JP2014035184A - 回転磁界センサ - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気検出素子に磁気異方性が生じることによって生じる誤差を低減する。
【解決手段】回転磁界センサ1は、それぞれ信号S1,S2,S3を生成する検出回路10,20,30と、演算回路61,62を備えている。検出回路10は第1のMR素子を含み、検出回路30は第3のMR素子を含んでいる。検出回路20は、第1および第3のMR素子には設定されていない第1の磁気異方性が設定された第2のMR素子を含んでいる。第1の演算回路61は、第1のMR素子に生じた第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための補正情報を求める。第1の演算回路61は、同時刻に得られる信号S1,S2の対を信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲で回転したときに得られる信号対の推移の態様に基づいて、補正情報を求める。演算回路62は、信号S1,S3と補正情報を用いて検出値θsを算出する。
【選択図】図3
【解決手段】回転磁界センサ1は、それぞれ信号S1,S2,S3を生成する検出回路10,20,30と、演算回路61,62を備えている。検出回路10は第1のMR素子を含み、検出回路30は第3のMR素子を含んでいる。検出回路20は、第1および第3のMR素子には設定されていない第1の磁気異方性が設定された第2のMR素子を含んでいる。第1の演算回路61は、第1のMR素子に生じた第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための補正情報を求める。第1の演算回路61は、同時刻に得られる信号S1,S2の対を信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲で回転したときに得られる信号対の推移の態様に基づいて、補正情報を求める。演算回路62は、信号S1,S3と補正情報を用いて検出値θsを算出する。
【選択図】図3
Description
本発明は、回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度を検出する回転磁界センサに関する。
近年、自動車のスロットルバルブの開度の検出、自動車のステアリングの回転位置の検出、自動車のワイパーの回転位置の検出等の種々の用途で、対象物の回転位置を検出するために、回転磁界センサが広く利用されている。回転磁界センサは、対象物の回転位置を検出する場合に限らず、対象物の直線的な変位を検出する場合にも利用されている。回転磁界センサが用いられるシステムでは、一般的に、対象物の回転や直線的な運動に連動して方向が回転する回転磁界を発生する手段(例えば磁石)が設けられる。回転磁界センサは、磁気検出素子を用いて、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度を検出する。これにより、対象物の回転位置や直線的な変位が検出される。
回転磁界センサとして用いることの可能なセンサとしては、磁気検出素子として、磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果型磁気検出素子である磁気抵抗効果素子(以下、MR素子とも記す。)を用いたものが知られている。特許文献1ないし4には、磁気検出素子としてスピンバルブ型のMR素子を用いたセンサが記載されている。スピンバルブ型のMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。
磁気検出素子としてスピンバルブ型のMR素子を用いた回転磁界センサでは、特許文献4に記載されているように、MR素子の磁気特性のばらつきによって、検出角度に誤差が生じ得る。特許文献4には、MR素子の製造ばらつきに起因する検出角度の誤差を低減する技術が記載されている。この技術は、言わば、回転磁界センサの製品完成時における検出角度の誤差を低減する技術である。
回転磁界センサにおいて生じ得る検出角度の誤差には、上述のように製品完成時に有している誤差の他に、回転磁界センサの設置後に発現する誤差がある。このように回転磁界センサの設置後に検出角度の誤差が発現する原因の一つとしては、MR素子の自由層に後天的に誘導磁気異方性が生じることが挙げられる。このような自由層の誘導磁気異方性は、例えば、MR素子に特定の方向の外部磁界が印加されたままで、MR素子の温度が高温から下降した場合に生じる。このような状況は、例えば、回転磁界センサが自動車内に設置され、且つ、自動車の非動作時には、回転磁界を発生する手段と回転磁界センサが特定の位置関係になる場合に生じ得る。より具体的には、自動車のワイパーのように、非動作時には決まった位置で停止する対象物の位置を検出するために回転磁界センサが用いられる場合に、上記の状況が生じ得る。
回転磁界センサには、設置後に、後天的に生じた誘導磁気異方性に起因して発現する検出角度の誤差を低減することが求められる。なお、ここまでは、磁気検出素子としてスピンバルブ型のMR素子を用いた回転磁界センサにおいて、回転磁界センサの設置後に、MR素子の自由層に後天的に誘導磁気異方性が生じる場合における問題点について説明してきた。しかし、この問題点は、磁気検出素子、特に磁気抵抗効果型磁気検出素子を含む回転磁界センサにおいて、磁気検出素子に何らかの磁気異方性が生じる場合の全般に当てはまる。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、磁気検出素子、特に磁気抵抗効果型磁気検出素子を含む回転磁界センサであって、磁気検出素子に磁気異方性が生じることによって検出値に生じる誤差を低減できるようにした回転磁界センサを提供することにある。
本発明の回転磁界センサは、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する検出値を生成するものである。基準位置における回転磁界の方向は、回転磁界センサから見て回転するものである。本発明の回転磁界センサは、第1の検出回路と、第2の検出回路と、第1の演算回路と、第2の演算回路とを備えている。
第1の検出回路は、第1の磁気検出素子を含み、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号を生成する。第2の検出回路は、第2の磁気検出素子を含み、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号を生成する。第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第1および第2の磁気検出素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定されている。
第1の演算回路は、第1の磁気検出素子に生じた第2の磁気異方性に起因して検出値に生じる誤差を補正するための補正情報を求めるものである。また、第1の演算回路は、同時刻に得られる第1の信号と第2の信号の対を信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲で回転する過程で得られる信号対の推移の態様に基づいて、補正情報を求める。第2の演算回路は、第1の信号および補正情報を用いて、補正された検出値を算出する。
本発明の回転磁界センサにおいて、第1の磁気異方性は、第1および第2の磁気検出素子のうちの少なくとも第2の磁気検出素子に設定されていてもよい。この場合、第2の磁気検出素子は、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する磁性層を含み、第1の磁気異方性は、磁性層の形状磁気異方性によって設定されていてもよい。また、第2の磁気検出素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有していてもよい。この場合、第1の磁気異方性は、自由層の形状磁気異方性によって設定されてもよい。また、自由層の磁化容易軸方向は、磁化固定層の磁化方向に対して平行ではなく且つ直交していないものであってもよい。
また、本発明の回転磁界センサにおいて、第1の演算回路は、信号対を直交座標系における座標で表し、信号対の推移を2次元パターン情報で表してもよい。この場合、第1の演算回路は、2次元パターン情報と補正情報との対応関係の情報を保持し、パターン認識を用いて、2次元パターン情報に対応する補正情報を求めてもよい。
また、本発明の回転磁界センサにおいて、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度をθとし、補正情報をAおよびαとしたとき、第1の信号は、θ−Asin{2(θ−α)}を変数とした三角関数で表されるものであってもよい。
また、本発明の回転磁界センサは、更に、第3の検出回路を備えていてもよい。第3の検出回路は、第3の磁気検出素子を含み、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第3の信号を生成する。第3の信号の位相は、第1の信号の位相と異なっている。この場合、第2の演算回路は、第1の信号および補正情報に加えて第3の信号を用いて、補正された検出値を算出してもよい。
あるいは、本発明の回転磁界センサは、更に、第3の検出回路、第4の検出回路および第3の演算回路を備えていてもよい。第3の検出回路は、第3の磁気検出素子を含み、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第3の信号を生成する。第4の検出回路は、第4の磁気検出素子を含み、基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第4の信号を生成する。第3の信号の位相は、第1の信号の位相と異なっている。第3の信号と第4の信号における第3の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第3および第4の磁気検出素子の少なくとも一方に第3の磁気異方性が設定されている。第3の演算回路は、第3の磁気検出素子に生じた第4の磁気異方性に起因して検出値に生じる誤差を補正するための第2の補正情報を求めるものである。第3の演算回路は、同時刻に得られる第3の信号と第4の信号の対を第2の信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲で回転する過程で得られる第2の信号対の推移の態様に基づいて、第2の補正情報を求める。この場合、第2の演算回路は、第1の信号および補正情報に加えて第3の信号および第2の補正情報を用いて、補正された検出値を算出してもよい。
本発明の回転磁界センサでは、第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第1および第2の磁気検出素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定されている。第1の磁気検出素子に第2の磁気異方性が生じると、信号対の推移の態様は、第2の磁気異方性の態様によって変化する。従って、信号対の推移の態様から、第2の磁気異方性に関する情報を得ることが可能である。この情報は、第2の磁気異方性に起因して検出値に生じる誤差を補正するための補正情報となる。本発明では、第1の演算回路によって、信号対の推移の態様に基づいて補正情報を求め、第2の演算回路によって、第1の信号および補正情報を用いて、補正された検出値を算出する。これにより、本発明によれば、磁気検出素子に磁気異方性が生じることによって検出値に生じる誤差を低減することが可能になるという効果を奏する。
