以下、本発明の実施形態に係る車両の操舵制御装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の操舵制御装置を適用可能な電動パワーステアリング装置10を概略的に示している。
この電動パワーステアリング装置10は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵させるために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は、ステアリングシャフト12の上端に固定されており、ステアリングシャフト12の下端は、転舵ギアユニットUに接続されている。尚、操舵ハンドル11、ステアリングシャフト12及び転舵ギアユニットUを含む系を操舵系とも称呼する。
転舵ギアユニットUは、例えば、ラックアンドピニオン式を採用したギアユニットであり、ステアリングシャフト12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギア13の回転がラックバー14に伝達されるようになっている。又、転舵ギアユニットUには、運転者によって操舵ハンドル11に入力される操作力(より具体的には、操舵トルク)を軽減する(アシストする)ための電動モータ15(以下、この電動モータをEPSモータ15と称呼する。)が設けられている。そして、EPSモータ15が発生する出力トルク(より詳しくは、アシストトルク)がラックバー14に伝達されるようになっている。
ここで、電動パワーステアリング装置10に搭載されるEPSモータ15としては、三相DCブラシレスモータを採用する。すなわち、EPSモータ15は、図2に概略的に示すように、例えば、永久磁石からなるロータと、このロータを収容するステータ側に組み付けられた巻線U,V,W(U’,V’,W’)を備えている。そして、EPSモータ15においては、巻線U,V,W(U’,V’,W’)に対して後述する電気制御回路20の駆動回路25(インバータ回路)が接続されるようになっている。
この構成により、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴うステアリングシャフト12の回転力がピニオンギア13を介してラックバー14に伝達されるとともに、EPSモータ15のアシストトルクがラックバー14に伝達される。これにより、ラックバー14は、ピニオンギア13からの回転力及びEPSモータ15のアシストトルクによって軸線方向に変位する。従って、ラックバー14の両端に接続された左右前輪FW1,FW2は、左右方向に転舵されるようになっている。
尚、本実施形態における電動パワーステアリング装置10は、EPSモータ15が転舵ギアユニットUのラックバー14にアシストトルクを伝達するラックアシストタイプとして実施する。しかし、その他の電動パワーステアリング装置10として、EPSモータ15がピニオンギア13にアシストトルクを伝達するピニオンアシストタイプや、EPSモータ15が所定の減速機構を介してステアリングシャフト12を形成するコラムメインシャフトにアシストトルクを伝達するコラムアシストタイプを採用して実施可能であることは言うまでもない。
次に、上述したEPSモータ15の作動を制御する電気制御装置20について説明する。電気制御装置20は、車速センサ21、操舵トルクセンサ22及び回転角検出手段としてのモータ回転角センサ23を備えている。車速センサ21は、車両の車速Vを検出し、この検出した車速Vに応じた信号を出力する。尚、車速Vについては、例えば、外部との通信を介して取得することも可能である。
操舵トルクセンサ22は、図1に示すように、ステアリングシャフト12に組み付けられていて、運転者が操舵ハンドル11を回動操作してステアリングシャフト12に入力する操舵トルクThを検出し、この検出した操舵トルクThに応じた信号を出力する。尚、操舵トルクセンサ22は、例えば、操舵ハンドル11が右方向に回動操作されたときの操舵トルクThを正の値として出力し、操舵ハンドル11が左方向に回動操作されたときの操舵トルクThを負の値として出力する。ここで、本実施形態においては、操舵トルクセンサ22として、例えば、2組のレゾルバセンサを採用して実施する。
モータ回転角センサ23は、EPSモータ15に組み付けられていて、予め設定された基準回転位置からの回転角(電気角)Θを検出し、この電気角Θに応じた信号を出力する。ここで、本実施形態においては、モータ回転角センサ23は、図2に示すように、EPSモータ15のロータ(永久磁石)によって生じる磁界の方向と平行な方向(すなわち、N極方向)をd軸方向とし、EPSモータ15のステータにおけるU相方向を基準としたときのd軸の回転角を電気角Θとして検出する。尚、モータ回転角センサ23は、EPSモータ15の回転方向に関し、例えば、EPSモータ15が左右前輪FW1,FW2を右方向に転舵させるためにラックバー14に対してアシストトルクを付与するときの電気角Θを正の値として出力し、左右前輪FW1,FW2を左方向に転舵させるためにラックバー14に対してアシストトルクを付与するときの電気角Θを負の値として出力する。
又、電気制御装置20は、図1に示すように、EPSモータ15の作動を制御する制御手段としての電子制御ユニット24を備えている。電子制御ユニット24は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、EPSモータ15の作動を制御する。このため、電子制御ユニット24の入力側には、少なくとも、上記各センサ21〜23が接続されており、これらの各センサ21〜23によって検出された各検出値を用いて、後述するように、EPSモータ15の駆動を制御する。一方、電子制御ユニット24の出力側には、EPSモータ15を駆動させるための駆動回路25が接続されている。
