以下、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図において、共通の機能を有する部材間、または、相互に対応する機能を有する部材間には、原則として共通の参照符号を付するものとする。また、説明の便宜のため、部材のサイズおよび形状は、変形または誇張して模式的に表す場合がある。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の車両Vへの搭載例〕
はじめに、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の車両Vへの搭載例について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10を車両Vに搭載した例を表す図である。
なお、車両Vの前後左右の方向を図1中の矢印で表している。
本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、油圧回路を媒介して制動力を発生させる既存のブレーキシステムに加えて、電気回路を媒介して制動力を発生させる、バイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムを備えている。
車両用制動力発生装置10は、図1に示すように、運転者の制動操作がブレーキペダル(本発明の“制動操作部材”に相当する。)12を介して入力される車両用液圧発生装置(以下、“液圧発生装置“と省略する場合がある。)14と、少なくとも制動操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するモータシリンダ装置16と、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両の挙動の安定化を支援するビークル・スタビリティ・アシスト装置18(以下、“VSA装置18”と省略する。ただし、VSAは登録商標)と、を備えて構成されている。
液圧発生装置14は、図1に示す例では、右ハンドル車に適用されるものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されている。ただし、液圧発生装置14は、左ハンドル車に適用されるものであってもよい。
モータシリンダ装置16は、図1に示す例では、液圧発生装置14とは逆側の車幅方向の左側に配設され、左側のサイドフレーム等の車体1に取付ブラケット(不図示)を介して取り付けられている。
VSA装置18は、図1に示す例では、車体1における車幅方向の右側前端部に、取付ブラケット(不図示)を介して取り付けられている。VSA装置18は、制動操作時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能等を備えて構成されている。
なお、VSA装置18に代えて、ABS機能を有するABS装置を接続してもよい。
液圧発生装置14、モータシリンダ装置16、および、VSA装置18は、図1に示すように、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、配管チューブ22a〜22fを介して互いに分離して配設されている。液圧発生装置14、モータシリンダ装置16、および、VSA装置18の内部の詳細構成については後記する。
車両用制動力発生装置10は、前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車のいずれにも適用可能である。また、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとしての液圧発生装置14およびモータシリンダ装置16は、不図示の電線を介して、後記するECU(Electronic Control Unit)307(図3A参照)と電気的に接続されている。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の概要〕
図2Aは、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の概要を表す構成図である。
まず、液圧路の構成について説明する。図2A中の連結点A1を基準として、液圧発生装置14の接続ポート20aと連結点A1とが、第1配管チューブ22aを介して接続されている。また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが、第2配管チューブ22bを介して接続されている。さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが、第3配管チューブ22cを介して接続されている。
図2A中の他の連結点A2を基準として、液圧発生装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが、第4配管チューブ22dを介して接続されている。また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが、第5配管チューブ22eを介して接続されている。さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが、第6配管チューブ22fを介して接続されている。
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gを介して、右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hを介して、左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iを介して、右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jを介して、左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jを介してブレーキ液(ブレーキフルード)が、ディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
なお、車両用制動力発生装置10は、例えば、レシプロエンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して適用することができる。
液圧発生装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作量に応じて液圧を発生させるタンデム式のマスタシリンダ34と、マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダ部38内には、第1ピストン40aおよび第2ピストン40bが、前記シリンダ部38の軸線方向に沿って所定間隔離間した状態で摺動自在に設けられている。第1ピストン40aは、ブレーキペダル12の側に近接して配設され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、第2ピストン40bは、第1ピストン40aと比べてブレーキペダル12から離間して配設される。
