JP2013506664A - 抗線維芽細胞活性化タンパク質抗体並びにその方法及び使用 - Google Patents

抗線維芽細胞活性化タンパク質抗体並びにその方法及び使用 Download PDF

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Abstract

線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に結合する、特にヒトFAP及びマウスFAPの双方を認識する特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片が提供される。これらの抗体は、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含めた、活性化した間質に関連する病態の診断及び治療に有用である。抗FAP抗体、その可変領域又はCDRドメイン配列、及びその断片はまた、化学療法薬、免疫調節薬、又は抗癌剤との、及び/又は他の抗体若しくはその断片との併用療法で使用されてもよい。この種の抗体は、配列を本明細書に提供する新規抗体ESC11及びESC14によって例示される。

Description

本発明は、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に結合する、特にヒトFAP及びマウスFAPの双方を認識する特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片に関する。これらの抗体は、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含めた、活性化した間質に関連する病態の診断及び治療に有用である。加えて、膵癌、メラノーマ及び肉腫などのFAP陽性腫瘍の診断及び治療に使用することができる。本発明の抗体、その可変領域又はCDRドメイン配列、及びその断片はまた、化学療法薬、免疫調節薬、若しくは抗癌剤との、及び/又は他の抗体若しくはその断片との併用療法で使用されてもよい。
線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は、当初は反応性の間質線維芽細胞上のセリンプロテアーゼとして同定された[1(非特許文献1)、2(非特許文献2)]。その後の分子クローニングにより、FAPは、メラノーマ細胞株により発現される170kDaの膜結合ゼラチナーゼであるセプラーゼと同じであることが明らかとなった[3、4]。完全長cDNAは、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)と高度に相同性の、配列全体に関して52%のアミノ酸(aa)同一性及び触媒ドメインでほぼ70%の同一性を有する760aaのII型膜貫通型プロテアーゼをコードした[3、5]。参照により本明細書に援用される米国特許第5,587,299号明細書は、FAPをコードする核酸分子及びその応用について記載している。
FAPとDPPIVとは遺伝子サイズが同様で、且つ染色体上2q24で互いに隣接していることから、遺伝子重複イベントが示唆される(Genebank受託番号U09278)。双方のタンパク質とも、プロリルペプチダーゼファミリーのメンバーである[1、6]。この酵素クラスは誘導性で、細胞表面上又は細胞外液中での活性を有し、且つ末端から二番目の位置にあるプロリン又はアラニンでポリペプチドからN末端ジペプチドを切断する能力を独自に有する[7]。DPPIVは、CD26とも称され、線維芽細胞、内皮及び上皮細胞、白血球サブセット、例えばNK細胞、Tリンパ球及びマクロファージを含むいくつかの細胞型によって構成的に発現される。DPPIVのうち血中で可溶性タンパク質として循環する割合は小さい。DPPIVと対照的に、FAPは典型的には正常成人組織で発現せず[1]、そのタンパク質分解活性を有する可溶形態は、a2−抗プラスミン切断酵素(APCE)と称される[8]。創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含め、活性化した間質に関連する病態では、顕著なFAP発現が起こる[4、9〜11]。
FAP構造は解かれており(PDB ID 1Z68)、DPPIVの構造と極めて類似している[12]。FAPは、約20アミノ酸の切断されないシグナル配列によって細胞膜に結合し、6アミノ酸のアミノ末端の短い細胞質ドメインを有する[3〜5]。このタンパク質の大部分は、触媒ドメインを含め、細胞外環境に露出している[13]。FAP糖タンパク質は、2つの同一の97kDaサブユニットからなるホモ二量体である。各FAP単量体サブユニットは、αβヒドロラーゼドメイン(aa27〜53及び493〜760)と、8枚羽根のβプロペラドメイン(aa54〜492)との2つのドメインからなり、これらのドメインは大きい空洞を取り囲む。両ドメインの界面にあるこの空洞内の小さいポケットが、触媒三残基(Ser624、Asp702及びHis734)を含む[12]。FAPはサブユニットのホモ二量体化でその酵素活性を獲得し[14]、またFAPは、そのジペプチジルペプチダーゼ活性の他、コラーゲンI型特異的ゼラチナーゼ活性[15]及びエンドペプチターゼ活性[16]も有する。βプロペラはタンパク質間相互作用の足場として働き、基質及び細胞外マトリックス(ECM)結合を決定する[17]。さらに、βプロペラは、FAPと他のプロリルペプチダーゼとの、又は他の膜結合分子との超分子複合体の形成に関与する[18、19]。FAP及びDPPIVのヘテロマー複合体又は四量体複合体の形成は、コラーゲン基質上の遊走性細胞の浸潤突起に関連することが分かった[20]。I型コラーゲンはFAPのβ1インテグリンとの近接した会合を誘導し、従って浸潤突起の形成及び接着において構造化上重要な役割を果たす[21]。関与する機構の詳細は分かっていないが、細胞侵入の前線におけるかかるプロテイナーゼリッチの膜ドメインの形成は、特異的な細胞周囲ECM分解に寄与する[22]。これは、FAPとECMとの相互作用が、インテグリン経路を介した細胞接着、遊走、増殖及びアポトーシスに影響を及ぼすことによって浸潤性細胞の挙動に密接に関連し得ることを示しており[19、21、23]、疾患の発病及び進行におけるFAPの役割が支持される[24]。要約すれば、FAPは、そのプロテアーゼ活性と、他の細胞表面分子とのその複合体形成能との組み合わせによって、細胞依存的にその生物学的機能を遂行する多機能タンパク質として認識される。上皮及び線維芽細胞系におけるFAPの過剰発現は悪性挙動を促進する[22]ことから、臨床的状況が指示され、そこではFAPの細胞発現レベルがより不良な臨床転帰と関係付けられる[25、26]。
癌細胞は、パラクリンシグナル伝達分子により間質線維芽細胞を活性化してFAP発現を誘導し、次にその発現が癌細胞の増殖、浸潤及び遊走に影響する。最近の研究では、TGF−βがFAPタンパク質発現の促進において支配的な因子であることが実証されている(Chen,Hら(2009年)Exp and Molec Pathology,doi:10.1016/j.yexmp.2009.09.001)。乳癌、肺癌、結腸直腸癌及び卵巣癌を含め、ヒト上皮癌の90%においてFAPは反応性間質線維芽細胞で高度に発現する(Garin−Chesa,Pら(1990年)PNAS USA 87:7236−7239頁)。近年Chenらは、FAPαがHO−8910PM卵巣癌細胞の浸潤、増殖及び遊走に影響を及ぼすことを示した(Chen,Hら(2009年)Exp and Molec Pathology,doi:10.1016/j.yexmp.2009.09.001)。
FAPの形態学的及び機能的特性から、治療標的としてのFAPの研究が盛んである。疾患に関連し、且つ細胞表面に結合する発現パターンが特に、FAPを抗体ターゲッティングに適格とする。ECMリモデリングにおける病態生理学的な関与に関して、ターゲッティング戦略はシグナル伝達超分子FAP複合体の破壊を目標とすべきである。FAPは、抗体ベースの免疫療法の標的として注目を集めているが、現在のところ、治療活性を有する天然のFAP特異的抗体のデータは見当たらない。モノクローナル抗体F19が、転移性結腸直腸癌を対象として第I相臨床試験で研究された最初の抗体であった[30]。この試験は、抗FAPベースの腫瘍間質ターゲッティングの原理を証明するものとなった[1]。試験に含まれた患者は手術による高度な瘢痕化を有したが、そうした部位に131I−F19の特異的濃縮を認めることはできなかった。ヨウ素131標識F19の静脈内投与に伴う中毒性副作用はなく、イメージングにより直径1cmのサイズに至るまでの癌腫病巣が特異的に検出された。ヒトにおけるマウス抗体の免疫原性に関して、シブロツヅマブ(Sibrotuzumab)と称されるヒト化型のF19を使用した第I相及び第II相臨床試験が近年実施された[31、32]。これらの試験による結果から、シブロツヅマブの投与が安全で、且つ十分に耐容されることが実証された。第I相ピボタル試験において得られた結果[30]と同様に、131Iによる追跡標識及びイメージング解析から、シブロツヅマブが腫瘍範囲に特異的に蓄積することが明らかとなった。残念ながら、非コンジュゲート型シブロツヅマブには抗腫瘍活性がないこと、又はいかなる治療活性もないことがそれぞれ実証された[32]。FAPの生物学的機能の詳細はいまだ明らかでないものの、そのジペプチジルペプチダーゼ活性が腫瘍の進行及び転移に関与すると仮定された[15、33]。FAP酵素機能に作用するシブロツヅマブの欠如が、治療効果がない理由であると示唆された[34]。その結果、インビトロで触媒活性を阻害するため抗FAP特異的ポリクローナル抗体が産生されている。実際、FAP陽性異種移植片を抗FAP抗血清で処置すると、腫瘍成長が減弱した[13]。しかしながら、ポリクローナル血清はウサギをマウスFAPで免疫化することにより産生されたため、触媒ドメインとは異なる別のエピトープもまた標的化された可能性が最も高い。従って、認められる抗腫瘍効果が実際にジペプチジルペプチダーゼ阻害によったものであるとこの試験から結論付けるのは困難である。
Rettig, W.J., et al., Cell−surface glycoproteins of human sarcomas: differential expression in normal and malignant tissues and cultured cells. Proc Natl Acad Sci U S A, 1988. 85(9): p. 3110−4. Rettig, W.J., et al., Regulation and heteromeric structure of the fibroblast activation protein in normal and transformed cells of mesenchymal and neuroectodermal origin. Cancer Res, 1993. 53(14): p. 3327−35.
従って、FAP抗体の活性についての既存のエビデンスは有望であるものの、効力及び抗腫瘍活性に関しては依然として限界が認められる。従って、FAP抗体、特に、マウス動物モデルで利用することができ、且つ診断及び治療における効力及び適用性の向上を実証する抗体を開発するならば望ましく、本発明はこの目標の達成に向けて行われるものである。
本明細書における参考文献の引用は、それらが本発明に先行する技術であることを認めるものとして解釈されてはならない。
本発明は、診断及び治療を目的とした、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に対する抗体を提供する。特に、FAPに特異的な抗体が提供され、ここで前記抗体はヒト及びマウスFAPを認識し、且つそれとの結合能を有する。本明細書ではFab抗体が特に提供される。本発明の抗体は、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含めた、活性化した間質に関連する病態、並びにFAP陽性腫瘍、例えば膵癌、メラノーマ及び種々の肉腫における診断及び治療用途を有する。特定の態様において、本発明の抗体は、癌、例えば乳癌、肺癌、結腸直腸癌及び卵巣癌を含む上皮癌に適用することができる。
一般的な態様において、本発明は、ヒト及びマウスFAPに対するFAP抗体であって、CD26(ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV))と交差反応/結合しないFAP抗体を提供する。広義の態様において、本発明は、ヒトFAPを認識する単離された特異的結合メンバー、特に抗体又はその断片、例えばFab断片及び単鎖若しくはドメイン抗体を提供する。さらなる態様において、本発明は、ヒトFAPを認識し、且つ図2及び/又は図10に示されるとおりの配列を含むESC11又はESC14のアミノ酸配列を含む抗体又はその断片を提供する。かかる一態様において、本発明は、図10に示される可変領域CDR配列を含む抗ヒトFAP抗体を提供する。
詳細な態様において、本発明の抗体又は断片は、ヒト及びマウスFAPとの反応性を有し、それとの結合能を有する。さらなる態様において、抗体又は断片はCD26(DPPIV)と反応せず、それに結合しない。ある態様において、本発明の抗体又は断片の結合はジペプチジルペプチダーゼ活性に直接影響を及ぼさない。さらなる態様において、抗体又は断片はFAPの発現を下方制御し、従って細胞表面上での活性ジペチジルペプチダーゼ(dipetidyl peptidase)酵素活性の数又は量を低減する。本発明の1つ又は複数の抗体は、細胞表面上でのFAP発現を低減させることによってジペプチジルペプチダーゼ活性に間接的に影響を与える。さらに別の態様において、抗体又は断片はFAP発現の下方制御を媒介する。別の態様において、抗体又は断片はFAP発現細胞におけるアポトーシスを誘導し、媒介する。さらに追加的な態様において、抗体又は断片はECMタンパク質との細胞接着を阻害する。従って、本発明の1つ以上の抗FAP抗体又はその1つ以上の活性断片は、以下の特徴のうちの少なくとも2つを有する:ヒト及びマウスFAPとの反応性を有する;CD26(DPPIV)と反応又は結合しない;FAPのジペプチジルペプチダーゼ活性に直接影響を及ぼさない;FAP発現の下方制御を媒介する;FAP発現細胞におけるアポトーシスを誘導、又は他の形で媒介する;及びECMタンパク質との細胞接着を阻害する。
本発明者らは、ヒト及びマウスFAPと反応性を有し、且つCD26と反応しない新規FAP抗体を発見した。本明細書で例示する抗体は、Fab抗体及びそれをベースとする組換え抗体を含む。提供される例示的抗体はESC11及びESC14を含む。これらの抗体は、本明細書並びに図2及び図10に示されるとおりの重鎖及び軽鎖可変領域配列を有し、及びCDRドメイン領域配列を含む。
本発明の抗体及び断片の固有の特異性及び親和性により、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含め、活性化した間質に関連する病態を、特に正常組織の取り込みに関連する問題なしに、同定し、特徴付け、及び標的化する診断及び治療用途が提供される。その進行、遊走及び/又は浸潤が間質線維芽細胞に関わり、それにより促進され、又はそれと関連付けられる癌は、特に本発明の抗体に対して感受性があり、その標的とされる。かかる癌としては、乳癌、肺癌、結腸直腸癌及び卵巣癌を含む上皮癌が挙げられる。
好ましい態様において、抗体は、本発明者らが同定して特徴付けた抗体の特徴を有する抗体であって、特にヒト及びマウスFAPを認識し、且つ関連タンパク質CD26を認識しないものである。特に好ましい態様において、抗体はESC11又はESC14、又はその活性断片である。さらに好ましい態様において、本発明の抗体は、図2及び図10に記載されるVH及びVLアミノ酸配列(VH配列 配列番号1、配列番号2、配列番号7、及びVL配列 配列番号3、配列番号8)を含む。特定の態様において、本発明の抗体は図10に記載されるCDR配列を含む。本発明の特定の態様において、抗体はESC11であり、図2又は図10に示される可変領域配列(VH配列 配列番号1又は2、及びVL配列 配列番号3)を含む。本発明の特定の態様において、抗体はESC11であり、図10に示されるCDR領域配列(重鎖CDR1(配列番号11)、CDR2(配列番号12)、CDR3(配列番号13);軽鎖CDR1(配列番号17)、CDR2(配列番号18)、CDR3(配列番号19))を含む。本発明の特定の態様において、抗体はESC14であり、図2又は図10に示される可変領域配列(VH配列 配列番号7、及びVL配列 配列番号8)を含む。本発明の特定の態様において、抗体はESC14であり、図10に示されるCDR領域配列(重鎖CDR1(配列番号14)、CDR2(配列番号15)、CDR3(配列番号16);軽鎖CDR1(配列番号20)、CDR2(配列番号21)、CDR3(配列番号22))を含む。
抗体のその標的抗原との結合は、その重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)によって媒介される。従って、本発明の抗体、特にESC11及び/又はESC14の重鎖又は軽鎖、及び好ましくはその双方のCDR領域をベースとする特異的結合メンバーは、治療及び/又は診断に有用な特異的結合メンバーであり得る。抗体の配列及びCDRは図2及び図10に記載する。図2Aには、ESC11抗体重鎖及び軽鎖DNA配列及びアミノ酸配列を記載する。ESC11重鎖可変領域アミノ酸配列が配列番号1に示され、真核生物発現用に修飾された重鎖ペプチド配列が配列番号2に示される。これらの重鎖ペプチド配列をコードする核酸配列が、それぞれ配列番号4及び5に示される。ESC11軽鎖アミノ酸配列が配列番号3に対応し、それをコードするDNA配列が配列番号6に対応する。図2Bには、ESC14抗体重鎖及び軽鎖DNA配列及びアミノ酸配列を記載する。ESC14重鎖可変領域アミノ酸配列が配列番号7に示される。この重鎖ペプチド配列をコードする核酸配列が、配列番号9に対応する。ESC14軽鎖アミノ酸配列が配列番号8に対応し、それをコードするDNA配列が配列番号10に対応する。ESC11抗体重鎖抗体ESC11は、図10に示されるとおり、重鎖CDR配列GGSISSNNYYWG(配列番号11)、SIYYSGSTNYNPSLKS(配列番号12)及びGARWQARPATRIDGVAFDI(配列番号13)、並びに軽鎖CDR配列RASQTVTRNYLA(配列番号17)、GASNRAA(配列番号18)及びQQFGSPYT(配列番号19)を含む。抗体ESC14は、図10に示されるとおり、重鎖CDR配列GYTFTSYGIS(配列番号14)、WISAYNGNTNYAQKLQG(配列番号15)及びDWSRSGYYLPDY(配列番号16)並びに軽鎖CDR配列RSSQSLLHSNGYNYLD(配列番号20)、LGSNRAS(配列番号21)及びMQALQTPPT(配列番号22)を含む。ESC11及びESC14抗体CDR配列の相同性及び類似性に基づくコアCDR配列は、重鎖について、G G/Y S/T I/F S/T S N/− N/− Y Y/G W/I G/SのCDR I、S/W I S/− Y/A Y S/N G S/N T N Y N/A P/Q S/K L K/Q S/GのCDRII、及びG/D A/− R/− W Q/− A/− R/− P/− A/− T/S R I/S D/G G/Y V/Y A/L F/P D I/YのCDRIIIを含む。ESC11及びESC14抗体CDR配列の相同性及び類似性に基づくコアCDR配列は、軽鎖について、R A/S S Q T/S V/L T/L R/H S/− N/− G/− Y/− N Y L A/DのCDR I、G/L A/G S N R A A/SのCDRII、及びQ/M Q A/− F/L G/Q S/T P Y/P TのCDRIIIを含む。
