一般に、この種のシリコーン組成物は、電子部品等に良く使用されるエポキシ樹脂やエポキシ系モールド樹脂の場合、密着性に優れ使い勝手が良いものの、内部の炭素−炭素結合が切れて炭化してしまうため、耐熱性が高いとはいえず、連続使用では155℃程度の耐熱性に過ぎない。また、イミド結合を使用したポリイミド樹脂であっても、連続使用での耐熱性は200℃程度に過ぎない。
これに対し、シロキサン結合を利用したシリコーンゴムは、一般的にエポキシやポリイミドよりも耐熱性が高いが、側鎖の官能基の種類によっては、高温環境での使用で炭化するため、使いにくい。
また、シリコーンゴムの多くは、内部に未反応成分が残りやすく、高温での長時間使用で硬化が進行することから柔軟性が無くなってしまったり、未反応成分が炭化して変色したりして使用しにくい。さらに、シリコーン硬化物の中から未反応の低分子のシロキサン化合物が揮発して周囲に飛散し汚染し、使用中に強い臭気を生じさせたり、電気接点を絶縁させてしまったりする不具合があった。
また、耐熱性が要求される用途においては、長期間に亘って高温状態のみとされるのではなく、常温またはそれ以下の温度への低下もあるため、セラミックス、金属、その他材料と、保護する樹脂と材料との間の熱膨張の差が生じやすく、膨張係数の差によって割れや剥離が生じてしまうおそれがあり、この膨張係数の差を吸収する必要があった。
従来、この種の電子部品や、高温使用下の半導体封止材料である耐熱性樹脂材料として、シリコーンゴムが用いられており、このシリコーンゴムの中でも特に耐熱性が要求される用途においては、シリコーン系の有機−無機ハイブリッド樹脂が用いられている。
<特許文献1>
そして、この種の有機−無機ハイブリット材料の従来技術が、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された有機・無機ハイブリット材料は、末端シラノール型のポリジメチルシロキサンのような有機ケイ素化合物の溶液に金属アルコキシドを反応させてゾル液を調製し、このゾル液を加熱処理して製造されている。さらに、この特許文献1においては、両末端または片末端に金属アルコキシドと反応可能な官能基を有する有機ケイ素化合物溶液を加熱処理して水分および低分子量成分を除去し、加熱処理した有機ケイ素化合物溶液に金属アルコキシドを滴下して有機・無機ハイブリットゾル液を調製し、このゾル液を加熱ゲル化させて有機・無機ハイブリットが製造されている。
ここで、この特許文献1に開示された有機・無機ハイブリットは、末端がシラノール化されている有機化合物と金属アルコキシドとの反応によってシリコーンが架橋されているハイブリットゾルであって、柔軟な素材が得られるものの、200℃での耐熱性が0.5時間、または300℃での耐熱性が0.2時間等、比較的短時間で樹脂の硬度上昇による劣化がないという意味の「耐熱性」を有するに過ぎず、実用上充分な「耐熱性」を有していない。
<特許文献2>
さらに、特許文献2に開示された有機−無機ハイブリッド材料では、無機骨格成分としてオルガノシリコンアルコキシドの重合体およびチタンアルコキシドを、有機骨格成分として末端シラノール型ジアルキルシロキサンを、柔軟成分としてシリコーンゴムパウダーおよびシリコーンオイルを使用した組成物である。特に、この特許文献2においては、無機骨格成分の反応性が高すぎることから架橋点が密となって硬化物硬度が上昇してしまう。そして、この特許文献2においては、この硬化物硬度の上昇対策として、柔軟成分を混合させて柔軟性を備えさせているものの、この柔軟成分は架橋に寄与しないものであるため、高温暴露時の重量減少に対して有効に機能していない。
<特許文献3>
また、特許文献3に開示された有機・無機ハイブリッド組成物では、高反応性金属アルコキシドBを低反応性の金属アルコキシドAに添加した金属アルコキシド混合物と、ポリオルガノシロキサンとを加水分解触媒を使用することなく加水分解した後、反応促進剤を用いることなく縮合反応させて得られている。しかしながら、この特許文献3に開示された有機・無機ハイブリッド組成物においては、耐熱性の評価が200℃で60時間加熱した場合の高温暴露処理前後の外観、光透過率、および引っ張り強度の評価に留まっている。
<特許文献4>
さらに、特許文献4に開示されたハイブリッド組成物は、シリケート化合物と、末端をシリケート変性したポリジメチルシロキサンとを有する混合物を、加水分解反応および縮合反応によって得られており、低分子シロキサンを含まない製造方法が記載されている。しかしながら、この特許文献4に記載の製造方法で得られたハイブリッド組成物については、250℃以上の高温下に曝された場合に、硬化体から発生する低分子量の評価がなされていない。
<特許文献5>
また、特許文献5に開示された有機−無機ハイブリッド材料は、ポリジメチルシロキサンと、金属および/または半金属アルコキシドと、脱水重縮合反応によって製造されるものであって、これらポリジメチルシロキサン、金属および/または半金属アルコキシドの一部または全部にフェニル基を導入させており、高温下での長期保管(250℃−1000時間)においてゴム硬度70以下を維持し、重量減少6%以下の高温長期耐久性を有した構成とされている。
本発明に係るシリコーン組成物は、いわゆる有機−無機ハイブリッドシリコーンゴムであって、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や、電気自動車(EV)等のように大電力を扱うモータの制御回路を構成する抵抗器中に用いられる。すなわち、このシリコーン組成物は、大電力への対応すなわち高発熱への対応が可能な高耐熱用途で使用可能な保護膜用のシリコーン系樹脂である。
