JP2014098090A - 手動変速機用ギヤ油組成物 - Google Patents

手動変速機用ギヤ油組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を増大させかつその摩擦係数を安定させてシンクロ操作性を良好にでき、しかもシンクロナイザーリングの摩耗を防止できる手動変速機用ギヤ油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の手動変速機用ギヤ油組成物は、(A)100℃動粘度が1mm/s以上35mm/s以下である基油に、(B)モリブデン化合物を配合してなり、前記(B)成分の配合量が、モリブデン元素換算で、50質量ppm以上300質量ppm以下であることを特徴とするものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、手動変速機用ギヤ油組成物に関し、特に低粘度の手動変速機用ギヤ油組成物に関する。
手動変速機用のギヤ油組成物においては、乗り心地、快適性の観点からシフト操作性をより一層向上させることが求められている。また、このギヤ油組成物は、省燃費を目的として低粘度化している。一方、ギヤ油組成物が低粘度になるほど、シンクロナイザーリングの摩耗量が増大する傾向にある。そして、シンクロナイザーリングの摩耗量が増大すると、使用により生じる摩耗によってシンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が低下して、シフト操作性が著しく低下してしまうという問題がある。
そこで、シンクロナイザーリングの摩耗量を低減する技術として、例えば、基油、モリブデン化合物、リン含有耐摩耗剤および分散剤を含有する潤滑組成物が提案されている(特許文献1)。
特表2003−518159号公報
上記特許文献1に記載の潤滑組成物では、100ppmから900ppmのモリブデンを含むと規定している。そして、組成物中のモリブデン元素量が所定量以上(例えば、組成物全量基準におけるモリブデン元素換算で300質量ppm超)の潤滑組成物を手動変速機用ギヤ油として用いると、シンクロナイザーリングの摩耗を防止できるものの、モリブデン化合物の作用によりシンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が低下して、シフト操作性が低下してしまうという問題がある。つまり、手動変速機用のギヤ油組成物において、シンクロナイザーリングの摩耗を防止することと、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を増大することとは、トレードオフの関係にあり、これらを両立させることは困難であった。
そこで、本発明の目的は、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を増大させかつその摩擦係数を安定させてシンクロ操作性を良好にでき、しかもシンクロナイザーリングの摩耗を防止できる手動変速機用ギヤ油組成物を提供することにある。
前記課題を解決すべく、鋭意研究した結果、本発明者らは、手動変速機用ギヤ油組成物に対して、通常はシンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を低下させる働きがあるモリブデン化合物を極少量添加した場合、驚くべきことに、逆に摩擦係数が高まることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、以下のような手動変速機用ギヤ油組成物を提供するものである。
(1)(A)100℃動粘度が1mm/s以上35mm/s以下である基油に、(B)モリブデン化合物を配合してなり、前記(B)成分の配合量が、組成物全量基準におけるモリブデン元素換算で、20質量ppm以上300質量ppm以下であることを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
(2)前記(1)に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、さらに、(C)重量平均分子量が15000以下のエチレン−αオレフィン共重合体を配合してなり、前記(C)成分の配合量が、組成物全量基準で、10質量%以下であることを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
(3)前記(1)または(2)に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、さらに、(D)塩基価が300mgKOH/g以上であるアルカリ土類金属系清浄分散剤を配合してなり、前記(D)成分の配合量が、組成物全量基準で、1質量%以上2.5質量%以下であることを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
(4)前記(1)から(3)までのいずれか1つに記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、さらに、(E)硫化油脂、スルフィド類、酸性リン酸エステルアミン塩、ソルビタンの部分エステルおよびコハク酸イミドのうち少なくとも1種を配合してなることを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
(5)前記(1)から(4)までのいずれか1つに記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、さらに、(F)ジチオリン酸亜鉛を配合してなり、前記(F)成分の配合量が、組成物全量基準で、0.5質量%以上2質量%以下であることを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
