以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
「実施形態1」
図1は、本発明の実施形態1に係る歯車嵌脱装置を備えるエンジン始動装置の概略構成を示す図である。駆動源10は、例えば電動機(モータ)により構成することができ、その出力軸に動力を発生させることが可能である。回転軸12は、駆動源10の出力軸に機械的に連結されており、ベアリング13を介してハウジング15に回転自在に支持されている。回転軸12の軸線方向(図1の左右方向)に関する移動は固定されている。回転軸12は、駆動源10からの動力が伝達されることで、所定の一方向(以下所定方向とする)に回転する。回転軸12の外周面には、ねじ(おねじ)22が形成されている。
駆動歯車14は、平歯車であり、外周部に歯14aが形成された外歯車により構成することができる。駆動歯車14の中心部には、回転軸12を通すための貫通穴が形成されており、貫通穴の内周面には、ねじ(めねじ)24が形成されている。回転軸12は駆動歯車14の貫通穴を貫通して通されており、回転軸12に形成されたおねじ22と駆動歯車14に形成されためねじ24とのねじ係合により、駆動歯車14が回転軸12に支持されている。ねじ22,24は、軸線方向の一方側(図1の左側)から他方側(図1の右側)へ向かうにつれて回転軸12の回転方向(所定方向)と同方向に螺旋して形成されている。図1は、ねじ22,24が右ねじである例を示している。
ガイド歯車18は、平歯車であり、外周部に歯18aが形成された外歯車により構成することができる。駆動歯車14とガイド歯車18とで、ピッチ円半径及び歯数は互いに等しい。ガイド歯車18は、駆動歯車14より軸線方向の一方側に配置された状態で、ラチェット機構20を介して駆動歯車14に支持されている。一方向回転許容機構として設けられたラチェット機構20は、ガイド歯車18が駆動歯車14に対して所定方向(図1の例では駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に反時計方向)に相対的に回転しようとする場合は、解放(フリー)状態となることで、その相対回転を許容する。一方、ラチェット機構20は、ガイド歯車18が駆動歯車14に対して所定方向と逆方向(図1の例では駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に時計方向)に相対的に回転しようとする場合は、係合(ロック)状態となることで、その相対回転を拘束する。その際には、駆動歯車14の歯14aとガイド歯車18の歯18aの位相が互いに一致する状態で、駆動歯車14に対するガイド歯車18の所定方向と逆方向の相対回転が拘束される。駆動歯車14に対するガイド歯車18の軸線方向の相対変位は拘束されている。なお、ラチェット機構20自体の構成は公知であるため詳細な説明を省略する。
駆動歯車14の回転が停止した状態で回転軸12が所定方向(図1の例では駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に反時計方向)に回転する場合や、駆動歯車14の所定方向の回転速度が回転軸12の所定方向の回転速度より低い場合等、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転する場合は、回転軸12と駆動歯車14とのねじ係合により、駆動歯車14に対する回転軸12の相対回転運動が、回転軸12の軸線方向に沿った駆動歯車14の直線運動に変換されることで、駆動歯車14がガイド歯車18とともに回転軸12の軸線方向の一方側(図1の左側、駆動源10から離れる側)へ移動する。一方、回転軸12の回転が停止した状態で駆動歯車14が所定方向に回転する場合や、駆動歯車14の所定方向の回転速度が回転軸12の所定方向の回転速度より高い場合等、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向と逆方向(図1の例では駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に時計方向)に相対的に回転する場合は、駆動歯車14がガイド歯車18とともに回転軸12の軸線方向の他方側(図1の右側、駆動源10に近づく側)へ移動する。このように、駆動歯車14は、回転軸12にその軸線方向に移動可能な状態で係合する。
被動歯車16は、平歯車であり、外周部に歯16aが形成された外歯車により構成することができる。被動歯車16は、エンジン30の出力軸に機械的に連結されている。図2に示すように、駆動歯車14が軸線方向の所定噛合位置にあるときは、駆動歯車14の歯14aと被動歯車16の歯16aが噛み合い、ガイド歯車18の歯18aと被動歯車16の歯16aは噛み合わない。一方、図1に示すように、駆動歯車14が所定噛合位置より軸線方向の他方側の非噛合位置にあるときは、駆動歯車14の歯14aと被動歯車16の歯16aは噛み合わず、ガイド歯車18の歯18aと被動歯車16の歯16aも噛み合わない。また、駆動歯車14が所定噛合位置と非噛合位置との間の軸線方向位置にあるときは、例えば図3に示すように、ガイド歯車18の歯18aと被動歯車16の歯16aが噛み合い、駆動歯車14の歯14aと被動歯車16の歯16aは噛み合わない。あるいは、例えば図4に示すように、駆動歯車14の歯14aとガイド歯車18の歯18aの両方が被動歯車16の歯16aと噛み合う。
図5に示すように、ガイド歯車18の歯18aの回転方向後側(所定方向後側)の歯面には、軸線方向に対してその一方側から他方側にかけて回転方向後側(所定方向後側)へ傾斜したガイド側テーパ面18bが形成されている。そして、被動歯車16の歯16aの回転方向前側(エンジン回転方向前側)の歯面には、軸線方向に対してその一方側から他方側にかけて回転方向後側(エンジン回転方向後側)へ傾斜した被動側テーパ面16bが形成されている。ガイド歯車18のガイド側テーパ面18bと被動歯車16の被動側テーパ面16bは互いに平行である。
