以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
図1は、一実施の形態に係る測定システムの概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定システム10は、振動体を有する測定対象の電子機器100を評価するためのもので、電子機器装着部20と、該電子機器装着部20及び電子機器100に接続される測定部200とを備える。電子機器装着部20は、基台30に支持された振動測定ヘッド40と、測定対象の電子機器100を保持する保持部70とを備える。なお、以下の説明において、電子機器100は、図2に平面図を示すように、矩形状の筐体101の表面に、人の耳よりも大きい矩形状のパネル102を有するスマートフォン等の携帯電話で、パネル102の裏面に圧電素子が貼付されて、圧電素子の駆動によりパネル102が振動体として振動するものとする。
先ず、振動測定ヘッド40について説明する。振動測定ヘッド40は、耳型部50と、振動ピックアップ装置55とを備える。耳型部50は、人体の耳を模したもので、耳模型51と、該耳模型51に結合された人工外耳道部52とを備える。図1の耳型部50は、人の左耳に対応している。人工外耳道部52には、中央部に人工外耳道53が形成されている。人工外耳道53は、人の外耳孔の平均的な直径である5mm〜10mmの孔径で形成される。耳型部50は、人工外耳道部52の周縁部において、支持部材54を介して基台30に着脱自在に支持される。
耳型部50は、例えば人体模型のHATS(Head And Torso Simulator)やKEMAR(ノウルズ社の音響研究用の電子マネキン名)等に使用される平均的な耳模型の素材と同様の素材、例えば、IEC60318−7に準拠した素材からなる。この素材は、例えば硬度35から55のゴム等の素材で形成することができる。なお、ゴムの硬さは、例えばJIS K 6253やISO 48 などに準拠した国際ゴム硬さ(IRHD・M 法)に準拠して測定されるとよい。また、硬さ測定システムとしては、株式会社テクロック社製 全自動タイプIRHD・M法マイクロサイズ 国際ゴム硬さ計GS680が好適に使用される。なお、耳型部50は、年齢による耳の硬さのばらつきを考慮して、大まかに、2〜3種類程度、硬さの異なるものを準備し、これらを付け替えて使用するとよい。
人工外耳道部52の厚さ、つまり人工外耳道53の長さは、人の鼓膜(蝸牛)までの長さに相当するもので、例えば5mmから50mm、好ましくは8mmから30mmの範囲で適宜設定される。本実施の形態では、人工外耳道53の長さを、ほぼ30mmとしている。
振動ピックアップ装置55は、図3(a)に平面図を、図3(b)に正面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の孔径とほぼ同径、例えば直径7mmの孔56aを有する板状の振動伝達部材56と、該振動伝達部材56の一方の面の一部に結合された振動検出部を構成する一つの振動ピックアップ57と、を備える。本実施の形態において、振動伝達部材56は、孔56aが人工外耳道53に連通するように、他方の面が人工外耳道部52の耳模型51側とは反対側の端面に接着される。また、振動ピックアップ57は、例えば、接着剤やグリス等を介して振動伝達部材56の一方の面に結合される。振動ピックアップ57は、測定部200に接続される。
ここで、振動伝達部材56は、振動伝達効率の良好な素材、例えば、鉄、SUS、真鍮、アルミニウム、チタン等の金属や合金、あるいはプラスチック等が使用可能であるが、検出感度の点では軽量な素材で構成するのが好ましい。また、振動伝達部材56は、角形平ワッシャーのような外形が矩形状であってもよいが、耳型部50の変位量は人工外耳道53の周辺部で大きいことから、本実施の形態では丸形平ワッシャーのようなリング形状としている。なお、リング形状の外形は、例えば、孔56aの直径10mmから30mmに、リングの幅である6mmから20mmを加えた、つまりリングの外径を20mmから70mm程度として形成することができる。また、振動伝達部材56の厚さは、素材の強度等に応じて適宜設定される。具体的には、孔56aの直径を25mm、幅を5mmとして、リングの外径が35mm、厚みがSUS板を用いて0.1mmとしてもよい。
振動ピックアップ57は、公知の小型の振動ピックアップが使用可能である。本実施の形態では、振動ピックアップ57として圧電式加速度ピックアップを用い、該圧電式加速度ピックアップをグリス等、あるいはアロンアルファ(登録商標)のような瞬間接着剤等の接合部材を介して振動伝達部材56に結合している。