(6)前記(1)から(5)までのいずれか1つに記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、ポリメタクリレート化合物を含有しないことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
本発明によれば、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を増大させかつその摩擦係数を安定させてシンクロ操作性を良好にでき、しかもシンクロナイザーリングの摩耗を防止できる手動変速機用ギヤ油組成物を提供できる。
本発明のギヤ油組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、(A)100℃動粘度が1mm/s以上35mm/s以下である基油に、(B)モリブデン化合物を配合してなり、前記(B)成分の配合量が、モリブデン元素換算で、50質量ppm以上300質量ppm以下であることを特徴とする。以下、本組成物について詳細に説明する。
[(A)成分]
本組成物に用いる(A)成分は、100℃における動粘度が1mm/s以上35mm/s以下(好ましくは、2mm/s以上10mm/s以下)である。100℃における動粘度が1mm/s以上であれば蒸発損失が少なく、一方35mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失が小さく、燃費改善効果が得られる。
本組成物に用いる(A)成分としては、鉱物系潤滑油基油でも合成系潤滑油基油でもよい。これらの潤滑油基油の種類については特に制限はなく、従来、自動車用ギヤ油の基油として使用されている鉱油や合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
鉱物系潤滑油基油としては、例えば、パラフィン基系鉱油、中間基系鉱油、およびナフテン基系鉱油などが挙げられる。また、合成系潤滑油基油としては、例えば、ポリオレフィン(ポリα−オレフィン(PAO)など)、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、およびアルキルナフタレンなどが挙げられる。
本発明においては、前記基油として、前記鉱物系潤滑油基油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記合成系潤滑油基油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、前記鉱物系潤滑油基油1種以上と前記合成系潤滑油基油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
また、前記鉱物系潤滑油基油としては、環分析による%CAが3以下で硫黄分の含有量が50質量ppm以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%CAとは、環分析(n−d−M法)にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。また、硫黄分は、JISK 2541に記載の方法に準拠して測定した値である。%CAが、3以下で、硫黄分が50質量ppm以下の潤滑油基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制し得ると共に、金属に対する腐食性の少ない潤滑油組成物を提供することができる。より好ましい%CAは1以下、さらには、0.5以下であり、またより好ましい硫黄分は30質量ppm以下である。
さらに、前記基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。このような粘度指数が前記下限以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さく、低い温度においても燃費改善効果が得られる。
[(B)成分]
本組成物における(B)成分は、モリブデン化合物である。このモリブデン化合物としては、前記(A)成分に分散又は溶解し得るものであればよく、特に制限されない。また、このモリブデン化合物としては、無機モリブデン化合物および有機モリブデン化合物のいずれも用いることができるが、前記(A)成分に溶解する油溶性のものを用いることが好ましい。油溶性モリブデン化合物としては、例えば、アルキルリン酸モリブデン塩、カルボン酸モリブデン塩などの有機酸のモリブデン塩、さらにはモリブデン酸やリンモリブデン酸、ケイモリブデン酸などのアルキルアミン塩、モリブデンのチオカルバミン酸塩(MoDTC)やチオリン酸塩(MoDTP)が挙げられる。
本組成物における(B)成分の配合量は、組成物全量基準におけるモリブデン元素換算で、20質量ppm以上300質量ppm以下であることが必要である。この量が20質量ppm未満では、シンクロナイザーリングの摩耗量の低減効果が少なくなり、他方、300質量ppmを超えると、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が低下してしまう。また、シンクロナイザーリングの摩耗量の低減効果と摩擦係数とのバランスの観点から、前記(B)成分の配合量は、30質量ppm以上250質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以上200質量ppm以下であることがより好ましく、70質量ppm以上150質量ppm以下であることがさらにより好ましく、80質量ppm以上100質量ppm以下であることが特に好ましい。
[(C)成分]
本組成物には、粘度指数をより向上させ、かつトラクション係数を低減させるため、さらに(C)成分として、(C)重量平均分子量が15000以下のエチレン−αオレフィン共重合体を配合することが好ましい。この(C)成分における重量平均分子量が15000を超えるとせん断安定性が低下する傾向にある。
