JP2014055339A - アルミニウム製クラッド管及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】アルミニウム管の心材と、当該心材の内面及び外面の少なくとも一方にクラッドされた犠性陽極材層を備えるアルミニウム製クラッド管において、前記犠性陽極材層が、Si:0.10〜1.50mass%、Mg:0.10〜2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠性陽極材層に存在する円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が30000個/mm2以下であることを特徴とするアルミニウム製クラッド管、ならびに、その製造方法。
【選択図】なし
Description
1−1.構造
本発明に係るアルミニウム製クラッド管は、ルームエアコンの配管、自動車用熱交換器の配管、自動車及び各種産業用機器の配管などに好適に用いられる。このような配管は、アルミニウム管の心材の内面及び外面のいずれか一方に犠牲陽極材層をクラッドした二層クラッド管として構成される。例えば、犠牲陽極材層側が外部環境に曝される配管外面となるように管状に成形される。管内部が、フロンなどの冷媒の流路となる。
次に、本発明に係るアルミニウム製クラッド管における各構成材の組成について説明する。
犠牲陽極材層は、Si:0.10〜1.50mass%(以下、単に「%」と記す)、Mg:0.10〜2.00%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。すなわち、これらSi及びMgを必須元素とする。Si及びMgは、犠牲陽極材層中にMgとSiを主成分とする微細なMg−Si系析出物を形成する。このMg−Si系析出物は、ろう付後の冷却中や室温においても析出する。
本発明に係るアルミニウム製クラッド管の心材の材質は、アルミニウム材であれば特に限定されるものではない。ここで、アルミニウム材とは、純アルミニウムとアルミニウム合金をいう。純アルミニウムとは、純度99%以上のアルミニウムであって、例えば1000系のアルミニウム材が挙げられる。アルミニウム合金としては、例えばAl−Cu系(2000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Si系(4000系)、Al−Mg系(5000系)、Al−Mg−Si系(6000系)、Al−Mg−Zn系(7000系)等のアルミニウム材が好適に用いられる。
ろう材層に用いられるアルミニウム材は特に限定されるものではないが、通常のろう付において用いられるAl−Si系合金ろう材が好適に用いられる。例えば、JIS4343、4045、4047の各アルミニウム合金(Al−7〜13%Si)を用いるのが好ましい。
本発明に係るアルミニウム製クラッド板の犠牲陽極材層には、円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が面密度として30000個/mm2以下存在する。Mg−Si系晶出物とは、基本的にMgとSiが原子個数比2対1で構成されるものである。この晶出物には、犠牲陽極材層に選択的添加元素としてFeやCuが含有される場合には、Mg2Siの他にMg−Si−Fe、Mg−Si−Cuの3元組成や、Mg−Si−Fe−Cuの4元組成も含まれる。
本発明に係るアルミニウム製クラッド管では、犠牲陽極材層表面から所定の深さ領域に存在する微細なMg−Si系析出物の体積密度を所定範囲に規定する。本発明者らは、本発明に係るアルミニウム製クラッド管の犠牲陽極材層がZnを含有しないにも拘わらず犠牲防食効果を発揮することを見出した。これは、犠牲陽極材層に、母材よりも卑な相や生成物が存在することを示唆するものである。検討の結果、顕微鏡観察では視認するのが難しい極めて微細なMg−Si系析出物が、犠牲防食効果発現の要因であることが判明した。このようなMg−Si系析出物はTEMなどの顕微鏡観察では視認するのが難しいが、175℃で5時間の増感処理を施すことにより顕微鏡観察が容易なサイズの針状のMg−Si系析出物が観察された。このことは、元々存在する極めて微細なMg−Si系析出物が増感処理により大きく成長したものと考えられる。本発明者らの更なる検討により、上記の増感処理後において、犠牲陽極材表面から5μmまでの深さの領域で観察される10〜1000nmの長さを示す針状のMg−Si系析出物の体積密度と犠牲防食効果との間に相関関係があることが判明した。なお、本発明者らの分析によれば、このような微細なMg−Si系析出物の増感処理前の元々の長さは、数nm〜50nmであるものと推定される。
次に、本発明に係るアルミニウム製クラッド管の製造方法について説明する。この製造方法では、犠性陽極材層用のアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;犠性陽極材層用の鋳塊をアルミニウム管の心材の内面及び外面の少なくとも一方に組み合わせてビレットとする組み合わせ工程と;ビレットを押出成形する押出成形工程と;を備え、半連続鋳造工程における鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とすることを特徴とする。そして、押出成形工程前にビレットを450〜570℃に加熱する加熱工程と;押出成形工程後にクラッド押出管を0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程と;を更に備えることが好ましい。また、この冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5〜600分間熱処理する熱処理工程を更に備えるのが更に好ましい。
