以下、図1〜図4を用いて本発明のシンチレータパネル及びそれを用いた放射線検出装置の好ましい構成について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
図1及び図2は、本発明のシンチレータパネルを含む放射線検出装置の構成を模式的に表した断面図である。図3及び図4は、本発明のシンチレータパネルの一例の構成を模式的に表した斜視図である。放射線検出装置1は、シンチレータパネル2、光検出器3からなる。シンチレータパネル2は、蛍光体からなるシンチレータ層7を含み、X線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300〜800nmの範囲の電磁波、すなわち、可視光線を中心に紫外光から赤外光にわたる範囲の電磁波(光)を発光する。
シンチレータパネル2は、シンチレータパネル側基板4と、その上に形成されたセルを区画するための、平行に形成された複数の主隔壁6Aと、主隔壁で形成された空間内に充填された蛍光体からなる、シンチレータ層7とから構成される。主隔壁6Aはセルを区画するために少なくとも2以上の、複数の主隔壁6Aが形成される必要がある。そして複数の主隔壁6Aは、互いに平行に、すなわちストライプ状に形成されている。また、図3に示すように、主隔壁6Aと垂直になるように、補助隔壁6Bが形成される。放射線は、シンチレータパネル側又は光検出器側のいずれから入射しても構わない。放射線が入射しない側の基板と主隔壁6A及び補助隔壁6Bとの間には、放射線遮蔽層5が形成されていることが好ましい。例えば、図1に示されるシンチレータパネル2は、光検出器3側から放射線が入射する態様であることから、放射線が入射しない側の基板すなわちシンチレータパネル側基板4と主隔壁6Aとの間に、放射線遮蔽層5が形成されている。放射線遮蔽層5により、シンチレータ層7を通過した放射線が吸収され、放射線検出装置の外部への放射線漏れを遮蔽することができる。放射線遮蔽層5は、可視光反射率が高いことが好ましい。また、シンチレータパネル側基板4又は放射線遮蔽層5の上には、反射層8が形成されていることが好ましい。これら反射層により、蛍光体7が発光した可視光を、光検出器3側へと効率良く導くことができる。
光検出器3は、光検出器側基板10と、その上に形成された光電変換層9とから構成される。ここで光電変換層9は、フォトセンサとTFTとからなる画素が2次元状に形成されたものである。放射線検出装置1は、シンチレータパネル2と光検出器3の光電変換層9とを対向させて、貼り合わせて構成される。シンチレータパネル2の主隔壁6A及びシンチレータ層7と、光検出器3との間には、ポリイミド樹脂等からなる接着層11が形成されていることが好ましい。例えば光検出器3側から入射した放射線は、光電変換層9を透過した後、シンチレータ層7で可視光へと変換され、その可視光が光電変換層9で検出及び光電変換され、出力される。
放射線検出装置1の鮮鋭度を高めるために、光電変換層9の間に、シンチレータパネル2の主隔壁6Aが位置することが好ましい。シンチレータパネル2の各セルが隔壁で区画されており、ストライプ状又はマトリックス状に形成された光電変換層9の大きさ及びピッチと、シンチレータパネル2のセルのピッチとを一致させることにより、蛍光体によって光が散乱されても、散乱光が隣のセルに到達するのを防ぐことができ、その結果、光散乱による画像のボケが低減でき、高精度の撮影が可能になる。
基板上に平行に形成された主隔壁6Aと垂直方向なるように補助隔壁6Bを形成することで、主隔壁の蛇行や傾き等を防止することができるが、主隔壁の隔壁幅に対する隔壁高さの割合(アスペクト比)が大きいことが好ましい。
十分な輝度を確保するため、主隔壁6AのピッチP1と、(複数の補助隔壁が形成された場合の)補助隔壁6BのピッチP2とが、
P1 < P2
の関係を満たすことが好ましい。
また、十分な輝度を確保しながら、光電変換層9の間に補助隔壁6Bを形成して、シンチレータパネルの均一性や設計性を向上させるため、P1とP2とが、
P2 = P1×n (nは1以外の任意の整数)
の関係を満たすことがより好ましい。なお、ここでピッチとは、隣接する主隔壁又は補助隔壁の、互いの側面の間の間隔をいう。
さらに、十分な輝度及び鮮鋭度を確保しながら、主隔壁の蛇行や傾きを効果的に抑止するため、P1とP2とが、
P1×2 ≦ P2 ≦ P1×20
の関係を満たすことがさらに好ましい。
蛍光体の充填量を増加させるため、補助隔壁6Bの高さH2は、主隔壁6Aの高さH1よりも低いことが好ましい。一方で、補助隔壁が低すぎると主隔壁の強度が不足し、かつ光拡散が大きくなってボケが生じるため、H1とH2とが
H1×0.1≦ H2 ≦ H1×0.9
の関係を満たすことが好ましく、
H1×0.5≦ H2 ≦ H1×0.9
の関係を満たすことがより好ましい。
主隔壁6Aの表面には、反射層8を形成することが好ましい。反射層を形成することで、セル内で発光した可視光を、効率的に光検出器3へと導くことができる。また、図2に示すように、主隔壁6Aの一方の側面にのみ反射層8を形成することも好ましい。セル内の蛍光体の発光光はセル外へ散乱せず、高精度の撮影が可能となる。一方で、反射層が形成されていない側では、セル内の蛍光体の発光光が隔壁を透過するものの、反対側の側面に形成された反射層により隣接したセルへは散乱せず、やはり高精度の撮影が可能となる。そして、主隔壁6Aを透過した発光光を光検出器3へと導くことができるため輝度が向上し、特に光検出器3から離れて位置する蛍光体の発光光を高効率に活用することができる。このときの隔壁の透過率は、光を透過させるためより高いほうが好ましく、厚さ30μmにおける550nmの光の透過率が10〜100%の範囲にある隔壁が最も好ましい。
主隔壁の一方の面にのみ反射層を形成する場合には、シンチレータパネル全体の均一性を確保するため、図2に示すように主隔壁の一方の側面にのみ規則的に反射層が形成されていることが好ましい。一方で、生産性を高めるためには、図4に示すように、セルを構成する2本の隔壁の全ての内側面に反射層が形成されたセルAと、全ての内側面に反射層が形成されていないセルBと、に区別がされるように反射層が形成されることが好ましい。この場合、図4に示すように、セルA同士又はセルB同士が隣接しないように配列されることがより好ましい。なお、輝度の面内均一性を確保するため、セルAのピッチがセルBのピッチよりも広く、セルAの容量がセルBの容量よりも大きいことがさらに好ましい。
