JP6274727B2 - 高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材 - Google Patents

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Description

本発明は、Mg(マグネシウム)を含有するアルミニウム合金材(以下、「Al−Mg合金材」と記す)に関するものであり、特に、燃料電池自動車等に搭載される高圧水素ガス容器用の部材をはじめとして、非常に高い圧力の水素ガス環境に直接暴露され、かつ同時に荷重が負荷される状態で長時間用いられる部材に適用できる、高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材に関するものである。
CO排出量規制を背景として、水素エネルギーを利用する燃料電池自動車の開発・実用化が進められ、すでに一部で市販車が公道を走行している。この燃料電池自動車には、燃料となる水素ガスを貯蔵するための高圧水素ガスタンクが搭載される。車載用高圧水素ガスタンクは、燃費性能を高めるために軽量に設計されることが必要とされ、アルミニウム合金製または樹脂製のライナーの周囲に炭素繊維強化樹脂(CFRP)を巻きつけた構造が採用されている。このうちアルミニウム合金は、樹脂に比べて高圧水素ガスに対する気密性に優れ、水素ガスを充填後に長時間保持しても水素ガスの遺漏がほとんど無いため、ライナー素材として好適であるとされている。
この高圧水素ガスタンクでは、1回の充填での航続距離を高めるために、最低でも350気圧、高い方では700気圧もの極めて高いガス圧力で水素の充填が行われるのが標準仕様となりつつあり、今後さらに高圧化することが予測される。前述のように、高圧水素ガスタンクでは、ライナーが直接高圧水素ガスと接触して、高圧水素ガスを気密保持する構造となっている。アルミニウム合金は気密保持性に優れるが、タンクに長期間使用すると微量であるが水素がアルミニウム合金中に侵入して、アルミニウム合金に対して水素脆化を引き起こす場合がある。水素脆化は、鉄鋼・アルミニウム合金をはじめとして多くの金属材料で生じることが知られている現象であり、材料の使用環境中において、徐々に材料内部に水素が侵入して材料の結晶粒界等において脆性的な割れを引き起こすことにより、想定された寿命よりも短い期間で材料が破壊してしまう現象である。
この高圧水素ガスタンクのライナー材のような高圧の水素ガス環境中において、高圧充填による一定の応力が負荷された状況で長期間使用されるという比較的新しいアルミニウム合金の用途に対して、これまでに以下のような各種のアルミニウム合金が開発されている。
特許文献1および特許文献2には、耐水素脆性に優れるAl−Mg−Si系合金(6000系アルミニウム合金)に関する技術が開示されている。また、特許文献3には、Al−Cu系合金(2000系アルミニウム合金)に関する技術、特許文献4にはAl−Zn−Mg系合金(7000系アルミニウム合金)に関する技術がそれぞれ開示されている。
これらの合金は、各種のアルミニウム合金の中では熱処理型アルミニウム合金に分類され、適切な熱処理を行うことによって材料の強度を高めることができる。ここで、適切な熱処理とは、Al−Mg−Si系合金の場合、ライナー形状に加工した後、主要な構成元素であるMgとSiをマトリクス中に固溶するために500℃程度の高温に加熱し(溶体化処理)、ライナーを水中に投入するなどして急冷(水焼入れ)した後、さらに150〜200℃の適切な温度で数時間人工時効して、マトリクス中に固溶されたMg及びSiをMgSi析出物としてマトリクス中に均一微細に析出させる一連の熱処理をいう。この人工時効条件を最適化することによって材料強度を効果的に高めることができる。
このような熱処理型のアルミニウム合金をライナー材として用いて材料強度を高めることにより、このライナーの周囲に巻きつけられたCFRP層の強度負担率を低減することができ、CFRPの使用量を減らして高圧水素ガスタンクの製造コストを低減できるメリットがある。しかし、ライナーの形状に加工してから、このような熱処理を行う必要があるため、溶体化処理後の水焼入れ等による急冷の際に、ライナーの各部位で冷却速度にばらつきが生じて、ライナーに熱ひずみが生じて変形してしまうという課題があった。また、形状に問題がない場合でも焼入れ時の冷却速度の部位ごとの相違によって、人工時効後の強度にライナー内でばらつきが生じて、設計よりも短寿命で疲労破壊してしまうという課題があった。
また、高圧水素ガスタンクには、水素ガスステーションで用いられる定置式のタンクもあるが、この場合は5m程度の長尺のタンクが用いられることがあるため、ライナーの寸法も長尺となり、車載型のタンクの場合に比べてさらに熱処理(特に焼入れ)を行うことが技術的および設備的に困難になるという課題があった。
一方、アルミニウム合金の中には、前述した熱処理型のアルミニウム合金とは異なり、前記のような熱処理を行わなくても比較的高い強度が得られる非熱処理型の合金がある。この代表的なものがAl−Mg系合金であり、MgがAlマトリクス中に固溶することにより、質量%で3%以上Mgを含有する場合には、固溶強化により特別な熱処理を行わなくても、中程度の強度を得ることが出来る。また、このAl−Mg系合金は成形性や接合性にも優れることから、ライナーの成形、加工、接合に種々の方法、技術を適用することが出来るという利点もある。
