JP2014009398A - 高圧水素ガス容器用のAl−Mg系合金 - Google Patents

高圧水素ガス容器用のAl−Mg系合金 Download PDF

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Abstract

【課題】Al−Mg系合金について、耐水素脆性を高め、高圧の水素ガス中で長期使用可能なものを提供する。
【解決手段】本発明は、質量%で、Mg:3.0〜6.0%、Cu:0.03〜1.0%を含有し、かつ不純物であるFe及びSiの含有量が、Fe:0.15%未満、及び、Si:0.15%未満に制限された耐水素脆性に優れた高圧水素ガス用のAl−Mg系合金であって、Al−Fe−Si化合物からなり、円相当径で1μm以上のサイズを有する晶出粒子の分布密度が4000個/mm以下のものである。そして、Mn:0.02〜0.8%、Cr:0.01〜0.2%のうちの1種又は2種を、0.05%≦Mn+Cr≦0.9%を満たす範囲で含有し、Al−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなり、円相当径0.5μm以下のサイズを有する分散粒子の分布密度が100000個/mm以上とすることで耐水素脆性をより向上させることができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐水素脆性に優れたAl−Mg系合金に関し、高圧力の水素ガス環境に直接暴露されて用いられる部材や、高圧水素ガス環境に暴露されると同時に荷重が負荷される状態で長時間用いられる部材に好適なAl−Mg系合金に関するものである。特に、燃料電池自動車に搭載される高圧水素ガス容器用の部材として好適なAl−Mg系合金に関する。
CO排出量規制を背景として、水素エネルギーを利用する燃料電池自動車の開発・実用化が進められ、すでに一部で市販車が公道を走行している。この燃料電池自動車では、燃料となる水素ガスを貯蔵するための高圧水素ガスタンクが搭載される。車載用高圧水素ガスタンクは、燃費性能を高めるために軽量性が必要とされ、アルミニウム合金製又は樹脂製のライナーの周囲に炭素繊維強化樹脂(CFRP)を巻きつけた構造が採用されている。特に、アルミニウム合金は、樹脂に比べて高圧水素ガスに対する気密性に優れ、水素ガスを充填後に長時間保持しても水素ガスの遺漏がほとんど無いため、ガスタンクのライナー素材として好適であるとされている。
高圧水素ガスタンクでは、1回の充填での航続距離を高めるために、700気圧もの非常に高いガス圧力で水素の充填が行われるのが標準仕様となりつつある。高圧水素ガスタンクでは、ライナーが直接高圧水素ガスと接触して気密保持する構造となっている。このように、高圧の水素ガスに直接暴露され、同時に高圧充填による一定の応力が負荷された状況で長期間使用されるという用途は、アルミニウム合金にとっては比較的新しい用途である。そして、かかる用途に対して、これまでに以下の特許文献に開示された各種のアルミニウム合金が開発されている。
特開2009−24225号公報 特開2011−214149号公報 特開2009−197249号公報 特開2009−221566号公報
これらの先行技術について、特許文献1及び特許文献2には、耐水素脆性に優れるAl−Mg−Si系合金(6000系アルミニウム合金)に関する技術が開示されている。また、特許文献3には、Al−Cu系合金(2000系アルミニウム合金)に関する技術が、また、特許文献4にはAl−Zn−Mg系合金(7000系アルミニウム合金)に関する技術がそれぞれ開示されている。
これらの合金は、各種のアルミニウム合金の中で、熱処理型アルミニウム合金に分類されており、適切な熱処理を行うことによって材料の強度を高めることができる。この適切な熱処理とは、例えば、Al−Mg−Si系合金の場合、ライナー形状に加工した後、主要な構成元素であるMgとSiをマトリクス中に固溶するために500℃程度の高温に加熱し(溶体化処理)、ライナーを水中に投入するなどして急冷(水焼入れ)した後、さらに150〜200℃の適切な温度で数時間人工時効して、マトリクス中に固溶されたMg・Siを析出物としてマトリクス中に均一微細に析出させる一連の熱処理を行うことである。この人工時効条件を最適化することによって材料強度を効果的に高めることができる。
上記のような熱処理型のアルミニウム合金をライナー材として用いる場合、材料強度を高めることができるので、ライナーの周囲に巻きつけるCFRP層の強度負担率を低減することができ、CFRPの使用量を減らして高圧水素ガスタンクの製造コストを低減できるメリットがある。
しかし一方で、熱処理型のアルミニウム合金を適用する場合、ライナーの形状に加工した後に上記の熱処理を行うことが必要となる。加工後に熱処理を行うと、例えば、溶体化処理後の水焼入れ等による急冷の際に、ライナーの各部位で冷却速度にばらつきが生じて、ライナーに熱ひずみが生じて変形するという問題がある。また、また変形の問題が生じない場合であって、焼入れ時の冷却速度の部位ごとの違いによって、人工時効後の強度にばらつきが生じ、設計よりも短寿命で疲労破壊するなどの問題があった。更に、高圧水素ガスタンクには、水素ガスステーションで用いられる定置式のタンクもある。この場合、長尺のタンクが用いられるためライナーのサイズも長尺となり、車載型のタンクの場合に比べて好適な熱処理(特に焼入れ)を行うことが技術的にさらに困難になるという課題もある。