シンチレータパネル側から放射線を入射させる場合、シンチレータパネル側基板4の材料としては、放射線の透過性が高い材料が好ましく、各種のガラス、高分子材料、金属等を用いることができる。例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラス等のガラスからなる板ガラス;サファイア、チッ化珪素、炭化珪素等のセラミックからなるセラミック基板;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素等の半導体からなる半導体基板;セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の高分子フィルム(プラスチックフィルム);アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シート;金属酸化物の被覆層を有する金属シートやアモルファスカーボン基板等を用いることができる。中でも、フィルム、板ガラスは、平坦性及び耐熱性の点で好ましい。シンチレータパネルの持ち運びの利便性を追及すべく、軽量化が進められていることから、板ガラスは薄板ガラスであることが好ましい。
一方で、光検出器側から放射線を入射させる場合、シンチレータパネル側基板4の材料としては、放射線の透過性を有する材料からなる基板を用いても構わないが、放射線検出装置の外部への放射線漏れを遮蔽するため、放射線遮蔽材料からなる基板すなわち放射線遮蔽基板を用いることが好ましい。放射線遮蔽基板としては、例えば、鉄板若しくは鉛板等の金属板又は鉄、鉛、金、銀、銅、白金、タングステン、ビスマス、タンタル若しくはモリブデン等の重金属を含有したガラス板若しくはフィルムが挙げられる。なお、放射線遮蔽層5が、放射線が入射しない側の基板と隔壁6との間に形成された場合には、シンチレータパネル側基板4が放射線遮蔽基板であることの必要性は薄れる。
放射線遮蔽層5の材料としては、例えば、鉄、鉛、金、銀、銅、白金、タングステン、ビスマス、タンタル若しくはモリブデン等の重金属を含有したガラス又はセラミック等の放射線を吸収可能な材料が挙げられる。
放射線遮蔽層5は、例えば、有機成分と無機粉末とを溶媒に分散したペーストを基板に塗布及び乾燥して塗布膜を形成し、これを好ましくは500〜700℃、より好ましくは500〜650℃の温度で焼成することで形成できる。
また、放射線遮蔽層と隔壁とを同時に焼成すれば、工程数が削減されることから好ましい。また、隔壁用のペーストを塗布した際の溶解や剥がれを防止するため、放射線遮蔽層用ペーストの有機成分である重合性モノマー、重合性オリゴマー又は重合性ポリマーと、熱重合開始剤と、を含有する熱硬化性有機成分を用い、塗布膜を形成した後に熱硬化しておくことも好ましい。
主隔壁及び補助隔壁は、耐久性、耐熱性及び高精細加工の点から、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする材料により構成されていることが好ましい。アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする材料は、適切な屈折率と軟化温度を有し、細幅の隔壁を大面積に高精度に形成するのに適している。なお、低融点ガラスとは、軟化温度が700℃以下のガラスのことをいう。また、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを主成分とする、とは、隔壁を構成する材料の50〜100質量%が、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスであることをいう。
シンチレータパネルの製造方法は、大面積を高精度で加工し、かつ隔壁の幅を細くするため、基板上に、低融点ガラスと感光性有機成分とを含有する感光性ペーストを塗布し、感光性ペースト塗布膜を形成する工程、得られた感光性ペースト塗布膜を所定の開口部を有するフォトマスクを介して露光する露光工程、露光後の感光性ペースト塗布膜の現像液に可溶な部分を溶解除去する現像工程、現像後の感光性ペースト塗布膜パターンを500〜700℃の焼成温度に加熱して有機成分を除去すると共に低融点ガラスを軟化及び焼結させ、隔壁を形成する焼成工程、上記焼成温度未満の温度で、真空成膜法により金属製の反射層を形成する工程、蛍光体を充填する工程、を供えることが好ましい。
露光工程においては、露光により感光性ペースト塗布膜の必要な部分を光硬化させ、又は、感光性ペースト塗布膜の不要な部分を光分解させて、感光性ペースト塗布膜の現像液に対する溶解コントラストをつける。現像工程においては、露光後の感光性ペースト塗布膜の不要部分が現像液で除去され、必要な部分のみが残存した感光性ペースト塗布膜パターンが得られる。
焼成工程においては、得られた感光性ペースト塗布膜パターンを、500〜700℃、好ましくは500〜650℃の温度で焼成することにより、有機成分が分解留去されると共に、低融点ガラスが軟化及び焼結されて、低融点ガラスを含む隔壁が形成される。有機成分を完全に除去するために、焼成温度は500℃以上が好ましい。また、焼成温度が700℃を超えると、基板として一般的なガラス基板を用いた場合、基板の変形が大きくなるため、焼成温度は700℃以下が好ましい。
本方法により、ガラスペーストを多層スクリーン印刷によって積層印刷した後に焼成する加工方法よりも、高精度の加工が可能である。
感光性ペーストは、感光性有機成分を含有する有機成分と、アルカリ金属酸化物を2〜20質量%含有する低融点ガラスを含む無機粉末と、から構成されることが好ましい。有機成分は、焼成前の感光性ペースト塗布膜パターンを形成するために一定量が必要であるが、有機成分が多すぎると、焼成工程で除去する物質の量が多くなり、焼成収縮率が大きくなるため、焼成工程でのパターン欠損を生じやすい。一方、有機成分が過少になると、ペースト中での無機微粒子の混合及び分散性が低下するため、焼成時に欠陥が生じやすくなるばかりでなく、ペーストの粘度の上昇のためペーストの塗布性が低下し、さらにペーストの安定性にも悪影響があり好ましくないことがある。このため、感光性ペースト中の無機粉末の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。また、無機粉末の全体に占める低融点ガラスの割合は、50〜100質量%であることが好ましい。低融点ガラスが無機粉末の50質量%未満であると、焼成工程において焼結が良好に進まず、得られる隔壁の強度が低下するので好ましくない。