第1ピストン40aおよび第2ピストン40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a,44bがそれぞれ設けられている。一対のピストンパッキン44a,44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a,46bと連通する背室48a,48bが形成される。第1ピストン40aと第2ピストン40bとの間には、第1ピストン40aおよび第2ピストン40bの間を連結する第1ばね部材50aが設けられている。第2ピストン40bとシリンダ部38の内壁部との間には、第2ピストン40bおよびシリンダ部38の内壁部の間を連結する第2ばね部材50bが設けられている。
マスタシリンダ34のシリンダ部38には、2つのサプライポート46a,46bと、2つのリリーフポート52a,52bと、2つの出力ポート54a,54bと、がそれぞれ設けられている。各サプライポート46a,46bおよび各リリーフポート52a,52bは、それぞれ合流して第1リザーバ36内の不図示のリザーバ室と連通するようになっている。
また、マスタシリンダ34のシリンダ部38内には、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み力(踏力)に対応したブレーキ液圧を発生させる第1液圧室56aおよび第2液圧室56bがそれぞれ設けられている。第1液圧室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するようになっている。第2液圧室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するようになっている。
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には、圧力センサPmが設けられている。また、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられている。この圧力センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知する機能を有する。
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられている。また、第2液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられている。この圧力センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL側の下流側の液圧を検知する機能を有する。
第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2Aにおいて、第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bは、励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、前記第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられている。この分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64と、が直列に接続されている。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
次に、ストロークシミュレータ64の概要について、図2Aを参照して説明する。図2Aに示すように、ストロークシミュレータ64は、第2液圧路58b上であって、第2遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配設されている。ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する反力液圧室65が設けられている。この反力液圧室65に対し、マスタシリンダ34の第2液圧室56bで生じたブレーキ液圧が印加されるようになっている。ストロークシミュレータ64は、そのハウジングに、シミュレータピストン67と、第1のリターンスプリング68aと、第2のリターンスプリング68bとを備える。
ここで、液圧路の構成について説明する。液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1液圧室56aと複数のホイールシリンダ32FR,32RLとを接続する第1液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第2液圧室56bと複数のホイールシリンダ32RR,32FLとを接続する第2液圧系統70bとから構成される。
第1液圧系統70aは、液圧発生装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダ部38)の出力ポート54aおよび接続ポート20a間を接続する第1液圧路58aと、液圧発生装置14の接続ポート20aおよびモータシリンダ装置16の出力ポート24a間を接続する第1および第2配管チューブ22a,22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aおよびVSA装置18の導入ポート26a間を接続する第2および第3配管チューブ22b,22cと、VSA装置18の第1および第2導出ポート28a,28b並びに各ホイールシリンダ32FR,32RL間をそれぞれ接続する第7および第8配管チューブ22g,22hと、を有する。
第2液圧系統70bは、液圧発生装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダ部38)の出力ポート54bおよび他の接続ポート20b間を接続する第2液圧路58bと、液圧発生装置14の他の接続ポート20bおよびモータシリンダ装置16の出力ポート24b間を接続する第4および第5配管チューブ22d,22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bおよびVSA装置18の導入ポート26b間を接続する第5および第6配管チューブ22e,22fと、VSA装置18の第3および第4導出ポート28c,28d並びに各ホイールシリンダ32RR,32FL間をそれぞれ接続する第9および第10配管チューブ22i,22jと、を有する。
次に、VSA装置18について、図2Aを参照して説明する。VSA装置18は、周知の構成のものを適宜採用することができる。具体的には、VSA装置18としては、例えば、右側前輪および左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第1液圧系統70aを制御する第1ブレーキ系110aと、右側後輪および左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第2液圧系統70bを制御する第2ブレーキ系110bとを有するものを用いることができる。
第1ブレーキ系110aおよび第2ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110aと第2ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第1ブレーキ系110aの説明を中心にして、第2ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
