次に、本発明の容量性負荷駆動装置の第1実施形態として、インクジェットプリンターに適用されたものについて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットプリンターの概略構成図であり、図1において、印刷媒体1は、図の左から右に向けて矢印方向に搬送され、その搬送途中の印刷領域で印刷される、ラインヘッド型インクジェットプリンターである。
図1中の符号2は、印刷媒体1の搬送ライン上方に設けられた複数のインクジェットヘッドであり、印刷媒体搬送方向に2列になるように且つ印刷媒体搬送方向と交差する方向に並べて配設されて、夫々、ヘッド固定プレート7に固定されている。各インクジェットヘッド2の最下面には、多数のノズルが形成されており、この面がノズル面と呼ばれている。ノズルは、図2に示すように、噴射するインクの色毎に、印刷媒体搬送方向と交差する方向に列状に配設されており、その列をノズル列と呼んだり、その列方向をノズル列方向と呼んだりする。そして、印刷媒体搬送方向と交差する方向に配設された全てのインクジェットヘッド2のノズル列によって、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向の幅全長に及ぶラインヘッドが形成されている。
インクジェットヘッド2には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクが、図示しないインクタンクからインク供給チューブを介して供給される。そして、インクジェットヘッド2に形成されているノズルから同時に必要箇所に必要量のインクを噴射することにより、印刷媒体1上に微小なドットを形成する。これを各色毎に行うことにより、搬送部4で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、1パスによる印刷を行うことができる。本実施形態では、インクジェットヘッド2のノズルからインクを噴射する方法としてピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、アクチュエーターである圧電素子に駆動信号を与えると、圧力室内の振動板が変位して圧力室内の容積が変化し、そのときに生じる圧力変化によって圧力室内のインクがノズルから噴射されるというものである。そして、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することでインクの噴射量を調整することが可能となる。なお、本発明は、ピエゾ方式以外のインク噴射方法にも、同様に適用可能である。
インクジェットヘッド2の下方には、印刷媒体1を搬送方向に搬送するための搬送部4が設けられている。搬送部4は、駆動ローラー8及び従動ローラー9に搬送ベルト6を巻回して構成され、駆動ローラー8には図示しない電動モーターが接続されている。また、搬送ベルト6の内側には、当該搬送ベルト6の表面に印刷媒体1を吸着するための図示しない吸着装置が設けられている。この吸着装置には、例えば負圧によって印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する空気吸引装置や、静電気力で印刷媒体1を搬送ベルト6に吸着する静電吸着装置などが用いられる。従って、給紙ローラー5によって給紙部3から印刷媒体1を一枚だけ搬送ベルト6上に送給し、電動モーターによって駆動ローラー8を回転駆動すると、搬送ベルト6が印刷媒体搬送方向に回転され、吸着装置によって搬送ベルト6に印刷媒体1が吸着されて搬送される。この印刷媒体1の搬送中に、インクジェットヘッド2からインクを噴射して印刷を行う。印刷の終了した印刷媒体1は、搬送方向下流側の排紙部10に排紙される。なお、前記搬送ベルト6には、例えばリニアエンコーダーなどで構成される印刷基準信号出力装置が取付けられており、この印刷基準信号出力装置から出力される要求解像度相当のパルス信号に応じて、後述する駆動回路から駆動信号をアクチュエーターに出力することで印刷媒体1上の所定位置に所定の色のインクを噴射し、そのドットによって印刷媒体1上に所定の画像を描画する。
本実施形態のインクジェットプリンター内には、インクジェットプリンターを制御するための制御装置11が設けられている。この制御装置11は、図3に示すように、ホストコンピューター12から入力された印刷データを読込み、その印刷データに基づいて印刷処理等の演算処理を実行するコンピューターシステムで構成される制御部13を備える。また、制御装置11は、前記給紙ローラー5に接続されている給紙ローラーモーター14を駆動制御する給紙ローラーモータードライバー15を備える。また、制御装置11は、インクジェットヘッド2を駆動制御するヘッドドライバー16と、前記駆動ローラー8に接続されている電動モーター17を駆動制御する電動モータードライバー18とを備えて構成される。
制御部13は、印刷処理等の各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)13aを備える。また、制御部13は、入力された印刷データ或いは当該印刷データ印刷処理等を実行する際の各種データを一時的に格納し、或いは印刷処理等のプログラムを一時的に展開するRAM(Random Access Memory)13bと、CPU13aで実行する制御プログラム等を格納する不揮発性半導体メモリで構成されるROM(Read Only Memory)13cを備えている。この制御部13は、ホストコンピューター12から印刷データ(画像データ)を入手すると、CPU13aが、この印刷データに所定の処理を実行して、何れのノズルからインクを噴射するか或いはどの程度のインクを噴射するかというノズル選択データ(駆動パルス選択データ)を算出する。そして、この印刷データや駆動パルス選択データ及び各種センサからの入力データに基づいて、給紙ローラーモータードライバー15、ヘッドドライバー16、電動モータードライバー18に制御信号及び駆動信号を出力する。これらの制御信号及び駆動信号により、給紙ローラーモーター14、電動モーター17、インクジェットヘッド2内のアクチュエーターなどが夫々作動して、印刷媒体1の給紙及び搬送及び排紙、並びに印刷媒体1への印刷処理が実行される。なお、制御部13内の各構成要素は、図示しないバスを介して電気的に接続されている。
