[実施形態]
以下、本発明の実施形態として構造化照明顕微鏡装置を説明する。
図1は、構造化照明顕微鏡装置1の構成図である。ここでは、構造化照明顕微鏡装置1を、蛍光性を有した試料(標本)2の表面の極めて薄い層を観察する全反射蛍光顕微鏡(TIRFM:Total Internal Reflection Fluorescence Microscopy)として使用する場合、すなわち、構造化照明顕微鏡装置1を「TIRF−SIMモード」で使用する場合を説明する。
先ず、構造化照明顕微鏡装置1の構成を説明する。
図1に示すとおり構造化照明顕微鏡装置1には、レーザユニット100と、光ファイバ11と、照明光学系10と、結像光学系30と、撮像素子42と、制御装置43と、画像記憶・演算装置44と、画像表示装置45とが備えられる。なお、照明光学系10は落射型であり、結像光学系30の対物レンズ31及びダイクロイックミラー33を利用して標本2の照明を行う。
レーザユニット100には、第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ103、104、ミラー105、ダイクロイックミラー106、レンズ107が備えられる。第1レーザ光源101及び第2レーザ光源102の各々は可干渉光源であって、互いの出射波長は異なる。ここでは、第1レーザ光源101の波長λ1は、第2レーザ光源102の波長λ2よりも長いと仮定する(λ1>λ2)。これらの第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ103、104は、それぞれ制御装置43によって駆動される。
光ファイバ11は、レーザユニット100から射出したレーザ光を導光するために、例えば、偏波面保存型のシングルモードファイバによって構成される。この光ファイバ11の出射端の光軸方向の位置は、位置調節機構11Aによって調節可能である。この位置調整機構11Aは、制御装置43によって駆動される。
照明光学系10には、光ファイバ11の出射端側から順に、コレクタレンズ12と、偏光板13と、集光レンズアレイ14と、位相板16と、1/2波長板19と、光束選択部材20と、レンズ21と、視野絞り22と、フィールドレンズ23と、励起フィルタ24と、ダイクロイックミラー33と、対物レンズ31とが配置される。
集光レンズアレイ14には間隔調整機構14Aが設けられ、位相板16には回動機構16Aが設けられ、光束選択部材20及び1/2波長板19には回動機構18Aが設けられる。これらの間隔調整機構14A、回動機構16A、回動機構18Aの各々は、制御装置43によって駆動される。
結像光学系30には、標本2の側から順に、対物レンズ31と、ダイクロイックミラー33と、吸収フィルタ34と、第2対物レンズ35とが配置される。
対物レンズ31は、交換機構31Aによって倍率の異なる別の対物レンズ31’へと交換可能である。この交換機構31Aは、制御装置43によって駆動される。
標本2は、例えば、平行平板状のガラス表面に滴下された培養液であって、その培養液におけるガラス界面の近傍には、蛍光性を有した細胞が存在している。この細胞には、波長λ1の光によって励起される第1蛍光領域と、波長λ2の光によって励起される第2蛍光領域との双方が発現している。
対物レンズ31は、全反射蛍光観察を可能とするために、液浸型(油浸型)の対物レンズとして構成される。つまり、対物レンズ31と標本2のガラスとの間隙は、浸液(油)で満たされている。
撮像素子42は、CCDやCMOS等からなる二次元の撮像素子である。撮像素子42は、制御装置43によって駆動されると、その撮像面41に形成された像を撮像し、画像を生成する。この画像は、制御装置43を介して画像記憶・演算装置44へと取り込まれる。
制御装置43は、レーザユニット100、位置調整機構11A、間隔調整機構14A、回動機構16A、回動機構18A、交換機構31A、撮像素子42を駆動制御する。
画像記憶・演算装置44は、制御装置43を介して与えられた画像に対して演算を施し、演算後の画像を不図示の内部メモリに格納すると共に、画像表示装置45へ送出する。
次に、構造化照明顕微鏡装置1におけるレーザ光の振る舞いを説明する。
第1レーザ光源101から射出した波長λ1のレーザ光(第1レーザ光)は、シャッタ103を介してミラー105へ入射すると、ミラー105を反射し、ダイクロイックミラー106へ入射する。一方、第2レーザ光源102から射出した波長λ2のレーザ光(第2レーザ光)は、シャッタ104を介してビームスプリッタ106へ入射し、第1レーザ光と統合される。ダイクロイックミラー106から射出した第1レーザ光及び第2レーザ光は、レンズ107を介して光ファイバ11の入射端に入射する。なお、制御装置43がレーザユニット100を制御すると、光ファイバ11の入射端に入射するレーザ光の波長(=使用波長λ)は、長い波長λ1と短い波長λ2との間で切り替わる。
光ファイバ11の入射端に入射したレーザ光は、光ファイバ11の内部を伝搬して光ファイバ11の出射端に点光源を生成する。その点光源から射出したレーザ光は、コレクタレンズ12によって平行光束に変換され、偏光板13を介して集光レンズアレイ14へ入射すると、集光レンズアレイ14が有する複数対の集光レンズにより、複数対の光束に分割される。これら複数対の光束は、それら集光レンズによって瞳共役面25の互いに異なる位置に集光される。
ここで、瞳共役面25は、集光レンズアレイ14の個々の集光レンズの焦点位置(後ろ側焦点位置)であって、対物レンズ31の瞳面32に対してレンズ23、レンズ21を介して共役な位置のことである(なお、「共役な位置」の概念には、集光レンズアレイ14、レンズ21、23の収差、ビネッティング等、設計上必要な事項を考慮して決定した位置も含まれる。)。
なお、光ファイバ11から射出したレーザ光は基本的に直線偏光しているので、偏光板13は、省略することも可能であるが、余分な偏光成分を確実にカットするために有効である。また、レーザ光の利用効率を高めるため、偏光板13の軸は、光ファイバ11から射出したレーザ光の偏光方向に一致していることが望ましい。
