青色から紫外の発光ダイオードや半導体レーザの材料として、一般式がAlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)で表される窒素を含む3−5族化合物半導体が用いられている。この材料を用いて発光ダイオードや半導体レーザを実現するために、p型およびn型半導体層上に接触抵抗の低いオーミック電極を形成する必要がある。これについて特許文献1および特許文献2が提案されている。
図7は、特許文献1に開示されている従来の半導体発光素子における電極とその下地層間の電流−電圧特性図である。
図7において、曲線aは、p型GaN層の表面に何らの処理も行わずに真空蒸着装置内でNiを10nmとAuを300nm蒸着した電極とその下地層間の電流−電圧特性を示している。曲線bは、p型GaN層を真空蒸着装置内で、蒸着前に真空中で摂氏600度で10分間加熱し、冷却してから曲線aの場合と同じ構成の電極をp型GaN層の表面に蒸着したときの電極とその下地層間の電流−電圧特性を示している。
このp型GaN層の表面にはGaの酸化物があるので、曲線aの場合のように何らの処理も行わずに電極としてNiとAuを蒸着した場合は、曲線aのようにオーミック特性が得られない。真空中で摂氏600度で加熱処理することによって、p型GaN層の表面上の酸化物がある程度除去されるので、曲線bのように電流−電圧特性のオーミック特性が向上する。加熱中の雰囲気としては酸素を含まない窒素ガスのような不活性ガス中でも行うことができる。
一番低抵抗なオーミック特性が得られるのは、真空蒸着装置に入れる直前に沸酸溶液(HF:H2O=1:1)に10分間浸し、水洗した後に窒素ガスで乾燥させ、真空蒸着装置に入れてからは曲線bの場合と同様に摂氏600度の加熱処理を行う場合で、曲線cにそのときの電極とその下地層間の電流−電圧特性を示している。
沸酸溶液はGaN層の表面のGa酸化物を除去する効果があり、沸酸と沸化アンモニウムの混合液(HF:NH4F=1:10)や塩酸、硫酸または燐酸などの水溶液を用いても有効である。
電極に用いる金属には、NiとAuの組み合わせ以外に、Cr/Au、Mg/Au、PdまたはPtなどを用いることもできる。
また、電極は、p型GaN層の表面に形成しているが、n型であってもよく、さらにGaN層に限らず、一般にp型およびn型AlxGayIn1-x-yN層に対してこの電極形成方法は有効である。
さらに、特許文献1に開示されている従来の電極形成方法について図8を用いて更に説明する。
図8は、図7の従来の半導体発光素子における電極形成方法を説明するための各製造工程の流れ図である。
図8において、従来の電極形成方法は、3族元素に窒素を含む3−5族化合物半導体層の表面を塩酸、沸酸、硫酸、または燐酸あるいはこれらの水溶液でエッチングすることにより、Ga酸化物を沸酸、硫酸、塩酸などの薬液で除去する薬液洗浄工程(ステップS11)と、窒素化合物半導体層の表面のエッチング後、その表面を水洗いしてそれを窒素ガスで乾燥させる水洗い・乾燥工程(ステップS12)と、窒素化合物半導体層の表面を真空中または窒素中で摂氏600度で加熱処理する加熱処理工程(ステップS13)と、その加熱処理後の窒素化合物半導体層の表面に真空中でニッケル、クロム、マグネシウム、パラジウム、金、白金のうちの一層、または金属の1層以上の組み合わせからなる複数の層を電極として形成する電極形成工程(ステップS14)とを有している。
薬液洗浄工程で層表面を薬液洗浄処理したり、加熱処理工程で真空中で摂氏600度で加熱処理することにより、層表面上の酸化物がある程度除去されるために電極とその下地層間のオーミック特性を向上させることができる。
図9は、特許文献2に開示されている従来の窒化物半導体発光素子における窒化物半導体積層の上面と電極のコンタクト抵抗と、その上面の洗浄時間との関係を示す図である。
図9に示すように、洗浄液(水)にさらす時間を短時間化する(窒化物半導体積層の上面の酸素原子の割合を低減する)ことにより、コンタクト抵抗を低減化することが可能となる。特に、コンタクト抵抗を50×10-3Ωcm2以下、さらには10×10-3Ωcm2以下にまで低減化することが可能となる。
図10は、図9の従来の窒化物半導体発光素子の電極形成方法を説明するための各製造工程の流れ図である。
図10に示すように、従来の窒化物半導体発光素子の電極形成方法は、基板の上面に、窒化物半導体を含む窒化物半導体層を少なくとも1層積層させて窒化物半導体積層部を作製し、作製した窒化物半導体積層を除去液に浸漬させて、窒化物半導体積層の上面に形成される妨害層を除去する妨害層除去工程(ステップS21)と、妨害層除去工程の後に、窒化物半導体積層を洗浄液(水)にさらした後に乾燥させる水洗い・乾燥工程(ステップS22)と、洗浄工程の後に、窒化物半導体積層の上面に電極を形成する電極形成工程(ステップS23)とを備え、洗浄工程後の窒化物半導体積層の上面の酸素原子の割合が、原子百分率で5.9at.%以下とする。
