JP2013519871A - リン脂質プロファイリング及びガン - Google Patents

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Abstract

一般に本発明は、リン脂質プロファイリングを利用することにより、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための予後的及び予測的方法ならびにキットを提供し、ここでポリ−不飽和リン脂質種における相対的な減少と組み合わされたモノ−不飽和リン脂質種における相対的な増加は、より耐性且つ侵略的な脂質生成性ガン表現型に関する指標である。
【選択図】 図6

Description

一般に本発明は、リン脂質プロファイリング(profiling)を利用することにより、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための予後的及び予測的方法ならびにキットを提供し、ここでポリ−不飽和リン脂質種における相対的な減少と組み合わされたモノ−不飽和リン脂質種における相対的な増加は、より耐性且つ侵略的な脂質生成性ガン表現型に関する指標である。
ガンは制御されない細胞の成長により認識され、それは腫瘍を形成し、究極的に他の組織に侵入し得る(転移)。ガンはすべての年令の人々を冒し、人間の死の主要な原因であり、ここで特に肺ガン、胃ガン、結腸直腸ガン及び肝臓ガンは最も致命的なものである。男性において最も普通に起こるガンは前立腺ガンであり、女性においてそれは乳ガンである。
毎年、世界中で一千百万人の人々がガンを有すると診断される。ほとんど七百万人がその疾患で死亡する。多くのガンの型の処置の選択肢及び介入の成功率は、診断の時点における疾患の病期に大きく依存する。多くの場合、初期の検出は処置の成功のための機会を非常に増加させるので、それは最も重要なことである。しかしながら、初期の検出のためのスクリーニングプログラムの遂行は、潜在性の腫瘍及び臨床的に的外れの腫瘍の検出率を高くする。これは過剰処置の大きな危険を持ち出し、従って、疾患の進行に関する有効な試験が得られないので重大な臨床的ジレンマである。他方、局所的に侵略的な治療にかかわらず、生化学的再発は有意である。実質的な数の患者は臨床的転移性疾患を発症するか、又はすでに病期分類の時点に隠れた転移と共に存在する。腫瘍が与えられる治療の型に種々に反応し得ることと一緒になって、これらの状況は、処置の決定に関する信頼できる基準の必要性を強調している。
現在、多くのガンの処置決定は、組織病理学的TNM(腫瘍、節、転移)システム及び原発性腫瘍の組織学的鑑別に大きく基づいている。これらのシステムは腫瘍の特別な像のみを与えるので、腫瘍の特性における分子に基づく見識は、確実に進行及び治療への反応をより正確に予測することを助け、より適した一次的及び/又は補助的処置の選択肢の選択において助けとなるであろう。分子分析的方法における近年の進歩は、これに関して有意な将来の見込みを有しており、ガンを診断し且つ処置する方法を変革させる力を有する。
現在まで、ガンの分子的特性化及び病期分類に向けてのほとんどの試みは、DNA又はRNAのレベルで行われている(ゲノム突然変異に関するスクリーニング、エピジェネティクス(epigenetics)の分析又はトランスクリプトーム分析)。例えば遺伝子発現プロファイリングは、前立腺ガン(非特許文献1)ならびに乳ガン(非特許文献2)の臨床的結果を予測することができる。さらに非特許文献3は、BMIlガン遺伝子の改変された発現は、多数の型のガンを有する患者における劣った予後プロファイル(prognostic profile)と結びついていると記載している。しかしながら、これらの予測マーカーの使用はほとんど1つの型又はわずか数例の型のガンに限られ、一般的にすべての型のガンに適用することはできない。従ってより下流の変化はおそらくより有意なものであり、それは、それらが細胞調節のより末端の終点を示し、多様な(エピ)ジェネティクス((epi)genetic)、調節的及び環境的きっかけを統合しているからである。これに関して特に興味深いのは、膜脂質組成における変化である。
細胞の内容物を分離し、且つ区画する障壁として機能し、膜は多数の細胞プロセス(シグナリング、栄養輸送、細胞分裂、呼吸、細胞死機構などを含む)が濃縮され、且つ調節される独特の界面として機能する。絶えず増加する量の証拠(ever increasing body of evidence)は、膜脂質及び特にリン脂質種における変化がこの調節における中心的役割を果たしていることを示している(非特許文献4)。
リン脂質は複雑な種類の細胞脂質であり、それは頭部基(コリン、エタノールアミン、セリン、イノシトールなど)及び1〜4個の脂肪アシル鎖で構成され、それらは長さ及び不飽和(二重結合)の数の両方において異なり得、何百もの異なる種を生じている。これらの脂質のための構成単位は循環系(circulation)から取り上げられ得るが、いくつかを初めから合成することもできる。ほとんどの細胞は、動的に脂質構造を変更する精巧な経路を発現する。これは、それらの化学的性質を劇的に変化させることができ、膜の生化学的及び生物物理学的性質を局所的に調節することができる。
腫瘍においてリン脂質代謝は正常な組織と劇的に異なるという証拠が増加している(there is mounting evidence)。ほとんどの正常な組織は必要な脂質の大部分を循環系から取得するが、腫瘍細胞は多くの場合にそれらの脂質の大部分を初めから合成する(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)。これはいくつかの腫瘍における、特に劣った予後を有する腫瘍における脂肪酸合成のような脂質生成酵素の劇的な過剰発現により示される。この経路の阻害は腫瘍成長を弱め、ガン細胞を殺し、種々のガン処置にそれらをより反応性とし、脂質生成性表現型がガンの進行に寄与していること、及び腫瘍の脂質生成性が侵略的で反応の劣った腫瘍に関するマーカーであることを示している。しかしながら、この脂質生成経路の活性化は、酵素調節の複数のレベルにおける変化(遺伝的変化、転写及び翻訳の強化、タンパク質安定化及びリン酸化、アロステリック調節及び基質フラックス(substrate flux))を含むので、現在、一般に脂質生成性腫瘍を同定するための確実なマーカーはない。さらに、該脂質生成経路の活性化は種々の通常の腫瘍形成事象(oncogenic events)(PTENの喪失、Aktの活性化、BRCA1の喪失、ステロイドホルモン作用、腫瘍−関連低酸素症など)の下流で起こり(非特許文献5;非特許文献6)、従って該通常のガンマーカー、例えばPETN、Akt、BRCA1も、腫瘍が脂質生成性か否かの決定に有用でない。従って、腫瘍の脂質生成性表現型を決定するための優れた予測マーカーが必要である。そうすると、該マーカーは一般に腫瘍の進化を予測するために、ならびにガン治療の効果を分析するために有用である。
今回我々は、脂質生成性腫瘍が非−脂質生成性腫瘍と比較して有意に異なるリン脂質プロファイルを有することを見出した。従って、リン脂質プロファイリングを利用することにより、脂質生成性腫瘍を非−脂質生成性腫瘍と容易に区別することができ、個々の患者のそれぞれのためにガン治療を微調整することをより一層容易にする。
食物の脂肪酸とガンの発症の危険の間の関連性は、以前に記載されたことがある。例えば特定のn−6ポリ不飽和脂肪酸(リノール酸;非特許文献9及び非特許文献10)、飽和脂肪酸(パルミチン酸;非特許文献11)(ミリスチン酸;非特許文献12)及びモノ飽和脂肪酸(パルミトレイン酸;非特許文献11)の摂取の増加は、ガンの発症の危険の向上との関連が示された。さらに、食物の脂肪酸は腫瘍侵略性と関連することも示された。例えばCrow et al.は、パルミチン酸(飽和脂肪酸)が低−悪性度(low−grade)(侵略性がより低い)前立腺ガンと正に関連するが、ミリスチン酸(飽和脂肪酸)ならびにリノレン酸及びエイコサペンタエン酸(両方ともn−3ポリ不飽和脂肪酸)が高−悪性度(侵略的)の前立腺ガンと正に関連することを示した(非特許文献13)。しかしながら、脂質生成性腫瘍はそれらのリン脂質のほとんどを初めから合成するので、食物の脂肪酸のレベルは腫瘍の脂質生成性を分析するためにほとんど有用でない。
さらに、いくつかの精巧でないリン脂質プロファイルがある腫瘍の腫瘍形成性と関連することが見出されたが、該腫瘍の脂質生成性との関連性はこれまで記載されたことがない。例えば非特許文献14は、モノ不飽和リン脂質−対−ポリ不飽和リン脂質の比が高度に腫瘍形成性のヒト黒色腫細胞系において増加することを示した。ジエチルニトロサミン(DEN)−誘導肝細胞ガンのミクロソーム及びミクロコンドリアにおいて類似の結果が得られ、それは、正常な肝臓細胞において見出される比より増加したモノ不飽和PC及びPE脂肪酸−対−ポリ不飽和PC及びPE脂肪酸の比を示した(非特許文献15)。両著者は、個々の脂質種の単離及び分析のために類似の方法を用いた。全脂質を最初にクロロホルム−メタノール中で抽出し、次いでリン脂質の種々の種類を薄−層クロマトグラフィー(TLC)により分離した。次いでリン脂質画分を処理して脂肪酸メチルエステルを得、それをさらに気−液クロマトグラフィー(GLC)により分析した。GLCは細胞の脂肪酸組成の一般的な認識を与えるのに有用であるが、これにより限られた数の明確な脂肪酸しか検出され得ず、精巧でないリン脂質プロファイルを生ずる。これらの限られたプロファイルを腫瘍形成性に結び付けてきた限り、これらの研究のいずれもこれらの限られたリン脂質プロファイルと腫瘍の脂質生成性の可能な関連性を使用することを暗示したり示唆したりしない。
今回我々は、リン脂質プロファイルが一般的にすべての型の腫瘍において、腫瘍の脂質生成性を予測するために有用であることを見出した。さらに、それは個々の患者のそれぞれのためにガン治療を微調整することならびにガン治療の効果を分析することを可能にする。
特に我々は、モノ−不飽和リン脂質種における一般的な増加及びポリ不飽和リン脂質種における全体的な減少が、増加するFASN発現と関連し、アポプトシス、ストレスラジカル(stress radicals)及び化学療法への耐性が向上した腫瘍細胞を与えることを見出した。これらの発見は、患者における腫瘍の脂質生成性の評価のための予後的ならびに予測的試験を開発するために、膜リン脂質プロファイリングを利用できることを示している。
特に、モノ−不飽和ホスファチジルコリン種における一般的な増加及びポリ不飽和ホスファチジルコリン種における全体的な減少は、増加するFASN発現と関連し、アポトーシス、ストレスラジカル及び化学療法への耐性が向上した腫瘍細胞を与える。
予測的/予後的バイオマーカーとしてのそのようなリン脂質プロファイルの使用の遂行は、より個人的な医療に導き、その医療では診断及び処置がより相互依存性であり、腫瘍がいかにして進化し、且つ特定の処置に反応するかの分子的証拠に基づくであろう。これらの進歩は、医師が患者の個々の要求に適合するように処置を決めることを可能にするであろう。それは過剰処置の故の過度の罹病率及び副作用も避け(すなわち非侵略的な疾患又は進行しすぎた疾患の場合、患者に侵襲的外科手術処置をしない)、利用可能な資源の使用を最適化するであろう。
G.V.et al.著,J.CHn.Invest.113:2004年,913−923 Van’t Veer et al.著,Nature 415:2002年,530−536 Glinsky et al.著,J.Clin.Invest.[upsilon]5:2005年,1503−1521 Marguet et al.著,2006年 Kuhajada著,2006年 Swinnen et al.著,2006年 Menendez et al.著,2008年 Brusselmans et al.著,2009年 Godley et al.著,1996年 Gann et al.著,1994年 Harvel et al.著,1997年 Maennistoe et al.著,2003年 Crowe et al.著,2008年 LeBivic et al.著,1987年 Canuto et al.著,1989年
