以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図4に沿って説明する。なお、本実施形態の自動変速機は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプ等の車両に搭載されて好適な自動変速機であり、図1、図3中における左右方向が実際の車両搭載状態における左右方向(或いは左右逆方向)に対応するが、説明の便宜上、エンジン等の駆動源側である図中右方側を「前方側」、図中左方側を「後方側」というものとする。
まず、本実施形態の自動変速機1の概略構成について図1に沿って説明する。図1に示すように、例えばFFタイプの車両に用いて好適な自動変速機1は、前方側に、ロックアップクラッチ2aを有するトルクコンバータ2が配置されており、後方側に、変速機構3、カウンタシャフト部4、及びディファレンシャル部5が配置されている。
該トルクコンバータ2は、例えばエンジン(不図示)の出力軸10と同軸上である変速機構3の入力軸7Aを中心とした軸上に配置されており、該変速機構3は、該入力軸7Aと同軸上で接続された中心軸7B(図3参照)を中心とした軸上に配置されている。また、カウンタシャフト部4は、それら入力軸7A及び中心軸7Bと平行な軸上であるカウンタシャフト12上に配置されており、ディファレンシャル部5は、該カウンタシャフト12と平行な軸上に左右ドライブシャフト15,15を有する形で配置されている。
なお、図1に示すスケルトン図は、自動変速機1を平面的に展開して示しているものであって、上記入力軸7A及び中心軸7Bと、カウンタシャフト12と、左右ドライブシャフト15,15とは、側面視で三角形状の位置関係である。
上記変速機構3には、上記トルクコンバータ2を介してエンジンからの回転が伝達される入力軸7Aが備えられており、該入力軸7Aの後方側に接続配置された中心軸7Bが備えられている。即ち、本自動変速機1においては、上記入力軸7Aと中心軸7Bとによって広義としての入力軸7が構成されている。そして、該変速機構3には、上記入力軸7A上において、プラネタリギヤDPが備えられ、該中心軸7B上において、プラネタリギヤユニット(プラネタリギヤセット)PUが備えられている。
上記プラネタリギヤDPは、第1のサンギヤS1、第1のキャリヤCR1、及び第1のリングギヤR1を備えており、該第1のキャリヤCR1に、第1のサンギヤS1に噛合するピニオンP2及び第1のリングギヤR1に噛合するピニオンP1を互いに噛合する形で有している、いわゆるダブルピニオンプラネタリギヤである。
一方、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素として第2のサンギヤS2、第3のサンギヤS3、第2のキャリヤCR2、及び第2のリングギヤR2を有し、該第2のキャリヤCR2に、第3のサンギヤS3及び第2のリングギヤR2に噛合するロングピニオンP3と、第2のサンギヤS2に噛合するショートピニオンP4とを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
上記プラネタリギヤDPの第1のサンギヤS1は、ケース6に対して回転が固定されている。また、上記第1のキャリヤCR1は、上記入力軸7Aに接続されて、該入力軸7Aの回転と同回転(以下、「入力回転」という。)になっていると共に、第4のクラッチC−4に接続されている。更に、第1のリングギヤR1は、該固定された第1のサンギヤS1と該入力回転する第1のキャリヤCR1とにより、入力回転が減速された減速回転になると共に、第1のクラッチC−1及び第3のクラッチC−3に接続されている。
上記プラネタリギヤユニットPUの第3のサンギヤS3は、第1のブレーキB−1に接続されてケース6に対して固定自在となっていると共に、上記第4のクラッチC−4及び上記第3のクラッチC−3に接続されて、第4のクラッチC−4を介して上記第1のキャリヤCR1の入力回転が、第3のクラッチC−3を介して上記第1のリングギヤR1の減速回転が、それぞれ入力自在となっている。また、上記第2のサンギヤS2は、第1のクラッチC−1に接続されており、上記第1のリングギヤR1の減速回転が入力自在となっている。