瞳共役面25に向かった複数対の光束は、瞳共役面25の近傍に配置された、位相板16、1/2波長板19、光束選択部材20へ順に入射する。
ここで、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置1は、全反射蛍光顕微鏡として利用されるので、光束選択部材20は、入射した複数対の光束のうち、1対の光束のみを選択的に通過させる。
光束選択部材20を通過した1対の光束の各々は、レンズ21によって平行光束となり、視野絞り22を通過し、フィールドレンズ23によって集光光束となり、さらに励起フィルタ24を経てからダイクロイックミラー33で反射し、対物レンズ31の瞳面32上の互いに異なる位置に集光される。
瞳面32上に集光した1対の光束の各々は、対物レンズ31の先端から射出される際には平行光束となり、標本2の表面で互いに干渉し、干渉縞を形成する。この干渉縞が、構造化照明光として使用される。
また、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置1は、全反射蛍光顕微鏡として利用されるので、標本2の表面に入射する際の入射角度は、エバネッセント場の生成条件を満たしている。この条件は、全反射条件(TIRF条件)などと呼ばれる。このTIRF条件を満たすためには、瞳面32における1対の光束の集光点を、瞳面32の最外周に位置する所定の輪帯状領域(TIRF領域)に収めればよい(詳細は後述)。この結果、標本2の表面近傍には、構造化照明光によるエバネッセント場が生起する。
このような構造化照明光により標本2を照明すると、構造化照明光の周期構造と標本2の(蛍光領域の)周期構造との差に相当するモアレ縞が現れるが、このモアレ縞においては、標本2の高周波数の構造が元の周波数より低周波数側にシフトしているため、この構造を示す光(蛍光)は、元の角度よりも小さい角度で対物レンズ31へ向かうことになる。よって、構造化照明光により標本2を照明すると、標本2の(蛍光領域の)高周波数の構造情報までもが対物レンズ31によって伝達される。
標本2の表面近傍(エバネッセント場)で発生した蛍光は、対物レンズ31に入射すると、対物レンズ31で平行光に変換された後、ダイクロイックミラー33とバリアフィルタ34を透過し、第2対物レンズ35を介して撮像素子42の撮像面41上に標本2の変調像を形成する。
この変調像は、撮像素子42により画像化され、制御装置43を介して画像記憶・演算装置44へと取り込まれる。さらに、取り込まれた変調像(変調画像)には、画像記憶・演算装置44において公知の復調演算(詳細は後述)が施され、復調画像(超解像画像)が生成される。そして、この超解像画像は、画像記憶・演算装置44の内部メモリ(図示せず)に記憶されるとともに、画像表示装置45へと送出される。
次に、集光レンズアレイ14を詳しく説明する。
図2は、集光レンズアレイ14を説明する図である。図2(A)は、集光レンズアレイ14を光軸方向から見た図であり、図2(B)は、集光レンズアレイ14で分割された3対の光束が瞳共役面に形成する3対の集光点の位置関係を示す図である。
図2(A)に示すように、集光レンズアレイ14は、光軸と垂直な第1方向V1、第2方向V2、第3方向V3の各々にかけて1対ずつ集光レンズを配列したマルチ集光レンズである。第1方向V1と、第2方向V3と、第3方向V3とは、120°ずつずれた3つの方向である。
図2では、第1方向V1に配列された1対の集光レンズに符号14−1、14−1’を付し、第2方向V2に配列された1対の集光レンズに符号14−2、14−2’を付し、第3方向V3に配列された1対の集光レンズに符号14−3、14−3’を付した。
第1方向V1に関する構成(1対の集光レンズ14−1、14−1’)と、第2方向V2に関する構成(1対の集光レンズ14−2、14−2’)と、第3方向V3に関する構成(1対の集光レンズ14−3、14−3’)とは、互いに等しい。ここでは、代表して第1方向V1に関する構成(1対の集光レンズ14−1、14−1’)のみを説明する。
1対の集光レンズ14−1、14−1’の位置関係は、照明光学系10の光軸に関して対称な位置関係に設定される。このうち、一方の集光レンズ14−1のレンズ特性(レンズの構成、焦点距離など)と、他方の集光レンズ14−1’のレンズ特性(レンズの構成、焦点距離など)とは、互いに等しい。
以上の集光レンズアレイ14に入射した平行光束は、第1方向V1にかけて分割された第1光束対と、第2方向V2にかけて分割された第2光束対と、第3方向V3にかけて分割された第3光束対とに変換される。
これら第1光束対、第2光束対、第3光束対は、集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’、14−3、14−3’の各々の集光作用により、瞳共役面内の互いに異なる位置に集光される。
そして、図2(B)に示すように、第1光束対の集光点25d、25gは、照明光学系10の光軸に関して対称であり、集光点25d、25gの配列方向は第1方向V1に対応している。
また、第2光束対の集光点25c、25fは、照明光学系10の光軸に関して対称であり、集光点25c、25fの配列方向は、第2方向V2に対応している。なお、第2光束対の集光点25c、25fから照明光学系10の光軸までの距離は、第1光束対の集光点25d、25gから照明光学系10の光軸までの距離と同じである。
また、第3光束対の集光点25b、25eは、光軸に関して対称であり、集光点25b、25eの配列方向は、第3方向V3に対応している。なお、第3光束対の集光点25b、25eから照明光学系10の光軸までの距離は、第1光束対の集光点25d、25gから照明光学系10の光軸までの距離と同じである。
