JP2014025397A - 密閉型圧縮機及び冷凍サイクル装置 - Google Patents

密閉型圧縮機及び冷凍サイクル装置 Download PDF

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明 森嶋
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Abstract

【課題】ベーンのかじりの発生を防止し、さらに、ベーンと閉止部材との間のクリアランスを適正な値に調整するとともにそのクリアランス偏差を小さくし、効率偏差が小さい密閉型圧縮機を提供する。
【解決手段】ベーン22は、A面がローラの外周面に当接し、B面がシリンダと摺接し、C面が閉止部材の端面と摺接し、ベーン22には、A面に第1のアモルファス炭素層33が形成され、B面に第2アモルファス炭素層34が形成され、C面に第3のアモルファス炭素層35が形成されている。第1のアモルファス炭素層33は膜厚が“Ta”、ビッカース硬さが“HVa”、第2のアモルファス炭素層34は膜厚が“Tb”、ビッカース硬さが“HVb”、第3のアモルファス炭素層35は膜厚が“Tc”、ビッカース硬さが“HVc”であり、“Ta>Tc”、“Tb>Tc”、“HVa>HVc”、“HVb>HVc”の関係を有する。
【選択図】図3

Description

本発明の実施形態は、密閉型圧縮機及びこの密閉型圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関する。
冷凍サイクル装置はガス冷媒を圧縮する圧縮機を備えており、この圧縮機は、シリンダと、シリンダの両端を閉止することによりシリンダ内にシリンダ室を形成する軸受や仕切板等の閉止部材と、シリンダ室内に偏心回転可能に収容されたローラと、シリンダに形成されたベーン溝に摺動可能に設けられたベーンとを備えた圧縮機構部を有している。ベーンは、先端面をローラの外周面に当接させるとともに側面をシリンダや閉止部材に当接させた状態で摺動し、シリンダ室内をガス冷媒を吸込む吸込室と、吸込んだガス冷媒を圧縮する圧縮室とに仕切っている。
下記特許文献1には、圧縮機のベーンの表面の一部に硬質のアモルファス炭素層を形成し、ベーンの摩耗を防止することが記載されている。このベーンにおいてアモルファス炭素層が形成されている部分は、摺動するベーンが周囲に位置する部材に当接した場合に大きな負荷が作用する部分であり、具体的には、ローラに当接するベーンの先端面と、ベーンの側面のうち圧力の高い圧縮室からの圧力により付勢されて圧力の低い吸込室側のシリンダに当接する側面である。
特開2009−235969号公報
しかしながら、特許文献1に記載されたベーンは、摺動するベーンが周囲に位置する部材に当接した場合に作用する負荷が小さい部分、具体的には、ベーンの側面のうち圧力の高い圧縮室側のシリンダに当接する側面と、軸受や仕切板等の閉止部材に当接する側面とにはアモルファス炭素層は形成されておらず、軟質なベーンの母材が露出している。そして、ベーンの摺動時には、露出した母材をシリンダや閉止部材に当接させた状態で摺動するため、ベーンにおけるアモルファス炭素層が形成されていない面では、かじりが発生しやすい。
一方、ベーンの表面の全体に同じような膜厚及び硬度でアモルファス炭素層を形成した場合には、軸受や仕切板等の閉止部材に当接するアモルファス炭素層の膜厚偏差により、各圧縮機ごとのベーンと閉止部材との間のクリアランス偏差が大きくなる。そして、このクリアランス偏差が大きくなることにより、圧縮室から吸込室へのガス冷媒の漏れ偏差が大きくなり、この漏れ偏差が大きくなることが原因となって各圧縮機ごとの効率のバラツキが大きくなっている。
本発明の実施形態の目的は、摺動時におけるベーンのかじりの発生を防止し、さらに、ベーンと閉止部材との間のクリアランスを適正な値に調整するとともにそのクリアランス偏差を小さくし、効率のバラツキが小さい密閉型圧縮機及びこの密閉型圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を提供することである。