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成を示す斜視図である。図2は、本実施の形態における方向と角度の定義を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成を示す斜視図である。図2は、本実施の形態における方向と角度の定義を示す説明図である。
図1に示したように、本実施の形態に係る回転磁界センサ1は、回転磁界MFを検出するものである。ここで、基準平面、基準位置および基準方向を、以下のように想定する。基準平面は、回転磁界センサ1と所定の位置関係を有する仮想の平面である。基準位置は、基準平面内に位置する。基準方向は、基準平面内に位置して、基準位置と交差する。基準位置における回転磁界MFの方向であって基準平面内に位置する方向は、回転磁界センサ1から見て、基準位置を中心として回転する。以下の説明において、基準位置における回転磁界MFの方向とは、基準平面内に位置する方向を指す。回転磁界センサ1は、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する検出値を生成する。
図1には、回転磁界MFを発生する手段の例として、円柱形状の磁石5を示している。この磁石5は、円柱の中心軸を含む仮想の平面を中心として対称に配置されたN極とS極とを有している。この磁石5は、円柱の中心軸を中心として回転する。磁石5は、円柱の中心軸方向の両端に位置する2つの端面を有している。回転磁界センサ1は、磁石5の一方の端面に対向するように配置されている。本実施の形態では、基準平面は、例えば、磁石5の一方の端面に平行な平面である。また、基準位置は、例えば、回転磁界センサ1が回転磁界MFを検出する位置である。基準位置は、円柱の中心軸を含む回転中心Cと基準平面とが交差する位置であってもよい。この場合、磁石5が回転すると、基準位置における回転磁界MFの方向は、回転磁界センサ1から見て、基準位置を中心として回転する。
なお、回転磁界MFを発生する手段と回転磁界センサ1の構成は、図1に示した例に限られない。回転磁界MFを発生する手段と回転磁界センサ1は、基準位置における回転磁界MFの方向が回転磁界センサ1から見て回転するように、回転磁界MFを発生する手段と回転磁界センサ1の相対的位置関係が変化するものであればよい。例えば、図1に示したように配置された磁石5と回転磁界センサ1において、磁石5が固定されて回転磁界センサ1が回転してもよいし、磁石5と回転磁界センサ1が互いに反対方向に回転してもよいし、磁石5と回転磁界センサ1が同じ方向に互いに異なる角速度で回転してもよい。
また、磁石5の代わりに、1組以上のN極とS極が交互にリング状に配列された磁石を用い、この磁石の外周の近傍に回転磁界センサ1が配置されていてもよい。この場合には、磁石と回転磁界センサ1の少なくとも一方が回転すればよい。
また、磁石5の代わりに、複数組のN極とS極が交互に直線状に配列された磁気スケールを用い、この磁気スケールの外周の近傍に回転磁界センサ1が配置されていてもよい。この場合には、磁気スケールと回転磁界センサ1の少なくとも一方が、磁気スケールのN極とS極が並ぶ方向に直線的に移動すればよい。なお、この例については、後で第2の実施の形態として詳しく説明する。
上述の種々の回転磁界MFを発生する手段と回転磁界センサ1の構成においても、基準平面、基準位置および基準方向を想定可能である。
回転磁界センサ1は、第1の検出回路10、第2の検出回路20および第3の検出回路30を備えている。第1の検出回路10は、第1の磁気検出素子を含んでいる。第2の検出回路20は、第2の磁気検出素子を含んでいる。第3の検出回路30は、第3の磁気検出素子を含んでいる。図1では、理解を容易にするために、第1ないし第3の検出回路10,20,30を別体として描いているが、第1ないし第3の検出回路10,20,30は一体化されていてもよい。また、図1では、第1ないし第3の検出回路10,20,30が回転中心Cに平行な方向に積層されているが、その積層順序は図1に示した例に限られない。
第1の検出回路10は、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号を生成する。第2の検出回路20は、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号を生成する。第3の検出回路30は、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第3の信号を生成する。
なお、本実施の形態において、検出回路10,20,30の空間上の位置は、厳密には一致しない。同様に、検出回路10,20,30に含まれる第1ないし第3の磁気検出素子の空間上の位置も、厳密には一致しない。しかし、空間上において回転磁界MFの方向が同じになる領域の大きさに比べると、検出回路10,20,30の空間上の位置の差は十分に小さい。そのため、検出回路10,20,30のそれぞれの位置における回転磁界MFの方向は、実質的に同じである。従って、検出回路10,20,30内の任意の位置を基準位置とすることによって、検出回路10,20,30は、それぞれ、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号、第2の信号、第3の信号を生成することができる。
基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第1ないし第3の信号は、検出した上記角度の値を示すものであってもよいし、上記角度に連動して変化する値を示すものであってもよい。後で詳しく説明するが、本実施の形態では、第1ないし第3の信号は、それぞれ、上記角度に連動して変化する値を示す信号であり、具体的には、基準位置における回転磁界MFの、所定の方向の成分の強度を示す信号である。
第1ないし第3の信号と同様に、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する検出値についても、検出した上記角度の値を示すものであってもよいし、上記角度に連動して変化する値を示すものであってもよい。後で詳しく説明するが、本実施の形態では、上記検出値は、検出した上記角度の値を示すものである。
ここで、図2を参照して、本実施の形態における方向と角度の定義について説明する。まず、図1に示した回転中心Cに平行で、磁石5の一方の端面から回転磁界センサ1に向かう方向をZ方向と定義する。次に、Z方向に垂直な2つの方向であって、互いに直交する2つの方向をX方向とY方向と定義する。図2では、X方向を右側に向かう方向として表し、Y方向を上側に向かう方向として表している。また、X方向とは反対の方向を−X方向と定義し、Y方向とは反対の方向を−Y方向と定義する。
ここでは、基準位置PRは、回転磁界センサ1が回転磁界MFを検出する位置とする。また、基準方向DRはX方向とする。基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度を記号θで表す。回転磁界MFの方向DMは、図2において反時計回り方向に回転するものとする。角度θは、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから時計回り方向に見たときに負の値で表す。
第1および第2の検出回路10,20は、基準位置PRにおける回転磁界MFの、第1の方向D1の成分を検出する。第3の検出回路30は、基準位置PRにおける回転磁界MFの、第2の方向D2の成分を検出する。本実施の形態は、第1の方向D1は、基準方向DR(X方向)から反時計回りに90°回転した方向であり、Y方向と一致している。第2の方向D2は、基準方向DRおよびX方向と一致している。
本実施の形態では、第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第1および第2の磁気検出素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定されている。第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動とは、第1および第2の磁気検出素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定されていることによって、第1および第2の磁気検出素子に第1の磁気異方性が設定されていない場合と比較して、第1の信号と第2の信号に生じる変動を言う。
第1の磁気異方性は、第1および第2の磁気検出素子のうちの少なくとも第2の磁気検出素子に設定されていてもよい。本実施の形態では、特に、第1および第3の磁気検出素子には第1の磁気異方性が設定されずに、第2の磁気検出素子に第1の磁気異方性が設定されている。この場合、第1および第3の信号には、第1の磁気異方性に起因する変動は生じないが、第2の信号には、第1の磁気異方性に起因する変動が生じる。その結果、第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
また、本実施の形態では、第1の磁気異方性は、第2の磁気検出素子が含む磁性層の形状磁気異方性によって設定されている。図2において、符号11,21,31は、それぞれ、第1の磁気検出素子、第2の磁気検出素子、第3の磁気検出素子が含む磁性層の平面形状(上から見た形状)を表している。図2に示したように、本実施の形態では、例えば、第1および第3の磁気検出素子の磁性層の平面形状を円形とし、第2の磁気検出素子の磁性層の平面形状を楕円形とすることによって、第1および第3の磁気検出素子には設定されていない、形状異方性による第1の磁気異方性を、第2の磁気検出素子に設定している。
図2において、符号DA1を付した破線は、第2の磁気検出素子に設定された第1の磁気異方性による磁化容易軸方向、すなわち第2の磁気検出素子の磁性層の平面形状である楕円の長軸方向を表している。ここで、基準方向DRから反時計回り方向に見たときの、方向DA1が基準方向DRに対してなす角度を、記号βで表す。角度βは、0°以上、180°未満である。
第1ないし第3の磁気検出素子には、第1の磁気異方性とは異なる第2の磁気異方性が、例えば後天的に生じる。第2の磁気異方性は、例えば誘導磁気異方性によるものである。この第2の磁気異方性は、例えば、第1ないし第3の磁気検出素子に特定の方向の外部磁界が印加されたままで、第1ないし第3の磁気検出素子の温度が高温から下降した場合に生じる。図2において、符号DA2を付した破線は、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向を表している。ここで、基準方向DRから反時計回り方向に見たときの、方向DA2が基準方向DRに対してなす角度を、記号αで表す。角度αは、0°以上、180°未満である。
次に、図3を参照して、回転磁界センサ1の構成について詳しく説明する。図3は、回転磁界センサ1の構成を示す回路図である。第1の検出回路10は、角度θと対応関係を有する第1の信号S1を生成する。第2の検出回路20は、角度θと対応関係を有する第2の信号S2を生成する。第3の検出回路30は、角度θと対応関係を有する第3の信号S3を生成する。第1および第2の信号S1,S2は、基準位置PRにおける回転磁界MFの、第1の方向D1の成分の強度に対応した信号である。第3の信号S3は、基準位置PRにおける回転磁界MFの、第2の方向D2の成分の強度に対応した信号である。