第1ブレーキ系110a(第2ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR,32RL(32RR,32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112および第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配設されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配設され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配設されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配設され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配設されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配設され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126と、を備える。
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配設されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配設されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配設されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配設されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138および吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配設されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
第1ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第1液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、ECU307(図3A参照)に送られる。
〔モータシリンダ装置16の構成〕
次に、本発明の実施形態において重要な役割を果たすモータシリンダ装置16の構成について、図2Aに加えて、図2Bおよび図2Cを参照して説明する。
図2Bおよび図2Cは、モータシリンダ装置16のうち、電動モータ72の周辺構造を拡大して表す説明図である。このうち、図2Bは、ボールねじ軸部80aが原点位置OPに位置づけられている状態を表す。一方、図2Cは、ボールねじ軸部80aが終点位置EPに位置づけられている状態を表す。
本発明の“電動液圧発生部”に相当するモータシリンダ装置16は、図2A〜図2Cに示すように、電動モータ72の回転駆動力によって第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bを軸方向に駆動し、これをもってブレーキ液圧を発生させる機能を有する。
なお、モータシリンダ装置16において、第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bの移動方向のうち、図2A〜図2C中の矢印で示すX1方向を前進方向(液圧発生方向)とし、前進方向(液圧発生方向)とは逆の、図2A〜図2C中の矢印で示すX2方向を後退方向と定義する。
モータシリンダ装置16は、図2Aに示すように、シリンダ部76と、電動モータ72と、電動モータ72の駆動力を第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73と、を備えている。シリンダ部76は、本発明の“シリンダ”に相当する。第1スレーブピストン88aは、本発明の“ピストン”に相当する。
シリンダ部76は、図2Aに示すように、略円筒形状のシリンダ本体82と、シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、液圧発生装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36および配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように構成されている。
シリンダ本体82内には、第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bが、シリンダ本体82の軸線方向に所定間隔離間した状態で、前記軸線方向に沿って摺動自在に設けられている。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80の側に配設される一方、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配設される。
電動モータ72は、後記するストロークセンサ305(図3A参照)で検出される運転者によるブレーキペダル12の操作量(ストローク量)に応じて、次述する動力伝達機構74を介して、第1スレーブピストン88aを駆動する機能を有する。電動モータ72としては、例えば、ブラシレスDCモータやACサーボモータのような永久磁石同期モータを採用することができる。以下の説明では、本実施形態で用いられる電動モータ72として、埋め込み構造の永久磁石(界磁に永久磁石を埋め込んだ、空隙を有する常磁性体)により励磁される三相交流モータを例示して説明する。
電動モータ72は、不図示の固定子コイルおよび回転子を有している。電動モータ72では、固定子コイルの三相巻線に三相交流電流が流れると回転磁界を生じる。この回転磁界を回転子の回転角度に合わせて制御することによって、回転子に取り付けられた永久磁石が回転磁界に作用してトルクが生まれるようになっている。
駆動力伝達部73は、図2B、図2Cに示すように、電動モータ72の回転駆動力を伝達する減速機構78、および、電動モータ72の回転駆動力をボールねじ軸部80aの軸方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80を含む動力伝達機構74を有している。
第1スレーブピストン88aにおける後退方向の端部88a1は、運転者によるブレーキペダル12の操作がされていない状態において、後記する第1および第2のリターンスプリング96a,96b(図2A参照)のばね力を受けて、シリンダ本体82内に形成された環状段部82aに突き当てられるように位置している。要するに、第1スレーブピストン88aは、後退方向に付勢されている。
第1スレーブピストン88aにおける後退方向の端部88a1には、図2B、図2Cに示すように、略円筒形状の穴部88a2が設けられている。この穴部88a2に、ボールねじ軸部80aにおける略円筒形状の前端部80a1が収容されるようになっている。
ここで、ボールねじ軸部80aは、図2Bに示す原点位置OPと、図2Cに示す終点位置EPとのあいだでは、第1スレーブピストン88aに対して動力を伝えないように構成されている。前記の原点位置OPと終点位置EPとのあいだを、図2B、図2Cに示すように、空走区間FI(後記する“復帰区間”と同義である。)とよぶ。