駆動回路25は、図3に示すように、インバータ回路部25aとリレー回路部25bとから構成される。インバータ回路部25aは、バッテリ(電源)B及び平滑リアクトルSから電源リレーRdを介して、又は、キャパシタCから供給される直流電流を三相の交流電流に変換する三相インバータ回路を構成するものである。そして、インバータ回路部25aは、スター結線(Y結線)されたEPSモータ15の巻線U,V,W(U’,V’,W’)にそれぞれ対応したスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32を有している。尚、本実施形態においては、巻線U,V,W(U’,V’,W’)がスター結線されたEPSモータ15を用いて実施するが、巻線U,V,W(U’,V’,W’)がデルタ結線されたEPSモータを用いて実施することも可能である。
スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32は、それぞれ、スイッチング素子SW11,SW21,SW31がHigh側(高電位側)、スイッチング素子SW12,SW22,SW32がLo側(低電位側)に対応するとともにEPSモータ15の3つの相であるU相、V相、W相にそれぞれ対応し、例えば、MOSFETにより構成される。又、インバータ回路部25aには、EPSモータ15に流れる電流を検出する電流センサ(シャント抵抗)J1,J2,J3が各相に設けられる。そして、これらの電流センサJ1,J2,J3によって検出された電流Iu,Iv,Iwを表す信号は、電子制御ユニット24の入力側に出力されるようになっている。
リレー回路部25bは、図3に示すように、EPSモータ15のU相、V相、W相(具体的には、巻線U,V,W(U’,V’,W’))にそれぞれ対応した相開放リレーR1,R2,R3を有している。相開放リレーR1,R2,R3は、それぞれ、インバータ回路部25aとEPSモータ15のU相、V相、W相(具体的には、巻線U,V,W(U’,V’,W’))との間の通電を許容又は遮断するメカリレーである。尚、相開放リレーR1,R2,R3としては、メカリレーに限定されるものではなく、例えば、半導体リレーを採用することも可能である。
このように構成される駆動回路25においては、電子制御ユニット24からの信号により、インバータ回路部25aがオン・オフ制御されるとともにリレー回路部25bが切替制御される。これにより、電子制御ユニット24がリレー回路部25bを構成する相開放リレーR1,R2,R3を通電を許容する状態(閉状態)に切り替え、インバータ回路部25aのスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32のパルス幅を制御(PWM制御)することにより、バッテリB又はキャパシタCからEPSモータ15に対して三相の駆動電流を供給するようになっている。
一方、電子制御ユニット24が、リレー回路部25bを構成する相開放リレーR1,R2,R3のうちのいすれかの相開放リレーを通電を遮断する状態(開状態)に切り替えることにより、開状態に切り替えられた相開放リレー以外の閉状態にある相開放リレーを介してEPSモータ15に対して駆動電流を供給するようになっている。更に、電子制御ユニット24は、インバータ回路部25aのスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32を全てオフ(開状態)に制御することにより、リレー回路部25bの相開放リレーR1,R2,R3の切替状態に関わらず、EPSモータ15に対して駆動電流を供給しないようになっている。
次に、上記のように構成した電気制御装置20(より詳しくは、電子制御ユニット24)によるEPSモータ15の駆動制御、すなわち、アシスト制御について、電子制御ユニット24内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図4の機能ブロック図を用いて説明する。電子制御ユニット24は、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に伴う負担を軽減するために、EPSモータ15の駆動を制御して適切なアシストトルクを付与する。このため、電子制御ユニット24は、図4に示すように、適切なアシストトルクを表すアシスト量を演算し、この演算したアシスト量に基づいてEPSモータ15を駆動制御するアシスト制御部30を備えている。
アシスト制御部30は、図4に示すように、車速演算部31、トルク値演算部32、電流検出部33及び電気角演算部34を備えている。車速演算部31は、車速センサ21から出力された車速Vに応じた信号を入力し、車速Vを演算する。トルク値演算部32は、操舵トルクセンサ22から出力された操舵トルクThに応じた信号を入力し、操舵トルクThを演算する。電流検出部33は、駆動回路25に設けられた電流計J1,J2,J3から出力されたEPSモータ15のU相、V相、W相に流れる電流Iu,Iv,Iwに応じた信号を入力し、各相の電流Iu,Iv,Iwを検出する。電気角演算部34は、モータ回転角センサ23から出力されたEPSモータ15の回転角である電気角Θに応じた信号を入力し、電気角Θを演算する。
又、アシスト制御部30は、アシスト電流指令値演算部35、第1電流制御演算部36、第2電流制御演算部37及びPWM変換部38を備えている。
