JP2014067656A - 絶縁電線およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】導体と絶縁被覆との密着性を従来技術と同等に確保しながら、幅広い温度領域で従来よりも高い部分放電開始電圧を有する絶縁被覆を具備する絶縁電線および該絶縁電線の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁電線は、金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線であって、前記絶縁被覆層は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物からなり、前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【解決手段】本発明に係る絶縁電線は、金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線であって、前記絶縁被覆層は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物からなり、前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物を有することを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、回転電機や変圧器などの電気機器のコイルに用いられる絶縁電線に係わり、特に、押出被覆層を含む絶縁被覆が形成された絶縁電線に関するものである。
回転電機や変圧器などの電気機器のコイルに用いられている絶縁電線(エナメル被覆絶縁電線)は、一般的に、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸形状や四辺形状)に成形された導体の外周に単層または複数層の絶縁被覆が形成された構造をしている。該絶縁被覆を形成する方法には、樹脂を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料を導体上に塗布・焼付けする方法と、予め調合した樹脂組成物を導体上に押出被覆する方法がある。
近年、電気機器への小型化の要求により、コイル巻線工程において絶縁電線を高い張力下で小径のコアに高密度で巻くようになってきており、絶縁被覆には過酷な加工ストレスに耐えられる機械的特性(例えば、導体との密着性や耐摩耗性など)が求められている。また、電気機器への高効率化・高出力化の要求からインバータ制御や高電圧化が進展している。その結果、電気機器の運転時におけるコイルの温度は以前よりも上昇傾向にあり、絶縁被覆には高い耐熱性も求められている。それらに加えて、インバータサージ電圧などのより高い電圧が電気機器中のコイルに掛かることから、部分放電の発生によって絶縁被覆が劣化・損傷することがあるという問題が生じていた。
部分放電による絶縁被覆の劣化・損傷を防ぐために、部分放電開始電圧の高い絶縁被覆の開発が進められている。絶縁被覆の部分放電開始電圧を高くする手段の例として、絶縁被覆に比誘電率の低い樹脂を用いる方法や、絶縁被覆の厚さを厚くする方法が挙げられる。
例えば、特許文献1(特許第4177295号公報)では、導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼き付け層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有し、該エナメル焼き付け層と該押出被覆樹脂層の厚さの合計が60μm以上であり、前記エナメル焼き付け層の厚さが50μm以下であり、前記押出被覆樹脂層が、25℃における引張弾性率が1000 MPa以上であり、かつ250℃における引張弾性率が10 MPa以上である樹脂材料(ポリエーテルエーテルケトンを除く)からなることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤが開示されている。特許文献1に記載の絶縁ワイヤは、導体と絶縁被覆層の接着強度を下げることなく、高い部分放電開始電圧(900 Vp程度)を有する絶縁ワイヤを提供することができるとされている。
また、特許文献2(特開2011-134447号公報)では、少なくとも1つの押出被覆層を含む複数の被覆層からなる絶縁被覆が導体上に形成されている絶縁電線であって、前記少なくとも1つの押出被覆層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)とオレフィン系共重合樹脂(B)とを含む樹脂組成物を押出被覆した層であり、前記樹脂組成物は、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)と前記オレフィン系共重合樹脂(B)とが、重量部比で「(B)/(A) = 45/55 〜 70/30」の範囲で混和されていることを特徴とする絶縁電線が開示されている。特許文献2に記載の絶縁電線は、従来と同等の耐熱性と絶縁被覆厚さとを有しながら、従来よりも高い部分放電開始電圧を有するとされている。