本発明の目的は、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための予後的又は予測的試験管内法を提供することであり、該方法は;少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の、腫瘍試料対正常な試料における相対的な発現レベルを決定することを含んでなり;ここで該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらに別の態様において、本発明に従う試験管内法は;腫瘍試料及び正常な試料において少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の発現レベルを決定することを含んでなり;ここで正常な試料と比較される腫瘍試料におけるモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比の増加は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
特別な態様において、本発明に従う試験管内法は;患者における腫瘍の脂質生成プロファイルを決定することを含んでなり;ここで1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒にした中に)を有する種における増加及び3個より多い不飽和を有するPL種における減少は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標であり、特に該PL種はホスファチジルコリン種である。
さらに別の態様において、リン脂質は;グリセロリン脂質、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスホイノシチドを含んでなる群から選ばれ、好ましくはホスファチジルコリンである。
さらに別の態様において、飽和リン脂質は、PC30:0、PC32:0、PC34:0、PC36:0及びPC38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルコリン種及び/又はPE36:0及びPE38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルエタノールアミン及び/又はPS36:0、PS38:0、PS40:0及びPS42:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルセリン及び/又はPI34:0、PI36:0及びPI38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルイノシチドである。
さらにもっと別の態様において、モノ−不飽和リン脂質は、PC30:1、PC30:2、PC32:1、PC32:2、PC34:1、PC34:2.PC36:1、PC36:2、PC38:1及びPC38:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルコリン(PC)及び/又はPE32:1及びPE34:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪ア
シル鎖を有するホスファチジルエタノールアミン(PE)及び/又はPS36:2、PS38:2、PS40:2及びPS42:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルセリン(PS)及び/又はPI34:1、PI36:1、PI38:1、PI34:2、PI36:2及びPI38:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルイノシチド(PI)である。
さらに別の態様において、ポリ−不飽和リン脂質は、PC34:3、PC34:4、PC36:3、PC36:4、PC36:5、PC38:3、PC38:4、PC38:5、PC38:6、PC40:3、PC40:4、PC40:5、PC40:6及びPC40:7を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)及び/又はPE36:4、PE38:4及びPE40:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルエタノールアミン(PE)及び/又はPS38:4、PS40:4、PS38:5、PS40:5及びPS38:6を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルセリン(PS)及び/又はPI36:4及びPI38:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルイノシチド(PI)である。
好ましい態様において、モノ−不飽和リン脂質は、モノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC34:1であり;ポリ−不飽和リン脂質は、PC36:3、PC38:3、PC36:4、PC38:4、PC40:4、PC36:5、PC38:5、PC40:5を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)である。
さらにもっと別の好ましい態様において、モノ−不飽和リン脂質はモノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC34:1であり;ポリ−不飽和リン脂質はポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC36:4又はPC38:4である。
さらに別の態様において、リン脂質プロファイルの決定の他に、侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの相対的な発現レベル、例えばこれらに限られないがFASN(脂肪酸シンターゼ)、ACCA(アセチルCoAカルボキシラーゼアルファ)、コリンキナーゼ及びACLY(ATPシトレートリアーゼ)発現を決定することができる。その場合、例えばモノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上、ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下及び侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの発現又はリン酸化/活性化における増加により、侵略的脂質生成性表現型を有する腫瘍を同定することができる。あるいはまた、例えば正常な試料と比較される腫瘍試料におけるモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比の増加及び侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの発現における増加により、侵略的脂質生成性表現型を有する腫瘍を同定することができる。
本発明はさらに、患者における腫瘍の脂質生成性の決定のための、本発明に従う試験管内法の使用に関する。
最後に本発明は、本発明に従う試験管内法を実施するためのキットを提供し、該キットは;無損傷のリン脂質のESI−MS/MS試料調製のための試薬、特に酸化防止剤、溶媒及び標準を含んでなる。
図面の簡単な記述
図1.無損傷のホスファチジルコリン種へのソラフェン処理の影響。LNCaP細胞をソラフェン(100nM)又はビヒクル(標準)で72時間処理した。脂質抽出物を調製し、ホスファチジルコリン種をESI−MS/MSによりMRMモードで分析した。主要な
種のm/z及びそれらの種の指定を示す。Stdは脂質標準を指す。3対の試料(1−3)において脂質プロファイリングを行い、それらの平均として表わした。個々の脂質種に関するソラフェン処理試料対標準試料における倍−変化(fold−change)(log2)として変化を表わす。
図2.A.悪性の前立腺組織試料対正常な前立腺組織試料の対抗する(matched)5対において、脂肪酸シンターゼ(FASN)の発現を、ウェスターンブロッティング分析により測定し、発現をβ−アクチン発現に標準化した。腫瘍組織対対抗する(matching)正常な組織の比として値を表わす。B.悪性組織対正常な組織の対抗する5対におけるPC種の相対的な存在量を、ESI−MS/MSによりMRMモードで記録した。左のパネルにおいて、正常な試料(黒い棒)及び悪性の試料(灰色の棒)中の全ホスファチジルコリンレベルと比較される個々の脂質種の%として結果を表わし;そして右のパネルにおいて、個々の脂質種に関して正常な試料対悪性試料における倍−変化(log2)として結果を表わす。
図3.(A)脂質過酸化生成物へのソラフェン、H及びパルミチン酸の影響。LNCaP細胞を外因性(exogenous)パルミチン酸(75μM)の存在下又は不在下に、ソラフェン(100nM)又はビヒクル(標準)で72時間処理した。最後の2時間の間、細胞を200μMのHに暴露した。脂質過酸化アッセイキットを用い、等量の細胞を脂質過酸化生成物に関して分析した。データは平均±SE(n=4)を示す。暴露なしの標準と有意に異なる(p<0.05)。又はソラフェンのみを用いる処理と有意に異なる(p<0.05)。
図4.(A)CD36−陽性細胞による認識への初めからの脂質生成の影響。LNCaP細胞を外因性パルミチン酸(75μM)の存在下又は不在下に、ソラフェン(100nM)又はビヒクル(標準)で72時間処理した。最後の30分の間、細胞を300μMのHに暴露した。細胞をトリプシン処理し、Cell Tracker Orange
CMRAで標識し、CD36をコードするプラスミド(pCD36)又は対応する空ベクター(empty vector)(pEF−BOS)を用いてトランスフェクションされたCOS−7細胞の上にプレート化した。1時間後、培養物を広範囲に洗浄し、画像化した。Adobe Photoshopソフトウェアを用いて蛍光を定量した。データは平均±SE(n=3)を示す。標準と有意に異なる(p<0.05)。(B)酸化的ストレス−誘導細胞死への細胞の感受性への初めからの脂質生成の影響。LNCaP細胞を外因性パルミチン酸(75μM)の存在下又は不在下に、ソラフェン(100nM)又はビヒクル(標準)で、あるいは10%パルミチン酸、45%リノール酸及び45%リノレン酸の混合物(PUFA)(合計75μM)で72時間処理した。最後の24時間の間、細胞を300μMのHに暴露した。細胞を集め、トリパンブルーで染色し、細胞の生存性を評価した。データは平均±SE(n=3)を示す。標準と有意に異なる(p<0.05)。
図5.(A)ドキソルビシンのフリップ−フロップ速度へのソラフェンの影響。LNCaP細胞をソラフェン(100nM)と一緒に、又はそれなしで72時間培養した。最後の24時間の間、細胞にNBD−DHPE(10μM)を加えた。分析から1時間前に、細胞をビヒクル又はベラパミル(100μM)で処理した。等量の細胞を集め、ドキソルビシン(10μM)を加え、NBD蛍光を継続的に監視し、ドキソルビシンによるNBDのクエンチングのレベルを決定した。データは平均±SE(n=4)を示す。標準と有意に異なる(p<0.05)。(B)LNCaP細胞におけるドキソルビシン堆積へのソラフェンの影響の定量。LNCaP細胞をパルミチン酸(75μM)の存在下又は不在下に、ソラフェン(100nM)を用いて、又は用いずに72時間処理した。分析から30分前に、細胞に10μMのドキソルビシンを加えた。細胞抽出物を調製し、ドキソルビシン含有率を蛍光測定により決定した。データは平均±SE(n=4)を示す。標準と有意に異なる(p<0.05)。(C)LNCaP細胞におけるドキソルビシン−誘導細胞毒性へのソラフェン及びパルミチン酸の影響。LNCaP細胞をパルミチン酸(75μM)の存在下又は不在下に、ソラフェン(100nM)を用いて、又は用いずに72時間処理
した。最後の24時間の間、細胞にドキソルビシン(4μM)又はビヒクルを加えた。細胞を集め、トリパンブルーを用いて染色し、細胞生存性を評価した。データは平均±SE(n=6−12)を示す。標準と有意に異なる(p<0.05)。ソラフェン又はドキソルビシンのみと有意に異なる(p<0.05)。
図6.13人の前立腺ガン患者からのリン脂質種における、前立腺腫瘍組織対正常な前立腺組織においての相対的変化(log2)の平均。リン脂質を脂質の種類(PC、PE、PS及びPI)に従って整理する。クラスター分析は、患者を主要な2つのグループに分けた。クラスターA:脂質生成性表現型を有する9人の患者(図6A);クラスターB:脂質生成性表現型を有していない4人の患者(図6B)。
発明の説明