なお、図2Cに示す終点位置EPとは、ボールねじ軸部80aの後端部80a2が、シリンダ本体82内の後端部82bに突き当たっている状態において、軸方向に沿う位置をいう。
本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、前記したボールねじ軸部80aが空走区間FIを有すること、および、電動モータ72を原点位置OPに位置決めする際の電動モータ72の回転角度が、終点位置EPに対応する電動モータ72の回転角度を基準とする相対的な回転角度として設定されることを前提として、終点位置EPにおいて強制的に停止させられた電動モータ72の回転角度を高精度に把握し、これをもって、原点位置OPにおける電動モータ72の回転角度を高精度に更新設定するようにしている。
これについて、詳しくは後記する。
第1スレーブピストン88aにおける前端側の外周面には、図2Bおよび図2Cに示すように、環状段部を介してスレーブピストンパッキン90aが設けられる。また、第1スレーブピストン88aにおける前端側および後端側の中間における外周面には、環状凹部による第1背室94aが形成されている。第1背室94aは、後記するリザーバポート92aと連通している。第1背室94aの後端側には、スレーブピストンパッキン90bが設けられる。スレーブピストンパッキン90bは、第1背室94aおよび動力伝達機構74間を液密状態でシールする機能を有する。
第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bの間には、第1のリターンスプリング96aが設けられている。
一方、第2スレーブピストン88bの外周面には、図2Aに示すように、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90c、90dがそれぞれ設けられる。一対のスレーブピストンパッキン90c、90dの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第2背室94bが形成される。そして、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部との間には、第2のリターンスプリング96bが設けられている。
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a,24bと、がそれぞれ設けられている。リザーバポート92a,92bは、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するようになっている。
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR,32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR,32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98bとが設けられている。
第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bの間には、これら88a,88bの間の最大離間区間と最小離間区間とを規制する規制部材100が設けられている。また、第2スレーブピストン88bには、第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられている。これにより、例えばマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、仮にある系統で失陥が発生しても、他の系統にまでその影響を及ぼさないようになっている。
〔車両用制動力発生装置10の基本動作〕
次に、車両用制動力発生装置10の基本動作について説明する。
車両用制動力発生装置10の正常作動時には、マスタシリンダ34にブレーキ液圧が発生しているか否かにかかわらず、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bが励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁されて弁開状態となる(図2A参照)。したがって、第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bによって第1液圧系統70aおよび第2液圧系統70bが遮断されるため、液圧発生装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLに伝達されない。車両用制動力発生装置10の正常作動時には、後記するモータシリンダ装置16による電動式のブレーキシステムが実働するからである。
このとき、マスタシリンダ34の第2液圧室56bにおいてブレーキ液圧が発生すると、発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58cおよび弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の反力液圧室65に伝達される。この反力液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン67がリターンスプリング68a、68bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力が創り出されてブレーキペダル12にフィードバックされる。この結果、運転者にとって違和感のない制動操作感が得られる。
このようなシステム状態において、ECU307(図3A参照)は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させ、電動モータ72の駆動力を、動力伝達機構74を介して伝達し、第1のリターンスプリング96aおよび第2のリターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bを図2A中の矢印X2方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88aおよび第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98aおよび第2液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98aおよび第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120,124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