第1ないし第3の信号S1〜S3は、互いに等しい信号周期Tで周期的に変化する。第1および第3の磁気検出素子に第2の磁気異方性が生じていない状態では、第1および第3の信号S1,S3の波形は、理想的には、正弦曲線(サイン(Sine)波形とコサイン(Cosine)波形を含む)となる。第1および第3の磁気検出素子に第2の磁気異方性が生じると、第1および第3の信号S1,S3の波形は、正弦曲線から歪む。
第2の信号S2の波形は、少なくとも第1の磁気異方性に起因して、正弦曲線から歪む。第2の磁気検出素子に第2の磁気異方性が生じると、第2の信号S2の波形は、第1および第2の磁気異方性に起因して、正弦曲線から歪む。
第3の信号S3の位相は、第1の信号S1の位相と異なっている。本実施の形態では、第3の信号S3の位相は、第1の信号S1の位相に対して、信号周期Tの1/4の奇数倍だけ異なっていることが好ましい。ただし、磁気検出素子の作製の精度等の観点から、第1の信号S1と第3の信号S3の位相差は、信号周期Tの1/4の奇数倍から、わずかにずれていてもよい。以下の説明では、第1の信号S1の位相と第3の信号S3の位相の関係が上記の好ましい関係になっているものとする。
第1の検出回路10は、第1の信号S1を出力する出力端を有している。第2の検出回路20は、第2の信号S2を出力する出力端を有している。第3の検出回路30は、第3の信号S3を出力する出力端を有している。図3に示したように、回転磁界センサ1は、更に、第1の演算回路61と、第2の演算回路62とを備えている。第1および第2の演算回路61,62は、それぞれ、2つの入力端と1つの出力端とを有している。第1の演算回路61の2つの入力端は、それぞれ、第1および第2の検出回路10,20の各出力端に接続されている。第2の演算回路62の2つの入力端は、それぞれ、第3の検出回路30と第1の演算回路61の各出力端に接続されている。
第2の演算回路62は、角度θと対応関係を有する検出値θsを算出する。本実施の形態では、検出値θsは、回転磁界センサ1によって検出された角度θの値である。第1および第2の演算回路61,62は、例えば、1つのマイクロコンピュータによって実現することができる。第1および第2の演算回路61,62の作用と、検出値θsの算出方法については、後で詳しく説明する。
第1の検出回路10は、ホイートストンブリッジ回路14と、差分検出器15とを有している。ホイートストンブリッジ回路14は、電源ポートV1と、グランドポートG1と、2つの出力ポートE11,E12と、直列に接続された第1の対の磁気検出素子R11,R12と、直列に接続された第2の対の磁気検出素子R13,R14とを含んでいる。磁気検出素子R11,R13の各一端は、電源ポートV1に接続されている。磁気検出素子R11の他端は、磁気検出素子R12の一端と出力ポートE11に接続されている。磁気検出素子R13の他端は、磁気検出素子R14の一端と出力ポートE12に接続されている。磁気検出素子R12,R14の各他端は、グランドポートG1に接続されている。電源ポートV1には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG1はグランドに接続される。差分検出器15は、出力ポートE11,E12の電位差に対応する信号である第1の信号S1を第1の演算回路61に出力する。
第2の検出回路20の回路構成は、第1の検出回路10と同様である。すなわち、第2の検出回路20は、ホイートストンブリッジ回路24と、差分検出器25とを有している。ホイートストンブリッジ回路24は、電源ポートV2と、グランドポートG2と、2つの出力ポートE21,E22と、直列に接続された第1の対の磁気検出素子R21,R22と、直列に接続された第2の対の磁気検出素子R23,R24とを含んでいる。磁気検出素子R21,R23の各一端は、電源ポートV2に接続されている。磁気検出素子R21の他端は、磁気検出素子R22の一端と出力ポートE21に接続されている。磁気検出素子R23の他端は、磁気検出素子R24の一端と出力ポートE22に接続されている。磁気検出素子R22,R24の各他端は、グランドポートG2に接続されている。電源ポートV2には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG2はグランドに接続される。差分検出器25は、出力ポートE21,E22の電位差に対応する信号である第2の信号S2を第1の演算回路61に出力する。
第3の検出回路30の回路構成は、第1の検出回路10と同様である。すなわち、第3の検出回路30は、ホイートストンブリッジ回路34と、差分検出器35とを有している。ホイートストンブリッジ回路34は、電源ポートV3と、グランドポートG3と、2つの出力ポートE31,E32と、直列に接続された第1の対の磁気検出素子R31,R32と、直列に接続された第2の対の磁気検出素子R33,R34とを含んでいる。磁気検出素子R31,R33の各一端は、電源ポートV3に接続されている。磁気検出素子R31の他端は、磁気検出素子R32の一端と出力ポートE31に接続されている。磁気検出素子R33の他端は、磁気検出素子R34の一端と出力ポートE32に接続されている。磁気検出素子R32,R34の各他端は、グランドポートG3に接続されている。電源ポートV3には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG3はグランドに接続される。差分検出器35は、出力ポートE31,E32の電位差に対応する信号である第3の信号S3を第2の演算回路62に出力する。
本実施の形態では、ホイートストンブリッジ回路(以下、ブリッジ回路と記す。)14,24,34に含まれる全ての磁気検出素子として、磁気抵抗効果型磁気検出素子であるMR素子、特にスピンバルブ型のMR素子を用いている。スピンバルブ型のMR素子は、TMR素子でもよいし、GMR素子でもよい。TMR素子またはGMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。TMR素子またはGMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。以下の説明では、ブリッジ回路14,24,34に含まれる磁気検出素子をMR素子と記す。また、第1ないし第3の磁気検出素子を、第1ないし第3のMR素子と記す。図3において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表し、白抜きの矢印は、MR素子における自由層の磁化の方向を表している。
第1の検出回路10では、MR素子R11,R14における磁化固定層の磁化の方向は、第1の方向D1(Y方向)に平行な方向であり、MR素子R12,R13における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子R11,R14における磁化固定層の磁化の方向とは反対の方向である。図2において、符号DP1を付した矢印は、MR素子R11,R14における磁化固定層の磁化の方向を表している。この場合、回転磁界MFの第1の方向D1(Y方向)の成分の強度に応じて、出力ポートE11,E12の電位差が変化する。従って、第1の検出回路10は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す第1の信号S1を出力する。
第2の検出回路20では、MR素子R21,R24における磁化固定層の磁化の方向は、第1の方向D1(Y方向)に平行な方向であり、MR素子R22,R23における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子R21,R24における磁化固定層の磁化の方向とは反対の方向である。図2において、符号DP2を付した矢印は、MR素子R21,R24における磁化固定層の磁化の方向を表している。この場合、回転磁界MFの第1の方向D1(Y方向)の成分の強度に応じて、出力ポートE21,E22の電位差が変化する。従って、第2の検出回路20は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す第2の信号S2を出力する。
第3の検出回路30では、MR素子R31,R34における磁化固定層の磁化の方向は、第2の方向D2(X方向)に平行な方向であり、MR素子R32,R33における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子R31,R34における磁化固定層の磁化の方向とは反対の方向である。図2において、符号DP3を付した矢印は、MR素子R31,R34における磁化固定層の磁化の方向を表している。この場合、回転磁界MFの第2の方向D2(X方向)の成分の強度に応じて、出力ポートE31,E32の電位差が変化する。従って、第3の検出回路30は、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度を検出して、その強度を表す第3の信号S3を出力する。
なお、検出回路10,20,30内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
次に、図2、図5および図6を参照して、MR素子の構成の一例と、第1の磁気異方性について説明する。図5は、第1および第3のMR素子の一部を示す斜視図である。この例では、第1および第3のMR素子は、複数の下部電極と、複数のMR膜と、複数の上部電極とを有している。複数の下部電極42は図示しない基板上に配置されている。個々の下部電極42は細長い形状を有している。下部電極42の長手方向に隣接する2つの下部電極42の間には、間隙が形成されている。図5に示したように、下部電極42の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR膜50が配置されている。
MR膜50は、下部電極42側から順に積層された自由層51、非磁性層52、磁化固定層53および反強磁性層54を含んでいる。図5に示した例では、MR膜50は、円柱形状を有している。この場合、自由層51の平面形状は円形になる。自由層51は、下部電極42に電気的に接続されている。反強磁性層54は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層53との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層53の磁化の方向を固定する。複数の上部電極43は、複数のMR膜50の上に配置されている。個々の上部電極43は細長い形状を有し、下部電極42の長手方向に隣接する2つの下部電極42上に配置されて隣接する2つのMR膜50の反強磁性層54同士を電気的に接続する。このような構成により、図5に示したMR素子は、複数の下部電極42と複数の上部電極43とによって直列に接続された複数のMR膜50を有している。なお、MR膜50における層51〜54の配置は、図5に示した配置とは上下が反対でもよい。
図6は、第2のMR素子の一部を示す斜視図である。第2のMR素子の構成は、基本的には、第1および第3のMR素子の構成と同じである。ただし、第2のMR素子では、MR膜50の形状が、第1および第3のMR素子におけるMR膜50の形状とは異なっている。図6に示した例では、MR膜50は、楕円柱形状を有している。この場合、自由層51の平面形状は楕円形になる。
このように、本実施の形態では、第1および第3のMR素子の自由層51の平面形状を円形とし、第2のMR素子の自由層51の平面形状を楕円形とすることによって、第1および第3のMR素子には設定されていない、形状異方性による第1の磁気異方性を、第2のMR素子に設定している。
