JP2014073942A - リチウム含有酸化珪素粉末の製造方法、およびリチウム含有酸化珪素粉末 - Google Patents
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Abstract
【課題】リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに高い電池性能を得ることができるとともに、製造コストを低くし、生産性を高くすることができるリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】このリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法は、表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、この混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含む。炭酸リチウム粉末と混合する前の酸化珪素粉末において、導電性炭素被膜を構成する炭素の割合は、好ましくは、1〜15質量%であり、さらに好ましくは、3〜15質量%である。
【選択図】図2
【解決手段】このリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法は、表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、この混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含む。炭酸リチウム粉末と混合する前の酸化珪素粉末において、導電性炭素被膜を構成する炭素の割合は、好ましくは、1〜15質量%であり、さらに好ましくは、3〜15質量%である。
【選択図】図2
Description
この発明は、リチウム含有酸化珪素粉末の製造方法、およびリチウム含有酸化珪素粉末に関し、より詳しくは、リチウムイオン二次電池の負極材を構成する負極活物質として用いるリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法、および当該負極活物質として用いるリチウム含有酸化珪素粉末に関する。
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化および軽量化との観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。現在、高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池およびポリマー電池等がある。このうち、リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて格段に高寿命かつ高容量であることから、その需要は電源市場において高い伸びを示している。
図1は、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。リチウムイオン二次電池は、同図に示すように、正極1、負極2、電解液を含浸させたセパレータ3、および正極1と負極2との電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されている。充放電を行うと、リチウムイオンがセパレータ3の電解液を介して正極1と負極2との間を往復する。
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO2)やマンガンスピネル(LiMn2O4)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと作用極集電体2bと作用極2cとで構成され、作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとで構成される。
従来、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、カーボン系材料が用いられている。また、カーボン系材料よりもリチウムイオン二次電池を高容量とする新たな負極活物質として、リチウムとホウ素との複合酸化物、リチウムと遷移金属(V、Fe、Cr、Mo、Ni等)との複合酸化物、Si、GeまたはSnとNおよびOとを含む化合物、化学蒸着により表面を炭素層で被覆したSi粒子等が提案されている。
しかし、これらの負極活物質を用いると、充放電容量を向上させ、エネルギー密度を高めることができるものの、リチウムイオンの吸蔵、放出時の膨張や収縮が大きくなる。そのため、これらの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しによる放電容量の維持性(以下「サイクル特性」という。)が不十分である。
これに対し、負極活物質としてSiO等、SiOx(0<x≦2)で表される酸化珪素の粉末を用いることが、試みられている(下記特許文献1参照)。酸化珪素とは、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させて得られた珪素非晶質の酸化物の総称である。
酸化珪素は、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出による構造の崩壊や不可逆物質の生成等による劣化が少ないことから、有効な充放電容量がより大きな負極活物質となり得る。そのため、酸化珪素を負極活物質として用いることにより、カーボンを用いた場合と比較して高容量であり、かつ、SiやSn合金といった高容量負極材を用いた場合と比較してサイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池が得られている。
しかし、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池では、最初の充放電時における、充電容量に対する放電容量の比の値が低いという問題があった。
