JP2014069616A - 作業車 - Google Patents

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Abstract

【課題】省エネ運転のためにエンジン回転数をできるだけ下げながらも、油圧駆動機器に対する作動油供給量を適切に調整する。
【解決手段】作業車は、エンジン回転数を設定するエンジン制御ユニット5Aと、変速装置10の変速比を調整する変速制御ユニット3と、油圧ポンプPとを備えている。油圧管理ユニット5は、油圧駆動機器HDに対する操作情報に基づいて必要作動油量を算定する必要作動油量算定部と、作動油供給不足が判定された場合に、エンジン回転数を増加させるエンジン回転数増加指令をエンジン制御ユニットに与える回転数増加指令生成部と、作業車速度を維持するためにエンジン回転数の増加を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を変速制御ユニット3に与える変速比変更指令生成部を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、動力伝達手段を介して走行装置に動力を供給する、少なくともエンジンを含む原動機ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットと、前記動力伝達手段に設けられた変速装置と、前記変速装置の変速比を調整する変速制御ユニットと、前記原動機ユニットから供給される動力の回転数によって作動油供給量が変化する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油によって駆動する油圧駆動機器と、前記油圧駆動機器を操作する油圧操作具を備えた作業車に関する。
上記のような作業車では、エンジン制御ユニットと変速制御ユニットとを協調制御することにより、低いエンジン回転数においても高いエンジン回転数においても作業車速度を一定値に維持することが可能となる。例えば、特許文献1には、無段変速機構を作動させる変速アクチュエータを設け、該アクチュエータ制御により走行速度(作業車速度)を無段階に変更する移動農機が記載されている。この移動農機では、エンジン回転の検出及び調節を行う回転センサ並びにアクセルアクチュエータが設けられ、所定の走行速度になるように前記各アクチュエータを作動させることで無段変速機構の変速比並びにエンジン回転が相関的(協調的)に制御されている。そして、軽負荷走行時にはエンジンを燃料消費率が低い回転にして経済的に走行させると共に、高負荷走行時にはエンジンを高出力にして所定速度を保って走行させることを意図している。
作業車速度を一定のままエンジン回転数を下げることができると、燃料消費率が低くなり、省エネルギー(以下省エネと略称する)の点から好都合である。しかしながら、エンジントルクに余裕がなくなると、エンジンストールの可能性が高くなり、走行が不安定となる不都合が生じる。また、エンジン回転数が低い場合、エンジンからの動力によって駆動している油圧ポンプの回転数も低いものとなり、その結果油圧ポンプの作動油供給量が減少する。
エンジンの余力の運転者感覚を省エネ運転に生かせるような変速操作を実現する作業車が特許文献2に開示されている。この作業車では、運転者の操作により送出された操作指令に基づいてエンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令がエンジン制御ユニットに与えられるとともに、作業車速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償する変速比の変更を変速制御ユニットに要求する変速比変更指令が与えられる。従って、この公知の作業車では、運転者がエンジントルクに余裕があると感じ、省エネ運転等の目的でエンジン回転数を下げたいときには操作器を操作することで、所定量だけエンジン回転数を下げる回転数低下指令をエンジン制御ユニットに与えることができる。しかもこれにより低下するエンジン回転数に見合うだけの変速比が変更され作業車速度は維持される。つまり、作業車巡航中に、操作器を操作するだけで、作業車速度はそのままで、エンジン回転数を下げる運転が実現する。しかしながら、作業車速度を維持しながらエンジン回転数を下げ過ぎるとエンジントルクに余裕がなくなり、わずかなエンジン負荷の増大で作業車走行が不安定になり、エンジンストールの恐れが生じるので、一旦下げたエンジン回転数を元に復帰させる必要が生じる。特に、熟練者でない場合、エンジン回転数の下げ操作と上げ操作が繰り返されるという不都合が生じる。また、走行状態などからエンジンに余力があるかどうかは熟練した運転者であれば把握することができるとしても、油圧駆動機器への作動油供給までは考慮していない。そのため、エンジン回転数の低下により、十分な作動油供給量が確保できずに、油圧駆動機器を用いた作業がスムーズに行なわれなくなるという可能性がでてくる。
特開平5‐338474号公報(段落番号〔0004〕、図10) 特開2012−162248号公報(段落番号〔0020−0022〕、図1、図2)
上記実情に鑑み、省エネ運転のためにエンジン回転数をできるだけ下げながらも、油圧駆動機器に対する作動油供給量が適切なものとなる技術が要望されている。
本発明による作業車は、動力伝達手段を介して走行装置に動力を供給する、少なくともエンジンを含む原動機ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットと、前記動力伝達手段に設けられた変速装置と、前記変速装置の変速比を調整する変速制御ユニットと、前記原動機ユニットから供給される動力の回転数によって作動油供給量が変化する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される作動油によって駆動する油圧駆動機器と、前記油圧駆動機器を操作する油圧操作具と、前記油圧駆動機器に対する操作情報に基づいて前記油圧駆動機器が必要とする必要作動油量を算定する必要作動油量算定部と、前記必要作動油量に基づいて前記油圧駆動機器に対する作動油供給不足が判定された場合に、前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を増加させるエンジン回転数増加指令を前記エンジン制御ユニットに与える回転数増加指令生成部と、作業車速度を維持するために前記エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を前記変速制御ユニットに与える変速比変更指令生成部と、を備えている。