特開2009−24225号公報 特開2011−214149号公報 特開2009−197249号公報 特開2009−221566号公報
前述のように、Al−Mg系合金を用いれば、強度は中程度であるものの、成形、加工後に特別な熱処理を行う必要がなくなり、タンクの製造工程が簡略化できる。またライナーの成形、加工、接合においても、Al−Mg系合金の優れた成形性、接合性がより簡略なタンク製造プロセスの実現に有効である。
しかしながら、一般的に用いられているAl−Mg系合金材をそのまま素材として高圧水素ガスタンクを製造した場合、非常に高圧の水素ガス環境中で、しかも荷重が負荷された状態でAl−Mg合金材が長期間使用されることになり、水素脆化を生じる可能性があることが判明した。
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、高圧水素ガスタンクのライナーをはじめとする高圧水素ガス環境中において、荷重が負荷された状態で長期間使用される部材に適用できる、高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、Al−Mg合金圧延板素材の耐水素脆性について鋭意検討した結果、以下の(1)〜(3)の知見を得た。
(1)高圧水素ガス雰囲気中において、脆化の原因となる水素が材料中に侵入して結晶粒界に集積して脆化を引き起こすという水素脆化のメカニズムに着目した結果、耐水素脆性に対しては、結晶粒内にβ相と呼ばれるMgとAlよりなる析出物(MgAl)を十分に析出させることが有効であること。
(2)高圧ガス中からアルミニウム合金材料中への侵入経路に着目した結果、Al−Mg系合金の材料表面に存在する主にAl−Fe−Siからなる晶出物上で水素ガスが原子状水素に乖離(H→2H)した後、この原子状水素がこの晶出物中を経路として、材料内部へと侵入して内部へ拡散していくことにより、水素脆化が生じ易くなると考えられること。
(3)合金成分としてさらにCuを適量添加することが、耐水素脆性に対して有効であること。
本発明者らは、前記(1)〜(3)の知見に基づき、Al−Mg合金材の成分元素の組成範囲、製造プロセス及びミクロ組織の適正化を検討することによって本発明を完成させるに至った。具体的な解決手段は以下の通りである。
本発明の一形態の高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材は、質量%でMg:3.0〜6.0%を含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物よりなるAl−Mg合金材であって、結晶粒内にβ相のMg Al が含有され、水素脆化感受性指数が0.2未満であることを特徴とする。
また、質量%で不純物Fe量を0.15%未満および不純物Si量を0.15%未満に制限し、かつ合金組織において、円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子の分布密度が4000個/mm以下とすることが好ましい。
さらに、質量%でCu:0.03〜1.0%を含有することが好ましい。
さらに、質量%でMn:0.02〜0.8%、Cr:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.3%、Sc:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.3%、Ni:0.02〜0.3%のうち1種または2種以上を含有することが好ましい。
また、本発明の他の形態は、AlおよびMgを溶解し、Mgを質量%で3.0〜6.0%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物よりなるAl−Mg合金溶湯を鋳造する溶解・鋳造工程と、450〜530℃の温度域で1〜10時間保持する均質化処理工程と、所定の熱間圧延温度で前記Al−Mg合金材を所定の厚みに圧延する熱間圧延工程とを有するAl−Mg合金材の製造方法において、前記熱間圧延工程の前または途中または後に、さらに、400℃以上の温度で保持する溶体化処理工程と、200〜300℃の温度域で1時間以上保持する安定化処理工程とを含む。また、熱間圧延後に更に精度のある最終板厚とするために冷間圧延(さらに必要とされる中間焼鈍)を施す場合は、冷間圧延後に連続焼鈍炉により400℃以上の温度で1分間以下の熱処理を行って溶体化処理工程とし、その後上記と同じ条件で安定化処理することもできる。
前記熱間圧延工程の前において、前記熱間圧延温度にまで加熱する加熱段階にて前記溶体化処理工程を併せて行い、前記熱間圧延終了後の冷却段階において前記安定化処理工程を併せて行うこともできる。
本発明によれば、成分元素の組成範囲、製造プロセス及びミクロ組織の適正化によって、耐水素脆性を高めることが可能になる。このため、本発明によるAl−Mg合金材を素材として成形・加工を行い、高圧水素ガスタンク等の非常に高圧の水素ガス環境中で用いられる部材を製造することにより、高い耐水素脆性を安定して維持することが可能となり、部材の長期間の使用に対する信頼性を高めることが出来る。
実施例のSSRT試験で用いた試験片の形状を示す概略図である。
以下、本発明の高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材について詳細に説明する。
(製造プロセス及びミクロ組織の適正化)