図4には、前記制御装置11内のヘッドドライバー16からインクジェットヘッド2に供給され、圧電素子からなるアクチュエーターを駆動するための駆動信号COMの一例を示す。本実施形態では、中間電圧を中心に電圧が変化する信号とした。この駆動信号COMは、アクチュエーターを駆動してインクを噴射する単位駆動信号としての駆動パルスPCOMを時系列的に接続したものであり、駆動パルスPCOMの立上がり部分がノズルに連通する圧力室の容積を拡大してインクを引込む段階であり、駆動パルスPCOMの立下がり部分が圧力室の容積を縮小してインクを押出す段階であり、インクを押出した結果、インクがノズルから噴射される。
この電圧台形波からなる駆動パルスPCOMの電圧増減傾きや波高値を種々に変更することにより、インクの引込量や引込速度、インクの押出量や押出速度を変化させることができ、これによりインクの噴射量を変化させて異なる大きさのドットを得ることができる。従って、複数の駆動パルスPCOMを時系列的に連結する場合でも、そのうちから単独の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを噴射したり、複数の駆動パルスPCOMを選択してアクチュエーター19に供給し、インクを複数回噴射したりすることで種々の大きさのドットを得ることができる。即ち、インクが乾かないうちに複数のインクを同じ位置に着弾すると、実質的に大きなインクを噴射するのと同じことになり、ドットの大きさを大きくすることができるのである。このような技術の組合せによって多階調化を図ることが可能となる。なお、図4の左端の駆動パルスPCOM1は、インクを引込むだけで押出していない。これは、微振動と呼ばれ、インクを噴射せずに、ノズルの増粘を抑制防止したりするのに用いられる。
インクジェットヘッド2には、前記駆動信号COMの他、前記図3の制御装置から制御信号として、印刷データに基づいて駆動パルスPCOMのうちどの駆動パルスPCOMを選択するかを示す駆動パルス選択特定データSIが入力されている。また、インクジェットヘッド2には、全ノズルにノズル選択データが入力された後に、駆動パルス選択特定データSIに基づいて駆動信号COMとインクジェットヘッド2のアクチュエーターとを接続させるラッチ信号LAT及びチャンネル信号CHと、駆動パルス選択特定データSIをシリアル信号としてインクジェットヘッド2に送信するためのクロック信号SCKとが入力されている。なお、これ以後、アクチュエーター19を駆動する駆動信号の最小単位を駆動パルスPCOMとし、駆動パルスPCOMが時系列的に連結された信号全体を駆動信号COMと記す。即ち、ラッチ信号LATで一連の駆動信号COMが出力され始め、チャンネル信号CH毎に駆動パルスPCOMが出力されることになる。
図5には、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をアクチュエーター19に供給するためにインクジェットヘッド2内に構築されたスイッチングコントローラーの具体的な構成を示す。このスイッチングコントローラーは、インクを噴射させるノズルに対応した圧電素子などのアクチュエーター19を指定するための駆動パルス選択特定データSIを保存するレジスター20と、レジスター20のデータを一時的に保存するラッチ回路21とを備えている。また、このスイッチングコントローラーは、ラッチ回路21の出力をレベル変換して選択スイッチ23に供給することにより、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を圧電素子からなるアクチュエーター19に接続するレベルシフター22を備えて構成されている。
レベルシフター22は選択スイッチ23をオンオフできる電圧レベルに変換する。これは、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が、ラッチ回路21の出力電圧に比べて高い電圧であり、これに合わせて選択スイッチ23の動作電圧範囲も高く設定されているためである。従って、レベルシフター22によって選択スイッチ23が閉じられるアクチュエーター19は、駆動パルス選択特定データSIに基づき所定の接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。また、レジスター20の駆動パルス選択特定データSIがラッチ回路21に保存された後、次の印刷情報をレジスター20に入力し、インクの噴射タイミングに合わせてラッチ回路21の保存データを順次更新する。なお、図中の符号HGNDは、圧電素子などのアクチュエーター19のグランド端である。また、この選択スイッチ23により、圧電素子などのアクチュエーター19を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後(選択スイッチ23がオフ)も、当該アクチュエーター19の入力電圧は、切り離す直前の電圧に維持される。すなわち、前記圧電素子からなるアクチュエーター19は、容量性負荷である。
図6には、アクチュエーター19の駆動回路の概略構成を示す。このアクチュエーター駆動回路は、前記制御装置11のヘッドドライバー16内に構築されている。本実施形態の駆動回路は、予め記憶されている駆動波形データDWCOMに基づいて、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の元、つまりアクチュエーター19の駆動を制御する信号の基準となる駆動波形信号WCOMを生成する駆動波形信号生成部24を備えている。また、本実施形態の駆動回路は、駆動波形信号生成部24で生成された駆動波形信号WCOMから帰還信号Refを減じて差分信号Diffを出力する減算部25と、減算部25から出力された差分信号Diffをパルス変調する変調部26と、変調部26でパルス変調された変調信号PWMを電力増幅するデジタル電力増幅回路27とを備えている。また、本実施形態の駆動回路は、デジタル電力増幅回路27で電力増幅された電力増幅変調信号APWMを平滑化して、圧電素子からなるアクチュエーター19に駆動信号COMとして出力する平滑フィルター28と、前記平滑フィルター28の出力である駆動信号COMを前記減算部25に帰還する第1帰還回路201と、前記駆動信号COMの位相を進めて前記減算部25に帰還する第2帰還回路202とを備えて構成される。
