以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る測定装置の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定装置10は、振動体を有する測定対象の電子機器100を測定するもので、電子機器装着部20と、該電子機器装着部20及び電子機器100に接続される測定部200とを備える。電子機器装着部20は、基台30に支持された耳型部50と、測定対象の電子機器100を保持する保持部70とを備える。なお、以下の説明において、電子機器100は、図2に平面図を示すように、矩形状の筐体101の表面に、人の耳よりも大きい矩形状のパネル102を有するスマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものとする。また、電子機器100は、図1に示すように外付け或いは内蔵のメモリ103を備えている。先ず、電子機器装着部20の構成について説明する。
耳型部50は、人体の耳を模したもので、耳模型51と、該耳模型51に結合された人工外耳道部52とを備える。人工外耳道部52は、耳模型51を覆う大きさを有し、中央部に人工外耳道53が形成されている。耳型部50は、人工外耳道部52の周縁部において、支持部材54を介して基台30に支持されている。
耳型部50は、例えば人体模型のHATS(Head And Torso Simulator)やKEMAR(ノウルズ社の音響研究用の電子マネキン名)等に使用される平均的な耳模型の素材と同様の素材、例えば、IEC60318−7に準拠した素材からなる。この素材は、例えば硬度35から55のゴム等の素材で形成することができる。なお、ゴムの硬さは、例えばJIS K 6253やISO 48 などに準拠した国際ゴム硬さ(IRHD・M 法)に準拠して測定されるとよい。また、硬さ測定装置としては、株式会社テクロック社製 全自動タイプIRHD・M法マイクロサイズ 国際ゴム硬さ計GS680が好適に使用される。なお、耳型部50は、年齢による耳の硬さのばらつきを考慮して、大まかに、2から3種類程度、硬さの異なるものを準備し、これらを付け替えて使用するとよい。
人工外耳道部52の厚さ、つまり人工外耳道53の長さは、人の鼓膜(蝸牛)までの長さに相当するもので、例えば10mmから50mm、好ましくは20mmから40mmの範囲で適宜設定される。本実施の形態では、人工外耳道53の長さを、ほぼ30mmとしている。
耳型部50には、人工外耳道部52の耳模型51側とは反対側の端面において、人工外耳道53の開口周辺部に位置するように振動検出部55が配置されている。振動検出部55は、振動するパネル102を耳型部50に当てた際に外耳道部52を経て伝わる振動量を検出する。つまり、振動検出部55は、パネル102を人体の耳に押し当てた際に、パネル102の振動が直接内耳を揺らし、鼓膜を経由しないで聴く骨導成分に相当する振動量を検出する。このような振動検出部55は、例えば、電子機器100の測定周波数範囲(例えば、0.1kHz〜30kHz)においてフラットな出力特性を有し、軽量で微細な振動でも正確に計測できる、圧電式加速度ピックアップ等の振動ピックアップからなる振動検出素子56により構成される。
図3(a)は、耳型部50を基台10側から見た平面図である。図3(a)では、人工外耳道53の開口周辺部を取り囲むようにリング状の振動検出素子56を配置した場合を例示しているが、振動検出素子56は、1個だけでなく、複数個であってもよい。複数個の振動検出素子56を配置する場合は、人工外耳道53の周辺部に適時の間隔で配置してもよいし、人工外耳道53の開口周辺部を取り囲むように円弧状の2個の振動検出素子を配置してもよい。なお、図3(a)において、人工外耳道部52は矩形状を成しているが、人工外耳道部52は任意の形状とすることができる。
さらに、耳型部50には、音圧測定部60が配置されている。音圧測定部60は、人工外耳道53を経て伝播される音の音圧を測定する。つまり、音圧測定部60は、パネル102を人体の耳に押し当てた際に、パネル102の振動により空気が振動して直接鼓膜を経由して聴く気導成分に相当する音圧、及び、パネル102の振動により外耳道内部が振動して耳自体で発生した音を鼓膜経由で聴く気導成分に相当する音圧を測定する。