アシスト電流指令値演算部35は、車速演算部31から車速Vを入力するとともにトルク値演算部32から操舵トルクThを入力し、これら車速V及び操舵トルクThに基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト量(目標アシストトルク)Ta*を決定する。そして、アシスト電流指令値演算部35は、目標アシスト量Ta*が発生するように、駆動回路25を介してEPSモータ15を、所謂、ベクトル制御法に従って駆動制御する。ベクトル制御法は、EPSモータ15の三相における電流、電圧を、上述したように定義されるd軸方向の成分と、図2に示したように、このd軸方向(すなわち、磁界の方向)に直交する方向であるq軸方向の成分との二相における値に変換して扱う制御法である。尚、ベクトル制御法自体は周知であるため、三相における電流、電圧を二相に変換する点及び二相における電流、電圧を三相に変換する点については、その詳細な説明を省略する。
アシスト電流指令値演算部35は、決定した目標アシスト量Ta*に応じてd軸の目標電流Id*及びq軸の目標電流Iq*(以下、このq軸の目標電流Iq*を、特に、電流指令値irefとも称呼する。)を演算する。尚、本実施形態におけるEPSモータ15は、三相ブラシレスDCモータであるため、EPSモータ15が発生するトルク(アシストトルク)は、q軸の電流に比例する。従って、アシスト電流指令値演算部35は、d軸の目標電流Id*を「0」とするとともに、q軸の目標電流Iq*すなわち電流指令値irefが目標アシスト量Ta*に比例するように演算する。そして、アシスト電流指令値演算部35は、演算したd軸の目標Id*及びq軸の目標電流Iq*すなわち電流指令値irefを第1電流制御演算部36及び第2電流制御演算部37に出力する。
第1電流制御演算部36は、d/q座標系における電流フィードバック制御(d/q軸電流F/B)の実行により、三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算するものである。このため、第1電流制御演算部36は、EPSモータ15の三相に対して適切に電流が通電されている通常時において、各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算し、三相によりEPSモータ15を駆動させるためにPWM変換部38に各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を出力する。尚、通常時におけるEPSモータ15の駆動制御自体は、本発明に直接関係しないため、以下、簡単に説明しておく。
第1電流制御演算部36は、図5に示すように、三相/二相変換部361を備えている。三相/二相変換部361は、電流検出部33からEPSモータ15のU相、V相、W相に実際に流れた電流Iu,Iv,Iwを入力するとともに電気角演算部34から電気角Θを入力し、電気角Θを用いて実電流Iu,Iv,Iwを周知の変換行列に基づいてd/q座標における実電流Id,Iqに変換する。そして、q軸の実電流Iqは、アシスト電流指令値演算部35から出力された電流指令値irefすなわち目標電流Iq*とともに減算器362に入力され、d軸の実電流Idは、アシスト電流指令値演算部35から出力された目標電流Id*(Id*=0)とともに減算器363に入力される。
減算器362は、入力した電流指令値irefすなわち目標電流Iq*とq軸の実電流Iqとの間のq軸電流偏差ΔIqを演算する。そして、減算器362は、演算したq軸電流偏差ΔIqをq軸のF/B制御部364に供給する。一方、減算器363は、入力した目標電流Id*とd軸の実電流Idとの間のd軸電流偏差ΔIdを演算する。そして、減算器363は、演算したd軸電流偏差ΔIdをd軸のF/B制御部365に供給する。
F/B制御部364,365は、それぞれ、q軸の電流指令値irefすなわち目標電流Iq*に実電流Iqを追従させるとともにd軸の目標電流Id*に実電流Idを追従させるために、フィードバック制御を実行する。すなわち、F/B制御部364,365は、それぞれ、減算器362,363から入力したq軸電流偏差ΔIq及びd軸電流偏差ΔIdに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電流指令値Vd*を演算する。そして、F/B制御部364,365は、それぞれ、演算したq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を二相/三相変換部366に供給する。
二相/三相変換部366は、電気角演算部34から電気角Θを入力するとともに、F/B制御部364,365からq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を入力する。そして、二相/三相変換部366は、入力した電気角Θに基づいて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。
このように、二相/三相変換部366によって三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換されると、第1電流制御演算部36は、変換された相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM変換部38に出力する。PWM変換部38は、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を入力し、入力した相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*を決定する。そして、PWM変換部38は、決定した目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*に対応する駆動信号を駆動回路25に出力する。