従って、本明細書で同定される1つ又は複数の抗体のCDRをベースとする抗体などの特異的結合タンパク質は、疾患又は癌における間質、特にFAP及びFAP発現細胞を標的化するのに有用であり得る。本発明の抗体のFAP標的は正常細胞又は正常間質線維芽細胞では有意に発現しないため、本発明の抗体は正常体細胞には有意に結合しないことから、正常組織における有意な取り込みがなく、FAP標的に好適で特異的な親和性があるものと予想される。
さらなる態様において、本発明は、抗原との結合能を有する単離された抗体又はその断片を提供し、ここで前記抗体又はその断片は、実質的に本明細書及び図10に示されるとおりのアミノ酸配列を含むポリペプチド結合ドメインを含む。
さらなる態様において、本発明は、上記に定義されるとおりの特異的結合メンバーをコードする配列を含む単離核酸、及び本発明の特異的結合メンバーを調製する方法であって、前記結合メンバーの発現をもたらす条件下で前記核酸を発現させるステップと、結合メンバーを回収するステップとを含む方法を提供する。かかる一態様では、図2又は図10に示されるとおりのアミノ酸配列を有する抗体可変領域配列をコードする核酸が提供されるか、又は図10に示されるとおりのCDRドメイン配列を有する抗体が提供される。一態様では、図2の核酸が提供される。本発明はまた、本発明の抗体をコードする組換えDNA分子又はクローン化遺伝子、又はその縮重変異体;好ましくは、図2又は図10に示される配列をコードする配列を有するか、又はコードすることが可能な、抗体VH及びVL、特にCDR領域配列をコードする核酸分子、特に組換えDNA分子又はクローン化遺伝子にも関する。
本発明に係るCDRドメインを含む抗体、その断片及び組換え抗体は、人体又は動物体を治療又は診断する方法、例えばヒト患者における腫瘍を治療する方法であって、前記患者に本発明の抗体、その断片及び組換え抗体の有効量を投与するステップを含む方法において使用され得る。
本発明はまた、本明細書に記載される活性を有し、且つ上記及び本明細書の図2又は図10に定義及び説明されるアミノ酸配列を呈するポリペプチド又は抗体も含み、又は重鎖及び軽鎖を有する抗体であって、その重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)が図2及び図10の各々又はいずれかに記載されるアミノ酸配列を含む抗体である。
本発明の診断的有用性は、インビトロ及びインビボ診断アッセイを含め、腫瘍若しくは細胞試料を特徴付け、又は腫瘍若しくは癌についてスクリーニングするアッセイにおける本発明の抗体の使用にまで及ぶ。イムノアッセイでは、対照量の抗体等を調製し、酵素、特異的結合パートナー及び/又は放射性元素で標識することができ、次に細胞試料に導入することができる。標識された材料又は1つ以上のその結合パートナーが試料内の部位との反応機会を得た後、得られた質量を公知の技法により調べることができ、その技法は結合させる標識の性質によって異なり得る。
本発明の特異的結合メンバーは、検出可能標識又は機能標識を有し得る。特異的結合メンバーは、放射性標識、例えば同位体H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、111In、117Lu、211At、198Au、67Cu、225Ac、213Bi、99Tc及び186Reを有し得る。放射性標識を使用するとき、現在利用可能な公知の計数手順を利用して特異的結合メンバーを同定及び定量することができる。標識が酵素である場合、検出は、当該技術分野において公知の現在利用されている比色分析法、分光光度法、蛍光分光光度法、電流測定法又はガス定量法のいずれかの技法により達成することができる。
放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片は、インビトロ診断技法及びインビボ放射線イメージング技法において有用である。本発明のさらなる態様において、放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片、特に放射性イムノコンジュゲートは、放射免疫療法において、特に癌療法用の放射性標識抗体として有用である。さらに別の態様において、放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片は、放射免疫ガイド下手術技法において有用であり、このような技法により、かかる細胞の摘出手術の前、その最中、又はその後に、癌細胞、前癌性細胞、腫瘍細胞、及び過剰増殖性細胞の存在及び/又は位置を同定及び指示することができる。
本発明の特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片が他の分子又は薬剤とコンジュゲート化されるか、又はそれに結合される本発明のイムノコンジュゲート又は抗体融合タンパク質として、限定はされないが、化学的アブレーション剤、毒素、免疫調節薬、サイトカイン、細胞傷害剤、化学療法剤又は薬物とコンジュゲート化された結合メンバーが挙げられる。
本発明は、例えばFAPの、存在の程度について定量分析するための検査キットの形態で調製されてもよいアッセイシステムを含む。このシステム又は検査キットは、本明細書で考察される放射性の及び/又は酵素的な技法のうちの1つにより調製された、標識を抗体とカップリングする標識構成成分と、1つ又は複数のさらなる免疫化学試薬であって、そのうちの少なくとも1つが遊離した、若しくは固定化された測定対象の構成成分又はその1つ以上の結合パートナーである試薬とを含み得る。
さらなる実施形態において、本発明は、結合メンバー、抗体、若しくはその活性断片の活性に基づき得るか、又は同じ活性を有することが決定された薬剤若しくは他の薬物に基づき得る特定の治療方法に関する。第1の治療方法は、限定はされないが、メラノーマ、肺、食道、肝臓、胃、前立腺、卵巣、膀胱及び滑膜の肉腫を含む癌の予防又は治療に関連する。
本発明の結合メンバー及び抗体は、並びに詳細な実施形態において、配列が本明細書の図2及び図10に提示される抗体、又はその活性断片、及びそれから誘導される単鎖、組換え又は合成抗体、特に図10に記載されるCDR領域配列を含むものは、好適な媒体、担体又は希釈剤を含んで、療法が癌の治療などに適する場合に投与される医薬組成物に調製することができる。かかる医薬組成物はまた、ペグ化などの当該技術分野において公知の方法により、結合メンバー、抗体又は断片の半減期を調節する方法も含み得る。かかる医薬組成物は、追加的な抗体又は治療剤をさらに含み得る。
本発明の組成物は、単独で投与されても、又は他の治療、療法薬又は薬剤との組み合わせで、治療する病態に応じて同時に、或いは逐次的に、投与されてもよい。加えて、本発明は、本明細書に記載される結合メンバー、特に抗体又はその断片と、他の薬剤又は療法薬、例えば、抗癌剤若しくは抗癌療法薬、抗有糸分裂剤、アポトーシス剤若しくは抗体、又は免疫調節薬とを含む組成物を企図し、包含する。より一般的には、これらの抗癌剤は、チロシンキナーゼ阻害薬又はリン酸化カスケード阻害薬、翻訳後モジュレーター、細胞増殖又は分裂阻害薬(例えば抗有糸分裂薬)、阻害薬又はシグナル伝達阻害薬であり得る。他の治療又は療法薬としては、疼痛緩和薬、例えば非ステロイド系抗炎症薬(例えば、アスピリン、パラセタモール、イブプロフェン又はケトプロフェン)若しくはモルヒネなどのアヘン薬、又は制吐薬の好適な用量の投与を挙げることができる。加えて組成物は、免疫応答及び癌細胞又は腫瘍の低減又は消失を刺激する免疫調節薬、例えば、インターロイキン類、腫瘍壊死因子(TNF)又は他の成長因子、コロニー刺激因子、サイトカイン類又はデキサメタゾンなどのホルモン類と共に投与されてもよい。組成物はまた、他の抗FAP抗体又は他のanti−tunor抗原抗体と共に投与されても、又はそれを併せた組み合わせを含んでもよい。
本発明はまた、他の分子又は薬剤に共有結合するか、又は他の形でそれと結合した抗体及びその断片も含む。これらの他の分子又は薬剤としては、限定はされないが、明確な認識特性を有する分子(抗体又は抗体断片を含む)、毒素、リガンド、及び化学療法剤が挙げられる。さらなる態様では、本発明の抗体又は断片を使用することにより治療分子又は他の薬剤の標的又は対象を定めることができ、例えば分子又は薬剤の標的を、創傷部位、腫瘍部位、炎症範囲又は癌性病巣のFAP発現細胞、例えば間質細胞又は活性化した間質細胞に定めることができる。
他の目的及び利点は、次の詳細な説明を検討することにより当業者に明らかとなるであろう。詳細な説明は、以下の例示的な図面、及び添付の特許請求の範囲を参照して進められる。
組換えFAPの免疫沈降。A.クマシーブルー染色SDS−PAGEゲル、及びB.F19抗体でプローブした対応するウエスタンブロット。C.HT1080 FAPライセートからイムノキャプチャーで捕捉したFAP(FAP+)、及びHT1080ライセートからのモックのイムノキャプチャー捕捉物(FAP−)におけるジペプチジルペプチダーゼ活性。A.U.は任意単位。HCは重鎖。 ESC11抗体配列。抗体の重鎖及び軽鎖のDNA配列を記載する。ESC 11重鎖及び軽鎖DNA配列は、それぞれ配列番号4又は5及び配列番号6に対応する。ESC11の重鎖アミノ酸配列(配列番号1)は、アミノ酸1位でヒスチジン(H)からグルタミン(Q)に変異させて(赤色で強調表示される)、真核生物細胞での発現を可能にした(配列番号2)。ESC 11の軽鎖ペプチド配列は配列番号3に対応する。 ESC14抗体配列。抗体の重鎖及び軽鎖のDNA配列を記載する。ESC 14重鎖及び軽鎖DNA配列は、それぞれ配列番号9及び配列番号10に対応する。ESC 14の重鎖アミノ酸配列は配列番号7に対応し、軽鎖は配列番号8に対応する。 Fab ESC11及びFab ESC14の特異性。A.細胞ライセートでコートしたプレートに対するFab(100nM)結合のELISA。HT1080 FAP(黒色のバー)、HT1080(白色のバー)、HEK293 huCD26(ストライプ線のバー)、HEK293 muFAP(灰色のバー)、HEK293モックトランスフェクト系(ハッチング線のバー)。B.HT1080 FAP細胞(左)及び293 muFAP細胞(右)に対するFab ESC11(黒色の線)、Fab ESC14(灰色の線)、及び非結合性の対照Fab(黒色塗り潰し)のFACS分析。 Fab ESC11及びFab ESC14の親和性。表面プラズモン共鳴で観察したときのFab ESC11(左)及びFab ESC14(右)の結合。精製したFabを、図に示す濃度でrhuFAPをコートしたCM5センサーチップに注入した。値は基準フローセルとの結合に対して補正した。黒色の実線は、不均一リガンドモデル並びに示される速度及び親和性定数に従い計算した各Fab濃度についての理論曲線を表す。 還元及び非還元条件下における5μgのESC11及びESC14 IgG及び抗体Fab断片のクマシーブルー染色SDS−PAGEゲル。 図6Aおよび図6B。DPP活性に対する競合的FAP結合のFACS分析。A.FAP発現培養ヒト線維芽細胞との精製IgGの結合。B.競合Fab抗体の添加前に培養線維芽細胞をESC11 IgGと共に、又はC.ESC14 IgGと共にインキュベートした。 図7A、B、CおよびD:A.10μg/mlの抗FAP抗体でのフローサイトメトリーによるAF上で発現したFAPの検出。B.基質としてAla−Pro−AFCと共にインキュベートすることにより検出したときのHEK293 muFAP(塗り潰しのない丸)、HEK293(塗り潰した三角)、及びAF(塗り潰した丸)の膜抽出物中におけるDPP活性の経時変化。C:Hek 293 muFAP抽出物中における抗体及び合成DPP阻害薬PT−100のDPP活性に対する効果。D.AFから調製した抽出物中における抗体及び合成DPP阻害薬PT−100のDPP活性に対する効果。 二価のESC11 IgGによる架橋結合後のFAPの下方制御。ESC11 IgG及びESC14 IgG(データは示さず)は、FAPの用量依存的還元を媒介した。一価のESC11/ESC14 Fab断片又は二価の抗huFAP抗体については、この効果は観察できなかった。 マウスFAPが安定にトランスフェクトされたHEK293細胞における、ESC11及びESC14とインキュベートしたときのアポトーシスの誘導。細胞死シグナル伝達はFAP発現細胞においてのみ生じた。4℃でのいずれの抗体とのインキュベーション後も、またF19抗FAP抗体の添加後も、生存シグナル伝達は遮断されなかった。 図10AおよびB。ESC11及びESC14抗体可変領域重鎖配列のアラインメント(A)およびESC11及びESC14抗体可変領域軽鎖配列のアラインメント(B)を示す。CDR I、II及びIII領域配列を強調表示している。ESC 11の重鎖CDR I、II及びIIIは配列番号11、12及び13に対応する。ESC 11の軽鎖CDR I、II及びIIは配列番号17、18及び19に対応する。ESC 14の重鎖CDR I、II及びIIIは配列番号14、15及び16に対応する。ESC 14の軽鎖CDR I、II及びIIは配列番号20、21及び22に対応する。同一のアミノ酸は指示し、保存アミノ酸を+として示し、及び配列中のギャップはダッシュ記号(−)として指示する。 図11A、BおよびC。Dy Light 488(Thermo Scientific)により標識したESC11 IgGで処理したHT 1080 FAP細胞の蛍光顕微鏡検査を示す。(A)は、4℃でのインキュベーション及びESC11 IgGInでの膜染色を示す。(B)細胞を4時間37℃に加温した。細胞質スポット及び小胞蓄積によってFAP−ESC11複合体の内在化が検出される。(C)では、ESC11 IgGインキュベート細胞を37℃で2時間保持し、次に酸で洗浄した。(C)では、内在化したFAP−抗体複合体が認められ、2時間のインキュベーションでほとんどの抗体が内在化したことを実証している。
本発明においては、当該分野の技術範囲内にある従来の分子生物学的技法、微生物学的技法、及び組換えDNA技法が用いられ得る。かかる技法は文献中に十分な説明がある。例えば、Sambrookら,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(1989年);「Current Protocols in Molecular Biology」第I〜III巻[Ausubel,R.M.編(1994年)];「Cell Biology:A Laboratory Handbook」第I〜III巻[J.E.Celis編(1994年))];「Current Protocols in Immunology」第I〜III巻[Coligan,J.E.編(1994年)];「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編 1984年);「Nucleic Acid Hybridization」[B.D.Hames & S.J.Higgins編(1985年)];「Transcription And Translation」[B.D.Hames & S.J.Higgins編(1984年)];「Animal Cell Culture」[R.I.Freshney編(1986年)];「Immobilized Cells And Enzymes」[IRL Press(1986年)];B.Perbal,「A Practical Guide To Molecular Cloning」(1984年)を参照のこと。
従って、以下の用語は、本明細書に現れる場合には下記に示す定義を有するものとする。
A.用語
用語「特異的結合メンバー」は、互いに対して結合特異性を有する一対の分子のメンバーを表す。特異的結合対のこうしたメンバーは天然由来であっても、又は完全に若しくは部分的に合成で産生されてもよい。分子対の一方のメンバーはその表面上に、分子対の他方のメンバーに特異的に結合し、従ってその特定の空間的及び極性的構成と相補的な範囲、又は空洞を有する。従って対のメンバーは互いに対して特異的に結合する特性を有する。特異的結合対のタイプの例は、抗原−抗体、ビオチン−アビジン、ホルモン−ホルモン受容体、受容体−リガンド、酵素−基質である。本願は抗原−抗体タイプの反応に関する。
用語「抗体」は、天然であるにしろ、又は部分的に若しくは完全に合成で産生されるにしろ、免疫グロブリンを表す。この用語にはまた、抗体結合ドメインであるか、又はそれと相同である結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質も含まれる。CDRグラフト抗体もまた、この用語によって企図される。「抗体」は、抗体及びその断片を含め、特定のエピトープを結合する任意の免疫グロブリンである。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びキメラ抗体を包含し、キメラ抗体については米国特許第4,816,397号明細書及び同第4,816,567号明細書にさらに詳細に記載されている。用語「抗体」は、2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖とである4本の完全長ポリペプチド鎖を概して含む野生型免疫グロブリン(Ig)分子、又はその同等のIgホモログ(例えばラクダ科動物ナノボディ、これは重鎖のみを含む)を含み;Ig分子の本質的なエピトープ結合特徴を維持しているその完全長機能的突然変異体、変異型、又は誘導体が含まれ、並びに二重特異性、二特異性、多特異性、及び二重可変ドメイン抗体が含まれ;免疫グロブリン分子はいずれのクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、又はサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)であってもよい。また、用語「抗体」の意味のなかには、任意の「抗体断片」も含まれる。
