以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図であり、図3は、要部を拡大した断面図である。
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIが備える流路形成基板10には、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称する。また、流路形成基板10には、圧力発生室12が第1の方向に並設された列が複数列、本実施形態では、2列設けられている。この圧力発生室12が第1の方向Xに沿って形成された圧力発生室12の列が複数列設された列設方向を、以降、第2の方向Yと称する。
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向の一端部側、すなわち第1の方向Xに直交する第2の方向Yの一端部側には、インク供給路13と連通路14とが複数の隔壁11によって区画されている。連通路14の外側(第2の方向Yにおいて圧力発生室12とは反対側)には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部を構成する連通部15が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15からなる液体流路が設けられている。
流路形成基板10の一方面側、すなわち圧力発生室12等の液体流路が開口する面には、各圧力発生室12に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって接合されている。すなわち、ノズルプレート20には、第1の方向Xにノズル開口21が並設されている。
流路形成基板10の他方面側には、振動板50が形成されている。本実施形態に係る振動板50は、流路形成基板10上に形成された弾性膜51と、弾性膜51上に形成された絶縁体膜52とで構成されている。なお、圧力発生室12等の液体流路は、流路形成基板10を一方面から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力発生室12等の液体流路の他方面は、振動板50(弾性膜51)で構成されている。
絶縁体膜52上には、厚さが例えば、約0.2μmの第1電極60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの第2電極80とで構成される圧電素子300が形成されている。この基板(流路形成基板10)に設けられた圧電素子300が本実施形態のアクチュエーター装置となる。なお、本実施形態では、基板(流路形成基板10)上に振動板50を介して第1電極60を設けた構成を例示したが、特にこれに限定されるものではなく、振動板50を設けずに第1電極60を直接基板上に設けるようにしてもよい。すなわち、第1電極60が振動板として作用するようにしてもよい。つまり、基板上とは、基板の直上も、間に他の部材が介在した状態(上方)も含むものである。
以下、アクチュエーター装置を構成する圧電素子300について、さらに詳細に説明する。なお、図3は、本発明の実施形態1に係る圧電アクチュエーターの断面図である。
図3に示すように、圧電素子300を構成する第1電極60は圧力発生室12毎に切り分けられ、圧電素子300毎に独立する個別電極を構成する。そして第1電極60は、圧力発生室12の第1の方向Xにおいては、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち圧力発生室12の第1の方向Xにおいて、第1電極60の端部は、圧力発生室12に対向する領域の内側に位置している。圧力発生室12の第2の方向Yでは、第1電極60の両端部は、それぞれ圧力発生室12の外側まで延設されている。なお、第1電極60の材料は、金属材料であれば特に限定されないが、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適に用いられる。
圧電体層70は、第2の方向Yが所定の幅となるように第1の方向Xに亘って連続して設けられている。圧電体層70の第2の方向Yの幅は、圧力発生室12の第2の方向Yの長さよりも広い。このため、圧力発生室12の第2の方向Yでは、圧電体層70は圧力発生室12の外側まで設けられている。
圧力発生室12の第2の方向Yの一端部側(本実施形態では、インク供給路側)における圧電体層70の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60の端部は圧電体層70によって覆われている。圧力発生室12の第2の方向Yの他端側における圧電体層70の端部は、第1電極60の端部よりも内側(圧力発生室12側)に位置している。
なお、圧電体層70の外側まで延設された第1電極60には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。図示は省略するが、このリード電極90は、駆動回路等に繋がる接続配線が接続される端子部を構成する。
また、圧電体層70には、各隔壁11に対向する凹部71が形成されている。この凹部71の第1の方向Xの幅は、各隔壁11の第1の方向Xの幅と略同一、もしくはそれよりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力発生室12の幅方向端部に対向する部分(いわゆる振動板50の腕部)の剛性が抑えられるため、圧電素子300を良好に変位させることができる。
