以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[排ガス浄化触媒構造体]
図1では、本実施形態に係る排ガス浄化触媒構造体を示す。なお、本明細書において、排ガス浄化触媒を単に「触媒」といい、排ガス浄化触媒構造体を単に「触媒構造体」という場合がある。
触媒構造体1は、図1(a)に示すように、複数のセル2aを有するモノリス担体(一体構造型担体)2を備えている。排気ガスは、流れ方向Fに沿って各セル2a内を通過し、そこで触媒層と接触することにより浄化される。
そして、触媒構造体1では、図1(b)に示すように、モノリス担体2の内表面上に触媒層3が形成されている。そして、触媒層3は、図1(c)に示すように、複数の触媒粒子(排ガス浄化触媒)5により形成されている。
触媒層3を構成する触媒粒子5は、貴金属粒子6と、アンカー粒子7とを含有している。アンカー粒子7は、貴金属粒子6のアンカー材として貴金属粒子6を表面に担持している。さらに触媒粒子5は、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8を包接し、隣接する複合粒子8の間を互いに隔てる包接材9を含有する。
触媒粒子5では、貴金属粒子6がアンカー粒子7上に接触して担持することにより、アンカー粒子7が化学的結合によるアンカー材として作用し、貴金属粒子6の移動を抑制する。また、貴金属粒子6が担持されたアンカー粒子7を包接材9で覆い、内包する形態とすることにより、貴金属粒子6が包接材9により隔てられた区画を越えて移動することを物理的に抑制する。さらに、包接材9により隔てられた区画内にアンカー粒子7を含むことにより、包接材9により隔てられた区画を越えてアンカー粒子7同士が接触し凝集することを抑制する。これによって、アンカー粒子7が凝集することを防止するだけでなく、アンカー粒子7に担持された貴金属粒子6同士が凝集することも防止できる。その結果、触媒粒子5は、製造コストや環境負荷を大きくすることなく、貴金属粒子6の凝集による触媒活性の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子7による貴金属粒子6の活性向上効果を維持することができる。
ここで、図1(c)に示した触媒粒子5において、包接材9により隔てられた領域内では、貴金属粒子6とアンカー粒子7の一次粒子が凝集した二次粒子とを含有した触媒ユニット10が包接されている。しかし、アンカー粒子7は、包接材9により隔てられた領域内において一次粒子として存在してもよい。つまり、触媒ユニット10は、貴金属粒子6とアンカー粒子7の一次粒子とを含有したものであってもよい。
貴金属粒子6としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。そして、これらの貴金属の中でも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)が最も費用対効果が高く、排ガス浄化触媒に用いる貴金属として適当である。
また、アンカー粒子7は、遷移金属を含有することが好ましい。特に、アンカー粒子7は、セリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)の少なくとも一方を含有することが好ましい。アンカー粒子が少なくともCe及びZrから選ばれる1つ以上の元素を含むことで、貴金属粒子に対するアンカー機能が向上し、耐久後の貴金属粒子の凝集を抑制することができる。
なお、アンカー粒子7としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化セリウム(CeO2)及び酸化ジルコニウム(ZrO2)、の中から選ばれる少なくとも一つを主成分とすることができる。この中でも、CeO2やZrO2は高温耐熱性に優れ、高い比表面積を維持できるため、アンカー粒子7としてCeO2やZrO2を主成分とすることが好ましい。また、アンカー粒子7は、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ネオジム(Nd2O3)を添加してもよい。これらを添加することにより、貴金属粒子6とアンカー粒子7との間の化学的相互作用を向上させることが可能となる。なお、本明細書において、主成分とは粒子中の含有量が50モルパーセント以上の成分のことをいう。
包接材9は、アルミニウム(Al)及びケイ素(Si)の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。包接材9としては、アンカー粒子を包接でき、かつ、ガス透過性を確保できる材料が好ましい。Al及びSiの少なくとも一つを含む化合物、例えばアルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)などは細孔容積が大きく、高いガス拡散性を確保することができる。そのため、包接材9は、Al2O3及びSiO2を主成分とすることが好ましい。なお、包接材は、Al及びSiの複合酸化物であってもよい。
ここで、触媒粒子5における、アンカー粒子7の質量比が30〜70質量%であり、包接材9の質量比が70〜30質量%であることが好ましい。アンカー粒子7の質量比が30質量%以上であることにより、アンカー粒子上に担持される貴金属の密度が低下する。つまり、1つのアンカー粒子に担持される貴金属量が減少するため、永年使用後にアンカー粒子上で貴金属粒子が凝集したとしても、貴金属粒子が大幅に肥大化しない。その結果、貴金属粒子の表面積の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子の質量比が70質量%以下であることにより、包接材量が低下することを抑制できる。そのため、永年使用後であってもアンカー粒子同士の凝集及びこれに伴う貴金属粒子同士の凝集を抑制することができる。