「抗体断片」は、少なくとも1本の完全長でないポリペプチド鎖を含む分子を意味し、(i)Fab断片、これは、可変軽鎖(VL)、可変重鎖(VH)、定常軽鎖(CL)及び定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価の断片である;(ii)F(ab’)2断片、これは、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価の断片である;(iii)Fab(Fd)断片の重鎖部分、これはVH及びCH1ドメインからなる;(iv)可変断片(Fv)断片、これは、抗体の単一のアームのVL及びVHドメインからなる、(v)ドメイン抗体(dAb)断片、これは単一の可変ドメインを含む(Ward,E.S.ら,Nature 341,544〜546頁(1989年));(vi)ラクダ科動物抗体;(vii)単離された相補性決定領域(CDR);(viii)VHドメインとVLドメインとがペプチドリンカーにより連結されていて、それにより2つのドメインが結合して抗原結合部位を形成可能な単鎖Fv断片(Birdら,Science,242,423〜426頁,1988年;Hustonら,PNAS USA,85,5879〜5883頁,1988年);(ix)ダイアボディ、これは二価の二特異性抗体であり、ここではVH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上で発現するが、但し同じ鎖上の2つのドメイン間での対形成を可能にするには短過ぎるリンカーを使用して行われ、従ってドメインはもう一つの鎖の相補性ドメインとの対形成を強いられ、2つの抗原結合部位を作り出す(国際公開第94/13804号パンフレット;P.Holligerら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90 6444〜6448頁,(1993年));及び(x)直鎖状抗体、これはタンデムFvセグメントの対(VH−CH1−VH−CH1)を含み、これらのセグメントは、相補性の軽鎖ポリペプチドと共に、抗原結合領域の対を形成する;(xi)多価抗体断片(scFv二量体、三量体及び/又は四量体(Power及びHudson,J Immunol.Methods 242:193〜204頁 9(2000年));及び(xii)重鎖及び/又は軽鎖、又はその突然変異体、変異型、又は誘導体の他の非完全長部分を、単独で、又は任意の組み合わせで含む。
抗体は多くの方法で修飾することができるため、用語「抗体」は、必要な特異性を備える結合ドメインを有する任意の特異的結合メンバー又は物質を包含すると解釈されるべきである。従ってこの用語は、天然であるにしろ、又は完全に若しくは部分的に合成であるにしろ、免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含めた、抗体断片、誘導体、抗体の機能的等価物及びホモログを包含する。従って、別のポリペプチドと融合した免疫グロブリン結合ドメインを含むキメラ分子、又は等価物が含まれる。キメラ抗体のクローニング及び発現については、欧州特許第A−0120694号明細書及び欧州特許第A−0125023号明細書及び米国特許第4,816,397号明細書及び同第4,816,567号明細書に記載されている。
「抗体結合部位」は、抗原と特異的に結合する軽鎖又は重鎖並びに軽鎖可変及び超可変領域から構成される抗体分子の構造部分である。
語句「抗体分子」は、その様々な文法的形式で本明細書において使用されるとき、インタクトな免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の双方を企図する。
例示的抗体分子は、インタクトな免疫グロブリン分子、実質的にインタクトな免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子のうちのパラトープを含む部分、例えば当該技術分野においてFab、Fab’、F(ab’)及びF(v)として公知の部分であって、本明細書に記載される治療法での使用に好ましい部分である。
抗体はまた二特異性であってもよく、ここでは抗体の一方の結合ドメインが本発明の特異的結合メンバーであり、且つ他方の結合ドメインが異なる特異性を有して、例えばエフェクター機能の動員などを行う。本発明の二特異性抗体は、抗体の一方の結合ドメインが本発明の特異的結合メンバー、例えばその断片であり、且つ他方の結合ドメインが異なる抗体又はその断片、例えば異なる抗癌性又は抗腫瘍性特異抗体のものである場合を含む。他方の結合ドメインは、神経細胞又はグリア細胞特異的抗体などの、特定の細胞型を認識又は標的化する抗体であってもよい。本発明の二特異性抗体では、本発明の抗体の一方の結合ドメインが、特定の細胞受容体を認識し、及び/又は細胞を特定の方法で調節する他方の結合ドメイン又は分子、例えば免疫調節薬(例えば、インターロイキン(類))、増殖調節因子又はサイトカイン(例えば腫瘍壊死因子(TNF)、及び特に、全体として本明細書に援用される2002年2月13日に出願された米国仮特許出願第60/355,838号明細書に示されるTNF二特異性モダリティ)又は毒素(例えば、リシン)又は抗有糸分裂性若しくはアポトーシス性の薬剤若しくは因子と組み合わされ得る。従って、本発明の抗FAP抗体を利用して、薬剤、標識、他の分子若しくは化合物又は抗体の対象又は標的を、創傷治癒、炎症、癌又は腫瘍の特徴的範囲である間質部位に定めることができる。
語句「モノクローナル抗体」は、その文法的形式において、特定の抗原と免疫反応する能力を有する抗体結合部位を一種のみ有する抗体を指す。従ってモノクローナル抗体は、典型的には、それが免疫反応する任意の抗原に対して単一の結合親和性を呈する。モノクローナル抗体にはまた、各々が異なる抗原に対して免疫特異性である複数の抗体結合部位を有する抗体分子;例えば、二特異性(キメラ)モノクローナル抗体も含まれ得る。
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原に特異的に結合し、且つその一部又は全てと相補的である範囲を含む抗体の一部を表す。抗原が大きい場合、抗体は抗原の特定の一部のみに結合してもよく、その一部はエピトープと称される。抗原結合ドメインは1つ又は複数の抗体可変ドメインにより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。
本発明のイムノコンジュゲート又は抗体融合タンパク質は、本発明に有用な抗体、抗体分子、又はその断片が他の分子又は薬剤とコンジュゲート化され、又はそれに結合されているものであり、限定はされないが、化学的アブレーション剤、毒素、免疫調節薬、サイトカイン、細胞傷害剤、化学療法剤、抗菌性の薬剤又はペプチド、細胞壁及び/又は細胞膜破壊剤、又は薬物とコンジュゲート化されたかかる抗体、分子、又は断片がさらに挙げられる。
用語「特異的な」は、特異的結合対の一方のメンバーが、その1つ又は複数の特異的結合パートナー以外の分子とは何ら有意な結合を示さない状況を指して用いられ得る。この用語はまた、例えば抗原結合ドメインが、多数の抗原に備わる特定のエピトープに特異的である場合にも適用することができ、その場合、抗原結合ドメインを持つ特異的結合メンバーは、そのエピトープを持つ様々な抗原に結合することが可能であり得る。
用語「〜を含む(comprise)」は、概して含む(include)の意味で用いられ、すなわち1つ又は複数の特徴又は構成要素の存在を許容する。
用語「〜から本質的になる」は、より大型の産物に共有結合していない規定数の残基の産物、特にペプチド配列を指す。しかしながら上記に参照する本発明のペプチドの場合、当業者は、保護基などを追加する末端の化学修飾、例えばC末端のアミド化などの、ペプチドのN末端又はC末端に対する少しの修飾は企図され得ることを理解するであろう。
用語「単離された」は、本発明において、本発明の特異的結合メンバー、又はかかる結合メンバーをコードする核酸が置かれるであろう状態を指す。メンバー及び核酸は、その天然の環境、又は調製がインビトロ若しくはインビボで実施される組換えDNA技法によるときの、それが調製される環境(例えば細胞培養物)中に共に存在する他のポリペプチド又は核酸などの、天然で関連している材料を含まない、又は実質的に含まないものであり得る。メンバー及び核酸は希釈剤又は補助剤と共に配合されてもよく、それでもなお、実際的な目的からは単離されているとし得る−例えば、メンバーは通常、イムノアッセイで使用されるマイクロタイタープレートのコーティングに使用する場合にはゼラチン若しくは他の担体と混合されてもよく、又は診断若しくは治療で使用するときには薬学的に許容可能な担体若しくは希釈剤と混合され得る。
本明細書で使用されるとき、「pg」はピコグラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「ug」又は「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「ul」又は「μl」はマイクロリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「l」はリットルを意味する。
用語「抗体」、「nati−FAP抗体」、「FAP抗体」、「ヒト/マウスFAP抗体」、「抗体ESC11」、「抗体ESC14」及び具体的に列挙はしない任意の変形例は、本明細書では同義的に使用されてもよく、本願及び特許請求の範囲の全体を通じて使用されるとき、単一又は複数のタンパク質を含むタンパク質性の材料を指すとともに、本明細書に記載され、且つ図2及び図10に提示されるアミノ酸配列データ並びに本明細書及び特許請求の範囲に定義される活性プロファイルを有するタンパク質にまで及ぶ。従って、実質的に同等の又は改変された活性を呈するタンパク質も同様に企図される。こうした修飾は、例えば部位特異的突然変異誘発によって得られる修飾などの、意図的なものであってもよく、又は複合体若しくはその命名されたサブユニットの産生体である宿主において突然変異によって得られる修飾などの、偶発的なものであってもよい。また、用語「抗体」、「nati−FAP抗体」、「FAP抗体」、「ヒト/マウスFAP抗体」、「抗体ESC11」、「抗体ESC14」は、その範囲内に、本明細書で具体的に挙げられるタンパク質並びに全ての実質的に同種の類似体及び対立遺伝子変異も含むことが意図される。
本明細書に記載されるアミノ酸残基は、「L」異性体型であることが好ましい。しかしながら、そのポリペプチドにより免疫グロブリン結合の所望の機能特性が維持される限り、「D」異性体型の残基を任意のL−アミノ酸残基に置き代えることができる。NHは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離カルボキシ基を指す。標準的なポリペプチド命名法であるJ.Biol.Chem.,243:3552〜59頁(1969年)に従い、アミノ酸残基の略記法を以下の対応表に示す。
Figure 2013506664
全てのアミノ酸残基配列は、本明細書では、左右の向きが従来どおりのアミノ末端からカルボキシ末端の方向である式によって表されることに留意しなければならない。さらに、アミノ酸残基配列の最初又は最後にあるダッシュ記号は、1つ又は複数のアミノ酸残基の別の配列とのペプチド結合を示すことに留意しなければならない。上記の表は、本明細書で交互に現れ得る3文字表記法と1文字表記法とを互いに関連させている。
「レプリコン」は、生体内で自律的なDNA複製単位として機能し;すなわち、それ自体の制御下における複製能を有する任意の遺伝エレメント(例えば、プラスミド、染色体、ウイルス)である。
「ベクター」は、それに別のDNAセグメントが結合され、それにより結合したセグメントの複製をもたらし得るレプリコン、例えば、プラスミド、ファージ又はコスミドである。
「DNA分子」は、その一本鎖形態か、又は二本鎖らせんのいずれかである多量体型のデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン、又はシトシン)を指す。この用語は分子の一次及び二次構造のみを指し、分子をいかなる特定の三次形態にも限定するものではない。従って、この用語は、とりわけ直鎖状DNA分子(例えば、制限酵素断片)、ウイルス、プラスミド、及び染色体に見られる二本鎖DNAを含む。特定の二本鎖DNA分子の構造について論じる際、配列は、非転写DNA鎖(すなわち、この鎖はmRNAと相同な配列を有する)に沿って5’から3’の方向の配列のみを示す通常の慣習に従い本明細書に記載され得る。
「複製起点」は、DNA合成に関与するDNA配列を指す。
DNA「コード配列」は、適切な調節配列の制御下に置かれるとインビボで転写され、及びポリペプチドに翻訳される二本鎖DNA配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンと、3’(カルボキシル)末端の翻訳終止コドンとにより決定される。コード配列としては、限定はされないが、原核生物配列、真核生物mRNA由来のcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)DNA由来のゲノムDNA配列、及びさらには合成DNA配列を挙げることができる。ポリアデニル化シグナル及び転写終結配列が、通常、コード配列の3’側に位置し得る。
転写及び翻訳制御配列は、宿主細胞中でのコード配列の発現をもたらすDNA調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどである。
「プロモーター配列」は、細胞中のRNAポリメラーゼに結合し、且つ下流(3’方向)コード配列の転写を開始させる能力を有するDNA調節領域である。本発明を限定する目的から、プロモーター配列はその3’末端で転写開始部位が境界となり、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルで転写を開始するのに最低限必要な塩基又はエレメントの数を含んで上流(5’方向)に延在する。プロモーター配列の範囲内には、転写開始部位(好都合にはヌクレアーゼS1でマッピングすることにより確定される)、並びにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が存在し得る。真核生物プロモーターは、必ずというわけではないが、多くの場合に「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含み得る。原核生物プロモーターは、−10及び−35コンセンサス配列に加えてシャイン−ダルガノ配列を含む。
「発現制御配列」は、別のDNA配列の転写及び翻訳を制御及び調節するDNA配列である。コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写するときに細胞において転写及び翻訳制御配列の「制御下」にあり、次にmRNAは、コード配列によってコードされるタンパク質に翻訳される。
コード配列の前に「シグナル配列」が含まれ得る。この配列は、ポリペプチドのN末端側の、ポリペプチドを細胞表面に誘導し、又はポリペプチドを培地に分泌するよう宿主細胞に伝えるシグナルペプチドをコードし、このシグナルペプチドは、タンパク質が細胞を離れる前に宿主細胞によって切り取られる。シグナル配列は、原核生物及び真核生物にとって天然の様々なタンパク質と結合して存在し得る。
用語「オリゴヌクレオチド」は、本発明のプローブを参照して本明細書で使用されるとき、2個以上、好ましくは4個以上のリボヌクレオチドから構成される分子として定義される。その正確なサイズは多くの要因に依存することができ、次にはオリゴヌクレオチドの最終的な機能及び使用に依存し得る。
用語「プライマー」は、本明細書で使用されるとき、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下、すなわちヌクレオチドとDNAポリメラーゼなどの誘導剤との存在下、且つ好適な温度及びpHに置かれたとき、合成開始点として働くことが可能なオリゴヌクレオチドを、精製された制限消化物におけるとおり天然に存在するにしろ、又は合成で産生されるにしろ、指す。プライマーは一本鎖であっても、或いは二本鎖であってもよく、及び誘導剤の存在下で所望の伸長産物の合成をプライミングするのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー供給源及びその方法の使用を含めた多くの要因に依存し得る。例えば診断適用には、標的配列の複雑さに応じて、オリゴヌクレオチドプライマーは典型的には15〜25ヌクレオチド又はそれ以上を含み、しかしながらそれより少ないヌクレオチドを含んでもよい。
本明細書におけるプライマーは、特定の標的DNA配列の種々の鎖に「実質的に」相補的であるように選択される。これはすなわち、プライマーが、そのそれぞれの鎖とハイブリダイズするのに十分な相補性を有しなければならないことを意味する。従って、プライマー配列は鋳型の正確な配列を反映しなくともよい。例えば、非相補的なヌクレオチド断片がプライマーの5’末端に結合し、プライマー配列の残りの部分が鎖に相補的であってもよい。或いは、非相補的な塩基又はより長い配列をプライマー中に散在させることができ、但しプライマー配列の鎖の配列との相補性は、それとハイブリダイズすることにより伸長産物の合成用鋳型を形成するのに十分であるものとする。
本明細書で使用されるとき、用語「制限エンドヌクレアーゼ」及び「制限酵素」は細菌酵素を指し、その各々が特定のヌクレオチド配列又はその近傍で二本鎖DNAを切断する。
細胞は、外因性又は異種DNAが細胞内部に導入されたとき、かかるDNAにより「形質転換」されている。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNA中に組み込み(共有結合)されても、又はされなくてもよい。例えば原核生物、酵母、及び哺乳動物細胞では、形質転換DNAはプラスミドなどのエピソームエレメントに維持され得る。真核生物細胞に関して、安定に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが染色体複製を介して娘細胞によって受け継がれるように染色体に組み込まれたものである。この安定性は、形質転換DNAを含む娘細胞集団から構成される細胞株又はクローンを構築する真核生物細胞の能力により示される。「クローン」は、単細胞又は共通の祖先から有糸分裂によって誘導される細胞集団である。「細胞株」は、インビトロで多世代にわたり安定に成長する能力を有する初代細胞のクローンである。
2つのDNA配列は、ヌクレオチドの少なくとも約75%(好ましくは少なくとも約80%、及び最も好ましくは少なくとも約90又は95%)が定義されたDNA配列長さにわたり一致するとき、「実質的に相同」である。実質的に相同な配列は、配列データバンクで利用可能な標準ソフトウェアを使用して、又は例えばその特定の系について定義されるストリンジェントな条件下におけるサザンハイブリダイゼーション実験で、配列を比較することにより同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当該分野の技術範囲内である。例えば、Maniatisら,上掲;「DNA Cloning」,第I及びII巻,上掲;「Nucleic Acid Hybridization」,上掲を参照のこと。