焼成工程において、有機成分をほぼ完全に除き、かつ、得られる隔壁が一定の強度を有するようにするためには、用いる低融点ガラスとして、軟化温度が480℃以上の低融点ガラスからなるガラス粉末を用いることが好ましい。軟化温度が480℃未満では、焼成時に有機成分が十分に除かれる前に、低融点ガラスが軟化してしまい、有機成分の残存物がガラス中に取り込まれてしまう。この場合は、後々に有機成分が徐々に放出されて、製品品質を低下させる懸念がある。また、ガラス中に取り込まれた有機成分の残存物が、ガラスの着色の要因となる。軟化温度を480℃以上の低融点ガラス粉末を用い、500℃以上で焼成することにより、有機成分を完全に除去することができる。前述のように、焼成工程における焼成温度は、500〜700℃であることが必要であり、500〜650℃が好ましいため、低融点ガラスの軟化温度は480〜680℃が好ましく、480〜620℃がより好ましい。
軟化温度は、示差熱分析装置(DTA、株式会社リガク製「差動型示差熱天秤TG8120」)を用いて、サンプルを測定して得られるDTA曲線から、吸熱ピークにおける吸熱終了温度を接線法により外挿して求められる。具体的には、示差熱分析装置を用いて、アルミナ粉末を標準試料として、室温から20℃/分で昇温して、測定サンプルとなる無機粉末を測定し、DTA曲線を得る。得られたDTA曲線より、吸熱ピークにおける吸熱終了温度を接線法により外挿して求めた軟化点Tsを軟化温度と定義する。
低融点ガラスを得るためには、ガラスを低融点化するために有効な材料である、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛及びアルカリ金属の酸化物からなる群から選ばれる金属酸化物を用いることができる。中でも、アルカリ金属酸化物を用いて、ガラスの軟化温度を調整することが好ましい。なお、一般にはアルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムをいうが、本発明において用いられるアルカリ金属酸化物とは、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムからなる群から選ばれる金属酸化物をいう。
本発明において、低融点ガラス中のアルカリ金属酸化物の含有量X(M2O)は、2〜20質量%の範囲内とすることが好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量が2質量%未満では、軟化温度が高くなることによって、焼成工程を高温で行うことが必要となる。そのため、基板としてガラス基板を用いた場合に、焼成工程において基板が変形することにより、得られるシンチレータパネルにゆがみが生じたり、隔壁に欠陥が生じたりしやすいので適さない。また、アルカリ金属酸化物の含有量が20質量%を超える場合は、焼成工程においてガラスの粘度が低下しすぎる。そのため、得られる隔壁の形状にゆがみが生じやすい。また、得られる隔壁の空隙率が小さくなりすぎることにより、得られるシンチレータパネルの発光輝度が低くなる。
さらに、アルカリ金属酸化物に加えて、高温でのガラスの粘度の調整のために、酸化亜鉛を3〜10質量%添加することが好ましい。酸化亜鉛の含有量が3質量%未満では、高温でのガラスの粘度が高くなり、10質量%を超える量を添加すると、ガラスのコストが高くなる傾向がある。
さらには、低融点ガラスに、上記のアルカリ金属酸化物及び酸化亜鉛に加えて、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム又はアルカリ土類金属の酸化物等を含有させることにより、低融点ガラスの安定性、結晶性、透明性、屈折率又は熱膨張特性等を制御することができる。低融点ガラスの組成としては、以下に示す組成範囲とすることにより、本発明に適した粘度特性を有する低融点ガラスを作製できるので好ましい。
アルカリ金属酸化物:2〜20質量%
酸化亜鉛:3〜10質量%
酸化ケイ素:20〜40質量%
酸化ホウ素:25〜40質量%
酸化アルミニウム:10〜30質量%
アルカリ土類金属酸化物:5〜15質量%
なお、アルカリ土類金属とは、マグネシウム、カルシウム、バリウム及びストロンチウムからなる群から選ばれる1種類以上の金属をいう。
低融点ガラスを含む無機粒子の粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製「MT3300」)を用いて評価することができる。測定方法としては、水を満たした試料室に無機粉末を投入し、300秒間、超音波処理を行った後に測定を行う。
低融点ガラスの粒子径は50%体積平均粒子径(D50)が1.0〜4.0μmであることが好ましい。D50が1.0μm未満では、粒子の凝集が強くなり、均一な分散性を得られにくくなり、ペーストの流動性が不安定になる。このような場合は、ペーストを塗布した際の厚み均一性が低下する。また、D50が4.0μmを超えると、得られる焼結体の表面凹凸が大きくなり、後工程でパターンが破砕する原因となりやすい。
本発明で用いる感光性ペーストは、上述の低融点ガラス以外に、700℃でも軟化しない高融点ガラスや酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン又は酸化ジルコニウム等のセラミックス粒子をフィラーとして含んでもよい。フィラーは、低融点ガラスと共に用いることにより、ペースト組成物の焼成収縮率の制御や形成される隔壁の形状を保持する効果がある。ただし、無機粉末全体に占めるフィラーの割合が50質量%を超えると、低融点ガラスの焼結を阻害して、隔壁の強度が低下等の問題が生じるので好ましくない。また、フィラーは、低融点ガラスと同様の理由で、平均粒子径0.5〜4.0μmであることが好ましい。
本発明で用いる感光性ペースト組成物は、低融点ガラスの屈折率n1と感光性有機成分の屈折率n2が、−0.1<n1−n2<0.1を満たすことが好ましく、−0.01≦n1−n2≦0.01を満たすことがより好ましく、−0.005≦n1−n2≦0.005を満たすことがさらに好ましい。この条件を満たすことにより、露光工程において、低融点ガラスと感光性有機成分の界面における光散乱が抑制され、高精度のパターン形成を行うことができる。低融点ガラスを構成する酸化物の配合比率を調整することで好ましい熱特性、及び、好ましい屈折率を兼ね備えた低融点ガラスを得ることができる。
低融点ガラスの屈折率はベッケ線検出法により測定することができる。25℃での波長436nm(g線)における屈折率を本発明における低融点ガラスの屈折率とした。また、感光有機成分の屈折率は、感光性有機成分からなる塗膜をエリプソメトリーにより測定することで求めることができる。25℃での波長436nm(g線)における屈折率を感光性有機成分の屈折率とした。