本発明では、前記知見(1)に基づき、Al−Mg合金材の製造に際して、400℃以上の温度域に加熱保持する溶体化処理を行って一旦MgをAlマトリックス中に固溶させ、その後、200〜300℃の温度に1時間以上保持する安定化処理を行うことによって、結晶粒内のβ相を十分に析出させる。このように十分に析出させたβ相によって、侵入水素が捕捉(トラップ)され、侵入水素が結晶粒界に集積することを妨げ、耐水素脆性が高まるものと推定される。なお、このようなAl−Mg合金材における溶体化処理とその後の安定化処理にともなうβ相の析出は、2000系合金・6000系合金・7000系合金のような熱処理型合金での溶体化処理・焼入れ後の時効析出とは異なり、β相が析出しても合金材の強度や延性において、Mgが固溶した状態から実質的にほとんど違いがないものである。
(組成範囲及びミクロ組織の適正化)
また、前記知見(2)に基づき、晶出物の主要な構成元素である不純物Fe及びSiの量を通常標準的に用いられる材料のレベルよりも低くなるようにそれぞれ質量%で0.15%未満に制限することが好ましい。これにより、Al−Mg系合金の材料表面に存在する主にAl−Fe−Siからなる晶出物の量を減少させ、侵入経路を減少させて侵入水素量を低減することにより、結果として材料の耐水素脆性を向上させることが可能になるものと考えられる。
さらに、前記知見(3)に基づき、合金成分としてCuを質量%で0.03〜1.0%添加することが好ましい。添加されたCuは、結晶粒内のマトリクス中に固溶元素として存在するため、上記のβ相の場合と同様に、侵入水素をトラップして、侵入水素が結晶粒界に集積することを妨げることにより、水素脆化が生じにくくなるものと推定される。
以上のように製造プロセスにおいて溶体化処理とその後に安定化処理を行いβ相の析出状態を制御することに加えて、合金成分を適正化することによってAl−Mg合金材の耐水素脆性を高めて安定な状態にすることができる。このようなAl−Mg合金材を素材として、これに各種の加工、熱処理を加えて高圧水素ガスタンク用等の部材とした場合、使用環境下において比較的高い耐水素脆性が安定して維持され、非常に高圧の水素ガス環境という特殊状況においても長期間の安全な使用が可能となる。
[合金材の化学成分組成]
次に、本発明の耐水素脆性に優れたAl−Mg合金材の化学成分組成について、各元素の限定理由を含めて説明する。
(Mg)
Mgは、Al−Mg系合金を構成する主要元素である。MgはAlマトリクス中に固溶して、固溶強化によって材料強度を高める役割を果たす。また、この固溶強化に伴って、材料の加工硬化性(n値)が増大し、Mg量が増大するにつれて材料の延性・成形性が高まる利点がある。Mgの添加量は、質量%で、3.0〜6.0%、好ましくは4.0〜5.5%とする。Mg量が3.0%未満ではMg量が実質的に少ないため、固溶強化による強度上昇が少なく、かつ延性・成形性が十分でない。このため、高圧水素ガスタンク等の部材として用いるには不適となる。また、Mg量が6.0%を超えるとAl−Mg系合金の熱間加工性が大幅に低下して、実質的に材料を製造することが困難となる。
(Fe、Si)
FeとSiは、Al−Mg合金圧延板を製造する上で、原料として使用するアルミニウムインゴット中に不純物元素として含まれているのが通常である。また、近年はアルミニウム飲料缶の使用量が増加し、これに伴いリサイクルされるアルミニウム飲料缶も増加しており、これらの飲料缶を再溶解して原料の一部として用いる場合には、原料コストは低減されるものの、これらの不純物Fe及びSi量は増加してしまう。
このような事情によりFe及びSiは材料中に含有される量が左右される不純物元素であるが、質量%でFe量を0.15%未満及び不純物Si量を0.15%未満に制限することが好ましい。Fe及びSi量をそれぞれ0.15%未満とすることにより、Al−Mg系合金を溶解・鋳造する際の凝固過程においてAl−Fe−Siからなる晶出物がマトリックス中に生成することを抑制して、高圧水素ガス環境中で材料を使用中に、この晶出物を経路として水素が材料中に侵入することを抑制することができると考えられる。
(Cu)
Cuは、Alマトリクス中に固溶元素として存在し、強度向上・成形性向上に寄与する。また、Cuは、Al−Mg系合金の耐水素脆性を向上させる効果がある。さらに、材料中に侵入した微量の水素をCu原子が捕捉(トラップ)して、結晶粒界に集積する水素量を実質的に減少させることにより、耐水素脆性を向上させると推定される。Cuの添加量は、質量%で0.03〜1.0%、好ましくは0.05〜0.5%とする。Cu添加量が0.03%未満では、マトリクス中に固溶しているCu原子の絶対量が、侵入してくる水素量に比べて少ないため、実質的に耐水素脆性を向上させる効果が認められなくなってしまう。Cuが1.0%を超えると、材料の耐食性が低下して、高圧水素ガス環境に接する部分は問題ないが、外部環境に露出して使用される部分において材料の腐食が問題となる。
(Mn、Cr、Zr、Sc、V、Ni)
