以下に、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1から図22を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、電動パワーステアリング装置に関する。図1は、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の動作を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両の概略構成図、図3は、実施形態に係るECUのブロック図、図4は、実施形態に係る第一補正制御部の詳細を示すブロック図である。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1は、ステアリングシステムの経年的なメカ劣化による操舵トルク変動を補正する機能を有している。また、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1は、回転角に依存したトルク変動に着目したトルク変動の検出方法と、経年変化による劣化の判定方法と、回転角情報と補正パターンを用いた補正方法と、整備時の補正パターン生成方法とを有する。
本実施形態において、車両100に必要な構成としては、電動パワーステアリングシステム(EPS)およびステアリングシステムの回転角センサである。電動パワーステアリングシステムは、車速センサ、操舵トルクセンサ等のEPSに必要なセンサを含むものである。また、回転角センサは、操舵角センサまたはモータ回転角センサまたはラックストロークセンサまたはピニオン角センサまたはタイヤ切れ角センサ等である。上記回転角センサは、絶対角センサであるか、あるいは相対角センサである場合にはステアリングの絶対角を取得可能なものである。
図2に示すように、車両100は、操舵輪として左前輪FLおよび右前輪FRを有する。車両100は、前輪FL,FRが転舵することにより旋回することができる。本実施形態の電動パワーステアリング装置1−1は、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17、VGRSアクチュエータ200、VGRS相対角センサ18、EPSアクチュエータ300およびECU50を含んで構成されている。
ハンドル11は、アッパーステアリングシャフト12、VGRSアクチュエータ200、ロアステアリングシャフト13、およびラックアンドピニオン機構20を介して左前輪FLおよび右前輪FRとそれぞれ接続されている。アッパーステアリングシャフト12は、ハンドル11と連結された回転軸であり、ハンドル11と一体回転する。
VGRSアクチュエータ200は、ハンドル11の操舵角θに対する前輪FL,FRの転舵角を可変に制御するアクチュエータである。VGRSアクチュエータ200は、アッパーステアリングシャフト12の回転量とロアステアリングシャフト13の回転量との比を無段階に変化させることができる。本実施形態のVGRSアクチュエータ200は、アッパーステアリングシャフト12に連結されたステータと、ロアステアリングシャフト13に連結されたロータとを含むVGRSモータ201を有する。VGRSアクチュエータ200は、VGRSモータ201によってアッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13との相対回転量を予め定められた範囲内で可変に制御する。
VGRS相対角センサ18は、VGRSアクチュエータ200におけるアッパーステアリングシャフト12とロアステアリングシャフト13との回転位相差であるVGRS相対回転角δvgrsを検出する。
ラックアンドピニオン機構20は、ピニオンギア14とラックバー15を有する。ピニオンギア14は、ロアステアリングシャフト13の端部に接続されており、ロアステアリングシャフト13の回転と連動して回転する。ラックバー15は、ピニオンギア14のギア歯と噛み合うギア歯を有している。ピニオンギア14の回転運動は、ラックバー15の車幅方向(図2の左右方向)の運動に変換される。ラックバー15の車幅方向の運動は、タイロッドやナックルを介して左前輪FLおよび右前輪FRに伝達されて前輪FL,FRを転舵する。
操舵トルクセンサ16は、操舵トルクTを検出する。本実施形態の操舵トルクセンサ16は、運転者からハンドル11に入力される操舵トルクTによって捩れを生じるトーションバーを有しており、トーションバーにおいて生じる回転位相差に応じた電気信号を出力する。操舵角センサ17は、操舵角θを検出する。本実施形態の操舵角センサ17は、中立位置からのアッパーステアリングシャフト12の回転量に応じた電気信号を出力する。車速センサ19は、車両100の走行速度に応じた電気信号を出力する。
ECU50は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU50は、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17、車速センサ19、VGRSアクチュエータ200およびEPSアクチュエータ300と電気的に接続されている。ECU50は、操舵トルクセンサ16から入力される電気信号に基づいて操舵トルクTを取得する。また、ECU50は、操舵角センサ17から入力される電気信号に基づいて操舵角θを取得する。また、ECU50は、車速センサ19から入力される電気信号に基づいて車速Vを取得する。電動パワーステアリング装置1−1は、ラックバー15の車幅方向の移動量(ラックストローク)を検出するストロークセンサを有している。ストロークセンサの検出結果を示す信号は、ECU50に入力される。ECU50は、ストロークセンサから入力される電気信号に基づいてラックストロークを取得する。
