(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像(3)が形成されてなる。基材(2)は、印刷画像(3)を形成することができれば、紙、プラスティック及び金属等とすることができ、その材質は問わない。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。印刷画像(3)は、いかなる色彩でも良く、透明や半透明であっても良い。なお、図1以降に示す全ての印刷画像(3)において、説明のために潜像画像が可視化された図を用いているが、実際には、拡散反射光下において印刷画像(3)中の潜像画像は不可視である。
本発明の印刷画像(3)における構成の概要を図2に示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状画線群(4)の上に、合成潜像画線群(5)が重ね合わさってなる。まず、蒲鉾状画線群(4)について具体的に説明する。図3は、蒲鉾状画線群(4)であり、蒲鉾状画線群(4)は、盛り上がりを有する蒲鉾形状を有した、第一の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6)が第一のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置されることで形成される。
蒲鉾状画線(6)は、拡散反射光下において、特定の色彩を有するか、透明又は半透明であって、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、正反射光下では、拡散反射光下と異なる色彩へと変化する特性を有する。なお、本発明でいう蒲鉾状画線(6)の形状は、蒲鉾形立体のみならず、半円形状又は半楕円形状等の半円立方体の形状も含まれる。
本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度が変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキ、グロスタイプの着色インキ又は透明及び半透明のインキ等がある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では、暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、又は白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキ、液晶インキ、OVI及びCSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明であるが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
以上のような構成の蒲鉾状画線群(4)を、盛り上がりを有する画線として形成することができる印刷方式によって形成する。出現する潜像画像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さは3μm以上必要であるため、スクリーン印刷又は凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷及びIJP等であってもこの程度の画線の盛り上がり高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性、耐摩擦性及び流通適正等を考慮して1mm以下とする。なお、本発明における画線とは、印刷の最小単位である網点を一定の距離で、隙間なく連続して配置した画像要素であって、点線、破線、分断線及び分岐線等が含まれる。
次に、合成潜像画線群(5)について具体的に説明する。図4は、合成潜像画線群(5)であり、第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)とを有する。第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)は、領域的に重なり合って配置されてなり、一見して第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)とが重なり合っているように見える。ただし、実際には第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)とは、その領域は重なるものの、それぞれを構成する画線自体は重なり合うことはない。重なり合いの具体的な構成については後記する。
第一の実施の形態で説明する合成潜像画線群(5)は、第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)の二つの潜像画線群からなるが、二つの潜像画線群の基本的な構造と、作製方法は同じである。第一の実施の形態においては、第二の潜像画線群(5B)を代表例として用いて、その潜像画線群の構造と、作製方法について説明する。
図5に、第二の潜像画線群(5B)を示す。第二の潜像画線群(5B)は、第三の画線幅(W3)を有する第二の潜像画線(7B)が、第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で複数配置されてなる。それぞれの第二の潜像画線(7B)は、それぞれ異なる形状を有する。第二の潜像画線群(5B)は、A側から、第二の潜像画線1(7B−1)、第二の潜像画線2(7B−2)、第二の潜像画線3(7B−3)・・・第二の潜像画線n(7B−n)が、第一の方向(S1方向)に向かって第一のピッチ(P1)で順にA´側へと配置されて構成される。
図6に第二の潜像画線(7B)の作製方法を示す。まず、正反射光下で潜像画像として出現させたい画像の一つを、第二の基画像(8B)として設定する。第一の実施の形態において、第二の基画像(8B)とは、桜の花びらを表した画像である。まず、S1方向と平行な方向(横方向)には第二の基画像(8B)よりも短い幅(L)、第一の方向(S1方向)と直交する方向(高さ方向)に、第二の基画像(8B)よりも長い高さ(H)の大きさである、特定の大きさの第二のフレーム(9B)を設定し、第二の基画像(8B)の高さ方向が少なくとも含まれる位置関係に第二のフレーム(9B)を配置する。このとき、第二のフレーム(9B)内に収まった第二の基画像(8B)だけを取り出す。この画像をフレーム内画像(10B)と呼ぶ。このフレーム内画像(10B)を第一の方向(S1方向)に特定の縮率によって第三の画線幅(W3)に圧縮することで、一つの第二の潜像画線(7B)を構成する。
本発明でいう、潜像画線(7)とは、塗りつぶされた画像のみを指すものではなく、フレーム内画像を圧縮して作られた、特定の画線幅(図6(a)の例では、第三の画線幅(W3))内に含まれる全てを指すものとする。すなわち、塗られていない空白を含めて潜像画線(7)とし、潜像画線の中心とは、特定の画線幅(図6(b)の例では、第三の画線幅(W3))の半分にあたる位置をいう。
図7に第二の潜像画線群(5B)の作製方法を示す。作製方法の例では、A側にある第二の潜像画線1(7B−1)から、第二の潜像画線2(7B−2)、第二の潜像画線3(7B−3)と順に作製し、最後に第二の潜像画線n(7B−n)を作製して第二の潜像画線群(5B)を完成させる例について説明する。
まず、最もA側にある第二の潜像画線1(7B−1)を作製するにあたっては、第二の基画像(8B)の最もA側部分の画像がわずかに触れる位置に、第二のフレーム1(9B−1)を配置する。次に、フレーム内画像1(10B−1)を作製し、特定の縮率で圧縮して、第三の画線幅(W3)の第二の潜像画線1(7B−1)を作製して、任意の位置に配置する。
