JP2014080538A - 昇華転写用インク、染色物の製造方法および染色物 - Google Patents

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Abstract

【課題】エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する昇華転写用インクを提供すること、前記昇華転写用インクを用いた染色物の製造方法を提供すること、また、前記方法を用いて製造される染色物を提供すること。
【解決手段】本発明の昇華転写用インクは、インクジェット法を用いて吐出されるものであって、水と、水溶性有機溶剤と、昇華性染料とを含み、前記昇華性染料がC.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、C.I.ソルベントバイオレット13と、を含むことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、昇華転写用インク、染色物の製造方法および染色物に関するものである。
昇華転写を利用した布帛等に対する染色が、広く行われている。このような昇華転写を利用した染色方法としては、紙等のシート状の中間転写媒体にインクジェット方式による印刷を行った後、布帛等の被染色物に前記中間媒体を重ねて、加熱により昇華転写する方法や、例えば、剥離可能なインク受容層が設けられた被染色物(フィルム製品等)の前記インク受容層にインクジェット印刷を行い、その後、そのまま加熱して下層側の被染色物に昇華拡散染色を行い、さらにその後、インク受容層を剥離する方法等があり、これらの染色方法には、昇華性染料を含むインク(昇華転写用インク)が用いられている。
従来、布帛等に対する染色には、アントラキノン構造の一方の芳香環のみに助色団を有しているキノン染料を用いて着色する方法が提案されている。また、アントラキノン構造の染料は感熱記録用シアン染料として優れた性能を有することが開示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
しかし一方で、アントラキノン構造の染料は、物質の癌原性の有無を簡易に判定する目安となる変異原性を検出するのに用いられるエームズ試験で陽性を示す物が多かったため、実用化の際には安全性の点で問題が残されていた(例えば、特許文献3参照)。
特開2005−126861号公報 特開平8−244366号公報 特開平11−124510号公報
本発明の目的は、エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する昇華転写用インクを提供すること、前記昇華転写用インクを用いた染色物の製造方法を提供すること、また、前記方法を用いて製造される染色物を提供することにある。
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、下記の本発明により上記目的が達成されることを見いだした。
本発明の昇華転写用インクは、インクジェット法を用いて吐出されるものであって、水と、水溶性有機溶剤と、昇華性染料と、を含み、前記昇華性染料が、C.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、C.I.ソルベントバイオレット13と、を含むことを特徴とする。
これにより、エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する昇華転写用インクを提供することができる。昇華性染料がC.I.ソルベントブルー63と、C.I.ソルベントバイオレット13とであることがより好ましい。
本発明の昇華転写用インクでは、前記C.I.ソルベントブルー63もしくは前記C.I.ソルベントブルー11の含有量、または、前記C.I.ソルベントブルー63および前記C.I.ソルベントブルー11の含有量と、前記C.I.ソルベントバイオレット13の含有量との重量比率が、1:1〜10:1の範囲であることが好ましい。
これにより、シアンインクとしての色相および光学濃度をより優れたものとすることができる。なお、C.I.ソルベントブルー63もしくはC.I.ソルベントブルー11の含有量、または、C.I.ソルベントブルー63およびC.I.ソルベントブルー11の含有量と、C.I.ソルベントバイオレット13の含有量との重量比率は、1.5:1〜4:1の範囲であることがより好ましい。
本発明の染色物の製造方法は、インクジェット法を用いて、本発明の昇華転写用インクを中間転写媒体に付与するインク付与工程と、前記昇華転写用インクが付与された前記中間転写媒体を、前記昇華転写用インクが付与された面と被染色物の染色面とを対向させた状態で加熱し、前記昇華性染料を前記被染色物に転写させる転写工程とを有することを特徴とする。
これにより、生産性良く染色物を製造することができる昇華転写用インクを用いた染色物の製造方法を提供することができる。
本発明の染色物の製造方法では、前記転写工程での加熱温度が160℃以上220℃以下であることが好ましい。
これにより、前記昇華性染料を前記被染色物に転写させるのに十分なエネルギーを得ることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。なお、前記加熱温度は、170℃以上200℃以下であることがより好ましい。
本発明の染色物は、本発明の昇華転写用インクを用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、発色性に優れた染色物を提供することができる。