さらに、振動測定ヘッド40は、人工外耳道53を経て伝播される音の音圧を測定するためのマイクロフォン装置60を備える。マイクロフォン装置60は、図4(a)に基台30側から見た平面図を、図4(b)に図4(a)のb−b線断面図をそれぞれ示すように、人工外耳道53の外壁(穴の周壁)から振動ピックアップ装置55の振動伝達部材56の孔56aを通して延在するチューブ部材61と、該チューブ部材61に保持された音圧測定部を構成するマイクロフォン62とを備える。
マイクロフォン62は、例えば、電子機器100の測定周波数範囲においてフラットな出力特性を有し、自己雑音レベルの低い計測用コンデンサマイクからなる。マイクロフォン62は、音圧検出面が人工外耳道部52の端面にほぼ一致するように配置される。なお、マイクロフォン62は、例えば、人工外耳道53の外壁に固定してもよい。或いは、人工外耳道部52や基台30に支持して、人工外耳道53の外壁からフローティング状態で配置してもよい。マイクロフォン62は、測定部200に接続される。なお、図4(a)において、人工外耳道部52は矩形状を成しているが、人工外耳道部52は任意の形状とすることができる。
次に、保持部70について説明する。電子機器100が、スマートフォン等の平面視で矩形状を成す携帯電話の場合、人が当該携帯電話を片手で保持して自身の耳に押し当てようとすると、通常、携帯電話の両側面部を手で支持することになる。また、耳に対する携帯電話の押圧力や接触姿勢は、人(ユーザ)によって異なったり、使用中に変動したりする。本実施の形態では、このような携帯電話の使用態様を模して、電子機器100を保持する。
そのため、保持部70は、電子機器100の両側面部を支持する支持部71を備える。支持部71は、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向に、y軸と平行な軸y1を中心に回動調整可能にアーム部72の一端部に取り付けられている。アーム部72の他端部は、基台30に設けられた移動調整部73に結合されている。移動調整部73は、アーム部72を、y軸と直交するx軸と平行な方向で、支持部71に支持される電子機器100の上下方向x1と、y軸及びx軸と直交するz軸と平行な方向で、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向z1とに移動調整可能に構成されている。
これにより、支持部71に支持された電子機器100は、軸y1を中心に支持部71を回動調整することで、又は、アーム部72をz1方向に移動調整することで、振動体(パネル102)の耳型部50に対する押圧力が調整される。本実施の形態では、0N〜10Nの範囲、好ましくは3N〜8Nの範囲で押圧力が調整される。
ここで、0N〜10Nの範囲は、人間が電子機器を耳に押し当てて通話等の使用をするのに想定される押し当て力よりも十分な広い範囲での測定を可能とすることを目的としている。なお、0Nの場合として、例えば耳型部50に接触しているが押し当てていない場合のみならず、耳型部50から1mmmから1cmきざみで離間させて保持でき、それぞれの離間距離において測定ができるようにしてもよい。これにより、気道音の距離による減衰の度合いもマイクロフォン62による測定により可能となり、測定システムとしての利便性が向上する。また、3N〜8Nの範囲は、通常、健聴者が従来型のスピーカを用いて通話をする際に耳に押し当てる平均的な力の範囲を想定している。人種、性別により差があるかもしれないが、要は従来型のスピーカを搭載したスマートフォンや従来型携帯電話等の電子機器において、通常、ユーザが押し付ける程度の押圧力において振動音や気道音を測定できることが好ましい。
また、アーム部72をx1方向に移動調整することで、耳型部50に対する電子機器100の接触姿勢が、例えば、振動体の一例であるパネル102が耳型部50のほぼ全体を覆う姿勢や、図1に示されるように、パネル102が耳型部50の一部を覆う姿勢に調整される。なお、アーム部72を、y軸と平行な方向に移動調整可能に構成したり、x軸やz軸と平行な軸回りに回動調整可能に構成したりして、耳型部50に対して電子機器100を種々の接触姿勢に調整可能に構成してもよい。なお、振動体は、もちろんパネルのような耳を幅広く覆うものに限られず、耳型部50の一部、例えば耳珠の部位だけに対して振動を伝達させるような突起や角部を有する電子機器であっても本発明の測定対象となり得る。
次に、図5を参照して、図1の測定部200の構成について説明する。図5は、図1の測定システムの要部の機能ブロック図である。測定部200は、感度調整部300、信号処理部400、PC(パーソナルコンピュータ)500及びプリンタ600を備える。