特許文献1に記載されている押出被覆樹脂層を有する従来の絶縁電線は、押出被覆樹脂層の厚さを厚くすることによって部分放電開始電圧を高くすることができると考えられる。また、押出被覆樹脂層の密着性を確保するために、導体と押出被覆樹脂層との間にエナメル焼き付け層を介在させている。さらに、その好ましい態様としてエナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との間に接着層を更に介在させ、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層との接着力を強化している。
しかしながら、特許文献1におけるこれらの施策は、いずれも絶縁被覆全体の厚さが増大する方向であり、コイルの小型化や導体占積率向上の要求に対応することが困難になる。また、エナメル焼き付け層と押出被覆樹脂層とは樹脂組成物の性質と形成方法とが大きく異なることから、特許文献1の絶縁電線は、製造工程が煩雑になりやすく製造コストが増大しやすい問題がある。加えて、それらの層間に接着層を更に介在させる場合、製造コストが更に増大する問題がある。
電気機器の小型化に伴って、コイルに対してもその性能を維持した上で(または向上させた上で)更なる小型化が要求されており、高密度巻線の必要性はますます高まっている。加えて、コスト低減の要求は強まる一方である。これらのことから、絶縁被覆の機械的特性および絶縁電線のコストは、従来よりも重要になってきている。特許文献2に記載されている絶縁電線は、従来と同等の耐熱性と絶縁被覆厚さとを有しながら高い部分放電開始電圧を有するものであるが、上記の観点から絶縁被覆の機械的特性(特に、導体との密着性)の更なる向上およびコストの更なる低減が望まれていた。
前述したように、コイルの運転温度(すなわち絶縁電線の使用温度)は、以前よりも上昇傾向にある。一方、樹脂材料の誘電率は、一般的に温度の上昇とともに増大する。このことから、最新の実使用環境に対応するために、室温環境での改善に加えて、高温環境(例えば、200℃程度)でも高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線が求められている。従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、導体と絶縁被覆との密着性を従来技術と同等に確保しながら(導体と絶縁被覆との密着性を低下させることなく)、幅広い温度領域で従来よりも高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線および該絶縁電線を製造する方法を提供することにある。
(I)本発明の1つの態様は、上記目的を達成するため、金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線であって、前記絶縁被覆層は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物からなり、前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物が生成していることを特徴とする絶縁電線を提供する。
(II)本発明の他の態様は、上記目的を達成するため、金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線の製造方法であって、前記導体を所定の温度に加熱する加熱工程と、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物を、加熱された前記導体の外周に押出被覆して前記絶縁被覆層を形成すると共に、前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物を生成させる押出被覆工程とを含み、前記所定の温度は、前記樹脂Aの融点以上の温度であることを特徴とする絶縁電線の製造方法を提供する。
本発明は、上記の本発明に係る絶縁電線(I)および絶縁電線の製造方法(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記樹脂Cとの混合比が質量部比で「5/95 ≦ (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} ≦ 40/60」である。
(ii)前記耐熱性樹脂は、前記樹脂Aと前記樹脂Bとの混合比が質量部比で「15/80 ≦ (樹脂B)/ (樹脂A) ≦ 25/65」である。
(iii)前記金属は、銅または銅合金である。
(iv)前記絶縁電線の製造方法における前記所定の温度は、250℃以上の温度である。
(i)前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記樹脂Cとの混合比が質量部比で「5/95 ≦ (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} ≦ 40/60」である。