これにより、駆動回路25においては、出力された駆動信号すなわち目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*に基づき、スイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32の開閉をPWM方式により切替制御することによって三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を三相の交流電圧Iu,Iv,Iwに変換し、EPSモータ15に目標アシスト量Ta*と一致するアシストトルクを発生させる。
ところで、EPSモータ15については、電流検出部33によって出力される各相の電流Iu,Iv,Iwや、電気角演算部34によって出力される電気角Θ及びこの電気角Θを時間微分した回転角速度dΘ/dt、各相のデューティー比Du*,Dv*,Dw*等に基づくことにより、巻線U,V,W(U’,V’,W’)の断線や駆動回路25の接点不良等に起因した通電不良相の有無を検出することができる。より詳しく、この通電不良相発生の検出では、例えば、X相(X=U,V,Wのうちのいずれか)の相電流iXが予め設定された所定電流値以下であり、かつ、回転角速度dΘ/dtが断線判定の対象範囲内である場合において、X相に対応するデューティー比DX*が所定電流値及び対象範囲内に対応する所定範囲内にない状態が継続するときに、X相に通電不良が発生したことが検出される。
そして、このようにX相に通電不良が発生した場合には、アシスト制御部30は、EPSモータ15を、所謂、二相駆動により駆動させるため、図4,5に示すように、第2電流制御演算部37及びPWM変換部38によって駆動信号を生成し、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対してアシストトルク(アシスト量)の付与を継続する。ここで、以下の説明においては、図6に示すように、EPSモータ15のU相、V相、W相のうちのU相に通電不良が発生し、V相及びW相にのみ通電してEPSモータ15を駆動させる二相駆動を例示して説明する。
尚、このように、U相に通電不良が発生した場合には、駆動回路25を構成するインバータ回路部25aのスイッチング素子SW11,SW12,SW21,SW22,SW31,SW32のうち、通電不良の発生したU相に対応するスイッチング素子SW11,SW12がオフ(開状態)に維持される、或いは、図7に示すように、リレー回路部25bの相開放リレーR1,R2,R3のうち、通電不良の発生したU相に対応する相開放リレーR1が開状態に維持されて、EPSモータ15のU相に駆動電流が供給されないようになる。従って、図6に示すように、U相に対応して駆動回路25に設けられた電流センサJ1から信号が出力されず、その結果、電流検出部33は、U相に流れる電流Iuを、例えば、「0」として出力する。
第2電流制御演算部37は、相電流フィードバック制御(相電流F/B)の実行により、各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算するものである。このため、第2電流制御演算部37は、図5に示すように、電気角補正部371を備えている。電気角補正部371は、二相駆動時の相電流フィードバック制御において、後述するように演算される相電流指令値iX*(=iv*(x)、又は、iw*(x))の位相を補正(オフセット)するものである。このため、電気角補正部371は、下記式1に従い、電気角演算部34から入力したEPSモータ15の電気角Θに補正量λを加算して補正した補正後電気角xを演算する。
ただし、前記式1中の補正量λは、トルク値演算部32から入力した操舵トルクThの方向や、電気角演算部34から入力した電気角Θの変化方向(或いは、回転角速度dΘ/dt)、すなわち、操舵方向に応じて決定されるものであり、例えば、操舵トルクThを用いた場合には下記式2により表される。
尚、前記式2中の関数sign(Th)は、引数である操舵トルクThの値が正の値であれば「+1」、負の値であれば「−1」、「0」であれば「0」を出力するものである。又、前記式2中のλ0は、後に詳述する補正量最適値を表す。
ここで、補正値λは、図8に示すように、引数が操舵トルクThである場合には、操舵トルクThの値が負の値であるときには「−λ0」となり、値が「0」であるときには「0」となり、値が正の値であるときには「+λ0」となる。又、引数が回転角速度dΘ/dtである場合にも、補正値λは、図8に示すように、回転角速度dΘ/dtの値が負の値であるときには「−λ0」となり、値が「0」であるときには「0」となり、値が正の値であるときには「+λ0」となる。そして、電気角補正部371は、補正後電気角xを演算すると、演算した補正後電気角xを相電流演算部372に供給する。
相電流演算部372は、二相駆動時に、通電不良相に対応する所定の電気角Θ(回転角)を除いて、目標アシスト量Ta*すなわち電流指令値iref(q軸の目標電流Iq*)に対応するq軸の実電流IqがEPSモータ15に発生するように、相電流指令値iX*を演算するものである。具体的に説明すると、本実施形態においては通電不良がU相に発生した場合を想定するため、相電流演算部372は、U相を除く非故障相であるV相又はW相に流す相電流指令値iX*を演算する。この場合、上述したように、通電不良の発生したU相は電気的に切り離されており、V相の相電流とW相の相電流は、キルヒホッフの法則からも明らかなように、互いに絶対値が等しく符号が反転した相電流となる。従って、本実施形態においては、相電流演算部372は、例示的にV相電流を基準とし、すなわち、V相を制御相として、下記式3に従って相電流指令値iv*(x)を演算する。ここで、相電流指令値iv*(x)は、周期2πの周期関数であり、以下の説明においては0≦x<2πについて示す。尚、W相を制御相とした場合には、下記式4に従って相電流指令値iw*(x)を演算することができる。