更に、上記第2のキャリヤCR2は、中心軸7Bを介して入力軸7Aの回転が入力される第2のクラッチC−2に接続されて、該第2のクラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ワンウェイクラッチF−1及び第2のブレーキB−2に接続されて、該ワンウェイクラッチF−1を介してケース6に対して一方向の回転が規制されると共に、該第2のブレーキB−2を介して回転が固定自在(係止自在)となっている。そして、上記第2のリングギヤR2は、詳しくは後述するミッションケース6Bに固定されたセンタサポート部材19(図3参照)に対して回転自在に支持されたカウンタギヤ8に接続されている。
また、上記カウンタギヤ8には、上記カウンタシャフト部4のカウンタシャフト12上に固定されているカウンタドリブンギヤ11が噛合しており、該カウンタシャフト12には、外周面上に形成されている出力ギヤ12aを介してディファレンシャル部5のギヤ14が噛合している。そして、該ギヤ14は、ディファレンシャルギヤ13に固定されており、ディファレンシャルギヤ13を介して左右ドライブシャフト15,15に接続されている。
以上のように構成された自動変速機1は、図1のスケルトンに示す各第1〜第4のクラッチC−1〜C−4、第1及び第2ブレーキB−1,B−2、ワンウェイクラッチF−1が、図2の係合表に示す組み合わせで係脱されることにより、前進1速段(1st)〜前進8速段(8th)、及び後進1速段(Rev1)〜後進2速段(Rev2)が達成される。
続いて、自動変速機1(変速機構3)の後方側部分の詳細構造を図3に沿って説明する。変速機構3は、その中心部分に、上記入力軸7Aにスプライン係合された中心軸7Bを備えており、該中心軸7Bの前方側は、入力軸7Aを介してケース6に回転自在に支持されていると共に、該中心軸7Bの後方側は、ケース6に形成されたボス部6aにニードルベアリングb1を介して回転自在に支持されている。なお、入力軸7Aの後方側先端部の外周側には、ブッシュb5を介して第1のリングギヤR1を支持する支持部材89が回転自在に支持されている。
上記中心軸7Bの外周側には、該中心軸7Bを中心として、上述したプラネタリギヤユニットPUがカウンタギヤ8に対してセンタサポート部材19とは軸方向反対側に配設されている。詳示には、中心軸7Bのその直ぐ外周側には、ブッシュb2及びブッシュb3を介してスリーブ状に形成された第2のサンギヤS2が該中心軸7Bに対して相対回転自在に配置されている。また、中心軸7Bには、外周側にフランジ状に延びるフランジ部7Baが形成されており、第2のサンギヤS2は、スラストベアリングb11を介して中心軸7Bのフランジ部7Baに対して軸方向に位置決め規制されていると共に、スラストベアリングb12を介して後述の第3のサンギヤS3に対して軸方向に位置決め規制されている。なお、第2のサンギヤS2の前方側は、上述した第3のクラッチC−3や第4のクラッチC−4に連結される連結部材88にスプライン係合されている。
上記第2のサンギヤS2の外周側には、ブッシュb4を介してスリーブ状に形成された第3のサンギヤS3が該中心軸7Bに対して相対回転自在に配置されている。また、第3のサンギヤS3は、スラストベアリングb12を介して第2のサンギヤS2に対して軸方向に位置決め規制されていると共に、スラストベアリングb13を介して上記連結部材88に対して軸方向に位置決め規制されている。該連結部材88は、スラストベアリングb14を介して上記支持部材89に対して軸方向に位置決め規制されており、該支持部材89は、プラネタリギヤDP及び入力軸7Aに対して軸方向に位置決め規制されている。従って、第2のサンギヤS2、第3のサンギヤS3、連結部材88、支持部材89は、スラストベアリングb11,b12,b13,b14によって、入力軸7A及び中心軸7Bに対して軸方向に位置決め支持されていることになる。
上記第2のサンギヤS2及び第3のサンギヤS3の外周側には、第2のキャリヤCR2が配置されている。第2のキャリヤCR2は、大まかに、第1の側板51と第2の側板52とにより複数のロングピニオンP3及び複数のショートピニオンP4を回転自在に支持する枠体(構造体)を構成している。第1の側板51は、略々円板状からなり、ロングピニオンP3を回転自在に支持するピニオンシャフト53の後端部と、ショートピニオンP4を回転自在に支持するピニオンシャフト54の後端部とが形成された貫通孔に嵌合・固定されている。なお、第1の側板51の後方側には、詳しくは後述するピニオンシャフト53及びピニオンシャフト54の油路に、内周側から飛散されてくる潤滑油を捕集して導くためのオイルレシーバ55が固着されている。