次に、第二の基画像(8B)の位置を固定したまま、第二のフレーム1(9B−1)の位置から第一の方向(S1方向)に第一のピッチ(P1)だけ平行にずらした位置に、第二のフレーム1(9B−1)と同じ大きさの第二のフレーム2(9B−2)を配置する。続いて、フレーム内画像2(10B−2)を作製し、特定の縮率で圧縮して、第三の画線幅(W3)の第二の潜像画線2(7B−2)を作製して、先ほど作製した第二の潜像画線1(7B−1)の位置を基準として、第一の方向(S1方向)に第一のピッチ(P1)だけ平行にずらした位置に、第二の潜像画線2(7B−2)を配置する。
次に、先ほどと同様に、第二の基画像(8B)の位置を固定したまま、第二のフレーム2(9B−2)の位置から第一の方向(S1方向)に第一のピッチ(P1)だけ平行にずらした位置に、第二のフレーム1(9B−1)と同じ大きさの第二のフレーム3(9B−3)を配置する。続いて、フレーム内画像3(10B−3)を作製し、特定の縮率で圧縮して、第三の画線幅(W3)の第二の潜像画線3(7B−3)を作製して、先ほど作製した第二の潜像画線2(7B−2)の位置を基準として、第一の方向(S1方向)に第一のピッチ(P1)だけ平行にずらした位置に、第二の潜像画線3(7B−3)を配置する。
この作業を繰り返すことで第二の基画像(8B)のA´側にフレームが達し、最終的にフレーム内部に何も含まれなくなる直前のフレーム位置を最終の第二のフレームである第二のフレームn(9B−n)とし、この第二のフレーム内画像n(10B−n)から作られる第二の潜像画線(7B)を第二の潜像画線n(7B−n)とする。第二の潜像画線n(7B−n)を配置した段階で、第二の潜像画線群(5B)が完成する。以上の手順で第二の潜像画線群(5B)を作製する。
図8に、もう一方の潜像画線群である、第一の潜像画線群(5A)を示す。第一の潜像画線群(5A)は、第二の画線幅(W2)を有する第一の潜像画線(7A)が、第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で複数配置されて成る。第一の潜像画線群(5A)は、桜の蕾の画像を第一の基画像(8A)として構成された第一の潜像画線(7A)の集合である。
それぞれの第一の潜像画線(7A)は、それぞれ異なる形状を有する。第一の潜像画線群(5A)は、A側から、第一の潜像画線1(7A−1)、第一の潜像画線2(7A−2)、第一の潜像画線3(7A−3)・・・第一の潜像画線n(7A−n)が、第一の方向(S1方向)に向かって第一のピッチ(P1)で順にA´側へと配置されて構成される。第一の潜像画線(7A)及び第一の潜像画線群(5A)の具体的な作製方法については、第二の潜像画線(7B)及び第二の潜像画線群(5B)と同じであるため、説明を省略する。
次に、合成潜像画線群(5)について説明する。合成潜像画線群(5)は、第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)を組み合わせることで作製する。合成潜像画線群(5)は、一見して第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)が重なり合ったような構成を取る。合成潜像画線群(5)の中の第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)は、領域的に少なくも一部が重なり合う構成をとる。「領域的に重なり合う」とは、二つの画像の配置された場所が重畳するという意味である。
図9に、第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)の配置について示す。合成潜像画線群(5)の中の第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)は、領域的に少なくも一部が重なり合うが、第一の潜像画線群(5A)の画像の幅の中心と、第二の潜像画線群(5B)の画像の幅の中心は重なってはならず、第一の方向(S1)と平行な、いずれかの方向(右方向か左方向)に位相がずれている必要がある。これについては後記する。逆に第一の方向(S1)と直交する方向には、画像の中心は重なっていても良い。
図10に合成潜像画線群(5)の詳細な構造を示す。合成潜像画線群(5)の中の第一の潜像画線群(5A)と第二の潜像画線群(5B)は、領域的には重なり合うものの、それぞれの潜像画線群を構成する要素同士は重なり合わない。すなわち、第一の潜像画線群(5A)を構成する第一の潜像画線(7A)と、第二の潜像画線群(5B)を構成する第二の潜像画線(7B)とは重なり合わない。合成潜像画線群(5)の中では、第一の潜像画線(7A)と、第二の潜像画線(7B)とが交互に配置されて成る。なお、図10、図11、図13、図23、図24、図33及び図34では、実際に作製した画像を大きくデフォルメした図を用いて説明しているため、実際に作製した図とはピッチや画線幅等が異なる。また、図10に関しては、第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)とを解りやすいようにパターンを変えて記したが、実際はこのような違いはない。
また、第一の潜像画線(7A)と、第二の潜像画線(7B)とは、第一の方向(S1方向)と直交する方向の辺(高さ方向の辺)のうち、少なくとも一方の辺が、蒲鉾状画線(6)上で接していることが望ましい。図10の拡大図においては、第一の潜像画線(7A)のA´側の辺と、第二の潜像画線(7B)のA側の辺とが密接している。このように第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)を密接させる構成は、一つの基画像から、もう一つの基画像へと画像をチェンジさせる場合に、画像が途切れることなくスムーズにチェンジする効果を生じさせることができるため、望ましい。
合成潜像画線群(5)には、盛り上がりは必須ではなく、このため、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像画像を可視化するために、潜像画線(7)は正反射時に蒲鉾状画線(6)との間に色差が生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が前述の蒲鉾状画線(6)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。また、潜像画線(7)は、蒲鉾状画線(6)の上に重ねて形成されるために、潜像画線(7)の下の蒲鉾状画線(6)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる蒲鉾状画線(6)の色彩変化を抑制する働きをなす。このため、潜像画線(7)が重なっているか否かによって、蒲鉾状画線(6)からの正反射時の色彩に、より大きな違いが生じる。潜像画像の視認性をより高めるためには、潜像画線(7)が高い光遮断性を備えていることが望ましい。
そのため、合成潜像画線群(5)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。また、合成潜像画線群(5)は、拡散反射光下で不可視であることが望ましいことから、無色透明又は半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合して、UVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することができる構成とすることもできる。
また、合成潜像画線群(5)は、インキで形成するだけでなく、IJPプリンターやレーザープリンターを用いて形成しても良い。また、合成潜像画線群(5)にあたる画像を蒲鉾状画線(6)に切削して付与することで形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状画線(6)は、多くの場合、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、又は大きく低下するため、光学的変化が生じ、潜像画像を形成することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与することができるという特徴がある。