駆動波形信号生成部24は、デジタルデータからなる駆動波形データDWCOMを電圧信号に変換して所定サンプリング周期分ホールド出力する。減算部25は、比例定数用の抵抗を介装した一般的なアナログ減算回路である。変調部26には、図7に示すように、周知のパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)回路を用いた。パルス幅変調回路は、例えば、所定周波数の三角波信号を出力する三角波生成部31と、三角波信号と差分信号Diffを比較し、例えば差分信号Diffが三角波信号より大きいときにオンデューティーとなるパルスデューティーの変調信号PWMを出力する比較部32とを備えて構成される。なお、変調部26には、この他にパルス密度変調(PDM)回路などの周知のパルス変調部を用いることができる。また、駆動波形信号生成部24、減算部25、変調部26は、演算処理によって構築することもでき、その場合には、例えば前記制御装置11の制御部13内にプログラミングによって構築することができる。
デジタル電力増幅回路27は、図8に示すように、実質的に電力を増幅するためのハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2からなるハーフブリッジ出力段33と、変調部26からの変調信号PWMに基づいて、ハイサイド側スイッチング素子Q1、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GH、GLを調整するためのゲートドライブ回路34とを備えて構成されている。デジタル電力増幅回路27では、変調信号がハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはハイレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはローレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオフ状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは、供給電圧VDDとなる。一方、変調信号がローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1のゲート−ソース間信号GHはローレベルとなり、ローサイド側スイッチング素子Q2のゲート−ソース間信号GLはハイレベルとなるので、ハイサイド側スイッチング素子Q1はオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はオン状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段33の出力電圧Vaは0となる。
このようにハイサイド側スイッチング素子Q1及びローサイド側スイッチング素子Q2がデジタル駆動される場合には、オン状態のスイッチング素子に電流が流れるが、ドレイン−ソース間の抵抗値は非常に小さく、損失は殆ど発生しない。また、オフ状態のスイッチング素子には電流が流れないので損失は発生しない。従って、このデジタル電力増幅回路27の損失そのものは極めて小さく、小型のMOSFET等のスイッチング素子を使用することができる。
平滑フィルター28は、図6に示すように、1つのインダクタLと、1つのコンデンサーCとで構成される2次のローパスフィルターからなる。本実施形態では、この平滑フィルター28によって、前記変調部26で生じた変調周波数、即ちパルス変調の周波数成分の信号振幅を減衰して除去し、アクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を出力する。
前述したように、アクチュエーター19は、図2に示すノズル全てに設けられており、図5に示す選択スイッチ23が閉じられたアクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が印加され、そのアクチュエーター19が駆動される。アクチュエーター19は、容量性負荷、即ち静電容量を有する。つまり、平滑フィルター28には、駆動されるアクチュエーター19数(以下、駆動アクチュエーター数とも記す)分の静電容量が、当該平滑フィルター28のコンデンサーCに並列に接続される。当然ながら、駆動アクチュエーター数が変化すると、平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量で構成されるフィルターの周波数特性も変化する。この平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量で構成されるフィルターの周波数特性の変化を補償するために、図6のアクチュエーター駆動回路には、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をそのまま第1帰還信号として減算部25に帰還する第1帰還回路201と、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の位相を進めて第2帰還信号として減算部25に帰還する第2帰還回路202とを備える。
第2帰還回路202として、前記平滑フィルター28のコンデンサーCの電流を電流検出器で検出し、その電流検出器の出力を第2帰還信号とする構成が好適である。電流検出器は接地抵抗Rで構成される。周知のように電流は電圧よりも位相が進んでおり、前述のように駆動信号COM(駆動パルスPCOM)が台形波電圧信号であるから、検出されるコンデンサーCの電流信号は駆動信号COM(駆動パルスPCOM)よりも位相が早い。このことは、コンデンサーCと接地抵抗Rが、1次のハイパスフィルターを構成していることからも明らかである。このように駆動信号COM(駆動パルスPCOM)からなる第1帰還信号と、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の位相を進めた第2帰還信号により、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の比例・微分フィードバックが可能となり、駆動アクチュエーター数の変化に伴う平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量からなるフィルターの周波数特性を補償することができる。なお、本実施形態の平滑フィルター28のようにダンピング抵抗を介装していない2次のローパスフィルターには、周知のように共振特性があるが、第1帰還信号及び第2帰還信号を帰還することにより、当該平滑フィルター28を構成する2次のローパスフィルターの共振特性を補償することもできる。