通常遷移元素であるMn、Cr、Zr、Sc、V、Niは、Al−Mg系合金の結晶粒を微細化して、高温での保持に対して安定化させる役割を果たす。添加量としては、質量%で、Mn:0.02〜0.8%、Cr:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.3%、Sc:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.3%、Ni:0.02〜0.3%の範囲とすることが好ましい。これらの元素のうちの1種または2種以上を適量添加すれば前記の効果が得られる。いずれの元素も規定量未満の場合は、添加量が不十分なために、これらの効果が十分に得られない。一方、いずれの元素も規定量を超えて添加された場合は、これらの元素を主成分とする晶出粒子が多量に生成して、これらの水素侵入サイトを経由して侵入する水素量が増大するため、耐水素脆性が低下してしまう。
(その他の元素)
TiおよびBは、製造プロセスにおける鋳造時に、鋳固組織を微細にする役割を果たす。Tiは、質量%で0.01〜0.15%だけ単独添加するか、あるいは質量%で0.0001〜0.05%のBと共に添加することにより結晶粒微細化効果が得られる。Ti量が0.01%未満の場合は、鋳塊組織を微細にする効果が得られない。また、同様にBが0.0001%未満の場合にも、鋳塊を微細にする効果は得られない。一方、Ti量が0.15%を超えると、鋳造時にAl−Tiからなる粗大な化合物が晶出し、材料の延性が大幅に低下する。さらに、Bが0.05%を超えると鋳造時にTi−Bからなる粗大な化合物が晶出し、材料の延性ならびに靭性が大幅に低下してしまう。
また、耐食性等を向上させることを目的として微量のZnを添加することもできる。Znは、質量%で1.0%未満の添加量であれば特に所期の目的を損なうことなく添加することが可能である。
本発明のAl−Mg系合金材で規定される元素は以上の通りであるが、不可避的不純物として0.05%以下を含有してもよい。
[Al−Mg合金材の製造方法]
以下、本発明のAl−Mg合金材の製造方法について説明する。本発明のAl−Mg合金材は、基本的に、通常のアルミニウム合金圧延板の製造方法に従って製造することができる。即ち、通常は、常法に準じて溶解鋳造したアルミニウム合金鋳塊について、均質化処理を行った後に、熱間圧延を行い、その後必要に応じて冷間圧延を行い最終板厚まで圧延し、必要に応じて冷間圧延の前後または途中に中間焼鈍を行ってAl−Mg合金圧延板が製造されるが、この製造プロセスの途中において、適宜溶体化処理を行い、その後に安定化処理を行う必要がある。以下で、主要な製造プロセス毎に詳述する。
(溶解、鋳造)
前述した化学成分組成の範囲内に溶解調整されたAl−Mg合金溶湯を半連続鋳造法(DC鋳造法、ホットトップ鋳造法)や連続圧延鋳造法等の通常の方法によって鋳造して、鋳塊を製造する。この鋳造時の凝固の際に、晶出物が生成してマトリクス中に分布するが、ここに挙げた一般的な鋳造法を採用して鋳造を行う場合、鋳造工程における鋳塊の凝固時の冷却速度が、0.1℃/sec以上にすることが好ましい。凝固時の冷却速度が0.1℃/sec未満では、粗大な晶出粒子が増加して、晶出粒子の分布密度が本発明で規定する範囲から外れる場合があるからである。鋳造後は、引続き行われる熱間圧延に備えて、必要に応じて鋳塊表面の鋳肌を削り取る面削を行う。
(均質化処理)
次に、Mn、Cr、Zr、Sc、V、Ni等を主成分とする分散粒子を最適なサイズ・分布密度で析出させることを目的として均質化処理を行う。分散粒子を最適なサイズ、分布密度で析出させる目的から、均質化処理は450〜530℃の温度範囲から適宜保持温度を選択して1〜10時間保持することで行われる。均質化処理の保持温度が450℃未満では、分散粒子の析出に時間を要し、適切なサイズで分布した分散粒子が得られず、高温での結晶粒の安定性が低下する。一方、均質化処理の保持温度が530℃を超えると、分散粒子のサイズが粗大になりすぎ、同様に高温での結晶粒の安定性が低下する。また、時間においては、1時間未満だと分散粒子が得られず、10時間以上保持をしても効果は変わらないばかりでなく、コストに影響する。
(熱間圧延)
均質化処理後、一旦室温まで冷却してから再度熱間加工温度まで加熱するか、もしくは均質化処理温度から、直接、熱間圧延温度まで温度を調整した後、熱間圧延を行う。
(冷間圧延)
熱間圧延の後、必要に応じて、最終製品の板厚に精度良く仕上げるため、冷間圧延を行う。また、必要に応じて冷間圧延を行う前または、2パス以上で冷間圧延を行う場合は、冷間圧延と冷間圧延の間で適宜中間焼鈍を行う。中間焼鈍の方法は特に規定は無いが、バッチ炉に圧延板を入れて例えば、320〜380℃の温度範囲に1時間以上保持してから、炉から取り出して冷却することにより行う。
(溶体化処理)
本発明のAl−Mg合金材では、その製造プロセス中において、この溶体化処理を必須的に行うものとする。ここでいう溶体化処理とは、Al−Mg合金材を400℃以上の温度に加熱保持する処理であり、この処理によって、Mgはアルミニウムマトリクス中に完全固溶した状態となる。この処理は、上記の温度条件を満足していれば良く、製造プロセスのうちの熱間圧延を行う前に材料を所定の温度まで加熱して保持する加熱処理と兼ねて行っても良い。また、熱間圧延後、またはその後に冷間圧延を行った後に、連続焼鈍炉によって400℃以上に加熱して1分間以下の時間保持した後に100℃以下の温度に冷却して行っても良い。
溶体化処理の温度が400℃未満の場合は、製造プロセス中に不均一に析出したβ相を一旦完全固溶することができず、その後に所定の条件で安定化処理を行ってもβ相が均一微細に析出せず、十分な水素脆性抑制効果を得ることができない。一方、溶体化処理温度の上限はとくに規定しないが、570℃を超えると、材料の一部で溶融が生じて、材料特性が大幅に劣化してしまう。