換言すると、車両用制動力発生装置10では、モータシリンダ装置16やバイ・ワイヤの制御を行うECU307(図3A参照)の正常作動時において、運転者がブレーキペダル12を踏むと、いわゆるバイ・ワイヤ式のブレーキシステムがアクティブになる。具体的には、正常作動時の車両用制動力発生装置10では、運転者がブレーキペダル12を踏むと、第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bが、マスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)との連通を遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧を用いてディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させる。このため、車両用制動力発生装置10では、例えば、電気自動車(燃料電池車を含む)やハイブリッド自動車等のように、内燃機関での負圧発生が少ないか、内燃機関による負圧が存在しない車両、または、内燃機関自体がない車両に好適に適用することができる。
一方、車両用制動力発生装置10では、モータシリンダ装置16や制御部が不作動の異常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むと、既存の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。具体的には、異常時の車両用制動力発生装置10では、運転者がブレーキペダル12を踏むと、第1遮断弁60aおよび第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、かつ、第3遮断弁62を弁閉状態として、マスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)を作動させる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するECU307の周辺構成〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するECU307の周辺構成について、図3Aおよび図3Bを参照して説明する。図3Aは、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するECU307の周辺構成を表す説明図である。図3Bは、ECU307が有する駆動制御部325の内部構成を表す説明図である。
本発明の実施形態に係る車両用液圧発生装置10が有するECU307には、図3Aに示すように、イグニッションキースイッチ301、ドアセンサ303、ストロークセンサ305、インバータ駆動部311、および、回転角度検出部313が接続されている。
イグニッションキースイッチ301は、車両Vの各部に、車載バッテリ(不図示)から電源を供給する際に操作されるスイッチである。イグニッションキースイッチ301がオン操作されると、ECU307に電源が供給されて、ECU307が起動されるようになっている。
ドアセンサ303は、例えば運転席ドア(不図示)の開閉を検知する機能を有する。ドアセンサ303で検知された運転席ドアの開閉信号は、ECU307へと送られる。
ストロークセンサ305は、運転者によるブレーキペダル12の操作量(ストローク量)を検出する機能を有する。ストロークセンサ305で検出されたブレーキペダル12の操作量(ストローク量)に係る信号は、ECU307へと送られる。ストロークセンサ305は、本発明の“シリンダに対するピストンの液圧発生方向の側への移動量を取得する移動量取得部”に相当する。
インバータ駆動部311は、ECU307の駆動制御部325から送られてくるPWM(パルス幅変調;pulse width modulation)信号に従って、電動モータ72をインバータ駆動する機能を有する。詳しく述べると、インバータ駆動部311は、車載バッテリの直流電流を、電動モータ72に供給するための三相交流電流に変換し、変換した三相交流電流を電動モータ72に供給する。インバータ駆動部311は、例えば、不図示の三相ブリッジ回路を有している。
回転角度検出部313は、電動モータ72の回転角度(実際には、回転子の回転角度)を検出する機能を有する。回転角度検出部313としては、例えばレゾルバやロータリーエンコーダなどを採用することができる。回転角度検出部313で検出された電動モータ72の回転角度に係る信号は、ECU307へと送られる。
ECU307は、図3Aに示すように、原点位置設定条件取得部315、回転角度取得部317、収束判定部319、原点位置設定部321、繰出量記憶部323、および、駆動制御部325を備えて構成されている。
ECU307は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、ECU307が有する原点位置設定条件取得機能、回転角度取得機能、収束判定機能、原点位置設定機能、繰出量記憶機能、および、駆動制御機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
原点位置設定条件取得部315は、原点位置設定部321による原点位置OPの更新設定処理を実行するための条件を取得する機能を有する。本実施形態では、前記の条件として、イグニッションキースイッチ301のオン操作によるECU307の起動、および、運転席ドアの開放を採用している。
なお、原点位置設定条件取得部315は、ECU307とは独立したECUに属する構成を採用することにより、外部のECUからECU307の起動を監視するようにしてもよい。
回転角度取得部317は、回転角度検出部313で検出された電動モータ72の回転角度に係る情報を取得する機能を有する。詳しく述べると、回転角度取得部317は、電動モータ72の回転角度に係る情報を、終点位置EP(図2C参照)に対応する電動モータ72の回転角度を基準とする相対的な回転角度として取得する。回転角度取得部317で取得された電動モータ72の回転角度に係る情報は、原点位置設定部321において、原点位置OP(図2B参照)の更新設定処理を実行する際に参照される。
なお、電動モータ72の回転角度は、ボールねじ軸部80aの軸方向における位置と密接に関係している。要するに、電動モータ72の回転角度を取得するとは、ボールねじ軸部80aの軸方向における位置情報を取得することと実質的に同義である。
収束判定部319は、電動モータ72が終点位置EPまで駆動される場合、電動モータ72の回転角度の時間変位が、予め定められる所定の範囲内に収束したか否かを判定する機能を有する。
ボールねじ軸部80aの後端部80a2が、シリンダ本体82内の後端部82bに突き当たっている終点位置EP(図2C参照)において、電動モータ72が強制的に停止させられている期間である収束期間のあいだでは、通電された電動モータ72により駆動されるボールねじ軸部80aは、終点位置EP付近において、後退方向および前進方向への細かい移動を周期的に繰り返す振動状態にある。収束判定部319は、電動モータ72の回転角度の時間変位が、前記の収束期間に入ったか否かを判定する。収束判定部319の判定結果は、原点位置設定部321において、原点位置OPの更新設定処理を実行する際に参照される。
原点位置設定部321は、前記の収束期間に取得される電動モータ72の回転角度のうち後退方向の側に最も近い回転角度に基づいて、原点位置OPに対応する電動モータ72の回転角度を更新設定する機能を有する。具体的には、原点位置設定部321は、前記の収束期間に取得される電動モータ72の回転角度のうち後退方向の側に最も近い回転角度に対し、終点位置EPから原点位置OPに至る復帰区間(空走区間FI)だけ電動モータ72を駆動させるのに要する回転角度を加えた回転角度を、原点位置OPに対応する電動モータ72の回転角度として更新設定する。