下記特許文献2には、一般式SiLixOy(0<x<1.0、0<y<1.5)で表されるリチウム含有酸化珪素粉末が開示されている。特許文献2によれば、このリチウム含有酸化珪素粉末が、予め(最初の充電前に)リチウムを含有することにより、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに、高容量を維持しつつサイクル劣化がなく、しかも初回充放電時の不可逆容量の少ないリチウムイオン二次電池が得られるとされている。
特許文献2では、リチウム含有酸化珪素粉末の製造方法として、SiOz粉末(1.0≦z<1.6)と、金属リチウムまたはリチウム化合物との混合物を、不活性ガス雰囲気中、または減圧下において、900〜1300℃の温度で加熱して、反応させることが開示されている。リチウム化合物としては、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられている。
しかし、本発明者の検討によれば、リチウム化合物として、安価で、かつ大気雰囲気中で安定な炭酸リチウムを選択すると、引用文献2に開示された温度範囲より低い700〜900℃の温度範囲で、原料粉末を焼成したとしても、粉末が硬く固まる。この焼成物を、負極材として使用可能なように、粉砕することは、容易ではない。また、そのような粉砕によって得られた粉を用いてリチウムイオン二次電池を作製しても、電池性能(たとえば、初期放電容量)は、極めて低くなる。
下記特許文献3には、SiOx(x=0.5〜1.6)で表される酸化珪素と、Si:O=1:0.5〜1.6の珪素−珪素酸化物系複合体との少なくともいずれか一方からなる粉末の表面に、炭素を被覆し、炭素被覆後の当該粉末と水素化リチウムおよび/または水素化リチウムアルミニウムとを混合した後、200℃以上800℃以下の温度で加熱して、リチウムを炭素被覆後の粉末にドープすることを含む、非水電解質二次電池用負極材の製造方法について記載されている。炭素の被覆は、負極材の電子導電性を高めるために行われる。
特許文献3によれば、この製造方法により、珪素−珪素酸化物複合体と炭素被膜との界面でのSiCの量を十分に少なくして、負極材として用いる場合の電子伝導性や放電性、特にサイクル耐久性を良好なものとすることができるとされている。
しかし、水素化リチウム、および水素化リチウムアルミニウムは、高価であることに加えて、吸湿性が高く、大気中の水分と反応して、容易に水酸化物を形成する。水酸化物が形成されると、水素化リチウム、および水素化リチウムアルミニウムの本来の特性、たとえば、高い反応性を得ることができず、また、分子量が変化することにより、酸化珪素や、珪素−珪素酸化物複合体に対して、正確に所望の量のリチウムをドープするように、原料を配合することが困難になる。
また、水素化リチウム、および水素化リチウムアルミニウムは、酸素と反応して発火することもある。
このため、リチウム含有酸化珪素粉末の製造時に、水素化リチウム、および水素化リチウムアルミニウムは、アルゴンガス等、水分や酸素を実質的に含まない雰囲気中で、取り扱う必要があり、これにより、製造コストが高くなり、生産性が悪くなる。
さらに、リチウム含有酸化珪素粉末の製造後、未反応の水素化リチウムまたは水素化リチウムアルミニウムが残っていると、これらの未反応物が、水分と反応して、リチウムイオン二次電池として、十分な性能が得られなくなる可能性がある。
焼成以外によって、酸化珪素にリチウムをドープする方法として、電気化学反応を利用することが考えられる。しかし、電気化学反応によって、粉末の形態の酸化珪素中にリチウムをドープすることは、困難である。
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに高い電池性能を得ることができるとともに、製造コストを低くし、生産性を高くすることができるリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法を提供することを目的としている。
本発明の他の目的は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときに高い電池性能を得ることができるとともに、製造コストを低くし、生産性を高くして製造することができるリチウム含有酸化珪素粉末を提供することである。
前記の課題を解決するために、本発明者は、安価で、大気中の水分および酸素と実質的に反応することのないリチウム原料を用いることができるリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法であって、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときの電池性能(以下、単に、「電池性能」という。)を高くすることができるリチウム含有酸化珪素粉末が得られる製造方法を検討した。
その結果、本発明者は、上記の要件を満たすリチウム原料として、炭酸リチウムを用い、酸化珪素粉末として、導電性炭素被膜が形成されたものを用いることにより、電池性能を高くすることができるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
上述のように、リチウム原料として炭酸リチウムを用いると、電池性能が低くなる傾向があり、これは、焼結後の粉末が硬く固まる(粉末粒子が相互に固着する)ことと関連しているものと考えられる。本発明者が得た知見では、リチウム原料として炭酸リチウムを用いても、酸化珪素粉末として、導電性炭素被膜が形成されたものを用いると、焼成後の粉末が硬く固まることはない。本発明は、従来、負極材の電子導電性を高める目的で、酸化珪素粉末に形成されていた導電性炭素被膜が、粉末粒子の反応を抑制する作用も有するという知見に基づくものである。
本発明の要旨は、下記(1)〜(4)のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法、ならびに下記(5)および(6)のリチウム含有酸化珪素粉末である。
(1)表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
(1)表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
(2)前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末において、前記導電性炭素被膜を構成する炭素の割合が、1〜15質量%であることを特徴とする前記(1)に記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