本発明に係る昇華転写用インクの好ましい一実施形態は、インクジェット法を用いて吐出されるものであって、水と、水溶性有機溶剤と、昇華性染料とを含み、前記昇華性染料がC.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、C.I.ソルベントバイオレット13とであることを特徴とする。
これにより、エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する昇華転写用インクを提供するができる。
≪昇華転写用インク≫
まず、本発明の昇華転写用インクについて説明する。
昇華転写を利用した布帛等に対する染色の方法としては、紙等のシート状の中間転写媒体にインクジェット方式による印刷を行った後、布帛等の被染色物に前記中間媒体を重ねて、加熱により昇華転写する方法や、例えば、剥離可能なインク受容層が設けられた被染色物(フィルム製品等)の前記インク受容層にインクジェット印刷を行い、そのまま加熱して下層側の被染色物に昇華拡散染色を行い、その後、インク受容層を剥離する方法等がある。これらの染色方法には、昇華性染料を含むインク(昇華転写用インク)が用いられている。
昇華転写用インクは、一般に、昇華性染料に加え水を含むものであるが、さらに、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり防止、吐出安定性の確保等のために、水溶性有機溶剤を含むものが広く用いられている。
以下、本発明の昇華転写用インクを構成する各成分について説明する。
<水>
本発明の昇華転写用インクは、水を含むものである。水は、後に詳述する昇華性染料を分散させる分散媒、水溶性有機溶剤を溶解させる溶媒として機能するものである。
昇華転写用インクが水を含むことにより、昇華転写用インクの粘度、表面張力が、好ましい範囲に含まれるように好適に調整することができ、昇華転写用インクのインクジェット方式による吐出性を優れたものとすることができる。また、水は、インクジェット方式による吐出後に容易に除去することのできる成分であるため、染色物の生産性を高めるうえでも重要である。また、水は、人体等に対する安全性が極めて高い物質であるため、染色物の製造において、作業者の安全を確保する上でも重要である。
昇華転写用インク中における水の含有率は、特に限定されないが、50質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、55質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
<水溶性有機溶剤>
本発明の昇華転写用インクは、水溶性有機溶剤を含むものである。これにより、昇華転写用インクのインクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時によるヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。
水溶性有機溶剤としては、例えば、ポリオール化合物、グリコールエーテル、糖類、ベタイン化合物等が挙げられる。
ポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物(好ましくはジオール化合物)等が挙げられる。具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。より具体的には、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が好ましく例示できる。
糖類とは単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)および多糖類をいうものとする。糖類としては、例えば、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、イソトレハロース、ゲンチオビオース、メリビオース、ツラノース、ソホロース、イソサッカロース、グルカン、フルクタン、マンナン、キシラン、ガラクツロナン、マンヌロナン、N−アセチルグルコサミン重合体などのホモグリカン、ジヘテログリカン、トリへテログリカンなどのヘテログリカン、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等が挙げられ、好ましくは、トレハロース等が例示できる。
ベタイン化合物とは、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に持ち、正電荷をもつ原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、分子全体としては電荷を持たない化合物(分子内塩)である。好ましいベタイン化合物としては、アミノ酸のN−アルキル置換体であり、より好ましくはアミノ酸のN−トリアルキル置換体である。ベタイン化合物としては、例えば、トリメチルグリシン(「グリシンベタイン」ともいう。)、γ−ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリンおよびグルタミン酸ベタイン等が挙げられ、好ましくは、トリメチルグリシン等が例示できる。
本発明に用いる前記水溶性有機溶剤の含有量は、インクの粘度調整、保湿効果による目詰まり防止の点から、インクの全重量に対して1重量%以上40重量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下であるのがより好ましい。また、これらは単独でも2種以上混合して使用されてもよい。
<昇華性染料>
昇華性染料は、加熱により昇華する性質を有する染料である。昇華性染料としては、上記のような性質を有する分散染料、溶剤染料等を用いることができる。
