本発明の実質的な理解を与えるべく、本発明の幾つかの局面、形態、態様、変更および特徴は、様々な詳しさのレベルにて、以下に記載されていることを理解すべきである。
本発明の実施に際して、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、免疫学、微生物学、および組換えDNAにおける多くの公知技術を利用する。これらの技術は周知であり、また例えばカレントプロトコールズインモレキュラーバイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology), Vols. I-III, Ausubel編(1997);Sambrook等, モレキュラークローニング:アラボラトリーマニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual),第二版[コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)刊, コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor), NY, 1989];DNAクローニング:アプラクティカルアプローチ(DNA Cloning: A Practical Approach), Vols. IおよびII, Glover編(1985);オリゴヌクレオチドシンセシス(Oligonucleotide Synthesis), Gait編(1984); ヌクレイックアシッドハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization), Hames & Higgins編(1985);トランスクリプションアンドトランスレーション(Transcription and Translation), Hames & Higgins編(1984);アニマルセルカルチャー(Animal Cell Culture), Freshney編(1986);イモビライズドセルズアンドエンザイムズ(Immobilized Cells and Enzymes) (IRLプレス(IRL Press)刊, 1986); Perbal, アプラクティカルガイドツーモレキュラークローニング;ザシリーズ(A Practical Guide to Molecular Cloning: the series), Meth. Emzymol. (アカデミックプレス社(Academic Press Inc.)刊, 1984);ジーヌトランスファーベクターズフォーマーマリアンセルズ(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells), Miller & Calos編[コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory), NY, 1987]; およびMeth. Emzymol., Vols. 154および155, 夫々Wu & Grossman編, およびWu編。
本明細書において使用する幾つかの用語の定義を以下に与える。特に定義されていない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、一般的に、本発明の属する技術分野における当業者によって通常理解されているものと同様な意味を持つ。
本明細書およびこれに添付した特許請求の範囲において使用するような、単数形、即ち「ア(a)」、「アン(an)」および「ザ(the)」は、その内容が特別に述べていない限り、各指示事項の複数をも含む。例えば、「アセル(a cell)」なる記載は、2またはそれ以上の細胞の組合せ等を含む。
ここで使用するような、対象への薬剤、薬物またはペプチドの「投与」は、化合物の意図した機能を果たさせるための、対象への該化合物の、任意の導入または放出、送達経路を包含する。投与は、経口投与、鼻内投与、腸管外投与(静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下投与経路)、または局所投与経路を含む任意の適当な経路によって行うことができる。投与は、自己-投与および他人による投与を含む。
本明細書において使用する用語「アミノ酸」とは、天然産のアミノ酸および合成アミノ酸並びに該天然産のアミノ酸と同様な様式で機能する、アミノ酸類似体および擬似アミノ酸を包含する。天然産のアミノ酸は、遺伝子コードによってコード化されているもの、並びに後に変性されるアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然産のアミノ酸と同様な基本的化学構造、即ち水素原子、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合したα-炭素を持つ化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム等を意味する。このような類似体は、変性されたR基(例えば、ノルロイシン)または変性されたペプチド主鎖を持つが、天然産のアミノ酸と同様な基本的化学構造を維持している。擬似アミノ酸とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なるが、天然産のアミノ酸と同様な様式で機能するある構造を持つ化合物を意味する。アミノ酸とは、ここでは、一般的に公知の3つの文字記号によるか、あるいはIUPAC-IUBバイオケミカルノーメンクラチャーコミッション(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨されている1-文字記号表記によって表すことができる。
本明細書において使用するような用語「活性薬剤」および「治療薬」は夫々互換的に使用され、また疾患または状態を治療、処置または予防するのに有用な化合物を意味する。例えば、幾つかの態様において、活性薬剤は、芳香族-カチオン性ペプチド、心臓血管作用薬、免疫抑制剤、利尿薬、鎮静薬等を包含する。幾つかの態様において、活性薬剤は、単独で、または1種またはそれ以上の追加の活性薬剤との組合せで投与される。例えば、幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチド、または製薬上許容されるその塩、例えば酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩、およびシクロスポリンが与えられる。
本明細書において使用するような用語「心臓血管作用薬」または「心臓血管作用薬物」とは、心臓血管の疾患または状態を治療しまたは予防するのに有用な、治療化合物を意味する。適当な心臓血管作用薬の非-限定的な例は、ACE阻害剤(アンギオテンシンII変換酵素阻害剤)、様々なARB(様々なアンギオテンシンIIレセプタアンタゴニスト)、抗-アドレナリン作動薬、アドレナリンアゴニスト、抗-狭心症薬、抗-不整脈薬、抗-血小板作用薬、抗-凝血薬、抗-高血圧症薬、抗-高脂肪血症薬、カルシウムチャンネル遮断薬、COX-2阻害剤、利尿薬、エンドセリンレセプタアンタゴニスト、HMG Co-Aレダクターゼ阻害剤、変力薬、レンニン阻害剤、血管拡張薬、昇圧薬、AGE架橋破壊剤、およびAGE形成阻害剤(高度グリコシル化最終生成物(Advanced Glycosylation End-Product)形成阻害剤、例えばピマゲジン(pimagedine))、およびこれらの組合せを含む。幾つかの態様において、該心臓血管作用薬はシクロスポリンを含む。
幾つかの態様において、活性薬剤は、免疫抑制剤である。ここで使用する「免疫抑制剤」とは、免疫系の活性を緩慢なものとし、もしくは停止する医薬を意味する。免疫抑制剤は、器官(臓器)の移植後の身体における免疫応答の立ち上がりを防止し、または過度に活動性の免疫系によって引起される疾患を治療するために投与することができる。幾つかの態様において、免疫抑制剤は、グルココルチコイド、細胞成長抑止剤、抗体、イムノフィリンに作用する薬物およびその他の薬物を包含する。シクロスポリンは、同種移植に伴う臓器拒絶反応を防止するために広範に使用されている免疫抑制剤である。これは、腎臓の構造及び機能に有害な作用を及ぼすにも拘らず、臓器移植を管理するための重要な一手段としての立場を維持している。腎毒性は、シクロスポリンの主な限界副作用の一つであり、また腎尿細管細胞に対する、低度の低酸素症障害に起因するものと考えられている。腎細胞の段階的喪失は、間質性線維症および腎機能の喪失へと導く。アポトーシス細胞死が、殆ど壊死性細胞死の形跡もなしに、シクロスポリン-関連線維症において起ることは公知である。その上、アポトーシス調節遺伝子p53、Bax、Fas-L、Bcl-2、インターロイキン-変換酵素(ICE)、およびカスパーゼ-3の発現が、シクロスポリン-暴露腎細胞における細胞死を起こし易くすることが知られている。シクロスポリンは、また乾癬、アトピー性皮膚炎、壊疽性膿皮症、慢性自己免疫性蕁麻疹、およびリウマチ様関節炎の治療において効果的であることが示されている。しかし、この薬物に関連する高度の毒性のために、シクロスポリンは、典型的にこれら状態の重篤な症例を示している。移植患者に対して、シクロスポリンは、一般的に厳密な腎機能の監視を行いつつ、間欠的に、もしくは周期的にのみ投与される。
ここで使用する用語「シクロスポリン」とは、シクロスポリンA、シクロスポリンG、およびその官能性誘導体(functional devivatives)またはその類似体、例えばNIM811を意味する。シクロスポリンAは、天然のトリポクラジウムインフレータム(Tolypocladium inflatum)環状非-リボソームペプチドを意味する。シクロスポリンGは、アミノ酸の2-位においてシクロスポリンAとは異なっており、そこではL-ノルバリンがα-アミノ酪酸と入れ代っている。(一般的には、Wenger, R.M. 1986, シクロスポリンおよび類似体の合成:免疫抑制活性のための構造および配座要件(Synthesis of Ciclosporin and analogues: structural and conformational requirements for immunosuppressive activity),アレルギーにおける進歩(Progress in Allergy), 38:46-64を参照のこと)。ここに記載される幾つかの態様においては、芳香族-カチオン性ペプチド、例えばD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2とシクロスポリンとの組合せが提供される。
ここで使用するような用語「有効量」とは、所定の治療的および/または予防的効果を達成するのに十分な量、例えば虚血-再灌流障害または1またはそれ以上の虚血-再灌流障害と関連する症状の予防、またはその軽減をもたらす量を意味する。治療または予防的用途に関連して、対象に対して投与すべき該組成物の量は、該疾患の型およびその重篤度、および該個体の諸特徴、例えば一般的な健康状態、年齢、性別、体重および薬物に対する耐性に依存するであろう。該組成物の量は、また疾患の程度、重篤度および型にも依存するであろう。当業者は、これら及びその他のファクタに依存して、適当な用量を決定することができるであろう。該組成物は、また1種またはそれ以上の追加の治療薬との組合せで投与することができる。
ここに記載する方法において、前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の治療薬は、急性心筋梗塞障害の1またはそれ以上の徴候または症状を持つ対象に対して投与することができる。他の態様において、該哺乳動物は、心筋梗塞の1またはそれ以上の徴候または症状、例えば胸腔の中央部分における圧覚、充満感、または圧迫感として説明される胸部痛;胸部痛の、顎または歯、肩、腕、および/または背部への広がり;呼吸困難または息切れ;吐き気および嘔吐を伴うまたは伴わない、上腹部の不快感;および発汗または汗ばみ等を有する。例えば、前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび/または心臓血管作用薬等の追加の活性薬剤の「治療上有効な量」は、急性心筋梗塞障害の生理的な作用が、最低でも改善されるレベルを意味する。幾つかの態様において、該追加の活性薬剤は、心臓血管作用薬、例えばシクロスポリン、またはその官能性誘導体またはその類似体である。
ここに記載される幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の治療薬剤は、臓器または組織移植に先立って、その最中におよび/またはその後に、ドナーとしての対象におよび/またはレシピエントとしての対象に投与される。例えば、幾つかの態様においては、芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の治療薬剤(併用療法)は、第二の対象に移植するために、組織または臓器が取り出されるであろう第一の対象に対して、投与することができる。幾つかの態様においては、付随的にまたは代わりに、該併用療法は、該第二の対象に導入する前に、取出された組織または臓器に施される。幾つかの態様においては、付随的にまたは代わりに、該併用療法は、臓器または組織を移植する前に、その最中におよび/またはその後に、前記第二の対象に対して施される。
幾つかの態様において、該併用療法(例えば、芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の、心臓血管作用薬、免疫抑制剤等の活性薬剤の投与)は、例えば臓器または組織移植の再灌流に係る問題(例えば、閉塞、壊死性の組織)および/または組織または臓器の拒絶反応による、1またはそれ以上の虚血-再灌流障害の徴候または症状を示す移植レシピエントに対して施される。該徴候または症状は、該移植臓器または組織の型およびその位置に依存して変動する可能性がある。例えば、腎臓に拒絶反応を示す患者は、殆ど排尿しない可能性があり、また心臓に拒絶反応を示す患者は、心臓病の症状を示す可能性がある。臓器または組織に対する拒絶反応の付随的な徴候または症状は、適切に機能しない該臓器または組織、全身的な不快感、不安感、不調感、該臓器または組織位置における痛みまたは腫れおよび発熱を含むが、これらに限定されない。従って、幾つかの態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび/または第二の活性薬剤の「治療上有効な量」とは、臓器または組織移植部における虚血-再灌流障害の生理的な作用を、最低でも改善するレベルを意味する。幾つかの態様において、該第二の活性薬剤は、シクロスポリン、またはその官能性誘導体またはその類似体を含む。
本明細書において使用する用語「虚血-再灌流障害」とは、組織への血液供給の制限後の、血液の急な再供給およびそれに随行するフリーラジカルの発生によって引起される損傷を意味する。このような障害は、例えば心筋梗塞後または臓器または組織移植の結果として起り得る。
「単離(された)」または「精製(された)」ポリペプチドまたはペプチドは、該薬剤が由来とする細胞または組織源からの細胞性物質または他の混入ポリペプチドを実質的に含まないか、あるいは化学的に合成された場合には、化学的なプリカーサまたは他の化学物質を実質的に含まない。例えば、単離された芳香族-カチオン性ペプチドは、該薬剤の診断または治療上の使用を妨害する恐れのある物質を含まない。このような妨害性物質は、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性および非-タンパク質性溶質を含み得る。
本明細書において使用する用語「ポリペプチド」および「ペプチド」とは、ここでは相互にペプチド結合または変性ペプチド結合、即ちペプチド等電子配置体(isosteres)により結合されている、2またはそれ以上のアミノ酸を含むポリマーを意味すべく、互換的に使用される。ポリペプチドは、一般的にペプチド、グリコペプチドまたはオリゴマーと呼ばれる短鎖のもの、および一般的にタンパク質と呼ばれる長鎖のもの両者を意味する。ポリペプチドは、20個の遺伝子-コード化アミノ酸以外のアミノ酸を含むことができる。ポリペプチドは、自然の過程、例えば翻訳後のプロセッシング、あるいは当分野において周知の化学的変性技術の何れかにより変性されたアミノ酸配列を含む。
本明細書において使用する用語「同時の」治療的使用とは、少なくとも2種の活性成分の、同一の経路による、かつ同一の時点における、あるいは実質的に同一の時点における投与を意味する。
ここで使用する用語「別々の」治療的使用とは、異なる投与経路による、少なくとも2種の活性成分の、同一時点におけるまたは実質的に同一時点における投与を意味する。
ここで使用する用語「逐次的な」治療的使用とは、少なくとも2種の活性成分の、異なる時点における投与を意味し、ここでは、その投与経路は同一であっても異なっていてもよい。より詳しくは、逐次的使用とは、該活性成分の1種の完全な投与後に、1またはそれ以上の他の成分の投与を開始することを意味する。従って、該活性成分の1種を、数分間、数時間、または数日に渡り投与し、次いで1またはそれ以上の他の成分を投与することが可能である。この場合に、同時に治療することはない。
本明細書において使用する用語「治療」または「処置」または「緩和(軽減)」とは、治療的処置および予防的処置または防止的処置両者を意味し、ここでその目的は、標的とする病理的な状態または障害を予防しまたはその進行を遅らせる(低減する)ことである。治療的な量の前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤を、ここに記載された方法に従って投与された後に、ある対象が、1またはそれ以上の虚血-再灌流障害の徴候または症状、例えば低減された梗塞のサイズにおける観測し得るおよび/または測定し得る軽減を示した場合、または1またはそれ以上の該徴候または症状がなくなった場合には、該対象は、虚血-再灌流障害につき首尾よく「治療された」ことになる。また、上記の如き医学的な状態の治療または予防の様々な形態は、「実質的」であることを意味するものであり、この実質的とは、完全な治療または予防ばかりでなく、完全には至らない治療または予防をも含むものであり、また実質的治療または予防においては、幾分かの生物学的または医学的に適切な結果が達成されている。
ここで使用する、障害または状態を「予防」または「予防する」とは、1種またはそれ以上の化合物が、統計的なサンプルにおいて、未処置のコントロールサンプルに対して、処置サンプルにおける該障害または状態の発生頻度を減じ、あるいは該未処置のコントロールサンプルに対して、該障害または状態の1またはそれ以上の症状の発症を遅らせ、あるいはこれら症状の重篤度を減じることを意味する。ここで使用するような、虚血-再灌流障害を予防するとは、酸化的な損傷を予防し、あるいはミトコンドリアの透過性変化を防止し、それによって心臓または他の臓器または組織に対する血流の喪失およびその後のその回復に係る有害な作用を防止しあるいは改善することを含む。
予防法または治療法
本発明の技術は、諸疾患および/または様々な状態を治療しまたは予防するための組成物および方法に関する。典型的に、該組成物および方法は、芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩もしくはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩、および1種またはそれ以上の活性薬剤およびその使用を含む。幾つかの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、1種またはそれ以上のTyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2、およびD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または製薬上許容されるその塩、例えば酢酸塩もしくはトリフルオロ酢酸塩を含み、また前記1種またはそれ以上の活性薬剤は、シクロスポリン、またはその官能性誘導体またはその類似体、例えばNIM811を含む。幾つかの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2、または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩を含み、また該追加の活性薬剤は、シクロスポリンを含む。幾つかの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2、または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩を含み、また該追加の活性薬剤は、シクロスポリンの官能性誘導体または類似体、例えばNIM811を含む。本発明の技術は、投与が必要とされる際に、対象に対して、幾つかの芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤を投与することによる、虚血-再灌流障害の治療または予防に関する。また、本発明の技術は、投与が必要とされる際に、対象に対して、芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩および1種またはそれ以上の追加の治療薬を投与することによる、急性心筋梗塞障害または移植障害の治療または予防にも関連する。幾つかの態様において、該治療薬は、血管再生処置との組合せで投与される。同様に、心臓または他の臓器もしくは組織における虚血-再灌流障害を治療しまたは予防する方法をも提供する。同様にここに提供されるのは、再灌流の際の心臓に対する障害を防止するために、対象における心筋梗塞を治療する方法である。一局面において、本発明の技術は、冠状動脈血管再生法に係り、該方法は、哺乳動物対象に対して、治療上有効な量の前記芳香族-カチオン性ペプチドを投与する工程および該対象に対して冠状動脈人工副行路造設(CABG)処置を施す工程を含む。幾つかの態様において、該追加の活性薬剤はシクロスポリンを含む。
一態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の薬剤は、別々に投与される場合には、各薬剤に関して、準-治療的であるような用量で投与される。しかし、これら2種の薬剤の組合せは、相乗効果をもたらし、該薬剤各々が、夫々独立に、より高い容量で投与された場合には観測されないような、増強された効果を与える。一態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の薬剤の投与は、該組織に「予め刺激を与え」、結果として前記他の薬剤の治療効果に対してより応答性の高いものとする。そのため、より低用量の該芳香族-カチオン性ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の薬剤を投与することができ、また依然として治療効果が観測される。
一態様において、前記対象には、前記ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、血管再生処置に先立って(例えば、移植においてあるいは心筋梗塞後に)、同時に、別々に、または逐次的に投与される。もう一つの態様において、該対象には、該ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、該血管再生処置後に、同時に、別々に、または逐次的に投与される。もう一つの態様において、該対象には、該ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、該血管再生処置の最中およびその後に、同時に、別々に、または逐次的に投与される。更に別の態様において、該対象には、該ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、該血管再生処置前、その最中およびその後に、同時にまたは別々に連続的に投与される。他の態様において、該対象には、該ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、移植、AMIおよび/または血管再生またはCABG処置に引続き、定期的に(即ち、長期に渡り)投与される。幾つかの態様において、該追加の活性薬剤はシクロスポリンを含む。
一態様において、前記対象には、前記ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、前記血管再生処置後、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間に渡り投与される。一態様において、該対象には、該ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が投与され、該投与は、該血管再生処置の、少なくとも8時間、少なくとも4時間、少なくとも2時間、少なくとも1時間、または少なくとも30分前に開始される。一態様において、該対象には、該ペプチドおよび/または1種またはそれ以上の追加の活性薬剤が、該血管再生処置後、少なくとも1週間、少なくとも一カ月または少なくとも1年間に渡り投与される。幾つかの態様において、該追加の活性薬剤はシクロスポリンを含む。