カムプレート32は、駆動歯車14(非噛合位置)より軸線方向の他方側に配置され、ハウジング15に機械的に連結されていることで回転が固定されている。カムプレート32における駆動歯車14との対向面(軸線方向一方側の端面)にはカム面32bが形成されており、駆動歯車14におけるカムプレート32(カム面32b)との対向面(軸線方向他方側の端面)にはカム面14bが形成されている。駆動歯車14が軸線方向の非噛合位置(図1に示す状態)にあるときは、駆動歯車14のカム面14bがカムプレート32のカム面32bと接触している。駆動歯車14が軸線方向の非噛合位置にあるときに、駆動歯車14がカムプレート32に対して相対的に回転してカムプレート32と駆動歯車14との間に位相差が発生すると、カムプレート32のカム面32bが駆動歯車14のカム面14bを軸線方向の一方側へ押圧する。これによって、カムプレート32から駆動歯車14に軸線方向の一方側への押付力が作用し、カムプレート32に対する駆動歯車14の相対回転が抑制される。なお、カムプレート32と駆動歯車14との位相差の発生に応じてカムプレート32から駆動歯車14に押付力を作用させるためのカム面14b,32bの構成自体は、トルクカム機構を適用して実現可能であるため詳細な説明を省略する。
回転軸12における所定噛合位置より軸線方向の一方側には、移動抑制装置としてのストッパ26が設けられている。ストッパ26は、回転軸12に対する相対回転が拘束されるとともに回転軸12に対する軸線方向の相対移動が可能な状態で、回転軸12に支持されている。ストッパ26を回転軸12に支持するための構成例としては、軸線方向に沿って(あるいはほぼ沿って)延びるスプラインによる係合を適用することが可能である。さらに、回転軸12におけるストッパ26より軸線方向の一方側には、軸線方向に弾性を有する皿ばね28が取り付けられている。駆動歯車14が所定噛合位置(被動歯車16と噛み合う位置)まで移動すると、駆動歯車14(あるいはガイド歯車18)の軸線方向の一端部がストッパ26に当接してストッパ26を押圧することで、ストッパ26が軸線方向の一方側に移動して皿ばね28が圧縮される。それに応じて、皿ばね28がストッパ26の軸線方向の移動量に応じた反発力(弾性力)を発生してストッパ26を軸線方向の他方側へ押圧することで、ストッパ26から駆動歯車14に軸線方向の他方側への押圧力が作用する。これによって、駆動歯車14が所定噛合位置より軸線方向の一方側へ移動するのが抑制される。
図6に示すように、軸線方向の一方側から他方側へ向かうにつれて回転軸12の回転方向(所定方向)と同方向に螺旋して回転軸12に形成されたねじ22のねじ山(歯)は、軸線方向の一方側に形成された狭幅ねじ山22aと、軸線方向の他方側に形成され、狭幅ねじ山22aより幅の広い広幅ねじ山22bとを含む。狭幅ねじ山22a間のねじ溝22cの幅は、広幅ねじ山22b間のねじ溝22dの幅より広い。狭幅ねじ山22aと広幅ねじ山22bとの連結部分においては、軸線方向の一方側に段差が形成されていることで、駆動歯車保持部としての当接面22eが形成されている。当接面22eは、軸線方向に対してその一方側から他方側にかけて回転軸12の回転方向(所定方向)と反対側へ傾斜して形成されている。一方、駆動歯車14に形成されたねじ24のねじ山(歯)24a及び溝の幅は一定である。図6では、駆動歯車14については、説明の便宜上、内周面に形成されたねじ山24a以外の構成の図示を省略している。ねじ24のねじ山24aの幅は、広幅ねじ山22b間のねじ溝22dの幅に等しく(あるいはほぼ等しく)、狭幅ねじ山22a間のねじ溝22cの幅より狭い。ねじ24の溝の幅は、広幅ねじ山22bの幅に等しく(あるいはほぼ等しく)、狭幅ねじ山22aの幅より広い。ねじ山24aの軸線方向他方側に関する端面24bも、回転軸12の当接面22eと同様に、軸線方向に対してその一方側から他方側にかけて所定方向と反対側へ傾斜して形成されている。ねじ山24aの端面24bの軸線方向に対する傾斜角度β1(0°<β1<90°)は、回転軸12の当接面22eの軸線方向に対する傾斜角度α1(0°<α1<90°)に等しく(あるいはほぼ等しく)、ねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに当接可能である。駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに当接する状態で、駆動歯車14が被動歯車16と噛み合うように、当接面22eの軸線方向位置が設計される。なお、ねじ山22a,22b,24aの形状については様々に設計することが可能である。
次に、本実施形態に係るエンジン始動装置の動作、特に、駆動源10(モータ)の動力を用いてエンジン30を始動する場合の動作について説明する。
まずエンジン30(被動歯車16)の回転が停止している状態からエンジン30を始動する場合の動作について説明する。エンジン30の始動を行う前は、駆動源10(回転軸12)の回転は停止しており、駆動歯車14及びガイド歯車18の回転も停止している。さらに、図1に示すように、駆動歯車14が軸線方向の非噛合位置にあり、駆動歯車14及びガイド歯車18の両方が被動歯車16と噛み合っておらず、駆動歯車14のカム面14bがカムプレート32のカム面32bと接触している。その状態からエンジン30の始動を行う場合は、まず駆動源10に動力を発生させて回転軸12を所定方向(図1の例では駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に反時計方向)に回転させる。駆動歯車14は回転軸12とともに所定方向に回転しようとするが、カムプレート32と駆動歯車14との位相差の発生に応じて、回転の固定されたカムプレート32から駆動歯車14に軸線方向の一方側への押付力が作用し、カムプレート32に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が拘束される。これによって、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し、駆動歯車14がガイド歯車18とともに軸線方向の一方側(被動歯車16側)へ移動する。その際には、駆動歯車14のねじ山24aが回転軸12の広幅ねじ山22b間のねじ溝22dに沿って相対的に移動する。
駆動源10の動力を用いてエンジン30の始動を行うためには、駆動歯車14を非噛合位置から軸線方向の一方側(被動歯車16側)へ移動させて被動歯車16と噛み合わせる必要がある。ただし、駆動歯車14は、無負荷状態では、回転軸12と一体で回転し、軸線方向には移動しない。回転軸12の回転時に、駆動歯車14の軸線方向への移動を開始させるためには、回転軸12と駆動歯車14との間に回転差を発生させる必要があり、そのためには、駆動歯車14の回転を拘束または低減するための抵抗力を駆動歯車14に作用させて駆動歯車14に負荷をかける必要がある。本実施形態では、駆動歯車14が非噛合位置にあり、回転軸12が所定方向に回転するときに、回転の固定されたカムプレート32から駆動歯車14に軸線方向の一方側への押付力を抵抗力として作用させて駆動歯車14に負荷をかけることで、駆動歯車14の所定方向の回転を拘束または低減することができる。これによって、駆動歯車14を軸線方向の一方側へ移動させるための力をカムプレート32から駆動歯車14へ作用させることができ、駆動歯車14の軸線方向一方側(被動歯車16側)への移動を開始させることができる。
