JP2014025510A - 流体動圧軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】軸部材が正逆両方向に回転しても潤滑油の外部漏洩を確実に防止することができる流体動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受部材3の内周面3aと軸部材2の外周面2aとの間に形成されるラジアル軸受面Aに、潤滑油の動圧作用で流体動圧を発生させる動圧発生部を有する流体動圧軸受装置1において、ラジアル軸受面Aに隣接し、かつ軸方向位置を異ならせて隙間幅の小さい幅狭部8と隙間幅の大きい幅広部9とを設け、かつ幅狭部8とラジアル軸受隙間Aとの間に幅広部9を配置する。これにより、軸部材2の回転によって軸受外部側に向けてポンピングされる潤滑油の流動エネルギが幅広部で吸収されるため、幅狭部8を越えて軸受外部に潤滑油が漏出するのを防止する。
【選択図】図1

Description

本発明は、流体動圧軸受装置に関する。
流体動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材との間のラジアル軸受隙間に、動圧溝の動圧作用で流体圧力を発生させ、この圧力で軸部材と軸受部材とをラジアル方向に相対回転自在に非接触支持するものである。このような流体動圧軸受装置は、高速で相対回転する軸部材を精度良く、しかも静粛に支持し得ることから、HDD、CD−ROM、DVD−ROM等のディスク装置のスピンドルモータ、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、あるいはPC等のファンモータなど、情報機器に搭載される小型モータ用の軸受として好適に使用されている。
上記の情報機器に搭載される小型モータにおいては、軸部材は一方向(正方向)にのみ回転するが、機械設備や自動車の電装機器等に組み込まれるサーボモータなどでは、軸部材を両方向(正方向および逆方向)に回転させる場合がある。このように正逆回転する軸部材の支持を流体動圧軸受装置で行う場合、軸受部材には、正回転用の動圧発生部とは別に、逆回転用の動圧発生部を形成する必要がある。
かかる要請に応えるため、例えば、下記の特許文献1では、焼結金属からなる軸受部材の内周面に、正回転用および逆回転用の動圧溝領域を設け、かつこれら動圧溝領域を軸受部材の内周面に型成型した動圧軸受が提案されている。この動圧軸受は、軸部材の正回転時に正回転用動圧溝領域で生じる動圧作用で軸部材を非接触支持し、軸部材の逆回転時に逆回転用動圧溝領域で生じる動圧作用で軸部材を非接触支持するものである。
特開2005−351374号公報
特許文献1に記載の軸受部材は、量産性に富み、しかも正逆両方向に相対回転する軸部材を安定的に非接触支持することができるという利点を有する一方、軸部材の回転方向とは逆向きに潤滑油が流動するため、軸受装置の外部に漏洩するという問題がある。
すなわち、動圧溝は回転方向に対して傾斜させた形態を有するのが通例であり、そのため、軸部材の正回転および逆回転を切り替える際には、動圧溝に沿って流れる潤滑油の向きが逆転する。従って、軸受部材の端部において、正回転時に軸受内部側に向かってポンピングされていた潤滑油が、逆回転時には軸受外部側に向かってポンピングされることとなり、これが潤滑油の外部漏洩の要因となる。潤滑油の外部漏洩は、潤滑不良や周囲環境の汚染を招くために好ましくない。
本発明の課題は、正逆両方向の回転に対応した流体動圧軸受装置において、潤滑油の外部漏洩を確実に防止することである。
