワイヤ送給速度により溶接ワイヤを一定速度で送給する。そして、出力電圧が設定電圧に合うようにアーク期間に制御される溶接電圧に基づいて溶接電流を出力する制御を行っている。一方、特許文献1に記載された溶接制御では、図13に示すように、ワイヤ送給速度として正送と逆送とを周期的に繰り返して増減させる。そして、ワイヤ供給量が少ない期間は溶接出力を低出力に制御し、ワイヤ供給量が多い期間は溶接出力を高出力に制御する。このような制御方法では、短絡1周期中に短絡期間とアーク期間とが一定の比率で発生する。このことから、アークが安定し、スパッタの発生の低減が可能となる。
特開昭62−6775号公報
しかしながら、溶接電圧を設定電圧に合わせることは難しい。その理由は、特許文献1の場合、短絡とアークが一定の比率で発生する。すなわち、アーク期間が一定となり、アーク期間が固定される。従って、固定された時間内に溶接電圧を制御する必要があるためである。また、無理に溶接電圧を制御しようとしてゲインを上げてしまうと、アーク長の変動が大きくなり、アークの不安定化につながる可能性がある。これらにより、従来のアーク溶接制御方法では、溶接電流および溶接電圧を安定して制御することが難しいという課題があった。
上記課題を解決するために、本発明のアーク溶接制御方法は、消耗電極である溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、前記溶接ワイヤを前記被溶接物側に送給する正送と、前記溶接ワイヤを前記正送とは反対方向に送給する逆送とを繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法であって、予め設定された設定電圧と溶接中の所定期間における平均電圧とを比較し、前記設定電圧と前記平均電圧との差に基づいて前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、ワイヤ送給速度の平均速度を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの平均速度よりも低くなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値よりも大きくなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間よりも長くなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量よりも少なくなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、ワイヤ送給速度の平均速度を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの平均速度よりも高くなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値よりも大きくなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間よりも長くなるように、ワイヤ送給制御を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量よりも少なくなるように、ワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧と平均電圧との差がない場合には、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しを、所定の周期と所定の振幅で周期的に変化させて行うものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、ワイヤ送給速度の周期的な変化を、正弦波状または台形波状の変化としたものである。
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、設定電圧と平均電圧との差がない場合には、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しは、周期的ではなく、溶接状態が短絡状態であることを検出すると逆送を行い、前記溶接状態がアーク状態であることを検出すると正送を行うものである。
また、本発明のアーク溶接制御装置は、消耗電極である溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、前記溶接ワイヤを前記被溶接物側に送給する正送と、前記正送とは反対方向に送給する逆送とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、前記溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給部と、設定電流を設定するための設定電流設定部と、
設定電圧を設定するための設定電圧設定部と、溶接電圧を検出する溶接電圧検出部と、前記溶接電圧検出部の検出結果に基づいて溶接中の所定期間における平均電圧を算出して前記平均電圧と前記設定電圧との差を求める演算部と、前記設定電流設定部の出力と前記演算部の出力に基づいて前記ワイヤ送給部を制御するワイヤ送給制御部と、を備え、前記設定電圧と前記平均電圧との差に基づいて前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御するものである。
また、本発明のアーク溶接制御装置は、上記に加えて、設定電流に基づいて溶接ワイヤの平均送給速度を設定する平均送給速度設定部を備え、設定電圧と平均電圧との差に基づいて、溶接ワイヤの平均送給速度を、前記平均送給速度設定部で設定した平均送給速度とは異なる平均送給速度となるように前記溶接ワイヤの送給を制御するものである。
以上のように、本発明は、予め設定された設定電圧と溶接中の所定期間における平均電圧とを比較し、設定電圧と平均電圧との差に基づいて溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御することで、出力電圧を設定電圧に合わせるようにすることができる。
これにより、溶接電圧を安定して制御することができる。そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こし難くすることができる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定したアーク溶接を実現することができる。