駆動歯車14が非噛合位置から軸線方向の一方側へ移動すると、図3に示すように、まずガイド歯車18が被動歯車16と噛み合う。カムプレート32は、駆動歯車14が非噛合位置にあるときからガイド歯車18が被動歯車16と噛み合うまで、カム面32bが駆動歯車14のカム面14bを軸線方向の一方側へ押圧し続けることで、駆動歯車14に軸線方向の一方側への押付力を抵抗力(軸線方向の一方側へ移動させるための力)として作用させ続ける。その際に、カムプレート32が駆動歯車14を押圧する範囲(駆動歯車14の移動距離)は、カム面14b,32bのプロフィールの設計により調整可能である。また、ガイド歯車18が被動歯車16と噛み合う際には、図7に示すように、ラチェット機構20の解放により、ガイド歯車18の歯18aが被動歯車16の歯16a間に嵌合可能になる位置までガイド歯車18の歯18aの位相が変化する。
ガイド歯車18と被動歯車16の噛み合い後は、駆動歯車14の歯14aとガイド歯車18の歯18aの位相が互いに一致する状態でラチェット機構20が係合状態となり、エンジン30の回転要素を含む被動歯車16側の回転要素が駆動歯車14の負荷となる。そのため、ガイド歯車18と被動歯車16の噛み合い後は、カムプレート32から駆動歯車14に押付力が作用しなくても、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し続け、回転軸12の回転運動が駆動歯車14の直線運動に変換され続けることで、駆動歯車14がガイド歯車18とともに軸線方向の一方側へ移動し続ける。駆動歯車14及びガイド歯車18が軸線方向の一方側へさらに移動すると、図4に示すように、ガイド歯車18と駆動歯車14の両方が被動歯車16と噛み合う。
駆動歯車14がガイド歯車18とともに軸線方向の一方側へさらに移動し続けると、駆動歯車14及びガイド歯車18のうち、ガイド歯車18が被動歯車16と噛み合わなくなり、駆動歯車14だけが被動歯車16と噛み合う。そして、図2に示すように、駆動歯車14が所定噛合位置まで移動すると、駆動歯車14(あるいはガイド歯車18)の軸線方向の一端部がストッパ26及び皿ばね28を軸線方向の一方側へ押圧し、その反力として駆動歯車14に軸線方向の他方側への押圧力が作用することで、駆動歯車14及びガイド歯車18の軸線方向一方側への移動が拘束されて停止する。これによって、回転軸12の回転運動が駆動歯車14の直線運動に変換されなくなり、駆動歯車14が回転軸12とともに所定方向に回転する。したがって、駆動源10の動力が駆動歯車14及び被動歯車16を介してエンジン30の出力軸に伝達され、エンジン30のクランキングが行われる。駆動歯車14が所定噛合位置まで移動する際には、駆動歯車14のねじ山24aは、図6から図8に示すように、回転軸12の広幅ねじ山22b間のねじ溝22dから狭幅ねじ山22a間のねじ溝22cに相対的に移動する。そして、皿ばね28が発生する軸線方向他方側への反発力Fspによって、軸線方向の他方側へ押圧される。
エンジン30のクランキング時には、図9に示すように、圧縮行程で圧縮仕事によってエンジン30(被動歯車16)の回転速度が減少し、膨張行程で膨張による加速トルクによってエンジン30の回転速度が増加する。その結果、被動歯車16の回転負荷や回転速度に変動が発生する。膨張による加速トルクによってエンジン30の回転速度が増加すると、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して回転方向(所定方向)に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用する。この被動歯車16から作用する、膨張による逆駆動力Fr1によって、駆動歯車14が回転軸12に対して所定方向に相対的に回転し、図9に示すように、被動歯車16(エンジン30)の回転数と、回転軸12の回転数×(駆動歯車14の歯数/被動歯車16の歯数)との間に回転差が生じると、所定噛合位置にある駆動歯車14が軸線方向の他方側へ移動してしまうことになる。この駆動歯車14の軸線方向他方側への移動によって、駆動歯車14が被動歯車16と噛み合わなくなると、エンジン30のクランキングを持続できなくなる。
これに対して本実施形態では、クランキング時における膨張による加速トルクによって、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、図10に示すように、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに当接することで、回転軸12の当接面22eから駆動歯車14のねじ山24aの端面24bに押圧力(反力)が作用し、この押圧力は軸線方向一方側への成分Fa(=Fr1×tanα1)を有する。この軸線方向一方側への力Faが、皿ばね28の発生する軸線方向他方側への反発力(弾性力)Fsp以下であるときは、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに引っ掛かることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が抑制され、図11の時刻t1より前に示すように、被動歯車16の回転数と回転軸12の回転数×(駆動歯車14の歯数/被動歯車16の歯数)との間に回転差が生じることなく、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が設定値Fsp/tanα1以下であるときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。そのため、エンジン30のクランキング時に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用しても、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制して、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。その結果、駆動源10の動力を用いてエンジン30を始動することができる。その際には、Fsp/tanα1がクランキング時における膨張による逆駆動力Fr1以上になるように、皿ばね28の軸線方向の弾性係数、及び当接面22eの軸線方向に対する傾斜角度α1を設計する。なお、ストッパ26は回転軸12とともに回転するため、駆動歯車14がストッパ26に当接した状態で回転しても、駆動歯車14とストッパ26との間に摩擦による損失は発生しない。