ここで、触媒粒子5で使用される包接材9は、触媒ユニット10の周囲を完全に包囲するわけではない。つまり、包接材9は、触媒ユニット10の物理的移動を抑制する程度に覆いつつも、排気ガスや活性酸素が透過できる程度の細孔を有している。具体的には、図1(c)に示すように、包接材9は、触媒ユニット10を適度に包接し、触媒ユニット同士の凝集を抑制している。さらに、包接材9は、複数の細孔9aを有しているため、排気ガスや活性酸素が通過することができる。この細孔9aの細孔径は、30nm以下が好ましく、10nm〜30nmがより好ましい。なお、この細孔径は、ガス吸着法により求めることができる。
上述のように、このような包接材9としては、アルミナやシリカを使用することができる。包接材がアルミナを主成分とする場合、前駆体としてベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を、ベーマイトを水等の溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌する。これにより、アンカー粒子7の周囲にベーマイトが付着する。そして、この混合スラリーを乾燥及び焼成することにより、アンカー粒子7の周囲でベーマイトが脱水縮合し、ベーマイト由来のγアルミナからなる包接材が形成される。このようなベーマイト由来のアルミナからなる包接材は、アンカー粒子7を覆いつつも、30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性にも優れている。
同様に、包接材がシリカを主成分とする場合には、前駆体としてシリカゾル及びゼオライトを使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を、シリカゾル及びゼオライトを溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌し、乾燥及び焼成することにより、シリカからなる包接材が形成される。このようなシリカゾル及びゼオライト由来のシリカからなる包接材も、アンカー粒子7を覆いつつも30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性に優れている。
なお、包接材9により隔てられた区画内に含まれる触媒ユニット10の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。そのため、触媒ユニット10に含まれるアンカー粒子7の平均二次粒子径も300nm以下であることが好ましい。この場合には、貴金属を微粒子状態に維持することができる。より好ましい触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子の平均二次粒子径は200nm以下である。これにより、アンカー粒子の二次粒子上に担持される貴金属量がさらに減るため、貴金属の凝集を抑制することができる。なお、触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子7の平均二次粒子径の下限は特に限定されないが、例えば5nmとすることができる。ただ、後述するように、触媒ユニット10の平均粒子径が包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径より大きいことが好ましい。そのため、触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子7の平均二次粒子径は、30nmを超えることがより好ましい。
アンカー粒子の平均二次粒子径は、触媒粒子の製造過程における、この粒子を含有するスラリーを、レーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。なお、この場合の平均二次粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。また、得られた触媒粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)の写真より、アンカー粒子の平均二次粒子径や後述する貴金属粒子の粒子径を測定することもできる。さらに、触媒ユニット10の平均粒子径もTEM写真より測定することができる。
また、貴金属粒子6の平均粒子径は2nm以上10nm以下の範囲内にあることが望ましい。貴金属粒子6の平均粒子径が2nm以上である場合には、貴金属粒子6自身の移動によるシンタリングを低減することができる。また、貴金属粒子6の平均粒子径が10nm以下である場合には、排気ガスとの反応性の低下を抑えることができる。
ここで、貴金属粒子6とアンカー粒子7とを含有した触媒ユニット10に関し、その触媒ユニット10の平均粒子径Daと、触媒ユニット10を内包する包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径Dbとが、Db<Daの関係を満たすことが好ましい。つまり、図1(c)に示すように、Db<Daは、触媒ユニット10の平均粒子径Daが、包接材9の細孔9aの平均径Dbよりも大きいことを意味している。Db<Daであることにより、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8が、包接材9に形成されている細孔9aを通して移動することが抑制される。したがって、他の区画に包接される複合粒子8との凝集を低減することができる。
なお、上記不等式Db<Daの効果は、本発明者らの実験により確認されている。図2は、排気耐久試験前の複合粒子8の平均粒子径Daと包接材の平均細孔径Dbの比(Da/Db)を横軸に、排気耐久試験後のアンカー粒子7としてのセリア(CeO2)の結晶成長比及び貴金属粒子6としての白金(Pt)の表面積を縦軸にして、これらの関係を示すグラフである。図2から、Da/Dbが1を超える場合にはセリアの結晶成長比が顕著に低下し、セリアの焼結が少ないことが分かる。また、耐久試験後でも白金の表面積が高い状態で維持され、白金の凝集が抑制されていることが分かる。
さらに、貴金属粒子6の80%以上はアンカー粒子7に接触していることが望ましい。アンカー粒子7と接触している貴金属粒子6の割合が80%未満であると、アンカー粒子7上に存在しない貴金属粒子6が増加するため、貴金属粒子6の移動によってシンタリングが進むことがある。