図9には、前記第1帰還回路201及び第2帰還回路202を備えた本実施形態のアクチュエーター駆動回路の周波数特性を示す。図9aは、平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量からなるフィルター、つまり駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の周波数特性であり、図中のfrefは駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形を歪ませないために必要な所定周波数である。つまり、少なくともこの所定周波数fref以下の周波数帯域ではフィルターのゲインを0dBとする必要がある。図から明らかなように、駆動アクチュエーター数(図ではノズル数)が大きくなると高周波数帯域側のゲインが小さくなる傾向にあるが、所定周波数fref以下の周波数帯域でフィルターのゲインがほぼ0dBとなっている。
また、図9bは、図6のアクチュエーター駆動回路のオープンループ特性である。帰還が係っている駆動回路のオープンループ特性は、帰還入力、つまり本実施例では減算部25の入力側からアクチュエーター19までの周波数特性であり、ゲインが0dBより大きいということは帰還入力より出力が大きいということであり、ゲインが0dBより小さいということは帰還入力より出力が小さいということである。また、位相が−180°になるということは入力の反転信号である。帰還が係っている駆動回路のオープンループ特性では、周知のように、位相が−180°且つゲインが0dB以上であるとき、無限の利得が発生して発振する、つまり不安定になることから、系の安定性を確かめる際には、ゲインが0dBのときの位相の−180°との差である位相余裕や、逆に位相が−180°のときのゲインの0dBとの差であるゲイン余裕を測ればよい。本実施形態では、駆動アクチュエーター数が小さいときのゲイン余裕、位相余裕が共に小さい傾向にあるが、それでも系が安定的に動作するのに十分な余裕がある。
図10は、第1帰還信号の帰還も第2帰還信号の帰還も行わない、いわば平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量からなるフィルターの周波数特性である(ダンピング抵抗を介装しているものであり、このダンピング抵抗によって共振は抑制されている)。前記図9aと同じく、駆動アクチュエーター数が大きいほど、高周波数帯域のゲインが小さくなる傾向にあるが、この場合は、前記所定周波数frefでゲインが0dBより小さくなり、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形が歪んでしまう(高周波数帯域成分が除去されてしまう)。図11は、第1帰還信号の帰還のみを行う場合の周波数特性である。図11aに示す平滑フィルター28及び駆動されるアクチュエーター19の静電容量からなるフィルター、つまり駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の周波数特性では、駆動アクチュエーター数が大きい場合の所定周波数frefでのゲインは改善されている。しかしながら、図11bに示すオープンループ特性では、前記図9bに示すオープンループ特性と比較して、ゲイン余裕、位相余裕共に小さくなっており、系が安定的に動作するのに十分な余裕が無い。
このように本実施形態の容量性負荷駆動装置及びインクジェットプリンターでは、圧電素子のような容量性負荷からなるアクチュエーター19に駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を印加するとインクジェットヘッド2の圧力室の容積が縮小されて当該圧力室内のインクを噴射する。その噴射されたインクで印刷媒体1に印刷を行うにあたり、減算部25から出力される駆動波形信号WCOMと2つの帰還信号Refとの差分信号Diffをパルス変調して変調信号PWMとし、その変調信号PWMをデジタル電力増幅回路27で電力増幅して電力増幅変調信号APWMとし、その電力増幅変調信号APWMを平滑フィルター28で平滑化してアクチュエーター19の駆動信号COM(駆動パルスPCOM)とする。そして、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)そのものを第1帰還信号として減算部25に帰還すると共に、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の位相を進めて第2帰還信号として減算部に帰還することにより、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の比例・微分フィードバックが可能となり、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形を十分に補償することができ、高精度な印刷が可能となる。
また、平滑フィルター28のコンデンサーCに電流検出器である接地抵抗Rを接続し、当該電流検出器である接地抵抗Rの出力を第2帰還信号として減算部25に帰還することにより、電圧信号からなる駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に対し、それよりも位相の進んだ平滑フィルター28のコンデンサーCの電流を第2帰還信号として減算部25に帰還することができるので、簡易な構成にして適正な第2帰還信号を帰還することができる。
また、変調部26を、減算部25の差分信号Diffと三角波信号との比較によって変調信号PWMに変換する比較部32で構成することにより、簡易な構成により発明の実施が容易となる。
以下に他の実施例を示す。他の実施例の説明においては、第1実施例と同様の構成については第1実施例と同じ符号を付し、その説明を省略する。
図12には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第2実施例を示す。前記第1実施例では、平滑フィルター28のコンデンサーCの電流を電流検出器である接地抵抗Rで直接的に検出したが、本実施例では、平滑フィルター28のコンデンサーCと並列に第2コンデンサーC2を接続し、このコンデンサーC2の電流を電流検出器である第2接地抵抗R2で検出し、その電流検出器の出力を第2帰還信号とする。この場合も、検出すべきなのは駆動信号COM(駆動パルスPCOM)よりも位相の進んだ平滑フィルター28のコンデンサーCの電流であるから、例えば第1実施例の図6のコンデンサーCの容量と接地抵抗Rの抵抗の積値と、第2実施例の第2コンデンサーC2の容量と第2接地抵抗R2の抵抗の積値が同じ値であれば、第2コンデンサーC2の電流値は平滑フィルター28のコンデンサーCの電流値に等しい。このとき、平滑フィルター28のコンデンサーCの容量よりも第2コンデンサーC2の容量を小さくする、即ちインピーダンスを大きくすることにより、第2接地抵抗R2の電力消費を低減することができる。また、第2コンデンサーC2の容量を小さくすることにより、相対的に電流検出器である第2接地抵抗R2の抵抗値が大きくなるため、第2コンデンサーC2の等価直列抵抗を無視することができ、設計が容易になる。