このシリコーン組成物は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の末端水酸基を、シリコンアルコキシドで変性した図1に示すシリコンアルコキシド変性ポリジメチルシロキサン(原料液A)と、末端をアセト酢酸エチル(以下、EAcAcという。)で修飾したチタンアルコキシド(アルコキシ基の炭素数が4以上)を用いて、ポリジメチルシロキサンの末端を変性した図2に示すアセト酢酸エチル修飾チタンアルコキシド変性ポリジメチルシロキサン(原料液B)とを主骨格材料としている。そして、このシリコーン組成物は、これら主骨格材料を用いて加熱硬化にて架橋させる。具体的には、原料液Aのシリコンアルコキシドが空気中の水分により加水分解されて生成された水酸基と、原料液Bのアセト酢酸エチル修飾チタンアルコキシドとの間で反応が起こり架橋構造が形成される。この架橋構造体は、耐熱性および柔軟性に優れた有機−無機ハイブリッド型シリコーンゴム硬化物となっている。
しかし、チタンアルコキシドは、一般に反応性が高く取り扱いが難しい。そこで、架橋反応する官能基としてのチタンアルコキシドを、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の片末端、または両末端に反応させ、かつポリジメチルシロキサン(PDMS)の分子量を適合させて、シリコーン組成物の全体に占める架橋官能基のバランス調整を行うことによって、このシリコーン組成物に網目構造を形成し、柔軟性と耐熱性とを併せ持つシリコーン組成物を形成できる。また、架橋反応する官能基をEAcAcで修飾することによって、反応前組成物の反応性を保持したままの状態で、熱安定性を向上でき、反応前組成物の取り扱い性を向上できる。
βジケトン構造を持つ材料として、EAcAcにてキレート化したチタンアルコキシドを用いたことにより、EAcAc配位の脱離が、約250℃程度では生じにくい。このため、EAcAcでキレート配位したチタンアルコキシドを末端に有するポリジメチルシロキサンにおいても、同様の温度でEAcAcの最終的な脱離が生じると想定される。具体的に、EAcAcでキレート配位したチタンアルコキシド末端PDMSにおいては、約250℃以上の温度で硬化反応が起こり、実際には約250℃〜400℃の温度範囲でキレート脱離が起こるといわれている。
シリコンアルコキシド末端PDMS(原料液A)において、末端を部分的にEAcAcで修飾した場合、PDMS末端のβジケトンが修飾していないシリコンアルコキシドは、大気にさらされることで加熱時に加水分解によって部分的に水酸基となっていると推測される。この末端にβジケトンが修飾したシリコンアルコキシドと水酸基を持つPDMS(原料液A)とEAcAcで修飾したチタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)を混合し、250℃に近い温度での加熱処理を行うと、シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)の活性な水酸基がβジケトンで修飾されたシリコンアルコキシドよりも安定性の低い、EAcAcで修飾されたチタンアルコキシドと反応して、βジケトンが脱離して、原料液AのPDMSと原料液BのPDMSの分子間に架橋構造が形成されることで硬化し、熱に対して安定な構造となりうる。このとき硬化したシリコーン組成物中に多数残留するアルコキシドに配位しているEAcAcは、400℃に近い温度まで脱離が生じず、重縮合反応を抑制できるため、熱に対する安定性を確保できる。
本発明において、原料液Aの末端部へ導入するシリコンアルコキシドはTEOSではなくTEOSの重縮合体であるエチルシリケートを用いている。初めからアルコキシ基が少ないと架橋に必要な反応基が少なくなり、ゲル化が進まない。反応基の多いシリケートの一部をβジケトンで修飾することにより反応基の数をコントロールし、反応性を調整することができる。
βジケトンで修飾したチタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)においては、基本的に末端部分のチタンアルコキシドの全ての官能基をキレート化することが望ましい。チタンアルコキシドは、反応性が高いため、キレート化されない官能基がある場合においては、室温に近い温度で加水分解反応および脱アルコール反応を起こすため、原料液の保存安定性の低下が問題となる。
全ての官能基にキレート配位させたチタンアルコキシドをPDMSの末端部へ導入した構造のPDMSの合成過程では、チタンアルコキシドの反応性の高さが問題となる。チタンアルコキシドとPDMS末端の水酸基との間の脱アルコール反応によって、PDMS末端にチタンアルコキシドを導入するが、チタンアルコキシドにあらかじめ部分的にキレートによる安定化処理を施さない場合、アルコキシド同士が共重合を起こしやすく、PDMS末端への導入は困難となる。末端官能基の3つのアルコキシドをキレート化した場合にはチタンアルコキシキレートが会合体を形成してしまい、PDMSとの間の反応性は低下してしまう。1つのアルコキシドをキレート化した場合ではPDMSに導入後の反応性が高すぎてしまうため、本技術では複数有るチタンアルコキシドのうち、あらかじめ2つアルコキシドをキレート化しているチタンアルコキシキレートを用いる。
チタンアルコキシドの反応性を抑制するためにあらかじめ部分的に修飾(キレート化)したチタンアルコキシド(チタンアルコキシキレート)とPDMSを混合処理するには、相溶性を高めるために溶媒による希釈によって、PDMSの粘度を下げる必要がある。さらに、PDMS末端水酸基に導入されたチタンアルコキシドには反応性を持つ官能基が残存するので、βジケトン類を添加してPDMS末端のアルコキシドを完全にキレート化する必要がある。アルコール等を溶媒として用いた場合には、チタンアルコキシド(チタンアルコキシキレート)、PDMS、およびβジケトンを混合すると、PDMSとチタンアルコシキレートとの反応によるアルコキシキレート変性PDMSの生成に続いて、直ちにアルコキシキレート間の重合反応が起こり、PDMSの高分子化が進むため、全ての官能基にキレート配位させたチタンアルコキシドでPDMSの末端部を変性した構造のPDMSの合成は困難となる。