EPSアクチュエータ300は、アシストトルクやダンピングトルク等の出力トルクを発生させ、発生させた出力トルクをロアステアリングシャフト13に作用させる転舵トルク出力装置である。本実施形態のEPSアクチュエータ300は、ロアステアリングシャフト13に接続された電動モータ(以下、「EPSモータ」と称する。)301を有しており、EPSモータ301により出力トルクを発生させる。EPSモータ301は、図示しないバッテリと接続されており、バッテリから供給される電力を消費して出力トルクを発生する。EPSモータ301の回転は、図示しないウォームギアによって減速されてロアステアリングシャフト13に伝達される。EPSアクチュエータ300は、EPSモータ301の回転位置(回転角)を検出するセンサを有している。検出されたEPSモータ301の回転位置は、ECU50に出力される。
ECU50は、VGRSアクチュエータ200およびEPSアクチュエータ300に対して制御指令を出力し、各アクチュエータ200,300を制御する。ECU50は、例えば、操舵トルクTおよび車速Vに基づいてVGRSアクチュエータ200やEPSアクチュエータ300に対する制御指令値を決定する。
ここで、ステアリングシステムでは、経年的なメカ劣化等によりステアリングシステムの回転位置に依存したトルク変動が存在することがある。ステアリングシステムの回転位置は、例えば操舵角θである。回転位置によって操舵に要するトルクが変動すると、ドライバビリティの低下につながる可能性がある。
本実施形態の電動パワーステアリング装置1−1は、ステアリングに関する回転角およびトルクの検出結果に基づいて、回転角に依存したトルク変動を検出することができる。これにより、トルク変動を補償する補償トルクを出力させることや、トルク変動に基づいて経年劣化を判定することが可能となる。
電動パワーステアリング装置1−1は、検出したトルク変動に基づいて経年変化の判定を行う。これにより、経年的な機械劣化を判定することができる。また、電動パワーステアリング装置1−1は、検出したトルク変動に基づいて、トルク変動を打ち消すように出力トルクを補正する。これにより、回転角に依存するトルク変動を抑制することができる。
図3に示すように、ECU50は、アシスト制御部51、ダンピング制御部52、補正制御部53,54,55,56を含んで構成されている。補正制御部53,54,55,56は、回転角に依存するトルク変動を補償するトルク補正制御を実行する。第一補正制御部53は、EPSモータ301の回転角度であるモータ回転角θ’に対応する補正制御を実行する。第二補正制御部54は、ピニオンギア14の回転角度であるピニオン角に対応する補正制御を実行する。第三補正制御部55は、操舵角θ、言い換えるとハンドル角に対応する補正制御を実行する。第四補正制御部56は、ラックストロークに相当するハンドル角に対応する補正制御を実行する。
アシスト制御部51は、運転者が入力する操舵トルクと同方向のトルクであるアシストトルクの目標値を出力する。アシスト制御部51は、操舵トルクTと車速Vとに基づいて目標とするアシストトルクの方向と大きさを出力する。
ダンピング制御部52は、運転者が入力する操舵トルクと反対方向のトルクであるダンピングトルクの目標値を出力する。ダンピング制御部52は、操舵速度SWVと車速Vとに基づいて目標とするダンピングトルクの方向と大きさを出力する。
図4に示すように、第一補正制御部53は、トルク変動検出部61と、指標抽出部62と、経年劣化判定部63と、補正パターン生成部64と、トルク変動補正部65とを含んで構成されている。
トルク変動検出部61は、モータ回転角θ’に依存するトルク変動を検出する。トルク変動検出部61には、操舵トルクTと、操舵角θと、モータ回転角θ’と、車速Vが入力される。指標抽出部62は、トルク変動検出部61によって検出されたトルク変動の特性を蓄積し、指標を抽出する。経年劣化判定部63は、指標抽出部62によって抽出された指標に基づいて特性の変化を検知し、経年劣化(経年変化)の判定を行う。経年劣化判定部63には、経年情報として、走行時間等の日時情報、走行距離、操舵回数等が入力される。補正パターン生成部64は、指標抽出部62において得られたトルク変動の特性(θ’−T特性)と、経年劣化判定部63によって検知された特性変化とに基づいて補正パターンを生成する。トルク変動補正部65は、回転角に依存するトルク変動を打ち消すようにEPSアクチュエータ300の出力トルクを補正する。
図1を参照して、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1の動作について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、ECU50により、操舵トルクT、操舵角θおよび車速Vが計測される。ECU50は、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17および車速センサ19からそれぞれの検出結果を取得する。ステップS1が実行されると、ステップS2に進む。
ステップS2では、ECU50により、操舵角速度θdot、操舵トルク変化速度Tdotおよび車両加速度Vdotが算出される。操舵角速度θdotは、操舵角θの時間微分(dθ/dt)であり、操舵トルク変化速度Tdotは、操舵トルクTの時間微分(dT/dt)であり、車両加速度Vdotは、車速Vの時間微分(dV/dt)である。ステップS2が実行されると、ステップS3に進む。
ステップS3では、ECU50により、操舵・走行条件が所定範囲であるか否かが判定される。所定範囲は、通常の操作かつ通常の使用状況であることを示す。図5は、本実施形態の操舵角に関する所定範囲を示す図、図6は、本実施形態の操舵トルクに関する所定範囲を示す図、図7は、本実施形態の車速に関する所定範囲を示す図である。