この構成によれば、省エネ運転のためにエンジン回転数をできるだけ下げて作業を行っている際に、作動油供給量が油圧駆動機器に必要とされる作動油量を下回って作動油不足が生じるとみなされた場合には、エンジン回転数が増加され、油圧ポンプの回転数を上げて、その作動油供給量を増大させる。さらに、そのようなエンジン回転数の増加を相殺するように変速比が変更されるので、作業車の急加速が回避される。定速作業や定速走行(クルージング)においては、エンジン回転数の増加をほぼ完全に相殺するように変速比を調整すれば、車速が実質的に変化しないので、好都合である。もちろん、エンジン回転数の増加による作業車の急加速だけを回避する場合には、変速比の調整をエンジン回転数の増加に厳密に対応させなくともよく、急加速を回避する程度にするだけでもよい。
作業走行時などで、運転者によって操作される油圧駆動機器が必要とする作動油量は、対応する操作具に対する操作挙動によって推定することができる。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作情報に含まれている前記油圧操作具の操作入力に基づいて前記必要作動油量が算定される。
上述したように、エンジン回転数をできるだけ下げて運転することで省エネを図るという観点から、本発明による作業車が、エンジンとこのエンジンをアシストするモータユニットとを搭載したハイブリッド作業車として構成されると、環境対策にも有効となる。
本発明の好適な実施形態の1つでは、エンジン回転数を低下させても前記作動油供給不足が解消される場合に、前記エンジン回転数増加指令を取り消すエンジン回転数戻し指令が前記エンジン制御ユニットに与えられ、かつ作業車速度を維持するために前記エンジン回転数戻し指令によるエンジン回転数の減少を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令が前記変速制御ユニットに与えられる。この構成では、多量の作動油を必要とする時間は短いが、それが頻繁に生じるような作業に対して、作動油の供給量を増加させるためのエンジン回転数の増加処理と、エンジン回転数を元に戻すためのエンジン回転数の減少処理が自動的に行われるので、省エネ運転を行いながらも、運転者は作業走行操作に集中することができる。
油圧駆動機器に対する作動油供給量は、油圧駆動機器の種類や油圧作業の種類によって異なり、その要求される作動油供給量もそれぞれ微妙に異なる。その結果、エンジン回転数の調整幅及び変速比の調整幅も細かな段階、可能ならば無段階で行なうことが好ましい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速装置は無段変速装置を含み、前記エンジン回転数増加指令及び前記エンジン回転数戻し指令は前記無段変速装置を対象とするように構成されている。
油圧駆動機器に対する作動油供給量を増加させるような事象は、実質的には低速の作業走行においてのみ生じる。従って、作業車が作業走行状態であるときにのみ、上述したエンジン回転数の調整とそれに伴う変速比の調整を行なうようにすることが好ましい。そのため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速装置は道路走行用変速段と作業用変速段とを備えた多段変速装置を含み、前記道路走行用変速段に切り換えられている場合、前記エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加が禁止されるように構成されている。
本発明による作業車の基本的な構成を説明する模式図である。 本発明による作業車の具体的な実施形態の1つであるトラクタの斜視図である。 トラクタの操縦エリアの鳥瞰図である。 トラクタの油圧操作系を含む動力系統図である。 トラクタのパワートレインを模式化した動力系統図である。 トラクタに装備されたモータジェネレータの断面図である。 トラクタに装備された油圧ポンプと油圧駆動機器との関係を模式的に示す油圧回路図である。 アシスト制御ユニットの機能ブロック図である。 油圧管理ユニットの機能ブロック図である。 省エネ変速モジュールの機能ブロック図である。
本発明による作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成を説明する。
この作業車は、伝動軸や伝動ギヤなどで構成される動力伝達手段を介して走行装置としての車輪2に動力を伝達する原動機ユニット1を搭載している。原動機ユニット1には内燃機関であるエンジンEが含まれている。動力伝達手段には原動機ユニット1から出力された回転動力を変速する変速装置10が含まれている。原動機ユニットから出力される動力の回転数によって作動油供給量が変化する油圧ポンプPが備えられている。作業装置Wが、油圧ポンプPから供給される作動油によって駆動する油圧駆動機器HDの一例としてのリフトシリンダによって昇降可能に作業車に装備されている。原動機ユニット1の出力軸Exから分岐したPTO(動力取り出し)軸W1を介して動力が作業装置Wに供給可能である。油圧駆動機器HDを操作する油圧操作具Tが備えられている。
制御系として、設定されるエンジン回転数でエンジンEを制御するエンジン制御ユニット5Aと、変速装置10の変速比を調整する変速制御ユニット3と、油圧管理ユニット5が備えられている。油圧管理ユニット5には、必要作動油量算定機能と回転数増加指令生成機能と変速比変更指令生成機能が、実質的にはコンピュータプログラムで構築されている。必要作動油量算定機能は、油圧駆動機器HDに対する操作情報に基づいて油圧駆動機器HDが必要とする必要作動油量を算定する機能である。回転数増加指令生成機能は、算定された必要作動油量に基づいて油圧駆動機器HDに対する作動油供給不足が判定された場合に、エンジン制御ユニット5Aで設定されているエンジン回転数を増加させるエンジン回転数増加指令を生成して、エンジン制御ユニット5Aに与える機能である。変速比変更指令生成機能は、作業車速度(作業車の走行速度、以下車速と略称する)を維持するために、上記エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を前記変速制御ユニットに与える機能である。