第2のMR素子において、自由層51の平面形状である楕円の長軸方向が、自由層51の磁化容易軸方向となる。この自由層51の磁化容易軸方向は、図2に示した第1の磁気異方性による磁化容易軸方向DA1と一致する。第2のMR素子において、自由層51の磁化容易軸方向は、磁化固定層53の磁化方向(第1の方向D1)に対して平行ではなく且つ直交していないことが好ましい。
なお、MR膜50の形状は、図5および図6に示した例に限られない。例えば、第1および第3のMR素子におけるMR膜50は、上面が正方形の角柱形状を有していてもよいし、第2のMR素子におけるMR膜50は、上面が長方形の角柱形状を有していてもよい。
次に、第1および第3の信号S1,S3の波形について説明する。図3に示した例では、第1および第3のMR素子に第2の磁気異方性が生じていない状態では、理想的には、第3のMR素子の磁化固定層の磁化方向は、第1のMR素子の磁化固定層の磁化方向に直交している。この場合、理想的には、第1の信号S1の波形は、角度θに依存したサイン(Sine)波形になり、第3の信号S3の波形は、角度θに依存したコサイン(Cosine)波形になる。この場合、第3の信号S3の位相は、第1の信号S1の位相に対して、信号周期Tの1/4すなわちπ/2(90°)だけ異なっている。
角度θが0°よりも大きく180°よりも小さいときは、第1の信号S1は正の値であり、角度θが180°よりも大きく360°よりも小さいときは、第1の信号S1は負の値である。また、角度θが0°以上90°未満のとき、および270°より大きく360°以下のときは、第3の信号S3は正の値であり、角度θが90°よりも大きく270°よりも小さいときは、第3の信号S3は負の値である。
上述のように、本実施の形態では、第1および第3のMR素子に第2の磁気異方性が生じていない状態では、第1および第3の信号S1,S3の波形は、理想的には正弦曲線となる。しかし、第1および第3のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じると、第1および第3の信号S1,S3の波形は、正弦曲線から歪む。第1および第3のMR素子に生じる第2の磁気異方性は、MR素子の自由層51に生じる誘導磁気異方性によるものである。この自由層51の誘導磁気異方性は、例えば、MR素子に特定の方向の外部磁界が印加されたままで、MR素子の温度が高温から下降した場合に生じる。
第2の磁気異方性によって波形が歪んだ第1および第3の信号S1,S3は、近似的に、第2の磁気異方性に基づく角度変動項を含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第1および第3の信号S1,S3は、近似的に、下記の式(1)、(2)で表すことができる。
S1=sin[θ−Asin{2(θ−α)}] …(1)
S3=cos[θ−Asin{2(θ−α)}] …(2)
S3=cos[θ−Asin{2(θ−α)}] …(2)
上記の式(1)、(2)において、Asin{2(θ−α)}は、第2の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Aは振幅(角度変動の最大値)を表し、αはθに対する位相差を表している。なお、この角度変動項におけるαは、図2に示したαと同じものである。この角度変動項の周期は、信号周期Tの1/2、すなわちπ(180°)となる。
次に、第2の信号S2の波形について説明する。図3に示した例では、第2のMR素子の磁化固定層の磁化方向は、第1のMR素子の磁化固定層の磁化方向と一致している。この場合、第2の信号S2の波形は、第1の信号S1の波形と類似したものとなる。ただし、第2のMR素子には、第1のMR素子には設定されていない第1の磁気異方性が設定されていることから、この第1の磁気異方性に起因して、第2の信号S2の波形は、第1の信号S1の波形とは若干異なったものとなる。このようにして、第1の信号S1と第2の信号S2における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
第2のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じると、第2の信号S2の波形は、第1および第2の磁気異方性に起因して、正弦曲線から歪む。第1および第2の磁気異方性に起因して歪んだ第2の信号S2は、近似的に、第1の磁気異方性に基づく角度変動項と第2の磁気異方性に基づく角度変動項とを含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第2の信号S2は、近似的に、下記の式(3)で表すことができる。
S2=sin[θ−Asin{2(θ−α)}−Bsin{2(θ−β)}]…(3)
上記の式(3)において、Bsin{2(θ−β)}は、第1の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Bは振幅(角度変動の最大値)を表し、βはθに対する位相差を表している。なお、この角度変動項におけるβは、図2に示したβと同じものである。この角度変動項の周期は、信号周期Tの1/2、すなわちπ(180°)となる。第1の磁気異方性は任意に設定することができることから、Bおよびβの値も任意に設定することができる。
図7は、第1の信号S1の波形と第2の信号S2の波形の一例を示している。図7において、横軸は角度θを示し、縦軸は第1および第2の信号S1,S2の大きさ(電圧)を示している。符号71で示す波形は第1の信号S1の波形を示し、符号72で示す波形は、第2の信号S2の波形を示している。なお、図7に示した各波形は、式(1)、(3)を用いてシミュレーションによって作成したものである。このシミュレーションでは、式(1)、(3)におけるAを5°とし、式(1)、(3)におけるαを0°とし、式(3)におけるBを10°とし、式(3)におけるβを45°とした。図7に示したように、第2の信号S2の波形は、第1の信号S1の波形とは若干異なったものとなる。
次に、第1の演算回路61について説明する。第1の演算回路61は、第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための補正情報を求める。図4は、第1の演算回路61の構成の一例を示すブロック図である。この例では、第1の演算回路61は、信号対推移取得部61A、識別演算部61Bおよび識別辞書61Cを有している。第1の信号S1と第2の信号S2は、信号対推移取得部61Aに入力される。信号対推移取得部61Aは、同時刻に得られる第1の信号S1と第2の信号S2の対を信号対としたとき、回転磁界MFの方向DMが所定範囲で回転する過程で得られる信号対の推移を取得する。所定範囲は、360°でもよいし、後で説明する信号対の推移の態様から補正情報を求めることが可能であれば360°未満の範囲でもよい。以下の説明では、所定範囲を360°とする。
本実施の形態では、第1の演算回路61、特に信号対推移取得部61Aは、信号対を直交座標系における座標で表す。この直交座標系では、第1の信号S1の大きさ(電圧)を横軸とし、第2の信号S2の大きさ(電圧)を縦軸としている。信号対推移取得部61Aは、信号対の推移を、この直交座標系において描かれる2次元パターン情報で表す。
もし、第2の信号S2の波形が第1の信号S1の波形と一致していたら、上記直交座標系において、信号対の推移は、原点を通り、傾きが1の直線で描かれる。しかし、本実施の形態では、前述のように、第2の信号S2の波形が第1の信号S1の波形とは異なることから、上記直交座標系において、信号対の推移は、リサージュ曲線で描かれる。
図8の(a)、(b)、(c)は、信号対の推移の態様の3つの例を示している。図8の(a)、(b)、(c)において、横軸は第1の信号S1の大きさ(電圧)を示し、縦軸は第2の信号S2の大きさ(電圧)を示している。図8の(a)、(b)、(c)に示した3つのリサージュ曲線は、式(1)、(3)を用いてシミュレーションによって作成したものである。このシミュレーションでは、式(1)、(3)におけるαを0°とし、式(3)におけるBを10°とし、式(3)におけるβを45°とした。図8の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、式(1)、(3)におけるAが5°、10°、15°の場合におけるリサージュ曲線を示している。
図8に示したように、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)は、第2の磁気異方性の態様によって変化する。従って、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)から、第2の磁気異方性に関する情報を得ることが可能である。この情報は、第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための補正情報となる。より詳しく説明すると、第2の磁気異方性の態様は、式(1)、(3)におけるAとαの値の組み合わせによって決まる。以下、Aとαの値の組み合わせを(A,α)と表現する。本実施の形態では、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)から、(A,α)を特定することが可能であり、この(A,α)が補正情報となる。
図4に示したように、本実施の形態では、信号対推移取得部61Aは、信号対の推移を2次元パターン情報SPで表し、この2次元パターン情報SPと第1の信号S1を識別演算部61Bに出力する。2次元パターン情報SPは、例えば、図8に示したような直交座標系において描かれる画像を、有限の数の画素に分解し、画素毎に濃度を2値化して得られるデータである。
なお、以下の例外を除いて、(A,α)が異なれば、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)が異なる。例外は、βが90°の場合と0゜の場合、すなわち、第2のMR素子において、自由層51の磁化容易軸方向DA1が磁化固定層53の磁化方向(第1の方向D1)に対して平行な場合と直交している場合である。これらの場合には、Aが等しいという前提の下で、α=γ(γは0°より大きく90°より小さい)のときと、α=180°−γのときに、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)が等しくなる。そのため、第2のMR素子において、自由層51の磁化容易軸方向DA1は、磁化固定層53の磁化方向(第1の方向D1)に対して平行ではなく且つ直交していないことが好ましい。
第1の演算回路61は、信号対の推移の態様すなわち2次元パターン情報SPに基づいて、補正情報(A,α)を求め、この補正情報(A,α)と第1の信号S1を第2の演算回路62に出力する。本実施の形態では、第1の演算回路61は、パターン認識を用いて補正情報(A,α)を求める。以下、この補正情報(A,α)の求め方について具体的に説明する。
識別辞書61Cは、2次元パターン情報SPと補正情報(A,α)との対応関係の情報を保持している。識別辞書61Cは、2次元パターン情報SPと補正情報(A,α)との対応関係の情報として、具体的には、補正情報(A,α)に関する複数のクラスの各々と、クラス毎の1つ以上の2次元パターン情報のプロトタイプとの対応関係の情報を保持している。識別演算部61Bは、入力された2次元パターン情報SPを、識別辞書61Cと照合することによって、入力された2次元パターン情報SPが属するクラス、すなわち補正情報(A,α)を出力する。識別演算部61Bが出力する補正情報(A,α)において取り得るAの種類およびαの種類については、例えば、必要とされる検出角度の精度から逆算して決める。なお、後で、識別辞書61Cを作成する方法について詳しく説明する。