本発明で用いる感光性ペーストは、有機成分として感光性有機成分を含むことによって、上記のような感光性ペースト法でパターン加工することができる。感光性有機成分として、感光性モノマー、感光性オリゴマー、感光性ポリマー又は光重合開始剤等を用いることにより、反応性を制御することができる。ここで、感光性モノマー、感光性オリゴマー及び感光性ポリマーにおける感光性とは、ペーストが活性光線の照射を受けた場合に、感光性モノマー、感光性オリゴマー又は感光性ポリマーが、光架橋、光重合等の反応を起こして化学構造が変化することを意味する。
感光性モノマーとは、活性な炭素−炭素2重結合を有する化合物であり、官能基としてビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基又はアクリルアミド基を有する単官能化合物及び多官能化合物が挙げられる。特に、多官能アクリレート化合物及び多官能メタクリレート化合物からなる群から選ばれる化合物を有機成分中に10〜80質量%含有させたものが、光反応により硬化時の架橋密度を高くし、パターン形成性を向上させる点で好ましい。多官能アクリレート化合物及び多官能メタクリレート化合物としては、多様な種類の化合物が開発されているので、反応性、屈折率等を考慮して、それらの中から適宜選択することが可能である。
感光性オリゴマー又は感光性ポリマーとしては、活性な炭素−炭素不飽和二重結合を有するオリゴマー又はポリマーが好ましく用いられる。感光性オリゴマー又は感光性ポリマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸又はこれらの酸無水物等のカルボキシル基含有モノマー及びメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル又は2−ヒドロキシアクリレート等のモノマーを共重合することにより得られる。活性な炭素−炭素不飽和二重結合をオリゴマー又はポリマーに導入する方法としては、オリゴマー又はポリマー中のメルカプト基、アミノ基、水酸基若しくはカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド又はアリルクロライド、マレイン酸等のカルボン酸を反応させて作る方法等を用いることができる。
感光性モノマーや感光性オリゴマーとして、ウレタン結合を有するモノマーあるいはオリゴマーを用いることにより、焼成工程においてパターン欠損しにくい感光性ペーストを得ることができる。本発明においては、ガラスとして低融点ガラスを用いることにより、焼成工程後期のガラスの焼結が進行する過程で、急激な収縮を生じにくいことがパターン欠損を抑制する。それに加えて、有機成分にウレタン構造を有する化合物を用いた場合には、焼成工程初期の有機成分が分解及び留去する過程における応力緩和が生じ、パターン欠損を生じにくい。これらの両方の効果により、広い温度領域でパターン欠損を抑制することができる。
光重合開始剤は、活性光源の照射によってラジカルを発生する化合物である。具体的な例として、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジル、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンゾスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンザルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、1−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(O−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニルプロパントリオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシプロパントリオン−2−(O−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N−フェニルチオアクリドン、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホルフィン、過酸化ベンゾイン及びエオシン、メチレンブルー等の光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組合せ等が挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用してもよい。
感光性ペーストは、バインダーとして、カルボキシル基を有する共重合体を含有することができる。カルボキシル基を有する共重合体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸又はこれらの酸無水物等のカルボキシル基含有モノマー及びメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル又は2−ヒドロキシアクリレート等のその他のモノマーを選択し、アゾビスイソブチロニトリルのような開始剤を用いて共重合することにより得られる。カルボキシル基を有する共重合体としては、焼成時の熱分解温度が低いことから、アクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステル及びアクリル酸又はメタアクリル酸を共重合成分とする共重合体が好ましく用いられる。
感光性ペーストは、カルボキシル基を有する共重合体を含有することにより、アルカリ水溶液への溶解性に優れたペーストとなる。カルボキシル基を有する共重合体の酸価は、50〜150mgKOH/gが好ましい。酸価が150mgKOH/g以下とすることで、現像許容幅を広くとることができる。また、酸価が50mgKOH/g以上とすることで、未露光部の現像液に対する溶解性が低下することがない。従って現像液濃度を濃くする必要がなく、露光部の剥がれを防ぎ、高精細なパターンを得ることができる。さらに、カルボキシル基を有する共重合体が側鎖にエチレン性不飽和基を有することも好ましい。エチレン性不飽和基としては、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。
感光性ペーストは、低融点ガラスと感光性モノマー、感光性オリゴマー、感光性ポリマー又は光重合開始剤等からなる感光性有機成分に必要に応じ、有機溶媒及びバインダーを加えて、各種成分を所定の組成となるように調合した後、3本ローラーや混練機で均質に混合分散し作製する。
感光性ペーストの粘度は、無機粉末、増粘剤、有機溶媒、重合禁止剤、可塑剤及び沈降防止剤等の添加割合によって適宜調整することができるが、その範囲は2〜200Pa・sが好ましい。例えば、感光性ペーストの基板への塗布をスピンコート法で行う場合は、2〜5Pa・sの粘度が好ましい。感光性ペーストの基板への塗布をスクリーン印刷法で行い、1回の塗布で膜厚10〜20μmを得るには、50〜200Pa・sの粘度が好ましい。ブレードコーター法やダイコーター法等を用いる場合は、10〜50Pa・sの粘度が好ましい。