また、アンカー粒子7は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co),ニッケル(Ni),ネオジム(Nd)及びイットリウム(Y)から選ばれる少なくとも一つをさらに含む酸化物であることが好ましい。つまり、上述のように、アンカー粒子7はアルミナ、セリアやジルコニアを主成分としている。そして、アンカー粒子に上記遷移金属を添加物として含有することが望ましい。これらの遷移金属を少なくとも一つを含有することで、遷移金属が有する活性酸素により触媒性能、特にCO及びNOx浄化率を向上させることができる。なお、これらの遷移金属の中でも、アンカー粒子7は、ネオジム(Nd)及びイットリウム(Y)の酸化物たる酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ネオジム(Nd2O3)を添加することが好ましい。これらを添加することにより、貴金属粒子6とアンカー粒子7との間の化学的相互作用を向上させることが可能となる。
また、アンカー粒子7は、バリウム(Ba),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)から選ばれる少なくとも一つのNOx吸着材をさらに含むことが好ましい。これらの元素を含む化合物は、いずれもNOx吸着材として作用する。そのため、アンカー粒子にNOx吸着材を含むことで、NOx浄化性能を向上させることができる。これはNOx吸着反応がガスの接触に非常に感度があるためである。これらのNOx吸着材を含む触媒は、理論空燃比付近で燃焼させるエンジンよりも大量にNOxが生じるリーンバーンエンジン用の触媒として好適である。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合には特に添加しなくてもよい。
さらに、包接材9は、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれか一つを含有する酸化物であることが好ましい。セリウムを含有することにより、包接材にも酸素吸蔵放出能を与え、排気ガス浄化性能を向上させることができる。また、ジルコニウム及びランタンを含有させることで、包接材の耐熱性を向上させることができる。さらに、包接材にバリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びナトリウムのようなNOx吸着材を含有させることで、NOx浄化性能を向上させることができる。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合には特に添加しなくてもよい。また、これらの元素は包接材の前駆体スラリーにこれらの元素の硝酸塩や酢酸塩等を混合することにより、含有させることができる。
また、包接材9により隔てられた区画内には、貴金属粒子6を合計で8×10−20モル以下の量で含有することが好ましい。つまり、一つの触媒ユニット10内において、貴金属粒子6のモル数は8×10−20モル以下であることが好ましい。包接材9により隔てられた区画内では、高温状態において複数個の貴金属粒子6が移動し、互いに凝集する場合がある。この場合、アンカー粒子7の表面で一つ又は複数個の貴金属粒に凝集する。
ここで、一つの触媒ユニット10内で貴金属粒子6が凝集した場合に、凝集した貴金属粒子6の粒径が10nm以下であれば、充分な触媒活性を示し、凝集による劣化を抑制することができる。図3は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と表面積との関係を示すグラフである。なお、図3では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図3から明らかなように、貴金属の粒子径が10nm以下であれば表面積が大きいため、凝集による触媒活性の劣化を抑制することができる。
そして、図4は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と原子数との関係を示すグラフである。なお、図4では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図4から明らかなように、粒子径が10nmであるとき、貴金属の原子数は約48000であり、この値をモル数に換算すると約8×10−20モルとなる。これらの観点から、触媒ユニット10内の貴金属量を制限し、8×10−20モル以下とすることで、たとえ触媒ユニット10内で貴金属が1個に凝集しても、触媒活性の劣化を抑制することができる。なお、触媒ユニット10内に含まれる貴金属量を8×10−20モル以下にする方法としては、貴金属粒子6を担持するアンカー粒子7の粒径を小さくすることが挙げられる。
さらに、図1(c)に示す触媒粒子5において、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーがEaであり、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーがEbであるとき、EaがEbよりも小さい値であること(Ea<Eb)が好ましい。貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaが、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbよりも小さいことにより、貴金属粒子6が包接材9に移動することを抑制できる。その結果、貴金属粒子6の凝集をさらに低減することができる。
また、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaと、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbとの差(Eb−Ea)が、10.0cal/molを超えることがより好ましい。吸着安定化エネルギー差が10.0cal/molを超えることにより、貴金属粒子6が包接材9に移動することをより確実に抑制することができる。