(ii)前記耐熱性樹脂は、前記樹脂Aと前記樹脂Bとの混合比が質量部比で「15/80 ≦ (樹脂B)/ (樹脂A) ≦ 25/65」である。
(iii)前記金属は、銅または銅合金である。
(iv)前記絶縁電線の製造方法における前記所定の温度は、250℃以上の温度である。
本発明によれば、導体と絶縁被覆との密着性を従来技術と同等に確保しながら(導体と絶縁被覆との密着性を低下させることなく)、幅広い温度領域で従来よりも高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線および該絶縁電線の製造方法を提供することができる。
本発明者らは、絶縁被覆層が導体上に形成された絶縁電線において、絶縁被覆層に求められる前述した各種特性(例えば、幅広い温度領域での高い部分放電開始電圧、高い機械的特性)を満たすべく、絶縁被覆層を構成する樹脂組成物の組成および絶縁被覆層の形成方法を鋭意検討した。その結果、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物を、加熱された金属導体の外周に押出被覆して絶縁被覆層を形成すると共に、金属導体と絶縁被覆層との界面領域に該導体金属の成分と該樹脂組成物の成分とからなる化合物を生成させることにより、前記要求を満たせることを見出した。本発明は、それらの知見に基づいて完成されたものである。
以下、本発明に係る実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
(樹脂組成物)
前述したように、本発明に係る絶縁電線の絶縁被覆層を構成する樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とが混合されたポリマーアロイである。樹脂Aは、耐熱性・機械的特性(例えば、耐疲労性や耐摩耗性)・耐薬品性に優れる樹脂であるが、比誘電率が特別に低いわけではないので単体では部分放電開始電圧の観点で弱点がある。樹脂Bは、比誘電率が低く安価であることから、部分放電開始電圧の向上とコスト低減とに有利であるが、融点が低いことから単体では耐熱性に弱点がある。樹脂Cは、架橋作用・相溶化作用・接着作用などの効果を有する樹脂である。当該樹脂組成物では、樹脂Aと樹脂Cとが架橋するように化合する。
前述したように、本発明に係る絶縁電線の絶縁被覆層を構成する樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とが混合されたポリマーアロイである。樹脂Aは、耐熱性・機械的特性(例えば、耐疲労性や耐摩耗性)・耐薬品性に優れる樹脂であるが、比誘電率が特別に低いわけではないので単体では部分放電開始電圧の観点で弱点がある。樹脂Bは、比誘電率が低く安価であることから、部分放電開始電圧の向上とコスト低減とに有利であるが、融点が低いことから単体では耐熱性に弱点がある。樹脂Cは、架橋作用・相溶化作用・接着作用などの効果を有する樹脂である。当該樹脂組成物では、樹脂Aと樹脂Cとが架橋するように化合する。
上記ポリマーアロイにおける樹脂Aと樹脂Bと樹脂Cとの混合比は、質量部比で「5/95 ≦ (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} ≦ 40/60」であることが好ましい。当該混合比が「(樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} < 5/95」となると、密着性の向上効果が十分に得られない。一方、当該混合比が「40/60 < (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)}」となると、密着性が低下し始めると共に、押出成形性(押出成形したときの形状安定性や表面平滑性)が低下する。
また、上記ポリマーアロイにおいて、樹脂Aと樹脂Bとの混合比は、質量部比で「15/80 ≦ (樹脂B)/ (樹脂A) ≦ 25/65」であることが好ましい。樹脂Aと樹脂Bとの混合比が「(樹脂B)/ (樹脂A) < 15/80」となると、比誘電率が十分に低くならず部分放電開始電圧の向上が不十分となる。一方、該混合比が「25/65 < (樹脂B)/ (樹脂A)」となると、耐熱性や機械的強度が不十分になる。
樹脂Bとしては、ポリエチレンおよびエチレン共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体)の樹脂群(樹脂B1)と、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ポリメチルペンテンから構成される樹脂群(樹脂B2)と、前記樹脂B1,B2を無水マレイン酸および/またはグリシジルメタクリレートで変性させてなる樹脂群(樹脂B3)のうちの少なくとも1種以上を好ましく用いることができる。