一方、上記第2の側板52は、ロングピニオンP3のピニオンシャフト53の前端部に対応する部分が薄肉の円板状に形成されていると共に、ショートピニオンP4のピニオンシャフト54の前端部に対応する部分が薄肉状の円板状に対して肉厚の厚肉部52aとなるように形成されており、その厚肉部52aからは、第1の側板51の外縁部分まで延設されたブリッジ部(ブリッジ)52bが形成されている。即ち、厚肉部52a及びブリッジ部52bは、ロングピニオンP3が存在しない部分に、複数のロングピニオンP3と周方向に対して交互に配置されており、言い換えると、複数のブリッジ部52bは、周方向に繋がらず、複数のロングピニオンP3に対応する部分が切欠部分となるように構成されている。そして、ブリッジ部52bの外周側には、詳しくは後述する第2のクラッチC−2の内摩擦板21bがスプライン係合するスプライン部(第2スプライン部)52sが形成されており、該スプライン部52sは、複数のロングピニオンP3に対応する部分が欠歯となるように構成されている。
このように第2のクラッチC−2の内摩擦板21bが、第2のキャリヤCR2のブリッジ部52bのスプライン部52sに直接的にスプライン係合することで、例えば特開2008−121808号公報の自動変速機のように側板から円筒状のハブ部材をキャリヤのブリッジ部の外周側に配置する場合に比して、ハブ部材が無くなった分、第2のクラッチC−2の摩擦板21を径方向にコンパクト化することが可能となる。
また、複数のロングピニオンP3に対応する部分が切欠部分となっているブリッジ部52bは、その前端部の外周側に詳しくは後述するワンウェイクラッチF−1のドラム状のインナーレース71が例えば溶接等で固着されている。該インナーレース71は、円筒状のインナーレース本体71aと、環状の接続部71bとを有しており、この環状の接続部71bにより周方向に分散された複数のブリッジ部52bが連結され、第2のキャリヤCR2の枠体としての剛性が強くなるように構成されている。なお、環状の接続部71bの外周側には、詳しくは後述する第2のブレーキB−2のハブ部材38が例えば溶接等で固着されている。そして、インナーレース71の内周側には、詳しくは後述するプラネタリギヤユニットPUの第2のリングギヤR2がロングピニオンP3に噛合して支持される形で配置されている。
一方、プラネタリギヤユニットPUの後方側から後方部分の外周側にかけて、第2のクラッチC−2が配置されている。第2のクラッチC−2は、プラネタリギヤユニットPUの径方向視で軸方向に重なる範囲内に配置された、複数の外摩擦板(第1外摩擦板)21a及び複数の内摩擦板(第1内摩擦板)21bからなる摩擦板21と、その摩擦板21を押圧駆動して係合自在にする油圧サーボ(第1油圧サーボ)20と、を有して構成されている。なお、本明細書中において、「プラネタリギヤユニットPUの径方向視で軸方向に重なる範囲内」とは、第2のキャリヤCR2の側板51の後端面から側板52の前端面までの軸方向範囲内とする。
該油圧サーボ20は、クラッチドラム22、ピストン部材23、リターンプレート24、リターンスプリング25を有しており、これらにより、作動油室26、キャンセル油室27を構成している。クラッチドラム22は、内周側部材22Aと外周側部材22Bとが例えば溶接されて一体に構成されている。内周側部材22Aは、内径側から外径側に延びるフランジ部22Aaと、このフランジ部22Aaの内周側でスリーブ状に延びるスリーブ部22Abとを有しており、スリーブ部22Abの先端は、上記中心軸7Bのフランジ部7Baに例えば溶接されて固着されていると共に、スリーブ部22Abの内周側は、環状部材81を介してケース6のボス部6aに対して回転自在に支持されている。
外周側部材22Bは、上記フランジ部22Aaの外周から上記摩擦板21まで延びる延設部22Baと、該延設部22Baの先端側から軸方向にドラム状に延びて、内周面に上述の外摩擦板21aにスプライン係合するスプライン部22Bsが形成されたドラム部22Bbとを有して構成されている。このスプライン部22Bsの先端部には、スナップリング29が嵌合されており、摩擦板21の前方への移動が規制されている。
上記内周側部材22Aのフランジ部22Aaの前方側は、ピストン部材23と対向する部分が、上記作動油室26を構成するためのシリンダとして形成されている。また、内周側部材22Aのスリーブ部22Abの外周側には、ピストン部材23が軸方向摺動自在に嵌合されていると共に、リターンプレート24がスナップリング28によって位置決めされる形で配設されている。なお、内周側部材22Aのフランジ部22Aaの後方側には、ケース6との間にスラストベアリングb10が介在され、クラッチドラム22、つまり油圧サーボ20が軸方向に対して位置決め規制されている。