図5において、領域R1および領域R2は、操舵角に関する所定範囲を示している。操舵角θにおいて、中立位置は0である。正の操舵角θは、中立位置よりもハンドル11を左きりしているときの操舵角θを示し、負の操舵角θは、中立位置よりもハンドル11を右きりしているときの操舵角を示す。領域R1は、ハンドル11を左きりするとき、言い換えると運転者から見てハンドル11を反時計回りに回転させるときの所定範囲を示す。ハンドル11を左きりするときの操舵角速度θdotが正の速度である。領域R1は、操舵角速度θdotが正方向の下限値θd1以上でかつ正方向の上限値θd2以下の範囲に定められている。また、領域R1は、操舵角θが下限値θ1以上でかつ上限値θ2以下の範囲に定められている。なお、下限値θ1は負の値、上限値θ2は正の値である。
領域R2は、ハンドル11を右きりするとき、言い換えると運転者からみてハンドル11を時計回りに回転させるときの所定範囲を示す。ハンドル11を右きりするときの操舵角速度θdotが負の速度である。領域R2は、操舵角速度θdotが負方向の下限値θd3以下でかつ負方向の上限値θd4以上の範囲に定められている。また、領域R2は、操舵角θが下限値θ1以上でかつ上限値θ2以下の範囲に定められている。
保舵されているときはトルク変動を検出することができない。このため、正方向の下限値θd1と負方向の下限値θd3との間の範囲は、所定範囲から除外されている。また、速い操舵速度では、減衰によりトルク変動の特性がばらつく。このため、正方向の上限値θd2よりも正側の操舵角速度θdotの範囲、および負方向の上限値θd3よりも負側の操舵角速度θdotの範囲は、所定範囲から除外されている。
また、ハンドル11の可動範囲のエンド部分では操舵トルクTが急変する。このため、下限値θ1よりも負側の操舵角θの範囲、および上限値θ2よりも正側の操舵角θの範囲は、所定範囲から除外されている。ECU50は、操舵角θと操舵角速度θdotとの組み合わせを示す点が、領域R1あるいは領域R2にある場合、操舵角θに関する操舵条件が所定範囲であると判定する。
図6において、領域R3は、操舵トルクに関する所定範囲を示している。正の操舵トルクTは、ハンドル11を左きりする方向のトルクを示し、負の操舵トルクTは、ハンドル11を右きりする方向のトルクを示す。領域R3は、操舵トルクTが下限値T1以上でかつ上限値T2以下の範囲に定められている。また、領域R3は、操舵トルク変化速度Tdotが下限値Td1以上でかつ上限値Td2以下の範囲に定められている。なお、下限値T1および下限値Td1は負の値、上限値T2および上限値Td2は正の値である。
ぬかるみにおける操舵などの高トルクの範囲を除外するように、下限値T1よりも負側の操舵トルクTの範囲、および上限値T2よりも正側の操舵トルクTの範囲は、所定範囲から除外されている。また、操舵トルク変化速度Tdotが高速であるときは、急激な操作である。こうした急激な操作を除外するように、下限値Td1よりも負側の操舵トルク変化速度Tdotの範囲、および上限値Td2よりも正側の操舵トルク変化速度Tdotの範囲は、所定範囲から除外されている。ECU50は、操舵トルクTと操舵トルク変化速度Tdotとの組合せを示す点が、領域R3にある場合、操舵トルクTに関する操舵条件が所定範囲であると判定する。
図7において、領域R4は、車速に関する所定範囲を示している。領域R4は、車速Vが下限値V1以上でかつ上限値V2以下の範囲に定められている。また、領域R4は、車両加速度Vdotが下限値Vd1以上でかつ上限値Vd2以下の範囲に定められている。なお、下限値V1および下限値Vd1は負の値、上限値V2および上限値Vd2は正の値である。
高車速の走行時は、操舵角が小さい。このため、下限値V1よりも負側の車速Vの範囲、および上限値V2よりも正側の車速Vの範囲は、所定範囲から除外されている。車速Vが変動するときは、車両100の接地荷重の変動等が影響する。このため、下限値Vd1よりも負側の車両加速度Vdotの範囲、および上限値Vd2よりも正側の車両加速度Vdotの範囲は、所定範囲から除外されている。ECU50は、車速Vと車両加速度Vdotとの組合せを示す点が領域R4にある場合、走行条件が所定範囲にあると判定する。
ECU50は、ステップS3の判定において、操舵角θに関する操舵条件が所定範囲であり、かつ操舵トルクTに関する操舵条件が所定範囲であり、かつ走行条件が所定範囲であると判定した場合に肯定判定を行う。また、ECU50は、操舵角θに関する操舵条件、操舵トルクTに関する操舵条件、あるいは走行条件のいずれか一つでも所定範囲でない場合、ステップS3で否定判定を行う。ステップS3の判定の結果、肯定判定がなされた場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)にはステップS16に進む。
ステップS4では、ECU50により、平均操舵トルクTaveが算出される。本実施形態では、直線近似により平均操舵トルクTaveが算出される。図8は、検出した操舵トルクTdetおよび平均操舵トルクTaveの一例を示す図である。図8において、横軸はモータ回転角θ’であり、縦軸は操舵トルクTである。なお、モータ回転角θ’は、後述するように、実際のモータ回転角を操舵角相当の値に換算したものである。
図8には、左きりにおいて各モータ回転角θ’で検出された操舵トルク(以下、「左きり検出操舵トルク」と称する。)Tdet1、および右きりにおいて各モータ回転角θ’で検出された操舵トルク(以下、「右きり検出操舵トルク」と称する。)Tdet2が示されている。左きりの平均操舵トルクTave1は、左きり検出操舵トルクTdet1の波形を関数フィッティングして求められる。本実施形態では、左きり検出操舵トルクTdet1を一次関数にフィッティングして左きりの平均操舵トルクTave1が求められる。なお、左きりの平均操舵トルクTave1を算出する方法は、一次関数への関数フィッティングには限定されない。左きり検出操舵トルクTdet1を高次関数に関数フィッティングすることや、移動平均することにより左きりの平均操舵トルクTave1が求められてもよい。