本発明の昇華転写用インクは、昇華性染料としてC.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、C.I.ソルベントバイオレット13とを含むものである。これらの昇華性染料はいずれもエームズ試験で陰性を示すものであり、これにより、本発明の昇華転写用インクは、エームズ試験で陰性を示す昇華転写用インクを提供できる。
ところで、エームズ試験は細菌を用いた変異原性試験である。エームズ試験に用いられる菌株は、サルモネラ菌の内、ヒスチジンを合成することのできないヒスチジン要求性の株(his−)で、被試験物質がその菌株に作用した結果、ヒスチジンを再び合成できるようになったヒスチジン非要求性(his+)の復帰体のコロニー数を数えて、その物質の変異原性を判定する。現在、これらの菌株の内、TA1535、TA1537、TA100、TA98あるいはWP2uvrA−が一般的に使用されている。これらの菌株の内、TA98を用いた場合に特にアントラキノン構造の染料などの染料類で陽性になることが多い。エームズ試験では一般に被試験物質をそのまま菌体に作用させる直接試験と、微生物における薬物代謝系を哺乳類のそれに近づけるために、ラットなどの肝臓から得られる薬物代謝活性化酵素(いわゆるS9Mix)を組み入れて試験を行う代謝活性化試験が併用して実施される。通常、被試験物質の試験による復帰コロニー数が、溶媒対照試験(溶媒のみでの試験)の復帰コロニー数の2倍以上になる場合に被試験物質は、エームズ試験陽性と判定される。本発明におけるエームズ試験とは、S9Mixを組み入れたTA98およびTA100での試験を示すものとする。
また、昇華性染料としてC.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、C.I.ソルベントバイオレット13とを含むことで、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度が得られる。これにより、エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する昇華転写用インクを提供することができる。
なお、本発明の昇華転写用インクにおけるシアンインクとして優れた色相とは、被染色物上でのCIELAB色空間において定義される色相角∠H°が約250°から約280°の範囲であることを示すものとする。
[前記色相角∠H°は、∠H°=tan-1(b*/a*+180(a*<0の場合)、または∠H°=tan-1(b*/a*)+360(a*>0の場合)により求められる。a*およびb*は、CIELAB色空間において定義される知覚色度指数を表わす。]
また、本発明の昇華転写用インクにおけるシアンインクとして優れた光学濃度(OD:Optical Density)とは、被染色物上でのODの値(以下、OD値)が1.50以上であることを示すものとし、1.55以上がより好ましい。
[前記OD値は、OD =log(1/T)により求められる。Tは、透過率[%]を表わす。]
<その他の成分>
本発明の昇華転写用インクは、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、分散剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、ポリシロキサン化合物等が挙げられる。
昇華転写用インクが分散剤を含むことにより、昇華転写用インクにおける昇華性染料の分散安定性を特に優れたものとすることができ、昇華転写用インクの保存安定性、昇華転写用インクの長期にわたる吐出安定性等を特に優れたものとすることができる。また、昇華転写用インクを用いて製造される染色物の信頼性を特に優れたものとすることができる。
分散剤は、特に限定されないが、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤が挙げられる。
アニオン系分散剤としては、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましく挙げられる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物における「芳香族スルホン酸」としては、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β−ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸とβ−ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2−ナフトール−6−スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
また、アニオン系分散剤としては、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、および、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましい。
ノニオン系分散剤としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
また、高分子分散剤としては、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物等が挙げられる。
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド等が挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