本実施形態の容量性負荷駆動装置及びインクジェットプリンターでは、平滑フィルター28の出力側に、当該平滑フィルター28のコンデンサーCよりも容量の小さい第2コンデンサーC2を接続する。そして、当該第2コンデンサーC2に平滑フィルター28のコンデンサーCの電流を検出するための電流検出器として接地抵抗R2を接続し、当該第2コンデンサーC2に接続された電流検出器である接地抵抗R2の出力を第2帰還信号として減算部25に帰還する。これにより、電圧信号からなる駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に対し、それよりも位相の進んだ平滑フィルター28のコンデンサーCの電流を第2帰還信号として減算部25に帰還することができる。従って、適正な第2帰還信号を帰還することができると共に、容量の小さい、即ちインピーダンスの大きい第2コンデンサーC2を用いることで電力損失が小さく、電流検出器である接地抵抗R2の抵抗値が大きくなるため、等価直列抵抗を無視することができ、設計が容易になる。
図13には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第3実施例を示す。この実施例では、前記第1実施例のアクチュエーター駆動回路の駆動波形信号生成部24と減算部25との間に逆フィルター203を介装した。この逆フィルター203は、例えば平滑フィルター28及びアクチュエーター19の静電容量からなるフィルターの周波数特性が、駆動されるアクチュエーター19の数によって変化しても、所望する駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を得ることができるという性質を有するものである。本実施形態では、前述のように駆動されるアクチュエーター19の数が大きいほど、高周波数帯域のゲインが小さくなる傾向にある。従って、例えば駆動されるアクチュエーター19の数が最小、つまり1つであるときに駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形が設計通りになるように平滑フィルター28及び1つのアクチュエーター19の静電容量で構成されるフィルターの周波数特性を設定した場合、駆動されるアクチュエーター19の数に応じて、ゲインの減少によって減衰されてしまう成分を強調するように逆フィルター203で駆動波形信号WCOMを補正する。なお、逆フィルター203の設定手法については、本出願人が先に提案した国際公開公報WO2007/083669に詳しく記載されている。
このように逆フィルター203によって駆動波形信号WCOMをおおよそ補正することができるが、駆動されるアクチュエーター19の数によって変わってしまう、平滑フィルター28及びアクチュエーター19の静電容量からなるフィルターの周波数特性を完全にカバーできるわけではない。そこで、この逆フィルター203と、前述した第1帰還信号及び第2帰還信号によって更なる駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の補償を行う。図14は、本実施例の周波数特性である。平滑フィルター28及びアクチュエーター19の静電容量からなるフィルターの周波数特性を示す図14aでも駆動アクチュエーター数が大きいときのゲインを駆動アクチュエーター数が小さいときのそれに近づけることができている。また、駆動アクチュエーター数に応じて駆動波形信号WCOMを予め補正することにより、特に第1帰還信号による補償量を低減することができ、図14bに示すオープンループ特性では、ゲイン余裕、位相余裕とも大きくなり、更なる安定化が図られている。
本実施形態の容量性負荷駆動装置及びインクジェットプリンターでは、駆動波形信号生成部24と減算部25との間に、平滑フィルター28及び容量性負荷からなるアクチュエーター19の静電容量の周波数特性が、駆動するアクチュエーター19の数によって変化しても所望する駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を得ることができる逆フィルター203を介装している。これによって、駆動するアクチュエーター19の数に応じて逆フィルター203で駆動波形信号WCOMを補正することにより、第1帰還信号による駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の補償を軽減することができ、減算部25から駆動信号COM(駆動パルスPCOM)までのオープンループ特性のゲイン余裕、位相余裕を大きくして系を安定化することができる。
図15には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第4実施例を示す。本実施例では、変調部26に積分器204(積分部)を用い、この積分器204の出力を比較器205で大小の規制値と比較してパルス幅変調信号PWMを出力する、所謂自励発振型パルス幅変調回路を構成した。本実施例では、変調部26の出力である変調信号PWMを積分器204に帰還し、積分器204では、差分信号Diffと変調信号PWMの差分値を積分するように設定することで、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形精度を向上することができる。
本実施形態の容量性負荷駆動装置及びインクジェットプリンターでは、変調部26に、積分器204と、積分器204の出力を変調信号PWMに変換する比較器205とを備え、積分器204が、減算部25の差分信号Diffと変調信号PWMとの差分を積分して出力するように構成したことにより、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形精度が向上する。