ところで、アルミニウム合金の中には、上記のような熱処理を行わなくても比較的高い強度が得られる非熱処理型のアルミニウム合金も知られている。その代表的なものがAl−Mg系合金であり、主成分のMgがAlマトリクス中に固溶することにより強度を得る。特に、Mg量を3%(質量)以上含有する場合には、固溶強化により特別な熱処理を行わなくても、中程度の強度を得ることが出来る。またAl−Mg系合金は成形性、接合性にも優れることから、ライナーの成形・加工に種々の方法を適用することが出来る利点もある。
そこで、高圧水素ガスタンクの材料選定に関する方針として、従来の、ライナー成形・加工後の熱処理を前提とした熱処理型のアルミニウム合金の適用に替えて、Al−Mg系合金(非熱処理型のアルミニウム合金)の適用も有用であると考えられる。Al−Mg系合金を用いれば、強度は中程度であるものの、成形・加工後に特別な熱処理を行う必要がなくなり、タンクの製造工程が簡略化できるからである。また、ライナーの成形・加工においても、Al−Mg系合金の優れた成形性・接合性がより簡略なプロセスの実現に有効である。
しかしながら、本発明者等によると、一般的に用いられているAl−Mg系合金を高圧ガス環境中で荷重が負荷された状態で長期間使用すると、水素脆化を生じる可能性があることが判明している。水素脆化は鉄鋼を初めとして、多くの金属材料で生じることが知られている現象であり、材料の使用環境中において、徐々に材料内部に水素が侵入して、材料の結晶粒界等において脆性的な割れを引き起こすことにより、想定された寿命よりも短い期間で材料が破壊してしまう現象である。本発明者等によれば、アルミニウム合金(Al−Mg系合金)は気密保持性に優れるものの、タンクを長期間使用すると極僅かであるが水素がアルミニウム合金中に侵入して、この水素脆化の現象が生じ得ることを見出している。
本発明は、上記の背景のもとになされたものであり、高圧水素ガスタンクのライナーをはじめとする高圧水素ガス環境中において、荷重が負荷された状態で長期間使用される部材に好適な、耐水素脆性に優れたAl−Mg系合金を開発することを目的とするものである。
本願発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行い、高圧水素ガス環境中においてAl−Mg系合金が水素脆化するメカニズムに着目した。その結果、まず、合金成分としてCuを添加すると、添加されたCuがマトリクス中に固溶元素として存在して、水素原子を補足(トラップ)することによって水素脆化の発生が抑制されて、耐水素脆性が向上することを見出し、その添加量を最適化した。
さらに、本願発明者等は、高圧水素ガス中において、脆化の原因となる水素が材料中に侵入する経路を調査したところ、Al−Mg系合金の材料表面に存在する主にAl−Fe−Si化合物からなる晶出粒子上で水素ガスが原子状水素に乖離(H→2H)し、この原子状水素が晶出粒子中を経路として、材料内部へと侵入していくことを見出した。そこで、本願発明者等は、晶出粒子の主要な構成元素である不純物Fe及びSiの量について、通常標準的に用いられる材料のレベルよりも低く制限して、材料表面に存在する晶出粒子量を減少させることによって、水素侵入経路自体を減少させ、結果として材料の耐水素脆性を向上させることが可能であることを見出した。
即ち、本発明は、質量%で、Mg:3.0〜6.0%、Cu:0.03〜1.0%を含有し、かつ不純物であるFe及びSiの含有量が、Fe:0.15%未満、及び、Si:0.15%未満に制限され、残部Alと不可避不純物からなる耐水素脆性に優れた高圧水素ガス用のAl−Mg系合金であって、Al−Fe−Si化合物からなり、円相当径で1μm以上のサイズを有する晶出粒子の分布密度が4000個/mm以下であるAl−Mg系合金材である。
以下、本発明について詳細に説明する。上記の通り、本発明は、Al−Mg系合金の耐水素脆性改善のための手段として、(1)耐水素脆性改善に有用な成分元素であるCuの添加、及び、(2)合金中の晶出粒子(Al−Fe−Si化合物)の分布密度の制限及びそのための成分元素の制御の2方向からAl−Mg系合金の耐水素脆性を一定レベル以上の高い水準とするものである。
そこで、まず、本発明に係るAl−Mg系合金について、合金本来の強度を確保しつつ、耐水素脆化性を改善するために組成制御を必須とする元素(Mg、Cu、Fe、Si)について、その組成範囲を説明する。尚、本願明細書において、合金組成を示す「%」とは「質量%」を示す。
Mgは、Al−Mg系合金を構成する主要元素である。MgはAlマトリクス中に固溶して、固溶強化によって材料強度を高める役割を果たす。またこの固溶強化に伴って、材料の加工硬化性(n値)が増大し、Mg量が増大するにつれて材料の延性・成形性が高まる利点がある。本発明ではMg量の下限を3.0%とする。Mg量が3.0%未満ではMg量が実質的に少ないため、固溶強化による強度上昇が少なく、また延性・成形性が十分でなく、高圧水素ガスタンク等の部材として用いるには不適となる。一方、Mg量の上限は6.0%とする。Mg量が6.0%を超えるとAl−Mg系合金の熱間加工性が大幅に低下して、実質的に材料を製造することが困難となる。また、Mg量の増大に伴って水素脆化感受性が大幅に増大する。そのため、Mg量が6.0%を超えると、本発明で規定した方法に従って耐水素性を高める方策を講じても、実用に耐える十分なレベルの耐水素脆性を確保することが出来なくなってしまう。