(安定化処理)
本発明のAl−Mg合金材では、その製造プロセスにおいて上記の溶体化処理を行った後、この安定化処理を必須的に行うものとする。この安定化処理は、Al−Mg合金圧延板を200〜300℃の温度に1時間以上保持したのち、室温まで冷却することによって行う。具体的な方法としては、圧延板をバッチ炉に投入して所定の条件で加熱保持後に、炉から取り出して室温まで冷却することによって行えばよい。
また、前述のように熱間圧延前の加熱処理を溶体化処理と兼ねて行った場合については、その後に熱間圧延を開始して300℃より高い温度で熱間圧延を終了し、その後の熱間圧延板の室温までの冷却を200〜300℃の温度域で1時間以上滞留する条件で行うことにより、安定化処理を行うことができる。また、熱間圧延の際の上がり温度が低いか、または冷却速度が大きいことにより、冷却の途中で上記の条件を満たすことができない場合は、一旦室温まで冷却してから、再度加熱して200〜300℃で1時間以上保持する安定化処理を行えばよい。
前述の通り、溶体化処理により一旦固溶したMgをこの安定化処理によって、β相(MgAl)として結晶粒内に析出することによって、外部から材料内部に侵入した水素の大半が結晶粒内のβ相に捕捉(トラップ)され、脆性破壊の起点となる結晶粒界へ水素が集積することが防止されるものと推定される。これにより、Al−Mg合金材の耐水素脆性を大幅に向上させることができる。
安定化処理の温度が200℃未満の場合は、結晶粒内でβ相が十分に析出せず、析出密度が不十分なため、外部から材料内部に侵入した水素を十分にトラップすることができないと考えられる。このため、結晶粒界への水素の集積を効果的に防止することができず、Al−Mg合金材の耐水素脆性を向上させることができない。また、安定化処理の温度が300℃を超える場合は、結晶粒内において析出するβ相が粗大になりすぎ、外部から材料内部へ侵入した水素のトラップ効果が大幅に減少すると考えられる。このため、結晶粒界への水素の集積を効果的に防止することができず、Al−Mg合金圧延板素材の耐水素脆性を向上させることができない。
また、安定化処理の温度が200〜300℃の規定の範囲内であっても、処理する時間が1時間未満の場合には、結晶粒内でのβ相の析出が不十分であり、析出密度が小さい。このため、外部から材料内部に侵入した水素を十分にトラップすることができず、Al−Mg合金圧延素材の耐水素脆性を向上させることができないと考えられる。
[ミクロ組織の形態]
本発明では、Al−Mg合金板の耐水素脆性を高めるために、製造プロセスにおいて溶体化処理とそれに続いて安定化処理を必須的に行うことによって、耐水素脆性を高めることを第一の特徴としたが、さらに、不純物Fe及びSi量を規定の成分範囲とした上で、以下に述べるようにミクロ組織を最適化することによって、さらに素材の耐水素脆性を高めることが可能となる。
(晶出粒子)
既述したように、Al−Fe−Siを主成分とする晶出粒子が材料表面に存在する場合、水素はこれらの晶出粒子を経由して材料内部に侵入すると推定される。このため、材料表面に存在する円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子について、その分布密度を4000個/mm以下に制限することが好ましい。これによって、材料中に侵入する水素量を低減して、材料の耐水素脆性を高めることができる。ここで、晶出粒子のサイズを円相当径で1μm以上のものに限定した理由を以下に示す。
通常、晶出物は鋳造プロセスの凝固時に円相当径で約10μmのサイズで生成するが、引続いて行われる熱間圧延加工によって、これらの晶出物は細かく分断されて晶出粒子となる。結果として、これらの晶出粒子の大部分は円相当径で1〜5μmのサイズとなり、1μm程度の細かい晶出粒子が最も多く、2μm・3μmと円相当径が大きくなるにつれてそれぞれのサイズの晶出粒子の数は指数関数的に減少する。円相当径で1μm未満のサイズの粒子も存在はするが、その数は相対的に少ない上に、晶出粒子が水素侵入サイトとして機能するメカニズムからして、円相当径で1μm未満のサイズの晶出粒子の水素侵入への寄与は小さいため、これらの微小な晶出物粒子を計数する必要はない。
また、晶出粒子が水素侵入サイトとして機能するメカニズムより、大きな晶出粒子からは相対的に水素が侵入しやすくなるが、先述の通り粒子径が1μmより大きくなると、その粒子数は指数関数的に減少する。このため、サイズに応じて水素の侵入しやすさが変化することを考慮せずとも、円相当径で1μm以上の晶出粒子数によって、その材料に固有の水素侵入のしやすさを評価し得る。
この晶出粒子の分布密度の測定は、以下のようにして行うことができる。最終処理を経たAl−Mg系合金材について、実際に使用される場合に高圧水素ガスに暴露されることになる面を、通常の金属組織観察のための常法に従って、鏡面研磨仕上げした後、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチング後に金属組織観察用の顕微鏡で順光観察することにより、分散粒子の分布密度を測定することが可能である。具体的には、顕微鏡で100倍の倍率に設定して観察を行った場合、晶出粒子はマトリクスに対して暗いコントラストで黒点として認識することが可能である。本発明のAl−Mg系合金材の場合、この黒色粒子はほとんど全て晶出粒子であるので、円相当径で1μm以上のサイズの粒子を1視野ごとに計数して、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、分散粒子数(個/mm)を測定することができる。