本発明の目的は、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法を提供することであり、該方法は;少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の、腫瘍試料対正常な試料における相対的な発現レベルを決定することを含んでなり;ここで該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらに別の態様において、本発明に従う試験管内法はさらに、少なくとも1種の飽和リン脂質の相対的な発現レベルを決定することを含んでなり;ここで該飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下、該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
本発明のさらに別の目的は、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法を提供することであり、該方法は;腫瘍試料及び正常な試料において少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の発現レベルを決定することを含んでなり;ここで正常な試料と比較される腫瘍試料におけるモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比の増加は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらに別の態様において、本発明の方法は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20種のモノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルの決定を含む。
さらにもっと別の態様において、本発明の方法は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20種のポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルの決定を含む。
本明細書で用いられる場合、腫瘍は異常な成長する細胞の塊として定義される。本発明のために有用な腫瘍には、前立腺ガン、乳ガン、肺ガン、結腸ガン、胃ガン、卵巣ガン、子宮内膜ガン、肝臓ガン、食道ガン、膀胱ガン、口腔ガン、甲状腺ガン、膵臓ガン、網膜ガン及び皮膚ガン、好ましくは前立腺ガンが含まれるが、これらに限られない。
腫瘍試料を用い、該腫瘍を有する患者から腫瘍を取り出す前又はその後に腫瘍から採取される試料を意味する。
正常な試料を用い、ベースラインの発現レベルの決定において用いるために得る試料を意味する。従って、非−ガン細胞又は組織から、例えば患者の腫瘍又はガン細胞の回りの細胞から;ガンを有していない被験者から;ガンに関する危険にあると思われない被験者
から;あるいはそのような被験者に由来する細胞又は細胞系からを含む複数の手段により、正常な試料を得ることができる。正常な試料は以前に確立された標準、例えば以前に特性化されたガン細胞系も含む。従って、本発明に従って行われる試験又はアッセイを、確立された標準と比較することができ、各回に比較のための正常な試料を得ることは必要でないかも知れない。
試料は、例えばガンを有する患者からか又は健康なボランティアから単離される試料のような、被験者から単離される血漿/血液又は尿のいずれの分画(fractionation)からのいずれの組織、細胞、細胞抽出物、尿、血清、全血、血漿濃縮物(plasma concentrate)、沈降物(precipitate)、例えばエキソソーム(下記では微小水泡とも呼ばれる)であることもできる。「試料」は、被験者から直接単離されるのではない、実験条件下で作られる細胞又は細胞系であることもできる。被験者は、ヒト、ラット、マウス、ヒト以下の霊長類、ネコであることができる。
例えばガン患者からの尿、血液又は血清試料からエキソソームを抽出することができるはずである。該エキソソームの膜は、それらが由来する(from which they arrive)ガン細胞の細胞膜を代表するものなので、これらのエキソソームのリン脂質プロファイリングは、直接のガン組織からのリン脂質プロファイリングのための優れた代わりとなるものであり、もっと重要なことに、侵襲性がずっと低い方法である。これは、各回に腫瘍の生検材料を採取する必要なく、時間を経て腫瘍の進行を追跡することを、ずっとより容易にする。該エキソソームは、例えばラボ−オン−チップ法(lab−on−chip technology)を利用して単離され得、続くリン脂質プロファイルの分析も可能にし、それにより高−処理量スクリーニングを可能にする。後者において、エキソソーム(微小水泡)は以前の公開文献に従って分画遠心法により単離され得る(Valadi H,Ekstrom K,Bossios A,Sjostrand M,Lee JJ,Lotvall JO.Exosome−mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between colls.Nat Cell Biol 2007;9:654−659−Zhang Y,Liu D,Chen X,Li J,Li L,Bian Z,Sun F,Lu J,Yin Y,Cai X,Sun Q,Wang K,Ba Y,Wang Q,Wang D,Yang J,Liu P,Xu T,Yan Q,Zhang J,Zen K,Zhang CY.Secreted monocytic miR−150 enhances targeted endothelial cell migration.Mol Cell 2010;39:133−144)。要するに、300g及び16,500gにおける遠心により細胞及び他のデブリスを除去した後、上澄み液を100,000gで70分間遠心する(すべての段階を4℃で行う)。エキソソームをペレットから集め、RNaseを含まない水中に再懸濁させる。フローサイトメトリーを用い、超遠心分離後のエキソソームの存在を決定する。水泡が正しい寸法のものであることを確かめるために、1ミクロンビーズ(Invitrogen)を用いてフローサイトメトリーゲートを設定し、下記に記載するマイクロ流体チップ(microfluidic
chips)上で使用するための微小水泡を与える。
本発明の試験管内法を用いることにより、腫瘍の脂質生成性を決定することができ、続いて腫瘍が侵略的な腫瘍表現型に進化する可能性を予測するか、あるいは腫瘍が抗−ガン治療に反応する可能性を予測することができる。該抗−ガン治療は、例えばこれらに限られないが化学療法、放射線療法のような当該技術分野から既知のいずれの治療も含む。さらに、本発明に従う試験管内法は、腫瘍の脂質生成を阻害することを目的とする治療に反応しそうな患者のサブセットを決定するのに非常に適しており、該治療は例えば脂肪酸合成に含まれる酵素、例えばFASN、アセチル−CoAカルボキシラーゼ、コリンキナー
ゼ及びATP−シトレートリアーゼの阻害剤を含むが、これらに限られない。該阻害剤を単独治療(mono−therapy)として、あるいは既知のガン治療において用いられる増感剤として用いることができる。従って、本発明に従う試験管内法を用い、患者が抗−脂質生成治療に反応するか否かを決定することもできる。
侵略的脂質生成性表現型を有する腫瘍を用い、内因的に脂肪酸を初めから生産し、より劣った予後を患者に与える腫瘍、すなわち抗−ガン治療により反応性でない、及び/又は患者に優れた生存的予後(survival prognosis)を与える腫瘍と比較して進行するか又は転移する可能性がより高い腫瘍を意味する。
リン脂質は細胞膜の主成分であり、且つ脂質二重層を形成することができる脂質の1つの種類である。ほとんどのリン脂質はジグリセリド、ホスフェート基及び単純な有機分子、例えばホスファチジルコリン(PC)におけるコリン、ホスファチジルイノシトール(PI)におけるイノシトール、ホスファチジルセリン(PS)におけるセリン及びホスファチジルエタノールアミン(PE)におけるエタノールアミンを含有する。ジグリセリドは、エステル結合を介してグリセロール分子に共有結合した2つの脂肪酸鎖から成る。脂肪酸は、二重結合の存在に依存して飽和又は不飽和の少なくとも4個の炭素原子の非分枝脂肪族尾部を有するカルボン酸である。飽和脂肪酸は、それらの脂肪族尾部中に二重結合がない脂肪酸であり、モノ−不飽和脂肪酸はそれらの脂肪族尾部中に厳密に1個の二重結合を有する脂肪酸であり、そしてポリ−不飽和脂肪酸はそれらの脂肪族尾部中に2、3、4、5、6、7又はそれより多くの二重結合を有する。
本発明に従うリン脂質は;ホスホグリセリド、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、スフィンゴリン脂質、ホスファチジルセリン及びホスホイノシチドを含んでなる群から選ばれる。ここで例えばホスホグリセリドは、ジグリセリドのグリセロールの第1炭素に結合したホスフェート基を含み、スフィンゴリン脂質(例えばスフィングミエリン)ではホスフェート基がスフィンゴシンアミノアルコールにエステル化されている。スフィンゴリン脂質の他の例はスルファチドであり、それは分子を両親媒性にするイオン性サルフェート基を含む。リン脂質はもちろんさらに別の化学基、例えばサルフェート基に結合したアルコールを含むことができる。そのようなアルコール基の例にはセリン、エタノールアミン、コリン、グリセロール及びイノシトールが含まれる。かくして特定のホスホグリセリドにはホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール又はホスファチジルイノシトールが含まれる。他のリン脂質にはホスファチジン酸又はジアセチルホスフェートが含まれる。1つの側面において、ホスファチジルコリンはジオレオイルホスファチジルコリン(a.k.a カルジオリピン)、卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、モノミリストイルホスファチジルコリン、モノパルミトイルホスファチジルコリン、モノステアロイルホスファチジルコリン、モノオレオイルホスファチジルコリン、ジブトロイルホスファチジルコリン、ジバレロイルホスファチジルコリン、ジカプロイルホスファチジルコリン、ジヘプタノイルホスファチジルコリン、ジカプリロイルホスファチジルコリン又はジステアロイルホスファチジルコリンを含む。
リン脂質の発現レベルにより、例えばESI−MS/MSにより分析されるような、いずれかの適した方法により決定される無損傷のリン脂質のレベルを意味する。該方法において、リン脂質はイオン化された種の強度に基づいて同定され、測定されるすべてのリン脂質の合計強度レベルに対する個々のリン脂質の%強度レベルとして表わされる。
リン脂質の相対的な発現レベルを用い、正常な試料中のリン脂質の発現レベルと比較される腫瘍試料中のリン脂質の発現レベルにおける差を意味する。いくつかの態様において、相対的な発現レベルを種々の時点に、例えば治療の前、その間及びその後に決定するこ
とができる。例えばlog2としてのようないずれかの適した方法で相対的な発現レベルを表わすことができる。
リン脂質の相対的な発現レベルは、log2値が約0より高い場合に向上していると考えられ、それはlog2値が約0より低い場合に低下していると考えられる。さらに別の態様において、脂肪酸の相対的な発現レベルは、log2値が約0.1;0.2;0.3;0.4;又は0.5より高い場合に向上していると考えられ、脂肪酸の相対的な発現レベルは、log2値が約−0.1;−0.2;−0.3;−0.4;又は−0.5より低い場合に低下していると考えられる。
本発明の別の態様において、試料中のモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比を決定することによりリン脂質組成の変化を得点化し(scored)、ここで腫瘍試料対正常な試料においてのモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比における増加は、腫瘍のより侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらに別の態様において、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法は;患者における腫瘍の脂質生成プロファイルを決定することを含み、ここで1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒にした中に)を有する種における増加及び3個より多い不飽和を有するPL種における減少は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらにもっと別の態様において、患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法は;患者における腫瘍の脂質生成プロファイルを決定することを含み、ここで飽和リン脂質種における減少、1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒にした中に)を有する種における増加及び3個より多い不飽和を有するPL種における減少は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である。