圧電体層70としては、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜(ペロブスカイト型結晶)が挙げられる。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等を用いることができる。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた。
また、圧電体層70の材料としては、鉛を含む鉛系の圧電材料に限定されず、鉛を含まない非鉛系の圧電材料を用いることもできる。非鉛系の圧電材料としては、例えば、鉄酸ビスマス((BiFeO3)、略「BFO」)、チタン酸バリウム((BaTiO3)、略「BT」)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)(NbO3)、略「KNN」)、ニオブ酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(NbO3))、ニオブ酸タンタル酸カリウムナトリウムリチウム((K,Na,Li)(Nb,Ta)O3)、チタン酸ビスマスカリウム((Bi1/2K1/2)TiO3、略「BKT」)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi1/2Na1/2)TiO3、略「BNT」)、マンガン酸ビスマス(BiMnO3、略「BM」)、ビスマス、カリウム、チタン及び鉄を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物(x[(BixK1−x)TiO3]−(1−x)[BiFeO3]、略「BKT−BF」)、ビスマス、鉄、バリウム及びチタンを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物((1−x)[BiFeO3]−x[BaTiO3]、略「BFO−BT」)や、これにマンガン、コバルト、クロムなどの金属を添加したもの((1−x)[Bi(Fe1−yMy)O3]−x[BaTiO3](Mは、Mn、CoまたはCr))等が挙げられる。
第2電極80は、圧力発生室12の第1の方向Xにおいて、圧電体層70上に連続して設けられ、後述する複数の能動部320に共通する共通電極を構成する。圧力発生室12の第2の方向Yの一端側における第2電極80の端部は、圧電体層70の端部よりも外側に位置している。つまり圧電体層70の端部は第2電極80によって覆われている。また、圧力発生室12の第2の方向Yの他端側における第2電極80の端部は、圧電体層70の端部よりも内側(圧力発生室12側)に位置している。このような第2電極80の材料は、金属材料であれば特に限定されないが、例えば、イリジウム(Ir)等が好適に用いられる。
このような構成の圧電素子300は、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加することで変位が生じる。すなわち両電極の間に電圧を印加することで、第1電極60と第2電極80とで挟まれている圧電体層70に圧電歪みが生じる。そして、両電極に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を能動部320と称する。これに対して、圧電体層70に圧電歪みが生じない部分を非能動部と称する。また、圧電体層70に圧電歪みが生じる能動部320において、圧力発生室12に対向する部分を可撓部と称し、圧力発生室12の外側の部分を非可撓部と称する。
本実施形態では、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80の全てが圧力発生室12の第2の方向Yにおいて圧力発生室12の外側まで連続的に設けられている。すなわち能動部320が圧力発生室12の外側まで連続的に設けられている。このため、能動部320のうち圧電素子300の圧力発生室12に対向する部分が可撓部となり、圧力発生室12の外側の部分が非可撓部となっている。
なお、上述のように第1電極60は、圧力発生室12毎に切り分けられているため、圧電素子300には、第2の方向Yに沿って、すなわち、能動部320の長手方向(第2の方向Y)に沿って、第1電極60の段差が形成されている。
このような圧電素子300を構成する圧電体層70は、複数の圧電体膜74が積層されて構成されている。なお、本実施形態の積層方向は、第1電極60から第2電極80に向かう方向である。
ここで、基板(流路形成基板10)側の最下層となる1層目の圧電体膜74は、第1電極60上にのみ設けられている。また、2層目以降の圧電体膜74は、第1の方向Xにおいて1層目の圧電体膜74上を含み、第1電極60の外側まで設けられている。すなわち、圧電体層70は、第1電極60の端部を覆うように設けられているが、第1電極60の外側に設けられた圧電体層70は、2層目以降の圧電体膜74によって構成されている。
なお、第1電極60の端面は、流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面に対して傾斜した傾斜面となっている。すなわち、第1電極60は、その端部に向かって厚さが徐々に漸小することで、その端面に傾斜面が形成されている。また、1層目の圧電体膜74は、第1電極60の傾斜面に連続して傾斜した端面を有する。