本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図 本発明の実施の形態1におけるワイヤ送給速度と溶接電圧と溶接電流の時間波形を示す図 本発明の実施の形態1におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態2におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態2におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態3におけるワイヤ送給速度と溶接電圧と溶接電流の時間波形を示す図 本発明の実施の形態4におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態4におけるワイヤ送給速度と溶接電圧の時間波形を示す図 本発明の実施の形態5におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態6におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態7におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 本発明の実施の形態8におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図 従来のワイヤ送給速度と溶接出力の時間波形を示す図
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、アーク溶接装置は、消耗電極である溶接ワイヤ20と被溶接物23との間でアーク状態と短絡状態とを繰り返し発生させて溶接を行う装置である。溶接ワイヤ20は、ワイヤ送給モータ19により、所定の周期と所定の振幅とで周期的に正送と逆送とが繰り返される。溶接ワイヤ20は、溶接ワイヤ20に給電するための溶接チップ21内を通り、溶接ワイヤ20の先端から被溶接物23へ溶接アーク22を放電している。なお、ワイヤ送給モータ19は、ワイヤ送給制御部32により制御される。
本実施の形態1のアーク溶接装置は、例えば、以下のように構成される。図1に示すように、アーク溶接装置において、入力電源1からの電力は1次整流部2で整流され、1次整流部2の出力はスイッチング部3により交流電圧に変換される。この交流電圧はトランス4により降圧され、2次整流部5およびインダクタであるDCL6により整流され、溶接ワイヤ20と被溶接物23との間に印加される。
また、アーク溶接装置は、スイッチング部3を制御するための駆動部7と、溶接用電源出力端子間に接続されている溶接電圧検出部8と、溶接出力電流を検出する溶接電流検出部9と、溶接電圧検出部8からの信号に基づいて短絡状態であるのかアーク状態であるのかを判定する状態検出部10と、状態検出部10から短絡状態であることを示す信号を受けて短絡期間Ts中に短絡電流の制御を行う短絡制御部11と、状態検出部10からアーク状態であることを示す信号を受けてアーク期間Ta中にアーク電圧の制御を行うアーク制御部12と、を備えている。
さらに、アーク溶接装置は、電流を設定するための設定電流設定部13と、電圧を設定するための設定電圧設定部25と、所定期間の出力電圧の平均電圧と設定電圧設定部25で設定された設定電圧との差を求める差分計算部26とを備えている。
また、アーク溶接装置は、設定電流に基づいて溶接ワイヤ20の基準送給速度(平均送給速度)を決定する平均送給速度設定部24と、溶接ワイヤ20を正送と逆送に台形波状に周期的に繰り返し送給制御するための周波数を設定電流に基づいて決定する周波数基本設定部14と、溶接ワイヤ20を正送と逆送に台形波状に周期的に繰り返し送給制御するための速度振幅を設定電流に基づいて決定する速度振幅基本設定部15と、設定電流に基づいて台形波状のピーク時間Tpを決定するピーク時間基本設定部16と、設定電流に基づいて台形波状の立ち上がり時間Trを決定するピーク立ち上がり時間基本設定部17と、設定電流に基づいて台形波状の立ち下がり時間Tfを決定するピーク立ち下がり時間基本設定部18を備えている。なお、平均送給速度設定部24の出力と速度振幅基本設定部15の出力により、正送と逆送各々のワイヤ送給速度のピーク値が決まる。
さらに、アーク溶接装置は、平均送給速度制御部27と、振幅制御部28と、ピーク時間制御部29と、ピーク立ち上がり時間制御部30と、ピーク立ち下がり時間制御部31を備えている。
平均送給速度制御部27は、平均送給速度設定部24によって設定された基準送給速度(平均送給速度)を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて変更する。例えば、電圧差に基づいて基準送給速度を大きさ方向にシフトする。また、振幅制御部28は、速度振幅基本設定部15によって設定された速度振幅を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて変更する。また、ピーク時間制御部29は、ピーク時間基本設定部16によって設定されたピーク時間を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて変更する。また、ピーク立ち上がり時間制御部30は、ピーク立ち上がり時間基本設定部17によって設定された立ち上がり時間を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて変更する。また、ピーク立ち下がり時間制御部31は、ピーク立ち下がり時間基本設定部18によって設定された立ち下がり時間を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて変更する。
なお、平均送給速度制御部27により平均送給速度が変更されるおよび/または振幅制御部28により速度振幅が変更されることにより、正送と逆送各々のワイヤ送給速度の変更後のピーク値が決まる。