上記ピストン部材23は、上述のクラッチドラム22のフランジ部22Aaの前方側に対向して軸方向移動自在に配置されており、該クラッチドラム22との間に油密状の作動油室26を構成している。また、ピストン部材23の外周側には、押圧部23aが延設されており、該押圧部23aが上記摩擦板21に対抗配置されている。また、該押圧部23aの外周面にはスプラインが形成されており、上記ドラム部22Bbの内周側に形成されたスプライン部22Bsにスプライン係合して相対回転不能に規制されている。
リターンプレート24は、上述したように、スリーブ部22Abに嵌合されたスナップリング28によって前方側への移動が規制されている。リターンプレート24は、その後方に配置されたピストン部材23との間に、リターンスプリング25が縮設されると共に油蜜状のキャンセル油室27を構成している。なお、上記リターンプレート24は、上記リターンスプリング25の付勢力に基づき前方側に常時付勢されて、つまりクラッチドラム22に対して固定された状態となっている。
以上のように構成された第2のクラッチC−2は、ケース6内の油路c1,c2から環状部材81の油路c3を介して作動油室26に作動油圧が供給されると、リターンスプリング25の付勢力に抗してピストン部材23を前方側に押圧駆動し、摩擦板21を係合させ、クラッチドラム22、中心軸7Bを介して入力軸7Aと第2のキャリヤCR2とを回転方向に駆動連結する。反対に、作動油室26から作動油圧が排出されると、キャンセル油室27の油により作動油室26の遠心油圧がキャンセルされつつリターンスプリング25の付勢力によりピストン部材23が後方側に移動し、摩擦板21を解放させる。
一方、上記第2のクラッチC−2の外周側には、該第2のクラッチC−2を覆う形で、詳しくは後述する第2のブレーキB−2が配置されている。また、第2のクラッチC−2の摩擦板21及び第2のブレーキB−2の摩擦板31の前方側にあって、プラネタリギヤユニットPUの外周側において、該プラネタリギヤユニットPUの径方向視で軸方向に対して重なる範囲内の位置には、ワンウェイクラッチF−1が配置されている。
上記ワンウェイクラッチF−1は、大まかに、上述したインナーレース71と、アウターレース72と、それらの間に介在して該インナーレース71の回転方向を一方向に規制する一方向規制機構(例えばローラカム機構やスプラグ機構など)73と、を有して構成されている。
上記アウターレース72は、その外周面がケース6のスプライン部6sにスプライン係合しており、両側面がスナップリング39,79によって規制されることによって、ケース6に対して位置決め固定されている。一方のインナーレース71は、上述したように、円筒状のインナーレース本体71aと、該インナーレース本体71aの後端側から内周側に延びる環状の接続部71bとを有して構成されている。該接続部71bの外周側には、第2のブレーキB−2の内摩擦板31bにスプライン係合するハブ部材38が例えば溶接により固着されている。そして、該接続部71bの内周側端部は、上述した第2のキャリヤCR2の側板52における複数のブリッジ部52bのそれぞれに例えば溶接されて固着されており、インナーレース71の特に環状の接続部71bは、第2のキャリヤCR2の枠体としての剛性を高めている。
上記インナーレース71の内周側には、ロングピニオンP3に噛合する第2のリングギヤR2が収納される形で配置されている。該第2のリングギヤR2の前方部分は、櫛歯状の櫛歯部R2aを有しており、その櫛歯部R2aには、接続部材41のドッグ部41aが内周側から噛み合う形で係合している。該櫛歯部R2aとドッグ部41aとの間には、スナップリング43が組付けられ、第2のリングギヤR2と接続部材41とは一体的に接続されている。
また、接続部材41は、その内周部分にスプライン部41sが形成されており、カウンタギヤ8に形成されたスプライン部8sとスプライン係合されていると共に、スナップリング42によって接続部材41とカウンタギヤ8とが一体的に接続されている。