かくして得られた感光性ペーストを基板上に塗布し、フォトリソグラフィ法により所望のパターンを形成し、さらに焼成することによって隔壁を形成することができる。フォトリソグラフィ法により、上記感光性ペーストを用いて主隔壁及び補助隔壁の製造を行う一例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
基板上に、感光性ペーストを焼成後高さが所望の補助隔壁の高さになるように、全面に、又は、部分的に塗布して、1層目の感光性ペースト塗布膜を形成する。塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター又はブレードコーター等の方法を用いることができる。塗布厚みは、塗布回数、スクリーンのメッシュ及びペーストの粘度を選ぶことによって調整できる。
続いて、露光工程を行う。通常のフォトリソグラフィで行われるように、フォトマスクを介して露光する方法が一般的である。この場合、補助隔壁のパターンに対応する開口部を有するフォトマスクを使用して、マスク露光をする。なお、フォトマスクを用いずに、レーザー光等で直接描画する方法を用いてもよい。露光装置としては、プロキシミティ露光機等を用いることができる。また、大面積の露光を行う場合は、基板上に感光性ペーストを塗布した後に、搬送しながら露光を行うことによって、小さな露光面積の露光機で、大きな面積を露光することができる。この際、使用される活性光線は、例えば、近赤外線、可視光線又は紫外線等が挙げられる。これらの中で紫外線が好ましく、その光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ハロゲンランプ又は殺菌灯等が使用できるが、超高圧水銀灯が好ましい。露光条件は塗布厚みにより異なるが、通常、1〜100mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いて0.01〜30分間露光を行う。
露光された1層目の感光性ペースト塗布膜上に、さらに、感光性ペーストを焼成後高さが所望の主隔壁の高さになるように塗布してから乾燥して、2層目の感光性ペースト塗布膜を形成する。なお、1層目及び2層目の感光性ペーストは、同一のものであっても構わない。
1層目の場合と同様に、露光工程を行う。フォトマスクを介して露光する場合には、主隔壁のパターンに対応する、補助隔壁に対して垂直方向に開口部を有するフォトマスクを使用して、マスク露光をする。
2層目の露光後、感光性ペースト塗布膜の露光部分と未露光部分の現像液に対する溶解度差を利用して現像を行い、所望の主隔壁及び補助隔壁からなる格子形状の感光性ペースト塗布膜パターンを得る。現像は、浸漬法、スプレー法又はブラシ法で行う。現像液には、ペースト中の有機成分が溶解可能である溶媒を用いることができる。現像液は、水を主成分とすることが好ましい。ペースト中にカルボキシル基等の酸性基をもつ化合物が存在する場合、アルカリ水溶液で現像できる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は水酸化カルシウム等の無機アルカリ水溶液も使用できるが、有機アルカリ水溶液を用いた方が焼成時にアルカリ成分を除去しやすいので好ましい。有機アルカリとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、モノエタノールアミン又はジエタノールアミン等が挙げられる。アルカリ水溶液の濃度は、0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。アルカリ濃度が低すぎれば可溶部が除去されず、アルカリ濃度が高すぎれば、パターン部を剥離させ、また非可溶部を腐食させるおそれがある。また、現像時の現像温度は、20〜50℃で行うことが工程管理上好ましい。
次に焼成炉にて焼成工程を行う。焼成工程の雰囲気や温度は、感光性ペーストや基板の種類によって異なるが、空気中、窒素、水素等の雰囲気中で焼成する。焼成炉としては、バッチ式の焼成炉やベルト式の連続型焼成炉を用いることができる。焼成は通常500〜700℃の温度で10〜60分間保持して焼成を行うことが好ましい。焼成温度は500〜650℃がより好ましい。以上の工程により、格子形状の感光性ペースト塗布膜パターンから有機成分が除去されると共に、該塗布膜パターンに含まれる低融点ガラスが軟化及び焼結され、基板上に実質的に無機物からなる格子状の隔壁が形成された隔壁部材が得られる。
反射層の材質としては、特に限定されないが、蛍光体が発光した300〜800nmの電磁波である可視光を反射する材料を使用することが好ましい。中でも劣化の少ない銀、金、アルミニウム、ニッケル又はチタン等の金属又は金属酸化物が好ましい。
反射層の形成方法は特に限定はされず、反射材料をペースト化して表面に塗布し、その後溶剤を焼成除去する方法や、スプレーによる噴射方法やメッキ法等、各種成膜方法を活用することが出来る。中でも、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD又はレーザーアブレーション等の真空成膜法が、より低温で均一な反射層を形成できるため好ましく、スパッタリングが隔壁側面へ均一な膜を形成できるためより好ましい。なお、反射層の形成時に、隔壁の焼成温度よりも高い温度がかかると、隔壁が変形するため、反射層の形成時の温度は、隔壁形成時の温度よりも低いことが好ましい。
反射層は、発光光を効率的に活用するため、波長550nmの光の反射率が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
隔壁の一方の側面にのみ、反射層を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法において金属のスパッタリングターゲットに対し基板を45度以上傾ける方法、又は、反射層を形成しない側面を樹脂等でマスキングしてから反射層の形成を行い、その後マスキング材料を除去する方法が挙げられる。
反射層を特定のセル内に形成する方法としては、例えば、反射層粉末、有機バインダー及び有機溶媒を主成分とする反射層用ペーストを作製し、対象となるセル内に塗着させて乾燥し、必要に応じて焼成する方法が挙げられる。ここで反射層用ペーストをセル内に塗着する方法としては、例えば、スクリーン印刷版を用いてパターン印刷するスクリーン印刷法、吐出ノズルの先端から反射層用ペーストをパターン塗布するディスペンサー法若しくはインクジェット法又は感光性有機成分を含む反射層用ペーストを用いる感光性ペースト法が挙げられる。
