本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠くタンパク質および糖タンパク質の、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供する。特に、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、β−マンノシルトランスフェラーゼ1、β−マンノシルトランスフェラーゼ3およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4から選択されるN−グリカンまたはO−グリカンに対する少なくとも1つの活性を示さない組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)株の、組換えタンパク質および糖タンパク質を製造するための使用方法を、本発明は提供する。1つの態様においては、該宿主細胞は、不活性β−マンノシルトランスフェラーゼを産生するように、β−マンノシルトランスフェラーゼ2をコードするBMT2遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1,3および4(それをコードする遺伝子はそれぞれBM1、BM3、BM4)から選択されるβ−マンノシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子とが欠失し又は破壊され又は突然変異していて、組換えタンパク質および糖タンパク質を産生する、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株である。他の態様においては、β−マンノシルトランスフェラーゼ1、β−マンノシルトランスフェラーゼ3およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4の1以上の活性は、化合物、β−マンノシルトランスフェラーゼをコードする1以上のmRNAに対するアンチセンスDNA、β−マンノシルトランスフェラーゼをコードする1以上のmRNAに対するsiRNA(これらに限定されるものではない)を含むβ−マンノシルトランスフェラーゼインヒビターを使用して阻害される。
これらの組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)株は、検出可能なα−マンノシダーゼ抵抗性β−マンノース残基を欠くタンパク質および糖タンパク質を産生し得る。本発明は更に、宿主細胞抗原に対する抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く二シアル酸化(bi−sialylated)ヒトエリスロポエチンの、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供する。該方法および宿主細胞が産生を可能にする組換え治療用タンパク質および糖タンパク質は、該組換え治療用タンパク質および糖タンパク質が投与された個体において有害反応を誘発するリスクを有することがあるが、該リスクは、本明細書に開示されているとおりには修飾されていない株において産生された場合と比較して低い。該方法および宿主細胞は、クリアランス因子への低い結合能を有する組換えタンパク質または糖タンパク質の製造にも有用である。
1つの態様においては、本発明は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択されるN−グリカンまたはO−グリカンに対する少なくとも1つの活性を示さず、該組換え糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を示さない。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さない。
もう1つの態様においては、本発明は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性をコードする遺伝子の欠失または破壊と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失または破壊とを有し、該組換え糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を有する。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ4活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を有する。
もう1つの態様においては、本発明は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)から選択される少なくとも1つの遺伝子とが欠失または破壊されており、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)遺伝子が欠失されている。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4(BMT4)遺伝子の欠失または破壊を含む。
もう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質の、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択されるN−グリカンまたはO−グリカンに対する少なくとも1つの活性を示さず、該組換え糖タンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換え宿主細胞を準備し、該組換え糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換え糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を示さない。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さない。
もう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質の、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性をコードする遺伝子の欠失または破壊と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される活性をコードする少なくとも1つの遺伝子の欠失または破壊とを有する、該組換え糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換え宿主細胞を準備し、該組換え糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換え糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を有する。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ4活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を有する。
もう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質の、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)から選択される少なくとも1つの遺伝子とが欠失または破壊されている、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を準備し、該組換え糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換え糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換え糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)遺伝子が欠失されている。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4(BMT4)遺伝子の欠失または破壊を含む。
一般に、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性は、例えばサンドイッチELISAまたはウエスタンブロットのようなアッセイにおいて決定される。該方法は治療用タンパク質または糖タンパク質の製造に特に有用である。治療用タンパク質または糖タンパク質の具体例には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:エリスロポエチン(EPO);サイトカイン、例えばインターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγおよびインターフェロンω;ならびに顆粒球−コロニー刺激因子(GCSF);GM−CSF;凝固因子、例えば因子VIII、因子IXおよびヒトプロテインC;アンチトロンビンIII;トロンビン;可溶性IgE受容体α鎖;免疫グロブリン、例えばIgG、IgGフラグメント、IgG融合体およびIgM;免疫接着物質および他のFc融合タンパク質、例えば可溶性TNF受容体−Fc融合タンパク質;RAGE−Fc融合タンパク質;インターロイキン;ウロキナーゼ;キマーゼ;および尿素トリプシンインヒビター;IGF結合性タンパク質;上皮増殖因子;成長ホルモン放出因子;アネキシンV融合タンパク質;アンジオスタチン;血管内皮増殖因子−2;骨髄前駆体抑制因子−1;オステオプロテジェリン;α−1−アンチトリプシン;α−フェトプロテイン;DNアーゼII;ヒトプラスミノーゲンのクリングル3;グルコセレブロシダーゼ;TNF結合タンパク質1;濾胞刺激ホルモン;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4−Ig;膜貫通アクチベーターおよびカルシウムモジュレーターおよびシクロフィリンリガンド;グルカゴン様タンパク質1;ならびにIL−2受容体アゴニスト。
該宿主細胞または方法の特定の実施形態においては、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子の核酸配列のコドンはピチア・パストリス(Pichia pastoris)における発現に関して最適化されている。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は、ヒト様N−グリカンを有する糖タンパク質を産生するように遺伝的に操作されている。
該宿主細胞または方法のもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、糖タンパク質上のN−グリカンに対するα1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を示さず、α1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、α1,2−マンノシダーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、GlcNAcトランスフェラーゼI触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、GlcNAcトランスフェラーゼI活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、マンノシダーゼII触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、マンノシダーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、GlcNAcトランスフェラーゼII触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、GlcNAcトランスフェラーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、ガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、シアリルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、フコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、フコシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、GnTIII、GnTIV、GnTV、GnTVIおよびGnTIXからなる群から選択される1以上のGlcNAcトランスフェラーゼを含む。
該宿主細胞または方法の更にもう1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、Man5GlcNAc2、GlcNAcMan5GlcNAc2、GalGlcNAcMan5GlcNAc2、NANAGalGlcNAcMan5GlcNAc2、GlcNAcMan3GlcNAc2、GlcNAc(1−4)Man3GlcNAc2、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)Man3GlcNAc2およびNANA(1−4)Gal(1−4)GlcNAc(1−4)Man3GlcNAc2(ここで、下付き数字はN−グリカン構造上の特定の糖残基の数を示す)から選択されるN−グリカンを主として有する糖タンパク質を産生するように遺伝的に操作されている。N−グリカン構造の具体例には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:Man5GlcNAc2、GlcNAcMan5GlcNAc2、GlcNAcMan3GlcNAc2、GlcNAc2Man3GlcNAc2、GlcNAc3Man3GlcNAc2、GlcNAc4Man3GlcNAc2、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc4Man3GlcNAc2、Gal3GlcNAc3Man3GlcNAc2、Gal3GlcNAc4Man3GlcNAc2、Gal4GlcNAc4Man3GlcNAc2、NANAGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、NANA2Gal2GIcNAc2Man3GlcNAc2、NANA3Gal3GlcNAc3Man3GlcNAc2、およびNANA4Gal4GlcNAc4Man3GlcNAc2。
さらに、前記宿主細胞のいずれかを使用して前記方法により得られる1以上の組換え糖タンパク質を含む組成物を提供する。
もう1つの態様においては、本発明は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される少なくとも1つの活性とを示さず、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。特定の実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さない。
もう1つの態様においては、本発明は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を有し、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。特定の実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を含む。
もう1つの態様においては、本発明は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)から選択される少なくとも1つの遺伝子との欠失または破壊を有し、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。特定の実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4(BMT4)遺伝子をコードする遺伝子の欠失または破壊を含む。
さらにもう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択されるN−グリカンまたはO−グリカンに対する少なくとも1つの活性を示さず、シアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを産生するように遺伝的に操作されており、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換え宿主細胞を準備し、第1および第2融合タンパク質を発現させプロセシングするのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該成熟ヒトエリスロポエチンを該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンを得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を示さない。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さない。
さらにもう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、シアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを産生するように遺伝的に操作されており、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換え宿主細胞(ここで、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性をコードする遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される活性をコードする少なくとも1つの遺伝子とが欠失または破壊されている)を準備し、第1および第2融合タンパク質を発現させプロセシングするのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該成熟ヒトエリスロポエチンを該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンを得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子の欠失または破壊を含む。
さらにもう1つの態様においては、本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供し、該方法は、シアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを産生するように遺伝的に操作されており、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERを標的化し、該融合タンパク質がER中に存在する場合には除去される)を含む組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞[ここで、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT)遺伝子と、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子とが欠失または破壊されている]を準備し、第1および第2融合タンパク質を発現させプロセシングするのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該成熟ヒトエリスロポエチンを該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンを得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ2(BMT2)遺伝子、β−マンノシルトランスフェラーゼ1(BMT1)遺伝子およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3(BMT3)遺伝子の欠失または破壊を含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は更に、β−マンノシルトランスフェラーゼ3遺伝子(BMT4)の欠失または破壊を含む。
該宿主細胞または方法の特定の実施形態においては、該エリスロポエチンのN末端に融合したシグナルペプチドはサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドまたはニワトリリゾチームシグナルペプチドである。
該宿主細胞または方法の更に詳細な実施形態においては、少なくとも1つの核酸分子は、該エリスロポエチンがサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドに融合している融合タンパク質をコードしており、少なくとも1つの核酸分子は、該エリスロポエチンがサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチド ニワトリリゾチームシグナルペプチドに融合している融合タンパク質をコードしている。
該宿主細胞または方法の更に詳細な実施形態においては、該エリスロポエチンをコードする核酸分子の核酸配列のコドンはピチア・パストリス(Pichia pastoris)における発現に関して最適化されている。
該方法の更に詳細な実施形態においては、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、培地からの回収は、カチオン交換クロマトグラフィー工程を含む。
該方法の更に詳細な実施形態においては、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、培地からの回収は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程を含む。
該方法の更に詳細な実施形態においては、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、培地からの回収は、アニオン交換クロマトグラフィー工程を含む。
該方法の更に詳細な実施形態においては、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、培地からの回収は、カチオン交換クロマトグラフィー工程およびそれに続くヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程を含み、この後、アニオン交換クロマトグラフィー工程が行われ得る。
本発明は更に、前記宿主細胞を使用して前記方法から得られる、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンと、医薬上許容される塩とを含む組成物を提供する。特定の実施形態においては、該N−グリカンの約50〜60%は両方のアンテナ(Aantenna)上にシアル酸残基を含み、更に詳細な実施形態においては、該N−グリカンの70%超(すなわち、70%を超える)は両方のアンテナ上にシアル酸残基を含み、更に詳細な実施形態においては、該N−グリカンの80%超は両方のアンテナ上にシアル酸残基を含む。更に詳細な態様においては、該N−グリカンの30%未満は中性N−グリカン(すなわち、該N−グリカンの非還元性末端の少なくとも1つの末端においてシアル酸化されていない)。更に詳細な態様においては、該N−グリカンの20%未満は中性N−グリカンである。特定の態様においては、該N−グリカンの約99%は1以上のシアル酸残基を含有し、該N−グリカンの1%未満は中性N−グリカンである。更に詳細な態様においては、rhEPOの1モル当たり4.5モルのシアル酸が存在する組成物を提供する。更に詳細な態様においては、rhEPOの1モル当たり少なくとも5.0モルのシアル酸が存在する組成物を提供する。
該組成物の更に詳細な実施形態においては、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンは親水性ポリマーにコンジュゲート化(conjugate)されており、該親水性ポリマーは、特定の態様においては、ポリエチレングリコールポリマーである。特定の実施形態においては、該ポリエチレングリコールポリマーは、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンのN末端にコンジュゲート化されている。