昇華転写用インクがpH調整剤を含むことにより、昇華転写用インクの保存安定性等を特に優れたものとすることができる。また、昇華転写用インクを用いて製造される染色物の信頼性を特に優れたものとすることができる。
pH調整剤としては、例えば、昇華転写用インクのpHを6.0以上11.0以下の範囲に制御できるものを好適に用いることができる。このようなpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸等が挙げられる。
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、いわゆる蛍光増白剤(ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物)等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、高酸化油系化合物、グリセリン脂肪酸エステル系化合物、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、アセチレン系化合物等が挙げられる。
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系界面活性剤等が挙げられる。
昇華転写用インクがポリシロキサン化合物を含むことにより、インクジェット方式による液滴吐出の吐出応答性を向上させることができる。ポリシロキサン化合物としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
なお、本発明の昇華転写用インクの表面張力(25℃における表面張力)は、20mN/m以上50mN/m以下であるのが好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であるのがより好ましい。なお、昇華転写用インクの表面張力は、例えば、表面張力計CBVP−A3(協和界面科学株式会社製)を用いた、JIS K3362に準拠した測定により求めることができる。
また、本発明の昇華転写用インクの粘度(25℃における粘度)は、2mPa・s以上20mPa・s以下であるのが好ましい。これにより、昇華転写用インクの吐出安定性(吐出量の安定性、液滴の飛行特性等)、吐出応答性(応答速度、高周波対応性(周波数特性)等)等を特に優れたものとすることができる。なお、昇華転写用インクの粘度は、振動式粘度計を用いた、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
≪染色物の製造方法≫
次に、本発明の染色物の製造方法について説明する。
本発明の染色物の製造方法は、インクジェット法を用いて、上述したような本発明の昇華転写用インクを中間転写媒体に付与するインク付与工程(1a)と、前記昇華転写用インクが付与された前記中間転写媒体を、前記昇華転写用インクが付与された面と被染色物の染色面とを対向させた状態で加熱し、前記昇華性染料を前記被染色物に転写させる転写工程(1b)とを有する。これにより、生産性良く染色物を製造することができる昇華転写用インクを用いた染色物の製造方法を提供することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
<インク付与工程>
本工程では、インクジェット法を用いて、本発明の昇華転写用インクを中間転写媒体に付与する(1a)。
インクジェット法による昇華転写用インクの吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、昇華転写用インクの変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
中間転写媒体としては、例えば、普通紙等の紙、インク受容層が設けられた記録媒体(インクジェット用専用紙、コート紙等で呼称される)等を用いることができるが、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が設けられた紙が好ましい。これにより、中間転写媒体に付与した昇華転写用インクが乾燥する過程で、滲み等が抑制された中間記録物を得ることができ、また、後の転写工程においては、昇華性染料の昇華がより円滑に進行する。
本工程では、複数種のインクを用いてもよい。これにより、例えば、表現することのできる色域をより広いものとすることができる。
<転写工程>
その後、昇華転写用インクが付与された中間転写媒体を、被染色物と対向させた状態で加熱し、昇華転写用インクを構成する昇華性染料を被染色物に転写させる(1b)。これにより、染色物が得られる。
本工程での加熱温度は、特に規定されるものではないが、160℃以上220℃以下であるのが好ましく、170℃以上200℃以下であるのがより好ましい。これにより、昇華性染料を被染色物に転写させるのに十分なエネルギーを得ることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。
本工程での加熱時間は、加熱温度にもよるが、30秒以上90秒以下であるのが好ましく、45秒以上60秒以下であるのがより好ましい。これにより、昇華性染料を被染色物に転写させるのに十分なエネルギーを得ることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。
また、本工程は、昇華転写用インクが付与された中間転写媒体を、被染色物と対向させた状態で加熱することにより行えばよいが、前記中間転写媒体と被染色物とを密着させた状態で加熱することにより行うのが好ましい。これにより、転写に要するエネルギーをより少なくすることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。