ここで、前記式3中のirefは、アシスト電流指令値演算部35から供給される電流指令値を表し、前記式3中のimaxは、V相に通電可能な電流の最大値を表す。又、前記式3中のxは、電気角補正部371から供給される補正後電気角を表す。更に、前記式3にて補正後電気角xの範囲を決定するθ1は、後述する式9により表わされるものである。これにより、U相に通電不良が発生した場合に、前記式3によって表される相電流指令値iv*(x)(或いは、前記式4によって表される相電流指令値iw*(x))に従う電流波形は、図9に示すように、電気角Θの「π/2(90deg)」と「3π/2(270deg)」とを漸近線とする正割曲線状に変化するものとなる。このように、制御相の相電流指令値iX*として、相電流指令値iv*(x)又は相電流指令値iw*(x)を演算すると、相電流演算部372は、演算した相電流指令値iX*すなわち相電流指令値iv*(x)又は相電流指令値iw*(x)を減算器374に供給する。
又、第2電流制御演算部37は、制御相選択部373を備えている。制御相選択部373は、通電不良の発生した相(本実施形態においては、U相)以外の残る二相(V相及びW相)のうちの一相(V相又はW相)を制御相として選択する。そして、制御相選択部373は、制御相と選択した相(V相又はW相)の実相電流iX(=Iv又はIw)を電流検出部33から取得して減算器374に供給する。
減算器374は、入力した相電流指令値iX*すなわち相電流指令値iv*(x)又は相電流指令値iw*(x)から実相電流iX(=Iv又はIw)を減算することにより、相電流偏差ΔiXを演算する。そして、減算器374は、演算した相電流偏差ΔiXをF/B制御部375に供給する。
F/B制御部375は、相電流指令値iX*すなわち相電流指令値iv*(x)又は相電流指令値iw*(x)に実相電流iX(=Iv又はIw)を追従させるために、フィードバック制御を実行する。すなわち、F/B制御部375は、減算器374から入力した相電流偏差ΔiXに所定のF/Bゲイン(PIケイン)を乗ずることにより、制御相(V相又はW相)についての相電圧指令値VX*(=VV*又はVW*)を演算する。そして、F/B制御部375は、演算した相電圧指令値VX*(=VV*又はVW*)を相電圧指令値演算部376に供給する。
相電圧指令値演算部376は、制御相(V相又はW相)についての相電圧指令値VX*(=VV*又はVW*)に基づいて各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。すなわち、通電不良の発生した相は通電不能であり、二相駆動時の各通電相の位相はπ/2ずれることになる。従って、通電不良の発生した相の相電圧指令値は「0」となり、残る二つの通電相の相電圧指令値は、制御相についての相電圧指令値VX*の符号を反転することにより演算可能となる。このため、本実施形態においては、U相に通電不良が発生しており、制御相としてV相を選択するため、相電圧指令値演算部376は、各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**をVu**=0、Vv**=VX*(=VV*)、Vw**=−VX*(=VV*)と演算する。
このように、相電圧指令演算部376によって各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**が演算されると、第2電流制御演算部37は、演算された各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**をPWM変換部38に出力する。PWM変換部38においては、第1電流制御演算部36から相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が出力された場合と同様に、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*を決定する。そして、PWM変換部38は、決定した目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*に対応する駆動信号を駆動回路25に出力する。
これにより、駆動回路25においては、出力された駆動信号すなわち目標デューティー比Du*,Dv*,Dw*に基づき、スイッチング素子SW21,SW22,SW31,SW32の開閉をPWM方式により切替制御することによって相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を三相の交流電圧Iu(=0),Iv,Iwに変換し、EPSモータ15に目標アシスト量Ta*と一致するアシストトルクを発生させる。
ところで、上述したように、第2電流制御演算部37においては、電気角補正部371がEPSモータ15の電気角Θに補正量λ(補正量最適値λ0)を加算して補正後電気角xを演算する。以下、電気角Θを補正するために加算される補正量λ及び補正量最適値λ0について、具体的に説明する。