上記課題を解決するために創案された本発明に係る流体動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材と、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のどちらか一方に設けられ、他方との間にラジアル軸受隙間を形成し、傾斜方向を異にする二種類の動圧溝を有するラジアル軸受面と、ラジアル軸受隙間に供給された潤滑油とを備え、軸受部材と軸部材とが正逆方向に相対回転可能であり、ラジアル軸受面に、正回転時に潤滑油の動圧作用を生じさせる第1動圧発生部と、逆回転時に潤滑油の動圧作用を生じさせる第2動圧発生部とが設けられた流体動圧軸受装置において、軸受部材の内周面と軸部材の外周面とで形成される環状隙間に、前記ラジアル軸受面と隣接させ、かつ軸方向位置を異ならせて隙間幅の小さい幅狭部と隙間幅の大きい幅広部とを設け、かつ幅狭部とラジアル軸受隙間との間に幅広部を配置したことを特徴とするものである。
上記のような構成とすることで、正回転時あるいは逆回転時のどちらか一方において、動圧溝で軸受外部側に向けてポンピングされた潤滑油は、幅狭部によって塞き止められる。潤滑油は、幅狭部に流れ込む前に幅広部に流入するため、潤滑油の流動エネルギが幅広部で一部吸収される。そのため、幅狭部の軸受内部側の壁面に衝突する潤滑油の流速を減じることができ、これにより幅狭部を越えて軸受外部に潤滑油が漏れ出すのを防止することができる。
幅広部に、動圧溝の一端を開口させることで、当該動圧溝の一端を閉鎖する場合に比べ、ラジアル軸受面の軸方向長さを最大限大きくすることができる。そのため、軸受の大型化を避けつつ軸受のラジアル負荷容量を増大させることができる。
幅狭部は、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のうち、どちらか一方に形成した凸部と、他方との間に設けることができる。同様に幅広部は、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のうち、どちらか一方に形成した凹部と、他方との間に設けることができる。
本発明においては、軸受部材を焼結金属製とし、凸部、凹部、第1動圧発生部、および第2動圧発生部を軸受部材の内周面に設けるのが望ましい。これにより軸受部材をプレスすれば、これら凸部、凹部、および各動圧発生部を精度良く低コストに軸受部材の内周面に成形することが可能となる。
凹部は、動圧溝と同じ深さに、もしくは動圧溝よりも深くなるように形成するのが望ましい。凹部の深さが動圧溝よりも浅いと、潤滑油の流動エネルギの吸収効果が不足するため、本願発明の効果が十分に得られない。
潤滑油の油漏れは大気開放側で問題となるので、前記幅狭部および幅広部は、基本的にラジアル軸受隙間の大気開放側に形成する。ラジアル軸受隙間の両側が大気に開放されている場合は、ラジアル軸受面の軸方向両側に幅狭部および幅広部のセットを配置する。なお、ラジアル軸受隙間のうち、大気に開放されていない密閉側に幅狭部および幅広部を形成しても特に問題は生じない。このようにラジアル軸受隙間の一方側が大気に開放され、他方が密閉されている場合において、ラジアル軸受隙間の軸方向両側に幅狭部および幅広部のセットを配置しておけば、軸受装置の組立時に軸受部材の取り付け方向を考慮する必要がなくなるため、組立工程を簡略化することができる。
以上に述べた流体動圧軸受装置は、機械設備や自動車などに装備されるモータ機構に用いることができる。
以上より、本発明によれば、正逆両方向の回転に対応した流体動圧軸受装置において、潤滑油の外部漏洩を確実に防止することができる。そのため、周囲環境の汚染を防止すると共に、潤滑不良を長期間防止することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1の概略断面図である。この流体動圧軸受装置1は、軸受部材3と、軸受部材3の内周に挿入される軸部材2とを備える。軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸受部材3の内周面3aと対向する外周面2aは凹凸のない平滑な円筒面状に形成されている。軸受部材3の内周面3aと軸部材2の外周面2aとの間の隙間(環状隙間)には潤滑油が満たされている。この環状隙間の軸方向両側は大気に開放されている。なお、本実施形態の流体動圧軸受装置1においては、軸受部材3が静止側を構成し、軸部材2が回転側を構成するが、その逆に軸受部材を回転側に、軸部材2を固定側としても良い。