CuはAl−Mg系合金の耐水素脆性を向上させる効果があり、本発明で規定する合金における必須の添加元素である。添加されたCuは、Alマトリクス中に固溶元素として存在し、材料中に侵入した微量の水素をCu原子が捕捉(トラップ)して、結晶粒界に集積する水素量を実質的に減少させることにより、耐水素脆性を向上させる効果がある。また、Cuは、強度向上・成形性向上に寄与するという効果も有する。Cu添加量が0.03%未満では、マトリクス中に固溶しているCu原子の絶対量が、侵入してくる水素量に比べて少ないため、実質的に耐水素脆性を向上させる効果が認められなくなってしまう。一方、Cuが1.0%を超えると、材料の耐食性が低下して、高圧水素ガス環境に接する部分は問題ないが、外部環境に露出して使用される部分において材料の腐食が問題となる。
Fe及びSiは、アルミニウム合金を製造する上で原料として使用するアルミニウムインゴット中に、不純物元素として含まれているのが通常である。また、近年、アルミニウム飲料缶の使用量が増加し、これに伴いリサイクルされるアルミニウム飲料缶も増加しており、これらの飲料缶を再溶解して原料の一部として用いる場合には、原料コストは低減されるものの、これらの不純物Fe・Si量は増加してしまう場合がある。Fe及びSiはかかる背景で材料中に含有される量が左右される不純物元素である。
そして、不純物元素であるFe及びSiは、上記したように、合金への水素侵入経路として耐水素脆性を低下させるAl−Fe−Si化合物からなる晶出粒子の主要な構成元素である。従って、本発明ではFe・Si量を所定の規定量未満になるよう制御し、晶出粒子分布数を制限して、水素の侵入量を減少させることが出来る。具体的には、Fe量0.15%未満及びSi量0.15%未満に制御する。比較的純度の低いアルミニウムインゴットを用いたり、アルミニウム飲料缶等をリサイクルするなどしたりして、Fe量が0.15%以上の場合又はSi量が0.15%以上となってしまった場合は、Al−Fe−Si化合物からなる晶出粒子の数が多くなり、結果として水素の侵入経路が増大して、材料中に侵入する水素量が増えて、耐水素脆性が低下してしまう。
本発明に係るAl−Mg系合金は、上記のようにCuの添加及び各成分元素の制御と共に、材料中のAl−Fe−Si化合物からなる晶出粒子について円相当径で1μm以上の存在密度を制限することを特徴とするものである。そこで、次に、本発明における晶出粒子の存在密度の制御について説明する。
Al−Mg系合金は、その溶解・鋳造の際の凝固過程においてAl−Fe−Si化合物からなる晶出粒子が生成する。この晶出粒子を構成するFe、Siの合金への流入経路は上記の通りである。晶出粒子はマトリクス中に分散し一部は材料表面に存在するが、本発明者等の検討結果から、この晶出粒子が水素の侵入経路であり材料内部に水素を侵入させて水素脆化の要因となる。そこで、本発明では、材料表面に存在する円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子について、その分布密度を4000個/mm以下に制限することによって、材料中に侵入する水素量を低減して、材料の耐水素脆性を高めている。
ここで晶出粒子のサイズを円相当径で1μm以上のものに限定した理由を説明する。通常、晶出粒子は鋳造プロセスの凝固時においては円相当径で約10μmのサイズで生成するが、引続いて行われる圧延加工等の製造プロセスの途中に加わる塑性加工によって細かく分断されてより細かい粒子となる。その結果、これらの晶出粒子の大部分は円相当径で1〜5μmのサイズとなり、1μm程度の細かい晶出粒子が最も多く、2μm、3μmと円相当径が大きくなるにつれてそれぞれのサイズの晶出粒子の数は指数関数的に減少する。円相当径で1μm未満のサイズの粒子も存在はするが、その数は相対的に少ない上に、そのような微細なものの水素侵入への寄与は小さいため、これを計数する必要はない。そこで、材料中存在割合が高く、水素侵入の影響を有すると考えられる円相当径で1μm以上の晶出粒子を制限することとした。尚、晶出粒子が水素侵入サイトとして機能するメカニズムより、より大きな晶出粒子から相対的に水素が侵入しやすくなるが、上述の通り粒子径が1μmより大きいもの(2μm、3μm)は、その粒子数が指数的関数的に減少する。そのため、サイズに応じた水素の侵入しやすさよりもその分布密度を重視し、1μm以上の晶出粒子数を基準とすることで、その材料固有の水素侵入のしやすさを評価し得るのである。
そして、円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子の分布密度について、4000個/mm以下としたのは、この分布密度以下とすることで水素の侵入経路となる晶出粒子の数が少ないといえるからであり、材料中に侵入する水素が少なく耐水素脆性が高くなる。一方、後述のように不純物であるFe、Si量が多く、晶出粒子の分布密度が4000個/mmを超える場合は、水素侵入経路となる晶出粒子数が多く、材料に侵入する水素が多くなるので、耐水素脆性は低くなる。
