JP2014095089A - 複層摺動部材及びそれを用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド - Google Patents

複層摺動部材及びそれを用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド Download PDF

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Abstract

【課題】鉛又は鉛合金を含有した複層摺動部材よりも優れた耐摩耗性及び耐荷重性を発揮し得る複層摺動部材及びそれを用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドを提供すること。
【解決手段】複層摺動部材51は、鋼板からなる裏金52と、裏金52の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層53と、多孔質金属焼結層53の孔隙に充填されかつその表面に被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層54とを有しており、合成樹脂組成物が硫酸バリウム5〜30重量%と、珪酸マグネシウム1〜15重量%と、リン酸塩1〜25重量%と、酸化チタン0.5〜3重量%と、残部四ふっ化エチレン樹脂とからなる。
【選択図】図1

Description

本発明は、複層摺動部材及びそれを用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドに関する。
鋼板からなる裏金と該裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層と該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂層とからなる複層摺動部材(特許文献1及び特許文献2参照)は、該合成樹脂層を内側にして円筒状に捲回して形成された円筒軸受ブッシュ、所謂巻きブッシュの形態で、あるいは摺動板の形態で各種機械装置における軸を円滑に支承する支持手段として、また、自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックバーを円滑に支承する支持手段としてのラックガイド(特許文献3参照)として広く使用されている。
特許文献1ないし特許文献3に記載された複層摺動部材において使用されている四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」と略称する。)は、自己潤滑性に優れ、摩擦係数が低く、更には、耐薬品性及び耐熱性を有することから、軸受などの摺動部材に広く使用されている。しかしながら、PTFE単独からなる摺動部材は、耐摩耗性及び耐荷重性に劣るため、摺動部材の使用用途に応じて、各種の充填材を添加して、その欠点を補っている。
特許文献1においては、PTFEへの充填材として鉛が使用されており、また特許文献2においては、リン酸塩及び硫酸バリウムからなる群から選択される成分と、珪酸マグネシウム及びマイカからなる群から選択される成分と、鉛、錫、鉛錫合金及びこれらの混合物からなる群から選択される成分とが使用されている。
特公昭31−2452号公報 特開平08−41484号公報 特公昭61−52322号公報 実公平01−27495号公報
各種用途に使用される複層摺動部材において、充填材としての鉛又は鉛合金は、合成樹脂層の耐摩耗性を向上させる充填剤として広く使用されているが、近年、材料開発の動向は、環境問題への配慮から鉛又は鉛合金を充填材として使用しない方向に進んでいる。鉛又は鉛合金は、環境負荷物質であることから、環境汚染、公害などの見地からその使用を断念せざるを得ない状況下にある。
特許文献3においては、PTFEへの充填材として、鉛又は鉛合金の代わりに四ふっ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂を使用しているが、特殊な用途への適用においてのみ可能となるものであり、例えば上記した自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドへの適用においては、耐荷重性及び耐摩耗性の点で適用し難い。