軸受部材3は銅や鉄を主成分とした多孔質性の焼結金属で、円筒状に形成されている。図2に示すように、軸受部材3の内周面3aには、対向する軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間Cを形成する円筒状のラジアル軸受面Aが軸方向の二箇所に離間して設けられる。各ラジアル軸受面A,Aには、円周方向に配列した複数の動圧溝4と、円周方向に隣接する動圧溝4を画成する丘部5とが形成される。各動圧溝4は、軸部材2の回転方向に対して一方に傾斜した第1動圧溝4aと、同方向に対して他方に傾斜した第2動圧溝4bとで構成される。この実施形態では、各ラジアル軸受面A,Aにおいて、第1動圧溝4aの軸方向両側に第2動圧溝4bを配置し、かつ第1動圧溝4aの軸方向一端および軸方向他端に第2動圧溝4bをそれぞれ繋げた形態のものを例示している。
軸部材2が正方向(図1中矢印X1方向)に回転すると、二つのラジアル軸受面A,Aのそれぞれにおいて、第1動圧溝4aと一方の第2動圧溝4bとの合流部に潤滑油が集められ(図2中に示す黒塗り矢印を参照)、合流部での油膜圧力が高まる。従って、各ラジアル軸受面A,Aに、第1動圧溝4aと一方の第2動圧溝4bからなり、かつ正回転時に潤滑油の動圧作用を発生させる第1動圧発生部B1が構成される。軸部材2が逆方向(図1中矢印X2方向)に回転すると、二つのラジアル軸受面A,Aのそれぞれにおいて、第1動圧溝4aと他方の第2動圧溝4bとの合流部に潤滑油が集められ(図2中に示す白抜き矢印を参照)、合流部での油膜圧力が高まる。従って、各ラジアル軸受面A,Aに、第1動圧溝4aと他方の第2動圧溝4bからなり、かつ逆回転時に潤滑油の動圧作用を発生させる第2動圧発生部B2が構成される。この構成では、軸受部材3の両端部に位置する第2動圧溝4bで押し込まれる潤滑油の流れが同方向となるので、軸部材2の回転中は、一方の第2動圧溝4bが潤滑油を軸受内部側に押し込み、他方の第2動圧溝4bが潤滑油を軸受外部側に押し込むようになる。なお、本実施形態では、二つの第1動圧発生部B1間の軸方向ピッチと、二つの第2動圧動圧発生部B2間の軸方向ピッチとを等しくした場合を例示している。
図3は図1のZ−Z線断面図である。図3に示すように、軸受部材3の内周面3aのうち、二つのラジアル軸受面A,Aの間の領域には、ラジアル軸受面Aの動圧溝4の溝底面よりも大きな内径寸法を有する円筒面状の逃げ部10が形成される。逃げ部10とこれに対向する軸部材2の外周面2aとの間の隙間幅は、ラジアル軸受隙間Cの最大幅(動圧溝4の溝底面と軸部材2の外周面2aとの間の隙間幅)よりも大きい。このように二つのラジアル軸受隙間Cの間に隙間を形成することで、軸部材2のトルク損失を軽減することができる。逃げ部10は、軸受部材3の内周面3aに形成するほか、軸部材2の外周面2aに形成することもできる。この場合も逃げ部10とこれに対向する軸受部材3の内周面3aとの間の隙間幅をラジアル軸受隙間Cの最大幅よりも大きくすることで、同様の効果を得ることができる。
軸受部材3の内周面3aと軸部材2の外周面2aとの間の環状隙間のうち、一方のラジアル軸受隙間Cよりも軸受部材3の一端側となる領域、および他方のラジアル軸受隙間Cよりも軸受部材3の他端側となる領域に、それぞれ隙間幅の小さい幅狭部8と、これよりも隙間幅の大きい幅広部9がセットで形成される。図示例では、軸受部材3の内周面3aに環状に形成した凸部6と、これに対向する軸部材2の外周面2aとの間の隙間で幅狭部8を形成し、軸受部材3の内周面3aに形成した環状の凹部7と軸部材2の外周面2aとの間の隙間で幅広部9を形成した場合を例示している。凸部6と凹部7は、動圧溝4および丘部からなるラジアル軸受面A,Aと隣接して設けられ、凸部6とラジアル軸受面Aの間に凹部7が形成されている。軸受部材3の両端部に形成された第2動圧溝4bの端部は、凹部7に開口している。図示例では凹部7の底を動圧溝4の溝底と同レベルとし、凸部6の高さを丘部5の高さと同じレベルにした場合を例示しているが、凹部7を動圧溝4よりも深くし、あるいは凸部6を丘部5よりも高くすることもできる。