図16には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第5実施例を示す。本実施例でも、前記第4実施例と同様に、変調部26に積分器204(積分部)を用い、この積分器204の出力を比較器205で大小の規制と比較してパルス幅変調信号PWMを出力する自励発振型パルス幅変調回路を構成した。そして、前記積分器204には、デジタル電力増幅回路27の出力である電力増幅変調信号APWMを帰還し、積分器204では、差分信号Diffと電力増幅変調信号APWMとの差分値を積分するように設定した。この電力増幅変調信号APWMは、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に対して位相遅れがないので系が更に安定すると共に、電源電圧VDDの変動によって変化してしまう電力増幅変調信号APWMを補償することが可能となり、電源電圧VDDの変動に伴う駆動信号COM(駆動パルスPCOM)の波形精度を確保することができる。
本実施形態の容量性負荷駆動装置及びインクジェットプリンターでは、変調部26に、積分器204と、積分器204の出力を変調信号PWMに変換する比較器205とを備え、積分器204が、減算部25の差分信号Diffと電力増幅変調信号APWMとの差分を積分して出力するように構成している。これによって、位相遅れのない電力増幅変調信号APWMを帰還することにより系が更に安定すると共に、デジタル電力増幅回路27への電源電圧VDDの変動を補償することができる。
図17には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第6実施例を示す。本実施例では、前述したように駆動波形信号生成部24から変調部26までを演算処理によって構築する。具体的には、前記図3の制御装置11の制御部13内にプログラミングによって構築する。なお、これ以後、本実施形態では、何れの実施例でも駆動波形信号生成部24から変調部26までを演算処理によって構築する。図17の第1帰還回路201及び第2帰還回路の構成は、前記第1実施形態のそれと同様であるが、夫々に、演算処理に必要なデジタル化のためのアナログ−デジタル変換器(A/D変換器)206が介装されている。第1帰還回路201では、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をデジタル値に変換して帰還し、それを減算部25で駆動波形信号WCOMから減算し、更にその減算値から、第2帰還回路202から帰還された平滑フィルター28のコンデンサーCの電流値のデジタル値を減算し、その減算値を差分信号Diffとして変調部26に入力する。変調部26も、デジタル値を用いたプログラミングで構成されており、前記差分信号Diffをパルス変調して変調信号PWMを出力する。このように、駆動波形信号生成部24から変調部26までをデジタル化することにより、実質的な回路構成を簡略化することができる。
図18には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第7実施例を示す。本実施例では、前記図7の第6実施例のアクチュエーター駆動回路の駆動波形信号生成部24と減算部25の間に前述した逆フィルター203を介装した。逆フィルター203をプログラミングによって構築する手法も、前記国際公開公報WO2007/083669に詳細に記載されている。本実施例のアクチュエーター駆動回路では、前記第3実施形態の効果及び第6実施形態の効果を合わせて得ることができる。
図19には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第8実施例を示す。本実施例では、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)だけを帰還し、この駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をA/D変換器206でデジタル値に変換する。このデジタル値に変換された駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をそのまま第1帰還信号として減算部25に帰還するのが第1帰還回路201となる。一方、デジタル値に変換された駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を位相進み部207で位相を進ませ、その信号を第2帰還信号として減算部25に帰還するのが第2帰還回路202となる。本実施例のアクチュエーター駆動回路では、より一層、実質的な回路構成を簡略化することができる。
図20には、本実施形態のアクチュエーター駆動回路の第9実施例を示す。本実施例では、前記図19の第8実施例のアクチュエーター駆動回路の駆動波形信号生成部24と減算部25の間に前述した逆フィルター203を介装した。本実施例のアクチュエーター駆動回路では、前記第3実施例の効果及び第8実施例の効果を合わせて得ることができる。
なお、前記実施形態では、本発明の容量性負荷駆動装置をラインヘッド型のインクジェットプリンターに用いた場合についてのみ詳述したが、本発明の容量性負荷駆動装置は、マルチパス型のインクジェットプリンターにも同様に適用可能である。
次に、本発明の容量性負荷駆動装置の第2実施形態として、液体噴射装置に適用されたものについて説明する。以下の実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成については第1実施形態と同じ符号を付し、その説明を省略する。
図21は、本実施形態に係る液体噴射装置の概略構成の一例を示す説明図である。本実施形態の液体噴射装置は、例えば細密な物体及び構造物の洗浄、手術用メスなど様々に採用可能であるが、以下に説明する実施形態では、血管内に挿入し、血栓などを除去する目的で用いるカテーテルの先端に設置することに適した液体噴射装置、或いは生体組織を切開又は切除することに好適な液体噴射装置を例示して説明する。従って、実施形態にて用いる液体は、水又は生理食塩水であり、以降、これらを総称して液体と表す。
図21において、液体噴射装置36は、基本構成として液体を一定圧力で供給する液体供給部としてのポンプを含む液体噴射制御部37と、液体を脈動に変化させる液体噴射部38と、液体噴射制御部37と液体噴射部38とを連通するチューブ39とを備えている。液体噴射部38は、液体を脈動に変化させて液滴40としてパルス状に高速噴射させる。後述するように、液体噴射部38の内部にはアクチュエーターとして容量性負荷からなる圧電素子を備え、圧電素子に駆動信号を入力する接続線が接続され、その接続線がチューブ39内に挿通されている。接続線は、液体噴射制御部37の近傍又は内部において、分岐部41によってチューブ39から分岐され、接続配線42として液体噴射制御部37の駆動回路部に接続される。また、チューブ39は、液体噴射制御部37に含まれるポンプに接続されている。