この妨害層除去工程における除去液は、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、硝酸、酢酸、燐酸、アンモニアおよび水のいずれか1種類以上を含んでいる。電極形成工程で形成する電極は、コンタクト層8上に厚さ約1nmのPt層と厚さ約30nmのPd層とから成るオーミック電極(図示せず)を形成し、オーミック電極(図示せず)の上方を覆うように、厚さ約30nmのTi層と厚さ約140nmのPd層と厚さ約2400nmのAu層とを順に形成して成る厚さ約3μmのパッド電極(図示せず)を形成している。
これによって、窒化物半導体層と電極とのオーミック接触を良好なものとして駆動電圧を低減することができる。
以下に、本発明の透明電極作製方法を含む半導体発光素子の製造方法を窒化物半導体発光素子の製造方法の実施形態1、2に適用した場合について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1における窒化物半導体発光素子の要部構成例を示す縦断面図である。
図1において、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1は、表面に凹凸が形成された厚さ約300μmの基板として例えばサファイヤ基板2上に、窒化アルミニウム(AlN)から成る膜厚約15nmのバッファ層3が成膜されている。そのバッファ層3上にノンドープのGaNから成る膜厚約500nmのノンドープGaN層4が成膜されている。これらのサファイヤ基板2、バッファ層3およびノンドープGaN層4が単結晶性基板21を構成している。
さらに、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1において、この単結晶性基板21上にシリコン(Si)を1×1018/cm3ドープしたGaNからなる膜厚約5μmのn型コンタクト層5(高キャリヤ濃度n+層)が形成されている。このn型コンタクト層5上には多重層6が形成され、この多重層6上には多重量子井戸構造の発光層7が形成されている。
この多重層6は、InxGa1−xN(0<x<0.3)からなる第1の層とGaNからなる第2の層とを交互に複数積層されている。この多重層6は、ここでは例えば、膜厚3nmのIn0.03Ga0.97Nからなる第1の層と、膜厚20nmのGaNからなる第2の層とを5ペア積層している。
この多重層6のうちの第1の層に、一導電型不純物としてSiがその濃度として、5×1016cm−3〜1×1018cm−3(さらに好ましくは、1×1017cm−3〜1×1018cm−3)の範囲で添加されて、発光層7が受ける静電破壊エネルギ(mJ/cm2)が20以上40以下(さらに好ましくは、20以上35以下)とされている。
具体的には、所定項目の逆方向電気特性(逆方向電流)をパラメータとして、発光層7が受ける静電破壊エネルギ(mJ/cm2)と多重層6の第1層におけるSi濃度との関係を示す特性曲線において、静電破壊エネルギ(mJ/cm2)の極小値に対応するSiの濃度に設定されている。
多重量子井戸構造の発光層7の井戸層は少なくともInを含むInyGa1−yN(0≦y<0.3)からなっている。このように、多重量子井戸構造の発光層7は、ここでは例えば、膜厚3nmのIn0.2Ga0.8Nから成る井戸層と、膜厚20nmのGaNから成る障壁層とを3ペア積層している。
さらに、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1において、この発光層7上に、Mgを2×1019/cm3ドープした膜厚25nmのp型Al0.15Ga0.85Nからなるp型層である電子ブロック層8が形成されている。この電子ブロック層8上には、Mgを8×1019ドープした膜厚100nmのp型GaNからなるp型コンタクト層9が形成されている。
このp型コンタクト層9上には、金属蒸着による透明電極の透光性薄膜電極10(ITO)が形成されている。透光性薄膜電極10の一部上にp電極11が形成されている。
一方、n型コンタクト層5の端部が途中まで露出され、その上にn電極12が形成されている。p電極11およびn電極12上の最上部には、SixOy膜としてのSiO2膜よりなる耐湿度用などの保護膜13が形成されている。
保護膜13は、透光性薄膜電極10、p電極11、n電極12およびn型コンタクト層5の露出表面、さらに、n型コンタクト層5の端部途中までの、多重層6、発光層7、電子ブロック層8、p型コンタクト層9および透光性薄膜電極10(ITO)のエッチング除去側面に形成されている。