エンジン30の始動後は、エンジン30(被動歯車16)が回転している状態で、駆動源10による動力の発生を停止させる。図11の時刻t1より後に示すように、エンジン30の燃焼による加速トルクによってエンジン30(被動歯車16)の回転速度が大きく増加すると、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して回転方向(所定方向)に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用する。この被動歯車16から作用する、燃焼による逆駆動力Fr2によって、図12に示すように、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに当接する。回転軸12の当接面22eから駆動歯車14のねじ山24aの端面24bに作用する押圧力(反力)の軸線方向一方側への成分Fa(=Fr2×tanα1)が、皿ばね28の発生する軸線方向他方側への反発力(弾性力)Fspより大きいときは、この力Faによって皿ばね28が圧縮されながらストッパ26が軸線方向の一方側へ移動して、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eから外れることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が許容され、図11の時刻t1より後に示すように、被動歯車16の回転数と回転軸12の回転数×(駆動歯車14の歯数/被動歯車16の歯数)との間の回転差が許容され、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2が設定値Fsp/tanα1より大きいときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。そのため、エンジン30の始動後は、被動歯車16から駆動歯車14に作用する、燃焼による逆駆動力Fr2によって、駆動歯車14が回転軸12に対して所定方向に相対回転し、図13に示すように、駆動歯車14がガイド歯車18とともに軸線方向の他方側へ移動する。その際には、Fsp/tanα1がエンジン30の始動後における燃焼による逆駆動力Fr2より小さくなるように、皿ばね28の軸線方向の弾性係数、及び当接面22eの軸線方向に対する傾斜角度α1を設計する。駆動歯車14が所定噛合位置(図2の状態)から非噛合位置(図1の状態)まで移動する際には、駆動歯車14のねじ山24aは、回転軸12の狭幅ねじ山22a間のねじ溝22cから広幅ねじ山22b間のねじ溝22dに相対的に移動する。
図1に示すように、駆動歯車14が非噛合位置まで移動した状態では、駆動源10(回転軸12)の回転は停止し、駆動歯車14及びガイド歯車18の回転も停止し、駆動歯車14及びガイド歯車18の両方が被動歯車16と噛み合っておらず、駆動歯車14のカム面14bがカムプレート32のカム面32bと接触する。そのため、エンジン30の始動後は、エンジン30(被動歯車16)が回転していても、駆動歯車14とカムプレート32との間や、駆動歯車14とガイド歯車18との間等に、摺動による引き摺り損失等の機械的損失及び騒音は発生しない。
また、車両駆動用のエンジン30および、アイドリングストップ機構を備える車両は微速走行時においてエンジン30からの駆動を停止する場合がある。そのため、エンジン30が動力を発生していなくても、エンジン出力軸すなわち被動歯車16が回転している状態からエンジン30を始動する場合も生じる。エンジン30(被動歯車16)が回転している状態からエンジン30を始動する場合の動作も、基本的には、エンジン30(被動歯車16)の回転が停止している状態からエンジン30を始動する場合と同様である。ただし、ガイド歯車18と被動歯車16が噛み合う場合に、ガイド歯車18の歯18aと被動歯車16の歯16aがぶつかるときは、図14に示すように、ラチェット機構20の解放により、ガイド歯車18の回転方向後側(所定方向後側)のガイド側テーパ面18bが被動歯車16の回転方向前側(エンジン回転方向前側)の被動側テーパ面16b上を滑りながら、ガイド歯車18の歯18aが被動歯車16の歯16a間に嵌合する。そして、ガイド歯車18と被動歯車16の噛み合い後に、駆動歯車14の所定方向の回転速度がガイド歯車18の所定方向の回転速度まで増加すると、駆動歯車14の歯14aとガイド歯車18の歯18aの位相が互いに一致する状態でラチェット機構20が係合状態となる。
以上説明した本実施形態では、駆動歯車14と回転軸12との回転差により駆動歯車14を軸線方向に移動させることができるため、駆動源10の回転駆動により駆動歯車14の嵌脱動作と回転動作の両方が可能となる。さらに、本実施形態では、駆動歯車14を被動歯車16と噛み合わせて駆動源10からエンジン30へ動力を伝達することでエンジン30を始動する場合に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときでも、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eに引っ掛かることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制することができる。したがって、被動歯車16の回転負荷や回転速度に変動が発生しても、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持して駆動源10からエンジン30への動力伝達を継続することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。その結果、エンジン30の始動を安定して行うことができる。一方、エンジン30の始動後に、燃焼による逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、駆動歯車14のねじ山24aの端面24bが回転軸12の当接面22eから外れることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。したがって、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを解除して駆動源10からエンジン30への動力伝達を遮断することができ、エンジン30のクランキングを終了させることができる。