上述したように、二相駆動時においては、電気角補正部371が補正後電気角xを演算し、この補正後電気角xを用いて相電流演算部372が目標アシスト量Ta*すなわち電流指令値irefに対応するq軸の実電流IqがEPSモータ15に発生するように、相電流指令値iX*を演算する。このように、補正後電気角xを用いて相電流指令値iX*を演算し、相電流フィードバック制御を実行する場合には、二相駆動時におけるEPSモータ15の回転を円滑化することができ、運転者が操舵ハンドル11を回動操作する際に、所謂、引っ掛かり感のない良好な操舵フィーリングを知覚することができる。
このことを説明するにあたり、今、電気角補正部371が電気角Θを補正しない場合、すなわち、相電流演算部372が電気角演算部34から出力された電気角Θをそのまま用いて相電流指令値iX*を演算し、相電流フィードバック制御が実行される状況を想定する。図9に示したように、二相駆動時において演算される相電流指令値iX*の電流波形は、その原理上、例えば、U相に通電不良が発生すると、電気角Θでπ/2(90deg)と3π/2(270deg)が漸近線となり、無限大の電流が必要となる。しかし、現実には、EPSモータ15には定格電流値が存在し、又、各相の電流を制限する必要もあるため、無限大の電流をEPSモータ15に流すことは不能である。従って、上述したように、U相に通電不良が発生した場合には、制御相であるV相の電気角Θでπ/2(90deg)と3π/2(270deg)近傍の相電流ivを、V相に通電可能な電流の最大値imaxによって制限する。
ところが、このように、例えば、制御相であるV相の相電流ivを制限すると、図10に示すように、EPSモータ15が発生する出力トルクが制限されて低下する。その結果、EPSモータ15が付与するアシストトルクが不足する(或いは、アシストトルクがゼロとなる)状況が生じ得る。そして、このアシストトルクが不足する状況では、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に合わせてEPSモータ15の電気角Θがπ/2(90deg)と3π/2(270deg)近傍に差し掛かると、転舵輪である左右前輪FW1,FW2を転舵させるときに発生する転舵負荷が大きくなる、より具体的には、操舵ハンドル11の回動操作に必要な操作力(操作トルクTh)が大きくなるために、運転者は引っ掛かり感を覚える。
これに対し、電気角補正部371が、EPSモータ15の回転方向に補正量λを加算して、EPSモータ15の電気角Θを補正する、より詳しくは、電気角Θの位相を補正量λだけ進める側にオフセットして補正すると、図11に示すように、EPSモータ15の回転方向に出力トルクが増加するトルク増加領域と、EPSモータ15の回転方向に対して出力トルクが反転するトルク反転領域とを意図的に出現させることができる。尚、図11においては、補正量λ=20degとした場合を例示的に示している。
そして、このようなトルク増加領域とトルク反転領域とを意図的に出現させることにより、トルク増加領域ではEPSモータ15の回転運動にエネルギーを蓄えることができてEPSモータ15の回転を操舵方向に加速させることができる。一方、トルク反転領域では、逆に、EPSモータ15の回転を減速させ、電気角Θをトルク増加領域方向に戻すエネルギーを蓄えることができる。従って、例えば、EPSモータ15の操舵方向への回転(電気角Θ)がトルク増加領域からトルク反転領域に入ることによって減速され、回転に勢いがなくなって、出力トルクが低下するアシスト低下領域を飛び越えることができないときには、EPSモータ15は操舵方向とは逆方向に回転されて再びトルク増加領域に戻される。
これにより、EPSモータ15は、戻されたトルク増加領域で操舵方向に回転するエネルギーを蓄えて回転に勢いを付け、勢いが不足すれば、再びトルク反転領域からトルク増加領域に戻され、再度トルク増加領域で操舵方向に回転するエネルギーを蓄えて回転に勢いを付けることができる。このようなトルク増加領域とトルク反転領域との間を繰り返し行き来することにより、EPSモータ15は、その慣性によってアシスト低下領域を飛び越えることが可能となり、運転者によって知覚される引っ掛かり感を低減することができる。
ところで、上述したようなアシスト低下領域の飛び越え、言い換えれば、引っ掛かり感を確実に防止するためには、電気角Θに加算する補正量λを大きくすれば、トルク増加領域とトルク反転領域とを確実に出現させることができて有効である。一方で、電気角Θに加算する補正量λを大きくし過ぎると、後述するように、EPSモータ15が発生可能なトルクが低下するために、運転者が入力する操作力(操舵トルクTh)が増大するという背反が生じる。このため、引っ掛かり感の防止と操作力の低減とは、互いに二律背反の関係にあると言える。
すなわち、通常時に比して電流制限に伴う最大出力が制限される二相駆動状態であっても、転舵負荷が小さいときには、EPSモータ15が発生できるトルクに余裕があるために、例えば、引っ掛かり感の防止を優先して補正量λを大きく設定することが可能である。しかしながら、転舵負荷が増大してEPSモータ15が発生できるトルクに余裕がなくなる状況では、引っ掛かり感の防止を優先して補正量λを大きく設定すると、運転者が入力する操舵トルクThが増大してしまい、負担を強いる可能性がある。
従って、引っ掛かり感の防止と操作力の低減とを最大限に両立させることができる補正量λ、より詳しくは、補正量最適値λ0を決定する必要がある。このため、本願発明者は、以下に詳細に説明するように、補正量λ(補正量最適値λ0)を決定した。
上述した図11のようなトルク増加領域とトルク反転領域とが出現するときに、EPSモータ15が発生するトルクTout(以下、発生トルクToutと称呼する。)は、下記式5によって表すことができる。尚、発生トルクToutは、周期πの周期関数であり、以下の説明においては(π/2)−λ≦θ<(3π/2)−λについて示す。