例えば一定車速で作業車を走行させながら、フロントローダ装置や耕耘装置などの作業装置Wを操作して作業走行する際に、省エネ運転を心がけるためには、できるだけ低いエンジン回転数でエンジンEを駆動させる。その場合、油圧ポンプPの駆動回転数はエンジン回転数に依存するので、エンジン回転数が低下すると、油圧ポンプPの駆動回転数の低下、結果的には油圧ポンプPからの作動油供給量が低下する。油圧駆動機器HDが動作していないか、動作していても大きな作動油量を必要としない場合はよいが、油圧駆動機器HDが大きな動作を行なう際には作動油量の不足が生じ、油圧駆動機器HDの動作に遅れが生じる可能性が生じる。例えば、作業装置を動作させるような油圧駆動機器HDが必要とする必要作動油量は、操作情報の一例である、当該油圧駆動機器HDを操作する操作具Tの操作入力に基づいて推定することができる。この場合、作業走行時に、特に省エネ運転時に操作具Tが操作されると、その操作入力に関する操作情報から対象となる油圧駆動機器HDが必要とする必要作動油量が算定される。さらに、算定された必要作動油量が現状のエンジン回転数では油圧ポンプPによって供給できない場合には、エンジン回転数を増加させて、油圧ポンプPが必要作動油量を供給できるようにする。同時に、そのエンジン回転数の増加を相殺するように、少なくとも作業車の加速が無視できる程度となるように、変速比を調整(通常は大きく)する。これにより、エンジン回転数を増加による急加速が抑制される。また、定速走行が要求される作業走行を行っている場合においても、その定速走行が実質的に維持される。
操作情報は逐次チェックされており、エンジン回転数を低下させても前記作動油供給不足が解消される場合に、前記エンジン回転数増加指令を取り消す回転数戻し指令が前記エンジン制御ユニット5Aに与えられる。この回転数戻し指令は、先行したエンジン回転数増加を段階的に解消する複数の指令に分割しても良い。同時に、作業車速度を維持するために前記エンジン回転数戻し指令によるエンジン回転数の減少を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令が前記変速制御ユニット3に与えられる。これにより、エンジン回転数を減少による急減速が抑制される。また、定速走行が要求される作業走行を行っている場合においても、その定速走行が実質的に維持される。
次に、図面を用いて、本発明による作業車の具体的な実施形態の1つを説明する。ここでは、作業車はよく知られた形態の汎用トラクタであり、図2は、その斜視図であり、図3はトラクタ操縦エリアの鳥瞰図である。このトラクタは、左右一対の前輪2aと後輪2bによって対地支持された車体を備え、その車体の前部に原動機ユニット1、その中央部に操縦エリアが配置されている。車体後部には、作業装置Wとして耕耘装置が昇降機構によって装着されている。この昇降機構は、図4で模式的に示されているだけであるが、油圧駆動機器HDの1つである油圧シリンダ101によって動作する。図3に示された操縦エリアには、運転席20及び運転席20の前方にステアリングホイール21が配置されている。運転席20に着座した運転者によって操作される操作レバーや操作ボタンは、ステアリングホイール21の周辺や運転席20の両側に配置されている。本発明に特に関係する操作レバーや操作ボタンとして、昇降機構の油圧シリンダ101に対する操作を入力する油圧操作具Tとしての昇降レバー22、ギャ変速装置14の変速段を切り換える変速レバー23、省エネ運転のためにエンジン回転数を低減させる下げボタン24、低減させたエンジン回転数を戻す戻しボタン25、変速(車速制御)ペダル26などが挙げられる。操縦エリアには、メータパネル27aやフラットディスプレイ27bも配置されている。
図4で模式的に示されているが、操向輪としての前輪2aは、油圧パワーステアリング装置PSを介してステアリングホイール21によって操作される。この油圧パワーステアリング装置PSは、油圧源から供給される作動油をステアリングホイール21の操舵量に応じて調節して、油圧駆動機器HDとしてのパワステシリンダ102を油圧制御して前輪2aを操舵する。従って、ステアリングホイール21は本発明における油圧操作具Tとして機能する。例えば、ステアリングホイール21を急速に大きな操舵量で操作すると、大量の作動油がパワステシリンダ102に供給され、素早い操舵が実現する。
このトラクタは、図4と図5で模式的示された動力系統図から明らかなように、原動機ユニット1にエンジンEとモータユニット4とが含まれているハイブリッド車両である。なお、ここでのエンジンEはコモンレール方式で回転制御されるディーゼルエンジンであり、エンジン制御機器5aとしてコモンレール制御機器を備えている。また、ここでのモータユニット4はバッテリBを充電させる発電機としても機能するモータジェネレータ4である。
図8に示すように、エンジンEの後面側にモータジェネレータ4と主クラッチ31とを収容するモータハウジング40が備えられている。モータジェネレータ4は、エンジンEの駆動力により発電を行う三相交流発電機の機能と、外部から供給される電力により回転作動する三相交流モータの機能とを併せ持つ。従って、インバータ部70がバッテリBからの直流電力を三相交流電力に変換してモータジェネレータ4に供給する。また、インバータ部70は、モータジェネレータ4で発電された三相交流電流を直流電流に変換し昇圧してバッテリBに供給する。
図6から明らかなように、エンジンEとモータジェネレータ4と主クラッチ31とが、この順序で備えられ、エンジンEの後部に連結したリヤエンドプレート40aに対してモータハウジング40が連結し、これによりモータハウジング40にモータジェネレータ4と主クラッチ31とが収容されている。
モータジェネレータ4は、永久磁石41を外周に備えたロータ42と、このロータ42を取り囲む位置に配置されたステータ43とで構成され、ステータ43は、ステータコアの複数のティース部(図示せず)にコイルを巻回した構造を有している。エンジンEの出力軸Ex(クランク軸)の軸端に対向して、この出力軸Exの回転軸芯Xと同軸芯で、モータジェネレータ4のロータ42が配置され、このロータ42のうち出力軸Exと反対側の面に主クラッチ31のベースプレート31aが配置され、出力軸Exとロータ42と主クラッチ31のベースプレート31aとがねじ連結されている。このベースプレート31aはフライホイールとしての機能も有するが、上述したように、モータジェネレータ4は、フライホイールが果たしていた慣性力機能を部分的に実行するので、従来に比べ軽量化されている。