なお、幅狭部8を形成する凹部7、および幅広部9を形成する凸部6のうち、どちらか一方又は双方を軸部材2の外周面に形成することもできる。また、図3では、動圧溝4や凹部7の深さ、丘部5や凸部6の高さを誇張して描いているが、実際はこれらの寸法は数μm〜数十μm程度である。
上記した軸受部材3の内周面3aは、例えばプレス加工で形成することができ、本実施形態では軸受部材3の内周面3a全体がプレス加工で成形される。プレス工程では、図4に示すように、外周面に、軸受部材3の内周面3a形状に対応する形状の凹凸型12aが設けられたコアロッド12を、内外周面が凹凸のない平滑な円筒面に形成された軸受素材3’の内周に挿入すると共に、軸受素材3’の軸方向両端面をパンチ13a,13bで拘束し、その状態で軸受素材3’をダイス14に押し入れる。軸受素材3’をダイス14に押し入れると、軸受素材3’にパンチ13a,13bおよびダイス14から圧迫力が付与され、軸受素材3’の内周面がコアロッド12の凹凸型12aに押し付けられる。これにより、軸受素材3’の内周面がコアロッド12の凹凸型12aに倣って塑性変形し、ラジアル軸受面A,A、凸部6、凹部7、さらには逃げ部10が内周面3aに同時成形される。また、軸受素材3のその他の面(両端面や外周面)が仕上げ精度にサイジングされる。
なお、内周面3aの型成形が終了した後、軸受素材3’(軸受部材3)をダイス14から取り出すと、軸受部材3のスプリングバックによってその内周面が拡径する。そのため、コアロッド12の凹凸型12aと成形後の丘部5や凸部6とが干渉することなく、スムーズに軸受部材3の内周からコアロッド12を抜き取ることができる。コアロッド12が抜き取られた軸受部材3の内部空孔には、真空含浸等の公知の含油方法を採用して潤滑流体としての潤滑油が含浸される。
このように、軸受部材3の内周面3aをプレス加工で成形すれば、軸受部材3の個体間において内周面3a(ラジアル軸受面A、凸部6、凹部7、および逃げ部10)の形状精度にばらつきが生じるのを防止し、高精度の内周面3aを低コストで得ることができる。なお、内周面3aのうち、少なくとも動圧溝4は、転造加工、レーザ加工、あるいは切削加工により成型することもできる。後述する他の実施形態においても同様である。
以上の構成からなる流体動圧軸受装置1において、軸部材2が正方向もしくは逆方向に回転すると、軸受部材3の内周面3aの上下二箇所に離間して設けたラジアル軸受面A,Aと、これに対向する軸部材2の外周面2aとの間にそれぞれラジアル軸受隙間Cが形成される。軸部材2の正方向回転時には、各第1動圧発生部B1によって潤滑油の動圧作用が生じ、その結果生じた圧力で軸部材2がラジアル方向で非接触に支持される。また、軸部材2の逆方向回転時には、各第2動圧発生部B2によって潤滑油の動圧作用が逆方向に生じ、その結果生じた圧力で軸部材2がラジアル方向で非接触に支持される。
上記したように、軸受部材3の内周面3aに設けた動圧発生部B1,B2は、軸部材2が正回転または逆回転する場合の何れにおいても、ラジアル軸受隙間Cに介在する潤滑油の動圧作用を生じさせることができる。しかし、軸部材2の回転時、ラジアル軸受隙間Cに介在する潤滑油は、動圧溝4に沿って流動するため、何らかの手当てをしなければ、軸部材2の正回転時においては、軸部材2の外周面2aと軸受部材3の内周面3aとの間に介在する潤滑油が軸受部材3の下側開口部から外部に流出し易くなり、また、軸部材2の逆回転時においては、軸部材2の外周面2aと軸受部材3の内周面3aとの間に介在する潤滑油が軸受部材3の上側開口部から外部に流出し易くなる。