このように、保護膜13は、p電極11およびn電極12と素子表面とを覆って保護するものである。保護膜13は、SiO2膜の単層構造であってもよいが、SixNy膜としてのSiN膜と、その上のSixOy膜としてのSiO2膜との2層構造であってもよい。こちまた、上下が逆で、SixOy膜としてのSiO2膜と、その上のSixNy膜としてのSiN膜との2層構造であってもよい。これらの場合は、SiN膜がパッシベーション膜として機能する。要するに、保護膜13は、SixOy膜、SixNy膜およびSixOyNz膜のうちの少なくともSixOy膜を有している。
上記構成の窒化物半導体発光素子1の製造方法について説明する。
本実施形態1の窒化物半導体発光素子1の製造方法は、サファイヤ基板2を所定位置に受け入れるサファイヤ基板2の基板受け入れ工程と、サファイヤ基板2の表面に凹凸を形成するサファイヤ表面凹凸加工工程と、MOCVD法により、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に、バッファ層3、ノンドープGaN層4、n型コンタクト層5、多重層6、多重量子井戸構造の発光層7、電子ブロック層8およびp型コンタクト層9をこの順に順次形成する窒化物半導体成膜工程と、p型コンタクト層9上に透光性薄膜電極10を形成する透明電極形成工程と、基板端部をn型コンタクト層5の途中までエッチング除去してn型コンタクト層5の端部を露出させ、n型コンタクト層5の端部表面上にn電極12を形成すると共に、透光性薄膜電極10の一部表面上にp電極11を形成するn電極およびp電極形成工程と、透光性薄膜電極10、p電極11、n電極12およびn型コンタクト層5の露出表面、さらにエッチング除去側面に耐湿度用などに保護層13を形成する保護層形成工程と、p電極11およびn電極12上の保護層13をそれぞれ開口する電極開口部工程とを有している。
ここで、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1の製造方法における特徴構成の透明電極形成工程に焦点を当てて更に詳細に説明する。
図2は、本実施形態1の透明電極形成工程を含む窒化物半導体発光素子1の製造方法を説明するための各製造工程の流れ図である。
図2に示すように、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1の製造方法は、まず、ステップS1の窒化物半導体成膜工程で、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に各窒化物半導体層を順次成膜する。
次に、ステップS2の洗浄工程で、各窒化物半導体層のうちの最上層としてコンタクト層9の表面上を硫酸または硫酸を含む薬液に浸してコンタクト層9の表面の有機物や酸化物を洗浄して除去する。
続いて、ステップS3の水洗・回転式乾燥工程で、薬液処理したコンタクト層9の表面を水洗いした後に、被乾燥物を回転させながらコンタクト層9の表面を乾燥処理する。
その後、ステップS4の透明電極成膜工程で、乾燥処理後のコンタクト層9の表面上に透光性薄膜電極10を成膜する。さらに、透光性薄膜電極10の一部表面上にp電極11を形成する。
要するに、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1の製造方法は、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に各窒化物半導体層を積層する窒化物半導体積層工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層(コンタクト層9)の表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した窒化物半導体層の最上層(コンタクト層9)上を覆う透明電極膜としての透光性薄膜電極10を積層する透明電極膜成膜工程とを有している。
図3は、硫酸処理温度(摂氏)に対する、窒化物半導体層(コンタクト層9)と透明電極(透光性薄膜電極10)とのコンタクト抵抗のバラツキ関係およびその平均値を示す図である。
図3に示すように、コンタクト層9の表面を硫酸洗浄する硫酸処理温度が高温になるほど、コンタクト層9の表面と透明電極(透光性薄膜電極10)とのコンタクト抵抗の平均値が上昇すると共にそのバラツキ範囲の広がってしまい光取出効率が悪化する。コンタクト抵抗が上昇し過ぎると電極間に所定電圧を印加しても十分な発光が得られなくなるし、コンタクト層9の表面に酸化膜や有機膜が残っていると光透過率が低下して光取出効率が低下する。硫酸処理温度が高いほど酸化膜や有機膜の除去効率が上がる。したがって、有機物除去および酸化物除去などの異物除去とコンタクト抵抗の維持または低下とを両立する洗浄温度条件および洗浄時間条件が必要である。