前記(C)成分の好ましい配合量は、組成物全量基準で10質量%以下であり、より好ましい配合量は2質量%以上5質量%以下である。この量が前記下限未満では粘度指数の向上効果が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると低温時の粘度が高くなって、実用性に劣るようになるおそれがある。
このような(C)成分としては、例えば、三井化学製ルーカントHC−40、HC−20、HC−100、HC−600、HC−1000およびHC−2000などが好適に用いられる。
[(D)成分]
本組成物には、清浄分散性をより向上させるため、さらに(D)成分として、(D)塩基価が300mgKOH/g以上であるアルカリ土類金属系清浄分散剤を配合することが好ましい。この(D)成分の塩基価が300mgKOH/g未満では、金属部材との摺動部分に被膜が生成しにくくなり耐摩耗性が十分発揮できないおそれがある。
前記(D)成分としては、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートおよびこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物が好適に挙げられる。
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300以上1500以下、好ましくは400以上700以下のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩あるいはカルシウム塩などが挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩あるいはカルシウム塩などが挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩あるいはカルシウム塩などが挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4以上30以下のものが好ましく、より好ましくは6以上18以下の直鎖または分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基または3級アルキル基でもよい。
また、カルシウム塩としては、耐摩耗性の点で、カルシウムスルホネートが最も好ましい。カルシウムスルホネートとしては、炭素数1から50までのアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホネートが清浄分散性の点で好適である。
本組成物においては、(D)成分として、前記の過塩基性塩を1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量基準で1質量%以上2.5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上2.2質量%以下であることがより好ましい。この配合量が前記下限未満であると金属部材との摺動部分における耐摩耗性が低下するおそれがある。一方、配合量が前記上限を超えてもの向上はそれほど認められない。
なお、カルシウム(Ca)などの金属量換算かつ組成物全量基準であれば、300質量ppm以上6000質量ppmの範囲が好ましい。配合量が300質量ppm未満であると、金属部材との摺動部分における摩擦係数が大きくなってしまうおそれがある。一方、配合量が6000質量ppmを超えても摩擦低減効果の向上はそれほど認められない。(D)成分のより好ましい配合量は、800質量ppm以上5000質量ppm以下であり、さらに好ましい配合量は1000質量ppm以上4000質量ppm以下であり、最も好ましくは2000質量ppm以上4000質量ppm以下である。
[(E)成分]
本組成物には、耐摩耗性、極圧性および、酸化劣化後のスラッジ分散性をより向上させるため、さらに(E)成分として、硫化油脂、スルフィド類、酸性リン酸エステルアミン塩、ソルビタンの部分エステルおよびコハク酸イミドのうち少なくとも1種を配合することが好ましい。
硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油など)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチル、あるいはジトリデシルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。
上述した硫化油脂の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.3質量%以上0.7質量%以下であり、より好ましい配合量は0.4質量%以上0.6質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果が十分ではなく、上限値を超えて配合しても配合量に見合った効果は得られにくい。
スルフィド類としては、例えば、下記式(1)で示される硫化オレフィンを挙げることができる。
1−S−R (1)
式中、Rは炭素数2から15までのアルケニル基、Rは炭素数2から15までのアルキル基またはアルケニル基を示す。
この化合物は、炭素数2から15までのオレフィンまたはその二量体から四量体までを、硫黄、塩化硫黄などの硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
また、スルフィド類としては、下記式(2)で示されるジヒドロカルビルモノサルファイド化合物も挙げることができる。
−S−R (2)