上記カウンタギヤ8は、外周側に歯面8aが形成されており、後述するカウンタドリブンギヤ11の歯面11aに噛合している。カウンタギヤ8の内周面には、アンギュラボールベアリングb20が嵌合されており、該アンギュラボールベアリングb20を介してカウンタギヤ8は、センタサポート部材19のスリーブ部19bに回転自在に支持されている。なお、アンギュラボールベアリングb20は、センタサポート部材19のスリーブ部19bの外周面上にあって、フランジ状部19aとの間にナット18によって挟まれて締結されている。センタサポート部材19のフランジ状部19aの外周側には、複数の突起部(不図示)が形成されており、複数のボルト91によって複数の突起部がケース6に締結されることで、センタサポート部材19はケース6に固定されている。なお、フランジ状部19aの後方側には、後述の第1のブレーキB−1用の油路を形成するための肉厚部19cが形成されている。
センタサポート部材19の外周側の前方側には、第1のブレーキB−1が配置されている。該第1のブレーキB−1は、複数の外摩擦板及び複数の内摩擦板からなり、該内摩擦板が上述した第3のサンギヤS3に接続されたハブ部材68にスプライン係合されている。
一方、上述したカウンタドリブンギヤ11は、テーパードローラベアリングb21によってケース6に回転自在に支持されたカウンタシャフト12にスプライン係合して、かつ該テーパードローラベアリングb21によって締結される形で、カウンタシャフト12に対して一体的に固定されている。カウンタドリブンギヤ11は、上述したようにカウンタギヤ8に噛合する歯面11aを有していると共に、その歯面11aの後方側、つまり軸方向のプラネタリギヤユニットPU側にパーキングギヤ11bが一体的に形成されている。なお、パーキングギヤ11bは、不図示のパーキング機構によって駆動されるパーキングポールに噛合することで、パーキングレンジにおいてカウンタシャフト12、ディファレンシャル部5、ドライブシャフト15,15を介して車輪(不図示)の回転を固定する。
ついで、本自動変速機1における潤滑油路について説明する。潤滑油は、不図示の油圧制御装置からケース6内の油路を通って、中心軸7Bの後端側に設けられた油路(空間)c11に供給される。該油路c11に供給された潤滑油は、その一部がニードルベアリングb1を潤滑すると共に、他の大部分が中心軸7Bに軸方向に形成された油路c12に導入される。そして、油路c12に導入された潤滑油は、それぞれ油路c12から中心軸7Bの外周面に向かって貫通形成された油路c13,c14,c15,c16,c17,c18,c19から、中心軸7Bの周囲に飛散される。
このうちの油路c13から飛散された潤滑油は、上記クラッチドラム22に形成された油路c20を介して上記キャンセル油室27に導入される。油路c14から飛散された潤滑油は、スラストベアリングb11を潤滑して、第2のキャリヤCR2の側板51の内周側に導かれ、その一部がオイルレシーバ55により捕集されて、捕集された一部の潤滑油は、ショートピニオンP4のピニオンシャフト54に形成された油路c31,c32を介して、ショートピニオンP4とピニオンシャフト54との間を潤滑し、その後、遠心力に基づき外周側に飛散される。また、オイルレシーバ55により捕集された潤滑油の他の一部は、ロングピニオンP3のピニオンシャフト53に形成された油路c33,c34を介して、ロングピニオンP3とピニオンシャフト53との間を潤滑し、その後、遠心力に基づき外周側に飛散される。
上記油路c15により中心軸7Bの外周に導かれた潤滑油は、ブッシュb2を潤滑した後、上記スラストベアリングb11と第2のサンギヤS2に形成された油路c41とに導かれる。また、上記油路c16により導かれた潤滑油の一部も第2のサンギヤS2に形成された油路c41に導かれる。油路c41に導かれた潤滑油は、その一部が第2のサンギヤS2の歯面とショートピニオンP4の歯面との間を潤滑しつつ、上記油路c14から側板51に飛散された潤滑油の一部と合流して、ロングピニオンP3と上記ブリッジ部52bとの間(切欠)に導かれ、第2のクラッチC−2の摩擦板21に導かれる。即ち、本自動変速機1の第2のクラッチC−2の摩擦板21は、内周側にハブ部材を有していないので、潤滑油が阻害されることなく、ロングピニオンP3と上記ブリッジ部52bとの間から良好に潤滑される。
油路c16を通った潤滑油の一部や油路c17を通った潤滑油、及び油路c18を通ってブッシュb3を潤滑した潤滑油の一部は、第2のサンギヤS2に形成された油路c42,c43,c44を介して該第2のサンギヤS2の外周側に導かれ、その一部がブッシュb4を潤滑しつつ、スラストベアリングb12を通って第2のキャリヤCR2の内周側に導かれる。第2のキャリヤCR2の内周側に導かれた潤滑油は、第3のサンギヤS3の歯面とロングピニオンP3の歯面との間を潤滑しつつ第2のリングギヤR2の歯面も潤滑し、その後、インナーレース71の油路c54を通って、一方向規制機構73を潤滑する。