そして、平均送給速度制御部27で決定した平均送給速度と、周波数基本設定部14で決定した周波数と、振幅制御部28で決定したピーク値と、ピーク時間制御部29で決定したピーク時間と、ピーク立ち上がり時間制御部30で決定したピーク立ち上がり時間と、ピーク立ち下がり時間制御部31で決定したピーク立ち下がり時間の各々が、ワイヤ送給モータ19に入力され、溶接ワイヤ20の送給が制御される。なお、差分計算部26によって算出された電圧差がゼロの場合には、各パラメータの変更は行われず、平均送給速度設定部24、周波数基本設定部14、速度振幅基本設定部15、ピーク時間基本設定部16、ピーク立ち上がり時間基本設定部17、ピーク立ち下がり時間基本設定部18の出力により、ワイヤ送給モータ19による溶接ワイヤ20の送給が制御される。
ここで、平均送給速度設定部24には、設定電流と平均送給速度とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と設定電流とに基づいて平均送給速度が決定される。同様に、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18も、設定電流と各々とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と設定電流とに基づいて、各々の値が決定される。
また、平均送給速度制御部27には、電圧差と基準送給速度(平均送給速度)の変化量とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と電圧差とに基づいて変化量が決定され、そして、平均送給速度が決定される。同様に、振幅制御部28には、電圧差と速度振幅の変化量とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と電圧差とに基づいて変化量が決定され、そして、速度振幅が決定される。同様に、ピーク時間制御部29には、電圧差とピーク時間の変化量とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と電圧差とに基づいて変化量が決定され、そして、ピーク時間が決定される。同様に、ピーク立ち上がり時間制御部30には、電圧差とピーク立ち上がり時間の変化量とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と電圧差とに基づいて変化量が決定され、そして、ピーク立ち上がり時間が決定される。同様に、ピーク立ち下がり時間制御部31には、電圧差とピーク立ち下がり時間の変化量とを関係付けたテーブルあるいは関係式が設けられており、このテーブルあるいは関係式と電圧差とに基づいて変化量が決定され、そして、ピーク立ち下がり時間が決定される。
なお、図1で示したアーク溶接装置を構成する各構成部は、各々単独に構成してもよいし、複数の構成部を複合して構成するようにしてもよい。
次に、アーク溶接装置のワイヤ送給制御について説明する。なお、上記のように、ワイヤ送給速度を変更するやり方は種々ある。本実施の形態1では、平均送給速度設定部24によって設定された基準送給速度(平均送給速度)を、差分計算部26によって算出された電圧差に基づいて、平均送給速度制御部27が変更することにより平均電圧を設定電圧に近づける例について説明する。
図2は、本実施の形態1におけるワイヤ送給速度と溶接電圧と溶接電流の時間波形を示す図である。
本実施の形態1において、ワイヤ送給速度の変化として、台形波状の例を示している。そして、設定電流に基づいて、台形波状のワイヤ送給制御のピーク時間Tpと、立ち上がり時間Trと、立ち下がり時間Tfのうちの少なくともいずれかを決定するようにしている。
すなわち、本実施の形態1のアーク溶接制御方法は、設定電流に応じたワイヤ送給速度を基準送給速度(平均送給速度)とし、所定の周期T(所定の周波数Fの逆数)と所定の速度振幅AVで溶接ワイヤ20の正送と逆送とを周期的に繰り返し、短絡状態とアーク状態とを発生させて溶接を行うものである。そして、このアーク溶接制御方法は、所定の周期Tと所定の速度振幅AVのうちの少なくともいずれかを、設定電流に応じた値とし、溶接ワイヤ20のワイヤ送給速度を台形波状に変化させて溶接ワイヤ20の送給を行うものである。
図3は、本実施の形態1において、設定電圧と比較して溶接中の所定期間の出力電圧の平均電圧が低い場合のワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。設定電圧設定部25によって設定した設定電圧と比較して、平均出力電圧が低い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、平均送給速度制御部27へと送られる。本実施の形態1において、設定電圧と比較して平均出力電圧が低い場合、平均送給速度制御部27へと送られた電圧の差分値によって、平均送給速度制御部27は、電圧を上げる方向に働こうとする。電圧をアーク長と考えると電圧を上げるために、アーク長が長くなるよう平均送給速度を制御する。すなわち、平均送給速度を、設定電流に基づいて決定された基準送給速度(平均送給速度)よりも下げる。なお、平均送給速度は変更するが、送給波形の形状は変更しない。
このようにワイヤ送給速度を制御することで、被溶接物23への入熱は変わらず、送られる溶接ワイヤ20の量が減ることから溶接ワイヤ20が燃え上がり気味になり、電圧が上がる。図3において実線で示している波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、によって決定されるワイヤ送給速度の基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している波形が、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合のワイヤ送給速度の波形である。前述の通り、設定電圧と比べて平均電圧が低い場合は、電圧を上げるため、平均送給速度を下げている。なお、平均送給速度は下げているが、波形の形状は変えない。
なお、本実施の形態1では、ワイヤ送給速度の変化として台形波状の場合を示した。しかし、正弦波状としてもよい。
また、上記では、設定電圧に比べて平均電圧が低い場合について説明した。しかし、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、平均送給速度を、設定電流に基づいて決定された基準送給速度(平均送給速度)よりも上げるように制御する。