そこで、本技術では、溶媒成分としてβジケトンを用いる。キレート剤と溶媒として同じβジケトン類を用いることで、PDMSに組み込まれたチタンアルコキシキレートの架橋剤としての反応を抑制し、PDMS分子との架橋反応を適度に調整することが可能となる。結果として、βジケトン類がチタンアルコキシドのモル数に対して過剰となる。
ここで、耐熱性があり「熱に安定である」ということは、シリコーン組成物から抜けていく成分が少なく重量減少が少ないということと、熱により硬化反応が進行しないという2つの点が考えられる。
一般的なシリコーン組成物から高温で抜けていく成分としては、PDMSの熱分解に伴う環状シロキサンの生成が挙げられる。シリコーン組成物における熱分解は、主に解重合(Unzipping)メカニズム、およびランダム分解(random scission)メカニズムにより進行する。解重合によれば、未架橋のPDMS主鎖末端部から、低分子環状シロキサンが脱離していく。解重合は末端にSi−OHあるいはSi−R−OHなどの末端基がある場合に発生しやすいので、解重合を抑制するには、シリコーン組成物中にPDMS末端反応基の残留を少なくすればよい。ランダム分解は、高温でPDMS分子内あるいはPDMS分子間でシロキサン結合の再配列がランダムに発生することによっておこる。この場合、低分子の環状シロキサンおよび線状シロキサンが生成される。架橋構造の形成によりPDMS分子の自由度を抑制することで、ランダム重合の抑制が可能となる。
以上のように、熱分解を抑制するためには、キレート化による安定化処理等の手法により、シリコーン組成物中においてPDMS末端の反応基の残留を少なくするとともに、しっかりとした架橋構造を形成することが必要である。
シリコーン組成物中に未反応基が残留する場合に、常温で長期保管するときは、未反応基同士が反応することによって架橋反応が進行する。さらに高温に保管するときは、未反応基同士の反応による架橋反応は急速に進み、短時間でシリコーン組成物の硬度上昇が起こりやすくなる。これらの架橋反応を抑制するには、まずシリコーン組成物中に残留する反応基をなくすこと、あるいは、残留する反応基の間隔を十分に離すことが必要となる。キレート安定化処理では、PDMS末端部分の金属アルコキシドの反応基数を減らすことができ、キレート分子が嵩高いため、反応基の間隔を大きくできることが期待される。
シリコーン組成物中に原料液Aが過剰にある場合、原料液Aの末端の過剰なシリコンアルコキシドがシリコーン組成物中に残存するため、シリコーン組成物を高温に曝した場合(原料液Bが過剰にある場合と同様に)、PDMS末端部分では、βジケトンで未修飾のシリコンアルコキシドが大気中の水との反応等によって水酸基を多く形成する可能性がある。水酸基は反応基として働き、原料液Aのアルコキシドや水酸基、原料液BのEAcAc修飾チタンアルコキシドとの間の架橋反応や原料液Aの熱分解反応の起点となる。このため、シリコーン組成物を形成する際に原料液Aが過剰な場合、シリコーン組成物の耐熱性が低下すると推測される。(補足コメント:結果からは硬度上昇が著しく、架橋反応が進みやすくなると考えられる)
一方、シリコーン組成物を形成する際に原料液Bが過剰な場合、EAcAcで修飾されたチタンアルコキシドが、硬化体中に多く残存することになる。このEAcAc修飾したチタンアルコキシドは、短時間であれば熱的に安定であるが、長時間にわたって高温に曝される場合、PDMS末端部分では、大気中の水との反応等によってEAcAcは脱離し、水酸基に置換される可能性がある。水酸基は、反応基として働き、原料液Aのアルコキシドや水酸基、原料液BのEAcAc修飾チタンアルコキシドとの間の架橋反応や原料液Bの熱分解反応の起点となる。このため、シリコーン組成物を形成する際に原料液Bが過剰な場合、シリコーン組成物の耐熱性が低下すると推測される。(補足コメント:結果からは、硬度上昇は緩やかで重量減少が大きくなる傾向があり、熱分解反応が進みやすくなった
と考えられる)
シリコーン組成物中にβジケトン修飾シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)とEAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)を適切な割合で混合することによって、βジケトンで一部修飾されたシリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)のβジケトン未修飾のシリコンアルコキシドから発生した活性な水酸基がβジケトンで修飾されたシリコンアルコキシドよりも安定性の低いEAcAcで修飾されたチタンアルコキシドと反応して架橋構造を形成することで、熱に対して、より安定な構造をとることができると考えられる。
以上から、本発明に係るシリコーン組成物は、高温に保持しても重量変化が少なく、柔軟性を失わないために高温に連続的に曝される環境下で使用できる。さらに、このシリコーン組成物は、適度な粘性を有しており、ペースト状にするためのベース樹脂として使用できるとともに、必要に応じフィラーを配合したペーストとすることによってスクリーン印刷用としても使用できる。また、このシリコーン組成物は、架橋反応する官能基をβジケトンで修飾しているため、常温での保存安定性にも優れており、取り扱い性を向上できる。よって、このシリコーン組成物は、高耐熱かつ柔軟で高温になる対象物の保護に適している。
さらに、このシリコーン組成物は、内部に無機の鎖と有機の鎖とを併せ持つ構造であるため、発熱量が多い部分の保護や、発熱量が多い部品を保護する保護樹脂において、高温に長期に曝されても硬度の上昇や炭化等のような変質が無く、成分の揮発による重量減少および密着力の低下が無く、また温度サイクルがあっても基体との間の剥離を無くすことができる。