右きりの平均操舵トルクTave2は、右きり検出操舵トルクTdet2の波形を関数フィッティングして求められる。本実施形態では、右きり検出操舵トルクTdet2を一次関数にフィッティングして右きりの平均操舵トルクTave2が求められる。なお、右きりの平均操舵トルクTave2を算出する方法は、一次関数への関数フッティングには限定されない。右きり検出操舵トルクTdet2を高次関数に関数フッティングすることや、移動平均することにより右きりの平均操舵トルクTave2が求められてもよい。左きりの平均操舵トルクTave1および右きりの平均操舵トルクTave2が算出されると、ステップS5に進む。
ステップS5では、第一補正制御部53により、変動トルクT’が算出される。変動トルクT’は、操舵トルクTから平均操舵トルクTaveを減じたトルクである。図9は、左きりの変動トルクを示す図、図10は、右きりの変動トルクを示す図である。図9に示す左きりの変動トルクT’1は、各モータ回転角θ’について、左きり検出操舵トルクTdet1から左きりの平均操舵トルクTave1を減じて算出される。図10に示す右きりの変動トルクT’2は、各モータ回転角θ’について、右きり検出操舵トルクTdet2から右きりの平均操舵トルクTave2を減じて算出される。左きりの変動トルクT’1および右きりの変動トルクT’2が算出されると、ステップS6に進む。
ステップS6では、第一補正制御部53により、周期性範囲に基づくハンドル換算値が算出される。図11は、周期性範囲を示す図である。図11において、(a)はラックストロークに相当するハンドル角(操舵角θ)、(b)はハンドル角の周期性範囲、(c)はピニオン角の周期性範囲、(d)はモータ角の周期性範囲を示す。
モータ角を例に説明すると、EPSモータ301の回転は、ウォームギアによって減速されてロアステアリングシャフト13に伝達される。従って、ハンドル11の回転量に対して、EPSモータ301の回転量は大きい。EPSモータ301によるトルク変動成分がある場合、そのトルク変動成分の周期は、EPSモータ301の1回転である。図11(d)に示す周期性範囲は、EPSモータ301の正負方向それぞれの1回転、−360degから+360degに相当する操舵角θの範囲である。
実際のEPSモータ301の回転位置から、操舵角相当のモータ回転角θ’への換算係数は、EPSモータ301のウォームギア比によって決まる。例えば、ウォームギア比が20である場合、モータ回転位置+360degを操舵角θに換算したモータ回転角θ’(ハンドル換算値)は、+18degである。従って、EPSモータ301の周期性範囲を−360degから+360degのEPSモータ301の回転位置とした場合、操舵角θに換算したモータ回転角θ’の周期性範囲は、−18degから+18degの範囲となる。
同様にして、図11(c)に示す周期性範囲は、ピニオン角、すなわちピニオンギア14の正負方向それぞれの1回転、−360degから+360degに相当する操舵角θの範囲である。ピニオン角から操舵角相当への換算係数は、VGRSアクチュエータ200による減速比によって決まる。
図11(a)に示すラックストロークの周期性範囲は、ラックストロークの右きり方向のストロークエンドから左きり方向のストロークエンドまでの範囲とすることができる。VGRSアクチュエータ200を備えないステアリングシステムでは、ラックストロークから操舵角θへの換算係数を1としてラックストロークと操舵角θとが対応付けられる。
第一補正制御部53は、周期性範囲に基づいて、モータ回転角θ’を周期性範囲内の回転角に変換する。操舵角相当に換算したモータ回転角θ’において、+18degよりも正側のモータ回転角θ’および−18degよりも負側のモータ回転角θ’は、周期性範囲内の対応するモータ回転角θ’に変換される。対応するモータ回転角θ’は、EPSモータ301の同じ回転位置を示すモータ回転角θ’である。例えば、操舵角換算+27degのモータ回転角θ’は、+27degを周期性範囲である+18degで除した余りの+9degに変換される。周期性範囲外のモータ回転角θ’における検出操舵トルクTdet1、Tdet2および変動トルクT’1,T’2は、周期性範囲内の対応するモータ回転角θ’の値として扱われる。例えば、操舵角換算+27degの検出操舵トルクTdet1,Tdet2および変動トルクT’1,T’2は、変換後の+9degの検出操舵トルクTdet1,Tdet2および変動トルクT’1,T’2として蓄積される。ステップS6で周期性範囲内のモータ回転角θ’が算出されると、ステップS7に進む。
ステップS7では、第一補正制御部53により、操舵角速度θdotが正であるか否かが判定される。その判定の結果、操舵角速度θdotが正であると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)にはステップS9に進む。
ステップS8では、第一補正制御部53により、左きりの変動トルクT’1が左操舵用θ’−T’平面に追加される。図12は、蓄積された変動トルクを示す図である。第一補正制御部53は、左操舵(左きり)について、周期性範囲内の値に変換されたモータ回転角θ’と左きりの変動トルクT’1との関係を蓄積する。これにより、θ’−T’平面には、左きりに関するモータ回転角θ’と変動トルクT’1との関係を示す複数の特性線が重ね書きされる。ステップS8が実行されると、ステップS10に進む。
ステップS9では、第一補正制御部53により、右きりの変動トルクT’2が右操舵用θ’−T’平面に追加される。第一補正制御部53は、右操舵(右きり)について、周期性範囲内の値に変換されたモータ回転角θ’と右きりの変動トルクT’2との関係を蓄積する。これにより、θ’−T’平面には、右きりに関するモータ回転角θ’と変動トルクT’2との関係を示す複数の特性線が重ね書きされる。ステップS9が実行されると、ステップS10に進む。