光の反射率を向上させ、かつ透過を防止するために、主隔壁と反射層との間に、遮光膜が形成されていることが好ましい。遮光膜の材料としては、特に限定はされないが、クロム、ニクロム又はタンタル等の金属膜や、カーボン等の黒色顔料を含有した樹脂等を使用することができる。形成方法も特に限定されず、ペースト化した材料を塗布する方法や、各種真空成膜法を活用することができる。
H1は、100〜3000μmが好ましく、150〜500μmがより好ましい。H1が3000μmを超えると、加工時のパターン形成が困難になる。一方、H1が低くなると、充填可能な蛍光体の量が少なくなるため、得られるシンチレータパネルの発光輝度が低下して、鮮明な撮影が困難になる。
P1は、30〜1000μmが好ましい。P1が30μm未満であると、加工時のパターン形成が困難となる。また、P1が大きすぎると、得られるシンチレータパネルを用いて高精度の画像撮影を行うことが困難となる。なお、本発明においては、H1が、P1よりも大きいことが好ましい。
主隔壁及び補助隔壁は、隔壁と基板とが互いに接した面の幅(底部幅)L2が、隔壁の頂部(光検出器側)の幅L1よりも大きいことが好ましい。光検出器側の隔壁幅の方が細い擬台形構造を採ることにより、シンチレータ層の発光光の反射効率及び取り出し効率を向上することができる。また、光検出器側から放射線が入射場合には、光検出器側近傍の蛍光体の充填量を増やすことで、放射線の利用効率を高めることができる。さらに、隔壁形成後に反射層を隔壁表面へ形成する場合、L1がL2よりも大きいと、隔壁の頂部近傍の隔壁側面が、隔壁の頂部の陰になり、反射層が形成されない可能性がある。
L2は10〜150μmが好ましく、L1は5〜80μmが好ましい。L2が10μm未満であると、焼成時に隔壁の欠陥が生じやすくなる。一方、L2が150μmより大きくなると、隔壁により区画された空間に充填できる蛍光体量が減ってしまう。また、L1が5μm未満であると、隔壁の強度が低下する。一方、L1が80μmを超えると、シンチレータ層の発光光を取り出せる領域が狭くなってしまう。また、放射線検出装置の鮮鋭度を高めるために、光電変換層の間に隔壁が位置することが好ましく、L1を光光電変換層同士の間隔よりも短くすることがより好ましい。
L2に対するH1のアスペクト比(H1/L2)は、1.0〜25.0であることが好ましい。このアスペクト比(H1/L2)が大きい隔壁ほど、隔壁により区画された1画素あたりの空間が広く、より多くの蛍光体を充填することができる。
P1に対するH1のアスペクト比(H1/P1)は、1.0〜3.5であることが好ましい。このアスペクト比(H1/P1)が高い隔壁ほど、高精細に区画された1画素となり、かつ、1画素あたりの空間により多くの蛍光体を充填することができる。
H1及びP1は、基板に対して垂直な隔壁断面を露出させ、走査型電子顕微鏡(日立製作所製「S4600」)で断面を観察し、測定することができる。隔壁と基板の接触部における隔壁の幅をL2として測定することができる。隔壁と基板の間に放射線遮蔽層がある場合は、隔壁と遮蔽層との接触部における隔壁の幅をL2として測定した。また、隔壁の最頂部の幅をL1として測定することができる。なお隔壁の頂部が丸みを帯びていたり、又は、隔壁の底部が裾引きしていたりして、隔壁の頂部又は隔壁の底部の正確な把握が困難な場合は、L1の代わりに90%高さ幅(L90)、L2の代わりに10%高さ幅(L10)を測定し代用してもよい。なお、L90はH1を100としたときの、隔壁底面から90の高さの部分の線幅、L10は同様に、H1を100としたときの、隔壁底面から10の部分の線幅をいう。
隔壁により区画されたセル内に、蛍光体を充填することで、シンチレータパネルを完成することができる。ここで、セルとは、格子状又はストライプ状の隔壁により区画された空間のことをいう。また、該セルに充填された蛍光体を、シンチレータ層という。
蛍光体としては、種々の公知の放射線蛍光体材料を使用することができる。特に、放射線から可視光に対する変換率が高い、CsI、Gd2O2S、Lu2O2S、Y2O2S、LaCl3、LaBr3、LaI3、CeBr3、CeI3、LuSiO5又はBa(Br、F、Z)等が使用されるが、限定されるものではない。また、発光効率を高めるために、各種の賦活剤を添加してもよい。例えばCsIの場合、ヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものや、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)又はナトリウム(Na)等の賦活物質を含有することが好ましい。また、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)又はフッ化タリウム(TlF、TlF3)等のタリウム化合物も、賦活剤として使用することができる。
シンチレータ層の形成には、例えば、真空蒸着により、結晶性CsI(この場合、臭化タリウム等のタリウム化合物を共蒸着することも可)を蒸着する方法、水に分散させた蛍光体スラリーを基板に塗布する方法を用いることができるが、蛍光体粉末と、エチルセルロースやアクリル樹脂等の有機樹脂バインダーと、テルピネオールやγ−ブチロラクトン等の有機溶媒と混合して作製した蛍光体ペーストをスクリーン印刷又はディスペンサーで塗布する方法が好ましい。
隔壁により区画されたセル内に充填する蛍光体量は、蛍光体が占める体積分率が50〜100%であることが好ましい。蛍光体が占める体積分率が50%より小さいと、入射する放射線を効率的に可視光に変換することができない。入射する放射線の変換効率を上げるためには、隔壁ピッチに対する隔壁高さのアスペクト比を上げることで可視光に変換する効率を向上させることは可能であるが、セルの空間に対して高密度に蛍光体を充填することで、より効率を上げることができるため好ましい。
シンチレータパネルの隔壁及びシンチレータ層と、光検出器との間に形成されることがある接着層は、例えば、熱硬化型又は紫外線硬化型の樹脂からなる透明接着剤により形成できる。このような透明接着剤としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂又はエチルセルロース樹脂からなる透明接着剤がより好ましいが、低軟化点ガラスにより接着層を形成しても構わない。また、界面における光散乱を最小限に抑制し、蛍光体の発光光を効率的に光電変換層へと導いて輝度を向上させるため、蛍光体と接着層との平均屈折率の差は、0.5未満であることが好ましい。ここで平均屈折率とは、蛍光体が単一の材料からなる場合には、その材料の屈折率をいう。また、蛍光体が複数種の材料からなる場合には、各々の屈折率の加重平均値をいう。