本発明は上記諸点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、充填材として鉛又は鉛合金等の環境負荷物質を使用することなく、鉛又は鉛合金を含有した複層摺動部材よりも優れた耐摩耗性及び耐荷重性を発揮し得る複層摺動部材及びそれを用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドを提供することにある。
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、PTFEに特定量の硫酸バリウムと、珪酸マグネシウムと、リン酸塩と、酸化チタンとを配合することによって、鉛又は鉛合金を含有した複層摺動部材よりも優れた耐摩耗性及び耐荷重性を発揮する複層摺動部材が得られることを知見し、この複層摺動部材を使用した自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドにおいては、優れた耐摩耗性及び耐荷重性を発揮し、ラックバーの円滑な摺動を行わせることができることを知見した。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、本発明の複層摺動部材は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填されかつその表面に被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層とを有した複層摺動部材であって、該合成樹脂組成物が硫酸バリウム5〜30重量%と、珪酸マグネシウム1〜15重量%と、リン酸塩1〜25重量%と、酸化チタン0.5〜3重量%と、残部四ふっ化エチレン樹脂からなることを特徴とする。
成分中の硫酸バリウム(BaSO)は、主成分をなすPTFE単体の欠点である耐摩耗性及び耐荷重性を改善し、耐摩耗性及び耐荷重性を大幅に向上させる作用を有する。硫酸バリウムとしては、沈降性または簸性硫酸バリウムのいずれでもよい。斯かる硫酸バリウムは、例えば、堺化学工業(株)から市販されており、容易に入手することができる。使用される硫酸バリウムの平均粒径は、10μm以下、好ましくは1〜5μmである。硫酸バリウムの配合量は、5〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは10〜15重量%である。配合量が5重量%未満では、PTFEの耐摩耗性及び耐荷重性を向上させる効果を得ることが難しく、また配合量が30重量%を超えると、耐摩耗性を悪化させることがある。
珪酸マグネシウムは、その結晶構造が層状構造を呈し、せん断され易いことから、PTFE固有の性質である低摩擦性を充分に発揮させると共に、耐摩耗性を向上させる効果を有する。珪酸マグネシウムとしては、二酸化珪素(SiO)を通常40.0重量%以上及び酸化マグネシウム(MgO)を通常10.0重量%以上含有し、かつ、酸化マグネシウムに対する二酸化珪素の重量比が通常2.1〜5.0で、嵩が低く、比表面積が小さいものが好適に使用される。具体的には、2MgO・3SiO・nHO、2MgO・6SiO・nHOなどが例示される。酸化マグネシウムに対する二酸化珪素の重量比が2.1未満または5.0を超えるとPTFEの低摩擦性及び耐摩耗性を悪化させる。
珪酸マグネシウムの配合量は、1〜15重量%、好ましくは3〜13重量%、さらに好ましくは3〜10重量%である。配合量が1重量%未満では、上記した効果が充分発揮されず、また15重量%を超えると前記した硫酸バリウム配合によるPTFEの耐摩耗性及び耐荷重性を向上させる効果を損なうことになる。
リン酸塩は、それ自体黒鉛や二硫化モリブデンのような潤滑性を示す物質ではないが、PTFEに配合されることにより、相手材との摺動において、相手材表面(摺動摩擦面)へのPTFEの潤滑被膜の造膜性を助長する効果を発揮する。
リン酸塩としては、オルトリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、メタリン酸などの金属塩及びこれらの混合物を挙げることができる。中でも、ピロリン酸及びメタリン酸の金属塩が好ましい。金属としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、とくにリチウム(Li)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)がより好ましい。具体的には、リン酸三リチウム(LiPO)、ピロリン酸リチウム(Li)、ピロリン酸カルシウム(Ca)、ピロリン酸マグネシウム(Mg)、メタリン酸リチウム(LiPO)、メタリン酸カルシウム〔Ca(PO〕、メタリン酸マグネシウム〔Mg((PO等が例示される。中でも、メタリン酸マグネシウムが好ましい。