被染色物としては、いかなるものを用いてもよく、例えば、布帛(疎水性繊維布帛等)、樹脂(プラスチック)フィルム、紙等のシート状の物が好適に用いられるが、シート状以外の球状、直方体形状等の立体的な形状を有する物を用いてもよい。
また、被染色物としては、例えば、樹脂、プラスチック、紙等で構成されたもののほか、ガラス、金属、陶磁器を用いてもよい。
被染色物としての布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維およびこれらの繊維を2種以上用いた混紡品等が挙げられる。また、これらとレーヨン等の再生繊維あるいは木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡品を用いてもよい。
また、被染色物としての樹脂(プラスチック)フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。樹脂(プラスチック)フィルムは、複数の層が積層された積層体であってもよいし、材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
≪染色物≫
次に、本発明の染色物について説明する。
本発明の染色物は、上述したような本発明の昇華転写用インクを用いて製造されたものである。これにより、発色性に優れた染色物を提供することができる。
本発明の染色物の用途は、いかなるものであってもよく、例えば、Tシャツ、トレーナー等の衣料品、のぼり旗等が挙げられる。
[1]昇華転写用インクの製造
以下のようにして、昇華転写用インクを製造した。
(実施例1)
まず、表1記載の昇華性染料と、アニオン系分散剤としてのβ−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物と、イオン交換水とからなる混合物を、0.2mm径ガラスビーズを用い、サンドミルにて、冷却下、約15時間分散化処理を行った。分散処理後、イオン交換水を加えて希釈し、次いで、該分散液をガラス繊維濾紙GC−50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径0.5μm)で濾過し、粒子サイズの大きい成分を除去した水性分散液を得た。
次に、上記のようにして得られた水性分散液と、グリセリンと、トリエチレングリコールモノメチルエーテルと、イオン交換水とを表1に示す割合で混合することにより、昇華転写用インクを得た。
(実施例2〜6)
昇華転写用インクの調製に用いる水性分散液の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして昇華転写用インクを製造した。
(比較例1〜5)
昇華転写用インクの調製に用いる水性分散液の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして昇華転写用インクを製造した。
前記各実施例および各比較例の昇華転写用インクの組成等を表1にまとめて示す。
なお、表中、
C.I.ソルベントブルー63(昇華性染料)を「SB63」、
C.I.ソルベントブルー11(昇華性染料)を「SB11」、
C.I.ソルベントバイオレット13(昇華性染料)を「SV13」、
C.I.ディスパースブルー14(昇華性染料)を「DB14」、
C.I.ソルベントブルー36(昇華性染料)を「SB36」、
β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(アニオン系分散剤)を「NS」、
グリセリンを「GL」、
トリエチレングリコールモノメチルエーテルを「TEGMME」で示した。
Figure 2014080538
[2]エームズ試験の実施
以下のようにして、各実施例および比較例の昇華転写用インクを用いて、エームズ試験を実施した。
エームズ試験として、試験菌株(TA98またはTA100)とS9mixとを用いる代謝活性化試験を実施した。上記[1]で製造された各実施例および比較例の昇華転写用インクをそれぞれジメチルスルホキシドに溶解し、昇華転写用インクの濃度がそれぞれ1.2、4.9、20、78、313、1250および5000(μg/プレート)の7用量となるように試験液を調製し、プレインキュベーション法を用いてエームズ試験としての代謝活性化試験を2回(2プレート)実施した。生じた復帰変異コロニー数の2プレートの平均値を各試験菌株についてそれぞれ算定した。また、溶媒対照試験(溶媒のみでの試験)を同様に行い、得られた復帰変異コロニー数の2プレートの平均値を算定した。得られた算定結果について、以下の基準に従い評価した。
陽性:用いた2種の試験菌株(TA98またはTA100)のうちいずれか1菌株以上において、被試験物質を含有するプレート上における復帰変異コロニー数が、溶媒対照試験の復帰変異コロニー数に対して2倍以上。
陰性:用いた2種の試験菌株(TA98またはTA100)の双方において、被試験物質を含有するプレート上における復帰変異コロニー数が、溶媒対照試験の復帰変異コロニー数に対して2倍未満。
これらの結果を表2に示す。
[3]染色物の製造
以下のようにして、各実施例および比較例の昇華転写用インクを用いて、染色物を製造した。
まず、昇華転写用インクをインクジェット装置に投入した。その後、シリカを含む材料で構成されたインク受容層を備えた紙を中間転写媒体として用意し、当該中間転写媒体のインク受容層に、1440×720dpi(dot per inch)で100%duty、50%duty、5%dutyで昇華転写用インクを吐出した(インク付与工程)。また、「duty」とは、下記式(A)で定義され、算出される値Dの単位を示すものである。