なお、上述したチタンアルコキシドとしては、アルコキシ基の炭素数が4以上のものが好ましい。具体的に、このチタンアルコキシドとしては、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラキス(1-メチルプロポキシド)、チタンテトラキス(2-メチルプロポキシド)、チタンテトラキス(2,2-ジメチルエトキシド)、チタンテトラノルマルペントキシド、チタンテトラノルマルヘキソキシド、チタンテトラノルマルヘプトキシド、チタンテトラノルマルオクトキシド、チタンテトラキス(2-エチルヘキソキシド)、チタンテトラノルマルステアロキシド、チタンテトラキス(2-エチル,3-ヒドロキシルヘキソキシド)、チタンビス(アセチルアセトナート)ジ(プロポキシド)、チタンビス(8-ヒドロキシオクトキシド)ジブトキシド、チタンビス(ラクテート)ジ(プロポキシド)、チタンビス(トリエタノールアミナート)ジ(プロポキシド)、チタンビス(トリエタノールアミナート)ジ(ブトキシド)、チタンモノステアレートトリ(ノルマルブトキシド)、チタントリステアレートモノ(イソプロポキシド)、チタントリス(ドデシルベンゼンスルホニル)モノ(イソプロポキシド)、チタントリス(ジオクチルピロホスフェート)モノ(イソプロポキシド)、チタンビス(ジオクチルホスファイト)テトラ(イソプロポキシド)、チタンビス(ジトリデシルホスファイト)テトラ(オクトキシド)、チタンジ(ジ-トリデシル)テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブトキシド)などを使用することができる。
さらに、上述したチタンアルコキシドにおいては、好ましくは、テトラ−i−プロポキシチタン「Ti(O−i−C3H7)4」、テトラ−n−プロポキシチタン「Ti(O−n−C3H7)4」、チタンメチルトリプロポキシド、テトラ−1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシチタン「Ti[OC(CH3)2−CH2OCH3]4」、テトラ−n−ブトキシチタン「Ti(O−n−C4H9)4」、テトラ−i−ブトキシチタン「Ti(O−i−C4H9)4」、テトラ−sec−ブトキシチタン「Ti(O−sec−C4H9)4」、チタンテトラヘキソキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンテトラオクトキシドなどが挙げられる。
また、チタンアルコキシドに含まれるアルコキシ基の炭素数が大き過ぎると、脱アルコール反応に対する反応性が不十分となることがあり、アルコキシ基の炭素数が小さ過ぎると、反応性が高くなって反応制御が難しくなることがあるため、チタンアルコキシドに含まれるアルコキシ基の炭素数としては、4以上8以下、すなわちチタンテトラプロポキシド、またはチタンテトラ−2−エチルヘキソキシドが特に好ましい。
次に、本発明の実施例1として、シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)と、EAcAc修飾チタンアルコキシド末端変性PDMS(原料液B)とを原料としたシリコーン組成物の作製方法について説明する。
まず、窒素ガス製造装置(株式会社ジャパンユニックス製 UNX−200)にて製造した窒素ガスを、容量300mlのセパラブルフラスコであるガラス製反応容器に充満させる。次いで、このガラス製反応容器に、両末端水酸基変性ポリジメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 YF3057 平均分子量38000相当 以後「PDMS」と表記する。)と、シリコンアルコキシドとして分子量750〜1000のエチルシリケート(多摩化学工業株式会社製 エチルシリケート40、またはエチルシリケート45)とを、モル比1:2の割合で順に入れる。
さらに、このガラス製反応容器内に乾燥窒素ガスを流入させた状態でプロペラ付きの攪拌棒にて攪拌を行い、ホットプレートで140℃まで加熱して30分攪拌した。この後、反応促進のために、PDMSに対して0.003モル相当量のテトラ(2−エチルヘキシル)チタネート(マツモトファインケミカル株式会社製)をガラス製反応容器内に滴下し、140℃の温度を保持した状態で攪拌した。さらに、このガラス製反応容器内の反応溶液を分取して、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置(東ソー株式会社製 800系システム)にて分子量分布を測定し、エチルシリケートに相当するピークが消失するまで攪拌を続けた。この後、この反応溶液の液温を室温まで冷却して、シリコンアルコキシド末端PDMS(原料液A 分子量41000)を得た。
まず、PDMSの片末端相当の量がチタンアルコキシドにて変性されるように、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド(マツモトファインケミカル製 以後「TA」と表記する。)1モルに対し、アセト酢酸エチル(関東化学株式会社製)2モル相当を、窒素雰囲気下で蓋付きガラス容器内に封入した後、マグネチックスターラーにて室温で24時間攪拌して、EAcAc配位したTA原料液を得た。次いで、窒素ガス製造装置(株式会社ジャパンユニックス製 UNX−200)にて製造した窒素ガスを充満させた容量300mlのセパラブルフラスコであるガラス製反応容器に、両末端水酸基変性PDMS(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 YF3057 平均分子量38000相当)と、EAcAc配位したTA原料液と、過剰のアセト酢酸エチルEAcAcとをモル比1:1:70の割合で投入した。