犠牲陽極材層用鋳塊は、半連続鋳造工程により製造される。この半連続鋳造工程において、犠性陽極材層用のアルミニウム合金の鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とする。冷却速度が1℃/秒未満の場合は、犠牲陽極材中に粗大なMg−Si系晶出物が生成し、Mg−Si系晶出物の適切分布が得られない。冷却速度は鋳塊組織を観察し、デンドライトアームスペーシングから算出することができる(軽金属学会研委員会著 「アルミニウムとデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定法」)。ここで鋳塊表面とは、最表面から30mmまでの範囲を言うものとする。
アルミニウム材の心材は、常法に従ってDC鋳造法等によって鋳造される。心材の鋳塊は、必要に応じて均質化処理と面削を施してその所定の板厚とするか、或いは、熱間圧延や冷間圧延を更に施して所定の板厚とする。
ろう材は、常法に従って連続鋳造法等によって鋳造される。ろう材の鋳塊は、必要に応じて面削、熱間圧延、冷間圧延を施して所定の板厚の圧延板とする。
2層クラッド管の場合には心材鋳塊の内面又は外面の一方に犠牲陽極材用鋳塊を配し、3層クラッド管の場合は他方に犠牲陽極材用鋳塊又はろう材用鋳塊を更に配して組み合わせてビレットとする。
次いで、上記ビレットを、押出成形工程前に450〜570℃に加熱される加熱工程にかけるのが好ましい。この加熱工程により、金属組織を均一にする均質化効果が得られるとともに、粗大なMg−Si系晶出物を再固溶させる。この効果を得るためには、熱処理温度が450℃とするのが好ましい。一方、熱処理温度が570℃を超えると、犠牲陽極材層が溶融するおそれがある。上記効果を得るためには、熱処理工程の保持時間は5分間以上とするのが好ましい。5分間未満では、十分な金属組織均一効果と粗大Mg−Si系晶出物の再固溶効果が得られない場合がある。生産性や経済性の観点から、この保持時間は20時間以下とするのが好ましい。
次いで、間接押出機によってビレットを押出してクラッド押出管を得る。押出成形には、通常の間接押出機を使用した押出成形法を用いることができる。
押出成形されたクラッド押出管を、0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程にかけるのが好ましい。Mg−Si系析出物は冷却中や室温において析出するが、冷却速度が0.1℃/秒未満ではこの析出物が粗大化する場合があり、1000℃/秒を超えると析出が微細になり過ぎる場合がある。なお、この冷却速度は、1〜100℃/秒が更に好ましい。
上記冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5分間以上熱処理する熱処理工程を更に備えるのが好ましい。この熱処理工程により、Mg−Si系析出物の析出を促進させることができる。熱処理温度が100℃未満の場合や熱処理時間が5分未満の場合には、Mg−Si系析出物の析出促進効果が不十分となる場合がある。一方、熱処理温度が300℃を超える場合には、Mg−Si系析出物が再固溶してしまう場合がある。熱処理時間が600分を超えることは、経済的な観点などから好ましくない。150〜250℃で10分間以上熱処理するのが更に好ましい。
以上のようにして得られるクラッド押出管を、所定の外径と肉厚になるように抽伸加工にかけるのが好ましい。この抽伸加工には、生産性の高いドローブロック式連続抽伸機を使用するのが望ましい。
犠牲陽極材層には、表1に示す組成の合金を用いた。これらの合金を表1に示す鋳塊表面冷却速度で半連続鋳造法により鋳造し面削を施した。心材には、表2に示す組成の合金を用いた。これら心材用合金を半連続鋳造法により鋳造した。心材用鋳塊は、520℃で6時間の均質化処理を行い、所定の厚さに面削した。なお、犠牲陽極材層用鋳塊の板厚及び面削後の心材用鋳塊の厚さは、犠牲陽極材層の片面クラッド率が10%となるように調整した。
2層クラッド板試料の犠牲陽極材層からミクロ組織観察用試験片を切出し、厚さ方向の断面におけるMg−Si系の晶出物分布を測定した。SEM(Scanning Electron Microscope)を用い、2500倍の組成像を観察し、5視野選択し、黒く観察されるMg−Si系の晶出物を画像処理により抽出して円相当直径1.0〜10μmの面密度を測定し、5視野の算術平均値を求めた。