音圧測定部60は、図3(b)に図3(a)のb−b線断面図を示すように、人工外耳道53の外壁(穴の周壁)から、リング状の振動検出素子56の開口部を通して延在するチューブ部材61に保持されたマイク62を備える。マイク62は、例えば、電子機器100の測定周波数範囲においてフラットな出力特性を有し、自己雑音レベルの低い計測用コンデンサマイクにより構成される。マイク62は、音圧検出面が人工外耳道部52の端面にほぼ一致するように配置される。なお、マイク62は、例えば、人工外耳道部52や基台10に支持して、人工外耳道53の外壁からフローティング状態で配置してもよい。
次に、保持部70について説明する。電子機器100が、スマートフォン等の平面視で矩形状を成す携帯電話の場合、人が当該携帯電話を片手で保持して自身の耳に押し当てようとすると、通常、携帯電話の両側面部を手で支持することになる。また、耳に対する携帯電話の押圧力や接触姿勢は、人(利用者)によって異なったり、使用中に変動したりする。本実施の形態では、このような携帯電話の使用態様を模して、電子機器100を保持する。
そのため、保持部70は、電子機器100の両側面部を支持する支持部71を備える。支持部71は、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向に、y軸と平行な軸y1を中心に回動調整可能にアーム部72の一端部に取り付けられている。アーム部72の他端部は、基台30に設けられた移動調整部73に結合されている。移動調整部73は、アーム部72を、y軸と直交するx軸と平行な方向で、支持部71に支持される電子機器100の上下方向x1と、y軸及びx軸と直交するz軸と平行な方向で、電子機器100を耳型部50に対して押圧する方向z1とに移動調整可能に構成されている。
これにより、支持部71に支持された電子機器100は、軸y1を中心に支持部71を回動調整することで、又は、アーム部72をz1方向に移動調整することで、振動体(パネル102)の耳型部50に対する押圧力が調整される。本実施の形態では、0Nから10Nの範囲、好ましくは3Nから8Nの範囲で押圧力が調整される。もちろん、軸y1に加え、他の軸を中心に支持部71を回動自在に構成されてもよい。
ここで、0Nから10Nの範囲は、人間が電子機器を耳に押し当てて通話等の使用をする際に想定される押し当て力よりも十分な広い範囲での測定を可能とすることを目的としている。なお、0Nの場合として、例えば耳型部50に接触しているが押し当てていない場合のみならず、耳型部50から1cmきざみで離間させて保持でき、それぞれの離間距離において測定ができるようにしてもよい。これにより、気導音の距離による減衰の度合いもマイク62による測定により可能となり、測定装置としての利便性が向上する。また、3Nから8Nの範囲は、通常、健聴者が従来型のスピーカを用いて通話をする際に耳に押し当てる平均的な力の範囲を想定している。人種、性別により差があるかもしれないが、要は従来型のスピーカを搭載したスマートフォンや従来型携帯電話等の電子機器において、通常、ユーザが押し付ける程度の押圧力において振動音や気導音を測定できることが好ましい。
また、アーム部72をx1方向に移動調整することで、耳型部50に対する電子機器100の接触姿勢が、例えば、振動体の一例であるパネル102が耳型部50のほぼ全体を覆う姿勢や、図1に示されるように、パネル102が耳型部50の一部を覆う姿勢に調整される。なお、アーム部72を、y軸と平行な方向に移動調整可能に構成したり、x軸やz軸と平行な軸回りに回動調整可能に構成したりして、耳型部50に対して電子機器100を種々の接触姿勢に調整可能に構成してもよい。なお、振動体は、もちろんパネルのような耳を幅広く覆うものに限られず、耳型部50の一部、例えば耳珠の部位だけに対して振動を伝達させるような突起や角部を有する電子機器であっても本発明の測定対象となり得る。
次に、図4を参照して、図1の測定部200の構成について説明する。図4は、図1の測定装置の要部の構成を示す機能ブロック図である。測定部200は、感度調整部300、信号処理部400、PC(パーソナルコンピュータ)500及びプリンタ600を備える。