リン酸塩は、PTFEに対して少量、例えば1重量%配合することにより、PTFEの相手材表面への潤滑被膜の造膜性を助長する効果が現れ始め、25重量%まで当該効果は維持される。しかしながら、25重量%を超えて配合すると、相手材表面への潤滑被膜の造膜量が多くなり過ぎ、却って耐摩耗性を低下させることになる。したがって、リン酸塩の配合量は、1〜25重量%、好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは10〜15重量%である。
酸化チタン(TiO)は、PTFEの耐摩耗性を一層向上させる効果を発揮する。酸化チタンには結晶の形によって、正方晶系のルチル型、アナターゼ型そして斜方晶型のブルッカイト型の3種類があるが、本発明では正方晶系のアナターゼ型が使用されて好適である。このアナターゼ型の酸化チタンは、モース硬度5.5〜6.0を呈し、平均粒径が10μm以下、就中5μm以下のものが好ましく使用される。酸化チタンの配合量は、0.5〜3重量%、好ましくは0.5〜2重量%、さらに好ましくは1〜1.5重量%である。酸化チタンの配合量が0.5重量%未満では、PTFEの耐摩耗性を向上させる効果が現れず、また配合量が3重量%を超えると、相手材との摺動において相手材表面を損傷させる虞がある。
複層摺動部材の樹脂層の主成分をなすPTFEとしては、モールディングパウダーまたはファインパウダーとして主に成形用に使用されるPTFEが使用される。モールディングパウダーとしては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)7−J(商品名)」、「テフロン(登録商標)70−J(商品名)」など、ダイキン工業社製の「ポリフロン(登録商標)M−12(商品名)」など、旭硝子社製の「フルオン(登録商標)G163(商品名)」、「フルオン(登録商標)G190(商品名)」などが挙げられる。ファインパウダー用PTFEとしては、三井デュポンフロロケミカル社製の「テフロン(登録商標)6CJ(商品名)」など、ダイキン工業社製の「ポリフロン(登録商標)F201(商品名)」など、旭硝子社製の「フルオン(登録商標)CD076(商品名)」、「フルオン(登録商標)CD090(商品名)」などが挙げられる。
摺動層を形成する合成樹脂組成物中のPTFEの配合量は、樹脂組成物量から充填剤の配合量を差引いた残りの量であり、好ましくは50重量%以上、より好ましくは50〜75重量%である。
本発明の複層摺動部材の摺動層を形成する合成樹脂組成物には、耐摩耗性を一層向上させるために、追加成分として、固体潤滑剤及び/又は低分子量PTFEを加えることができる。
固体潤滑剤としては、黒鉛、二硫化モリブデンなどが挙げられる。固体潤滑剤の配合量は、0.1〜2重量%、好ましくは0.5〜1重量%である。これら固体潤滑剤は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
低分子量PTFEは、放射線照射などにより高分子量のPTFE(前記のモールディングパウダーまたはファインパウダー)を分解またはPTFEの重合時に分子量を調節して、分子量を低下させたPTFEである。具体的には、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP−10F(商品名)」など、ダイキン工業社製の「ルブロンL−5(商品名)」など、旭硝子社製の「フルオン(登録商標)L169J(商品名)」など、喜多村社製の「KTL−8N(商品名)」などが挙げられる。低分子量PTFEの配合量は、1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%である。
つぎに、鋼裏金と、この鋼裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填されかつ表面に被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層とを有する複層摺動部材の製造方法について説明する。