モータハウジング40は、前部ハウジング40Aと後部ハウジング40Bとを分離可能に連結した構造を有しており、モータジェネレータ4を組み立てる際には、前部ハウジング40Aの内面にステータ43を備えた状態で、この前部ハウジング40Aをリヤエンドプレート40aに連結し、次に、出力軸Exの後端にロータ42が連結される。
主クラッチ31は、ベースプレート31aの後面に連結するクラッチカバー31bの内部にクラッチディスク31cと、プレッシャプレート31dと、ダイヤフラムバネ31eとを配置し、クラッチディスク31cからの駆動力が伝えられる、動力伝達軸30の1つの構成要素としてのクラッチ軸30aとを備えており、図示されていないクラッチペダルによって操作される。
クラッチ軸30aは、後部ハウジング40Bに対して回転軸芯Xを中心にして回転自在に支持され、クラッチディスク31cは、スプライン構造によりクラッチ軸30aに対してトルク伝動自在、かつ、回転軸芯Xに沿って変位自在に支持され、ダイヤフラムバネ31eは、プレッシャプレート31dを介してクラッチ入り方向への付勢力をクラッチディスク31cに作用させる構成を有している。また、クラッチ軸30aの動力は、ギヤ伝動機構を介して変速装置10の入力軸となる、動力伝達軸30の1つの構成要素としての中間伝動軸30bに伝えられる。
図5から明らかなように変速装置10は、油圧機械式の無段変速装置(以下、HMTと略称する)12と前後進切換装置13と複数段の変速(ここでは、道路走行のための高速段と作業走行のための低速段)を行うギヤ変速装置14、ディファレンシャル機構15とを含み、その動力は動力伝達軸30を通じて、最終的に駆動車輪(前輪2aまたは後輪2bあるいはその両方)2を回転させる。前後進切換装置13とギヤ変速装置14のそれぞれには油圧駆動式の変速クラッチ10aが備えられている。さらに、このエンジンE及びモータジェネレータ4の回転動力を伝達する動力伝達軸30の一部を構成するPTO軸W1を経てトラクタに装備された耕耘装置Wは回転動力を受けることができ、これにより耕耘ロータが所定の耕耘深さで回転駆動する。
HMT12は、エンジンE及びモータジェネレータ4からの動力を受ける斜板式可変吐出型油圧ポンプと当該油圧ポンプからの油圧によって回転して動力を出力する油圧モータとからなる静油圧式変速機構12Aと、遊星歯車機構12Bとから構成されている。遊星歯車機構12Bは、エンジンE及びモータジェネレータ4からの動力と油圧モータからの動力とを入力として、その変速出力を後段の動力伝達軸30に供給するように構成されている。
この静油圧式変速機構12Aでは、エンジンE及びモータジェネレータ4からの動力がポンプ軸に入力されることにより、油圧ポンプから油圧モータに圧油が供給され、油圧モータが油圧ポンプからの油圧によって回転駆動されてモータ軸を回転させる。油圧モータの回転はモータ軸を通じて遊星歯車機構12Bに伝達される。静油圧式変速機構12Aは、油圧ポンプの斜板12aに連動されているシリンダを変位させることにより、この斜板12aの角度変更が行なわれ、正回転状態、逆回転状態、及び正回転状態と逆回転状態の間に位置する中立状態に変速され、かつ正回転状態に変速された場合においても逆回転状態に変速された場合においても、油圧ポンプの回転速度を無段階に変更して油圧モータの回転速度(時間当たり回転数)を無段階に変更する。その結果、油圧モータから遊星歯車機構12Bに出力する動力の回転速度を無段階に変更する。静油圧式変速機構12Aは、斜板12aが中立状態に位置されることで、油圧ポンプによる油圧モータの回転を停止、結果的には油圧モータから遊星歯車機構12Bに対する出力を停止する。
遊星歯車機構12Bは、サンギヤと、当該サンギヤの周囲に等間隔で分散して配置された3個の遊星ギヤと、各遊星ギヤを回転自在に支持するキャリヤと、3個の遊星ギヤに噛合うリングギヤと、前後進切換装置13に連結している出力軸(動力伝達軸30の1つ)とを備えている。なお、この実施形態では、キャリヤは外周にエンジンE側の動力伝達軸30に取り付けられた出力ギヤと噛み合うギヤ部を形成しているとともに、サンギヤのボス部に相対回転自在に支持されている。
上述した構成により、このHMT12は、静油圧式変速機構12Aの斜板12aの角度を変更することにより、駆動車輪である前輪2aまたは後輪2bあるいはその両方への動力伝達を、無段階で変速することができる。この斜板12aの制御は、変速制御ユニット3からの制御指令に基づいて動作する油圧制御ユニット8の油圧制御によって実現する。
本発明における油圧駆動機器HDの油圧源としての油圧ポンプPが備えられている。この油圧ポンプPは、原動機ユニット1と変速装置10との間に位置する動力伝達軸30から回転動力を受ける機械式ポンプであり、そのポンプ軸回転数はエンジン回転数に依存する。つまり、油圧ポンプPの作動油供給量はエンジン回転数に依存することになる。油圧制御弁などから構成される油圧制御ユニット8を介して、この油圧ポンプPから作動油が供給される油圧駆動機器HDは、図4や図5で図示されている限りでは、昇降シリンダ101、パワステシリンダ102、変速装置10の変速クラッチ11である。昇降シリンダ101に対する油圧操作具Tは昇降レバー22であり、パワステシリンダ102に対する油圧操作具Tはステアリングホイール21である。なお、トラクタに搭載される作業装置Wによってはさらに種々の油圧シリンダや油圧モータが備えられるので、油圧ポンプPによって作動油が供給される油圧駆動機器HDも増えることになる。あくまで、昇降シリンダ101やパワステシリンダ102は、油圧ポンプPによって作動油が供給される油圧駆動機器HDの一例である。