(3)前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末において、前記導電性炭素被膜を構成する炭素の割合が、3〜15質量%であることを特徴とする前記(1)に記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
(4)前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末について、CuKα線を用いたX線回折測定により得られたデータであって、回折角の間隔が0.02°毎のデータを、データ特定数49として移動平均近似曲線に変換したときに、この移動平均近似曲線について、回折角2θが28.0°〜28.8°の範囲に現れるSiに起因するピークの強度の測定値P3と、前記Siに起因するピークに対応する回折角におけるベース強度P4とが、(P3−P4)/P4≦0.2の関係を満たし、
前記ベース強度P4は、前記移動平均近似曲線において、回折角2θが25.0°の点と、回折角2θが32.0°の点とを結ぶ直線上で、前記Siに起因するピークに対応する回折角における強度であることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
前記ベース強度P4は、前記移動平均近似曲線において、回折角2θが25.0°の点と、回折角2θが32.0°の点とを結ぶ直線上で、前記Siに起因するピークに対応する回折角における強度であることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
(5)表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して得た混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理して得られるリチウム含有酸化珪素粉末。
(6)前記リチウム含有酸化珪素粉末において、Si含有量、Li含有量、およびO含有量の合計が、50mol%以上であり、
前記リチウム含有酸化珪素粉末が、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有し、
CuKα線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に現れるLi4SiO4に起因するピークの高さP1と、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に現れるLi2SiO3に起因するピークの高さP2とが、P1/P2≧0.2の関係を満たし、
前記高さP1は、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが20.8°の回折強度と回折角2θが23.6°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、前記高さP2は、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが17.5°の回折強度と回折角2θが20.3°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、
前記導電性炭素被膜は、化学蒸着法により形成されたものであることを特徴とする前記(5)に記載のリチウム含有酸化珪素粉末。
前記リチウム含有酸化珪素粉末が、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有し、
CuKα線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に現れるLi4SiO4に起因するピークの高さP1と、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に現れるLi2SiO3に起因するピークの高さP2とが、P1/P2≧0.2の関係を満たし、
前記高さP1は、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが20.8°の回折強度と回折角2θが23.6°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、前記高さP2は、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが17.5°の回折強度と回折角2θが20.3°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、
前記導電性炭素被膜は、化学蒸着法により形成されたものであることを特徴とする前記(5)に記載のリチウム含有酸化珪素粉末。
本発明の製造方法によれば、リチウム原料として、安価で、大気雰囲気中で取り扱うことができる炭酸リチウムが用いられ、これにより、製造コストを低くし、生産性を高くして、電池性能が高いリチウム含有酸化珪素粉末を製造することができる。
また、本発明のリチウム含有酸化珪素粉末は、その製造工程において、リチウム原料として、安価で、大気雰囲気中で取り扱うことができる炭酸リチウムが用いられるので、製造コストを低くし、生産性を高くして製造することができる。また、本発明のリチウム含有酸化珪素粉末を、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることにより、電池性能を高くすることができる。
1.本発明のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法
本発明のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法は、「表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法」である。この製造方法により、たとえば、図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cに用いる負極活物質として使用可能なリチウム含有酸化珪素粉末を製造することができる。