このように、本実施形態では、1対の光束を生成する手段として回折格子ではなく集光レンズアレイ14を使用する。屈折を利用したレンズは、回折を利用した回折格子と異なり、光の進行方向の波長依存性が基本的に小さい。よって、本実施形態では、瞳共役面に形成される各集光点の位置関係を、使用波長λの切り替えに依らず維持することができる。
次に、1/2波長板19及び光束選択部材20を詳しく説明する。
図3は1/2波長板19を説明する図であり、図4は、光束選択部材20を説明する図である。図3に示すとおり、1/2波長板19は、入射した第1光束対、第2光束対、第3光束対の偏光方向を設定し、図4に示すとおり、光束選択部材20は、第1光束対、第2光束対、第3光束対のうち何れか1対のみを選択的に通過させるマスクである。
1/2波長板19及び光束選択部材20は、回動機構18Aによって照明光学系10の光軸の周りに回動可能である。光束選択部材20を照明光学系10の光軸の周りに回動させると、選択される光束対を第1光束対、第2光束対、第3光束対の間で切り替えることができ、光束選択部材20に連動して1/2波長板19を照明光学系10の光軸の周りに回動させると、選択された光束対が標本2に入射するときの偏光方向をS偏光に保つことができる。つまり、1/2波長板19及び光束選択部材20は、干渉縞の状態を保ちつつ、干渉縞の方向を切り替えることができる。以下、縞の状態を保つための条件を具体的に説明する。
先ず、1/2波長板19の進相軸の向きは、選択される光束対の分割方向(第1方向V1〜第3方向V3のいずれか)に対して、光束対の偏光方向が垂直となるように設定される必要がある。なお、ここでいう1/2波長板19の進相軸とは、その軸の方向に偏光した光が1/2波長板19を通過するときの位相遅延量が最小となるような方向のことである。
また、光束選択部材20の開口パターンは、互いに対を成す光束の一方及び他方を個別に通過させる第1の開口部20A及び第2の開口部20Bからなり、照明光学系10の光軸周りにおける第1の開口部20Aの長さ及び第2の開口部20Bの長さは、前述した方向に直線偏光した光束が通過できるような長さに設定されている。よって、第1の開口部20A及び第2の開口部20Bの各々の形状は、部分輪帯状に近い形状である。
ここで、図3(A)に示すように、1/2波長板19の進相軸の方向が偏光板13の軸の方向と平行になるときの1/2波長板19の回転位置を、1/2波長板19の回転位置の基準とする(以下、「第1の基準位置」と称する。)。
また、光束選択部材20の光束選択方向(=選択される光束対の分割方向)が、偏光板13の軸の方向と垂直になるときの光束選択部材20の回転位置を、光束選択部材20の回転位置の基準とする(以下、「第2の基準位置」と称する。)。
このとき、図3(B)に示すように、1/2波長板19の第1基準位置からの回転量は、光束選択部材20の第2基準位置からの回転量の2分の1に制御されるべきである。
すなわち、1/2波長板19の第1基準位置からの回転量がθ/2であるときには、光束選択部材20の第2基準位置からの回転量は、θに設定される。
したがって、第1光束対(分割方向は第1方向V1)を選択するために、図4(A)に示すように、光束選択部材20の光束選択方向を第2の基準位置から右方に回転角θ1だけ回転させた場合、1/2波長板19の進相軸の方向を、第1の基準位置から右方に回転角θ1/2だけ回転させる。
このとき、1/2波長板19を通過する前における第1光束対の偏光方向は、図4(A)中に破線両矢印で示すとおり、偏光板13の軸の方向と平行となっているのに対し、1/2波長板19を通過した後における第1光束対の偏光方向は、右方に回転角θ1だけ回転するので、選択された第1光束対の偏光方向は、図4(A)に実線両矢印で示すとおり、それら第1光束対の分割方向(第1方向V1)に対して垂直となる。
換言すると、1/2波長板19の進相軸の方向は、光束選択部材20により選択される第1光束対の分割方向(=第1方向V1)に応じた方向であって、1/2波長板19へ入射する第1光束対が有していた偏光方向(偏光板13の軸方向)と、1/2波長板19から射出する第1光束対が有するべき偏光方向(第1方向V1に垂直)とが成す角度の2等分線方向に、設定される。
また、第2光束対(分割方向は第2方向V2)を選択するために、図4(B)に示すように、光束選択部材20の光束選択方向を第2の基準位置から右方に回転角θ2だけ回転させた場合、1/2波長板19の進相軸の方向を、第1の基準位置から右方に回転角θ2/2だけ回転させる。
このとき、1/2波長板19を通過する前における第2光束対の偏光方向は、図4(B)中に破線両矢線で示すとおり、偏光板13の軸の方向と平行となっているのに対し、1/2波長板19を通過した後における第2光束対の偏光方向は、右方に回転角θ2だけ回転するので、選択された第2光束対の偏光方向は、図4(B)に実線両矢印で示すとおり、それら第2光束対の分割方向(第2方向V2)に対して垂直となる。
換言すると、1/2波長板19の進相軸の方向は、光束選択部材20により選択される第2光束対の分割方向(=第2方向V2)に応じた方向であって、1/2波長板19へ入射する第2光束対が有していた偏光方向(偏光板13の軸方向)と、1/2波長板19から射出する第2光束対が有するべき偏光方向(第2方向V2に垂直)とが成す角度の2等分線方向に、設定される。
また、第3光束対(分割方向は第3方向V3)を選択するために、図4(C)に示すように、光束選択部材20の光束選択方向を第2の基準位置から左方(標本側から見て。以下同じ)に回転角θ3だけ回転させた場合、1/2波長板19の進相軸の方向を、第1の基準位置から左方に回転角θ3/2だけ回転させる。
このとき、1/2波長板19を通過する前における第3光束対の偏光方向は、図4(C)中に破線両矢線で示すとおり、偏光板13の軸の方向と平行となっているのに対し、1/2波長板19を通過した後における第3光束対の偏光方向は、左方に回転角θ3だけ回転するので、選択された光束対の偏光方向は、図4(C)に実両矢印で示すとおり、それら第3光束対の分割方向(第3方向V3)に対して垂直となる。