薬液温度を常温(摂氏20度±摂氏10度)より下げるには薬液を冷やす必要が生じ不都合であるし、薬液温度を常温より更に下げると酸化膜や有機膜の除去効率が低下し過ぎる。薬液温度が常温(摂氏20度±摂氏10度)では、酸化膜や有機膜の除去効率は低いものの、参考値(ref)に比べて窒化物半導体層(コンタクト層9)と透明電極(透光性薄膜電極10)とのコンタクト抵抗値のバラツキ範囲もその平均値も小さく良好である。また、摂氏100度を超えると、酸化膜や有機膜の除去効率は高いが、窒化物半導体層(コンタクト層9)と透明電極(透光性薄膜電極10)とのコンタクト抵抗値のバラツキ範囲もその平均値も急激に増加する。コンタクト抵抗値の上限値を「100」(所定電圧を印加しても十分な発光が得られない基準値)とした場合に、少なくとも硫酸を含む薬液の温度が摂氏100度では平均値「40」であり、これを良否判定の基準値としている。コンタクト抵抗値が平均値「40」であれば、そのバラツキの最大値が「62」であり所定電圧を電極間に印加した場合に十分な発光が得られるし、酸化膜や有機膜の除去効率も良好である。したがって、有機物除去および酸化物除去とコンタクト抵抗の維持とを両立する洗浄温度条件として、少なくとも硫酸を含む薬液温度が室温(摂氏20度±摂氏10度)以上摂氏100度以下とする必要がある。
参考値(ref)の白抜き三角形は、コンタクト抵抗値上限を「100」とした場合の、硫酸洗浄処理をしていないときのコンタクト抵抗の平均値の比率(例えば平均値「30」)を示している。この場合、硫酸洗浄処理をしていないので、コンタクト層9の表面から有機物や酸化物が除去されておらず光透過率が低下して光取出効率が低下する。要するに、光透過率および光取出効率の向上のために有機物や酸化物を除去しかつコンタクト抵抗もバラツキを少なくしてその平均値も低下させる必要がある。
したがって、薬液温度が摂氏100度でのコンタクト抵抗の平均値は参考値(ref)のコンタクト抵抗の平均値よりも高い値を示しているものの、硫酸浸漬処理をしているので、コンタクト層9の表面上から有機物や酸化物が除去されているために光透過率および光取出効率は良好である。このように、光透過率および光取出効率を良好とした状態でコンタクト抵抗の平均値およびそのバラツキ範囲をより小さく抑える必要がある。
さらに、有機物や酸化物が残っていると、コンタクト層9と透光性薄膜電極10の密着性が悪く透光性薄膜電極10がコンタクト層9から浮いて剥がれ易くなる。
また、参考値(ref)のコンタクト抵抗の平均値「30」を増加させないようにすると、硫酸処理温度(薬液温度)は摂氏80度程度になる。
したがって、洗浄工程は薬液の温度(硫酸処理温度)が室温(摂氏20度±摂氏10度)以上摂氏100度以下の温度範囲で行われる。また、好ましくは、有機物や酸化物除去を考慮すれば、薬液の温度が摂氏40度以上摂氏100度以下の温度範囲で行われることが望ましい。さらに好ましくは、コンタクト抵抗を更に交流雄すれば薬液の温度が摂氏40度以上摂氏80度以下の温度範囲で行われることが望ましい。
図4は、硫酸浸液時間(min)に対する、窒化物半導体層と透明電極とのコンタクト抵抗のバラツキ関係を示す図である。
図4に示すように、硫酸浸液時間が20分を超えると、窒化物半導体層(コンタクト層9)と透明電極(透光性薄膜電極10)とのコンタクト抵抗値のバラツキ範囲も急激に増加するし、製造工数も大きくなる。硫酸浸液時間が1分よりも短ければ薬液処理の酸化物や有機物の除去効果が出にくい。硫酸浸液時間が5分あれば薬液処理の酸化物や有機物の除去効果が十分である。製造工数を抑えようとすると硫酸浸液時間が10分あればよい。
したがって、この洗浄工程はその薬液中に被処理物を1分間以上20分間以下の時間範囲で浸して行われる。また、好ましくは、薬液中に被処理物を5分間以上10分間以下の時間範囲で浸して行われることが望ましい。
さらに、洗浄工程において、硫酸を含む薬液は硫酸に過酸化水素水を混合させた洗浄液である。この場合、硫酸単独の場合よりも酸化膜や有機膜の除去効果が大きい。有機物除去性能を維持するべく硫酸の濃度を60wtパーセント以上95wtパーセント以下の濃度範囲内になるように過酸化水素水の補充を行って洗浄工程を実施する。硫酸の濃度を60wtパーセントよりも下回ると、有機物や酸化物の除去性能が大幅に低下することから洗浄時間が増加して製造にかかる時間が大幅に増えてしまう。硫酸の濃度が95wtパーセントを上回るには硫酸の濃度が96wtパーセントの硫酸を用いると、過酸化水素水が殆ど含まれず、略硫酸だけになってしまうために硫酸の濃度を95wtパーセント以下に設定している。
