JP2014138052A - 圧粉磁心とその製造方法 - Google Patents

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【課題】密度の標準偏差、磁気特性、強度のいずれにおいても優れた性能を発揮する圧粉磁心と、その製造方法を提供する。
【解決手段】非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低いガラス粉末を混合する。前記混合物に対して、シランカップリング剤を添加した結着性樹脂を混合し、加圧成形する。得られた成形体を、非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低い温度で熱処理する。結着性樹脂に添加するシランカップリング剤の量は、結着性樹脂に対して0.25%以上〜1.0%未満である。結着性樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂を使用することが好ましい。非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、平滑用チョークコイル等に使用される圧粉磁心及びその製造方法に関する。
スイッチング電源等の出力波形を平滑するために、チョークコイルが使用されている。各種電子機器の高性能化・多機能化に伴い、それに使用されるチョークコイルの磁心においても、大電流でも特性変化の小さいものが要求されている。具体的には、優れた直流重畳特性と低損失特性を有する磁心が求められている。この種の磁心としては、従来から、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。中でも、非晶質軟磁性合金(アモルファス軟磁性合金)の粉末から作製された圧粉磁心は、直流重畳特性に優れ、損失が少ない特性を有している。
これらの非晶質軟磁性合金粉末(以下、合金粉末という)を用いて圧粉磁心とするためには、合金粉末を低融点ガラスと結着性樹脂などと混合して圧縮成形した後、熱処理を行う。結着性樹脂としては、例えば、メチルフェニル系シリコーン樹脂を使用する。特許文献1の方法は、軟磁性粉末の外周に、シランカップリング剤とシリコーン樹脂の2層の被膜を形成した後、成形する。特許文献2の方法は、合金粉末に低融点ガラスとメチルフェニル系シリコーン樹脂などを加えて、成形する。
特許第4908546号公報 特許第5023041号公報
圧粉磁心の成形時には、合金粉末を金型内に円滑に且つ隙間なく、金型の各部に対して均等に充填する必要がある。合金粉末を金型内に充填する際の特性を一般に「流れ性」と呼ぶ。成形された圧粉磁心が有する直流重畳特性や低損失特性などのばらつきを抑えるために、合金粉末の流れ性を向上する必要がある。すなわち、合金粉末の流れ性が悪いと、成形された圧粉磁心の密度が不均一となり、特性のばらつきが生じる。
特許文献1の方法では、シランカップリング剤とシリコーン樹脂が合金粉末の周囲に2層に形成されるため、シランカップリング剤を添加したにも拘わらず、流れ性は改善されない。特許文献2の方法では、メチルフェニル系シリコーン樹脂のみを使用すると、粉末の流れ性が悪く、機械式のプレス装置では成形時の密度ばらつきが大きくなり、油圧プレス装置では、成形された圧粉磁心の高さのばらつきが大きくなる。
本発明の目的は、合金粉末を金型内に充填する際の流れ性を改善し、直流重畳特性や低損失特性などのばらつきを抑えた圧粉磁心及びその製造方法を提供することにある。
本発明は、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低いガラス粉末を混合し、前記混合物に対して、シランカップリング剤を添加した結着性樹脂を混合し、加圧成形した後、前記非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低い温度で熱処理する圧粉磁心の製造方法において、
前記結着性樹脂に添加するシランカップリング剤の量は、結着性樹脂に対して0.25%以上〜1.0%未満であることを特徴とする。
本発明において、結着性樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂を使用することが好ましい。非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することができる。前記の製造方法によって得られる圧粉磁心も、本発明の一態様である。
本発明によれば、シランカップリング剤の添加量が結着性樹脂に対して0.25%以上〜1.0%未満とすることで、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性、強度のいずれにおいても優れた性能を発揮する圧粉磁心を得ることができる。
実施例におけるシランカップリング剤の添加量と密度の標準偏差の関係を示すグラフ。 実施例におけるシランカップリング剤の添加量と密度の関係を示すグラフ。 実施例におけるシランカップリング剤の添加量と透磁率の関係を示すグラフ。 実施例におけるシランカップリング剤の添加量と圧環強度の関係を示すグラフ。
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(1)非晶質軟磁性合金粉末と、低融点ガラスを混合する工程。
(2)混合工程で得られた混合物に対して、結着性樹脂を添加する工程。
(3)結着性樹脂の添加工程を経た混合物を、加圧して成形体を作製する成形工程。
(4)成形工程によって得られた成形体を加熱する熱処理工程。
以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)混合工程
混合工程では、例えば、平均粒径が30〜100μmの合金粉末に対して、その0.5wt%のリン酸系の低融点ガラス及び0.5wt%の潤滑性樹脂を添加し、これらをV型混合機を使用して2時間混合する。合金粉末としては、Fe基合金粉末を使用する。このFe基合金粉末は、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeである。