光電変換層は、例えば、ガラス基板、セラミック基板又は樹脂基板等の絶縁性基板上に、光電増倍管、フォトダイオード、PINフォトダイオード等の光検出器を画素として作製し、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)からなるスイッチング素子により、構成することができる。
蛍光体の発光光を効率的に光電変換層へと導くことができることから、シンチレータ層の有機樹脂バインダーの平均屈折率をλ1、光電変換層の平均屈折率をλ2、接着層の平均屈折率をλ3とした場合に、
λ1≦λ3≦λ2
の関係を満たすことが好ましい。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
(隔壁用感光性ペーストの原料)
実施例の感光性ペーストに用いた原料は次のとおりである。
感光性モノマーM−1 : トリメチロールプロパントリアクリレート
感光性モノマーM−2 : テトラプロピレングリコールジメタクリレート
感光性ポリマー : メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30の質量比からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100)
光重合開始剤 : 2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(BASF社製「IC369」)。
重合禁止剤 : 1,6−ヘキサンジオール−ビス[(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
紫外線吸収剤溶液 : スダンIV(東京応化工業株式会社製)のγ−ブチロラクトン0.3質量%溶液
有機樹脂バインダー : エチルセルロース(ハーキュレス社製)
粘度調整剤 : フローノンEC121(共栄社化学社製)
溶媒 : γ−ブチロラクトン
低融点ガラス粉末:
SiO2 27質量%、B2O3 31質量%、ZnO 6質量%、Li2O 7質量%、MgO 2質量%、CaO 2質量%、BaO 2質量%、Al2O3 23質量%、屈折率(ng):1.56、ガラス軟化温度588℃、熱膨張係数70×10−7、平均粒子径2.3μm
(隔壁用感光性ペーストの作製)
4質量部の感光性モノマーM−1、6質量部の感光性モノマーM−2、24質量部の感光性ポリマー、6質量部の光重合開始剤、0.2質量部の重合禁止剤及び12.8質量部の紫外線吸収剤溶液を、38質量部の溶媒に、温度80℃で加熱溶解した。得られた溶液を冷却した後、9質量部の粘度調整剤を添加して、有機溶液1を作製した。有機溶液をガラス基板に塗布して乾燥することにより得られた有機塗膜の屈折率(ng)は、1.555であった。
次に、60質量部の有機溶液1に、30質量部の低融点ガラス粉末及び10質量部の高融点ガラス粉末を添加した後、3本ローラー混練機にて混練し、隔壁用感光性ペーストを作製した。
(下地用ペーストの作製)
40質量部のテルピネオール溶液(10質量%のエチルセルロースを含有)、15質量部のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1質量部のアゾビスイソブチロニトリル、40質量部の低融点ガラス粉末(上記隔壁用感光性ペーストと同じ材料)及び4質量部の酸化チタン粉末を混合及び混練して、熱硬化型の下地用ペーストを作製した。
(反射層用ペーストの作製)
20重量部のエチルセルロース粉末と、80重量部のベンジルアルコール樹脂とを混合し、80℃で4時間加熱撹拌を行い、20重量%のバインダー樹脂溶液を作成した。
次に、20重量部のアルミニウム粉末(平均粒子径3.0μm)、20重量部の酸化チタン粉末(平均粒子径0.3μm)、5重量部の分散剤(共栄社化学社製)、35重量部のテルピネオールを分散し、スラリー溶液を得た。これに、20重量部の上記バインダー樹脂溶液を混合及び混練して、反射層用ペーストを作製した。
(光検出器)
500mm×500mm×厚さ0.5mmのガラス基板(AGC旭硝子社製;AN−100)上に、屈折率3.5のアモルファスシリコンからなるPIN型フォトダイオードと、TFTによって構成される画素サイズ125μm×125μmの光電変換層とを、マトリックス状に複数個形成した。次に、PIN型フォトダイオードにバイアスを印加するバイアス配線、TFTに駆動信号を印加する駆動配線、TFTによって転送された信号電荷を出力する信号配線等のALからなる、配線部を形成して、光検出器を作製した。
(実施例1)
500mm×500mm×厚さ0.5mmのガラス基板(AGC旭硝子社製;AN−100)上に、下地用ペーストを15μmバーコーターで塗布し、150℃で30分間乾燥及び加熱硬化させて、厚さ12μmの下地ペースト膜を形成した。次に、隔壁用感光性ペーストを乾燥後の厚さが500μmになるように、ダイコーターで塗布し、120℃で30分乾燥して、1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
次に、所望の補助隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ250μm、線幅8μmのストライプ開口部を有するクロムマスク)を介して、1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を超高圧水銀灯で700mJ/cm2で露光した。
露光した1層目の感光性ペースト塗布膜上に、1層目と同じ隔壁用感光性ペーストを乾燥後の厚さが100μmになるように、ダイコーターで塗布した後、120℃で30分乾燥して、2層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
次に、所望の主隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ125μm、線幅8μmのストライプ開口部を有するクロムマスク)を、1層目に形成した補助隔壁パターンに対して垂直に配置して、1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜と2層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜とを同時に超高圧水銀灯で800mJ/cm2で露光した。