これに対し本発明では、軸受部材3のうち、環状隙間の両端部(軸受部材3の上端部および下端部)に、軸部材2(相手側部材)との間の隙間幅を小さくした幅狭部8を設けているので、軸部材2の回転に伴い、軸受部材3の端部に位置する第2動圧溝4bによって潤滑油が軸受外部側に押し込まれた際にも、幅狭部8で潤滑油をせき止めて、その漏れ出しを防止することができる。さらに、幅狭部8とラジアル軸受隙間Cとの間に、幅狭部8よりも隙間幅が大きい幅広部9を設けているので、軸受外部側に向けて押し込まれた潤滑油は一旦幅広部9に流れ込んでから、幅狭部8を構成する凸部6の軸受内部側の壁面に衝突する。そのため、潤滑油の流動エネルギを幅広部9で減じることができ、これにより軸受外部への潤滑油の漏れ出しを確実に防止することができる。そのため、周囲環境の汚染を防止すると共に、潤滑不良を長期間防止することが可能となる。
本実施形態では、軸受部材3の内周面3aに設けた上下のラジアル軸受面A,Aに形成した動圧溝4のうち、軸受部材3の内部側に対峙する第2動圧溝4bの傾斜方向を互いに等しくした。また、上下のラジアル軸受面A,A間に、動圧溝4の溝底よりも深い平滑な逃げ部10を設けた。逃げ部10を動圧溝4よりも深くしたことで、軸部材2が正回転したとき、上側ラジアル軸受面Aの下端部を構成する第2動圧溝4bから漏洩する潤滑油が逃げ部10へと流入し、軸受内部の圧力上昇が抑制されるため、軸部材2のトルク損失が軽減される。同様に、逆回転時には下側ラジアル軸受面Aの上端部を構成する第2動圧溝4bから漏洩する潤滑油が逃げ部10へと流れ込むため、軸受内部の圧力上昇が抑制され、軸部材2のトルク損失が軽減される。また、この流れの上流側では低圧傾向となるため、焼結金属製とされる軸受部材3の内部から、表面開孔を通じてラジアル軸受隙間Cに潤滑油が滲み出る。その一方、流れの下流側では高圧傾向となるため、ラジアル軸受隙間Cに介在する潤滑油が表面開孔を通じて軸受部材3の内部に還流する。その結果、上下のラジアル軸受隙間C,Cと軸受部材3の内部とで潤滑油の循環サイクルが形成され、二つのラジアル軸受隙間C,Cにおける潤滑油の流動循環性を一層向上することができる。これにより、軸受性能の安定化が図られると共に、ラジアル軸受隙間Cでのせん断作用や熱影響による潤滑油の早期劣化を防止することができる。
以上、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1について説明を行ったが、本発明に係る流体動圧軸受装置1には種々の変更を施すことが可能である。以下、流体動圧軸受装置1を構成する軸受部材3の変形例について図面を参照しながら説明を行うが、以上で説明したものと異なる点についてのみ詳細に説明を行い、実質的に同一の構成には共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
図5に示す軸受部材3は、幅狭部8および幅広部9の形成態様が上記した軸受部材3と異なる一例であり、上下二箇所に離間する各ラジアル軸受面A,Aの軸方向両側に、各ラジアル軸受面A,Aと隣接させて幅狭部8および幅広部9のセットを設けている。このような構成によれば、上記した実施形態と異なり、軸方向一方側のラジアル軸受面Aから、逃げ部10へ向う潤滑油の流れが抑制される。その結果、各ラジアル軸受隙間C,Cで生じる圧力を十分に高めることができ、ラジアル方向の支持能力を向上することができる。
なお、図5に示す各構成は、ラジアル軸受隙間Cと軸受部材3の内部とで形成される潤滑油の循環サイクルを、上下に形成されたラジアル軸受隙間Cで個々に形成するため、ラジアル軸受隙間外への潤滑油の流出量を少なくすることができる。従って、装置内に介在する潤滑油の総量が少ないタイプの流体動圧軸受装置1において特に好適である。