ステップS10では、第一補正制御部53により、所定範囲内のθ’−T’が平均化される。第一補正制御部53は、左きりの操舵について蓄積されたモータ回転角θ’と左きりの変動トルクT’1との関係に基づいて、左きりの変動トルクT’1の平均値を算出する。また、第一補正制御部53は、右きりの操舵について蓄積されたモータ回転角θ’と右きりの変動トルクT’2との関係に基づいて、右きりの変動トルクT’2の平均値を算出する。図12において、T’aveは、変動トルクT’の平均値(以下、「平均変動トルク」と称する。)を示す。第一補正制御部53は、左きりおよび右きりのそれぞれにおいて、各モータ回転角θ’について、蓄積された変動トルクT’の平均値を算出する。変動トルクT’の平均化がなされると、ステップS11に進む。
ステップS11では、第一補正制御部53により、指標化がなされる。左きりおよび右きりのそれぞれについて、変動トルクT’の指標化を行う。図13は、θ’−T’平面での指標化の説明図である。指標は、例えば、平均変動トルクT’aveの最大値と最小値との差分である。なお、これに代えて、平均変動トルクT’aveの最大値が変動トルクT’の指標とされてもよく、平均変動トルクT’aveの絶対値の最大値が指標とされてもよい。
また、空間周波数平面において変動トルクT’の指標化がなされてもよい。図14は、空間周波数平面での指標化の説明図である。横軸は、モータ回転角θ’の逆数(空間周波数)である。変動トルクT’の指標は、例えば、所定範囲Rの空間周波数における変動トルクT’の最大値である。所定範囲Rは、例えば、ロードインフォメーションによるトルクの周波数の範囲を除外して設定される。ステップS11において指標化がなされると、ステップS12に進む。
ステップS12では、第一補正制御部53により、指標が保存される。ステップS12が実行されると、ステップS13に進む。
ステップS13では、第一補正制御部53により、指標が閾値以上であるか否かが判定される。第一補正制御部53は、ステップS11で算出された指標が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。その判定の結果、指標が閾値以上であると判定された場合(ステップS13−Y)にはステップS14に進み、そうでない場合(ステップS13−N)にはステップS15に進む。
ステップS14では、第一補正制御部53により、劣化状態が変化したと判定され、ステップS16に進む。
ステップS15では、第一補正制御部53により、劣化状態に変化がないと判定され、ステップS16に進む。
ステップS16では、劣化状態が変化したか否かが判定される。その判定の結果、劣化状態が変化したと判定された場合(ステップS16−Y)にはステップS17に進み、そうでない場合(ステップS16−N)にはステップS19に進む。
ステップS17では、第一補正制御部53により、操舵角に対する補償パターンが更新される。図15は、操舵角に対する補償パターンの更新を説明する図、図16は、操舵角に対する補償パターンの更新を説明する他の図である。図15は、周期性範囲での補償パターンの作成を示す図である。図15に示すように、周期性範囲での補償パターンTcom1は、平均変動トルクT’aveを横軸(モータ回転角θ’軸)に関して反転したものである。図16に示すように、補償制御トルクTcomは、周期性範囲での補償パターンTcom1を操舵角方向に繰り返したものである。第一補正制御部53は、左きりおよび右きりのそれぞれについて、操舵角に対する補償パターンを更新し、補償制御トルクTcomのパターンを生成する。ステップS17が実行されると、ステップS18に進む。
ステップS18では、第一補正制御部53により、θ’−T’平面の情報がクリアされる。第一補正制御部53は、モータ回転角θ’と変動トルクT’との関係についての補償制御トルクTcom以外の記憶・蓄積情報をクリアする。ステップS18が実行されると、ステップS19に進む。
ステップS19では、第一補正制御部53により、操舵方向が判定される。第一補正制御部53は、操舵角速度θdotが正である場合には、左きりと判断し、操舵角速度θdotが負である場合には右きりと判断する。ステップS19が実行されると、ステップS20に進む。
ステップS20では、第一補正制御部53により、操舵角θの前出し量の設定がなされる。図17は、前出し量の説明図である。図17に示すように、左きりの操舵では、操舵角θが正方向に変化する。第一補正制御部53は、実際の操舵角θよりも少し先の情報で制御するように、少し先の操舵角θである将来操舵角(θ+X)を算出する。前出し量Xは、正の値である。図18は、前出し量の一例を示す図である。図18において横軸は操舵角速度(操舵速度)θdotの絶対値、縦軸は前出し量Xを示す。操舵角速度θdotが0の場合の前出し量は0である。また、操舵角速度θdotが大きくなるに従い、前出し量Xが増加する。本実施形態では、前出し量Xは対数関数的に増加する。図18に示す前出し量は、操舵角速度θdotが速いほど制御系の遅れが大きくなることに対応したものである。
右きりの操舵では、操舵角θが負方向に変化する。第一補正制御部53は、実際の操舵角θよりも少し先の情報で制御するように、少し先の操舵角θである将来操舵角(θ−X)を算出する。ステップS20が実行されると、ステップS21に進む。
ステップS21では、第一補正制御部53により、操舵角速度θdotによるゲイン演算がなされる。図19は、操舵角速度によるゲイン演算の説明図である。図19において、横軸は操舵角速度θdotの絶対値、縦軸は第一ゲインG1を示す。第一ゲインG1は、トルク補償における操舵角速度θdotに基づくゲインである。図19に示すように、第一ゲインG1は、操舵角速度θdotが0の近傍である場合、0(等倍出力)とされる。操舵角速度θdotの0付近ではセンサのばらつきに反応しないように不感帯が設けられる。操舵角速度θdotの低速から中速の範囲では、符号G11に示すように、操舵角速度θdotが大きくなるに従い第一ゲインG1が増加する。これは、操舵角速度θdotが高い方がトルク変動が大きくなるためである。