そして、第1電極60の外側まで設けられた圧電体層70であって、第1電極60の端部を通るZ−Z′線上で、流路形成基板10の圧電素子300が設けられた面に直交する方向Zの厚さにおいて、流路形成基板10側の最下層の圧電体膜74である第1の圧電体膜74Aの厚さt1は、第1の圧電体膜74A上に設けられた圧電体膜74である第2の圧電体膜74Bの厚さt2よりも薄くなっている。すなわち、第1の圧電体膜74Aとは、本実施形態では、2層目の圧電体膜74のことであり、第2の圧電体膜74Bとは3層目の圧電体膜74のことである。なお、第1電極60の端部を通る線上とは、第1電極60の端面の最も外側の一端のことである。
また、本実施形態では、第2の圧電体膜74B上に積層された圧電体膜74の厚さは、この第2の圧電体膜74Bと同じ厚さt2を有する。
このように、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を第2の圧電体膜74Bの厚さt2よりも薄くすることで、第1の圧電体膜74Aを形成した際に、第1電極60の端部に気泡や異物が残留するのを抑制して、気泡や異物が起点となるクラックや焼損を抑制することができる。
ちなみに、圧電体層70を構成する複数の圧電体膜74の間には、界面が形成されており、圧電体膜74の厚さは界面によって規定することができる。ちなみにこの界面は、焼成により圧電体膜74を形成する度に形成された界面(結晶が不連続な面)のことである。すなわち、圧電体膜74は、焼成を繰り返す度に形成されるものである。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300を保護する保護基板30が接着剤35によって接合されている。保護基板30には、圧電素子300を収容する空間を画成する凹部である圧電素子保持部31が設けられている。また保護基板30には、マニホールド100の一部を構成するマニホールド部32が設けられている。マニホールド部32は、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部15と連通している。また保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。各能動部320の第1電極60に接続されたリード電極90は、この貫通孔33内に露出している。各能動部320の第1電極60に接続されたリード電極90は、この貫通孔33内に露出しており、図示しない駆動回路に接続される接続配線の一端が、この貫通孔33内でリード電極90に接続されている。
保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加する。これにより圧電素子300と共に振動板50がたわみ変形して各圧力発生室12内の圧力が高まり、各ノズル開口21からインク滴が噴射される。
ここで、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図4〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す第1の方向Xの断面図である。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することによって二酸化シリコンからなる弾性膜51を形成した。もちろん、弾性膜51の形成方法は熱酸化に限定されず、スパッタリング法やCVD法等によって形成してもよい。
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜51上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜52を形成する。絶縁体膜52は、ジルコニウムをスパッタリング法等により形成後、加熱することで熱酸化して形成してもよく、酸化ジルコニウムを反応性スパッタリング法により形成するようにしてもよい。この弾性膜51及び絶縁体膜52によって振動板50が形成される。
次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜52上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
次いで、図5(a)に示すように、第1電極60上にチタン(Ti)からなる結晶種層61を形成する。このように第1電極60の上に結晶種層61を設けることにより、後の工程で第1電極60上に結晶種層61を介して圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の優先配向方位を(100)に制御することができ、電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお、結晶種層61は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。また、本実施形態では、結晶種層61として、チタン(Ti)を用いるようにしたが、結晶種層61は、後の工程で圧電体層70を形成する際に、圧電体層70の結晶の核となるものであれば、特にこれに限定されず、例えば、結晶種層61として、酸化チタン(TiO2)を用いてもよく、チタン及びチタン酸化物以外の材料、例えば、ランタンニッケル酸化物等を用いることもできる。もちろん、第1電極60と圧電体層70との間に結晶種層61が残留するようにしてもよい。また、結晶種層61は、層状であっても島状であってもよい。
次に、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、金属錯体を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。すなわち、圧電体層70は液相法、気相法の何れで形成してもよい。