換言すると、1/2波長板19の進相軸の方向は、光束選択部材20により選択される第3光束対の分割方向(=第3方向V3)に応じた方向であって、1/2波長板19へ入射する第3光束対が有していた偏光方向(偏光板13の軸方向)と、1/2波長板19から射出する第3光束対が有するべき偏光方向(第3方向V3に垂直)とが成す角度の2等分線方向に、設定される。
したがって、1/2波長板19及び光束選択部材20に設けられた回動機構18Aは、1/2波長板19及び光束選択部材20をギア比2:1で連動することにより、干渉縞の状態を維持したまま、干渉縞の方向を切り替える。
図5は、以上説明した1/2波長板19及び光束選択部材20の機能を説明する図である。なお、図5において円形枠で囲まれた両矢線は、光束の偏光方向を示し、四角枠で囲まれた両矢線は、光学素子の軸方向を示している。
なお、以上の説明では、標本2に入射する光束対をS偏光に保つために回動可能な1/2波長板19を使用したが、回動可能な1/2波長板19の代わりに固定配置された液晶素子を使用し、その液晶素子を1/2波長板19として機能させてもよい。液晶素子の配向を電気的に制御すれば、液晶素子の屈折率異方性を制御することができるので、1/2波長板としての進相軸を照明光学系10の光軸周りに回転させることができる。因みに、標本2に入射する光束対をS偏光に保つための方法は他にもある。
また、図6に示すように、光束選択部材20の外周部には、複数の(図6に示す例では6個の)切り欠き20Cが形成されており、回動機構18Aには、これらの切り欠き20Cを検出するためのタイミングセンサ20Dが備えられている。これによって、回動機構18Aは、光束選択部材20の回動位置、ひいては1/2波長板19の回動位置を検知することができる。
次に、位相板16を詳しく説明する。
図7は、位相板16を説明する図である。
先ず、上述した復調演算を可能とするためには、同一の標本2に関する変調画像であって、干渉縞の方向が共通で位相の異なる3枚以上の変調画像が必要である。なぜなら、構造化照明顕微鏡装置1が生成する変調画像には、標本2の構造のうち、構造化照明光により空間周波数の変調された構造情報である0次変調成分、+1次変調成分、−1次変調成分が含まれており、それら3つの未知パラメータを復調演算(詳細は後述)で既知とするためには、それら未知パラメータの個数以上の枚数の変調画像が必要だからである。
そこで、本実施形態の位相板16としては、例えば、米国発行特許発明第7848017明細書に開示された位相板が使用される。ここでは、位相板16の一例を説明する。
位相板16は、図7に示すように、位相遅延量の異なる2つの扇状領域を照明光学系10の光軸(z軸)の周りに設けており、一方の扇状領域16aの位相遅延量を0とおくと、他方の扇状領域16bの位相遅延量は、2π/3に設定されている。また、一方の扇状領域16aの中心角度は120°、他方の扇状領域16bの中心角度は240°に設定されている。
なお、扇状領域16aの位相遅延量と、扇状領域16bの位相遅延量との間に差異を設けるには、例えば、扇状領域16a、16bのうち、一方にのみ所定厚さのSiO2膜を蒸着すればよい。或いは、扇状領域16a、16bに対して厚さの異なるSiO2膜を蒸着すればよい。
また、位相板16は、照明光学系10の光軸の周りに回動可能である。その回動位置を適切に設定すれば、光束選択部材20により選択される1対の光束の間に適切な位相差Δφを与えることができる。また、位相板16の回動位置を適切なパターンで切り替えれば、1対の光束の位相差Δφを、適切なパターンで切り替えることができる。
図8は、位相差Δφをシフトピッチ「2π/3」で3通りに切り替えるために必要な、位相板16の回動パターンを示す図である。図8の上段は、選択される1対の光束の分割方向が第1方向V1である場合の回動パターンであり、図8の中段は、選択される1対の光束の分割方向が第2方向V2である場合の回動パターンであり、図8の下段は、選択される1対の光束の分割方向が第3方向V3である場合の回動パターンである。
したがって、位相板16に設けられる回動機構16Aは、位相板16の回動位置を120°ずつ切り替えることにより、選択される1対の光束の間の位相差Δφを、2π/3ずつシフトすることができる。これに伴い、干渉縞の位相もシフトする。
次に、全反射条件(TIRF条件)を満たすための構成を詳しく説明する。
本実施形態では、TIRF条件を満たすために、集光レンズアレイ14の個々の集光レンズの光軸から照明光学系10の光軸(=集光レンズアレイ14の光軸)までの距離dは、以下の条件式(1)を満たしている。
(nw・fo)/β ≦ d ≦ (NA・fo )/β…(1)
但し、nwは標本2の屈折率、foは対物レンズ31の焦点距離、βは集光レンズの集光位置から瞳面32までの倍率、NAは対物レンズ31の開口数である。因みに、本実施形態では細胞を標本2としたので、nwは水の屈折率にほぼ等しい。
以下、条件式(1)の意義を説明する。
先ず、1対の光束が瞳面32上に形成する集光点から照明光学系10の光軸までの高さYは、以下のとおり表される。
Y=d×β …(2)
また、対物レンズ31の瞳半径rは、下記の式で表される。
r=fo×NA …(3)
よって、下式(4)が満たされれば、1対の光束の集光点がTIRF領域に収まる。
nw×fo≦Y≦r …(4)
この式(4)に式(2)、(3)を代入し、dについて解くと、条件式(1)が得られる。よって、条件式(1)がTIRF条件を満たすための式であることは、明白である。
次に、集光レンズアレイ14の間隔調整について詳しく説明する。
図9は、集光レンズアレイ14の可動部を示す図であり、図10は、集光レンズアレイ14に設けられた間隔調整機構14Aを示す図である。