露光後の隔壁用感光性ペースト塗布膜を、0.5%のエタノールアミン水溶液中で現像し、未露光部分を除去して、格子状の隔壁用感光性ペースト塗布膜パターンを形成した。さらに585℃で15分間、空気中で隔壁用感光性ペースト塗布膜パターンを焼成し、その表面にP1が125μm、L1が10μm、L2が20μm、H1が400μmの主隔壁と、P2が250μmで、L1が9μm、L2が20μm、H2が320μmの補助隔壁とからなる、480mm×480mmの大きさの格子状の隔壁が形成された基板を作製した。
次に、バッチ式スパッタリング装置(アルバック社製;SV−9045)を用いて、主隔壁及び補助隔壁の全面にアルミ反射層を形成した。なお、主隔壁頂部付近におけるアルミ反射層の厚さは、300nmになるようにした。
次に、粒径6μm、屈折率2.2の酸硫化ガドリニウム粉末Gd2O2S(Gd2O2S:Tb)を、屈折率1.5のエチルセルロースと混合した後、主隔壁により区画された空間に充填し、蛍光体充填率98%のシンチレータパネルを作製した。
次に、シンチレータパネルの上に、厚さ10μmのホットメルト樹脂からなる接着層を形成した後、シンチレータパネルが湾曲しないようにしながら、光検出器を、シンチレータパネルの主隔壁が光検出器の光電変換層の間に位置するようにして、シンチレータパネル上の接着層に重ねた。このように、シンチレータパネルと光検出器とを接着層を介して重ねた状態で、120℃の真空プレス装置で加熱真空引きし、接着層内の気泡を除去してから室温まで冷却し、接着層が硬化させて放射線検出装置を作製した。形成された接着層の平均屈折率は、1.6であった。
次に、電圧80kVpのX線を、光検出器の裏面(光電変換層が形成されていない面)から照射し、光電変換層を通過しシンチレータ層から放射された光の発光量を光電変換層で検出及び測定をし、その測定値を輝度とした。また、光電変換層で検出して得られたX線画像データを、コンピュータで解析し、得られたX線画像の鮮鋭度を算出した。これら値は、隔壁のない蛍光体ベタ膜(比較例3で作製するシンチレータパネルに相当)を100とした時の、相対値で表した。その結果、輝度は96、鮮鋭度は153であり、何れも良好な値であった。
(実施例2)
実施例1と同じ方法で、ガラス基板上に下地ペースト膜及び1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
次に、所望の補助隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ360μm、線幅13μmのストライプ開口部を有するクロムマスク)を介して、実施例1と同じ条件で露光した。露光した1層目の感光性ペースト塗布膜上に、実施例1と同じ方法で、2層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
次に、所望の主隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ110μmと130μmとが交互に繰り返される、線幅8μmのストライプ開口部を有するフォトマスク)を、実施例1と同じように、補助隔壁パターンに対して垂直に配置して、露光および現像して、格子状の隔壁用感光性ペースト塗布膜パターンを形成した。さらに595℃で15分間、空気中で感光性ペースト塗布膜パターンを焼成し、その表面にP1が110μmと130μm、L1が10μm、L2が20μm、H1が380μmの主隔壁と、P2が360μmで、L1が15μm、L2が24、H1が300μmの補助隔壁とからなる、480mm×480mmの大きさの格子状の隔壁が形成された基板を作製した。
次に、反射層用ペーストをディスペンス塗布した後、160℃で20分間乾燥させた。その後、粘着テープ(住友スリーエム株式会社製)を用いて、顕微鏡観察をしながら、隔壁頂部に付着している反射層用ペーストの除去を行った。
次に、実施例1と同じ方法で蛍光体を充填してシンチレータパネルを作製し、光検出器と重ね合わせて、放射線検出装置を作製した。
この放射線検出装置を実施例1と同じ方法で評価したところ、輝度は98、鮮鋭度は133であり、何れも良好な値であった。
(比較例1)
実施例1と同じ方法で、ガラス基板上に下地ペースト膜及び1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を作製した。
次に、所望の補助隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ100μm、線幅10μmのストライプ開口部を有するクロムマスク)を介して、実施例1と同じ条件で露光した。露光した1層目の感光性ペースト塗布膜上に、実施例1と同じ方法で、2層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
以降、実施例1と同じ方法で露光、現像及び焼成をし、その表面にP1が125μm、L1が10μm、L2が20μm、L1が400μmの主隔壁と、P2が100μmで、L1が13μm、L2が24μm、L1が320μmの補助隔壁とからなる、480mm×480mmの大きさの格子状の隔壁が形成された基板を作製した。
次に、実施例1と同じ方法で反射層形成及び蛍光体充填をしてシンチレータパネルを作製し、光検出器と重ね合わせて、放射線検出装置を作製した。
この放射線検出装置を実施例1と同じ方法で評価したところ、輝度が56、鮮鋭度が76であり、大幅な劣化が発生した。
(比較例2)
実施例1と同じ方法で、ガラス基板上に下地ペースト膜及び1層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した後、露光はせずに、実施例1と同じ方法で2層目の隔壁用感光性ペースト塗布膜を形成した。
次に、所望の隔壁パターンに対応する開口部を形成したフォトマスク(ピッチ125μm、線幅8μmのストライプ開口部を有するフォトマスク)を介して、実施例1と同じ条件で露光した。
以降、実施例1と同じ方法で現像及び焼成をし、その表面にP1が125μm、L1が10μm、L2が20μm、L1が400μmで、480mm×480mmの大きさのストライプ状の主隔壁が形成された基板を作製した。しかしながら、主隔壁には部分的に蛇行が発生しており、隔壁が傾いている箇所が散見された。
次に、実施例1と同じ方法で、反射層形成及び蛍光体充填をしてシンチレータパネルを作製し、光検出器と重ね合わせて、放射線検出装置を作製した。
この放射線検出装置を実施例1と同じ方法で評価したところ、主隔壁のよれが発生した箇所で、輝度が67、鮮鋭度が65であり、大幅な劣化が発生した。
(比較例3)
シンチレータパネルに隔壁を形成せず、蛍光体ベタ膜を形成した以外は、実施例1と同じ方法で放射線検出装置を作製した。
以上の評価結果より、本発明のシンチレータパネルを利用した放射線検出装置は、発光輝度が高く、高精細な画像が実現可能であることが分かる。