図6は、軸受部材3に設けられた各ラジアル軸受面A,Aのうち、第1動圧溝4aと上側の第2動圧溝4bとの合流部、および第1動圧溝4aと下側の第2動圧溝4bとの合流部に、各合流部を通るようにして内周面3aの全周に亘って延びる(環状の)背部11がそれぞれ設けられている点において、図3に示すものと構成を異にしている。各背部11は、動圧溝4を画成する丘部5と略同一高さに形成されている。図示の例では、凸部6および凹部7を、上下二箇所に離間して設けた動圧発生部Bのうち、環状隙間の軸方向の両端にのみ設けているが、図5に示す実施形態と同様に、凸部6および凹部7を各動圧発生部B,Bの軸方向両端に設けることもできる。
以上で説明した動圧溝4の配列態様は代表的なもの(へリングボーンタイプ)を例示したに過ぎない。すなわち、軸部材2が正方向又は逆方向に相対回転する何れの場合においても、ラジアル軸受面A(動圧発生部B)と、これに対向する軸部材2の外周面2aとの間に形成されるラジアル軸受隙間Cに潤滑油の動圧作用を発生させることができるのであれば、軸方向に対して傾斜した動圧溝4の配列態様は任意に設定することができ、例えばスパイラルタイプを使用することもできる。
また上記では、軸受部材3の内周面3aの上下二箇所に離間してラジアル軸受面A,Aが設けられた流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、軸受部材3の内周面3aの軸方向一箇所のみにラジアル軸受面Aが設けられた流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。この場合、環状隙間の軸方向両端に、隙間幅を小さくした幅狭部8を設け、この幅狭部8とラジアル軸受隙間Cとの間に、幅狭部8よりも隙間幅が大きく、かつ動圧溝4の一端が開口した幅広部9をラジアル軸受隙間Cの両端に設ける。このように幅狭部8と幅広部9を設けることで、同様に潤滑油の外部漏洩を防止することができる。
また、軸受部材3が焼結金属で形成された流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、軸受部材3が焼結金属以外の材料、例えば、黄銅等のソリッドな金属材料や樹脂材料(非多孔質/多孔質を問わない)で形成される場合にも好ましく適用することができる。
本発明は、軸受部材3の内周面3aに替えて、軸部材2の外周面2aにラジアル軸受面Aが設けられる流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。この場合、軸部材2は、焼結金属で形成することができる他、ソリッドな金属材料(例えば、ステンレス鋼)で形成することもできる。
また、以上の説明では、軸部材2の外周面と軸受部材3の内周面3aの間の環状隙間全体に潤滑油を充満させる場合を例示したが、これ以外にもラジアル軸受隙間Cのみに潤滑油を充満させることもできる。また、環状隙間に潤滑油を充満させず、軸受部材3からにじみ出てラジアル軸受隙間Cに供給された潤滑油だけで油膜を形成することもできる。
図7は、本発明の流体動圧軸受装置1を使用したモータ機構12の概略構成を一例として示すものである。図示のモータ機構12では、ステータコイル13aとロータマグネット13bとで構成されたモータ13の駆動力が、軸部材2を介してウォームギヤ14に伝達され、さらにこれに噛み合うギヤ15に伝達される。このギヤ15の正逆回転によって、図示しないリンクなどの部材を介して機械的動力が出力される。本発明の流体動圧軸受装置1は、ウォームギヤ14の両端を支持する軸受17,18のどちらか一方または双方に使用することができる。何れの軸受17,18でも、軸受部材3の軸方向両側が大気に開放された状態にある。このモータ機構12は、たとえば車両などに用いられるワイパーや、パワーウィンド等を駆動する機構12などに用いることができる。