芳香族-カチオン性ペプチドは、水溶性かつ極性の高いものである。これら諸特性にも拘らず、該ペプチドは、容易に細胞膜を透過し得る。該芳香族-カチオン性ペプチドは、典型的に、ペプチド結合によって共有結合されている、最低3個のアミノ酸または最低4個のアミノ酸を持つ。該芳香族-カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の最大個数は、ペプチド結合によって共有結合されている、約20個のアミノ酸である。適切には、該アミノ酸の最大個数は、約12個、より好ましくは約9個、および最も好ましくは約6個である。
該芳香族-カチオン性ペプチドのアミノ酸は、任意のアミノ酸であり得る。ここで使用する用語「アミノ酸」とは、少なくとも一つのアミノ基と少なくとも一つのカルボキシル基とを含む任意の有機分子を表すために使用される。典型的には、少なくとも一つのアミノ基は、カルボキシル基に対してα-位にある。該アミノ酸は、天然に産するものであり得る。天然産のアミノ酸は、例えば通常哺乳動物タンパク質中に見出される、20種の最も一般的な左旋性(L)アミノ酸、即ちアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)を含む。その他の天然産のアミノ酸は、例えばタンパク質合成とは関係しない代謝過程において合成されるアミノ酸を含む。例えば、アミノ酸としてのオルニチンおよびシトルリンは、哺乳動物の代謝において、尿素の製造中に合成される。天然産アミノ酸のもう一つの例は、ヒドロキシプロリン(Hyp)を含む。
前記ペプチドは、場合により1種またはそれ以上の非-天然産のアミノ酸を含む。例えば、該ペプチドは、天然産のアミノ酸を全く含まないものであり得る。該非-天然産のアミノ酸は、左旋性(L-)、右旋性(D-)アミノ酸またはこれらの混合物であり得る。非-天然産のアミノ酸は、典型的には、生きた生物における通常の代謝過程において合成されることのないアミノ酸であり、自然においてタンパク質中に生じることはない。更に、該非-天然産のアミノ酸は、適切には通常のプロテアーゼによって認識されることもない。該非-天然産のアミノ酸は、前記ペプチドの任意の位置に存在し得る。例えば、該非-天然産のアミノ酸は、該ペプチドのN-末端、そのC-末端、または該N-末端と該C-末端との間の任意の位置に存在し得る。
該非-天然産のアミノ酸は、例えば天然産のアミノ酸には見出されないアルキル、アリール、またはアルキルアリール基を含むことができる。非-天然産アルキルアミノ酸の幾つかの例は、α-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノバレリアン酸、およびε-アミノカプロン酸を包含する。非-天然産アリールアミノ酸の幾つかの例は、o-、m-、およびp-アミノ安息香酸を包含する。非-天然産アルキルアリールアミノ酸の幾つかの例は、o-、m-、およびp-アミノフェニル-酢酸、およびγ-フェニル-β-アミノ酪酸を包含する。非-天然産のアミノ酸は、天然産のアミノ酸の誘導体を含む。該天然産のアミノ酸の誘導体は、例えば該天然産のアミノ酸に対して1種またはそれ以上の化学基を付加したものを含む。
例えば、1種またはそれ以上の化学基は、1またはそれ以上の、フェニルアラニンまたはチロシン残基の持つ芳香族リングの2'、3'、4'、5'、または6'-位に、あるいはトリプトファン残基の持つベンゾリングの4'、5'、6'、または7'-位に付加することができる。該基は、芳香族リングに付加し得る任意の化学基であり得る。このような基の幾つかの例は、分岐したまたは分岐の無いC1-C4アルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt-ブチル基、C1-C4アルキルオキシ基(即ち、アルコキシ基)、アミノ基、C1-C4アルキルアミノ基およびC1-C4ジアルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロ基(即ち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)を包含する。天然産アミノ酸の非-天然型誘導体の幾つかの特別な例は、ノルバリン(Nva)およびノルロイシン(Nle)を含む。
ペプチド中のアミノ酸の変性に係るもう一つの例は、該ペプチドのアスパラギン酸またはグルタミン酸残基におけるカルボキシル基の誘導体化である。該誘導体化の一例は、アンモニアまたは第一または第二アミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミンまたはジエチルアミンによるアミド化である。該誘導体化のもう一つの例は、例えばメチルアルコールまたはエチルアルコールによるエステル化である。もう一つのこのような誘導体化は、リジン、アルギニン、またはヒスチジン残基の持つアミノ基の誘導体化である。例えば、このようなアミノ基は、アシル化することができる。幾つかの適当なアシル基は、例えばベンゾイル基、または上記の如きC1-C4アルキル基の何れかを含む、アルカノイル基、例えばアセチル基またはプロピオニル基を含む。
前記非-天然産のアミノ酸は、通常のプロテアーゼに対して、好ましくは耐性であり、またより好ましくは不感受性である。プロテアーゼに対して耐性または不感受性である、非-天然産のアミノ酸の例は、右旋性(D-)形状の任意の上記した天然産のL-アミノ酸、並びにL-および/またはD-型の非-天然産のアミノ酸を含む。該D-アミノ酸は、通常はタンパク質内に現れないが、これらは幾つかのペプチド型の抗生物質中に見出され、該抗生物質は、細胞の通常のリボソームタンパク質合成組織(機構)以外の手段によって合成される。ここで使用するD-アミノ酸とは、非-天然産のアミノ酸であるものと考えられる。
プロテアーゼ感受性を最小化するために、前記ペプチドは、アミノ酸が天然産であるか非-天然産であるかに拘らず、5個未満、好ましくは4個未満、より好ましくは3個未満、および最も好ましくは2個未満の、通常のプロテアーゼによって識別される連続するL-アミノ酸を持つべきである。最適には、該ペプチドは、D-アミノ酸のみを含み、L-アミノ酸を含まない。該ペプチドが、アミノ酸のプロテアーゼ感受性配列を含む場合、その構成アミノ酸の少なくとも一つは、好ましくは非-天然産のD-アミノ酸であり、その結果として該ペプチドには、プロテアーゼ耐性が与えられる。プロテアーゼ感受性配列の一例は、エンドペプチダーゼおよびトリプシン等の通常のプロテアーゼにより容易に開裂される、2またはそれ以上の連続する塩基性アミノ酸を含む。塩基性アミノ酸の例は、アルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む。
前記芳香族-カチオン性ペプチドは、該ペプチド内の全アミノ酸残基数に比して、生理的pHにおいて、最小数の正味の正電荷を持つべきである。生理的pHにおける該最小数の正味の正電荷は、以下において「pm」と呼ぶ。該ペプチド中の全アミノ酸残基数は、以下において「r」と呼ぶ。以下において論じる該最小数の正味の正電荷は、全て生理的pHにおけるものである。ここで使用する用語「生理的pH」とは、哺乳動物身体の組織および臓器を構成する細胞における正常なpHを意味する。例えば、ヒトの生理的pHは、通常約7.4であるが、哺乳動物における正常な生理的pHは、約7.0〜約7.8なる範囲内の任意のpH値であり得る。
ここで使用するような「正味の電荷」なる用語は、前記ペプチド内に存在するアミノ酸の持つ正電荷数と負電荷数との差を意味する。本明細書において、正味の電荷とは、生理的pHにおいて測定されるものと理解される。生理的pHにおいて正に帯電している天然産のアミノ酸は、L-リジン、L-アルギニンおよびL-ヒスチジンを含む。生理的pHにおいて負に帯電している天然産のアミノ酸は、L-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸を含む。典型的には、ペプチドは正に帯電したN-末端アミノ基および負に帯電したC-末端カルボキシル基を持つ。これらの電荷は、生理的pHにおいて相互に相殺される。
一態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドは、生理的pHにおける正味の正電荷の最小数(pm)と、アミノ酸残基の総数(r)との間にある関係を持ち、ここでは3pmが、r+1に等しいかそれ未満の、最大数である。この態様において、該正味の正電荷の最小数(pm)と、該アミノ酸残基の総数(r)との間の関係は以下の通りである:
もう一つの態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドは、前記正味の正電荷の最小数(pm)と、前記アミノ酸残基の総数(r)との間にある関係を持ち、ここでは2pmが、r+1に等しいかそれ未満の、最大数である。この態様において、該正味の正電荷の最小数(pm)と、該アミノ酸残基の総数(r)との間の関係は以下の通りである:
一態様において、前記正味の正電荷の最小数(pm)と、前記アミノ酸残基の総数(r)とは等しい。もう一つの態様において、前記ペプチドは、3または4個のアミノ酸残基および最低1個の正味の正電荷、適切には最低2個の正味の正電荷およびより好ましくは最低3個の正味の正電荷を持つ。
また、前記芳香族-カチオン性ペプチドが、正味の全電荷数(pt)と比較して、最小数の芳香族基を持つことが重要である。該芳香族基の最小数は、以下において(a)と呼ぶ。1個の芳香族基を持つ天然産のアミノ酸は、アミノ酸としてのヒスチジン、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンを包含する。例えば、ヘキサペプチド:Lys-Gln-Tyr-D-Arg-Phe-Trpは、2なる正味の正電荷数(該リジンおよびアルギニン残基による寄与)および3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファン残基による寄与)を持つ。
前記芳香族-カチオン性ペプチドは、また芳香族基の最小数(a)と、生理的pHにおける全正味の正電荷数(pt)との間にある関係を持ち、ここでは3aが、pt+1に等しいかそれ未満の、最大数であり、但しptが1である場合には、aも1であり得る。この態様において、該芳香族基の最小数(a)と、該全正味の正電荷数(pt)との間の関係は以下の通りである:
もう一つの態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドは、前記芳香族基の最小数(a)と、前記全正味の正電荷数(pt)との間にある関係を持ち、ここでは2aが、pt+1に等しいかそれ未満の、最大数である。この態様において、該芳香族基の最小数(a)と、該全正味の正電荷数(pt)との間の関係は、以下の通りである:
もう一つの態様において、該芳香族基の数(a)と該全正味の正電荷数(pt)とは等しい。一態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドは、2個の正味の電荷および少なくとも一つの芳香族アミノ酸を持つトリペプチドである。特定の一態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、2個の正味の電荷および2個の芳香族アミノ酸を持つトリペプチドである。
カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、適切には、例えばアンモニアによりアミド化されて、C-末端アミドを生成する。あるいはまた、該C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、任意の第一または第二アミンによりアミド化することができる。該第一または第二アミンは、例えばアルキル、特に分岐したまたは分岐していないC1-C4アルキル、またはアリールアミンであり得る。従って、該ペプチドのC-末端における該アミノ酸は、アミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミド、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミド、またはN-フェニル-N-エチルアミド基に転化することができる。前記芳香族-カチオン性ペプチドのC-末端において見られることのない、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸残基の遊離カルボキシレート基も、これらが該ペプチド内に存在する場合には常に、アミド化することができる。これら内部位置におけるアミド化は、アンモニアまたは上記の如き任意の第一または第二アミンを用いて行うことができる。
芳香族-カチオン性ペプチドは、以下に列挙するペプチドの例を含むが、これらに限定されない:
Lys-D-Arg-Tyr-NH2;
Phe-D-Arg-His;
D-Tyr-Trp-Lys-NH2;
Trp-D-Lys-Tyr-Arg-NH2;
Tyr-His-D-Gly-Met;
Phe-Arg-D-His-Asp;
Tyr-D-Arg-Phe-Lys-Glu-NH2;
Met-Tyr-D-Lys-Phe-Arg;
D-His-Glu-Lys-Tyr-D-Phe-Arg;
Lys-D-Gln-Tyr-Arg-D-Phe-Trp-NH2;
Phe-D-Arg-Lys-Trp-Tyr-D-Arg-His;
Gly-D-Phe-Lys-Tyr-His-D-Arg-Tyr-NH2;
Val-D-Lys-His-Tyr-D-Phe-Ser-Tyr-Arg-NH2;
Trp-Lys-Phe-D-Asp-Arg-Tyr-D-His-Lys;
Lys-Trp-D-Tyr-Arg-Asn-Phe-Tyr-D-His-NH2;
Thr-Gly-Tyr-Arg-D-His-Phe-Trp-D-His-Lys;
Asp-D-Trp-Lys-Tyr-D-His-Phe-Arg-D-Gly-Lys-NH2;
D-His-Lys-Tyr-D-Phe-Glu-D-Asp-D-His-D-Lys-Arg-Trp-NH2;
Ala-D-Phe-D-Arg-Tyr-Lys-D-Trp-His-D-Tyr-Gly-Phe;
Tyr-D-His-Phe-D-Arg-Asp-Lys-D-Arg-His-Trp-D-His-Phe;
Phe-Phe-D-Tyr-Arg-Glu-Asp-D-Lys-Arg-D-Arg-His-Phe-NH2;
Phe-Try-Lys-D-Arg-Trp-His-D-Lys-D-Lys-Glu-Arg-D-Tyr-Thr;
Tyr-Asp-D-Lys-Tyr-Phe-D-Lys-D-Arg-Phe-Pro-D-Tyr-His-Lys;
Glu-Arg-D-Lys-Tyr-D-Val-Phe-D-His-Trp-Arg-D-Gly-Tyr-Arg-D-Met-NH2;
Arg-D-Leu-D-Tyr-Phe-Lys-Glu-D-Lys-Arg-D-Trp-Lys-D-Phe-Tyr-D-Arg-Gly;
D-Glu-Asp-Lys-D-Arg-D-His-Phe-Phe-D-Val-Tyr-Arg-Tyr-D-Tyr-Arg-His-Phe-NH2;
Asp-Arg-D-Phe-Cys-Phe-D-Arg-D-Lys-Tyr-Arg-D-Tyr-Trp-D-His-Tyr-D-Phe-Lys-Phe;
His-Tyr-D-Arg-Trp-Lys-Phe-D-Asp-Ala-Arg-Cys-D-Tyr-His-Phe-D-Lys-Tyr-His-Ser-NH2;
Gly-Ala-Lys-Phe-D-Lys-Glu-Arg-Tyr-His-D-Arg-D-Arg-Asp-Tyr-Trp-D-His-Trp-His-D-Lys-Asp;
Thr-Tyr-Arg-D-Lys-Trp-Tyr-Glu-Asp-D-Lys-D-Arg-His-Phe-D-Tyr-Gly-Val-Ile-D-His-Arg-Tyr-Lys-NH2。
一態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドは、式:Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2 (ここでは、「SS-20」とも称する)を有する。もう一つの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、式:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2 (ここでは、「SS-31」とも称する)を有する。幾つかの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、μ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持つ(即ち、これらは、該μ-オピオイドレセプタを活性化する)。μ-オピオイド活性は、クローニング処理されたμ-オピオイドレセプタに、放射性リガンドを結合することにより、あるいはモルモットの回腸を用いたバイオアッセイによって評価することができる(Schiller等, Eur. J. Med. Chem., 2000, 35:895-901; Zhao等, J. Pharmacol. Exp. Ther., 2003, 307:947-954)。μ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持つペプチドは、典型的には該ペプチドのN-末端(即ち、第一アミノ酸位置)においてチロシン残基またはチロシン誘導体を持つものである。チロシンの適当な誘導体は、2'-メチルチロシン(Mmt)、2',6'-ジメチルチロシン(2',6'-Dmt)、3',5'-ジメチルチロシン(3',5'-Dmt)、N,2',6'-トリメチルチロシン(Tmt)、および2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン(Hmt)を含む。
一態様において、μ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持つペプチドは、式:Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2(ここでは、「SS-01」とも称する)を有する。このペプチドは、正味の正電荷3を有し、これはアミノ酸としてのチロシン、アルギニンおよびリジンの寄与によるものであり、またアミノ酸としてのフェニルアラニンおよびチロシンの寄与による、2つの芳香族基を持つ。このチロシンは、例えば2',6'-ジメチルチロシン(2',6'-Dmt)における如く、チロシンの変性誘導体であり得、式:2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2(同様に「SS-02」とも称する)を持つ化合物を生成する。このペプチドは、640なる分子量を持ち、また生理的pHにおいて3なる正味の正電荷を持つ。該ペプチドは、エネルギーに対して独立の様式で、幾つかの型の哺乳動物細胞を容易に透過する(Zhao等, J. Pharmacol. Exp. Ther., 2003, 304:425-432)。
μ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持たないペプチドは、一般的に該ペプチドのN-末端(即ち、アミノ酸位置1)においてチロシン残基またはチロシン誘導体を持たない。該N-末端におけるアミノ酸は、チロシン以外の任意の非-天然産または天然産のアミノ酸であり得る。一態様において、該N-末端におけるアミノ酸は、フェニルアラニンまたはその誘導体である。フェニルアラニン誘導体の例は、2'-メチルフェニルアラニン(Mmp)、2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2',6'-Dmp)、N,2',6'-トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2'-ヒドロキシ-6'-メチルフェニルアラニン(Hmp)を含む。
μ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持たない芳香族-カチオン性ペプチドの一例は、式:Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2(これは、「SS-20」とも呼ばれる)を持つ。あるいはまた、該N-末端フェニルアラニンは、フェニルアラニンの誘導体、例えば2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2',6'-Dmp)であり得る。一態様において、アミノ酸位置1に2',6'-ジメチルフェニルアラニンを持つペプチドは、式:2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2を持つ。一態様において、該アミノ酸配列は、Dmpが該N-末端位置にこないように再配列される。このようなμ-オピオイドレセプタアゴニスト活性を持たない芳香族-カチオン性ペプチドの一例は、式:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2(これは、また「SS-31」とも呼ばれる)を持つ。
ここにおいて述べるペプチドおよびその誘導体は、更に官能性類似体をも含むことができる。ペプチドは、該類似体が該所定のペプチドと同様な機能を持つ場合には、官能性類似体であると考えられる。該類似体は、例えばペプチドの置換変形体であり得、ここでは1またはそれ以上のアミノ酸が別のアミノ酸により置換されている。これらペプチドの適当な置換変形体は、保存性アミノ酸置換体を包含する。アミノ酸は、その物理化学的な諸特性に従って、以下のように分類することができる:
(a) 非-極性アミノ酸:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G)、Cys(C);
(b) 酸性アミノ酸:Asn(N)、Asp(D)、Glu(E)、Gln(Q);
(c) 塩基性アミノ酸:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
(d) 疎水性アミノ酸:Met(M)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V);および
(e) 芳香族アミノ酸:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)。
ペプチド中のアミノ酸の、同一群内の別のアミノ酸による置換は、保存性置換と呼ばれ、また該元のペプチドの物理化学的な諸特性を示すことができる。対照的に、ペプチド中のアミノ酸の、異なる群内の別のアミノ酸による置換は、一般的に、該元のペプチドの物理化学的な諸特性を変更する可能性がより高い。
μ-オピオイドレセプタを活性化するペプチドの例は、以下の表5に示す芳香族-カチオン性ペプチドを含むが、これらに限定されない:
Dab:ジアミノ酪酸(diaminobutyric)
Dap:ジアミノプロピオン酸
Dmt:ジメチルチロシン
Mmt:2'-メチルチロシン
Tmt:N,2',6'-トリメチルチロシン
Hmt:2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン
dnsDap:β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap:β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio:ビオチン
μ-オピオイドレセプタを活性化しないペプチドの例は、以下の表6に示す芳香族-カチオン性ペプチドを含むが、これらに限定されない:
上記表5および6において示されたペプチドのアミノ酸は、L-またはD-立体配置の何れであってもよい。
上記ペプチドの合成
前記ペプチドは、当分野において周知の任意の方法により合成することができる。該タンパク質を化学的に合成するための適切な方法は、例えばStuart & Youngにより、固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis), 第二版, ピアースケミカル社(Pierce Chemical Company)刊, 1984;およびMethods Enzymol., 1997, 289, アカデミックプレス社(Academic Press, Inc.)刊, ニューヨーク(New York)において記載された方法を含む。