操舵角速度θdotが中速から高速の範囲では、符号G12に示すように、操舵角速度θdotが大きくなるに従い第一ゲインG1が減少する。操舵角速度θdotが所定以上に速いとトルク変動を感じにくいためである。操舵角速度θdotが高速の範囲では、符号G13に示すように第一ゲインG1が0である。これは、人が操舵できる範囲以上の操舵角速度θdotではトルク補償が反応しないようにするためである。第一補正制御部53は、操舵角速度θdotに基づいて第一ゲインを演算する。ステップS21が実行されると、ステップS22に進む。
ステップS22では、第一補正制御部53により、車速Vによるゲイン演算がなされる。図20は、車速によるゲイン演算の説明図である。図20において、横軸は車速Vの絶対値、縦軸は第二ゲインG2を示す。第二ゲインG2は、トルク補償における車速Vに基づくゲインである。図20に示すように、所定車速V3までの低車速の領域の第二ゲインG2は、所定車速V3以上の領域の第二ゲインG2よりも小さい。また、所定車速V3未満の領域では、車速Vが小さくなるに従い第二ゲインG2が小さくなる。これは、車速が低い領域ではアシストトルクが大きく、トルク振動が小さくなるためである。所定車速V3以上の車速Vの領域では、第二ゲインG2は一定である。所定車速V3以上では、車速に応じたアシストトルクの変化が小さく、トルク振動の大きさも大きく変わらないためである。第一補正制御部53は、車速Vに基づいて第二ゲインG2を演算する。ステップS22が実行されると、ステップS23に進む。
ステップS23では、第一補正制御部53により、操舵トルクTによるゲイン演算がなされる。図21は、操舵トルクによるゲイン演算の説明図である。図21において、横軸は操舵トルクTの絶対値、縦軸は第三ゲインG3を示す。第三ゲインG3は、トルク補償における操舵トルクTに基づくゲインである。図21に示すように、所定操舵トルクT3未満の領域の第三ゲインG3は、所定操舵トルクT3以上の領域の第三ゲインG3よりも大きい。また、所定操舵トルクT3未満の領域では、操舵トルクTが小さくなるに従い第三ゲインG3が大きくなる。これは、操舵トルクTが小さい領域では、アシストトルクが小さく、トルク振動が大きくなるためである。所定操舵トルクT3以上の操舵トルクTの領域では、第三ゲインG3は一定である。所定操舵トルクT3以上では、アシストトルクが飽和し、操舵トルクTに応じたアシストトルクの変化が小さく、トルク振動の大きさも大きく変わらないためである。第一補正制御部53は、操舵トルクTに基づいて第三ゲインG3を演算する。ステップS23が実行されると、ステップS24に進む。
ステップS24では、第一補正制御部53により、操舵角速度θdotによるBPF演算がなされる。図22は、BPF演算のゲインを示す図である。図22において、横軸は操舵周波数、縦軸はBPF演算のゲインBPF_Gainを示す。BPF演算のゲインBPF_Gainは、ロードインフォメーションのトルクに対するトルク補償を抑制するように定められている。言い換えるとBPF演算のゲインBPF_Gainは、メカ的なトルク変動領域に限定してトルク補正を行うことができるように定められている。BPF演算のゲインBPF_Gainは、下限周波数f1よりも低周波の領域、および上限周波数f2よりも高周波の領域で0とされている。また、BPF演算のゲインBPF_Gainは、下限周波数f1と上限周波数f2との間において、中央部の値が端部の値よりも大きな台形状である。第一補正制御部53は、操舵周波数に基づいてBPF演算のゲインBPF_Gainを算出する。ステップS24が実行されると、ステップS25に進む。
ステップS25では、第一補正制御部53により、補償制御が実行される。図4に示すトルク変動補正部65は、操舵方向と将来操舵角とに基づいて補正量を算出する。例えば、トルク変動補正部65は、図17に示すように、右きりの操舵がなされている場合、将来操舵角(θ−X)と、右きりの補償制御トルクTcomとに基づいて将来操舵角(θ−X)に対応する補正量を算出する。トルク変動補正部65は、算出した補正量に対して、第一ゲインG1、第二ゲインG2、第三ゲインG3およびBPF演算のゲインBPF_Gainによる調整(増幅、減衰)を行い、制御出力とする。この制御出力は、アシスト制御のアシストトルクおよびダンピング制御のダンピングトルクと加算されてEPSアクチュエータ300の出力トルクの目標値とされる。トルク変動補正部65によって、変動トルクT’を打ち消す補償トルクが加算されることで、操舵時のトルクの変動が抑制される。ステップS25が実行されると、本制御フローは終了する。
ここまで、第一補正制御部53によるトルク変動補正について説明したが、第二補正制御部54、第三補正制御部55、第四補正制御部56によるトルク変動補正についても、同様の流れで行われる。
例えば、第二補正制御部54は、ピニオンギア14の回転角(ピニオン角)に応じたトルク変動を算出する。ここで、ピニオンギア角は操舵角θに換算されたものである。この換算は、VGRSアクチュエータ200の減速比に基づいて行われる。第二補正制御部54は、ピニオン角を周期性範囲内の角度に変換してトルク変動を蓄積し、平均変動トルクT’aveを算出する。その他の動作については、第一補正制御部53の動作と同様、あるいは第一補正制御部53の動作に準じたものである。第二補正制御部54は、ピニオン角に依存するトルク変動を打ち消す補償トルクを制御出力する。
第三補正制御部55は、ハンドル角に応じたトルク変動を算出する。この場合、ハンドル角は操舵角θであるため、角度の換算は不要である。第三補正制御部55は、ハンドル角を周期性範囲内の角度に変換してトルク変動を蓄積し、平均変動トルクT’aveを算出する。その他の動作については、第一補正制御部53の動作と同様、あるいは第一補正制御部53の動作に準じたものである。第三補正制御部55は、ハンドル角に依存するトルク変動を打ち消す補償トルクを制御出力する。