さらに、洗浄方法において、少なくとも硫酸を含む薬液による洗浄処理後に、摂氏40度で10分間、APM(アンモニアと過酸化水素水と水との混合液)または、HPM(塩酸と過酸化水素水と水との混合液)による洗浄処理を行ってもよいし、または、APMとHPMを連続して洗浄処理するようにしてもよい。
これによって、HPMにより窒化物半導体層(コンタクト層9)の表面からパーティクルを除去し、さらにAPMにより窒化物半導体層(コンタクト層9)の表面からPbやCrなどの重金属を除去することができる。
さらに、回転式乾燥工程において、少なくとも硫酸を含む薬液による洗浄処理後の乾燥処理は、摂氏60度〜摂氏70度で5分〜10分間、回転式乾燥処理または不活性ガス(窒素ガス)を含む回転式乾燥処理であることが望ましい。乾燥時に回転させると速くムラなく乾燥させることができ、さらに窒素ガスを吹き付けるとさらに早く乾燥させることができる。なお、有機物のIPAを用いる乾燥方法は有機物が付くので用いないことが望ましい。
以上により、本実施形態1によれば、サファイヤ基板2上に各窒化物半導体層を順次積層する窒化物半導体積層工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層の表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した窒化物半導体層上を覆う透明電極膜を成膜する透明電極膜成膜工程とを有している。
このように、積層した各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)の表面上を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理するため、透明電極の成膜に際して、その下地層の半導体積層膜の表面上の有機物や酸化物をより有効に除去することができる。
また、少なくとも硫酸を含む薬液温度を摂氏100度以下とするため、半導体層と透明電極との間の電気特性(コンタクト抵抗)を損なわず、半導体積層膜の表面上の有機物や酸化物をより有効に除去して光取出効率を向上させることができる。
(実施形態2)
上記実施形態1では、について説明したが、本実施形態2では、について説明する。
図5は、本発明の実施形態2における窒化物半導体発光素子の要部構成例を示す縦断面図である。なお、図5では、図1の構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付して説明する。
図5において、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1Aは、p型コンタクト層9の一部表面上に光取出効率向上のための絶縁膜14が形成され、p型コンタクト層9および絶縁膜14上に、金属蒸着による透明電極の透光性薄膜電極10(ITO)が形成されている点が、上記実施形態1の窒化物半導体発光素子1と異なる点である。p型コンタクト層9上の絶縁膜14は、透光性薄膜電極10の一部上に形成されたp電極11の真下に投影されるp電極11の形状およびサイズに形成されている。要するに、光取出効率向上のための絶縁膜14は、金属電極であるp電極11の真下の位置に形成されているが、p電極11のサイズよりも小さくてもよい。電流経路をp電極11の真下の位置を絶縁膜14により避けるように流すためである。
光が通らないp電極11の真下に位置する絶縁膜14によって、p電極11からの供給電流がp電極11の真下への近いルートを通過せずにチップ周囲からチップ全体に広がって、光が通らないp電極11の真下を避けた発光層の位置で発光するので、発光の外部への取出し効率が良好となる。ところが、p型コンタクト層9の表面上に絶縁膜14を、p電極11の真下の所定形状に形成するためにフォトリソ技術によりマスクを用いてエッチングして形成することから、p型コンタクト層9の表面上にエッチングカス(残渣)として有機物が残る。この有機物をp型コンタクト層9の表面上から完全に除去する必要がある。
上記構成の窒化物半導体発光素子1Aの製造方法について説明する。
本実施形態2の窒化物半導体発光素子1Aの製造方法は、サファイヤ基板2を所定位置に受け入れるサファイヤ基板2の基板受け入れ工程と、サファイヤ基板2の表面に凹凸を形成するサファイヤ表面凹凸加工工程と、MOCVD法により、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に、バッファ層3、ノンドープGaN層4、n型コンタクト層5、多重層6、多重量子井戸構造の発光層7、電子ブロック層8およびp型コンタクト層9をこの順に順次形成する窒化物半導体成膜工程と、コンタクト層9の一部表面上であって、後に形成するp電極11の真下位置に絶縁膜14を形成する絶縁膜形成工程と、p型コンタクト層9および絶縁膜14上を覆うように透光性薄膜電極10を形成する透明電極形成工程と、基板端部をn型コンタクト層5の途中までエッチング除去してn型コンタクト層5の端部を露出させ、n型コンタクト層5の端部表面上にn電極12を形成すると共に、透光性薄膜電極10の一部表面上にp電極11を形成するn電極およびp電極形成工程と、透光性薄膜電極10、p電極11、n電極12およびn型コンタクト層5の露出表面、さらにエッチング除去側面に耐湿度用などに保護層13を形成する保護層形成工程と、p電極11およびn電極12上の保護層13をそれぞれ開口する電極開口部工程とを有している。