繰出量記憶部323は、終点位置EPから原点位置OPに至る復帰区間(空走区間FI)だけ電動モータ72を駆動させるのに要する回転角度に相当する繰出量を記憶する機能を有する。繰出量記憶部323の記憶内容は、原点位置設定部321において、原点位置OPの更新設定処理を実行する際に参照される。
駆動制御部325は、図3Aに示すように、ストロークセンサ305で検出されたブレーキペダル12の操作量(ストローク量)に係る信号などに基づいて、電動モータ72に係るトルク指令の演算を行い、この演算により求めた電動モータ72に係るトルク指令等に基づいてPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ駆動部311に送出する機能を有する。
具体的には、駆動制御部325は、原点位置設定条件取得部315の取得内容により原点位置設定条件が整った場合において、電動モータ72を終点位置EPまで戻し移動させる駆動制御を行う一方、原点位置設定部321において終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θが回転角度取得部317により取得されると、電動モータ72を原点位置OPまで復帰移動させる駆動制御を行う。
さらに詳しく述べると、駆動制御部325は、図3Bに示すように、トルク指令算出部351、上限値記憶部353、電流指令算出部355、電流算出部357、および、PWM信号生成部359を有する。駆動制御部325は、インバータ駆動部311と電動モータ72との間に流れるu相、v相、w相の各相の電流(Iu,Iv,Iw)や電動モータ72に係る回転角度θのフィードバック信号を参照しながら、電動モータ72の駆動制御を行う。
三相交流モータである電動モータ72のトルク制御を行うために、駆動制御部325は、ベクトル制御を用いる。ベクトル制御では、電動モータ72に流れる一次電流を、界磁電流Idおよびトルク電流Iqに分けて制御する。界磁電流Idは、電動モータ72に二次磁束を発生させる電流成分であって、出力トルクの向き、すなわち電動モータ72の回転方向に関与しない電流成分である。これに対し、トルク電流Iqは、電動モータ72に出力トルクを発生させる電流成分であって、出力トルクの向き(電動モータ72の回転方向)に関与する電流成分である。したがって、トルク電流Iqに付される正負の符号により、電動モータ72の回転方向が決定される。
トルク指令算出部351は、ブレーキペダル12の操作量などに基づいて、電動モータ72のトルク指令T*を算出する機能を有する。
上限値記憶部353は、シリンダ部76の耐力強度を考慮して設定されるトルク電流指令に係る上限値を記憶する機能を有する。ここで、本発明に係る“シリンダの耐力強度を考慮して設定されるトルク電流指令に係る上限値”とは、そのトルク電流指令に係る上限値をもって電動モータ72が駆動された結果、ボールねじ軸部80aの後端部80a2がシリンダ本体82内の後端部82bに突き当たった場合に、シリンダ部(シリンダ)76に対して損傷を与えることがないことを保証する上限の基準値を意味する。上限値記憶部353に記憶されたトルク電流指令に係る上限値は、次述する電流指令算出部355において、トルク電流指令Iq*を算出する際に参照される。
電流指令算出部355は、上限値記憶部353に記憶されたトルク電流指令に係る上限値を参照し、かつ、トルク指令算出部351で算出されたトルク指令T*、および、電動モータ72の回転角度θに基づいて、電動モータ72の界磁電流指令Id*およびトルク電流指令Iq*をそれぞれ算出する機能を有する。電流指令算出部355で算出された電動モータ72の界磁電流指令Id*およびトルク電流指令Iq*は、後記するPWM信号生成部359において、PWM信号を生成する際に参照される。
電流算出部357は、電動モータ72に流れる各相の電流Iu,Iv,Iwや、電動モータ72に係る回転角度θを用い、かつ、三相電流を二相電流に変換するための公知の演算式を参照して、電動モータ72の界磁電流Idおよびトルク電流Iqをそれぞれ算出する。電流算出部357で算出された電動モータ72の界磁電流Idおよびトルク電流Iqは、次述するPWM信号生成部359において、PWM信号を生成する際に参照される。
PWM信号生成部359は、まず、電流指令算出部355で算出された界磁電流指令Id*およびトルク電流指令Iq*と、電流算出部357で算出された電動モータ72の界磁電流Idおよびトルク電流Iqと、をそれぞれ比較し、対応する各成分(界磁電流成分、または、トルク電流成分)間の偏差を算出する。
次に、PWM信号生成部359は、前記算出された偏差に対し、二相電流を三相電流に変換するための公知の演算式を参照して、比例演算処理および積分演算処理を施すことにより、二相の電流指令を三相に変換して、目標電圧に対応するデューティ比を有するPWM信号を生成する。PWM信号生成部359で生成された電動モータ72の駆動制御に用いるPWM信号は、インバータ駆動部311に送られる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の動作〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の動作について、図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が実行する原点復帰処理の流れを表すフローチャート図である。
なお、原点復帰処理とは、電動モータ72を終点位置EPまで戻し、終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θを取得し、その後、電動モータ72を原点位置OPまで復帰させる、原点位置設定条件が整った場合にECU307が実行する一連の処理をいう。
図4に示すステップS11〜S12において、ECU307の原点位置設定条件取得部315は、イグニッションキースイッチ301のオン操作によるECU307の起動、かつ、運転席ドアの開放に係る原点位置設定条件が整ったか否かを調べる。前記の原点位置設定条件のうちいずれか一方が整わない場合(ステップS11,S12の“No”参照)、ECU307は、処理の流れをステップS11へと戻し、原点位置設定条件が整うまで、ステップS11〜S12の処理を繰り返し行わせる。
一方、前記の原点位置設定条件が両者ともに整った旨の判定が下された場合(ステップS12の“Yes”参照)、ECU307は、処理の流れを次のステップS13へと進ませる。
ステップS13において、ECU307の駆動制御部325では、下記の処理が順次実行される。
まず、トルク指令算出部351は、ブレーキペダル12の操作量などに基づいて、電動モータ72のトルク指令T*を算出する。次いで、電流指令算出部355は、上限値記憶部353に記憶されたトルク電流指令に係る上限値を参照し、かつ、トルク指令算出部351で算出されたトルク指令T*、および、電動モータ72の回転角度θに基づいて、電動モータ72の界磁電流指令Id*およびトルク電流指令Iq*をそれぞれ算出(設定)する。
一方、電流算出部357は、電動モータ72に流れる各相の電流Iu,Iv,Iwや、電動モータ72に係る回転角度θを用い、かつ、三相電流を二相電流に変換するための公知の演算式を参照して、電動モータ72の界磁電流Idおよびトルク電流Iqをそれぞれ算出する。