また、本実施形態では、エンジン30の始動後は、エンジン30(被動歯車16)が回転している状態で駆動源10(回転軸12)の回転を停止させるが、その際には、駆動歯車14及びガイド歯車18の両方が被動歯車16と噛み合っておらず、駆動歯車14及びガイド歯車18の回転も停止するため、駆動歯車14とカムプレート32との間や、駆動歯車14とガイド歯車18との間等に、摺動による引き摺り損失等の機械的損失及び騒音は発生しない。したがって、被動歯車16が回転している状態で駆動源10を停止させる場合(エンジン30の始動後)における機械的損失及び騒音を低減することができる。
さらに、本実施形態では、エンジン30の始動を行う場合に、被動歯車16が回転していても、ラチェット機構20の解放によりガイド歯車18を回転させて被動歯車16と噛み合わせてから、駆動歯車14を被動歯車16と噛み合わせることができる。したがって、被動歯車16が回転していても、駆動歯車14を被動歯車16と容易に噛み合わせることができる。さらに、ガイド歯車18の回転方向後側の歯面にガイド側テーパ面18bを形成し、被動歯車16の回転方向前側の歯面に被動側テーパ面16bを形成することで、被動歯車16の回転時にガイド歯車18を被動歯車16と噛み合わせる際には、ガイド歯車18のガイド側テーパ面18bが被動歯車16の被動側テーパ面16b上を滑りながら、ガイド歯車18の歯18aが被動歯車16の歯16a間に嵌合する。したがって、被動歯車16が回転していても、ガイド歯車18を被動歯車16とより容易に噛み合わせることができる。
「実施形態2」
図15は、本発明の実施形態2に係る歯車嵌脱装置を備えるエンジン始動装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態2の説明では、実施形態1と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1と同様である。
本実施形態では、駆動歯車14と軸線方向に対向するストッパ26の軸線方向他方側の端部に段差が形成されていることで、駆動歯車保持部としての当接面26dが形成されている。図15では、説明の便宜上、駆動歯車14の具体的構成の図示を省略しているが、実施形態1と同様の構成を適用可能である。ストッパ26の当接面26dは、回転軸12の回転方向(所定方向)に対してその前側から後側にかけて軸線方向の一方側へ傾斜して形成されており、当接面26dの前側端と繋がれた端面26eが当接面26dの後側端と繋がれた端面26fより軸線方向の他方側(駆動歯車14側)へ張り出して形成されている。ストッパ26と軸線方向に対向する駆動歯車14の軸線方向一方側の端部にも段差が形成されていることで、当接面14dが形成されている。駆動歯車14の当接面14dも、ストッパ26の当接面26dと同様に、回転軸12の回転方向に対してその前側から後側にかけて軸線方向の一方側へ傾斜して形成されており、当接面14dの後側端と繋がれた端面14fが当接面14dの前側端と繋がれた端面14eより軸線方向の一方側(ストッパ26側)へ張り出して形成されている。回転軸12の回転方向に対するストッパ26の当接面26dの傾斜角度β21(0°<β21<90°)は、回転軸12の回転方向に対する駆動歯車14の当接面14dの傾斜角度β22(0°<β22<90°)に等しく(あるいはほぼ等しく)、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接可能である。駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接する状態で、駆動歯車14が被動歯車16と噛み合うように、当接面26dの軸線方向位置が設計される。回転軸12に形成されたねじ22のねじ山(歯)及び溝の幅は一定であり、ねじ22のリード角α2(回転軸12の回転方向に対するねじ22の傾斜角度、0°<α2<90°)は、回転軸12の回転方向に対する当接面26d,14dの傾斜角度β21,β22より小さい。
本実施形態でも実施形態1と同様に、駆動源10の動力を用いてエンジン30を始動する場合は、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し、駆動歯車14が非噛合位置から軸線方向の一方側へ移動する。駆動歯車14が軸線方向の一方側へ移動し続けると、図16に示すように、駆動歯車14の端面14fがストッパ26の端面26eを押圧することで、ストッパ26が軸線方向の一方側に移動して皿ばね28が圧縮される。駆動歯車14がストッパ26及び皿ばね28を軸線方向の一方側へさらに押圧して所定噛合位置まで移動すると、図17に示すように、駆動歯車14の端面14fがストッパ26の端面26fを押圧し(あるいは駆動歯車14の端面14eがストッパ26の端面26eを押圧し)、実施形態1と同様に、その反力として駆動歯車14に軸線方向の他方側への押圧力が作用することで、駆動歯車14の軸線方向一方側への移動が拘束されて停止する。これによって、回転軸12の回転運動が駆動歯車14の直線運動に変換されなくなり、駆動歯車14が回転軸12とともに所定方向に回転することで、駆動源10の動力が駆動歯車14及び被動歯車16を介してエンジン30の出力軸に伝達され、エンジン30のクランキングが行われる。