このように、第1の演算回路61は、識別辞書61Cにおいて2次元パターン情報SPと補正情報(A,α)との対応関係の情報を保持し、識別演算部61Bにおいて上述のパターン認識を用いて、信号対推移取得部61Aによって得られた2次元パターン情報SPに対応する補正情報(A,α)を求める。
なお、補正情報(A,α)を求めるためには、信号対推移取得部61Aによって、回転磁界MFの方向DMが所定範囲で回転する過程で得られる信号対の推移を取得する必要がある。信号対推移取得部61Aは、予め決められた時間以上の時間間隔を開けて、回転磁界センサ1の動作中であって回転磁界MFの方向DMが所定範囲以上回転したときに、信号対の推移を取得するように設定されていてもよい。あるいは、信号対推移取得部61Aは、使用者の指示があったときに、信号対の推移を取得するように設定されていてもよい。
第1の演算回路61は、信号対推移取得部61Aによって、新たな信号対の推移が取得され、それに応じて新たな2次元パターン情報SPが得られたときに、新たな補正情報(A,α)を求め、出力する補正情報(A,α)を更新する。
次に、図3を参照して、第2の演算回路62の作用と、検出値θsの算出方法について説明する。図3に示したように、第2の演算回路62には、第1および第3の信号S1,S3と補正情報(A,α)が入力される。第2の演算回路62は、第1の信号S1、第3の信号S3および補正情報(A,α)を用いて、補正された検出値θsを算出する。
ここで、検出値θsの算出方法の一例について説明する。この例では、第2の演算回路62は、まず、式(1)、(2)に、第1の演算回路61によって求められた補正情報(A,α)を代入する。次に、式(1)、(2)において、角度θを所定の角度間隔で変化させて、角度θと、第1および第3の信号S1,S3の計算値との対応関係を示すテーブルを作成する。表1に、角度θと第1の信号S1の計算値との対応関係を示すテーブルを示す。このテーブルと同様に、角度θと第3の信号S3の計算値との対応関係を示すテーブルも作成される。
表1において、θ0,θ1,・・・,θmは、0°以上360°未満の範囲内で所定の角度間隔を開けて選択された角度θの値の順列である。S10,S11,・・・,S1mは、それぞれ、式(1)にθ0,θ1,・・・,θmを代入して得られた第1の信号S1の計算値を表している。ここで、順列θ0,θ1,・・・,θm中の任意の値をθnと表し、式(1)にθnを代入して得られた第1の信号S1の計算値をS1nと表す。
第2の演算回路62は、次に、表1に示したテーブルを用いて、第2の演算回路62に入力された第1の信号S1に最も近い計算値S1nを検索する。具体的には、第2の演算回路62は、第1の信号S1との差の2乗が最小となる計算値S1nを検索する。第2の演算回路62は、この検索によって得られた計算値S1nに対応する角度θnを、検出値θsの第1の候補とする。
角度θが0°以上360°未満の範囲内では、第1の信号S1が最大値または最小値となる場合を除いて、2つの異なるθのときに第1の信号S1は同じ値となる。そのため、上記の方法では、ほとんどの場合、第1の信号S1の1つの値に対して、検出値θsの第1の候補は2つ得られる。
同様に、第2の演算回路62は、角度θと第3の信号S3の計算値との対応関係を示すテーブルを用いて、第2の演算回路62に入力された第3の信号S3に最も近い計算値S3nを検索し、この検索によって得られた計算値S3nに対応する角度θnを、検出値θsの第2の候補とする。このときも、ほとんどの場合、第3の信号S3の1つの値に対して、検出値θsの第2の候補は2つ得られる。
2つの第1の候補のうちの一方と、2つの第2の候補のうちの一方は、一致するか極めて近いはずである。第2の演算回路62は、一致する第1の候補と第2の候補が存在する場合には、その一致する第1および第2の候補を、補正された検出値θsとする。第2の演算回路62は、一致する第1の候補と第2の候補が存在しないが、極めて近い第1の候補と第2の候補が存在する場合には、例えば、それらのうち、計算値S1nと第1の信号S1との差の2乗と、計算値S3nと第3の信号S3との差の2乗のうち、小さい値となる方のS1nまたはS3nに対応する候補を、補正された検出値θsとする。
以上説明したように、本実施の形態に係る回転磁界センサ1では、第1の演算回路61によって、回転磁界MFの方向DMが所定範囲で回転する過程で得られる信号対の推移(2次元パターン情報SP)の態様に基づいて、補正情報(A,α)を求め、第2の演算回路62によって、第1の信号S1、第3の信号S3および補正情報(A,α)を用いて、補正された検出値θsを算出する。これにより、本実施の形態によれば、第1のMR素子と第3のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じた場合でも、第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を低減することが可能になる。
以下、学習によって識別辞書61Cを作成する方法について説明する。学習によって識別辞書61Cを作成する際には、まず、2次元パターン情報SPに関する複数の学習パターンと、学習パターン毎の教師信号である補正情報(A,α)の値とを用意する。教師信号におけるAの種類およびαの種類は、識別演算部61Bが出力する補正情報(A,α)において取り得るAの種類およびαの種類と同じである。
教師信号におけるAの種類およびαの種類は、例えば、Aとαの各々について最小値と最大値の間を等間隔で分割して、(A,α)のマトリクス(行列)を作成し、このマトリクスの要素の形で用意する。図9は、Aの最大値をAmax、Aの最小値を0、αの最大値をαmax、αの最小値を0としたときの(A,α)のマトリクスの例を示している。複数の学習パターンは、少なくとも(A,α)のマトリクスの要素の全てについて、式(1)、(3)を用いた計算によって作成する。
特定の教師信号(A,α)に対応する学習パターンとしては、特定の教師信号(A,α)に基づいて正確に作成されたパターンの他に、この正確なパターンに対して揺らぎを与えたパターンを含んでいてもよい。複数の学習パターンが、このような揺らぎを与えたパターンを含むことによって、学習を容易にすることが可能になると共に、識別演算部61Bの出力の精度を向上させることが可能になる。
次に、上述のように用意された複数の学習パターンと学習パターン毎の教師信号とを用いて、学習によって、クラス毎の1つ以上の2次元パターン情報のプロトタイプを決定して、識別辞書61Cを作成する。学習によって識別辞書61Cを作成する際には、サポートベクターマシンやニューラルネットワークを用いてもよい。
なお、本実施の形態において、第2の演算回路62は、第1の信号S1および補正情報(A,α)を用いて、補正された検出値として、補正された第1の信号を算出するようにしてもよい。この補正された第1の信号は、例えば、前述のようにして求められた計算値S1nとすることができる。同様にして、第2の演算回路62は、第3の信号S3および補正情報(A,α)を用いて、補正された第3の信号を算出するようにしてもよい。この補正された第3の信号は、例えば、前述のようにして求められた計算値S3nとすることができる。そして、第2の演算回路62は、計算値S1n,S3nから、下記の式(4)によって、補正された検出値θsを算出するようにしてもよい。なお、“atan”は、アークタンジェントを表す。
θs=atan(S1n/S3n) …(4)
なお、θsが0°以上360°未満の範囲内では、式(4)におけるθsの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、S1nとS3nの正負の組み合わせにより、θsの真の値が式(4)におけるθsの2つの解のいずれであるかを判別することができる。すなわち、S1nが正の値のときは、θsは0°よりも大きく180゜よりも小さい。S1nが負の値のときは、θsは180°よりも大きく360゜よりも小さい。S3nが正の値のときは、θsは、0°以上90゜未満、および270°より大きく360°以下の範囲内である。S3nが負の値のときは、θsは90°よりも大きく270゜よりも小さい。θsは、式(4)と、上記のS1nとS3nの正負の組み合わせの判定によって求めることができる。
また、本実施の形態において、第2の検出回路20は、第3の検出回路30と同様に、回転磁界MFの第2の方向D2の成分を検出するように構成されていてもよい。この場合、信号対推移取得部61Aによって取得される信号対の推移(リサージュ曲線)は、円形に近いものとなる。この場合も、原則として、(A,α)が異なれば、信号対の推移の態様(リサージュ曲線の形状)が異なる。
また、本実施の形態において、第1および第2の検出回路10,20が回転磁界MFの第2の方向D2の成分を検出するように構成され、第3の検出回路30が回転磁界MFの第1の方向D1の成分を検出するように構成されていてもよい。この場合、信号対推移取得部61Aによって取得される信号対の推移(リサージュ曲線)は、本実施の形態において既に説明した信号対の推移(リサージュ曲線)に似たものとなる。
また、本実施の形態において、高い測定精度が必要な場合には、第1および第2の信号S1,S2を規格化する処理を行って、規格化後の信号S1,S2を第1の演算回路61に入力させてもよい。この規格化の処理は、規格化後の信号S1,S2の最大値同士、最小値同士がそれぞれ等しくなるように、線形演算によって、規格化前の信号S1,S2を規格化後の信号S1,S2に変換する処理である。
また、回転磁界センサ1は、補正情報(A,α)を求めるために回転磁界MFの方向DMが回転する必要のある所定範囲(例えば360°)よりも小さい角度範囲内の角度を検出する用途に使用される場合もある。この場合には、回転磁界MFの方向DMを所定範囲以上回転させて補正情報(A,α)を求めた後、実際の角度の検出を行うようにすればよい。
また、本実施の形態において、第3の検出回路30の代わりに、基準位置PRにおける回転磁界MFの、第2の方向D2の成分の正負の判別のみを行う判別回路を設けてもよい。この判別回路は、例えば、第2の方向D2に感度を有する磁気検出素子と、この磁気検出素子の検出出力を、所定のしきい値を用いて2値化する回路とによって実現することができる。第2の方向D2に感度を有する磁気検出素子としては、例えば、磁化固定層の磁化の方向が第2の方向D2に平行な方向に設定されたTMR素子またはGMR素子や、第2の方向D2に感度を有するように設定されたホール素子を用いることができる。この場合、第2の演算回路62は、前述の検索によって得られた計算値S1nに対応する検出値θsの第1の候補と、判別回路によって得られる正負の判別結果とに基づいて、検出値θsを決定する。前述のように、ほとんどの場合、第1の信号S1の1つの値に対して、検出値θsの第1の候補は2つ得られる。この2つの候補の一方が0゜よりも大きく90°よりも小さいときには、2つの候補の他方は90゜よりも大きく180°よりも小さい。また、2つの候補の一方が180゜よりも大きく270°よりも小さいときには、2つの候補の他方は270゜よりも大きく360°よりも小さい。一方、角度θが0°以上90゜未満、および270°よりも大きく360°以下の範囲内のときは、第2の方向D2の成分は正の値であり、θsが90°よりも大きく270゜よりも小さいときには、第2の方向D2の成分は負の値である。従って、上記判別回路の判別結果を用いれば、検出値θsの2つの第1の候補のうちの一方を、真の検出値θsとして特定することができる。