樹脂Cとしては、例えば、スチレンやアクリルを主骨格としてオキサゾリン基が付加された樹脂を好ましく用いることができる。
(絶縁電線)
図1は、本発明に係る絶縁電線の実施形態の一例を示す断面模式図であり、金属導体の断面形状が丸形状の場合を例示している。図2は、本発明に係る絶縁電線の実施形態の他の一例を示す断面模式図であり、金属導体の断面形状が四辺形状の場合を例示している。図1,2に示したように、本発明に係る絶縁電線10,10’は、金属からなる導体1,1’の外周に絶縁被覆層2が直接形成されており、絶縁被覆層2が前述した樹脂組成物で構成されている。また、導体1,1’と絶縁被覆層2との界面領域には、導体1,1’を構成する金属成分と絶縁被覆層2を構成する樹脂組成物の成分とからなる化合物が生成している。
図1は、本発明に係る絶縁電線の実施形態の一例を示す断面模式図であり、金属導体の断面形状が丸形状の場合を例示している。図2は、本発明に係る絶縁電線の実施形態の他の一例を示す断面模式図であり、金属導体の断面形状が四辺形状の場合を例示している。図1,2に示したように、本発明に係る絶縁電線10,10’は、金属からなる導体1,1’の外周に絶縁被覆層2が直接形成されており、絶縁被覆層2が前述した樹脂組成物で構成されている。また、導体1,1’と絶縁被覆層2との界面領域には、導体1,1’を構成する金属成分と絶縁被覆層2を構成する樹脂組成物の成分とからなる化合物が生成している。
詳細なメカニズムは未解明であるが、該化合物の生成が導体1,1’と絶縁被覆層2との密着性の向上に貢献していると考えられる。さらに、本発明に係る絶縁電線10,10’は、絶縁被覆層2が高い部分放電開始電圧と高い密着性とを有することから、絶縁被覆層2を単層構造で構成することができる。これは、製造プロセスの簡素化につながり、コスト低減に貢献する。なお、絶縁被覆層2の厚さは、所望の部分放電開始電圧(一例として、室温環境で1700 Vp以上、200℃環境で1400 Vp以上)を確保するため100μm以上であることが好ましい。
絶縁被覆層2の可撓性を向上させるため、ポリオレフィン系樹脂を無水マレイン酸あるいはグリジシルメタクリレートで変性した樹脂組成物を副素材として前記の樹脂組成物にブレンドしてもよい。必要に応じて、酸化防止剤や銅害防止剤、滑剤、着色剤などを前記樹脂組成物に添加してもよく、表面滑性の向上を目的とした潤滑層を絶縁被覆層2の外周に別途形成してもよい。また、導体1,1’の材料に特段の限定は無く、エナメル被覆絶縁電線で常用される材料(例えば、無酸素銅や低酸素銅など)を用いることができる。
(絶縁電線の製造方法)
次に、本発明に係る絶縁電線の製造方法について説明する。本発明に係る絶縁電線の製造方法は、押出機を用いて行うことが好ましく、導体1,1’を所定の温度に加熱する加熱工程と、前述した樹脂組成物を加熱された導体1,1’の外周に押出被覆して絶縁被覆層2を形成する押出被覆工程とに大別される。
次に、本発明に係る絶縁電線の製造方法について説明する。本発明に係る絶縁電線の製造方法は、押出機を用いて行うことが好ましく、導体1,1’を所定の温度に加熱する加熱工程と、前述した樹脂組成物を加熱された導体1,1’の外周に押出被覆して絶縁被覆層2を形成する押出被覆工程とに大別される。
加熱工程において、所定の温度は、250℃以上が好ましい。導体1,1’の温度が250℃未満であると、後述する押出被覆工程において、被覆する樹脂組成物と接触したときに該樹脂組成物の流動性を低下させてしまうため、導体1,1’と絶縁被覆層2との密着が不十分になり、密着性の向上効果が得られない。なお、特段言うまでも無いが、加熱温度は、樹脂A、樹脂Bおよび樹脂Cの分解温度未満の温度とする。
押出被覆工程において、樹脂組成物における樹脂Aと樹脂Bと樹脂Cとの混合比、および樹脂Aと樹脂Bとの混合比は、前述のとおりである。また、該樹脂組成物を導体1,1’と同等の温度に加熱し、十分に混練することが好ましい。加熱された導体1,1’の外周に加熱・混練された樹脂組成物を押出被覆して絶縁被覆層2を形成する。
導体1,1’は250℃以上の温度に加熱されていることから、導体1,1’と樹脂組成物との少なくとも界面領域で樹脂組成物の流動性が十分確保され、導体1,1’の表面に存在する微小な凹凸に対しても隙間無く樹脂組成物が侵入する。なお、導体1,1’の表面には、通常、金属伸線の加工精度の範囲で微小な凹凸が存在する。
同時に、導体金属の成分と樹脂組成物の成分とが化合物を生成し、導体1,1’と絶縁被覆層2との密着をより強固なものにする(すなわち、密着性が向上する)。なお、現段階では、当該化合物の組成等に関しては未解明である。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜4および比較例1〜5の作製)
導体としては外径1.25 mmの銅線を用いた。絶縁被覆層となる樹脂組成物は、別途調合して用意した。押出機を用いて銅線の外層に樹脂組成物を押出被覆して、図1に示すような絶縁電線を作製した。このとき、樹脂組成物の組成、押出被覆時の加熱温度を種々変化させて実施例1〜4および比較例1〜5を作製した。絶縁被覆層の厚さは、約150μmで統一した。