実施形態の密閉型圧縮機は、電動機部とこの電動機部により駆動されて作動流体を圧縮する圧縮機構部とが密閉ケース内に収容され、圧縮機構部は、シリンダと、このシリンダの両端を閉止して内部にシリンダ室を形成する閉止部材と、電動機部に連結されてシリンダ室内に偏心回転可能に収容されたローラと、シリンダに形成されたベーン溝と、このベーン溝に摺動可能に収容されて摺動方向の先端面がローラの外周面に当接するとともに一対の側面がシリンダと摺接し、さらに、他の一対の側面が閉止部材と摺接することによりシリンダ室内を吸込室と圧縮室とに仕切るベーンとを有し、ベーンの先端面と一対の側面と他の一対の側面とにアモルファス炭素層が形成され、ベーンの先端面のアモルファス炭素層(第1のアモルファス炭素層)の膜厚が“Ta”に形成され、ベーンの一対の側面のアモルファス炭素層(第2のアモルファス炭素層)の膜厚が“Tb”に形成され、ベーンの他の一対の側面のアモルファス炭素層(第3のアモルファス炭素層)の膜厚が“Tc”に形成され、第1のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVa”に形成され、第2のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVb”に形成され、第3のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVc”に形成され、第1ないし第3のアモルファス炭素層の膜厚は、“Ta>Tc”、かつ、“Tb>Tc”の関係を有し、第1ないし第3のアモルファス炭素層のビッカース硬さは、“HVa>HVc”、かつ、“HVb>HVc”の関係を有する。
一部を断面で示した密閉型圧縮機を含む冷凍サイクル装置の構成図である。 圧縮機構部の水平断面図である。 ベーンの構造を示す断面図であり、(a)は水平断面図、(b)は縦断面図である。 ベーンの各面におけるアモルファス炭素層の膜厚の一例を示す説明図である。 ベーンの各面に作用する負荷比(P値)を示す説明図である。 ベーンの各面における負荷比(P値)と摺動速度(V値)との積(PV値)を示す説明図である。
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す冷凍サイクル装置1は、圧縮機本体2とアキュムレータ3とを有する密閉型圧縮機4と、圧縮機本体2の吐出側に接続されて圧縮された作動流体である高圧のガス冷媒を凝縮して液冷媒にする凝縮器5と、凝縮器5に接続されて液冷媒を減圧する膨張装置6と、膨張装置6とアキュムレータ3との間に接続されて液冷媒を蒸発させる蒸発器7とを有している。アキュムレータ3は圧縮機本体2に接続されている。アキュムレータ3では液冷媒が分離され、ガス冷媒のみが圧縮機本体2に供給される。
圧縮機本体2は、円筒状に形成された密閉ケース8を有し、この密閉ケース8内に、電動機部9とこの電動機部9により駆動されてガス冷媒を圧縮する圧縮機構部10とが収容されている。これらの電動機部9と圧縮機構部10とは、電動機部9が上方に配置されて圧縮機構部10が下方に配置され、電動機部9と圧縮機構部10とは上下方向に延出してその軸心回りに回転する回転軸11を介して連結されている。密閉ケース8内の底部には潤滑油12が貯留されている。
電動機部9は、回転軸11に固定された回転子13と、密閉ケース8に固定されて回転子13を囲む位置に配置された固定子14とを有している。回転子13には永久磁石(図示せず)が設けられ、固定子14にはコイル(図示せず)が巻かれている。
圧縮機構部10は、図1及び図2に示すように、上下方向の両端が開口されたシリンダ
15と、シリンダ15の上端側を閉止する閉止部材である主軸受16と、シリンダ15の下端側を閉止する閉止部材である副軸受17とを有し、シリンダ15の両端が主軸受16と副軸受17とで閉止されることによりシリンダ15内にシリンダ室18が形成されている。このシリンダ室18には回転軸11が挿通され、回転軸11は主軸受16と副軸受17とにより軸心回りに回転可能に軸支されている。回転軸11におけるシリンダ室18内に位置する部分に偏心部19が形成され、この偏心部19にローラ20が嵌合され、ローラ20は回転軸11の回転に伴って偏心回転可能となるようにシリンダ室18内に収容されている。
さらに、圧縮機構部10のシリンダ15にはベーン溝21が形成され、このベーン溝21には板形状に形成されたベーン22が摺動可能に収容されている。ベーン溝21の奥部にはスプリング23が収容され、このスプリング23によりベーン22の後端側がローラ20側に付勢されるようになっている。ベーン22はスプリング23の付勢力及びベーン22後端側の密閉ケース8内の圧力とベーン22先端側のシリンダ室18内の圧力との圧力差によってベーン22の先端面がローラ20の外周面に押圧され当接している。さらにこのベーン22は、回転軸11の回転方向に沿った一対の側面がシリンダ15と摺接し、回転軸11の軸方向に沿った他の一対の側面が主軸受16の端面と副軸受17の端面と摺接する。そして、シリンダ室18内はベーン22により二つの部屋に仕切られ、一方の部屋は低圧のガス冷媒を吸込む吸込室24とされ、他方の部屋は吸込んだガス冷媒を圧縮する圧縮室25とされている。シリンダ15には、吸込室24に吸込まれるガス冷媒が流れる吸込通路26が形成されている。この吸込通路26は、アキュムレータ3に接続されている。