なお、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaや、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbは、いずれも密度汎関数法を用いたシミュレーションにより算出することができる。この密度汎関数法は、多電子間の相関効果を取り入れたハミルトニアンを導入して、結晶の電子状態を予測する方法である。その原理は、系の基底状態の全エネルギーを電子密度汎関数法で表すことができるという数学的定理に基づいている。そして、密度汎関数法は、結晶の電子状態を計算する手法として信頼性が高い。
このような密度汎関数法は、貴金属粒子6とアンカー粒子7及び包接材9との界面における電子状態を予測するのに適している。そして、実際のシミュレーション値から選択した貴金属粒子、アンカー粒子及び包接材の組み合わせを基に設計した本実施形態の触媒は、貴金属粒子の粗大化が生じにくく、永年使用後も高い浄化性能を維持することが確認されている。このような密度汎関数法を用いたシミュレーションのための解析ソフトウェアは市販されており、解析ソフトの計算条件の一例としては、以下のものが挙げられる。
プリ/ポスト:Materials studio 3.2 (Accelrys社製)、ソルバ:DMol3 (Accelrys社製)、温度:絶対零度、近似:GGA近似
また、本実施形態の触媒粒子5は、貴金属粒子6とアンカー粒子7との触媒ユニット10に加え、貴金属粒子6の触媒活性を向上させる助触媒粒子(第一助触媒粒子)を含有してもよい。そして、触媒ユニット10及び助触媒粒子は、包接材9により共に包接されることが好ましい。これにより、触媒ユニット10の近傍に助触媒粒子が配置され、触媒ユニットの活性向上に寄与しやすくなる。また、助触媒粒子の周囲が包接材9で覆われることにより、触媒ユニット10と同様に高温条件下による凝集を抑制することができる。なお、助触媒粒子は、酸素吸蔵放出能を有するセリウム(Ce)及びプラセオジム(Pr)のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。特に助触媒粒子としては、酸化セリウム(CeO2)や酸化プラセオジム(Pr6O11)のような酸素吸蔵放出能が高い化合物を主成分とすることが好ましい。
そして、上述のように、本実施形態に係る触媒構造体1は、モノリス担体2の内表面上に触媒層3が形成されている。さらに、触媒層3は、排ガス浄化触媒(触媒粒子)5の二次粒子(凝集体)により形成されている。このような構成の触媒構造体1が内燃機関の排気ガス流路に設置された場合には、内燃機関から排出される排気ガスと触媒層3中の貴金属粒子6との接触率を高めることが可能となる。
さらに、触媒層3は、図5に示すように、排気ガスの流れ方向Fに沿って上流側に設けられた前段触媒層3Aと、前段触媒層3Aよりも下流側に設けられた後段触媒層3Bとを有する。そして、後段触媒層3B中の貴金属含有量に対する、前段触媒層3A中の貴金属含有量の質量比([前段触媒層3A中の貴金属含有量]/[後段触媒層3B中の貴金属含有量])を、1.4〜1.9の範囲に設定している。
ここで、内燃機関からの排気ガスを浄化する排ガス浄化システムは、通常、マニホールド触媒及び床下触媒を備えている。しかし、マニホールド触媒は、床下触媒に比べ排気ガス処理量が10〜90倍程度も多く、高い排気ガス処理性能が要求されるため、貴金属の担持量を多くする必要がある。そのため、白金やロジウムに対し比較的価格の安いパラジウムを用いるのが一般的である。その反面、マニホールド触媒は、エンジン直下に配置されることから、熱劣化によるパラジウムの凝集のため、浄化性能の低下が起こる。そのため、従来、マニホールド触媒では予め多量のパラジウムを使用することが一般的であり、コストが増大してしまう。
そこで、本実施形態に係る触媒構造体1で使用する排ガス浄化触媒5は、上述のように、貴金属粒子6をアンカー粒子7上に接触して担持し、さらに貴金属粒子6が担持されたアンカー粒子7を包接材9で覆い、内包する形態としている。これにより、貴金属粒子6の凝集による触媒活性の低下を抑制することができる。そして、本発明では、さらにこのようなナノ触媒構造を有する排ガス浄化触媒において、より少ない貴金属使用量で高い触媒性能を得る為の検討を鋭意繰り返した。その結果、触媒層を前段と後段に分離し、さらに触媒層の前段と後段の貴金属量比を1.4〜1.9の間に設定することで、より高い触媒性能が得られることを見出した。
つまり、図5に示すように、本実施形態に係る触媒構造体1において、触媒層3は、モノリス担体2の前端2bから後端2cにかけてモノリス担体の内表面全体に渡って形成されている。さらに、その触媒層3を前段触媒層3Aと後段触媒層3Bの2層に分離し、前段触媒層3Aの貴金属量を後段触媒層3Bに対して1.4〜1.9倍多く担持している。このような範囲で前段触媒層3Aに多くの貴金属を担持することにより、マニホールド触媒における低温領域及び高温領域での各々の浄化率をバランスよく高めることが可能となる。また、より少ない貴金属量で従来と同等の触媒性能を達成することができ、貴金属コストを低減することができる。そのため、限りある貴金属資源を有効活用でき、よりサステイナブルな社会の構築に貢献することができる。
なお、上記貴金属含有量の質量比が1.9を超える場合には、相対的に後段触媒層3Bの貴金属量が低下し、貴金属表面積が減少するため、高温領域及び加速時などの排気ガスの流量が多い場合には触媒性能が低下し、浄化率が低下してしまう。逆に、貴金属含有量の質量比が1.4未満の場合には、従来の触媒構造体と比べ、前段触媒層と後段触媒層の貴金属量比を変えた効果が得られない。つまり、充分な触媒性能向上効果を得ることができない。
なお、後段触媒層3B中の貴金属含有量に対する、前段触媒層3A中の貴金属含有量の質量比(前段触媒層3A中の貴金属含有量/後段触媒層3B中の貴金属含有量)は、1.5〜1.7の範囲がより好ましい。この範囲とすることにより、低温領域及び高温領域での各々の浄化率をより向上させることが可能となる。
そして、上述のように、前段触媒層3A及び後段触媒層3Bは、複数の触媒粒子(排ガス浄化触媒)5により形成されている。ただ、触媒粒子5のほかに、貴金属粒子の触媒活性を向上させる助触媒粒子(第二助触媒粒子)やバインダを含有してもよい。そして、助触媒粒子は、酸素吸蔵放出能を有するセリウム(Ce)及びプラセオジム(Pr)のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。特に助触媒粒子としては、酸化セリウム(CeO2)や酸化プラセオジム(Pr6O11)のような酸素吸蔵放出能が高い化合物を主成分とすることが好ましい。