活性薬剤
これらの方法は、例えばAMIまたは組織または臓器移植によって引起された、虚血-再灌流障害を治療するために、本明細書に記載された芳香族-カチオン性ペプチドを、1種またはそれ以上の追加の治療薬剤または活性薬剤と共に使用することを含む。従って、例えば活性成分の組合せは、(1) 併合処方物として同時に処方されかつ投与され、あるいは同時に送達され;(2) 別々の処方物として交互にまたは並行して送達され;あるいは(3) 当分野において公知の任意の他の併用療法により適用することができる。交互療法で送達される場合、ここに記載する方法は、該活性成分を逐次的に、例えば別々の溶液、乳剤、懸濁剤、錠剤、ピルまたはカプセル剤として投与または送達し、あるいは別々のシリンジ内の異なる注射剤によって投与または送達する工程を含むことができる。一般に、交互療法に際しては、各活性成分の有効用量を、別々に、即ち順次に投与し、一方で、同時療法においては、2種またはそれ以上の活性成分の有効用量を一緒に投与する。様々な順序での間欠的併用療法が、利用可能である。
幾つかの態様において、前記併用療法は、併用療法が必要な場合に、対象に対して、アンギオテンシン交換酵素(ACE)阻害剤、β-遮断薬、利尿薬、抗-不整脈薬、抗-狭心症薬、チロシンキナーゼレセプタアゴニスト、抗-凝血薬、および抗-高コレステロール血症薬からなる群から選択される活性薬剤との組合せで、芳香族-カチオン性ペプチド組成物を投与する工程を含む。
一態様において、前記活性薬剤は、抗-不整脈薬である。抗-不整脈薬は、その作用メカニズムに従って、以下の主な4群に系統付けられる:I型、即ちナトリウムチャンネル遮断型;II型、即ちβ-アドレナリン作動遮断型;III型、即ち再分極延長型;およびIV型、即ちカルシウムチャンネル遮断型。I型の抗-不整脈薬は、リドカイン、リグノカインモリシジン、メキシレチン、トカイニド、プロカインアミド、エンカイニド、フレカニド(flecanide)、トカイニド、フェニトイン、プロパフェノン、キニジン、ジソピラミド、およびフレカイニドを包含する。II型の抗-不整脈薬は、プロプラノロールおよびエスモロールを含む。III型の抗-不整脈薬は、活動電位の持続期間を延長することにより作用する薬剤であり、例えばアミオダロン、アルチリド(artilide)、ブレチリウム、クロフィリウム、イソブチリド(isobutilide)、ソタロール、アジミリド(azimilide)、ドフェチリド(dofetilide)、ドロネダロン(dronedarone)、エルセンチリド(ersentilide)、イブチリド、テディサミル(tedisamil)、およびトレセチリド(trecetilide)を含む。IV型の抗-不整脈薬は、ベラパミル、ジルチアゼム、ジギタリス、アデノシン、塩化ニッケル、およびマグネシウムイオンを包含する。虚血-再灌流障害の予防または治療における例示的な抗-不整脈薬の効果は、Mohan等の、HO-4038による心臓保護、虚血および再灌流-媒介急性心筋梗塞を標的とする、新規なベラパミルの誘導体(Cardioprotection by HO-4038, a novel verapamil derivative, targeted against ischemia and reperfusion-mediated acute myocardial infarction)と題する論文:Americal Journal of Physiology - Heart & Circulatory Physiology, 2009, 296(1): H140-51に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、血管拡張神経薬、例えばベンシクラン、シンナリジン、シチコリン、シクランデラート、シクロニケート(cyclonicate)、エブマモニン(ebumamonine)、ヒドララジンフェノキセジル、フルナラジン、イブジラスト、イフェンプロジル、ロメリジン(lomerizine)、ナフロール(naphlole)、ニカメート(nikamate)、ノセルゴリン(nosergoline)、ニモジピン、パパベリン、ペンチフィリン、ノフェドリン(nofedoline)、ビンカミン、ビンポセチン、ビチジル(vichizyl)、ペントキシフェリン、プロスタサイクリン誘導体(例えば、プロスタグランジンE1およびプロスタグランジンI2)、エンドセリンレセプタ遮断薬(例えば、ボセンタン)、ジルチアゼム、ニコランジル、およびニトログリセリンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な血管拡張神経薬の効果は、Garcia-Gonzalez等の、冠状動脈症候群および心筋虚血-再灌流障害の治療における新規な薬理的オプション:レボシメンダンの有力な役割(New pharmacologic options in the treatment of acute coronary syndromes and myocardial ischemia-reperfusion injury: potential role of levosimendan)と題する論文:Minerva Cardioangiologica, 2007, 55(5):625-35に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、抗-狭心症薬、例えば硝酸塩、硝酸イソソルビド、グリセリルトリニトレートおよびペンタエリスリトールトリニトレートである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な抗-狭心症薬の効果は、Kennedy等の、単離されたラットの心臓における、低-流量虚血/再灌流中の心筋機能および代謝に及ぼす、パーヘキシリンおよびオクスフェニシンの効果(Effect of perhexiline and oxfenicine on myocardial function and metabolism during low-flow ischemia/reperfusion in the isolated rat heart)と題する論文:Journal of Cardiovascular Pharmacology, 2000, 36(6):794-801に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、コルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンアセテート、コルチゾンアセテート、チキソコルトールピバレート、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンアルコール、モメタゾン、アムシノニド、ブデソニド、デソニド、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、ハルシノニド、ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、フルオコルトロン、ヒドロコルチゾン-17-ブチレート、ヒドロコルチゾン-17-バレレート、アクロメタゾン(aclometasone)ジプロピオネート、ベタメタゾンバレレート、ベタメタゾンジプロピオネート、プレドニカルバート、クロベタゾン-17-ブチレート、クロベタゾール-17-プロピオネート、フルオコルトロンカプロエート、フルオコルトロンピバレート、およびフルプレドニデンアセテートを含む。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なコルチコステロイドの効果は、Varas-Lorenzo等の、経口的コルチコステロイドの使用および急性心筋梗塞の危険性(Use of oral corticosteroids and the risk of acute myocardial infarction)と題する論文:Atherosclerosis, 2007, 192(2):376-83に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、カルジオグリコシド、例えばジゴキシンおよびジギトキシンである。
一態様において、前記活性薬剤は、利尿剤、例えばチアジド利尿剤(例えば、ヒドロクロロチアジド、メチクロチアジド、トリクロルメチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、およびペンフルチジド)、ループ利尿剤(例えば、フロセミド、エタクリン酸、ブメタニド、ピレタニド、アゾセミド、およびトラセミド)、Kスペアリング(sparing)利尿剤(例えば、スピロノラクトン、トリアムテレン、およびカンレノ酸カリウム)、浸透性利尿剤(例えば、イソソルビド、D-マニトールおよびグリセリン)、非-チアジド系利尿剤(例えば、メチクラン、トリパミド、クロルタリドンおよびメフルシド)、およびアセタゾラミドである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な利尿剤の効果は、Kasama等の、第一前部急性心筋梗塞に罹っている患者における心臓交感神経活性および左心室改質に及ぼす、血管内心房性ナトリウム利尿ペプチドの効果(Effects of intravenous atrial natriuretic peptide on cardiac sympathetic nerve activity and left ventricular remodeling in patients with first anterior acute myocardial infarction)と題する論文:Journal of the American College of Cardiology, 2007, 49(6):667-74に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、鎮静剤、例えばニトラゼパム、フルラゼパムおよびジアゼパムである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な鎮静剤の効果は、Lucchinetti等の、鎮静性濃度でのセボフルランの吸入は、ヒトにおける虚血-再灌流障害に対する内皮保護をもたらす(Sevoflurane inhalation at sedative concentrations provides endothelial protection against ischemia-reperfusion injury in humans)と題する論文:Anesthesiology, 2007, 106(2):262-268に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、例えばアスピリンまたはインドメタシンである。一態様において、前記心臓血管作用薬は、血小板凝集阻害剤、例えばクロピドグレル、チクロピデン(ticlopidene)またはアスピリンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なシクロオキシゲナーゼ阻害剤の効果は、Bassuk等の、心室細動のブタモデルにおける、周期的促進(pGz)心肺救急蘇生(CPR)前の、非-選択的シクロオキシゲナーゼ阻害(Non-selective cyclooxygenase inhibition before periodic acceleration (pGz) cardiopulmonary resuscitation (CPR) in a porcine model of ventricular fibrillation)と題する論文:Resuscitation, 2008, 77(2):250-7に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、例えばカプトプリル、アラセプリル、リジノプリル、イミダプリル、キナプリル、テモカプリル、デラプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、トランドラプリル、エナラプリル、セロナプリル(ceronapril)、ホシノプリル、イマダプリル(imadapril)、モベルトプリル(mobertpril)、ペリンドプリル、ラミプリル、スピラプリル、およびランドラプリル(randolapril)、およびこれら化合物の塩である。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なACE阻害剤の効果は、Kingma, J.H. & van Gilst, W.H.の、急性心筋梗塞における血栓溶解治療中の、アンギオテンシン変換酵素阻害:カプトプリルおよび血栓溶解に関する研究(CATS)(Angiotensin-converting enzyme inhibition during thrombolytic therapy in acute myocardial infarction: the Captopril and Thrombolysis Study (CATS))と題する論文:Herz, 1993, 18, 別冊1:416-23に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、アンギオテンシンIIアンタゴニスト、例えばロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、エプロサルタン(eprosartan)、およびイルベサルタンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なアンギオテンシンIIアンタゴニストの効果は、Moller等の、急性心筋梗塞後の左心室収縮および拡張機能に及ぼす、ロサルタンおよびカプトプリルの効果:アンギオテンシンIIアンタゴニストロサルタン(OPTIMAAL)超音波心臓造影小研究を用いた、心筋梗塞における最適テストの結果(Effects of losartan and captopril on left ventricular systolic and diastolic function after acute myocardial infarction: results of the Optimal Trial in Myocardial Infarction with Angiotensin II Antagonist Losartan (OPTIMAAL) echocardiographic substudy)と題する論文:American Heart Journal, 2004, 147(3):494-501に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、血栓溶解剤、例えば組織-型プラスミノーゲン活性化剤(例えば、アルテプラーゼ、チソキナーゼ(tisokinase)、ナテプラーゼ(nateplase)、パミテプラーゼ(pamiteplase)、モンテプラーゼ(monteplase)、およびラテプラーゼ(rateplase)、ナサルプラーゼ(nasaruplase)、ストレプトキナーセ、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、およびアニソイル化プラスミノーゲン/ストレプトキナーセ活性化剤の複合物(APSAC, エミナーゼ(Eminase), ビーチャムラボラトリーズ(Beecham Laboratories))、アスピリン、ヘパリン、およびビット(Vit)K-依存性ファクタを阻害するワーファリン、ファクタXおよびIIを阻害する低分子量ヘパリン、トロンビン阻害剤、血小板GP IIb IIIaレセプタの阻害剤、組織ファクタ(TF)の阻害剤、ヒトフォンウィルブラントファクタの阻害剤、レプチラーゼ、TNK-t-PA、スタフィロキナーゼ、または動物唾液腺プラスミノーゲン活性化剤である。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な血栓溶解剤の効果は、Sikri, N. & Bardia, A.の、急性心筋梗塞におけるストレプトキナーゼ使用の変遷(A history of streptokinase use in acute myocardial infarction)と題する論文:テキサスハートインスティチュートジャーナル(Texas Heart Institute journal), 2007, 34(3):318-27に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、カルシウムチャンネル遮断剤、例えばアラニジピン、エフォニジピン、ニカルジピン、バニジピン(bamidipine)、ベニジピン、マニジピン、シルニジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、フェロジピン、アムロジピン、ジルチアゼム、ベプリジル、クレンチアゼム、フェンジリン(phendilin)、ガロパミル(galopamil)、ミベフラジル(mibefradil)、プレニラミン、セモチアジル(semotiadil)、テロジリン、ベラパミル、シルニジピン、エルゴジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン(lercanidipine)、ニモジピン、シンナリジン、フルナリジン、リドフラジン、ロメリジン、ベンシクラン、エタフェノン、およびペルヘキシリンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なカルシウムチャンネル遮断剤ジルチアゼムの効果は、Fansa等の、ジルチアゼムは、心肺バイパス形成術における炎症性応答を阻害するか?(Does diltiazem inhibit the inflammatory response in cardiopulmonary bypass?)、と題する論文:メディカルサイエンスモニタ(Medical Science Monitor), 2003, 9(4):PI30-6に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、トロンボキサンレセプタアンタゴニスト、例えばイフェトロバン(ifetroban)、プロスタサイクリン模擬体、またはホスホジエステラーゼ阻害剤である。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なトロンボキサンレセプタアンタゴニストの効果は、Viehman等の、トロンボキサンレセプタアンタゴニストとしてのダルトロバンは、冠状動脈内皮を保護することなしに、心筋虚血を伴う、再灌流障害に対して心筋を保護する(Daltroban, a thromboxane receptor antagonist, protects the myocardium against reperfusion injury following myocardial ischemia without protecting the coronary endothelium)と題する論文:実験的および臨床的薬理学における方法並びに発見(Methods & Findings in Experimental & Clinical Pharmacology), 1990, 12(10):651-6に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、ラジカル捕捉剤、例えばエダラボン、ビタミンE、およびビタミンCである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なラジカル捕捉剤の効果は、Higashi等の、心臓血管障害を治療するための、新規なフリーラジカル捕捉剤としてのエダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)(Edaravone (3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one), a novel free radical scavenger, for treatment of cardiovascular diseases)と題する論文:心臓血管作用薬の発見に関する最近の特許(Recent Patents on Cardiovascular Drug Discovery), 2006, 1(1):85-93に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、抗-血小板作用薬、例えばチクロピジン塩酸塩、ジピリダモール、シロスタゾール、エチルアイコサペンテート、サルポグレラート塩酸塩、ジラゼプ塩酸塩、トラピジル、非-ステロイド系抗炎症剤(例えば、アスピリン)、ベラプロストナトリウム、イロプロスト、およびインドブフェンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な抗-血小板作用薬の効果は、Ochiai等の、急性心筋梗塞に対する最初のステント処理後の、臨床並びに血管造影の結果に及ぼすシロスタゾールの効果、影響(Impact of cilostazol on clinical and angiographic outcome after primary stenting for acute myocardial infarction)と題する論文:American Journal of Cardiology, 1999, 84(9):1074-6, A6, A9に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、β-アドレナリンレセプタ遮断薬、例えばプロプラノロール、ピンドロール、インデノロール、カルテオロール、ブニトロロール、アテノロール、アセブトロール、メトプロロール、チモロール、ニプラジロール、ペンブトロール、ナドロール、チリソロール、カルベジロール、ビソプロロール、ベタキソロール、セリプロロール、ボピンドロール、ベバントロール、ラベタロール、アルプレノロール、アモスラロール、アロチノロール、ベフノロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフェラロール(buferalol)、ブプランドロール(buprandolol)、ブチリジン(butylidine)、ブトフィロロール、カラゾロール、セタモロール、クロラノロール、ジレバロール、エパノロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノロール、モプロロール、ナドキソロール、ネビボロール(nevibolol)、オクスプレノロール、プラクトール(practol)、プロネタロール、ソタロール、スフィナロール(sufinalol)、タリンドロール(talindolol)、テルタロール(tertalol)、トリプロロール、キシベノロール()、およびエスモロールである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なβ-アドレナリンレセプタ遮断薬の効果は、Kovacs等の、Ca(2+)チャンネルおよびβ-アドレナリンレセプタ遮断薬の心臓保護効果における、AktおよびERK活性化の主要な役割(Prevalent role of Akt and ERK activation in cardioprotective effect of Ca(2+) channel- and beta-adrenergic receptor blockers)と題する論文:Molecular & Cellular Biochemistry, 2009, 321(1-2):155-164に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は、α-レセプタ遮断薬、例えばアモスラロール、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、ブナゾシン、ウラピジル、フェントラミン、アロチノロール、ダピプラゾール、フェンスピリド、インドラミン、ラベタロール、ナフトピリジル、ニセルゴリン、タムスロシン、トラゾリン、トリマゾシン、およびヨヒンビンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なα-レセプタ遮断薬の効果は、Kim等の、心筋虚血-再灌流によるカタラーゼの活性化における、アドレナリン経路の関与(Involvement of adrenergic pathways in activation of catalase by myocardial ischemia-reperfusion)と題する論文:アメリカンジャーナルオブフィジオロジー-レギュレートリーインテグレーティブ&コンパラティブフィジオロジー(American Journal of Physiology-Regulatory Integrative & Comparative Physiology), 2002, 282(5):R1450-1458に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は変力薬である。正の変力薬は、心筋の収縮性を高め、また代償不全の鬱血性心不全、心源性ショック、敗血症性ショック、心筋梗塞、心筋症等の状態における、心臓機能を維持するために使用される。正の変力薬の例は、ベルベリン、ビピリジン誘導体、イナムリノン(Inamrinone)、ミルリノン、カルシウム、カルシウム双受体、レボシメンダン(Levosimendan)、強心性グリコシド、ジゴキシン、カテコールアミン、ドーパミン、ドブタミン、ドペキサミン(Dopexamine)、エピネフリン(アドレナリン)、イソプレナリン(イソプロテレノール)、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、エイコサノイド(Eicosanoids)、プロスタグランジン、ホスホジエステラーゼ阻害剤、エノキシモン、ミルリノン、テオフィリン、およびグルカゴンを含むが、これらに限定されない。負の変力薬は、心筋の収縮性を低下し、またアンギナ等の状態における、心臓の作業量を下げるために使用される。負の変力性が、急に心不全状態としあるいは該状態を悪化する可能性を持つのに対して、幾つかのβ-遮断剤(例えば、カルベジロール、ビソプロロールおよびメトプロロール)は、鬱血性心不全における病的状態および死亡率を低下することが示されている。負の変力薬の例は、β-遮断剤、カルシウムチャンネル遮断剤、ジルチアゼム、ベラパミル、クレビジピン(Clevidipine)、キニジン、プロカインアミド、ジソピラミド、およびフレカイニドを含むが、これらに限定されない。