振動検出素子56及びマイク62の出力は、感度調整部300に供給される。感度調整部300は、振動検出素子56の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路301と、マイク62の出力の振幅を調整する可変利得増幅回路302とを備える。そして、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号の振幅を、手動又は自動により所要の振幅に独立して調整する。これにより、振動検出素子56の感度及びマイク62の感度の誤差を補正する。なお、可変利得増幅回路301,302は、入力信号の振幅を例えば±50dBの範囲で調整可能に構成される。
感度調整部300の出力は、信号処理部400に入力される。信号処理部400は、A/D変換部410、聴感再現部490、周波数特性調整部420、位相調整部430、出力合成部440、周波数解析部450、記憶部460、音響信号出力部480及び信号処理制御部470を備える。A/D変換部410は、可変利得増幅回路301の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)411と、可変利得増幅回路302の出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A/D)412とを備える。そして、それぞれの回路に対応するアナログの入力信号をデジタル信号に変換する。なお、A/D変換回路411,412は、例えば16ビット以上、ダイナミックレンジ換算で96dB以上に対応できる。またA/D変換回路411,412は、ダイナミックレンジが変更可能に構成することができる。
A/D変換部410の出力は、聴感再現部490に供給される。聴感再現部490は、ユーザの聴力の低下を設定してユーザの聴感を再現するものである。ここで、人の聴力が低下する要素には、以下の二つの要素があることが知られている。
(1)鼓膜が動きにくくなり、聴神経の間をつなぐ中耳内部のつち、きぬた、あぶみ骨が癒着して動きににくくなることで、特に高域の音が聴こえにくくなる伝音難聴。
(2)聴神経の損傷が原因で、ある音圧までは反応しにくく、ある音圧からは急激に聴こえ始め、ある音圧以上では耳に響くリクルートメント現象が生じて音が耳に響いて正常に聴こえにくくなる感音難聴。
一般に、聴力の低下は、伝音難聴による低下分と感音難聴による低下分との和となる。したがって、例えば、伝音難聴が聴力低下の主たる原因である人は、圧電レシーバの振動伝達成分を問題なく聴くことができる。しかし、感音難聴が聴力低下の主たる原因である人は、気導成分及び振動伝達成分ともに聴こえにくい。つまり、同じくらい聴力が低下している人でも、伝音難聴と感音難聴とのバランスで、圧電レシーバの音量を上げる必要がない人もいる。したがって、振動という成分で音を伝える圧電レシーバ等の電子機器においては、伝音難聴及び感音難聴の程度を考慮に入れた特性にするのが好ましい。
そのため、本実施の形態において、聴感再現部490は、A/D変換回路411の出力を圧縮伸張処理する第1の圧縮伸張処理部であるDRC(Dynamic Range Compression)491と、A/D変換回路412の出力を減衰処理する減衰処理部であるイコライザ(EQ)492と、該EQ492の出力を圧縮伸張処理する第2の圧縮伸張処理部であるDRC493とを備える。ここで、DRC491及びDRC493は、ユーザの感音難聴を再現するものである。また、イコライザ492は、ユーザの伝音難聴を再現するものである。なお、DRC491及びDRC493は、入力信号を周波数帯域毎に圧縮伸張してダイナミックレンジを調整可能なマルチチャンネルに構成するのが好ましい。また、イコライザ492は、入力信号を周波数帯域毎に例えば30dB以上減衰可能なグラフィカルイコライザで構成するのが好ましい。聴感再現部490によるユーザに応じた伝音難聴及び感音難聴の設定による聴感再現については後述する。
聴感再現部490の出力は、周波数特性調整部420に供給される。周波数特性調整部420は、A/D変換回路411の出力である振動検出素子56による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)421と、A/D変換回路412の出力であるマイク62による検出信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)422とを備える。そして、それぞれの入力信号の周波数特性を、手動又は自動により人体の聴感に近い周波数特性に独立して調整する。なお、イコライザ421,422は、例えば複数バンドのグラフィカルイコライザ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ等から構成される。