そして、触媒粒子5は、平均粒子径(D50)が6μm以下であることが好ましい。触媒粒子5の二次粒子が6μmを超える場合であっても本願発明の効果を得ることができるが、6μmを超える場合、モノリス担体へのコート時に触媒層の剥離や偏りなどが起き易くなる。触媒粒子5の二次粒子の平均粒子径は、剥離を抑制できる3μm〜6μmの範囲であることがより好ましい。また、助触媒粒子を含有する場合は、助触媒粒子の平均粒子径も6μm以下であることが好ましい。なお、触媒粒子5及び助触媒粒子の平均粒子径は、これらの粒子を含有するスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。また、この場合の平均粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。
一体構造型担体2としては、コーディエライト製モノリス担体を用いることができる。コージェライト製モノリス担体は、耐熱性、耐衝撃性及び製造コストに優れ、自動車用排ガス浄化触媒の担体として一般的に用いられる。流路(セル2a)の断面形状は四角形や六角形などがあるが、本実施形態ではいずれの形状も使用することができる。また、一体構造型担体2としては、ステンレス製のメタル担体も用いることができる。メタル担体は、壁厚を薄く加工できることから、圧力損失の低減が要求される高出力車を中心に採用される。メタル担体は、波状に加工されたステンレス箔を同心円状に巻き取る加工するため、流路形状は主として3箇所に隅部をもつ不定形な形状となる。本実施形態ではこの形状の担体も使用することができる。
上述のように、前段触媒層3A及び後段触媒層3Bは複数の触媒粒子(排ガス浄化触媒)5により形成され、触媒粒子5は貴金属粒子6を含有している。そして、貴金属粒子6は、パラジウム及びパラジウム以外の貴金属を含有していることが好ましい。さらに、後段触媒層3B中のパラジウム含有量に対する、前段触媒層3A中のパラジウム含有量の質量比(前段触媒層3A中のパラジウム含有量/後段触媒層3B中のパラジウム含有量)は、2.0〜4.0であることが好ましい。つまり、本実施形態における触媒層3はパラジウムを含有し、さらに後段触媒層3Bに対し前段触媒層3A中のパラジウム含有量は2.0〜4.0倍であることが好ましい。上述のように、本実施形態に係る触媒構造体1をマニホールド触媒として使用した場合、パラジウムを多く使用する。そして、貴金属粒子6がパラジウム及びパラジウム以外の貴金属を含有している場合、前段触媒層3A中のパラジウム含有量を多くすることにより、車両の運転開始直後における低温活性をより向上させることが可能となる。
なお、パラジウム以外の貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。そして、これらの貴金属の中でも、白金(Pt)及びロジウム(Rh)が特に好ましい。
さらに本実施形態に係る触媒構造体1において、排気ガスの流れ方向Fに沿った前段触媒層3A及び後段触媒層3Bの合計長さ(L1+L2)に対する、前段触媒層3Aの長さL1の比は、0.3〜0.7であることが好ましい。つまり、[前段触媒層の長さ]/[前段触媒層及び後段触媒層の合計長さ](L1/[L1+L2])は、0.3〜0.7であることが好ましい。上記長さ比が0.3以上の場合、前段触媒層3Aにおける貴金属密度の過度の上昇を抑制できる。そのため、永年使用後に貴金属粒子6が凝集し、貴金属の表面積が低下することを抑えることができる。また、上記長さ比が0.7以下の場合、前段触媒層が過度に伸長することを抑制できる。そのため、エンジン始動直後の低温領域でも充分な触媒活性が得られ、その結果、触媒性能を向上させることができる。
また、図6に示すように、触媒層3は、排気ガスの流れ方向Fに対して垂直な方向に積層された表層触媒層3C及び内層触媒層4を備えることが好ましい。そして、表層触媒層3Cにおける排ガス浄化触媒5の貴金属粒子6は少なくともパラジウムを含有し、内層触媒層4における排ガス浄化触媒5の貴金属粒子6は白金及びロジウムの少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。触媒層を複数設けることで、触媒性能を向上させることが可能となる。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)は互いに合金化しやすく、また合金化することで高温時の凝集が進行し易くなる。このため、各貴金属を担持する層を分けることで、合金化を抑制することが可能となる。そして、内層側に白金及びロジウムの少なくとも一つの貴金属を配置し、表層側にパラジウムを配置することで、永年使用後の触媒性能をより向上させることが可能となる。さらに、触媒構造体において、最も早く排気ガスと接触する表層前段触媒層にパラジウムを高濃度に担持しているため、低温活性を大幅に向上させることが可能となる。
なお、本実施形態では、触媒層3を表層触媒層3C及び内層触媒層4に分離した場合、貴金属粒子に関し、表層触媒層及び内層触媒層のいずれか一方がパラジウムを主成分とし、他方が白金又はロジウムを主成分とする。そして、その場合、パラジウムを主成分とする層を排気ガスの流れ方向Fに対して前段触媒層と後段触媒層に分離する。さらに、図6に示すように、パラジウム担持量が多い前段触媒層3Aと、排気ガスの流れ方向Fに対して垂直な方向に積層する層を前段触媒層20とし、パラジウム担持量が少ない後段触媒層3Bと積層する層を後段触媒層21と定義する。これにより、貴金属同士の合金化を抑制し、永年使用後の触媒性能をより向上させることが可能となる。なお、この場合、上述のように、([前段触媒層20中の貴金属含有量]/[後段触媒層21中の貴金属含有量])が1.4〜1.9である関係を満足する必要がある。また、(前段触媒層3A中のパラジウム含有量/後段触媒層3B中のパラジウム含有量)が2.0〜4.0の関係であることが好ましい。