さらに別の態様において、本発明に従うモノ−不飽和リン脂質は;PC28:1、PC30:1、PC30:2、PC32:1、PC32:2、PC34:1、PC34:2、PC36:1、PC36:2、PC38:1、PC38:2、PC40:1及びPC40:2、好ましくはPC34:1を含んでなる群から選ばれる、1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するモノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)である。
さらに別の態様において、ポリ−不飽和リン脂質は;PC32:3、PC34:2、PC34:3、PC34:4、PC36:3、PC36:4、PC36:5、PC36:6、PC38:2、PC38:3、PC38:4、PC38:5、PC38:6、PC38:7、PC40:2、PC40:3、PC40:4、PC40:5、PC40:6、PC40:7、PC40:8、PC42:2、PC42:3、PC42:4、PC42:5、PC42:6、PC42:7、PC42:8、PC42:9、PC42:10、PC42:11、PC44:2、PC44:3、PC44:4、PC44:5、PC44:6、PC44:7、PC44:8、PC44:9、PC44:10、PC44:11及びPC44:12、好ましくはPC36:3、PC38:3、PC36:4、PC38:4、PC40:4、PC36:5、PC38:5、PC40:5、そして最も好ましくはPC36:4及び/又はPC38:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)である。
好ましい態様において、モノ−不飽和リン脂質はモノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC34:1であり;ポリ−不飽和リン脂質はポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC36:4及び/又はPC38:4である。
さらに別の態様において、モノ−不飽和リン脂質は、PE32:1及びPE34:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルエタノールアミン(PE)である。
さらにもっと別の態様において、ポリ−不飽和リン脂質は、PE36:4、PE38:4及びPE40:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルエタノールアミン(PE)である。
さらに別の態様において、モノ−不飽和リン脂質は、PS36:2、PS38:2、PS40:2及びPS42:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルセリン(PS)である。
さらにもっと別の態様において、ポリ−不飽和リン脂質は、PS38:4、PS40:4、PS38:5、PS40:5及びPS38:6を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルセリン(PS)である。
さらに別の態様において、モノ−不飽和リン脂質は、PI34:1、PI36:1、PI38:1、PI34:2、PI36:2及びPI38:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルイノシチド(PI)である。
さらにもっと別の態様において、ポリ−不飽和リン脂質は、PI36:4及びPI38:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルイノシチド(PI)である。
さらに別の態様において、リン脂質の発現の決定の他に、侵略的脂質生成性表現型に関する他のバイオマーカーの相対的な発現レベル、例えばこれらに限られないがFASN(脂肪酸シンターゼ)、ACCA(アセチルCoAカルボキシラーゼアルファ)、コリンキナーゼ及びACLY(ATPシトレートリアーゼ)発現又はリン酸化/活性化を決定することができる。その場合、例えばモノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上、ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下及び侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの発現における増加により、侵略的脂質生成性表現型を有する腫瘍を同定することができる。あるいはまた、例えば正常な試料と比較される腫瘍試料におけるモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比の増加及び侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの発現における増加により、侵略的脂質生成性表現型を有する腫瘍を同定することができる。
本発明はさらに、患者における腫瘍の脂質生成性の決定のための、本発明に従う試験管内法の使用に関する。
最後に本発明は、本発明に従う試験管内法を実施するためのキットを提供し、該キットは;リン脂質のESI−MS/MS又は他の質量分析に基づく試料調製のための試薬、特に酸化防止剤、溶媒及び標準を含んでなる。
特別な態様において、該キットはマイクロ流体チップならびに微小水泡に関する親和性を有するかあるいは微小水泡粒子を結合させることができる分子又は薬剤がコーティングされた表面に微小水泡を固定するためのコーティングされた表面を含む。
選ばれる表面材料のコーティングのために適した、微小水泡に関する親和性を有するい
ずれの分子を用いることもできる。微小水泡に関する親和性を有する分子を用い、そのような分子は微小水泡上に存在する分子に共有結合又は非−共有結合することができることを意味する。好ましくは、該微小水泡上に存在する分子は、膜−結合分子である。好ましくは、微小水泡に関する高い親和性を有する分子を用いる。好ましくは、親和性は解離定数として表わされる。好ましくは、微小水泡に関する0.1nMより低い、より好ましくは10nMより低い解離定数を有する分子を用いる。より好ましくは、微小水泡に関する10−15Mより低い解離定数を有する分子を用いる。他の好ましい態様において、0.1〜10nmの範囲内の解離定数を有する微小水泡に関する親和性を用いる。親和性の決定方法は当該技術分野において既知である。好ましくは、Johnson et al.著,Journal of Molecular Biology 368(2):434−449に記載されている方法を用いる。
微小水泡に関する親和性を有するコーティングを用いる固定に適しているいずれの表面を用いることもできる。好ましい表面は、ガラス、雲母、プラスチック、金属又はセラミック材料を含んでなる材料で作られている。(糖)−タンパク質、細胞膜又は一般に生体分子に関する親和性を有する表面のコーティングのために既知の種々の方法がある。典型的には、これらの方法は、ある種の生体分子に共有結合又は非−共有結合する反応性基を用いる。例えばタンパク質の非−共有吸着のために、アミノプロピルシランがコーティングされたスライドを用いる。エポキシシランがコーティングされたスライドは、pH5〜9においてリシン、アルギニン、システイン及びヒドロキシルと反応性である。アルデヒドがコーティングされたスライドはリシン及びアルギニンと反応性であり、ここでpH7〜10はシッフ塩基反応を推進する。熟練者は、選ばれる表面材料と組み合わせて用いるのに適した正しいコーティングをいかにして選び、微小水泡に関する親和性を調べるかを知っているであろう。
該微小水泡を含んでなる流体に層流を適用することにより、得られるコーティングされた表面を微小水泡と接触させる。該流体は、微小水泡と適合性のいずれの流体であることもできる。適合性を用い、微小水泡の一体性が無損傷のままであることを意味し、無損傷は、少なくとも本発明の方法において用いられるリン脂質が微小水泡内に存在することを意味する。好ましくは、該流体は血漿、細胞培地、ホスフェート緩衝食塩水(PBS)、ホスフェート緩衝カリウム又は4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含む。
層流は、高い運動量拡散、低い運動量対流、時間に依存しない圧力及び速度を特徴とする流動様式である。該層流は、2000より低く且つ0より高いレイノルズ数を特徴とする。好ましくは、層は0〜1000、より好ましくは0〜500、そして最も好ましくは0〜100のレイノルズ値で流れる。熟練者は、層流をいかにして得るかを知っているであろう。該コーティングされた表面に流体を層流において適用することができるいずれの方法を用いることもできる。好ましいのは、1つの方向において直線的である層流である。好ましいのは、接触面積、接触時間及び流速を流体素子の機能に最適化する層流である。さらに好ましいのは、機能化された壁を含んでなる流路を介する層流である。
好ましくは、微小水泡に関する親和性が特異的である方法を用いる。特異的親和性の利点は、望ましくない分子又は粒子の結合が減少することである。好ましい方法は、親和性リンカー(affinity linker)を表面に共有結合又は非−共有結合させる方法である。親和性リンカーは、結合パートナー(binding partner)に共有結合又は非−共有結合して、該親和性リンカーと該結合パートナーの間の錯体を生ずることができる分子である。該結合パートナーは、微小水泡に結合することができる分子であることができるか、あるいはそれは該親和性リンカーと直接相互作用できる微小水泡上に存在する分子であることができる。親和性リンカー及びそれらの結合パートナーの例
は;ストレプタビジン又はアビジン及びビオチン;抗体及び抗原;リガンド及び受容体、レクチン及び糖類、タンパク質A及び/又はタンパク質G−イムノグロブリン不変部ならびにTagペプチド配列及びTag抗体である。親和性リンカー及び結合パートナーという用語は、それらの機能を指す。従って、上記の親和性リンカー−結合パートナーの組み合わせをいかように用いるかに依存して、用語は互換的である。例えばビオチンが表面に結合している場合、それは親和性リンカーであることができるか、あるいはそれが微小水泡に結合している場合、それは結合パートナーであることができる。親和性リンカーを表面に結合させるいずれの方法を用いることもできる。コーティングされた表面に親和性リンカーを結合させる方法は、表面の材料又は親和性リンカーの性質に依存して異なる。熟練者は、表面材料の型及び選ばれる親和性リンカーに適した正しい方法を選ぶことができるであろう。親和性リンカーを表面に結合させる方法は、熟練者に既知である。抗体を金属又はケイ素表面に結合させる方法は、当該技術分野において周知である。好ましい方法は、Bioelectrochemistry Volume 66,Issues 1−2,April 2005,Pages 111−115に記載されている。抗体をガラス表面に結合させる方法も既知であり、J Colloid Interface Sci.2002 Aug 1;252(1):50−6に記載されている。特別な態様において、親和性リンカーは抗体種、タンパク質、アプタマー、排泄(passage)からの微小水泡を選択的に制限する表面及び微小水泡への選択的付着性を有する表面より成る群から選ばれ;ここでタンパク質は特にレクチン又は他の糖結合化合物を含んでなるリストから選ばれ;且つここでレクチンは特にGNA、NPA、コンカナバリンA又はシアノビリンを含んでなる群から選ばれる。
さらに特定的な態様において、該層流はマイクロフルイディクス(microfluidics)を用いて適用される。マイクロフルイディクスという用語は、マイクロメーター範囲から1ミリメーターまでの特徴的な長さのスケールを有する流体の流れを扱うための素子、系及び方法を指す(より完全な総覧のために:Manz,A.and Becker.H.(Eds.),Microsystem Technology in Chemistry and Life Science,Springer−Verlag