第四補正制御部56は、ラックストローク相当ハンドル角に応じたトルク変動を算出する。ラックストローク相当ハンドル角は、VGRSアクチュエータ200の減速比に基づいてラックストロークが操舵角θに換算されたものである。第四補正制御部56は、ラックストローク相当ハンドル角毎のトルク変動を蓄積し、平均変動トルクT’aveを算出する。その他の動作については、第一補正制御部53の動作と同様、あるいは第一補正制御部53の動作に準じたものである。第四補正制御部56は、ラックストロークに相当するハンドル角に依存するトルク変動を打ち消す補償トルクを制御出力する。
各補正制御部53,54,55,56により算出された補償トルクは、アシストトルクおよびダンピングトルクに加算され、変動トルクT’を打ち消す。このように、本実施形態の電動パワーステアリング装置1−1によれば、モータ回転角θ’、ピニオン角、ハンドル角、ラックストローク相当ハンドル角のそれぞれに関してメカ的なトルク変動を補償して操舵時のトルク変動を抑制することができる。
なお、電動パワーステアリング装置1−1が検出するトルク変動は、ハンドル11の回転角に依存するトルク変動、EPSモータ301の回転角に依存するトルク変動、ピニオンギア14の回転角に依存するトルク変動、あるいはラックストロークに相当するハンドル11の回転角に依存するトルク変動の少なくともいずれか一つとすることができる。すなわち、4つのトルク変動の全てを検出することには限定されない。
また、電動パワーステアリング装置1−1が行う経年変化判定は、ハンドル11の回転角に依存するトルク変動、EPSモータ301の回転角に依存するトルク変動、ピニオンギア14の回転角に依存するトルク変動、あるいはラックストロークに相当するハンドル11の回転角に依存するトルク変動の少なくともいずれか一つに基づいて行われるようにしてもよい。すなわち、4つのトルク変動の全てについて経年変化判定を行うことには限定されない。
また、電動パワーステアリング装置1−1は、ハンドル11の回転角に依存するトルク変動、EPSモータ301の回転角に依存するトルク変動、ピニオンギア14の回転角に依存するトルク変動、あるいはラックストロークに相当するハンドル11の回転角に依存するトルク変動の少なくともいずれか一つを打ち消すように出力トルクを補正するようにしてもよい。すなわち、4つのトルク変動の全てについてトルク変動を打ち消すトルク補正を行うことには限定されない。
本実施形態では、操舵角θ(ハンドル角)を基準として、モータ回転角等の回転角度が操舵角θに換算されたが、これに代えて、他の回転角度が基準とされてもよい。例えば、EPSモータ301の回転角位置が基準とされてもよい。
本実施形態の第一補正制御部53は、図16に示すように、操舵角に対する補償トルクを求め、これに基づいて補償トルクを出力したが、これには限定されない。例えば、EPSモータ301の回転角位置(操舵角θに換算されていないもの)に対する補償トルクを求め、操舵角θをEPSモータ301の回転角位置に換算して補償トルクを決定してもよい。
以上説明したように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1は、ステアリングシステムの回転角θとトルクTを計測し、θ−T平面上の変動成分を抽出する。よって、回転角に依存したトルク変動に基づきトルク補正や劣化判定を行うことができる。例えば、抽出した変動成分に基づいた指標により劣化を検知することができる。また、抽出したトルク変動に基づきそれを補償することで、回転角に依存したトルク変動を精度よく検知し、補償することができる。
上記回転角は、EPSモータ301のモータ回転角とすることができる。これにより、EPSモータ301やウォームギアによる周期的なトルク変動を精度よく抽出することができる。
上記回転角は、ピニオンギア14のピニオン回転角とすることができる。これにより、ピニオン角あるいはハンドル角(VGRSが無しの場合)によるトルク変動を抽出することができる。
上記回転角は、ハンドル角とすることができる。これにより、ハンドル角(VGRS有りの場合)によるトルク変動を抽出することができる。
上記回転角は、ラックストロークをハンドル角相当に換算した角度とすることができる。これにより、ラックストローク位置によるトルク変動を抽出することができる。
上記変動成分は、各回転角度において操舵トルクTからその平均を差し引いた値とすることができる。
上記平均の算出方法は、評価する回転角を基準として−180degから+180degの範囲を平均化するようにしてもよい。これにより、簡単に評価値近傍の平均値を求めることができる。
上記平均の算出方法は、回転角に対する操舵トルクTの波形を関数フィッティングして求めるようにしてもよい。これにより、精度よく評価値近傍の平均値を求めることができる。
上記平均の算出方法は、回転角に対するトルクTの波形をフィルタリングして求めるようにしてもよい。これにより、車両特性の軸力特性に依存せずに評価値近傍の平均値を求めることができる。
上記θ−T平面上の変動成分は、操舵方向によって別々に抽出することが好ましい。これにより、操舵方向によってトルク変動を分離して検知することができ、それぞれの操舵方向で個別にトルク補正を行うことができる。
上記θとTは、所定の車速の範囲にあるとき、または操舵角の範囲にあるとき、または操舵トルクの範囲にあるとき、または操舵速度の範囲にあるとき、またはこれらの複合条件を満たすときの計測データを用いるようにしてもよい。これにより、安定しない条件を除外して、精度よく劣化判定のための情報を取得することができる。
上記θ−T平面のトルク変動等は、所定の車速範囲毎に抽出するようにしてもよい。これにより、車速Vによる車両運動の影響を分離することが可能である。
上記θ−T平面のトルク変動等は、所定の操舵速度範囲毎に抽出するようにしてもよい。これにより、操舵速度による影響を分離することが可能である。
上記指標は、トルク変動の極値の最大値や極値の絶対値の最大値とすることができる。これにより、変動の最悪を検出することができる。