圧電体層70の具体的な形成手順としては、まず、図5(b)に示すように、結晶種層61上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜73を成膜する。すなわち、第1電極60(結晶種層61)が形成された流路形成基板用ウェハー110上に金属錯体を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。ゾルの塗布方法は特に限定されず、例えば、スピンコート装置を用いたスピンコート法やスリットコータを用いたスリットコート法等が挙げられる。次いで、この圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を170〜180℃で8〜30分間保持することで乾燥することができる。
次に、乾燥した圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば、本実施形態では、圧電体前駆体膜73を300〜400℃程度の温度に加熱して約10〜30分保持することで脱脂した。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜73に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
次に、図5(c)に示すように、圧電体前駆体膜73を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜74を形成する(焼成工程)。この焼成工程では、圧電体前駆体膜73を700℃以上に加熱するのが好ましい。なお、焼成工程では、昇温レートを50℃/sec以上とするのが好ましい。これにより優れた特性の圧電体膜74を得ることができる。
また、第1電極60上に形成された結晶種層61は、圧電体膜74内に拡散する。もちろん、結晶種層61は、第1電極60と圧電体膜74との間にチタンとして残留してもよいし、酸化チタンとして残留してもよい。
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
次に、図5(d)に示すように、第1電極60上に1層目の圧電体膜74を形成した段階で、第1電極60及び1層目の圧電体膜74をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60及び1層目の圧電体膜74のパターニングは、例えば、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。
ここで、例えば、第1電極60をパターニングしてから1層目の圧電体膜74を形成する場合、フォト工程・イオンミリング・アッシングして第1電極60をパターニングするため、第1電極60の表面や、表面に設けた結晶種層などが変質してしまう。そうすると変質した面上に圧電体膜74を形成しても当該圧電体膜74の結晶性が良好なものではなくなり、2層目以降の圧電体膜74も1層目の圧電体膜74の結晶状態に影響して結晶成長するため、良好な結晶性を有する圧電体層70を形成することができない。
それに比べ、1層目の圧電体膜74を形成した後に第1電極60と同時にパターニングすれば、1層目の圧電体膜74はチタン等の結晶種に比べて2層目以降の圧電体膜74を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても2層目以降の圧電体膜74の結晶成長に大きな影響を与えない。
次に、図5(e)に示すように、1層目の圧電体膜74と第1電極60とをパターニングした後は、絶縁体膜52上、第1電極60の側面、1層目の圧電体膜74の側面及び圧電体膜74上に亘って中間結晶種層200を形成する。中間結晶種層200は、結晶種層61と同様に、チタンやランタンニッケル酸化物等を用いることができる。また、中間結晶種層200は、結晶種層61と同様に、層状であっても島状であってもよい。
次に、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより複数層の圧電体膜74からなる圧電体層70を形成する。
具体的には、まず、図6(a)に示すように、2層目の圧電体膜74である第1の圧電体膜74Aを形成する。つまり、1層目の圧電体膜74を形成した後、第1電極60の外側まで形成された積層された圧電体膜74は、後の工程で、第1電極60の端部よりも外側でパターニングされる。そして、上述のように1層目の圧電体膜74は、第1電極60と共にパターニングされることで第1電極60上のみに形成されることになるため、2層目以降の圧電体膜74のうち、最下層の圧電体膜74が第1の圧電体膜74Aとなる。
次に、図6(b)に示すように、第1の圧電体膜74A上に3層目の圧電体膜74、つまり、第2の圧電体膜74Bを形成する。
ここで第1電極60の流路形成基板10側の端部を通るZ−Z′線上(図3(b)参照)で、流路形成基板10の圧電素子300が設けられる面に直交する方向Zにおいて、第1の圧電体膜74A及び第2の圧電体膜74Bは、第1の圧電体膜74Aの厚さt1が、第2の圧電体膜74Bの厚さt2よりも薄くなるように形成する。
なお、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄く形成する方法は、特に限定されず、例えば以下に示す方法の何れか一つ又はこれらを複数組み合わせることで実現できる。