式中、RおよびRは、それぞれ炭素数1から20までのアルキル基または環状アルキル基、炭素数6から20までのアリール基、炭素数7から20までのアルキルアリール基または炭素数7から20までのアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、RおよびRがアルキル基の場合は、硫化アルキルとも称される。
また、スルフィド類として、上記したモノスルフィドは、炭化水素基はそのままでジスルフィド(−SS−)やトリスルフィド(−SSS−)などのポリスルフィド(構造)であってもよい。
上記式(2)におけるRおよびRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。このジヒドロカルビルモノサルファイドとしては、例えば、ジベンジルモノサルファイド、各種ジオクチルモノサルファイド、ジフェニルモノサルファイド、ジシクロヘキシルモノサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
上述したスルフィド類の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.1質量%以上0.5質量%以下であり、より好ましい配合量は0.2質量%以上0.4質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果が十分ではなく、上限値を超えて配合しても配合量に見合った効果は得られにくい。
酸性リン酸エステルアミン塩は、通常、酸性リン酸エステルとアミンとを反応させて得られる。酸性リン酸エステルは、モノエステルでもジエステルでもよい。
このような酸性リン酸エステルとしては、モノメチルハイドロジェンホスフェート、モノエチルハイドロジェンホスフェート、モノプロピルハイドロジェンホスフェート、モノブチルハイドロジェンホスフェート、モノ−2−エチルヘキシルハイドロジェンホスフェート、ジメチルハイドロジェンホスフェート、ジエチルハイドロジェンホスフェート、ジプロピルハイドロジェンホスフェート、ジブチルハイドロジェンホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルハイドロジェンホスフェートなどが挙げられる。
酸性リン酸エステルのアミン塩におけるアミンとしては、一級アミンが好ましく、また、アルキルアミンでもアルケニルアミンでもよい。アルキル基又はアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、このようなものとしては、各種のドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、あるいはオレイル基などが挙げられるが、これらの中で分岐型のドデシル基が好適である。具体的には、1−(2,2−ジメチループロピル)−1,3,3−トリメチルーブチルアミン、ラウリルアミン各種異性体、ミリスチルアミン各種異性体、パルミチルアミノ各種異性体、ステアリルアミン各種異性体、さらにはオレイルアミンなどが挙げられる。
上述した酸性リン酸エステルのアミン塩の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.02質量%以上0.1質量%以下であり、より好ましい配合量は0.03質量%以上0.06質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果が十分ではなく、上限値を超えて配合しても配合量に見合った効果は得られにくい。
ソルビタンの部分エステルとしては、例えば、ソルビタンに、炭素数8から30までの有機酸残基(ラウリン酸残基、ステアリン酸残基、オレイン酸残基、ベヘン酸残基など)が結合した部分エステルを挙げることができる。具体的にはソルビタンモノラウリレート、ソルビタンジラウリレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノベヘネート、およびソルビタンジベヘネートなどが好適に使用される。
上述したソルビタンの部分エステルの好ましい配合量は、組成物全量基準で0.2質量%以上0.6質量%以下であり、より好ましい配合量は0.3質量%以上0.5質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果が十分ではなく、上限値を超えて配合しても配合量に見合った効果は得られにくい。
コハク酸イミドとしては、無灰系分散剤として知られるアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドあるいはこれらのホウ素化物を好適に使用できる。
アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものが挙げられる。好適なアルケニル基としては、ポリブテニル基またはポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして好適に得られる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基またはポリイソブテニル基を水添したものが挙げられる。アルケニル基およびアルキル基の数平均分子量は、それぞれ、好ましくは500から3000まで、より好ましくは1000から3000までである。
また、アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドのホウ素化物は、常法により製造したものを使用することができる。
上述したコハク酸イミドの好ましい配合量は、組成物全量基準で0.5質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましい配合量は0.75質量%以上1.25質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果が十分ではなく、前記上限を超えて配合しても配合量に見合った効果は得られにくい。