図11に蒲鉾状画線群(4)の上に合成潜像画線群(5)が重なった印刷画像(3)を示し、二つの画線群の重なり合いの適切な位置関係について説明する。印刷画像(3)を形成するにあたっては、蒲鉾状画線群(4)におけるそれぞれの蒲鉾状画線(6)の上に、合成潜像画線群(5)を構成する第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)の両画線における少なくとも一部が重なる必要がある。蒲鉾状画線(6)の上に重ならなかった第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)は、正反射光下で潜像画像として可視化されないため、必ず一部で重なる必要がある。また、蒲鉾状画線(6)と、第一の潜像画線(7A)及び第二の潜像画線(7B)は、略平行に重なる必要がある。
前述したとおり、蒲鉾状画線(6)の上に第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)の両画線における少なくとも一部が重なる必要はあるが、蒲鉾状画線(6)の第一の画線幅(W1)と、第一の潜像画線(7A)の第二の画線幅(W2)、第二の潜像画線(7B)の第三の画線幅(W3)に関しては、細かい制限はない。
また、前述の蒲鉾状画線(6)上の重なりの程度は、前述の第一の潜像画線(7A)の幅の割合と前述の第二の潜像画線(7B)の幅の割合がそれぞれの前述の蒲鉾状画線(6)において、全て同じ比率とする必要がある。すなわち、ある蒲鉾状画線(6)の画線表面を、第一の潜像画線(7A)が50%、第二の潜像画線(7B)が50%占めていたとすると、印刷画像(3)中のその他の全ての蒲鉾状画線(6)の画線表面において、第一の潜像画線(7A)が50%、第二の潜像画線(7B)が50%を占めている関係が成り立つ必要がある。この関係がくずれ、ある蒲鉾状画線(6)の画線表面において、第一の潜像画線(7A)が50%、第二の潜像画線(7B)が50%を占め、別の蒲鉾状画線(6)の画線表面において、第一の潜像画線(7A)が30%、第二の潜像画線(7B)が70%を占めている場合には、本発明の意図する動画効果とチェンジ効果は生じない。
蒲鉾状画線(6)上に重なる第一の潜像画線(7A)の割合と、第二の潜像画線(7B)の割合を制御することで、正反射光下で出現する第一の基画像(8A)と、第二の基画像(8B)の観察角度の範囲を調整することができる。仮に製作者が、第一の基画像(8A)と、第二の基画像(8B)とを特にどちらの画像も強調せず、同じ程度の観察角度の範囲で見せたいと希望した場合、蒲鉾状画線(6)の上に重なる第一の潜像画線(7A)の割合と、第二の潜像画線(7B)の割合を同じ程度にすれば良い。すなわち、図11に示すように、蒲鉾状画線(6)の盛り上がり中心を境に、一方の画線表面には、第一の潜像画線(7A)が、他方の画線表面には、第二の潜像画線(7B)が重なる位置関係とし、それぞれの重なり合いの幅の割合を50%程度とした場合、正反射光下で出現する第一の基画像(8A)と、第二の基画像(8B)とは、同じ程度の観察角度の範囲で観察することができる形態となる。
具体的な角度の例としては、仮に潜像画像が正反射光下25度から65度の範囲で可視化されるとすると、画線表面に第一の潜像画線(7A)が50%、第二の潜像画線(7B)が50%重なった構成の場合、正反射光下、25度から45度の20度の範囲で第一の基画像(8A)が観察され、45度から65度の20度の角度範囲で第二の基画像(8B)が観察される形態となる。また、画線表面に第一の潜像画線(7A)が25%、第二の潜像画線(7B)が75%重なった構成の場合、正反射光下、25度から35度の10度の範囲で第一の基画像(8A)が観察され、35度から65度の30度の角度範囲で第二の基画像(8B)が観察される形態となる。また、画線表面に第一の潜像画線(7A)が75%、第二の潜像画線(7B)が25%重なった構成の場合、正反射光下、25度から55度の30度の範囲で第一の基画像(8A)が観察され、55度から65度の10度の角度範囲で第二の基画像(8B)が観察される形態となる。以上のように、蒲鉾状画線(6)上に重なるそれぞれの潜像画線の幅の割合を制御することで、出現する画像がそれぞれ視認される角度範囲を任意に調整することができる。
また、第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)とが密接している辺(図10に示す例では、第一の潜像画線(7A)のA´側の辺)と、第二の潜像画線(7B)のA側の辺とが密接している一辺は、蒲鉾状画線(6)の上に重なることが、画像が途切れなくスムーズにチェンジする効果を生じさせる上で望ましい。第一の実施の形態では、蒲鉾状画線(6)の中心からA側の画線表面に第一の潜像画線(7A)が、A´側の画線表面に第二の潜像画線(7B)が重なる位置関係とした。
図12に、第一の実施の形態における潜像印刷物(1)の効果を示す。拡散反射光下において、潜像画像は不可視であり、蒲鉾状画線群(4)に特定の色彩が付与されている場合には、蒲鉾状画線群(4)のみが視認される(図示せず)。蒲鉾状画線群(4)が透明な材料で形成されている場合には、拡散反射光下において、いずれの画像も視認することができない(図示せず)。
本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、図12(a)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11)が、Aよりにある場合には印刷画像(3)の中に、第一の基画像(8A)が潜像として再生され、わずかに角度を変化させることにより第一の方向(S1方向)とは逆方向に動いて見える。また、図12(b)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11)を、ややA´側に変化させた場合、印刷画像(3)の中の第一の基画像(8A)が第一の方向(S1方向)とは逆方向に動きながら特定の観察角度において第二の基画像(8B)へとスムーズにチェンジする。続いて、図12(c)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11)を、よりA´側近くに変化させた場合、印刷画像(3)の中の第二の基画像(8B)が第一の方向(S1方向)とは逆方向へと動いて見える。特に、第一の基画像(8A)が動きながら第二の基画像(8B)へとチェンジする効果は、極めてスムーズで連続的なつながりのある変化として視認され、蕾と花が別々の物体として認識されることはなく、ひとつの物体が、蕾から花へと変化したように観察される。すなわち、桜の蕾が膨らんで花が咲いたように認識することができる。
また、加えて出現した画像は、潜像印刷物(1)上から浮き上がっているように見える独特の遠近感が生じる。この遠近感は、蕾が動いて見えるとき、動きながら蕾から花へと変化するとき又は花が動いて見えるときのいずれの場面でも同じ距離感で常時発現し続ける。
以上のように、拡散反射光下では、いかなる潜像画像も視認することができないが、正反射光下の観察において、特定の角度範囲で第一の基画像(8A)が潜像として出現し、遠近感を伴いながら動いて観察される。また、ある角度において、第一の基画像(8A)から第二の基画像(8B)へと画像がスムーズにチェンジし、異なる特定の角度範囲で第二の基画像(8B)が動いて観察される効果を有する。動画効果と画像のチェンジ効果を同時に、遠近感も伴いながら、いずれの効果も損なうことなく、表現することができる。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下において、合成潜像画線群(5)は、透明又は半透明で形成されることから不可視であり、蒲鉾状画線群(4)が色彩を有している場合には、蒲鉾状画線群(4)のみがそのままの色彩で視認される。