例えば、第1の圧電体膜74Aとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程において塗布するゾルの膜厚を、第2の圧電体膜74Bとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程におけるゾルの膜厚よりも薄くする方法が挙げられる。つまり、スピンコート装置やスリットコート装置などの塗布装置を制御して、基板(流路形成基板用ウェハー110)上に供給するゾルの量を減少させて、ゾルの膜厚を薄くする。これにより、焼成後の第1の圧電体膜74Aの厚さt1を、第2の圧電体膜74Bの厚さt2よりも薄くすることができる。
また、例えば、第1の圧電体膜74Aとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程において、塗布するゾルの粘度を、第2の圧電体膜74Bとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程に用いるゾルの粘度よりも小さくする方法が挙げられる。これにより、第1の圧電体膜74Aとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程において塗布するゾルの膜厚を、第2の圧電体膜74Bとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程におけるゾルの膜厚よりも薄くすることができる。
さらに、例えば、第1の圧電体膜74Aとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程において塗布するゾルの濃度を、第2の圧電体膜74Bとなる圧電体前駆体膜73を形成する際の塗布工程におけるゾルの濃度よりも薄くする方法が挙げられる。これにより、焼成した歳に形成される第1の圧電体膜74Aの膜厚t1を第2の圧電体膜74Bの膜厚t2よりも薄くすることができる。
また、例えば、圧電体前駆体膜73を塗布、乾燥及び脱脂する工程を繰り返し行って複数層の圧電体前駆体膜73を積層した後、焼成することで1層の圧電体膜74を形成する場合には、第1の圧電体膜74Aを形成する圧電体前駆体膜73の積層する数を、第2の圧電体膜74Bを形成する圧電体前駆体膜73の積層数よりも少なくする方法が挙げられる。
このように、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を第2の圧電体膜74Bの厚さt2よりも薄くすれば、ゾルに含まれる気泡や異物が、第1電極60の傾斜した端面と流路形成基板10(実際には絶縁体膜52)の表面とで画成される角部に、滞留するのを抑制することができる。つまり、ゾルに含まれる気泡は、ゾルの厚さが薄ければ、乾燥工程や脱脂工程によってゾルの表面から抜け易い。したがって、圧電体前駆体膜73を焼成することで圧電体膜74を形成した際に、気泡が残留することによって圧電体膜74に欠陥が形成されるのを抑制することができる。また、ゾルを薄く塗布するということは、ゾルの総量が少なくなるということであり、ゾルに含まれる異物の量も少なくなる。すなわち、ゾルに含まれる異物が、ゾルに対して一定の割り合いで含まれていると考えると、ゾルの総量を少なくすることによって、含まれる異物も少なくなる。したがって、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄くすることによって異物の絶対量を少なくすることができ、第1電極60と基板の表面とで画成される角部に捕捉される異物を抑制することができる。
そして、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄くすることによって、第1電極60による段差によってその裾部分に気泡や異物による欠陥が発生するのを抑制することができるため、圧電体層70の欠陥によって、圧電素子300を駆動した際の応力集中によるクラックや焼損等の破壊が発生するのを抑制することができる。
また、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄くすることによって、圧電体層70の結晶性を向上することができる。すなわち、第1電極60上に形成された1層目の圧電体膜74は、第1電極60の傾斜した端面(傾斜面)と連続する傾斜面を有する。そして、この1層目の圧電体膜74の傾斜面上に形成される圧電体膜74は、結晶が傾斜面に対して垂直方向、すなわち、鉛直方向に対して傾斜して形成される。このため、1層目の圧電体膜74の鉛直方向の結晶と、2層目の圧電体膜74(第1の圧電体膜74A)の傾斜した結晶と間に不整合が生じてしまうが、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄くすることで、結晶の不整合を抑制することができ、圧電体層70の結晶性を向上して、結晶性の不整合による破壊を抑制することができる。
また、第1の圧電体膜74Aの厚さt1を薄くすることによって、第1の圧電体膜74Aの厚さのばらつきを減少させることができる。すなわち、第1電極60上に形成された第1の圧電体膜74Aの厚さと、基板(絶縁体膜52)上に形成された第1の圧電体膜74Aの厚さとのばらつきを減少することができる。したがって、複数層の圧電体膜74を積層した際に、流路形成基板用ウェハー110の面内において、圧電体層70の厚さのばらつきを抑制することができる。