Berlin Heidelberg Mew York,ISBN 3−540−65555−7を参照されたい)。利点は、マイクロ流体系が通常の顕微鏡系より速く操作を実行する能力を有しながら、化学品及び流体の消費量がずっと少ないことである。
本発明の特別な態様において、マイクロ流体チップを用いて該層流を作る。好ましくは、該マイクロ流体チップは入り口と出口を有する少なくとも1つのマイクロ流体流路を含み、ここで該少なくとも1つのマイクロ流体流路は該マイクロ流体チップの表面において少なくとも1つの割れ目(gap)を有し、該少なくとも1つの流路と表面の間の接触を可能にしている。該マイクロ流体チップの利点は、それが該マイクロ流体流路中の流体と表面の間の直接の接触を可能にすることである。このましくは、該入り口及び/又は該出口は、該マイクロ流体流路中の該割れ目を含む表面と異なる該マイクロ流体チップの表面に位置する。その利点は、これが該入り口及び/又は出口に近づく手段を保持しながら、該マイクロ流体チップと該表面の間のクランプ止め(clamping)を可能にすることである。好ましい態様において、該マイクロ流体チップ中に穴を設け、ねじ又は他の手段が表面を該マイクロ流体チップに取り付けることを可能にする。その利点は、表面を該マイクロ流体チップに取り付け、該マイクロ流体流路からの流体の漏れを防ぐ接触を達成することができることである。マイクロ流体流路を用いる利点は、流路の幾何学が制御可能な層流の誘導を可能にすることである。好ましくは、該流路は1mmより低い高さを有する。その利点は、該コーティングされた表面上の該流体の表面積対体積比が最適化されることである。他の好ましい態様において、コーティングされた領域上の流路の高さは、マイクロ流体素子の他の部分中の流路の高さより低い。その利点は、貫流(flow through)を保持しながら、コーティングされた領域上の該流体の表面積対体積比が
最適化されることである。より好ましくは、該流路の高さは0.5mmより低い。その利点は、血漿の粘度を有する流体の場合にこの高さが最適であることである。好ましくは、該流路は1mmより小さい幅を有する。その利点は、これが、該流体と接触している該コーティングされた表面の最小の接触面積を生ずるからである。好ましくは、該最小の接触面積は、該コーティングされた表面積より小さい。好ましくは、該最小の接触面積は、100〜10000平方マイクロメーターである。好ましい態様において、該最小の接触面積は、1平方ミリメーターより小さい。この利点は、これが表面積検査時間(inspection time)を制限し、表面積当たりに集められる水泡の濃度を増加させることである。より好ましくは、該最小の接触面積は、1平方マイクロメーター〜0.1平方ミリメーターである。
熟練者に既知の通り、前記の流路はさらに、微小水泡より小さい粒子を通過させるフィルターを含むことができる。この方法で、微小水泡を該フィルターの表面上に集め、次いで流れの方向を変化させ、該微小水泡を再−懸濁する。この方法はさらに、該微小水泡を流体中に再懸濁してから、該微小水泡を含んでなる該流体を該コーティングされた表面に接触させる段階を含む。従って、さらにもっと別の態様において、本明細書で用いられるマイクロ流体チップは汲み上げ系(pumping system)を含む。マイクロ流体回路内に流体を汲み上げるのに適したいずれの系を用いることもできる。例はPHYSICS AND APPLICATIONS OF MICROFLUIDICS IN
BIOLOGY David J.Beebe,Glennys A.Mensing,Glenn M.Walker Annual Review of Biomedical Engineering,August 2002,Vol.4,Pages 261−286に記載されている。
本発明の方法においてマイクロ流体チップを用いると、画像化法を用いて微小水泡の検出を行うことができる。この利点は、これが粒子の幾何学、形、粗さ、光散乱又は微小水泡の寸法を含んでなるがこれらに限られない1つもしくはそれより多いパラメーターの測定を可能にするか、あるいは微小水泡の表面上又は内部における分子の存在を決定できることである。画像化のいずれの方法も本方法において用いることができる。画像化の好ましい方法は、内部反射蛍光顕微鏡検査を含む蛍光顕微鏡検査、電子顕微鏡検査(EM)、共焦点顕微鏡検査、光散乱又は表面プラズモン顕微鏡検査(surface plasmon microscopy)、ラーマン分光分析、楕円偏光測定/反射光測定、赤外分光分析又は原子間力顕微鏡検査(AFM)あるいはこれらの組み合わせを含む。
続く実験的詳細を参照することにより、本発明はもっと良く理解されるであろうが、当該技術分野における熟練者は、これらが後に続く請求項中にもっと完全に記載される本発明の例にすぎないことを容易に認識するであろう。さらに、本出願を通じて種々の公開文献が引用される。これらの公開文献の開示は、本発明がかかわる技術分野の状態をもっと十分に記載するために、引用することによりそれらの記載事項が本出願の内容となる。
無損傷のホスファチジルコリン種へのソラフェン処理の影響を示すグラフ。 個々の脂質種に関するソラフェン処理試料対標準試料における倍変化(log2)を示すグラフ。 悪性の前立腺組織試料対正常な前立腺組織試料の対抗する5対における脂肪酸シンターゼ(FASN)の相対的な発現を表わすグラフ。 悪性組織対正常な組織の対抗する5対におけるPC種の相対的な存在量を表わすグラフ。 脂質過酸化生成物へのソラフェン、H及びパルミチン酸の影響を示すグラフ。 CD36−陽性細胞による認識への初めからの脂質生成の影響を示すグラフ。 酸化的ストレス−誘導細胞死への細胞の感受性への初めからの脂質生成の影響を示すグラフ。 ドキソルビシンのフリップ−フロップ速度へのソラフェンの影響を示すグラフ。 LNCaP細胞におけるドキソルビシン堆積へのソラフェンの影響の定量を表わすグラフ。 LNCaP細胞におけるドキソルビシン−誘導細胞毒性へのソラフェン及びパルミチン酸の影響を示すグラフ。 13人の前立腺ガン患者からのリン脂質種における、前立腺腫瘍組織対正常な前立腺組織においての相対的変化(log2)の平均を示すグラフ。
以下の実施例は本発明を例示する。これらの実施例を見て、当該技術分野における熟練者は他の態様を思いつくであろう。
前立腺ガン細胞における初めからの脂質生成は、ガン細胞中のモノ−不飽和脂肪酸のレベルの向上及びポリ不飽和脂肪酸のレベルの低下と関連する。
材料及び方法
細胞培養及び処理
LNCaP及びCOS−7細胞は、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から得た。加湿インキュベーター中で37℃において、10%FCS(Invitrogen,Carlsbad,CA)が補足されたRPMI 1640培地中で5%CO/95%空気雰囲気を用い、細胞を培養した。形態の検査及び核型決定(karyotyping)により、基準とすること(authentication)に関して細胞系を調べた。マイコバクテリウム・ソランギウム・セルロスム(mycobacterium Sorangium cellulosum)から精製されたソラフェン A(ソラフェン)は、Dr.Klaus Gerth及びDr.Rolf Jansenにより親切に提供された(Helmholtz−Zentrum fuer Infektionsforschung,Braunschweig,Germany)(Bedorf et al.著,1993年;Gerth et al.著,1994年)。
2−14C−アセテート導入アッセイ及びTLC分析
LNCaP細胞をソラフェン又はビヒクル(エタノール)で24時間処理した。最後の4時間、培地に2−14C−標識アセテート(57mCi/ミリモル;2μCi/皿;Amersham International,Aylesbury,UK)を加えた。以前に記載された(De Schrijver et al.著,2003年)修正Bligh−Dyer法に従って、脂質を抽出した。種々の脂質の種類への2−14C−アセ
テートの導入を分析するために、TLC分析を行い、以前に記載された通りに(De Schrijver et al.著,2003年)、定量のためのPhosphorImagerスクリーン(Molecular Dynamics,Sunnyvale,CA)に脂質を暴露した。
臨床的組織試料(clinical tissue specimens)
新しい急速−冷凍された(snap−frozen)前立腺ガン組織及び対抗する正常な試料を、限局性前立腺ガンに関する根治的恥骨後式前立腺摘除術を受けた患者から得た。脂質分析及びウェスターンブロッティング分析に用いられる組織に隣接する領域の組織学的分析により、正常な組織及び腫瘍組織を同定した。
全細胞リン脂質、トリグリセリド及びコレステロールの定量
小さい修正を有する以前に記載された方法を用い(Van Veldhoven and Bell著,1988年;Van Veldhoven et al.著,1998年;Van Veldhoven et al.著,1997年)、Bligh−Dyer脂質抽出物(De Schrijver et al.著,2003年)につきリン脂質、トリグリセリド及びコレステロールの定量を行った。
ESI−MS/MSによる無損傷のリン脂質種の分析
ESI−MS/MS分析のための脂質抽出物を調製するために、組織又は細胞を1.6mlの0.1N HCl:CHOH 1:1(v/v)中で均質化した。CHCl(0.8ml)及び200μg/mlの酸化防止剤、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(Sigma)を加えた(Milne et al.著,2006年)。脂質標準を加えた後、200gにおける5分間の遠心により、有機画分を集めた。試料を蒸発させ、CHOH:CHCl:NHOH(90:10:1.25 v/v/v)中で再構成し、自動操縦ナノフロー/イオン源(robotic nanoflow/ion source)(Advion Biosciences)が備えられたハイブリッド四重極線状イオントラップ質量分析計(hybrid quadrupole linear ion trap mass spectrometer)(4000 QTRAP 系;Applied Biosystems,Foster City,CA)上で、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MS/MS)により脂質を分析した。個々の種の定量のために、系をMRMモードで運転した。データを標準試料(未処理の細胞又は対抗する正常な組織)に対する倍変化として表わし、Heatmap Builderソフトウェア(Clifton Watt,Stanford University,USA)を用いてヒートマップとして示した。
結果
細胞脂質組成への、腫瘍に関連する初めからの脂質生成の影響を研究するために、我々は高い脂質生成活性を有するLNCaP前立腺ガン細胞を、既知の脂肪酸合成の阻害剤であるソラフェンAで処理した(Beckers et al.著,2007年)。2−14C−アセテート導入により、脂肪酸合成の阻害及び従って初めからの脂質生成が確証された(図1A)。
続いて主要な無損傷の脂質種のすべてを分析するために、全細胞脂質抽出物をエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MS/MS)に供した。図1Bに示す通り、個々のホスファチジルコリン(PC)種において劇的な変化があった。ソラフェン処理は、1不飽和度(one degree of unsaturation)を有するPC種を実質的に4分の1まで減少させた(decreased up to four−fold)。2個の不飽和を有するPC種は、2個のモノ−不飽和鎖を有する分子ならびに1個の飽和鎖及び1個の二−不飽和鎖を有する分子を示し得るので、ソラフェン処理
はこれらの種に不明確な、又は小さい正味の影響を有した。全体的に、より多くの不飽和(>3個)を有するPC種のレベルは、種に依存して最高で8−倍に増加した。別の脂質生成性前立腺ガン細胞系である22Rv1において脂質生成を阻害する時も、ポリ不飽和へのシフトを検出することができた(データは示されていない)。