鋼裏金としては、一般構造用圧延鋼板が使用される。鋼板は、コイル状に巻いてフープ材として提供される連続条片を使用することが好ましいが、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片を使用することもできる。これらの条片は、必要に応じて銅メッキまたは錫メッキなどを施して耐食性を向上させたものであってもよい。鋼裏金としての鋼板の厚さは、概ね0.5〜1.5mmであることが好ましい。
多孔質金属焼結層を形成する金属粉末は、その金属自体、摩擦摩耗特性に優れた青銅、鉛青銅あるいはリン青銅などの、概ね100メッシュを通過する銅合金粉末が用いられるが、目的に応じては銅合金以外の、例えばアルミニウム合金、鉄などの粉末も使用し得る。この金属粉末の粒子形態は、塊状、球状または不規則形状のものを使用し得る。この多孔質金属焼結層は、合金粉末同志および前記鋼板等の条片と強固に結合されていて、一定の厚さと必要とする多孔度を備えていなければならない。この多孔質金属焼結層の厚さは、概ね0.15〜0.40mm、就中0.2〜0.3mmであることが好ましく、多孔度は、概ね10容積%以上、就中15〜40容積%であることが推奨される。
複層摺動部材の摺動層を形成する合成樹脂組成物は、PTFEと前述した各充填材とを混合した後、得られた混合物を石油系溶剤を加えて攪拌混合する方法により、湿潤性が付与された樹脂組成物が得られる。PTFEと充填材との混合は、PTFEの室温転移点(19℃)以下、好ましくは10〜18℃の温度で行なわれ、また得られた混合物と石油系溶剤との攪拌混合も上記と同様の温度で行なわれる。斯かる温度条件の採用により、PTFEの繊維状化が妨げられ、均一な混合物を得ることができる。
石油系溶剤としては、ナフサ、トルエン、キシレンのほか、脂肪族系溶剤またはナフテン系溶剤との混合溶剤が使用される。石油系溶剤の使用割合は、PTFE粉末と充填材との混合物100重量部に対し15〜30重量部とされる。石油系溶剤の使用割合が15重量部未満の場合は、後述する多孔質金属焼結層への充填被覆工程において、湿潤性が付与された合成樹脂組成物の展延性が悪く、その結果、焼結層への充填被覆にムラを生じ易くなる。一方、石油系溶剤の使用割合が30重量部を超える場合は、充填被覆作業が困難となるばかりでなく、合成樹脂組成物の被覆厚さの均一性が損なわれたり、合成樹脂組成物と焼結層との密着強度が悪くなる。
本発明の複層摺動部材は、以下の(a)〜(d)の工程を経て製造される。
(a)鋼薄板からなる裏金の表面に形成された多孔質金属焼結層の表面に湿潤性が付与された合成樹脂組成物を散布供給し、ローラで圧延して多孔質金属焼結層に合成樹脂組成物を充填するとともに多孔質金属焼結層の表面に一様な厚さの合成樹脂組成物からなる摺動層としての被覆層を形成する。この工程において、摺動層としての被覆層の厚さは、合成樹脂組成物が最終製品に必要とされる摺動層厚さの2〜2.2倍の厚さとされる。多孔質金属焼結層の孔隙中への樹脂組成物の充填は、当該工程でその大部分が進行する。
(b)上記(a)工程で処理された裏金を200〜250℃の温度に加熱された乾燥炉内で数分間保持することにより、石油系溶剤を除去し、その後、乾燥した合成樹脂組成物をローラによって所定の厚さになるように29.4〜58.8MPa(300〜600kgf/cm)の加圧下で加圧ローラ処理する。
(c)上記(b)工程で処理された裏金を加熱炉に導入して360〜380℃の温度で数分ないし10数分間加熱して焼成を行なった後、炉から取り出し、再度ローラ処理によって寸法のバラツキを調整する。
(d)上記(c)工程で寸法調整された裏金を冷却(空冷ないし自然冷却)し、その後、必要に応じて裏金のうねりなどを矯正するため、矯正ローラ処理を行ない、所望の摺動部材とする。
上記(a)〜(d)の工程を経て得られた複層摺動部材において、多孔質金属焼結層の厚さは0.10〜0.40mm、合成樹脂組成物から形成された摺動層としての被覆層の厚さは0.02〜0.15mmとされる。このようにして得られた摺動部材は、適宜の寸法に切断されて平板状態で滑り板として使用され、また丸曲げされて円筒状の巻きブッシュとして使用される。
ギアケースと、このギアケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向かって押圧するバネとを具備したラックピニオン式舵取装置において、本発明のラックガイドは、ギアケースの筒状の内周面に摺動自在に接する筒状の外周面を具備しており、複層摺動部材は、ラックバーの外周面に摺動自在に当接してラックバーを摺動自在に支持する凹面を摺動層に有している。