本発明のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法は、「表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法」である。この製造方法により、たとえば、図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cに用いる負極活物質として使用可能なリチウム含有酸化珪素粉末を製造することができる。
炭酸リチウムは、安価であり、また、大気中で安定であり、空気中の水分を吸収したり、酸素と反応することは実質的にない。このため、リチウム含有酸化珪素粉末の製造時に、原料の秤量、混合等を、大気雰囲気中で行えばよく、アルゴン雰囲気等、水分や酸素を実質的に含まない雰囲気中で行う必要はない。したがって、本発明の製造方法により、製造コストを低くし、生産性を高くして、リチウム含有酸化珪素粉末を製造することができる。
また、仮に、未反応の炭酸リチウムが、リチウム含有酸化珪素粉末中に含まれていたとしても、この未反応の炭酸リチウムが、空気中の水分を吸収したり、酸素と反応することは実質的にない。
また、本発明の方法により製造されたリチウム含有酸化珪素粉末は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いたときの初期放電容量(以下、単に、「初期放電容量」という。)が高い。
加熱処理時の不活性ガス雰囲気としては、たとえば、アルゴン雰囲気を採用することができる。加熱処理時の減圧時の圧力は、たとえば、100Pa以下とすることができる。
炭酸リチウム粉末と混合する前の導電性炭素被膜を構成する炭素の割合(以下、「Cコート量」という。)は、1〜15質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがさらに好ましい。
Cコート量を1質量%未満にすると、高い初期放電容量が得られない。一方、Cコート量を15質量%より多くすると、このリチウム含有酸化珪素粉末をリチウムイオン二次電池の負極材を構成する負極活物質として用いたときの電池容量(以下、単に、「電池容量」という。)が低下してしまう。
炭酸リチウム粉末と混合して加熱する前の酸化珪素粉末であって、表面に導電性炭素被膜を形成すべき酸化珪素粉末は、CuKα線を用いたX線回折測定をしたときに、Si(結晶化したもの)に起因するピークが小さいものであることが好ましい。
Siに起因するピークが小さいか否かは、以下のようにして判断することができる。すなわち、CuKα線を用いたX線回折測定により得られたデータであって、回折角の間隔が0.02°毎のデータを、データ特定数49として移動平均近似曲線に変換したときに、この移動平均近似曲線について、回折角2θが28.0°〜28.8°の範囲に現れるSiに起因するピークの強度の測定値P3と、Siに起因するピークに対応する回折角におけるベース強度P4とが、(P3−P4)/P4≦0.2の関係を満たすか否かを確認する。
ベース強度P4は、前記移動平均近似曲線において、回折角2θが25.0°の点と、回折角2θが32.0°の点とを結ぶ直線上で、Siに起因するピークに対応する回折角における強度とする。
(P3−P4)/P4≦0.2の関係が満たされれば、Siに起因するピークが小さいと判断し、(P3−P4)/P4≦0.2の関係が満たされなければ、Siに起因するピークが小さくないと判断する。
Siに起因するピークが小さい酸化珪素粉末は、アモルファスの部分を多く含む(結晶化した部分が少ない)。このような酸化珪素粉末を用いて製造したリチウム含有酸化珪素粉末により、電池性能を向上させることができる。
2.本発明のリチウム含有酸化珪素粉末
本発明のリチウム含有酸化珪素粉末は、「表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して得た混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理して得られるリチウム含有酸化珪素粉末」である。このリチウム含有酸化珪素粉末は、たとえば、図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cに用いる負極活物質として使用することができる。
本発明のリチウム含有酸化珪素粉末は、「表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して得た混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理して得られるリチウム含有酸化珪素粉末」である。このリチウム含有酸化珪素粉末は、たとえば、図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cに用いる負極活物質として使用することができる。
また、このリチウム含有酸化珪素粉末は、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有することが好ましい。この場合、このリチウム含有酸化珪素粉末は、組成が、0<x<1.5、かつ0.5<y<2.0の範囲から外れる部分、たとえば、Li4SiO4相、およびLi2SiO3相の少なくとも一方からなる部分を含んでもよい。Si:Li:Oの割合が、上記範囲内であれば、このリチウム含有酸化珪素粉末は、Si、LiおよびO以外の成分を含んでもよい。
x≧1.5の場合、リチウムシリケートが多くなり、電池性能が低下する。y≦0.5の場合、サイクル特性が悪くなる。y≧2.0の場合、電池容量が低下する。
このリチウム含有酸化珪素粉末は、Si含有量、Li含有量、およびO含有量の合計が、50mol%以上であることが好ましい。
また、このリチウム含有酸化珪素粉末は、CuKα線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に現れるLi4SiO4に起因するピークの高さP1と、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に現れるLi2SiO3に起因するピークの高さP2とが、P1/P2≧0.2の関係を満たすことが好ましい。