周波数特性調整部420の出力は、位相調整部430に供給される。位相調整部430は、イコライザ421の出力である振動検出素子56による検出信号の位相を調整する可変遅延回路431を備える。すなわち、耳型部50の材質を伝わる音速と人体の肉や骨を伝わる音速とは全く同じではないので、振動検出素子56の出力とマイク62の出力との位相関係が、特に高い周波数で人体の耳とのずれが大きくなることが想定される。
このように、振動検出素子56の出力とマイク62の出力との位相関係が大きくずれると、後述する出力合成部440での両出力の合成時に、実際とは異なるタイミングにおいて振幅のピークやディップが現れたり、合成出力が増減したりする場合がある。例えば、振動検出素子56で検出される振動の伝達速度に対して、マイク62で検出される音の伝達速度が0.2ms遅れる場合、2kHzの正弦波振動による両者の合成出力は、図5(a)に示すようになる。これに対し、両者の伝達速度にずれがない場合の合成出力は、図5(b)に示すようになり、本来起こらないタイミングで振幅のピークやディップが現れることになる。なお、図5(a),(b)において、太線は振動検出素子56での振動検出波形を示し、細線はマイク62での音圧検出波形を示し、破線は合成出力波形を示している。
そのため、本実施の形態では、測定対象の電子機器100の測定周波数範囲に応じて、イコライザ421の出力である振動検出素子56による検出信号の位相を、可変遅延回路431により所定の範囲で調整可能する。例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合、可変遅延回路431により±10ms(±100Hz相当)程度の範囲で、少なくとも0.1ms(10kHz相当)より小さい単位で振動検出素子56による検出信号の位相を調整する。なお、人体の耳の場合でも、骨導音と気導音との位相ずれは生じるので、可変遅延回路431による位相調整は、振動検出素子56及びマイク62の両者の検出信号の位相を合わせるという意味ではなく、両者の位相を耳による実際の聴感に合わせるという意味である。
位相調整部430の出力は、出力合成部440に供給される。出力合成部440は、可変遅延回路431により位相調整された振動検出素子56による検出信号と、位相調整部430を通過したマイク62による検出信号とを合成する。これにより、測定対象の電子機器100の振動によって伝わる振動量と音圧、つまり骨導音と気導音とが合成された体感音圧を人体に近似させて得ることが可能となる。
出力合成部440の合成出力は、周波数解析部450に入力される。周波数解析部450は、出力合成部440からの合成出力を周波数解析するFFT(高速フーリエ変換)451を備える。これにより、FFT451から、骨導音と気導音とが合成された体感音圧に相当するパワースペクトルデータが得られる。
さらに、本実施の形態において、周波数解析部450は、出力合成部440で合成される前の信号、すなわち、位相調整部430を経た振動検出素子56による検出信号とマイク62による検出信号とをそれぞれ周波数解析するFFT452,453を備える。これにより、FFT452から、骨導音に相当するパワースペクトルデータが得られ、FFT453から、気導音に相当するパワースペクトルデータが得られる。
なお、FFT451〜453は、電子機器100の測定周波数範囲に応じて周波数成分(パワースペクトル)の解析ポイントが設定される。例えば、電子機器100の測定周波数範囲が100Hz〜10kHzの場合は、測定周波数範囲の対数グラフにおける間隔を100〜200等分した各ポイントの周波数成分を解析するように設定される。
FFT451〜453の出力は、記憶部460に記憶される。記憶部460は、FFT451〜453による解析データ(パワースペクトルデータ)をそれぞれ複数保持できるダブルバッファ以上の容量を有する。そして、後述するPC500からのデータ送信要求タイミングで、常に最新データを送信できるように構成することができる。