本発明において、ラックガイド基体は、円弧状凹面を備えていると共に該円弧状凹面の底部中央に円形の孔を備えていてもよく、複層摺動部材は、その摺動層に円弧状の凹面を備えていると共に該円弧状の凹面の底部中央に該底部から裏金側に伸びる中空円筒状の突出部を備えていてもよい。
ラックガイド基体の円弧状凹面に、該円弧状凹面に相補的な円弧状の凹面を備えた複層摺動部材が当該円弧状の凹面の裏面に突出する中空円筒状の突出部をラックガイド基体の円弧状凹面の底部中央に形成された円形の孔に嵌合させて着座せしめられて、当該複層摺動部材がラックガイド基体に固着されてなるラックガイドが形成される。
本発明において、ラックガイド基体は、互いに対向する一対の平坦面と一対の平坦面の夫々から相対向して一体的に伸びる一対の傾斜面と一対の平坦面から一体的に伸びる底平坦面とを有した凹面を備えると共に該凹面の底部中央に円形の孔を備えていてもよく、複層摺動部材は、相対向する一対の傾斜面部と該傾斜面部の夫々に連続する一対の平坦面部と該平坦面部の夫々に連続する底面部と該底面部の中央に裏金側に伸びる中空円筒状の突出部とを具備していてもよい。
ラックガイド基体の凹面には、相対向する一対の傾斜面部と該傾斜面部の夫々に連続する一対の平坦面部と該平坦面部の夫々に連続する底面部と該底面部の中央に裏金側に伸びる中空円筒状の突出部とを具備した複層摺動部材が該底面部の中央の突出部をラックガイド基体の凹面の底部中央の孔に嵌合させて着座せしめられて、当該複層摺動部材がラックガイド基体に固着されてなるラックガイドが形成される。
本発明によれば、鉛等の環境負荷物質を含有しない複層摺動部材であって、鉛等を含有した複層摺動部材よりも優れた耐摩耗性及び耐荷重性を発揮する複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いた自動車のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドを提供することができる。
図1は本発明の好ましい一例の複層摺動部材の断面図である。 図2はラックピニオン式舵取装置を示す断面図である。 図3は本発明の複層摺動部材を使用したラックガイドの図4に示すIII−III線断面図である。 図4は図3に示すラックガイドの平面図である。 図5は本発明の複層摺動部材を使用した他のラックガイドの図6に示すV−V線断面図である。 図6は図5に示すラックガイドの平面図である。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1〜5
硫酸バリウムとして簸性硫酸バリウム(堺化学工業社製)と、珪酸マグネシウムとしてSiO/MgOが2.2の重質珪酸マグネシウム(協和化学工業社製)と、リン酸塩としてメタリン酸マグネシウムと、酸化チタンとして正方晶系のアナターゼ型酸化チタンと、PTFEとしてファインパウダー用PTFE(ダイキン工業社製の「ポリフロン(登録商標)F201(商品名)」を準備し、表2に示す合成樹脂組成物をヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合し、得られた混合物100重量部に対して、石油系溶剤として脂肪族溶剤とナフテン系溶剤との混合溶剤(エクソン化学社製の「エクソール(商品名)」)20重量部を配合し、PTFEの室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、湿潤性を有する合成樹脂組成物を得た。
得られた合成樹脂組成物を鋼裏金としての鋼板(厚さ0.7mm)の表面に形成された多孔質金属(青銅)焼結層(厚さ0.25mm)の表面に散布供給し、合成樹脂組成物の厚さが0.25mmとなるようにローラで圧延して多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆した複層板を得た。得られた複層板を200℃の熱風乾燥炉中に5分間保持して溶剤を除去した後、乾燥した合成樹脂組成物をローラによって加圧力39.2MPa(400kgf/cm)にて圧延し、多孔質金属焼結層の表面に被覆された合成樹脂組成物の厚さを0.10mmとした。
つぎに、加圧処理した複層板を加熱炉で370℃の温度にて10分間加熱焼成した後、寸法調整及びうねりなどの矯正を行って複層摺動部材を作製した。図1は、このようにして得られた複層摺動部材51を示す断面図であり、図中、符号52は鋼板からなる裏金、53は裏金52の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層、54は多孔質金属焼結層53の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層である。矯正の終了した複層摺動部材を切断し、曲げ加工を施し、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの半円筒状の複層摺動部材試験片を得た。