なお、図6に示す内層触媒層4は、排気ガスの流れ方向Fに対して前段触媒層と後段触媒層に分離していない。しかし、表層触媒層3Cと同様に、排気ガスの流れ方向Fに対して前段触媒層と後段触媒層とに分離し、前段触媒層と後段触媒層の貴金属量を変更してもよい。なお、この場合、([前段触媒層中の貴金属含有量]/[後段触媒層中の貴金属含有量])が1.4〜1.9である関係さえ満たしていれば、内層触媒層4の前段触媒層と後段触媒層の担持割合及び貴金属種を任意に変更してもよい。
[排ガス浄化触媒構造体の製造方法]
次に、本実施形態の排ガス浄化触媒構造体の製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法では、最初に、貴金属粒子とアンカー粒子とを含む触媒ユニットを調製する。具体的には、まず、アンカー粒子7に貴金属粒子6を担持する。このとき、貴金属粒子6は従来公知の含浸法により担持することができる。つまり、アンカー粒子7を、貴金属前駆体塩を含有する溶液に投入し、攪拌した後、乾燥及び焼成することで、アンカー粒子7の表面に貴金属粒子6を担持することができる。
そして、貴金属粒子6を表面に担持したアンカー粒子7をビーズミル等を用いて粉砕し、所望の粒子径とする。アンカー粒子7の粒子径としては、上述のように、例えば300nmとすることができる。なお、アンカー粒子7の原料として、酸化物コロイド等の微細な原料を用いることにより、破砕工程を省略することができる。
次に、包接材9の前駆体を含有した包接材スラリーを調製する。包接材9の前駆体としては、上述のように、包接材がアルミナを主成分とする場合にはベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましく、シリカを主成分とする場合にはシリカゾルとゼオライトを使用することが好ましい。そして、上記包接材スラリーは、包接材9の前駆体を水等の溶媒に混合した後、攪拌することにより調製することができる。
その後、上記包接材スラリーに、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を粉砕したものを投入し、攪拌する。上記スラリーを攪拌することにより、アンカー粒子7の周囲に包接材9の前駆体が付着する。その後、このスラリーを乾燥及び焼成することにより、貴金属を担持したアンカー粒子7の周囲に包接材9が形成された触媒粒子(排ガス浄化触媒)5を得ることができる。
なお、本実施形態の触媒構造体では、貴金属担持量が異なる前段触媒層3A及び後段触媒層3Bを形成する必要がある。そのため、貴金属担持量が異なる2種類の触媒粒子5を調製する必要がある。
次に、上述のように調製した触媒粒子5を粉砕する。この粉砕は湿式でも乾式でもよいが、通常は排ガス浄化触媒5をイオン交換水等の溶媒に混合し攪拌した後、ボールミル等を用いて粉砕する。また、この際、上述のように助触媒粒子を混合することができる。これにより、触媒粒子5が溶媒中で分散した触媒スラリーを得る。この際、必要に応じて触媒スラリーにバインダを添加する。なお、触媒スラリーにおける触媒粒子5の平均粒子径(D50)は、6μm以下であることが好ましい。
その後、上記触媒スラリーを一体構造型担体(モノリス担体)の内面に塗布する。つまり、前段触媒層を作成する場合は、まず、前段触媒層用の触媒スラリーをモノリス担体の前端から内部に導入する。その後、モノリス担体の後端から空気流を導入することにより、余剰のスラリーを取り除く。そして、乾燥及び焼成することにより、一体構造型担体の内面に前段触媒層を形成することができる。
同様に、後段触媒層を作成する場合は、まず、後段触媒層用の触媒スラリーをモノリス担体の後端から内部に導入する。その後、モノリス担体の前端から空気流を導入することにより、余剰のスラリーを取り除く。そして、乾燥及び焼成することにより、一体構造型担体の内面に後段触媒層を形成することができる。
なお、貴金属をモノリス担体に担持する場合、まず触媒層をモノリス担体にコーティングした後に、触媒層中に貴金属前駆体塩の溶液などを浸漬し、乾燥及び焼成する方法がある。しかし、この場合、貴金属は触媒層内に任意の場所にしか担持することができず、結果として貴金属密度が低下する部分が発生する。そのため、低温領域において十分な触媒活性を得ることができない。しかし、本実施形態では、貴金属をアンカー粒子に担持した後に、触媒粒子を調製し、その後、触媒粒子をモノリス担体にコーティングしている。そのため、モノリス担体の所定位置に対して、貴金属粒子を正確に担持することができる。
[排ガス浄化システム]
本実施形態の排ガス浄化システム30は、図7に示すように、内燃機関31の排気ガス流路32に、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bを配置した構成とすることができる。そして、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bの少なくともいずれか一方に、本実施形態の触媒構造体を使用することが好ましい。
本実施形態の排ガス浄化システム30をこのような構成とすることにより、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bを早期に活性化させ、低温域においても排気ガスを浄化することができる。特に、本発明の排ガス浄化触媒構造体は、極めて高温状態でも貴金属粒子の凝集を抑制することができるため、排気マニホールド34の直下に近接して配置することも可能である。そして、排気マニホールド34の直下に設けることにより触媒構造体を早期に活性化することができるため、排気ガスを低温から効率的に浄化することが可能となる。なお、本実施形態の排ガス浄化システムは、図7に示す構成に限られない。例えば、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bの前後にさらに三元触媒やNOx吸着触媒を設けてもよい。また、本実施形態の排ガス浄化システム30は、ガソリンエンジン、リーンバーンエンジン、直噴エンジン及びディーゼルエンジンなどを様々な内燃機関に用いることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(表層前段用触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Ox粉末)に硝酸パラジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を得た。なお、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末中におけるパラジウムの担持量は3.0質量%とした。次に、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。なお、本実施例及び比較例での平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。