音響信号出力部480は、ヘッドホン等の外部接続機器が着脱自在に接続可能に構成される。音響信号出力部480には、信号処理制御部470において、上記の骨導音と気導音とが合成された体感音圧に相当するパワースペクトルデータ、骨導音に相当するパワースペクトルデータ、又は気導音に相当するパワースペクトルデータのいずれかが選択され、かつアナログの音響信号にD/A変換されて供給される。
信号処理制御部470は、例えば、USB,RS−232C,SCSI、PCカード等のインターフェース用の接続ケーブル510を介してPC500に接続される。そして、信号処理制御部470は、PC500からのコマンドに基づいて、信号処理部400の各部の動作を制御する。なお、感度調整部300及び信号処理部400は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)によって構成したりすることができる。
PC500は、測定装置10による電子機器100の測定アプリケーションを有する。測定アプリケーションは、例えば、CD−ROMやネットワーク等を介してダウンロードされる。そして、PC500は、例えば、測定アプリケーションに基づくアプリケーション画面を表示部520に表示する。また、該アプリケーション画面を介して入力される情報に基づいて信号処理部400にコマンドを送信する。また、PC500は、信号処理部400からのコマンド応答やデータを受信し、受信したデータに基づいて所定の処理を施して、アプリケーション画面に測定結果を表示する。また、必要に応じて測定結果をプリンタ600に出力して印刷する。
なお、図4において、感度調整部300及び信号処理部400は、例えば電子機器装着部20の基台30上に搭載され、PC500及びプリンタ600は、基台30から離れて設置される。そして、信号処理部400とPC500とを接続ケーブル510を介して接続される。
一方、測定対象の電子機器100の内蔵メモリ103には、パネル102を振動させる再生音源フォーマットに応じた音源情報が、例えば、記録媒体又はネットワークを介してダウンロードされて記憶される。ここで、音源情報は、電子機器100を評価するための試験音情報である。例えば、電子機器100が携帯電話の場合は、3GPP2に定義されている音響特性の測定時(3GPP TS26.131/132)に使用される試験音(非会話擬似信号、ピンクノイズ、ホワイトノイズ、擬似雑音、マルチサイン波、サイン波、人工音声)とすることができる。なお、音源情報は、試験音情報として記憶されてもよいし、該試験音情報を生成するアプリケーションとして記憶されてもよい。また、音源情報の記憶部は、測定装置が備えてもよい。
また、電子機器100は、測定部200により制御可能に、USB等のインターフェース用の接続ケーブル511を介して測定部200に接続される。なお、接続ケーブル511による電子機器100と測定部200との接続は、図4に実線で示すように、電子機器100と信号処理部400の信号処理制御部470とが接続されてもよいし、図4に仮想線で示すように、電子機器100とPC500とが接続されてもよい。
次に、本実施の形態に係る測定装置10による電子機器100の測定法について説明する。先ず、電子機器100の測定に先立って、測定装置10の聴感再現部490をユーザの伝音難聴及び感音難聴に応じて設定して、ユーザの聴感を再現する。ここで、聴感再現部490によるユーザの伝音難聴及び感音難聴は、例えばオージオメータによる聴力測定結果(オージオグラム)に基づいて設定することができる。
すなわち、オージオメータによる気導の聴力測定値は、外耳、中耳及び内耳の全ての要素が考慮された測定値である。これに対し、オージオメータによる骨導の聴力測定値は、内耳の要素のみが考慮された測定値である。したがって、オージオグラムの骨導値と気導値との差に基づいて、伝音難聴及び感音難聴を設定することができる。例えば、オージオグラムの気導レベルと骨導レベルとが一致していた場合は、内耳が難聴の主な要因となるので感音難聴と判定される。したがって、この場合は、振動検出素子56側のDRC491及びマイク62側のDRC493により感音難聴を再現する。