ここで、高さP1は、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが20.5°の回折強度と回折角2θが23.6°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、高さP2は、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが17.5°の回折強度と回折角2θが20.3°の回折強度との平均値を差し引いたものである。
P1/P2が大きいことは、リチウム含有酸化珪素粉末中のLi4SiO4相の割合が多いことを意味する。原料の酸化珪素粉末に導電性炭素被膜が形成されていることにより、Li量が多いLi4SiO4相の割合は多くなり、電池性能は向上する。リチウム含有酸化珪素粉末が、全体として、上述の平均組成を有する場合、P1/P2が大きくなるのは、導電性炭素被膜により、酸化珪素粉末と炭酸リチウム粉末との反応が抑制されるためであると考えられる。なぜなら、Li4SiO4の組成は、リチウム含有酸化珪素粉末全体の平均組成から離れているので、酸化珪素粉末と炭酸リチウム粉末との反応が進めば、Li4SiO4は少なくなり、P1/P2は小さくなると考えられるからである。
P1/P2≧0.2の関係を満たすリチウム含有酸化珪素粉末は、原料粉末を、700〜900℃で加熱処理することにより、得ることができる。加熱処理を、900℃より高い温度で行うと、酸化珪素の不均化(2SiO → Si+SiO2の反応による分解)が進行する。酸化珪素の不均化が進行すると、電池性能が悪化することが多い。
導電性炭素被膜は、たとえば、化学蒸着法(CVD)(たとえば、熱化学蒸着法(熱CVD))により形成されたものとすることができる。
本発明の効果を確認するために、以下の試験を行い、その結果を評価した。表1に、リチウム含有酸化珪素粉末の製造条件と、試験結果とを示す。
1.試験条件
CuKα線を用いたX線回折測定で、Siのピーク(原料のSiピーク)が認められるSiO粉末と、Siのピークが認められないSiO粉末とを用意した。Siのピークが認められるか否かは、以下の方法により判断した。すなわち、このX線回折測定により得られたデータであって、回折角の間隔が0.02°毎のデータを、データ特定数49として移動平均近似曲線に変換し、この移動平均近似曲線について、回折角2θが28.0°〜28.8°の範囲に、Si(結晶化したもの)に起因するピークが現れるか否かにより、Siのピークが認められる否かを判断した。
CuKα線を用いたX線回折測定で、Siのピーク(原料のSiピーク)が認められるSiO粉末と、Siのピークが認められないSiO粉末とを用意した。Siのピークが認められるか否かは、以下の方法により判断した。すなわち、このX線回折測定により得られたデータであって、回折角の間隔が0.02°毎のデータを、データ特定数49として移動平均近似曲線に変換し、この移動平均近似曲線について、回折角2θが28.0°〜28.8°の範囲に、Si(結晶化したもの)に起因するピークが現れるか否かにより、Siのピークが認められる否かを判断した。
これら2種のSiO粉末に対して、熱化学蒸着法(熱CVD)により、Cコートをして、SiO粉末粒子の表面に、導電性炭素被膜を形成した。表1の「Cコート量」は、CコートをしたSiO粉末において、導電性炭素被膜を構成する炭素の割合(質量%)を示す。Siのピークが認められないSiO粉末に対しては、Cコート量は3質量%とした。Siのピークが認められるSiO粉末に対しては、Cコート量は、1質量%、3%質量および15%質量の3通りとした。また、Siのピークが認められるSiO粉末に対して、Cコートをしていないものを用意した。
そして、得られた粉末の各々について、0.2molのSiOに相当する量の粉末と、0.1molの炭酸リチウム(Li2CO3)粉末とを混合し、800℃で、6時間、Ar雰囲気下で加熱処理して、リチウム含有酸化珪素粉末(実施例1〜4、および比較例1)を得た。上記「Cコート量」は、炭酸リチウムと混合する前の導電性炭素被膜を構成する炭素の割合である。
2.試験結果
上記条件で作製したリチウム含有酸化珪素粉末(以下、「試料」という。)について、組成分析を行った。いずれの試料も、Si含有量、Li含有量、およびOの含有量の合計が、50mol%以上であり、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有していた。
上記条件で作製したリチウム含有酸化珪素粉末(以下、「試料」という。)について、組成分析を行った。いずれの試料も、Si含有量、Li含有量、およびOの含有量の合計が、50mol%以上であり、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有していた。
次に、各試料ついて、CuKα線を用いたX線回折測定を行い、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に現れるLi4SiO4に起因するピークの高さP1と、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に現れるLi2SiO3に起因するピークの高さP2とを求めた。ここで、高さP1は、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが20.8°の回折強度と回折角2θが23.6の回折強度との平均値を差し引いたものであり、高さP2は、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが17.5°の回折強度と回折角2θが20.3°の回折強度との平均値を差し引いたものである。
表1に示すように、実施例1〜4の試料は、いずれも、P1/P2≧0.2の関係を満たした。これに対して、比較例1の試料は、P1/P2≧0.2の関係を満たさなかった。
図2は、実施例1に係るリチウム含有酸化珪素粉末のX線回折測定の結果を示す図であり、図3は、比較例1に係るリチウム含有酸化珪素粉末のX線回折測定の結果を示す図である。