ただし、前記式5中のKtは、Kt=Th/irefで決定されるトルク定数を表す。
この場合、EPSモータ15が発生するトルクの平均値Tavg(以下、発生トルク平均値Tavgと称呼する。)は、下記式6に示すように、発生トルクToutを電気角Θで積分したものと考えることができる。
ここで、上述したように、前記式1に従って電気角Θに補正量λを加算した補正後電気角xを計算する。このため、発生トルク平均値Tavgの演算については、発生トルクToutがπ(180deg)の周期を持っているため、下記式7に示すように、−π/2〜π/2の範囲においてxについて積分して平均化すれば良い。
尚、前記式7中の電流指令値irefの最大値iref(max)及びθ1の各変数は、下記式8及び式9により定義される。
ところで、前記式7からも明らかなように、EPSモータ15の発生トルク平均値Tavgは、補正量λの関数として表すことができる。このことは、図11にて説明したように、補正量λを用いて電気角Θを補正すると、トルク増加領域とトルク反転領域とが出現することからも理解することができる。そして、前記式7に従って補正量λのCOS関数として演算される発生トルク平均値Tavgにおいて、その最大値Tavg(max)は、電流指令値irefに最大値iref(max)を代入するとともに、又、前記式9に従ってθ1=π/6となるため、下記式10により表すことができる。
今、転舵負荷TL(以下、負荷トルクTLとも称呼する。)が一定であるとすると、電流指令値irefが最大値iref(max)で飽和した状態で、運転者が操舵ハンドル11を回動操作して転舵輪である左右前輪FW1,FW2を転舵させるために必要な第1のトルクとしての操舵トルクTh1(以下、手入力トルクTh1と称呼する。)は、下記式11に従って演算することができる。
ただし、この場合、上述したように、アシスト電流指令値演算部35によって演算される電流指令値irefは運転者が操舵ハンドル11を介して入力する操舵トルクThすなわち手入力トルクTh1の関数となる。このため、二相駆動状態におけるEPSモータ15の出力トルクが負荷トルクTLに対して十分な余裕があるときには、通常時と同様に電流指令値iref(出力トルク)と転舵トルクTLとがバランスするポイントで操舵トルクTh(すなわち手入力トルクTh1)が決定される。一方で、負荷トルクTLが二相駆動時における出力上限である前記式10により表される最大値Tavg(max)を上回る場合には、電流指令値irefが最大値iref(max)で飽和して固定されるため、発生トルク平均値Tavgは、補正量λに応じた最大値Tavg(max)となる。
ところで、上述したように、EPSモータ15がある程度の回転数(回転速度)で回転しているときには、トルク増加領域での加速により、トルク反転領域を飛び越えることができる。しかし、EPSモータ15の回転数(回転速度)が低下すると、トルク増加領域とトルク反転領域の間の電気角Θで負荷トルクTLと釣り合って停止してしまう可能性がある。
具体的に、図12を用いて説明すると、今、a.安定点でEPSモータ15の回転が停止したとする。このa.安定点においては、EPSモータ15の出力トルクと手入力トルクTh1との和と負荷トルクTLとが釣り合う。このa.安定点において、運転者が図12にて右方向に操舵しようとすると、EPSモータ15の出力トルクが減少するため、この出力トルクの減少分を運転者が手入力トルクTh1(操舵トルクTh)によって補いながら、b.トルク反転点まで電気角Θを進める必要がある。ここで、以下の説明においては、a.安定点からb.トルク反転点に到達するまでに必要な第2のトルクとしての操舵トルクThを負担トルクTh2と称呼する。
負担トルクTh2が入力されることにより、EPSモータ15の電気角Θがトルク反転領域内に入ると、上述したように、一旦逆方向に加速し、図12に示すc.加速開始点まで戻る。そして、再び、操舵方向(図12にて右方向)に回転を開始するが、このときのEPSモータ15の出力トルクの大きさは負荷トルクTLの大きさよりも大きいため、EPSモータ15は慣性(勢い)により、トルク反転領域を飛び越えて回転を継続することができる。
すなわち、EPSモータ15の回転が停止したとしても、a.安定点からb.トルク反転点に進むことさえできれば、トルク反転領域を飛び越えて回転を継続することができる。そして、このようにEPSモータ15の回転を継続させるために必要な負担トルクTh2が大きいと、結果として、運転者が引っ掛かり感を覚えるような操舵フィーリングとなってしまう。この場合、図12に示すように、補正量λが大きいほど、電気角Θでb.トルク反転点がa.安定点に向けて(図12にて左方向)に移動する、言い換えれば、電気角Θの位相を進めるため、負担トルクTh2は小さくなる。
ここで、トルク反転点においてEPSモータ15が出力トルクTrev(以下、反転トルクTrevと称呼する。)を出力するとすると、負担トルクTh2は、下記式12に従って演算することができる。
ただし、反転トルクTrevは、下記式13に従って補正量λのSIN関数として表すことができる。
ところで、前記式10,11によって表される手入力トルクTh1と前記式12,13によって表される負担トルクTh2とを対比すると、手入力トルクTh1は補正量λのCOS関数として表されるために補正量λの増大に伴って増加する傾向を示す一方で、負担トルクTh2は補正量λのSIN関数として表されるために補正量λの増大に伴って減少する傾向を示す。このため、任意の負荷トルク(転舵負荷)TLが与えられたときに、補正量λの変化に対する手入力トルクTh1及び負担トルクTh2をプロットすると、図13に示すようになる。