円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子の分布密度が4000個/mm以下であれば、水素の侵入経路となる晶出粒子の数が少なく、材料中に侵入する水素が少ないので、耐水素脆性は高くなると推定される。一方、不純物Fe・Si量が多く、晶出粒子の分布密度が4000個/mmを超える場合は、水素侵入経路となる晶出粒子数が多く、材料に侵入する水素が多くなるので、耐水素脆性は低くなると推定される。
以下、本発明の実施例1〜3について、発明例を比較例と共に記載する。実施例1、2においては、Al−Mg合金の代表として合金の化学成分を1種に限定し、製造条件とこれにより得られる評価結果を示した。また、実施例3においては、同一製造条件にて評価材を製作し、各種化学成分の異なる合金について評価結果を示した。
[実施例1]
実施例1では、通常の工程、即ち、鋳造、均質化処理、加熱、熱間圧延、溶体化処理、一部冷間圧延、安定化処理の各工程を実施した。
まず、表1に示す組成に調整したAl−Mg合金を溶解して、DC鋳造法により鋳造して厚み80mm×幅200mm×長さ800mmサイズの鋳塊を得た。この鋳塊の凝固時の冷却速度は5℃/secとした。これらの鋳塊を500℃の加熱保持温度に加熱して、7時間保持する均質化処理を行った後、厚み方向について上下面各5mm、幅方向について左右各5mmの厚みで面削を行った。これらのサンプルを480℃に加熱保持したのち、熱間圧延を開始して、板厚2mmまで熱延して材温250℃で熱間圧延を終了した。
Figure 0006274727
その後、表2に示す条件で、溶体化処理、安定化処理の各工程を行った。なお、発明例4だけは冷間圧延も行った。ここで、溶体化処理については、連続焼鈍炉で処理する条件を模擬する形で、所定の処理温度まで昇温速度20℃/secで昇温して、所定の温度での5秒間保持した後に、20℃/secの冷却速度で室温まで冷却した。また、安定化処理はバッチ炉を用いて表中の条件で行った。これらの処理を行ったAl−Mg圧延板素材について、以下に詳細を示す「晶出粒子の分布密度測定」と「耐水素脆性評価試験」を行い、評価結果を表2に示した。
Figure 0006274727
(晶出物の分布密度測定)
各評価材の圧延面表面を金属組織観察法の常法に従って鏡面研磨仕上げした後、ケラー氏液(塩酸20ml、硝酸20ml、フッ酸5ml、蒸留水50mlの混合液)に1分間浸漬してエッチング後に金属組織観察用の顕微鏡にて、100倍の設定で順光観察して、任意の10視野について写真撮影を行った。円相当径で1μm以上のサイズの分散粒子を1視野ごとに計数して、10視野分の合計の粒子数を測定面積で割ることによって、分散粒子密度(個/mm)を測定した。
(耐水素脆性評価試験)
各種のAl−Mg系合金の耐水素脆性を評価する試験として、湿度制御環境中でのSSRT試験(Slow Strain Rate Tensile試験)を行った。SSRT試験は、試験雰囲気湿度を制御した環境中にて、アルミニウム合金材を低ひずみ速度で破断するまで引張変形する試験であって、引張変形中に連続的に露出するアルミニウム合金新生面と試験雰囲気中の水蒸気が試験片表面で反応して、この反応に伴い水素が発生してその一部が材料中に侵入する。SSRT試験において試験湿度を高く設定すると、前記反応で発生する水素が増えて、高圧の水素ガス環境を簡便に模擬することができる。一方、試験湿度を非常に低く設定すると、前記反応で発生する水素が少なくなって、材料中に侵入する水素がほとんど無くなるので、水素脆化の影響の無い材料そのものの延性を評価することができる。この両雰囲気での材料の延性を比較することによって、材料の水素脆性に対する感受性を評価することが可能となる。
本試験では、各評価材から図1に示す形状及び寸法(単位mm)を有するSSRT試験片を、引張方向が圧延直角方向となるように作製した。SSRT試験を行う前に、Al−Mg合金圧延素材が、高圧水素ガスタンクのライナーに成形加工され、高圧水素ガスタンクとして長期間使用されることを想定して、この試験片に以下の前処理を実施した。即ち、まず本試験片に予め室温にて5mm/minの変形速度で5%塑性ひずみの引張変形を付与した後、120℃にて100時間の時効処理を行った。この処理のうち、引張変形の付与は、圧延板を素材としてタンクライナー形状に成形加工する際に素材に加わる塑性変形を模擬して付与するものであり、またその後の時効処理は、車載タンクとして長期間使用される際の熱的負荷(タンクへの水素充填時の充填熱や、夏場炎天下での昇温等)を模擬して行ったものである。これらの前処理を実施後に以下で説明する条件のSSRT試験に供した。
SSRT試験では、一定のクロスヘッド速度0.001mm/min(初期ひずみ速度1.39×10−6/s)で試験片が破断するまで引張変形を付与し、試験雰囲気の湿度は、高圧水素ガス環境を模擬した相対湿度90%(以下、「RH90%」と略記)雰囲気、および水素の影響を受けない乾燥窒素ガス(以下、「DNG」と略記)雰囲気の2種類とした。これら2種各々の雰囲気中での材料の破断伸びを、εRH90%およびεDNGと表記して、各材料の水素脆化しやすさ、即ち、「水素脆化感受性指数」を下記の式で定義した。水素脆化感受性指数は、DNG環境中の伸びを基準とした場合における高圧水素ガス模擬環境(RH90%)中の低下の度合いを示すものである。