定義
本明細書中で用いる「N−グリカン」および「グリコフォーム(glycoform)」なる語は互換的に用いられ、N−結合オリゴ糖を意味し、例えば、ポリペプチドのアスパラギン残基にアスパラギン−N−アセチルグルコサミン結合により結合しているオリゴ糖を意味する。N−結合糖タンパク質は、該タンパク質中のアスパラギン残基のアミド窒素に結合したN−アセチルグルコサミン残基を含有する。糖タンパク質上で見出される主な糖としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸(例えば、N−アセチル−ノイラミン酸(NANA))が挙げられる。N−結合糖タンパク質の場合、糖基のプロセシングは翻訳と共に小胞体の内腔(ERルーメン)で生じ、翻訳後にゴルジ装置内で継続する。
N−グリカンはMan3GlcNAc2の共通の五糖コアを有する(「Man」はマンノースを意味し、「Glc」はグルコースを意味し、「NAc」はN−アセチルを意味し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミンを意味する)。N−グリカンは、「トリマンノースコア」、「五糖コア」または「小マンノース(paucimannose)コア」とも称されるMan3GlcNAc2(「Man3」)コア構造に付加される末梢糖(例えば、GlcNAc、ガラクトース、フコースおよびシアル酸)を含む分枝(アンテナ)の数に関して異なる。N−グリカンは、それらの分枝構成成分に従い分類される(例えば、高マンノース、複合またはハイブリッド)。「高マンノース」型N−グリカンは5以上のマンノース残基を有する。「複合」型N−グリカンは、典型的には、「トリマンノース」コアの1,6マンノース・アームに結合した少なくとも1つのGlcNAc、および1,3マンノース・アームに結合した少なくとも1つのGlcNAcを有する。複合N−グリカンはまた、シアル酸または誘導体(例えば、「NANA」または「NeuAc」;ここで、「Neu」はノイラミン酸を意味し、「Ac」はアセチルを意味する)で修飾されていてもよいガラクトース(「Gal」)またはN−アセチルガラクトサミン(「GalNAc」)残基を有し得る。複合N−グリカンはまた、コア・フコース(「Fuc」)および「二分岐(bisecting)」GlcNAcを含む鎖内置換を有し得る。複合N−グリカンはまた、「トリマンノース・コア」上に複数のアンテナを有することが可能であり、これは、しばしば、「多アンテナグリカン」と称される。「ハイブリッド」N−グリカンは、該トリマンノース・コアの1,3マンノース・アームの末端に少なくとも1つのGlcNAcを、そして該トリマンノース・コアの1,6マンノース・アーム上に0個以上のマンノースを有する。これらの種々のN−グリカンは「グリコフォーム」とも称される。
本明細書中で用いる略語は、当技術分野において一般に用いられているものである。例えば、前記の糖の略語を参照されたい。他の一般的な略語には、「PNGアーゼ」または「グリカナーゼ」または「グルコシダーゼ」が含まれ、これらは全て、ペプチドであるN−グリコシダーゼF(EC3.2.2.18)を意味する。
本明細書中で用いる「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」または単に「宿主細胞」)なる語は、組換えベクターが導入された細胞を意味すると意図される。そのような用語は、その特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の後代をも意味すると意図されると理解されるべきである。突然変異または環境の影響により、後の世代において、ある修飾が生じ得るため、そのような後代は実際には親細胞と同一でない可能性があるが、本明細書中で用いる「宿主細胞」なる語の範囲内に尚も含まれる。組換え宿主細胞は、培養内で増殖した単離された細胞または細胞系であることが可能であり、あるいは、生きた組織または生物に存在する細胞であり得る。好ましい宿主細胞は酵母および真菌である。
酵素活性を「示さない」宿主細胞は、該酵素活性が阻害または破壊されている宿主細胞を意味する。例えば、該酵素活性は、該酵素活性をコードする遺伝子を欠失または破壊すること(該遺伝子の発現を制御する上流または下流調節配列を欠失または破壊することを含む)により阻害または破壊されることが可能であり、該酵素活性は、該酵素活性をコードする遺伝子を突然変異させて該酵素活性コード化遺伝子を非機能性にすることにより阻害または破壊されることが可能であり、該酵素活性は、該酵素活性の化学的、ペプチドまたはタンパク質インヒビターの使用により阻害または破壊されることが可能であり、該酵素活性は、核酸に基づく発現インヒビター、例えばアンチセンスDNAおよびsiRNAの使用により阻害または破壊されることが可能であり、該酵素活性は、該酵素活性をコードする遺伝子の発現を制御もしくは調節する調節因子の発現もしくは活性のインヒビターまたは転写インヒビターの使用により阻害または破壊されることが可能である。
糖タンパク質の調製物中に存在するグリカンの「モル%(モル百分率)」に言及する場合、この用語は、該タンパク質調製物をPNGアーゼで処理し、ついで、グリコフォーム組成物により影響されない方法(例えば、PNGアーゼにより遊離したグリカンプールを2−アミノベンズアミドのような蛍光タグで標識し、ついで高速液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動により分離し、ついで蛍光強度によりグリカンを定量すること)により定量した場合に遊離したN結合オリゴ糖のプール内に存在する特定のグリカンのモル%を意味する。例えば、50モル%のNANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2は、遊離したグリカンの50%がNANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2であり、残りの50%が他のN結合オリゴ糖から構成されることを意味する。いくつかの実施形態においては、糖タンパク質の調製物中の特定のグリカンのモル%は20%〜100%、好ましくは25%超(すなわち、25%を超える)、30%超、35%超、40%超または45%超、より好ましくは50%超、55%超、60%超、65%超または70%超、最も好ましくは75%超、80%超、85%超、90%超または95%超である。
本明細書中で用いる「主として(主に)」(predominantly)なる語、またはその派生語、例えば「主要(主な)」または「優勢である」は、糖タンパク質をPNGアーゼで処理し、遊離グリカンを質量分析、例えばMALDI−TOF MSにより分析した後、全N−グリカンに対する最高モル百分率(%)を有するグリカン種に関して用いられると理解される。言い換えると、「主として(主に)」なる語は、ある個々の実体(例えば、特定のグリコフォーム)が他のいずれの個々の実体よりも大きなモル%で存在する場合に定義される。例えば、ある組成物が、40モル%の種A、35モル%の種Bおよび25モル%の種Cからなる場合、該組成物は種Aを「主として(主に)」含む。
「治療的有効量」なる語は、患者に利益をもたらすヘマトクリットの上昇をもたらす本発明の組換えエリスロポエチンの量を意味する。該量は個体によって異なり、患者の全般的身体状態および貧血の根本原因を含む多数の要因に左右される。例えば、慢性腎不全に罹患している患者に対する本発明のエリスロポエチンの治療的有効量は、治療適応に基づいて、20〜300単位/kgまたは0.5μg/kg〜500μg/kgの範囲であり得る。「単位」なる語は、エリスロポエチン組成物の活性を評価するための、当技術分野において一般に公知の単位を意味する。純粋なエリスロポエチンの1ミリグラムは150,000単位とほぼ同等である。投与計画は、毎週約3回から、4週間または6週間ごとに約1回であり得る。実際の計画は、患者に投与するエリスロポエチンのタイプ(EPOまたはPEG化EPO)および個々の患者の応答を含む多数の要因に左右される。より高い用量範囲は、典型的には、貧血用途には用いられないが、他の治療用途には有用であり得る。患者に対するエリスロポエチンの適切な用量を達成し確立するための手段は当技術分野でよく知られており、一般に実施されている。
患者ごとの投与量および投与計画における変動は、量または計画に関して「約」なる語を用いて示される。治療に使用するエリスロポエチンの量は、許容され得る率のヘマトクリット上昇をもたらし、ヘマトクリットを有益なレベル(例えば、通常は少なくとも約30%、典型的には30%〜36%の範囲)に維持する。本組成物の治療的有効量は、公に利用可能な材料および方法を用いて当業者により容易に確認され得る。また、治療中のエリスロポエチンの上昇を維持するために、患者に鉄が投与され得る。投与すべき量は、当業者により一般に用いられる方法により容易に決定され得る。
発明の詳細な説明
本発明は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠くタンパク質および糖タンパク質の、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供する。宿主細胞抗原には、免疫原性である可能性があり治療用タンパク質の治療効力または安全性を変化させ得る、組換えタンパク質組成物に持ち込まれ得る残留宿主細胞タンパク質および細胞壁混入物も含まれ得る。宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する交差反応性を有する組成物は、該組成物が何らかの混入宿主細胞物質、通常、ホスホマンノース残基またはβ−マンノース残基を有するN−グリカンなどを含有することを意味する。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)の野生型株は、これらのN−グリカン構造を有する糖タンパク質を産生する。全宿主細胞タンパク質に対して産生された抗体調製物は、これらの構造に対する抗体を含むと予想されるであろう。しかし、N−グリカンを含有しないタンパク質も、該宿主細胞に対して産生された抗体と交差反応する混入物質(タンパク質など)を含み得るであろう。
該方法および宿主細胞が産生を可能にする組換え治療用タンパク質および糖タンパク質は、該組換え治療用タンパク質および糖タンパク質が投与された個体において有害反応を誘発するリスクを有することがあるが、該リスクは、本明細書に開示されているとおりには修飾されていない株において産生された場合と比較して低い。有害反応には、該個体における望ましくない免疫応答、または該個体の健康に一般に悪影響を及ぼす該個体における部位に対する望ましくない若しくは不適当な結合、集合または相互作用を誘発することが含まれる。該治療用タンパク質または糖タンパク質が投与されている個体における有害反応の誘発のリスクは、慢性的に個体に投与されると意図されるタンパク質または糖タンパク質の場合(例えば、長期にわたって行われると意図される療法)に特に懸念される。本発明における方法により製造された組換え治療用タンパク質または糖タンパク質は、宿主細胞抗原に対する抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さず、したがって、該組換えタンパク質または糖タンパク質が投与された個体において有害反応を誘発するリスクの軽減を示す。該方法および宿主細胞は、クリアランス因子への結合の、より低い可能性を有する組換えタンパク質または糖タンパク質の製造にも有用である。
本発明者らは、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)の幾つかの株において産生される特定の糖タンパク質が、それにおけるマンノース残基の1以上がβ1,2−結合である、N−またはO−グリカンを有し得ることを見出した。治療用途に意図され1以上のβ1,2−結合マンノース残基を有する糖タンパク質は、該糖タンパク質が投与されている個体において望ましくない免疫応答を誘発し得るリスクをもたらす。これらのβ結合マンノース残基は、全宿主細胞抗原に対して産生された抗体を使用して検出され得る。どの治療用糖タンパク質が、1以上のβ1,2−結合マンノース残基を含むN−またはO−グリカンを有するのか、およびβ1,2−結合マンノース残基を含むN−またはO−グリカンを有する治療用糖タンパク質が、該糖タンパク質が投与されている個体において望ましくない免疫原性応答を引き起こすのかどうかを予想することは不可能であるため、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な交差結合を欠くように遺伝的に操作されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)株において治療用糖タンパク質を製造することが望ましい。そのような株は、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)β−マンノシルトランスフェラーゼ(BMT)遺伝子ファミリーの公知の4つのβ−マンノシルトランスフェラーゼ(Bmtp)のうちの少なくとも3つの活性を欠失または破壊することにより製造され得る。本明細書に示されているとおり、これらのBMT遺伝子の少なくとも3つの欠失または破壊を含むピチア・パストリス(Pichia pastoris)株は、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合を欠くタンパク質または糖タンパク質を産生し得るピチア・パストリス(Pichia pastoris)株を与える。これらの株は治療用タンパク質および糖タンパク質の製造に有用である。N−および/またはO−グリカン上のβ−マンノース構造の存在は免疫応答を惹起することが示されている。
ピチア・パストリス(Pichia pastoris)およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)におけるβ−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子の特定は米国特許第7,465,577号およびMilleら,J.Biol.Chem.283:9724−9736(2008)において報告されており、これは、β−マンノシル化が、AMR2またはBMT2と称されるβ−マンノシルトランスフェラーゼにより行われたこと、およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)における該遺伝子の破壊または欠失が、β−マンノシル化が低減した糖タンパク質を産生し得る組換え宿主を与えたことを開示している。該特許はまた、遺伝子BMT1、BMT3およびBMT4の3つのホモログを開示している。しかし、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する幾つかの糖タンパク質調製物の交差結合活性の源を調べたところ、本発明者らは、該交差結合活性が、BMT2遺伝子が破壊または欠失されている組換えピチア・パストリス(P.pastoris)宿主細胞の幾つかの株に残っている残存β−マンノシル化の結果であることを見出した。したがって、これらの組換え宿主細胞において産生された異種糖タンパク質は、β−マンノース残基を尚も含有していたN−グリカンを有する。これらのβ−マンノース残基は、宿主細胞抗原(HCA)に対して産生された抗体でプローブされた、これらの組換え宿主細胞の培養から得られた異種糖タンパク質のELISAおよびウエスタンブロットにおいて検出可能であった。抗HCA抗体は、野生型ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株またはNORF株[すなわち、該異種タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)が除去されていること以外は、異種糖タンパク質を産生する組換え宿主細胞と同じ方法で構築された組換え宿主細胞]に対して産生されたポリクローナル抗体である。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)において産生される治療用糖タンパク質の場合、これらの残存β−マンノース残基は、疾患または障害に対する治療において該治療用タンパク質の投与を受ける個体によっては、免疫応答を誘発するリスクをもたらす。本発明は、検出可能なβ−マンノシル化を含有せず、したがって、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に交差結合しない糖タンパク質の、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供する。
BMT1、BMT2およびBMT3は高度な配列相同性を示すが、BMT4はより低い度合の相同性を有し、キャッピング(capping)アルファ−マンノシルトランスフェラーゼであると考えられている。しかし、BMTファミリーの4つのメンバーの全ては、β−結合マンノース構造を有するN−および/またはO−グリカンの合成に関与するようである。BMT2遺伝子が欠失しているピチア・パストリス(Pichia pastoris)株において産生された試験タンパク質からのN−グリカンのMALDI−TOFはβ−マンノシル化を検出できない可能性があるが、抗体に基づく本発明における高感度アッセイはΔbmt2株におけるβ−マンノシル化を検出することが可能であった。したがって、本明細書に教示されている抗HCA抗体に基づく検出方法は、全ての検出可能なβ−マンノース構造を除去するためには、BMT1およびBMT3遺伝子ならびに場合によってはBMT4遺伝子の欠失または破壊も必要であることを示した。それらの3つのβ−マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の欠失または破壊は、(1)該遺伝子(プロモーター配列、オープンリーディングフレーム(ORF)および/または転写終結配列を含む)の完全または部分的ノックアウト;(2)該ORFにおけるフレームシフトの導入;(3)該プロモーターの不活性化または調節;(4)siRNAまたはアンチセンスRNAによるメッセージのノックダウン;あるいは(5)化学的インヒビターの使用により達成され得る。その結果は、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く糖タンパク質を産生し得る宿主細胞の産生である。
抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く糖タンパク質の製造方法を例示するために、BMT2発現または活性を欠くように及びシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを有する組換え成熟ヒトエリスロポエチン(EPO)を産生し得るように遺伝的に操作されているピチア・パストリス(Pichia pastoris)株を、BMT1および/またはBMT3および/またはBMT4遺伝子の発現を欠くように更に遺伝的に操作した。BMT2遺伝子の発現だけが破壊されている株は、抗HCA抗体に対する或る程度の検出可能な交差結合活性を有する組換え成熟ヒトEPOを産生した。検出可能な交差結合活性は、EPO分子上のβ−結合マンノース残基の存在によるものであることが判明した(図22〜27B、実施例6を参照されたい)。BMT1およびBMT4をコードする遺伝子が該株において破壊または欠失された場合、産生されたEPOは抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を尚も有していた(図28〜31を参照されたい)。しかし、BMT1、BMT2、BMT3およびBMT4遺伝子が破壊または欠失された場合には、該株のほとんどは、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠き従って検出可能なβ−マンノース残基を欠くグリコシル化組換えヒトEPOを産生した(例えば、図33および35Bを参照されたい)。
したがって、本発明は更に、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の製造方法を提供し、該方法は、β−マンノシルトランスフェラーゼの種々の組合せを更に示さなくするために、該組換えタンパク質を産生させるために使用されると意図される宿主細胞を構築することを含む。例えば、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さない宿主細胞を構築する。β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示すことを欠く宿主細胞は、組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。NORF株は、該組換え糖タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを欠くこと以外は宿主株と同じ株である。該宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該宿主細胞は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するのに有用である。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ1、β−マンノシルトランスフェラーゼ3またはβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さないように更に操作される。例えば、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を欠く宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性を欠くように更に操作される。該宿主細胞は、組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。該宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該宿主細胞は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するのに有用である。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該宿主細胞は、β−マンノシルトランスフェラーゼ3またはβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さないように更に操作される。例えば、β−マンノシルトランスフェラーゼ2活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ1活性を欠く宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を欠くように更に操作される。該宿主細胞は、該タンパク質または組換え糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。該宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該宿主細胞は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するのに有用である。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該株は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さないように更に操作される。該宿主細胞は、該組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価されて、該組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠くことが確認される。
更なる一例として、BMT遺伝子の種々の組合せが欠失または破壊されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を構築する。例えば、BMT2遺伝子の破壊または欠失を有するピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を構築する。Δbmt2宿主細胞は、該組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。NORF株は、該組換え糖タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを欠くこと以外は宿主株と同じ株である。該Δbmt2宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該BMT2欠失または破壊は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を該宿主細胞が産生するのを可能にするのに十分なものである。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該宿主細胞は、BMT1、BMT3またはBMT4遺伝子の欠失を有するように更に操作される。例えば、BMT2遺伝子の破壊または欠失を有する宿主細胞は、BMT1遺伝子の欠失または破壊を有するように更に操作される。該Δbmt2Δbmt1宿主細胞は、該組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。該Δbmt2Δbmt1宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該BMT1およびBMT2欠失または破壊は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を該宿主細胞が産生するのを可能にするのに十分なものである。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該宿主細胞は、BMT3またはBMT4遺伝子の欠失を有するように更に操作される。例えば、BMT1およびBMT2遺伝子の破壊または欠失を有する宿主細胞は、BMT3遺伝子の欠失または破壊を有するように更に操作される。該Δbmt2Δbmt1Δbmt3宿主細胞は、該組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該宿主細胞のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価される。該Δbmt2Δbmt1Δbmt3宿主細胞により産生された組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠く場合には、該BMT1、BMT2およびBMT3欠失または破壊は、宿主細胞抗原にする抗体に対する交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を該宿主細胞が産生するのを可能にするのに十分なものである。
しかし、検出可能な交差結合活性が検出される場合には、該宿主細胞は、BMT4遺伝子の欠失を有するように更に操作される。該Δbmt2Δbmt1Δbmt3Δbmt4宿主細胞は、該組換えタンパク質または糖タンパク質を製造するために使用され、ついでこれは、該株のNORF形態に対して産生された抗体を使用するウエスタンブロットまたはELISAにより評価されて、該組換えタンパク質または糖タンパク質が、宿主細胞抗原に対して産生された抗体への検出可能な結合を欠くことが確認される。
本発明は更に、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される少なくとも1つの活性を示さず、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えメチロトローフ酵母宿主細胞、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を示さない。更に詳細な態様においては、本発明は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ3活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さず、該組換え糖タンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換え宿主細胞を提供する。
本発明は更に、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性を示さず、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される少なくとも1つの活性を示さず、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性を欠く。
更に詳細な態様においては、本発明は、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ3活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性を示さず、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む組換えメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。
本発明は更に、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されており、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ1活性またはβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする少なくとも1つの遺伝子が欠失または破壊されている組換えメチロトローフ酵母宿主細胞[例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞]であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されている。更に詳細な態様においては、本発明は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ3活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されている組換え宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該組換え宿主細胞を提供する。
本発明は更に、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されており、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ1活性またはβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性から選択される活性をコードする少なくとも1つの遺伝子が欠失または破壊されている組換えメチロトローフ酵母[例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)]宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ3活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されている。
更に詳細な態様においては、本発明は、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、N−グリカンまたはO−グリカンに対するβ−マンノシルトランスフェラーゼ2活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ1活性、β−マンノシルトランスフェラーゼ3活性およびβ−マンノシルトランスフェラーゼ4活性をコードする遺伝子が欠失または破壊されている組換えメチロトローフ酵母[例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)]宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。
本発明は更に、BMT2遺伝子と、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子の少なくとも1つとが欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、BMT2遺伝子、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子が欠失または破壊されている。更に詳細な態様においては、本発明は、BMT1遺伝子、BMT2遺伝子、BMT3遺伝子およびBMT4遺伝子が欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を提供する。
本発明は更に、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、BMT2遺伝子と、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子の少なくとも1つとが欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。更に詳細な実施形態においては、BMT2遺伝子、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子が欠失または破壊されている。
更に詳細な態様においては、本発明は、抗宿主細胞抗原抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質の一般的製造方法を提供し、該方法は、BMT1遺伝子、BMT2遺伝子、BMT3遺伝子およびBMT4遺伝子が欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を準備し、該組換えタンパク質または糖タンパク質を発現させるのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該組換えタンパク質または糖タンパク質を該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠く組換えタンパク質または糖タンパク質を得ることを含む。
本発明は更に、BMT2遺伝子と、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子の少なくとも1つとが欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を提供する。更に詳細な実施形態においては、BMT2遺伝子、BMT1遺伝子およびBMT3遺伝子が欠失または破壊されている。更に詳細な態様においては、本発明は、BMT1遺伝子、BMT2遺伝子、BMT3遺伝子およびBMT4遺伝子が欠失または破壊されている組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞であって、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子を含む該宿主細胞を提供する。
一般に、該組換えタンパク質または糖タンパク質は治療用糖タンパク質である。想定される治療用糖タンパク質の具体例には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:エリスロポエチン(EPO);サイトカイン、例えばインターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγおよびインターフェロンω;ならびに顆粒球−コロニー刺激因子(GCSF);GM−CSF;凝固因子、例えば因子VIII、因子IXおよびヒトプロテインC;アンチトロンビンIII;トロンビン;可溶性IgE受容体α鎖;免疫グロブリン、例えばIgG、IgGフラグメント、IgG融合体およびIgM;免疫接着物質および他のFc融合タンパク質、例えば可溶性TNF受容体−Fc融合タンパク質;RAGE−Fc融合タンパク質;インターロイキン;ウロキナーゼ;キマーゼ;および尿素トリプシンインヒビター;IGF結合性タンパク質;上皮増殖因子;成長ホルモン放出因子;アネキシンV融合タンパク質;アンジオスタチン;血管内皮増殖因子−2;骨髄前駆体抑制因子−1;オステオプロテジェリン;α−1−アンチトリプシン;α−フェトプロテイン;DNアーゼII;ヒトプラスミノーゲンのクリングル3;グルコセレブロシダーゼ;TNF結合タンパク質1;濾胞刺激ホルモン;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4−Ig;膜貫通アクチベーターおよびカルシウムモジュレーターおよびシクロフィリンリガンド;グルカゴン様タンパク質1;ならびにIL−2受容体アゴニスト。
本発明の特定の態様においては、該組換えタンパク質または糖タンパク質をコードする核酸分子は、宿主細胞内における組換えタンパク質または糖タンパク質の発現を増強するようにコドンが最適化されている。例えば、実施例に示されているとおり、末端がシアル酸化された両方の分岐を主なグリコフォームが含む二分岐N−グリカンを含むエリスロポエチン変異体を産生するように遺伝的に操作されているメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)株におけるエリスロポエチンの発現を増強するために、エリスロポエチンのヒト成熟形態をコードする核酸分子をコドン最適化した。
本発明は更に、本発明における方法を使用して及び本明細書に記載の宿主細胞において製造された、宿主細胞抗原に対する抗体への検出可能な交差結合を欠く1以上のタンパク質または糖タンパク質を含む組成物を提供する。該組成物は更に、医薬上許容される担体および塩を含み得る。
適切な宿主細胞には、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)BMT1、BMT2、BMT3および/またはBMT4遺伝子のホモログを含む任意の宿主細胞が含まれる。現在、そのような宿主細胞の具体例には、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびメチロトローフ酵母ピチア・パストリス(Pichia pastoris)が含まれる。したがって、本発明の特定の態様においては、該宿主細胞はメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)、およびその突然変異体、および遺伝的に操作された変異体である。本発明における使用に想定されるメチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)は、グリコシル化パターンがヒト様である又はヒト化されている糖タンパク質をそれらが発現するように、遺伝的に修飾され得る。このようにして、特定の所望のグリコフォームが該組成物において優勢である糖タンパク質組成物が製造され得る。選択された内在性グリコシル化酵素を除去し、および/または該宿主細胞を遺伝的に操作し、および/または外在性酵素を供与して、哺乳類グリコシル化経路の全部または一部を模擬することにより(US 2004/0018590に記載されているとおり)、それは達成され得る。所望により、該グリコシル化の追加的遺伝的操作を行って、該糖タンパク質が、コアフコシル化を伴って又は伴わないで産生され得るようにすることが可能である。下等真核宿主細胞の使用は更に有利である。なぜなら、これらの細胞は糖タンパク質の高度に均一な組成物を産生することが可能であり、該糖タンパク質の主要グリコフォームが該組成物中の糖タンパク質の30モル%超(すなわち、30モル%を超えて)で存在することが可能となるからである。特定の態様においては、該主要グリコフォームは、該組成物中に存在する糖タンパク質の40モル%超、50モル%超、60モル%超、70モル%超、最も好ましくは80モル%超で存在し得る。選択された内在性グリコシル化酵素を除去し、および/または外在性酵素を供与することにより(Gemgrossら,米国特許第7,029,872号および米国特許第7,449,308号に記載されているとおり)、それは達成され得る。例えば、宿主細胞は、糖タンパク質上のN−グリカン上にマンノース残基を付加する1,6−マンノシルトランスフェラーゼ活性を欠くように選択され又は操作され得る。
1つの実施形態においては、該宿主細胞は更に、α1,2−マンノシダーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、α1,2−マンノシダーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る組換え糖タンパク質の通過は、Man5GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質、例えば、Man5GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生する。例えば、米国特許第7,029,872号、米国特許第7,449,308号および米国公開特許出願第2005/0170452号は、Man5GlcNAc2グリコフォームを含む糖タンパク質を産生し得る下等真核宿主細胞を開示している。
更に詳細な実施形態においては、直前の宿主細胞は更に、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GlcNAcトランスフェラーゼIまたはGnT I)触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、GlcNAcトランスフェラーゼI活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、GlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質、例えば、GlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生する。例えば、米国特許第7,029,872号、米国特許第7,449,308号および米国公開特許出願第2005/0170452号は、GlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを含む糖タンパク質を産生し得る下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、Man5GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質を産生させることが可能である。
更に詳細な実施形態においては、直前の宿主細胞は更に、マンノシダーゼII触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、マンノシダーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、GlcNAcMan3GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質、例えば、GlcNAcMan3GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生する。米国特許第7,029,872号および米国公開特許出願第2004/0230042号は、マンノシダーゼII酵素を発現し、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを主に有する糖タンパク質を産生し得る下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、Man3GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質を産生させることが可能である。
更に詳細な実施形態においては、直前の宿主細胞は更に、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GlcNAcトランスフェラーゼIIまたはGnT II)触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、GlcNAcトランスフェラーゼII活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質、例えば、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生する。米国特許第7,029,872号ならびに米国公開特許出願第2004/0018590号および第2005/0170452号は、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを含む糖タンパク質を産生し得る下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をヘキサミニダーゼでインビトロで処理して、Man3GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質を産生させることが可能である。
更に詳細な実施形態においては、直前の宿主細胞は更に、ガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2もしくはGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームまたはそれらの混合物を含む組換え糖タンパク質、例えば、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームもしくはGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームまたはそれらの混合物を主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生する。米国特許第7,029,872号および米国公開特許出願第2006/0040353号は、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを含む糖タンパク質を産生し得る下等真核宿主細胞を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をガラクトシダーゼでインビトロで処理して、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質、例えば、GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質組成物を産生させることが可能である。
更に詳細な実施形態においては、直前の宿主細胞は更に、シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、シアリルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、NANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームもしくはNANAGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームまたはそれらの混合物を主に含む組換え糖タンパク質を産生する。下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌の場合、該宿主細胞が、N−グリカンへの転移のためのCMP−シアル酸を供与するための手段を更に含むことが有用である。米国公開特許出願第2005/0260729号は、CMP−シアル酸合成経路を有するように下等真核生物を遺伝的に操作するための方法を開示しており、米国公開特許出願第2006/0286637号は、シアル酸化糖タンパク質を産生するように真核生物を遺伝的に操作するための方法を開示している。前記細胞において産生された糖タンパク質をノイラミニダーゼでインビトロで処理して、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームもしくはGalGlcNAc2Man3GlcNAc2グリコフォームまたはそれらの混合物を主に含む組換え糖タンパク質を産生させることが可能である。
前記宿主細胞はいずれも、米国公開特許出願第2004/074458号および第2007/0037248号に開示されているような二分岐(bisected)(GnT III)および/または多分岐(GnT IV、V、VIおよびIX)N−グリカン構造を有する糖タンパク質を産生させるためのGnT III、GnT IV、GnT V、GnT VIおよびGnT IXからなる群から選択される1以上のGlcNAcトランスフェラーゼを更に含み得る。