ちなみに、2層目以降の圧電体膜74(第1の圧電体膜74A等)は、絶縁体膜52上、第1電極60及び1層目の圧電体膜74の側面上、及び1層目の圧電体膜74上に亘って連続して形成される。この2層目以降の圧電体膜74が形成される領域には、中間結晶種層200が形成されているため、この中間結晶種層200によって2層目以降の圧電体膜74の優先配向を(100)に制御することができると共に微小粒径で形成することができる。なお、中間結晶種層200は、圧電体層70が結晶化する際に、結晶化を促進させるシードとして機能し、圧電体層70の焼成後には、全てが圧電体層70に拡散してもよく、また、一部がそのまま又は酸化物として残留してもよい。
その後は、図6(c)に示すように、第2の圧電体膜74B上に塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を繰り返し行なって複数層の圧電体膜74からなる圧電体層70を形成する。
なお、本実施形態では、第2の圧電体膜74B上に形成される圧電体膜74の厚さは、第2の圧電体膜74Bと同じ厚さt2となるようにした。
ちなみに、圧電体膜74は、できるだけ厚く形成する方が好ましい。これは、塗布装置として、厚塗りを行う装置の方がコストを低減することができると共に、圧電体前駆体膜73を形成する工程(塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程)を繰り返す回数を低減してコストを低減することができるからである。ただし、圧電体前駆体膜73が厚すぎると、圧電体前駆体膜73を焼成して圧電体膜74を形成した際にクラック等の破壊が発生する虞があるため、圧電体膜74にクラック等の破壊が発生しない程度に厚く形成するのが好適である。
次に、図7(a)に示すように、圧電体層70を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングする。本実施形態では、圧電体層70上に所定形状に形成したマスク(図示なし)を設け、このマスクを介して圧電体層70をエッチングする、いわゆるフォトリソグラフィーによってパターニングした。なお、圧電体層70のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングであっても、ウェットエッチングであってもよい。
次に、図7(b)に示すように、圧電体層70上及び絶縁体膜52上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成し、所定形状にパターニングして圧電素子300を形成する。
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後(図2(b)参照)、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
次いで、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態では、各能動部320の圧電体層70が連続的に設けられた構成を例示したが、勿論、圧電体層70は、能動部320毎に独立して設けられていてもよい。
また、例えば、上述した実施形態1では、第2電極80を複数の能動部320の共通電極とし、第1電極60を各能動部320の個別電極としたが、特にこれに限定されず、例えば、第2電極80を各能動部320の個別電極とし、第1電極60を複数の能動部320の共通電極としてもよい。ただし、第1電極60を共通電極とした場合には、各能動部320毎に第1電極60による段差が形成される領域が少ないため、上述した実施形態1に比べて欠陥による破壊は発生し難い。
さらに、上述した実施形態1では、第1電極60の端面を傾斜面としたが、特にこれに限定されず、例えば、第1電極60の端面を基板(流路形成基板10)の表面に対して垂直な垂直面としてもよい。
また、インクジェット式記録ヘッドIは、例えば、図9に示すように、インクジェット式記録装置IIに搭載される。インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1は、例えば、ブラックインク組成物及びカラーインク組成物を噴射する。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
そして本発明では、上述のようにインクジェット式記録ヘッドIを構成する圧電素子300の破壊を抑制しつつ噴射特性の均一化を図ることができる。結果として、印刷品質を向上し耐久性を高めたインクジェット式記録装置IIを実現することができる。
なお、上述した例では、インクジェット式記録装置IIとして、インクジェット式記録ヘッドIがキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、その構成は特に限定されるものではない。インクジェット式記録装置IIは、例えば、インクジェット式記録ヘッドIを固定し、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させることで印刷を行う、いわゆるライン式の記録装置であってもよい。
また、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて本発明を説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッドの他、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
さらに本発明は、このような液体噴射ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)だけでなく、あらゆる装置に搭載されるアクチュエーター装置に適用することができる。本発明のアクチュエーター装置は、例えば、各種センサー類等にも適用することができる。