図1に戻って、主軸受16には、圧縮室25で圧縮されたガス冷媒が吐出される吐出孔27が形成され、さらに主軸受16には、この吐出孔27を覆う吐出マフラ28が取付けられている。吐出マフラ28には、吐出マフラ28内と密閉ケース8内とを連通する連通孔29が形成されている。
図3は、ベーン22の構造を示す断面図であり、(a)は水平断面図、(b)は縦断面図である。ベーン22は、硬度HRC63に調質された高速度工具鋼(SKH51)を母材30としており、この母材30の上に第1の下地層31と第2の下地層32とアモルファス炭素層とが積層して形成されている。第1の下地層31は、母材30の表面に形成されたクロム(Cr)からなる単一金属層であり、第2の下地層32は第1の下地層31の上に形成されたクロムとタングステンカーバイト(WC)とからなる合金層である。
アモルファス炭素層は、ベーン22の母材30より硬質な層であり、ベーン22の摺動時にローラ20に当接するベーン22の先端面(A面)に形成された第1のアモルファス炭素層33と、ベーン22の摺動時にシリンダ15と摺接するベーンの一対の側面(B面)に形成された第2のアモルファス炭素層34と、ベーン22の摺動時に主軸受16の端面と副軸受17の端面と摺接するベーン22の他の一対の側面(C面)に形成された第3のアモルファス炭素層35とにより構成されている。第1のアモルファス炭素層33と第2のアモルファス炭素層34とは、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”と、金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”とを2層に積層して形成されている。一方、第3のアモルファス炭素層35は、タングステンを含有するアモルファス炭素層“X”のみから形成されている。タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”と、金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”との硬さを比較すると、金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”が、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”より硬い。
第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35の膜厚については、第1のアモ
ルファス炭素層33の膜厚が“Ta”に形成され、第2のアモルファス炭素層34の膜厚が“Tb”に形成され、第3のアモルファス炭素層35の膜厚が“Tc”に形成されている。そして、これらの第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35の膜厚は、“Ta>Tc”、かつ、“Tb>Tc”の関係を有している。
さらに、第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35の膜厚については、第1のアモルファス炭素層33の膜厚“Ta”と第2のアモルファス炭素層34の膜厚“Tb”とが、“2(μm)≦Tb<Ta”に形成され、第3のアモルファス炭素層35の膜厚“Tc”が、“0<Tc≦1(μm)”に形成されている。
図4は、ベーン22の各面(A面、B面、C面)に形成された第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35の膜厚の一例を示したものである。第1のアモルファス炭素層33が“2.5μm”の膜厚に形成され、第2のアモルファス炭素層34が“2.0μm”の膜厚に形成され、第3のアモルファス炭素層35が“0.5μm”の膜厚に形成されている。