実施例6〜10
前記実施例1〜3の合成樹脂組成物(表2)に対し、追加成分として固体潤滑剤としての黒鉛、二硫化モリブデン及び/又は低分子量PTFEとしてダイキン工業社製の「ルブロンL−5(商品名)」を配合して表3に示す合成樹脂組成物を作製し、前記実施例と同様の方法により、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの半円筒状の複層摺動部材試験片を得た。
比較例1
表4に示すように、PTFE(前記実施例と同じ)80重量%と鉛粉末20重量%とをヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合し、得られた混合物100重量部に対して、石油系溶剤として脂肪族溶剤とナフテン系溶剤の混合溶剤(前記実施例と同じ)20重量部を配合し、PTFEの室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、合成樹脂組成物を得た。ついで、前記実施例と同様の方法で、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの半円筒状の複層摺動部材試験片を得た。
比較例2
表4に示すように、硫酸バリウムとして簸性硫酸バリウム(前記実施例と同じ)15重量%と、珪酸マグネシウムとしてSiO/MgOが2.2の重質珪酸マグネシウム(前記実施例と同じ)15重量%と、鉛粉末20重量%と、残部PTFEとしてファインパウダー用PTFE(前記実施例1と同じ)をヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合し、得られた混合物100重量部に対して、石油系溶剤として脂肪族溶剤とナフテン系溶剤の混合溶剤(前記実施例と同じ)20重量部を配合し、PTFEの室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、合成樹脂組成物を得た。ついで、前記実施例と同様の方法で、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの半円筒状の複層摺動部材試験片を得た。
比較例3
表4に示すように、硫酸バリウムとして簸性硫酸バリウム(前記実施例と同じ)10重量%と、珪酸マグネシウムとしてSiO/MgOが2.2の重質珪酸マグネシウム7重量%と、リン酸塩としてメタリン酸マグネシウム10重量%と、残部PTFEとしてファインパウダー用PTFE(前記実施例1と同じ)をヘンシェルミキサー内に供給して撹拌混合し、得られた混合物100重量部に対して、石油系溶剤として脂肪族溶剤とナフテン系溶剤の混合溶剤(前記実施例と同じ)20重量部を配合し、PTFEの室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、合成樹脂組成物を得た。ついで、前記実施例と同様の方法で、半径10.0mm、長さ20.0mm、厚さ1.05mmの半円筒状の複層摺動部材試験片を得た。
前記実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例3で得た半円筒状の複層摺動部材試験片について、つぎの試験方法により摺動特性を評価した。
往復動摺動試験
表1に記載の条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後以降試験終了までの摩擦係数の変動値を示し、摩耗量については、試験時間(8時間)終了後の摺動面の寸法変化量で示した。試験結果を表2〜表4に示す。
(表1)
すべり速度 3m/min
荷重 200kgf
時間 8時間
潤滑 試験前に摺動面に鉱油系グリース〔協働油脂社製の「ワンルーバーMO
(商品名)」〕塗布
相手材 高炭素クロム軸受鋼(SUJ2:JIS G 4805)
Figure 2014095089
Figure 2014095089
Figure 2014095089
以上の試験結果から、実施例1〜実施例10の複層摺動部材と比較例1〜比較例3の複層摺動部材とを比較すると、摩擦係数については、両者ほぼ同等の性能を示したのに対し、摩耗量については、実施例の複層摺動部材の方が少なく耐摩耗性に優れていることがわかる。