ガン細胞の脂質生成性表現型が生体内におけるリン脂質の飽和の向上とも関連するか否かを評価するために、前立腺腫瘍試料及び正常な対抗する標準組織を、ウェスターンブロット分析により脂肪酸シンターゼ(FASN)の過剰発現に関して分析し、リン脂質プロファイルを記録した。5つの対抗試料(腫瘍対標準)の中の3つは、腫瘍組織におけるFASNの実質的な過剰発現を示した(図2A)。ESI−MS/MSによるリン脂質組成の分析は、非−脂質生成性腫瘍と比較して脂質生成性腫瘍において劇的に異なるPCに関するプロファイルを示した(図2B)。FASN発現の低いレベルを有する腫瘍(患者4及び5)は、対抗する正常な組織と比較してポリ不飽和種における全体的な増加及びモノ−不飽和種における減少を有した。しかしながら、増加したFASN発現を有する腫瘍(患者1、2及び3)は逆を示した:対抗する正常な組織と比較して、腫瘍組織においてモノ−不飽和アシル鎖における一貫した増加及びポリ不飽和種における減少があった(図2B)。これらのデータは、脂質生成阻害剤ソラフェンを用いる我々の発見を支持し、腫瘍に関連する脂質生成がヒト腫瘍におけるリン脂質の飽和を向上させるという生体内の証拠を与える。
結論
要するに、これらのデータは、ガン細胞における初めからの脂質生成が細胞に飽和及びモノ−不飽和アシル鎖を与え、それは細胞に膜成分を補充し、同時にリン脂質の相対的な飽和度、特にホスファチジルコリン(PC)のそれを向上させることを示している。
前立腺ガン細胞における初めからの脂質生成の調節は、より侵略的な脂質生成性表現型に関連する多くのパラメーターに影響する。
材料及び方法
細胞培養及び処理
実施例1を参照されたい。
ESI−MS/MSによる無損傷のリン脂質種の分析
実施例1を参照されたい。パルミチン酸救済(rescue)実験の場合、以前に記載された通りに(Brusselmans et al.著,2005年)パルミチン酸(Sigma,St.Louis,MO)を脂肪酸非−含有ウシ血清アルブミン(BSA)(Invitrogen,Carlsbad,CA)に錯体化させた。
脂質過酸化生成物アッセイ
等量の細胞を氷−冷PBS中でこすり取り、氷上に15分間保ち、次いで音波処理した(10発(10 bursts))。3,000gにおける10分間の遠心の後、脂肪酸過酸化物分解から生成するマロンジアルデヒド及び4−ヒドロキシアルケナールの量を定量する脂質過酸化アッセイキット(Oxford Biomedical Research,Oxford,MI)を用いて上澄み液を分析した。
CD36−結合アッセイ
LNCaP細胞を、ソラフェン及び/又はパルミチン酸の存在下又は不在下で72時間培養した。細胞をH(300μM)に30分間暴露した。細胞をトリプシン処理し、Cell Tracker Dye Orange CMRA(C34551)で標識
した。標識されたLNCaP細胞(1.5x10)を、続いて、ガラスのカバースライド上で培養され、CD36−コード構築物(pCD36)又は対応する空ベクター(pEF−BOS)(両方ともR.Thorne,University of Newcastle,Australiaにより親切に提供された)を用いてトランスフェクションされたCOS−7細胞の単層の上に層化した(layered)。細胞を1mlのRPMI培地中で37℃において1時間共−培養した。広範囲に洗浄した後、培養物を固定し、画像化した。Adobe Photoshopソフトウェア(San Jose,CA)を用い、CellTracker Dyeの蛍光シグナルを測定した。
フリップ−フロップ速度及びドキソルビシン堆積の決定
ドキソルビシンのフリップ−フロップ速度の測定のために、細胞をソラフェン又はビヒクルで72時間処理した。処理の最後の24時間の間、10μMのNBD−ホスファチジルエタノールアミン(NBD−PE;Invitrogen)を加えた。トリプシン処理により細胞を収穫する1時間前に、ベラパミルを100μMの濃度で加えた。原形質膜を横切るドキソルビシンフリップ−フロップ速度を、ドキソルビシンによるNBD−PEのクエンチングの故のNBDの蛍光における減少として測定した(Regev et al.著,2005年)(詳細に関し、補足的方法(Supplemental Methods)を参照されたい)。
細胞内ドキソルビシン堆積を視覚化するために、ドキソルビシンを10μMの最終的な濃度で加えた。30分後、蛍光顕微鏡検査(515nm 長波長パス発光フィルター(longpass emission filter))及びLIDAソフトウェア(Leica Microsystems GmbH)を用い、細胞を分析した。
ドキソルビシン堆積を蛍光測定により測定するために、細胞を10μMのドキソルビシンに30分間暴露し、PBS中で洗浄し、50%エタノール(v:v)中の0.3M HCl中でライシスし、700gで5分間遠心した。ドキソルビシンの蛍光を、490nmの励起波長及び580nmの発光波長で測定した。示されている場合は、培地にパルミチン酸を補足した。
細胞死アッセイ
ソラフェン及び/又は他の化合物に暴露してから示される時間の後に、トリプシン処理及び遠心により、付着細胞及び浮遊細胞を集め、両方の細胞集団を合わせた。以前に記載された(De Schrijver et al.著,2003年)トリパンブルー色素排除アッセイを用い、生存細胞及び死細胞をカウントした。
統計的分析
Tukeyポストホックテストを用いる一元ANOVA(one−way ANOVA)により結果を分析した。P−値<0.05は、統計的に有意であると考えられた。与えられるすべてのデータは、図の凡例に示される通り、平均±SEを示す。
結果
ガン細胞における初めからの脂肪酸合成の調節は、細胞膜の脂質過酸化への感受性(susceptibility)に影響する。
飽和及びポリ不飽和アシル鎖は、それらの構造的及び生理化学的性質の点で劇的に異なる。重要な差の1つはそれらの過酸化への感受性である。この過程において、フリーラジカルは細胞膜中の脂質から電子を抽出し、それは酸化された脂質種の生成を生ずる。これらの脂質種は重要な生物学的機能を有し、究極的にマロンジアルデヒド(MDA)及び4−ヒドロキシアルケナールを含むもっと小さい反応性生成物に分解され得、それらは高レ
ベルで発現されると細胞損傷を引き起こし得る(Deininger and Hermetter著,2008年;Rabinovich and Ripatti著,1991年;Schneider et al.著,2008年)。メチレン(CH2)基中の二重結合の間の水素は特に反応性なので、ポリ不飽和アシル鎖はもっとずっと過酸化を受け易い。ガン細胞における初めからの脂肪酸合成の調節が、細胞膜のリン脂質における飽和及びポリ不飽和アシル鎖の間のバランスに影響するという我々の発見に基づき、我々は、この代謝経路の調節がラジカル−誘導脂質過酸化へのガン細胞の感受性に影響するか否かを評価した。LNCaP細胞をソラフェンで3日間処理し、次いでHに暴露した。脂質過酸化の生成物を測色法により測定した。ソラフェン処理は脂質過酸化生成物のレベルを有意に増加させ(図3)、それはソラフェン処理を用いて観察されるリン脂質のポリ不飽和へのシフトと一致する。より高いレベルのフリーラジカルを生ずる外因性Hを用いる処理は過酸化生成物のさらなる増加を誘導し、ソラフェンが増感効果を媒介することを示している。興味深いことに、培地に外因性パルミチン酸を補足することによる飽和アシル鎖の部分的な補充は、これらの変化を大きく逆転させ、強化される脂質生成が、リン脂質ポリ不飽和化の程度を制限することにより、ガン細胞を脂質過酸化に対してより感受性でなくするという考えを支持している。
初めからの脂肪酸合成は、ガン細胞のCD36−媒介細胞認識に影響する。
細胞膜中の酸化されたリン脂質はコンホメーション変化を経、それは酸化されたアシル鎖が疎水性膜の内部から極性水性環境中に突き出ることを強制し、極性水性環境においてそれらは内在性パターン認識リガンドとして機能することが知られている(Hazen著,2008年)。露出細胞表面の酸化されたリン脂質、特に酸化されたPC種は、スカベンジャー受容体CD36により認識され得る。この受容体は、例えば宿主組織のサーベイランス(surveillance)及び損傷を受けた細胞、老化した細胞又はアポプトシス細胞(apoptotic cell)のクリアランスに含まれる先天性免疫細胞上で発現される。我々は、ガン細胞における初めからの脂質生成の阻害がリン脂質のポリ不飽和の程度及びそれらの過酸化に対する感受性を向上させることを決定したので、我々は脂質生成の調節がCD36−陽性細胞によるガン細胞の認識に影響するか否かを調べた。ソラフェンの存在下又は不在下で培養されたLNCaP細胞を、CD36−発現構築物(pCD36)又は空ベクター(pEF−BOS)を用いてトランスフェクションされたCOS細胞上に重ねて置いた(Thorne et al.著,1997年)。広範囲の洗浄の後、結合LNCaP細胞をカウントした。図4Aに示される通り、ソラフェン処理及び続く単時間のHへの暴露は、実質的にCD36−結合LNCaP細胞の数を増加させた。外因性パルミチン酸の添加は、これらの影響を妨害した。これらの発見は、腫瘍−関連脂質生成が、膜リン脂質の飽和度、特にPCのそれを高めることにより、細胞表面上における酸化されたポリ不飽和種の露出を制限することを示唆している。この反応はCD36−陽性細胞による腫瘍細胞の認識を最小にし得、おそらく免疫系からの脂質生成性ガン細胞の逃避を助長し得る(Hazen著,2008年)。
初めからの脂質生成は、酸化的ストレス−誘導細胞死へのガン細胞の感受性を決定する。
酸化されたリン脂質及びそれらの分解生成物が、細胞アポプトシスの誘導において重要な役割を果たすという証拠が増加しつつある(Dupertuis et al.著,2007年;Fruhwirth and Hermetter著,2008年;Tang
et al.著,2002年;West et al.著,2004年)。従って我々は、初めからの脂質生成の調節が酸化的ストレス−誘導細胞死へのガン細胞の感受性に影響するか否かを調べた。本来のLNCaP細胞はH−誘導細胞死に十分に抵抗性であったが、ソラフェンを用いる予備処理は、トリパンブルー染色により示される通り、Hに反応してのそれらの死を顕著に増加させた(図4B)。これらの影響は、外因性パルミチン酸により妨害された。興味深いことに、培地に飽和脂肪酸及びポリ不飽和脂肪酸の混合物を補足すると、救済効果はずっと顕著でなくなった。全体的にこれらのデータ
は、脂質生成の増加が細胞膜の飽和の程度を変えることにより、ガン細胞を酸化的ストレス−誘導細胞死から保護するという考えを支持する。
腫瘍−関連脂肪酸合成は通常の化学療法薬の吸収及びそれへの反応に影響する。
膜脂質組成の調節は、脂質過酸化へのその影響の他に、膜成分の移動性に大きな影響を有することが知られている(Rabinovich and Ripatti著,1991年;Stillwell and Wassall著,2003年)。フリップ−フロップとも呼ばれる膜成分の横方向の移動性は、それが特異的な輸送物質により助長されなければ、低い速度で起こる。しかしながら、通常用いられる化学療法薬、例えばドキソルビシンを含むある外因性化合物の場合、受動的フリップ−フロップは細胞中への侵入の主要な機構である(Regev et al.著,2005年)。外因性ポリ不飽和脂肪酸を用いる細胞の処理はドキソルビシンの吸収を促進することが知られているので(Davies et al.著,1999年)、我々は、脂肪酸合成の阻害が膜フリップ−フロップ及びドキソルビシン吸収を促進するか否かを決定した。ドキソルビシンのフリップ−フロップを測定するために、ソラフェン又はビヒクルに暴露されたLNCaP細胞を7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールホスファチジルエタノールアミン(NBD−PE)、蛍光標識されたリン脂質で処理し、それは原形質膜の両リーフレット中に導入される。ドキソルビシンの添加の後、NBD蛍光の急速なクエンチングがあり、それは外側のリーフレット中のリン脂質とのドキソルビシンの会合により起こる。ドキソルビシンが内側のリーフレットに移動すると共に、さらなるNBDのクエンチングが観察される(Regev et al.著,2005年)。NBDクエンチングの監視は、ソラフェンがドキソルビシンのフリップ−フロップ速度における6−倍の増加を誘導することを示した(図5A)。P−糖タンパク質阻害剤であるベラパミルの存在下で類似の結果が得られたので、これらの影響は、ドキソルビシンのような疎水性分子を細胞から汲み上げるP−糖タンパク質の間接的な影響により引き起こされたのではなかった(図5A)。細胞抽出物の蛍光顕微鏡検査及び蛍光測定分析により評価される通り、向上したフリップ−フロップ速度にはドキソルビシンの細胞内堆積における有意な増加が伴った(図5B)。外因性パルミチン酸の添加は、ソラフェンの影響を妨害した(図5B)。ソラフェン処理はLNCaP細胞をドキソルビシンの細胞毒性効果に対して顕著に増感し、それはソラフェン−処理細胞におけるドキソルビシンの堆積の増加及び細胞死へのそれらの感受性の向上と一致した。標準的な培養条件下で生育されたLNCaP細胞はドキソルビシン−誘導細胞死に十分に抵抗性であったが(4μMにおいて8%の細胞死)(図5C)、単独で細胞の最高で20%において死を誘導するソラフェンを用いる予備処理は、細胞死の率を約50%に増加させた。この有力な効果は、Combination Index(CI)法(Chou and Talalay著,1984年)を用いて評価すると、相乗的であった。ドキソルビシン/ソラフェンの調べられたすべての比(80:1;40:1;20:1及び10:1)において、CI値は1より小さかった。パネルC実験において用いられた組み合わせ(4μM ドキソルビシン、100nM ソラフェン)は強く相乗的であった(0.1<CI<0.3)(データは示されていない)。外因性パルミチン酸の添加はこれらの影響を妨害し、細胞を死から大きく救済した(図5C)。前立腺ガン細胞系22Rv1を用いて類似の結果が得られた(データは示されていない)。ひとまとめにすると、これらのデータは、ガン細胞における初めからの脂質生成が化学療法薬の吸収に影響し、これらの薬剤へのガン細胞の反応を調節することを示している。