先ず、上述したとおり本実施形態では、対物レンズ31が倍率の異なる別の対物レンズ31’へと交換されることを想定している。対物レンズ31が倍率の異なる別の対物レンズ31’へと交換された場合、瞳半径r(式(3))が変化する可能性が高い(殆どの場合、瞳半径rが変化する。)。よって、仮に、集光レンズアレイ14の個々の集光レンズの光軸から照明光学系10の光軸までの距離dが固定されていると、対物レンズの交換によりTIRF条件(式(1))が崩れてしまう虞がある。
そこで、本実施形態の集光レンズアレイ14では、図9に点線で示すとおり、集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’、14−3、14−3’の各々の光軸から照明光学系10の光軸までの距離dが可変となっている。
そのために、集光レンズアレイ14に設けられた間隔調整機構14Aには、図10(A)に示すとおり、カム部材14Eと、ガイド部材14Dと、弾性部材14Fとが備えられる。カム部材14Eは、照明光学系10の光軸の周りを回動可能であり、その回動により、集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’、14−3、14−3’の各々の光軸から照明光学系10の光軸までの距離dを同時に変化させる。また、ガイド部材14Dは、集光レンズ14−1、14−1’の移動方向を第1方向V1に制限し、集光レンズ14−2、14−2’の移動方向を第2方向V2に制限し、集光レンズ14−3、14−3’の移動方向を第3方向V3に制限する。また、弾性部材14Fは、集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’、14−3、14−3’の各々をカム部材14Eのカム面に押し当てる。
したがって、間隔調整機構14Aは、集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’ 、14−3、14−3’の各々の光軸から照明光学系10の光軸までの距離dを同時に変化させる際に、照明光学系10の光軸に関する集光レンズ14−1、14−1’の対称性と、照明光学系10の光軸に関する集光レンズ14−2、14−2’の対称性と、照明光学系10の光軸に関する集光レンズ14−3、14−3’の対称性を維持することができる。
なお、図10(A)は、距離dが比較的狭く設定されたときの様子を示しており、図10(B)は、距離dが比較的広く設定されたときの様子を示している。図10(A)と図10(B)とを比較すると、カム部材14Eの回動角度に応じて距離dが変化することがわかる。
そして、本実施形態の制御装置43(図1参照)は、この間隔調整機構14Aを交換機構31A(図1参照)に連動させ、対物レンズの交換に依らず式(1)が満たされるように距離dを制御する。これによって、対物レンズの交換に依らずTIRF条件を維持することができる。
但し、対物レンズの交換によって瞳面32が光軸方向に変位する場合、制御装置43は、位置調節機構11Aを交換機構31Aに連動させ、対物レンズの交換に依らず集光点の光軸方向の位置が瞳面32と同じになるようにフォーカス調整を行うことが望ましい。
因みに、フォーカス調整は、光ファイバ11の出射端の光軸方向の位置を位置調節機構11Aによって調節する他、集光レンズアレイ14、レンズ21、レンズ23の少なくとも1つの光軸方向の位置を調整することによって行うことができる。
なお、本実施形態において、距離dの調整範囲を広くしたい場合は、集光点の位置が光束選択部材20の開口部から外れることを防ぐため、開口部の位置(光軸と垂直な方向の位置)の異なる複数の光束選択部材を用意し、それら複数の光束選択部材を切り替え使用すればよい。
また、本実施形態では、距離dを可変としたので、エバネッセント場の染み出し量を任意に微調整することも可能である。例えば、本実施形態の制御装置43は、ユーザからの指示に応じて式(1)を満たす範囲内で距離dを微調整することにより、TIRF条件を維持しつつエバネッセント場の染み出し量を微調整することができる。
次に、集光レンズアレイ14の個々の集光レンズの設計例を説明する。
ここでは、レンズ21の焦点距離を160mm、レンズ23の焦点距離を160mm、倍率βを1、使用波長λの波長範囲を400nm〜700nmと仮定する。また、撮像素子42のサイズ等から、瞳面32に入射する光束対のNAには、NA=0.11が要求されると仮定する。
この仮定によると、前述した干渉縞のパターンを直線状とし、前述した復調演算の精度を維持するためには、使用波長λの切り替えによる集光点の光軸方向のズレ量は、瞳面32上で0.1mm以内に抑える必要がある。この場合、使用波長λの波長範囲(400nm〜700nm)における集光レンズの軸上色収差を、0.1mm以下に抑える必要がある。そのためには、集光レンズの構成を、色消し機能のある張り合わせレンズ(接合レンズ)とすることが望ましい。具体的には、集光レンズの構成を、凸レンズと凹レンズとの組み合わせとすることが望ましい。
図11は、集光レンズの光路図であり、図12、図13は、集光レンズのレンズデータである。但し、図13における「nd」は、d線に対する屈折率であり、「νd」はアッベ数である。また、表中における各数値の単位は「mm」である。
以上のレンズデータによると、図14に示すとおり約400nm〜約700nmの波長範囲内における集光レンズの軸上色収差は、−0.02351mm〜0.07329mmの範囲内に抑えられる。
したがって、本実施形態の集光レンズに以上のレンズデータを採用すれば、使用波長λの切り替え時におけるフォーカス調整を省略することが可能となる。
[変形例]
なお、本実施形態では、レーザユニット100が出射可能なレーザ光の波長数を2としたが、3以上としてもよい。波長数に拘わらず、上述したレンズデータを採用する場合は、レーザユニット100が出射する波長を、約400nm〜約700nmの波長範囲内の何れかの波長に設定することが望ましい。