続いて、液体噴射部38の構成について図22用いて説明する。図22は液体噴射部38の縦断面図である。液体噴射部38の先端部47には液体を噴射する液体噴射開口部48が開口され、基端部49には柔軟性を有するチューブ39が嵌着されている。液体噴射部38の内部には、その壁面の一部がダイヤフラム52、63にて構成された液体室71が設けられている。液体室71は、出口流路75を介して液体噴射開口部48に接続され、入口流路74を介してチューブ39と接続されている。また、ダイヤフラム52、63には、それぞれ圧電素子53、64が接合されている。圧電素子53、64に駆動信号が入力されると、圧電素子53、64の伸縮によってダイヤフラムが変形し、液体室71の容積が変更されるように構成されている。
続いて、液体噴射装置36の液体流動について図21、図22を用いて説明する。液体噴射制御部37には、図示しない液体容器と、液体容器に接続されたポンプを有している。ポンプは、液体をチューブ39に送出する。液体容器に収容されている液体は、ポンプによって一定の圧力でチューブ39、入口流路74を介して液体室71に供給される。ここで、圧電素子53、64に駆動信号を入力し、圧電素子53、64を伸縮させると、ダイヤフラム52、63は液体室71の容積を変形させる。その結果、液体室71内の圧力が変動するため、出口流路75を通じて液体噴射開口部48からパルス状の液体吐出、つまり高速のパルス状液滴の噴射が発生する。
図23には、前記液体噴射制御部37内に設けられたアクチュエーター駆動制御装置77を示す。本実施形態の液体噴射装置のアクチュエーターは圧電素子53、64であり、前記第1実施形態と同様に容量性負荷でもある。このアクチュエーター駆動制御装置77は、前記第1実施形態の制御装置と同様に、ホストコンピューター12から入力された入力データやコマンドを読込み、その入力データやコマンドに基づいて所定の演算処理を実行するコンピューターシステムで構成される制御部13と、制御部13からの制御信号に応じて圧電素子53、64を駆動制御するアクチュエータードライバー78とを備えて構成される。制御部13は、前記第1実施形態と同様に、CPU13a、RAM13b、ROM13cを備えている。
図24には、前記アクチュエーター駆動制御装置77内のアクチュエータードライバー78から圧電素子53、64に供給され、それら圧電素子53、64からなるアクチュエーターを駆動するための駆動信号COMの一例を示す。本実施形態のような液体噴射装置では、前述の説明から分かるように、種々の駆動信号を用いることが可能であるが、本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、中間電圧を中心に電圧が変化する台形波電圧信号とした。この駆動信号COMは、電圧の立上がり部分が液体室71の容積を拡大して液体を引込む段階であり、電圧の立下がり部分が液体室71の容積を縮小して液体を押出す段階である。
従って、前記アクチュエータードライバー78内に構築されたアクチュエーター駆動回路には、前記第1実施形態の第1〜第9実施例のアクチュエーター駆動回路を、アクチュエーターを圧電素子53、64に変更して、そのまま用いることができる。その場合、前述したように2次のローパスフィルターで構成される平滑フィルター28の共振を、第1帰還信号及び第2帰還信号により有効に減衰することができる。また、1つのアクチュエーター駆動回路に対し、それぞれ静電容量の異なる圧電素子53、64をランダムに接続し、駆動される場合には、前記第1実施形態と同様に、平滑フィルター28に接続される圧電素子53、64によって平滑フィルター28及び駆動される圧電素子53、64の静電容量からなるフィルターの周波数特性が変化し、駆動信号COMの波形に歪みが生じる。そのような場合に、前記第1実施形態の第1〜第9実施例のアクチュエーター駆動回路では、駆動信号COMの波形歪みを抑制防止することができる。また、個々の実施例に応じた効果も同様に得られる。尚、前記第1実施形態の第3、第7、第9実施例については、接続される圧電素子53、64の静電容量に応じて、ゲインの減少によって減衰されてしまう成分を強調するように逆フィルター203で駆動波形信号WCOMを補正する。
このように、本実施形態の容量性負荷駆動装置を用いた液体噴射装置でも、容量性負荷である圧電素子53、64に駆動信号COMを印加するとダイヤフラム52、63を介して液体室71の容積が縮小されて当該液体室71内の液体を噴射する。この場合に、減算部25から出力される駆動波形信号WCOMと2つの帰還信号Refとの差分信号Diffをパルス変調して変調信号PWMとし、その変調信号PWMをデジタル電力増幅回路27で電力増幅して電力増幅変調信号APWMとし、その電力増幅変調信号APWMを平滑フィルター28で平滑化して圧電素子53、64の駆動信号COMとする。そして、駆動信号COMそのものを第1帰還信号として減算部25に帰還すると共に、駆動信号COMの位相を進めて第2帰還信号として減算部25に帰還することにより、駆動信号COMの比例・微分フィードバックが可能となり、駆動信号COMの波形を十分に補償することができ、高精度な液体噴射が可能となる。
次に、本発明の容量性負荷駆動装置の第3実施形態として、前記第2実施形態の液体噴射装置とは異なるタイプの液体噴射装置に適用されたものについて説明する。以下の実施形態の説明において、第1実施形態または第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
図25は、本実施形態に係る液体噴射装置の概略構成の一例を示す説明図である。本実施形態の液体噴射装置は、例えば細密な物体及び構造物の洗浄、手術用メスなど様々に採用可能であるが、以下に説明する実施形態では、生体組織を切開又は切除することに好適な液体噴射装置を例示して説明する。従って、実施形態にて用いる液体は、水又は生理食塩水であり、以降、これらを総称して液体と表す。
図25において、液体噴射システム79は、基本構成として、図示しない液体を収容する液体容器と圧力発生部としてのポンプとを含む液体噴射制御部37と、ポンプから供給される液体を脈動噴射する液体噴射部38と、液体噴射部38とポンプを連通するチューブ39とから構成されている。液体噴射部38は、供給された液体を高圧、高い周波数で脈動噴射する脈動発生機構80と、脈動発生機構80に接続される接続流路管81とを有し、接続流路管81の先端部には流路の断面積が縮小された液体噴射開口部48を有するノズル82が装着されている。