更に詳細な実施形態においては、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを主に有する糖タンパク質を産生する宿主細胞は更に、ガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、GalGlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを主に含む組換え糖タンパク質を産生する。
更に詳細な実施形態においては、GalGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを主に有する糖タンパク質を産生した直前の宿主細胞は更に、シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含み、該触媒ドメインは、該触媒ドメインに通常は結合していない細胞標的化シグナルペプチドに融合しており、該シグナルペプチドは、シアリルトランスフェラーゼ活性を該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化するように選択される。該宿主細胞のERまたはゴルジ装置を通る該組換え糖タンパク質の通過は、NANAGalGlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを含む組換え糖タンパク質を産生する。
更に詳細な態様においては、前記宿主はいずれも、フコシルトランスフェラーゼ、およびフコースを産生しフコースをERまたはゴルジ内に輸送する経路を含むように更に修飾される。N−グリカンの1以上がフコシル化されている糖タンパク質を産生し得るようにピチア・パストリス(Pichia pastoris)を修飾するための方法の具体例はPCT国際出願番号PCT/US2008/002787に開示されている。本発明の特定の態様においては、該ピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞は、GDP−マンノース−4,6−デヒドラターゼ、GDP−ケト−デオキシ−マンノース−エピメラーゼ/GDP−ケト−デオキシ−ガラクトース−レダクターゼ、GDP−フコース輸送体およびフコシルトランスフェラーゼを含むフコシル化経路を含むように更に修飾される。特定の態様においては、フコシルトランスフェラーゼは、α1,2−フコシルトランスフェラーゼ、α1,3−フコシルトランスフェラーゼ、α1,4−フコシルトランスフェラーゼおよびα1,6−フコシルトランスフェラーゼからなる群から選択される。
種々の前記宿主細胞は更に、1以上の糖輸送体、例えばUDP−GlcNAc輸送体[例えば、クライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)およびムス・ムスクルス(Mus musculus)UDP−GlcNAc輸送体]、UDP−ガラクトース輸送体[例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)UDP−ガラクトース輸送体]およびCMP−シアル酸輸送体(例えば、ヒトシアル酸輸送体)を含む。下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌は前記輸送体を欠くため、下等真核宿主細胞、例えば酵母および糸状菌は、前記輸送体を含むように遺伝的に操作されることが好ましい。
宿主細胞には更に、ホスホマンノシルトランスフェラーゼ遺伝子PNO1およびMNN4Bの一方または両方を欠失または破壊することにより、ホスホマンノース残基を有する糖タンパク質を排除するように遺伝的に操作されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)が含まれる(例えば、米国特許第7,198,921号および第7,259,007号を参照されたい)。更に詳細な態様においては、それは、MNN4A遺伝子を欠失または破壊することをも含み得る。破壊は、特定の酵素をコードするオープンリーディングフレームを破壊する(妨げる)こと、または該オープンリーディングフレームの発現を破壊する(妨げる)こと、または干渉性RNA、アンチセンスRNAなどを使用して、β−マンノシルトランスフェラーゼおよび/またはホスホマンノシルトランスフェラーゼの1以上をコードするRNAの翻訳を阻害することを含む。該宿主細胞には更に、特定のN−グリカン構造を産生するように修飾された前記宿主細胞のいずれかが含まれ得る。
宿主細胞には更に、タンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ[Dol−P−Man:タンパク質(Ser/Thr)マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子)(PMT)(米国特許第5,714,377号を参照されたい)]の1以上を欠失または破壊することにより糖タンパク質のO−グリコシル化を制御するように遺伝的に修飾された、あるいは公開国際出願番号WO 2007061631に開示されているとおりにPmtpインヒビターおよび/またはアルファ−マンノシダーゼの存在下で増殖された、あるいはそれらの両方に付された下等真核細胞[例えば、酵母、例えば、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)]が含まれる。破壊は、Pmtpをコードするオープンリーディングフレームを破壊する(妨げる)こと、または該オープンリーディングフレームの発現を破壊する(妨げる)こと、または干渉性RNA、アンチセンスRNAなどを使用して、Pmtpの1以上をコードするRNAの翻訳を阻害することを含む。該宿主細胞には更に、特定のN−グリカン構造を産生するように修飾された前記宿主細胞のいずれかが含まれ得る。
Pmtpインヒビターには、ベンジリデンチアゾリジンジオンが含まれるが、これに限定されるものではない。使用され得るベンジリデンチアゾリジンジオンとしては、5−[[3,4−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸、5−[[3−(1−フェニルエトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸、および5−[[3−(1−フェニル−2−ヒドロキシ)エトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン]−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸が挙げられる。
特定の実施形態においては、少なくとも1つの内在性PMT遺伝子の機能または発現が低減、破壊または欠失される。例えば、特定の実施形態においては、PMT1、PMT2、PMT3およびPMT4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの内在性PMT遺伝子の機能または発現が低減、破壊または欠失され、あるいは該宿主細胞は1以上のPMTインヒビターの存在下で培養される。更に詳細な実施形態においては、該宿主細胞は1以上のPMT遺伝子の欠失または破壊を含み、該宿主細胞は1以上のPmtpインヒビターの存在下で培養される。これらの実施形態の特定の態様においては、該宿主細胞は分泌性アルファ−1,2−マンノシダーゼをも発現する。
PMT欠失もしくは破壊および/またはPmtpインヒビターは、O−グリコシル化の占有を低減することにより、すなわち、グリコシル化される糖タンパク質上のO−グリコシル化部位の総数を減少させることにより、O−グリコシル化を制御する。該細胞により分泌されるアルファ−1,2−マンノシダーゼの更なる添加は、該糖タンパク質上に存在するO−グリカンのマンノース鎖長を減少させることにより、O−グリコシル化を制御する。したがって、PMT欠失もしくは破壊および/またはPmtpインヒビターを分泌性アルファ−1,2−マンノシダーゼの発現と組合せることは、占有および鎖長を減少させることによりO−グリコシル化を制御する。個々の状況においては、個々の異種糖タンパク質(例えば、抗体)は種々の度合の効率で発現されゴルジ装置から輸送される可能性があり、したがって、PMT欠失または破壊、Pmtpインヒビターおよびアルファ−1,2−マンノシダーゼの特定の組合せを要し得るため、PMT欠失または破壊、Pmtpインヒビターおよびアルファ−1,2−マンノシダーゼの個々の組合せは実験的に決定される。もう1つの態様においては、1以上の内在性マンノシルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子が欠失される。この欠失は分泌性アルファ−1,2−マンノシダーゼおよび/またはPMTインヒビターの供与と組合されることが可能であり、あるいは分泌性アルファ−1,2−マンノシダーゼおよび/またはPMTインヒビターの供与の代わりに行われ得る。
したがって、O−グリコシル化の制御は、より良好な通算収率または適切に構築された糖タンパク質の収率で、本明細書に開示されている宿主細胞において特定の糖タンパク質を製造するのに有用であり得る。O−グリコシル化の低減または排除は糖タンパク質(例えば、全抗体)の構築および輸送に有益な効果をもたらすらしい。なぜなら、それらは分泌経路を横断し、細胞表面へ輸送されるからである。したがって、O−グリコシル化が制御された細胞においては、適切に構築された糖タンパク質、例えば抗体フラグメントの収率が、O−グリコシル化が制御されていない宿主細胞において得られる収率と比較して増加する。
糖タンパク質の収率は、場合によっては、哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質をコードする核酸分子を過剰発現させることにより、あるいは1以上の内在性シャペロンタンパク質をコードする遺伝子を、1以上の哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質をコードする核酸分子で置換することにより改善され得る。また、宿主細胞における哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質の発現も該細胞におけるO−グリコシル化を制御するらしい。したがって、シャペロンタンパク質をコードする少なくとも1つの内在性遺伝子の機能が低減または排除されており、該シャペロンタンパク質の哺乳類またはヒトホモログの少なくとも1つをコードするベクターが細胞内で発現される、本発明における宿主細胞が更に含まれる。また、該内在性宿主細胞シャペロンおよび該哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質が発現される宿主細胞も含まれる。更に詳細な態様においては、下等真核宿主細胞は酵母または糸状菌宿主細胞である。組換えタンパク質の収率の改善およびO−グリコシル化の低減または制御のためにヒトシャペロンタンパク質が導入される、宿主細胞のシャペロンの使用の具体例は、PCT国際出願番号PCT/US2009/033507に開示されている。前記と同様に、該内在性シャペロンタンパク質の1以上をコードする遺伝子を、1以上の哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質をコードする核酸分子で置換すること、あるいは前記のとおりに1以上の哺乳類またはヒトシャペロンタンパク質を過剰発現させることに加えて、タンパク質O−マンノシルトランスフェラーゼ(PMT)タンパク質をコードする少なくとも1つの内在性遺伝子の機能または発現が低減、破壊または欠失されている、下等真核宿主細胞が更に含まれる。特定の実施形態においては、PMT1、PMT2、PMT3およびPMT4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの内在性PMT遺伝子の機能が低減、破壊または欠失されている。
したがって、本明細書に開示されている方法は、糖タンパク質を産生するように遺伝的に修飾されたいずれかの宿主細胞を使用することが可能であり、この場合、該主要N−グリカンは、複合N−グリカン、ハイブリッドN−グリカンおよび高マンノースN−グリカンからなる群から選択され、ここで、複合N−グリカンは、Man3GlcNAc2、GlcNAC(1−4)Man3GlcNAc2、Gal(1−4)GlcNAc(1−4)Man3GlcNAc2およびNANA(1−4)Gal(1−4)Man3GlcNAc2からなる群から選択され、ハイブリッドN−グリカンは、Man5GlcNAc2、GlcNAcMan5GlcNAc2、GalGlcNAcMan5GlcNAc2およびNANAGalGlcMan5GlcNAc2からなる群から選択され、高マンノースN−グリカンは、Man6GlcNAc2、Man7GlcNAc2、Man8GlcNAc2およびMan9GlcNAc2からなる群から選択される。N−グリカン構造の具体例には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:Man5GlcNAc2、GlcNAcMan5GlcNAc2、GlcNAcMan3GlcNAc2、GlcNAc2Man3GlcNAc2、GlcNAc3Man3GlcNAc2、GlcNAc4Man3GlcNAc2、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc4Man3GlcNAc2、Gal3GlcNAc3Man3GlcNAc2、Gal3GlcNAc4Man3GlcNAc2、Gal4GlcNAc4Man3GlcNAc2、NANAGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、NANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、NANA3Gal3GlcNAc3Man3GlcNAc2およびNANA4Gal4GlcNAc4Man3GlcNAc2。
該組換え宿主細胞を構築するために使用され得る酵母選択マーカーには、薬物耐性マーカー、および必須細胞栄養素(例えば、アミノ酸)を酵母宿主細胞が合成するのを可能にする遺伝的機能体が含まれる。酵母において一般に使用される薬物耐性マーカーには、クロラムフェニコール、カナマイシン、メトトレキセート、G418(ゲネティシン(geneticin))、ゼオシンなどが含まれる。酵母宿主細胞が必須細胞栄養素を合成するのを可能にする遺伝的機能体は、対応ゲノム機能における栄養要求性突然変異を有する利用可能な酵母株と共に使用される。一般的な酵母選択マーカーは、ロイシン(LEU2)、トリプトファン(TRP1およびTRP2)、プロリン(PRO1)、ウラシル(URA3、URA5、URA6)、ヒスチジン(HIS3)、リシン(LYS2)、アデニン(ADE1またはADE2)などを合成するための遺伝的機能を付与する。他の酵母選択マーカーには、亜ヒ酸塩の存在下で増殖される酵母細胞に亜ヒ酸塩耐性を付与するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)由来のARR3遺伝子が含まれる(Bobrowiczら,Yeast,13:819−828(1997);Wysockiら,J.Biol.Chem.272:30061−30066(1997))。幾つかの適当な組込み部位は、米国特許第7,479,389号に列挙されているものを含み、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)および他の酵母または真菌に関して公知の遺伝子座に対するホモログを含む。酵母内にベクターを組込むための方法はよく知られている(例えば、米国特許第7,479,389号、米国特許第7,514,253号、米国公開出願第2009012400号およびWO2009/085135を参照されたい)。挿入部位の具体例には、ピチア(Phichia)ADE遺伝子、ピチアTRP(TRP1〜TRP2を含む)遺伝子、ピチアMCA遺伝子、ピチアCYM遺伝子、ピチアPEP遺伝子、ピチアPRB遺伝子およびピチアLEU遺伝子が含まれるが、これらに限定されるものではない。ピチア(Pichia)ADE1およびARG4遺伝子はLin Cereghinoら,Gene 263:159−169(2001)および米国特許第4,818,700号に記載されており、HISおよびTRP1遺伝子はCosanoら,Yeast 14:861−867(1998)に記載されており、HIS4はGenBankアクセッション番号X56180に記載されている。
本発明は更に、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における製造方法を提供する。該方法は、シアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを産生するように遺伝的に操作されており、2以上の核酸分子(それぞれは、シグナルペプチドに融合した成熟ヒトエリスロポエチンEPOを含む融合タンパク質をコードしており、該シグナルペプチドはERまたはゴルジ装置を標的化し、該融合タンパク質がERまたはゴルジ装置内に存在する場合には除去される)を含む組換えピチア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞(ここで、少なくともBMT1、BMT2およびBMT3遺伝子が欠失または破壊されている)を準備し、第1および第2融合タンパク質を発現させプロセシングするのに有効な条件下、培地内で該宿主細胞を増殖させ、該成熟ヒトエリスロポエチンを該培地から回収して、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンを得ることを含む。
特定の態様においては、成熟ヒトエリスロポエチンをコードする核酸分子は、メチロトローフ酵母、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)における最適発現のためにコドンが最適化されている。実施例に示されているとおり、成熟ヒトエリスロポエチンは融合タンパク質としてコードされており、ここで、EPOは、エリスロポエチンの成熟形態のN末端において、グリコシル化を含むプロセシングのための分泌経路に融合タンパク質を標的化するシグナルペプチドのC末端に融合されている。シグナルペプチドの具体例には、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドまたはニワトリリゾチームシグナルペプチドが含まれるが、これらに限定されるものではない。本明細書に開示されているものの代わりに、他のシグナル配列、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)α−アミラーゼシグナルペプチドおよびヒト血清アルブミン(HSA)シグナルペプチドが使用可能である。1つの実施形態においては、第1核酸分子は、該成熟エリスロポエチンがサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドに融合している融合タンパク質をコードしており、第2核酸分子は、該成熟エリスロポエチンがサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチド ニワトリリゾチームシグナルペプチドに融合している融合タンパク質をコードしている。該シグナルペプチドは、1以上のプロテアーゼ切断部位を含有し得るリンカーペプチドにより、該成熟ヒトエリスロポエチンに融合され得る。
更に詳細な態様においては、該宿主細胞は、該成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードする発現カセットの2〜12個のコピーを含む。幾つかの態様においては、該宿主細胞は、該成熟ヒトエリスロポエチンを含む融合タンパク質をコードする発現カセットの約8〜11個のコピーを含む。他の態様においては、該宿主細胞は、該第1核酸の約3〜4個のコピー、および該第2核酸の5〜7個のコピーを含む。
該宿主細胞は、シアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを産生するように遺伝的に操作されており、ここで、少なくともBMT1、BMT2およびBMT3遺伝子が欠失または破壊されている。そのような宿主細胞は更に、少なくとも、OCH1、PNO1、MNN4およびMNN4L1遺伝子の欠失または破壊を含む。該宿主細胞は更に、少なくとも以下のキメラグリコシル化酵素をコードする1以上の核酸分子を含む:細胞標的化ペプチドに融合したα1,2−マンノシダーゼ触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)、細胞標的化ペプチドに融合したGlcNAcトランスフェラーゼI触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)、細胞標的化ペプチドに融合したマンノシダーゼII触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)、細胞標的化ペプチドに融合したGlcNAcトランスフェラーゼII触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)、細胞標的化ペプチドに融合したβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)、および細胞標的化ペプチドに融合したα1,2−シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを該宿主細胞のERまたはゴルジ装置に標的化する)。これらのグリコシル化酵素は、それらが標的化される、ERまたはゴルジ装置内の位置で活性となるように選択される。グリコシル化酵素を選択し、最適な活性のために該酵素をERまたはゴルジ装置の特定の領域に標的化するための方法は、米国特許第7,029.872号および第7,449,308号ならびに公開米国出願第2006/0040353号および第2006/0286637号に記載されている。該宿主細胞は、公開米国出願第2006/0286637号に記載されているとおり、CMP−シアル酸を産生させるための経路の酵素を含むように、ならびにGlcNAcおよびガラクトース輸送体およびUDP−ガラクトース−4−エピメラーゼを含むように更に修飾される。最後に、該宿主は、細胞標的化ペプチドに融合した真菌α1,2−マンノシダーゼ触媒ドメイン(該細胞標的化ペプチドは該触媒ドメインを分泌のために分泌経路に標的化する)をコードする核酸を更に含み、これは、O−グリカン占有および鎖長の低減をもたらす。
宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性の検出はサンドイッチELISAまたはウエスタンブロットにおいて決定され得る。
更に詳細な態様においては、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含み、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない成熟ヒトエリスロポエチンの回収は、カチオン交換クロマトグラフィー工程および/またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程および/またはアニオン交換クロマトグラフィー工程を含む。1つの実施形態においては、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含み、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない成熟ヒトエリスロポエチンの回収は、カチオン交換クロマトグラフィー工程およびそれに続くヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程を含む。所望により、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含み、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない成熟ヒトエリスロポエチンの回収は、アニオンクロマトグラフィー工程を含む。