第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35のビッカース硬度については、第1のアモルファス炭素層33のビッカース硬さが“HVa”に形成され、第2のアモルファス炭素層34のビッカース硬さが“HVb”に形成され、第3のアモルファス炭素層35のビッカース硬さが“HVc”に形成されている。そして、上述したように、金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”は、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”より硬いため、第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35のビッカース硬さは、“HVa>HVc”、かつ、“HVb>HVc”の関係を有している。
図5は、ベーン22の摺動時にベーン22の各面(A面、B面、C面)に作用する負荷の比率である負荷比(P値)を示している。ベーン22の摺動時においてA面とB面とに作用する負荷は略同じであり、このA面とB面とのP値を100とした場合、C面に作用する負荷のP値は1ないし10となる。
図6は、ベーン22の各面(A面、B面、C面)における、図5に示したP値と、ベーン22とベーン22が当接、摺接する各部材(ローラ20、シリンダ15、主軸受16、副軸受17)との摺動速度(V値)との積(PV値)を示している。ベーン22の先端面であるA面が当接するローラ20は、回転軸11の偏心部19に対して自転運動するため、ベーン22のA面とローラ20との摺動速度は、ベーン22のB面とシリンダ15との摺動速度と比較すると、著しく大きいため、A面のPV値は、B面のPV値に対して3倍以上大きくなっている(ローラ20の自転率によって値は異なる)。
このような構成において、この密閉型圧縮機4においては、電動機部9に通電されることにより回転軸11が回転駆動され、回転軸11の回転に伴ってシリンダ室18内でローラ20が偏心回転し、圧縮機構部10が駆動される。
圧縮機構部10が駆動されることにより、低圧のガス冷媒が吸込通路26から吸込室24内に吸込まれ、吸込まれたガス冷媒は圧縮室25内で圧縮されて高圧になる。圧縮室25内で圧縮されて高圧となったガス冷媒は、主軸受16に形成された吐出孔27から吐出マフラ28内に吐出され、さらに、吐出マフラ28内に吐出されたガス冷媒は連通孔29を通って密閉ケース8内に流入する。密閉ケース8内に流入した高圧のガス冷媒は、凝縮器5、膨張装置6、蒸発器7の順に流れ、蒸発器7で蒸発して低圧となった後にアキュムレータ3を経由して圧縮機構部10の吸込室24内に再び吸込まれる。
圧縮機構部10においては、ローラ20が偏心回転することにより先端面(A面)をローラ20の外周面に当接させたベーン22が摺動する。このベーン22は、摺動時に先端面(A面)がローラ20の外周面に当接するとともに、一対の側面(B面)がシリンダ15と摺接し、さらに、他の一対の側面(C面)が主軸受16の端面と副軸受17の端面と摺接することにより、シリンダ室18内を吸込室24と圧縮室25とに仕切っている。
ここで、ベーン22の周囲に位置する各部材(ローラ20、シリンダ15、主軸受16、副軸受17)に当接するベーン22の各面(A面、B面、C面)には、ベーン22の母材30より硬質な第1ないし第3のアモルファス炭素層33、34、35が形成されている。このため、ベーン22の摺動時にベーン22が周囲に位置する各部材(ローラ20、シリンダ15、主軸受16、副軸受17)に当接しても、ベーン22に各部材との間でかじりが発生することを抑制することができる。
ベーン22が摺動する場合にはベーン22の各面(A面、B面、C面)に負荷が作用し、その負荷比(P値)は図5に示すように、A面、B面に比べてC面は大幅に小さくなっている。このため、ベーン22の摺動時においては、P値が大きいA面、B面は、その一部が油膜を介さずにローラ20やシリンダ15と直接接触する混合潤滑状態となり易いが、C面は主軸受16の端面や副軸受17の端面との間に油膜が形成される流体潤滑状態となる。
したがって、ベーン22の摺動時において、C面は、A面、B面に比べてP値が小さいとともに流体潤滑状態が得られることにより摩耗しにくく、C面の第3のアモルファス炭素層35の膜厚をA面の第1のアモルファス炭素層33及びB面の第2のアモルファス炭素層34より薄く形成しても、C面の第3のアモルファス炭素層35が摩耗することによる密閉型圧縮機4の信頼性の低下を防止することができる。