これに対し、オージオグラムの気導レベルと骨導レベルとが一致していない場合は、中耳及び内耳ともに難聴の要因がある。この場合、「気導レベル−骨導レベル」が、中耳で生じている伝音難聴に相当し、骨導レベルが内耳で起きている感音難聴に相当する。したがって、この場合は、マイク62側のイコライザ492により伝音難聴を再現し、振動検出素子56側のDRC491及びマイク62側のDRC493により感音難聴を再現する。
例えば、ユーザのオージオグラムとして、図6(a)に示す気導成分の聴力測定結果と、図6(b)に示す骨導成分の聴力測定結果とが得られたとする。この場合、図6(b)の骨導成分は、聴力レベルが0dBで正常であり、図6(a)の気導成分のみに、聴力の低下が見られるので、外耳から中耳にかけての伝音難聴であることが分かる。したがって、この場合は、マイク62側のイコライザ492の周波数特性を図7に示すように設定して伝音難聴を再現することにより、ユーザの聴感を再現することができる。なお、伝音難聴は、一般的な加齢による難聴のデータに基づいて設定することもできる。この場合は、PC500等に年齢に対応するイコライザ492の設定データをテーブルとして記憶しておき、ユーザの年齢を入力することにより、対応する設定データに基づいてイコライザ492の特性を設定すればよい。
また、感音難聴は、DRC491及びDRC493の入出力特性を、例えば図8に示すように設定することにより再現する。なお、図8に例示する入出力特性は、60dB以下の音では聴神経が反応しないために全く聴こえず、60dB以上の大きさでは10dBの変化に対して、10dB以上大きくなるように聴こえ、100dB以上でサチュレーションを起こす不快閾値を有するリクルートメント現象を再現したものである。なお、リクルートメントに関する研究は、まだ全てが明らかになっているわけではないが、不快閾値は例えば最小可聴閾値に基づいてFig6、NAL−NL1等の計算式(聴力レベルと可聴域値との関係や、聴力レベルと不快域値との関係)により算出することが可能である。図8は、60dBの最小可聴閾値に基づいてDRC491及びDRC493の入出力特性を設定したものである。
以上のように、聴感再現部490をユーザの聴感に応じて設定したら、電子機器100の測定を開始する。まず、信号処理部400の信号処理制御部470により、PC500からの測定開始のコマンドの受信に同期して電子機器100を制御する。或いは、PC500により、信号処理部400に対する測定開始のコマンド送信に同期して、電子機器100を直接制御する。これにより、内蔵メモリ103に記憶されている所定の音源情報を読み出し、該読み出した音源情報に基づいて、パネル102を振動させる。また、信号処理部400は、パネル102の振動に同期して、振動検出素子56及びマイク62の出力処理を開始して、耳型部50を介して伝わる骨導音と気導音とを測定する。これらの測定結果は、表示部520に表示され、また、必要に応じてプリンタ600に出力されて、電子機器100の調整に供される。
このように、本実施の形態に係る測定装置10は、聴感再現部490によりユーザの伝音難聴及び感音難聴を考慮した聴感を再現して電子機器100を測定することができる。したがって、電子機器100をユーザに相応しい特性に調整することができる。また、本実施の形態では、測定装置10の測定部200により電子機器100を制御して、電子機器100のパネル102を内蔵メモリ103に記憶されている音源情報により振動させ、そのパネル102の振動に同期して、測定部200により電子機器100を測定している。したがって、電子機器100を所望の音源情報で振動させることができるので、電子機器100をユーザの聴感により相応しい特性に調整することが可能となる。
しかも、振動検出素子56により、耳型部50を介して人体の耳への振動伝達の特徴が重み付けされた骨導音を測定することができるので、電子機器100をより正しく測定することができる。また、骨導音と同時にマイク62により耳型部50の人工外耳道53を介しての気導音も測定できる。これにより、人間の耳への振動伝達量に相当する骨導音と気導音との合成音を測定できるので、電子機器100をより詳細に調整することが可能となる。さらに、保持部70は、電子機器100の耳型部50に対する押圧力を可変できるとともに、接触姿勢も可変できるので、電子機器100を種々の態様で測定することが可能となる。
(第2実施の形態)