また、油路c43、c44などを通った潤滑油は、第3のサンギヤS3に形成された油路c51やスラストベアリングb13を通り、さらにハブ部材68に形成された油路c52を通り、センタサポート部材19に形成された油路c53を通って、アンギュラボールベアリングb20及びカウンタギヤ8を潤滑する。なお、油路c18を通ってブッシュb3を潤滑した残りの潤滑油と、油路c19を通った潤滑油は、スラストベアリングb14を潤滑し、連結部材88の内面を通って、図示を省略した第1のクラッチC−1に導かれる。
ついで、本発明の要部となる第2のブレーキ(ブレーキ装置)B−2について、図3を参照しつつ図4に沿って詳細に説明する。該第2のブレーキB−2は、互いに係合自在な複数の外摩擦板(第2外摩擦板)31a及び複数の内摩擦板(第2内摩擦板)31bを有する摩擦板31と、この摩擦板31を係止させる油圧サーボ(第2油圧サーボ)30とを備えており、該摩擦板31は、上述の第2のクラッチC−2の摩擦板21の外周側にあって、径方向視で軸方向に対して少なくとも一部が重なり、かつプラネタリギヤユニットPUの外周側に径方向視で軸方向に対して重なる範囲内の位置に配置されている。
上記内摩擦板31bは、上述したハブ部材38にスプライン係合し、インナーレース71を介して第2のキャリヤCR2に駆動連結されている。また、外摩擦板31aは、ケース6の内周面に形成されたスプライン部(第1スプライン部)6sにスプライン係合されている。即ち、ケース6の内周面には、スプライン部6sを構成する複数の溝6dが形成されている。一方、複数の外摩擦板31aの外周には、それぞれ複数の爪部31cが形成されている。そして、複数の爪部31cを、それぞれ複数の溝6dに係合させている。
上記油圧サーボ30は、上記ケース6の内面に形成されたシリンダ部32、ピストン部材(ピストン)33、エンドプレート34、リターンスプリング(スプリング)35、及びリテーナプレート37を有しており、該シリンダ部32と該ピストン部材33とにより作動油室36を構成している。
上記エンドプレート34は、複数の外摩擦板31a及び複数の内摩擦板31bの前方側(一方)に配置された摩擦板31の最前端のプレートでもあり、スナップリング39によりケース6に対して前方側への移動が規制されていると共に、スプライン部6sの複数の溝6dにおける各溝に入り込む爪部分を有しており、その爪部分の後方側にリターンスプリング35の前方端部を位置決めする円環状の凸部34aが形成され、つまりエンドプレート34は、リターンスプリング35のリテーナとしての役目も有している。
上記リターンスプリング35は、詳しくは後述するように、外摩擦板31aの径方向外方で、エンドプレート34とピストン部材33との間に配置され、ピストン部材33を油圧による押圧方向とは反対方向に付勢する。リターンスプリング35の後方端部は、リテーナプレート37に保持されている。このため、リテーナプレート37は、ピストン部材33側に配置される。従って、リターンスプリング35は、エンドプレート34と後述するリテーナプレート37との間にあって、摩擦板31の外周側に径方向視で軸方向に重なる位置に配置されている。なお、ピストン部材33の形状を変更することで、リテーナプレート37を省略して、リターンスプリング35をピストン部材に直接当接させるようにしても良い。
上記ピストン部材33は、摩擦板31の後方側(他方)で、前方側の先端部分がリテーナプレート37を介して摩擦板31に対向配置されるように延設されており、油圧により複数の外摩擦板31a及び複数の内摩擦板31bをエンドプレート34に向けて押圧する。該ピストン部材33の前方側には、複数の外摩擦板31a及び複数の内摩擦板31bの径方向に直交する軸方向に平行なピストン側円筒部33aが屈曲形成されている。そして、ピストン側円筒部33aの前方側を更に径方向に折り曲げて、リテーナプレート37を介して摩擦板31を押圧する押圧部33bとしている。該押圧部33bの外周面には、ケース6の複数の溝6dのうちの少なくとも何れかの溝に係合する回転規制部としての凸部33cが形成されている。そして、凸部33cと何れかの溝6dとを係合させることで、ピストン部材33のケース6に対する回転を規制(回り止め)している。なお、ピストン部材33の回り止めは、他の手段としても良く、例えば、ピストン部材33の内径側に凸部を設け、この凸部をケース6の一部に設けた溝と係合するようにしても良い。