また、本実施形態では、全反射蛍光観察(TIRF)を行うために、集光点がTIRF領域に収まるように距離dの値を制御したが、TIRFの必要が無い場合(すなわち、構造化照明顕微鏡装置1をTIRF−SIMモードではなくSIMモードで使用する場合)は、集光点がTIRF領域に収まっていなくても構わない。因みに、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置1をSIMモードで使用したならば、使用波長λの切り替え時に集光点の位置を不変とすることができるので、超解像効果を波長間で共通にすることができる。
なお、ここでいう超解像効果とは、標本の非変調時における構造化照明顕微鏡装置の解像度Rと、標本の変調時における構造化照明顕微鏡装置の解像度(R+K)との比(R+K)/Rのことである。
また、本実施形態では、波長の異なる複数の光を標本へ順次に照射する(複数種類の蛍光領域を順次に励起する)ことを想定したが、波長の異なる複数の光を標本へ同時に照射しても(複数種類の蛍光領域を同時に励起しても)よい。この場合は、波長の異なる複数の蛍光を分離して検出する機能を構造化照明顕微鏡装置1へ搭載することが望ましい。
また、本実施形態では、標本2に入射する1対の光束をS偏光に保つために、照明光学系10の光軸の周りを回動可能な1/2波長板19を使用したが、固定配置された1/4波長板と照明光学系10の光軸の周りを回動可能な1/4波長板とを使用してもよい。但し、その場合は、第1の基準位置を基準とした1/4波長板の回転位置は、第2の基準位置を基準とした光束選択部材20の回転位置と同じに設定される。
また、本実施形態では、対物レンズの交換に依らずTIRF条件を維持するために、集光レンズアレイ14の集光レンズの光軸から照明光学系10の光軸までの距離dを可変としたが、距離dを可変とする代わりに、距離dの異なる複数の集光レンズアレイを用意し、これら複数の集光レンズアレイを切り替え使用してもよい。
また、本実施形態では、光源からの射出光束を分割する手段として、集光レンズ対の配列される方向数が2以上である集光レンズアレイ14、すなわち、分割方向の異なる複数の光束対を同時に生成する集光レンズアレイ14(図2(A)参照)を使用したが、図15に示すように、集光レンズ対の配列される方向数が1のみである集光レンズアレイ14’、すなわち、所定方向に分割された1対の光束のみを生成する集光レンズアレイ14’を使用してもよい。
但し、その場合は、干渉縞の方向を切り替えるために、集光レンズアレイ14’を照明光学系10の光軸の周りに回動可能とすればよい。集光レンズアレイ14’を120°ずつ3ステップ回動させれば、集光レンズアレイ14を使用した場合と同様の変調画像を取得することができる。また、集光レンズアレイ14’を使用した場合は、同時に1対の光束しか生成されないので、光束選択部材20は不要である。なお、集光レンズ14’を使用した場合の間隔調整機構は、例えば、図16に示すような構成となる。
また、本実施形態では、標本2へ投影する干渉縞を2光束干渉縞とした(つまり2D−SIMモードとした)が、標本2へ投影する干渉縞を3光束干渉縞としたSIMモード(つまり3D−SIMモード)を構造化照明顕微鏡装置1へ搭載してもよい。
3D−SIMモードでは、図2に示した集光レンズアレイ14の代わりに、図17に示すような集光レンズアレイ14”を使用すればよい。この集光レンズアレイ14”は、図2に示した集光レンズアレイ14において、集光レンズ14−0を1つ追加したものである。この集光レンズ14−0の配置先は、照明光学系10の光軸の近傍であって、集光レンズ14−0の光軸は、照明光学系10の光軸(=集光レンズアレイ14の光軸)に一致している。また、集光レンズ14−0のレンズ特性(レンズの構成、焦点距離など)は、他の集光レンズ14−1、14−1’、14−2、14−2’、14−3、14−3’の各々のレンズ特性(レンズの構成、焦点距離など)と同じである。このような集光レンズアレイ14”によると、前述した1対の光束による1対の集光点と、集光レンズ14−0を通過した光束(以下、「中央光束」と称す。)による1つの集光点との3つの集光点が、瞳共役面25上に形成される。
また、3D−SIMモードでは、図6に示した光束選択部材20の代わりに、図18に示すような光束選択部材20’を使用すればよい。この光束選択部材20’は、図6に示した光束選択部材20において、上述した中央光束を通過させるための開口部20Eを更に設けたものである。この開口部20Eの形成先は、照明光学系10の光軸の近傍であって、この開口部20Eの形状は、例えば円形である。このような光束選択部材20’によると、瞳共役面25上に形成された3つの集光点の各々からの光束を、干渉縞に寄与させることができる。
このように、3つの光束の干渉(3光束干渉)によって生成される干渉縞は、標本2の表面方向だけでなく、標本2の深さ方向にも空間変調されている。よって、この干渉縞によると、標本2の深さ方向にも超解像効果を得ることが可能となる。
また、3D−SIMモードでは、上述した復調演算に必要な変調画像の位相数が4以上となるので、位相板16も変形する必要がある。位相数を4以上にするための位相板の例は、米国発行特許発明第7848017号明細書に開示されている。
また、本実施形態では、集光レンズアレイと対物レンズとの間にリレー系(レンズ21、23)を挿入したが、このリレー系は省略することも可能である。
また、本実施形態では、光を分割するために集光レンズアレイ(集光レンズアレイ14、14’、14”)の個々の集光レンズとして、凸レンズと凹レンズの接合レンズを例示して説明したが、複数のレンズ群で構成してもよく、複数のレンズ群で構成しても集光レンズ(レンズ)の概念、集光レンズアレイ(1対にレンズを含むレンズアレイ)の概念に含まれる。
[実施形態の効果]
以上、本実施形態の照明光学系(10)は、複数波長の光を同時又は順次に射出する光源(100、11)からの射出光束を分割するとともに集光する少なくとも1対のレンズを含むレンズアレイ(14)と、1対のレンズで分割された1対の光束を、瞳面(32)の互いに異なる位置で受けることにより、それら1対の光束を物体側で干渉させ、その物体側に配置された標本(2)に干渉縞を形成する対物レンズ(31)とを備える。