導体としては外径1.25 mmの銅線を用いた。絶縁被覆層となる樹脂組成物は、別途調合して用意した。押出機を用いて銅線の外層に樹脂組成物を押出被覆して、図1に示すような絶縁電線を作製した。このとき、樹脂組成物の組成、押出被覆時の加熱温度を種々変化させて実施例1〜4および比較例1〜5を作製した。絶縁被覆層の厚さは、約150μmで統一した。
樹脂Aとしてはポリフェニレンサルファイド(PPS、密度=1.3 g/cm3、メルトフローレート(MFR)=10 g/10min)を用い、樹脂Bとしては2種類の高密度ポリエチレン(HDPE-1、密度=0.954 g/cm3、MFR=0.04 g/10min)および(HDPE-2、密度=0.951 g/cm3、MFR=0.8 g/10min)と無水マレイン酸変性α-オレフィン共重合体(MA-g-PO、密度=0.87 g/cm3、MFR=0.7 g/10min)とを用い、樹脂Cとしてはオキサゾリン基含有ポリスチレン(株式会社日本触媒製、エポクロス(登録商標)、密度=1.05 g/cm3、ガラス転移温度=109℃、MFR=8 g/10min)を用いた。実施例1〜4で用いた樹脂組成物の組成および押出被覆時の加熱温度を表1に示し、比較例1〜5で用いた樹脂組成物の組成および押出被覆時の加熱温度を表2に示す。
上記のように作製した絶縁電線(実施例1〜4および比較例1〜5)に対して、次のような測定・評価を行った。
(1)密着性評価
密着性は、JIS C3003に準拠した急激伸張試験を実施することにより評価した。急激伸張試験の結果、絶縁被覆層の浮き(剥離)の長さが破断点から2 mm以下のものを「合格」と評価し、2〜20 mmのものを「通常(従来技術と同等の意味)」と評価し、20 mmよりも長いものを「不合格」と評価した。結果を表1〜2に併記する。
密着性は、JIS C3003に準拠した急激伸張試験を実施することにより評価した。急激伸張試験の結果、絶縁被覆層の浮き(剥離)の長さが破断点から2 mm以下のものを「合格」と評価し、2〜20 mmのものを「通常(従来技術と同等の意味)」と評価し、20 mmよりも長いものを「不合格」と評価した。結果を表1〜2に併記する。
(2)微細組織観察
走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて、絶縁電線の導体と絶縁被膜層との界面領域を観察し、化合物の有無を調査した。結果を表1〜2に併記する。
走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて、絶縁電線の導体と絶縁被膜層との界面領域を観察し、化合物の有無を調査した。結果を表1〜2に併記する。
(3)部分放電開始電圧測定
部分放電開始電圧の測定は次のような手順で行った。絶縁電線を500 mmの長さで2本切り出し、39 N(4 kgf)の張力を掛けながら撚り合わせて中央部の120 mmの範囲に6回の撚り部を有するツイストペアの試料を用意した。試料端部10 mmの絶縁被覆をアビソフィックス装置で剥離した。その後、絶縁被覆の乾燥のため、120℃の恒温槽中に30分間保持し、デシケータ中で室温になるまで18時間放置した。部分放電開始電圧は、部分放電自動試験システム(総研電気株式会社製、DAC-6024)を用いて測定した。測定条件は、25℃で相対湿度50%の雰囲気、および200℃の雰囲気とし、50 Hzの電圧を10〜30 V/sで昇圧しながらツイストペア試料に荷電した。ツイストペア試料に50 pCの放電が50回発生した電圧を部分放電開始電圧(Vp)とした。結果を表1〜2に併記する。
部分放電開始電圧の測定は次のような手順で行った。絶縁電線を500 mmの長さで2本切り出し、39 N(4 kgf)の張力を掛けながら撚り合わせて中央部の120 mmの範囲に6回の撚り部を有するツイストペアの試料を用意した。試料端部10 mmの絶縁被覆をアビソフィックス装置で剥離した。その後、絶縁被覆の乾燥のため、120℃の恒温槽中に30分間保持し、デシケータ中で室温になるまで18時間放置した。部分放電開始電圧は、部分放電自動試験システム(総研電気株式会社製、DAC-6024)を用いて測定した。測定条件は、25℃で相対湿度50%の雰囲気、および200℃の雰囲気とし、50 Hzの電圧を10〜30 V/sで昇圧しながらツイストペア試料に荷電した。ツイストペア試料に50 pCの放電が50回発生した電圧を部分放電開始電圧(Vp)とした。結果を表1〜2に併記する。
表1に示したように、本発明に係る実施例1〜4の絶縁電線は、幅広い温度領域で高い部分放電開始電圧(室温で1700 Vp以上、200℃雰囲気で1400 Vp以上)を有していることが確認された。部分放電開始電圧は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に対する高密度ポリエチレン(HDPE)の比率が大きいほど、高くなる傾向が見られた。さらに、実施例1〜4の絶縁電線は、高い密着性を維持しており、導体と絶縁被膜層との界面領域に何かしらの化合物が生成していることが確認された。