次いで、PWM信号生成部359は、電流指令算出部355で算出された界磁電流指令Id*およびトルク電流指令Iq*と、電流算出部357で算出された電動モータ72の界磁電流Idおよびトルク電流Iqと、をそれぞれ比較し、対応する各成分間の偏差を算出する。
そして、PWM信号生成部359は、前記算出された偏差に対し、二相電流を三相電流に変換するための公知の演算式を参照して、比例演算処理および積分演算処理を施すことにより、二相の電流指令を三相に変換して、目標電圧に対応するデューティ比を有するPWM信号を生成する。PWM信号生成部359で生成された電動モータ72の駆動制御に用いるPWM信号は、インバータ駆動部311に送られる。
前記の手順を順次経て得られたPWM信号に基づいて、ECU307の駆動制御部325は、電動モータ72を終点位置EPまで戻す際のトルク電流Iqが、電動モータ72をベクトル制御により駆動制御するためのトルク電流指令Iq*に対してシリンダ部76の耐力強度を考慮して設定されるトルク電流指令に係る上限値を超えることを抑制するように、電動モータ72の駆動制御を行う。
また、ECU307の駆動制御部325は、電動モータ72に供給される車載電源の電圧変動分を補償するように、目標電圧に従って補正された出力電圧を用いて電動モータ72の駆動制御を行う。ステップS13において、時々刻々と変化する電動モータ72に係る回転角度θ(終点位置EPに対応する電動モータ72の回転角度を基準とする相対的な回転角度)は、回転角度取得部317によって取得され、ECU307の駆動制御部325へと送られる。
ステップS14において、収束判定部319は、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位が、予め定められる所定の範囲内に収束したか否かを判定する。つまり、収束判定部319は、ボールねじ軸部80aの後端部80a2が、シリンダ本体82内の後端部82bに突き当たっている終点位置EPにおいて、電動モータ72が強制的に停止させられている収束期間に、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位が入ったか否かを判定する。
ステップS14における判定の結果、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位が収束しない旨の判定が下された場合(ステップS14の“No”参照)、ECU307は、処理の流れをステップS13へと戻し、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位が収束するまで、ステップS13〜S14の処理を繰り返し行わせる。
一方、ステップS14における判定の結果、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位が収束した旨の判定が下された場合(ステップS14の“Yes”参照)、ECU307は、処理の流れを次のステップS15へと進ませる。
ステップS15において、原点位置設定部321は、ステップS14の収束期間に取得される電動モータ72に係る回転角度θのうち後退方向の側に最も近い回転角度を、終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θとして設定する。
ステップS16において、原点位置設定部321は、ステップS15で設定した終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θに対し、繰出量記憶部323の記憶内容(終点位置EPから原点位置OPに至る復帰区間だけ電動モータ72を駆動させるのに要する回転角度)を加えた回転角度を、原点位置OPに対応する電動モータ72に係る回転角度θとして更新設定する。
ステップS17において、ECU307の駆動制御部325は、ステップS16で更新設定された原点位置OPに対応する電動モータ72に係る回転角度θに基づいて、電動モータ72を原点位置OPまで復帰させる駆動制御を行う。
ステップS18駆動において、駆動制御部325は、電動モータ72が原点位置OPまで復帰したか否かを判定する。
ステップS18における判定の結果、電動モータ72が原点位置OPまで復帰していない旨の判定が下された場合(ステップS18の“No”参照)、ECU307は、処理の流れをステップS17へと戻し、電動モータ72が原点位置OPまで復帰するまで、ステップS17〜S18の処理を繰り返し行わせる。
一方、ステップS18における判定の結果、電動モータ72が原点位置OPまで復帰した旨の判定が下された場合(ステップS18の“Yes”参照)、ECU307は、処理の流れを次のステップS19へと進ませる。
ステップS19において、ECU307の駆動制御部325は、電動モータ72の駆動を停止させる駆動制御を行う。その後、ECU307は、一連の原点復帰処理の流れを終了させる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の時系列動作〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の時系列動作について、図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の時系列動作を表す説明図である。このうち、図5(a)は、図4に示す原点復帰処理時における電動モータ72に係る回転角度θの時間変位を、縦軸に原点位置OPから戻し方向への距離をとり、横軸に時間をとって表す概念図である。図5(b)は、ECU起動信号の時間変位を表す概念図である。図5(c)は、ドアセンサ信号の時間変位を表す概念図である。
図5に示す時刻t1において、仮に、イグニッションキースイッチ301のオン操作によるECU307の起動(図5(b)参照)、かつ、運転席ドアの開放(図5(c)参照)に係る原点位置設定条件が整ったとする。すると、ECU307の駆動制御部325は、図5(a)に示す前回設定された原点位置OP0から終点位置EP(図3C参照)まで、電動モータ72を後退方向に戻させる駆動制御を行う。
詳しく述べると、ECU307の駆動制御部325は、目標電圧に対応するデューティ比を有するPWM信号に基づいて、電動モータ72を終点位置EPまで戻す際のトルク電流Iqが、トルク電流指令に係る上限値を超えることを抑制するように、電動モータ72の駆動制御を行う。これにより、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの稼働時間延長およびシリンダ部76のコンパクト化を両立することができる。
このとき、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位特性は、図5(a)に示すように、時刻t1を起点とし、時刻t2を着点とする戻し期間Tbのあいだ、略線形に下がる(原点位置OPから戻し方向への定速移動を意味する。)軌跡を描く。図5に示す時刻t2は、ボールねじ軸部80aの後端部80a2が、シリンダ本体82内の後端部82bに突き当たった時刻に対応する。
時刻t2を起点とし、時刻t3を着点とする収束期間Tcのあいだ、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位特性は、図5(a)に示すように、後退方向および前進方向への細かい移動を周期的に繰り返す軌跡を描く。なお、収束期間Tcの長さは、電動モータ72の特性などを考慮して、適宜の時間長に設定すればよい。