更に、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含み、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない、本明細書に開示されているとおりに得られる成熟ヒトエリスロポエチンおよび医薬上許容される塩を含む組成物を提供する。特定の実施形態においては、該N−グリカンの約50〜60%は両分岐上にシアル酸残基を含み、更に詳細な実施形態においては、該N−グリカンの70%超は両分岐上にシアル酸残基を含む。更に詳細な態様においては、該N−グリカンの30%未満は中性N−グリカン(すなわち、該N−グリカンの非還元末端における少なくとも1つの末端においてシアル酸化されていない)である。更に詳細な態様においては、該N−グリカンの20%未満は中性N−グリカンである。
特定の態様においては、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含み、宿主細胞抗原に対して産生された抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない成熟ヒトエリスロポエチンは、親水性ポリマーにコンジュゲート化され、特定の実施形態においては、該親水性ポリマーはポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールポリマーにコンジュゲート化された、主としてシアル酸を末端とする二分岐N−グリカンを含む成熟ヒトエリスロポエチンの具体例は共有米国公開出願第2008/0139470号に記載されている。
該ポリエチレングリコールポリマー(PEG)基は任意の簡便な分子量のものであることが可能であり、直鎖状または分枝状であり得る。PEGの平均分子量は、好ましくは約2キロダルトン(「kDa」)〜約100kDa、より好ましくは約5kDa〜約60kDa、より好ましくは約20kDa〜約50kDa、最も好ましくは約30kDa〜約40kDaの範囲である。これらのPEGは、NOF Corporation(Tokyo,Japan)、Dow Pharma(ChiroTech Technology,Cambridge,UK)、Nektar(San Carlos,CA)およびSunBio(Anyang City,South Korea)を含むいずれかの商業的販売業者から供給され得る。適切なPEG部分には、例えば、40kDa メトキシ ポリ(エチレングリコール)プロピオンアルデヒド;60kDa メトキシ ポリ(エチレングリコール)プロピオンアルデヒド;31kDa アルファ−メチル−w−(3−オキソプロポキシ)、ポリオキシエチレン;30kDa PEG:30kDa メトキシ ポリ(エチレングリコール)プロピオンアルデヒドおよび45kDa 2,3−ビス(メチルポリオキシエチレン−オキシ)−1−[(3−オキソプロピル)ポリオキシエチレン−オキシ]−プロパンが含まれる。PEG基は一般に、関心のあるタンパク質またはポリペプチド上の反応性基(例えば、アルデヒド、アミノまたはエステル基)への、PEG部分上の反応性基(例えば、アルデヒド、アミノ、チオールまたはエステル基)を介したアシル化または還元的アミノ化により、該エリスロポエチンに結合される。例えば、PEG部分は、エリスロポエチンのN末端アミノ酸残基に、直接的に、またはリンカーを介して連結され得る。
合成ペプチドのPEG化のための有用な方法は、溶液中でのコンジュゲート連結の形成を介して、ペプチドとPEG部分(それぞれは、お互いに対して反応性である特別な官能性を含有する)とを合体させることからなる。該ペプチドは、通常の固相合成により容易に製造され得る(例えば、実施例4を参照されたい)。該ペプチドは、特定の部位の適切な官能基で「前活性化」される。該前駆体を精製し、十分に特徴づけした後、PEG部分と反応させる。該ペプチドとPEGとの連結は通常、水相中で行われ、逆相分析用HPLCにより容易にモニターされ得る。該PEG化ペプチドは分取HPLCにより容易に精製され、分析用HPLC、アミノ酸分析およびレーザー脱着質量分析により特徴づけられ得る。
以下の実施例は本発明の更なる理解を促すことを意図したものである。
遺伝的に操作されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)株YGLY3159は、シアル酸化N−グリカンを有する組換えヒトエリスロポエチン(rhEPO)を産生する株である。該株の構築は米国公開出願第20080139470号に記載されており、図1に図示されている。簡潔に説明すると、該株は、以下のとおりに構築した。
株YGLY3159は、既に記載されている方法(例えば、米国特許第7,449,308号、米国特許第7,479,389号、米国公開出願第20090124000号、公開PCT出願番号WO2009085135、NettおよびGerngross,Yeast 20:1279(2003)、Choiら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:5022(2003)、Hamiltonら,Science 301:1244(2003)を参照されたい)を用いて野生型ピチア・パストリス(Pichia pastoris)株NRRL−Y 11430から構築した。全てのプラスミドは、標準的な分子生物学的方法を用いて、pUC19プラスミドにおいて作製した。ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関して最適化されたヌクレオチド配列に関しては、天然ヌクレオチド配列をGENEOPTIMIZERソフトウェア(GeneArt,Regensburg,Germany)により解析し、その結果を用いて、ピチア・パストリス(P.pastoris)発現に関してコドンが最適化されたヌクレオチド配列を得た。酵母株をエレクトロポレーション(エレクトロポレーターBio Radの製造業者により推奨されている標準的な技術を用いるもの)により形質転換した。
プラスミドpGLY6(図2)は、URA5遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)インベルターゼ遺伝子または転写単位(ScSUC2;配列番号1)を含む核酸分子を含有し、該核酸分子は、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号59)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号60)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY6を線状化し、該線状化プラスミドを野生型株NRRL−Y 11430内に形質転換して、ScSUC2遺伝子がURA5遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY1−3を選択した。これはウラシルに対して栄養要求性である。
プラスミドpGLY40(図3)は、OCH1遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位(配列番号61)を含む核酸分子を含有しており、該核酸分子は、lacZ反復を含む核酸分子(配列番号62)に隣接しており、そしてこれは、一方の側では、OCH1遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号64)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、OCH1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号65)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY40をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY1−3内に形質転換して、lacZ反復に隣接したURA5遺伝子がOCH1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY2−3を選択した。これはURA5に対して栄養要求性である。株YGLY2−3を5−フルオロオロト酸(5−FOA)の存在下で対抗選択して、URA5遺伝子が喪失しlacZ反復だけがOCH1遺伝子座内に残存した幾つかの株を得た。これは、該株をウラシルに対して栄養要求性にする。株YGLY4−3を選択した。
プラスミドpGLY43a(図4)は、BMT2遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、ケイ・ラクティス(K.lactis)UDP−N−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)輸送体遺伝子または転写単位(KlMNN2−2、配列番号3)を含む核酸分子を含有しており、該核酸分子は、lacZ反復を含む核酸分子に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子に隣接している。該隣接遺伝子は、一方の側では、BMT2遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号66)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、BMT2遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号67)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY43aをSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY4−3内に形質転換して、lacZ反復に隣接したKlMNN2−2遺伝子およびURA遺伝子がBMT2遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。BMT2遺伝子はMilleら,J.Biol.Chem.283:9724−9736(2008)および米国特許第7,465,557号に開示されている。得られた株から株YGLY6−3を選択した。これはウラシルに対して原栄養性である。株YGLY6−3を5−FOAの存在下で対抗選択して、URA5遺伝子が喪失しlacZ反復だけが残存した株を得た。これは、該株をウラシルに対して栄養要求性にする。株YGLY8−3を選択した。
プラスミドpGLY48(図5)は、MNN4L1遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、UDP−GlcNAc輸送体オープンリーディングフレーム(ORF)のマウスホモログをコードする核酸分子(配列番号17)を含む発現カセットを含有しており、該マウスホモログコード化核酸分子は、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GAPDHプロモーターを含む核酸分子(配列番号53)に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC終結配列を含む核酸分子(配列番号56)に機能的に連結されており、さらに前記マウスホモログコード化核酸分子は、lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子を含む核酸分子に隣接しており、ここで、これらの発現カセットは全体として、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)MNN4L1遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号76)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、MNN4L1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号77)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY48をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY8−3内に形質転換して、マウスUDP−GlcNAc輸送体およびURA5遺伝子をコードする発現カセットがMNN4L1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。MNN4L1遺伝子(MNN4Bとも称される)は米国特許第7,259,007号に開示されている。得られた株から株YGLY10−3を選択し、ついで5−FOAの存在下で対抗選択して、URA5遺伝子が喪失しlacZ反復だけが残存した幾つかの株を得た。株YGLY12−3を選択した。
プラスミドpGLY45(図6)は、PNO1/MNN4遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子を含有し、これは、lacZ反復を含む核酸分子に隣接しており、そしてこの核酸分子は、一方の側では、PNO1遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号74)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、MNN4遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号75)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY45をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY12−3内に形質転換して、lacZ反復に隣接したURA5遺伝子がMNN4遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。PNO1遺伝子は米国特許第7,198,921号に開示されており、MNN4遺伝子(MNN4Bとも称される)は米国特許第7,259,007号に開示されている。得られた株から株YGLY14−3を選択し、ついで5−FOAの存在下で対抗選択して、URA5遺伝子が喪失しlacZ反復だけが残存した幾つかの株を得た。株YGLY16−3を選択した。
プラスミドpGLY247(図7)は、MET16遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子を含有し、これは、lacZ反復を含む核酸分子に隣接しており、そしてこの核酸分子は、一方の側では、MET16遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号84)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、MET16遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号85)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY247SfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY16−3内に形質転換して、lacZ反復に隣接したURA5がMET16遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。株YGLY20−3を選択した。
プラスミドpGLY248(図8)は、URA5遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、ピチア・パストリス(P.pastoris)MET16遺伝子または転写単位(配列番号86)を含む核酸分子を含有し、これは、一方の側では、URA5遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号59)を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、URA5遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号60)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY248を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY20−3内に形質転換して、URA5遺伝子座内に挿入されたScSUC2遺伝子がMET16遺伝子で二重交差相同組換えにより置換された幾つかの株を得た。株YGLY22−3を選択し、ついで5−FOAの存在下で対抗選択して、MET16遺伝子座内に挿入されたURA5遺伝子が喪失しlacZ反復だけが残存した幾つかの株を得た。株YGLY24−3を選択した。
プラスミドpGLY582(図9)は、HIS1遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、(1)サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)UDP−グルコースエピメラーゼ(ScGAL10)、(2)サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)KRE2−sリーダーペプチド(33)にN末端において融合したヒトガラクトシルトランスフェラーゼI(hGalT)触媒ドメイン、(3)lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位、(4)キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)UDP−ガラクトース輸送体(DmUGT)をコードする4つの発現カセットを縦列配置で含有する。ScGAL10をコードする発現カセットは、ScGAL10 ORFをコードする核酸分子(配列番号21)を含み、該ORFは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1プロモーターを含む核酸分子(配列番号45)に機能的に連結されており、3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1転写終結配列を含む核酸分子(配列番号46)に機能的に連結されている。キメラガラクトシルトランスフェラーゼIをコードする発現カセットは、KRE2−sリーダー33をコードする核酸分子(配列番号13)に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたhGalT触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号23)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GAPDHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。該URA5発現カセットは、lacZ反復を含む核酸分子に隣接したピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子を含む。DmUGTをコードする発現カセットは、DmUGT ORFをコードする核酸分子(配列番号19)を含み、該ORFは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)OCH1プロモーターを含む核酸分子(配列番号47)に機能的に連結されており、3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)ALG12転写終結配列を含む核酸分子(配列番号48)に機能的に連結されている。それらの4つの縦列カセットは、一方の側では、HIS1遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号87)を含む核酸分子に、そして他方の側では、HIS1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号88)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY582を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY24−3内に形質転換して、それらの4つの縦列発現カセットがHIS1遺伝子内に相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。株YGLY58を選択した。これはヒスチジンに対して栄養要求性であり、ウリジンに対して原栄養性である。
プラスミドpGLY167b(図10)は、ARG1遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、(1)キメラ酵素をERまたはゴルジに標的化するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)MNN2リーダーペプチド(53)にN末端において融合したキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)マンノシダーゼII触媒ドメイン(KD)(コドン最適化されたもの)、(2)ピチア・パストリス(P.pastoris)HIS1遺伝子または転写単位、および(3)キメラ酵素をERまたはゴルジに標的化するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)MNN2リーダーペプチド(54)にN末端において融合したラットN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼII触媒ドメイン(TC)をコードする3つの発現カセットを縦列配置で含有する。KD53をコードする発現カセットは、MNN2リーダー53をコードする核酸分子(配列番号5)に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)マンノシダーゼII触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号33)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GAPDHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。該HIS1発現カセットは、ピチア・パストリス(P.pastoris)HIS1遺伝子または転写単位(配列番号89)を含む核酸分子を含む。TC54をコードする発現カセットは、MNN2リーダー54をコードする核酸分子(配列番号7)に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたラットGlcNAcトランスフェラーゼII触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号31)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1プロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。それらの3つの縦列カセットは、一方の側では、ARG1遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号79)を含む核酸分子に、そして他方の側では、ARG1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号80)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY167bをSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY58内に形質転換して、それらの3つの縦列発現カセットがARG1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY73を選択した。これはアルギニンに対して栄養要求性であり、ウリジンおよびヒスチジンに対して原栄養性である。ついで該株を5−FOAの存在下で対抗選択して、ウリジンに対して今や栄養要求性である幾つかの株を得た。株YGLY1272を選択した。