次に、ベーマイト(包接材前駆体)と、10%硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌して、ベーマイト水溶液を調製した。そして、ベーマイト水溶液中に粉砕したPd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて2時間攪拌した。さらに、このベーマイトとPd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末の混合物に、別途粉砕した消失材を投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。当該消失材としては、カーボン粒子を用いた。そして、得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃で3時間、空気中で焼成し、消失材を消失させることにより、実施例1の表層前段用触媒粉末を得た。なお、この表層前段用触媒粉末は、図1(c)に示すように、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末をアルミナからなる包接材で包接したものである。
(表層後段用触媒粉末の調製)
Zr−Ce−Nd−Ox粉末に対するパラジウムの担持濃度を変更した以外は、上述と同様にして、表層後段用触媒粉末を調製した。また、パラジウムの担持濃度は、表3に示すように、前段のパラジウム量が0.75g/L、後段のパラジウム量が0.25g/Lとなるように、1.0質量%とした。つまり、3.0(表層前段担持濃度(質量%))×0.25/0.75=1.0(表層後段担持濃度(質量%))となるように調整した。なお、表層後段用触媒粉末も、上述と同様に、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末をアルミナからなる包接材で包接したものである。
(内層用触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Ox粉末)に、ジニトロジアミン白金溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を得た。なお、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末中における白金の担持量は2.0質量%とした。
次に、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ランタン複合酸化物粉末(Zr−Ce−La−Ox粉末)に、硝酸ロジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Rh担持Zr−Ce−La−Ox粉末を得た。なお、Rh担持Zr−Ce−La−Ox粉末中におけるロジウムの担持量は1.5質量%とした。
そして、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末とRh担持Zr−Ce−La−Ox粉末を混合し、粉砕することにより、平均粒子径(D50)を150nmとした。
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したPt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末とRh担持Zr−Ce−La−Ox粉末の混合物をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃、3時間空気中で焼成し、実施例1の内層用触媒粉末を得た。なお、この内層用触媒粉末は、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox及びRh担持Zr−Ce−La−Oxをアルミナからなる包接材で包接したものである。
(触媒層の調製)
上記表層前段用触媒粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、表層前段用触媒スラリーを調製した。
また、上記表層後段用触媒粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、表層後段用触媒スラリーを調製した。
さらに、上記内層用触媒粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、内層用触媒スラリーを調製した。
そして、内層用触媒スラリーをコーディエライト質モノリス担体(0.9L,600セル)の内面全体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。その後、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、内層触媒層を作成した。
さらに、表層前段用触媒スラリーを、内層触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。なお、この際、表層前段用触媒スラリーはモノリス担体の前端から内部に導入し、その後、モノリス担体の後端から空気流を導入することにより、余剰のスラリーを取り除いた。また、表層前段用触媒スラリーは、表2に示す、前段触媒層及び後段触媒層の合計長さに対する前段触媒層の長さの比になるように付着させた。そして、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、表層前段触媒層を調製した。