議論
まとめると、実施例1及び2からの発見は、初めからの脂質生成の活性化により、ガン細胞はそれらの脂質供給の点でより自律性となり、同時にそれらの脂質組成を飽和の向上に向けてシフトさせること示している。さらに、該腫瘍−関連脂質生成はガン細胞に有意な利点を与え、それは、ガン細胞が発ガン性−及び治療薬−媒介の両方の障害にもかかわらずに生き残るのをそれが助けるからである。従って、リン脂質プロファイリングは、リ
ン脂質飽和の決定に基づき、脂質生成性、より侵略的且つ耐性の腫瘍を同定することを可能にする。
広範囲の患者のグループにおけるPC、PE、PS及びPIプロファイルを利用するリン脂質プロファイリング
組織収集
前立腺腫瘍組織及び対抗する正常な試料を、限局性前立腺ガンに関する根治的恥骨後式前立腺摘除術を受けた14人の患者から得た。直径が6又は8mmのパンチ生検器具を用いて前立腺組織試料を採取した。試料を液体窒素中で急速−冷凍し、脂質、タンパク質及びRNA抽出のために−80℃で保存した。Tissue−Tek OCT(Miles
Inc,Westhaven,CT)中に包埋された組織に隣接する領域の組織学的分析により、正常な組織及び腫瘍組織を同定した。連続切片を、ヘマトキシリン及びエオシン染色のために加工した。ガン試料をそれらのグリーソンスコアに関して評価し、それらが含有するガンのパーセンテージを見積もった。
DNA濃度の決定
DNA濃度の決定を用い、脂質分析に用いられる試料に加えられる標準及びランニング溶液(running solution)の量を標準化した。試料を音波処理し、ホモジナイゼーション緩衝液(5x10−2M NaHPO/NaHPO緩衝液 pH7.4;2M NaCl及び2x10−3M EDTA)中で希釈した。ニシン精子DNA(Promega,Madison,WI;0−5μg DNA/125μl)を用い、ホモジナイゼーション緩衝液中の種々の希釈液を作ることにより、標準曲線を作成した。次に、試料を37℃で1時間インキュベーションし、ライシスを増進させた。その後、2μg/mlのHoechst 33258試薬(Calbiochem,La Jolla,CA)を加えた。
蛍光計(Fluostar SLT,BMG Labtech,Offenburg,Germany)を用いて試料及びニシン精子DNAのDNA含有量を測定した。励起:355nm;発光:460nm。各試料のDNA含有量を、標準曲線のデータに基づいて計算した。
脂質抽出
Dounceホモジナイザーを用い、800μlのPBS中で約40mgの組織を均質化することにより、試料の脂質抽出物を作った。100μlのアリコートをDNA分析のために取っておいた。残る700μlを、テフロンの内張りを有するガラス管に移し、900μlの1N HCl:CHOH 1:8(v/v)、800μlのCHCl及び500μgの酸化防止剤2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)(Sigma,St.Louis,MO)を加えた。最初の試料のDNAの量に基づいて適した脂質標準を加えた(DNAのmg当たりに:150ナノモルのPC26:0;50ナノモルのPC28:0;150ナノモルのPC40:0;75ナノモルのPE28:0;8.61ナノモルのPI25:0及び3ナノモルのPS28:0)。回転振盪機中における5分間の混合及び相分離(4℃での5分間の17300gにおける高速遠心)の後、ガラスパスツールピペットを用いて下部の有機画分を集め、Savant Speedvac spd111v(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を用いて蒸発させた。残る脂質ペレットを−20℃で保存した。
質量分析
質量分析(MS)のために、脂質ペレットを、最初の組織試料のDNAの量に依存して
(DNAの1μg当たりに1μlのランニング溶液)ランニング溶液(CHOH:CHCl:NHOH;90:10:1.25,v/v/v)中で再構成した。自動的試料注入のためのAdvion TriVersa自動操縦ナノフロー/イオン源装置(Advion Biosciences,Ithaca,NY)が備えられたハイブリッド四重極線状イオントラップ質量分析計(4000 QTRAP 系;Applied Biosystems,Foster City,CA)上で、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI−MS/MS)によりPL種を分析した。測定の前に、試料をランニング溶液中で希釈した。ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)及びホスファチジルイノシトール(PI)種の測定のために1/30の希釈を用いた。ホスファチジルエタノールアミン(PE)種の分析のために、1/3希釈を用いた。
それぞれPC、PE、PI及びPS種に関し、前駆体(prec.)184のために50eV、中性脱離(neutral loss)(nl.)141のために35eV、nl.87のために−40eV及びprec.241のために−55eVの衝突エネルギーにおいて、正及び負のイオンスキャンモードでPLプロファイルを記録した。個々の種の定量のために、系をMRMモードで運転した。典型的には、各スペクトルのために3分間のシグナル平均化(signal averaging)を用いた。炭素同位体効果に関してデータを集め、同じPL群の測定可能な全PL種に対する(of)パーセンテージとして表わす。同じ群の測定されたリン脂質の合計量に対する0.1%より多くの割合になるPL種のみをグラフ中に示す。
クラスター分析
Cluster 3.0 ソフトウェア[Eisen,M.B.,P.T.Spellman,P.O.Brown,and D.Botstein著,Cluster analysis and display of genome−wide expression patterns.Proc Natl Acad Sci USA,95(25):1998年,p.14863−8.]のセントロイドリンケージクラスタリングアルゴリズム(centroid linkage clustering algorithm)を用いることにより、クラスタリング分析を行った。Java TreeView 1.1.5.ソフトウェア[Saldanha,A.J.著,Java Treeview−extensible visualization of microarray data.Bioinformatics,20(17):2004年,p.3246−9]を用いてクラスタリングの結果を視覚化した。
結果
腫瘍試料の特性
ガン組織対正常な組織における、ならびに個々の患者の腫瘍組織の間におけるPLプロファイルにおける変化を研究するために、限局性前立腺ガンに関する根治的恥骨後式前立腺摘除術を受けた14人の前立腺ガン患者から、約40mgの前立腺腫瘍組織及び隣接する正常な前立腺組織を得た。組織学的検査によりにより、すべての腫瘍組織を、少なくとも80パーセントの腫瘍組織を含むと確認した。
リン脂質プロファイリング法の最適化
無損傷のPL種を調べるために、我々はProf.R.Derua and Prof.E.Waelkens(Department of Molecular Cell
Biology,K.U.leuven)と共同して社内で(in house)開発された質量分析に基づく方法を用いた。この方法はBruegger et al[Brugger,B.,G.Erben,R.Sandhoff,F.T.Wieland,and W.D.Lehmann著,Quantitative analysis of biological membrane lipids at the low
picomole level by nano−electrospray ionization tandem mass spectrometry.Proc Natl Acad Sci USA,94(6):1997年.p.2339−44]及びMilne et al[Milne,S.,P.Ivanova,J.Forrester,and H.Alex Brown著,Lipidomics:an analysis of cellular lipids by ESI−MS.Methods,39(2):2006年,p.92−103]により記載された案に基づいており、それを自動的試料注入のためのTriversa自動操縦ナノフロー/イオン源装置が備えられたABI 4000 QTRAP質量分析計上で用いるために適応させた。
この案は培養された細胞のPL分析用に開発されたので、我々はそれを臨床試料について用いるために適応させた。要するに、開始材料の量を変えることにより、及びDounceホモジナイゼーション用に方法を修正する(ストローク(stroke)の数)ことにより、ホモジナイゼーション法を最適化した。MS法は、脂質抽出物の希釈を変えることにより、最適化された。
前立腺ガン組織及び対抗する正常な組織のリン脂質プロファイリング
ショットガン法において全脂質抽出物から直接、リン脂質の個々の種類を検出するために、タンデム質量分析(MS/MS)において種々の前駆体イオン及び中性脱離スキャンを行った。この方法は、脂質の特別な種類に焦点を当てることを可能にし、スペクトルの複雑性を軽減し、ベースラインノイズを除去する。4つの主要なPLの種類:PC、PE、PS及びPIを分析した。PC種は正のイオンモードで、MS/MSモードにおける断片化の後のホスホコリン頭部基ピークに対応するm/z 184に関する前駆体スキャンにおいて、検出された。PE種は正のイオンモードで、ホスホエタノールアミンのnl.に対応するイオンを与える衝突−誘導分解により検出された。PS及びPIは負のイオンモードスキャンで、それぞれnl.87及びprec.241に関して測定された。
種の定量は、最も豊富なPL種に焦点を当てた同位体修正の後に、多重反応モニタリング(MRM)モードで行われた。
不飽和度の最適な同定のために、脂質種の数を絶対値で表わさず、むしろリン脂質の1つの種類(例えばPC)内のすべての測定可能な種に対するパーセンテージとして表わした。イオン化効率における差の故の誤差を避けるために、パーセンテージにおける差を、対抗する正常な組織と比較されるガン組織における値の比として示した。両方向(増加及び減少)における差を平等にする(equalize)ために、log2スケールを用いた。背景ノイズの故の誤差を避けるために、1つのPL群のすべての種の合計強度に対する0.1%より低い割合となる種は、勘定に入れなかった。
14人の前立腺ガン患者からのPL種における前立腺腫瘍対正常な前立腺組織での相対的な変化を決定した。14人の患者中の13人において、PLプロファイルにおける顕著な差が観察された。興味深いことに、種々の患者の中で種々の変化のパターンが観察された(データは示されていない)。いくつかの変化(例えばPS40:8における増加)はすべての患者において観察された。ほとんどの他の変化は、患者の特定のサブセットに限られた(例えばPE38:0における増加)。種々の患者の間のPLプロファイルにおける差及び類似性をより明らかにするために、クラスター分析を行った。これは周期的変化(recurrent changes)を明らかにし、患者を2つの主要なグループに分けた。図6は、調べられたリン脂質種のそれぞれに関する平均増加/減少(log2)を示す。