本発明の特異的結合メンバー(抗体)をコードするDNA配列であって、例えば図2若しくは図10に提供されるものと同じアミノ酸配列を有するか、又は本明細書若しくは図10に示されるCDRドメイン領域配列を含むが、それに対して縮重している抗体をコードするDNA配列もまた本発明の範囲内であることは理解されなければならない。「〜に対して縮重する」とは、異なる3文字コドンを使用して特定のアミノ酸が指定されることを意味する。各々の特定のアミノ酸をコードするために以下のコドンが交換可能に用いられ得ることは、当該技術分野において公知である。
Figure 2013506664
上記に特定されるコドンはRNA配列に対するものであることは理解されなければならない。DNAに対応するコドンはUの代わりにTを有する。
図2若しくは図10に示されるアミノ酸、抗体断片、CDR領域配列をコードする配列、又は図10の配列中に、特定のコドンが異なるアミノ酸をコードするコドンに変わるように突然変異を作製することができる。かかる突然変異は、概して可能な限り少ないヌクレオチド変化を設けることによって作製される。この種の置換突然変異は、得られるタンパク質中のアミノ酸を、非保存的な方法で変化させることによるか(例えば、特定のサイズ又は特性を有するあるアミノ酸分類に属するアミノ酸から、別の分類に属するアミノ酸にコドンを変化させることにより)、又は保存的な方法で変化させることにより(例えば、特定のサイズ又は特性を有するあるアミノ酸分類に属するアミノ酸から、同じ分類に属するアミノ酸にコドンを変化させることにより)作製することができる。かかる保存的変化は、概して得られるタンパク質の構造及び機能にもたらされる変化がより小さい。非保存的変化は、得られるタンパク質の構造、活性又は機能が変わり易い。本発明は、得られるタンパク質の活性又は結合特性を著しく変えることのない保存的変化を含む配列を含むと考えられるべきである。
以下は、様々なアミノ酸分類の一例である:
非極性のR基を有するアミノ酸
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン
非荷電極性のR基を有するアミノ酸
グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン
荷電極性のR基を有するアミノ酸(Ph6.0で負に帯電)
アスパラギン酸、グルタミン酸
塩基性アミノ酸(pH6.0で正に帯電)
リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0)
別の分類は、フェニル基を有するアミノ酸であり得る:
フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン
別の分類は、分子量(すなわちR基のサイズ)に従い得る:
Figure 2013506664
特に好ましい置換は以下である:
−Argに対するLys、及びその逆、正電荷が維持され得る;
−Aspに対するGlu、及びその逆、負電荷が維持され得る;
−Thrに対するSer、遊離−OHを維持することができる;及び
−Asnに対するGln、遊離NHを維持することができる。
例示的且つ好ましい保存的アミノ酸置換としては、以下のうちのいずれかが挙げられる:
グルタミン酸(E)に対するグルタミン(Q)及びその逆;バリン(V)に対するロイシン(L)及びその逆;スレオニン(T)に対するセリン(S)及びその逆;バリン(V)に対するイソロイシン(I)及びその逆;グルタミン(Q)に対するリジン(K)及びその逆;メチオニン(M)に対するイソロイシン(I)及びその逆;アスパラギン(N)に対するセリン(S)及びその逆;メチオニン(M)に対するロイシン(L)及びその逆;グルタミン酸(E)に対するリジン(L)及びその逆;セリン(S)に対するアラニン(A)及びその逆;フェニルアラニン(F)に対するチロシン(Y)及びその逆;アスパラギン酸(D)に対するグルタミン酸(E)及びその逆;イソロイシン(I)に対するロイシン(L)及びその逆;アルギニン(R)に対するリジン(K)及びその逆。
アミノ酸置換はまた、アミノ酸を特に好ましい特性で置換するために導入されてもよい。例えばCysが、別のCysとのジスルフィド架橋に利用可能な部位として導入されてもよいが導入されてもよい。Hisが特に「触媒的な」部位として導入されてもよい(すなわち、Hisは酸又は塩基として働くことができ、生化学的触媒作用において最も一般的なアミノ酸である)。その特に平面的な構造からProが導入されてもよく、これはタンパク質の構造においてβターンを誘導する。
2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、及び最も好ましくは少なくとも約90又は95%)が同一であるか、又は保存的置換を呈するとき、「実質的に相同」である。2つの抗体のCDR領域は、1つ又はmreのアミノ酸が類似した又は保存的なアミノ酸置換で置換されるとき実質的に相同であり、ここでその1つ又は複数の抗体は、本明細書に開示されるESC11又はESC14の1つ又は複数の結合及び活性プロファイルを有する。
DNAコンストラクトの「非相同」領域は、天然ではその大型分子との関連性が認められない大型DNA分子内の識別可能なDNAセグメントである。従って、非相同領域が哺乳動物遺伝子をコードするとき、その遺伝子には通常、供給源生物のゲノム中では哺乳動物ゲノムDNAに隣接しないDNAが隣接し得る。非相同コード配列の別の例は、コード配列それ自体が天然には存在しないコンストラクトである(例えば、ゲノムコード配列がイントロンを含むcDNA、又は天然遺伝子と異なるコドンを有する合成配列)。対立遺伝子変異又は自然界で起こる突然変異イベントは、本明細書に定義されるとおりのDNAの非相同領域をもたらさない。
DNA配列は、発現制御配列が当該のDNA配列の転写及び翻訳を制御及び調節するとき、発現制御配列に「作動可能に連結」されている。用語「作動可能に連結された」は、発現させるDNA配列の前に適切な開始シグナル(例えば、ATG)を有することと、正しいリーディングフレームを維持することにより、発現制御配列の制御下でのDNA配列の発現及びDNA配列によりコードされる所望の産物の産生を可能にすることとを含む。組換えDNA分子に挿入しようとする遺伝子が適切な開始シグナルを含まない場合、遺伝子の前にかかる開始シグナルを挿入することができる。
用語「標準ハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション及び洗浄の双方について5×SSC及び65℃と実質的に同等の塩及び温度条件を指す。しかしながら当業者は、かかる「標準ハイブリダイゼーション条件」が、緩衝液中のナトリウム及びマグネシウム濃度、ヌクレオチド配列長さ及び濃度、ミスマッチ率、ホルムアミド率などを含む詳細な条件に依存することを理解するであろう。また、標準ハイブリダイゼーション条件」の決定では、ハイブリダイズする2つの配列がRNA−RNA、DNA−DNA又はRNA−DNAのいずれであるかも重要である。かかる標準ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって周知の式に従い容易に決定され、ここでハイブリダイゼーションは、典型的にはT予測値又は測定値より10〜20℃低く、必要に応じてより高いストリンジェンシーの洗浄を伴う。
用語「薬剤」は、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、化学的化合物及び小分子を含む任意の分子を意味する。特に薬剤という用語は、試験化合物又は薬物候補化合物などの化合物を含む。
用語「アゴニスト」は、最も広義には、リガンドであって、そのリガンドが結合する受容体を刺激するリガンドを指す。
用語「アッセイ」は、化合物の特定の特性を計測するために用いられる任意の方法を意味する。「スクリーニングアッセイ」は、一群の化合物からその活性に基づき化合物を特徴付け、又は選択するために用いられる方法を意味する。
用語「予防する」又は「予防」は、疾患を引き起こす媒介物に曝露され得る、又は疾患に罹患し易い対象において、疾患又は障害を獲得又は発症するリスクを疾患の発病前に低減すること(すなわち、疾患の臨床症候の少なくとも1つを発症させないこと)を指す。
用語「予防法」は用語「予防」と関連し、及びそれに包含され、疾患を治療又は治癒ではなく、予防することを目的とする対策又は手順を指す。予防対策の非限定的な例としては、ワクチンの投与;例えば動けないことに起因して血栓症のリスクがある入院患者に対する低分子量ヘパリンの投与;及びマラリアが風土病であるか、又はマラリアに罹るリスクが高い地域への訪問に先立つクロロキンなどの抗マラリア剤の投与を挙げることができる。
「治療有効量」は、医師又は他の臨床医が求める対象の生物学的又は医学的応答を誘発し得る薬物、化合物、抗菌薬、抗体、又は医薬品の量を意味する。特に、グラム陽性菌感染症及びグラム陽性菌の増殖に関連して、用語「有効量」は、殺菌及び/又は静菌効果を有することを含め、グラム陽性菌の量又は感染程度の生物学的に有意な減少をもたらし得る有効量の化合物又は薬剤を含むことが意図される。語句「治療有効量」は、本明細書では、感染性細菌の増殖若しくは量、又はその存在及び活性に伴い得るとおりの他の病理学的特徴、例えば体温上昇若しくは白血球数の臨床的に有意な変化を予防し、及び好ましくは、少なくとも約30パーセント、より好ましくは少なくとも50パーセント、最も好ましくは少なくとも90パーセントだけ低減するのに十分な量を意味して用いられる。
任意の疾患又は感染症についての用語「治療する」又は「治療」は、一実施形態において、疾患又は感染症を改善すること(すなわち、疾患又は感染病原体若しくは細菌の増殖を止めること、又はその臨床症候の少なくとも1つの発現、範囲若しくは重症度を低減すること)を指す。別の実施形態において、「治療する」又は「治療」は、対象が認識できないものであり得る少なくとも1つの身体パラメータを改善することを指す。さらに別の実施形態において、「治療する」又は「治療」は、身体的に(例えば、認識可能な症候の安定化)、生理学的に(例えば、身体パラメータの安定化)、或いはその双方について、疾患又は感染症を調節することを指す。さらなる実施形態において、「治療する」又は「治療」は、疾患の進行を遅延させること、又は感染症を低減することに関する。
語句「薬学的に許容可能な」は、ヒトに投与したとき生理学的に耐容可能で、且つ典型的にはアレルギー反応、又は同様の、急性胃蠕動、眩暈などの有害な反応をもたらすことのない分子実体及び組成物を指す。
本明細書で使用されるとき、「pg」はピコグラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「ug」又は「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「ul」又は「μl」はマイクロリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「l」はリットルを意味する。
B.詳細な開示
本発明は、診断及び治療を目的とした、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に対する抗体を提供する。特に、FAPに特異的な抗体が提供され、ここで前記抗体はヒト及びマウスFAPを認識し、且つそれとの結合能を有する。本明細書では特にFab抗体が提供される。本発明の抗体は、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含め、活性化した間質に関連する病態における診断及び治療用途を有する。詳細な態様において、本発明の抗体は、癌、例えば乳癌、肺癌、結腸直腸癌及び卵巣癌を含む上皮癌に適用することができる。
一般的な態様において、本発明は、ヒト及びマウスFAPに対するFAP抗体であって、CD26(ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV))と交差反応/結合しないFAP抗体を提供する。広義の態様において、本発明は、ヒトFAPを認識する単離された特異的結合メンバー、特に抗体又はその断片、例えばFab断片及び単鎖若しくはドメイン抗体を提供する。さらなる態様において、本発明は、ヒトFAPを認識し、且つ図2及び/又は図10に示されるとおりの配列を含むESC11又はESC14のアミノ酸配列を含む抗体又はその断片を提供する。かかる一態様において、本発明は、図10に示される可変領域CDR配列を含む抗ヒトFAP抗体を提供する。
特定の態様において、本発明の抗体又は断片はヒト及びマウスFAPとの反応性を有し、それとの結合能を有する。さらなる態様において、抗体又は断片はCD26(DPPIV)と反応せず、それに結合しない。さらなる態様において、抗体又は断片はFAPのジペチジルペプチダーゼ(dipetidyl peptidase)活性に直接影響を及ぼさない。さらに別の態様において、抗体又は断片はFAP発現の下方制御を媒介する。別の態様において、抗体又は断片はFAP発現細胞におけるアポトーシスを誘導し、媒介する。さらに追加的な態様において、抗体又は断片はECMタンパク質との細胞接着を阻害する。従って、本発明の1つ以上の抗FAP抗体又はその1つ以上の活性断片は、以下の特徴のうちの少なくとも2つを有する:ヒト及びマウスFAPとの反応性を有する;CD26(DPPIV)と反応又は結合しない;FAPのジペプチジルペプチダーゼ活性に直接影響を及ぼさない;FAP発現の下方制御を媒介する;FAP発現細胞におけるアポトーシスを誘導、又は他の形で媒介する;及びECMタンパク質との細胞接着を阻害する。
ヒト及びマウスFAPを認識するモノクローナル抗体のパネルは、様々な特性についてスクリーニングすることができる;すなわち、アイソタイプ、エピトープ、親和性等。特に興味深い抗体は、例示的抗体ESC11及びESC14の活性を模倣し、且つヒト及びマウスFAPに対して親和性を有し、CD26と反応せず、且つFAPのジペプチジルペプチダーゼ活性に直接的な影響を及ぼさない抗体である。かかる抗体は、特異的結合メンバー活性アッセイで容易に同定及び/又はスクリーニングすることができる。
一般に、実質的に図10のCDR領域として示されるとおりのアミノ酸配列を含むCDR領域は、CDR領域が間質タンパク質FAP、特にヒト及びマウスFAPと結合することを可能にする構造中に保持され得る。
「実質的に示されるとおりの」とは、本発明の可変領域配列、及び/又は特にCDR配列が、図10の特定の領域と同一であるか、或いは高度に相同であることを意味する。「高度に相同である」とは、少数の置換、好ましくは1〜8個、好ましくは1〜5個、好ましくは1〜4個、又は1〜3個、又は1個若しくは2個の置換のみが可変領域配列及び/又はCDR配列に作製され得ることを企図する。substantuially〜として示されるとおりの、という用語は、特に、本抗体の特異性及び/又は活性に実質的な又は有意な影響を及ぼすことのない保存的アミノ酸置換を包含する。保存的アミノ酸置換は、本明細書に、及びCDR領域配列について図10にも例示される。
CDR配列を維持するため、置換は可変領域配列においてCDRの外側に作製されてもよい。従って、その可変領域配列の変化又は代替的な非相同の若しくはベニヤリングされた(veneered)可変領域配列は、CDR配列が維持され、且つ可変領域配列の残りの部分が置換され得るように導入又は利用され得る。
或いは、置換は、特にCDRに作製されてもよい。本発明の抗体のCDR配列は、図10を含めて本明細書に示され、及び説明される。抗体ESC11は、図10に示されるとおり、重鎖CDR配列GGSISSNNYYWG(配列番号11)、SIYYSGSTNYNPSLKS(配列番号12)及びGARWQARPATRIDGVAFDI(配列番号13)、並びに軽鎖CDR配列RASQTVTRNYLA(配列番号17)、GASNRAA(配列番号18)及びQQFGSPYT(配列番号19)を含む。抗体ESC14は、図10に示されるとおり、重鎖CDR配列GYTFTSYGIS(配列番号14)、WISAYNGNTNYAQKLQG(配列番号15)及びDWSRSGYYLPDY(配列番号16)、並びに軽鎖CDR配列RSSQSLLHSNGYNYLD(配列番号20)、LGSNRAS(配列番号21)及びMQALQTPPT(配列番号22)を含む。ESC11及びESC14抗体CDR配列の相同性及び類似性に基づくコアCDR配列は、重鎖について、G G/Y S/T I/F S/T S N/− N/− Y Y/G W/I G/SのCDR I、S/W I S/− Y/A Y S/N G S/N T N Y N/A P/Q S/K L K/Q S/GのCDRII、及びG/D A/− R/− W Q/− A/− R/− P/− A/− T/S R I/S D/G G/Y V/Y A/L F/P D I/YのCDRIIIを含む。ESC11及びESC14抗体CDR配列の相同性及び類似性に基づくコアCDR配列は、軽鎖について、R A/S S Q T/S V/L T/L R/H S/− N/− G/− Y/− N Y L A/DのCDR I、G/L A/G S N R A A/SのCDRII、及びQ/M Q A/− F/L G/Q S/T P Y/P TのCDRIIIを含む。
上記に説明及び企図される置換を有する本発明の抗体は、抗体ESC11及びESC14を含み、且つ本明細書及び特許請求の範囲に示されるとおりの特性を有する例示的抗体と同等の活性及び特異性を維持するように選択される。
本発明のCDRを保持するための構造は、概して、再編成された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる天然に存在するVH及びVL抗体可変ドメインのCDR領域に対応する位置にCDR領域が位置する抗体重鎖又は軽鎖配列又はその実質的な部分の構造であり得る。免疫グロブリン可変ドメインの構造及び位置は、Kabat,E.A.ら,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」第4版.US Department of Health and Human Services.1987年、及び現在インターネット上で利用可能なその改訂版(http://immuno.bme.nwu.edu))を参照することにより決定され得る。
可変ドメインは、任意の生殖細胞系列又は再編成されたヒト可変ドメインに由来してもよく、又は公知のヒト可変ドメインのコンセンサス配列をベースとする合成可変ドメインであってもよい。前段落に定義したとおりの本発明のCDR由来配列が、CDR領域を欠く可変ドメインのレパートリーに組換えDNA技法を用いて導入されてもよい。
例えば、Marksら(Bio/Technology,1992年,10:779〜783頁)は、抗体可変ドメインのレパートリーの作製方法について記載しており、ここでは可変ドメイン範囲の5’末端に対する、又はそれに隣接するコンセンサスプライマーを、ヒトVH遺伝子の第3のフレームワーク領域に対するコンセンサスプライマーと共に使用して、1つ又は複数のCDRを欠くVH可変ドメインのレパートリーが提供される。Marksらはさらに、このレパートリーをどのように特定の抗体のCDRと組み合わせ得るかについて記載している。次にレパートリーを、国際公開第92/01047号パンフレットのファージディスプレイシステムなどの好適な宿主系において提示してもよく、それにより好適な特異的結合メンバーが選択され得る。レパートリーは、10個以上の個別のメンバー、例えば10〜10個又は1010個のメンバーのうちのいずれからなってもよい。類似のシャフリング技法又はコンビナトリアル技法もまたStemmer(Nature,1994年,370:389〜391頁)により開示され、この発明者はβ−ラクタマーゼ遺伝子に関連する技法を記載しているが、しかしながらこの手法は抗体の生成に使用され得ると見ている。