次に、この液体噴射システム79における液体の流動について説明する。液体噴射制御部37に備えられる液体容器に収容された液体は、ポンプにより一定の圧力でチューブ39を介して脈動発生機構80に供給される。脈動発生機構80には、後述する液体室71と、この液体室71の容積変更手段とを備えており、容積変更手段を駆動し、脈動発生して液体噴射開口部48から液体を高速でパルス状に噴射する。脈動発生機構80の詳しい説明については、図26を用いて後述する。なお、この液体噴射システム79を用いて手術する際には、術者が把持する主たる部位は脈動発生機構80である。
続いて、前記液体噴射部38の構成について説明する。図26は、本実施形態に係る脈動発生機構80の主たる構成を液体の流路方向に沿って切断した断面図である。液体噴射部38は、液体の脈動発生手段を含む脈動発生機構80と、液体を噴射する出口接続流路83とノズル82とを有する接続流路管81と、から構成されている。脈動発生機構80は、その内部に液体室71を有しており、液体室71の壁面の一部がダイヤフラム85によって構成されている。そして、ダイヤフラム85には、容積変更手段である積層型圧電素子98が上板106を介して固着されている。すなわち、圧電素子98に駆動信号が入力されると、圧電素子98の伸縮によってダイヤフラム85が変形し、液体室71の容積が変更される。このように、脈動発生機構80は、供給された液体を液体噴射開口部48からパルス状に噴射可能に構成されている。
図27には、前記液体噴射制御部37内に設けられたアクチュエーター駆動制御装置77を示す。本実施形態の液体噴射装置のアクチュエーターは圧電素子98であり、前記第2実施形態と同様に容量性負荷である。このアクチュエーター駆動制御装置77は、前記第2実施形態の制御装置と同様に、ホストコンピューター12から入力された入力データやコマンドを読込み、その入力データやコマンドに基づいて所定の演算処理を実行するコンピューターシステムで構成される制御部13と、制御部13からの制御信号に応じて圧電素子98を駆動制御するアクチュエータードライバー78とを備えて構成される。制御部13は、前記第1及び第2実施形態と同様に、CPU13a、RAM13b、ROM13cを備えている。また、図28には、前記アクチュエーター駆動制御装置77内のアクチュエータードライバー78から圧電素子98に供給され、それら圧電素子98からなるアクチュエーターを駆動するための駆動信号COMの一例を示す。本実施形態のような液体噴射装置では、前述の説明から分かるように、種々の駆動信号を用いることが可能であるが、本実施形態では、前記第2実施形態と同様に、中間電圧を中心に電圧が変化する台形波電圧信号とした。この駆動信号COMは、電圧の立上がり部分が液体室71の容積を拡大して液体を引込む段階であり、電圧の立下がり部分が液体室71の容積を縮小して液体を押出す段階である。
従って、前記アクチュエータードライバー78内に構築されたアクチュエーター駆動回路には、前記第1実施形態の第1〜第9実施例のアクチュエーター駆動回路を、アクチュエーターを圧電素子98に変更して、そのまま用いることができる。その場合、前述したように2次のローパスフィルターで構成される平滑フィルター28の共振を、第1帰還信号及び第2帰還信号により有効に減衰することができる。また、1つのアクチュエーター駆動回路に対し、それぞれ静電容量の異なる圧電素子98をランダムに接続し、駆動される場合には、前記第1実施形態と同様に、接続される圧電素子98によって平滑フィルター28及び駆動される圧電素子98の静電容量からなるフィルターの周波数特性が変化し、駆動信号COMの波形に歪みが生じる。そのような場合に、前記第1実施形態の第1〜第9実施例のアクチュエーター駆動回路では、駆動信号COMの波形歪みを抑制防止することができる。また、個々の実施例に応じた効果も同様に得られる。尚、前記第1実施形態の第3、第7、第9実施例については、接続される圧電素子98の静電容量に応じて、ゲインの減少によって減衰されてしまう成分を強調するように逆フィルター203で駆動波形信号WCOMを補正する。
このように、本実施形態の容量性負荷駆動装置を用いた液体噴射装置でも、容量性負荷である圧電素子98に駆動信号COMを印加するとダイヤフラム85を介して液体室71の容積が縮小されて当該液体室71内の液体を噴射する。この場合に、減算部25から出力される駆動波形信号WCOMと2つの帰還信号Refとの差分信号Diffをパルス変調して変調信号PWMとし、その変調信号PWMをデジタル電力増幅回路27で電力増幅して電力増幅変調信号APWMとし、その電力増幅変調信号APWMを平滑フィルター28で平滑化して圧電素子98の駆動信号COMとする。そして、駆動信号COMそのものを第1帰還信号として減算部25に帰還すると共に、駆動信号COMの位相を進めて第2帰還信号として減算部25に帰還することにより、駆動信号COMの比例・微分フィードバックが可能となり、駆動信号COMの波形を十分に補償することができ、高精度な液体噴射が可能となる。
なお、本発明の容量性負荷駆動装置を用いた液体噴射装置は、前記インクや生理食塩水以外の他の液体(液体以外にも、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルなどの流状体を含む)や液体以外の流体(流体として流して噴射できる固体など)を噴射する流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッサンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解の形態で含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられて試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。更に、時計やカメラなどの精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子などに用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するための紫外線硬化樹脂などの透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置であってもよい。また、基板などをエッチングするために酸又はアルカリなどのエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射する液体噴射式記録装置であってもよい。そして、これらのうち何れか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。