上記リテーナプレート37は、円環板状の本体部37bを有しており、該本体部37bは、摩擦板31と対向する対向面37dを有する。従って、ピストン部材33は、リテーナプレート37の対向面37dを介して摩擦板31を押圧することになる。これにより、ピストン部材33の形状に拘らず、摩擦板31を安定して押圧することができる。言い換えれば、ピストン部材33の形状に自由度を持たせることができる。
上記リテーナプレート37の本体部37bの外周側には、エンドプレート34と同様にスプライン部6sの複数の溝6dにおける各溝に入り込む爪部分を有しており、その爪部分の前方側にリターンスプリング35の後方端部を位置決めする円環状の凸部37aが形成されている。リターンスプリング35は、リテーナプレート37の凸部37aとかしめることで、リテーナプレート37に固定される。また、本体部37bの内周側には、後方側に軸方向と平行に屈曲形成されたリテーナ側円筒部37cを有しており、該リテーナ側円筒部37cは、上記ピストン部材33のピストン側円筒部33aの内周面にインロー嵌合されている。このため、リテーナプレート37及びリテーナプレート37に保持されるリターンスプリング35は、ピストン部材33によって径方向の位置決めが図られる。これにより、ピストン部材33による押圧方向の中心軸とリターンスプリング35による付勢方向の中心軸とをほぼ一致させることができ、ピストン部材33の往復移動に応じたリテーナプレート37の往復移動を安定して行える。
また、上記リテーナプレート37の本体部37bの摩擦板31と対向する対向面37dは、ピストン部材33の押圧部33bよりも径方向に対して幅広い面積を有しており、ピストン部材33による摩擦板31の押圧力を分散して、摩擦板31を軸方向へ均等に押圧し易くなるように構成され、第2のブレーキB−2の制御性を向上している。また、上述したように、ピストン部材33は、凸部33cをスプライン部6sの複数の溝6dのうちの少なくとも1箇所に係合させることで、ピストン部材33を回り止めしている。このため、リテーナプレート37やリターンスプリング35に回転方向の力が作用することを防止し、リターンスプリング35の捩れを防止している。言い換えれば、リテーナプレート37及びリターンスプリング35がピストン部材33に連れ回って、リターンスプリング35が捻じれるなどしてリターンスプリング35の付勢力が不安定になることを防止できる。なお、リテーナプレートを省略して、リターンスプリング35を直接ピストン部材に当接させた場合でも、ピストン部材の回転を規制することで、リターンスプリング35の捻じれを防止できる。
このようなリターンスプリング35は、外摩擦板31aの径方向外方に周方向に沿って複数存在し、図4に詳示するように、それぞれ、スプライン部6sの複数の溝6dの内部にあって、溝6dの底面と外摩擦板31aの複数の爪部31cとの間に配置されている。また、複数の爪部31cは、外周から径方向内方に切り欠かれた切り欠き31dを有する。該切り欠き31dは、リターンスプリング35の外形に沿うように円弧状に形成されている。そして、リターンスプリング35の少なくとも径方向一部が切り欠き31d内に入り込むように、リターンスプリング35が溝6dの内部に配置されている。
なお、切り欠き31dは、リターンスプリング35のコイル部の外径よりも僅かに大きい曲率半径により形成され、また、その深さは、爪部31cの剛性を考慮して設定されている。即ち、外摩擦板31aと内摩擦板31bとの係合時に、複数の爪部31cと複数の溝6dとが回転方向に係合して複数の爪部31cに負荷が掛かった場合でも、複数の爪部31cの変形を抑制できるように、切り欠き31dの形状及び深さが設定されている。
以上のように構成された第2のブレーキB−2は、図示を省略したケース6内の油路から作動油室36に作動油圧が供給されると、リターンスプリング35の付勢力に抗してピストン部材33を前方側に押圧駆動し、摩擦板31をケース6に対して係止させ、ハブ部材38、インナーレース71を介して第2のキャリヤCR2を回転方向に固定する。反対に、作動油室36から作動油圧が排出されると、リターンスプリング35の付勢力によりピストン部材33が後方側に移動し、摩擦板31を解放させる。