一態様において、前記活性薬剤は交感神経阻害剤、例えばクロニジン、グアンファシン(guanfacine)、グアナベンズ、メチルドパ、およびレセルピン、ヒドララジン、トドララジン、ブドララジン、およびカドララジンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な交感神経阻害剤の効果は、Chamberlain, D.A. & Vincent, R.の、併合レセプタの介入および心筋梗塞(Combined receptor intervention and myocardial infarction)と題する論文:Drugs, 1984, 28 追補2:88-108に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤はジギタリス処方物、例えばジギトキシン、ジゴキシン、メチルジゴキシン、デスラノシド、ベスナリノン、ラナトシドC、およびプロスシラリジンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的なジギタリス処方物の効果は、Sanazano, P.J.の、急性心筋梗塞および心臓緊急疾患におけるデスラノシドの利用:ジギタリス飽和を評価し、および筋肉内ジギタリス適用のための、試験的薬剤(Use of deslanoside in acute myocardial infarction and cardiac emergencies: a probative agent for assessing digitalis saturation and for intramuscular digitalization)と題する論文:アメリカンプラクティショナー&ダイジェストオブトリートメント(American Practitioner & Digest of Treatment), 1957, 8(12):1933-41に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は抗-高脂血症薬、例えばアトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、クリノフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、コレスチミド、およびコレスチラミンである。虚血-再灌流障害を予防または治療する際の、例示的な抗-高脂血症薬の効果は、Ye等の、ジピリダモールおよび低用量のアトルバスタチンの組合せによる、虚血-再灌流障害に対する増強された心臓保護作用(Enhanced cardioprotection against ischemia-reperfusion injury with a dipyridamole and low-dose atorvastatin combination)と題する論文:アメリカンジャーナルオブフィジオロジー-ハート&サーキュレートリーフィジオロジー(American Journal of Physiology - Heart & Circulatory Physiology), 2007, 293(1):H813-8に記載されている。
一態様において、前記活性薬剤は免疫抑制剤である。免疫抑制剤の例は、グルココルチコイド、細胞成長抑制剤、抗体、イムノフィリンに作用する薬物、およびその他の薬物を含むが、これらに限定されない。例えば、移植後の臓器または組織拒絶反応を緩和または防止するために使用される一般的な免疫抑制性薬物は、シクロスポリン、プレドニゾン、アザチオプリン、タクロリムスまたはFK506、ミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、およびOKT3、並びにATGAMおよびチモグロブリンを含むが、これらに限定されない。幾つかの態様において、該活性薬剤はシクロスポリン、またはその官能性誘導体またはその類似体、例えばNIM811を含む。
活性薬剤と結合した芳香族-カチオン性ペプチドを含む組成物:
幾つかの態様において、本明細書に記載される本発明の組成物および方法は、リンカーにより相互に結合された、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを含む。これらの分子は、当分野において公知の方法、例えば架橋剤の添加により結合することができる。架橋剤の非-限定的な例は、ジアルデヒド、カルボジイミド、ジ-マレイミド等を含む。これらの分子、ペプチド、および架橋剤の添加順序は、典型的には重要ではない。例えば、該ペプチドを該架橋剤と混合し、次いでシクロスポリン等の活性薬剤を添加することができる。あるいはまた、シクロスポリン等の活性薬剤を該架橋剤と混合し、次いで該ペプチドを添加することもできる。付随的にまたは代わりに、該ペプチドとシクロスポリンとを混合し、次いで該架橋剤を添加することも可能である。
幾つかの態様において、前記結合されたペプチドとシクロスポリンは、細胞に送達される。幾つかの態様において、これらの分子は、該細胞内で、相互に開裂されることなしに作用する。他の例においては、シクロスポリン等の該活性薬剤を、該芳香族-カチオン性ペプチドから開裂することが有利なことであり得る。幾つかの態様において、該結合は、該細胞内の酵素によって開裂し得る。このような酵素は、プロテアーゼ、エステラーゼ(これについては、例えばVangapandu, S.等の「強力な血液-繁殖体殺滅性抗マラリア薬としての、8-キノリンアミンおよびそのプロプロドラッグ複合体(8-Quinolinamines and their pro prodrug conjugates as potent blood-Schizontocidal antimalarial agents)」と題する論文:11(21) Bioorganic & Medicinal Chem., 2003, pp.4557-4568を参照のこと);メタロプロテアーゼ(これについては、例えばPatrick, A.等の、「プロテアーゼレベルを検出し、またこれを管理するためのヒドロゲル(Hydrogels for the detection and management of protease levels)」と題する論文:10(10) Macromol. Biosci., 2010, pp.1184-1193を参照のこと)、ここで該ペプチド配列:GPQGIWGQが、該酵素に対して感受性のリンカーであり、また該ペプチド配列は、MMP-1および-12.33両者によって開裂し得ることに注意;およびβ-グルコシダーゼ(これについては、例えばSedlak, M.等の「抗-真菌性薬物:β-グルコシダーゼ感受性アンホテリシンB-スターポリ(エチレングリコール)複合体に関する新規標的系(New targeting system for antimycotic drugs: β-Glucosidase sensitive Amphotericin B-star poly(ethylene glycol) conjugate)」と題する論文:18(9) Bioorganic & Medicinal Chem. Lett., 2008, pp.2952-2956を参照のこと)を含むが、これらに限定されない。
幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンは、ヒルドゾン(hyrdozone)等のpH-感受性リンカーによって結合される(これについては、例えばGreenfield, R.等の「酸-感受性ヒドラゾンリンカーを用いて合成されたアドリアマイシン免疫複合体のインビトロ評価(Evaluation in vitro of Adriamycin Immunoconjugates Synthesized Using an Acid-sensitive Hydrazone Linker)」と題する論文:Cancer Res., 1990, 660-6607を参照のこと)。追加の非-限定的な開裂性リンカーの例は、SMPT(即ち、4-サクシンイミジルオキシカルボニル-エチル-a-[2-ピリジルジチオ]トルエン)、スルホ-LC-SPDP(即ち、スルホサクシンイミジル-6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート)、LC-SPDP(即ち、サクシンイミジル-6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート)、スルホ-LC-SPDP(即ち、20スルホサクシンイミジル-6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート)、SPDP(即ち、N-サクシンイミジル-3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド-ヘキサノエート)、およびAEDP(即ち、3-[(2-アミノエチル)-ジチオ]プロピオン酸-HCl)を含む。幾つかの態様において、該組成物は、シクロスポリンを含む活性薬剤を含有し、また該結合されたペプチドは、1種またはそれ以上の、Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2、およびD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩を含む。幾つかの態様において、該組成物は、酵素により開裂し得るリンカーにより、シクロスポリンと結合された、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩を含む。
芳香族-カチオン性ペプチドの予防並びに治療的利用:
一般的説明:本明細書に記載する前記芳香族-カチオン性ペプチドは、虚血-再灌流障害に関連する疾患または有害な状態を予防しまたは治療するのに有用である。上記したペプチドと活性薬剤との組合せは、組織または臓器の任意の虚血および/または再灌流を治療する上で有用である。哺乳動物の組織または臓器における虚血は、酸素欠乏(低酸素症)および/またはグルコース(例えば、基質)欠乏によって引起される、多岐に渡る病理学的な状態である。組織または臓器の細胞における酸素および/またはグルコースの欠乏は、エネルギー生成能力の低下または完全な喪失およびその結果としての細胞膜を横切って活性イオンを輸送する機能の喪失へと導く。酸素および/またはグルコースの欠乏は、またミトコンドリア膜における透過率変化を含む、他の細胞膜における病理学的な変化へと導く。更に、他の分子、例えば該ミトコンドリア内で一般的に区分されているアポトーシスタンパク質は、細胞質内に滲みだして、アポトーシス細胞死を引起す恐れがある。深部の虚血は、壊死性の細胞死に導く恐れがある。
特定の組織または臓器における虚血または低酸素症は、該組織または臓器への血液供給の喪失または極端な低下によって引起される可能性がある。血液供給の喪失または極端な低下は、例えば移植(例えば、臓器の切除、レシピエントへの移動および導入)、血栓塞栓性発作、冠動脈アテローム性動脈硬化、または組織、臓器または該臓器の一部領域への血流を制限する、血管の疾患または状態によるものであり得る。このような疾患または状態の非-限定的な一例は、末梢血管の疾患である。虚血または低酸素症により影響を受ける組織は、一般に筋肉、例えば心筋、骨格筋または平滑筋である。虚血または低酸素症により影響を受ける臓器は、虚血または低酸素症を被る任意の臓器であり得る。虚血または低酸素症により影響を受ける臓器の例は、脳、心臓、肺臓、腎臓および前立腺を包含する。例えば、心筋の虚血または低酸素症は、通常心臓血管および毛細血管を通しての血液供給による、心臓組織への酸素の送達量の低下または喪失へと導く、アテローム性動脈硬化症または血栓症による遮断によって引起される。このような心臓の虚血または低酸素症は、痛みおよび影響を受けた心筋の壊死を引起す恐れがあり、また最終的に心不全に導く恐れがある。骨格筋または平滑筋における虚血または低酸素症は、同様な原因により起こり得る。例えば、腸の平滑筋または手足の骨格筋における虚血または低酸素症も、アテローム性動脈硬化症または血栓症による遮断によって引起される可能性がある。移植処置に関与する任意の臓器または組織も、虚血または低酸素症によって影響される可能性がある。
再灌流は、血液の流れが低減または遮断されている任意の臓器または組織への血流の回復である。例えば、血流を、虚血または低酸素症による影響を受けた任意の臓器または組織に対して回復させることができる。該血流の回復(再灌流)は、当分野において公知の任意の方法によって起り得る。例えば、虚血性心臓組織の再灌流は、血管形成術、冠状動脈人工副行路形成、または血栓溶解性薬物の使用により生じ得る。
幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよび第二の活性薬剤を含む薬理組成物は、脳、心臓、肺臓、腎臓、前立腺、または虚血および/または再灌流障害を被り易い他の臓器/組織の虚血および/または再灌流障害に罹っている対象に対して、投与される。該芳香族-カチオン性ペプチドおよび第二の活性薬剤は、別々に、逐次的に、または同時に、有効量で投与して、該脳、心臓、肺臓、腎臓、前立腺、または他の臓器/組織の虚血および/または再灌流障害の影響を軽減または改善することを可能とする。
本開示は、また血管閉塞障害または心臓の虚血-再灌流障害の恐れがある(またはこれらに罹り易い)対象を治療する、予防的および治療的方法両者をも提供する。従って、本発明の方法は、有効量の芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩、および1種またはそれ以上の活性薬剤、例えばシクロスポリンを、必要な場合に、対象に投与することにより、該対象における血管閉塞障害または心臓の虚血-再灌流障害を予防および/または治療するために提供される。
様々な態様においては、適当なインビトロまたはインビボアッセイを行って、芳香族-カチオン性ペプチドおよび1種またはそれ以上の活性薬剤の具体的な組合せの効果およびその投与が治療にとって必要か否かを決定する。様々な態様においては、インビトロアッセイを、代表的な動物モデルを用いて行い、与えられた芳香族-カチオン性ペプチドおよび心血管作用薬による治療法が、虚血-再灌流障害の予防または治療において所望の効果を発揮するか否かを決定することができる。治療において使用する化合物は、対象としてのヒトにおいてテストする前に、ラット、マウス、鶏、ブタ、ウシ、サル、ウサギ等を含むがこれらに限定されない、適当な動物モデル系においてテストすることができる。同様に、インビボテストにおいては、当分野において公知の動物モデル系の何れかを、対象としてのヒトに投与する前に、使用することができる。
一局面において、本発明は、対象における、急性心筋梗塞障害を、該対象に、該状態の開始または進行を阻害する、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを投与することによって、予防するための方法を提供する。急性心筋梗塞障害に罹る恐れのある対象を、例えばここに記載するような診断アッセイまたは予知アッセイの何れかまたはその組合せにより同定することができる。予防的用途において、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを含む薬理組成物または医薬は、ある疾患または状態に罹り易い、あるいはまたその危険性のある対象に、該危険性を排除しまたは減じ、その重篤度を軽減しあるいは該疾患の発症を遅らせるのに十分な量で投与される。ここで、該疾患の発症とは、該疾患の生化学的、組織学的および/または挙動上の諸症状、その合併症および該疾患の進展中に示される中間的病理学的表現型を包含する。予防的な芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンの投与は、該異常に特徴的な症状の発現前に行って、疾患または障害を予防し、あるいはまたその進行を遅らせることができる。適当な該化合物は、上記したスクリーニングアッセイに基いて決定することができる。
本発明の技術のもう一つの局面は、治療の目的で、対象における血管の閉塞障害または心臓の虚血-再灌流障害を処置する方法を含む。治療用途において、該組成物または医薬は、上記疾患または状態に罹っている可能性のある、または既に罹っている対象に、該疾患の諸症状(その合併症および該疾患の進展中に示される中間的病理学的表現型を包含する)を治癒させ、あるいは少なくとも部分的に抑止するのに十分な量で投与される。故に、本発明は、心臓の虚血-再灌流障害に罹っている個体を治療する方法を提供する。
ここに記載する芳香族-カチオン性ペプチド、例えばD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2、または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩による治療は、とりわけ急性腎臓障害(ARI)から腎臓を保護するために有用であることが示されている。これについては、例えば米国特許出願第12/392,565号を参照のこと。この米国特許出願の内容全体を参考としてここに組入れる。本発明の技術のもう一つの局面は、任意の臓器または組織における虚血を治療するための方法を含む。例えば、該方法は、腎臓(または他の臓器)が、十分な血液供給を受けることができない状態(虚血)の治療に関する。虚血は、急性腎臓障害(ARI)の主な原因である。腎臓の一方または両方の虚血は、大動脈の外科手術中、腎臓移植中、または心血管の麻酔処置中に共通に見られる問題である。大動脈および/または腎動脈のクランプ処理を含む外科的処置、例えば副腎および傍腎腹部大動脈瘤および腎臓移植のための外科手術は、また特に腎臓虚血を起こし易く、これは、術後の合併症および初期同種移植片拒絶反応へと導く。これらの型の外科手術を受けている、危険率の高い患者においては、腎機能不全の発症率が、50%という高い値にあることが報告されている。当業者は、上記した虚血の結果が、腎臓に制限されるものではなく、外科的処置を受けた他の臓器においても起り得ることを理解するであろう。従って、幾つかの態様において、このような虚血は、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩等の芳香族-カチオン性ペプチド、およびシクロスポリンまたはその誘導体または類似体等の活性薬剤の投与によって、治療され、予防され、改善(例えば、虚血の重篤度の低下)される。
本発明の技術のもう一つの局面は、シクロスポリン-誘発性腎毒性の予防または改善法を含む。例えば、幾つかの態様においては、芳香族-カチオン性ペプチドを含む薬理組成物または医薬が、シクロスポリン-誘発性腎毒性の症状を呈するまたはその危険性のある対象に投与される。例えば、幾つかの態様において、シクロスポリンが、臓器または組織移植後の免疫抑制剤として投与された対象には、また治療上有効な量の芳香族-カチオン性ペプチドが投与される。幾つかの態様において、該ペプチドは、臓器または組織移植を受ける前に、臓器または組織移植処置中におよび/または臓器または組織移植処置後に、該対象に投与される。幾つかの態様において、該対象は、臓器または組織移植前に、その最中におよび/またはその後に、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンの組合せの投与を受ける。該芳香族-カチオン性ペプチドおよび場合によりシクロスポリンを含有する前記薬理組成物または医薬は、腎毒性の諸症状(その合併症および中間的病理学的表現型を含む)を治癒し、または少なくとも部分的に抑止するのに十分な量にて投与される。例えば、幾つかの態様において、該組成物または医薬は、腎毒性(該状態の生化学的、組織学的および/または挙動的諸症状を含む)、その合併症および中間的病理学的表現型の危険性を排除し、該危険性を軽減し、該疾患の重篤度を低下し、あるいはその発症を遅らせるのに十分な量で投与される。予防的な芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンの投与を、該異常に特徴的な諸症状の発現前に行って、該状態を予防し、あるいはまたその進行を遅らせることが可能である。典型的には、該ペプチドの投与を受けた対象は、該ペプチドの投与を受けていない対象と比較して、より健康的な移植臓器または組織を持ち、および/または一層長期間に及ぶ、より高いおよび/またはより一貫したシクロスポリンの適用量または養生法を維持し得るであろう。幾つかの態様において、シクロスポリンとの組合せで、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩の投与を受けた患者は、より長期のおよび/またはより一貫したシクロスポリンによる治療法、および/またはより高いシクロスポリンの用量に耐えることができるであろう。幾つかの態様において、シクロスポリンとの組合せで、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩の投与を受けた患者は、該ペプチドの投与を受けていない患者と比較して、シクロスポリンに対する高い許容度を持つであろう。
ここに記載した芳香族-カチオン性ペプチド、例えばD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2による治療は、特に、島細胞のアポトーシスを減じ、また移植後の島細胞の生存率を高めるのに有用であることが示されている。これについては、例えば米国特許第7,550,439号および同第7,781,405号を参照のこと。これら米国特許の内容全体を、参考としてここに組入れる。従って、本発明の技術のもう一つの局面では、例えば移植の目的で、臓器または組織を保存するための組成物および方法を提供する。例えば、取出された臓器は、血流の欠如のために、再灌流障害を被り易い。従って、ここに記載される該芳香族-カチオン性ペプチドおよび活性薬剤(例えば、シクロスポリン、またはその誘導体または類似体)は、該取出された臓器における再灌流障害を防止するために使用することができる。例えば、幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを含む薬理組成物または医薬は、例えば移植用の臓器または組織の調製および取出し中に起るような、長期に渡る虚血の前および/またはその最中に、ドナー哺乳動物に対して投与される。付随的にまたは代わりに、幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを含む該薬理組成物または医薬は、該取出された臓器に対して投与される。例えば、幾つかの態様において、該取出された臓器は、標準的な緩衝溶液、例えば当分野において通常使用されている緩衝溶液中に入れられる。例えば、取出された心臓は、上記の如きペプチドおよび活性薬剤を含む、心停止用の溶液中に保存することができる。該標準的な緩衝溶液において有用な、該ペプチドおよび活性薬剤の濃度は、当業者により容易に決定することができる。このような濃度は、ペプチドについて、例えば約0.1nM〜約10μMなる範囲、好ましくは約1μM〜約10μMなる範囲にある。付随的にまたは代わりに、幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンを含む前記薬理組成物または医薬は、該臓器のレシピエントに対して投与される。該組成物または医薬は、再灌流の際に、該臓器に対する虚血-再灌流障害を排除し、その危険性を軽減し、または該障害の重篤度を軽減するのに十分な量で投与される。