次に、上記した複層摺動部材を用いたラックピニオン式舵取装置におけるラックガイドについて説明する。
図2から図4において、ラックピニオン式舵取装置1は、中空部2を有したアルミニウム又はアルミニウム合金製のギアケース3と、ギアケース3にころがり軸受4及び5を介して回転自在に支持されたステアリング軸6と、中空部2に配されて、ステアリング軸6の軸端部(ピニオン軸)に一体的に設けられたピニオン7と、ピニオン7に噛み合うラック歯8が形成されたラックバー9と、ギアケース3の中空部2内に配されて、ラックバー9を摺動自在に支持するラックガイド10と、ラックガイド10をラックバー9に向かって押圧するコイルばね11とを具備している。
ギアケース3は円筒部12を有しており、ステアリング軸6の軸心に対して直角な方向においてギアケース3を貫通して、当該直角な方向に移動自在に配されたラックバー9は、ラック歯8が形成された面に対向する裏面側に円弧状外周面13を有している。
ラックガイド10は、円弧状凹面14を有すると共に、凹所15及び凹所15に連通して円弧状凹面14の底部中央に形成された円形の孔16を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、亜鉛又は亜鉛合金、鉄系焼結金属のいずれかから形成されるラックガイド基体17と、該円弧状凹面14と相補的な形状の円弧状の凹面18及び該凹面18の底部中央に該底部から裏金側に伸びると共に補強部としての先端閉塞部19が一体的に形成された中空円筒状の突出部20を有すると共に当該突出部20が貫通孔からなる孔16に嵌着されて、円弧状凹面14に密に着座するようにラックガイド基体17に固着された湾曲状の摺動板片21とから構成されており、摺動板片21として、図1に示すような、鋼板からなる裏金52と、裏金52の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層53と、多孔質金属焼結層53の孔隙に充填されかつその表面に被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層54とを有しており、該合成樹脂組成物が硫酸バリウム5〜30重量%と、珪酸マグネシウム1〜15重量%と、リン酸塩1〜25重量%と、酸化チタン0.5〜3重量%と、残部四ふっ化エチレン樹脂とからなる複層摺動部材51が使用されており、複層摺動部材51としての摺動板片21は、ラックバー9の外周面、本例では図示の円弧状の外周面13に摺動自在に当接してラックバー9を摺動自在に支持する凹面18をその摺動層54に有している。ラックガイド基体17は、円筒状の外周面22でギアケース3の円筒部12の内周面23に摺動隙間をもって摺動自在に接しており、これによりラックガイド10はステアリング軸6の軸心に対して直角な方向に移動自在となっている。
ラックピニオン式舵取装置1に用いることのできるラックガイドの他の例を示す図5及び図6のラックガイド10は、軸方向の一方の端部側に、互いに対向する一対の平坦面24と一対の平坦面24の夫々から相対向して一体的に伸びる一対の傾斜面25と一対の平坦面24から一体的に伸びる底平坦面26とを有した凹面27を備えると共に、軸方向の他方の端部側に凹所28を備えると共に該凹面27の底部中央に円形の孔29を有するアルミニウム又はアルミニウム合金、亜鉛又は亜鉛合金、鉄系焼結金属のいずれかから形成されるラックガイド基体30と、相対向する一対の傾斜面部31、傾斜面部31の夫々に連続する一対の平坦面部32、平坦面部32の夫々に連続する底面部33及び底面部33の中央に裏金側に伸びると共に補強部としての先端閉塞部34が一体的に形成された中空円筒状の突出部35を有すると共に突出部35が孔29に嵌着されて、凹面27に着座するようにラックガイド基体30に固着された摺動板片36とから構成されており、一対の傾斜面部31、一対の平坦面部32及び底面部33の外部露出面によって凹面38が形成されており、摺動板片36として前記複層摺動部材51が使用されており、複層摺動部材51としての摺動板片36は、ラックバー9の外周面、本例では凹面38に相補的な形状の外周面(図示せず)に摺動自在に当接してラックバー9を摺動自在に支持する凹面38をその摺動層54に有している。ラックガイド基体30は、円筒状の外周面37でギアケース3の円筒部12の内周面23に摺動隙間をもって摺動自在に接しており、これによりラックガイド10はステアリング軸6の軸心に対して直角な方向に移動自在となっている。