振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力は、感度調整部300に供給される。感度調整部300は、振動ピックアップ57の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路301と、マイクロフォン62の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路302とを備える。可変利得増幅回路301、302は、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号の振幅を、手動又は自動により所要の振幅に独立して調整する。これにより、振動ピックアップ57の感度及びマイクロフォン62の感度の誤差を補正する。なお、可変利得増幅回路301、302は、入力信号の振幅を例えば±50dBの範囲で調整可能に構成される。感度調整部300の出力は、信号処理部400に供給される。
信号処理部400は、A/D変換部410、周波数特性調整部420、位相調整部430、出力合成部440、周波数解析部450、記憶部460、音響信号出力部480及び信号処理制御部470を備える。A/D変換部410は、可変利得増幅回路301の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)411と、可変利得増幅回路302の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)412とを備える。なお、A/D変換回路411、412は、例えば16ビット以上、ダイナミックレンジ換算で96dB以上に対応できる。またA/D変換回路411、412は、ダイナミックレンジが変更可能に構成することができる。A/D変換部410の出力は、周波数特性調整部420に供給される。
周波数特性調整部420は、A/D変換回路411の出力である振動ピックアップ57による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)421と、A/D変換回路412の出力であるマイクロフォン62による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)422とを備える。イコライザ421、422は、それぞれの入力信号の周波数特性を、手動又は自動により人体の聴感に近い周波数特性に独立して調整する。なお、イコライザ421、422は、例えば複数バンドのグラフィカルイコライザ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等から構成される。周波数特性調整部420の出力は、位相調整部430に供給される。
位相調整部430は、イコライザ421の出力である振動ピックアップ57による検出信号の位相を調整する可変遅延回路431を備える。耳型部50の材質を伝わる音速と人体の肉や骨を伝わる音速とは全く同じではないので、振動ピックアップ57の出力とマイクロフォン62の出力との位相関係が、特に高い周波数で人体の耳とのずれが大きくなることが想定される。すると、後述する出力合成部440での両出力の合成時に、実際とは異なるタイミングにおいて振幅のピークやディップが現れたり、合成出力が増減したりする場合がある。そのため、測定対象の電子機器100の測定周波数範囲に応じて、イコライザ421の出力である振動ピックアップ57による検出信号の位相を、可変遅延回路431により所定の範囲で調整可能にする。
例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合、可変遅延回路431により±10ms(±100Hz相当)程度の範囲で、少なくとも0.1ms(10kHz相当)より小さい単位、例えば0.04μs単位で振動ピックアップ57による検出信号の位相を調整する。なお、人体の耳の場合でも、骨導音(振動伝達成分)と気導音(気導成分)との位相ずれは生じるので、可変遅延回路431による位相調整は、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の両者の検出信号の位相を合わせるという意味ではなく、両者の位相を耳による実際の聴感に合わせるという意味である。位相調整部430の出力は、出力合成部440に供給される。
出力合成部440は、可変遅延回路431により位相調整された振動ピックアップ57による検出信号と、位相調整部430を通過したマイクロフォン62による検出信号とを合成する。これにより、測定対象の電子機器100の振動によって伝わる振動量と音圧、つまり振動伝達成分と気導成分とが合成された体感音圧を人体に近似させて得ることが可能となる。出力合成部440の合成出力は、周波数解析部450に供給される。また、出力合成部33の合成出力は、振動ピックアップ57の出力及び位相調整されたマイクロフォン62の出力とともに、信号処理制御部470に供給される。信号処理制御部470の動作は、後述する。