ここで、本実施形態2の窒化物半導体発光素子1Aの製造方法における特徴構成としての透明電極形成工程について更に詳細に説明する。
図6は、本実施形態2の透明電極形成工程を含む窒化物半導体発光素子1Aの製造方法を説明するための各製造工程の流れ図である。
図6に示すように、本実施形態2の窒化物半導体発光素子1Aの製造方法は、まず、ステップS1の窒化物半導体成膜工程で、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に各窒化物半導体層を順次成膜する。
次に、ステップS1−1の非注入膜成膜工程で各窒化物半導体層のうちの最上層としてコンタクト層9の表面上に非注入膜として所定形状の絶縁膜14となる酸化膜などの絶縁膜を成膜する。
続いて、ステップS1−2の非注入膜形成工程で、成膜された絶縁膜上に感光性のフォトレジスト膜を成膜する。その成膜したフォトレジスト膜にレクチルからの紫外光を照射してフォトレジスト膜を、p電極11の真下の位置の所定形状にパターニングする。このパターニングしたフォトレジスト膜をマスクとしてその絶縁膜をエッチングにより酸化膜などの所定形状の絶縁膜14をコンタクト層9の表面上の一部に形成する。このときにエッチング残渣として有機物がコンタクト層9の表面上に付着する。
その後、ステップS2の洗浄工程で、各窒化物半導体層のうちの最上層としてコンタクト層9および絶縁膜14の表面上を硫酸または硫酸を含む薬液に浸してコンタクト層9および絶縁膜14の各表面の有機物や酸化物を除去するように薬液洗浄処理する。
次に、ステップS3の水洗・回転式乾燥工程で、薬液洗浄処理したコンタクト層9および絶縁膜14の各表面を水洗いした後に、被乾燥物を回転させながらコンタクト層9および絶縁膜14の各表面を乾燥処理する。
さらに、ステップS4の透明電極成膜工程で、乾燥洗浄処理後のコンタクト層9および絶縁膜14の各表面上に透光性薄膜電極10を成膜する。さらに、透光性薄膜電極10の一部表面上にp電極11を形成する。
要するに、本実施形態1の窒化物半導体発光素子1の製造方法は、サファイヤ基板2の表面凹凸加工面上に各窒化物半導体層を積層する窒化物半導体積層工程と、各窒化物半導体層の最上層(コンタクト層9)の表面上のp電極11の形成位置の真下に対応する位置に絶縁膜14を形成する絶縁膜形成工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層(コンタクト層9)および絶縁膜14の各表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した窒化物半導体層の最上層(コンタクト層9)および絶縁膜14上を覆うように透明電極膜としての透光性薄膜電極10を積層する透明電極膜成膜工程とを有している。
本実施形態2の場合も、上記実施形態1の場合と同様、光透過率を良好とした状態でコンタクト抵抗の平均値およびそのバラツキ範囲を小さく抑える必要がある。洗浄工程は薬液の温度(硫酸処理温度)が室温(摂氏20度±摂氏10度)以上摂氏100度以下の温度範囲で行われる。また、好ましくは、薬液の温度が摂氏40度以上摂氏100度以下の温度範囲で行われることが望ましい。さらに好ましくは、薬液の温度が摂氏40度以上摂氏80度以下の温度範囲で行われることが望ましい。
また、この洗浄工程はその薬液中に被処理物を1分間以上20分間以下の時間範囲で浸して行われる。また、好ましくは、薬液中に被処理物を5分間以上10分間以下の時間範囲で浸して行われることが望ましい。
さらに、この場も、上記実施形態1の場合と同様、洗浄工程において、硫酸を含む薬液は硫酸に過酸化水素水を混合させた洗浄液を用いる。硫酸単独の場合よりも過酸化水素水を混合した方が酸化膜や有機膜の除去効果が大きい。有機物除去性能を維持するべく硫酸の濃度を60wtパーセント以上95wtパーセント以下の濃度範囲内になるように過酸化水素水の補充を行って洗浄工程を実施すればよい。
さらに、洗浄方法において、少なくとも硫酸を含む薬液による洗浄処理後に、摂氏40度で10分間、APM(アンモニアと過酸化水素水と水との混合液)または、HPM(塩酸と過酸化水素水と水との混合液)による洗浄処理を行ってもよいし、または、APMとHPMを連続して洗浄処理するようにしてもよい。