この後、このガラス製反応容器内の溶液を、プロペラ付の攪拌棒にて攪拌しながら、ホットプレートで反応液を80℃まで加熱し、30分攪拌した後、このガラス製反応容器内の反応液を180℃まで加熱して180℃で1時間攪拌しながら反応させることにより、部分的にEAcAcが配位したTAが、未配位部分のアルコキシ基とPDMS末端の水酸基との間で脱エタノール反応を起こして重合する。そして、この重合反応と同時に過剰のアセト酢酸エチルによるキレート配位がTAに残る未配位部分に対して行われる。この後、この反応液を一時的に室温まで冷却した後、100ccのテフロン(登録商標)製シャーレへ移し、200℃で4時間加熱処理した後、250℃で2時間加熱処理し、チタンアルコキシドで変性したPDMSに結合していない未反応のアセト酢酸エチルの除去を行い、EAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B 分子量40000相当)を得た。以下、PDMS:TA:EAcAc=1:1:70のモル比で合成された原材液Bを「T1E70」と表記する。
まず、1モル量の原料液Aに対し、12モル量のEAcAcを加え、コンディショニングミキサー(製品名:泡取り練太郎AR100 株式会社シンキー製)にて5分間混合して原料液A12を得た。以降、1モル量のシリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)に対してnモルのEAcAcを混合した原料液を「An」と表記する。この後、1モル量の原料液A1と、1〜10モル量の原料液Bとを容量30mlの軟膏容器に入れ、コンディショニングミキサーにて10分間混合して組成物原料液を得た後、耐熱性評価用試料を作製した。
この耐熱性評価用試料は、アルミニウム製のカップ内に硬化後の厚さが100μmとなるように各原料液を入れ、常温から250℃までゆっくりと昇温した状態で、2時間に亘って加熱処理した。この結果、得られたシリコーン組成物は、250℃の加熱処理で収縮変化が無く、剥離が発生しなかった。
ここで、得られたシリコーン組成物を250℃で保管した時の重量減少率の測定について説明する。この測定は、耐熱性評価用試料を対流式高温槽内で250℃の環境下で保管し、500時間まで一定時間毎に電子天秤(株式会社島津製作所製 TX223L)にて測定し、元の重量に対する重量減少率[重量減少率=(試料初期重量−試料重量)/試料初期重量×100]を測定した。
またここで、得られたシリコーン組成物を250℃で保管した時の硬度変化の測定について説明する。この測定は、耐熱性評価用試料を対流式高温槽内にて250℃の環境下で保管し、500時間まで一定時間毎に硬度をJIS K 7312,SRIS0101規格に準拠のゴム硬度計(高分子計器株式会社製 ASKER C型ゴム・プラスチック硬度計 以後、「アスカー」と表記する。)にて測定した。
各耐熱性評価用試料の250℃保管時の亀裂・剥離の有無、500時間保管後の硬度および重量減少割合を表1に示す。この表1においては、比較例として原料液A(A12)のみを原料とした試料、および原料液B(T1E70)のみを原料とした試料のそれぞれの測定結果についても示されている。
以上の結果、水酸基末端PDMS(オイル)は、250℃で保管すると数時間後に硬化し、その後24時間以内に亀裂が生じた。このオイルに亀裂が生じる前の硬度は、80以上でガラス化が進んでいた。また、亀裂の発生後においても250℃での保管を続け、500時間経過した後の重量を確認したところ、45%の重量減少があり、重量減少が非常に大きくなっていた。そして、この重量減少の理由は、環状シロキサンの生成にて揮発発生することによるものと考えられる。
一方、シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)のみを原料とした場合は、水酸基末端PDMSよりも硬度が低く、250℃で500時間保管した後の重量減少率が10.5%とわずかであったが、48時間経過後に亀裂が入り、長期耐熱性は充分ではなかった。
さらに、EAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)を原料とした場合は、1000時間後も亀裂が生じず、500時間経過後の硬度が16と低硬度であるものの、重量減少率が16%と大きく、この点で長期耐熱性が充分でない。
これに対し、シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)と、EAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)とを原料とした場合は、250℃で1000時間経過した後も亀裂が生じず、60程度の低硬度を保ち、重量減少率も2.7%と非常に耐熱性が高いシリコーン組成物であった。
なお、本実施例1で示したシリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)と、EAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)を原料とするシリコーン組成物は、原料液Aに対してEAcAcを添加した場合について示したが、EAcAcの添加量を変えても既存の材料に対して優れた長期耐熱性を有する材料となる。
原料液AへのEAcAcの添加量をパラメータとして作製した本発明に係るシリコーン組成物の長期耐熱性について説明する。
まず、上記実施例1と同様の作製方法を用い、EAcAcの添加量をパラメータとした原料液Anと原料液Bとからなるシリコーン組成物を作製する。ここで、原料液Aは、1モルの原料液Aに対して0,12,22モルのEAcAcを添加した原料液(以降、原料液A0、A12、A22と表記する。)を用いた。原料液Bは、上記実施例1と同様に、T1E70(PDMS:TA:EAcAc=1:1:70のモル比で合成した材料)を用いた。原料液An(n=0,12,22)と、原料液Bとを、x:yに混合して作製したシリコーン組成物をAn(n=0,12,22):B=x:y硬化体と表記する。