周波数解析部450は、出力合成部440からの合成出力を周波数解析するFFT(高速フーリエ変換)451を備える。これにより、FFT451から、振動伝達成分と気導成分とが合成された体感音圧に相当するパワースペクトルデータが得られる。
さらに、周波数解析部450は、出力合成部440で合成される前の信号、すなわち、位相調整部430を経た振動ピックアップ57による検出信号とマイクロフォン62による検出信号とをそれぞれ周波数解析するFFT452、453を備える。これにより、FFT452から振動伝達成分に相当するパワースペクトルデータが得られ、FFT453から気導成分に相当するパワースペクトルデータが得られる。
なお、FFT451〜453は、電子機器100の測定周波数範囲に応じて周波数成分(パワースペクトル)の解析ポイントが設定される。例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合は、測定周波数範囲の対数グラフにおける間隔を100〜2000等分した各ポイントの周波数成分を解析するように設定される。
FFT451〜453の出力は、記憶部460に記憶される。記憶部460は、FFT451〜453による解析データ(パワースペクトルデータ)をそれぞれ複数保持できるダブルバッファ以上の容量を有する。記憶部460は、後述するPC500からのデータ送信要求タイミングで、常に最新データを送信できるように構成することができる。また、FFT451〜453の出力は、信号処理制御部470に入力するように構成してもよい。その場合の信号処理制御部470の動作は、後述する。なお、解析をリアルタイムで行うのでなく、記録後に解析を行うのであれば、必ずしもダブルバッファ構成でなくともよい。
音響信号出力部480は、ヘッドホン等の外部接続機器が着脱自在に接続可能に構成される。音響信号出力部480には、信号処理制御部470により、出力合成部440に入力される振動ピックアップ57による検出信号、マイクロフォン62による検出信号、又はそれらの出力合成部440での合成信号のいずれかが選択されて供給される。音響信号出力部480は、入力されるデータの周波数特性をイコライザ等により適宜調整した後、アナログの音響信号にD/A変換して出力する。
更に、信号処理部400は、試験信号出力部495を備える。試験信号出力部495は、信号処理制御部470の制御のもとに、電子機器100のパネル102を振動させて試験音を測定するための試験信号を出力する。試験信号出力部495は、試験信号記憶部496、試験信号生成部497、及び出力調整部498を備える。試験信号出力部495は、本実施形態における「信号出力部」に対応する。
試験信号記憶部496は、所定の試験音に対応する試験信号を記憶する。所定の試験信号は、例えばWAVファイル(音声データ)である。試験信号記憶部496は、好ましくは、複数のWAVファイルを選択的に読み出し可能に構成される。試験信号記憶部496に記憶されるWAVファイルは、例えば、記録媒体又はネットワークを介してダウンロードされて記憶される。試験信号記憶部496が、本実施形態における「記憶部」に対応する。
試験信号生成部497は、試験信号記憶部496に記憶された試験信号に対応する試験音とは異なる試験音に対応する試験信号を生成する。試験信号生成部497は、好ましくは、単一周波数のサイン波からなる純音に対応する信号(純音信号)、周波数が低周波数から高周波数へ又は高周波数から低周波数へ所定の周波数範囲に亘って順次変化する、純音スイープに対応する信号(純音スイープ信号)、周波数の異なる複数のサイン波信号からなり、複数の純音が重畳された音に対応する信号(マルチサイン波信号)を選択的に生成して出力可能に構成される。なお、純音スイープ信号における所定の周波数範囲は、可聴周波数を含む広い範囲で適宜設定可能とする。また、純音スイープ信号における順次の周波数における振幅は、好ましくは同一とする。マルチサイン波信号についても、それぞれのサイン波の振幅は、好ましくは同一とする。試験信号生成部497が、本実施形態における「生成部」に対応する。
出力調整部498は、試験信号生成部497又は試験信号記憶部496から出力される試験信号に、それぞれの試験音開始の合図音に対応する信号(合図信号)を加えて出力する。図6は、合図信号と試験信号の例を示す。図6には、横軸を時間軸として、合図信号SG60とこれに続く試験信号SG62が示される。合図信号SG60は、時間領域で検出可能な信号である。合図信号SG60は、例えば、所定の音圧の1つまたは複数の音の信号である。合図信号SG60に含まれる各信号は、所定の周波数の純音であってもよいし、異なる周波数の複数の純音で構成される音であってもよい。また、それぞれの音の周波数は同じであってもよいし、異なってもよい。また、合図信号SG60と試験信号SG62の間隔とそれぞれの継続時間は、任意の長さとすることができる。