[(F)成分]
本組成物には、耐摩耗性および酸化安定性をさらに向上させるため、さらに(F)成分としてジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を配合することが好ましい。
ZnDTPは、従来から潤滑油添加剤として広く使用されているジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いればよいが、特にプライマリーZnDTPがすぐれた酸化安定性を示すため好適である。ZnDTPとしてこのプライマリーZnDTPを全量用いてもよいが、使用するZnDTP全量の半分以上をプライマリーZnDTPが占めるようにすることが好ましい。ここで、プライマリーZnDTPとしては、アルキル基が炭素数3から20までの第1級アルキル基であるZnDTP、例えばアルキル基がそれぞれブチル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基を主成分とするZnDTPを好適なものとしてあげることができる。
本組成物では、上記(F)成分の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。この配合量が下限値未満では、配合効果がほとんど発現せず、他方、前記上限を超えると配合量に相当する効果の向上はみられず、むしろ酸化安定性や耐金属腐食性が低下するおそれがある。
本組成物には、他にも必要に応じて各種の添加剤、例えば酸化防止剤、流動点降下剤、防錆剤、金属不活性化剤(腐食防止剤)、消泡剤、および界面活性剤などを適宜添加することができる。ただし、本組成物は、ポリメタクリレート化合物を含有しないことが好ましい。本組成物がポリメタクリレート化合物を含有する場合には、トラクション係数が増大するという問題点が生じるおそれがある。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系の酸化防止剤、フェノール系の酸化防止剤、硫黄系の酸化防止剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.05質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5000以上、50000以下のポリメタクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
流動点降下剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
防錆剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
金属不活性化剤(腐食防止剤)としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、およびイミダゾール系化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属不活性化剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
消泡剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.005質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
本組成物の動粘度は、特に限定されないが、100℃動粘度が1mm/s以上50mm/sであることが好ましく、2mm/s以上30mm/s以下であることがより好ましく、3mm/s以上20mm/s以下が特に好ましい。
以上説明した本組成物は、手動変速機用のギヤ油組成物として特に好適に用いることができる。この手動変速機は、シンクロナイザーリングとギヤコーンとを備えるものである。シンクロナイザーリングの材質としては、高力黄銅材の他に、樹脂材およびカーボン材などが挙げられる。本組成物は、シンクロナイザーリングの材質が高力黄銅材の場合に特に好適であり、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数を増大させかつその摩擦係数を安定させてシンクロ操作性を良好にでき、しかもシンクロナイザーリングの摩耗を防止できるという格別の効果を発揮できる。
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例によってなんら限定されるものでない。
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕
各実施例・比較例において、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用い、表1に示す組成を有する潤滑油組成物(以下、「供試油」ともいう)を調製した。
(1)基油A:鉱油100N API分類 GIII、粘度指数132
(2)基油B:鉱油60N API分類 GII、粘度指数106
(3)基油C:鉱油500N API分類 GII、粘度指数105
(4)オリゴマーA:エチレン−αオレフィン共重合体(三井化学製 ルーカントHC−2000) (100℃動粘度:2000mm/s)
(5)オリゴマーB:エチレン−αオレフィン共重合体(三井化学製 ルーカントHC−40) (100℃動粘度:40mm/s)
(6)流動点降下剤:PMA(数平均分子量3万)
(7)コハク酸イミド:ポリイソブテニルコハク酸イミド(モノタイプ)、ポリブテニル基の数平均分子量950、TBN40、窒素量2.0質量%)
(8)ソルビタンの部分エステル:ソルビタンモノオレエート
(9)ZnDTP:プライマリーZnDTP(硫黄量15.03質量%、リン量7.50質量%、亜鉛量8.50質量%)