一方、正反射光下における効果は複雑であるため、まず、正反射光において潜像が可視化される原理について説明し、その後に画像が動きながらチェンジする原理と、遠近感が生じる原理について説明する。まず、正反射光において潜像が可視化され、動いて見える効果が生まれる原理について説明する。蒲鉾状画線群(4)の蒲鉾状画線(6)は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有するために、強い正反射光を発して色彩が変化する。ただし、蒲鉾状画線(6)は、盛り上がりを有しているため、入射する光の角度に応じて、光を強く正反射する画線表面の位置が異なる。例えば、潜像印刷物(1)のA側の方向から光が入射した場合、盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA側にあたる画線表面のみであり、逆に、潜像印刷物(1)のA´側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA´側の方向にあたる画線表面のみである。
以上のように、蒲鉾状画線(6)のような、盛り上がりを有する画線が光を反射する場合、入射する光に対して入射光と法線を成す画線表面を中心に光を反射しており、入射する光の角度に応じて、盛り上がりを有する画線表面のうち、強く光を反射する領域が変化している。また、蒲鉾状画線群(4)を形成している盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)は、同じ立体構造の画線が第一のピッチ(P1)で繰り返し配置されていることから、蒲鉾状画線群(4)の中の光を反射する領域は、第一のピッチ(P1)で繰り返し生じる。
蒲鉾状画線(6)の表面には、それぞれ潜像画線(7)が形成されていることから、蒲鉾状画線(6)が光を強く反射した場合には、その画線上に重ねられた潜像画線(7)と蒲鉾状画線(6)とは異なる色彩に変化し、それまで隠蔽されていた潜像画線(7)が可視化される。この場合、可視化される潜像画線(7)は、蒲鉾状画線(6)のうち、光を強く反射した領域に重ねられて形成されていた潜像画線(7)のみであり、それ以外の領域に重ねられて形成されていた潜像画線(7)は隠蔽されたままとなる。
蒲鉾状画線(6)には、第一のピッチ(P1)で光を強く反射する領域が形成されるため、潜像画線(7)も第一のピッチ(P1)で可視化される。合成潜像画線群(5)は、基画像(8)から蒲鉾状画線群(4)と同じ第一のピッチ(P1)で取り出した画像を、特定の割合で圧縮して蒲鉾状画線群(4)と同じ第一のピッチ(P1)で配置して形成しているため、蒲鉾状画線群(4)と同じピッチで合成潜像画線群(5)をサンプリングした場合には、基画像(8)と同じ画像が潜像画像として再現される。以上が、正反射光下で基画像(8)が潜像画像として出現する原理である。
この際、サンプリングされる幅である、すなわち、それぞれの蒲鉾状画線(6)が光を強く反射する領域の幅が狭い方が、出現する潜像画像はより基画像(8)に近くなり、輪郭がシャープで、画像全体が明瞭に再現される。逆に、その幅が広い場合には、より合成潜像画線群(5)に近く、輪郭がぼやけた不明瞭な状態として再現されてしまう。この状態を防ぐためには、それぞれの盛り上がりを有する画線が光を強く反射する領域を狭くする必要があり、盛り上がりを有する画線の高さをより高くすることが有効である。
次に、出現する潜像画像が第一の基画像(8A)から第二の基画像(8B)に動きながらチェンジする原理について図13を用いて説明する。なお、図13に示すそれぞれの蒲鉾状画線(6−1〜6−11)は、説明の便宜上、拡大図に示すようにA側に近い画線表面(ア)とやや中央よりの画線表面(イ)と、中央の画線表面(ウ)と、A´側に違い画線表面(エ)の4つの領域に分けて示しているが、実際に領域が物理的に分割されているわけではない。
仮に、図12(a)に示すように、観察者の視点(11)が、A側に近い場合、それぞれの蒲鉾状画線(6)のA辺側の画線表面(ア)のみが強い正反射光を発し、図12(b)に示すように、観察者の視点(11)が、A´側にやや近い場合、(イ)の領域を経て、それぞれの蒲鉾状画線(6)の盛り上がりの頂点に位置する画線表面(ウ)が強い正反射光を発し、図12(c)に示すように、観察者の視点(11)が、A´側に近い場合、それぞれの蒲鉾状画線(6)のA´辺側の画線表面(エ)が強い正反射光を発する。
このため、観察者の視点がA側からA´側へと移動した場合、合成潜像画線群(5)の各潜像画線に含まれた情報が(ア)から(エ)の方向である、すなわち、第一の方向(S1方向)に同じ位相で同時にサンプリングされて再生される。まず、観察者の視点がA側にある場合、それぞれの蒲鉾状画線(6)の(ア)の領域にある潜像画線の情報が再生される。(ア)の領域に潜像画線が重ねられている蒲鉾状画線(6)は、6−7から6−11の蒲鉾状画線(6)であるから、6−7から6−11の潜像画線の(ア)の領域の情報である、すなわち、第一の基画像(8A)がサンプリングされて再生される。
観察者の視点がA側からA´側へとわずかに移動した場合、サンプリングされる情報は、各蒲鉾状画線(6)の(ア)の領域から(イ)の領域へとシフトする。この状態では各蒲鉾状画線(6)の(イ)の領域の潜像画像の情報が再生される。(イ)の領域に潜像画線が重ねられている蒲鉾状画線(6)は、6−6から6−10の蒲鉾状画線(6)であるから、6−6から6−10の潜像画線の(イ)の領域の情報である、すなわち、第一の基画像(8A)がややA辺よりに移動した情報がサンプリングされて再生される。
さらに、観察者の視点がA側からA´側へと移動した場合、サンプリングされる情報は、各蒲鉾状画線(6)の画線中心である(ウ)の領域へとシフトする。この状態でサンプリングされるのは、6−3から6−11の潜像画線の(ウ)の領域の情報である、すなわち、第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)の情報が同時に再生され、二つの基画像が混ざり合う状態となる。第一の実施の形態において、第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)は、各蒲鉾状画線(6)の盛り上がりの頂点を境に画線表面のA側とA´側にわかれているため、各蒲鉾状画線(6)の正反射する画線表面が、各蒲鉾状画線(6)の中心から極わずかにA辺側へとずれた場合には、まざりあった画像の中の二つの基画像のうち、第一の基画像(8A)の画像が相対的に強く見え、各蒲鉾状画線(6)の正反射する画線表面が各蒲鉾状画線(6)の中心から極わずかにA´辺側へとずれた場合には、まざりあった画像の中の二つの基画像のうち、第二の基画像(8B)の画像が相対的に強く見える。わずかな角度の変化でまざりあった画像の中のそれぞれの基画像の視認性のバランスが変わるため、一定の方向に観察角度を変化させた場合には、極めてスムーズに第一の基画像(8A)から第二の基画像(8B)へと画像が変化し、画像の構成としては、チェンジ効果を付与する構成を用いているにも関わらず、モーフィングのような効果を得ることができる。
さらに、観察者の視点がA´側へと大きく移動した場合、サンプリングされる情報は、各蒲鉾状画線(6)の中心から(エ)の領域へとシフトする。この状態でサンプリングされるのは、6−1から6−9の潜像画線の(エ)の領域の情報である、すなわち、第二の基画像(8B)が、A辺寄りにある情報が再生される。以上の原理で画像に動画効果とチェンジ効果が生じる。