(実施の形態2)
本実施の形態2において、実施の形態1と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図4は、本実施の形態2におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態2は、設定電圧と比較して溶接中の所定期間の出力電圧の平均電圧が低い場合を想定している。
なお、実施の形態1では、波形の形状は変更せず、設定電圧と平均電圧との差に基づいて、平均送給速度をシフトすることで電圧差に対応する例を示した。しかし、本実施の形態2では、基準送給速度を基準とし、電圧差に基づいて逆送側のピーク値を変更して電圧差に対応する例を示す。
設定電圧設定部25によって決定した設定電圧と比較して、平均電圧が低い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、振幅制御部28へ送られる。
ここで、平均送給速度設定部24によって平均送給速度が決定され、かつ、速度振幅基本設定部15によって速度振幅が決定されると、差分値がゼロの場合に相当する基本となる正送側と逆送側の送給量のピーク値が決まる。すなわち、平均送給速度に速度振幅を加算することで、正送側の送給量のピーク値が決まる。また、平均送給速度から速度振幅を減算することで、逆送側の送給量のピーク値が決まる。
本実施の形態2において、設定電圧と比較して出力電圧が低い場合、振幅制御部28へと送られた電圧の差分値に基づいて、振幅制御部28は電圧を上げる方向に働こうとする。そして電圧を上げるために、速度振幅を変更し、ピーク値を制御する。すなわち、逆送時の逆送ピーク値を大きくする。なお、正送時の正送ピーク値は変更しない。
このようにワイヤ送給速度を制御することで、アーク長が瞬時に長くなり、出力電圧が高くなる。図4において、実線で示している波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、によって決定する基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している波形は、設定電圧に比べて出力電圧が低い場合の送給波形である。設定電圧に比べて出力電圧が低い場合は、出力電圧を上げるため、逆送時の逆送ピーク値を大きな値としている。なお、一点鎖線の箇所以外の波形は、実線と同様である。
なお、本実施の形態2では、設定電流に基づいてピーク時間Tpと、立ち上がり時間Trと、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流はワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態2によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、逆送送給量のピーク値を制御することにより、平均出力電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、本実施の形態2では、ワイヤ送給速度の変化として台形波状の場合を示した。しかし、図5に示すように、正弦波状としてもよい。ワイヤ送給制御が所定の周波数F(所定の周期T)と所定の速度振幅AVで正送と逆送とを周期的に繰り返す制御であれば、正弦波状でも台形波状でも、同様の性能を出すことができる。台形波状の送給制御が正弦波状の送給制御と異なる点は、台形波状のピーク時間Tpと、立ち上がり時間Trと、立ち下がり時間Tfを設定電流毎に適した値が設定できることである。
なお、図示していないが、設定電流とピーク時間Tpとの関係や、設定電流と立ち上がり時間Trとの関係や、設定電流と立ち下がり時間Tfとの関係を示す関係式は、1次関数でも良いし、2次関数など1次関数以外でも良い。
また、図示していないが、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfのうちの少なくともいずれかには、上限値および下限値のうちの少なくともいずれかを設けるようにしても良い。その理由は、アーク溶接装置の異常動作を防ぐためである。
なお、本実施の形態2においては、逆送側のピーク値を大きな値とすることで、ワイヤ供給量が少なくなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を上げて対応するようにしてもよい。
(実施の形態3)
本実施の形態3において、実施の形態2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図6は、本実施の形態3におけるワイヤ送給速度と、溶接電圧と、溶接電流の時間波形を示す図である。
本実施の形態3が実施の形態2と異なる主な点は以下である。実施の形態2は、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しを、所定の周期と所定の振幅で周期的に変化させて行う制御であった。しかし、本実施の形態3は、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しは、周期的ではなく、溶接状態が短絡状態であることを検出すると逆送を行い、溶接状態がアーク状態であることを検出すると正送を行うものである。すなわち、アーク現象に基づいて送給制御を行うものである。その他の点は実施の形態2と同様である。
(実施の形態4)
本実施の形態4において、実施の形態2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図7は、本実施の形態4におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態4は、設定電圧と比較して所定期間の平均電圧が高い場合の例を示す。本実施の形態4が実施の形態2と異なる主な点は以下である。実施の形態2は、設定電圧と比較して平均電圧が低い場合に、逆送側の送給量のピーク値を変更して対応する例を示した。本実施の形態4は、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合に、正送側の送給量のピーク値を変更して対応する例について説明する。その他の点は、実施の形態2と同様である。