投与法および有効投与量
細胞、臓器または組織と、ペプチドおよび1種またはそれ以上の追加の活性薬剤とを接触させるための、当分野において公知の任意の方法を、利用することができる。適当な方法は、インビトロ、生体外取出し状態(エクスビボ(ex vivo))またはインビボ法を包含する。インビボ法は、典型的に、哺乳動物、適切にはヒトに対して、芳香族-カチオン性ペプチドおよび活性薬剤、例えば上記のようなものを投与することを含む。治療のためにインビボで使用する場合、該芳香族-カチオン性ペプチドおよび活性薬剤は、該対象に対して有効な量(即ち、所定の治療効果を発揮する量)で投与される。該用量および投与法は、該対象における該障害の程度、使用する特定の芳香族-カチオン性ペプチドの諸特性、例えば治療指数、該対象、および該対象の病歴に依存するであろう。幾つかの態様においては、該活性薬剤は、シクロスポリンを含む。
前記有効量は、医師および臨床医には馴染みの深い方法によって、予備-臨床的テストおよび臨床的テスト中に決定することができる。これらの方法において有用な有効量のペプチドおよび活性薬剤は、その投与を要する際に、哺乳動物に対して、薬理化合物を投与するための多数の周知の方法の何れかによって投与することができる。例えば、幾つかの態様において、該ペプチドおよび該追加の活性薬剤は、全身的にまたは局所的に投与することができる。
前記化合物は、製薬上許容される塩として処方することができる。該用語「製薬上許容される塩」とは、患者、例えば哺乳動物に対して投与することのできる塩基または酸から調製し得る塩(例えば、所定の投与法に対して許容される哺乳動物の安全性を持つ塩)を意味する。しかし、これらの塩は、必ずしも製薬上許容される塩である必要がないことを理解すべきである。例えば中間化合物の塩は、患者に投与するためのものではない。製薬上許容される塩は、製薬上許容される無機または有機塩基および製薬上許容される無機または有機酸から導くことができる。更に、ペプチドが塩基性部分、例えばアミン、ピリジンまたはイミダゾール等、および酸性部分、例えばカルボン酸またはテトラゾール等の両者を含む場合、両性イオンを形成することができ、これらもここで使用する用語「塩」の範囲内に含まれる。製薬上許容される無機塩基から誘導される塩は、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン(III)、マンガン(II)、カリウム、ナトリウム、および亜鉛塩等を含む。製薬上許容される有機塩基から誘導される塩は、第一、第二および第三アミン(置換アミンを含む)、環式アミン、天然産のアミン等、例えばアルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン(piperadine)、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミン等との塩を含む。製薬上許容される無機酸から誘導される塩は、ホウ酸、炭酸、ヒドロハロゲン酸(臭化水素酸、塩化水素酸、フッ化水素酸、またはヨウ化水素酸)、硝酸、リン酸、スルファミン酸、および硫酸との塩を含む。製薬上許容される有機酸から導かれる塩は、脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、および酒石酸)、脂肪族モノカルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、蟻酸、プロピオン酸、およびトリフルオロ酢酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、p-クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチシン酸、馬尿酸およびトリフェニル酢酸)、芳香族ヒドロキシ酸(例えば、o-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸および3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(例えば、フマール酸、マレイン酸、シュウ酸、およびコハク酸)、グルクロン酸、マンデル酸、粘液酸、ニコチン酸、オロチン酸、パモ酸、パントテン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンホスルホン酸、エディシル酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)、キシナホエ(xinafoic)酸(1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)等との塩を含む。幾つかの態様において、該製薬上許容される塩は、酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩を含む。
ここに記載の前記化合物は、ここに記載された障害の治療または予防のために、対象に対して、単独でまたは組合せで投与するための薬理組成物に配合することができる。幾つかの態様において、このような組成物は、典型的に前記活性薬剤(例えば、ペプチドおよびシクロスポリン)および製薬上許容される担体を含む。ここで使用する用語「製薬上許容される担体」とは、薬剤投与と適合する、塩水、溶媒、分散媒体、被覆物、抗菌性および抗-真菌性薬剤、等張性および吸収遅延性薬剤等を含む。また、補足的活性化合物を、該組成物に配合することも可能である。
前記薬理組成物は、典型的にその意図した投与経路と適合するように処方される。投与経路の例は、腸管外投与(例えば、静脈内、皮内、腹腔内、または皮下投与)、経口投与、吸入、経皮(局所)投与、眼球内、イオン導入、および経粘膜投与を含む。腸管外、皮内、または皮下投与による適用のために使用される液剤および懸濁剤は、以下に列挙する成分を含むことができる:無菌希釈剤、例えば注射用の水、塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールまたは他の合成溶剤;抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;酸化防止剤、例えばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;バッファー、例えばアセテート、シトレートまたはリン酸塩;および張性を調節するための薬剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムにより、pHを調節することができる。該腸管外製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使捨て可能な注射器または多重投与用バイアル内に収容することができる。患者または治療医師の便宜のために、該投与処方物は、所定の治療クール(例えば、7日間の治療)用の、あらゆる必要な機器(例えば、薬物を含むバイアル、希釈剤を含むバイアル、注射器および注射針)を含むキットとして提供することができる。
注射用途に適した薬理組成物は、無菌注射液または分散液をその場で調製するために、無菌水性溶液(該組成物が水溶性である場合)または分散液および無菌粉末を含むことができる。静脈内投与のために、適切な担体は、生理塩水、静菌化蒸留水、クレモフォアEL(Cremophor ELTM)(バスフ(BASF)社、N.J.州パーシッパニ(Parsippany))またはリン酸緩衝塩水(PBS)を含む。あらゆる場合において、腸管外投与用の組成物は、無菌でなければならず、また容易な注射可能性を持つ程度に流動性でなければならない。これは、製造並びに保存条件下で安定でなければならず、またバクテリアおよび真菌等の微生物の汚染作用に抗して保存される必要がある。
前記薬理組成物は、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコール等)、および適当なこれらの混合物等を包含する、溶媒または分散媒であり得る、担体を含むことができる。前記の適切な流動性は、例えばレシチン等の被覆物の使用により、分散液の場合における必要な粒度の維持により、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の抑制、阻止は、様々な抗菌性および抗-真菌性薬剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チオメラゾール(thiomerasol)等の使用により実現し得る。グルタチオンおよび他の酸化防止剤を、酸化防止の目的で該組成物に含めることができる。多くの場合においては、等張性薬剤、例えば砂糖、ポリアルコール、例えばマニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを、該組成物に含めることが好ましいであろう。該注射用組成物の長期間に渡る吸収性は、該組成物中に吸収を遅延する薬剤、例えばアルミニウムモノステアレートまたはゼラチンを含めることによって与えることができる。
無菌注射液は、必要に応じて上記の如き成分の1種またはその組合せと共に、適当な溶媒中に必要な量の前記活性化合物を配合し、次いで濾過により滅菌することにより調製することができる。一般に、分散剤は、基本的な分散媒および上記のものから選ばれた必要な他の成分を含む、無菌賦形剤に該活性化合物を配合することにより調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌粉末の場合、その典型的な製法は、真空乾燥法および凍結乾燥法を含み、該方法は、該活性成分および任意の追加の所望の成分を含む、予め濾過により滅菌された溶液から、該活性成分と該追加の所望の成分とを含む粉末を得ることを可能とする。
経口投与用の組成物は、一般に不活性希釈剤または食用担体を含む。治療用経口投与の目的にとって、前記活性化合物は、賦形剤と共に配合することができ、また錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤、例えばゼラチンカプセル剤として使用することができる。該経口用組成物は、また口内洗浄薬として使用するために、流動性担体を用いて調製することも可能である。製薬的に相溶性のバインダ、および/または佐剤物質は、該組成物の一部として含めることができる。該錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等は、以下に列挙する成分、または同様な特性を持つ化合物の何れかを含むことができる:ミクロクリスタリンセルロース、トラガカンスゴムまたはゼラチン等のバインダ;賦形剤、例えばデンプンまたはラクトース;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはコーンスターチ等の崩壊剤;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムまたはステロート(Sterotes);グリダント、例えばコロイド状の酸化ケイ素;甘味料、例えばスクロースまたはサッカリン;あるいは香味料、例えばペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味料。
吸入による投与に関連して、該化合物は、適当な噴射剤、例えば二酸化炭素等のガスを含む加圧用器またはディスペンサ、またはネブライザからのエーロゾルスプレイとして放出させることができる。このような方法は、米国特許第6,468,798号に記載されているものを包含する。
ここに記載した如き治療用組成物の全身投与は、また経粘膜投与または経皮投与手段によって可能となる。経粘膜投与または経皮投与のためには、透過すべきバリヤに適した浸透剤を、該処方物において使用する。このような浸透剤は、当分野において一般的に知られており、また例えば経粘膜投与のためには、洗浄剤、胆汁酸塩、フシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、経鼻スプレイの使用によって達成し得る。経皮投与に関連して、該活性化合物は、当分野において一般的に知られてように、軟膏剤、膏薬、ゲルまたはクリームとして処方される。一態様において、経皮投与は、イオン導入法によって行うことができる。
治療用の組成物は、担体系中に処方することができる。該担体は、コロイド系であり得る。該コロイド系は、リポソーム、リン脂質二重層賦形剤であり得る。一態様において、前記治療用のペプチドは、該ペプチドの完全性を維持しつつリポソーム内に封入される。当業者は理解するであろう如く、リポソームを調製するための様々な方法がある(これについては、Lichtenberg等の論文:Methods Biochem. Anal., 1988, 33:337-462;Anselem等の論文:Liposome Technology, CRCプレス(CRC Press)刊(1993)を参照のこと)。リポソーム処方物は、クリアランスを遅延し、また細胞の取込み性を高める(これについては、Reddyの論文:Ann. Pharmacother., 2000, 34(7-8):915-923を参照のこと)。また、活性薬剤は、可溶性、不溶性、透過性、不透過性、生分解性または胃内滞留性ポリマーまたはリポソームを含むが、これらに限定されない製薬上許容される成分から製造した粒子内に挿入することも可能である。このような粒子は、ナノ粒子、生分解性ナノ粒子、微粒子、生分解性微粒子、ナノ球、生分解性ナノ球、微小球、生分解性微小球、カプセル、エマルション、リポソーム、ミセルおよびウイルスベクター系を含むがこれらに限定されない。
前記担体は、またポリマー、例えば生分解性、生体適合性ポリマーマトリックスであり得る。一態様において、該治療用のペプチドは、タンパク質の完全性を保持しつつ、該ポリマーマトリックス内に包埋することができる。該ポリマーは、天然ポリマー、例えばポリペプチド、タンパク質または多糖類、あるいは合成ポリマー、例えばポリ(α-ヒドロキシ酸)であり得る。その例は、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、セルロースアセテート、セルロースニトレート、多糖、フィブリン、ゼラチン、およびこれらの組合せを含む。一態様において、該ポリマーは、ポリ乳酸(PLA)または乳酸/グリコール酸コポリマー(PGLA)である。該ポリマーマトリックスは、微小球およびナノ球を含む、様々な形状およびサイズにて、調製ならびに単離することができる。ポリマー処方物は、長期間に渡り持続する治療効果をもたらし得る(これについては、Reddyの論文:Ann. Pharmacother., 2000, 34(7-8):915-923を参照のこと)。ヒト成長ホルモン(hGH)用のポリマー処方物は、臨床試験において使用されている(これについては、Kozarich & Richの論文:Chemical Biology, 1998, 2:548-552を参照のこと)。
ポリマー微小球徐放性処方物の例は、PCT公開WO 99/15154(Tracy等)、米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号(両者ともZale等)、PCT公開WO 96/40073(Zale等)、およびPCT公開WO 00/38651(Shah等)に記載されている。米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号およびPCT公開WO 96/40073は、塩により、凝集に対して安定化されている、エリスロポエチンの粒子を含むポリマーマトリックスを記載している。
幾つかの態様において、前記治療化合物は、身体からの迅速な排出に対して、該治療化合物を保護する担体、例えばインプラントおよびマイクロカプセル化放出系を含む、制御放出型処方物と共に調製される。生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができ、その例は、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ酢酸である。このような処方物は、公知の技術を利用して調製することができる。これらの材料は、また例えばアルザ社(Alza Corporation)およびノバファーマシューティカルズ社(Nova Pharmaceuticals, Inc.)から、市販品として入手することも可能である。リポソーム懸濁液(細胞-特異的抗原に対するモノクローナル抗体を含む、特定の細胞を標的とするリポソームを含む)も、また製薬上許容される担体として使用することができる。これらは、当業者には公知の方法、例えば米国特許第4,522,811号に記載されている方法に従って製造することができる。
前記治療化合物は、細胞内放出性を強化するように処方することもできる。例えば、リポソーム放出系は当分野において公知であり、これについては、例えばChonn & Cullisの「リポソーム薬物放出系に関する最近の進歩(Recent Advances in LiposomeDrug Delivery Systems)」と題する論文:カレントオピニョンインバイオテクノロジー(Current Opinion in Biotechnology), 1995, 6:698-708;Weinerの「タンパク質放出用のリポソーム:選択的製造および開発法(Liposomes for Protein Delivery: Selecting Manufacture and Development Processes)」と題する論文:Immunomethods, 1994, 4(3):201-9;およびGregoriadisの「薬物放出用のエンジニアリングリポソーム:進展及び問題点(Engineering Liposomes for Drug Delivery: Progress and Problems)」と題する論文:Trends Biotechnol., 1995, 13(12):527-37を参照のこと。Mizguchi等は、その論文:Cancer Lett., 1996, 100:63-69において、インビトロおよびインビボ両者において、細胞にタンパク質を送達するために、フソバクテリア由来の(fusogenic)リポソームの使用を記載している。
前記治療薬剤の用量、毒性および治療上の効力は、細胞培養または実験動物における標準的な製薬上の手順によって、例えばLD50(母集団の50%を致死せしめる用量)およびED50(該母集団の50%において治療的効果を呈する用量)を決定することにより、測定することができる。毒性および治療効果の間の用量比が、治療指数であり、またこれは比:LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を呈する化合物が好ましい。有害な副作用を示す化合物を使用することができるが、このような化合物を疾患に冒された組織に向かわせる放出系を設計する上で注意を払い、感染されていない細胞に対する可能な損傷を最小化し、結果として副作用を軽減するようにすべきである。
前記細胞培養アッセイおよび動物研究から得たデータは、ヒトにおける用量範囲を定める際に使用することができる。このような化合物の用量は、好ましくは殆どまたは全く毒性を持たずに、前記ED50を含む、循環濃度範囲内にある。該用量は、使用する投与剤形および利用する投与経路に依存して、上記範囲内で変えることができる。これらの方法において使用される任意の化合物に対して、治療的に有効な用量は、先ず細胞培養アッセイから見積もることができる。用量は、細胞培養において決定されたような、IC50(即ち、症状の最大阻害の半分を達成する、該テスト化合物の濃度)を含む、ある循環血漿濃度を実現するように、動物モデルにおいて公式化することができる。このような情報を、ヒトにおけるより有用な用量を、より正確に決定するために利用することができる。血漿におけるレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィー法により測定することができる。
幾つかの態様において、治療的または予防的効果を達成するのに十分な、前記芳香族-カチオン性ペプチドおよび/またはシクロスポリン等の追加の活性薬剤の有効量は、約0.000001mg/kg(体重)/日〜約10,000mg/kg(体重)/日なる範囲にある。好ましくは、該用量範囲は、約0.0001mg/kg(体重)/日〜約100mg/kg(体重)/日なる範囲にある。例えば、該用量は、毎日、1日置きにまたは2日置きに、1mg/kg(体重)または10mg/kg(体重)であり、あるいは毎週、1週間置きにあるいは2週間置きに、1〜10mg/kgなる範囲であり得る。一態様において、ペプチドの1回の投与量は、0.1〜10,000μg/kg(体重)なる範囲にある。一態様において、担体中における前記芳香族-カチオン性ペプチドの濃度は、放出すべき1mL当たり0.2〜2,000μgなる範囲にある。
幾つかの態様において、芳香族-カチオン性ペプチドの治療上有効な量は、10〜10モル、例えば約10モルなる、標的組織におけるペプチド濃度として定義することができる。この濃度は、0.01〜100mg/kgなる範囲または体表面積当たりの等価な用量なる全身的容量によって送達し得る。投薬スケジュールを最適化して、該標的組織における治療濃度を維持する。この場合、最も好ましくは毎日または毎週1回の投与により、更にはまた連続投与(例えば、腸管外輸液または経皮投与)によって投与される。
幾つかの態様において、前記芳香族-カチオン性ペプチドの用量は、「低」、「中」、または「高」投与量レベルで与えられる。一態様において、該低投与量は、約0.0001〜約0.5mg/kg/hなる範囲、約0.01〜約0.5mg/kg/hなる範囲、適切には約0.001〜約0.1mg/kg/hなる範囲、または約0.01〜約0.1mg/kg/hなる範囲で与えられる。一態様において、該中-投与量は、約0.01〜約1.0mg/kg/hなる範囲、約0.1〜約1.0mg/kg/hなる範囲、適切には約0.01〜約0.5mg/kg/hなる範囲、または約0.1〜約0.5mg/kg/hなる範囲で与えられる。一態様において、該高-投与量は、約0.5〜約10mg/kg/hなる範囲、適切には約0.5〜約2mg/kg/hなる範囲で与えられる。一例示的な態様において、前記活性薬剤の投与量は、約1〜100mg/kgなる範囲、適切には約25mg/kgである。幾つかの態様において、該活性薬剤はシクロスポリンを含む。
当業者は、対象を効果的に治療するのに必要な用量および投与のタイミングに影響を与える可能性のあるファクタがあり、該ファクタが、疾患または障害の重篤度、以前の治療歴、該対象の一般的な健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を含むが、これらに限定されないことを、理解しているであろう。更に、ここに記載した上記治療用組成物の治療上有効な量による対象の治療は、一回の治療または一連の治療を含むことができる。
本発明の方法で処置される哺乳動物は、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、およびウマ等の家畜、イヌおよびネコ等のペット動物、ラット、マウスおよびウサギ等の実験動物を包含する、任意の哺乳動物であり得る。好ましい一態様において、該哺乳動物はヒトである。
同様に、キットもここに記載される。幾つかの態様においては、哺乳動物対象における急性心筋梗塞障害を治療するためのキットが提供される。他の態様においては、治療を要する際に、対象における虚血および/または再灌流障害を治療するためのキットが提供される。更に別の態様においては、哺乳動物の取出された臓器における虚血-再灌流障害を予防しまたは軽減するためのキットが提供される。更なる態様においては、治療等を要する際に、対象におけるシクロスポリン-誘発性腎毒性に係る諸症状を治療し、予防しまたは緩和するためのキットが提供される。典型的には、該キットは、(i) 芳香族-カチオン性ペプチドまたは製薬上許容されるその塩;および(ii) 1種またはそれ以上の追加の活性薬剤を含む。幾つかの態様において、該芳香族-カチオン性ペプチドは、Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2、Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2、2',6'-Dmp-D-Arg-Phe-Lys-NH2、およびD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩からなる群から選択される。幾つかの態様において、該追加の活性薬剤は、シクロスポリンを含む。幾つかの態様において、該キットは、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2、または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩から選択される製薬上許容されるその塩、およびシクロスポリンを含む。幾つかの態様において、該ペプチドおよび該1種またはそれ以上の追加の活性薬剤、例えばシクロスポリンは、同一のまたは別々のバイアル内に収納される。幾つかの態様においては、また該キットのこれら成分を投与するための指示も与えられる。