実施例1のリチウム含有酸化珪素粉末では、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に、Li4SiO4に起因する大きなピークが現れており、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に、Li2SiO3に起因する小さなピークが現れている。これに対して、比較例1のリチウム含有酸化珪素粉末では、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲には、ピークは現れておらず、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に、Li2SiO3に起因する大きなピークが現れている。
以上の結果から、比較例1の試料に比して、実施例1〜4の試料で、Li2SiO3相に対するLi4SiO4相の割合が多くなっていると考えられる。Li4SiO4よりLi2SiO3の方が、試料全体の平均組成に近い。このため、SiO粉末と炭酸リチウム粉末との反応が進むと、Li4SiO4相よりLi2SiO3相が多くなると考えられる。P1/P2比についての上記結果から、導電性炭素被膜により、SiO粉末と炭酸リチウム粉末との反応が抑制されると考えられる。Li4SiO4相は、SiO粒子において、炭酸リチウム粉末粒子に近い表面近傍にのみ形成されている可能性がある。
次に、試料の各々を用いて、これらの試料以外は同じ条件で、リチウムイオン二次電池(以下、単に、「電池」という。)を作製し、初期放電容量を測定した。
表1に示すように、比較例1の試料を用いた電池に比して、実施例1〜4の試料を用いた電池では、初期放電容量が著しく高くなった。導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末を用いることにより、リチウム原料として炭酸リチウムを用いて、電池として高い初期放電容量が得られるリチウム含有酸化珪素粉末を製造できることがわかる。導電性炭素被膜により、SiO粉末の酸化が抑制された 可能性がある。SiO粉末の酸化が進行すると、リチウムイオンの吸蔵放出を行うSiの量が減少してしまうので、初期放電容量が低下すると考えられるからである。
実施例1と実施例3との比較から、Siのピークが認められるSiO粉末より、Siのピークが認められないSiO粉末を用いる方が、初期放電容量を高くできることがわかる。この結果から、Siに起因するピークの高さが低く、アモルファス構造を有する部分が多い酸化珪素を用いることにより、初期放電容量が向上すると考えられる。
Claims (6)
- 表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理する工程とを含むことを特徴とするリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。 - 前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末において、前記導電性炭素被膜を構成する炭素の割合が、1〜15質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
- 前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末において、前記導電性炭素被膜を構成する炭素の割合が、3〜15質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。
- 前記炭酸リチウム粉末と混合する前の前記酸化珪素粉末について、CuKα線を用いたX線回折測定により得られたデータであって、回折角の間隔が0.02°毎のデータを、データ特定数49として移動平均近似曲線に変換したときに、この移動平均近似曲線について、回折角2θが28.0°〜28.8°の範囲に現れるSiに起因するピークの強度の測定値P3と、前記Siに起因するピークに対応する回折角におけるベース強度P4とが、(P3−P4)/P4≦0.2の関係を満たし、
前記ベース強度P4は、前記移動平均近似曲線において、回折角2θが25.0°の点と、回折角2θが32.0°の点とを結ぶ直線上で、前記Siに起因するピークに対応する回折角における強度であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリチウム含有酸化珪素粉末の製造方法。 - 表面に導電性炭素被膜が形成された酸化珪素粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合して得た混合粉末を、不活性ガス雰囲気下、または減圧下において、加熱処理して得られるリチウム含有酸化珪素粉末。
- 前記リチウム含有酸化珪素粉末において、Si含有量、Li含有量、およびO含有量の合計が、50mol%以上であり、
前記リチウム含有酸化珪素粉末が、全体として、モル比で、Si:Li:O=1:x:y(0<x<1.5、0.5<y<2.0)の範囲内の平均組成を有し、
CuKα線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲に現れるLi4SiO4に起因するピークの高さP1と、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲に現れるLi2SiO3に起因するピークの高さP2とが、P1/P2≧0.2の関係を満たし、
前記高さP1は、回折角2θが22.0°〜22.4°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが20.8°の回折強度と回折角2θが23.6°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、前記高さP2は、回折角2θが18.7°〜19.1°の範囲のピーク強度の測定値から、回折角2θが17.5°の回折強度と回折角2θが20.3°の回折強度との平均値を差し引いたものであり、
前記導電性炭素被膜は、化学蒸着法により形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載のリチウム含有酸化珪素粉末。
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