以上で説明した流体動圧軸受装置1は、軸部材2と軸受部材3間の正逆両方向の相対回転を支持することができ、しかも潤滑油の外部漏洩を防止することができる。従ってその他にも、機械設備のサーボモータ、自動車の電装機器用モータ等、正逆両方向に回転し、かつ両方向の回転を長期間に亘って安定的に支持することが求められるモータ用として好適である。もちろん、以上で説明した流体動圧軸受装置1は、HDDに代表される情報機器に搭載される小型モータにも用いることができる。この種の流体軸受装置1では、環状隙間の軸方向一方側が大気に開放される一方で、環状隙間の軸方向他方側が大気と遮断された密閉状態にあるが、この場合にも図2、図5、図6と同様の態様で幅狭部8と幅広部9を軸受部材3の軸方向両側に形成することで、モータ組立時の軸受部材3の取り付け方向性をなくして、モータの組み立てを容易化することができる。
本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置の概略断面図である。 図1に示す軸受部材の断面図である。 図1に示す流体動圧軸受装置のZ−Z線断面図である。 動圧発生部を型成形する工程を示す図である。 本発明の第二の実施形態を示す断面図である。 本発明の第三の実施形態を示す断面図である。 本発明の実施例を示すモータ機構の概略断面図である。
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
2a 外周面
3 軸受部材
3a 内周面
4 動圧溝
4a 第1動圧溝
4b 第2動圧溝
5 丘部
6 凸部
7 凹部
8 幅狭部
9 幅広部
10 逃げ部
A ラジアル軸受面
C ラジアル軸受隙間
B1 第1動圧発生部
B2 第2動圧発生部

Claims (8)

  1. 軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材と、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のどちらか一方に設けられ、他方との間にラジアル軸受隙間を形成し、傾斜方向を異にする二種類の動圧溝を有するラジアル軸受面と、ラジアル軸受隙間に供給された潤滑油とを備え、軸受部材と軸部材とが正逆方向に相対回転可能であり、ラジアル軸受面に、正回転時に潤滑油の動圧作用を生じさせる第1動圧発生部と、逆回転時に潤滑油の動圧作用を生じさせる第2動圧発生部とが設けられた流体動圧軸受装置において、
    軸受部材の内周面と軸部材の外周面とで形成される環状隙間に、前記ラジアル軸受面と隣接させ、かつ軸方向位置を異ならせて隙間幅の小さい幅狭部と隙間幅の大きい幅広部とを設け、かつ幅狭部とラジアル軸受隙間との間に幅広部を配置したことを特徴とする流体動圧軸受装置。
  2. 幅広部に、動圧溝の一端を開口させた請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
  3. 幅狭部を、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のうち、どちらか一方に形成した凸部と、他方との間に設けた請求項1または2に記載の流体動圧軸受装置。
  4. 幅広部を、軸受部材の内周面または軸部材の外周面のうち、どちらか一方に形成した凹部と、他方との間に設けた請求項3に記載の流体動圧軸受装置。
  5. 軸受部材を焼結金属製とし、前記凸部、凹部、第1動圧発生部、および第2動圧発生部を軸受部材の内周面に設けた請求項4に記載の流体動圧軸受装置。
  6. 凹部を動圧溝と同じ深さに、もしくは動圧溝よりも深くなるように形成した請求項5に記載の流体動圧軸受装置。
  7. 前記幅狭部および幅広部を、前記ラジアル軸受隙間の大気開放側に形成した請求項1〜6の何れか1項に記載の流体動圧軸受装置。
  8. 請求項1〜7の何れか1項に記載した流体動圧軸受装置を有するモータ機構。
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