また、A面の第1アモルファス炭素層33とB面のアモルファス炭素層34とが、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”と、このアモルファス炭素層“X”より硬く金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”とを積層して形成されているのに対し、C面の第3のアモルファス炭素層34はタングステンを含有するアモルファス炭素層“X”のみから形成され、C面はA面、B面に比べて軟らかである。しかし、C面はA面、B面に比べて摩耗しにくいため、C面がA面、B面に比べて軟らかであっても、C面の第3のアモルファス炭素層35が摩耗することによる密閉型圧縮機4の信頼性の低下を防止することができる。
一方、C面の第3のアモルファス炭素層35の膜厚がA面の第1アモルファス炭素層33の膜厚、B面のアモルファス炭素層34の膜厚より薄く形成されていることにより、C面に形成する第3のアモルファス炭素層35の膜厚偏差を小さくすることができる。そして、C面の第3のアモルファス炭素層35の膜厚偏差が小さくなることにより、C面と主軸受16の端面との間のクリアランス偏差、及び、C面と副軸受17の端面との間のクリアランス偏差を小さくすることができる。このクリアランス偏差が小さくなることにより、圧縮室25から吸込室24へのガス冷媒の漏れ偏差が小さくなり、各密閉型圧縮機4ごとの効率のバラツキを小さくすることができ、各密閉型圧縮機4の性能を向上させることができる。
しかも、C面の第3のアモルファス炭素層35は、A面、B面の第1及び第2のアモルファス炭素層33、34に比べて軟らかであるため、C面の第3のアモルファス炭素層35の表面粗さを初期なじみにより摩耗させることが容易である。そして、C面のアモルファス炭素層35の膜厚を、初期なじみによる摩耗を考慮した膜厚に形成することにより、初期なじみ後における第3のアモルファス炭素層35と主軸受16の端面、副軸受17の
端面との間のクリアランを適正な値に調整することができ、圧縮室25から吸込室24へのガス冷媒の漏れを抑制することができ、密閉型圧縮機4の性能をより一層向上させることができる。
A面の第1のアモルファス炭素層33の膜厚“Ta”と、B面の第2のアモルファス炭素層33の膜厚“Tb”とは、“2(μm)≦Tb<Ta”に形成されている。このように第1及び第2のアモルファス炭素層33、34の膜厚“Ta、Tb”が2μm以上であるため、これらの第1及び第2のアモルファス炭素層33、34は十分な耐摩耗性を得ることができる。また、第1及び第2のアモルファス炭素層33、34の膜厚“Ta、Tb”が2μm以上であるため、これらの第1及び第2のアモルファス炭素層33、34を、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”と、金属を含有せず炭素と水素とを含むアモルファス炭素層“Y”とを積層して2層構造に形成することが可能となる。
また、A面の第1のアモルファス炭素層33の膜厚“Ta”とB面の第2のアモルファス炭素層34の膜厚“Tb”とは、第1のアモルファス炭素層33の膜厚のほうが厚く、“Tb<Ta”に形成されている。A面とB面とは図6に示すように、A面のPV値がB面のPV値より大きくA面のほうが摩耗しやすいが、A面の第1のアモルファス炭素層33の膜厚“Ta”をB面の第2のアモルファス炭素層34の膜厚“Tb”より厚く形成することにより、密閉型圧縮機4の耐用年数内においてA面が先に摩耗限度に達するということを防止できる。
また、C面の第3のアモルファス炭素層35の膜厚“Tc”が、“0<Tc≦1(μm)”に形成されている。このため、C面の第3のアモルファス炭素層35を形成した場合の膜厚偏差を十分に小さな範囲に抑えることができる。また、C面の第3のアモルファス炭素層35は、タングステン(W)を含有するアモルファス炭素層“X”のみからなる単層構造であるため、この厚さの範囲内において第3のアモルファス炭素層35を容易に形成することができる。
なお、本実施の形態では、1つのシリンダ15とその内部に形成された1つのシリンダ室18とを有する単シリンダタイプの密閉型圧縮機4を例に挙げて説明したが、本発明が適用できる密閉型圧縮機としてはこれに限らず、回転軸11の軸方向に沿って2つ以上のシリンダを有する多シリンダタイプの密閉型圧縮機であってもよい。