ここで、原料液B(T1E70)に対して、A0、A12、A22液をモル比1:1の割合で混合して得られるシリコーン組成物の250℃保管時の重量減少および硬度の変化を図3および図4に示す。図3においては、各試験片を、250℃に保持された恒温槽に入れてからの経過時間と硬度との関係を示している(縦軸:硬度、横軸:保管時間[Hours])。また、図4においては、各試験片を、250℃に保持された恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少率との関係を示す(縦軸:重量減少率[%]、横軸:保管時間[Hours])。
以上により、EAcAcの添加量を変更させたところ、いずれの場合においても重量減少率が8%以下となり良好な結果を得ることができ、EAcAcを12モル添加した場合が適量な場合といえる。また、原料液AへのEAcAcの添加量の違いによる250℃保管時の硬度の変化はわずかであるが、適量のEAcAcを添加することによって、最も低い硬度となり、低硬度を維持できることが分った。さらに、EAcAcの適量添加による耐熱性の向上は、原料液Aの反応基の数を減少させて原料液Aの反応性を抑制させ原料液A成分の凝集を抑制することによって、原料液Aと原料液Bとの一様な分散構造に基づくものと推測される。すなわち、EAcAcの添加量を増加させ過ぎても、原料液Aと原料液Bとの反応のバランスが崩れ、一様なシリコーン組成物を得る効果が低下するものと考えられる。
チタンアルコキシドTA(チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド)とEAcAcの反応比の異なる条件で作製した原料液Bを準備し、これらを上記実施例1の条件で硬化させて硬化体を得た。これら硬化体を250℃長期保管して重量変化を測定したところ、EAcAc/TA比が大きいほど、重量変化は小さくなった。その場合の重量変化を、図5に示す。
さらに、EAcAc/TAの反応比の異なる条件で作製した原料液Bにおいて、EAcAc/TAの反応比と、500時間後及び900時間後の重量減少をプロットすると、図6となった。この図6においては、プロットの傾きから、モル比70付近で重量変化の度合いが変化していることがわかる。
またさらに、図7にTAとEAcAcの反応比の異なる条件で作製した原料液Bからなる硬化体の250℃1000時間後の硬度を示す。モル比8以下の条件で作製した原料液から作製される硬化体は、250℃600時間以内に亀裂が入り破壊に至った。モル比35以上の原料液から作製される硬化体は、1000時間経過しても破壊に至らなかった。硬度のプロットに関しても、傾きの変化がモル比70付近にあるように見える。これらのことから、EAcAc/TA=70以上のとき、硬化体の耐熱性向上効果が現れているといえる。
次に、上記実施例1と同様の作製方法で、原料液Aと原料液Bとの混合比をパラメータとして作製したシリコーン組成物の長期耐熱性について説明する。この場合に、原料液Aは、1モルの原料液Aに対して12モルのEAcAcを添加した原料液(A12液)を用いた。原料液Bは、上記実施例1と同様に、T1E70(PDMS:TA:EAcAc=1:1:70のモル比で合成した材料)を用いた。なお、A12液と原料液Bとをx:yの比で混合して作製したシリコーン組成物をA12:T1E70=x:yと表記する。
ここで、A12液に対して異なるモル比の原料液B(T1E70)を混合して得られたシリコーン組成物の250℃保管時の硬度変化と硬度と重量の変化を図8および図9に示す。これら図8および図9では、各試験片を、250℃に保持された恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少率との関係を示している(縦軸:重量減少率[%]、横軸:保管時間[Hours])。
以上により、いずれの試料片においても、250℃で1000時間保管した場合に亀裂または剥離が生じなかった。また、原料液Bに対する原料液Aの割合を増加させるに従って硬度が上昇し、250℃保管時の重量減少が減少した。特に、A12:T1E70=1:3、または1:1のシリコーン組成物においては、250℃で1000時間保管した後の重量減少が5%未満となり、かつ硬度60未満の低硬度で耐熱性の高いシリコーン組成物を得ることができた。一方、例えばA12:T1E70=2:1、3:1のとき、すなわちA12/T1E70を1以上とした場合は、250℃で100時間保管した程度で亀裂が生じた。よって、これらの結果から、長期耐熱性の面においては、原料液Aと原料液Bとの混合比の範囲は、A12:T1E70=1:1〜1:4程度が望ましいと考えられる。
原料液Aに対する原料液Bのモル比を増加させていくと、硬度は低下し、250℃保管時の重量減少は増加していく。原料液Aに対する原料液Bのモル比の違いにより250℃保管500時間経過時の硬度、および重量減少率を図8および図9に示した。250℃1000時間保管後の時点で、硬化体にひび割れ、容器との剥離が生じず、重量減少が7%以下に留まるための混合比の範囲は、原料液Aと原料液Bとの混合比の範囲は、A12:T1E70=1:1から1:10程度である。硬度の低下と重量減少の増大はトレードオフの関係にあり、低硬度かつ重量変化が小さいためには、A12:T1E70=1:1〜1:4程度がより望ましいと考えられる。この場合に、重量減少が5%以下に留まるための原料液Aと原料液Bとの混合比の範囲は、A12:T1E70=1:1から1:3程度となる。
なお、ポリジメチルシロキサンの分子量に対して末端部分を変性するシリコンアルコキシド、チタンアルコキシド、EAcAcの分子量が充分小さいために、原料液Aと原料液Bとの重量比とモル比は大きく相違しない。
次に、原料液Bの合成に用いられるチタンアルコキシドとして、チタンテトライソプロポキシド及びチタンテトラ−n−ブトキシドを用いたシリコーン組成物の長期熱安定性を、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシドを用いたシリコーン組成物と比較する。