図7において、設定電圧設定部25によって設定した設定電圧と比較して、所定期間の平均電圧が高い場合は、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、振幅制御部28へと送られる。
ところで、差分値がゼロの場合に相当する基本となる正送側と逆送側の送給量のピーク値は、平均送給速度設定部24によって平均送給速度が決定され、かつ、速度振幅基本設定部15によって速度振幅が決定されると、決まる。本実施の形態4において、設定電圧と比較して所定期間の平均電圧が高い場合は、振幅制御部28へと送られた電圧の差分値によって、振幅制御部28は平均電圧を下げる方向に働こうとする。電圧をアーク長と考えると、電圧を下げるために、アーク長が短くなるよう送給波形のピーク値を制御する。すなわち、正送時の正送ピーク値を大きくする。なお、逆送時の逆送ピーク値は変更しない。
図7において、実線で示している波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、によって決定される基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している波形は、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合の送給波形である。設定電圧に比べて平均電圧が高い場合は、平均電圧を下げるため、正送時の正送ピーク値を大きな値としている。なお、一点鎖線の箇所以外の波形は、実線と同様である。
なお、本実施の形態4では、設定電流に基づいてピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流はワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態4によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、正送送給量のピーク値を制御することにより、平均電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化、突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、図8は、本実施の形態4において、外乱によってアーク長が急に長くなった場合の例を示している。すなわち、出力電圧の変化が大きくなった場合の例を示している。このように出力電圧の変化が急に大きくなった場合、電流制御により出力電圧を適切な電圧にするには時間が掛かる。しかし、本実施の形態4のように、ワイヤ送給速度の制御により出力電圧を適切にする制御を行うようにすることで、即座に出力電圧の変化に対応することができる。
なお、本実施の形態4においては、正送側のピーク値を大きな値とすることで、ワイヤ供給量が多くなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を下げて対応するようにしてもよい。
(実施の形態5)
本実施の形態5において、実施の形態2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図9は、本実施の形態5におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態5は、実施の形態2と同様に、設定電圧と比較して平均電圧が低い場合を想定している。
本実施の形態5が実施の形態2と異なる主な点は以下である。実施の形態2では、逆送側の送給量のピーク値を変化させることで出力電圧の変化に対応する例を示した。これに対し、本実施の形態5では、逆送側の送給量のピーク値ではなく、逆送側の送給量のピーク時間を変化させることで出力電圧の変化に対応している。その他の点は実施の形態2と同様である。
図9において、設定電圧設定部25によって決定した設定電圧と比較して、所定期間の平均電圧が低い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、ピーク時間制御部29へと送られる。
なお、差分値がゼロの場合に相当する基本となる正送側と逆送側の送給量のピーク時間は、ピーク時間基本設定部16によって決定される。本実施の形態5において、設定電圧と比較して平均電圧が低い場合、ピーク時間制御部29へと送られた電圧の差分値によって、ピーク時間制御部29は電圧を上げる方向に働こうとする。つまり、逆送側の逆送ピーク時間を長くする。なお、正送側の正送ピーク時間は変更しない。
図9において、実線で示す送給波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、の出力に基づく基本波形である。これに対し、一点鎖線で示す送給波形は、平均電圧が低い場合の送給波形である。出力電圧が低い場合は、出力電圧を上げるため、逆送時の逆送ピーク時間を大きな値としている。なお、正送時の正送ピーク時間は基本波形と同様である。
なお、本実施の形態5では、設定電流に基づいてピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流はワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態5によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、逆送送給量のピーク時間を制御することにより、出力電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、本実施の形態5においては、逆送側のピーク時間を大きな値とすることで、ワイヤ供給量が少なくなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を上げて対応するようにしてもよい。
(実施の形態6)
本実施の形態6において、実施の形態4と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図10は、本実施の形態6におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態6は、実施の形態4と同様に、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合の例を示す。