出力調整部498は、合図信号が加えられた試験信号を、測定対象の電子機器100の外部入力の信号形式に応じて、例えばアナログ信号に変換する等の所定の信号形式に変換する。ここで、試験信号出力部495は、電子機器100が携帯電話の場合、3GPP(3GPP TS26.131/132)やVoLTE等の規格に則って符合化された信号からなってもよい。そして、試験信号出力部495は、符号化した信号を、USB等のインターフェース用の接続ケーブル511を介して電子機器100の外部入力端子105に供給する。電子機器100では、外部入力端子105に供給された信号が復号され、パネル102に貼付された圧電素子に供給される。そして、圧電素子が駆動され、パネル102が振動する。
あるいは、図7に示すように、測定システム200において、接続ケーブル511の代わりに、試験信号出力部495が出力する合図信号と試験信号とを符号化して無線送信する送信部511tと、送信部511tの送信信号を受信し、復号して電子機器100の外部入力端子105に供給する受信部511rとを備えてもよい。なお、図7では、送信部511t及び受信部511r以外の構成は図5と同じである。このようにすることで、電子機器100がスマートフォン等の携帯電話機である場合に、無線通信を介することによるデータ損失を模すことができ、より高精度な測定が可能になる。
信号処理制御部470は、例えば、USB、RS−232C、SCSI、PCカード等のインターフェース用の接続ケーブル510を介してPC500に接続される。信号処理制御部470は、PC500からのコマンドに基づいて、信号処理部400の各部の動作を制御する。なお、感度調整部300及び信号処理部400は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)によって構成したりすることができる。
PC500は、測定システム10による電子機器100の評価アプリケーションや各種のデータ等を記憶するメモリ501等を有する。メモリ501は、内蔵メモリであってもよいし、外部メモリであってもよい。評価アプリケーションは、例えば、CD−ROMやネットワーク等を介してメモリ501にダウンロードされる。PC500は、例えば、評価アプリケーションに基づくアプリケーション画面を表示部520に表示する。また、該アプリケーション画面を介して入力される情報に基づいて信号処理部400にコマンドを送信する。また、PC500は、信号処理部400からのコマンド応答やデータを受信し、受信したデータに基づいて所定の処理を施して、アプリケーション画面に測定結果を表示する。また、必要に応じて測定結果をプリンタ600に出力して印刷する。
測定システム10は、電子機器100の評価アプリケーションとして、エージングテスト機能、問題再現機能等を有する。エージングテスト機能は、純音スイープの試験信号を提示して、その応答を測定するプロセスを指定回数連続して繰り返し(リピートし)、その間に測定された周波数特性の変動を分析する。問題再現テストは、相互相関関数により提示音(試験音)と測定音との2つの信号の類似性を確認して、クリップ音や一時的な音切れ、無線通信による断音、意図しない音のエンコード・デコード変換などの問題の発生の有無が検出される。
図8は、表示部520に表示される、評価アプリケーション画面の一例を示す図である。ここでは、例えば、エージングテスト機能における試験音の設定画面700が示される。この設定画面700は、測定装置10の評価アプリケーションのメニューから起動される。設定画面700は、試験音設定部701、試験音周波数設定部702、試験音時間長設定部703、試験音振幅設定部704、計測開始アイコン704、及び計測終了アイコン705を有する。試験音設定部701は、例えば、純音、純音スイープ、マルチサイン波、及び各種WAVファイルからなるリストをプルダウン形式やポップアップ形式で表示し、ユーザに選択を促す。ここでは、試験音として純音スイープが設定され場合が示される。また、試験音周波数設定部702には、例えば100Hz〜10KHzの間で任意の周波数が設定される。ここでは、500Hz〜1.3KHzのスイープ幅が設定される。さらに、試験音時間長として、10秒が設定される。そして、試験音振幅として、−10dBが設定される。