また、回転磁界センサ1が、角度θが90°以上270゜以下の範囲内あるいは0°以上90゜以下および270°以上360゜未満の範囲内となる用途に使用される場合には、第3の検出回路30はなくてもよい。すなわち、この場合には、検出値θsの第1の候補は1つしか得られないので、この候補を検出値θsとすることができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。始めに、図10を参照して、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成について説明する。図10は、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成を示す斜視図である。本実施の形態では、回転磁界を発生する手段として、複数組のN極とS極が交互に直線状に配列された磁気スケール120が用いられている。図10に示した例では、磁気スケール120は、磁気スケール120のN極とS極が並ぶ方向Tに平行な上面120aを有している。本実施の形態に係る回転磁界センサ101は、磁気スケール120の上面120aに対向する位置に配置されている。本実施の形態では、方向Tについて磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化するように、磁気スケール120と回転磁界センサ101の少なくとも一方が方向Tに直線的に移動する。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。始めに、図10を参照して、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成について説明する。図10は、本実施の形態に係る回転磁界センサの概略の構成を示す斜視図である。本実施の形態では、回転磁界を発生する手段として、複数組のN極とS極が交互に直線状に配列された磁気スケール120が用いられている。図10に示した例では、磁気スケール120は、磁気スケール120のN極とS極が並ぶ方向Tに平行な上面120aを有している。本実施の形態に係る回転磁界センサ101は、磁気スケール120の上面120aに対向する位置に配置されている。本実施の形態では、方向Tについて磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化するように、磁気スケール120と回転磁界センサ101の少なくとも一方が方向Tに直線的に移動する。
図10に示したように、回転磁界センサ101は、第1の検出部111と第2の検出部112とを備えている。第1の検出部111と第2の検出部112の構成は同じである。ここで、磁気スケール120における隣接するN極とS極の1組の、方向Tについて長さを1ピッチと言う。第1の検出部111と第2の検出部112は、方向Tについて、1/4ピッチ分だけ互いにずれた位置に配置されている。
第1の検出部111は、第1の検出回路10と第2の検出回路20を含んでいる。第2の検出部112は、第3の検出回路30と第4の検出回路40を含んでいる。第1の検出回路10は第1の磁気検出素子を含み、第2の検出回路20は第2の磁気検出素子を含み、第3の検出回路30は第3の磁気検出素子を含み、第4の検出回路20は第4の磁気検出素子を含んでいる。本実施の形態における磁気検出素子は、第1の実施の形態と同様に、例えばTMR素子またはGMR素子である。以下、磁気検出素子をMR素子と記す。図10では、理解を容易にするために、第1および第2の検出回路10,20を別体として描いているが、第1および第2の検出回路10,20は一体化されていてもよい。同様に、図10では、第3および第4の検出回路30,40を別体として描いているが、第3および第4の検出回路30,40は一体化されていてもよい。
図11は、第1ないし第4のMR素子の形状と配置を模式的に示している。図11において、符号11,21,31,41は、それぞれ、第1のMR素子、第2のMR素子、第3のMR素子、第4のMR素子が含む磁性層(自由層)の平面形状(上から見た形状)を表している。第1および第2のMR素子は、方向Tに関して同じ位置に配置されている。第3および第4のMR素子も、方向Tに関して同じ位置に配置されている。第3および第4のMR素子は、方向Tについて、第1および第2のMR素子に対して1/4ピッチ分だけずれた位置に配置されている。本実施の形態では、第1ないし第4のMR素子は、それらを構成する複数の層の面が、磁気スケール120の上面120aに対して平行になるように配置されている。磁性層(自由層)の平面形状については、後で詳しく説明する。
次に、図10を参照して、本実施の形態における基準平面、基準位置、基準方向について説明する。まず、本実施の形態では、方向Tに平行な一方向(図10では右側に向かう方向)をX方向と定義し、磁気スケール120の上面120aに垂直な一方向(図10では上側に向かう方向)をY方向と定義し、X方向およびY方向に垂直な一方向(図10では奥へ進む方向)をZ方向と定義する。また、X方向とは反対の方向を−X方向と定義する。
本実施の形態における基準平面PLは、Z方向に垂直な平面である。基準位置PRは、基準平面PL内に位置する。基準位置PRは、第1の検出部111(検出回路10,20)が回転磁界を検出する位置でもよいし、第2の検出部112(検出回路30,40)が回転磁界を検出する位置でもよい。以下の説明では、第1の検出部111が回転磁界を検出する位置を基準位置PRとする。基準平面PL内において、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMは、回転磁界センサ101から見て、基準位置PRを中心として回転する。方向Tについて磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が1ピッチ分変化すると、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMは360°だけ回転する。従って、磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係と、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMは、対応関係を有している。1ピッチは、回転磁界の方向DMの回転角度の360°に相当する。前述のように、第1の検出部111と第2の検出部112は、方向Tについて、1/4ピッチ分だけ互いにずれた位置に配置されていることから、第2の検出部112(検出回路30,40)が回転磁界を検出する位置における回転磁界の方向は、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMに対して90°だけずれている。
また、本実施の形態では、基準方向DRはX方向とする。また、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMが基準方向DRに対してなす角度を記号θで表す。角度θは、基準方向DRから時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに負の値で表す。
次に、図12を参照して、回転磁界センサ101の構成について詳しく説明する。図12は、回転磁界センサ101の構成を示す回路図である。回転磁界センサ101は、前記の第1ないし第4の検出回路10,20,30,40を備えている。第1ないし第3の検出回路10,20,30の構成は、MR素子を構成するMR膜の形状と、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を除いて、第1の実施の形態と同じである。第4の検出回路40の構成は、第2の検出回路20と同様である。すなわち、第4の検出回路40は、ホイートストンブリッジ回路44と、差分検出器45とを有している。ホイートストンブリッジ回路44は、電源ポートV4と、グランドポートG4と、2つの出力ポートE41,E42と、直列に接続された第1の対のMR素子MR41,R42と、直列に接続された第2の対のMR素子R43,R44とを含んでいる。MR素子R41,R43の各一端は、電源ポートV4に接続されている。MR素子R41の他端は、MR素子R42の一端と出力ポートE41に接続されている。MR素子R43の他端は、MR素子R44の一端と出力ポートE42に接続されている。MR素子R42,R44の各他端は、グランドポートG4に接続されている。電源ポートV4には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートG4はグランドに接続される。差分検出器45は、出力ポートE41,E42の電位差に対応する信号である第4の信号S4を出力する。
回転磁界センサ101は、更に、第1ないし第3の演算回路61,62,63を備えている。第1ないし第3の演算回路61,62,63は、それぞれ、2つの入力端と1つの出力端とを有している。第1の演算回路61の2つの入力端は、それぞれ、第1および第2の検出回路10,20の各出力端に接続されている。第3の演算回路63の2つの入力端は、それぞれ、第3および第4の検出回路30,40の各出力端に接続されている。第2の演算回路62の2つの入力端は、それぞれ、第1および第3の演算回路61,63の各出力端に接続されている。
第2の演算回路62は、角度θと対応関係を有する検出値θsを算出する。本実施の形態では、検出値θsは、回転磁界センサ101によって検出された角度θの値であり、これは、方向Tについての磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係に対応している。このように、本実施の形態に係る回転磁界センサ101は、方向Tについての、磁気スケール120に対する回転磁界センサ101の位置を検出することができる。第1ないし第3の演算回路61,62,63は、例えば、1つのマイクロコンピュータによって実現することができる。
図12において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表し、白抜きの矢印は、MR素子における自由層の磁化の方向を表している。本実施の形態では、MR素子R11,R14,R21,R24,R31,R34,R41,R44における磁化固定層の磁化の方向はX方向である。また、MR素子R12,R13,R22,R23,R32,R33,R42,R43における磁化固定層の磁化の方向は−X方向である。
本実施の形態では、第1および第2の検出回路10,20は、それぞれ、基準位置PRにおける回転磁界の、方向T(X方向、−X方向)の成分の強度を検出して、その強度を表す第1の信号S1、第2の信号S2を、第1の演算回路61に出力する。空間上において回転磁界の方向が等しくなる領域の大きさに比べると、検出回路10,20の空間上の位置の差は十分に小さい。そのため、検出回路10,20のそれぞれの位置における回転磁界の方向は、実質的に同じである。従って、検出回路10,20内の任意の位置を基準位置PRとすることによって、検出回路10,20は、それぞれ、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMが基準方向DRに対してなす角度θと対応関係を有する第1の信号S1、第2の信号S2を生成することができる。