本実施の形態6が実施の形態4と異なる主な点は以下である。実施の形態4は、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合であり、正送側の送給量のピーク値を変化して対応する例を示した。本実施の形態6は、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合、正送側の送給量のピーク値ではなく、正送側の送給量のピーク時間を変化して対応する例について説明する。その他の点は、実施の形態4と同様である。なお、逆送側の送給量のピーク時間は変更しない。
図10において、設定電圧設定部25によって決定した設定電圧と比較して、所定時間の平均電圧が高い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、ピーク時間制御部29へと送られる。なお、差分値がゼロの場合に相当する基本となる正送側と逆送側の送給量のピーク時間は、ピーク時間基本設定部16によって決定される。
本実施の形態6において、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合、ピーク時間制御部29へと送られた電圧の差分値によって、ピーク時間制御部29は電圧を下げる方向に働こうとする。つまり、ピーク時間制御部29は、正送側のピーク時間を、ピーク時間基本設定部16で決定されたピーク時間よりも長くする。
図10において、実線で示している送給波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、によって決定される基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している送給波形は、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合の送給波形である。設定電圧に比べて平均電圧が高い場合は、出力電圧を下げるため、正送時のピーク時間を大きな値としている。なお、逆送時のピーク時間は変更しない。
なお、本実施の形態6では、設定電流に基づいてピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流はワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態6によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、正送送給量のピーク時間を制御することにより、出力電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アーク溶接は、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、本実施の形態6においては、正送側のピーク時間を大きな値とすることで、ワイヤ供給量が多くなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を下げて対応するようにしてもよい。
(実施の形態7)
本実施の形態7において、実施の形態2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図11は、本実施の形態7におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態7は、実施の形態2と同様に、設定電圧と比較して所定期間の平均電圧が低い場合を想定している。
本実施の形態7が実施の形態2と異なる主な点は以下である。実施の形態2では、逆送側の送給量のピーク値を変化させることで出力電圧の変化に対応する例を示した。これに対し、本実施の形態7では、逆送側の送給量のピーク値ではなく、逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を変化させることで出力電圧の変化に対応している。その他の点は実施の形態2と同様である。なお、正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量は変化させない。
図11において、設定電圧設定部25によって決定した設定電圧と比較して、所定期間の平均電圧が低い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、ピーク立ち上がり時間制御部30へと送られる。なお、差分値がゼロの場合に相当する基本となるピーク立ち上がり時間は、ピーク立ち上がり時間基本設定部17によって決定される。
本実施の形態7において、設定電圧と比較して平均電圧が低い場合、ピーク立ち上がり時間制御部30へと送られた電圧の差分値によって、ピーク立ち上がり時間制御部30は電圧を上げる方向に働こうとする。つまり、ピーク立ち上がり時間制御部30は、ピーク立ち上がり時間基本設定部17で決定されたピーク立ち上がり時間よりもピーク立ち上がり時間を長くする。
図11において、実線で示している送給波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、の出力に基づく基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している送給波形は、平均電圧が低い場合の送給波形である。設定電圧に対して平均電圧が低い場合は、平均電圧を上げるため、ピーク立ち上がり時間を長くしている。
なお、本実施の形態7では、設定電流に基づいてピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流は、ワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態7によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、ピーク立ち上がり時間を制御することにより、平均電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、本実施の形態7においては、逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を少なくすることで、ワイヤ供給量が少なくなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を上げて対応するようにしてもよい。