尚、晶出粒子の分布密度の測定方法は、以下のようにして行うことができる。最終工程を経たAl−Mg系合金について、実際に使用される場合に高圧水素ガスに暴露されることになる面を、通常の金属組織観察のための常法に従って、鏡面研磨仕上げした後、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチング後に金属組織観察用の顕微鏡で順光観察することにより、晶出粒子の分布密度を測定することが可能である。さらに具体的には、顕微鏡で100倍の倍率に設定して観察を行った場合、晶出粒子はマトリクスに対して暗いコントラストで黒点として認識することが可能である。本発明で規定したAl−Mg系合金の場合、この黒色粒子はほとんど全て晶出粒子であるので、円相当径で1μm以上のサイズの粒子を1視野ごとに計数して、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、分散粒子数(個/mm)を測定することができる。
以上の通り、本発明に係るAl−Mg系合金は、耐水素脆性改善に有用なCuの添加、及び、水素侵入経路となるAl−Fe−Si晶出粒子の分布密度の制限により、合金の耐水素脆性を向上させるものである。
但し、上記のように水素侵入量を制限しつつ、侵入した水素をCuにより世ラップした場合でも、非常に苛酷な環境でかつ高い応力が負荷されてより長期間にわたって材料を使用することを想定すると、材料中に侵入した極微量の水素によっても水素脆化を引き起こす可能性が残存する。これは、材料中に侵入した水素が拡散により移動して、材料中の結晶粒界に集積することよって、粒界割れが引き起こされるという水素脆化メカニズムの本質に由来する。
そこで、本願発明者等は、耐水素脆性の更なる改善のために鋭意検討を行った。その結果、本発明に係るAl−Mg系合金について、遷移元素であるMn及びCrの含有量を調整しつつ適切な製造プロセスを経て、マトリクス中にAl−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物を主成分として析出する分散粒子の分布密度を適切に制御することによって、より苛酷な使用環境においても耐水素脆性を確保できる高い耐水素脆性を得ることができることを見出した。このAl−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物を主成分とする分散粒子の分布密度を最適化することによる耐水素脆性向上メカニズムは、材料中に侵入した微量の水素を、これらの分散粒子によって捕捉(トラップ)させ、結果として結晶粒界に集積する水素量が実質的に減少することである。
Al合金において遷移元素であるMnとCrは、通常、Al−Mg系合金の結晶粒を微細化することを目的として添加されている。これに対し、本発明では、MnとCrの含有量調整の意義として、Al−Mg系合金の更なる苛酷な環境下での使用を想定し、耐水素脆性向上のための追加的方策として捉えるものである。本発明では、上記のAl−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物を主成分とする分散粒子の効果を得るためには、Mn量を0.02〜0.8%とし、Cr量を0.01〜0.2%の範囲として、さらにこれらの合計量について、0.05%≦Mn+Cr≦0.9%を満たす範囲に調整する。かかるMn、Crの含有量と後述する製造プロセスに準拠することによって、分散粒子の分布密度を後述する水準を満たすように制御することができる。
上記のMn、Crの含有量について、Mn量が0.02%未満及びCr量が0.01%未満の場合、又は、これらの合計量(Mn+Cr)が0.05%未満の場合は、分散粒子密度が不足しその更なる耐水素脆性向上効果を得ることができない。即ち、これらのMnとCrの含有量においては、1μm以上のAl−Fe−Si晶出粒子の分布密度を低減したことによる耐水素脆性向上の効果に止まる。但し、この状態も従来技術に比して耐水素脆性は優れている。
一方、Mn量が0.8%超及びCr量が0.2%超の場合、又は、これらの合計量(Mn+Cr)が0.9%超の場合は、Al−Fe−Si晶出粒子の分布密度を増大させ、耐水素脆性を低下させることとなる。これは、Mn量及びCr量がこれらの範囲を超える場合、余剰分のMn、CrはAl−Mn−Cr分散粒子の形成には消費されず、Al−Fe−Si晶出粒子に固溶することにより、これら晶出粒子の分布密度を増大させることとなる。これにより、増加した晶出粒子を侵入経路として侵入水素量が増加して、耐水素脆性が低下するのである。即ち、MnとCrの含有量が多すぎる場合、本発明が第一に意図した1μm以上のAl−Fe−Si晶出粒子の分布密度低減の効果までも失する。そのため、MnとCrの含有量は前記の上限値以下に調整する必要がある。
Al−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなる分散粒子の分布密度を適切に制御することにより耐水素脆性を高めることができる理由は、上記の通りである。即ち、マトリクス中に存在する分散粒子が、高圧水素ガス環境より晶出粒子を経路として侵入してきた水素原子を捕捉することにより、結晶粒界に集積する水素量を実質的に減少させるためである。