図5(a)に示す収束期間Tcにおいて、後退方向および前進方向への細かい移動を周期的に繰り返す軌跡を描く電動モータ72に係る回転角度θのうち、本実施形態では、後退方向の側に最も近い回転角度(図5(a)の矢印参照)を、終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θとして設定する。
ここで、原点位置設定部321は、前記設定した終点位置EPに対応する電動モータ72に係る回転角度θに対し、繰出量記憶部323の記憶内容(終点位置EPから原点位置OPに至る復帰区間(空走区間FI;図2B,図2C参照)だけ電動モータ72を駆動させるのに要する回転角度)を加えた回転角度を、原点位置OPに対応する電動モータ72に係る回転角度θとして更新設定する。
時刻t3を起点とし、時刻t4を着点とする復帰期間Tfのあいだ、電動モータ72に係る回転角度θの時間変位特性は、図5(a)に示すように、略線形に上がる(終点位置EPから復帰方向への定速移動を意味する。)軌跡を描く。図5に示す時刻t4は、更新設定された原点位置OP1に対応する。換言すれば、時刻t4では、ボールねじ軸部80aの前端部80a1が、第1スレーブピストン88aの穴部88a2にぴったりとずれなく収容されている。
これにより、電動モータ72によってボールねじ軸部80aを前進方向に僅かに駆動させるだけで、第1スレーブピストン88a(図2B参照)が液圧発生方向に移動することで直ちに液圧を発生させることができ、これをもって、液圧発生の応答性を高めることができる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の作用効果〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の作用効果について説明する。
本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、シリンダ部(シリンダ)76、第1スレーブピストン(ピストン)88a、および、動力伝達機構74を介して第1スレーブピストン(ピストン)88aを駆動する電動モータ72を有し、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)12の操作量に従って電動モータ72が、液圧発生の起点となる原点位置OPから液圧発生方向の側に駆動されると、当該駆動力を受けてシリンダ部(シリンダ)76に対して第1スレーブピストン(ピストン)88aが動力伝達機構74を介して液圧発生方向の側に移動することで、ブレーキペダル(制動操作部材)12の操作量に応じた液圧を発生させるモータシリンダ装置(電動液圧発生部)16と、電動モータ72を、原点位置OPを挟んで、液圧発生方向から当該液圧発生方向とは逆の後退方向における終点位置EPまで駆動させる制御を行う駆動制御部325と、を備える。
本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、電動モータ72を終点位置EPまで戻す際の駆動制御において、トルク電流指令に係る上限値を超えることを抑制するように配慮されたトルク電流が用いられる。具体的には、トルク電流指令に係る上限値を目安として、このトルク電流指令に係る上限値に満たないレベルのトルク電流を用いて、電動モータ72を終点位置EPまで戻す際の駆動制御を行うことができる。
本発明に係る車両用制動力発生装置10によれば、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの稼働時間延長およびシリンダのコンパクト化を両立することができる。
また、本発明に係る車両用制動力発生装置10では、電動モータ72に供給される車載電源の電圧変動分を補償するように、目標電圧に従って補正された出力電圧を用いて電動モータ72の駆動制御が行われる。このため、仮に、車両用制動力発生装置10の雰囲気温度の変動、外部負荷の接続有無、動力伝達機構74における摩擦力の経時変化などの外乱によって、車載電源の電圧変動が生じた場合でも、電動モータ72に係る出力電圧の安定化を図ることができる。
本発明に係る車両用制動力発生装置10によれば、電動モータ72に係る出力電圧の安定化を図ることができるため、前記の、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの稼働時間延長およびシリンダのコンパクト化を両立する効果に加えて、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの信頼性を向上することができる。
また、本発明に係る車両用制動力発生装置10では、シリンダ部(シリンダ)76に対する第1スレーブピストン(ピストン)の液圧発生方向の側への移動量を取得するストロークセンサ(移動量取得部)305をさらに備える。トルク電流指令に係る上限値は、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きいほど、移動量が小さい場合と比べて高く設定される。
具体的には、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きい場合とは、ブレーキペダル(制動操作部材)12の操作量が大きい場合である。かかる場合には、電動モータ72が原点位置OPに位置付けられているときと比べて、終点位置EPまで戻した後、前記とは逆に原点位置まで復帰させる原点復帰処理に要する時間が長くかかる。
そこで、本発明に係る車両用制動力発生装置10では、原点復帰処理に要する時間を短縮化するために、トルク電流指令に係る上限値を、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きいほど、移動量が小さい場合と比べて高く設定することとした。
本発明に係る車両用制動力発生装置10によれば、原点復帰処理に要する時間を短縮化し、これをもって、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの稼働時間延長効果を一層高めることができる。
また、本発明に係る車両用制動力発生装置10では、目標電圧に従う出力電圧は、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きいほど、移動量が小さい場合と比べて高く補正される。具体的には、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きい場合とは、ブレーキペダル(制動操作部材)12の操作量が大きい場合である。かかる場合には、かかる場合には、前記原点復帰処理に要する時間が長くかかる。
そこで、本発明に係る車両用制動力発生装置10では、原点復帰処理に要する時間を短縮化するために、目標電圧に従う出力電圧を、ストロークセンサ(移動量取得部)305で取得された移動量が大きいほど、移動量が小さい場合と比べて高く設定することとした。
本発明に係る車両用制動力発生装置10によれば、原点復帰処理に要する時間を短縮化し、これをもって、バイ・ワイヤ式ブレーキシステムの稼働時間延長効果を一層高めることができる。
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。