さらなる代替例は、例えばAb VH又はVL遺伝子のランダム突然変異誘発を使用して全可変ドメイン内に突然変異を生じさせて、本発明のCDR由来配列を有する新規VH又はVL領域を生成することである。かかる技法は、Gramら(1992年,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,89:3576〜3580頁)により記載され、この発明者はエラープローンPCRを使用した。用いられ得る他の方法は、突然変異生成の対象をVH又はVL遺伝子のCDR領域に向けることである。かかる技法は、Barbasら(1994年,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,91:3809〜3813頁)及びSchierら(1996年,J.Mol.Biol.263:551〜567頁)により開示されている。
上述の技法は全て、かかるものとして当該技術分野で公知であり、それ自体は本発明の一部をなすものではない。当業者は、かかる技法を用いることにより、当該技術分野でルーチンの方法論を用いて本発明の特異的結合メンバーを提供することが可能であろう。
免疫グロブリン可変ドメインの実質的な部分は、少なくとも3つのCDR領域を、介在するそのフレームワーク領域と共に含み得る。好ましくは、この部分はまた、第1及び第4のフレームワーク領域の一方又は双方の少なくとも約50%も含み、この50%は第1のフレームワーク領域のC末端50%及び第4のフレームワーク領域のN末端50%である。可変ドメインの実質的な部分のN末端又はC末端のさらなる残基は、通常は天然に存在する可変ドメイン領域に関連しないものであり得る。例えば、組換えDNA技法によって作製する本発明の特異的結合メンバーの構造は、クローニング又は他の操作ステップの促進のために導入されるリンカーによってコードされるN末端又はC末端残基の導入をもたらすことができる。他の操作ステップとしては、本明細書に提供されるとおりの、及び/又は当業者に公知の免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(例えばダイアボディの産生における)又はタンパク質標識を含め、さらなるタンパク質配列に対して本発明の可変ドメインをつなぎ合わせるリンカーの導入が挙げられる。
本発明の好ましい態様では、実質的に図2及び/又は図10に示される配列をベースとする結合ドメインの対を含む特異的結合メンバーが好ましいが、これらの配列のいずれかをベースとする単一の結合ドメインが本発明のさらなる態様をなす。免疫グロブリンVHドメインは標的抗原と特異的な形で結合する能力を有することが知られているため、実質的に図2及び/又は図10に示される配列をベースとする結合ドメインの場合、かかる結合ドメインは、間質細胞、特に腫瘍間質上のFAPに対する標的化剤として使用することができる。
これは、米国特許第5,969,108号明細書に開示されるとおりのいわゆる階層的デュアルコンビナトリアル手法を用いるファージディスプレイスクリーニング方法により実現されてもよく、この方法では、H鎖又はL鎖のいずれかのクローンを含む個別のコロニーを用いて他方の鎖(L又はH)をコードするクローンの完全ライブラリを感染させ、得られた2本鎖特異的結合メンバーを、この文献に記載されるようなファージディスプレイ技法に従い選択する。この技法はまた、Marksら、前掲書にも開示されている。ファージライブラリ及びファージディスプレイ選択システム及び技法はまた、本明細書にも提供される。
本発明の特異的結合メンバーは、抗体定常領域又はその一部をさらに含み得る。例えば、図2及び図10の配列をベースとする特異的結合メンバーが、そのC末端で、ヒトCκ鎖又はCλ鎖、好ましくはCλ鎖を含む抗体軽鎖定常ドメインに結合されてもよい。同様に、図10、図12又は図13の配列をベースとする特異的結合メンバーが、そのC末端で、任意の抗体アイソタイプ、例えばIgG、IgA、IgE、IgD及びIgM並びにアイソタイプサブクラスのいずれか、特にIgG1、IgG2b、及びIgG4に由来する免疫グロブリン重鎖の全て又は一部に結合されてもよい。IgG1が好ましい。
抗体、又はその任意の断片は、任意の細胞毒素、細菌の又は他の外毒素、例えばシュードモナス外毒素、リシン、又はジフテリア毒素とコンジュゲート化又は組換え融合されてもよい。使用される毒素の一部は、全毒素であっても、又は毒素の任意の特定のドメインであってもよい。かかる抗体−毒素分子の使用は、様々な種類の癌の標的化及び治療法について成功している。例えばPastan,Biochim Biophys Acta.1997 Oct 24;1333(2):C1〜6頁;Kreitmanら,N Engl J Med.2001 Jul 26;345(4):241〜7頁;Schnellら,Leukemia.2000 Jan;14(1):129〜35頁;Ghetieら,Mol Biotechnol.2001 Jul;18(3):251〜68頁を参照のこと。
二特異性及び三特異性多量体は、異なるscFv分子の会合によって形成されることができ、腫瘍へのT細胞動員(免疫療法)、ウイルスの再標的化(遺伝子療法)の架橋結合試薬として、及び赤血球凝集試薬(免疫診断)として設計されている。例えば、Todorovskaら,J Immunol Methods.2001 Feb 1;248(1〜2):47〜66頁;Tomlinsonら,Methods Enzymol.2000;326:461〜79頁;McCallら,J Immunol.2001 May 15;166(10):6112〜7頁を参照のこと。
完全ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の大部分を有するトランスジェニックマウスを免疫化することにより調製することができる。これらのマウス、かかるマウスの例はXenomouse(商標)(Abgenix,Inc.)(米国特許第6,075,181号明細書及び同第6,150,584号明細書)、HuMAb−Mouse(商標)(Medarex,Inc./GenPharm)(米国特許出願第5545806号明細書及び同第5569825号明細書)、TransChromo Mouse(商標)(キリンビール株式会社)及びKM Mouse(商標)(Medarex/キリンビール株式会社)であり、当該技術分野で周知されている。次に抗体を、例えば標準的なハイブリドーマ技法によるか、又はファージディスプレイにより調製することができる。これらの抗体は、次に完全ヒトアミノ酸配列のみを含み得る。完全ヒト抗体はまた、ファージディスプレイを使用してヒトライブラリから生成することもできる。ファージディスプレイは、Hoogenboomら及びMarksら(Hoogenboom HR及びWinter G.(1992年)J Mol Biol.227(2):381〜8頁;Marks JDら(1991年)J Mol Biol.222(3):581〜97頁;及びまた、米国特許出願第5885793号明細書及び同第5969108号明細書)にあるとおり、当業者に周知された、本明細書に提供されるとおりの方法を使用して実施され得る。
本発明の抗体は、検出可能標識又は機能標識で標識されてもよい。検出可能標識としては、限定はされないが、同位体H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、111In、117Lu、211At、198Au、67Cu、225Ac、213Bi、99Tc及び186Redなどの放射性標識が挙げられ、これは抗体イメージングの技術分野において公知の従来の化学を用いて本発明の抗体に結合させることができる。標識としてはまた、蛍光標識(例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド(Texas Red))及び当該技術分野でMRI−CTイメージングに従来使用される標識も含まれる。標識にはまた、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−グルコロニダーゼ(β−glucoronidase)、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼなどの酵素標識も含まれる。標識にはさらに、特定の同種の検出可能部分、例えば標識アビジンとの結合によって検出され得るビオチンなどの化学部分が含まれる。機能標識としては、腫瘍組織の破壊を生じさせるため腫瘍部位に標的化されるように設計される物質が含まれる。かかる機能標識としては、5−フルオロウラシル又はリシンなどの細胞傷害性薬物、及び腫瘍部位でプロドラッグを活性薬物に変換する能力を有する細菌カルボキシペプチダーゼ又はニトロレダクターゼなどの酵素が挙げられる。
また、特異的結合メンバー、抗体及び/又はそのサブユニットの産生又は活性を調節する、断片を含めた抗体、及び薬物は、特定の診断適用を有することができ、例えば、癌、前癌病変などの病態、過剰増殖性の細胞成長に関連する、又はそれから生じる病態などを検出及び/又は計測する目的で利用され得る。例えば、特異的結合メンバー、抗体又はそのサブユニットを使用して、それ自体に対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の双方を、例えば融合マウス脾臓リンパ球及び骨髄腫細胞を利用するハイブリドーマ技法などの公知の技法によって様々な細胞培地中で産生し得る。同様に、本発明の特異的結合メンバーの1つ又は複数の活性を模倣するか、又はそれに拮抗する小分子が発見又は合成されてもよく、診断及び/又は治療プロトコルにおいて用いられ得る。
放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片は、インビトロ診断技法において、及びインビボ放射線イメージング技法において、及び放射免疫療法において有用である。インビボイメージングの場合、本発明の特異的結合メンバーは、1つ又は複数の放射性同位体ではなく、限定はされないが磁気共鳴画像促進剤を含む造影剤にコンジュゲート化されてもよく、ここで例えば抗体分子には、キレート基を介して多数の常磁性イオンが負荷される。キレート基の例としては、EDTA、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル及びポリオキシムが挙げられる。常磁性イオンの例としては、ガドリニウム、鉄、マンガン、レニウム、ユウロピウム、ランタニウム(lanthanium)、ホルミウム及びフェルビウム(ferbium)が挙げられる。本発明のさらなる態様において、放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片、特に放射性イムノコンジュゲートは、放射免疫療法において、特に癌療法の放射性標識抗体として有用である。さらに別の態様において、放射性標識された特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片は、放射免疫ガイド下手術技法において有用であり、ここでは癌細胞、前癌性細胞、腫瘍細胞、及び過剰増殖細胞の存在及び/又は位置が、かかる細胞の摘出手術前、その最中、又はその後に標識によって同定及び指示され得る。
本発明の特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片が他の分子又は薬剤とコンジュゲート化されるか、又はそれに結合される本発明のイムノコンジュゲート又は抗体融合タンパク質としてさらには、限定はされないが、化学的アブレーション剤、毒素、免疫調節薬、サイトカイン、細胞傷害剤、化学療法剤又は薬物にコンジュゲート化された結合メンバーが挙げられる。
放射免疫療法(RAIT)は臨床に入っており、様々な抗体イムノコンジュゲートを使用して効力が実証されている。131I標識ヒト化抗癌胎児性抗原(抗CEA)抗体hMN−14は結腸直腸癌で評価されており(Behr TMら(2002年)Cancer 94(補遺4):1373〜81頁)、及び90Y標識を有する同じ抗体が甲状腺髄様癌で判定されている(Stein Rら(2002年)Cancer 94(1):51〜61頁)。モノクローナル抗体を使用した放射免疫療法もまた、非ホジキンリンパ腫及び膵癌について判定及び報告されている(Goldenberg DM(2001年)Crit Rev Oncol Hematol 39(1〜2):195〜201頁;Gold DVら(2001年)Crit Rev Oncol Hematol 39(1〜2)147〜54頁)。特定の抗体による放射免疫療法についてもまた米国特許第6,306,393号明細書及び同第6,331,175号明細書に記載がある。放射免疫ガイド下手術(RIGS)もまた臨床に入っており、抗CEA抗体及び腫瘍関連抗原に対する抗体の使用を含め、効力及び有用性が実証されている(Kim JCら(2002年)Int J Cancer 97(4):542〜7頁;Schneebaum Sら(2001年)World J Surg 25(12):1495〜8頁;Avital Sら(2000年)Cancer 89(8):1692〜8頁;McIntosh DGら(1997年)Cancer Biother Radiopharm 12(4):287〜94頁)。
癌又は動物異種移植試験のインビボ動物モデルは、FAP調節並びにインビボでのECMタンパク質に対する間質細胞接着の阻害及び腫瘍進行及び/又は浸潤の阻害をさらに判定することを含め、本発明の特異的結合メンバー及び抗体又はその断片のさらなる、又は追加的なスクリーニング、判定、及び/又は検証に当業者によって利用され得る。かかる動物モデルとしては、限定はされないが、創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含め、活性化した間質に関連する病態のモデルが挙げられ、特に正常組織の取り込みに関連する問題がない。その進行、遊走及び/又は浸潤が間質線維芽細胞に関与し、それにより促進され、又はそれと関連付けられる癌のモデルは、特に本発明の抗体に対して感受性があり、その標的となる。かかる癌としては、上皮癌、例えば、乳癌、肺癌、結腸直腸癌及び卵巣癌が挙げられる。例えば、但し限定なしに、マウス肉腫細胞株1m8は高レベルのFAPを発現して同系C3hマウスで成長する。これは、直接的な腫瘍ターゲッティングのため、及び/又は抗FAP抗体の抗腫瘍効果及び抗癌効果を判定するために異種移植実験又は肉腫モデルで利用され得る。
本発明の抗体は、治療を必要とする患者に対し、筋肉内注射、血流中若しくはCSF中への注射、又は腫瘍部位への直接的な注射によることを含む任意の好適な経路によって投与されてもよい。正確な用量は、抗体が診断用か又は治療用か、腫瘍のサイズ及び位置、抗体の正確な性質(全抗体か、断片か、ダイアボディか等)、及び抗体に結合する検出可能標識又は機能標識の性質を含め、多くの要因に依存し得る。放射性核種が治療法に使用される場合、好適な最大単回用量は、約45mCi/m、最大約250mCi/mであり得る。好ましい投薬量は15〜40mCiの範囲であり、さらに好ましい投薬量は20〜30mCiの範囲、又は10〜30mCiの範囲である。かかる治療法では、骨髄又は幹細胞置換が必要となり得る。腫瘍イメージング又は腫瘍治療のいずれについても、典型的な抗体用量は0.5〜40mg、好ましくは1〜4mgの範囲のF(ab’)2型の抗体であり得る。裸の抗体は、好ましくは用量当たり20〜1000mgのタンパク質、又は用量当たり20〜500mgのタンパク質、又は用量当たり20〜100mgのタンパク質の用量で投与される。これは、成人患者の単回治療の用量であり、小児及び乳児に対しては比例して調整され得るとともに、また他の抗体フォーマットに対しても、例えば分子量に比例して調整され得る。治療は医師の判断により、1日1回、週2回、週1回又は月1回の間隔で繰り返され得る。
医薬組成物及び治療組成物
本発明の特異的結合メンバーは、通常は医薬組成物の形態で投与されてもよく、この医薬組成物は特異的結合メンバーに加え、少なくとも1つの構成成分を含み得る。従って本発明に係る、且つ本発明において使用される医薬組成物は、有効成分に加え、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤又は当業者に公知の他の材料を含み得る。かかる材料は非毒性でなければならず、且つ有効成分の効力を妨げるものであってはならない。担体又は他の材料の正確な性質は投与経路に依存することができ、投与経路は、経口か、又は注射、例えば静脈内注射によるか、又は腫瘍部位に沈着させることによるものであり得る。
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル、散剤又は液体の形態であってよい。錠剤は、ゼラチン又は補助剤などの固体担体を含み得る。液体医薬組成物は概して、水、石油、動物油若しくは植物油、鉱油又は合成油などの液体担体を含む。生理食塩水液、デキストロース又は他の糖溶液又はグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールが含まれてもよい。
静脈内の、注射用、又は罹患部位への注射用には、有効成分は、パイロジェンフリーであり、且つ好適なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性媒体を使用して、好適な溶液を調製することが十分に可能である。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤が含まれてもよい。