プラスミドpGLY1430(図11)は、ADE1遺伝子座の発現を損なうことなくADE1遺伝子座を標的化するKINKO組込みベクターであり、(1)キメラ酵素をERまたはゴルジに標的化するピチア・パストリス(P.pastoris)SEC12リーダーペプチド(10)にN末端において融合したヒトGlcNAcトランスフェラーゼI触媒ドメイン(NA)、(2)UDP−GlcNAc輸送体のマウスホモログ(MmTr)、(3)キメラ酵素をERまたはゴルジに標的化するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)SEC12リーダーペプチド(8)にN末端において融合したマウスマンノシダーゼIA触媒ドメイン(FB)、および(4)ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位をコードする4つの発現カセットを縦列配置で含有する。KINKO(Knock−In with little or No Knock−Out)組込みベクターは、標的化遺伝子座内への異種DNAの挿入を、該標的化遺伝子座における遺伝子の発現を損なうことなく可能にし、米国公開出願第20090124000号に記載されている。NA10をコードする発現カセットは、SEC12リーダー10をコードする核酸分子(配列番号11)に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたヒトGlcNAcトランスフェラーゼI触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号25)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1プロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。MmTrをコードする発現カセットは、UDP−GlcNAc輸送体ORFのマウスホモログをコードする核酸分子を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)SEC4プロモーターを含む核酸分子(配列番号49)に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)OCH1終結配列を含む核酸分子(配列番号50)に機能的に連結されている。FB8をコードする発現カセットは、SEC12−mリーダー8をコードする核酸分子(配列番号15)に5’末端において融合している、マウスマンノシダーゼIA触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号27)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GADPHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。該URA5発現カセットは、lacZ反復を含む核酸分子に隣接したピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子を含む。それらの4つの縦列カセットは、一方の側では、ADE1遺伝子の5’領域および完全ORFからのヌクレオチド配列(配列番号82)ならびにそれに続くピチア・パストリス(P.pastoris)ALG3終結配列(配列番号54)を含む核酸分子に、そして他方の側では、ADE1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号83)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY1430をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY1272内に形質転換して、それらの4つの縦列発現カセットがADE1 ORFの直後のADE1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY1305を選択した。これはアルギニンに対して栄養要求性であり、今やウリジン、ヒスチジンおよびアデニンに対して原栄養性である。ついで該株を5−FOAの存在下で対抗選択して、ウリジンに対して今や栄養要求性である幾つかの株を得た。株YGLY1461を選択した。これは、主としてガラクトースを末端とするN−グリカンを有する糖タンパク質を産生し得る。
プラスミドpGFI165(図12)は、PRO1遺伝子座の発現を損なうことなくPRO1遺伝子座を標的化するKINKO組込みベクターであり、(1)キメラタンパク質を分泌経路および該細胞からの分泌に導くためのサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドにN末端において融合したティー・レーセイ(T.reesei)α−1,2−マンノシダーゼ触媒ドメイン(aMATTrMan)、および(2)ピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位をコードする発現カセットを含有する。aMATTrManをコードする発現カセットは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドをコードする核酸分子(配列番号9)に5’末端において融合している、ティー・レーセイ(T.reesei)触媒ドメインをコードする核酸分子(配列番号29)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GAPDHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。該URA5発現カセットは、lacZ反復を含む核酸分子に隣接したピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子または転写単位を含む核酸分子を含む。それらの2つの縦列カセットは、一方の側では、PRO1遺伝子の5’領域および完全ORFからのヌクレオチド配列(配列番号90)ならびにそれに続くピチア・パストリス(P.pastoris)ALG3終結配列を含む核酸分子に、そして他方の側では、PRO1遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号91)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGFI165をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY1461内に形質転換して、それらの2つの発現カセットがPRO1 ORFの直後のPRO1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY1703を選択した。これはアルギニンに対して栄養要求性であり、ウリジン、ヒスチジン、アデニンおよびプロリンに対して原栄養性である。この株は、O−グリコシル化が減少した糖タンパク質を産生し得る(公開米国出願第20090170159号)。
プラスミドpGLY2088(図13)は、TRP2またはAOX1遺伝子座を標的化する組込みベクターであり、(1)キメラタンパク質を分泌経路および該細胞からの分泌に導くためのサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチド(アルファMF−プレ)にN末端において融合している成熟ヒトエリスロポエチン(EPO)、ならびに(2)ゼオシン耐性タンパク質(Sh bleまたはZeocinR)をコードする発現カセットを含有する。EPOをコードする発現カセットは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドをコードする核酸分子に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化された成熟ヒトEPOをコードする核酸分子(配列番号92)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)AOX1プロモーターを含む核酸分子(配列番号55)に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。ZeocinR発現カセットは、Sh ble ORFをコードする核酸分子(配列番号58)を含み、これは、5’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)TEF1プロモーター(配列番号57)に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC終結配列に機能的に連結されている。それらの2つの縦列カセットは、一方の側では、TRP2遺伝子を含むヌクレオチド配列(配列番号78)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY2088をPmeI部位で線状化し、株YGLY1703内に形質転換して、それらの2つの発現カセットがAOX1遺伝子座内にロールイン(roll in)単一交差相同組換え(これは、AOX1遺伝子座を損なうことなくAOX1遺伝子座内に挿入されたEPO発現カセットの複数のコピーを与える)により挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY2849を選択した。これはアルギニンに対して栄養要求性であり、ウリジン、ヒスチジン、アデニンおよびプロリンに対して今や原栄養性である。該株から単離されたDNAの配列決定データの強度の測定による判定で、該株は該EPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。ERおよびゴルジにおける該キメラEPOのプロセシング中、該リーダーペプチドは除去される。したがって、産生されるrhEPOはEPOの成熟形態である。
プラスミドpGLY2456(図14)は、TRP2遺伝子座の発現を損なうことなくTRP2遺伝子座を標的化するKINKO組込みベクターであり、(1)マウスCMP−シアル酸輸送体(mCMP−Sia Transp)、(2)ヒトUDP−GlcNAc 2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミンキナーゼ(hGNE)、(3)ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ARG1遺伝子または転写単位、(4)ヒトCMP−シアル酸シンターゼ(hCMP−NANA)、(5)ヒトN−アセチルノイラミナート−9−ホスファートシンターゼ(hSIAP S)、および(6)キメラ酵素をERまたはゴルジに標的化するサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)KRE2リーダーペプチド(33)にN末端において融合したマウスa−2,6−シアリルトランスフェラーゼ触媒ドメイン(mST6)をコードする6つの発現カセット、およびピチア・パストリス(P.pastoris)ARG1遺伝子または転写単位を含有する。マウスCMP−シアル酸輸送体をコードする発現カセットは、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたmCMP Sia Transp ORFをコードする核酸分子(配列番号35)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1プロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。ヒトUDP−GlcNAc2−エピメラーゼ/N−アセチルマンノサミンキナーゼをコードする発現カセットは、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたhGNE ORFをコードする核酸分子(配列番号37)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GAPDHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。ピチア・パストリス(P.pastoris)ARG1遺伝子をコードする発現カセットは(配列番号81)を含む。ヒトCMP−シアル酸シンターゼをコードする発現カセットは、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたhCMP−NANA S ORFをコードする核酸分子(配列番号39)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)GPDAHプロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。ヒトN−アセチルノイラミナート−9−ホスファートシンターゼをコードする発現カセットは、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたhSIAP S ORFをコードする核酸分子(配列番号41)を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1プロモーターを含む核酸分子に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)PMA1転写終結配列を含む核酸分子に機能的に連結されている。キメラマウスa−2,6−シアリルトランスフェラーゼをコードする発現カセットは、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)KRE2シグナルペプチドをコードする核酸分子に5’末端において融合している、ピチア・パストリス(P.pastoris)における発現に関してコドン最適化されたmST6触媒ドメインをコードする核酸分子を含み、これは、5’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)TEF1プロモーターを含む核酸分子(配列番号51)に、そして3’末端においては、ピチア・パストリス(P.pastoris)TEF転写終結配列を含む核酸分子(配列番号52)に機能的に連結されている。それらの6つの縦列カセットは、一方の側では、終止コドンで終わるTrp2pをコードするORFの5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号98)およびそれに続くピチア・パストリス(P.pastoris)ALG3終結配列を含む核酸分子に隣接しており、他方の側では、TRP2遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号99)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY2456をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY2849内に形質転換して、それらの6つの発現カセットがTRP2 ORFの直後のTRP2遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY3159を選択した。これは今やウリジン、ヒスチジン、アデニン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)に対して耐性であり、該EPO発現カセットの約3〜約4コピーを含有する。該株はrhEPOを産生したが、実施例5の方法を用いた場合、該rhEPOは、HCAに対して産生された抗体への交差結合反応性を有する(実施例6を参照されたい)。
本明細書中の実施例においては、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)ゲノムの特定の遺伝子座内に種々の発現カセットを組込んだが、本発明の実施は、組込みに用いた遺伝子座には無関係であると理解される。本明細書に開示されている遺伝子座以外の遺伝子座が該発現カセットの組込みに用いられ得る。適切な組込み部位には、米国公開出願第20070072262号に列挙されているものが含まれ、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)および他の酵母または真菌に関して公知の遺伝子座のホモログが含まれる。
実施例1における株YGLY3159を、以下のとおりにBMT1、BMT3およびBMT4遺伝子を破壊するために更に遺伝的に操作した。
株YGLY3159を5−FOAの存在下で対抗選択して、株YGLY3225を得た。これは今やウリジンに対して栄養要求性である。
プラスミドpGLY3411(pSH1092)(図15)は、lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子を含む発現カセットを含有する組込みベクターであり、該lacZ反復は、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT4遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号72)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT4遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号73)に隣接している。プラスミドpGLY3411を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY3159内に形質転換して、該URA5発現カセットがBMT4遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY4439を選択した。これはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)に対して耐性であり、該rhEPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。該株はBMT2およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有する。
プラスミドpGLY3430(pSH1115)(図16)は、アシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1プロモーター(配列番号102)およびアシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1終結配列(配列番号105)に機能的に連結されたノウルセオスリシン(Nourseothricin)耐性(NATR)ORF(配列番号102)[元々はpAG25(EROSCARF,Scientific Research and Development GmbH,Daimlerstrasse 13a,D−1352 Bad Homburg,Germany)由来;Goldsteinら,Yeast 15:1541(1999)を参照されたい]をコードする核酸分子を含む発現カセットを含有する組込みベクターであり、該発現カセットは、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT1遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号68)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT1遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号69)に隣接している。プラスミドpGLY3430を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY4439内に形質転換して、該NATR発現カセットがBMT1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY6661を選択した。これはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)およびノウルセオスリシン(Nourseothricin)に対して耐性であり、該EPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。該株はBMT1、BMT2およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有する。株YGLY7013をも選択した。しかし、この株は、BMT1遺伝子の部分的破壊を有していたに過ぎなかった。この株はBMT1、BMT2およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有することが示された。
プラスミドpGLY4472(pSH1186)(図17)は、アシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1プロモーター(配列番号105)およびアシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1終結配列(配列番号106)に機能的に連結された大腸菌(E.coli)ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(HygR)ORF(配列番号103)をコードする核酸分子を含む発現カセットを含有し、該発現カセットは、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT3遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号70)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT3遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号71)に隣接している。プラスミドpGLY3430を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY6661内に形質転換して、該HygR発現カセットがBMT3遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY7361〜YGLY7366および株YGLY7393〜YGLY7398を選択した。これらはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)、ノウルセオスリシン(Nourseothricin)およびヒグロマイシンに対して耐性であり、該EPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。該株はBMT1、BMT2、BMT3およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有し、宿主細胞抗原(HCA)に対して産生された抗体への交差結合反応性を欠くrhEPOを産生する。
実施例1における株YGLY3159を、BMT1、BMT3およびBMT4遺伝子が破壊または欠失された株を産生するように、ならびにニワトリリゾチームリーダーペプチドに融合した成熟ヒトEPOをコードする発現カセットの幾つかのコピーを含むように更に遺伝的に操作した。簡潔に、YGLY3159からのこれらの株の構築を図1に示し、以下に簡潔に説明する。
株YGLY3159を5−FOAの存在下で対抗選択して、株YGLY3225を得た。これは今やウリジンに対して栄養要求性である。
プラスミドpGLY2057(図18)は、ADE2遺伝子座を標的化する組込みプラスミドであり、lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子をコードする発現カセットを含有する。該発現カセットは、一方の側では、ADE2遺伝子の5’領域からのヌクレオチド配列(配列番号100)を含む核酸分子に、他方の側では、ADE2遺伝子の3’領域からのヌクレオチド配列(配列番号101)を含む核酸分子に隣接している。プラスミドpGLY2057をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY3225内に形質転換して、該URA5カセットがADE2遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY3229を選択した。これはアデニンに対して栄養要求性であり、ウリジン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)に対して耐性であり、該EPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。