図9は、本発明の第2実施の形態に係る測定装置を構成する測定装置の要部の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る測定装置110は、電子機器装着部120の構成が第1実施の形態における電子機器装着部20と異なるもので、その他の構成は第1実施の形態と同様である。したがって、図9においては、第1実施の形態で示した測定部200の図示を省略してある。電子機器装着部120は、人体の頭部模型130と、測定対象の電子機器100を保持する保持部150とを備える。頭部模型130は、例えばHATSやKEMAR等からなる。頭部模型130の人工耳131は、頭部模型130に対して着脱自在である。
人工耳131は、耳型部を構成するもので、図10(a)に頭部模型130から取り外した側面図を示すように、第1実施の形態の耳型部50と同様の耳模型132と、該耳模型132に結合され、人工外耳道133が形成された人工外耳道部134とを備える。人工外耳道部134には、人工外耳道133の開口周辺部に、第1実施の形態の耳型部50と同様に、振動検出素子を備える振動検出部135が配置されている。また、頭部模型130の人工耳131の装着部には、図10(b)に人工耳131を取り外した側面図を示すように、中央部にマイクを備える音圧測定部136が配置されている。音圧測定部136は、頭部模型130に人工耳131が装着されると、人工耳131の人工外耳道133を経て伝播される音の音圧を測定するように配置されている。なお、音圧測定部136は、第1実施の形態の耳型部50と同様に、人工耳131側に配置してもよい。振動検出部135を構成する振動検出素子及び音圧測定部136を構成するマイクは、第1実施の形態と同様に測定部に接続される。
保持部150は、頭部模型130に着脱自在に取り付けられるもので、頭部模型130への頭部固定部151と、測定対象の電子機器100を支持する支持部152と、頭部固定部151及び支持部152を連結する多関節アーム部153と、を備える。保持部150は、多関節アーム部153を介して、支持部152に支持された電子機器100の人工耳131に対する押圧力及び接触姿勢を、第1実施の形態の保持部70と同様に調整可能に構成されている。
本実施の形態に係る測定装置によると、第1実施の形態の測定装置と同様の効果が得られる。特に、測定装置110は、人体の頭部模型130に、振動検出用の人工耳131を着脱自在に装着して電子機器100を測定するので、頭部の影響が考慮された実際の使用態様により即した測定が可能となる。
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、耳型部50、振動検出部55及び音圧測定部60を設けたが、振動体の直接的な振動をユーザの感音難聴のみを考慮して測定する等、振動体の測定する特性によっては、耳型部50及び音圧測定部60を省略することも可能である。また、振動体を振動させる音源情報は、測定装置10側に記憶させるようにしてもよい。例えば、信号処理部400又はPC500の内蔵メモリに音源情報を記憶したり、信号処理部400又はPC500に音源情報専用の記憶部を設けたりして、信号処理部400又はPC500により、対応する内蔵メモリや記憶部から所定の音源情報を読み出して電子機器100に供給することにより、パネル102を振動させるようにしてもよい。また、測定装置側に信号処理部400やPC500と独立して、音源情報専用の記憶部を設けてもよい。
また、上記実施の形態では、測定部200に、信号処理部400と分離してPC500を設けるようにしたが、PC500によって実行する測定アプリケーションの機能を信号処理部400に搭載して、PC500を省略してもよい。さらに、測定部200は、独立型ですべての機能を集約した構成に限らず、一または複数のPCや外部サーバーに分かれて配置されている場合のように、ネットワークシステムやクラウドを活用した構成であってもよいことはいうまでもない。
また、上記実施の形態では、測定対象の電子機器100として、スマートフォン等の携帯電話で、パネル102が振動体として振動するものを想定したが、折り畳み式の携帯電話で、通話等の使用態様において耳に接触するパネルが振動する電子機器も同様に測定することが可能である。また、携帯電話に限らず、他の圧電レシーバも同様に測定することが可能である。