クラスターA(図6A)(患者3、4、5、6、7、9、10、11及び13)は、完全に飽和したPL種における顕著な減少、1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒
にした中に)を有する種における増加及び3個より多い不飽和を有するPL種における減少を特徴とする。このパターンはPC画分において最もあからさまであり、それは脂質生成スイッチにより大部分が説明され得るので、それを「脂質生成プロファイル」と呼ぶ(下記を参照されたい)。
クラスターB(図6B)(患者1、2、8及び14)は、脂質生成プロファイルのない腫瘍を含有する。
患者12は、腫瘍と正常な組織の間でPLプロファイルにおいてほとんど変化を示さず、クラスターA又はB内に分類され得ない。
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Claims (31)

  1. 患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法であって、少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の、腫瘍試料対正常な試料における相対的な発現レベルを決定することを含んでなり、かつ、該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である、試験管内法。
  2. 少なくとも1種の飽和リン脂質の、腫瘍試料対正常な試料における相対的な発現レベルを決定することをさらに含んでなり、かつ、該飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下、該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である請求項1に記載の試験管内法。
  3. 患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法であって、腫瘍試料及び正常な試料において少なくとも1種のモノ−不飽和リン脂質及び少なくとも1種のポリ−不飽和リン脂質の発現レベルを決定することを含んでなり、かつ、正常な試料と比較される腫瘍試料におけるモノ−不飽和リン脂質対ポリ−不飽和リン脂質の比の増加は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である、試験管内法。
  4. 患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための試験管内法であって、患者における腫瘍の脂質生成プロファイルを決定することを含んでなり、かつ、1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒にした中に)を有する種における増加ならびに3個より多い不飽和を有するPL種における減少は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である、試験管内法。
  5. 患者における腫瘍の脂質生成プロファイルを決定することをさらに含んでなり、かつ、飽和種における減少、1個もしくは2個の不飽和(両アシル鎖を一緒にした中に)を有する種における増加ならびに3個より多い不飽和を有するPL種における減少は、より侵略的な脂質生成性表現型に関する指標である請求項4に記載の試験管内法。
  6. リン脂質がグリセロリン脂質、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスホイノシチドを含んでなる群から選ばれる請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
  7. 飽和リン脂質がPC30:0、PC32:0、PC34:0、PC36:0及びPC38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルコリン種及び/又はPE36:0及びPE38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルエタノールアミン及び/又はPS36:0、PS38:0、PS40:0及びPS42:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルセリン及び/又はPI34:0、PI36:0及びPI38:0を含んでなる群から選ばれる飽和ホスファチジルイノシチドである請求項2、5又は6のいずれか1つに記載の方法。
  8. モノ−不飽和リン脂質がPC28:1、PC30:1、PC30:2、PC32:1、PC32:2、PC34:1、PC34:2、PC36:1、PC36:2、PC38:1、PC38:2、PC40:1及びPC40:2を含んでなる群から選ばれる、1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルコリン(PC)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  9. モノ−不飽和リン脂質がモノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC34:1である請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
  10. ポリ−不飽和リン脂質がPC32:3、PC34:2、PC34:3、PC34:4、PC36:2、PC36:3、PC36:4、PC36:5、PC36:6、PC38:3、PC38:4、PC38:5、PC38:6、PC38:7、PC40:3、PC40:4、PC40:5、PC40:6、PC40:7、PC40:8、PC42:3、PC42:4、PC42:5、PC42:6、PC42:7、PC42:8、PC42:9、PC42:10、PC42:11、PC44:3、PC44:4、PC44:5、PC44:6、PC44:7、PC44:8、PC44:9、PC44:10、PC44:11及びPC44:12を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  11. ポリ−不飽和リン脂質がPC36:3、PC38:3、PC36:4、PC38:4、PC40:4、PC36:5、PC38:5、PC40:5を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  12. ポリ−不飽和リン脂質がポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)36:4又はPC38:4である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  13. モノ−不飽和リン脂質がPE32:1及びPE34:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルエタノールアミン(PE)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  14. ポリ−不飽和リン脂質がPE36:4、PE38:4及びPE40:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルエタノールアミン(PE)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  15. モノ−不飽和リン脂質がPS36:2、PS38:2、PS40:2及びPS42:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルセリン(PS)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  16. ポリ−不飽和リン脂質がPS38:4、PS40:4、PS38:5、PS40:5及びPS38:6を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルセリン(PS)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  17. モノ−不飽和リン脂質がPI34:1、PI36:1、P38:1、PI34:2、PI36:2及びP38:2を含んでなる群から選ばれる1個もしくは2個のモノ−不飽和脂肪アシル鎖を有するホスファチジルイノシチド(PI)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  18. ポリ−不飽和リン脂質がPI36:4及びPI38:4を含んでなる群から選ばれるポリ−不飽和ホスファチジルイノシチド(PI)である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  19. モノ−不飽和リン脂質がモノ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC34:1であり、且つここでポリ−不飽和リン脂質がポリ−不飽和ホスファチジルコリン(PC)PC36:4及び/又はPC38:4である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  20. 腫瘍が前立腺ガン、乳ガン、肺ガン、結腸ガン、胃ガン、卵巣ガン、子宮内膜ガン、肝臓ガン、食道ガン、膀胱ガン、口腔ガン、甲状腺ガン、膵臓ガン、網膜ガン及び皮膚ガン、好ましくは前立腺ガンを含んでなる群から選ばれる請求項1〜19のいずれか1つに記載の方法。
  21. 侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの、腫瘍試料対正常な試料における相対的な発現又はリン酸化/活性化を測定することをさらに含んでなり、ここで該1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーの相対的な発現における増加、該モノ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける向上及び該ポリ−不飽和リン脂質の相対的な発現レベルにおける低下はより侵略的な脂質生成性表現型の指標である請求項1〜20のいずれか1つに記載の方法。
  22. 侵略的脂質生成性表現型に関する1種もしくはそれより多い他のバイオマーカーがFASN、ACCA、コリンキナーゼ及びACLYから選ばれる請求項21に記載の方法。
  23. リン脂質の発現レベルを、ESI−MS/MS又はMALDI−TOF及びMSに基づくリン脂質画像化を含む他の質量分析に基づく方法によるリン脂質の分析を介して決定する請求項1〜22のいずれか1つに記載の方法。
  24. 患者における腫瘍の脂質生成性を決定するための、請求項1〜23のいずれか1つに記載の予後的又は予測的試験管内法の使用。
  25. 分析されるべき試料から単離されるリン脂質のESI−MS/MSあるいは他のMSに基づく試料調製のための試薬を含んでなる、請求項1〜23のいずれか1つに記載の試験管内法を実施するためのキット。
  26. 酸化防止剤、溶媒及び標準を含んでなる請求項25に記載のキット。
  27. マイクロ流体チップならびに微小水泡に関する親和性を有するかあるいは微小水泡粒子を結合させることができる分子又は薬剤がコーティングされた表面に微小水泡を固定するためのコーティングされた表面を含んでなる請求項25に記載のキット。
  28. 該微小水泡に関する親和性を有するかあるいは微小水泡粒子を結合させることができる分子又は薬剤が;抗体種、タンパク質、アプタマー、排泄(passage)からの微小水泡を選択的に制限する表面及び微小水泡への選択的付着性を有する表面を含んでなる群の1つもしくはそれより多くである請求項25に記載のキット。
  29. タンパク質がレクチン又は他の糖結合化合物を含んでなるリストから選ばれる請求項28に記載のキット。
  30. レクチンがGNA、NPA、コンカナバリンA又はシアノビリンを含んでなる群から選ばれる請求項29に記載のキット。
  31. マイクロ流体チップが請求項26〜29において定義されるコーティングされた表面を含む請求項27〜30のいずれか1つに記載のキット。
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