まず、シリコンアルコキシド変性PDMS(原料液A)としては、上記実施例1と同様の方法により作製したものを用いた。
次いで、EAcAc修飾チタンアルコキシド変性PDMS(原料液B)は、チタンテトラ−n−ブトキシド(関東化学株式会社製)あるいはチタンテトライソプロポキシド(関東化学株式会社製)の1モルに対し、アセト酢酸エチル(EAcAc)の2モル相当を窒素雰囲気下で蓋付きガラス容器内に封入した後、マグネチックスターラーにて室温で24時間攪拌して、EAcAc配位した原料液を得た。さらに、窒素ガス製造装置(ジャパンユニックス株式会社製 UNX−200)にて製造した窒素ガスを、容量300mlのセパラブルフラスコであるガラス製反応容器内に充満させた。そして、この窒素ガスを充満させたガラス製反応容器内に、両末端水酸基変性PDMS(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 YF3057 平均分子量38,000相当)と、EAcAc配位したチタンアルコキシド変性PDMSと、アセト酢酸エチルEAcAcとを、モル比1:1:70の割合で投入した。
さらに、このガラス製反応容器内の溶液を、プロペラ付きの攪拌棒にて攪拌しながら、ホットプレートで80℃まで加熱し、30分間攪拌した後、このガラス製反応容器内の溶液を180℃まで加熱して1時間攪拌した加熱下で反応させた。そして、このガラス製反応容器内の反応液を、いったん室温まで冷却した後、100ccのテフロン製シャーレへ移し、200℃で4時間の加熱処理をした後に、250℃で2時間の加熱処理を行った。
まず、1モル量の原料液Aに対し、12モル量のEAcAcを加え、コンディショニングミキサー(製品名:泡取り練太郎AR100 株式会社シンキー製)にて5分間混合して原料液A’を得た。次いで、1モル量の原料液A’と、1〜10モル量の原料液Bとを容量30mlの軟膏容器に入れ、コンディショニングミキサーにて10分間混合して原料液を得た。そして、これら原料液から耐熱性評価用試料を作製した。ここで、これら耐熱性評価用試料は、アルミニウム製のカップ内に硬化後の厚さが100μmとなるように各原料液を入れ、常温から250℃まで4時間かけて昇温した状態で、2時間に亘って熱処理を行った。
ここで、A12液に対して異なる種類のチタンアルコキシドを原料とする原料液B(チタンアルコキシド変性PDMS)を混合して得られるシリコーン組成物の250℃保管時の硬度変化、硬度および重量の変化を図10ないし図11に示す。これら図10および図11に示すように、250℃200時間の時点で、チタンテトライソプロポキシド試料では亀裂が入ったため、不適と考えられる。一方、チタンテトラ−n−ブトキシド品は、250℃500時間の時点で低硬度を維持し、重量減少もチタンテトラ−2−エチルヘキソキシド品と同程度であることが分った。
次いで、本発明の比較例について説明する。
<比較例1>
上述した本発明の実施例に対し、アルコキシドを安定化処理するβジケトン材料としてアセチルアセトン(AcAc)を使用した場合、すなわち、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド:AcAc=1〜20(モル比)の場合は、原料液Bの作製時に、250℃まで加熱処理を施した時点で高分子化が進みすぎているため、原料液Bの粘度が高く、原料液Aとの混合が不可能となった。チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド:AcAc=70(モル比)のとき、原料液Bの粘度は、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド:AcAc=1〜20品と比べて低く、原料液Aと原料液Bの混合品を作製することが可能となった。しかし、原料液A12:原料液B(AcAc配位品)=1:1の割合で混合したとき、図12および図13に示すように、250℃で2時間経過の時点で、硬化体中には気泡が残留し、一様な硬化体を作製することが出来なかったため、不適と思われる。AcAc配位は、EAcAc配位と比べて低い温度で脱離が起こるため、EAcAc処理品に比べて、短時間で硬化が進行するためと考えられる。
<比較例2>
次いで、比較例2として、上記引用文献3(特開2008−231402号)にて示されているPDMS系ハイブリッドの場合を説明する。
まず、テトライソプロポキシチタン(TIPT)(関東化学株式会社製)0.2質量%を、t−ブタノール(和光純薬工業株式会社製)8.2質量%に添加してから、テトラエトキシシラン(TEOS)(関東化学株式会社製)10.2質量%を加えた後に攪拌した。この撹拌後の溶液を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(重量平均分子量:20000、商品名:XF3905 GE東芝シリコーン株式会社製)81.4質量%中に投入し、この投入後の溶液を、室温で30分間攪拌し原料液(硬化性樹脂組成物)とした。この後、この原料液を、フッ素樹脂製シャーレに流し込み、バッチ式のオーブンにて100℃で1時間硬化させた後、120℃で3時間焼成を行い(脱水縮合工程)、有機・無機ハイブリッド組成物である硬化物を得た。
<比較例3>
また、比較例3として、上記引用文献3(特開2008−231402号)にて示されるPDMS系ハイブリッドの場合の原料液の調整を説明する。
まず、原料液Aは、テトラエトキシシラン(TEOS)(関東化学株式会社製)20.5質量%と、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(重量平均分子量:20000 商品名:XF3905 GE東芝シリコーン株式会社製)76.9質量%と、t−ブタノール(和光純薬工業株式会社製)2.5質量%と、水0.1質量%とを混合し、この混合液を室温で30分間攪拌して原料液Aとした。