組成物は、単独で投与されても、又は他の治療、療法薬若しくは薬剤との組み合わせで、治療する病態に応じて同時に、或いは逐次的に、投与されてもよい。加えて、本発明は、本明細書に記載される結合メンバー、特に抗体又はその断片と、他の薬剤又は療法薬、例えば、抗癌剤若しくは抗癌療法薬、ホルモン、抗有糸分裂剤、抗アポトーシス剤、抗体、又は免疫調節薬とを含む組成物を企図し、包含する。より一般的には、これらの抗癌剤は、限定はされないが、チロシンキナーゼ阻害薬又はリン酸化カスケード阻害薬、翻訳後モジュレーター、細胞増殖又は分裂阻害薬(例えば抗有糸分裂薬)、又はシグナル伝達阻害薬であり得る。他の治療又は療法薬としては、疼痛緩和薬、例えば非ステロイド系抗炎症薬(例えば、アスピリン、パラセタモール、イブプロフェン又はケトプロフェン)若しくはモルヒネなどのアヘン薬、又は制吐薬の好適な用量の投与を挙げることができる。本組成物は、チロシンキナーゼ阻害薬(限定はされないが、AG1478及びZD1839、STI571、OSI−774、SU−6668が挙げられる)、ドキソルビシン、テモゾロミド、シスプラチン、カルボプラチン、ニトロソウレア、プロカルバジン、ビンクリスチン、ヒドロキシウレア、5−フルオルラシル(5−fluoruracil)、シトシンアラビノシド、シクロホスファミド、エピポドフィロトキシン、カルムスチン、ロムスチン、及び/又は他の化学療法剤との組み合わせで(逐次的に(すなわち前後して)、或いは同時に)投与することができる。従ってこれらの薬剤は、特異的抗癌剤、若しくは免疫細胞応答調節物質であってもよく、又はドキソルビシン、シスプラチン、テモゾロミド、ニトロソウレア、プロカルバジン、ビンクリスチン、ヒドロキシウレア、5−フルオルラシル(5−fluoruracil)、シトシンアラビノシド、シクロホスファミド、エピポドフィロトキシン、カルムスチン、若しくはロムスチンなどの、より一般的な抗癌剤及び抗新生物剤であってもよい。加えて本組成物は、免疫応答及び癌細胞又は腫瘍の低減又は消失を刺激するデキサメタゾンなどのホルモン類、免疫調節薬、例えば、インターロイキン類、腫瘍壊死因子(TNF)又は他の成長因子、コロニー刺激因子、又はサイトカイン類と共に投与されてもよい。本組成物はまた、他の抗腫瘍抗原抗体と共に投与されてもよく、又はそれを併せた組み合わせを含んでもよい。
加えて本発明は、結合メンバーを従来の放射線療法と併用するための治療組成物を企図し、包含する。
本発明は、本発明の治療法の実施において有用な治療組成物をさらに企図する。本治療組成物は、混合物中に、薬学的に許容可能な賦形剤(担体)と、有効成分として本明細書に記載されるとおりの特異的結合メンバー、そのポリペプチド類似体又はその断片の1つ又は複数とを含む。好ましい実施形態において、本組成物は、本結合メンバー/抗体の標的細胞との特異的結合を調節する能力を有する抗原を含む。
ポリペプチド、類似体又は活性断片を有効成分として含む治療組成物の調製は、当該技術分野において十分に理解されている。典型的には、かかる組成物は注射液として、液状の溶液又は懸濁液のいずれかとして調製される。しかしながら、注射前に液体中に溶解させるか、又はその中に懸濁するのに好適な固体形態もまた、調製することができる。調製物はまた、乳化されてもよい。有効治療成分は、薬学的に許容可能な、且つ有効成分に適合する賦形剤と混合されることが多い。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組み合わせである。加えて、必要であれば組成物は、有効成分の有効性を亢進する湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質を少量含んでもよい。
ポリペプチド、類似体又は活性断片は、中和された薬学的に許容可能な塩形態として治療組成物中に配合することができる。薬学的に許容可能な塩としては、例えば塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される酸付加塩(ポリペプチド又は抗体分子の遊離アミノ基と共に形成される)が挙げられる。遊離カルボキシル基から形成される塩もまた、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
治療抗体含有又は活性断片含有組成物は、従来、例えば単位用量の注射によるなどして静脈内投与される。用語「単位用量」は、本発明の治療組成物を参照して使用されるとき、ヒトに対する単位投薬量として好適な、物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な希釈剤;すなわち担体、又は媒体と関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定分量の活性物質を含有する。
組成物は、投薬製剤と適合する形で、且つ治療有効量で投与される。投与される分量は、治療される対象、対象の免疫系の有効成分利用能、及び求められるペプチド/MHC又は腫瘍抗原結合能の程度に依存する。有効成分の投与されるべき正確な所要量は従事者の判断に依存し、個人ごとに特有である。初回投与及び継続投与に好適なレジームもまた様々であり、初回投与と、その後の続く注射又は他の投与による1つ以上の時間間隔での反復投与が含まれ得る。或いは、所望の療法の血中又は部位における適切且つ十分な濃度を維持するのに十分な連続静脈内注入が企図される。
経口投与用の医薬組成物は、錠剤、カプセル、散剤又は液体の形態であってよい。錠剤は、ゼラチン又は補助剤などの固体担体を含み得る。液体医薬組成物は概して、水、石油、動物油若しくは植物油、鉱油又は合成油などの液体担体を含む。生理食塩水液、デキストロース又は他の糖溶液又はグリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールが含まれてもよい。
静脈内の、注射用、又は罹患部位への注射用には、有効成分は、パイロジェンフリーであり、且つ好適なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性媒体を使用して、好適な溶液を調製することが十分に可能である。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤が含まれてもよい。
診断アッセイ
本発明はまた、FAPの発現又はその存在量の亢進、FAP媒介性の媒介性の癌(FAP−mediated mediated cancer)、上皮癌、又はより一般的に癌、創傷治癒、変形性関節症を、1つ又は複数の本特異的結合メンバーによって認識されるその能力を参照することにより検出する方法を含め、様々な診断適用にも関する。ペプチド複合体は、間質細胞、線維芽細胞及び/又は腫瘍細胞において同定、標的化、標識、及び/又は定量することができる。
本発明の特異的結合メンバー、特に抗体及びその断片の診断適用は、当業者に周知の標準的な、且つ本記載に基づくインビトロ及びインビボ適用を含む。腫瘍及び癌の状態をインビトロで判定及び評価するための診断アッセイ及びキットを利用して、癌、前癌性病態、過剰増殖性の細胞成長に関連する病態を有することが分かっているか、若しくはそれを有することが疑われる試料、又は腫瘍サンプル由来の試料を含む患者試料が診断、評価及びモニタされ得る。癌、腫瘍及び転移性疾患の状態の判定及び評価はまた、薬物臨床試験に対する、又は異なる薬剤若しくは結合メンバーと比べた、本発明の特定の化学療法剤又は特異的結合メンバー、特に抗体、例えばその組み合わせの投与に対する患者の適合性の決定においても有用である。この種の診断モニタリング及び判定は、既に乳癌でHER2タンパク質に対する抗体(Hercep Test、Dako Corporation)を実際に利用しており、ここでこのアッセイは、ハーセプチン(Herceptin)を使用する抗体療法について患者を評価するためにも用いられている。インビボ適用としては、放射線イメージングを含め、腫瘍のイメージング又は個人の癌の状態判定が挙げられる。
好ましくは、本発明の診断方法で使用される抗体はヒト抗体である。より好ましくは、抗体は、単鎖抗体又はドメイン抗体である。加えて、本明細書で使用される抗体分子は、全抗体分子のFab、Fab’、F(ab’)又はF(v)部分の形態、特にFabであってもよい。
上記に詳細に説明したとおり、FAPの1つ又は複数の抗体は、ファージディスプレイ技法及び突然変異生成及び組換え技法を含む標準的な方法によって産生及び単離することができる。
細胞中のFAPの存在は、かかる決定に適用可能な通常のインビトロ又はインビボ免疫学的手順によって確認することができる。多くの有用な手順が公知である。このような手順及びその応用は、全て当業者が精通していることであり、従って本発明の範囲内で利用され得る。「競合」手順については、米国特許第3,654,090号明細書及び同第3,850,752号明細書に記載される。「サンドイッチ」手順については、米国特許第RE 31,006号明細書及び同第4,016,043号明細書に記載される。「二重抗体」、又は「DASP」手順などのさらに他の手順が公知である。
本発明のさらなる実施形態において、医療専門家による使用に好適な市販の検査キットが、疑われる標的細胞中における、限定はされないが増幅されたものを含む、の異常な発現及び/又は突然変異の存在又は非存在を決定するように調製されてもよい。上記で考察される試験技法において、かかるキットの一つのクラスは、当然ながら選択される方法、例えば、「競合」、「サンドイッチ」、「DASP」などに応じて、少なくとも、標識された、又はその結合パートナー、例えばそれに対して特異的な抗体と、説明書とを含み得る。キットはまた、緩衝剤、安定剤等の周辺的な試薬も含み得る。
従って、FAPの存在又はレベル亢進を実証するための検査キットが調製されてもよく、これは、
(a)本特異的結合メンバー又はそれに対する特異的結合パートナーを検出可能標識と直接的又は間接的に結合させることにより得られる少なくとも1つの標識された免疫化学的に反応性の構成成分の所定量と、
(b)他の試薬と、
(c)前記キットの使用説明書と、
を含む。
特に乳癌、肺癌、結腸直腸癌、卵巣癌から選択される、上皮癌、間質細胞媒介性の癌の存在を実証するための検査キットが調製されてもよく、これは、
(a)本特異的結合メンバー又はそれに対する特異的結合パートナーを検出可能標識と直接的又は間接的に結合させることにより得られる少なくとも1つの標識された免疫化学的に反応性の構成成分の所定量と、
(b)他の試薬と、
(c)前記キットの使用説明書と、
を含む。
上記において、FAPの存在又は活性及び/又は本発明の抗体の活性又は結合性を調節するのに有効な候補薬物をスクリーニングするためのアッセイシステムが調製されてもよい。抗原ペプチド又は結合メンバー又は抗体を試験システムに導入してもよく、候補薬物もまた得られた細胞培養物に導入し、その後その培養物を調べることで、候補薬物を単独で添加したことに起因するか、或いは1つ又は複数の公知の薬剤の添加量の効果に起因する、細胞の活性、抗体の結合性、又はFAPの量及び範囲の任意の変化を観察してもよい。
核酸
本発明は、本発明の特異的結合メンバーをコードする単離核酸をさらに提供する。核酸はDNA及びRNAを含む。好ましい態様において、本発明は、図2又は図10に示されるとおりのポリペプチドを含め、上記に定義されるとおりの本発明のポリペプチドをコードする核酸、又はそうしたポリペプチドのCDR領域をコードすることが可能な核酸を提供する。
本発明はまた、上記のとおりの少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むプラスミド、ベクター、転写又は発現カセットの形態のコンストラクトも提供する。本発明はまた、上記のとおりの1つ又は複数のコンストラクトを含む組換え宿主細胞も提供する。提供されるとおりの任意の特異的結合メンバーをコードする核酸は、それ自体が本発明の態様をなし、これは、特異的結合メンバーの産生方法であって、それをコードする核酸からの発現を含む方法も同様である。発現は、好都合には、核酸を含む組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することにより達成され得る。発現による産生後、特異的結合メンバーは任意の好適な技法を用いて単離及び/又は精製され、次に必要に応じて使用され得る。
本発明に係る特異的結合メンバー並びにコード核酸分子及びベクターは、例えばその天然環境から、実質的に純粋な又は均質な形で、又は核酸の場合には、求められる機能を有するポリペプチドをコードする配列以外の核酸又は遺伝子由来源を含まず又は実質的に含まずに、単離及び/又は精製されて提供されてもよい。本発明に係る核酸はDNA又はRNAを含んでもよく、及び全体的又は部分的に合成であってもよい。
様々な異なる宿主細胞におけるポリペプチドをクローニングして発現させる系については公知である。好適な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、酵母及びバキュロウイルス系が挙げられる。当該技術分野において異種ポリペプチドの発現に利用可能な哺乳動物細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎細胞、癌細胞、卵巣癌細胞及び他の多くが挙げられる。一般的で好ましい細菌宿主は大腸菌(E.coli)である。大腸菌(E.coli)などの原核生物細胞中での抗体及び抗体断片の発現は、当該技術分野において十分に確立されている。
適切な調節配列、例えば、プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子及び他の配列を必要に応じて含む好適なベクターを選択又は構築することができる。ベクターは、必要に応じてプラスミド、ウイルスプラスミド、例えばファージ、又はファージミドであってもよい。さらなる詳細については、例えば、「Molecular Cloning:a Laboratory Manual」:第2版,Sambrookら,1989年,Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと。例えば、核酸コンストラクトの調製、突然変異生成、配列決定、細胞へのDNAの導入及び遺伝子発現、並びにタンパク質解析における、核酸を操作するための多くの公知の技法及びプロトコルが、「Short Protocols in Molecular Biology」,第2版,Ausubelら編,John Wiley & Sons,1992年に詳細に記載されている。Sambrookら及びAusubelらの開示は参照により本明細書に援用される。
従って、本発明のさらなる態様は、本明細書に開示されるとおりの核酸を含む宿主細胞を提供する。さらに別の態様は、かかる核酸を宿主細胞に導入するステップを含む方法を提供する。導入には、任意の利用可能な技法が用いられ得る。真核生物細胞について、好適な技法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介トランスフェクション、及びレトロウイルス又は他のウイルス、例えばワクチニア、若しくは昆虫細胞にはバキュロウイルスを使用した形質導入を挙げることができる。細菌細胞について、好適な技法としては、塩化カルシウム形質転換、電気穿孔及びバクテリオファージを使用したトランスフェクションを挙げることができる。導入に続き、例えば宿主細胞を遺伝子の発現条件下で培養することにより、核酸からの発現を生じさせ、又は可能にしてもよい。本発明はまた、発現系において前述のとおりのコンストラクトを使用することにより、上記のとおりの特異的結合メンバー又はポリペプチドを発現させるステップを含む方法も提供する。
本発明の別の特徴は、本明細書に開示されるDNA配列の発現である。当該技術分野において周知のとおり、DNA配列は、適切な発現ベクター中でそれを発現制御配列と作動可能に連結し、当該の発現ベクターを用いて適切な単細胞宿主を形質転換することにより発現させることができる。本発明のDNA配列の発現においては、幅広い種類の宿主/発現ベクターの組み合わせを用いることができる。有用な発現ベクターは、例えば、染色体配列、非染色体配列及び合成DNA配列のセグメントからなり得る。好適なベクターとしては、SV40の誘導体及び公知の細菌プラスミド、例えば、大腸菌(E.coli)プラスミドcol E1、pCR1、pBR322、pMB9及びその誘導体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージλの多くの誘導体、例えばNM989、及び他のファージDNA、例えば、M13及び繊維状一本鎖ファージDNA;2uプラスミドなどの酵母プラスミド又はその誘導体;真核生物細胞で有用なベクター、例えば昆虫細胞又は哺乳動物細胞で有用なベクター;プラスミドとファージDNAとの組み合わせに由来するベクター、例えば、ファージDNA又は他の発現制御配列を用いるように修飾されたプラスミドなどが挙げられる。
幅広い種類の発現制御配列−それに作動可能に連結されたDNA配列の発現を制御する配列−のいずれかをこれらのベクター中に使用して、本発明のDNA配列を発現させることができる。かかる有用な発現制御配列としては、例えば、SV40、CMV、ワクチニア、ポリオーマ又はアデノウイルスの初期又は後期プロモーター、lac系、trp系、TAC系、TRC系、LTR系、ファージλの主要なオペレーター及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の解糖酵素用のプロモーター、酸ホスファターゼのプロモーター(例えば、Pho5)、酵母接合因子のプロモーター、及び原核生物若しくは真核生物細胞又はそのウイルスの遺伝子の発現を制御することが公知の他の配列、及びその様々な組み合わせが挙げられる。
本発明のDNA配列の発現においては、幅広い種類の単細胞宿主細胞もまた有用である。これらの宿主としては、公知の真核生物及び原核生物宿主、例えば、大腸菌(E.coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、酵母などの真菌株、及び動物細胞、例えば、CHO、YB/20、NSO、SP2/0、R1.1、B−W及びL−M細胞、アフリカミドリザル腎細胞(例えば、COS 1、COS 7、BSC1、BSC40、及びBMT10)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、並びに組織培養のヒト細胞及び植物細胞を挙げることができる。
全てのベクター、発現制御配列及び宿主が本発明のDNA配列の発現に十分に等しく機能するとは限らないことは理解されるであろう。また、全ての宿主が同じ発現系で十分に等しく機能するとも限らない。しかしながら当業者は、適切なベクター、発現制御配列、及び宿主を、必要以上に実験を行うことなく選択して、本発明の範囲から逸脱することなく所望の発現を実現することが可能であろう。発現制御配列の選択においては、通常、様々な要因が考慮され得る。それらとしては、例えば、系の相対強度、その制御性、及び発現させる特定のDNA配列又は遺伝子との、特に可能性のある二次構造に関するその適合性が挙げられる。好適な単細胞宿主は、例えば、選択したベクターとのその適合性、その分泌特性、タンパク質を正しく折り畳むその能力、及びその発酵要件、並びに発現させるDNA配列によってコードされる産物の宿主に対する毒性、及び発現産物の精製の容易さを考慮することにより選択され得る。当業者はこれらの及び他の要因を考慮して、発酵で、又は大規模動物培養で、本発明のDNA配列を発現し得る様々なベクター/発現制御配列/宿主の組み合わせを構築することが可能であろう。