また、潜像印刷物(1)に正対して観察した場合、右眼と左眼とでは、入射した光が印刷物で反射して眼に入る角度がわずかに異なるため、蒲鉾状画線(6)の光を反射する画線表面もわずかに異なっている。このため、出現する潜像画像は、右眼から見た場合と左から見た場合では、水平方向の位相が異なり、これによって両眼視差に起因する立体的な視覚効果が生じる。例えば、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、右にある場合には、潜像画像は印刷物の表面よりも手前にあるように感じられる。逆に、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、左にある場合には、潜像画像は印刷物の表面よりも奥にあるように感じられる。この立体的な視覚効果を生じさせるためには、観察者から見て水平方向に画像が動いて見える効果が必須であるため、蒲鉾状画線(6)を垂直方向に近い角度で並べたほうが、この効果は高くなる。
以上が、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像印刷物(1)が光を強く反射した場合に潜像画像として基画像(8)が出現し、動画効果、画像のチェンジ効果及び立体的な視覚効果が生じる原理である。
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態における潜像印刷物について、第一の実施の形態とは逆方向に潜像画像が動き、遠近感も逆転して潜像画像が奥側にあるように見える形態について、説明する。
図14に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。図14(a)に示すのは、潜像印刷物(1´)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の上に、印刷画像(3´)が形成されてなる。基材(2´)及び印刷画像(3´)の条件については、第一の実施の形態と同じであるため、説明を省略する。
本発明の印刷画像(3´)の構成の概要を図15に示す。印刷画像(3´)は、蒲鉾状画線群(4´)の上に、合成潜像画線群(5´)が重ね合わさってなる。蒲鉾状画線群(4´)は、図16に示すように、盛り上がりを有する蒲鉾形状を有した、第一の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6´)が第一のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に複数配置されることで形成される。この蒲鉾状画線群(4´)は、第一の実施の形態で説明した構成と同じである。
蒲鉾状画線(6)は、拡散反射光下においては特定の色彩を有すか、透明又は半透明であって、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、正反射光下では拡散反射光下と異なる色彩へと変化する特性を有する。また、蒲鉾状画線(6)は、盛り上がり高さを有する必要がある。
次に、合成潜像画線群(5´)について具体的に説明する。第二の実施の形態における潜像印刷物の構成と第一の実施の形態における潜像印刷物の構成との違いは、合成潜像画線群(5´)の構成のみである。図17は、合成潜像画線群(5´)であり、第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)とを有する。第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)は、領域的に重なり合って配置される。
第二の実施の形態で説明する合成潜像画線群(5´)は、第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)の二つの潜像画線群からなるが、二つの潜像画線群の基本的な構造及び作製方法は、第一の実施の形態と同じである。第二の実施の形態においても、第二の潜像画線群(5B´)を代表例として用いて、その潜像画線群の構造と、作製方法について説明する。
図18に、第二の潜像画線群(5B´)を示す。第二の潜像画線群(5B´)は、第三の画線幅(W3)を有する第二の潜像画線(7B´)が、第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で複数配置されてなる。それぞれの第二の潜像画線(7B´)は、それぞれ異なる形状を有する。第二の潜像画線群(5B´)は、A側から、第二の潜像画線1(7B−1´)、第二の潜像画線2(7B−2´)、第二の潜像画線3(7B−3´)・・・第二の潜像画線n(7B−n´)が、第一の方向(S1方向)に向かって第一のピッチ(P1)で順にA´側へと配置されて構成される。配置ピッチや画線幅は、第一の実施の形態と同じであるが、それぞれの第二の潜像画線(7B´)の構成が異なっている。具体的には、それぞれの第二の潜像画線(7B´)は、ミラー反転された構成となっている。
図19に第二の潜像画線(7B´)の作製方法を示す。まず、正反射光下で潜像画像として出現させたい画像の一つを、第二の基画像(8B´)として設定する。第二の実施の形態において、第二の基画像(8B´)とは、第一の実施の形態同様に、桜の花びらを表した画像である。まず、S1方向と平行な方向(横方向)には、第二の基画像(8B´)よりも短い幅(L)、第一の方向(S1方向)と直交する方向(高さ方向)に第二の基画像(8B´)よりも長い高さ(H)の大きさの特定の大きさの第二のフレーム(9B´)を設定し、第二の基画像(8B´)の高さ方向が少なくとも含まれる位置関係に第二のフレーム(9B´)を配置する。このとき、第二のフレーム(9B´)内に収まった第二の基画像(8B´)だけを取り出す。この画像をフレーム内画像(10B´)と呼ぶ。ここまでの手順は、第一の実施の形態と同様である。第二の実施の形態においては、フレーム内画像(10B´)の画像中心を軸にミラー反転させ、反転フレーム内画像(10BR´)を一旦作製する。そして、この反転フレーム内画像(10BR´)を第一の方向(S1方向)に特定の縮率によって第三の画線幅(W3)に圧縮することで、一つの第二の潜像画線(7B´)を構成する。なお、第二の潜像画線(7B´)は、フレーム内画像(10B´)を第三の画線幅(W3)に圧縮した後に、ミラー反転しても問題ない。
図20に第二の潜像画線群(5B´)の作製方法を示す。具体的な手順は、第一の実施の形態と同様であるから省略するが、A側にある第二の潜像画線1(7B−1´)から、第二の潜像画線2(7B−2´)、第二の潜像画線3(7B−3´)と順に作製し、最後に第二の潜像画線n(7B−n´)を作製して第二の潜像画線群(5B´)を配置すれば良い。第一の実施の形態のとの違いは、潜像画線(7B´)を作る前に、フレーム内画像(10B´)を、一旦、反転フレーム内画像(10BR´)とする必要があることである。
図21に、もう一方の潜像画線群である、第一の潜像画線群(5A´)を示す。第一の潜像画線群(5A´)は、第二の画線幅(W2)を有する第一の潜像画線(7A´)が、第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で複数配置されて成る。第一の潜像画線群(5A´)は、桜の蕾の画像を第一の基画像(8A´)として構成された第一の潜像画線(7A´)の集合である。
それぞれの第一の潜像画線(7A´)は、それぞれ異なる形状を有する。第一の潜像画線群(5A´)は、A側から、第一の潜像画線1(7A−1´)、第一の潜像画線2(7A−2´)、第一の潜像画線3(7A−3´)・・・第一の潜像画線n(7A−n´)が、第一の方向(S1方向)に向かって第一のピッチ(P1)で順にA´側へと配置されて構成される。第一の潜像画線群(5A´)を構成するそれぞれの第一の潜像画線(7A´)は、第二の潜像画線(7B´)と同様にミラー反転されてなる。具体的な作製方法については、第二の潜像画線(7B´)及び第二の潜像画線群(5B´)と同じであるため、説明を省略する。