ここで、Al−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなる分散粒子のサイズを0.5μm以下に規定する理由を以下に述べる。分散粒子が水素を捕捉するメカニズムは、分散粒子とマトリクスとの界面において、互いの格子定数の違いに起因して格子ひずみが生じ、その界面の応力場が水素を捕捉するものである。この格子ひずみは分散粒子のサイズが小さいほど大きく、分散粒子のサイズが大きくなるにつれて、格子ひずみは小さくなっていき、同時に水素の捕捉効果も低下する。分散粒子の円相当径が0.5μm以下のサイズの場合には、分散粒子とマトリクス界面の格子ひずみが十分に大きく、分散粒子に実質的に水素を捕捉する能力がある。これに対して、分散粒子の円相当径が0.5μm超になった場合は、分散粒子とマトリクス界面の格子歪が小さくなり、分散粒子に水素を捕捉する能力が実質的になくなってしまう。このことから、分散粒子のサイズは0.5μm以下に規定される。
そして、円相当径で0.5μm以下の分散粒子の分布密度が100000個/mm以上の場合は、分散粒子により十分な量の水素を捕捉することが可能であるため、耐水素脆性が高い。これに対して円相当径で0.5μm以下の分散粒子の分布密度が100000個/μm未満の場合は、分散粒子数が少ないために水素を捕捉する能力が不十分であり、耐水素脆性が低く、材料を苛酷な環境で長期間にわたって使用するためには、信頼性が低い。
Al−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなる分散粒子の分布密度の測定は、以下の方法により実施することができる。最終工程を経たAl−Mg系合金について、任意の断面よりスライス状のサンプルを採取して、機械研磨により約10μm程度の薄膜状に加工した後、電解研磨により約300nm厚の透過型電子顕微鏡(TEM)観察用のサンプルを作製して、TEMにより10000倍の倍率で観察を行う。
本発明で規定された範囲内の合金であれば、上記の条件で結晶粒内のマトリクス中において観察される円相当径0.5μm以下のサイズの粒子(TEMの通常の明視野像では黒くコントラストがついて観察される粒子)のほとんど全ては、分散粒子であると考えて差し支えないが、念のため代表的な粒子に絞った電子線を照射して、放出されるX線のエネルギー分布を解析すること(TEM−EDX装置)により元素解析をして、分散粒子からMn・Crもしくは他に添加した遷移元素が検出されることを確認しておいても良い。分散粒子の分布密度の測定に関しては、例えば、10000倍の倍率で10視野の写真撮影をおこなって、各視野について円相当径0.5μm以下の分散粒子数を計測して、10視野分を合計した粒子を測定した総視野面積で割ることによって、分散粒子の分布密度を測定することが出来る。
本発明に係るAl−Mg系合金は、上述のように、Mg、Cu、Fe、Siを制御必須の成分元素とし、また、更なる耐水素脆性向上のためMn、Crを添加する。本発明は、これらの成分元素の以外に他の元素を添加制御しても良い。
Zr、Sc、V、Niの遷移元素は、Mn、Crと同様に、各元素を主成分とする微細な分散粒子をマトリクス中に形成して、結晶粒の微細化及び高温での結晶粒の安定化に寄与すると同時に、材料中に侵入した水素を捕捉することによって、耐水素脆性向上にも付加的に寄与する。このため、さらに水素脆化感受性を高めたい場合は、これらの元素のうちの1種又は2種以上を添加しても良い。
Zr、Sc、V、Niの1種又は2種以上を添加する場合、Zr:0.01〜0.3%、Sc:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.3%、Ni:0.02〜0.3%とするのが好ましい。いずれの元素についても規定量未満の場合は、添加量が不十分なために、上記の効果が十分に得られない。一方、いずれの元素も規定量を超えて添加された場合は、これらの元素を主成分とする晶出粒子が多量に生成して水素侵入サイトとなり、侵入する水素量が増大するため、却って耐水素脆性が低下してしまう。
また、Ti及びBは、合金製造工程のうちの鋳造工程において、鋳塊組織を微細にするために添加される。これらについては、Ti添加量を0.01〜0.15%として単独添加するか、あるいは0.001〜0.05%のBと共添加することにより結晶粒微細化効果が得られる。ここで、Ti単独添加においても鋳塊組織を微細化するが、TiとBを共添加することでより効果的に結晶粒微細化される。Ti量が0.01%未満の場合は、鋳塊組織を微細にする効果が得られない。同様にBが0.0001%未満の場合にも、鋳塊を微細にする効果は得られない。またTi量が0.15%を超えると、鋳造時にAl−Tiからなる粗大な化合物が晶出し、材料の延性が大幅に低下する。さらにBが0.05%を超えると鋳造時にTi−Bからなる粗大な化合物が晶出し、材料の延性ならびに靭性が大幅に低下してしまう。
尚、以上の添加元素の他、耐食性等を向上させることを目的として微量のZnを添加することもある。本発明では1.0%未満の添加量であれば特に所期の目的を損なうことなく添加することが可能である。
次に、本発明に係るAl−Mg系合金の製造方法について説明する。本発明のAl−Mg系合金材は、一部の製造工程における条件を除いて、基本的に通常のアルミニウム合金材の製造方法に従って製造することができる。即ち、常法に準じて溶解鋳造したアルミニウム合金鋳塊について、均質化処理を行った後に、熱間加工を行ってから、必要に応じて冷間加工、成形加工、焼鈍を適宜組み合わせて、最終的に板・押出材・各種鍛造品のような中間品の形で、耐水素脆性に優れるAl−Mg系合金素材として製品とする。また、さらに加工や熱処理を適宜行い、高圧水素ガスタンクライナーやその口金等の最終形状まで仕上げて製品としても良い。以下、本発明に係るAl−Mg系合金の製造工程について、本発明で規定したミクロ組織の形成に関与する製造プロセスについて詳しく述べつつ説明する。