2層クラッド板試料を、175℃で5時間熱処理した。次いで、犠牲陽極材表面からFIB(Focused Ion Beam)で厚さ100〜200nm程度の試験片を作製した。試料片の表面から5μmまでの深さの領域において、アルミニウムマトリックスの100面に沿って3方向に析出する針状の析出物を、50万倍の倍率で透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて任意に5箇所観察した。各箇所の画像中において、長さ10〜1000nmを有する針状のMg−Si系析出物数を計測した。更に、この針状析出物と直行する点状析出物(針状のものを正面から観察するので点状に見える)のうち100nm以下のものの数も計測し、これらを針状析出物の数と合計したものを、測定体積で割って各観察箇所におけるMg−Si系析出物の体積密度とした。最後に、各観察箇所における体積密度の算術平均値を算出して、試料におけるMg−Si系析出物の体積密度とした。ここで、点状析出物(針状のものを正面から観察するので点状に見える)の数も合計している理由は以下である。すなわち、針状のMg−Si系析出物はアルミニウムマトリックス中の100面に沿って3方向に同様に析出しており、点状に見える析出物も直角方向から見れば長さ10〜1000nmを満たす可能性がある。長さ10nm未満のMg−Si系析出物は透過型電子顕微鏡(TEM)では観察が難しく正面から見ても明確には点として認識・計測できない。長さが1000nmを超える針状のMg−Si系析出物は正面から見た場合、太さが100nmを超えるのでそれは計測から除外した。また、Mg−Si系晶出物が点として見える場合にも直径が200nm以上なのでそれも計測から除外した。
2層クラッド板試料を用いて、大気曝露環境を模擬したASTM G85に準じたSWAATを1500時間行った。SWAAT試験後において、試験片の表面の腐食生成物を除去し腐食深さを測定した。測定箇所は10箇所とし、それらの最大値をもって腐食深さとした。腐蝕深さが80μm未満の場合を優良とし、80μmを超え90μm未満の場合を良好とし、90μm以上の場合と貫通の場合を不良とした。
更なる耐食性の評価として、水系冷媒環境を模擬した循環サイクル試験を行った。Cl−:195ppm、SO4 2−:60ppm、Cu2+:1ppm、Fe2+:30ppmを含有し温度88℃の水溶液を、上記熱処理した試料片の試験面に対して比液量6mL/cm2、流速2m/秒で8時間流通し、その後、試料片を16時間放置した。このような加熱流通と放置からなるサイクルを3ヶ月間行った。循環サイクル試験後において、試験片の表面の腐食生成物を除去し腐食深さを測定した。測定箇所は10箇所とし、それらの最大値をもって腐食深さとした。腐蝕深さが80μm未満の場合を優良とし、80μmを超え90μm未満の場合を良好とし、90μm以上の場合と貫通の場合を不良とした。なお、心材表面にはマスキングを施し、試験水溶液に触れないようにした。
Claims (7)
- アルミニウム管の心材と、当該心材の内面及び外面の少なくとも一方にクラッドされた犠性陽極材層を備えるアルミニウム製クラッド管において、前記犠性陽極材層が、Si:0.10〜1.50mass%、Mg:0.10〜2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠性陽極材層に存在する円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が30000個/mm2以下であることを特徴とするアルミニウム製クラッド管。
- 前記犠牲陽極材層のアルミニウム合金が、Fe:0.05〜1.00mass%、Ni:0.05〜1.00mass%、Cu:0.05〜1.00mass%、Mn:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種以上を更に含有する、請求項1に記載のアルミニウム製クラッド管。
- 175℃で5時間の増感処理後に、前記犠牲陽極材層表面から5μmまでの深さの領域において観察される長さ10〜1000nmのMg−Si系析出物が1000〜50000個/μm3である、請求項1又は2に記載のアルミニウム製クラッド管。
- 前記アルミニウム管の心材の内面及び外面の一方に犠性陽極材層がクラッドされており、他方にろう材層がクラッドされている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム製クラッド管。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム製クラッド管の製造方法であって、前記犠性陽極材層用のアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;犠性陽極材層用の鋳塊をアルミニウム管の心材の内面及び外面の少なくとも一方に組み合わせてビレットとする組み合わせ工程と;前記ビレットを押出成形する押出成形工程と;を備え、前記半連続鋳造工程における鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とすることを特徴とするアルミニウム製クラッド管の製造方法。
- 前記押出成形工程前にビレットを450〜570℃に加熱する加熱工程と;前記押出成形工程後にクラッド押出管を0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程と;を更に備える、請求項5に記載のアルミニウム製クラッド管の製造方法。
- 前記冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5分間以上熱処理する熱処理工程を更に備える、請求項6に記載のアルミニウム製クラッド管の製造方法。
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