JP2014136775A - セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】セルロースナノファイバーの原料となるパルプとして、保水度が90%以下のものを用い、これをN−オキシル化合物、および臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いて酸化して酸化パルプとし、次いで、濃度0.3%(w/v)以上で解繊してナノファイバー化する。
【選択図】なし
Description
(A)保水度が90%以下であるパルプを、(a1)N−オキシル化合物および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化して、酸化パルプとする工程、ならびに
(B)前記工程Aで得た酸化パルプを濃度0.3%(w/v)以上の状態で解繊してナノファイバー化する工程、を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
1.セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の製造方法は、(A)保水度が90%以下であるパルプを、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化して酸化パルプとする工程、ならびに(B)前記工程Aで得た酸化パルプを濃度0.3%(w/v)以上の状態で解繊してナノファイバー化する工程、を含む。
工程Aでは保水度が90%以下であるパルプを、特定の条件下で酸化する。
(1)パルプ
本発明では、セルロースナノファイバーの原料となるパルプとして、保水度が90%以下であるものを用いる。保水度が90%以下であれば、その種類は特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプなどを用いることができる。また、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のパルプを使用することもできる。このうち、漂白されたクラフトパルプ、漂白されたサルファイトパルプを使用することが好ましい。また、木材由来のパルプの場合、パルプの原料としては各種針葉樹、各種広葉樹を単独あるいは混合して使用することができる。保水度90%以下のセルロース原料を得る上では、マツ(pine)、スギ(cedar)、カエデ(maple)、カバ(birch)、ブナ(beech)、アカシア(acacia)、ユーカリ(eucalyptus)、モミ(fir)、トウヒ(spruce)を使用することが好ましい。
パルプを水と混合して0.5%(w/v)の濃度に調製後、遠心脱水機によって4100rpm、20℃、15分間で脱水することでパルプのマットを形成する。このマットの重量(A)を測定する。次いで、105℃乾燥機にて12時間乾燥させて絶乾状態にさせた後、絶乾状態のマットの重量(B)を測定する。保水度を、(A)−(B)/(B)×100の計算式により得る。
水素結合が少ないパルプ、すなわち保水度が高いパルプを解繊する場合、パルプを構成しているセルロース繊維をバラバラにすることは比較的容易であるが、バラバラになったセルロースナノファイバーの分散液中の割合が増加するに伴い、分散液の粘度が大きく上昇し、解繊効率が低下することがある。これにより、解繊できない大きな異物が残留し始め、セルロースナノファイバー分散液としては十分な透明性が発現しないことがある。
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物である。本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される化合物が挙げられる。
式1で表される物質のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)が好ましい。また、下記式2〜5のいずれかで表されるN−オキシル化合物、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体、もしくは4−アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4−アセトアミドTEMPOは安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、とりわけ好ましい。
さらに、下記式6で表されるN−オキシル化合物、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で効率よくパルプを酸化でき、また、セルロース鎖の切断も起こりにくいため、好ましい。
N−オキシル化合物の使用量は、パルプを後の解繊によってナノファイバー化できる程度に酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
パルプの酸化の際に用いる酸化剤としては、公知のものが使用でき、例えばハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、コストの観点から、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好適である。酸化剤の適切な使用量は、用いるパルプの種類によっても異なるが、例えば、絶乾1gのパルプに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、2.5〜25mmolがさらに好ましく、5〜20mmolが最も好ましい。
本発明の工程Aでは、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
酸化パルプの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化パルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕
を用いて算出する。
1−2.工程B