図7は、上述した油圧ポンプPと油圧駆動機器HDと油圧操作具Tの関係を模式的に示す油圧回路図である。この油圧回路には、HMT12を構成する静油圧式変速機構12Aの油圧回路80、耕耘装置(作業装置)Wを昇降する昇降シリンダ(油圧駆動機器HD)101の油圧回路80、油圧パワーステアリング装置PSのパワステ油圧回路82が示されているが、主クラッチ31や変速クラッチ10aなど、他の油圧回路は省略されている。なお、静油圧式変速機構12Aの油圧回路80には、油圧供給源として、エンジンE及びモータジェネレータ4の動力によって駆動する斜板制御タイプの油圧ポンプ81aとチャージポンプ81bとが備えられている。油圧ポンプ81aから供給される作動油によって回転する油圧モータの正転及び逆転での回転速度は、斜板制御弁を含む斜板調整機構による油圧ポンプの斜板角調整によって変更される。つまり、静油圧式変速機構12Aの油圧回路80は、独自の油圧ポンプ81aを有するものであり、油圧ポンプPによって直接作動油を供給されるものではない。
昇降シリンダ101の油圧回路81及びパワステ油圧回路82には、油圧供給源として、油圧ポンプPが接続されている。油圧回路81における必要作動油量は、油圧操作具Tである昇降レバー22の操作挙動によって決定される。昇降レバー22の操作挙動は昇降レバーセンサ92によって検出される。パワステ油圧回路82における必要作動油量は油圧操作具Tであるステアリングホイール21の操作挙動によって決定される。ステアリングホイール21の操作挙動はステアリングセンサ91によって検出される。昇降レバーセンサ92やステアリングセンサ91は、車両状態検出ユニット9に接続されており、車両状態検出ユニット9で必要な信号処理が施された後、必要な機能ユニットに転送される。もちろん、車両状態検出ユニット9を介さずに直接各センサを機能ユニットに接続してもよい。なお、変速レバー23の操作位置を検出する変速レバーセンサ93も車両状態検出ユニット9に接続されている。
以下に詳しく述べられるが、昇降シリンダ101の油圧回路81やパワステ油圧回路82における必要作動油量が油圧ポンプPによって供給可能であるかどうかは、油圧管理ユニット5によって判定される。油圧管理ユニット5は、作動油の供給不足が生じる場合には、エンジン回転数を増加させて、作動油の供給不足を回避する。
次に、上述した動力系を制御する電子制御系について説明する。
このトラクタの電子制御系には、図4や図5に示されているように、エンジン制御ユニット5A、モータ制御ユニット5B、アシスト制御ユニット6、油圧管理ユニット5、車両状態検出ユニット9、変速制御ユニット3、耕耘装置(作業装置)Wの操作のための作業装置制御ユニットW0などが含まれている。これらのECUと呼ばれる各種制御ユニットはそれぞれ車載LANによってデータ伝送可能に接続されている。もちろん、ここでは分割した構成となっている各種制御ユニットを自在に統合することやさらに分割することは可能であるが、この実施形態での構成は本発明での説明を分かり易くすることを優先したものであり、それは、発明を限定するものではない。
エンジン制御ユニット5Aは、よく知られているように、エンジンEを電子制御するための中核機能部であり、外部操作入力信号及び内部センサ信号等によって推定されるエンジンEの運転状態に応じて、予め設定されているプログラムに基づく制御、例えば定回転数制御や定トルク制御など種々のタイプのエンジン制御を行う。
変速制御ユニット3には、変速ペダル26などの変速操作具による変速操作指令や油圧管理ユニット5からの変速比変更指令に基づいて変速装置10に対する変速操作を行うための制御機能が構築されている。さらに、変速制御ユニット3は、油圧管理ユニット5からの変速比増加指令や変速比変更指令に基づいて、HMT12の斜板12aの角度を変位させ、変速比を変更することである。変速制御は、人為的な操作による操作信号入力と機械的に生成された操作信号入力の両方で可能である。車速を変えるために人為的変速操作具として機能する変速ペダル26は、定車速走行のために任意の位置で位置保持機構26aによって保持される。変速ペダル26の操作位置はペダルセンサ90によって検出される。ペダルセンサ90も車両状態検出ユニット9に接続されている。
モータジェネレータ4の制御、つまりエンジンEに対するアシスト制御はアシスト制御ユニット6によって行われる。特に、このアシスト制御は、エンジン回転数をぎりぎりまで低下させた省エネ運転中において生じた突発的なエンジン負荷(回転負荷)の増大に対処するため用いられる。省エネ運転中において生じる突発的な回転負荷の増大は、エンジンEの回転数の低下、つまり車速の低下、さらにはエンジンストールを導く。特に定車速で作業走行する作業車両の場合、定速制御モードでのエンジンEの運転が頻繁に行なわれ、その際、作業状況や接地している地面状況によって、急激な負荷が動力伝達手段にかかり、結果的にエンジンEの回転数を低下させる事態が生じる。エンジン回転数の低下は車速の低下や作業装置の駆動力不足を導く。これを回避するために、エンジンEやエンジン動力を伝達する動力伝達手段にかかる回転負荷が検知され、その負荷を少なくとも部分的に補償すべくモータジェネレータ4が短時間だけ駆動され、エンジンEがアシストされる。
このアシスト制御のために、アシスト制御ユニット6は、エンジンEが受ける回転負荷を示す負荷情報を、エンジン制御ユニット5Aから与えられるエンジン制御情報または、各種センサによる検出情報から取り出される入力パラメータに基づいて生成する機能を有する。負荷情報の生成のために利用される入力パラメータとしては、エンジンEの回転数(回転速度)、変速装置10を構成する動力伝達軸30の回転数(回転速度)、エンジン制御ユニット5Aによって算定されたエンジントルク、動力伝達軸30のトルク、車速、作業装置Wの作業状態(耕耘深さ、牽引力、ローダーへの作用力など)が挙げられるが、実際に利用される入力パラメータは、トラクタに装備されているセンサに依存する。動力伝達軸30のための回転検出センサや車速センサは標準装備されている可能性が高いので、入力パラメータとして、動力伝達軸30の回転速度変動値や車速変動値を用いると好都合である。これらの入力パラメータは各種センサからの信号を処理する車両状態検出モジュールユニット9を通じて送られてくる。突発的な回転負荷の増大を検知するために、経時的な回転負荷の微分値または差分値に基づいて突発的な回転負荷の増大を示す情報を、負荷情報として用いてよい。あるいは、単にしきい値判定だけでアシスト制御のトリガーとなる回転負荷の増大を示す負荷情報を負荷情報として用いてもよい。