本発明を、以下の実施例により更に説明する。ここで、これらの実施例は、何ら本発明を限定するものと解釈すべきではない。
実施例1:ウサギモデルにおける急性心筋梗塞障害に対する保護の際の、芳香族-カチオン性ペプチドの効果
ウサギモデルにおける急性心筋梗塞障害に対する保護の際の、芳香族-カチオン性ペプチドの効果を検討した。前記ペプチド:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2の心筋保護効果は、本実施例によって明らかとなった。
ニュージランド産白ウサギを、本研究において使用した。これらのウサギは雄であり、またその年齢は>10週であった。該動物の飼育室の環境の調節は、温度を16.1〜22.2℃(61〜72゜F)なる範囲に、また相対湿度を30%〜70%なる範囲に維持するように設定した。該飼育室の温度および湿度は、1時間毎に記録し、かつ毎日監視した。該動物飼育室において、1時間当たり約10-15なる範囲の空気の入替えを行った。光周期は、投薬およびデータ収集への配慮に要する期間を除き、12時間の明期/12時間の暗期(蛍光灯による照明)とした。日常的に毎日観察を行った。ハーランテクラッド(Harlan Teklad)、サーティファイドダイエット(Certified Diet)(2030C)、ウサギ用飼料は、到着から施設まで(from arrival to the facility)、1日当たり約180gなる量でを与えた。更に、新鮮な果物および野菜を、該ウサギに、1週当たり3回与えた。
前記ペプチド:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2(無菌凍結乾燥粉末)を、テスト品として使用した。投与用溶液を、1mg/mL程度にて処方し、また一定速度(例えば、50μL/kg/分)にて、連続的な輸注(IV)により放出した。正規の塩水(0.9% NaCl)をコントロールとして使用した。
該テスト品/賦形剤は、AMIおよびPTCAでの臨床的な設定における、予想される投与経路を模倣するために、全身麻酔の下で、静脈内投与により与えられた。静脈内注入は、一定体積(例えば、50μL/kg/分)にて、Kdサイエンティフィック(Scientific)注入ポンプ(ホリストン(Holliston), MA 01746)を用いて、末梢静脈を介して投与した。
上記研究は、予め決められたプラセボおよび見せ掛けの制御された計画に従って行われた。簡単に説明すると、10-20匹の健康な、順化された雄のウサギを、3つの研究部門の一つに割振った(1群当たり約2-10匹の動物)。部門A(n=4, CTRL/PLAC)は、賦形剤(賦形剤;VEH, IV)で処理された動物を含み;部門B(n=7、処置群)は、ペプチドで処理された動物を含み;部門C(n=2, 見せ掛け手術群(SHAM))は、見せ掛けの手術が施され、賦形剤(賦形剤;VEH, IV)またはペプチドで時間コントロール処理された動物を含む。
全ての場合において、処置は、30分間の虚血性発作(肝動脈閉塞)開始の約30分後に開始し、また再灌流後3時間まで継続した。全ての場合において、心臓血管機能は、虚血前および虚血中の両者、並びに再灌流後180分(3時間)まで監視した。これらの実験は、再灌流の3時間後に終了させ(研究の終点);この時点における不可逆的な心筋障害(組織形態計測法による梗塞サイズ)を見積もり、またこれを研究の一次終点とした。この研究計画を表7にまとめた。
麻酔/外科手術の準備:全身麻酔状態は、ケタミン(約35-50mg/kg)/キシラジン(約5-10mg/kg)混合物を用いて、筋肉内投与(IM)により誘発させた。麻酔薬を投与するために、静脈カテーテルを末梢静脈(例えば、耳)に設けた。自律神経系の機能を保護するために、麻酔状態は、プロポフォール(約8-30mg/kg/時)およびケタミン(約1.2-2.4mg/kg/時)の連続的な注入により維持された。カフ付きの気管チューブを、気管切開(腹部正中線切開)により設け、また容積サイクル式動物ベンチレータによって、肺に95%O2/5%CO2混合物を、機械的に通気するために使用し(約12.5mg/kgなる1回呼気量で、約40呼吸/分)、大まかにPaCO2値を生理的な範囲内に維持した。
一旦麻酔状態が外科手術可能な水準に達した後に、2本の標準ECGリード(例えば、リードII, aVF, V2)を形成する経胸腔的または針状電極を配置した。頸部静脈切開により頸動脈を露出させ、該頸動脈を、単離し、切開して周囲組織から遊離させ、また2つのセンサを持つ高-忠実度のマイクロマノメータカテーテル(ミラーインスツルメンツ(Millar Instruments)社製)を用いて、カニューレ挿入し;同時に大動脈(付着部、近位のトランスデューサ)および左心室(遠位のトランスデューサ)の圧を測定するために、このカテーテルの先端を、逆方向に大動脈弁を横切って左心室(LV)に前進させた。該頸部静脈切開は、また頚静脈をも露出させ、これには、中空の注入用カテーテル(血液採取用)を用いて、カニューレが挿入された。最後に、追加の静脈カテーテルを、賦形剤/テスト品を投与するために、末梢静脈(例えば、耳)に設けた。
引続き、前記動物を、右-側面横臥状態で配置させ、また心臓を、正中線開胸術および心膜切開術により露出させた。この心臓は、左回旋(LCX)および左-前方下行(LAD)冠状動脈を露出させるために、心臓周囲の枠に懸垂させた。絹製結サツ糸を、該近接LADの回りに、また必要ならば、各動物の冠動脈解剖に依存して、該LCX周縁部冠動脈の1またはそれ以上の支脈の回りに緩く配置する。これらスネアの締付け(ポリエチレンチューブの小片による)は、該左心室心筋の一部を、一時的な虚血状態とすることを可能とした。
一旦器具の設置が完了した後、少なくとも30分間に渡る、血流力学の安定性および適切な麻酔深度が、検証/確認された。その後、該動物を、血流力学/呼吸の安定化を容易にするために、アトラクリウム(約0.1〜0.2mg/kg/時 IV)を用いて麻痺させた。アトラクリウムの投与に続いて、自立的活動亢進状態および/またはBIS値における変化の信号を、麻酔深度の評価および/または静脈内投与された麻酔薬の滴定のために使用した。
実験的プロトコール/心血管データの収集:外科手術準備の直後に、前記動物をヘパリン処理(100単位のヘパリン/kg/時, IVのボーラス投与)に付し、また血流力学的安定化(約30分間)の後に、ベースラインデータを集めたが、該データは、心臓酵素/バイオマーカー並びにテスト品の濃度の評価のための静脈血の採取を含む。
血流力学的安定化およびベースライン測定に引続き、前記動物を、前記LAD/LCX冠動脈スネアの締付けにより、60分間に渡る急性虚血性発作状態とした。心筋の虚血は、該LAD/LCXの遠位における分布の色彩変化(即ち、チアノーゼ)および心電図の変化発現により、視覚的に確認された。虚血の約10分後に、該動物は、賦形剤(塩水)またはペプチドの何れかの連続的な注入処理に掛けられ;虚血は、該処置の開始後、さらに20分間(即ち、全体で30分間)に渡り継続させた。その後(即ち、最後の20分間が該治療と重複している、30分間に渡る虚血の後)、該冠動脈スネアを取外し、また前に虚血状態にあった心筋を、3時間までの期間に渡り再灌流させた。賦形剤またはペプチドの何れかによる処理は、該再灌流期間全体を通して継続した。見せ掛けの手術が施された動物においては、該血管のスネアは、該虚血/再灌流開始時点において操作されるが、締結も緩和もなされなかったことに注意すべきである。
心血管データの収集は、11個の予め決められた時間点;即ち、器具の設置/安定化後(即ち、ベースライン)、虚血の10および30分後、並びに再灌流の5、15、30、60、120および180分後に行った。これら実験全体を通して、アナログ信号をディジタル信号としてサンプリング(1,000Hz)し、またデータ収集システム(IOX; エムカテクノロジーズ(EMKA Technologies)社製)により連続的に記録し、更に以下のパラメータを、上記時間点において決定した:(1) 双極型経胸腔的ECG(例えば、リードII, aVF)からの、律動(不整脈の定量/分類)、RR、PQ、QRS、QT、QTc、短期QT不安定性、およびQT:TQ(回復);(2) 大動脈における固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、動脈/大動脈圧(AoP);および(3) LVにおける固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、左心室圧(ESP、EDP)および誘導された指標(dP/dtmax、dP/dtmin、Vmax、およびτ)。更に、ペプチド処理されたまたはされていない、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)の程度を測定/定量化するために、心臓バイオマーカー並びに梗塞面積を評価した。
血液サンプル:薬力学(PK)分析並びに心臓バイオマーカー分析による心筋障害の評価両者を、6点のデーター収集時間点、即ちベースライン、虚血の30分後、並びに再灌流の30、60、120および180分後において行うために、静脈全血(<3mL)サンプルを集めた。以下のような2種の臨床的に使用したバイオマーカーについて測定した:心臓トロポニン-I(cTnI)およびクレアチン-キナーゼ(CK-MB)。更に、ベースライン、虚血の60分後、並びに再灌流の60および180分後に、血液ガスを測定するために、3つの動脈全血(約0.5mL)サンプルを収集した。即ち、これらの動脈血サンプルを、血液ガス測定シリンジ内に集め、I-スタット(Stat)アナライザ/カートリッジ(CG4+)により、血液ガスの測定のために、該血液サンプルを使用した。
組織病理学/組織形態計測:前記プロトコールの完了時点において、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)を評価した。簡単に説明すれば、前記冠動脈スネアを再度締付け、またエバンスブルー色素(1mL/kg、MO州、セントルイスのシグマ(Sigma)社)を、静脈内注射して、虚血中の心筋障害の危険領域(AR)を決定した。約5分後、該心臓を(その左心房に塩化カリウムを注入することにより)停止させ、新たに切除した。該LVを、その長軸に直角に(頂部から底部に向かって)、厚み3mmの薄片に切断した。引続き、該薄片を、2%トリフェニル-テトラゾリウムクロリド(TTC)溶液中で、37℃にて20分間インキュベートし、10%の緩衝処理されていないホルマリン溶液(NBF)中で定着させた。
前記定着後、梗塞領域およびその危険性のある領域を、ディジタル的に描写し/測定した。このような目的のために、各薄片の厚みをディジタル式マイクロメータで測定し、その後写真撮影/走査を行った。全ての写真を、像解析プログラム(イメージ(Image) J;ナショナルインスティチューツオブヘルス(National Institutes of Health)製)に導入し、コンピュータ-援用断層撮影法を実施して、該梗塞領域(I)およびその危険性のある領域(AR)の全体的なサイズを測定した。各スライドに対して、該AR(即ち、青色に染色されていない領域)を、前記LV領域の百分率として表し、また該梗塞部のサイズ(I、染色されていない組織)を、該AR(I/AR)領域の百分率として表した。全ての場合において、定量的な組織形態計測法は、前記処置の割振り/研究-計画に対して情報が与えられていないヒトによって実施された。
動物の観察:分析用ECGオートソフトウエア(Auto software)(エムカテクノロジーズ(EMKA Technologies)製)を用いて、エムカの(EMKA's)IOXシステムにデータを得た。あらゆる生理的パラメータの測定は、手作業でまたは自動的に、(ディジタル)オシログラフ追跡法で行った。各標的時間点において得た60個のデータからの平均値を、(可能な場合には)使用したが、上で述べた如く、シグナル/追跡結果を、これらの実験全体を通して連続的に記録して、(必要に応じて)より精度の高い/詳細な、時間の経過に伴うデータ解析(補正を通して)を行うことを可能とした。付随的な計算を、マイクロソフトエクセル(Microsoft Excel)を使用して行った。データは、標準誤差を伴う平均値として提示する。
ペプチドの投与は、コントロールと比較して、減衰された梗塞部サイズをもたらした。以下の表8には、この研究において使用した前記動物各々に対する、危険性の疑われる面積/左心室面積、梗塞部の面積/左心室面積、および梗塞部の面積/危険性の疑われる面積の各比を示すデータを提示する。
これらの結果は、急性心筋虚血および再灌流の標準化されたウサギモデルにおいて、ペプチドが、30分間の虚血期間における10分目から開始されるIVの連続的な注入、これに続く再灌流後180分間に渡るIVの連続的な注入により投与された場合、該ペプチドは、コントロール群と比較して、心筋梗塞サイズを減じることを可能とした。治療に対する明らかな応答が見られるウサギにおいて、心筋梗塞面積の大きさは、コントロール動物において見られた梗塞部サイズに対して、59%だけ減少した。これら結果は、ペプチドによる治療が、急性心臓虚血-再灌流障害の症状の発生を防止することを示している。それ故、芳香族-カチオン性ペプチドは、哺乳動物対象における、心筋梗塞障害を予防並びに治療する方法において有用である。
実施例2:急性心筋梗塞のウサギモデルにおける虚血後の、静脈内投与されたシクロスポリンの効果
実験的研究は、シクロスポリン-A(CsA)による予備処理が、急性心筋梗塞(AMI)および/または経皮冠状動脈介入/血管形成術(PCI)に伴って、臨床的に起り得るような、虚血/再灌流(I/R)発作に起因する、心筋障害を減衰/緩和し得ることを示唆している。虚血発生前に、CsA(25mg/kg)の1-時間に渡る動脈内投与による注入は、コントロールと比較した場合に、生成する梗塞のサイズを大幅に減じた。CsA(2.5mg/kg、IVボーラス投与)を、再灌流開始の直前に投与した場合、該薬剤は、心筋梗塞回避作用をも持つことができる。本研究は、急性I/R発作の臨床的なシナリオを模倣した設定において、CsAの心臓保護効果をテストするように工夫される。本研究は、虚血の発生後(かつ再灌流前)のCsAによる治療が、不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞部のサイズ)を減衰し、かつ心筋機能を保存するであろうという、一般的な仮説の下に行われるであろう。
賦形剤およびシクロスポリン-A(CsA)両者を、低速の静脈内投与による注入(0.5mL/分)を通して、30分間の虚血発作中および該発作後に投与され、該投与の開始は、再灌流開始の20分前であり、またその停止は、再灌流の20分後である。該テスト品は、シクロスポリン注射液、USP(シクロスポリン-A, CsA)である。注射用の臨床的CsA処方物の1バイアル(50mg/mL、5mL)を、処方前30分間に渡り、室温に維持する。その後、適当な量のテスト品(25mg/kg)を、無菌賦形剤(以下を参照のこと、0.9%塩化ナトリウム溶液中のヘパリン、6%ヘタスターチ)中に溶解する。該テスト品/賦形剤物品は、AMIおよびPTCAの臨床的な設定において予想される投与経路を模倣するために、全身麻酔条件下で、静脈内投与にて与えられる。静脈内注入は、一定時間/体積(40分間に渡り20mL、または500μL/分)にて、Kdサイエンティフィック(Scientific)注入ポンプ(MA 01746のホリストン(Holliston))を用いて、末梢静脈を介して投与される。
本研究は、予め定めたプラセボ制御計画に従う。簡単に説明すると、健康な、順化された雄のウサギを、以下の3つの研究部門に割り振る:
1. 部門A(n≦6、CTRL):賦形剤で処置(賦形剤:VEH, IV)された群;
2. 部門B(n≦6、CsA):CsA(25mg/kg, IV連続的注入)で処置された群;
3. 部門C(n≦6、見掛けの処置):見掛けの手術がなされ、CsA(25mg/kg,静脈内ボーラス注入)により時間調節的に処置された群。
全ての場合においては、処置を、30分間に及ぶ虚血発作(冠動脈閉塞)開始の約10分後に開始し、また再灌流後わずかに20分間継続する。全ての場合において、心臓血管機能を、虚血前およびその最中両者において、並びに再灌流後180分(3時間)まで監視する。これらの実験は、再灌流後3時間にて停止され(研究の終点)、この時間点における不可逆的な心筋障害(組織形態計測法による梗塞部サイズ)を評価し、またこれが、本研究の一次終点である。本研究の計画を、上記表9にまとめた。
麻酔/外科手術の準備:全身麻酔状態は、ケタミン(約35-50mg/kg)/キシラジン(約5-10mg/kg)混合物を用いて、筋肉内投与(IM)により誘発させる。麻酔薬の投与のために、静脈カテーテルを末梢静脈(例えば、耳)に設ける。自律神経系の機能を保護するために、麻酔状態を、プロポフォール(約8-30mg/kg/時)および(必要な場合には)ケタミン(約1.2-2.4mg/kg/時)の連続的な注入により維持する。カフ付きの気管チューブを、気管切開(腹部正中線切開)により設け、また容積サイクル式動物ベンチレータによって、肺に100%O2を、機械的に通気するために使用し(約12.5mg/kgなる1回呼気量で、約40呼吸/分)、PaCO2値を生理的な範囲内に維持する。
一旦麻酔状態が外科手術可能な水準に達した後に、2本の標準ECGリード(例えば、リードII, aVF, V2)を形成する経胸腔的または針状電極を配置する。頸部静脈切開により頸動脈を露出させ、該頸動脈を、単離し、切開して周囲組織から遊離させ、また2つのセンサを持つ高-忠実度のマイクロマノメータカテーテル(ミラーインスツルメンツ(Millar Instruments)社製)を用いて、これにカニューレ挿入し;同時に大動脈(付着部、近位のトランスデューサ)および左心室(遠位のトランスデューサ)の圧を測定するために、このカテーテルの先端を逆方向に大動脈弁を横切って左心室(LV)に前進させる。該頸部静脈切開は、また頚静脈をも露出させ、これには、中空の注入用カテーテル(血液採取用)を用いて、カニューレ挿入される。最後に、追加の静脈カテーテルを、賦形剤/テスト品の投与のために、末梢静脈(例えば、耳)に設ける。
引続き、前記動物を、背面横臥状態で配置させ、また心臓を、胸骨切開術および心膜切開術により露出させる。この心臓は、左回旋(LCX)および左-前方下行(LAD)冠状動脈を露出させるために、心臓周囲の枠に懸垂させる。絹製結サツ糸を、該LCX動脈のほぼ中間地点(即ち、その原点と心臓の頂点との間の中央部)に、また必要ならば、(各動物の冠動脈解剖に依存して)、該近位/遠位LADまたはその支脈の一つ(例えば、第一の斜行部)の回りに、(テーパー付きポイントニードルを用いて)緩く配置する。これらスネアの締付け(ポリエチレンチューブの小片による)は、心筋の一部を、一時的な虚血状態とすることを可能とする。虚血性不整脈(即ち、群I)に起因する早期の死を防止/最小化するために、該動物を、該冠動脈閉塞前に、予防的な抗-不整脈療法(リドカインHCl, 2mg/kg iv経路、ボーラス投与)に処することができる。
一旦器具の設置が完了し、また少なくとも30分間に渡る適切な麻酔深度が、検証/確認された後、該動物を、血流力学/呼吸の安定化を容易にするために、アトラクリウム(約0.1〜0.2mg/kg/時、IV)を用いて麻痺させた。しかし、この筋肉弛緩薬を投与する前に、該麻酔水準の適切性を、麻酔深度を評価するための身体的並びに自律神経的サインを利用して、筋の緊張および通気パターンに特別な注意を払いつつ、注意深く監視し(また該麻酔法を滴定し);与えられた(固定的)麻酔法における、血流力学的な(平均動脈圧、心拍数等)安定性(約30分間)が、アトラクリウムの投与前に必要とされるであろうことを、強調すべきである。更に、適切な麻酔水準の確立/維持を補助するために、ビスぺクトラル指数(Bispectral Index: BIS)を継続的に追跡する。ここで、該指数は、意識レベルを示す、脳波図(EEG)から導かれる数値である。アトラクリウムの投与に続いて、自立的活動亢進状態および/またはBIS値における変化の信号を、麻酔深度の評価および/または静脈内投与された麻酔薬を滴定するために使用する。
実験的プロトコール/心血管データの収集:外科手術準備の直後に、前記動物をヘパリン処理(100単位のヘパリン/kg/時, IVのボーラス投与)に付し、また血流力学的安定化(約30分間)の後に、ベースラインデータを集めたが、該データは、心臓酵素/バイオマーカー並びにテスト品の濃度(以下の説明を参照のこと)の評価のための静脈血の採取を含む。実験データの均一性を確保するために、全ての動物は、以下のようなテスト参加基準を満たす必要があることに注意すべきである:dP/dtmaxが、>1,000mmHg/sであり;また前記麻酔法が、適切な麻酔/鎮痛法であることを保証し、かつこのような参加基準を満たすために、調節し得るものであること。更に、ベースラインにおける十分な血管内容積状態および心血管血流力学を保証するために、生理学的体積拡張薬(0.9%塩化ナトリウム溶液中の賦形剤、6%ヘタスターチ)を投与することができる。
血流力学的安定化およびベースライン測定に引続き、前記動物を、前記LCX/LAD冠動脈スネアの締付けにより、30分間に渡る急性虚血性発作状態とする。心筋の虚血は、該LCX/LADの遠位における分布の色彩変化(即ち、チアノーゼ)および心電図の変化発現により、視覚的に確認される。虚血の約10分後に、該動物は、賦形剤またはCsA(25mg/kg)の何れかの連続的な20mLの注入処理に掛けられ;虚血は、該処置の開始後、さらに20分間(即ち、30分間という全虚血期間)に渡り継続させる。その後(即ち、最後の20分間が該治療と重複している、30分間に渡る虚血の後)、該冠動脈スネアを取外し、また前に虚血状態にあった心筋を、3時間までの期間に渡り再灌流させる。賦形剤またはCsAの何れかによる処置は、該再灌流期間の内の20分間に渡り継続される。見せ掛けの手術が施された動物においては、該血管のスネアは、該虚血/再灌流開始時点において操作されるが、締結も緩和もなされないことに注意すべきである。
一方で、また心筋障害の指標に及ぼすあらゆる可能な交絡効果を最小化するために、再灌流中に発生する、非-自己-消散性の悪性不整脈/律動(例えば、心室頻拍/細動)が、終端であると考えられる(即ち、この実験が早期に終了される)ことを強調すべきである。
心血管データの収集は、11個の予め決められた時間点:即ち、器具の設置/安定化後(即ち、ベースライン)、虚血の10および30分後、並びに再灌流の5、15、30、60、120および180分後に行う。これら実験全体を通して、アナログ信号をディジタル信号としてサンプリング(1,000Hz)し、またデータ収集システム(IOX; エムカテクノロジーズ(EMKA Technologies)社製)により連続的に記録し、更に以下のパラメータを、上記時間点において決定する:
双極型経胸腔的ECG(例えば、リードII, aVF)からの、律動(不整脈の定量/分類)、RR、PQ、QRS、QT、QTc、短期QT不安定性、ST-セグメントのズレ、およびQT:TQ(回復);
大動脈における固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、動脈/大動脈圧(AoP);
LVにおける固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、左心室圧(ESP、EDP)および誘導された指標(dP/dtmax、dP/dtmin、Vmax、およびτ)。
更に、CsA処理されたまたはされていない、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)の程度を測定/定量化するために、心臓バイオマーカー並びに梗塞面積を評価する。