続いて、合成潜像画線群(5´)について説明する。合成潜像画線群(5´)は、第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)を組み合わせることで作製する。合成潜像画線群(5´)は、第一の実施の形態と同様に、第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)とが、領域的に少なくも一部が重なり合う構成としている。
合成潜像画線群(5´)の中の第一の潜像画線群(5A´)における画像の中心と、第二の潜像画線群(5B´)における画像の中心は重なってはならず、第一の方向(S1)方向と平行な、いずれかの方向(右方向か左方向)に位相がずれている必要がある。第二の実施の形態の合成潜像画線群(5´)中の第一の潜像画線群(5A´)における画像の中心と、第二の潜像画線群(5B´)における画像の中心とは、第一の実施例とは逆の方向に位相がずれてなる。
図23に合成潜像画線群(5´)の詳細な構造を示す。合成潜像画線群(5´)の中の第一の潜像画線群(5A´)と第二の潜像画線群(5B´)は、領域的には重なり合うものの、それぞれの潜像画線群を構成する要素同士は重なり合わず、合成潜像画線群(5´)の中では、第一の潜像画線(7A´)と第二の潜像画線(7B´)とが交互に配置されて成る。
また、第一の実施の形態と同様に、第一の潜像画線(7A´)と、第二の潜像画線(7B´)とは、第一の方向(S1方向)と直交する方向の辺(高さ方向の辺)のうち、少なくとも一方の辺で密接していることが望ましい。図23の拡大図においては、第一の潜像画線(7A´)のA´側の辺と、第二の潜像画線(7B´)のA側の辺とが密接している。第一の実施の形態と同様に、潜像画線(7´)は、正反射時に蒲鉾状画線(6´)との間に色差が生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が前述の蒲鉾状画線(6´)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。
図24に蒲鉾状画線群(4´)の上に合成潜像画線群(5´)が重なった印刷画像(3´)を示し、二つの画線群の重なり合いの適切な位置関係について説明する。印刷画像(3´)を形成するにあたっては、蒲鉾状画線群(4´)のそれぞれの蒲鉾状画線(6´)の上に、合成潜像画線群(5´)を構成する第一の潜像画線(7A´)と第二の潜像画線(7B´)の少なくとも一部が重なる必要がある。また、蒲鉾状画線(6´)と、第一の潜像画線(7A´)及び第二の潜像画線(7B´)は、略平行に重なる必要がある。
また、第一の潜像画線(7A´)と、第二の潜像画線(7B´)とが、密接している辺(図24に示す例では、第一の潜像画線(7A´)のA´側の辺)と、第二の潜像画線(7B´)のA側の辺とが密接している一辺は、蒲鉾状画線(6´)の上に重なることが望ましい。第二の実施の形態では、蒲鉾状画線(6´)の中心からA側の画線表面には、第一の潜像画線(7A´)が、A´側の画線表面には、第二の潜像画線(7B´)が重なる位置関係とした。
図25に、第二の実施の形態における潜像印刷物(1´)の効果を示す。拡散反射光下において、潜像画像は不可視であり、蒲鉾状画線群(4´)に特定の色彩が付与されている場合には、蒲鉾状画線群(4´)のみが視認される(図示せず)。蒲鉾状画線群(4´)が透明な材料で形成されている場合には、拡散反射光下において、いずれの画像も視認することができない(図示せず)。
本発明の潜像印刷物(1´)を正反射光下で観察した場合、図25(a)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11´)が、Aよりにある場合には、印刷画像(3´)の中に第一の基画像(8A´)が潜像として再生され、わずかに角度を変化させることにより第一の方向(S1方向)に動いて見える。この動きの方向は、第一の実施の形態とは逆の方向となる。また、図25(b)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11´)を、ややA´側に変化させた場合、印刷画像(3´)の中の第一の基画像(8A´)が第一の方向(S1方向)に動きながら特定の観察角度において第二の基画像(8B´)へとスムーズにチェンジする。続いて、図25(c)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11´)を、よりA´側近くに変化させた場合、印刷画像(3´)の中の第二の基画像(8B´)が第一の方向(S1方向)へ動いて見える。第一の実施の形態と同様に、第一の基画像(8A´)が動きながら第二の基画像(8B´)へとチェンジする効果が連続的に視認され、その変化は極めてスムーズであることから、蕾と花が別々の物体として認識されることなく、ひとつの物体が、蕾から花へと変化したように観察される。すなわち、桜の蕾が膨らんで花が咲いたように認識することができる。
また、加えて出現した画像は、基材(2´)上より奥側に沈みこんでいるように見える独特の遠近感が生じる。この遠近感は蕾が動いて見える場面、動きながら蕾から花へと変化する場面及び花が動いて見える場面において、それぞれで同じ距離感で常時発現し続ける。
各潜像画線をミラー反転させた場合、各潜像画線(7´)中の基画像(8´)の位置情報が反転する。このため、潜像画像の動きの方向が逆方向に変化する。また、動き方向が変化するだけでなく、遠近感も逆転する。潜像画線(7´)をミラー反転させない場合、出現する潜像画像は、印刷画像(3´)自体よりも手前に存在するように感じられ、潜像画線(7´)をミラー反転させた場合、出現する潜像画像は印刷画像(3´)自体よりも奥に存在するように感じられる。このように遠近感が逆転する原因は、ミラー反転の有無により潜像画像の動きの方向が逆方向に変化し、右眼で捉える潜像画像の位置と、左眼で捉える潜像画像の位置が逆転するために両眼視差に起因する遠近感も逆転するためである。
第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)においては、合成潜像画線群(5´)の構成を変えること、具体的には合成潜像画線群(5´)を構成するそれぞれの潜像画線をミラー反転する手順を加えることで、潜像画像のチェンジ効果を損なうことなく、正反射光下における潜像画像の動きの方向と、遠近感を逆転させることができる。
また、図26に示すように、第一の実施の形態で示した合成潜像画線群(5)の構成と 第二の実施の形態で示した合成潜像画線群(5´)の構成とを、一つの印刷画像(3´´)の中に構成するとより効果的である。このような構成とした場合、図27に示すように、チェンジする潜像画像がそれぞれ逆方向に移動する。それぞれの潜像画像が逆方向に動くと、その効果は格段に認識しやすくなり、判別性も向上するため、より望ましい。
第一及び第二の実施の形態における蒲鉾状画線群(4)や合成潜像画線群(5)のピッチは、0.05mm以上1.0mm以下で形成する。0.05mm以下のピッチは、蒲鉾状画線(6)に3μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現できる要素のピッチとしてはほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ、0.05mm以下のピッチで画線を形成できた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像画像の視認性が極端に低くなるため適当ではない。また、1.0mm以上のピッチで形成した場合には、潜像画像として再現することができる画像の解像度が極端に低くなってしまうため、同様に適切ではない。なお、本発明において、説明した蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さや画線群のピッチの数値は、株券、有価証券、証紙及び商品券等の金券類、旅券、通帳類、運転免許証又は身分証明書等の偽造防止が必要な印刷物に対しての良好な条件の一例であり、看板やポスター類等の大型の印刷物に使用する場合には、前述した蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さや画線群のピッチの数値を、使用する目的の印刷物の大きさに応じて調整すれば良い。