以上説明したように本実施形態によると、リターンスプリング35を、外摩擦板31aの複数の爪部31cを係合させる複数の溝6dの内部に配置するため、リターンスプリング35の配置の自由度を高めることができる。即ち、外摩擦板31aの径方向外方に固定用のボルトなどの他の部材との干渉を避けるように形成された複数の溝6dを利用して、リターンスプリング35を配置することができるため、他の部材との干渉を考慮して、リターンスプリング35を配置するための溝を別途設ける場合と比べて、リターンスプリング35の配置の自由度を高めることができる。なお、他の部材と干渉しなければ、リターンスプリング35を配置するための溝を別途設けても良い。
また、リターンスプリング35を、外摩擦板31aの複数の爪部31cが係合する複数の溝6dに配置するため、リターンスプリング35の数を容易に増やすことができ、リターンスプリング35の付勢力を確保するためのスプリングの巻き数を低減して、第2のブレーキB−2の軸方向寸法を小さくできる。また、リターンスプリング35の付勢力を確保するためのスプリングの線径を小さくすることができ、リテーナプレート37とのかしめ固定も容易になる。
なお、図示の例では、複数の溝6dの全てにリターンスプリング35を配置しているが、リターンスプリング35の配置位置及び数は、リターンスプリング35の付勢力が軸方向と平行に作用するように、適宜設定する。即ち、リターンスプリング35により付勢されたピストン部材33が軸方向に対して傾かないように設定する。このため、例えば、複数の溝6dの何れかの部分には、リターンスプリング35を配置しないようにしても良い。
また、リターンスプリング35は、複数の爪部31cの切り欠き31dに少なくとも一部が入り込むように配置されるため、リターンスプリング35を配置するための溝6dの深さを抑制でき、第2のブレーキB−2の径方向寸法の増加を抑制できる。即ち、爪部31cに切り欠きを設けることなく、リターンスプリング35を溝6dと爪部31cとの間に配置した場合、リターンスプリング35を配置する分、溝6dの深さを大きくする必要があり、ケース6の径方向寸法を大きくする必要がある。これに対して、爪部31cにリターンスプリング35を配置するための切り欠き31cを設けることで、この切り欠き31c分、溝6dの深さを小さくでき、ケース6の径方向寸法の増加を抑制できる。
更に、本実施形態によると、リターンスプリング35を保持するリテーナプレート37をピストン側に配置するため、第2のブレーキB−2の組み付け性を良好にできる。即ち、仮に、リテーナプレートが摩擦板を挟んでピストン部材と反対側に配置される場合、組み付けの順序は、ケース内にピストン、摩擦板を挿入してからリテーナプレート共にリターンスプリングを挿入することになる。この場合、外摩擦板の爪部とケースの溝との狭い空間内にリターンスプリングを挿入する必要があるため、リターンスプリングの挿入作業を行いにくい。これに対して、本実施形態のように、リテーナプレート37をピストン部材33側に配置することで、摩擦板31を組み付ける前にリテーナプレート37及びリターンスプリング35をケース6の溝6d内に挿入できるため、リターンスプリング35の挿入作業を行い易い。
また、第2のブレーキB−2の油圧サーボ30のリターンスプリング35を、外摩擦板31aの外周側にあって、ケース6のスプライン部6sの溝部に収納して配置したので、摩擦板31を油圧サーボ30に近づけて配置することができ、それによって、第2のブレーキB−2の摩擦板31を、第2のクラッチC−2の摩擦板21の外周側に径方向視で軸方向に対して少なくとも一部が重なるように配置することを可能とすることができる。これにより、第2のクラッチC−2の摩擦板21、第2のブレーキB−2の摩擦板31、ワンウェイクラッチF−1を、プラネタリギヤユニットPUの外周側に径方向視で軸方向に対して重なる範囲内の位置に配置することを可能とすることができる。この結果、自動変速機1の小型化を図れる。
なお、以上説明した本実施の形態においては、自動変速機1を例えば前進8速段及び後進2速段を達成するものを一例として説明したが、これに限らず、例えば前進6速段及び後進段を達成するものであってもよく、特にセンタサポート部材19よりも後方側に、1つのプラネタリギヤユニット、1つのブレーキ、1つのクラッチ、1つのワンウェイクラッチが配置されるような構造であれば、どのような自動変速機であっても、本発明を適用し得る。
また、以上説明した本実施の形態においては、自動変速機1をエンジンだけに接続したものを説明したが、例えばトルクコンバータ2の代わりにモータ・ジェネレータを搭載した、ハイブリッド車両用の自動変速機であってもよい。