血液サンプル:薬力学(PK)分析並びに心臓バイオマーカー分析による心筋障害の評価を、6点のデーター収集時間点、即ちベースライン、虚血の30分の時点、並びに再灌流の30、60、120および180分後において行うために、静脈全血(<3mL)サンプルを集める。以下のような2種の臨床的に使用したバイオマーカーについて測定する:心臓トロポニン-I(cTnI)およびクレアチン-キナーゼ(CK-MB)。更に、3つの動脈全血(約0.5mL)サンプルを、ベースライン、虚血の30分の時点、並びに再灌流の60および180分後に、血液ガスの測定のために収集する。即ち、これらの動脈血サンプルを、血液ガス測定シリンジ内に集め、I-スタット(Stat)アナライザ/カートリッジ(CG4+)によって、血液ガスを測定するために、これを使用する。
静脈血を、予め冷却したシリンジを用いて、K2EDTA(PK分析用)またはセラム-セパレータ(Serum-Separator)(SST; 心臓バイオマーカー用)の何れかを含む予め冷却したチューブ内に抜取り、次いで湿潤氷懸垂遠心分離機上に置く(最大15分間)。サンプルを遠心分離処理し、血漿を(可能な場合には)各々最低0.3mLの血漿/血清を含有する2本のチューブに分液し、約-70℃にて凍結する。
組織病理学/組織形態計測:前記プロトコールの完了時点において、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)を評価する。簡単に説明すれば、前記冠動脈スネアを再度締付け、またエバンスブルー色素(1mL/kg、MO州、セントルイスのシグマ(Sigma)社)を、静脈内注射して、虚血中の心筋障害の危険領域(AR)を決定する。約5分後、該心臓を(その左心房に塩化カリウムを注入することにより)停止させ、新たに切除する。該LVを、その長軸に対して直角に(頂部から底部に向かって)、厚み3mmの薄片に切断する。該薄片を、「薄片#1」が最上部となるように、連続的に番号付けする。引続き、該薄片を、2%トリフェニル-テトラゾリウムクロリド(TTC)溶液中で、37℃にて20分間インキュベート処理し、10%の緩衝処理されていないホルマリン溶液(NBF)中で定着させる。
前記定着後、梗塞領域およびその危険性のある領域を、ディジタル的に描写し/測定する。このような目的のために、各薄片の厚みをディジタル式マイクロメータで測定し、その後写真撮影/走査を行う。全ての写真を、像解析プログラム(イメージ(Image) J;ナショナルインスティチューツオブヘルス(National Institutes of Health)製)に導入し、コンピュータ-援用断層撮影法を実施して、該梗塞領域(I)およびその危険性のある領域(AR)の全体的なサイズを測定する。各スライドに対して、該AR(即ち、青色に染色されていない領域)を、前記LV領域の百分率として表し、また該梗塞部のサイズ(I、染色されていない組織)を、該AR(I/AR)領域の百分率として表す。全ての場合において、定量的な組織形態計測法は、前記処置の割振り/研究-計画に対して情報が与えられていないヒトによって実施させる。
前記CsA-処置群における梗塞サイズは、前記コントロール群と比較して著しく低減されるものと予想される。特に、該CsAが虚血発生前に与えられた場合には、低減された低酸素症-誘発性ミトコンドリア機能不全が見られるものと予想される。このような結果は、CsAの投与が、急性心臓虚血-再灌流障害の諸症状の発生を防止することを示しているものと考えられる。故に、CsAは、哺乳動物対象における虚血-再灌流障害の予防並びに治療方法において有用である。
実施例3:併用された芳香族-カチオン性ペプチドおよびシクロスポリンによる処理の、急性心筋梗塞障害のウサギモデルにおける効果
芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩およびトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩およびシクロスポリンによる処理の、ウサギモデルにおける併用効果、急性心筋梗塞障害に対する保護における併用効果を検討する。ペプチド:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2およびシクロスポリンの心筋保護効果を、本実施例により明らかにする。
ニュージランド産白ウサギを、本研究において使用する。これらのウサギは雄であり、またその年齢は>10週である。該動物の飼育室の環境の調節は、温度を16.1〜22.2℃(61〜72゜F)なる範囲に、また相対湿度を30%〜70%なる範囲に維持するように設定した。該飼育室の温度および湿度は、1時間毎に記録し、かつ毎日監視する。該動物飼育室においては、1時間当たり約10-15なる範囲の空気の入替えを行う。光周期は、投薬およびデータ収集への配慮に要する期間を除き、12時間なる明期/12時間なる暗期(蛍光灯による照明)とする。日常的に毎日観察を行う。ハーランテクラッド(Harlan Teklad)、サーティファイドダイエット(Certified Diet)(2030C)、ウサギ用飼料は、到着から施設まで(from arrival to the facility)、1日当たり約180gなる量で与える。更に、新鮮な果物および野菜を、該ウサギに、1週当たり3回与える。
前記ペプチド:D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2(無菌凍結乾燥粉末)およびシクロスポリン(サンディミュン(Sandimmune), ノバルティス(Novartis))を、テスト品として使用する。該ペプチドに関する投与用溶液を、1mg/mL程度にて処方し、また一定速度(例えば、50μL/kg/分)にて、連続的な輸注(IV)により放出する。シクロスポリンは、体重1kg当たり2.5mgのシクロスポリンなるボーラス注射として、あるいは連続的な輸注として投与する。シクロスポリンは、正規の塩水に溶解(最終濃度:25mg/mL)し、カテーテルを通して注入した。正規の塩水(0.9% NaCl)をコントロールとして使用する。
該テスト品/賦形剤は、AMIおよびPTCAでの臨床的な設定における、予想される投与経路を模倣するために、全身麻酔の下で、静脈内投与により与えられる。静脈内注入は、一定体積(例えば、50μL/kg/分)にて、Kdサイエンティフィック(Scientific)注入ポンプ(MA 01746、ホリストン(Holliston))を用いて、末梢静脈を介して投与する。上記研究は、予め決められたプラセボおよび見せ掛けの制御された計画に従って行う。簡単に説明すると、10-20匹の健康な、順化された雄のウサギを、4つの研究部門の一つに割振る(1群当たり約2-10匹の動物)。部門A(n=4, CTRL/PLAC)は、賦形剤(賦形剤;VEH, IV)で処理された動物を含み;部門B(n=7、処置群)は、ペプチドおよびシクロスポリンのボーラスで処理された動物を含み;部門C(n=7, 処置群)は、ペプチドおよびシクロスポリンIV注入により処置された動物を含み、また部門D(n=2, 見せ掛けの処置(SHAM))は、見せ掛けの手術が施され、賦形剤(賦形剤;VEH, IV)またはペプチド/シクロスポリンで時間-コントロール処理された動物を含む。
全ての場合において、処置は、30分間の虚血性発作(肝動脈閉塞)開始の約30分後に開始し、また再灌流後3時間まで継続する。全ての場合において、心臓血管機能を、虚血前および虚血中の両者、並びに再灌流後180分(3時間)まで監視する。これらの実験は、再灌流の3時間後に終了させ(研究の終点);この時間点における不可逆的な心筋障害(組織形態計測法による梗塞サイズ)を見積もり、またこれを研究の一次終点とする。
麻酔/外科手術の準備:全身麻酔状態は、ケタミン(約35-50mg/kg)/キシラジン(約5-10mg/kg)混合物を用いて、筋肉内投与(IM)により誘発させる。麻酔薬の投与のために、静脈カテーテルを末梢静脈(例えば、耳)に設ける。自律神経系の機能を保護するために、麻酔状態は、プロポフォール(約8-30mg/kg/時)およびケタミン(約1.2-2.4mg/kg/時)の連続的な注入により維持される。カフ付きの気管チューブを、気管切開(腹部正中線切開)により設け、また容積サイクル式動物ベンチレータによって、肺に95%O2/5%CO2混合物を、機械的に通気するために使用し(約12.5mg/kgなる1回呼気量で、約40呼吸/分)、大まかにPaCO2値を生理的な範囲内に維持する。
一旦麻酔状態が外科手術可能な水準に達した後に、2本の標準ECGリード(例えば、リードII, aVF, V2)を形成する経胸腔的または針状電極の何れかを配置する。頸部静脈切開により頸動脈を露出させ、該頸動脈を、単離し、切開して周囲組織から遊離させ、また2つのセンサを持つ高-忠実度のマイクロマノメータカテーテル(ミラーインスツルメンツ(Millar Instruments)社製)を用いて、カニューレ挿入し;同時に大動脈(付着部、近位のトランスデューサ)および左心室(遠位のトランスデューサ)の圧を測定するために、このカテーテルの先端を、逆方向に大動脈弁を横切って左心室(LV)に前進させる。該頸部静脈切開は、また頚静脈をも露出させ、これに、中空の注射用カテーテル(血液採取用)を用いて、カニューレ挿入させる。最後に、追加の静脈カテーテルを、賦形剤/テスト品の投与のために、末梢静脈(例えば、耳)に設ける。
引続き、前記動物を、右-側面横臥状態で配置させ、またその心臓を、正中線開胸術および心膜切開術により露出させる。この心臓は、左回旋(LCX)および左-前方下行(LAD)冠状動脈を露出させるために、心臓周囲の枠に懸垂させた。絹製結サツ糸を、該近接LADの回りに、また必要ならば、各動物の冠動脈解剖に依存して、該LCX周縁部冠動脈の1またはそれ以上の支脈の回りに緩く配置する。これらスネアの締付け(ポリエチレンチューブの小片による)は、該左心室心筋の一部を、一時的な虚血状態とすることを可能とする。
一旦器具の設置が完了した後には、少なくとも30分間に渡る、血流力学の安定性および適切な麻酔深度が、検証/確認される。その後、該動物を、血流力学/呼吸の安定化を容易にするために、アトラクリウム(約0.1〜0.2mg/kg/時 IV)を用いて麻痺させる。アトラクリウムの投与に続いて、自立的活動亢進状態および/またはBIS値における変化の信号を、麻酔深度の評価および/または静脈内投与された麻酔薬を滴定するために使用する。
実験的プロトコール/心血管データの収集:外科手術準備の直後に、前記動物をヘパリン処理(100単位のヘパリン/kg/時, IVにてボーラス投与)に付し、また血流力学的安定化(約30分間)の後に、ベースラインデータを集めるが、該データは、心臓酵素/バイオマーカー並びにテスト品の濃度の評価のための静脈血の採取を含む。
血流力学的安定化およびベースライン測定に引続き、前記動物を、前記LAD/LCX冠動脈スネアの締付けにより、60分間に渡る急性虚血性発作状態とする。心筋の虚血は、該LAD/LCXの遠位における分布の色彩変化(即ち、チアノーゼ)および心電図の変化発現により、視覚的に確認される。虚血の約10分後に、該動物は、賦形剤(塩水)、ペプチドまたはペプチド+CsAの何れかの連続的な注入処理に掛けられ;虚血は、該処置の開始後、さらに20分間(即ち、全体で30分間)に渡り継続させた。その後(即ち、最後の20分間が該治療と重複している、30分間に渡る虚血の後)、該動物は、CsAまたは賦形剤の丸剤投与に付され、また、該冠動脈スネアは取外される。前に虚血状態にあった心筋を、3時間までの期間に渡り再灌流させる。賦形剤またはペプチドの何れかによる処理は、該再灌流期間全体を通して継続する。見せ掛けの手術が施された動物においては、該血管のスネアは、該虚血/再灌流開始時点において操作されるが、締結も緩和もなされないことに注意すべきである。
心血管データの収集は、11個の予め決められた時間点;即ち、器具の設置/安定化後(即ち、ベースライン)、虚血の10および30分後、並びに再灌流の5、15、30、60、120および180分後に行う。これら実験全体を通して、アナログ信号をディジタル信号としてサンプリング(1,000Hz)し、またデータ収集システム(IOX; エムカテクノロジーズ(EMKA Technologies)社製)により連続的に記録し、更に以下のパラメータを、上記時間点において決定する:(1) 双極型経胸腔的ECG(例えば、リードII, aVF)からの、律動(不整脈の定量/分類)、RR、PQ、QRS、QT、QTc、短期QT不安定性、およびQT:TQ(回復);(2) 大動脈における固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、動脈/大動脈圧(AoP);および(3) LVにおける固体マノメータ(ミラー(Millar)社)からの、左心室圧(ESP、EDP)および誘導された指標(dP/dtmax、dP/dtmin、Vmax、およびτ)。更に、ペプチド処理されたまたはされていない、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)の程度を測定/定量化するために、心臓バイオマーカー並びに梗塞面積を評価する。
血液サンプル:薬力学(PK)分析並びに心臓バイオマーカー分析による心筋障害の評価両者を、6点のデーター収集時間点、即ちベースライン、虚血の30分後、並びに再灌流の30、60、120および180分後において行うために、静脈全血(<3mL)サンプルを集める。以下のような2種の臨床的に使用されるバイオマーカーについて測定する:心臓トロポニン-I(cTnI)およびクレアチン-キナーゼ(CK-MB)。更に、ベースライン、虚血の60分後、並びに再灌流の60および180分後に、血液ガスを測定するために、3つの動脈全血(約0.5mL)サンプルを収集する。即ち、これらの動脈血サンプルを、血液ガス測定シリンジ内に集め、I-スタット(Stat)アナライザ/カートリッジ(CG4+)により、血液ガスの測定のために、該血液サンプルを使用する。
組織病理学/組織形態計測:前記プロトコールの完了時点において、前記I/R発作に起因する不可逆的な心筋障害(即ち、梗塞)を評価する。簡単に説明すれば、前記冠動脈スネアを再度締付け、またエバンスブルー色素(1mL/kg、MO州、セントルイスのシグマ(Sigma)社)を、静脈内注射して、虚血中の心筋障害の危険領域(AR)を決定した。約5分後、該心臓を(その左心房に塩化カリウムを注射することにより)停止させ、新たに切除する。該LVを、その長軸に直角に(頂部から底部に向かって)、厚み3mmの薄片に切断する。引続き、該薄片を、2%トリフェニル-テトラゾリウムクロリド(TTC)溶液中で、37℃にて20分間インキュベートし、10%の緩衝処理されていないホルマリン溶液(NBF)中で定着させる。
前記定着後、梗塞領域およびその危険性のある領域を、ディジタル的に描写し/測定する。このような目的のために、各薄片の厚みをディジタル式マイクロメータで測定し、その後写真撮影/走査を行う。全ての写真を、像解析プログラム(イメージ(Image) J;ナショナルインスティチューツオブヘルス(National Institutes of Health)製)に導入し、コンピュータ-援用断層撮影法を実施して、該梗塞領域(I)およびその危険性のある領域(AR)の全体的なサイズを測定する。各スライドに対して、該AR(即ち、青色に染色されていない領域)を、前記LV領域の百分率として表し、また該梗塞部のサイズ(I、染色されていない組織)を、該AR(I/AR)領域の百分率として表す。全ての場合において、定量的な組織形態計測法は、前記処置の割振り/研究-計画に対して情報が与えられていないヒトによって実施させる。
動物の観察:分析用ECGオートソフトウエア(Auto software)(エムカテクノロジーズ(EMKA Technologies)製)を用いて、エムカの(EMKA's)IOXシステムにデータを得る。あらゆる生理的パラメータに関する測定は、手作業でまたは自動的に、(ディジタル)オシログラフ追跡法で行う。各標的時間点において得た60個のデータからの平均値を、(可能な場合には)使用するが、上で述べた如く、シグナル/追跡結果を、これらの実験全体を通して連続的に記録して、(必要に応じて)より精度の高い/詳細な、時間の経過に伴うデータ解析(補正を通して)を行うことを可能とする。付随的な計算を、マイクロソフトエクセル(Microsoft Excel)を使用して行う。データは、標準誤差を伴う平均値として提示する。
前記ペプチド+CsA-処置群における梗塞サイズおよびアポトーシス細胞死は、前記コントロール群と比較して著しく低減されるものと予想される。特に、該ペプチド+CsAが虚血発生前に与えられた場合には、低減された低酸素症-誘発性ミトコンドリア機能不全が見られるものと予想される。このような結果は、ペプチドの投与が、急性心臓虚血-再灌流障害の諸症状の発生を防止することを示しているものと考えられる。故に、芳香族-カチオン性ペプチドは、哺乳動物対象における虚血-再灌流障害の予防並びに治療方法において有用である。
実施例4:併用されたペプチドおよびシクロスポリンによる処理の、急性心筋梗塞障害の大動物モデルにおける効果
芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩およびシクロスポリンの、大動物モデル(例えば、ブタまたはヒツジモデル)における心臓虚血-再灌流障害に対する保護における効果を、検討する。D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2ペプチドおよびシクロスポリンの心臓保護効果を、本実施例において明らかにする。
大動物モデルに対する一般的な外科手術プロトコール:前記動物を、ケタミン(50mg/kg)、グリコピロレート(0.2mg/kg)、およびブプレノルフィン(0.05mg/kg)を筋肉内投与することで、鎮静化処理する。挿管処置後、該動物を、0.6L/分なる酸素で富化した室内空気を用いて、機械的レスピレータ(ハロウエルEMCモデル(Hallowell EMC Model) AWS, マサチュセッツ(Massachusetts)州、ピッツフィールド(Pittsfield)のハロウエル(Hallowell)社)を用いて換気する。血圧の連続的な測定のため、および静脈内薬物投与のために、カテーテルを、小耳介動脈および静脈内に、および頸部静脈内に導入する。麻酔状態は、ケタミン(0.02〜0.04mg/kg/分)および必要により補足的なペントサル(2.5〜5mg/kg)を静脈内注入することにより維持する。更に、圧力トランスデューサ(SPR-524;テキサス(Texas)州、ヒューストン(Houston)のミラーインスツルメンツ(Millar Instruments)社製)を、右頸動脈を介して、左心室に導入する。心拍数、血圧、表面心電図、および直腸温度を、継続的に監視する(ヒューレットパッカード(Hewlett Packard) 78534C、カリフォルニア州、パロアルト(Palo Alto)のヒューレットパッカード(Hewlett Packard)社製)。
左開胸術を行い、また心臓の底部から頂部までの距離の約50%において、回旋冠動脈の大きな支脈の回りに、縫合糸を通すことにより、冠動脈スネアを構築し、またポリエチレン製チューブの小片を介して糸を通す。
ヒツジモデルを使用する、別の外科手術プロトコール:体重35-40kgのドーセット(Dorset)産の雄の雑種ヒツジを、本研究において使用する。麻酔状態は、チオペンタールナトリウム(10-15mg/kg、IV経路)によって誘発し、ヒツジに挿管し、イソフルラン(1.5-2%)により麻酔し、酸素吸入する(ドラジェール(Drager)麻酔モニター、PA州、テルフォード(Telford)の、ノースアメリカンドラジェール(North American Drager)製)。流体-充填カテーテルを、大腿動脈および内頚静脈内に、血圧の継続的測定および静脈内投与による医薬投与のために配置する。スワン-ガンツカテーテル(131h-7F、CA州、イルビン(Irvin)のバクスターヘルスケア(Baxter Healthcare)社)を、該内頚静脈を通して肺静脈に導入する。
該動物に対して左開胸術を施し、またシリコーン血管ループ(TX州、アレン(Allen)のクエストメディカル(Quest Medical)社)を、左前方下行性動脈およびその第二の対角方向の支脈の回りに配置するが、後者は、該心臓の頂部から底部までの距離の40%である。これら位置におけるこれら動脈の閉塞は、前部先端心筋梗塞の、十分に特徴付けされたモデルを創成する。動脈血圧、心拍数、表面心電図(ECG)、および直腸温度を、全ての動物における前記プロトコール全体に渡り、継続的に監視する(ヒューレットパッカード(Hewlett Packard) 78534C、カリフォルニア州、パロアルト(Palo Alto)のヒューレットパッカード(Hewlett Packard)社製)。高体温/低体温ユニット(メディ-サーム(Medi-Therm) III、NY州オーチャードパーク(Orchard Park)のガイマーインダストリーズ(Gaymar Industries)社製)を使用して、ヒツジにおける核心温度を39-40℃に維持する。動脈血液ガスを、全ての動物において測定し、また平均のpHを、該プロトコール全体を通して、7.40±0.04に維持する。
ブタモデルを使用する、別の外科手術プロトコール:家畜としてのブタにおいて、麻酔状態は、チオペンタールナトリウム(10-15mg/kg、IV経路)によって誘発し、該ブタを挿管処置し、イソフルラン(1.5-2%)により麻酔し、酸素吸入処置する(ドラジェール(Drager)麻酔モニター、PA州、テルフォード(Telford)の、ノースアメリカンドラジェール(North American Drager)製)。流体-充填カテーテルを、大腿動脈および内頚静脈内に、血圧の継続的測定および静脈内投与による医薬投与のために配置する。スワン-ガンツカテーテル(131h-7F、CA州、イルビン(Irvin)のバクスターヘルスケア(Baxter Healthcare)社)を、該内頚静脈を通して肺静脈に導入する。
該動物に対して左開胸術を施し、またシリコーン血管ループ(TX州、アレン(Allen)のクエストメディカル(Quest Medical)社)を、左前方下行性動脈およびその第二の対角方向の支脈の回りに配置するが、後者は、該心臓の頂部から底部までの距離の40%である。これら位置におけるこれら動脈の閉塞は、前部先端心筋梗塞の、十分に特徴付けされたモデルを創成する。動脈血圧、心拍数、表面心電図(ECG)、および直腸温度を、全ての動物における前記プロトコール全体に渡り、継続的に監視する(ヒューレットパッカード(Hewlett Packard) 78534C、カリフォルニア州、パロアルト(Palo Alto)のヒューレットパッカード(Hewlett Packard)社製)。高体温/低体温ユニット(メディ-サーム(Medi-Therm) III、NY州オーチャードパーク(Orchard Park)のガイマーインダストリーズ(Gaymar Industries)社製)を使用して、ブタにおける核心温度を39-40℃に維持する。動脈血液ガスを、全ての動物において測定し、また平均のpHを、該プロトコール全体を通して、7.40±0.04に維持する。
処置群:前記ヒツジまたはブタモデルの場合において、該動物は、以下の表7に示したように、6つの群に分割する。各群における動物数は、約2〜約15頭、適切には約4〜約8頭の動物であり得る。器具の設置後、ベースライン血流力学的データを記録する。次いで、該動物には、リン酸緩衝塩水(PBS)賦形剤(コントロール)またはペプチド(低、中、または高用量、およびCsA)の何れかの、1-時間に及ぶ、連続的な20mLの注入を施す。該ペプチドおよびCsAは賦形剤中に溶解する。
冠動脈スネアを締付けて、左心室の虚血領域を生成する。虚血は、虚血性心筋領域における視認性の色彩変化、心電図におけるST上昇、および心エコー図における局所的な壁の運動の異常性によって確認される。20-120分間の虚血期間(好ましくは30-60分間の虚血期間)の終了時点において、冠動脈スネアは緩められており、かつ以前に虚血状態に置かれた心筋は、3時間の期間に渡り再灌流される。血流力学的な測定値は、該再灌流期間全体に渡り記録される。各群の動物は、表11に示された例示的な処置群におけるように、塩水賦形剤またはペプチドの何れかの連続的な注入を受ける。前記プロトコール計画における種々の変法も、本発明において意図されている。
温度および血流力学的測定値:動脈の血圧、左心室血圧、心拍数、表面心電図、および直腸温度を、前記動物全体において、前記プロトコール全体に渡り、継続的に監視する。血流力学的特性、心拍数、および温度の測定値は、ベースライン、ペプチド注入またはペプチドに対するプラセボ注入の開始後、虚血の40分の時点、前記冠動脈スネアの取外しの直前または直後、および再灌流の3時間後に記録する。速度と血圧との積は、全時間点において、該心拍数に、収縮期血圧を乗じることにより計算される。
梗塞の恐れのある面積および梗塞サイズの分析:前記プロトコールの完了時点において、前記冠動脈スネアを再度締付け、血管クランプを用いて、大動脈、肺動脈、および下大静脈を閉塞させ、また右心房を切開する。1mL/kgのエバンスのブルー染料(MO州、セントルイスのシグマ(Sigma)社)を、左心房を介して注射して、虚血性心筋梗塞の恐れのある面積(AR)の輪郭を描写する。