また、第3および第4の検出回路30,40は、それぞれ、第2の検出部112(検出回路30,40)が回転磁界を検出する位置における回転磁界の、方向T(X方向、−X方向)の成分の強度を検出して、その強度を表す第3の信号S3、第4の信号S4を、第3の演算回路63に出力する。空間上において回転磁界の方向が等しくなる領域の大きさに比べると、検出回路30,40の空間上の位置の差は十分に小さい。そのため、検出回路30,40のそれぞれの位置における回転磁界の方向は、実質的に同じである。また、前述のように、第2の検出部112(検出回路30,40)が回転磁界を検出する位置における回転磁界の方向は、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMに対して90°だけずれた一定の関係を有している。従って、検出回路30,40は、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMに対して90°だけずれた方向の回転磁界を検出する。これにより、検出回路30,40は、それぞれ、基準位置PRにおける回転磁界の方向DMが基準方向DRに対してなす角度θと対応関係を有する第3の信号S3、第4の信号S4を生成することができる。
第3および第4の信号S3,S4の位相は、第1および第2の信号S1,S2の位相と異なっている。本実施の形態では、特に、第3および第4の信号S3,S4の位相は、第1および第2の信号S1,S2の位相と90°だけ異なっている。
本実施の形態では、第1の信号S1と第2の信号S2における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第1および第2のMR素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定されている。第1の磁気異方性は、第1および第2のMR素子のうちの少なくとも第2のMR素子に設定されていてもよい。本実施の形態では、特に、第1の磁気異方性は、第1および第2のMR素子の両方に設定されている。ただし、第2のMR素子に設定された第1の磁気異方性による異方性磁界は、第1のMR素子に設定された第1の磁気異方性による異方性磁界よりも大きい。これにより、第1の信号S1と第2の信号S2における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
また、本実施の形態では、図11に示したように、第1の磁気異方性は、第1および第2のMR素子が含む磁性層(自由層)の形状磁気異方性によって設定されている。すなわち、本実施の形態では、第1および第2のMR素子におけるMR膜の形状をいずれも楕円柱形状とすることによって、第1のMR素子が含む磁性層の平面形状(符号11)と第2のMR素子が含む磁性層の平面形状(符号21)を、いずれも長軸がZ方向に向いた楕円形としている。ただし、楕円の短軸に対する長軸の比率は、第1のMR素子よりも第2のMR素子の方が大きい。
第2の信号S2の波形は、第1の信号S1の波形と類似したものとなる。ただし、第1の磁気異方性による異方性磁界の大きさの相違により、第2の信号S2の波形は、第1の信号S1の波形とは若干異なったものとなる。このようにして、第1の信号S1と第2の信号S2における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
また、本実施の形態では、第3の信号S3と第4の信号S4における第3の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、第3および第4のMR素子の少なくとも一方に第3の磁気異方性が設定されている。第3の磁気異方性は、第3および第4のMR素子のうちの少なくとも第4のMR素子に設定されていてもよい。本実施の形態では、特に、第3の磁気異方性は、第3および第4のMR素子の両方に設定されている。ただし、第4のMR素子に設定された第3の磁気異方性による異方性磁界は、第3のMR素子に設定された第3の磁気異方性による異方性磁界よりも大きい。これにより、第3の信号S3と第4の信号S4における第3の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
また、本実施の形態では、図11に示したように、第3の磁気異方性は、第3および第4のMR素子が含む磁性層(自由層)の形状磁気異方性によって設定されている。すなわち、本実施の形態では、第3および第4のMR素子におけるMR膜の形状をいずれも楕円柱形状とすることによって、第3のMR素子が含む磁性層の平面形状(符号31)と第4のMR素子が含む磁性層の平面形状(符号41)を、いずれも長軸がZ方向に向いた楕円形としている。ただし、楕円の短軸に対する長軸の比率は、第3のMR素子よりも第4のMR素子の方が大きい。
第4の信号S4の波形は、第3の信号S3の波形と類似したものとなる。ただし、第3の磁気異方性による異方性磁界の大きさの相違により、第4の信号S4の波形は、第3の信号S3の波形とは若干異なったものとなる。このようにして、第3の信号S3と第4の信号S4における第3の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なる。
なお、第1ないし第4のMR素子におけるMR膜の形状は、楕円柱形状に限らず、例えば、上面が長方形の角柱形状であってもよい。
第1および第2のMR素子には、第1の磁気異方性とは異なる第2の磁気異方性が、例えば後天的に生じる。第2の磁気異方性は、例えば誘導磁気異方性によるものである。この第2の磁気異方性は、例えば、第1および第2のMR素子に特定の方向の外部磁界が印加されたままで、第1および第2のMR素子の温度が高温から下降した場合に生じる。第2の磁気異方性は、例えば、磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化せずに、磁気スケール120が発生する一定方向の磁界が第1および第2のMR素子に印加されたままで、第1および第2のMR素子の温度が高温から下降した場合に生じるものであってもよい。
また、第3および第4のMR素子には、第3の磁気異方性とは異なる第4の磁気異方性が、例えば後天的に生じる。第4の磁気異方性は、第2の磁気異方性と同様に、例えば誘導磁気異方性によるものである。この第4の磁気異方性は、例えば、第3および第4のMR素子に特定の方向の外部磁界が印加されたままで、第3および第4のMR素子の温度が高温から下降した場合に生じる。第4の磁気異方性は、例えば、磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化せずに、磁気スケール120が発生する一定方向の磁界が第3および第4のMR素子に印加されたままで、第3および第4のMR素子の温度が高温から下降した場合に生じるものであってもよい。
本実施の形態では、前述のように、第3および第4のMR素子は、方向Tについて、第1および第2のMR素子に対して1/4ピッチ分だけずれた位置に配置されている。そのため、第2の磁気異方性と第4の磁気異方性は互いに異なる可能性がある。例えば、磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化しないときに、磁気スケール120から第1および第2のMR素子に印加される磁界と、磁気スケール120から第3および第4のMR素子に印加される磁界とでは、それらの方向および大きさが異なる。そのため、例えば、第2の磁気異方性と第4の磁気異方性が、いずれも、磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化しないときに磁気スケール120が発生する磁界に起因するものである場合には、第2の磁気異方性と第4の磁気異方性は互いに異なる。
第1の演算回路61は、第2の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための第1の補正情報を求める。第1の演算回路61の構成は、第1の実施の形態と同様である。第1の実施の形態と同様に、第1の演算回路61は、同時刻に得られる第1の信号S1と第2の信号S2の対を第1の信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲(例えば360°)で回転する過程で得られる第1の信号対の推移の態様に基づいて、第1の補正情報を求める。
第3の演算回路63は、第4の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を補正するための第2の補正情報を求める。第3の演算回路63の構成は、第1の演算回路61と同様である。第3の演算回路63は、同時刻に得られる第3の信号S3と第4の信号S4の対を第2の信号対としたとき、回転磁界の方向が所定範囲(例えば360°)で回転する過程で得られる第2の信号対の推移の態様に基づいて、第2の補正情報を求める。
第2の演算回路62は、第1の信号S1、第1の補正情報、第3の信号S3および第2の補正情報を用いて、補正された検出値θsを算出する。以下、第1ないし第3の演算回路61,62,63の作用も含めて、本実施の形態に係る回転磁界センサ101の作用について詳しく説明する。以下の説明では、第2および第4の磁気異方性は、磁気スケール120が発生する磁界に起因するものとする。
本実施の形態では、第1のMR素子に第2の磁気異方性が生じていない状態では、第1の信号S1の波形は、理想的には正弦曲線となる。同様に、第3のMR素子に第4の磁気異方性が生じていない状態では、第3の信号S3の波形は、理想的には正弦曲線となる。なお、図11に示したように、本実施の形態では、第1のMR素子が含む磁性層(自由層)の平面形状(符号11)と、第3のMR素子が含む磁性層(自由層)の平面形状(符号31)を、長軸がZ方向に向いた楕円形としている。これは、以下の理由による。本実施の形態では、第1および第3のMR素子の自由層が形状異方性を有していない場合には、第1および第3のMR素子の自由層の磁化は、Y方向の成分を持ち難いために、X方向または−X方向に向きやすくなる。そのため、この場合には、第1のMR素子に第2の磁気異方性が生じていない状態における第1の信号S1の波形と、第3のMR素子に第4の磁気異方性が生じていない状態における第3の信号S3の波形は、いずれも、正弦曲線から矩形波に近づく。第1および第3のMR素子の自由層の形状を、例えば、長軸がZ方向に向いた楕円形とすることにより、第1および第3のMR素子の自由層の磁化はX方向または−X方向に向き難くなり、第1のMR素子に第2の磁気異方性が生じていない状態における第1の信号S1の波形と、第3のMR素子に第4の磁気異方性が生じていない状態における第3の信号S3の波形を、正弦曲線に近づけることができる。
第1のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じると、第1の信号S1の波形は、正弦曲線から歪む。第2の磁気異方性によって波形が歪んだ第1の信号S1は、近似的に、第2の磁気異方性に基づく角度変動項を含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第1の信号S1は、近似的に、下記の式(5)で表すことができる。
S1=cos[θ−Asin{2(θ−α)}] …(5)
上記の式(5)において、Asin{2(θ−α)}は、第2の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Aは振幅(角度変動の最大値)を表し、αはθに対する位相差を表している。