水素脆化感受性指数 = (εDNG − εRH90%)/ εDNG
水素脆化感受性指数は、全く水素の影響をうけず脆化しない場合は「0」の値をとり、RH90%中で非常に顕著な脆性を示して延性が無くなった場合に「1」の値をとり、中程度の脆性を示す場合に0から1の間の値を示す。なお、本実験では、高圧水素ガス環境を模擬する環境としてRH90%の非常に厳しい条件を選択している。これは、評価材間の耐水素脆性の違いを明確化するために、敢えて選択した試験条件である。よって、本実施例における評価結果は、各材料の耐水素脆性の相対的な優劣のみを示すものであって、各材料が高圧水素ガス容器等の用途において実際に実施できるかどうかを示すものではない。なお、本実施例では、水素脆化感受性指数が0.2未満の場合に、その材料が高い耐水素脆性を有し、非常に高圧の水素ガス環境中でも使用しうるものと判断した。
各評価材についての晶出物の分布密度測定結果および耐水素脆性評価結果を表2に示す。
(評価結果)
発明例1〜3はいずれも本発明で規定した条件の範囲で溶体化処理および安定化処理を行っている。このため、水素脆化感受性指数がいずれも0.2未満の十分に低い値となっており、高い耐水素脆性を有することを示している。これに対して、比較例1では、安定化処理の温度が本発明の規定の範囲よりも低く、0.2以上の高い水素脆化感受性を示した。これは、安定化処理の温度が本発明の規定範囲よりも低かったために、結晶粒内のβ相の析出密度が低く、十分な量の水素をトラップすることができなかったためと考えられる。
また、比較例2では、安定化処理の温度が本発明の規定の範囲よりも高く、0.2以上の高い水素脆化感受性を示した。これは、安定化処理の温度が本発明の規定の範囲より高かったために、結晶粒内のβ相が粗大になって分布密度が低下して、十分な量の水素をトラップすることができなかったためと考えられる。
さらに、比較例3では、安定化処理の温度は本発明の規定の範囲内であるが、保持時間が0.5hであり、本発明の規定よりも短く、0.2以上の高い水素脆化感受性を示した。これは、安定化処理の保持時間が本発明の範囲より短かったために、結晶粒内のβ相の析出の進行が不十分であり、β相の析出密度が小さく、十分な量の水素をトラップすることができなかったためと考えられる。
一方、発明例4は、溶体化処理後に冷間圧延を行った後に安定化処理を行っているが、溶体化処理および安定化処理についてはいずれも本発明で規定した範囲の条件で処理を行っている。このため、安定化処理の効果により水素脆化感受性指数が0.2未満で十分に低い値となっており、高い耐水素脆性を有することを示している。
また、発明例5は、本発明で規定した条件の範囲で溶体化処理および安定化処理を行っている。このため、水素脆化感受性指数がいずれも0.2未満の十分に低い値となっており、高い耐水素脆性を有することを示している。
一方、比較例4では、溶体化処理の温度が本発明で規定した範囲よりも低く、0.2以上の高い水素脆化感受性を示した。これは、溶体化処理の温度が本発明で規定した範囲より低かったために、製造プロセス中に析出したβ相を一旦完全固溶とすることができず、その後に所定の条件で安定化処理を行ってもβ相が均一微細に析出せず、水素のトラップ効果が不十分であったためと考えられる。
[実施例2]
実施例2は、熱間圧延前後の熱を利用した場合の実験例を示す。熱間圧延前において、熱間圧延開始温度を溶体化処理温度の代用とし、また、熱間圧延終了温度を安定化処理温度以上とし、冷却過程において、安定化処理条件の代用とするものである。
表1に示す組成に調整したAl−Mg合金を溶解して、DC鋳造法により鋳造して厚み80mm×幅200mm×長さ800mmサイズの鋳塊を得た。この鋳塊の凝固時の冷却速度は5℃/secとした。これらの鋳塊を500℃の加熱保持温度に加熱して、7時間保持する均質化処理を行った後、厚み方向について上下面各5mm、幅方向について左右各5mmの厚みで面削を行った。この後、表3に示す条件で、鋳塊の加熱、熱間圧延、冷却(または徐冷)を行った。熱間圧延は板厚70mmから板厚3mmまで行った。また、冷却途中において、安定化処理を兼ねない場合は、室温まで冷却後に別途加熱処理による安定化処理を行った。このような工程で作製した圧延板サンプルについて、実施例1で記載した「晶出粒子の分布密度測定」と「耐水素脆性評価試験」を同様の方法で行い、評価結果を表3に示した。
Figure 0006274727
(評価結果)
発明例6及び発明例7は、いずれも本発明で規定した条件の範囲で溶体化処理を兼ねた熱間圧延前の加熱および安定化処理を兼ねた熱間圧延後の200〜300℃範囲の徐冷を行っている。このため、水素脆化感受性指数がいずれも0.2未満の十分に低い値となっており、高い耐水素脆性を有することを示している。
これに対して、比較例5では、本発明で規定した条件の範囲で溶体化処理を兼ねた熱間圧延前の加熱を行ったが、熱延後の200〜300℃範囲の徐冷が、本発明の範囲の安定化処理を兼ねる条件の範囲ではなく、また熱延後室温まで冷却後に安定化処理を実施していない。このため、0.2以上の高い水素脆化感受性を示している。これは、安定化処理の時間が本発明の規定範囲よりも短かったため、結晶粒内のβ相の析出密度が低く、十分な量の水素をトラップすることができなかったためと考えられる。