プラスミドpGLY2680(図19)は、TRP2またはAOX1遺伝子座を標的化し得る組込みベクターであり、(1)キメラタンパク質を分泌経路および細胞からの分泌に導くニワトリリゾチームシグナルペプチドにN末端において融合したキメラEPO、および(2)プロモーターを伴わないピチア・パストリス(P.pastoris)ADE2遺伝子をコードする発現カセットを含有する。該ADE2遺伝子は潜在性プロモーターから十分には転写されない。したがって、アデニンで補足されていない培地における該ベクターで形質転換されたade2Δ酵母株の選択は、該組換え体がアデニンに対して原栄養性となるためには、該ベクターの複数のコピーがゲノム内に組み込まれることを要する。該ベクターは該EPO発現カセットを更に含むため、該組換え酵母は、ゲノム内に組み込まれた該EPOカセットの複数のコピーをも含むであろう。このベクターおよび方法は公開PCT出願WO2009085135に記載されている。ニワトリリゾチームシグナルペプチドをコードするDNA配列は配列番号94に示されており、成熟ヒトEPOをコードするコドン最適化ORFは配列番号92に示されており、対応プロモーターを伴わないが対応終結配列を含む(P.pastoris)ADE2遺伝子は配列番号96に示されている。該キメラEPOはAOX1プロモーターおよびサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)CYC終結配列に機能的に連結される。それらの2つの縦列カセットは、一方の側では、TRP2遺伝子を含むヌクレオチド配列を含む核酸分子に隣接している。
プラスミドpGLY2680をPmeI部位で線状化し、株YGLY3229内に形質転換して、それらの2つの発現カセットがAOX1遺伝子座内にロールイン(roll in)単一交差相同組換え(これは、AOX1遺伝子座を損なうことなくAOX1遺伝子座内に挿入されたEPO発現カセットの複数のコピーを与える)により挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY4209を選択した。該遺伝子座内に挿入された該株から単離されたDNAの配列決定データの強度の測定による判定で、該株は該EPO発現カセットの約3〜4コピーを含有する。該株はアデニン、ウリジン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株は合計約8〜11コピーのEPO発現カセットを含有する。ERおよびゴルジにおける該キメラEPOのプロセシング中、該リーダーペプチドは除去される。したがって、産生されるrhEPOはEPOの成熟形態である。
株YGLY4209を5‘−FOAの存在下で対抗選択して、ウラシルに対して栄養要求性である幾つかの株を得た。得られた形質転換体から、株YGLY4244を選択した。
ピチア・パストリス(P.pastoris)PEP4遺伝子(配列番号104)を標的化するプラスミドpGLY2713(図20)は、lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子を含む発現カセットに隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)PNO1 ORFを含有する組込みベクターであり、該ORFおよび該発現カセットの全体は、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)PEP4遺伝子の5’ヌクレオチド配列に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)PEP4遺伝子の3’ヌクレオチド配列に隣接している。プラスミドpGLY2713をSfiIで線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY4244内に形質転換して、該PNO1 ORFおよびURA5発現カセットがPEP4遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY5053を選択し、5−FOAの存在下で対抗選択して、URA5がゲノムから喪失している幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY5597を選択した。これはアデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)に対して耐性であり、該rhEPO発現カセットの約8〜11コピーを含有する。
プラスミドpGLY3411(pSH1092)(図15)は、lacZ反復に隣接しているピチア・パストリス(P.pastoris)URA5遺伝子を含む発現カセットを含有する組込みベクターであり、該lacZ反復は、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT4遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号72)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT4遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号73)に隣接している。プラスミドpGLY3411を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY5597内に形質転換して、該URA5発現カセットがBMT4遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY5618を選択した。これはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)およびノウルセオスリシン(Nourseothricin)に対して耐性であり、該rhEPO発現カセットの約8〜11コピーを含有する。該株はBMT2およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有する。
プラスミドpGLY3430(pSH1115)(図16)は、アシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1プロモーターおよびアシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1終結配列に機能的に連結されたノウルセオスリシン(Nourseothricin)耐性(NATR)ORF(配列番号102)[元々はpAG25(EROSCARF,Scientific Research and Development GmbH,Daimlerstrasse 13a,D−1352 Bad Homburg,Germany)由来;Goldsteinら,Yeast 15:1541(1999)を参照されたい]をコードする核酸分子を含む発現カセットを含有する組込みベクターであり、該発現カセットは、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT1遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号68)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT1遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号69)に隣接している。プラスミドpGLY3430を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY5618内に形質転換して、該NATR発現カセットがBMT1遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY7110を選択した。これはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)およびノウルセオスリシン(Nourseothricin)に対して耐性であり、該rhEPO発現カセットの約8〜11コピーを含有する。該株はBMT1、BMT2およびBMT4遺伝子の破壊を有する。
プラスミドpGLY4472(pSH1186)(図17)は、アシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1プロモーターおよびアシビア・ゴシピィ(Ashbya gossypii)TEF1終結配列に機能的に連結された大腸菌(E.coli)ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(HygR)ORF(配列番号103)をコードする核酸分子を含む発現カセットを含有し、該発現カセットは、一方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT3遺伝子の5’ヌクレオチド配列(配列番号70)に、他方の側では、ピチア・パストリス(P.pastoris)BMT3遺伝子の3’ヌクレオチド配列(配列番号71)に隣接している。プラスミドpGLY3430を線状化し、該線状化プラスミドを株YGLY7110内に形質転換して、該HygR発現カセットがBMT3遺伝子座内に二重交差相同組換えにより挿入された幾つかの株を得た。得られた株から株YGLY7113〜YGLY7122を選択した。これらはウラシル、アデニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニンおよびトリプトファンに対して原栄養性である。該株はZeocin(ゼオシン)、ノウルセオスリシン(Nourseothricin)およびヒグロマイシンに対して耐性であり、該EPO発現カセットの約8〜11コピーを含有する。該株はBMT1、BMT2、BMT3およびBMT4遺伝子の破壊または欠失を有し、HCAに対して産生された抗体への検出可能な交差結合反応性を欠くrhEPOを産生する。
実施例1〜3における株の幾つかを、以下に示されているとおり及び図21に図示されているとおりに、rhEPOを製造するために使用した。簡潔に説明すると、製造は、培地を含有する振とうフラスコに実施用細胞バンクからの細胞を接種することから開始し、一連の接種、インキュベーション、および次第に増加するサイズの容器内への成長培養の転移を行い、製造用バイオリアクターへの接種に十分な生物量が入手可能となるまでこれを行う。グリセロールがバッチ段階中の主要炭素源であり、ついで、グリセロールおよび塩の供給により培養成長を維持する。該グリセロールが消失したら、メタノール供給に切り替えることにより、rhEPOタンパク質を発現させるために細胞を誘導する。誘導時にインヒビターを、O−グリコシル化を最小にするために(例えば、PMTi 3,5−[[3−(1−フェニルエトキシ)−4−(2−フェニルエトキシ)]フェニル]メチレン)−4−オキソ−2−チオキソ−3−チアゾリジン酢酸,(公開PCT出願番号WO 2007061631を参照されたい))、およびタンパク質分解を最小にするために加える。タンパク質分解を最小にするために該段階の終了時にタンパク質分解のインヒビターを加える。該培養を約4℃に冷却し、回収した。
一般には以下の方法を用いて、500mL SixForsおよび3L 発酵槽において該株の実験室規模の培養を行った。Bioreactor Screenings(SIXFORS)を0.5Lの容器(Sixforsマルチ・ファーメンテーション・システム(multi−fermentation system),ATR Biotech,Laurel,MD)内で以下の条件下で行う:pH 6.5、24℃、0.3 SLPM、および350mL(330mLのBMGY培地および20mLの接種物)の初期実施体積での550rpmの初期攪拌速度。接種の1時間後、攪拌速度を550rpmから1200rpmへ10時間かけて直線的に増加させるために、IRISマルチ・ファーメンター(multi−fermenter)ソフトウェア(ATR Biotech,Laurel.MD)を使用する。シード(種)培養(1Lのバッフル付きフラスコ内の200mLのBMGY)に寒天プレートから直接接種する。95〜100の光学密度(OD600)に達するまで、該シードフラスコを24℃で72時間インキュベートする。遠心分離により20mLに濃縮した200mLの定常期フラスコ培養を該発酵槽に接種する。初期仕込みグリセロール(18〜24時間)の発酵が完了したら、該バッチ段階は終了し、ついで第2バッチ段階を行う。これは、17mLのグリセロール供給溶液(50%[w/w]グリセロール,5mg/L ビオチン,12.5mL/L PMTi塩(65g/L FeSO4・H2O,20g/L ZnCl2,9g/L H2SO4,6g/L CuSO4・5H2O,5g/L H2SO4,3g/L MnSO4・7H2O,500mg/L CoCl2 6H2O,200mg/L NaMoO4・2H2O,200mg/L ビオチン,80mg/L NaI,20mg/L H3BO4)の添加により開始する。溶存酸素の急上昇により示される、第2バッチ段階の完了の後、メタノール供給溶液(100% MeOH,5mg/L ビオチン,12.5mL/L PMTi)を0.6g/時間で32〜40時間にわたって供給することにより、誘導段階を開始する。該培養を遠心分離により回収する。
3L(Applikon,Foster City,CA)および15L(Applikon,Foster City,CA)ガラスバイオリアクターならびに40L(Applikon,Foster City,CA)ステンレス鋼スチーム・イン・プレイス(steam in place)バイオリアクターにおいて、バイオリアクター培養(3L)を行う。凍結ストックバイアルを1%の体積比で直接的にBMGY培地に接種することにより、シード培養を調製する。移した直後に細胞が指数関数的に増殖することが保証されるように、20±5の光学密度(OD600)を得るためにシードフラスコを24℃で48時間インキュベートする。該培地は、1リットル当たり、40g グリセロール、18.2g ソルビトール、2.3g K2HPO4,11.9g KH2PO4,10g 酵母エキス(BD,Franklin Lakes,NJ),20g ペプトン(BD,Franklin Lakes,NJ),4×10−3g ビオチンおよび13.4g 酵母窒素ベース(BD,Franklin Lakes,NJ)を含有していた。該バイオリアクターに初期培地に対して10%の体積比のシードを接種する。以下の条件下、フェッドバッチ形態で培養を行う:24±0.5℃に設定された温度、NH4OHで6.5±0.1に制御されたpH、O2の添加の際の段階的(cascading)攪拌速度による1.7±0.1mg/Lに維持された溶存酸素。気流速度は0.7vvmに維持する。初期仕込みグリセロール(40g/L)が消失した後、250g/Lの湿潤細胞重量に達するまで、12.5mL/LのPTM1塩を含有する50% グリセロール溶液を、最大増殖速度の50%で、8時間にわたって指数関数的に供給する。0.01時間−1の比増殖速度を維持するためにメタノールを指数関数的に供給して、30分間の飢餓段階を行った後、誘導を開始する。150mM/L/時間の酸素取り込み速度に達したら、酸素限界を避けるために、該メタノール供給速度を一定に維持する。遠心分離により該培養を回収する。
遠心分離および精密濾過による清澄化の後、限外濾過により濾液を10倍濃縮し、ブルーダイ(blue dye)アフィニティーおよびヒドロキシアパタイトを使用する一連の2つのクロマトグラフィー工程によりrhEPOタンパク質を精製する。
一次清澄化を遠心分離により行う。全細胞ブロスを1000mL遠心ボトル内に移し、4℃、13,000×gで15分間遠心分離する。限外濾過工程は、より大きな発酵槽(10L〜40L以上)で行うことが可能である。この工程は、10Kの細孔径を有するサルトリアス(Sartorious)平面シートを使用して、5倍濃縮まで行うことが可能である。
捕捉工程は、Blue SEPHAROSE 6 Fast Flow(ブルー・セファロース6ファースト・フロー)(Pseudo−Affinity)クロマトグラフィーを使用して行う。Blue SEPHAROSE 6 fast Flow(FF)カラム(GE Healthcare)を50mM MOPS(pH7.0)で平衡化する。該培養上清を100mM NaClに調節し、全量(dead−end)フィルター(Whatman,Polycap TC)に通過させた後、該カラムにローディングする。滞留時間を3カラム体積(CV)の洗浄液で約10分間に維持した後、ローディングを行う。該溶出は、50mM MOPS(pH7.0)中の1M NaClの4CVでの段階溶出である。EPOは1M NaClで溶出する。
ヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーを使用して中間工程を行う。該捕捉工程後、マクロプレップ(Macro−prep)セラミックヒドロキシアパタイトI型40μm(Bio−Rad)を使用する。このカラムを平衡化溶液(1M NaClおよび10mM CaCl2を含有する50mM MOPS,pH7.0)で平衡化する。ブルー(blue)カラムからのプール化rhEPOに約10mM CaCl2を加えた後、ローディングを行う。3CVの平衡化溶液およびそれに続くMPOS(pH7.0)中の12,5mM Naホスファートでの10CVの段階溶出でカラムの洗浄を行って、該rhEPOを含有するHAプール1を得る。
該rhEPOを更に精製するために、カチオン交換クロマトグラフィー工程を用いることが可能である。ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー工程(例えば、HAプール1)後のプール化サンプルを50mM 酢酸Na(pH5.0)に対して4℃で一晩透析し、Source 30SカラムまたはPorosカチオン交換カラム(GE Healthcare)を同じバッファーで平衡化する。該透析サンプルを該カラムに適用し、0〜750mM NaClの10CVの直線勾配を適用する。rhEPOは350〜500mM NaClで溶出して該rhEPOを得る。
該精製rhEPO分子のN末端は40kDaの直鎖状ポリエチレングリコール(PEG)に還元的アミノ化によりコンジュゲート化され得る(PEG化)。該活性化PEGを50mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.2)中の該rhEPOサンプル(濃度約1mg/mL)に1:10のタンパク質:PEG比で加える。該反応は、反応混合物に10mM シアノボロヒドリドナトリウムを一晩の攪拌下で加えることにより、還元条件下、室温で行う。10mM Tris(pH6.0)を加えることにより、該反応を停止させる。
産生されたモノ−PEG化rhEPOを、カチオン交換クロマトグラフィー工程を用いて精製した後、最終製剤化バッファー(20mM リン酸ナトリウム,120mM 塩化ナトリウム,0.005% ポリソルベート(Polysorbate)20(w/v),pH7.0)中へのダイアフィルトレーションに付す。
最終産物を、充填に適した濃度に希釈し、薬物貯蔵容器内に滅菌濾過する。該PEG化rhEPOは充填まで2〜8℃で貯蔵可能であり、充填時に、それをガラスバイアル内に無菌的に充填し、ついでゴム栓およびアルミニウムキャップで密封する。
市販のタンパク質製剤が公知であり、使用可能である。具体例には以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない。ARANESP(登録商標):ポリソルベート溶液:各1mLは0.05mgのポリソルベート80を含有し、注射用水(USP)(1mLに調整)中、2.12mgの第一リン酸ナトリウム一水和物、0.66mgの第二リン酸ナトリウム無水物および8.18mgの塩化ナトリウムと共にpH6.2±0.2で製剤化されている。アルブミン溶液:各1mLは2.5mgのアルブミン(ヒト)を含有し、注射用水(USP)(1mLに調整)中、2.23mgの第一リン酸ナトリウム一水和物、0.53mgの第二リン酸ナトリウム無水物および8.18mgの塩化ナトリウムと共にpH6.0±0.3で製剤化されている。EPOGEN(登録商標)は、等張塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム緩衝溶液または塩化ナトリウム/リン酸ナトリウム緩衝溶液中の無菌無色液として静脈内(IV)または皮下(SC)投与用に製剤化されている。1回量(単一用量)保存剤非含有バイアル:溶液の各1mLは、注射用水(USP)(pH6.9±0.3)中、2000、3000、4000または10,000単位のエポエチン(Epoetin)アルファ、2.5mgのアルブミン(ヒト)、5.8mgのクエン酸ナトリウム、5.8mgの塩化ナトリウムおよび0.06mgのクエン酸を含有する。この製剤は保存剤を含有しない。保存処理バイアルは1%ベンジルアルコールを含有する。
宿主細胞抗原(HCA)の存在または非存在を分析するために用いられる方法には、ウエスタンブロット分析およびサンドイッチ酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)が含まれる。
NORF株培養からの上清を使用して、ウサギにおいて宿主細胞抗原(HCA)抗体を調製した。該NORF株は、ヒト成熟EPOをコードするORFをそれが欠くこと以外はYGLY3159と遺伝的に同一である。完全フロイントアジュバントにおいて調製されたNORF株発酵上清をウサギに注射し、ついで、不完全フロイントアジュバントにおいて調製された発酵上清を、該ウサギに3回、追加免疫注射した。45日後、該ウサギから採血し、標準的な方法を用いてHCAに対するポリクローナル抗体を調製した(例えば、SLrプロテインA精製されたウサギポリクローナルIgG 9161 F072208−S、およびGiF2ポリクローナルウサギ::6316全ウサギ血清)。該GIF2抗体はプロテインA精製されなかった。
ピチア・パストリス(P.pastoris)HCAを検出するためのウエスタンブロットは以下のとおりに行った。精製されたPEG化または非PEG化rhEPO含有サンプルをサンプルローディングバッファー中で還元し、ついでそのうちの1μLを4〜20% ポリアクリルアミドSDS Tris−HCl(4〜20% SDS−PAGE)ゲル(Bio Rad)のウェルに適用し、約60分間、150Vのエレクトロポレーションに付した。分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に100Vで約60分間にわたってエレクトロトランスファーした。トランスファー後、該膜を1% ブロッキング溶液(Roche Diagnostics)で1時間ブロッキングした。ブロッキング後、1:3000希釈されたウサギ抗HCAポリクローナル抗体(一次抗体)で該膜をプローブした。ついで該膜を洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲート化された二次抗体であるヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Pierce #31460,Lot #H51015156)(1:5000希釈物)を使用して、該ウサギ抗HCA抗体の検出を行った。該膜を洗浄した後、3,3’ジアミノベンジジン(DAB)を使用して結合二次抗体の検出を行った。EPOタンパク質を検出する場合には、一次抗体は、1:1000希釈で使用されるEPO(B−4)HRPコンジュゲート化抗体(SC5290 Lot# A0507,Santa Cruz Biotechnology)であった。二次抗体は使用しなかった。通常、PNGアーゼF処理で脱グリコシル化されたrhEPOサンプルと並べて、該EPOサンプルを電気泳動する。脱グリコシル化は、1μLのPNGアーゼF酵素(500単位/μL)が加えられた50μLのサンプルを使用して行った。37℃で2時間のインキュベーションの後、該サンプルをサンプルローディングバッファー中で還元し、1μLのアリコートを取り出し、前記と同様にしてSDSゲルに適用した。
ピチア・パストリス(P.pastoris)HCAを検出するためのサンドイッチELISAは以下のとおりに行った。96ウェルELISAプレートのウェルを1μg/ウェルのマウス抗hEPOモノクローナル抗体でコーティングした。ついで該ウェルをリン酸緩衝食塩水(PBS)で30分間ブロッキングした。約200ng/mLに濃縮された約100μLの精製非PEG化rhEPO含有サンプルを該ウェルに加えた。一次検出は、PBS中の1:800の出発希釈度のウサギ抗HCAポリクローナル抗体(ついで、これは、1:819,200希釈度の第11ウェルで終わる行にわたってPBS中で1:1系列希釈された)を用いるものであった。第12ウェルは陰性対照として用いた。ELISAのための標準物は、YGLY3159から精製されたrhEPOであった。60分後、該ウェルをPBSで3回洗浄した。該ウサギ抗HCA抗体の検出は、アルカリホスファターゼ(AP)にコンジュゲート化されたヤギ抗ウサギ抗体(PBS中の1:10,000希釈物)を使用した。60分後、該ウェルをPBSで3回洗浄した。結合二次抗体の検出は4−メチルウンンベリフェリルホスファート(4−MUPS)を使用した。該ELISAプレートは、340nmの励起波長および465nmの放射波長でTecan Genios Multidetection Microplate Readerを使用して読み取った。