(10)スルフィド:ポリスルフィド(硫黄量38.5質量%)
(11)硫化油脂:硫黄量が8.8質量%の硫化油脂
(12)リン酸エステルアミン塩:リン量が2.45質量%、窒素量が0.35質量%のリン酸エステルアミン塩
(13)モリブデン化合物:モリブデンのチオカルバミン酸塩(MoDTC)、Mo量4質量%
(14)Caスルホネート:過塩素酸法塩基価405mgKOH/g、Ca量15.2質量%
(15)消泡剤A:フッ素系消泡剤
(16)消泡剤B:シリコーン系消泡剤
次に、各供試油について、各性状・特性を測定または算出した。各測定法または算出法は以下の通りである。結果を表2に示す。
(1)動粘度、粘度指数
JIS K 2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)組成物全量基準におけるモリブデン元素量(Mo元素量)
以下の式に従って組成物全量基準におけるモリブデン元素量を算出した。
組成物全量基準におけるモリブデン元素量(質量ppm)=組成物中のモリブデン化合物の配合量(質量%)×モリブデン化合物中のMo量(質量%)/100
(3)摩耗量、摩擦係数(μ)
シンクロ単体試験機を用い、以下に示す条件で、サイクル数10万回後の摩耗量、並びに、サイクル数1千回後および10万回後の摩擦係数を測定した。なお、摩耗量とは、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の隙間の変化量(単位:mm)のことをいい、試験後での隙間幅から試験前での隙間幅を減じた値で示される。
シンクロナイザーリング(SNR)の材質:高力黄銅材
SNRのコーン角度(θ):6.5°
SNRの有効半径(R):26.5mm
ギヤの材質:炭素鋼
ギヤの回転速度:1200r/min
SNRの押付け力:400N
SNRの押付け時間および休止時間:押付け時間0.5s、休止時間1s
油温:80℃
油量:駆動シャフトおよび押付シャフトの軸心まで充填(約4L)
Figure 2014098090
Figure 2014098090
表2に示す結果からも明らかなように、組成物全量基準におけるモリブデン元素量が所定範囲内である供試油(実施例1〜10)を用いた場合には、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が0.1と大きくなり、また、その摩擦係数が0.1で安定していることが確認され、結果として、シンクロ操作性を良好にできることが確認された。また、この場合において、100℃動粘度が10.130mm/sの場合(実施例6〜10)には、シンクロナイザーリングの摩耗量が0.09mmと極めて少なく、100℃動粘度が5.995mm/sの場合(実施例1〜5)には、シンクロナイザーリングの摩耗量が0.10mm〜0.30mmと比較的に非常に少なく、摩耗を防止できることも確認された。
一方、モリブデン化合物を含有しない場合(比較例1、2)、シンクロナイザーリングの摩耗量が多く、また、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が低すぎる(シンクロ操作性が悪くなってしまう)ことが確認された。また、組成物全量基準におけるモリブデン元素量が多過ぎる場合(比較例3)には、シンクロナイザーリングとギヤコーンとの間の摩擦係数が低すぎる(シンクロ操作性が悪くなってしまう)ことが確認された。

Claims (6)

  1. (A)100℃動粘度が1mm/s以上35mm/s以下である基油に、(B)モリブデン化合物を配合してなり、
    前記(B)成分の配合量が、組成物全量基準におけるモリブデン元素換算で、20質量ppm以上300質量ppm以下である
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
  2. 請求項1に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、
    さらに、(C)重量平均分子量が15000以下のエチレン−αオレフィン共重合体を配合してなり、
    前記(C)成分の配合量が、組成物全量基準で、10質量%以下である
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
  3. 請求項1または請求項2に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、
    さらに、(D)塩基価が300mgKOH/g以上であるアルカリ土類金属系清浄分散剤を配合してなり、
    前記(D)成分の配合量が、組成物全量基準で、1質量%以上2.5質量%以下である
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、
    さらに、(E)硫化油脂、スルフィド類、酸性リン酸エステルアミン塩、ソルビタンの部分エステルおよびコハク酸イミドのうち少なくとも1種を配合してなる
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、
    さらに、(F)ジチオリン酸亜鉛を配合してなり、
    前記(F)成分の配合量が、組成物全量基準で、0.5質量%以上2質量%以下である
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
  6. 請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の手動変速機用ギヤ油組成物において、
    ポリメタクリレート系化合物を含有しない
    ことを特徴とする手動変速機用ギヤ油組成物。
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