このように、1対の光束を生成するために、回折格子の代わりにレンズアレイを使用すれば、複数波長の間で進行方向が変化するという問題は発生しない。よって、レンズアレイを使用したならば、瞳面(32)における1対の光束の入射位置を、複数波長の間で一致にさせることができる。
したがって、本実施形態の照明光学系10によれば、複数波長の各々で所望の超解像効果を得ることが可能である。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、1対のレンズの位置関係は対物レンズ(31)の光軸に関して対称な位置関係に設定される。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)によれば、標本(2)に形成される干渉縞のパターンやコントラストを良好にすることができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、1対のレンズの各々の光軸から対物レンズ(31)の光軸までの距離は、1対の光束が標本(2)の表面近傍にエバネッセント場を生成できるように調整されている。具体的には、距離dは条件式(1)を満たす。
したがって、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、標本(2)の表面の極めて薄い層を複数波長の各々で観察することができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、対物レンズ(31)は、瞳径の異なる別の対物レンズ(31’)へと交換可能であり、レンズアレイ(14)は、1対のレンズの各々の光軸から対物レンズ(31)の光軸までの距離dが可変である。
或いは、本実施形態の照明光学系(10)では、対物レンズ(31)は、瞳径の異なる別の対物レンズ(31’)へと交換可能であり、レンズアレイ(14)は、距離dの異なる別のレンズアレイへと交換可能である。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)は、対物レンズの交換による瞳径の変化にも対処することが可能である。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、レンズアレイ(14)は複数の前記1対のレンズを有し、複数の1対のレンズで分割された複数対の光束のうち1対の光束のみを選択する光束選択手段(20)を更に備える。
或いは、本実施形態の照明光学系(10)では、レンズアレイ(14)は、対物レンズ(31)の光軸の周りに回動可能である。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)は、干渉縞の方向を切り替えることが可能である。よって、超解像効果を標本面内の複数方向に亘って得ることが可能となる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、1対のレンズの一方及び他方の焦点距離は、互いに等しい。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)では、1対の光束の光軸方向の集光位置を、共通にすることができる。よって、干渉縞のパターンやコントラストを良好にすることができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、1対のレンズの一方及び他方は、接合レンズであり、1対のレンズの軸上色収差は、1対のレンズの集光位置が複数波長の間で略一致するように補正されている。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)によると、1対の光束の光軸方向の集光位置を、複数波長の間で共通にすることができる。よって、使用波長の切り替え時におけるフォーカス調整の手間を省くことができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、レンズアレイ(14)は、1対のレンズの他に、対物レンズ(31)の光軸上に配置されたレンズを更に有する。
したがって、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、2D−SIMモードだけでなく3D−SIMモードでも動作することができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)は、1対の光束の光軸方向の集光位置を調整するための位置調整手段(11A)を更に備える。例えば、本実施形態の照明光学系(10)のレンズアレイ(14)は、光軸方向の位置が可変である。
したがって、本実施形態の照明光学系(10)は、対物レンズの交換などによる瞳位置の変位にも対処することができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)は、干渉縞の位相をシフトさせるための位相シフト手段(18B)を更に備える。
したがって、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置1は、復調演算に必要な一連の変調画像を確実に取得することができる。
また、本実施形態の照明光学系(10)では、複数波長は、約400nmから約700nmの波長範囲内に収められる。
この範囲内の波長であれば、1対の光束の集光点が複数波長の間で略一致するようにレンズアレイ(14)を設計することが可能である。
[復調演算の説明]
以下、復調演算の例を説明する。
ここでは、2D−SIMモードを想定し、先ずは、干渉縞の方向数Mmaxを1、位相数Nmaxを3と仮定する。