クランキング時における膨張による加速トルクによって、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、図18に示すように、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接することで、駆動歯車14の当接面14dからストッパ26の当接面26dに押圧力が作用し、この押圧力は軸線方向一方側への成分Fa(=Fr1/tanβ21)を有する。この軸線方向一方側への力Faが、皿ばね28の発生する軸線方向他方側への反発力(弾性力)Fsp以下であるときは、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに引っ掛かることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が抑制され、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が設定値Fsp×tanβ21以下であるときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。そのため、エンジン30のクランキング時に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用しても、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制して、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。その際には、Fsp×tanβ21がクランキング時における膨張による逆駆動力Fr1以上になるように、皿ばね28の軸線方向の弾性係数、及び回転軸12の回転方向に対する当接面26dの傾斜角度β21を設計する。
エンジン30の始動後には、燃焼による加速トルクによって、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用することで、図19に示すように、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接する。駆動歯車14の当接面14dからストッパ26の当接面26dに作用する押圧力の軸線方向一方側への成分Fa(=Fr2/tanβ21)が、皿ばね28の発生する軸線方向他方側への反発力Fspより大きいときは、この力Faによって皿ばね28が圧縮されながらストッパ26が軸線方向の一方側へ移動して、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dから外れることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が許容され、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2が設定値Fsp×tanβ21より大きいときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。そのため、エンジン30の始動後は、燃焼による逆駆動力Fr2によって、駆動歯車14が回転軸12に対して所定方向に相対回転し、駆動歯車14が軸線方向の他方側へ非噛合位置まで移動する。その際には、Fsp×tanβ21がエンジン30の始動後における燃焼による逆駆動力Fr2より小さくなるように、皿ばね28の軸線方向の弾性係数、及び回転軸12の回転方向に対する当接面26dの傾斜角度β21を設計する。
以上説明した本実施形態では、駆動歯車14を被動歯車16と噛み合わせて駆動源10からエンジン30へ動力を伝達することでエンジン30を始動する場合に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときでも、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに引っ掛かることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制することができる。したがって、被動歯車16の回転負荷や回転速度に変動が発生しても、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持して駆動源10からエンジン30への動力伝達を継続することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。一方、エンジン30の始動後に、燃焼による逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dから外れることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。したがって、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを解除して駆動源10からエンジン30への動力伝達を遮断することができ、エンジン30のクランキングを終了させることができる。
「実施形態3」
図20は、本発明の実施形態3に係る歯車嵌脱装置を備えるエンジン始動装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態3の説明では、実施形態1,2と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1,2と同様である。
本実施形態では、実施形態2と比較して、ストッパ26は、回転軸12に対する軸線方向の相対移動が拘束されるとともに回転軸12に対する相対回転が可能な状態で、回転軸12に支持されている。さらに、回転軸12の周方向に弾性を有するばね29を介してストッパ26と回転軸12が接続されており、ばね29がストッパ26と回転軸12の相対回転角度に応じた反発力(弾性力)を発生する。ねじ22のリード角α2は、回転軸12の回転方向に対する当接面26d,14dの傾斜角度β21,β22より大きい。図20では、説明の便宜上、駆動歯車14の具体的構成の図示を省略しているが、実施形態1と同様の構成を適用可能である。
本実施形態でも実施形態1,2と同様に、駆動源10の動力を用いてエンジン30を始動する場合は、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し、駆動歯車14が非噛合位置から軸線方向の一方側へ移動する。駆動歯車14が軸線方向の一方側へ移動し続けると、図21に示すように、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接し始めることで、駆動歯車14がストッパ26を回転軸12の回転方向(所定方向)へ押圧し、ストッパ26が回転軸12に対して所定方向に相対回転してばね29が伸びる。ばね29が伸びることで発生する所定方向と反対側の反発力(弾性力)によって、ストッパ26から駆動歯車14に所定方向と反対側の反力が作用する。駆動歯車14がストッパ26をさらに押圧して所定噛合位置まで移動すると、図22に示すように、駆動歯車14の端面14fがストッパ26の端面26fを押圧し(あるいは駆動歯車14の端面14eがストッパ26の端面26eを押圧し)、その反力として駆動歯車14に軸線方向の他方側への押圧力が作用することで、駆動歯車14の軸線方向一方側への移動が拘束されて停止する。これによって、回転軸12の回転運動が駆動歯車14の直線運動に変換されなくなり、駆動歯車14が回転軸12とともに所定方向に回転することで、駆動源10の動力が駆動歯車14及び被動歯車16を介してエンジン30の出力軸に伝達され、エンジン30のクランキングが行われる。