上記指標は、角度に対する空間周波数の所定範囲における最大値に基づくものであってもよい。これにより、より精度の高い劣化判定が可能となる。
(劣化判定について)
上記劣化の検知の方法は、指標の大きさを所定範囲毎に平均化し、その値の大きさにより判断するようにしてもよい。これにより、所定範囲に依存した経年劣化を検知することができる。
上記所定範囲は、期間とすることができる。この場合、時間に依存した経年劣化を検知することができる。
上記所定範囲は、走行距離とすることができる。この場合、走行距離に依存した経年劣化を検知することができる。
上記所定範囲は、ステアリングシステムの操舵回数とすることができる。この場合、ステアリングシステムの使用状況に依存した経年劣化を検知することができる。
上記劣化の判断は、指標の大きさが所定閾値以上である場合に劣化と判断するようにしてもよい。このようにすれば、所定範囲内は劣化と判定されないため、不要な場面で補正制御が働かないようにすることができる。劣化判断がなされていないときには補償制御トルクを0としたり、トルク補償を行わないようにしたりすることができる。
上記劣化の判断は、指標の大きさの変化が所定閾値St1以上である場合に、劣化の進行が急激に進んでいると判断するようにしてもよい。これにより、経年変化による劣化の進行が急激に進んでいることを検知できる。
上記劣化の判断は、指標の大きさ変化が第二の所定閾値St2以上である場合に、ステアリングシステム特性の急激な変化があったと判断するようにしてもよい。これにより、ステアリングシステムの経年変化による劣化と、特性の急激な変化(例えば、部品交換等に起因する、劣化とは異なる特性変化)とを区別することができる。第二の所定閾値St2は、所定閾値St1よりも大きな値とすることができる。
(トルク補正について)
上記トルク補正の補正方法は、検知したθ−Tの特性を打ち消す制御出力を加えるものとすることができる。これにより、回転角に依存したトルク変動を補正することができる。
上記トルク補正の補正方法は、指標に基づいて劣化を検知した場合に、θ−Tの特性に基づき補正するようにしてもよい。これにより、必要な場面で劣化補正を行うことができる。
上記トルク補正の補正方法は、指標に基づいて劣化を検知した場合に、θ−Tの微分特性に基づき補正するようにしてもよい。この場合、信号が早まることにより、より効果的に劣化補正を行うことができる。
上記トルク補正の補正方法は、指標に基づいて劣化を検知した場合に、θ−Tの特性の大きさが大きい場合に、トルク微分制御のゲインを上げるようにしてもよい。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、各回転角−T特性をハンドル角−T特性に換算したものに基づく出力とされてもよい。これにより、各回転角の影響位置に対応した補正が可能となる。
上記ハンドル角は、前出しされたハンドル角とされてもよい。これにより、制御の遅れを補償して効果的に補正を行うことができる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、モータ角、ピニオン角、ハンドル角、ラックストロークに対応するハンドル角の少なくともいずれか1つに基づいた出力とすることができる。これにより、各回転角の影響に対応した補正が可能となる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、操舵方向によって補正する特性を異ならせるようにしてもよい。これにより、操舵方向によるトルク変動を分離して個別に補正することができる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、車速によって補正する特性を異ならせるようにしてもよい。これにより、車速による変動を分離して個別に補正することができる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、操舵速度によって補正する特性を異ならせるようにしてもよい。これにより、操舵速度による変動を分離して個別に補正することができる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、周期性の高いものから順に実施するようにしてもよい。これにより、角回転位置による変動を分離して対応することができる。
上記θ−Tの特性を打ち消す制御出力は、操舵周波数によって補正する特性を異ならせるようにしてもよい。メカのトルク変動領域に限定して補正するようにすれば、ロードインフォメーションに対するトルク補正の影響を低減することができる。
[実施形態の変形例]
実施形態の変形例について説明する。上記実施形態では、運転者により操舵がなされたときにトルク変動の特性を取得したが、これに代えて、自動的にトルク変動の特性を取得するようにしてもよい。例えば、電動パワーステアリング装置1−1によって自動的に操舵を行ってトルク変動の特性を取得することができる。このようにすれば、運転者によって操舵がなされたときに特性を取得する場合よりも短時間でより正確な情報を取得することができる。自動的に操舵してトルク変動の特性を取得する方法は、例えば、ディーラー等における整備時に実行されることが好ましい。
上記の自動操舵によりトルク変動の特性を取得する場合、一回の測定結果に基づき補償パターンが設定されるようにしてもよい。例えば、ハンドル角度についての特性を取得する場合、ハンドル角度の周期性範囲を含むように、−360degから+360degまで自動で操舵し、次いで+360degから−360degまで自動で操舵してこれを一回の測定として補償パターンを設定する。このようにして一回の測定結果に基づいて補償パターンを設定するようにすれば、整備時に短時間で補償設定を行うことができる。
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。