D={(実印字ドット数)/(縦解像度×横解像度)}×100(duty)・・・(A)
その後、昇華転写用インクが付与された中間転写媒体のインク受容層を、ポリエステル繊維で構成された布帛(被染色物)と密着させ、この状態で、太陽精機株式会社製ヒートプレス機TP−608Mを用いて200℃×60秒の条件で加熱し、昇華転写を行った(転写工程)。これにより染色物を得た。
[4]染色部の色相の測定
上記[3]で製造された染色物について、中間転写媒体と対向していた側の面の染色部のCIELAB色空間において定義されるa*、b*、並びに色相角∠H°を、SpectroScan(GretagMacbeth社製)を用いた測定によりそれぞれ求め、以下の基準に従い評価した。このとき、100%duty、50%duty、5%dutyで得られた染色物の染色部の色相角∠H°を、それぞれ∠H°(100)、∠H°(50)、および∠H°(5)とした。
A:染色部の色相角∠H°(100)、∠H°(50)、および∠H°(5)が、いずれも約250°から約280°の範囲である。
B:染色部の色相角∠H°(100)、∠H°(50)、および∠H°(5)のいずれか1つまたは2つが、約250°から約280°の範囲である。
C:染色部の色相角∠H°(100)、∠H°(50)、および∠H°(5)が、いずれも約250°から約280°の範囲外である。
これらの結果を表2に示す。
[5]染色部の光学濃度の測定
上記[3]で製造された染色物について、中間転写媒体と対向していた側の面の染色部のOD値を、SpectroScan(GretagMacbeth社製)を用いた測定により求め、以下の基準に従い評価した。このとき、100%dutyで得られた染色物の染色部のOD値を、OD(100)とした。
A:染色部のOD(100)が1.55以上である。
B:染色部のOD(100)が1.50以上1.55未満である。
C:染色部のOD(100)が1.50未満である。
これらの結果を表2に示す。
Figure 2014080538
表2から明らかなように、本発明の昇華転写用インクは、エームズ試験で陰性を示すとともに、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとして優れた色相および光学濃度を有する染色物を提供するインクとすることができた。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
本発明は、例えば、中間転写媒体を用いない昇華転写においても好適に使用できる。中間転写媒体を用いない昇華転写とは、インクジェット法を用いて布帛に直接付着させ、その後、加熱工程を行うことで捺染物を得る方法である。なお、この場合であっても、インクジェットインクとして優れた発色性、特にシアンインクとしての色相および光学濃度に優れることは言うまでもない。
また、例えば、本発明の製造方法では、上述したような工程に加え、さらに他の工程(前処理工程、中間処理工程、後処理工程)を有するものであってもよい。
また、前述した実施形態では、インクジェット法を用いて、本発明に係る昇華転写用インクを中間転写媒体に付与するインク付与工程と、前記昇華転写用インクが付与された前記中間転写媒体を、被染色物と対向させた状態で加熱し、前記昇華転写用インクを構成する昇華性染料を前記被染色物に転写させる転写工程とを有する方法を用いて染色物が製造される場合について代表的に説明したが、本発明の染色物は、このような方法を用いて製造されたものに限定されない。例えば、本発明の染色物は、剥離可能なインク受容層が設けられた被染色物(フィルム製品等)の前記インク受容層に、インクジェット法により本発明に係る昇華転写用インクを付与し、その後、そのまま加熱して下層側の被染色物に昇華拡散染色を行い、さらにその後、インク受容層を剥離する方法を用いて製造されたものであってもよい。

Claims (5)

  1. インクジェット法を用いて吐出される昇華転写用インクであって、
    水と、
    水溶性有機溶剤と、
    昇華性染料と、を含み、
    前記昇華性染料が、C.I.ソルベントブルー63またはC.I.ソルベントブルー11の少なくともどちらかの1種類と、
    C.I.ソルベントバイオレット13と、を含むことを特徴とする昇華転写用インク。
  2. 前記昇華転写用インクは、前記C.I.ソルベントブルー63もしくは前記C.I.ソルベントブルー11の含有量、または、前記C.I.ソルベントブルー63および前記C.I.ソルベントブルー11の含有量と、前記C.I.ソルベントバイオレット13の含有量との重量比率が、1:1〜10:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の昇華転写用インク。
  3. インクジェット法を用いて、請求項1または請求項2に記載の昇華転写用インクを中間転写媒体に付与するインク付与工程と、
    前記昇華転写用インクが付与された前記中間転写媒体を、前記昇華転写用インクが付与された面と被染色物の染色面とを対向させた状態で加熱し、前記昇華性染料を前記被染色物に転写させる転写工程とを有することを特徴とする染色物の製造方法。
  4. 前記転写工程での加熱温度が160℃以上220℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の染色物の製造方法。
  5. 請求項1または請求項2に記載の昇華転写用インクを用いて製造されたことを特徴とする染色物。
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