また、潜像画線(7)を作製するにあたって、基画像(8)を取り出すフレームの幅(L)を潜像画線の要素幅(W2及びW3)で割って求められる比率(縮率)を変えることで、出現する潜像画像の動きの早さや動き幅の大きさを制御することができる。縮率を大きく設計した場合には、出現した潜像画像が傾けた場合に早く動き、動きの幅も大きくなる。縮率を小さく設計した場合には、出現した潜像画像が傾けた場合に遅く動き、動きの幅も小さくなる。ただし、動きの早さや幅の大きさと、出現する潜像画像のシャープさはトレードオフの関係にあり、縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像は基画像(8)と比較してぼやけた画像となり、逆に縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像は、基画像(8)をほぼそのまま再現したようなシャープな画像となる。
また、縮率は、動きの早さ、動きの幅の大きさ及び出現する潜像画像のシャープさに関係するだけでなく、遠近感にも関係する。すなわち、縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は大きくなり、縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は小さくなる。以上のように、縮率を変えることで、動きの早さ、動きの幅、潜像画像のシャープさ及び遠近感が変化する。縮率の具体的な数値の範囲については、基画像(8)の複雑さや蒲鉾状画線(6)の幅にも左右されるが、2以上100以下程度で形成することが望ましい。2以下とした場合、立体的な視覚効果や動画的な視覚効果が低くなり過ぎ、100以上とした場合、潜像要素の幅内に画像を圧縮した場合に印刷再現性を超えた解像度になる場合が多いためである。いずれにしても、ユーザの求める効果に応じて適宜、適正な数値を選択する必要がある。
単に動画効果にチェンジ効果を組み込んだ場合、合成潜像画線群の構成の中にチェンジ効果を実現するための画線構成を付与するために、動画効果を実現するための画線構成を間引く必要があり、結果としてチェンジ効果を組み込めても、動画効果は損なわれてしまう。しかし、本発明の潜像印刷物(1)おいては、動画効果とチェンジ効果を組み合わせたにもかかわらず、動画効果単独で構成した場合と比較しても動画効果が損なわれない。その理由は、前述したとおり、それぞれの潜像画像を構成する潜像画線群の配置を工夫することで、連続的でつながりのある変化を実現するための動画効果の判別性に関連するパラメータ、具体的にはチェンジ前の画像とチェンジ後の画像が動く合計距離や動きの早さ、それぞれの動く画像の鮮明さ等が動画効果単独で構成した場合と同じ値で実現できることに起因する。すなわち、本発明でいう、連続的でつながりのある変化を用いた場合には、チェンジ効果と動画効果のいずれも損なうことなく、二つの効果を両立させることができる。
本発明でいう、連続的でつながりのある変化とは、特定の物体が動きながら、ある有意情報から異なる有意情報へと連続的に、スムーズに変化するという意味であり、例えば、図36に示したような、単に動画効果とチェンジ効果が別々に、不連続に生じる変化とは異なる。このような変化を生じさせるためには、変化前後の画像の数は同じであって、出現する領域も近似し、動きにも一定の共通性が必要となる。仮に、図36の印刷物の例で図36(a)に示した桜の花びらだけでなく、図36(b)に示すJAPANの文字も印刷画像(3)中で動いたとしても、そのような画像構成では、本発明のいう連続的なつながりのある変化とはいえない。
一つの潜像合成画像群(5)を構成する第一の潜像画像群(5A−1)と第二の潜像画像群(5B−1)において、それぞれの基画像からそれぞれの第一の潜像画線(7A−1)と第二の潜像画線(7B−1)を形成する過程において、ミラー反転の有無を変えてはならない。すなわち、第一の潜像画線(7A−1)を作製する上で、フレーム内画像をミラー反転せず作製した場合、第二の潜像画線(7B−1)もフレーム内画像をミラー反転せず作製しなければならない。逆に、第一の潜像画線(7A−1)を作製する上で、フレーム内画像をミラー反転させて作製した場合、第二の潜像画線(7B−1)もフレーム内画像をミラー反転させて作製しなければならない。これは、画像がチェンジした瞬間に移動方向が逆転してしまい、画像の変化前後の動きに共通性が失われてしまうためである。
また、第一の基画像(8A)に適用する縮率と第二の基画像に(8B)に適用する縮率は同一か、又は略同一であることが望ましい。正反射光下で出現した第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)の画像のシャープさや、動きの早さが大きく変わってしまうと本発明の意図する、第一の基画像(8A)が、そのまま第二の基画像(8B)に変化するような動きの連続的な変化が損なわれ、不連続な変化として捉えられる可能性がある。すなわち、第一の基画像(8A)と第二の基画像(8B)を相関のない別の画像として認識される可能性が生じてしまうためである。それぞれ相関のない、別々の画像として認識されてしまう場合、図36に示したような従来の技術をデザイン的に組み合わせた構成と効果の面で差異がなくなり、動画効果が損なわれてしまう。本発明が意図する、動画効果を損なうことなく、動画効果とチェンジ効果を組み合わせた効果が発揮されなくなってしまうため、望ましくない。
次に、合成潜像画線群(5)における、それぞれの潜像画線群の画像の中心のずらし量と、ずらし方向の設計について、図28を用いて説明する。まず、図28(a)には、二つの画像のチェンジ効果を実現する場合の常識的な画像の配置図を示す。画像のチェンジを単に実現したい場合、図28(a)に示すように、二つの画像の中心位置を上下方向に完全に合わせる配置が一般的である。単に画像をチェンジさせるという目的であれば、図28(a)に示す上下の中心を合わせた構成で充分である。ただし、本発明の潜像印刷物(1)のチェンジ効果は、動きの中で、その変化がスムーズで連続的に生じることを特徴とする。
このため、図28(a)に示すように、動きのない画像でチェンジ効果を実現する場合とは異なり、二つの潜像画線群の画像の幅の中心位置を特定方向に特定の距離ずらす必要がある。中心位置をずらさない場合には、画像がチェンジした前後でのそれぞれの画像の位相が異なり、変化が連続的に感じられないためである。図28(b)に示すのは、第一の実施の形態で説明した各潜像画線(7)をミラー反転しなかった場合の二つの潜像画線群(5A及び5B)のずらし方の例であり、図28(c)に示すのは、第二の実施の形態で説明した各潜像画線(7)をミラー反転した場合の二つの潜像画線群(5A´及び5B´)のずらし方の例である。
二つの画像のずらし量は、動画効果に直接影響しているそれぞれの潜像の基となるフレーム幅(L)や画線幅(W2、W3)が影響する。よって、印刷で形成する範囲においては、二つの画像の中心がフレーム幅(L)の四分の一から四分の三の長さの範囲でずれていることが好ましく、フレーム幅の半分の値が最も好ましい。四分の一より小さな値や四分の三より大きな値として場合、二つの基画像(8A及び8B)の変化が不連続に感じられやすくなるためである。