溶解鋳造工程では、本発明の成分範囲内に溶解調整されたAl−Mg系合金溶湯を半連続鋳造法(DC鋳造法、ホットトップ鋳造法)や連続圧延鋳造法等の通常の方法によって鋳造して、鋳塊を製造する。この鋳造時の凝固の際に、晶出粒子が生成してマトリクス中に分布するが、前記の一般的な鋳造法を採用して鋳造を行う場合、晶出粒子の分布状態を本発明で規定する範囲にするため、鋳造工程における鋳塊の凝固時の冷却速度が、0.1℃/sec以上にすることが好ましい。凝固時の冷却速度が0.1℃/sec未満では、粗大な晶出粒子が増加して、晶出粒子の分布密度が本発明の範囲から外れる場合があるからである。凝固鋳造後は、その後に行われる熱間加工に備えて、必要に応じて鋳塊表面の鋳肌を削り取る面削を行っても良い。
次に、Al−Mn−Cr化合物を主成分とする分散粒子を好適なサイズ及び分布密度で析出させることを目的として均質化処理を行う。また、均質化処理はこれと同時に、鋳塊組織中の結晶粒内における偏析を解消し、鋳造後の冷却時に析出した粗大な析出物を固溶させ、材料の機械的特性を向上させる効果もある。
そして、分散粒子を最適なサイズ・分布密度で析出させるため、均質化処理は、450〜530℃の温度範囲から保持温度を適宜選択して、1〜10時間の保持で行うことが好ましい。均質化処理の保持温度が450℃未満では、分散粒子の析出に時間を要し、必要な分布密度を確保することができない。一方、均質化処理の保持温度が530℃を超えると、分散粒子のサイズが粗大となり、一部の分散粒子の円相当径が0.5μmを超えて水素を捕獲する機能が低下するとともに、円相当径0.5μm以内の分散粒子の分布密度が規定値未満となり、全体的に分散粒子が捕獲する水素量が低下して、耐水素脆性が低下してしまう。また、保持時間が1時間未満では、分散粒子の析出が不十分であり、必要な分布密度を確保することが出来ない。また保持時間が10時間を超えると、一部の分散粒子の円相当径が0.5μmを超えて水素を捕獲する機能が低下するとともに、円相当径0.5μm以内の分散粒子の分布密度が規定値未満となり、全体的に分散粒子が捕獲する水素量が低下して、耐水素脆性が低下してしまう。
均質化処理後、一旦室温まで冷却してから再度熱間加工温度まで加熱するか、もしくは均質化処理温度から、直接、熱間加工温度まで温度を調整した後、熱間加工を行う。この熱間加工は、例えば板を製造する場合は熱間圧延であり、押出材を製造する場合は熱間押出であり、鍛造材を製造する場合は熱間鍛造というように、素材を加熱した状態で行う種々の加工方法を含む。
熱間加工の後、最終製品の形状により精度良く近づけるために、さらに冷間加工が行われる。この冷間加工は、例えば板を製造する場合は冷間圧延であり、押出材を製造する場合は冷間引き抜きであり、鍛造材を製造する場合は冷間鍛造というように、素材を室温の状態で行う種々の加工方法を含む。
上記の熱間加工後または、冷間加工の途中、冷間加工が終了した後などに、1回または複数回の焼鈍を行っても良い。焼鈍は、材料を所定の温度に一定時間加熱することにより、材料に導入された加工ひずみを除去して、材料の強度・延性バランスを最適に調整するために行われる。
尚、上記製造工程に追加して行われる成形加工・熱処理プロセスについては、本発明で規定したミクロ組織形態に影響しない範囲であれば全て許容されるものである。また、例えば、高圧水素ガスタンクのライナー形状に成形加工する工程も、基本的に上記の熱間加工・冷間加工・焼鈍を適宜組み合わせることによって行われるものである。
以上説明したいように、本発明に係るAl−Mg系合金は、成分元素の組成範囲とミクロ組織の最適化によって、耐水素脆性が高められており、非常に高圧の水素ガス中においての長期間の使用に対する信頼性を高めることが出来る。
尚、本発明では、Al−Mg系合金の耐水素脆性を高めるために上述の最適成分組成としたが、その理由は、水素脆化のメカニズムに基づいて、材料のミクロ組織(晶出粒子分布及び分散粒子分布)を最適に制御するためである。基本的に上述の成分範囲に合金成分を調整し、かつ上述の製造プロセスに従って材料を製造した場合は、このミクロ組織に関する規定から外れる可能性は少ないが、このミクロ組織の関する規定を外れてしまった場合、高い耐水素脆性を有することは期待できず本発明の範囲外となる。
SSRT試験用の試験片形状を説明する図。
以下、本発明の実施形態について、実施例を比較例と共に記す。表1に示す組成に調整した各種Al−Mg系合金を溶解して、DC鋳造法により鋳造して厚み80mm×幅200mm×長さ800mmサイズの鋳塊を得た。この鋳塊の凝固時の冷却速度は3℃/secとした。これらの鋳造塊を500℃の加熱保持温度に加熱して、7時間保持する均質化処理を行った後、厚み方向について上下面各5mm、幅方向について左右各5mmの厚みで面削を行った。これらのサンプルを480℃に加熱保持したのち、熱間圧延を行い、板厚4mmとした。さらに冷間圧延を行い板厚1.2mmとした。その後、この冷間圧延板を500℃に加熱して1min保持することにより、完全再結晶組織とした後、100℃/minの冷却速度で室温まで冷却した。
Figure 2014009398