次いで、原料液Bは、テトライソプロポキシチタン(TIPT)(関東化学株式会社製)0.5質量%と、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(重量平均分子量:20000 商品名:XF3905 GE東芝シリコーン株式会社製)86質量%と、t−ブタノール(和光純薬工業株式会社製)13.5質量%とを混合し、この混合液を室温で30分間攪拌して原料液Bとした。
そして、これら原料液Aおよび原料液Bを質量比1/1の割合で混合し、この混合液を室温で30分間攪拌した後(加水分解工程)に脱泡し、無色透明な液体を得た。さらに、この液体を、フッ素樹脂製シャーレに流し込み、100℃で1時間硬化させた後、120℃で3時間焼成(脱水縮合工程)し、無色透明なシリコーン組成物(有機・無機ハイブリッド組成物)を得た。
以上により、比較例2および比較例3での250℃保管時の硬度変化については、図14に示すように、200時間以内に剥離またはひび割れが生じている。さらに、これら比較例2および比較例3は、図15に示すように、250℃で保管した際に、200時間を経過した時点での重量変化が8%以上となり、さらに保管時間が長くなるにつれて、重量変化し続けることが分った。
ここで、高温で各シリコーン組成物から生成する分解・揮発物(主に低分子シロキサンの揮発成分である環状シロキサン)の成分および揮発量の評価は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(GC)法にて行った。なお、この評価の測定においては、ガスクロマトグラフ(ヒューレットパッカード社製 HP6890GC)と、質量選択検出器(ヒューレットパッカード社製 HP5973MSD)とで構成された測定システムを用いた。また、分解・揮発物のサンプリングは、ヘッドスペース法を用いた。
さらに、各シリコーン組成物については、0.5mm厚1.0gのシート状とした試料を細かく裁断した後、容量10mlのバイアルに封入し、シリコーンセプタム(アジレントテクノロジー社製 部品番号:5190−3987)とアルミキャップとで密封した。この密封の後、バイアルを250℃で1分間保温し、気相(ヘッドスペース)に追い出された揮発性成分をガスタイトシリンジ(アジレントテクノロジー社製 部品番号:5182−9710)にて1ml吸引してGCに注入した状態で分離検出を行った。
なお、GC−MS測定条件は、注入口温度:250℃、カラム:Agilent19091S−433(カラム長30m、カラム内径0.25mm、カラム膜厚250μm)、オーブン:40℃〜15℃/min〜300℃(ホールド時間2分)、ヘリウム流量:1.0mL/min、MSイオン源温度:230℃、MS四重極温度:150℃、MSイオン化電圧:69.9eV、スキャン範囲:m/z100〜800とした。そして、この測定にて得られたMSスペクトルから解析ソフト(Agilent社製 MSDケミステーション)を用いて揮発成分を同定した。
ここで、250℃で1分間熱処理した場合に発生する低分子の結果については、比較例として、シリコーンゴム(タイガースポリマー株式会社製 SR−50)、ヒドロキシ末端PDMSオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 YF3057)をさらに加え、上記比較例2の測定結果を示している。なお、上記特許文献4で示された低分子シロキサンを含まないハイブリッド組成物については、比較例4として作製し評価を行った。
<比較例4>
次いで、比較例4として、上記引用文献4(特開2009−292970号)にて示されるハイブリッド組成物について説明する。
まず、攪拌装置、温度計および滴下ラインを取り付けた反応容器に、エチルシリケート(多摩化学工業株式会社製 シリケート40 n=4〜6、またはシリケート45 n=6〜8)1.0gを入れ、このエチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサン(質量平均分子量:32000相当、荒川化学株式会社製 HBSIL039)32.0gと、大気中(室温)にて約30分間攪拌混合し、混成物である原料液Aとした。ここで、エチルシリケートと、エチルシリケートを両末端にアルコキシ変性したポリジメチルシロキサンで用いられたシリケートについては、同じ種類および特性を有するシリケートとした。
そして、この原料液Aを、加水分解工程および縮合工程にて、必要量の水0.93gを約1時間かけて滴下して加えながら攪拌混合した。この後、この混合液を攪拌しながら約30分間かけて室温まで自然冷却してハイブリッド組成物とした。さらに、このハイブリッド組成物を、テフロンシャーレ(直径:103mm)に、仕上がりで1mmの厚さになるように注入し、200℃で2時間乾燥焼成処理した後、テフロンシャーレから脱型して、測定試験片シート(直径:103mm、厚さ:1mm)とした。
ここで、本発明に係るシリコーン組成物と各比較例とにつき、250℃で1分間熱処理した際に生成される低分子成分を、図16および表2で比較した。この図16においては、低分子成分の揮発量を、GC−MSで検出されたクロマトグラムの検出ピークの面積で表し、単位はCountsとした。なお、「0.00E+00」は、0.00×10
0、すなわち0を意味し、「3.50E+08」は、3.50×10
8を意味する。
また、図16の縦項目は、環状シロキサンまたは線状シロキサンの価数を示す。よって、本発明に係るシリコーン組成物からは、価数5〜7の線状シロキサンが検出されている。これに対し、比較例3または比較例4のハイブリッド組成物は、低分子成分の発生が、本発明に係るシリコーン組成物に比べ多く、価数5〜7の線状シロキサンに加えて価数が3〜14の環状シロキサンが検出されている。以上から、本発明に係るシリコーン組成物は、環状シロキサンの生成が、5価から7価の環状シロキサンに限られているため、生成量についても、比較例に比べ大幅に減少していることが分る。