標本上の変調方向の座標をxとおき、結像光学系の点像強度分布をPr(x)とおき、標本の蛍光領域の構造をOr(x)とおき、干渉縞の空間周波数(変調周波数)をKとおき、干渉縞の位相(変調位相)をφとおき、干渉縞の振幅(変調振幅)をmlとおくと(但し、lは変調次数−1,0,1である。)、干渉縞のパターン(変調波形)はmlexp(ilKx+φ)で表されるので、標本の変調画像Ir(x)は、以下の式で表される。
但し、式中の記号「*」は、畳み込み積分を表す。以下、実空間における量と波数空間における量とを区別するために、実空間における量には添え字「r」を付与し、波数空間における量には添え字「k」を付与する。
よって、変調画像Ir(x)をフーリエ変換したもの(=Ik(k))は、以下の式のとおり表される。
なお、結像光学系の点像強度分布Pr(x)をフーリエ変換したもの(=Pk(k))は、結像光学系の伝達関数(OTF:Optical Transfer Function)に相当する。
ここで、式におけるOk(k+lK)(l=−1、0、1)は、変調画像Ik(k)に重畳された各次数の変調成分である。1次変調成分Ok(k+K)、−1次変調成分(k−K)においては、標本15の実際の空間周波数成分がKだけ(低周波数側へ)シフトしている。このシフトの量が大きいほど、超解像効果は大きくなる。このため、干渉縞の空間周波数は、結像光学系が結像できる範囲内でなるべく高い値に設定されることが望ましい。
さて、一連の変調画像、すなわち(Nmax×Mmax)フレームの変調画像のうち、干渉縞の位相が互いに異なる3フレームの変調画像の間では、φのみが異なり、ml及びKは共通である。よって、それら3フレームのうち第jフレームの変調画像に反映されている干渉縞の位相をφjとおくと、第jフレームの変調画像Ikj(k)は、以下の式で表される。
よって、復調演算では、3フレームの変調画像を上式へ当てはめると共に、それによって得られる3つの方程式を連立させて解くことで、各次数の変調成分Ok(k+lK)(l=−1,0,1)の各々を既知とする(互いに分離する)。因みに、この式におけるPk(k)は、結像光学系に固有なので、予め測定しておくことが可能である。
なお、各次数の変調成分Ok(k+lK)(l=−1,0,1)を互いに分離する際には、 Ok(k+lK)Pk(k)(l=−1,0,1)の各々を既知としてから、それらをPk(k)の値で除算してもよいが、単なる除算を行う代わりに、ウィナーフィルタなどノイズの影響を受けにくい公知の手法を利用してもよい。
そして、復調演算では、±1次変調成分Ok(k+K)、Ok(k−K)を、変調周波数Kの分だけx方向にかけてシフト(再配置)してから、各次数の変調成分Ok(k+lK)(l=−1,0,1)を波数空間上で重み付け合成することで、周波数範囲の広い復調画像Ok(x)を生成する。
この復調画像Ok(x)を逆フーリエ変換したものが、標本15の超解像画像Or(x)である。この超解像画像Or(x)は、干渉縞の変調方向(x方向)にかけて高い超解度を有している。
次に、干渉縞の方向数Mmaxを3、各方向の位相数Nmaxを3と仮定した場合を説明する。
図19は、位相数Nmax=3、方向数Mmax=3である場合の復調演算を説明する図である。図19において符号Ir(1,1)、Ir(2,1)、…、Ir(3,3)で示すのは、干渉縞の位相及び方向の組み合わせが互いに異なる変調画像であって、変調画像Ir(N、M)の「N」は、その変調画像に寄与した干渉縞の位相番号であり、変調画像Ir(N、M)の「M」は、その変調画像に寄与した干渉縞の方向番号である。
図19に示すとおり、位相数Nmax=3、方向数Mmax=3である場合の復調演算では、3×3=9フレームの変調画像を個別にフーリエ変換し(図19(a))、干渉縞の方向が共通である変調画像同士で変調成分の分離を行い(図19(b))、それによって得られた合計9つの変調成分の各々を再配置してから(図19(c))、同一の波数空間上で重み付け合成し(図19(d))、3方向にかけて周波数範囲の広がった復調画像Okを生成する。この復調画像Okを逆フーリエ変換したものが、標本15の超解像画像Orである。この超解像画像Orは、3方向の各々にかけて高い解像度を有している。
図19に明らかなとおり、Nmax=3、Mmax=3の場合、Nmax×Nmax=9フレームの変調画像から1フレームの超解像画像Orが生成される。
なお、ここでは、位相数Nmaxを3と仮定したので、変調成分の分離を、連立方程式を解くことによって行ったが、位相数Nmaxが3より大きい場合は、国際公開第2006/109448号パンフレットに開示された方法で行ってもよい。
また、ここでは、2D−SIMモードについて説明したが、3D−SIMモードにおいては、変調画像に重畳される変調成分が、−2次変調成分、−1次変調成分、0次変調成分、+1次変調成分、+2次変調成分の5種類になるので(すなわち、l=−2、−1、0、+1、+2となるので)、これらの変調成分を互いに分離すればよい。よって、3D−SIMモードでは、例えば、位相数Nmaxを5以上として、一連の変調画像のフレーム数を増やせばよい。
また、ここでは、復調演算における再配置(図19(c))及び合成(図19(d))の処理を順次に行ったが、一括の演算式で行うことも可能である。その演算式としては、以下の非特許文献1のOnline Methodsにおける数式(1)などが適用可能である。
非特許文献1:"Super-Resolution Video Microscopy of Live Cells by Structured Illumination", Peter Kner, Bryant B. Chhun, Eric R. Griffis, Lukman Winoto, and Mats G. L. Gustafsson, NATURE METHODS Vol.6 NO.5, pp.339-342, (2009)
なお、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。