上述されるとおり、特異的結合メンバーをコードするDNA配列は、クローニングではなく合成によって調製することができる。DNA配列は、特異的結合メンバーのアミノ酸配列に適したコドンで設計することができる。一般に、配列が発現に使用される場合、目的の宿主に好ましいコドンが選択され得る。標準方法により調製され、且つ完全コード配列となるよう構築された重複オリゴヌクレオチドから、完全配列が構築される。例えば、Edge,Nature,292:756頁(1981年);Nambairら,Science,223:1299頁(1984年);Jayら,J.Biol.Chem.,259:6311頁(1984年)を参照のこと。合成DNA配列により、特異的結合メンバー類似体又は「ムテイン」を発現し得る好都合な遺伝子構成が可能となる。或いは、ムテインをコードするDNAは、天然の特異的結合メンバー遺伝子又はcDNAの部位特異的突然変異誘発によって作製することができ、及びムテインは、従来のポリペプチド合成を用いて直接作製することができる。
本発明は、本発明の例示として提供される以下の非限定的な実施例を参照することによってより良く理解され得る。以下の例は、本発明の好ましい実施形態をより十全に説明するために提供され、しかしながら、決して本発明の広義の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
実施例1
線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)はジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV、CD26)タンパク質ファミリーのメンバーであり、末端から二番目の位置にあるプロリン又はアラニンでポリペプチドからN末端ジペプチドを切断する能力を有する。FAP発現は、活性化された線維芽細胞、例えば癌関連線維芽細胞で上方制御され、悪性及び浸潤性挙動を促進する。本発明者らは、マウス及びヒトFAPと交差反応性を有するファージライブラリから完全ヒトFab抗体を選択した。高度に相同性のCD26抗原との結合が認められなかったことから、最も高頻度で同定されたクローンのESC11及びESC14をさらなる分析用に選択した。双方の抗体とも、ヒトIgG抗体に変換されると低いナノモル濃度の親和性でFAPに結合するとともに、哺乳動物細胞系において高レベルで産生することができた。ESC11抗体及びESC14抗体はFAPのジペプチジルペプチダーゼIV活性に直接的な影響を有さず、FAP陽性のFAP陰性表現型への変換を誘導し、標的細胞のECMタンパク質に対する接着の著しい阻害及び標的細胞アポトーシスの亢進を伴った。疾患に制限されるFAP発現パターンに関連して、本発明者らのデータは、線維芽細胞に依存する悪性及び浸潤性挙動が関連性を有する分野におけるESC11及びESC14の臨床開発計画に向けた強力なエビデンスを提供する。
序論
線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は、当初は反応性間質線維芽細胞上のセリンプロテアーゼとして同定された[1、2]。続く分子クローニングにより、FAPは、メラノーマ細胞株により発現される170kDaの膜結合ゼラチナーゼであるセプラーゼと同じであることが明らかとなった[3、4]。完全長cDNAは、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)と高度に相同性の、配列全体に関して52%のアミノ酸(aa)同一性及び触媒ドメインでほぼ70%の同一性を有する760aaのII型膜貫通型プロテアーゼをコードした[3、5]。FAPとDPPIVとは遺伝子サイズが同様で、且つ染色体上2q24で互いに隣接していることから、遺伝子重複イベントが示唆される(Genebank受託番号U09278)。双方のタンパク質とも、プロリルペプチダーゼファミリーのメンバーである[1、6]。この酵素クラスは誘導性で、細胞表面上又は細胞外液中での活性を有し、且つ末端から二番目の位置にあるプロリン又はアラニンでポリペプチドからN末端ジペプチドを切断する能力を独自に有する[7]。DPPIVは、CD26とも称され、線維芽細胞、内皮及び上皮細胞、白血球サブセット、例えばNK細胞、Tリンパ球及びマクロファージを含むいくつかの細胞型によって構成的に発現される。DPPIVのうち血中で可溶性タンパク質として循環する割合は小さい。DPPIVと対照的に、FAPは典型的には正常成人組織で発現せず[1]、そのタンパク質分解活性を有する可溶形態は、a2−抗プラスミン切断酵素(APCE)と称される[8]。創傷治癒、上皮癌、変形性関節症、関節リウマチ、肝硬変及び肺線維症を含め、活性化した間質に関連する病態では、顕著なFAP発現が起こる[4、9〜11]。
FAP構造は解かれており(PDB ID 1Z68)、DPPIVの構造と極めて類似している[12]。FAPは、約20aaの切断されないシグナル配列によって細胞膜に結合し、6aaのアミノ末端の短い細胞質ドメインを有する[3〜5]。このタンパク質の大部分は、触媒ドメインを含め、細胞外環境に露出している[13]。FAP糖タンパク質は、2つの同一の97kDaサブユニットからなるホモ二量体である。各FAP単量体サブユニットは、αβヒドロラーゼドメイン(aa27〜53及び493〜760)と、8枚羽根のβプロペラドメイン(aa54〜492)との2つのドメインからなり、これらのドメインは大きい空洞を取り囲む。両ドメインの界面にあるこの空洞内の小さいポケットが、触媒三残基(Ser624、Asp702及びHis734)を含む[12]。FAPはサブユニットのホモ二量体化でその酵素活性を獲得し[14]、またFAPは、そのジペプチジルペプチダーゼ活性の他、コラーゲンI型特異的ゼラチナーゼ活性[15]及びエンドペプチターゼ活性[16]も有する。βプロペラはタンパク質間相互作用の足場として働き、基質及び細胞外マトリックス(ECM)結合を決定する[17]。さらに、βプロペラは、FAPと他のプロリルペプチダーゼとの、又は他の膜結合分子との超分子複合体の形成に関与する[18、19]。FAP及びDPPIVのヘテロマー複合体又は四量体複合体の形成は、コラーゲン基質上の遊走性細胞の浸潤突起に関連することが分かった[20]。I型コラーゲンはFAPのβ1インテグリンとの近接した会合を誘導し、従って浸潤突起の形成及び接着において構造化上重要な役割を果たす[21]。関与する機構の詳細は分かっていないが、細胞侵入の前線におけるかかるプロテイナーゼリッチの膜ドメインの形成は、特異的な細胞周囲ECM分解に寄与する[22]。これは、FAPとECMとの相互作用が、インテグリン経路を介した細胞接着、遊走、増殖及びアポトーシスに影響を及ぼすことによって浸潤性細胞の挙動に密接に関連し得ることを示しており[19、21、23]、疾患の発病及び進行におけるFAPの役割が支持される[24]。要約すれば、FAPは、そのプロテアーゼ活性と、他の細胞表面分子とのその複合体形成能との組み合わせによって、細胞依存的にその生物学的機能を遂行する多機能タンパク質として認識される。上皮及び線維芽細胞系におけるFAPの過剰発現は悪性挙動を促進する[22]ことから、臨床的状況が指示され、そこではFAPの細胞発現レベルがより不良な臨床転帰と関係付けられる[25、26]。
FAPの形態学的及び機能的特性から、治療標的としてのFAPの研究が盛んである。疾患に関連し、且つ細胞表面に結合する発現パターンが特に、FAPを抗体ターゲッティングに適格とする。ECMリモデリングにおける病態生理学的な関与に関して、ターゲッティング戦略はシグナル伝達超分子FAP複合体の破壊を目標とすべきである。ここで本発明者らは、マウス及びヒトFAPとの交差反応性を有する新規抗FAP抗体の生成について記載し、これは生物学的に関連性のある試験系における適用性を提供するものである。選択プロセスにおけるDPPIV/CD26免疫沈降物懸濁液に対する追加的な予備吸収ステップによって、この普遍的に発現するFAP相同体との交差反応性を有する不要な抗体を除去した。新規抗FAP抗体とインキュベートすると、標的細胞のECMタンパク質に対する接着が大幅に阻害され、及びアポトーシスシグナルが誘導されたため、タンパク質間相互作用の標的破壊の課題は受け入れられた。
材料及び方法
抗原の組換え発現。プールされた鼻咽頭癌及び脾臓組織から、それぞれヒトFAP及びDPPIV/CD26 cDNAを得た。肺組織及び皮膚組織からマウスFAP cDNAを得た。抗原をpEAK 8ベクター(Edge Biosystems)にクローニングし、HEK293 c−18細胞(ATCC CRL−10852)において、FuGene6トランスフェクション試薬(Roche)を製造者の指示どおりに使用して安定に発現させた。これらの安定細胞株を、10%FBS、ペニシリン−ストレプトマイシン、及びピューロマイシン(3μg/ml)を補充したDMEM中で成長させた。限界希釈によりモノクローナル培養物を得た。
組換えFAPの免疫沈降。ヒトFAPを発現する5×10個のHEK293細胞又はモックトランスフェクト細胞を、5mlの溶解緩衝液(50mMトリス−HCl、150mM NaCl緩衝液、pH7.4、0.7%w/v β−オクチルグルコピラノシド)中に、4℃で15分間ボルテックスすることにより可溶化した。遠心によって細胞残屑を除去し、上清を、モノクローナル抗体F19でコートした50μlのプロテインA磁気ビーズ(Dynabeads、invitrogen)と共に4℃で4時間インキュベートした。磁気ラックを使用して懸濁液からビーズを取り出し、PBS 0.1%Tween 20で5回洗浄し、100μlのPBS中に−80℃で保存した。従って、組換えDPPIV/CD26を抗CD26 mAbと共に免疫沈降させた。免疫沈降物はSDS−PAGE、ウエスタンブロット分析及びジペプチジルペプチダーゼ活性アッセイに供した。
ファージディスプレイによる抗体の選択。huFAP−muFAP特異的抗体を選択するため、抗体Fab断片を発現する非免疫ファージライブラリを使用した[27]。1013個のファージをPBS中の2%粉乳においてブロックし、モックトランスフェクト細胞株から調製した25μlの免疫沈降物で予備吸収させることにより、プロテインAビーズ及びF19 mAbに結合するファージを取り出した。予備吸収したファージをhuFAPを含む免疫沈降物と共に室温で1時間インキュベートし、PBS 0.1%Tween 20で、及びPBSで洗浄し、続いて100mMトリエチルアミンで溶出した。中和したファージを、M13K07をヘルパーファージとして使用して大腸菌(Escherichia coli)TG−1中で増幅した。漸減抗原濃度(50、25、12.5、及び6.5μlの免疫沈降物懸濁液)による4回の選択ラウンドを実施した。muFAPを認識する結合体についてファージプールを濃縮するため、5回目のラウンドにはHEK293 muFAP発現細胞とのファージのインキュベーションを加えた。選択ラウンド4及び5の前に、50μlのDPPIV/CD26免疫沈降物懸濁液に対する追加的な予備吸収ステップを含めて、DPPIV/CD26と交差反応するFAP結合体を除去した。
ELISA及びフローサイトメトリーによる上清のスクリーニング。各選択ラウンド後に得られたライブラリの上清、並びにラウンド3、4、及び5の後の個々の細菌クローンの上清を、FAP結合ファージについてELISAによりスクリーニングした。96ウェルマイクロタイタープレート(MaxiSorp Nunc)を、HEK293 huFAP、HEK293 huCD26、HEK293 muFAP、又はモックトランスフェクトHEK293からの細胞抽出物 細胞抽出物(cell extracts cell extracts)でコートし、PBS中5%粉乳でブロックし、ファージを含有する上清と共に室温で1時間インキュベートし、及び抗M13−HRPコンジュゲート抗体を使用して展開した。1mMのIPTGで陽性クローンを誘導して可溶性Fabを産生し、さらに、抗原を発現するHEK293細胞株に対するフローサイトメトリーを用いて結合特異性についてスクリーニングした。結合したFab抗体を、抗mycタグ抗体9E10、続いて抗マウス免疫グロブリン−PEコンジュゲートで検出した。競合アッセイについては、ビオチン化抗mycタグ9E10、続いてstrep−PEを使用してFab抗体を検出した。
Fab断片の発現。1mMのIPTGによって30℃で4時間誘導することにより、大腸菌(E.coli)TG−1でFab断片を産生した。PBS、pH8中4℃で一晩インキュベートすることによりペリプラスム画分から可溶性Fabを放出させ、TALONビーズによるHisタグ精製を使用して精製し、SDS−PAGEにより分析した。
表面プラズモン共鳴による動態学的速度定数及び親和性の決定。Fabの組換えFAP(R&D systems)に対する結合解析をBIAcore T100機器で実施した。アミンカップリング化学を用いてrFAPを低密度でCM5センサーチップに固定化した。動態解析のため、フロー緩衝液(HBS−EP:10mM HEPES、pH7.4、3.4mM EDTA、0.15mM NaCl、及び0.005%Tween 20含有)中の様々な濃度(ESC11について0.5〜16nM及びESC14について6.25〜200nMの範囲)のFabを、25℃、50μl/分の流量で注入した。非線形データ解析プログラムBIAevaluationを使用して、結合曲線の分析及び速度定数の決定を行った。
見かけのKD(Kd(app))の決定。Kd(app)を決定するため、ヒトFAP又はマウスFAPをそれぞれ発現する2.5×10個のHT1080hFAP及び293mFAPを、指示されるコンストラクトの段階希釈物と共に4℃で20分間インキュベートした。次に細胞をPBSで1回洗浄し、氷上で2%PFAにより20分間固定し、PEコンジュゲート抗ヒトIgG F(ab)’(Jackson Immuno Research 109−116−097)により結合抗体を検出した。FACScan(BD)サイトメーターで細胞を分析し、データをFlowJoで解析した。SigmaPlotソフトウェア(Systat Software Inc.)を使用して以下の式f=Bmax*abs(x)/(Kd+abs(x))+Ns*xを用いた用量反応曲線のフィッティングにより、見かけのKappを計算した。
蛍光発生的ジペプチジルペプチダーゼ活性アッセイ。膜タンパク質を濃縮するため、抗原を発現する10個のHEK293細胞を、50mMのトリス−HCl、150mMのNaCl緩衝液、pH7.4、2%w/v Triton−X114に懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。4℃で5分間、14000rpmで遠心することにより細胞残屑を除去した。上清を10分間30℃に加温し、室温で遠心して相分離を実施した。デタージェント相を1mlのAFC反応緩衝液(100mM NaCl、100mM トリス、pH7.8)で洗浄し、相分配し、AFC反応緩衝液中に1:10希釈した。希釈した抽出物を、0.5mMのAla−Pro−AFCと共に96−ウェルプレートにおいて37℃でインキュベートし、遊離AFCの放出を、蛍光リーダー(Victor Wallac、Perkin Elmer)で395nm励起/530nmエミッションフィルタセットを使用して経時的に観察した。FAP陰性試料からバックグラウンド活性を減じた後、蛍光読み取りの傾きからジペプチジルペプチダーゼ活性を決定した。PT−100(Sigma)を使用してジペプチジルペプチダーゼ活性を阻害した。PT−100はジペプチジルペプチダーゼ及び構造相同体を阻害する。PT−100を指示濃度で膜抽出物と共に15分間インキュベートした後、記載のとおりAla−Pro−AFC基質を添加し[28]、上述のとおりジペプチジルペプチダーゼ活性の阻害を計測した。
IgG1のクローニング、発現、及び精製。ヒト定常IgG1領域を発現する修飾pEE12.4ベクター(Lonza biologics)に、PCRクローニングキット(In−Fusion、BD clontech)でDraIII部位及びRsrII部位をそれぞれ介して重鎖及び軽鎖の可変配列をクローニングした。プラスミドをPvuIで直鎖化し、GS−NSO細胞(Lonza biologics)に電気穿孔によりトランスフェクトした。メチオニンスルホキシミンを含むグルタミン不含培地において陽性クローンを選択した。プロテインGセファロースによりウシIgGから枯渇させた5%FCSを含むグルタミン不含培地で安定細胞株を成長させた。培養上清からプロテインAセファロースでIgGを精製した。
線維芽細胞のFAP染色。10個のヒト線維芽細胞を10μg/mLのインキュベートした抗体と共に4℃で20分間インキュベートした。ESC11IgG、ESC14IgG及びヒトFAP特異的対照抗体について、結合抗体をPEコンジュゲート抗ヒトIgG F(ab)’(Jackson immune Research 109−116−097)によって検出した。親マウスF19をFITCコンジュゲート抗ヒトIgG(BD Pharmingen 555988)によって検出した。FACScan(BD)サイトメーターで細胞を分析し、データをFlowJoで解析した。
FAP発現の抗体媒介性下方制御。FAP発現の喪失を検出するため、コンフルエント以下のHT1080FAP培養物をトリプシン処理し、PBSで洗浄し、RPMI、10%FBS中に5×10細胞で再懸濁し、及び12ウェル細胞培養プレートにウェル当たり0.5mlで播種して指示濃度のESC11IgGを添加した。一晩インキュベートした後、細胞をトリプシン処理し、洗浄し、10μg/mLのF19で、続いてFITCコンジュゲートポリクローナルヤギ抗マウスで染色した。フローサイトメトリーにより細胞の蛍光強度を解析した。%FAP発現を計算した(100/(0ug/mLのESC11IgGシグナル−バックグラウンドシグナル))*(ESC11IgGでのシグナル−バックグラウンドシグナル)。3件の独立した実験のうちの代表的な一つを示す。
競合アッセイ。ESC11及びESC14の競合的結合を計測するため、HT1080hFAP細胞上でのFab断片の力価を求め、フローサイトメトリーにより結合を決定した。最大結合の90%をもたらす濃度を競合アッセイに使用した。HT1080FAPを5ug/mLの指示抗体と共に4℃で20分間インキュベートし、次にESC11/ESC14 Fab断片又はPBSを所定の濃度で添加して4℃で20分間インキュベートした。細胞を4℃のPBSで1回洗浄し、氷上で2%PFAにより固定した。ビオチン化抗myc及びPEコンジュゲートストレプトアビジンを伴うmycタグにより、結合Fab断片を検出した。次に細胞をフローサイトメトリーによって記載のとおり分析した。
接着アッセイ。96ウェルマイクロタイタープレート(MaxiSorp Nunc)を50ug/mlの濃度の指示タンパク質でコートし、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBSで3回洗浄し、次に1%BSAによって37℃で60分間ブロックした。細胞は10ug/mlの最終濃度で指示抗体と30分間予備的にインキュベートし、次にコートしたプレートに添加した。60分後、プレートをPBSで洗浄して未接着の細胞を除去した。クリスタルバイオレットを使用して接着した細胞を染色し、0.4M HClを含むイソプロパノールを75ul/ウェルの最終容量で添加することにより溶解した。OD560をELISAリーダーで計測した。