また、表層後段用触媒スラリーを内層触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。なお、この際、表層後段用触媒スラリーはモノリス担体の後端から内部に導入し、その後、モノリス担体の前端から空気流を導入することにより、余剰のスラリーを取り除いた。また、表層後段用触媒スラリーは、内層触媒層における前段触媒層が形成されていない部分に塗布した。そして、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、表層後段触媒層を調製した。このようにして、表層触媒層としてPd触媒層を設け、内層触媒層としてPt/Rh触媒層を設けた実施例1の触媒構造体を調製した。
なお、モノリス担体に対する表層前段用触媒スラリー、表層後段用触媒スラリー及び内層用触媒スラリーのコート量は、パラジウムが1.0g/L、白金が0.3g/L、ロジウムが0.25g/Lとなるように調整した。
[実施例2〜7]
表層前段用触媒粉末及び表層後段用触媒粉末におけるパラジウム担持量、並びに表層前段用触媒スラリー及び表層後段用触媒スラリーのコート量を表2及び3に示す値になるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜7の触媒構造体を調製した。
[比較例1]
表層触媒層のアンカー材を、実施例1のZr−Ce−Nd−Ox粉末から、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−イットリウム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Y−Ox粉末)に変更した。さらに、表層前段用触媒粉末及び表層後段用触媒粉末におけるパラジウム担持量、並びに表層前段用触媒スラリー及び表層後段用触媒スラリーのコート量を表2及び3に示す値になるように調整した。これ以外は、実施例1と同様に表層触媒層を調製した。
さらに、内層触媒層のアンカー材を、実施例1のZr−Ce−Nd−Ox粉末及びZr−Ce−La−Ox粉末から、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム粉末(ZrO2粉末)に変更した。これ以外は、実施例1と同様に内層触媒層を調製した。
そして、実施例1と同様に、表層触媒層としてPd触媒層を設け、内層触媒層としてPt/Rh触媒層を設けることにより、比較例1の触媒構造体を調製した。
[比較例2及び3]
表層前段用触媒粉末及び表層後段用触媒粉末におけるパラジウム担持量、並びに表層前段用触媒スラリー及び表層後段用触媒スラリーのコート量を表2及び3に示す値になるように調整した以外は、比較例1と同様にして比較例2及び3の触媒構造体を調製した。
[耐久試験方法]
排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に上記実施例1〜7及び比較例1〜3の各触媒を装着し、触媒入口の排気ガス温度を900℃として、100時間運転し、各触媒を劣化させた。その後、排気量1500ccのガソリンエンジンの排気系に劣化後の各触媒を装着し、JC−08モード(コールドスタート)で走行し、次式1より炭化水素の残存率(HC残存率)を測定した。
実施例及び比較例における貴金属種及び貴金属担持基材種を表1に示す。また、実施例及び比較例における、前段触媒層及び後段触媒層の合計長さに対する前段触媒層の長さの比、後段触媒層に対する前段触媒層の貴金属量比、及び後段触媒層に対する前段触媒層のパラジウム量比を表2に示す。さらに、実施例及び比較例における触媒層中の貴金属量を表3に示す。なお、表2及び表3には、耐久試験後のHC残存率も合わせて示す。また、貴金属担持基材における各金属元素のモル比も表2の括弧内に記載した。なお、表2の貴金属担持基材における「Zr−Ce−Nd−Ox/Al2O3」は、アンカー粒子としてZr−Ce−Nd−Oxを用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。同様に「ZrO2/Al2O3」は、アンカー粒子としてZrO2を用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。
図8では、実施例及び比較例における、[前段触媒層中の貴金属含有量]/[後段触媒層中の貴金属含有量]と耐久試験後のHC残存率との関係を示す。図8に示すように、[前段触媒層中の貴金属含有量]/[後段触媒層中の貴金属含有量]が1.4〜1.9の場合にはHC残存率が低下し、特に1.5〜1.7の範囲ではHC残存率が6%を下回る結果となった。
また、図9では、実施例及び比較例における、[前段触媒層中のPd含有量]/[後段触媒層中のPd含有量]と耐久試験後のHC残存率との関係を示す。図9に示すように、[前段触媒層中のPd含有量]/[後段触媒層中のPd含有量]が2.0〜4.0の場合にはHC残存率が低下し、特に2.5〜3.5の範囲ではHC残存率が6%を下回り、HC残存率を極めて低下させることが可能となる。
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、図5の触媒構造体では、一体構造型担体2として単一の担体を使用した例を示す。しかし、この構成に限定されず、一体構造型担体は2つの担体で構成され、それらの担体が備えるセルを組み合わせて、排気ガスの流路を形成してもよい。この場合は、一方の担体の内部に前段触媒層を設け、他の担体の内部に後段触媒層を設けることができる。そして、前段触媒層が設けられた担体を排気ガスの流れ方向における上流側に配置し、後段触媒層が設けられた担体を下流側に配置することができる。
また、図6の触媒構造体では、パラジウムを含有する触媒層を表層に配置し、白金及びロジウムの少なくともいずれか一方を含有する触媒層を内層に配置している。しかし、この構成に限定されず、白金及びロジウムの少なくともいずれか一方を含有する触媒層を表層に配置し、パラジウムを含有する触媒層を内層に配置してもよい。