以上説明した実施形態によれば、摺動方向の先端面がローラ20の外周面に当接するとともに一対の側面がシリンダ15と摺接し、さらに、他の一対の側面が主軸受16の端面と副軸受17の端面と摺接してシリンダ室18内を吸込室24と圧縮室25とに仕切るベーン22が摺動可能に設けられ、ベーン22の先端面に第1のアモルファス炭素層33が形成され、ベーン22の一対の側面に第2アモルファス炭素層34が形成され、ベーン22の他の一対の側面に第3のアモルファス炭素層35が形成されている。そして、第1のアモルファス炭素層の膜厚が“Ta”、第2のアモルファス炭素層の膜厚が“Tb”、第3のアモルファス炭素層の膜厚が“Tc”に形成され、これらの膜厚は、“Ta>Tc”、かつ、“Tb>Tc”の関係を有している。また、第1のアモルファス炭素層33のビッカース硬さが“HVa”、第2のアモルファス炭素層34のビッカース硬さが“HVb”、第3のアモルファス炭素層35のビッカース硬さが“HVc”に形成され、これらのビッカース硬さは、“HVa>HVc”、かつ、“HVb>HVc”の関係を有している。このため、ベーン22の耐摩耗性を向上させてかじりの発生を防止することができ、さらに、ベーン22と主軸受16、副軸受17との間のクリアランスを適正な値に調整することができるとともにそのクリアランス偏差を小さくすることができ、密閉型圧縮機4の効率偏差を小さくして密閉型圧縮機4の性能向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1…冷凍サイクル装置、4…密閉型圧縮機、5…凝縮器、6…膨張装置、7…蒸発器、8…密閉ケース、9…電動機部、10…圧縮機構部、15…シリンダ、16…主軸受(閉止部材)、17…副軸受(閉止部材)、18…シリンダ室、21…ベーン溝、22…ベーン、24…吸込室、25…圧縮室、33…第1のアモルファス炭素層、34…第2のアモルファス炭素層、35…第3のアモルファス炭素層

Claims (3)

  1. 電動機部とこの電動機部により駆動されて作動流体を圧縮する圧縮機構部とが密閉ケース内に収容され、
    前記圧縮機構部は、シリンダと、このシリンダの両端を閉止して内部にシリンダ室を形成する閉止部材と、前記電動機部に連結されて前記シリンダ室内に偏心回転可能に収容されたローラと、前記シリンダに形成されたベーン溝と、このベーン溝に摺動可能に収容されて摺動方向の先端面が前記ローラの外周面に当接するとともに一対の側面が前記シリンダと摺接し、さらに、他の一対の側面が前記閉止部材と摺接することにより前記シリンダ室内を吸込室と圧縮室とに仕切るベーンとを有し、
    前記ベーンの前記先端面と前記一対の側面と前記他の一対の側面とにアモルファス炭素層が形成され、
    前記ベーンの前記先端面の前記アモルファス炭素層(第1のアモルファス炭素層)の膜厚が“Ta”に形成され、前記ベーンの前記一対の側面の前記アモルファス炭素層(第2のアモルファス炭素層)の膜厚が“Tb”に形成され、前記ベーンの前記他の一対の側面の前記アモルファス炭素層(第3のアモルファス炭素層)の膜厚が“Tc”に形成され、
    前記第1のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVa”に形成され、前記第2のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVb”に形成され、前記第3のアモルファス炭素層のビッカース硬さが“HVc”に形成され、
    前記第1ないし第3のアモルファス炭素層の膜厚は、“Ta>Tc”、かつ、“Tb>Tc”の関係を有し、
    前記第1ないし第3のアモルファス炭素層のビッカース硬さは、“HVa>HVc”、かつ、“HVb>HVc”の関係を有することを特徴とする密閉型圧縮機。
  2. 前記第1のアモルファス炭素層の膜厚“Ta”と前記第2のアモルファス炭素層の膜厚“Tb”とが、“2(μm)≦Tb<Ta”に形成され、前記第3のアモルファス炭素層の膜厚“Tc”が、“0<Tc≦1(μm)”に形成されていることを特徴とする請求項1記載の密閉型圧縮機。
  3. 請求項1又は2に記載の密閉型圧縮機と、
    前記密閉型圧縮機に接続された凝縮器と、
    前記凝縮器に接続された膨張装置と、
    前記膨張装置と前記密閉型圧縮機との間に接続された蒸発器と、
    を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
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