工程Bでは、前記工程Aで得た酸化パルプを濃度0.3%(w/v)以上の状態で解繊してナノファイバー化する。本発明では、解繊時の酸化パルプの濃度が、0.3%(w/v)と高い場合であっても、透明性の高い分散液とすることができる。
1−3.低粘度化処理
セルロースナノファイバー分散液としたときの粘度を低下させて取扱い性を高める目的で、工程Bの前に、工程Aで得た酸化パルプを低粘度化処理してもよい。低粘度化処理とは、酸化パルプのセルロース鎖を適度に切断(セルロース鎖を短繊維化)することである。このように処理された原料を用いると分散液としたときの粘度が低くなる。低粘度化処理としては、例えば、酸化パルプに紫外線を照射する処理、酸化パルプを過酸化水素およびオゾンで酸化分解する処理、酸化パルプを酸で加水分解する処理、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、幅2〜15nm、長さ1〜7μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明の方法により得られるセルロースナノファイバーは、高い濃度であっても優れた透明度を有する分散液を提供する。分散液における分散媒は、好ましくは水である。本発明において、透明度は波長660nmの光の透過率で評価され、具体的には、分光光度計を用いて、濃度0.1%(v/w)の分散液を入れた石英セル(光路10mm)を用いて波長660nmの光の透過率を測定することで求められる。
[実施例1]
(パルプの調製)
3.2L容の回転型オートクレーブにマツ:ラジアータパイン=1:1で混合したチップを絶乾量で200g入れ、水を加えて液比を3.2L/kgとした。蒸解液(活性アルカリ22%(対チップ質量)、硫化度28%、液比3.2L/kgとなるように水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを混合して調製した。)を添加して170℃でHファクターが1600になるまで蒸解した。
パルプを、水と混合して0.5%(w/v)の濃度に調製後、遠心脱水機によって4100rpm、20℃、15分間で脱水することでパルプのマットを形成し、このマットの重量(A)を測定した。次いで、105℃乾燥機にて12時間乾燥させて絶乾状態にさせた後、絶乾状態のマットの重量(B)を測定した。パルプの保水度を(A)−(B)/(B)×100の計算式から得た。
上記の針葉樹ドライパルプ5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)16ml添加した後、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間の反応の後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化パルプを得た。
上記で得られた酸化パルプの濃度1%(w/v)のスラリーを、超高圧ホモジナイザー(140MPa)で10回処理して、透明なゲル状分散液を得た。
カルボキシル基量は、酸化パルプの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化パルプ〕= a〔ml〕× 0.05/酸化パルプ質量〔g〕
を用いて算出した。
解繊処理によって得られたゲル状分散液に水を加えて、濃度0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を作製し、UV−VIS分光光度計UV−265FS(島津製作所社)を用いて波長660nmの光の透過率を測定した。
実施例1のチップを、スギ:ラジアータパイン=2:3の割合で混合したチップに変更した以外は、実施例1と同様の処理を行った(パルプの保水度87.5%)。
実施例1においてドライパルプの調製を行わず、ウェットパルプ(保水度137.9%)を用いて酸化及び解繊を行った以外は、実施例1と同様の処理を行った。
実施例2においてドライパルプの調製を行わず、ウェットパルプ(保水度142.7%)を用いて酸化及び解繊を行った以外は、実施例2と同様の処理を行った。
実施例1のドライパルプの代わりに、市販の漂白済み広葉樹パルプ(日本製紙株式会社製、LBKP、乾燥履歴あり(ドライパルプ)、保水度91.1%)を使用した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
実施例1のドライパルプの代わりに、市販の漂白済み針葉樹パルプ(日本製紙株式会社製、NBKP、乾燥履歴あり(ドライパルプ)、保水度94.9%)を使用した以外は、実施例1と同様の処理を行った。
Claims (5)
- (A)保水度が90%以下であるパルプを、(a1)N−オキシル化合物および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化して、酸化パルプとする工程、ならびに
(B)前記工程Aで得た酸化パルプを濃度0.3%(w/v)以上の状態で解繊してナノファイバー化する工程、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。 - 前記工程(A)の前に、乾燥履歴がなく湿潤状態にあるパルプを温度30〜90℃で1時間〜2日間乾燥させることにより、保水度が90%以下であるパルプを調製する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
- 得られたセルロースナノファイバーの濃度0.1%(w/v)における水分散液の、波長660nmの光の透過率が92%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記工程(A)で得た酸化パルプのカルボキシル基量が、酸化パルプの絶乾質量に対して1.0mmol/g以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記工程(B)において50MPa以上の圧力下で解繊を行なう、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
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