他に、合金粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。合金粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、結晶化しにくいからである。合金粉末は、ガラス転移温度Tgが結晶化温度Txより低く、過冷却液体領域を示す金属ガラスであるのが望ましい。これは、金属ガラスとすることにより、結晶磁気異方性が抑制されるため、コア損失を抑制できるからである。
低融点ガラスとしては、ビスマス系またはリン酸系の低融点ガラスを使用する。その他に、軟化点が合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することができる。軟化点が合金粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することで、ガラスが軟化する温度まで加熱した場合でも、合金粉末の結晶化による磁気特性の低減を防止することができる。
ガラスの混合量は、所望の透磁率に合わせて設定する。ただし、合金粉末に対するガラスの混合量が少ないと、合金粉末間のコーティングが充分でなくなるため、渦電流損失が大きくなってしまう。ガラスの混合量が多いと、合金粉末の透磁率の低下につながるとともに、合金粉末同士が凝集してしまい、十分な磁気特性が確保できない。例えば、合金粉末の0.5wt%〜5wt%程度の範囲から、要望する透磁率に合わせてガラスの混合量を決定する。
ガラスは、粉末として合金粉末に混合される。ガラス粉末の粒径(D50)は、0.5〜1.5μm程度のものが好ましい。ガラス粉末の粒径が5μm程度になると、軟化点が高くなり、粘度が低下しない。
潤滑性樹脂を添加することにより、成形密度を高くすることができる。潤滑性樹脂として、ステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。これらを混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。潤滑性樹脂の添加量は、合金粉末に対して、0.1wt%〜1.0wt%程度が好ましく、一般的には、0.5wt%程度である。
(2)結着性樹脂の添加工程
添加工程では、混合工程を経た混合物に、シランカップリング剤を添加した結着性樹脂を更に混合する。結着性樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂が好ましい。結着性樹脂に対するシランカップリング剤の添加量は、0.25%以上〜1.0%未満である。この範囲外では、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性、強度のいずれかにおいて、所望の性能を発揮することができない。
結着性樹脂としてメチルフェニル系シリコーン樹脂を使用した場合、メチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、合金粉末に対して0.75〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ成形体の強度が不足して、割れが発生する。これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
メチルフェニル系シリコーン樹脂に対して相性の良いシランカップリング剤の種類としては、アミノ系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが良い。
その他の結着性樹脂として、メチルフェニル系シリコーン樹脂の代わりに、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用することができる。混合するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は合金粉末に対して2.0wt%であり、その場合の乾燥温度と乾燥時間は、150℃で2時間である。
アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、種々の架橋剤・諸物性付与剤を配合したソープフリーコロイド状のエマルジョンである。アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンは、加熱乾燥により水分を蒸発させると、水に再溶解せず、殆ど吸湿性がない架橋構造を持った被膜を形成する。この被膜は粘着性があり、成形時のバインダーとして最適に作用する。
アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は、合金粉末に対して0.5〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。2.0wt%よりも多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの代りに、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用しても良い。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)の添加量は、合金粉末に対して0.5〜3.0wt%が適量である。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用した場合、それぞれの適量よりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。また、それぞれの適量より多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
合金粉末と、潤滑性樹脂と、低融点ガラスに対して、結着性樹脂を添加して混合することで、混合工程と添加工程とを同時に行うことも可能である。
(3)成形工程
成形工程では、結着性樹脂を添加した混合物を金型内に充填して、加圧成形する。その場合、金型温度は25℃〜150℃が好ましい。成形圧力は、例えば、1300〜1700MPaである。
(4)熱処理工程