以上のようにして得た焼鈍板材について、以下に記載する条件で鋭敏化処理を行った。まず、1.2mm厚の焼鈍板材について板厚1.0mmまで冷間圧延を行ってひずみを導入した後、これを130℃×100時間の条件で熱処理を行った。この鋭敏化処理は、Al−Mg系合金を意図的に水素脆化しやすい状態にするための処理で、これによって、引き続き行う湿度制御環境中での低ひずみ速度引張り試験(SSRT試験:Slow
Strain Rate Tensile試験) により、材料毎の耐水素脆性の違いをより明確に区別できるようになる。この鋭敏化処理後の材料について、以下の方法にてミクロ組織評価(晶出粒子及び分散粒子の分布密度測定)を行い、更に、耐水素脆性の評価試験を行った。
晶出粒子の分布密度測定
各供試材の圧延面表面を金属組織観察法の常法に従って鏡面研磨仕上げした後、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチング後に金属組織観察用の顕微鏡にて、100倍の設定で順光観察して、任意の10視野について写真撮影を行った。円相当径で1μm以上のサイズの分散粒子を1視野ごとに計数して、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、分散粒子数(個/mm)を測定した。
分散粒子の分布密度測定
各供試材より、圧延方向断面が観察面となるようにTEM観察のためのサンプルを採取して、機械研磨により約10μm程度の薄膜状に加工した後、電解研磨により約300nm厚のTEM観察用のサンプルを作製して、TEMにより10000倍の倍率で観察を行った。観察された円相当径0.5μm以下のサイズの粒子(TEMの通常の明視野像では黒くコントラストがついて観察される粒子)のうちいくつかの粒子について、TEM−EDX装置により絞った電子線を照射して、放出されるX線のエネルギー分布を解析して元素解析をして、分散粒子からMn、Cr(他の添加遷移元素がある合金の場合、当該他の遷移元素も含む)が検出されることを確認した後、10視野の写真撮影をおこなって、各視野について円相当径0.5μm以下の分散粒子数を計測して、10視野分を合計した粒子を測定した総視野面積で割ることによって、分散粒子の分布密度を測定した。
耐水素脆性評価試験
各種のAl−Mg系合金の耐水素脆性を評価する試験として、湿度制御環境中でのSSRT試験を行った。SSRT試験では、試験雰囲気湿度を制御した環境中にて、アルミニウム合金材を低ひずみ速度で破断するまで引張変形する試験であって、引張変形中に連続的に露出するアルミニウム合金新生面と試験雰囲気中の水蒸気が試験片表面で反応して、この反応に伴い水素が発生してその一部が材料中に侵入する。SSRT試験において試験湿度を高く設定すると、前記反応で発生する水素が増えて、高圧の水素ガス環境を簡便に模擬することができる。一方、試験湿度を非常に低く設定すると、前記反応で発生する水素が少なくなって、材料中に侵入する水素がほとんど無くなるので、水素脆化の影響の無い材料そのものの延性を評価することができる。
ここでは、各供試材より図1に示す形状のSSRT試験用の試験片を、引張方向が圧延直角方向となるように作製して、以下で説明する条件のSSRT試験に供した。SSRT試験では、一定のクロスヘッド速度0.001mm/min(初期ひずみ速度1.39×10−6/s)で試験片が破断するまで引張変形を付与し、試験雰囲気の湿度は、高圧水素ガス環境を模擬した相対湿度90%(以下、「RH90%」と略記)雰囲気、および水素の影響を受けない乾燥窒素ガス(以下、「DNG」と略記)雰囲気の2種類とした。これら2種各々の雰囲気中での材料の破断伸びを、εRH90%およびεDNGと表記して、各材料の水素脆化しやすさ、即ち、「水素脆化感受性指数」を下記の式で定義した。水素脆化感受性指数は、DNG環境中の伸びを基準とした場合の、高圧水素ガス模擬環境(RH90%)中における低下の度合いを示すものである。
Figure 2014009398
水素脆化感受性指数は、全く水素の影響をうけず脆化しない場合は「0」の値をとり、RH90%中で非常に顕著な脆性を示して延性が無くなった場合に「1」の値をとり、中程度の脆性を示す場合に0から1の間の値を示す。尚、本実施形態における水素脆化感受性指数の値は、上述のように、供試材間の耐水素脆性の違いを明確化するために、敢えて供試材に予め水素脆化しやすくなるよう鋭敏化処理を行った材料についての結果である。よって、本実施形態における評価結果は、各材料の耐水素脆性の相対的な比較を示すものであって、各材料の高圧水素ガス容器等の用途での実使用の可否を直接的に示すものではない。
本実施形態で製造したAl−Mg系合金(合金No.1〜21)についての、ミクロ組織評価、SSRT試験結果から得られた水素脆化感受性の値について表2に示す。
Figure 2014009398
表2を参照しつつ評価結果について述べる。まず、実施例である合金No.5と、比較例である合金No.16、No.17、No.18の評価結果を比較しつつ、不純物であるFe、Si量及びAl−Fe−Si晶出粒子の分布密度と耐水素脆化性との関係について検討する。本発明例のNo.5は、不純物であるFe、Si量がいずれも本発明の範囲内であり、晶出粒子の分布密度が本発明で規定する範囲内となっている。よって、水素脆化感受性指数が比較的低めであり、比較的高い耐水素脆性を有している。
これに対し、比較例であるNo.16、No.17、No.18は、不純物であるFe又はSi、若しくはその双方が本発明で規制する量よりも多い。このため、晶出粒子の分布密度が本発明で規定する範囲よりも高い。よって、水素脆化感受性指数が高めであり、耐水素脆性が低くなることが確認できた。