PC500は、試験音設定部701、試験音周波数設定部702、試験音時間長設定部703、及び試験音振幅設定部704の設定が完了し、テスト開始アイコン704が操作されると、信号処理部400に対して試験開始コマンドを送信する。信号処理部400は、試験開始コマンドを受信すると、信号処理制御部470の制御のもとに、試験信号生成部495に試験音を生成させる。図8の例では、純音スイープに対応する試験信号が生成される。この生成された試験信号は、出力調整部498により合図信号が付加された後、接続ケーブル511を介して、保持部70に保持された測定対象の電子機器100の外部入力端子105に供給される。これにより、電子機器100のパネル102の裏面に貼付された圧電素子が駆動されてパネル102が振動し、合図音と試験音とに対応する振動が順次生成される。そして、電子機器100の振動計測が開始される。
信号処理部400は、振動ピックアップ57及びマイクロフォン62の出力を、感度調整部300で感度調整した後、A/D変換部410でデジタル信号に変換し、さらに、周波数特性調整部420で周波数特性を調整した後、位相調整部430で位相を調整して出力合成部440で合成する。振動ピックアップ57の出力信号、位相調整されたマイクロフォン62の出力信号、及びこれらの合成信号は、信号処理制御部470に供給される。その一方で、出力合成部440での合成信号、つまり振動伝達成分と気導成分との合成信号を周波数解析部450のFFT451で周波数解析される。
信号処理制御部470は、振動ピックアップ57の出力信号、位相調整されたマイクロフォン62の出力信号、及びこれらの合成信号は信号から、合図信号を検出する。例えば、合図信号として、時間領域に検出可能な一定音圧の純音信号が検出される。すると、合図信号に応答して、信号処理制御部470は、FFT451の出力を記憶部460に記憶する。そして、信号処理制御部470は、記憶部460に記憶したデータを、PC500に出力し、PC500はこのデータをメモリ501に記憶する。そして、信号処理制御部470は、予め設定される試験信号の継続時間が満了すると、記憶を終了する。信号処理制御部470は、本実施形態における「制御部」に対応する。
あるいは、合図信号が周波数方向に検出可能な信号の場合、すなわち、1つのまたは複数の所定の周波数の信号からなる場合、信号処理制御部470は、FFT451の出力を取得して、所定の周波数成分の合図信号を検出する。そして、合図信号の検出に応答してFFT451の出力を記憶部460に記憶するようにしてもよい。
測定部200は、上記の処理をテスト中止アイコン705が操作されるまで繰り返す。あるいは、設定画面700をリピート回数設定可能に構成し、設定されたリピート回数が満了するまで上記の処理を繰り返すようにしてもよい。
図9は、PC500の評価アプリケーションにより表示部520に表示される、測定結果の一例である。図9の例は、周波数特性の比較グラフを示す。横軸は周波数(Hz)、縦軸は音圧(dBSPL)をそれぞれ示し、グラフの破線は初回の周波数特性を、実線はオーバーオール音圧値の変動が最も大きかった回の周波数特性をそれぞれ示す。電子機器100のエージングテストの結果は、必要に応じてプリンタ600から出力される。なお、各周波数における初回の音圧レベルとN(Nは1から測定された回数のうちのいずれか)回目の測定時の音圧レベルとの差の絶対値を合算し、N回のうちで、当該合算した値が最も大きかった場合を、上記したオーバーオール音圧の変動が最も大きかった回として、当該大きかった回と初回との比較を示すグラフを表示部520に表示してもよい。
本実施形態に係る測定システムは、電子機器100を所望の試験信号により振動させ、測定部200により、振動検出部55及び音圧測定部60の出力に基づいて、耳型部50を介して伝わる骨導音と気導音とを測定し、その測定結果に基づいて電子機器100を評価することができる。しかも、振動レベルと同時に音圧測定部60により耳型部50の人工外耳道53を介しての音圧レベルも測定できる。これにより、人間の耳への振動伝達量に相当する振動レベルと気導音に相当する音圧レベルとが合成された聴感レベルを測定できるので、電子機器100をより詳細に評価することが可能となる。さらに、保持部70は、電子機器100の耳型部50に対する押圧力を可変できるとともに、接触姿勢も可変できるので、電子機器100を種々の態様で評価することが可能となる。よって、電子機器100を正しく評価することができ、電子機器100のスペック管理が容易になる。
また、本実施形態に係る測定システムは、試験信号記憶部496には最低限の音源情報としてWAVファイル等の試験音を記憶しておき、試験信号生成部497で純音や純音スイープ、マルチサイン波などを生成するようにしたので、メモリ資源を節減することができる。