熱処理工程では、成形工程で得られた成形体に対して、窒素雰囲気中で、450〜470℃の温度で、2時間加熱する。450℃の温度を保持する理由は、非晶質である軟磁性合金粉末の結晶化温度以下の状態で、しかも、圧粉磁心を環状に成形した場合に必要とする圧環強度を確保するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、合金粉末の結晶化が進み、透磁率が低下し、鉄損(ヒステリシス)が増加する。そのため、450〜470℃の温度を保持することは、鉄損の増加を抑制するために効果的である。
成形体を、大気中で、350℃の温度で、2時間加熱し、その後窒素雰囲気に切り換えて、470℃で、2時間加熱することもできる。
メチルフェニル系シリコーン樹脂は、200℃前後で加熱乾燥することで、成形時のバインダー(結着剤)として作用し、350℃程度でSi基に直結しているメチル基が熱分解する。結着性樹脂として、メチルフェニル系シリコーン樹脂を使用し、且つ、潤滑性樹脂としてステアリン酸とその金属塩を使用すると、ステアリン酸とその金属塩の触媒効果により、メチルフェニル系シリコーン樹脂の熱分解速度が速くなる。
熱分解したメチルフェニル系シリコーン樹脂は、シリカ(SiO2)層として、合金粉末の表面に残り、これが強固なバインダー及び絶縁膜となる。そのため、前記の様にして成形体を450〜470℃で熱処理した後は、成形体を構成する合金粉末の周囲に、シリカ層を主成分とする絶縁膜が形成される。
(1)圧粉磁心の製造方法
平均粒経45μmのFe−Si−B−Cr−CのFe系非晶質軟磁性合金粉末に、軟化温度360℃の平均粒子径1.1μmのビスマス系ガラスを1.5wt%、潤滑剤であるステアリン酸リチウムを0.3wt%混合した。
次に、メチルフェニル系シリコーン樹脂にシランカップリング剤を表1の割合で添加して混合した。このシランカップリング剤を添加した結着性樹脂を、合金粉末とビスマス系ガラスとの混合物に添加して、混合した後、150℃で2時間乾燥した。その後、乾燥した混合物を目開き850μmの篩に通し、篩を通過した粉末に潤滑剤であるステアリン酸リチウムを0.3wt%を混合して、充填用の粉末を作製した。
この充填用の粉末を金型内に充填し、1700MPaの圧力で加圧することにより、成形体を作成し、更に、酸化雰囲気中(大気中)で、420℃の温度で、2時間加熱した。
(2)鉄損の測定方法
圧粉磁心に1次(15ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、BHアナライザ(岩通:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.05Tの条件下で鉄損Pcvを測定した。鉄損からヒステリシス損失と渦電流損失を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の3式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損係数を算出することで行った。
Pc=Kh×f+Ke×f2
Ph=Kh×f
Pe=Ke×f2
Pc:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
(3)成形特性の評価
圧粉磁心形状…外形16.55mm、内径11.00mm、高さ15.00mmのトロイダル形状
成型条件…成型速度11個/分、指定圧力58トン
ばらつきデータ数…200ショット
圧環強度…JIS2507に従って測定
(4)測定結果
(4−1)密度特性の評価
表1及び図1から分かるように、メチルフェニル系シリコーン樹脂に対してシランカップリング剤を添加しない比較例1では、密度の標準偏差値が大きく、成形体の各部で密度にばらつきがあることが分かる。シランカップリング剤の添加量が0.25%以上で密度のばらつきを抑える効果が出る。シランカップリング剤の添加量が1%を超えると、密度の標準偏差値の変化が少なくなり、1%以上添加しても効果がないことが分かる。
(4−2)磁気特性の評価
各比較例及び実施例における密度、振幅透磁率(μa)、鉄損及び強度を分析すると、表2及び図2及び図3に示す通りである。これらの分析結果から明らかなように、シランカップリング剤の添加量が増えると密度と振幅透磁率が低下する。圧粉磁心として、好ましい密度と振幅透磁率を得ることができるシランカップリング剤の添加量は、メチルフェニル系シリコーン樹脂の0.25〜1.0%であることが分かる。
(4−3)強度特性の評価
表2及び図4から分かるように、シランカップリング剤を添加しない比較例1では、強度が低下している。また、シランカップリング剤を1%以上添加した比較例2及び比較例3は、実施例1〜3に比較して、強度が低下している。このことからも、シランカップリング剤の添加量は、0.25〜1.0%が好ましいことが分かる。

Claims (4)

  1. 非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が前記非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低いガラス粉末を混合し、前記混合物に対して、シランカップリング剤を添加した結着性樹脂を混合し、加圧成形した後、前記非晶質軟磁性合金の結晶化温度より低い温度で熱処理する圧粉磁心の製造方法において、
    前記結着性樹脂に添加するシランカップリング剤の量は、結着性樹脂に対して0.25%以上〜1.0%未満であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
  2. 前記結着性樹脂が、メチルフェニル系シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
  3. 非晶質軟磁性合金粉末と低融点ガラスを混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
  4. 前記請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された圧粉磁心。
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