アシスト制御ユニット6は、負荷情報に基づいて、モータジェネレータ4を用いたエンジンEに対するアシスト制御を実行するかどうかを判定する。例えば、バッテリ充電量が所定値以下の場合、アシスト制御の中止、または部分的なアシスト量でのアシスト制御に限定される。さらに、アシスト制御が実行された後、所定時間の間、次のアシスト制御の実行を禁止する。さらに、アシスト制御ユニット6は、負荷情報に基づいて、アシスト制御におけるアシスト量とアシスト時間を規定するアシスト特性を決定する。さらに、アシスト制御ユニット6は、決定されたアシスト特性に基づいてアシスト制御信号をモータ制御ユニット5Bに出力する。モータ制御ユニット5Bは、アシスト制御信号に基づいてモータ制御信号をインバータ部5bに出力し、モータジェネレータ4を制御する。なお、モータ制御ユニット5Bは、アシスト制御以外に、発電指令をインバータ部5bに送ることで、モータジェネレータ4をジェネレータとして機能させ、バッテリBを充電することができる。また、モータ制御ユニット5Bがゼロトルク制御信号をインバータ部5bに送ることで、モータジェネレータ4はゼロトルク駆動を行う。
上述した機能を果たすため、アシスト制御ユニット6には図8に示すように、バッテリ管理部60、負荷情報を生成する負荷情報生成部61、アシスト特性マップ格納部62aを含むアシスト特性決定部62、アシスト制御決定部63が構築されている。バッテリ管理部60は、バッテリBからの充電情報に基づいて、充電量を算定し、この充電量を含むバッテリ情報を出力する。
アシスト特性決定部63は、負荷情報から読み出した負荷量:Lと、バッテリ情報から読み出した充電量:SCに基づいて、適切なアシスト特性:W(t)を決定する。このアシスト特性は、W(t)=Γ〔L,SC〕といった一般式から導出されるものである。つまり、アシスト特性は、経時的なアシスト量を決めるグラフで表すことできる。実際には、以下に述べるように、複数のアシスト特性をマップ化して格納しておき、負荷量:Lと充電量:SCとから最適なアシスト特性が選択される。アシスト特性が決定されると、モータ制御ユニット5Bがこのアシスト特性に基づいてアシスト制御信号を生成し、インバータ部5bを通じてモータジェネレータ4を駆動制御し、エンジンEないしは動力伝達手段に生じた負荷の増大を補償する。電気モータのトルク応答性は早いので、突発的な走行負荷や作業負荷の増大が発生しても、それにより回転数の低下が回避される。負荷増大が持続した場合やバッテリBの充電量に余裕がない場合には、省エネ変速モジュール7における変速比の調整で対処することになる。
アシスト特性マップ格納部62aは、上述したようなアシスト特性をマップ化したアシスト特性マップMを予め複数作成して格納するか、あるいは必要に応じて適正なアシスト特性マップMを作成して設定する機能を有する。模式的に図示されているように、このアシスト特性は、経時的なアシスト量を決めるグラフで表すことができる。図8で模式的に図示された例では、横軸が時間で、縦軸がアシストゲインである。アシストゲインは、負荷情報から読み出した負荷量に応じて算定される最大アシスト量(モータトルク)に対する比率であり、0%から100%の間の数値をとる。つまり、最大アシスト量にこのアシスト特性マップMから得られたアシストゲインを乗算することで、実際にモータジェネレータ4によってアシストされるアシスト量が求められる。この実施形態でのアシスト特性は、所定時間一定のアシスト量を維持する初期アシスト特性領域Sとアシスト量を零まで経時的に減少させる終期アシスト特性領域Eとからなる。初期アシスト特性領域Sの時間間隔t1が1.5秒から2.5秒、好ましくは2秒であり、終期アシスト特性領域Eの時間間隔t2が1.5秒から2.5秒、好ましくは2秒である。図示されたアシスト特性マップMでは、初期アシスト特性領域Sにおけるアシストゲインは100%で一定であり、終期アシスト特性領域Eは線形である。もちろん、その減少傾向は、任意の形状を採用することができる。また、初期アシスト特性領域Sと終期アシスト特性領域Eの両方の領域において非線形なグラフを採用することも可能である。アシスト特性決定部62は、負荷情報から読み出した負荷量とバッテリ情報から読み出した充電量とから最適なアシスト特性マップMを決定する。その他のアシスト特性マップMでは、初期アシスト特性領域Sにおけるアシストゲインは10%程度から100%未満の範囲の値をとり、終期アシスト特性領域Eは減少関数となるような、種々のアシスト特性が記述されている。つまり、実際にモータジェネレータ4によって生み出されるアシスト量は、負荷量または充電量あるいはそれら両方によってその都度変動する。なお、このアシスト特性に基づくアシスト制御の連続した実行は、アシスト制御決定部63によって禁止される。アシスト制御の実行間隔、つまり禁止時間は、バッテリBの充電量によって変更してもよいし、バッテリBの容量によって予め決めておいても良い。また、作業によって可変されてもよい。いずれにせよ、バッテリ充電量の急激な低下をもたらさないように設定される。
この実施形態における油圧管理ユニット5は、図1を用いて説明した油圧管理ユニット5の機能を備えている。従って、油圧管理ユニット5には、図9で示すように、必要作動油量算定部51、回転数増加指令生成部52、変速比変更指令生成部53、回転数戻し指令生成部54が構築されている。必要作動油量算定部51は、車両状態検出ユニット9から送られてきた、ステアリングホイール21の操作挙動や昇降レバー22の操作挙動を示す操作情報に基づいてパワステシリンダ102やリフトシリンダ101が必要とする必要作動油量を算定する。回転数増加指令生成部52は、必要作動油量算定部51によって算定された必要作動油量に基づいてパワステシリンダ102やリフトシリンダ101に対する作動油供給不足が判定された場合に、エンジン回転数増加指令を生成する。エンジン回転数増加指令は、エンジン制御ユニット5Aで設定されている現時点のエンジン回転数に対して回転数を増加させる指令である。増加させる回転数の値としては、所定値、例えば200rpmでもよいし、そのつど、演算またはマッピングによって求めた回転数であってよい。そのようにして生成されたエンジン回転数増加指令は、エンジン制御ユニット5Aに与えられることで、エンジンEの回転数が上昇する。