また、発明例8では、本発明で規定した条件の範囲で溶体化処理を兼ねた熱間圧延前の加熱を行い、熱延後の200〜300℃範囲の徐冷が、本発明の範囲の安定化処理を兼ねる条件の範囲ではなかったが、一旦室温まで冷却後に別途安定化処理を本発明で規定する条件の範囲で行っている。このため、0.2未満の十分に低い水素脆化感受性を示している。
一方、比較例6では、溶体化処理を兼ねた熱間圧延前の加熱温度が、本発明で規定した条件の範囲よりも低かったため、0.2以上の高い水素脆化感受性を示した。これは、溶体化処理の温度が本発明の規定の範囲より低かったために、β相を一旦完全固溶とすることができず、その後に所定の条件で安定化処理を行ってもβ相が均一微細に析出せず、水素のトラップ効果が不十分であったためと考えられる。
[実施例3]
実施例3において、各種化学成分の異なる合金について同一製造条件にて評価材を製作し、評価を実施した。
表4に示す組成に調整した各種Al−Mg合金を溶解して、DC鋳造法により鋳造して厚み80mm×幅200mm×長さ800mmサイズの鋳塊を作製した。この鋳塊の凝固時の冷却速度は5℃/secとした。これらの鋳塊を500℃の加熱温度に保持して、7時間保持する均質化処理を行った後、厚み方向について上下面各5mm、幅方向について左右各5mmの厚みで面削を行った。これらのサンプルを480℃に加熱保持した後、熱間圧延を行い、板厚3mmとした。さらに冷間圧延を行い、板厚1mmとした。その後、表5に示す条件にて、溶体化処理に引き続いて安定化処理を行い、実施例1で記載した「晶出粒子の分布密度測定」と「耐水素脆性評価試験」による評価を行った。評価結果を表5に示す。
Figure 0006274727
Figure 0006274727
(評価結果)
発明例9〜11は、それぞれ本発明で規定する組成範囲内の合金2、合金3及び合金4について、本発明で規定した範囲の条件にて溶体化処理および安定化処理を行っている。このため、水素脆化感受性指数がいずれも0.2未満の十分に低い値となっており、高い耐水素脆性を有することを示している。
一方、これらに対して、発明例12及び発明例13は、それぞれ表4で規定する組成範囲内の合金5及び合金6について、本発明で規定した範囲の条件にて溶体化処理および安定化処理を行っているため、水素脆化感受性指数がいずれも0.2未満の低い値となっている。しかし、これらの晶出粒子分布密度は4000個/mmを超えており、かつ水素脆化感受性指数の値は、発明例9〜11の値に比べて高い。これは、合金2〜合金4のFe及びSi量が本発明で耐水素脆性を高めるために規定するより適切な範囲にあるためであり、Fe及びSi量が本発明で規定した範囲外にある合金5及び合金6に比べて耐水素脆性が優れていることを反映している。
また同様に、発明例14は、それぞれ表4で規定する組成範囲内の合金7について、本発明で規定した範囲の条件にて溶体化処理および安定化処理を行っているため、水素脆化感受性指数の値は、0.2未満の低い値となっている。しかし、これらの水素脆化感受性指数の値は、発明例9〜11の値に比べて高い。これは、合金2〜合金4のCu量が本発明で耐水素脆性を高めるために規定するより適切な範囲にあるためであり、Cu量が本発明で規定した範囲外にある合金7に比べて耐水素脆性が優れていることを反映している。
また、比較例7では、合金8のMg量が本発明で規定した量よりも多いため、熱間圧延の途中で材料に割れが生じて、評価サンプルを作製することができなかった。このため、熱延以降の工程および評価試験を中止した。
また、比較例8では、合金9について本発明で規定した範囲の条件で溶体化処理および安定化処理を行った。しかしながら、合金9のMg量は本発明で規定した量よりも少ない。このため、本合金は、強度、延性が十分でないため高圧水素ガスタンク等の部材として用いるには不適である。

Claims (4)

  1. 質量%でMg:3.0〜6.0%を含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物よりなるAl−Mg合金材であって、結晶粒内にβ相のMgAlが含有され、水素脆化感受性指数が0.2未満であることを特徴とする高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材。
  2. 質量%で0.15%未満のFeと、0.15%未満のSiを不純物として含有し、かつ合金組織において、円相当径で1μm以上のサイズの晶出粒子の分布密度が4000個/mm2以下であることを特徴とする請求項1記載の高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材。
  3. さらに、質量%でCu:0.03〜1.0%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材。
  4. さらに、質量%でMn:0.02〜0.8%、Cr:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.3%、Sc:0.01〜0.5%、V:0.01〜0.3%、Ni:0.02〜0.3%のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高圧水素ガス容器用Al−Mg合金材。
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