(実施の形態8)
本実施の形態8において、実施の形態2と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図12は、本実施の形態8におけるワイヤ送給速度の時間波形を示す図である。本実施の形態8は、設定電圧と比較して所定期間の平均電圧が高い場合の例を示す。
本実施の形態8が実施の形態2と異なる主な点は以下である。実施の形態2は、設定電圧と比較して平均電圧が低い場合であり、逆送側の送給量のピーク値を変化して対応する例を示した。本実施の形態8は、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合であり、正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を変化して対応させる例について説明する。その他の点は、実施の形態2と同様である。なお、逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量は変化させない。
図12において、設定電圧設定部25によって決定した設定電圧と比較して、所定期間の平均電圧が低い場合には、差分計算部26から差分値が出力される。この差分値は、ピーク立ち下がり時間制御部31へと送られる。なお、差分値がゼロの場合に相当する基本となるピーク立ち下がり時間は、ピーク立ち下がり時間基本設定部18によって決定される。
本実施の形態8において、設定電圧と比較して平均電圧が高い場合、ピーク立ち下がり時間制御部31へと送られた電圧の差分値によって、ピーク立ち下がり時間制御部31は、電圧を下げる方向に働こうとする。つまり、ピーク立ち下がり時間制御部31は、ピーク立ち下がり時間基本設定部18で決定されたピーク立ち下がり時間よりもピーク立ち下がり時間を長くする。
図12において、実線で示している送給波形が、平均送給速度設定部24と、周波数基本設定部14と、速度振幅基本設定部15と、ピーク時間基本設定部16と、ピーク立ち上がり時間基本設定部17と、ピーク立ち下がり時間基本設定部18と、の出力による基本波形である。これに対し、一点鎖線で示している送給波形は、設定電圧に比べて平均電圧が高い場合の送給波形である。設定電圧に対して平均電圧が高い場合は、平均電圧を下げるため、ピーク立ち下がり時間を長くしている。
なお、本実施の形態8では、設定電流に基づいてピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定する例を示した。しかしながら、設定電流は、ワイヤ送給速度やワイヤ送給量と比例の関係にあることが広く知られている。従って、設定電流に替えて、設定ワイヤ送給速度や設定ワイヤ送給量に基づいて、ピーク時間Tpや、立ち上がり時間Trや、立ち下がり時間Tfを決定するようにしても、同様の効果を得ることができる。
以上のように、本実施の形態8によれば、設定電流毎に適した周波数や速度振幅などを設定することにより、設定電流に応じた溶接を行うことができる。
また、周期的にワイヤ送給速度を増減させる制御方法において、ピーク立ち下がり時間を制御することにより、平均電圧を設定電圧に合わせることができ、溶接電圧を安定して制御することができる。
そして、溶接速度の高速化や突出し長さのバラツキやギャップなどの外乱によりアーク溶接の状態が異なっても、アークの不安定化を引き起こしにくいと考えられる。そのため、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、安定なアーク溶接を実現することができる。
なお、本実施の形態8においては、正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させるワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を少なくすることで、ワイヤ供給量が多くなる恐れがある。そのような場合は、平均送給量を下げて対応するようにしてもよい。
なお、実施の形態1から実施の形態8において、所定の周期と所定の速度振幅で周期的にワイヤ送給速度を変化させる例として、台形波状に溶接ワイヤの送給を制御する例を示した。しかし、所定の周期と所定の速度振幅で周期的にワイヤ送給速度を変化させる例として、正弦波状に溶接ワイヤの送給を制御するようにしても良い。
また、実施の形態1から実施の形態8において、ワイヤ送給速度の例として、所定の周期と所定の速度振幅で周期的にワイヤ送給速度を変化させる例を示した。しかし、周期的ではなく、溶接状態が短絡状態であることを検出すると逆送を行い、溶接状態がアーク状態であることを検出すると正送を行うようにワイヤ送給速度を制御するようにしても良い。
また、実施の形態1から実施の形態8までの送給制御を適宜組み合わせて実施するようにしても良い。
本発明によれば、溶接速度の高速化および突出し長さの変化や被溶接物間のギャップなどの外乱に対して、アークの不安定化によるビード欠陥の発生や、スパッタの増加や、溶け込み不良等の問題を最小限に留めることができ、生産効率や作業環境への悪影響を抑えることが可能であり、例えば消耗電極式アーク溶接施工を行う自動車などの薄板での高速溶接を主としている業界で使用するアーク溶接制御方法およびアーク溶接装置として産業上有用である。
1 入力電源
2 1次整流部
3 スイッチング部
4 トランス
5 2次整流部
6 DCL
7 駆動部
8 溶接電圧検出部
9 溶接電流検出部
10 状態検出部
11 短絡制御部
12 アーク制御部
13 設定電流設定部
14 周波数基本設定部
15 速度振幅基本設定部
16 ピーク時間基本設定部
17 ピーク立ち上がり時間基本設定部
18 ピーク立ち下がり時間基本設定部
19 ワイヤ送給モータ
20 溶接ワイヤ
21 溶接チップ
22 溶接アーク
23 被溶接物
24 平均送給速度設定部
25 設定電圧設定部
26 差分計算部
27 平均送給速度制御部
28 振幅制御部
29 ピーク時間制御部
30 ピーク立ち上がり時間制御部
31 ピーク立ち下がり時間制御部
32 ワイヤ送給制御部

Claims (14)

  1. 消耗電極である溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、前記溶接ワイヤを前記被溶接物側に送給する正送と、前記溶接ワイヤを前記正送とは反対方向に送給する逆送とを繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法であって、