アネキシンV染色によるアポトーシス細胞の検出。FAPトランスフェクト及びモックトランスフェクトHek293細胞を、10%FBSを補充したDMEMにおいて指示量の抗体の存在下、室温でインキュベートした。対照試料を、抗体の非存在下で、或いは抗体の存在下4℃でインキュベートした。60分後、細胞を洗浄し、ヨウ化プロピジウム(Sigma)及びアネキシンV(Roche)により、製造者の指示に従い染色し、フローサイトメトリーを使用してアポトーシス率を決定した。
結果
マウス−ヒトFAP交差反応性抗体Fab断片の選択及び特性決定
安定にトランスフェクトされた細胞ライセートからの免疫沈降により得た組換えヒトFAPに関するファージディスプレイにより、大規模ヒトFab抗体ライブラリからモノクローナル抗体Fab断片を選択した。簡潔には、HT1080及びFAPトランスフェクトHT1080(10)細胞のライセートを、過去に記載がなされている抗huFAP抗体(11)でコートしたプロテインA磁気ビーズと共に個別にインキュベートした。HT1080 FAP抽出物からFAPが高純度で免疫沈降し(図1A及び図1B)、磁気ビーズに捕捉するとジペプチジルペプチダーゼ(DPP)活性(例えば基質Ala−Pro−AFCを切断する)を示した(図1C)。HT1080細胞(「モックイムノキャプチャー」)と共にインキュベートした後に非特異的に免疫沈降した、抗huFAP抗体が負荷された磁気ビーズに結合するタンパク質を、予備吸収ステップで使用した。4回の選択ラウンド後、ファージの5%がヒトFAPに結合し、1%がヒトFAP及びマウスFAPの双方を認識した(表1)。ヒト−マウス交差反応性結合体をさらに濃縮するため、さらにもう1回の選択ラウンドについてファージをマウスFAPトランスフェクトHEK293細胞に対してパニングした。最終的に、得られたファージの14%がhuFAPに結合し、9%のマウス−ヒト交差反応性ファージが含まれた。続くELISAによる300クローンのスクリーニング及びFAP特異的結合体の配列決定により、Fab ESC11及びESC14の同定がもたらされた(図2)。双方のFab断片とも、本発明者らの選択戦略によって事前に定義されるとおり、ヒト及びマウスFAPに特異的な形で結合し、且つCD26との交差反応はなかった(図3A及び図3B)。低密度huFAPでコートしたチップにおいて表面プラズモン共鳴による親和性計測を実施した。Fab ESC11及びESC14について、それぞれ10±5及び210±35nMのK値が決定された(図4、表2)。muFAPに対する親和性は、293 muFAP+細胞に対する段階希釈により決定するとき、ESC11について51±11nM及びESC14について251±42nMであった(表2)。
Figure 2013506664
Figure 2013506664
IgG1抗体ESC11及びESC14の産生及び特性決定
ESC11及びESC14の可変重鎖(HC)及び軽鎖(LC)ドメインを完全ヒトIgG1フォーマットにクローニングした。ESC11 HCについて得た元の配列は、成熟HCアミノ酸配列の1位にanusualヒスチジン(H)があるため哺乳動物細胞では発現させることができなかった。この問題は、ヒスチジンをグルタミン(Q)に置換すると解決された(図2)。IgGをNS0細胞で産生し、細胞培養上清からプロテインAアガロースでのアフィニティークロマトグラフィーにより精製した(図5)。精製IgGのFAPとの結合を、FAPトランスフェクトHT1080細胞を使用してフローサイトメトリーにより確認した(図6A)。抗原発現細胞株に対する親和性は二価IgGのほうが高く、ヒトFAPに対する見かけのK値は約1nMであった(表2)。競合アッセイから、ESC11 IgG(図6B)及びESC14 IgG(図6C)について交差阻害が実証された一方、抗huFAP抗体はFAP結合について競合しなかった。これらの結果は、抗体ESC11及びESC14が、抗huFAP抗体により認識されるエピトープとは明確に異なる重複した、又は密接に関連したエピトープを認識することを示唆している。
活性化線維芽細胞に対する抗FAP抗体の反応性
本発明者らは、FAPを高レベルで発現する培養ヒト活性化線維芽細胞(AF)を使用して(12)、FAPのジペプチジルペプチダーゼ活性に対する双方の抗体の影響を分析した。第一に、ヒトAF上で発現する天然FAPに対する新規抗FAP抗体の結合をフローサイトメトリーにより判定した(図7A)。FAPトランスフェクト細胞に対するESC11及びESC14の競合的結合において、双方の抗体とも、抗huFAP抗体と比較したとき僅かに低いレベルでAFが染色されたことから、ここでもそれぞれESC11/ESC14及び抗huFAPに対する異なるエピトープが示唆される。AFの抽出物は、Ala−Pro−AFCを基質として使用するインビトロアッセイで検出したとき、著しいDPP活性を示した(図7B)。30μg/mlのIgGをヒトAFの抽出物に添加しても、プロテアーゼ活性には影響しなかった(図7C)。対照的に、DPP活性のボロン酸阻害薬である100μMのPT−100を添加すると、酵素活性は完全に遮断された。従って、いずれの抗体もDPP酵素活性に直接影響を与える能力を有しない(図7D)。しかしながら、本発明者らの抗体は標的細胞上でのFAPの発現レベルを用量依存的に低減するため、DDP活性に対して間接的な影響はある(以下を参照)。
ESC11及びESC14 IgGはFAP発現を下方制御し、標的細胞のECMタンパク質との接着を妨げ、及びアポトーシスを誘導する。
その酵素活性以外に、FAPはCD26と会合し、且つ浸潤性の表現型に寄与するヘテロマー複合体を形成する能力を有する。ESC11及びESC14抗体により、双方ともFAP抗原との二価結合後に急速なFAPの下方制御を誘導したため、トランスフェクト腫瘍細胞株上でのFAP発現を消失させることができた(図8)。標的細胞のECM−タンパク質との接着に対するESC11及びESC14の影響を試験するため、競合アッセイを実施した。双方のmAbとも、FAP発現細胞のマトリゲル及びI型コラーゲンに対する結合を有意に阻害した(データは示さず)。F19抗FAP抗体がECMタンパク質との接着を妨げることはなかった。予想されたとおり、FAP陰性細胞の接着は、全く変化しなかった。第2のステップでアポトーシス経路の誘導を試験した[29]。マウスFAPを安定にトランスフェクトしたHEK293細胞をESC11及びESC14とインキュベートするとアポトーシスを起こしたが、モックトランスフェクト細胞は全く変化しなかった(図9)。アポトーシス誘導の程度はESC14と比較してESC11の添加後のほうが優れていた。アポトーシスは、双方の抗体ESC11及びESC14の存在下であっても0℃で誘導することはできなかった。加えて、mF19も対照抗体も、何ら有意なレベルのアポトーシスを誘導しなかった。
考察
これは、標的細胞における関連する調節性の活性を誘導する完全ヒト・マウス/ヒト交差反応性・高親和性抗FAP抗体の、その治療効果について指摘する最初の報告である。FAPは抗体ベースの免疫療法の標的としてますます注目を集めているが、現在のところ治療活性を有する天然のFAP特異的抗体のデータは見当たらない。モノクローナル抗体F19が、転移性結腸直腸癌を対象として第I相臨床試験で研究された最初の抗体であった[30]。この試験は、抗FAPベースの腫瘍間質ターゲッティングの原理を証明するものとなった[1]。試験に含まれた患者は手術による高度な瘢痕化を有したが、そうした部位に131I−F19の特異的濃縮を認めることはできなかった。ヨウ素131標識F19の静脈内投与に伴う中毒性副作用はなく、イメージングにより直径1cmのサイズに至るまでの癌腫病巣が特異的に検出された。ヒトにおけるマウス抗体の免疫原性に関して、シブロツヅマブと称されるヒト化型のF19を使用した第I相及び第II相臨床試験が近年実施された[31、32]。これらの試験による結果から、シブロツヅマブの投与が安全で、且つ十分に耐容されることが実証された。第I相ピボタル試験において得られた結果[30]と同様に、131Iによる追跡標識及びイメージング解析から、シブロツヅマブが腫瘍範囲に特異的に蓄積することが明らかとなった。残念ながら、非コンジュゲート型シブロツヅマブは抗腫瘍活性がないこと、又はいかなる治療活性もないことがそれぞれ実証された[32]。FAPの生物学的機能の詳細はいまだ明らかでないものの、そのジペプチジルペプチダーゼ活性が腫瘍の進行及び転移に関与すると仮定された[15、33]。FAP酵素機能に作用するシブロツヅマブの欠如が、治療効果がない理由であると示唆された[34]。その結果、インビトロで触媒活性を阻害するため抗FAP特異的ポリクローナル抗体が産生されている。実際、FAP陽性異種移植片を抗FAP抗血清で処置すると、腫瘍成長が減弱した[13]。しかしながら、ポリクローナル血清はウサギをマウスFAPで免疫化することにより産生されたため、触媒ドメインとは異なる別のエピトープもまた標的化された可能性が最も高い。従って、認められる抗腫瘍効果が実際にジペプチジルペプチダーゼ阻害によったものであるとこの試験から結論付けるのは困難である。こうした関心事項は触媒変異体での研究によって支持され、腫瘍成長及び浸潤性細胞の挙動に同様に影響を及ぼし得る触媒機能と独立したFAP関連生物活性は十分に機能しないことが報告されている[35、36]。加えて、最近の結果から、FAPのタンパク質分解活性が、必ずしもFAPを過剰発現するヒト肝星細胞の接着、遊走及び浸潤の増加とは限らないことが実証された[22]。ECMタンパク質との限局的な細胞接着は膜貫通型接着タンパク質のインテグリンファミリーにより媒介され、及びFAPはβ1インテグリンと会合することが知られている[19]。この複合体が機能性の浸潤突起の形成に関与すると考えられる[21]。加えて、FAP及びDPPIVはまた、膠原線維における線維芽細胞の浸潤突起に局在する複合体も形成し、それにより細胞遊走を促進する[37、38]。ECMタンパク質に対する細胞接着は浸潤性及び転移性疾患の進行における最初のステップであるため[39]、新規ESC11及びESC14抗体によるFAPターゲッティングの結果として接着が有意に阻害されると、結合組織のネットワーク構造が乱されることによって治療効果がもたらされる。抗体媒介性の細胞移動プロセスの遮断がFAPのタンパク質分解活性に依存しないという知見は、上述のデータに一致する。本発明者らは最近になって、ジペプチジルペプチダーゼ活性のインビボでの阻害がFAP発現線維芽細胞の浸潤をさらに大幅に促進したことを実証したため(Ospeltら、投稿中)、目標とする治療効果をふまえれば、双方の抗体ともタンパク質分解に関して中立であることはさらに有利となるはずである。双方の新規抗体の機能的活性は、それらがFAP結合についてF19と競合しないという事実を合わせると、超分子複合体の形成に関与するエピトープのターゲッティングが示唆される。
ESC11/ESC14 IgGによるFAP標的化の結果、FAP発現の下方制御がもたらされ、細胞接着能力の遮断として、シグナル伝達経路における著しい挙動変化が引き起こされた。これは、FAP及び他の構成要素からなる複合体に干渉することによるESC11及びESC14に固有の作用機序を支持している。DPPIVによって神経芽細胞腫細胞が修復されると、内因性及び外因性アポトーシス経路によって生存シグナル伝達経路の遮断が媒介されたとおり[29]、アポトーシスにおける表面セリンプロテアーゼの関与がCD26について実証された。さらに、ヒト化抗DPPIV抗体の架橋結合時のDPPIV陽性中皮腫細胞における後期アポトーシスの誘導が報告された[40]。しかしながら、この試験はT細胞欠損SCID−マウスにおいて実施されたもので、ヒトにおける抗癌戦略としての抗体ベースのDPPIVターゲッティングは、T細胞を含むDPPIVの普遍的発現に直面し得る。この大きい障害からさらには、免疫沈降DPPIVにおける選択されたFAP結合体の予備吸収ステップにより不要なDPPIV結合を除外する理論的基礎が構築された。FAPについて生存シグナル伝達との関連は未だ特定されておらず、新規の論理的基礎は、FAPターゲッティング時に抗FAP抗体ESC11及びESC14がアポトーシス誘導に関係していることを提示したのみである。結論として、これは、抗原特異的且つ極めて有効な、ヒト及びマウスFAPに対して交差反応性を有して治療プロファイルを呈する多機能抗FAP抗体の最初の報告である。制限されたFAP発現に関して、本発明者らのデータは、浸潤性疾患でのFAPを標的とした抗体ベースの治療戦略におけるESC11及びESC14の臨床使用に対する強力なエビデンスを提供する。
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実施例2
以下の試験では、FAP発現細胞におけるFAP−抗体複合体の急速な内在化を実証する。HT1080FAP細胞を蛍光標識抗FAP抗体Esc11 Dylight4488(DyLight,ThermoScientific)と共にインキュベートした。HT1080FAPを4℃でインキュベートすると、FAPについての特異的な膜染色パターンが明らかとなった(図11A)。細胞を最高37℃まで加温すると、細胞質スポット及び小胞蓄積によってFAP−Esc11複合体の急速な内在化を検出することができた(図11B)。インキュベーション開始から2時間後、細胞の酸洗浄により残る全ての細胞表面結合Esc11を剥がし取ったが、それによるパターンの変化はなかったことから、2時間後にはほとんどの抗体が既に内在化されていたことが示される。
方法:フィブロネクチンをコートしたスライドガラス上でHT1080FAPを一晩成長させた。次に細胞を指示される時間点について4℃又は37℃のいずれかでDyLight(Thermo Scientific)標識ESC11IgGにより処理した。次に蛍光顕微鏡検査法のためカバースライドをフロウロマウント(flouromount)でマウントした。ESC11 DyLight 488をextention wavelaength 488nm及びエミッション518nmで検出した。結果を図11に記載する。
本発明は、その趣旨又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の形態で具体化され、又は他の方法で実行され得る。従って本開示は、限定的ではなく、あらゆる点で例示的なものと見なされるべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により示されるとともに、均等物の意味及び範囲に含まれる変更は全て、特許請求の範囲に包含されることが意図される。
本明細書全体を通じて様々な参考文献が引用され、その各々が全体として参照により本明細書に援用される。

Claims (20)

  1. ヒトFAP及びマウスFAPを認識し、且つCD26(DPPIV)と反応しない単離抗体分子又はその断片。
  2. FAPのジペプチジルペプチダーゼ活性に直接影響を及ぼさない、請求項1に記載の単離抗体又は断片。
  3. ESC11及びESC14から選択される、請求項1に記載の単離抗体。
  4. 図2又は図10に示されるとおりのCDRドメイン配列を含む抗体又は抗体断片である、請求項1に記載の単離抗体又は断片。
  5. 図10に示されるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列、又は図10の1つ又は複数のCDR領域に1〜3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体であって、ヒトFAP反応性を維持し、且つCD26反応性を欠く変異体を含む重鎖及び軽鎖可変領域を含む抗体又は抗体断片である、請求項1に記載の単離抗体又は断片。
  6. 図2及び図10に示されるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖及び軽鎖可変領域を含むヒトFAP及びマウスFAPを認識する単離抗体又はその断片。
  7. 図10のCDR領域配列を含む可変領域アミノ配列を有する重鎖と、図10のCDR領域配列を含む可変領域アミノ配列を有する軽鎖とを含む、請求項6に記載の単離抗体。
  8. 前記単離抗体が抗体F(ab’)2、scFv断片、ダイアボディ、トリアボディ又はテトラボディの形態である抗体又はその断片である、請求項1に記載の単離抗体又は断片。
  9. 検出可能標識又は機能標識をさらに含む、請求項1に記載の単離抗体又は断片。
  10. 前記検出可能標識又は機能標識が共有結合した薬物である、請求項9に記載の単離抗体。
  11. 前記標識が放射性標識である、請求項9に記載の単離抗体。
  12. 請求項1に記載の抗体又は断片をコードする配列を含む単離核酸。
  13. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体又は断片の調製方法であって、前記抗体又は断片の発現をもたらす条件下で請求項12に記載の核酸を発現させるステップと、前記抗体又は断片を回収するステップとを含む方法。
  14. 人体又は動物体を治療又は診断する方法で使用される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体又は断片。
  15. ヒト患者における上皮癌の治療方法であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体又は断片の有効量を前記患者に投与するステップを含む方法。
  16. FAP抗原を発現する癌の診断用又は予後判定用キットであって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体又は断片を、場合により試薬及び/又は使用説明書と共に含むキット。
  17. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体又は断片と、薬学的に許容可能な媒体、担体又は希釈剤とを含む医薬組成物。
  18. ヒト患者における腫瘍の治療用キットであって、請求項17に記載の医薬組成物の医薬剤形と、化学療法剤、放射免疫療法剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるさらなる抗癌剤を含む別個の医薬剤形とを含むキット。
  19. 哺乳動物における癌の存在を検出する、又は癌の予後を決定するための方法であって、前記癌が、FAPの存在及び/又は量を決定すること、すなわち、
    A.癌の存在が疑われる哺乳動物からの生体試料を、請求項1〜11のいずれか一項に記載の抗体又は断片と、前記FAPの前記抗体との結合が起こることを可能にする条件下で接触させることと、
    B.前記試料からの前記FAPと前記抗体との間に結合が起こったかどうかを検出すること、又は前記試料からの前記FAPと前記抗体とに起こった結合の量を決定することと、
    により計測され、前記結合の検出が前記試料における癌の存在を示し、前記結合の量が前記試料における癌の予後を示す、方法。
  20. 哺乳動物における上皮癌のターゲッティング方法であって、請求項17に記載の医薬組成物又は請求項18に記載のキットの治療有効量を哺乳動物に投与するステップを含む方法。
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