同様に、実施例であるNo.1、No.2、No.3、No.4は、いずれも不純物Fe、Si量が本発明の範囲内であり、晶出粒子の分布密度が本発明で規定する範囲内である。よって水素脆化感受性が比較的低めであり、比較的高い耐水素脆性を有している。
また、不純物であるFe、Siに加えて必須の制御成分であるMg、Cu量の影響についてみると、比較例のNo.12は、Mg量が本発明の規定よりも多い。このため熱間圧延中に割れが発生して、評価サンプルを作製することができず、以降の評価試験を中止した。また、比較例のNo.13は、Mg量が本発明の規定よりも少ない。このため本合金はもともと水素脆化感受性が低く、高い耐水素脆性を有している。
比較例のNo.14は、Cu量が本発明の規定よりも少ない。このため本合金は、Fe及びSi量が本発明の規定の範囲内で、晶出粒子の分布密度が本発明の規定の範囲内であるにも関らず、水素脆化感受性が比較的高めであり、耐水素脆性は比較的低くなることがわかる。そして、比較例のNo.15は、Cu量が多いため、水素脆化感受性が低く耐水素脆性が高かった。但し、Cu量が多すぎ耐食性が劣ることが明らかであり、実用的ではないと推察される。
次に、Mn、Cr量及びAl−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなる分散粒子の分布密度と耐水素脆化性との関係について検討する。実施例であるNo.6、No.7、No.8、No.9の合金は、Fe、Si量が本発明の範囲内であることに加えて、Mn、Cr量及びその合計量が本発明の範囲内にある。その結果、分散粒子の分布密度が本発明の規定の範囲内である。そして、水素脆化感受性指数が低く耐水素脆性が高い。特に、合金No.5のMn、Crを含まないものよりも水素脆化感受性指数が更に低くなっておりことから、より高い耐水素脆性を有することがわかる。
また、比較例のNo.19、No.20は、それぞれMn、Cr量が本発明で規定される量よりも多い。既に説明したように、Mn、Cr量が好適な範囲を超える場合、余剰分のMn、Crが晶出粒子に固溶し晶出粒子の分布密度を増大させることとなる。このことは表2の結果からも確認することができ、水素脆化感受性が比較的高めであり、耐水素脆性は比較的低めとなっている。
更に、Mn、Cr以外の遷移元素添加の作用について検討すると、実施例のNo.10、No.11は、いずれも不純物Fe・Si量が本発明の範囲内であり、規定範囲内のMn、Crが添加されると共に、他の遷移元素が適宜添加されたものである。これらの合金も水素脆化感受性が低く、耐水素脆性が高い。
尚、Mn、Cr及びの遷移元素の添加については、必須ではないことが実施例のNo.2、No.4、No.5の合金が水素脆化感受性が低く、耐水素脆性が高いことから確認できる。このことは、No.1のようにMn、Crを添加しつつもその合計濃度が不足するものの、水素脆化感受性が低く、耐水素脆性が高いことからも確認できる。即ち、Mn、Crは添加しなくとも良いが、添加する場合その添加量を上限以下に管理することが重要である。
本発明に係るAl−Mg系合金は、組成範囲及びミクロ組織(晶出粒子、分散粒子の分布密度)の最適化によって、耐水素脆性を高めたものであり、非常に高圧の水素ガス中においての長期間の使用に対する信頼性を高めることが出来る。本発明に係るAl−Mg系合金は、熱処理を行わなくても比較的高い強度が得られる非熱処理型のアルミニウム合金であり成形性、接合性にも優れる。本発明は、燃料電池自動車に搭載される高圧水素ガス容器用の部材のように、高圧水素ガス環境に暴露されると同時に荷重が負荷された状態で長時間用いられる部材の構成材料として有用である。

Claims (4)

  1. 質量%で、Mg:3.0〜6.0%、Cu:0.03〜1.0%を含有し、かつ不純物であるFe及びSiの含有量が、Fe:0.15%未満、及び、Si:0.15%未満に制限され、残部Alと不可避不純物からなる耐水素脆性に優れた高圧水素ガス用のAl−Mg系合金であって、
    Al−Fe−Si化合物からなり、円相当径で1μm以上のサイズを有する晶出粒子の分布密度が4000個/mm以下であるAl−Mg系合金材。
  2. 質量%でMn:0.02〜0.8%、Cr:0.01〜0.2%のうちの1種又は2種を、0.05%≦Mn+Cr≦0.9%を満たす範囲で含有し、
    Al−Mn化合物又はAl−Mn−Cr化合物からなり、円相当径0.5μm以下のサイズを有する分散粒子の分布密度が100000個/mm以上である請求項1記載の高圧水素ガス用のAl−Mg系合金材。
  3. 更に、質量%でZr:0.01〜0.3%、Sc:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.3%、Ni:0.02〜0.3%のうち1種または2種以上を含有する請求項1又は請求項2記載の高圧水素ガス用のAl−Mg系合金材。
  4. 更に、質量%でTi:0.01〜0.15%を含有するか、又は、Ti:0.01〜0.15%及びB:0.0001〜0.05%を含有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載の高圧水素ガス用のAl−Mg系合金材
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