クランキング時における膨張による加速トルクによって、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、図23に示すように、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接することで、駆動歯車14の当接面14dからストッパ26の当接面26dに押圧力が作用する。この押圧力の所定方向(回転軸12の回転方向)の成分Fr1が、ばね29の発生する所定方向と反対側の反発力(弾性力)Fsp以下であるときは、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに引っ掛かることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が抑制され、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr1が設定値Fsp以下であるときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が抑制される。そのため、エンジン30のクランキング時に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用しても、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制して、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。その際には、Fspがクランキング時における膨張による逆駆動力Fr1以上になるように、回転軸12の周方向に関するばね29の弾性係数を設計する。
エンジン30の始動後には、燃焼による加速トルクによって、所定噛合位置にある駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用することで、図24に示すように、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに当接する。駆動歯車14の当接面14dからストッパ26の当接面26dに作用する押圧力の所定方向の成分Fr2が、ばね29の発生する所定方向と反対側の反発力Fspより大きいときは、この力Fr2によってばね29が伸びながらストッパ26が回転軸12に対して所定方向に相対回転して、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dから外れることで、回転軸12に対する駆動歯車14の所定方向の相対回転が許容され、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。つまり、駆動歯車14が所定噛合位置にある場合に、駆動歯車14を回転軸12に対して所定方向に相対的に回転させようとする逆駆動力Fr2が設定値Fspより大きいときは、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。そのため、エンジン30の始動後は、燃焼による逆駆動力Fr2によって、駆動歯車14が回転軸12に対して所定方向に相対回転し、駆動歯車14が軸線方向の他方側へ非噛合位置まで移動する。その際には、Fspがエンジン30の始動後における燃焼による逆駆動力Fr2より小さくなるように、回転軸12の周方向に関するばね29の弾性係数を設計する。
以上説明した本実施形態でも、駆動歯車14を被動歯車16と噛み合わせて駆動源10からエンジン30へ動力を伝達することでエンジン30を始動する場合に、膨張による逆駆動力Fr1が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときでも、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dに引っ掛かることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動を抑制することができる。したがって、被動歯車16の回転負荷や回転速度に変動が発生しても、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを維持して駆動源10からエンジン30への動力伝達を継続することができ、エンジン30のクランキングを持続することができる。一方、エンジン30の始動後に、燃焼による逆駆動力Fr2(Fr2>Fr1)が被動歯車16から駆動歯車14に作用したときは、駆動歯車14の当接面14dがストッパ26の当接面26dから外れることで、駆動歯車14の軸線方向他方側への移動が許容される。したがって、駆動歯車14と被動歯車16との噛み合いを解除して駆動源10からエンジン30への動力伝達を遮断することができ、エンジン30のクランキングを終了させることができる。
各実施形態において、駆動歯車14に対する回転軸12の相対回転に応じて、駆動歯車14を回転軸12に対して軸線方向に移動させるための構成は、回転軸12と駆動歯車14とのねじ係合に限られるものではなく、例えば、回転軸12と駆動歯車14とのヘリカルスプライン係合により駆動歯車14を回転軸12に支持してもよいし、ボールねじ機構を介して駆動歯車14を回転軸12に支持してもよい。