第2のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じると、第2の信号S2の波形は、第1および第2の磁気異方性に起因して、正弦曲線から歪む。第1および第2の磁気異方性に起因して歪んだ第2の信号S2は、近似的に、第1の磁気異方性に基づく角度変動項と第2の磁気異方性に基づく角度変動項とを含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第2の信号S2は、近似的に、下記の式(6)で表すことができる。
S2=cos[θ−Asin{2(θ−α)}−Bsin{2(θ−β)}]…(6)
上記の式(6)において、Bsin(2θ)は、第1の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Bは振幅(角度変動の最大値)を表し、βはθに対する位相差を表している。第1の磁気異方性は任意に設定することができることから、Bおよびβの値も任意に設定することができる。
第3の信号S3の位相は、第1の信号S1の位相と90°だけ異なっている。第3のMR素子に後天的に第4の磁気異方性が生じると、第3の信号S3の波形は、正弦曲線から歪む。第4の磁気異方性によって波形が歪んだ第3の信号S3は、近似的に、第4の磁気異方性に基づく角度変動項を含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第3の信号S3は、近似的に、下記の式(7)で表すことができる。
S3=cos[(θ−90°)−Csin{2(θ−90°)−γ}] …(7)
上記の式(7)において、Csin{2(θ−90°)−γ}は、第4の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Cは振幅(角度変動の最大値)を表し、γはθに対する位相差を表している。
第4のMR素子に後天的に第4の磁気異方性が生じると、第4の信号S4の波形は、第3および第4の磁気異方性に起因して、正弦曲線から歪む。第3および第4の磁気異方性に起因して歪んだ第4の信号S4は、近似的に、第3の磁気異方性に基づく角度変動項と第4の磁気異方性に基づく角度変動項とを含む変数を用いた三角関数で表すことができる。具体的には、第4の信号S4は、近似的に、下記の式(8)で表すことができる。
S4=cos[(θ−90°)−Csin{2(θ−90°)−γ}−Dsin{2(θ−90°)−δ}] …(8)
上記の式(8)において、Dsin{2(θ−90°)−δ}は、第3の磁気異方性に基づく角度変動項である。この角度変動項において、Dは振幅(角度変動の最大値)を表し、δはθに対する位相差を表している。第3の磁気異方性は任意に設定することができることから、Dおよびδの値も任意に設定することができる。
第1の演算回路61は、第1の実施の形態における第1の演算回路61と同様の作用により、第1の信号対の推移の態様に基づいて、第1の補正情報(A,α)を求める。第3の演算回路63は、第1の実施の形態における第1の演算回路61と同様の作用により、第2の信号対の推移の態様に基づいて、第2の補正情報(C,γ)を求める。
第2の演算回路62は、第1の信号S1、第1の補正情報(A,α)、第3の信号S3および第2の補正情報(C,γ)を用いて、補正された検出値θsを算出する。具体的には、第2の演算回路62は、例えば以下の方法によって、補正された検出値θsを算出する。まず、第2の演算回路62は、第1の信号S1および補正情報(A,α)を用いて、補正された第1の信号を算出する。この補正された第1の信号は、第1の実施の形態において説明した第1の信号S1の計算値S1nとすることができる。同様にして、第2の演算回路62は、第3の信号S3および補正情報(C,γ)を用いて、補正された第3の信号S3nを算出する。そして、第2の演算回路62は、補正された第1および第3の信号S1n,S3nから、前出の式(4)によって、補正された検出値θsを算出する。
以上説明したように、本実施の形態によれば、第1のMR素子に後天的に第2の磁気異方性が生じ、第3のMR素子に後天的に第4の磁気異方性が生じた場合でも、第2および第4の磁気異方性に起因して検出値θsに生じる誤差を低減することが可能になる。
なお、本実施の形態において、MR素子を構成する複数の層の面に対して垂直な方向がXY平面と交差するように、検出回路10,20,30,40を配置してもよい。この場合には、方向Tについて磁気スケール120と回転磁界センサ101の相対的位置関係が変化すると、自由層の磁化の方向は回転する。この場合には、基準平面PLは、MR素子を構成する複数の層の面に平行な平面としてもよい。また、検出回路10,20内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向を、X方向に直交する方向に変更して、MR素子を構成する複数の層の面に対して垂直な方向がXY平面と交差するように検出回路10,20,30,40を同じ位置に配置してもよい。この場合には、検出回路10,20,30,40を同じ位置に配置しながら、第3および第4の信号S3,S4の位相を、第1および第2の信号S1,S2の位相に対して90°だけ異ならせることができる。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明における磁気検出素子としては、スピンバルブ型のMR素子(GMR素子、TMR素子)に限らず、何らかの形で磁気異方性を持ち得るものであればよい。例えば、磁気検出素子としては、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子を用いてもよい。また、第1および第3の磁気異方性は、形状磁気異方性に限らず、結晶磁気異方性や、応力磁気異方性によって設定されてもよい。
1…回転磁界センサ、10…第1の検出回路、20…第2の検出回路、30…第3の検出回路、14,24,34…ホイートストンブリッジ回路、61…第1の演算回路、61A…信号対推移取得部、61B…識別演算部、61C…識別辞書、62…第2の演算回路。
Claims (10)
- 基準位置における回転磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する検出値を生成する回転磁界センサであって、前記基準位置における回転磁界の方向は、前記回転磁界センサから見て回転するものであり、
第1の磁気検出素子を含み、前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号を生成する第1の検出回路と、
第2の磁気検出素子を含み、前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号を生成する第2の検出回路と、
第1の演算回路と、
第2の演算回路と
を備え、
前記第1の信号と第2の信号における第1の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、前記第1および第2の磁気検出素子の少なくとも一方に第1の磁気異方性が設定され、
前記第1の演算回路は、前記第1の磁気検出素子に生じた第2の磁気異方性に起因して前記検出値に生じる誤差を補正するための補正情報を求めるものであって、同時刻に得られる前記第1の信号と第2の信号の対を信号対としたとき、前記回転磁界の方向が所定範囲で回転する過程で得られる前記信号対の推移の態様に基づいて、前記補正情報を求め、
前記第2の演算回路は、前記第1の信号および前記補正情報を用いて、補正された検出値を算出することを特徴とする回転磁界センサ。 - 前記第1の磁気異方性は、前記第1および第2の磁気検出素子のうちの少なくとも第2の磁気検出素子に設定されていることを特徴とする請求項1記載の回転磁界センサ。
- 前記第2の磁気検出素子は、前記回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する磁性層を含み、
前記第1の磁気異方性は、前記磁性層の形状磁気異方性によって設定されていることを特徴とする請求項2記載の回転磁界センサ。 - 前記第2の磁気検出素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記第1の磁気異方性は、前記自由層の形状磁気異方性によって設定されていることを特徴とする請求項2記載の回転磁界センサ。 - 前記自由層の磁化容易軸方向は、前記磁化固定層の磁化方向に対して平行ではなく且つ直交していないことを特徴とする請求項4記載の回転磁界センサ。
- 前記第1の演算回路は、前記信号対を直交座標系における座標で表し、前記信号対の推移を2次元パターン情報で表すことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の回転磁界センサ。
- 前記第1の演算回路は、前記2次元パターン情報と前記補正情報との対応関係の情報を保持し、パターン認識を用いて、前記2次元パターン情報に対応する補正情報を求めることを特徴とする請求項6記載の回転磁界センサ。
- 前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度をθとし、前記補正情報をAおよびαとしたとき、前記第1の信号は、θ−Asin{2(θ−α)}を変数とした三角関数で表されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の回転磁界センサ。
- 回転磁界センサは、更に、第3の検出回路を備え、
前記第3の検出回路は、第3の磁気検出素子を含み、前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第3の信号を生成し、
第3の信号の位相は、前記第1の信号の位相と異なり、
前記第2の演算回路は、前記第1の信号および前記補正情報に加えて前記第3の信号を用いて、前記補正された検出値を算出することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の回転磁界センサ。 - 回転磁界センサは、更に、第3の検出回路、第4の検出回路および第3の演算回路を備え、
前記第3の検出回路は、第3の磁気検出素子を含み、前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第3の信号を生成し、
前記第4の検出回路は、第4の磁気検出素子を含み、前記基準位置における前記回転磁界の方向が前記基準方向に対してなす角度と対応関係を有する第4の信号を生成し、
第3の信号の位相は、前記第1の信号の位相と異なり、
前記第3の信号と第4の信号における第3の磁気異方性に起因する変動の態様が互いに異なるように、前記第3および第4の磁気検出素子の少なくとも一方に第3の磁気異方性が設定され、
前記第3の演算回路は、前記第3の磁気検出素子に生じた第4の磁気異方性に起因して前記検出値に生じる誤差を補正するための第2の補正情報を求めるものであって、同時刻に得られる前記第3の信号と第4の信号の対を第2の信号対としたとき、前記回転磁界の方向が所定範囲で回転する過程で得られる前記第2の信号対の推移の態様に基づいて、前記第2の補正情報を求め、
前記第2の演算回路は、前記第1の信号および前記補正情報に加えて前記第3の信号および第2の補正情報を用いて、前記補正された検出値を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の回転磁界センサ。
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