この実施例は、YGLY3159が、抗HCA抗体に対する交差結合活性(CBA)を有するrhEPOを産生すること、およびβ−1,2−マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子BMT2が欠失または破壊された株において該rhEPOが産生された場合であっても、該交差結合活性が該rhEPO上のN−グリカンの少なくとも一部におけるβ−1,2−マンノース残基(α−1,2−マンノシダーゼ耐性)の存在によるものであったことを示す。
糖操作ピチア・パストリス(P.pastoris)産生株YGLY3159の発酵上清から、3工程のクロマトグラフィー分離により、rhEPOを回収した。それはSDS−PAGE、RP−HPLCおよびSEC−HPLCによる測定で約95%のタンパク質純度を示した。モノPEG化rhEPOは、カチオン交換クロマトグラフィー工程により、その超および非PEG化コンジュゲートから、SDS−PAGEゲルによる測定で約96%の純度で分離された。しかし、YGLY3159株のHCAに対する抗体は、ウエスタンブロット上でrhEPOと同時移動した該株から産生されたrhEPO調製物における糖タンパク質を検出した。図22は、抗HCA抗体が、4〜20% SDS−PAGEゲル上でrhEPOと同時移動するタンパク質を特定したことを示している。rhEPOからのシアル酸の除去は交差結合活性を阻止しなかったが、PNGアーゼFを使用するrhEPOからの全N−グリカンの除去は、抗HCA抗体でプローブされるウエスタンブロットにおいて検出可能でないrhEPOの脱グリコシル化形態を産生した。これを図23に示す。この図は、rHEPOの脱グリコシル化形態だけが該抗HCA抗体に対する交差結合活性を欠いていたことを示している。
該交差結合活性がrhEPO特異的であったのか、あるいは他の組換えピチア・パストリス(P.pastoris)株からの精製糖タンパク質調製物において特定可能であったのかどうかを判定するために、他の株において産生された糖タンパク質を単離し、4〜20% SDS−PAGEゲルにより分離し、該ゲルをニトロセルロース膜にトランスファーした。組換えピチア・パストリス(P.pastoris)において産生された組換えヒト全抗体(rhIgG)の場合、野生型ピチア・パストリス(P.pastoris)において産生されたタンパク質調製物(NおよびOグリコシル化領域の両方から高マンノシル化されている)において、および主としてMan5GlcNAc2 N−グリカンを産生するがα−1,2−マンノシダーゼ耐性である検出可能なMan9GlcNAc2 N−グリカン(図24、矢印)をも含有していた組換えGS2.0株において、交差結合活性が検出された。しかし、野生型ピチア・パストリス(P.pastoris)からのrhIgG調製物は、rhIgGの場合より大きな見掛け分子量の交差結合活性を含有していた。このことは、該調製物が混入宿主細胞糖タンパク質を含有していたことを示唆している。該交差結合活性はPNGアーゼF消化により除去された(図24における丸印)。
YGLY3159において産生されたグリコシル化rhEPOは抗HCA抗体に対する交差結合活性を有していたが、ヒトフェツイン、ヒトアシアロフェツイン、ヒト血清アルブミン(HSA)およびLEUKINE[サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)において産生された組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rhuGM−CSF)]は抗HCA抗体に対する交差結合活性を有していなかったことを、図25は示している。フェツインは、肝臓において産生され血流中に分泌される高グリコシル化血液糖タンパク質である。それは、血流中の多種多様な積荷(cargo)物質の輸送および利用をもたらす結合タンパク質の大きなグループに属する。これらの担体タンパク質の最もよく知られている代表例は血清アルブミンであり、これは、成体動物の血漿中に最も豊富に存在するタンパク質である。フェツインは、胎児血液に、より豊富に存在し、したがって、「フェツイン(fetuin)」(ラテン語のfetusに由来する)と称される。ウシ胎児血清はアルブミンよりフェツインを豊富に含有するが、成体血清はフェツインよりアルブミンを豊富に含有する。アシアロフェツインは、N−およびO−グリカンからの末端シアル酸が穏和な加水分解またはノイラミニダーゼ処理により除去されたフェツインである。現在のところ、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)におけるβ−結合マンノースの報告は存在しない。HSAはグリコシル化タンパク質ではない。
実験室規模のデータは、ヒドロキシアパタイト(HA)I型40μm樹脂を使用するBlue SEPHAROSE 6 FF捕捉プールからのrhEPOの中間クロマトグラフィー工程精製が、高マンノース型N−グリカンを有していたrhEPO(HAプール2および3)から、ほぼ検出不可能な交差結合活性を有するrhEPO(HAプール1)を分離し得ることを示した。HAプール1は約90.40%の二シアル酸化N−グリカン(所望のN−グリカン形態)および3.5%未満の中性N−グリカンを含有していた。これとは対照的に、0〜100mM リン酸ナトリウムからの直線勾配溶出は、より後の溶出画分(HAプール2および3)が高マンノース型N−グリカンを含有し、ウエスタンブロットにおいて抗HCA抗体に対する交差結合活性を増加させることを示した。これは、HPLC N−グリカン分析、および4〜20% SDS−PAGEゲルのウエスタンブロット(図26に示されている)において見られ得る。
Q SEPHAROSE FFまたはSource 30Qアニオン樹脂を使用するアニオンカラムクロマトグラフィーも試験した。HAプール1〜3を合わせ、50mM 酢酸Na(pH5.0)に対して4℃で一晩透析した。該透析サンプルを該カラムに適用し、0〜750mM NaClの10CVの直線勾配を適用した。この場合、rhEPOは350〜500mM NaClで溶出して、該rhEPOを得た。図27AはrhEPOのQ SEPHAROSE FF精製の一例を示す。データは、より高い対応交差結合活性を示す高マンノース型グリカン(Man6,7,8,9>9,ほとんどはα1,2−マンノシダーゼ耐性)が、結合および非結合物質をサンドイッチELISAにおいて分析した場合に、アニオン交換樹脂に結合しないことを示した(図27B)。表1は、結合画分(Q SEPHAROSE FFプール1)およびフロースルー画分(Q SEPHAROSE FFフロースルー)におけるrhEPOのN−グリカン含量のHPLC分析の結果を示す。表2は、表1に示す中性N−グリカンのN−グリカン含量を示す。
したがって、抗HCA抗体に対する検出不可能な交差結合活性ならびに良好なタンパク質およびグリカン特性を有するrhEPOがアニオン交換樹脂に結合し、該樹脂から溶出され得ることを、該図および表は示している。これらのデータはまた、β−1,2−結合オリゴマンノシド(BMT1、BMT2、BMT3、BMT4)の生合成に関与する真菌遺伝子のファミリーが該rhEPO調製物における低レベルの交差結合性不純物の原因となることを示唆した。
したがって、全体として見ると、これらの結果は、抗HCA抗体に対する交差結合活性がrhEPOに特異的ではなく、該糖タンパク質上のα−1,2−マンノシダーゼ耐性N−グリカンによるものであることを示唆した。YGLY3159は、5個の内在性グリコシル化遺伝子をノックアウトし15個の異種遺伝子を導入することにより作製されていた。YGLY3159はbmt2Δノックアウト株である。NMR分光学的研究は、bmt2Δノックアウト株が、種々の量の残存β−1,2−マンノースN−グリカンを有する糖タンパク質を産生し得ることを示唆している。YGLY3159はbmt2Δであるため、BMT1およびBMT3がコアN−グリカン上の低レベルの残存β−1,2−マンノース転移をもたらすと仮定された。
rhEPOを精製するためのクロマトグラフィー工程の組合せは、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を含有しないrhEPO調製物を産生し得るが、該株における抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を低減または排除するためにピチア・パストリス(P.pastoris)宿主株を遺伝的に修飾することが特に望ましいであろう。これは、精製中の変動性による、交差結合活性を有するrhEPO調製物の考えられ得る混入のリスクを最小にする。また、各精製工程はrhEPOの喪失を引き起こし得るため、遺伝的に修飾されたピチア・パストリス(P.pastoris)株が精製工程の数を減少させることにより、省かれた工程中に喪失するrhEPOの量を減少させることが可能である。したがって、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を示さない株を特定するために、4つのBMT遺伝子の発現を連続的に欠失または破壊した。
β−結合マンノース型N−グリカンの存在を検出不能レベルまで低減するために、BMT1およびBMT4遺伝子を破壊し、該rhEPOをα−1,2−マンオシダーゼ耐性N−グリカンの存在に関して分析した。
株YGLY6661およびYGLY7013を、実施例2に記載されているとおりに構築し、抗HCA抗体を使用してα−1,2−マンノシダーゼ耐性N−グリカンの存在に関して分析した。株YGLY7013はbmt2Δおよびbmt4Δであり、株YGLY6661はbmt2Δ、bmt4Δおよびbmt1Δであった。該株から産生されたrhEPOをBlue SEPHAROSE 6FFクロマトグラフィーに付し、Blue SEPHAROSE 6FF捕捉プールのアリコートをPNGアーゼF vel nonで処理した。該処理および未処理アリコートをSDS−PAGE上で電気泳動し、ゲルをニトロセルロース膜にトランスファーし、該膜を抗EPO抗体または抗HCA抗体でプローブした。図28は、Blue SEPHAROSE 6FF捕捉プールのアリコートの4〜20% SDS−PAGEゲルのウエスタンブロットにおいて、いずれかの株において産生されたrhEPOが、抗HCA抗体と交差反応したα−1,2−マンノシダーゼ耐性N−グリカンを尚も有していたことを示している。表3および4は発酵およびSixFors培養の両方からのBlue SEPHAROSE 6FF捕捉プール中のrhEPOにおけるN−グリカン種の分布を示す。該表に示されているとおり、どちらの株も相当な量の中性N−グリカンを産生し、そのうちの一部はインビトロα1,2−マンノシダーゼ消化に耐性であった。
YGLY3159との比較において両方の株から得られたBlue SEPHAROSE 6FF捕捉プールにおけるrhEPOのサンドイッチELISAは、どちらの株も抗HCA抗体に対する交差結合活性を有することを示した(図29)。ヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーによる該rhEPOの更なる精製およびサンドイッチELISAによる該サンプルの分析は、YGLY661(bmt2Δ、bmt4Δおよびbmt1Δ)から産生されたrhEPOを含有するHAプール1が抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠いているらしいこと、およびYGLY7013(bmt2Δおよびbmt4Δ)において産生されたrhEPOが抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を尚も有することを示した(図30)。該結果は、BMT2およびBMT1遺伝子の欠失が、全ての検出可能な交差結合活性を除去するのに十分ではないことを示唆した。該結果はまた、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーが、HAプール1において、検出可能な交差結合活性を除去し得ることを示している。図31は4〜20% SDS−PAGEゲルのウエスタンブロットであり、これは、株YGLY661から調製されたもう1つのBlue SEPHAROSE 6FF捕捉プールにおけるrhEPOが抗HCA抗体に対する交差結合活性を有し続けていたこと、および該交差結合活性が、該rhEPOの脱グリコシル化により、検出不能に尚もされ得ることを示している。該結果は、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さないrhEPOを得るためには、BMT3遺伝子の発現が破壊または欠失により阻止される必要があることを示した。
検出可能なβ−結合マンノース型グリカンの排除をより効果的に達成するために、マンノシルトランスフェラーゼ経路に関与する4つ全てのBMT遺伝子を破壊した。株YGLY7361〜7366およびYGLY7393〜7398(実施例2)を、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠くrhEPOを産生する能力に関して評価した。
β−マンノシルトランスフェラーゼ経路に関与する4つ全てのBMT遺伝子が破壊された種々の株YGLY7361〜7366およびYGLY7393〜7398株を500mL SixFors発酵槽内で増殖させ、ついでBlue SEPHAROSE 6FFプール(Blue(ブルー)プール)全体にわたってrhEPOに関して加工した。該Blueプールからのアリコートを4〜20% SDS−PAGEにより分析した。図32は、PNGアーゼF処理を伴う及び伴わないそれらの種々の株からのBlueプールの、クーマシーブルー染色された4〜20% SDS−PAGEゲルを示す。該ゲルは、該被験株の全てがグリコシル化rhEPOを産生したことを示している。該株の幾つかをサンドイッチELISAにより抗HCA抗体に対する交差結合活性に関して評価した。図33は、該株のほとんどが抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠いていたことを示している。しかし、YGLY7363およびYGLY7365は抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を有していた。PCRによるYGLY7365の再確認は、この株がBMT3遺伝子の完全なノックアウト体ではなことを示した。これは、ELISAにおいて存在する抗HCA抗体で観察された比較的高い結合を説明するものである(図33)。株YGLY7361〜7366のHPLC N−グリカン分析を表5に示し、株YGLY7393〜7398を表6に示す。該表におけるデータは図34にグラフで示されている。
株YGLY7362、7366、7396および7398を3L 発酵槽内で培養し、Blue SEPHAROSE 6 FFクロマトグラフィーおよびそれに続くヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーにより加工した。該Blueプールおよび該HAプールの両方からのアリコートを還元し、4〜20% SDS−PAGEにより分析した。YGLY3159の対応プールを陽性対照として含めた。図35Aは、クーマシーブルー染色された4〜20% SDS−PAGEを示し、これは、該Blueプール(ゲルの左半分)およびHAプール(ゲルの右半分)の両方がrhEPOを産生したことを示している。図35Bは、抗HCA抗体でプローブされた、同じサンプルのウエスタンブロットを示す。該被験株はいずれも、該Blueプールまたは該HAプール1のいずれにおいても、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を有していなかった。
図36は、抗HCA抗体に対する交差結合活性に関して、YGLY7398の500mL SixFors培養から単離されたrhEPOについて、該BlueプールおよびHAプール1を分析している。一番右のパネルは、もう1つの抗HCA調製物であるGiF2ポリクローナルウサギ::6316でプローブされたウエスタンブロットを示す。この抗体は、ここに示されているELISAおよびウエスタンブロットを得るために使用されていたF072208−S抗体を使用して得られたものと同じ結果を示した。該6316抗体は、該交差結合活性が抗体特異的でないことを示している。
これらの結果は、4つ全てのBMT遺伝子の欠失または破壊が、予備的Blue SEPHAROSE 6 FF捕捉工程またはI型40μMヒドロキシアパタイトを使用する中間ヒドロキシアパタイト工程の後のrhEPOのいずれにおいても、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を示さない株を与え得ることを示している。これらの株は、抗HCA抗体に対する交差結合活性を含有するrhEPO調製物が調製されるリスクを最小にする。これは、rhEPOが投与された個体において有害な免疫応答を誘導するリスクがより低いrEPOの産生を可能にする。
4つ全てのBMT遺伝子が破壊または欠失された実施例2で得られた株において産生されPEG化されたrhEPOの薬物動態の比較を、株YGLY3159から産生されたPEG化rhEPOに対して行った。該比較は、該PEG化EPOが、減少したインビトロ半減期およびより低いインビボ効力を有することを示した(表7および8を参照されたい)。抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を有さない実施例2で得られた株において産生されたrhEPOは、EPOGENの場合に概ね類似した薬物動態を示し、ARANESPの薬物動態より高くはなかった。その低下した薬物動態は二シアル酸化二分岐N−グリカンの量に影響されることが判明した。該rhEPO上の、より高いレベルの二シアル酸化二分岐N−グリカンは、より高い薬物動態と相関した。これらの結果は、CHO細胞において産生された組換えヒトエリスロポエチンにおける、より長い半減期が、より高いシアル酸含量に相関していることを示す公開データ(Egrieら,Exp.Hematol.31:290−299(2003))と一致している。
検出可能なβ−結合マンノース型グリカンの排除を有効に達成するために、およびより高い薬物動態を有するrhEPOを産生する株を得るために、実施例3に記載されている株YGLY7113〜7122を作製し、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を欠くrhEPOを産生する能力に関して評価した。ニワトリリゾチームリーダー配列に融合した融合タンパク質としてのヒト成熟EPOをも発現するように、これらの株を修飾した。したがって、これらの株は、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)αMATpreシグナルペプチドに融合したヒト成熟EPO、およびニワトリリゾチームリーダー配列に融合した融合タンパク質としてのヒト成熟EPOの両方を発現する。
β−マンノシルトランスフェラーゼ経路に関与する4つ全てのBMT遺伝子が破壊された種々のYGLY7113〜YGLY7122株を500mL SixFors発酵槽内で増殖させ、ついでBlue SEPHAROSE 6 FFプール(Blueプール)全体にわたってrhEPOに関して加工した。幾つかの株の該Blueプールのアリコートを、抗HCA抗体を使用するサンドイッチELISAにより分析した。図37は、YGLY7118が抗HCA抗体に対する非常に低い交差結合活性を有していたことを示しているが、その他の株の全ては、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を示さなかった。株YGLY7113〜7117のHPLC N−グリカンの分析を表9に示し、株YGLY7118〜7122を表10に示す。該表は図38にグラフで示されている。
株YGLY7115、7117および7120を3L 発酵槽内で培養し、Blue SEPHAROSE 6 FFクロマトグラフィーおよびそれに続くヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーにより加工した。該Blueプールおよび該HAプールの両方からのアリコートを還元し、4〜20% SDS−PAGEにより分析した。YGLY3159の対応プールを陽性対照として含めた。YGLY7395の対応プールを陰性対照として含めた。図39Aは、クーマシーブルー染色された4〜20% SDS−PAGEを示し、これは、該Blueプール(ゲルの左半分)およびHAプール(ゲルの右半分)の両方がrhEPOを産生したことを示している。図39Bは、抗HCA抗体でプローブされた、同じサンプルのウエスタンブロットを示す。該被験株はいずれも、該Blueプールまたは該HAプール1のいずれにおいても、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を有していなかった。
これらの結果はまた、4つ全てのBMT遺伝子の欠失または破壊が、予備的Blue SEPHAROSE 6 FF捕捉工程またはI型40μMヒドロキシアパタイトを使用する中間ヒドロキシアパタイト工程の後のrhEPOのいずれにおいても、抗HCA抗体に対する検出可能な交差結合活性を示さない株を与え得ることを示している。これらの株は、抗HCA抗体に対する交差結合活性を含有するrhEPO調製物が調製されるリスクを最小にする。これは、rhEPOが投与された個体において有害な免疫応答を誘導するリスクがより低いrEPOの産生を可能にする。
YGLY7117により産生されたrhEPOを含有するblue(ブルー)プールを更に、ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーに付し、HAプール中のrhEPOをシアル酸化含量に関して分析した。図40Aおよび図40Bは、それぞれ、YGLY3159において産生されたrhEPOからのN−グリカンのHPLCトレース、およびそれと比較される、YGLY7117において産生されたrhEPOからのN−グリカンのHPLCトレースを示す。これらの図はまた、該ヒドロキシアパタイトカラムが追加的混入物を除去したことを示しており、したがって、この分析においては、YGLY7117において産生されたrhEPOのシアル酸化含量は約99%であり(中性N−グリカンは約1%であった)、そのうち、約89%はA2、すなわち、二シアル酸化体であり、約10%はA1、すなわち、モノシアル酸化体であった。
実施例3の方法に従うPEG化後のYGLY7117において産生されたrhEPOのシアル酸化分析はPEG化前のシアル酸化の量に類似していた。しかし、シアル酸化の量は、例えば、増殖条件、例えば培地組成、供給速度などにどのような修飾が施されたかによって、限られた程度で変動し得る(表11を参照されたい)。したがって、本発明における方法は、少なくとも約75%のA2シアル酸化または約75〜89%のA2シアル酸化を有するrhEPO組成物を与える。したがって、総シアル酸含量はrhEPOの1モル当たり少なくともシアル酸4.5モルであり、より詳しくは、rhEPOの1モル当たりシアル酸約4.6〜5.7モルである。
4つ全てのBMT遺伝子が破壊または欠失された実施例3で得られたYGLY7117において産生されPEG化されたrhEPOの薬物動態の比較を、株YGLY3159から産生されたPEG化rhEPOに対して行った。該比較は、株YGLY7117において産生されたPEG化rhEPOが、YGLY3159およびARANESPの場合に類似したインビボ半減期およびインビボ効力を有することを示した(表12および13を参照されたい)。
配列表
実施例1〜11に開示されている株の幾つかを製造するために使用した配列を表14に示す。
本発明は例示実施形態に関して本明細書に記載されているが、本発明はそれらに限定されないと理解されるべきである。当技術分野における通常の技量を有し本明細書中の教示を利用する当業者はその範囲内の追加的な修飾および実施形態を認識するであろう。したがって、本発明は、本明細書に添付されている特許請求の範囲のみによって限定される。