回転数戻し指令生成部54は、エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数増加を行なわなくとも元のエンジン回転数で作動油供給不足が発生しないと判定された場合、先に行ったエンジン回転数増加指令を取り消す回転数戻し指令を生成する。その際、先に行ったエンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を複数回に分けて低減するような回転数戻し指令を生成してもよい。いずれにせよ、このエンジン回転数増加指令がエンジン制御ユニット5Aに与えられることで、エンジンEの回転数が低下する。
変速比変更指令生成部53は、急加速を避けるべくトラクタの車速を維持するために、エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を変速制御ユニット3に与える。これにより、変速制御ユニット3は油圧制御ユニット8を介して静油圧式変速機構12Aの油圧ポンプの斜板12aを調節して、変速比を大きくし、エンジン回転数の増加に伴う車速の上昇を回避する。同様の目的で、変速比変更指令生成部53は、エンジン回転数戻し指令によるエンジン回転数の低減を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を変速制御ユニット3に与える。これにより、変速制御ユニット3は油圧制御ユニット8を介して斜板12aを調節して、変速比を小さくし、エンジン回転数の低下に伴う車速の低下を回避する。
この油圧管理ユニット5による作動油供給量制御機能は、作業走行時に利用されるものであり、道路走行時には原則的には必要ではない。このため、この油圧管理ユニット5による作動油供給量制御機能を、道路走行時に限定すると好都合である。そのために、この実施形態では、道路走行用変速段と作業用変速段とを備えたギヤ変速装置14の変速段を切り換える変速レバー23の操作位置を利用している。つまり、ギヤ変速装置14が道路走行用変速段に切り換えられていることを変速レバーセンサ93の信号から検出し、その際にはエンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を禁止する。
この実施形態では、上述した変速制御ユニット3には、省エネルギー運転のため、運転者の操作に基づいて一時的なエンジン回転数低下処理とこのエンジン回転数低下処理を取り消すエンジン回転数戻し処理とを実現する省エネ変速モジュール7が構築されている。このエンジン回転数低下処理及びエンジン回転数戻し処理は、上述したエンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加処理及びエンジン回転数戻し指令によるエンジン回転数の低減処理と類似するので、共通的に構築することができる利点がある。
図10に示すように、省エネ変速モジュール7には、上記機能を実現するため、回転数低下指令生成部71、変速比変更指令生成部72、下げ処理履歴メモリ73、負荷判定部74、強制戻し制御部75が含まれている。
回転数低下指令生成部71は、運転者の下げボタン24の押下による操作指令に基づいて現状のエンジン回転数を200rpmだけ低下させる回転数低下指令を生成して、エンジン制御ユニット5Aに送り出す。その際、変速比変更指令生成部72は、この回転数低下指令によるエンジン回転数の低下が車速の低下を伴わないように、その低下分を補償する変速比の変更値を求め、その変更値に基づいた変速比変更指令を生成し、この変速比変更指令を油圧制御ユニット8に送り出す。アクセルレバー32の操作位置によって設定された基本エンジン回転数を制御目標としてエンジン制御ユニット5AがエンジンEの回転数を制御しているが、この回転数低下指令は、その基本エンジン回転数を低下させるものであり、この実施形態では複数回数、例えば4回にわたる回転数低下を指令することができる。つまり、1回目の回転数低下指令で基本エンジン回転数から200rpmの低下、2回目の回転数低下指令でさらに200rpmつまり基本エンジン回転数から400rpmの低下が指令されることになる。もちろん、そのエンジン回転数低下に伴う車速の低下は、その都度の変速比変更指令生成部72からの変速比変更指令によって補償される。
さらに運転者が戻しボタン25を押し下げた場合には、戻し操作指令が、省エネ変速モジュール7に与えられ、回転数低下指令生成部71は、現時点で設定されている回転数低下指令の積算回数を1段階取り消す戻し指令をエンジン制御ユニット5Aに送る。これにより、回転数低下指令が1回設定されているだけの状態なら、その1回分のエンジン回転数低下が取り消され、エンジン制御ユニット5AでのエンジンEの目標回転数は、元の基本エンジン回転数となる。回転数低下指令が2回設定されている状態なら、1回分のエンジン回転数低下が取り消され、エンジン制御ユニット5AでのエンジンEの目標回転数は、基本エンジン回転数より200rpmだけ低下させた回転数となる。回転数低下指令によるエンジン回転数の低下が設定されていない状態で戻しボタン25が押し下げられても、回転数低下指令は生成されない。戻しボタン25は、回転数低下指令の取消処理を行うだけである。当然ながら、戻しボタン25の操作による戻し操作指令によりエンジン回転数低下が修正された場合には、同時に、その修正に伴う車速の増加は、変速比変更指令生成部72からの変速比変更指令によって補償され、車速は一定に維持される。
このため、回転数低下指令生成部71によってエンジン制御ユニット5Aに設定される回転数低下指令の回数を記録しておく必要があり、このため下げ処理履歴メモリ73が備えられている。下げ処理履歴メモリ73はスタックメモリのようなメモリ構造が適しており、回転数低下指令が生成されると回転数低下に関する情報が下げ処理履歴メモリ73に書き込まれ(プッシュ)、戻し指令が生成されると最後に書き込まれた回転数低下に関する情報が読み出され消去される(ポップ)。もちろん、回転数低下指令や戻し操作指令を時系列的に記録する履歴メモリのようなメモリ構造を採用してもよい。いずれにしても、回転数低下指令生成部71によって、エンジン制御ユニット5Aに回転数低下指令が送られると、1回の下げボタン24の操作による200rpmのエンジン回転数低下の情報が必要に応じて変速比変更の情報も含めて下げ処理履歴メモリ73に書き込まれる。そして、下げ処理履歴メモリ73にアクセスすれば、現状の下げボタン24の操作履歴と現状のエンジン制御ユニット5Aに指令しているエンジン回転数の低下量、現状の変速比を知ることができる。