以上のラックピニオン式舵取装置1において、ラックガイド10は、ステアリング軸6の回転において、ラック歯8のピニオン7への噛み合いを確保して、しかも、当該噛み合いによるステアリング軸6の軸心に対して直角な方向にラックバー9の移動を案内する。
本発明の複層摺動部材は、PTFEへの充填材として、環境負荷物質である鉛を含有した従来の複層摺動部材よりも優れた摩擦摩耗特性、とくに耐摩耗性に優れていることを示した。そして、摩擦摩耗特性に優れた複層摺動部材をラックガイドの摺動板片に適用した場合、同様に優れた摩擦摩耗特性を示し、長期にわたってラックバーの円滑な摺動を確保することができる。
1 ラックピニオン式舵取装置
3 ギアケース
6 ステアリング軸
7 ピニオン
9 ラックバー
10 ラックガイド
17 ラックガイド基体
21 摺動板片
51 複層摺動部材
52 裏金
53 多孔質金属焼結層
54 摺動層

Claims (9)

  1. 鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層と、該多孔質金属焼結層の孔隙に充填されかつその表面に被覆された合成樹脂組成物からなる摺動層とを有した複層摺動部材であって、該合成樹脂組成物が硫酸バリウム5〜30重量%と、珪酸マグネシウム1〜15重量%と、リン酸塩1〜25重量%と、酸化チタン0.5〜3重量%と、残部四ふっ化エチレン樹脂とからなることを特徴とする複層摺動部材。
  2. 酸化チタンは、モース硬度5.5〜6.0を呈するアナターゼ型酸化チタンである請求項1に記載の複層摺動部材。
  3. 合成樹脂組成物は、追加成分として黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン及び窒化硼素の群から選択される固体潤滑剤を0.1〜2重量%含有する請求項1又は2に記載の複層摺動部材。
  4. 合成樹脂組成物は、追加成分として低分子量の四ふっ化エチレン樹脂を1〜10重量%含有する請求項1から3のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
  5. ギアケースと、このギアケースに回転自在に支持されたピニオンと、このピニオンに噛み合うラック歯が形成されたラックバーと、このラックバーを摺動自在に支持するラックガイドと、このラックガイドをラックバーに向かって押圧するばねとを具備したラックピニオン式舵取装置において、ラックガイドは、ギアケースの筒状の内周面に摺動自在に接する筒状の外周面を有したラックガイド基体と、ラックガイド基体に裏金側で固着された請求項1から4のいずれかに一項に記載の複層摺動部材とを具備しており、複層摺動部材は、ラックバーの外周面に摺動自在に摺接してラックバーを摺動自在に支持する凹面をその摺動層に有しているラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド。
  6. ラックガイド基体は、円弧状凹面を備えていると共に該円弧状凹面の底部中央に貫通孔を備えている請求項5に記載のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド。
  7. 複層摺動部材は、その摺動層に円弧状の凹面を備えていると共に該円弧状の凹面の底部中央に該底部からその裏金側に伸びる中空円筒状の突出部を備えている請求項5又は6に記載のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド。
  8. ラックガイド基体は、互いに対向する一対の平坦面と一対の平坦面の夫々から相対向して伸びる一対の傾斜面と一対の平坦面から一体的に伸びる底平坦面とを有した凹面を備えると共に該凹面の底部中央に貫通孔を備えている請求項5に記載のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド。
  9. 複層摺動部材は、相対向する一対の傾斜面部と該傾斜面部の夫々に連続する一対の平坦面部と該平坦面部の夫々に連続する底面部とを備えていると共に該底面部の中央に裏金側に伸びる中空円筒状の突出部を具備している請求項5又は8に記載のラックピニオン式舵取装置におけるラックガイド。
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