さらに、電子機器100がスマートフォン等の携帯電話機である場合、試験信号を無線通信により電子機器100に供給するような構成とすることで、無線通信を介することによるデータ損失を模すことができ、より高精度な測定が可能になる。
ただし、無線通信を介する場合、接続ケーブル511を介して電子機器100に試験信号を入力するループバックと比較したとき、送信部511tによる符合化処理、受信部511rによる検波処理や復号処理といった処理に起因して、試験音が測定対象の電子機器100で再生されるまでの時間に差が生じる。すると、信号処理制御部470において、試験信号の再生開始に同期して試験信号の記憶、測定を開始することが困難になる。その点、本実施形態によれば、合図信号を試験信号の前に加え、合図信号を検出してから記憶を開始するようにしたので、試験信号の再生開始に同期して試験信号の記憶、測定を開始することが容易になり、信号処理制御部470の処理負荷を軽減でき、記憶部460の記憶領域を有効に使用することができる。
図10は、測定システム100の要部の変形例である。この測定システム100は、図7で示した構成において、信号処理部400の代わりに、PC500が試験信号出力部495を有する点が図7の構成と異なる。図10の構成では、PC500において、設定画面700で試験音の設定がなされると、これに応答して試験信号出力部450が、試験信号記憶部496に記憶された試験信号、または試験信号生成部497が生成した試験信号を出力する。その他の部分は、図7の構成と同じである。
図11は、異なる構成の測定システムにおける測定システムの要部の概略構成を示す図である。本実施形態に係る測定システム110は、電子機器装着部120の構成が図1における電子機器装着部20と異なるもので、その他の構成は図1と同様である。したがって、図11においては、図1で示した測定部200の図示を省略してある。電子機器装着部120は、人体の頭部模型130と、測定対象の電子機器100を保持する保持部150とを備える。頭部模型130は、例えばHATSやKEMAR等からなる。頭部模型130の人工耳131は、頭部模型130に対して着脱自在である。
人工耳131は、耳型部を構成するもので、図12(a)に頭部模型130から取り外した側面図を示すように、図1の耳型部50と同様の耳模型132と、該耳模型132に結合され、人工外耳道133が形成された人工外耳道部134とを備える。人工外耳道部134には、人工外耳道133の開口周辺部に、図1の耳型部50と同様に、振動検出素子を備える振動検出部135が配置されている。また、頭部模型130の人工耳131の装着部には、図12(b)に人工耳131を取り外した側面図を示すように、中央部にマイクを備える音圧測定部136が配置されている。音圧測定部136は、頭部模型130に人工耳131が装着されると、人工耳131の人工外耳道133を経て伝播される音の音圧を測定するように配置されている。なお、音圧測定部136は、図1の耳型部50と同様に、人工耳131側に配置してもよい。振動検出部135を構成する振動検出素子及び音圧測定部136を構成するマイクは、図1と同様に測定部に接続される。
保持部150は、頭部模型130に着脱自在に取り付けられるもので、頭部模型130への頭部固定部151と、測定対象の電子機器100を支持する支持部152と、頭部固定部151及び支持部152を連結する多関節アーム部153と、を備える。保持部150は、多関節アーム部153を介して、支持部152に支持された電子機器100の人工耳131に対する押圧力及び接触姿勢を、図1の保持部70と同様に調整可能に構成されている。
なお、本発明は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、PC500によって実行する評価アプリケーションの機能を信号処理部400に搭載して、PC500を省略してもよい。さらに、測定部200は、独立型ですべての機能を集約した構成に限らず、一または複数のPCや外部サーバーに分かれて配置されている場合のように、ネットワークシステムやクラウドを活用した構成であってもよいことはいうまでもない。
また、上記実施形態では、測定対象の電子機器100として、スマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものを想定したが、折り畳み式の携帯電話で、通話等の使用態様において耳に接触するパネルが振動する電子機器も同様に評価することが可能である。また、携帯電話に限らず、他の圧電レシーバも同様に評価することが可能である。さらに、振動体の直接的な振動を測定する等、振動体の測定する特性によっては、耳型部50及び音圧測定部60を省略することも可能である。