負荷判定部74は、エンジン負荷が所定レベルを超えたかどうかを判定する機能を有し、所定レベルを越えるエンジン負荷が判定された場合、回転数低下指令によって設定されている目標エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し指令が生成される。例えば、負荷判定部74は、アシスト制御ユニット6によるアシスト制御が禁止された禁止期間において所定レベルを越えるエンジン負荷が判定された場合、先に行われたエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令を出力する。
強制戻し制御部75は、エンジン負荷以外でも予め設定しておいた所定取消条件が成立した場合に、戻し操作指令を強制的に出力して、エンジン制御ユニット5Aに設定されたエンジン回転数の低下及び変速制御ユニット3に施された補償変速比の変更を取り消す。この取消条件は、定速走行が必要な作業走行のモードから車速を任意に調整しながら走行する必要がある一般路上走行のモードになった場合など、定速走行が不要な状況が検知されるというのが典型的な条件である。また、エンジンキーをオフにして車両運転を終了した場合も、強制的にエンジン回転数の低下を取り消すことが好ましい。
なお、アクセル操作器を操作することによって基本エンジン回転数が調整されると、エンジン回転数は人為的に変更されるが、その際でも回転数低下指令を引き継ぐように構成されている。これにより、アクセル操作器の操作を頻繁に行ったとしても、省エネ運転が維持できる。同様に、変速操作器である変速ペダル26によって変速装置10の変速比も人為的に変更されるが、その際でも変速比の変更に伴うエンジン回転数の変更とその後の回転数低下及びその回転数の低下に伴う補償変速比の設定が行われるように構成されている。
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、原動機ユニット1がエンジンEとモータジェネレータ4とからなるハイブリッドタイプで構成されていたが、エンジンEだけでもよい。
(2)上記実施形態では、変速装置10にHMT12を用いた無段変速が採用されていたが、多段ギヤ式変速装置を用いた多段変速を採用してもよい。
本発明は、少なくともエンジンEを備えた原動機ユニット1と、原動機ユニット1からの回転動力を変速して走行装置に出力する変速装置とを備えた、種々の作業車に適用可能である。トラクタ以外の作業車として、乗用田植機、芝刈機、コンバインなどの農用作業車、さらにはフロントローザなど土木作業車が挙げられる。
1:原動機ユニット
2:車輪(走行装置)
21:ステアリングホイール(油圧操作具)
22:昇降レバー(油圧操作具)
23:変速レバー
24:下げボタン
25:戻しボタン
10:変速装置
3:変速制御ユニット
4:モータジェネレータ(モータユニット)
5A:エンジン制御ユニット
5B:モータ制御ユニット
6:アシスト制御ユニット
7:省エネ変速モジュール
5:油圧管理ユニット
51:必要作動油量算定部
52:回転数増加指令生成部
53:変速比変更指令生成部
54:回転数戻し指令生成部
8:油圧制御ユニット
9:車両状態検出ユニット
101:リフトシリンダ(油圧駆動機器)
102:パワステシリンダ(油圧駆動機器)
T:油圧操作具
HD:油圧駆動機器
E:エンジン
W:作業装置

Claims (6)

  1. 動力伝達手段を介して走行装置に動力を供給する、少なくともエンジンを含む原動機ユニットと、
    前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットと、
    前記動力伝達手段に設けられた変速装置と、
    前記変速装置の変速比を調整する変速制御ユニットと、
    前記原動機ユニットから供給される動力の回転数によって作動油供給量が変化する油圧ポンプと、
    前記油圧ポンプから供給される作動油によって駆動する油圧駆動機器と、
    前記油圧駆動機器を操作する油圧操作具と、
    前記油圧駆動機器に対する操作情報に基づいて前記油圧駆動機器が必要とする必要作動油量を算定する必要作動油量算定部と、
    前記必要作動油量に基づいて前記油圧駆動機器に対する作動油供給不足が判定された場合に、前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を増加させるエンジン回転数増加指令を前記エンジン制御ユニットに与える回転数増加指令生成部と、
    作業車速度を維持するために前記エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令を前記変速制御ユニットに与える変速比変更指令生成部と、
    を備えた作業車。
  2. 前記必要作動油量算定部は前記操作情報に含まれている前記油圧操作具の操作入力に基づいて前記必要作動油量を算定する請求項1に記載の作業車。
  3. エンジン回転数を低下させても前記作動油供給不足が解消される場合に、前記エンジン回転数増加指令を取り消すエンジン回転数戻し指令が前記エンジン制御ユニットに与えられ、かつ
    作業車速度を維持するために前記エンジン回転数戻し指令によるエンジン回転数の減少を相殺するように変速比を変更させる変速比変更指令が前記変速制御ユニットに与えられる請求項1または2に記載の作業車。
  4. 前記変速装置は無段変速装置を含み、前記エンジン回転数増加指令及び前記エンジン回転数戻し指令は前記無段変速装置を対象とする請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車。
  5. 前記変速装置は道路走行用変速段と作業用変速段とを備えた多段変速装置を含み、前記道路走行用変速段に切り換えられている場合、前記エンジン回転数増加指令によるエンジン回転数の増加が禁止される請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車。
  6. 前記原動機ユニットには、前記エンジンをアシストするモータユニットが備えられている請求項1から5のいずれか一項に記載の作業車。
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