前記全ての動物を、その左心房に塩化カリウムを注射することにより安楽死させる。次いで、該心臓を切除し、また前記LVを、その長軸に対して直角方向に、6個の薄片に切断する。各薄片の厚みを、ディジタル式マイクロメータで測定し、また全ての薄片を写真撮影する。次いで、該薄片の全てを、2%トリフェニル-テトラゾリウムクロリド(TTC)溶液中で、37℃にて20分間インキュベートし、再度写真撮影する。これら全ての写真を、像解析プログラム(イメージプロプラス(Image Pro Plus)、MD州シルバースプリング(Silver Spring)のメディアサイバネティックス(Media Cybernetics)製)に導入する。エバンスのブルー染料により染色されない心筋を、前記ARであるものとする。梗塞面積は、該心筋をTTC中でインキュベートすることにより決定する。TTCは、無色の染料であり、これは、補酵素NADHの存在下において還元されて、赤レンガ色に着色された沈殿となる。以前虚血状態にあった心筋の再灌流中に、NADHは、あらゆる壊死性の筋細胞から洗い流されてしまう。これは、赤レンガ色に染まる生きた心筋の明瞭な輪郭描写をもたらし、また生存していない心筋は、染色されていない、淡い色のものとして可視化される。例示的な画像に関しては、例えばLeshnower等の、Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., 2007, 293:H1799-H1804に記載の論文を参照のこと。
コンピュータ処理による面積測定装置(イメージプロプラス(Image Pro Plus)、メディアサイバネティックス(Media Cybernetics)製)を利用して、前記ARおよび梗塞面積を測定する。ARは、前記LVの百分率(AR/LV)として表され、また梗塞サイズは、該ARの百分率(I/AR)として表される。ARおよびI/ARは、前記全ての薄片について測定し、また全LVに対する全ARおよびI/ARを算出する。
組織の調製:LV薄片から全ARを切除する。1〜2mmの経壁検体を、該ARから取出し、液体窒素中で急速凍結し、-80℃にて保存する。該ARの残部を、10%のホルマリン溶液中で、24時間に渡り定着させ、引続きパラフィン中に埋設させる。
原位置でのオリゴ連結アッセイ:アポトーシス細胞を同定する目的で、アポトーシスに特徴的な特異的DNA断片部分の染色に対して高い特異性を持つ、原位置でのオリゴ連結(ISOL)アッセイ(インテルゲン(Intergen) 7200、NY州、パーチェイス(Purchase)のインテルゲン(Intergen)社製)部を選択する。このアッセイでは、合成ビオチニル化オリゴヌクレオチドを、3'-dT懸垂部分に結合するために、T4 DNAリガーゼを使用する。パラフィン-包埋組織を、5-μmの薄片に細断し、キシレンで3回交換し、次いで無水エタノールで3回交換することによりパラフィンを除く。引続き、内因性のペルオキシダーゼを、3%過酸化水素のPBS溶液中で急冷処理する。該組織断片を洗浄した後、これらをPBS中の20μg/mLプロテイナーゼKで処理し、再度洗浄し、平衡化バッファー中に入れる。次いで、T4 DNAリガーゼおよびオリゴヌクレオチドの溶液を、該薄片に適用し、一夜に渡り16〜22℃なる温度にてインキュベートする。結合したオリゴヌクレオチドのApopTag検出は、ジアミノベンジジンにより発現する、ストレプタビジン-ペルオキシダーゼ複合体を適用することにより達成される。最後に、該組織断片を、ヘマトキシリン中で対比染色する。
前記組織切片全体を、走査型顕微鏡を用いてディジタル化し、像解析ソフトウエアパッケージ(イメージプロプラス(Image Pro Plus)、MD州、シルバースプリング(Silver Spring)のメディアサイバネティックス(Media Cybernetics)製)を利用して分析する。前記AR中のISOL-正およびISOL-負の核を計数する。結果はアポトーシス指標として表されるが、これは、該全ARにおける全細胞数当たりのISOL-正細胞の百分率として定義される。
通壁性分析:最新の面積測定技術(イメージプロプラス(Image Pro Plus)、メディアサイバネティックス(Media Cybernetics)製)を使用して、頂部由来の二次的な薄片における経壁分析を、ARについて実施して、該心筋の様々な領域における虚血細胞死の広がりを評価する。該二次薄片は、前の実験の結果としての、虚血および再灌流に伴う、その一貫した外観の故に選択される。基本的な面積測定作業が完了した後、左心室壁の放射対称面を、その周辺部の回りの複数の点において、3つの等価な長さに分割し、別々の孤形構造物を生成するが、これらは該放射対称面を結んでいる。次いで、これらの孤形構造物を、その周囲に関して結合して、同心状の楕円を形成する。これらは、該ARを、統計的に等価な3つの面積に分割する(心内膜下部、中央部心筋、および心外膜下部;P=0.05)。ARおよびI/ARを測定する。
心筋蛍光分光分析法:動物心筋の蛍光分光分析法を、蛍光計を用いて実施する。この蛍光計は、3-mmチップを持つ光ガイドカテーテルを通して、任意の型の組織の蛍光シグナルを集める、可動式光学-電気的装置である。その入射光の光源は、50Hzにて回転している、エアータービンフィルタホイールによって、2対の励起/放出波長において濾波することができる、広帯域水銀アークランプである。結果として、組織代謝の4-波長チャンネル光学測定を行うために、4個までのシグナルを、光検出器に多重伝送することができる。この実験においては、2つのチャンネルが、励起のために使用され、また他の2つが、シグナルを放出するために使用される。該ファイバーの先端において組織に入射される該光の強度は、3μW/mm2である。心臓蛍光測定実験において、FADおよびNADHの励起波長は、夫々バンド-パスフィルタ440DF20および365HT25によって、436nmおよび366nmにおいて、該水銀アークランプの共鳴ラインを濾波することにより得られる。次いで、該蛍光強度を、光増倍管によって検出し、これを電圧に変換し、ディジタル化し、表示する。特別な機器の明細は、上記全ての実験に対して同一となるように維持する。
前記蛍光計カテーテルは、虚血の関連領域中心部における心外膜表面上に配置され、またFADおよびNADHシグナルに係る蛍光シグナルの継続的な記録を、10分間のベースライン期間中、塩水またはペプチド注入の60分間、虚血の30分間、および再灌流の180分間について行う。レドックス比を、連続的に記録されたFADおよびNADHに基いて、5分毎にFADf/(FADf + NADf)として算出する。各群における該レドックス比(RR)を平均し、これを、統計的分析のために5-分という時間点において、また分光学的グラフ作成のために10-分間隔で、平均値±標準誤差として表す。
局所的血流測定:テスト対象において、約15,000,000の色彩にコード化された、15.5μm-径のヌフローフルオレッセント(NuFlow Fluorescent)微小球(CA州、イルビン(Irvine)のIMTラボラトリーズ(IMT Laboratories)社製)を注入して、冠動脈閉塞中の虚血の程度を測定し、また延長された虚血期間の、微小血管の完全性に及ぼす効果を研究する。ここで、該注入は、ベースライン、虚血の30分後、再灌流の開始時点、および再灌流の180分後に行われる。標準血液サンプルを、前記時間点全てにおいて採取する。この実験の終了時点において、上記経壁分析と同様な様式で、各動物における先端部由来の二次的薄片からのARを単離し、周辺部を3つの等価な面積部分、即ち心内膜下部、中央部心筋、および心外膜下部に切断する。心筋のこれら3種の異なる領域および標準血液サンプルを、IMTラボラトリーズ(IMT Laboratories)によって、マイクロスフェアの含有率につき、フローサイトメトリーを利用して分析する。局所的な灌流を、以下の式:Qm=(CmxQr)/Crに従って計算する。ここでQmは、サンプルの単位グラム当たりの心筋血流量(mL/分/g)であり、Cmは、サンプル中の組織の単位グラム数当たりのマイクロスフェア(微小球)の計数値であり、Qrは、該標準血液サンプルの抜取り率(mL/分)であり、またCrは、該標準血液サンプル中のマイクロスフェアの計数値である。局所的血流(RBF)値は、標準化され、またベースライン流量の百分率として表される。
ミトコンドリア崩壊に関する分析:前記梗塞領域由来の、3種のランダムに選択された組織断片を、エポン(EPON)内に埋設させる。1断片を細断し、染色し、かつ分析し、一方で残りの2つの断片を、後の分析のために保管する。該サンプルの全領域由来の50個のミトコンドリアを、標準化された倍率にて評価する。破壊された外膜を持つミトコンドリア数を記録し、また崩壊したミトコンドリアの百分率を報告する。
透過型電子顕微鏡観察:心筋パンチ生検サンプルを、前記コントロール群およびペプチド処置群各々からの2体の動物由来のARから得る。同様に、組織も、前記虚血/再灌流プロトコールに付されていない、4体の正常な動物から得る。生検サンプルを、固定状態(2.5%グルタルアルデヒド、2.0%パラホルムアルデヒド、0.1Mカコジル酸ナトリウム[NaCaC])にて、4℃で24時間保存する。0.1M NaCaC中で数回洗浄した後、これらのサンプルを、緩衝2%四酸化オスミウムで、4℃にて1時間後−固定する。これに続き、0.1M NaCaC、水、および2%酢酸ウラニル水溶液による洗浄を利用して、該サンプルから汚れを除去する。これらの組織サンプルを、エタノールおよびプロピレンオキシドで順次洗浄することによって、脱水処理し、次いでエポン(EPON)812でゆっくりと浸潤させる。これらのサンプルを70℃にて48時間に渡り硬化させ、細断し、染色し、ジェオル(Jeol)-10-10透過型電子顕微鏡(日本国、アキシマ(Akishima)のジェオル(Jeol)社製)で撮像する。ランダムに選んだ像を、比較分析の目的で、各サンプルから取出す。ミトコンドリア崩壊の程度を評価するために、ブタまたはヒツジ1頭当たり、ミトコンドリアのランダムに選択された、倍率12,000における5つの像を各検体から取出す。細胞の核を取巻く領域、即ち核キャップにおける、ミトコンドリアの形態上の差異を評価する。全ミトコンドリア数および崩壊ミトコンドリア数を計数し、かつ平均する。崩壊ミトコンドリアの平均の百分率を計算し、また各群について報告する。
以下の表12に示された終点は、当分野において公知の適当な技術、例えば前節において記載されたような例示技術を利用して測定される。
前記ペプチド+CsA-処置群における、梗塞サイズおよびアポトーシス細胞死は、前記コントロール群と比較して著しく低下されるであろうことが予想される。また、透過型電子顕微鏡観察が、該コントロール群と比較して、該ペプチド+CsA-処置群においては、正常なミトコンドリアの形態学的特徴の保存および破壊されたミトコンドリアの百分率における減少を明らかにするであろうことも予想される。
同様に、前記ペプチド+CsAが、前記レドックス比(RR)の経過時間に対してプロットされた曲線によって示されるように、虚血および再灌流の両期間中に、ミトコンドリアの機能に影響を及ぼすであろうことも予想される。該RRは、固有のNADおよびFAD蛍光測定値を用いて計算され、またこれはミトコンドリア代謝の高感度の指標である。該NADおよびFADの蛍光は、ミトコンドリアのレドックス状態とは逆に変化するので、該RR(FADf/(FADf+NADf))は、個々の蛍光測定値単独の何れに対するよりも、より一層強力にミトコンドリア機能と相関関係にあることが分かった。特に、該ペプチドが虚血に先立って与えられた場合には、虚血中の該RRにおける鈍い降下によって示されるように、低い低酸素症-誘発性ミトコンドリア機能不全が見られるものと予想される。同様に、該RRは、前記コントロールと比較して、前記ペプチド+CsA-処置群においては、再灌流の際にかなり急激に上昇するものとは予想されない。
これらの結果は、ペプチドおよびCsAの投与が、急性心臓虚血-再灌流障害の諸症状の発生を防止することを示している。故に、シクロスポリンと芳香族-カチオン性ペプチドとの組合せは、哺乳動物対象における虚血-再灌流障害の予防並びに治療法において有用である。
実施例5:急性心筋梗塞障害に罹っているヒトにおける、ペプチドおよびシクロスポリンによる併用治療の効果
本実施例では、血管再生術を施す際の、芳香族-カチオン性ペプチド、または酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩およびシクロスポリンの投与が、急性心筋梗塞中の該梗塞のサイズを制限するか否かを決定する。本実施例においては、芳香族-カチオン性ペプチドとしてD-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2を使用する。
研究群:胸部痛発症の6時間以内にあり、2本の隣接するリードにおいて、0.1mVを越えるST-セグメントの上昇を示す、および経皮冠動脈介入(PCI)による治療をすべきものとの臨床的決定がなされた、18歳またはそれ以上の男性および女性が、登録される資格のあるものである。患者は、彼らが一次PCIまたは救急PCIを受けているか否かを検討するために登録される資格を持つ。承認時点における、疑わしい冠動脈閉塞(心筋梗塞における血栓溶解(TIMI)フローグレード0)も、編入の基準である。
血管造影法および血管再生術:左心室および冠動脈の血管造影を、血管再生処置の直前に標準的な技術を用いて行う。血管再生処置を、直接ステント挿入法を利用して、PCIにより行う。これに代わる血管再生手順は、バルーン血管形成法、人工副行路の挿入、経皮経内腔冠動脈血管形成術、および方向性冠動脈アテローム切除術を含むが、これらに限定されない。
実験的プロトコール:冠動脈血管造影法を実施した後、かつ該ステントを移植する前に、編入基準を満たしている患者を、ランダムにコントロール群またはペプチド処置群の何れかに割り振る。このランダムな群への分割処置は、コンピュータで発生させたランダム化順序を利用して行う。直接ステント挿入の10分未満前に、該ペプチド処置群の患者は、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2およびシクロスポリンの、静脈内投与によるボーラス注射を受ける。該ペプチドを、正規の塩水(最終濃度:25mg/mL)に溶解し、これを、前腕前部の静脈内に設けられたカテーテルを通して注入する。別々または同時の何れかによって、シクロスポリン(最終濃度:25mg/mL)を、該カテーテルを通して注入する。正規の塩水(0.9%のNaCl)を、コントロールとして使用した。該コントロール群の患者は、等体積の正規の塩水の投与を受ける。
梗塞のサイズ:第一の終点は、心臓バイオマーカーの測定により評価された如き梗塞のサイズである。血液サンプルを、許諾を受けて採取し、またその後の3日間に渡り繰返し採取する。クレアチンキナーゼおよびトロポニンIの放出(ベックマンキット(Beckman Kit))のために、各患者における、得られた曲線下部の面積(AUC)(任意単位で表示)を、コンピュータ化された面積測定法によって測定する。主な第二の終点は、梗塞形成の5日後に評価された、心臓磁気共鳴画像法(MRI)において見られる、遅延超増強部(delayed hyperenhancement)の面積として測定されるような、梗塞部のサイズである。遅滞-増強(late-enhancement)分析のために、1kg当たり0.2mMのガドリニウム-テトラザシクロドデカン四酢酸(DOTA)を、4mL/秒なる速度にて注入し、また15mLの塩水でフラッシングした。遅滞-増強部は、3-次元インバージョン-リカバリーグラジエント-エコーシーケンス(inversion-recovery gradient-echo sequence)を用いて、ガドリニウム-DOTAの注入の10分後に評価する。これらの像を、左心室全体を含む短軸薄片において解析する。
心筋梗塞は、心筋内の遅延超増強部によって同定し、これは、該心筋の対比後のシグナルの強度により定量化され、該シグナルは、同一の薄片内の遠位の梗塞を起こしていない心筋の参考領域におけるものよりも、2SDを越えて大きい。全ての薄片に関して、その梗塞形成した領域の絶対的質量を、以下の式に従って計算する:梗塞質量(組織の重さ(g)として)=Σ(超増強領域[cm2単位])×薄片の厚み(cm単位)×心筋比重(1.05g/cm3)。
他の終点:ペプチドの全血濃度は、PCIの直前の、並びにPCIの1、2、4、8および12時間後のものである。血圧およびクレアチニンおよびカリウムの血清濃度は、許諾を得てPCIの24、48および72時間後に測定する。ビリルビン、γ-グルタミルトランスフェラーゼ、およびアルカリホスファターゼの血清濃度、並びに白血球の計数値は、PCIの24時間後に測定する。
再灌流後の初めの48時間以内に起きる主な不利な事象の積算発症率を記録するが、これは死亡、心臓麻痺、急性心筋梗塞、発作、再発性虚血、反復的血管再生の必要性、腎または肝不全、血管合併症、および出血を含む。心臓麻痺および心室細動を含む、該梗塞に関連する不利な事象を評価する。更に、急性心筋梗塞の3カ月後に、心臓に起る事象を記録し、包括的な左心室機能を、心エコー装置(ビビッド(Vivid) 7システム、GEビングメド(Vingmed)製)により評価する。
再灌流時点における、前記ペプチドおよびシクロスポリンの投与は、幾つかの基準によれば、プラセボについて見られたものよりも、小さな梗塞と関連しているであろうことが予想される。
実施例6:ペプチドおよびシクロスポリンの併用治療の、臓器(器官)保存に及ぼす効果
心臓移植のために、ドナーの心臓を、その輸送中、心停止用溶液中に保存する。該保存溶液は、高濃度のカリウムを含み、これは、該心臓の拍動を効果的に停止し、かつエネルギーを保存する。しかし、該単離された心臓の生存期間は、依然として著しく制限されている。
本実施例では、臓器の保存に及ぼす、芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩、およびシクロスポリンの効果を立証する。長期間の虚血後の、哺乳動物臓器の生存に及ぼす、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2投与の保護効果を明らかにする。
実験的プロトコール:単離したモルモットの心臓を、34℃にて、酸素添加したクレブズ-ヘンゼライト溶液で、逆行性の様式で、灌流処理に付す。安定化の30分後に、該心臓を、D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2およびシクロスポリンを含む、またはこれらを含まない、心停止溶液CPS(セントトーマス(St. Tohomas))で3分間灌流処理に付す。次いで、全体的な虚血を、90分間に及ぶ冠動脈灌流の完全な中断によって誘発する。引続き、60分間に渡る再灌流を、酸素添加したクレブズ-ヘンゼライト溶液を用いて行う。収縮力、心拍数、および冠動脈流量を、前記実験全体を通して継続的に監視する。
結論:前記ペプチドおよびシクロスポリンの投与が、コントロールと比較して、長期間に渡る虚血後の臓器の生存性に保護効果を及ぼすであろうことが予想される。
実施例7:移植患者における腎毒性に及ぼす、ペプチドおよびシクロスポリンの併用治療の効果
移植後の臓器または組織の拒絶反応を回避するために、患者には、しばしば免疫抑制薬物であるシクロスポリンによる治療が施される。シクロスポリン濃度は、該対象内において、該患者の免疫系を効果的に抑制するレベルに設定され、また維持される。しかし、腎毒性が、これら対象に関する一つの問題となり、そこで該対象の血液中の該薬物濃度が、注意深く監視される。シクロスポリンの用量は、従って拒絶反応を防止するためのみならず、その潜在的な損傷を起こす恐れのある副作用をも阻害するように調節される。典型的には、成人の移植患者は、以下のようにシクロスポリンの投与を受ける:IV:4〜6時間に渡り、1日1回当て、2〜4mg/kg/日のIV経路での注入、または4〜6時間に渡り、1日2回当て、1〜2mg/kgのIV経路での注入、または24時間に渡る、2〜4mg/kg/日なる用量のIV経路での連続的な注入;カプセル:8〜12mg/kg/日なる用量を、2回に分割された用量にて、経口経路で投与。液剤:1日1回当て、経口経路にで8〜12mg/kgなる用量で投与。幾人かの患者において、用量は、3〜5mg/kg/日程度に低い維持量まで、時間と共に低用量側に下げる(titrated downward)ことができる。幾人かの患者において、シクロスポリンに対する許容度は低く、またシクロスポリン療法を、該対象の腎臓の崩壊を回避するために中断し、その服用量を低減し、またはその投薬法を周期的に行う必要がある。
本実施例は、芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩、およびシクロスポリンの、移植後の臓器の健康(例えば、移植後の虚血-再灌流障害および臓器の拒絶反応)並びに腎臓の健康(例えば、シクロスポリンの腎毒性効果)に及ぼす効果を立証する。D-Arg-2',6'-Dmt-Lys-Phe-NH2等の芳香族-カチオン性ペプチド投与の効果、該移植臓器または組織に及ぼされる効果、およびシクロスポリン治療中の腎臓の健康に及ぼす保護効果を立証する。
標準的な移植前および移植後の処置に引続いてシクロスポリンの投与を受けた移植対象を、以下のような7つの群に分割する:
治療上有効な量の芳香族-カチオン性ペプチドまたは酢酸塩またはトリフルオロ酢酸塩等の製薬上許容されるその塩を、上記表13に示したように、移植前、その最中および/またはその後に、対象に投与する。対象を、移植された臓器または組織の健康状態および機能、並びに長期間のシクロスポリン投与に伴ってしばしばみられる腎毒性の発病率およびその重篤度につき監視する。
結論:前記ペプチドの投与を受けた対象は、該ペプチドの投与を受けていない対象と比較して、より健康な移植臓器または組織を持ち、および/またはより高いまたはより一層一貫した、より長期間に渡るシクロスポリン用量を維持することができるであろうものと予想される。
等価物:
本発明は、本発明の個々の局面の単なる例示として意図される、本件出願において記載した特定の態様に限定されるものでは全くない。当業者には明確であろう如く、本発明の多くの改良並びに変更を、本発明の精神並びに範囲を逸脱することなしに行うことが可能である。本明細書において列挙されたものに加えて、本発明の範囲内に入る機能的に等価な方法並びに装置は、前記説明から、当業者には明確であろう。このような改良並びに変更は、添付された特許請求の範囲内に入るものである。本発明は、かかる特許請求の範囲が資格を与えているものと等価な全ての範囲と共に、添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。本発明は、当然のことに変更することのできる、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物学的な系に制限されないことを理解すべきである。また、本明細書において使用する用語は、単に特定の態様を説明するためのものであり、また限定するためのものではないことをも理解すべきである。
更に、本発明の開示の特徴または局面が、マーカッシュ群により記載されている場合、当業者は、該開示が、該マーカッシュ群の任意の個々の構成員または該構成員の下位集団によって記載されているものと認識するであろう。
当業者には理解されるであろうように、任意のおよびあらゆる目的、特に記載された説明を与えることに係る目的にとって、ここに記載された全ての範囲は、また任意のおよび全ての可能な下位範囲および該下位範囲の組合せも包含するものである。任意の列挙された範囲は、同一の範囲を十分に説明し、また該範囲を、少なくとも等価な半分、三分の一、四分の一、五分の一、十分の一等々に分割し得るものと、容易に認識できる。非-限定的な例として、本明細書において論じる各範囲は、容易に下位の三分の一、中位の三分の一および上位の三分の一等々に分割し得る。同様に当業者には理解されるであろうように、「〜まで」、「少なくとも」、「より大きな」、「〜未満」等の全ての用語は、列挙された数値を含み、また上で議論した如く、後に下位範囲に分割し得る範囲を意味しているものである。最後に、当業者には理解されるであろうように、ある範囲は、各個々の構成員を包含する。従って、例えば、1-3個の細胞を含む一つの群は、1、2、または3個の細胞を含む複数の群を意味する。同様に、1-5個の細胞を含む一つの群は、1、2、3、4、または5個の細胞を含む複数の群を意味し、以下同様である。
本明細書において言及され、または引用されている、全ての特許、特許出願、仮特許出願、および刊行物は、全ての図面並びに表を含むその内容全体を、本明細書の明瞭な教示と矛盾しない程度において、参考としてここに組入れる。
その他の態様は、添付した特許請求の範囲内に示されている。