さらに、回転式乾燥工程においても、少なくとも硫酸を含む薬液による洗浄処理後の乾燥処理は、摂氏60度〜摂氏70度で5分〜10分間、回転式乾燥処理または不活性ガス(窒素ガス)を含む回転式乾燥処理であることが望ましい。乾燥時に回転させると速くムラなく乾燥させることができ、さらに窒素ガスを吹き付けるとさらに早く乾燥させることができる。
以上により、本実施形態2によれば、サファイヤ基板2上に各窒化物半導体層を順次積層する窒化物半導体積層工程と、各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)の一部表面上の金属電極形成位置の真下に対応する位置に絶縁膜14を形成する絶縁膜形成工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)および絶縁膜14の表面上を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した窒化物半導体層(p型コンタクト層9)および絶縁膜14上を覆うように透明電極膜(透光性薄膜電極10)を成膜する透明電極膜成膜工程とを有している。
このように、積層した各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)および絶縁膜14の表面上を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理するため、積層した各半導体層の最上層の表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理するため、透明電極の成膜に際して、その下地層の半導体積層膜の表面上の有機物や酸化物をより有効に除去することができる。また、少なくとも硫酸を含む薬液温度を摂氏100度以下とするため、半導体層と透明電極との間の電気特性(コンタクト抵抗)を損なわず、半導体積層膜の表面上の有機物や酸化物をより有効に除去して光取出効率を向上させることができる。
なお、上記実施形態1では、サファイヤ基板2上に各窒化物半導体層を順次積層する窒化物半導体積層工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層の表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した窒化物半導体層上を覆う透明電極膜(透光性薄膜電極10)を成膜する透明電極膜成膜工程とを有している。本実施形態2では、窒化物半導体積層工程と透明電極膜成膜工程との間に、各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)の一部表面上の金属電極形成位置の真下に対応する位置に絶縁膜14を形成する絶縁膜形成工程と、積層した各窒化物半導体層の最上層(p型コンタクト層9)および絶縁膜14の表面上を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程とを有している。これらの場合の窒化物半導体層に限らずその他の種類の半導体層にも本発明を適用することができる。また、サファイヤ基板2に限らずその他の種類の基板にも本発明を適用することができる。
したがって、本発明の半導体発光素子の製造方法は、基板上に各半導体層を順次積層する半導体積層工程と、積層した各半導体層の最上層の表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理した半導体層上を覆う透明電極膜を成膜する透明電極膜成膜工程とを有している。また、本発明の半導体発光素子の製造方法は、半導体積層工程後の各半導体層の最上層の一部表面上に光取出効率向上のための絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を更に有し、洗浄工程は、各半導体層の最上層および絶縁膜の各表面を少なくとも硫酸を含む薬液で洗浄処理するものである。これによって、窒化物積層膜と透明電極との間の電気特性(コンタクト抵抗)を損なわず、窒化物積層膜表面上の有機物や酸化物をより有効に除去して光取出効率を向上させることができる本発明の目的を達成することができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態1、2を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1、2に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1、2の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。