    予め設定された設定電圧と溶接中の所定期間における平均電圧とを比較し、
    前記設定電圧と前記平均電圧との差に基づいて前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御するアーク溶接制御方法。
  2. 設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、ワイヤ送給速度の平均速度を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの平均速度よりも低くなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1記載のアーク溶接制御方法。
  3. 設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値よりも大きくなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1記載のアーク溶接制御方法。
  4. 設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間よりも長くなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1記載のアーク溶接制御方法。
  5. 設定電圧に比べて平均電圧が低い場合には、逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの逆送時のワイヤ送給速度の最大値から正送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量よりも少なくなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1記載のアーク溶接制御方法。
  6. 設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、ワイヤ送給速度の平均速度を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの平均速度よりも高くなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1から5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  7. 設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値よりも大きくなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1から5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  8. 設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値を維持する時間よりも長くなるように、ワイヤ送給制御を制御する請求項1から5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  9. 設定電圧に比べて平均電圧が高い場合には、正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量を、前記設定電圧と前記平均電圧との差がないときの正送時のワイヤ送給速度の最大値から逆送時のワイヤ送給速度の最大値へ向けて変化させる前記ワイヤ送給速度の単位時間当たりの変化量よりも少なくなるように、ワイヤ送給速度を制御する請求項1から5のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  10. 設定電圧と平均電圧との差がない場合には、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しを、所定の周期と所定の振幅で周期的に変化させて行う請求項1から9のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  11. ワイヤ送給速度の周期的な変化は、正弦波状または台形波状の変化である請求項10記載のアーク溶接制御方法。
  12. 設定電圧と平均電圧との差がない場合には、ワイヤ送給速度の正送と逆送の繰り返しは、周期的ではなく、溶接状態が短絡状態であることを検出すると逆送を行い、前記溶接状態がアーク状態であることを検出すると正送を行う請求項1から9のいずれか1項に記載のアーク溶接制御方法。
  13. 消耗電極である溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、前記溶接ワイヤを前記被溶接物側に送給する正送と、前記正送とは反対方向に送給する逆送とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、
    前記溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給部と、
    設定電流を設定するための設定電流設定部と、
    設定電圧を設定するための設定電圧設定部と、
    溶接電圧を検出する溶接電圧検出部と、
    前記溶接電圧検出部の検出結果に基づいて溶接中の所定期間における平均電圧を算出して前記平均電圧と前記設定電圧との差を求める演算部と、
    前記設定電流設定部の出力と前記演算部の出力に基づいて前記ワイヤ送給部を制御するワイヤ送給制御部と、を備え、
    前記設定電圧と前記平均電圧との差に基づいて前記溶接ワイヤのワイヤ送給速度を制御するアーク溶接装置。
  14. 設定電流に基づいて溶接ワイヤの平均送給速度を設定する平均送給速度設定部を備え、
    設定電圧と平均電圧との差に基づいて、溶接ワイヤの平均送給速度を、前記平均送給速度設定部で設定した平均送給速度とは異なる平均送給速度となるように前記溶接ワイヤの送給を制御する請求項13記載のアーク溶接装置。
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