また、各実施形態では、エンジン30の始動を行う場合に、駆動歯車14の軸線方向一方側(被動歯車16側)への移動を開始させるための機構として、カムプレート32以外の機構を用いることも可能である。図25に示す構成例では、駆動歯車14の外周部(歯14aより軸線方向他方側の位置)に、軸線方向に沿って(あるいはほぼ沿って)延びる歯及び溝が形成されたスプライン34が設けられ、回転の固定されたハウジング15の内周部に、軸線方向に沿って(あるいはほぼ沿って)延びる歯及び溝が形成されたスプライン35が設けられている。駆動歯車14が非噛合位置にあるときに、スプライン34の歯がスプライン35の溝に嵌合する(スプライン35の歯がスプライン34の溝に嵌合する)ことで、ハウジング15に対する駆動歯車14の回転が拘束される。ただし、スプライン34の歯がスプライン35の溝に沿って軸線方向に移動可能である(スプライン35の歯がスプライン34の溝に沿って軸線方向に移動可能である)ため、ハウジング15に対する駆動歯車14の軸線方向の移動は許容される。このように、駆動歯車14が非噛合位置にあるときに、スプライン34,35同士の係合によって、ハウジング15に対する駆動歯車14の軸線方向の移動が許容されるとともに、ハウジング15に対する駆動歯車14の回転が拘束される。なお、駆動歯車14とハウジング15のスプライン係合の代わりにキー係合によっても、駆動歯車14が非噛合位置にあるときに、ハウジング15に対する駆動歯車14の軸線方向の移動を許容しつつ、ハウジング15に対する駆動歯車14の回転を拘束することが可能である。また、スプライン34,35はヘリカルスプラインであってもよく、その場合でも、ハウジング15に対する駆動歯車14の軸線方向の移動を許容しつつ、駆動歯車14の所定方向の回転速度が回転軸12の所定方向の回転速度より低くなるように、ハウジング15に対する駆動歯車14の回転を制限することが可能である。
図25に示す構成例でも、エンジン30の始動を行う場合は、駆動源10に動力を発生させて回転軸12を所定方向(駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に反時計方向)に回転させる。駆動歯車14はスプライン34,35同士の係合によってハウジング15に対する回転が拘束または制限されているため、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し、駆動歯車14がガイド歯車18とともに軸線方向の一方側(被動歯車16側)へ移動する。このように、駆動歯車14が非噛合位置にあり、回転軸12が所定方向に回転するときに、回転の固定されたハウジング15から駆動歯車14にスプライン34,35同士の係合による回転拘束力を抵抗力として作用させて駆動歯車14に負荷をかけることで、駆動歯車14の所定方向の回転を拘束または制限することができる。これによって、駆動歯車14を軸線方向の一方側へ移動させるための力をハウジング15から駆動歯車14へ作用させることができ、駆動歯車14の軸線方向一方側(被動歯車16側)への移動を開始させることができる。その際には、駆動歯車14が非噛合位置にあるときからガイド歯車18が被動歯車16と噛み合うまで、ハウジング15に対する駆動歯車14の軸線方向の移動を許容しつつ、スプライン34,35同士の係合による回転拘束力を抵抗力(軸線方向の一方側へ移動させるための力)として駆動歯車14に作用させ続ける。ガイド歯車18が被動歯車16と噛み合った後は、スプライン34,35同士の係合が解除される(駆動歯車14に回転拘束力が作用しなくなる)ことで駆動歯車14の回転が許容され、エンジン30の回転要素を含む被動歯車16側の回転要素が駆動歯車14の負荷となる。
また、図26に示す構成例では、ガイド歯車18及びラチェット機構20が省略されている。そして、駆動歯車14の外周部(歯14aより軸線方向他方側の位置)に摩擦面14cが形成されており、摩擦材36が押圧ばね38を介してハウジング15に取り付けられている。駆動歯車14が非噛合位置にあるときに、押圧ばね38の付勢力によって摩擦材36が駆動歯車14の摩擦面14cを径方向内側へ押圧することで、回転の固定された摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに摩擦力が作用する。なお、押圧ばね38の付勢力の代わりに油圧力や電磁力によっても、摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに摩擦力を作用させることが可能であり、摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに作用する摩擦力の大きさは、押圧ばね38の付勢力(あるいは油圧力や電磁力)により調整可能である。
図26に示す構成例でも、エンジン30の始動を行う場合は、駆動源10に動力を発生させて回転軸12を所定方向(駆動源10側(図の右側)から回転軸12を見た場合に反時計方向)に回転させる。駆動歯車14は回転軸12とともに所定方向に回転しようとするが、回転の固定された摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに摩擦力が作用することで、回転軸12が駆動歯車14に対して所定方向に相対的に回転し、駆動歯車14が軸線方向の一方側(被動歯車16側)へ移動する。その際には、駆動歯車14の回転を拘束するように、摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに作用する摩擦力の大きさを調整することも可能であるし、駆動歯車14の回転速度が回転軸12の回転速度より低い状態で駆動歯車14が所定方向に回転するように、摩擦材36から駆動歯車14の摩擦面14cに作用する摩擦力の大きさを調整することも可能である。このように、本実施形態では、駆動歯車14が非噛合位置にあり、回転軸12が所定方向に回転するときに、回転の固定された摩擦材36から駆動歯車14に摩擦力を抵抗力として作用させて駆動歯車14に負荷をかけることで、駆動歯車14の所定方向の回転を拘束または低減することができる。これによって、駆動歯車14を軸線方向の一方側へ移動させるための力を摩擦材36から駆動歯車14へ作用させることができ、駆動歯車14の軸線方向一方側(被動歯車16側)への移動を開始させることができる。その際には、駆動歯車14が非噛合位置にあるときから被動歯車16と噛み合うまで、摩擦材36から駆動歯車14に摩擦力を抵抗力(軸線方向の一方側へ移動させるための力)として駆動歯車14に作用させ続ける。駆動歯車14が被動歯車16と噛み合った後は、摩擦材36が駆動歯車14の摩擦面14cと接触しなくなる(摩擦材36から駆動歯車14に摩擦力が作用しなくなる)ことで駆動歯車14の回転が許容され、エンジン30の回転要素を含む被動歯車16側の回転要素が駆動歯車14の負荷となる。
本実施形態に係る歯車嵌脱装置の適用対象は、エンジン始動装置に限られるものではなく、例えばマニュアルトランスミッションのシンクロ機構等、回転中の歯車嵌脱操作を必要とする機構にも適用可能である。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。