これらに対し、比較例1と比較例2のように樹脂Cを含まないものは、導体と絶縁被膜層との界面領域に化合物の生成がなく、密着性が不十分であった。また、部分放電開始電圧も要求レベル(例えば、室温で1700 Vp以上、200℃雰囲気で1400 Vp以上)を満たせなかった。
比較例3は、樹脂Cの混合比が本発明の規定よりも小さいものであり、導体と絶縁被膜層との界面領域で化合物の生成が確認されず、密着性の向上効果が得られなかった。また、樹脂Bの混合比が本発明の規定よりも小さいことから、部分放電開始電圧も要求レベルを満たせなかった。
比較例4では、導体と絶縁被膜層との界面領域で化合物の生成が確認され、高い密着性を有していたが、樹脂Bが配合されていないことから部分放電開始電圧が要求レベルを満たせなかった。
比較例5は、押出被覆時の加熱温度が本発明の規定よりも低いものであり、導体と絶縁被膜層との界面領域で化合物の生成が確認されず、密着性の向上効果が得られなかった。また、樹脂Bの混合比が本発明の規定よりも小さいことから、部分放電開始電圧も要求レベルを満たせなかった。
以上のことから、本発明に係る絶縁電線は、導体と絶縁被覆との密着性を従来技術と同等に確保しながら(導体と絶縁被覆との密着性を低下させることなく)、幅広い温度領域で従来よりも高い部分放電開始電圧を有していることが実証された。また、本発明に係る絶縁電線は、そのような良好な特性を単層の絶縁被覆で実現しており、コストの低減が可能である。
10,10’…絶縁電線、1,1’…導体、2…絶縁被覆層。
Claims (9)
- 金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層は、ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物からなり、
前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物が生成していることを特徴とする絶縁電線。 - 請求項1に記載の絶縁電線において、
前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記樹脂Cとの混合比が質量部比で「5/95 ≦ (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} ≦ 40/60」であることを特徴とする絶縁電線。 - 請求項2に記載の絶縁電線において、
前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bとの混合比が質量部比で「15/80 ≦ (樹脂B)/ (樹脂A) ≦ 25/65」であることを特徴とする絶縁電線。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁電線において、
前記金属が銅または銅合金であることを特徴とする絶縁電線。 - 金属からなる導体の外周に絶縁被覆層が形成されている絶縁電線の製造方法であって、
前記導体を所定の温度に加熱する加熱工程と、
ポリフェニレンサルファイドからなる樹脂(樹脂A)と、オレフィン系樹脂(樹脂B)と、オキサゾリン基を含有する樹脂(樹脂C)とを含む樹脂組成物を、加熱された前記導体の外周に押出被覆して前記絶縁被覆層を形成すると共に、前記導体と前記絶縁被覆層との界面領域に前記金属の成分と前記樹脂組成物の成分とからなる化合物を生成させる押出被覆工程とを含み、
前記所定の温度は、前記樹脂Aの融点以上の温度であることを特徴とする絶縁電線の製造方法。 - 請求項5に記載の絶縁電線の製造方法において、
前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bと前記樹脂Cとの混合比が質量部比で「5/95 ≦ (樹脂C)/{(樹脂A)+(樹脂B)} ≦ 40/60」であることを特徴とする絶縁電線の製造方法。 - 請求項6に記載の絶縁電線の製造方法において、
前記樹脂組成物は、前記樹脂Aと前記樹脂Bとの混合比が質量部比で「15/80 ≦ (樹脂B)/ (樹脂A) ≦ 25/65」であることを特徴とする絶縁電線の製造方法。 - 請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の絶縁電線の製造方法において、
前記所定の温度は、250℃以上の温度であることを特徴とする絶縁電線の製造方法。 - 請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の絶縁電線の製造方法において、
前記金属が銅または銅合金であることを特徴とする絶縁電線の製造方法。
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