ずらし方向については、蒲鉾状画線群(4)と合成潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係によるが、仮に、図11や図24に示す適正な位置関係で刷り合わせたと仮定すると、図28(b)に示すように、第一の実施の形態と同じに潜像画線(7)をミラー反転しない場合、第一の基画像(8A)に対して、第二の基画像(8B)は、S1方向と逆方向に位相をずらして配置する必要があり、潜像画線(7)をミラー反転する場合、第一の基画像(8A)に対して、第二の基画像(8B)は、S1方向に位相をずらして配置する必要がある。すなわち、ミラー反転の有無によって、二つの画像のずらし方向を変える必要がある。
第一の実施の形態において、正反射光下で出現する潜像画像が第一の基画像(8A)及び第二の基画像(8B)の二種類の基画像に変化する例で説明したが、二種類に制限されるわけではない。同じ方法を用いて、出現させる基画像を変えることができる。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)においては、合成潜像画線群(5)の各画線の構成を適宜変えるだけで、潜像画像のチェンジ効果、潜像画像の動き及び遠近感を自由に設計することができる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
図29に潜像印刷物(1−1)を示す。図29(a)に示すのは、潜像印刷物(1−1)の正面図であり、図29(b)に示すのは、潜像印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、印刷画像(3−1)が形成されてなる。基材(2−1)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像(3−1)の構成の概要を図30に示す。印刷画像(3−1)は、蒲鉾状画線群(4−1)と合成潜像画線群(5−1)からなる。また、合成潜像画線群(5−1)は、合成潜像画線群A(5A−1)及び合成潜像画線群B(5B−1)の二種類の合成潜像画線群の組合せからなる。
図31は、蒲鉾状画線群(4−1)であり、蒲鉾状画線群(4−1)は、画線幅0.3mm、盛り上がり高さ15μmの蒲鉾状画線(6−1)がピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置されてなり、3cm×3cmの正方形を形成して成る。以上のような構成の蒲鉾状画線群(4−1)を、表1に示すUVスクリーンインキを用いてUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で基材(2−1)上に印刷した。表1に示すインキは拡散反射光下で透明であって、正反射光下で緑色の干渉色を発するカラーフリップフロップ性を有するインキである。
図32は、合成潜像画線群A(5A−1)であり、第一の実施の形態で説明した方法で作製した。合成潜像画線群A(5A−1)の中には、第一の潜像画線群A(5AA−1)及び第二の潜像画線群A(5AB−1)の作製にあたって用いた第一のフレームA及び第二のフレームAは、高さ(H)30mm、幅(L)約6mmとし、それぞれの潜像要素の作製にあたって、ミラー反転は行っていない。また、それぞれの潜像要素の画線幅は、0.18mmであるため、縮率は33である。図32の拡大図に示すように、第一の潜像画線A(7AA−1)及び第二の潜像画線A(7AB−1)を0.7mmピッチの中で交互に配置した。その他の構成、作製方法は、第一の実施の形態で説明した構成と同一である。
図33は、合成潜像画線群B(5B−1)であり、第二の実施の形態で説明した方法で作製した。合成潜像画線群B(5B−1)の中には、第一の潜像画線群B(5BA−1)及び第二の潜像画線群B(5BB−1)の作製にあたって用いた第一のフレームB及び第二のフレームBは、高さ(H)30mm、幅(L)約6mmとし、それぞれの潜像要素の作製にあたって、ミラー反転を行った。また、それぞれの潜像要素の画線幅は、0.18mmであるため、縮率は33である。図33の拡大図に示すように、第一の潜像画線B(7BA−1)及び第二の潜像画線B(7BB−1)を0.7mmピッチの中で交互に配置した。その他の構成、作製方法は、第二の実施の形態で説明した構成と同一である。
図34(a)は、合成潜像画線群A(5A−1)であり、図34(b)は、合成潜像画線群B(5B−1)の概要である。合成潜像画線群A(5A−1)は、それぞれの潜像画線をミラー反転させずに構成し、第一の潜像画線群A(5AA−1)に対して、第二の潜像画線群A(5AB−1)をS1方向とは逆方向に、約3mmのずらし量を設けた。合成潜像画線群B(5B−1)は、それぞれの潜像画線をミラー反転して構成し、第一の潜像画線群B(5BA−1)に対して、第二の潜像画線群B(5BB−1)をS1方向に、約3mmのずらし量を設けた。
以上の構成の合成潜像画線群A(5A−1)及び合成潜像画線群B(5B−1)からなる二つの合成潜像画線群(5−1)を、低光沢で透明なオフセットインキ(マットメジウム 帝国インキ製)を用いて蒲鉾状画線群(4−1)の上にオフセット印刷方式で重ね合わせて形成した。それぞれの画線同士の重なり合いの位置関係は、第一の実施の形態及び第二の実施の形態同様に、蒲鉾状画線(6−1)のA側の画線表面にそれぞれ第一の潜像画線(7AA−1、7BA−1)、A´側の画線表面にそれぞれ第二の潜像画線(7AB−1、7BB−1)が重なる関係とした(図示せず)。
図35に、実施例1の潜像印刷物(1−1)の効果を示す。拡散反射光下において、潜像画像は不可視であり、蒲鉾状画線群(4−1)に特定の色彩が付与されている場合には、蒲鉾状画線群(4−1)のみが視認される(図示せず)。蒲鉾状画線群(4−1)が透明な材料で形成されている場合には、拡散反射光下において、いずれの画像も視認することができない(図示せず)。
本発明の潜像印刷物(1−1)を正反射光下で観察した場合、図35(a)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11−1)が、Aよりにある場合には、緑色の干渉色を発する印刷画像(3−1)の中に、合成潜像画線群A(5A−1)及び合成潜像画線群B(5B−1)による第一の桜の蕾が潜像として再生され、わずかに角度を変化させることにより合成潜像画線群A(5A−1)から生じた桜の蕾は、S1方向と逆の方向に、合成潜像画線群B(5B−1)から生じた桜の蕾は、S1方向に動いて見えた。また、図35(b)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11−1)を、ややA´側に変化させた場合、緑色の干渉色を発する印刷画像(3−1)の中の合成潜像画線群A(5A−1)から生じた桜の蕾は、S1方向と逆の方向に動きながら桜の花にチェンジし、合成潜像画線群B(5B−1)から生じた桜の蕾は、S1方向と逆の方向に動きながら桜の花にチェンジした。続いて、図35(c)に示すように、正反射光下にある観察者の視点(11−1)を、よりA´側近くに変化させた場合、緑色の干渉色を発する印刷画像(3−1)の中の合成潜像画線群A(5A−1)から生じた桜の花は、S1方向と逆の方向に、合成潜像画線群B(5B−1)から生じた桜の花は、S1方向に動いて見えた。それぞれの蕾から桜へとチェンジする効果は連続的に視認され、その変化は極めてスムーズであることから、蕾と花が別々の物体として認識されることなく、ひとつの物体が、蕾から花へと変化したように観察することができた。すなわち、桜の蕾が膨らんで花が咲いたように認識することができた。
また、合成潜像画線群A(5A−1)から生じた桜の蕾と花は、潜像印刷物(1−1)上より手前側に浮き上がっているように見え、逆に合成潜像画線群B(5B−1)から生じた桜の蕾と花は、潜像印刷物(1−1)上より奥側に沈み込んでいるように見えた。この遠近感は、蕾が動いて見える場面、動きながら蕾から花へと変化する場面及び花が動いて見える場面のそれぞれで同じ距離感で常時発現し続けた。以上のように、潜像印刷物(1−1)を正反射光下で観察することによって、動画効果を有する蕾が桜へとチェンジし、かつそれぞれの画像に遠近感が生じることを確認することができた。