図13において、補正量λ(オフセット)を20degとする「A」においては、手入力トルクTh1に比して負担トルクTh2が大きいため、EPSモータ15が回転状態を維持している間は小さな手入力トルクTh1により操舵ハンドル11を回動操作することができる。しかし、EPSモータ15の回転が停止した状態から再び操舵するとき(すなわち、図12におけるa.安定点からb.トルク反転点まで進むとき)には、大きな負担トルクTh2を入力する必要があり、操舵ハンドル11の回動操作において運転者は引っ掛かり感を覚え易くなる。
一方、図13において、補正量λ(オフセット量)を略31degとする「B」においては、手入力トルクTh1と負担トルクTh2とが等しくなる。このため、EPSモータ15が回転状態にあるときには、上記「A」の場合に比して手入力トルクTh1が大きくなる分、運転者は操舵ハンドル11の回動操作に重さを感じる。しかしながら、EPSモータ15の回転中(操舵ハンドル11の回動操作中)と、EPSモータ15の回転が停止した状態から再び操舵するとき(すなわち、図12におけるa.安定点からb.トルク反転点まで進むとき)とでは、運転者は、ほぼ同じ重さを感じるために引っ掛かり感を覚え難くなる。
このため、上記「B」における補正量λは、前記式10〜式13を用いて、下記式14に示すように1つの最適値に決定することが可能となる。
ただし、実際の電動パワーステアリング装置10に設けられるモータ回転角センサ23は、通常、検出誤差を有して電気角Θを検出する。このため、補正量λについては、上述したアシスト制御を実施する上で許容されるモータ回転角センサ23の検出誤差、言い換えれば、モータ回転角センサ23の検出精度を勘案して、前記式14に従って決定される補正量最適値λ0=0.55radを含む範囲を設定することが適切である。具体的には、補正量λとして許容される範囲として、0.45rad<λ<0.65radに設定することが好ましく、モータ回転角センサ23がより高い検出精度を有している場合には0.50rad<λ<0.60radに設定することがより好ましい。
尚、角度の単位として「rad」に代えて「deg」を用いる場合には、近似値として補正量最適値λ0=31degとなる。そして、補正量λの設定範囲は、26deg<λ<36degに設定することが好ましく、モータ回転角センサ23の検出精度が高い場合には28deg<λ<34degに設定することがより好ましい。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、二相駆動時におけるEPSモータ15の電気角Θを補正する補正量λ(最適補正量λ0)を、引っ掛かり感の抑制と操作力(操舵トルクTh)の低減という二律背反事項を最大限に両立させるように、適切に定めることができる。これにより、EPSモータ15を二相駆動により駆動させてアシスト制御を継続する場合であっても、運転者は、違和感を覚え難い、極めて良好な操舵フィーリングを知覚しながら、操舵ハンドル11を回動操作することができる。
又、このように、引っ掛かり感の抑制と操作力(操舵トルクTh)の低減とを適切に両立させることができるため、EPSモータ15の出力トルクを必要以上に増大させる必要がない。これにより、EPSモータ15の出力トルクを増大させるために電動パワーステアリング装置10のシステムを肥大化させる必要がなく、例えば、車両の重量増加を抑制して燃費の悪化を防止することができる。更には、出力トルクを増大させるためにEPSモータ15を大型化する必要がないため、例えば、EPSモータ15の回転部分の慣性増加に伴う操舵フィーリングの悪化を防止することができる。
<変形例>
上記実施形態においては、図8に示したように、操舵トルクThや回転角速度dΘ/dtに対して常に一定の補正量λ(補正量最適値λ0)を電気角Θに加算して補正するように実施した。ところで、電気角Θの補正は、操舵トルクThや、電流指令値irefの大きさから推定することができる転舵負荷TL(負荷トルクTL)が大きいときに必要となる。このため、上記実施形態のように常に一定の補正量λ(補正量最適値λ0)を電気角Θに加算することに代えて、転舵負荷TL(負荷トルクTL)の大きさ(すなわち、操舵トルクThの大きさや電流指令値irefの大きさ)の増加に伴って補正量λを一様に補正量最適値λ0まで増加させるように実施することも可能である。この場合においては、特に、転舵負荷TL(負荷トルクTL)が小さいときに電気角Θを補正する補正量λの大きさを小さくすることができるため、例えば、上述したようなトルク反転の頻度を抑えることができ、トルク反転に伴う振動を効果的に抑制することが可能である。その他の効果については、上記実施形態と同様である。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態及び変形例においては、モータ回転角センサ23から出力された電気信号を用いて電気角演算部34が電気角Θを演算するように実施した。この場合、EPSモータ15の電気角Θ(回転角)を直接的に検出することに代えて、又は、加えて、例えば、車両に搭載されている他のセンサによる検出値を用いてEPSモータ15の電気角Θ(回転角)を推定したり、或いは、他の制御によって演算された演算値を用いてEPSモータ15の電気角Θ(回転角)を推定したりして実施することも可能である。このように、EPSモータ15の電気角Θ(回転角)を推定して実施する場合であっても、例えば、上述したように、適切に範囲設定された補正量λを用いて電気角Θを補正することができるため、上記実施形態及び変形例と同等の効果が期待できる。